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デジタル・トラストサービス・ プラットフォームの利活用 特集 Vol. 23 www.pwc.com/jp PwC’ s View November 2019

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Page 1: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

特集

Vol23

wwwpwccomjp

PwCrsquo s

View November2019

2 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

特集

PwCrsquos View Vol23目次

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求helliphelliphelliphelliphellip 6DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 8デジタル社会における「信頼の空白域」を探せhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 14参加者が築く外部委託のトラストhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 17リスクとデジタルトラストサービスプラットフォームhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 19内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用helliphellip 22企業に求められる効率的な ESG情報開示helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 27情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォームhelliphelliphelliphelliphelliphellip 29

会計監査監査報告書の透明化 第 7 回 監査上の主要な検討事項(KAM)を考え始めるhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 31Vision 2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦 第 5 回 デジタル化とデータ活用helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 34

ldquoInformrdquo へようこそhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 44PwC Japanグループ調査レポートのご案内helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 45海外PwC日本語対応コンタクト一覧helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 46

ご案内

税務法務IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 40

外部寄稿国立大学法人滋賀大学 連載企画「データアナリティクスの最前線」 第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量であるhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 36

3PwCrsquos View Vol 23 November 2019

4 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

昨今のデジタル化による情報量の爆発的な増大により私たちの社会は情報オー

バーロードを起こしているといわれていますこのようなデジタル社会においては

情報やデータの安全性や信頼性の確保が重要な課題となります安全性や信頼性

に関する課題は財務非財務情報だけでなくガバナンスやリスクマネジメント

コンプライアンス内部統制を含む業務プロセスさらには社会を支える制度インフ

ラの整備運用の安全性や信頼性にまで無辺際に広がりつつあります

私たちPwCはデジタル社会における多様な信頼に関する課題に着目しPwC

の専門性テクノロジーグローバルネットワークの力を駆使してそれらの課題を

解決する「トラストサービス」でクライアントをご支援することにより社会の信頼レ

ベルの向上に貢献してまいります

さらにトラストサービスをより多くのクライアントに安心してご利用いただくため

にトラストサービスの生産性を大幅に改善しますこのためPwC Japanグルー

プは継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser

をアジア各国の PwCメンバーファームと共同開発しましたまたクラウド上にデジ

タルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)

を構築しました今号の特集ではこれらデジタルツールの利活用に焦点を当てて

論じます

最初の論考ではPwCあらたの戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充」

に焦点を当てデジタルツールの利活用によりPwCの経営理念をいかに追求して

いくのかについてご説明いたします2つ目の論考ではこのような継続的かつ網羅

的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

トフォームFinancial Processes Analyserの概要をご紹介します

そして3つ目の論考では PLATの全体像をご紹介し続く5本の論考で外部委託

先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった

利用シーンに応じた活用事例とメリットをご説明します

特集

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

5PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当) PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー 丸山 琢永

はじめに  P w C あらた 有 限 責 任 監 査 法 人 は 2 0 1 8 年 1 1 月 に

「V i s i on 2 0 2 5 ldquoデジタル社 会に信 頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたVision 2025とは当法人がPwCの Purpose(存在意義)である「社会における信頼を築き重要な課題を解決する」を実現し社会から必要とされる存在であり続けるために2025年における私たちを取り巻く環境を概観し今後の法人の在り方を構想したものです

「信頼(トラスト)」をキーワードとし「品質の追求」「トラストサービスの拡充」「デジタル化とデータ活用」「人財の未来への投資」「ステークホルダーへの発信と対話」の 5つを戦略的優先領域に挙げています 本稿では戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充 」に焦 点 を当てデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求について解説いたします

1 PwCの存在意義(Purpose)

PwCの存在意義(Purpose)は「社会における信頼を構築し重要な課題を解決する」ですこれは理念ともいえるものでPwCのビジネスとは何かPwCはなぜ存在するのかを明確にしあらゆる意思決定における極めて重要な道しるべやベンチマークの役 割 をもっています私たちのVision 2025「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」「トラストサービスの拡充」はこの PwCの存在意義

(Purpose)を追求するために作られました

2 Vision 2025の実現のために―監査を応用したトラストサービスの拡充

トラストサービスの本質は企業や社会が抱える不安や心配信頼を失墜させるような不祥事など信頼に関する経営社会課題を対象としてPwCの専門家の知見デジタル技術やネットワークを駆使してこれらの課題を解決することにあります

PwCの伝統的な事業である監査はトラストサービスのコア事業です(図表の「Core Audit」参照)監査の基本的構造

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

図表PwCあらたのトラストサービス

トラストサービスの拡充

Core Auditをベースとしつつ「PwCあらたのトラスト」を財務業務プロセス社会

に拡大する

財務のトラスト 業務プロセスのトラスト

信頼の付与

信頼づくりのサポート

信頼の基盤の創生

社会へのトラスト

CoreAudit

財務報告 経営報告 統合報告 内部統制 保険数理

個人情報管理 トラストトランスペアレンシー

社会の信頼づくりを支える制度構築への貢献 デジタルトラストサービスプラットフォームの構築

データアナリティクス アシュアランス

持続可能な開発目標 SDGsESG

プロジェクトアシュアランス ガバナンスリスク コンプライアンス

内部監査経営監査 危機管理 フィナンシャルクライム (金融犯罪)対策

サイバーセキュリティ

6 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

と私たちの専門性やネットワークを駆使して企業や社会の信頼に関するさまざまな課題を解決しようとする取り組みが

「トラストサービスの拡充」です 現在トラストサービスの対象範囲は財務情報の信頼

に関する課題にとどまらず業務プロセスの信頼やさらには個人や社会の信頼に関する課題にまで広がっています

また信頼に関する課題を解決する方法(サービスの種類)は以下のように多様化が進んでいます

「信頼の付与」型サービス

サービスの対象が伝統的な監査のような財務情報だけでなく内部統制監査に代表される「業務プロセス」や金融機関などの赤道原則運用状況に関する開示に対する独立業務実施者としての保証業務などに見られるような非財務情報にまで広がっています

「信頼づくりのサポート」型サービス

サービスの対象が従来の財務報告の信頼性を確保するための体制づくりのご支援から会計不正リスク贈収賄リスクサイバーセキュリティリスクカルテルリスクエネルギーカーボンリスクなどクライアントの重要なリスクを企業グループやサプライチェーン全体で制御するための GRC

(ガバナンスリスクコンプライアンス)体制を構築するご支援業務に広がっています

「信頼の基盤の創生」型サービス

世の中の信頼に関する課題の中には信頼性を確保するための基準がない効率良く信頼性を検証する仕組みがないため費用対効果が見合わないなど制度的デジタル技術的な基盤(インフラ)が整備されていないことに起因するものがたくさんありますPwCはこれらの課題を解決するために制度づくりやデジタルトラストサービスプラットフォームの開発に取り組んでいます

3デジタルトラストサービスプラットフォーム

情報オーバーロードを起こしているといわれるデジタル社会においてPwCの存在意義(Purpose)を追求しVisionを実現しようとするならばトラストサービスの生産性および品質を大幅に改善しより多くの方にご利用いただけるような体制を構築しなければなりませんそこで PwC Japanグループは安全かつ迅速に品質の高いトラストサービスをご利用いただけるよう継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser(以下「FPA」)をアジア各国と共同開発するとともにクラウド上にデジタル

トラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を構築しましたFPAや PLATを利活用

することによって秘匿性の高い情報であっても安全に効率良く情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)を行うことができます

次のページからは FPA をご紹介するとともにPLATの全体像を皮切りに外部委託先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった利用シーンに応じたPLATの活用事例とメリットをご説明します

丸山 琢永 (まるやま たくえい )

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当)PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー公認会計士当法人のリスクアシュアランス事業のリーダーとしてクライアントの重要な事業リスクに対して総合的な解決策を提示することにより経営者に安心を提供する活動に取り組んでいる最近ではマネーローンダリング(AMLKYC)不正贈収賄有価証券報告書の虚偽記載海外事業進出海外拠点運営などに係るガバナンスリスクマネジメントコンプライアンス(GRC)体制の構築強化を支援している

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DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化―PwCのデータ分析プラットフォームFPAの活用PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当パートナー 久禮 由敬

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門

マネージャー 今村 峰生

はじめに デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は第一線のビジネスの現場にとどまらずリスク管理や経営企画内部監査も含めた3つのディフェンスラインの全てに影響を与えていますデジタル革命を通じて経営者は従前以上に企業活動全体の「いま」を的確に把握しタイムリーに意思決定に生かすことができるようになっています具体的には経営者は従来型の「定期的」かつ「サンプリングに基づくモニタリング」する手法にとどまらず企業活動全体を「継続的」かつ「網羅的にモニタリング」する手法を利用することもできるようになってきましたデータ分析の活用を通じた企業活動の透明性の向上は持続的な企業価値創造の助けともなります デジタル革命の恩恵をより早くより多く享受するためにはそれぞれのディフェンスラインにおいてバラバラにデータの入手分析を行うのではなく共通のデータ分析プラットフォームを活用することが有意義ですそこで本稿ではこのような継続的かつ網羅的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラットフォームである「Financial Processes Analyser」(以下「FPA」)の概要をご紹介しますなお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことをあらかじめご理解いただきたくお願いします

1PwCが提供するデータ分析プラットフォームFPAの概要

(1)FPAの主な特徴

FPA は組織の主要なプロセスとその管理活動レポーティング業務モニタリング活動全体の透明性信頼性の向上に貢献するデータ分析プラットフォームですFPAはモニタリングを継続的かつ網羅的に実施することをサポートするため以下の特徴機能を備えています(図表1)① 販売購買人事給与従業員経費総勘定元帳運転資

金データ品質の領域を対象とした分析モジュールをあらかじめ用意しています一部だけを使うことも可能です

② 各種明細データとマスターデータを利用し各プロセスの全取引をモニタリング分析対象としています

③ PwCのこれまでの知見を基にさまざまな組織業界で一般的に使用されている標準的なテストをあらかじめ用意していますこれを取捨選択することで素早いデータ分析の実装が可能になります

④ テストの結果識別された取引を調査視覚化するためのさまざまな Business Intelligenceダッシュボードを用意しています

⑤ 元データを生成管理している情報システムの変更アップグレードや基盤変更に影響を受けずに複数の組織業務について安定して一貫した分析を実現すべくFPA固有のデータモデルを用意していますこのためシステム基盤が異なる複数のグループ会社の情報もFPAを使うことで同じ切り口視点で分析することができます

⑥ 必要に応じて特定のニーズに合 わせてテスト内容とダッシュボードをカスタマイズすることもできます

(2)FPA活用の主なメリット

①スピードとコストFPAの利用にあたっては実績ある既存のクラウド環境を

活用することで大規模な初期投資をすることなく迅速な利用開始が可能です操作方法も簡単であるためサンプ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

8 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ルデータを用いたパイロットテストを行った上ですぐに分析モニタリングに集中することができますFPAは投資コストおよび維持コストの削減に貢献します

②業務改善基礎となる財務データから新しい洞察を引き出し業務改

善の余地を特定定量化することができます例えばさまざまなカテゴリに分類される支出を統合整理して組織ごとの調達に関する支払サイクル戦略的なベンダー評価を行います

基幹システムへのデータ分析機能の追加実装など新しいソリューションへの多額の投資を行う前に継続的な価値と用途についてビジネスニーズをテストするための道具としてFPAを利用することも可能です

③社内のステークホルダーとの対話の加速FPAを用いれば事実に基づいたデータ主導型の対話が

可能になりますこれにより利害関係者のお互いの理解を深め何が問題でどのように対応改善すればよいのかという意識の共有が進みます

④業務プロセスの透明性の向上と内部統制の信頼性向上FPAを用いて全ての取引データを一貫的かつ反復的な

方法で分析することにより業務プロセスの質を可視化することができますまた関連する内部統制が効果的に運用されているかどうかについての信頼性も高まります分析を通じて発見された例外的な事項の調査の際もデータをドリルダウンして詳細なデータにアクセスすることで調査から改善アクションまでの期間を短縮化することができます

(3)FPAの利用形態

FPAは基本的にはクラウド型サービスですがオンプレミスでの設定も可能ですさまざまなユーザーがさまざまなデバイスを通じて FPAの各モジュールに 24 時間年中無休でアクセス可能とすることで分析から得られる示唆を共有することができます一般的にデータ分析プラットフォームの導入に際しては「システム開発の高い負荷が高い」「分析結果からアクションにつながらない」「導入までの時間がかかり過ぎる」といった課題が散見されますがFPAは SaaS形式で利用可能であるためシステム開発をせずにビッグデータの分析に向けた第一歩をすぐに踏み出すことができます

2 FPAによるモニタリング―分析の視点

(1)継続的モニタリングのプラットフォームとしてのFPA

継続的モニタリングを導入していない企業ではリスクが顕在化する大きな事案が発生したときに初めてリスクが特定される傾向にあります事前にリスクを特定し大きな事案を未然に防ぐためには継続的に幅広く取引データの分析を行いリスクを察知するアンテナを張っておくとともにその状況を3つのディフェンスラインで共有しておくことが有意義ですFPAには150種類以上の標準的な分析を実装しているため幅広いリスクに対する早期の分析が可能ですリスクを察知するグループ共通のアンテナとしてFPAを活用することが有効です

(2)モジュールごとの分析の視点(抜粋)

継続的モニタリングの事例として販売プロセス購買プロセス人事給与プロセスの 3モジュールを題材に具体的な分析の事例と視点の一部を抜粋してご紹介します

図表 1Financial Processes Analyser(FPA)の概要

Financial Processes Analyser FPAの有用性

標準モジュール

異常の検出と修正 高度なレポーティング

ガバナンスの枠組み

コンプライアンス管理

営業債権債務の流動性の改善

トランザクションの精度を改善して

効率を向上内部統制の

運用有効性の評価

業務プロセスの改善点の特定

関連当事者管理の向上

販売プロセス 人事給与 従業員経費 総勘定元帳 運転資金 データ品質購買プロセス

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(イ)顧客所在地全ての顧客の所在地を把握し会社の国際ポリシーへの準拠を確保しますまたサービスの改善や効率化の余地を特定します

例えば以下のような取引を評価して特定します 顧客との取引を所在地の分析を通じて評価することによ

る贈収賄および腐敗の指標 国ごとに期限内に支払われる販売請求書の割合など

(ロ)顧客プロファイリング選択した顧客の全取引のプロファイリングにより分析指標に対する相対的なパフォーマンスを確認します

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 顧客および期間ごとの営業活動 顧客と合意した SLA(サービスレベルアグリーメント)を

評価するための販売サイクル期間 運転資本への影響など

(ハ)エンドトゥエンドのデータへのアクセス各種分析やテストを実行した結果について受注から販売入金までの取引に関する一連のデータを一元的に把握することによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します ユーザーが期間内に処理した受注請求入金の各伝

票数 受注請求入金の各種処理の伝票量のバランスに基づ

く期間のカットオフの検証など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような指標を評価します 正しい VAT(付加価値税)を適用せず財務報告または

法的義務に影響を与える請求書の割合 請求書の減額が高い顧客の割合など

① 販売プロセスモジュール

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(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

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11PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

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3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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emspemspemspemspemspemspemspemspemsp

高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

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内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

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河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

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占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

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PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 2: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

2 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

特集

PwCrsquos View Vol23目次

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求helliphelliphelliphelliphellip 6DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 8デジタル社会における「信頼の空白域」を探せhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 14参加者が築く外部委託のトラストhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 17リスクとデジタルトラストサービスプラットフォームhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 19内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用helliphellip 22企業に求められる効率的な ESG情報開示helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 27情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォームhelliphelliphelliphelliphelliphellip 29

会計監査監査報告書の透明化 第 7 回 監査上の主要な検討事項(KAM)を考え始めるhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 31Vision 2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦 第 5 回 デジタル化とデータ活用helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 34

ldquoInformrdquo へようこそhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 44PwC Japanグループ調査レポートのご案内helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 45海外PwC日本語対応コンタクト一覧helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 46

ご案内

税務法務IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 40

外部寄稿国立大学法人滋賀大学 連載企画「データアナリティクスの最前線」 第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量であるhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 36

3PwCrsquos View Vol 23 November 2019

4 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

昨今のデジタル化による情報量の爆発的な増大により私たちの社会は情報オー

バーロードを起こしているといわれていますこのようなデジタル社会においては

情報やデータの安全性や信頼性の確保が重要な課題となります安全性や信頼性

に関する課題は財務非財務情報だけでなくガバナンスやリスクマネジメント

コンプライアンス内部統制を含む業務プロセスさらには社会を支える制度インフ

ラの整備運用の安全性や信頼性にまで無辺際に広がりつつあります

私たちPwCはデジタル社会における多様な信頼に関する課題に着目しPwC

の専門性テクノロジーグローバルネットワークの力を駆使してそれらの課題を

解決する「トラストサービス」でクライアントをご支援することにより社会の信頼レ

ベルの向上に貢献してまいります

さらにトラストサービスをより多くのクライアントに安心してご利用いただくため

にトラストサービスの生産性を大幅に改善しますこのためPwC Japanグルー

プは継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser

をアジア各国の PwCメンバーファームと共同開発しましたまたクラウド上にデジ

タルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)

を構築しました今号の特集ではこれらデジタルツールの利活用に焦点を当てて

論じます

最初の論考ではPwCあらたの戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充」

に焦点を当てデジタルツールの利活用によりPwCの経営理念をいかに追求して

いくのかについてご説明いたします2つ目の論考ではこのような継続的かつ網羅

的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

トフォームFinancial Processes Analyserの概要をご紹介します

そして3つ目の論考では PLATの全体像をご紹介し続く5本の論考で外部委託

先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった

利用シーンに応じた活用事例とメリットをご説明します

特集

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

5PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当) PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー 丸山 琢永

はじめに  P w C あらた 有 限 責 任 監 査 法 人 は 2 0 1 8 年 1 1 月 に

「V i s i on 2 0 2 5 ldquoデジタル社 会に信 頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたVision 2025とは当法人がPwCの Purpose(存在意義)である「社会における信頼を築き重要な課題を解決する」を実現し社会から必要とされる存在であり続けるために2025年における私たちを取り巻く環境を概観し今後の法人の在り方を構想したものです

「信頼(トラスト)」をキーワードとし「品質の追求」「トラストサービスの拡充」「デジタル化とデータ活用」「人財の未来への投資」「ステークホルダーへの発信と対話」の 5つを戦略的優先領域に挙げています 本稿では戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充 」に焦 点 を当てデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求について解説いたします

1 PwCの存在意義(Purpose)

PwCの存在意義(Purpose)は「社会における信頼を構築し重要な課題を解決する」ですこれは理念ともいえるものでPwCのビジネスとは何かPwCはなぜ存在するのかを明確にしあらゆる意思決定における極めて重要な道しるべやベンチマークの役 割 をもっています私たちのVision 2025「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」「トラストサービスの拡充」はこの PwCの存在意義

(Purpose)を追求するために作られました

2 Vision 2025の実現のために―監査を応用したトラストサービスの拡充

トラストサービスの本質は企業や社会が抱える不安や心配信頼を失墜させるような不祥事など信頼に関する経営社会課題を対象としてPwCの専門家の知見デジタル技術やネットワークを駆使してこれらの課題を解決することにあります

PwCの伝統的な事業である監査はトラストサービスのコア事業です(図表の「Core Audit」参照)監査の基本的構造

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

図表PwCあらたのトラストサービス

トラストサービスの拡充

Core Auditをベースとしつつ「PwCあらたのトラスト」を財務業務プロセス社会

に拡大する

財務のトラスト 業務プロセスのトラスト

信頼の付与

信頼づくりのサポート

信頼の基盤の創生

社会へのトラスト

CoreAudit

財務報告 経営報告 統合報告 内部統制 保険数理

個人情報管理 トラストトランスペアレンシー

社会の信頼づくりを支える制度構築への貢献 デジタルトラストサービスプラットフォームの構築

データアナリティクス アシュアランス

持続可能な開発目標 SDGsESG

プロジェクトアシュアランス ガバナンスリスク コンプライアンス

内部監査経営監査 危機管理 フィナンシャルクライム (金融犯罪)対策

サイバーセキュリティ

6 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

と私たちの専門性やネットワークを駆使して企業や社会の信頼に関するさまざまな課題を解決しようとする取り組みが

「トラストサービスの拡充」です 現在トラストサービスの対象範囲は財務情報の信頼

に関する課題にとどまらず業務プロセスの信頼やさらには個人や社会の信頼に関する課題にまで広がっています

また信頼に関する課題を解決する方法(サービスの種類)は以下のように多様化が進んでいます

「信頼の付与」型サービス

サービスの対象が伝統的な監査のような財務情報だけでなく内部統制監査に代表される「業務プロセス」や金融機関などの赤道原則運用状況に関する開示に対する独立業務実施者としての保証業務などに見られるような非財務情報にまで広がっています

「信頼づくりのサポート」型サービス

サービスの対象が従来の財務報告の信頼性を確保するための体制づくりのご支援から会計不正リスク贈収賄リスクサイバーセキュリティリスクカルテルリスクエネルギーカーボンリスクなどクライアントの重要なリスクを企業グループやサプライチェーン全体で制御するための GRC

(ガバナンスリスクコンプライアンス)体制を構築するご支援業務に広がっています

「信頼の基盤の創生」型サービス

世の中の信頼に関する課題の中には信頼性を確保するための基準がない効率良く信頼性を検証する仕組みがないため費用対効果が見合わないなど制度的デジタル技術的な基盤(インフラ)が整備されていないことに起因するものがたくさんありますPwCはこれらの課題を解決するために制度づくりやデジタルトラストサービスプラットフォームの開発に取り組んでいます

3デジタルトラストサービスプラットフォーム

情報オーバーロードを起こしているといわれるデジタル社会においてPwCの存在意義(Purpose)を追求しVisionを実現しようとするならばトラストサービスの生産性および品質を大幅に改善しより多くの方にご利用いただけるような体制を構築しなければなりませんそこで PwC Japanグループは安全かつ迅速に品質の高いトラストサービスをご利用いただけるよう継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser(以下「FPA」)をアジア各国と共同開発するとともにクラウド上にデジタル

トラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を構築しましたFPAや PLATを利活用

することによって秘匿性の高い情報であっても安全に効率良く情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)を行うことができます

次のページからは FPA をご紹介するとともにPLATの全体像を皮切りに外部委託先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった利用シーンに応じたPLATの活用事例とメリットをご説明します

丸山 琢永 (まるやま たくえい )

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当)PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー公認会計士当法人のリスクアシュアランス事業のリーダーとしてクライアントの重要な事業リスクに対して総合的な解決策を提示することにより経営者に安心を提供する活動に取り組んでいる最近ではマネーローンダリング(AMLKYC)不正贈収賄有価証券報告書の虚偽記載海外事業進出海外拠点運営などに係るガバナンスリスクマネジメントコンプライアンス(GRC)体制の構築強化を支援している

7PwCrsquos View Vol 23 November 2019

DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化―PwCのデータ分析プラットフォームFPAの活用PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当パートナー 久禮 由敬

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門

マネージャー 今村 峰生

はじめに デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は第一線のビジネスの現場にとどまらずリスク管理や経営企画内部監査も含めた3つのディフェンスラインの全てに影響を与えていますデジタル革命を通じて経営者は従前以上に企業活動全体の「いま」を的確に把握しタイムリーに意思決定に生かすことができるようになっています具体的には経営者は従来型の「定期的」かつ「サンプリングに基づくモニタリング」する手法にとどまらず企業活動全体を「継続的」かつ「網羅的にモニタリング」する手法を利用することもできるようになってきましたデータ分析の活用を通じた企業活動の透明性の向上は持続的な企業価値創造の助けともなります デジタル革命の恩恵をより早くより多く享受するためにはそれぞれのディフェンスラインにおいてバラバラにデータの入手分析を行うのではなく共通のデータ分析プラットフォームを活用することが有意義ですそこで本稿ではこのような継続的かつ網羅的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラットフォームである「Financial Processes Analyser」(以下「FPA」)の概要をご紹介しますなお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことをあらかじめご理解いただきたくお願いします

1PwCが提供するデータ分析プラットフォームFPAの概要

(1)FPAの主な特徴

FPA は組織の主要なプロセスとその管理活動レポーティング業務モニタリング活動全体の透明性信頼性の向上に貢献するデータ分析プラットフォームですFPAはモニタリングを継続的かつ網羅的に実施することをサポートするため以下の特徴機能を備えています(図表1)① 販売購買人事給与従業員経費総勘定元帳運転資

金データ品質の領域を対象とした分析モジュールをあらかじめ用意しています一部だけを使うことも可能です

② 各種明細データとマスターデータを利用し各プロセスの全取引をモニタリング分析対象としています

③ PwCのこれまでの知見を基にさまざまな組織業界で一般的に使用されている標準的なテストをあらかじめ用意していますこれを取捨選択することで素早いデータ分析の実装が可能になります

④ テストの結果識別された取引を調査視覚化するためのさまざまな Business Intelligenceダッシュボードを用意しています

⑤ 元データを生成管理している情報システムの変更アップグレードや基盤変更に影響を受けずに複数の組織業務について安定して一貫した分析を実現すべくFPA固有のデータモデルを用意していますこのためシステム基盤が異なる複数のグループ会社の情報もFPAを使うことで同じ切り口視点で分析することができます

⑥ 必要に応じて特定のニーズに合 わせてテスト内容とダッシュボードをカスタマイズすることもできます

(2)FPA活用の主なメリット

①スピードとコストFPAの利用にあたっては実績ある既存のクラウド環境を

活用することで大規模な初期投資をすることなく迅速な利用開始が可能です操作方法も簡単であるためサンプ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

8 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ルデータを用いたパイロットテストを行った上ですぐに分析モニタリングに集中することができますFPAは投資コストおよび維持コストの削減に貢献します

②業務改善基礎となる財務データから新しい洞察を引き出し業務改

善の余地を特定定量化することができます例えばさまざまなカテゴリに分類される支出を統合整理して組織ごとの調達に関する支払サイクル戦略的なベンダー評価を行います

基幹システムへのデータ分析機能の追加実装など新しいソリューションへの多額の投資を行う前に継続的な価値と用途についてビジネスニーズをテストするための道具としてFPAを利用することも可能です

③社内のステークホルダーとの対話の加速FPAを用いれば事実に基づいたデータ主導型の対話が

可能になりますこれにより利害関係者のお互いの理解を深め何が問題でどのように対応改善すればよいのかという意識の共有が進みます

④業務プロセスの透明性の向上と内部統制の信頼性向上FPAを用いて全ての取引データを一貫的かつ反復的な

方法で分析することにより業務プロセスの質を可視化することができますまた関連する内部統制が効果的に運用されているかどうかについての信頼性も高まります分析を通じて発見された例外的な事項の調査の際もデータをドリルダウンして詳細なデータにアクセスすることで調査から改善アクションまでの期間を短縮化することができます

(3)FPAの利用形態

FPAは基本的にはクラウド型サービスですがオンプレミスでの設定も可能ですさまざまなユーザーがさまざまなデバイスを通じて FPAの各モジュールに 24 時間年中無休でアクセス可能とすることで分析から得られる示唆を共有することができます一般的にデータ分析プラットフォームの導入に際しては「システム開発の高い負荷が高い」「分析結果からアクションにつながらない」「導入までの時間がかかり過ぎる」といった課題が散見されますがFPAは SaaS形式で利用可能であるためシステム開発をせずにビッグデータの分析に向けた第一歩をすぐに踏み出すことができます

2 FPAによるモニタリング―分析の視点

(1)継続的モニタリングのプラットフォームとしてのFPA

継続的モニタリングを導入していない企業ではリスクが顕在化する大きな事案が発生したときに初めてリスクが特定される傾向にあります事前にリスクを特定し大きな事案を未然に防ぐためには継続的に幅広く取引データの分析を行いリスクを察知するアンテナを張っておくとともにその状況を3つのディフェンスラインで共有しておくことが有意義ですFPAには150種類以上の標準的な分析を実装しているため幅広いリスクに対する早期の分析が可能ですリスクを察知するグループ共通のアンテナとしてFPAを活用することが有効です

(2)モジュールごとの分析の視点(抜粋)

継続的モニタリングの事例として販売プロセス購買プロセス人事給与プロセスの 3モジュールを題材に具体的な分析の事例と視点の一部を抜粋してご紹介します

図表 1Financial Processes Analyser(FPA)の概要

Financial Processes Analyser FPAの有用性

標準モジュール

異常の検出と修正 高度なレポーティング

ガバナンスの枠組み

コンプライアンス管理

営業債権債務の流動性の改善

トランザクションの精度を改善して

効率を向上内部統制の

運用有効性の評価

業務プロセスの改善点の特定

関連当事者管理の向上

販売プロセス 人事給与 従業員経費 総勘定元帳 運転資金 データ品質購買プロセス

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

9PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)顧客所在地全ての顧客の所在地を把握し会社の国際ポリシーへの準拠を確保しますまたサービスの改善や効率化の余地を特定します

例えば以下のような取引を評価して特定します 顧客との取引を所在地の分析を通じて評価することによ

る贈収賄および腐敗の指標 国ごとに期限内に支払われる販売請求書の割合など

(ロ)顧客プロファイリング選択した顧客の全取引のプロファイリングにより分析指標に対する相対的なパフォーマンスを確認します

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 顧客および期間ごとの営業活動 顧客と合意した SLA(サービスレベルアグリーメント)を

評価するための販売サイクル期間 運転資本への影響など

(ハ)エンドトゥエンドのデータへのアクセス各種分析やテストを実行した結果について受注から販売入金までの取引に関する一連のデータを一元的に把握することによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します ユーザーが期間内に処理した受注請求入金の各伝

票数 受注請求入金の各種処理の伝票量のバランスに基づ

く期間のカットオフの検証など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような指標を評価します 正しい VAT(付加価値税)を適用せず財務報告または

法的義務に影響を与える請求書の割合 請求書の減額が高い顧客の割合など

① 販売プロセスモジュール

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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emsp

(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

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(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

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12 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

13PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

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しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

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① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

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参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

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全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

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リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

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Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

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2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

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内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

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22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

言語を選択する

ご希望の連絡先メールアドレスと認証番号を 入力する

日本語

メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

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26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

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27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

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きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

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河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

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IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 3: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

特集

PwCrsquos View Vol23目次

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求helliphelliphelliphelliphellip 6DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 8デジタル社会における「信頼の空白域」を探せhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 14参加者が築く外部委託のトラストhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 17リスクとデジタルトラストサービスプラットフォームhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 19内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用helliphellip 22企業に求められる効率的な ESG情報開示helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 27情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォームhelliphelliphelliphelliphelliphellip 29

会計監査監査報告書の透明化 第 7 回 監査上の主要な検討事項(KAM)を考え始めるhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 31Vision 2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦 第 5 回 デジタル化とデータ活用helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 34

ldquoInformrdquo へようこそhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 44PwC Japanグループ調査レポートのご案内helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 45海外PwC日本語対応コンタクト一覧helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 46

ご案内

税務法務IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応helliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 40

外部寄稿国立大学法人滋賀大学 連載企画「データアナリティクスの最前線」 第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量であるhelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphelliphellip 36

3PwCrsquos View Vol 23 November 2019

4 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

昨今のデジタル化による情報量の爆発的な増大により私たちの社会は情報オー

バーロードを起こしているといわれていますこのようなデジタル社会においては

情報やデータの安全性や信頼性の確保が重要な課題となります安全性や信頼性

に関する課題は財務非財務情報だけでなくガバナンスやリスクマネジメント

コンプライアンス内部統制を含む業務プロセスさらには社会を支える制度インフ

ラの整備運用の安全性や信頼性にまで無辺際に広がりつつあります

私たちPwCはデジタル社会における多様な信頼に関する課題に着目しPwC

の専門性テクノロジーグローバルネットワークの力を駆使してそれらの課題を

解決する「トラストサービス」でクライアントをご支援することにより社会の信頼レ

ベルの向上に貢献してまいります

さらにトラストサービスをより多くのクライアントに安心してご利用いただくため

にトラストサービスの生産性を大幅に改善しますこのためPwC Japanグルー

プは継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser

をアジア各国の PwCメンバーファームと共同開発しましたまたクラウド上にデジ

タルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)

を構築しました今号の特集ではこれらデジタルツールの利活用に焦点を当てて

論じます

最初の論考ではPwCあらたの戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充」

に焦点を当てデジタルツールの利活用によりPwCの経営理念をいかに追求して

いくのかについてご説明いたします2つ目の論考ではこのような継続的かつ網羅

的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

トフォームFinancial Processes Analyserの概要をご紹介します

そして3つ目の論考では PLATの全体像をご紹介し続く5本の論考で外部委託

先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった

利用シーンに応じた活用事例とメリットをご説明します

特集

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

5PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当) PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー 丸山 琢永

はじめに  P w C あらた 有 限 責 任 監 査 法 人 は 2 0 1 8 年 1 1 月 に

「V i s i on 2 0 2 5 ldquoデジタル社 会に信 頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたVision 2025とは当法人がPwCの Purpose(存在意義)である「社会における信頼を築き重要な課題を解決する」を実現し社会から必要とされる存在であり続けるために2025年における私たちを取り巻く環境を概観し今後の法人の在り方を構想したものです

「信頼(トラスト)」をキーワードとし「品質の追求」「トラストサービスの拡充」「デジタル化とデータ活用」「人財の未来への投資」「ステークホルダーへの発信と対話」の 5つを戦略的優先領域に挙げています 本稿では戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充 」に焦 点 を当てデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求について解説いたします

1 PwCの存在意義(Purpose)

PwCの存在意義(Purpose)は「社会における信頼を構築し重要な課題を解決する」ですこれは理念ともいえるものでPwCのビジネスとは何かPwCはなぜ存在するのかを明確にしあらゆる意思決定における極めて重要な道しるべやベンチマークの役 割 をもっています私たちのVision 2025「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」「トラストサービスの拡充」はこの PwCの存在意義

(Purpose)を追求するために作られました

2 Vision 2025の実現のために―監査を応用したトラストサービスの拡充

トラストサービスの本質は企業や社会が抱える不安や心配信頼を失墜させるような不祥事など信頼に関する経営社会課題を対象としてPwCの専門家の知見デジタル技術やネットワークを駆使してこれらの課題を解決することにあります

PwCの伝統的な事業である監査はトラストサービスのコア事業です(図表の「Core Audit」参照)監査の基本的構造

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

図表PwCあらたのトラストサービス

トラストサービスの拡充

Core Auditをベースとしつつ「PwCあらたのトラスト」を財務業務プロセス社会

に拡大する

財務のトラスト 業務プロセスのトラスト

信頼の付与

信頼づくりのサポート

信頼の基盤の創生

社会へのトラスト

CoreAudit

財務報告 経営報告 統合報告 内部統制 保険数理

個人情報管理 トラストトランスペアレンシー

社会の信頼づくりを支える制度構築への貢献 デジタルトラストサービスプラットフォームの構築

データアナリティクス アシュアランス

持続可能な開発目標 SDGsESG

プロジェクトアシュアランス ガバナンスリスク コンプライアンス

内部監査経営監査 危機管理 フィナンシャルクライム (金融犯罪)対策

サイバーセキュリティ

6 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

と私たちの専門性やネットワークを駆使して企業や社会の信頼に関するさまざまな課題を解決しようとする取り組みが

「トラストサービスの拡充」です 現在トラストサービスの対象範囲は財務情報の信頼

に関する課題にとどまらず業務プロセスの信頼やさらには個人や社会の信頼に関する課題にまで広がっています

また信頼に関する課題を解決する方法(サービスの種類)は以下のように多様化が進んでいます

「信頼の付与」型サービス

サービスの対象が伝統的な監査のような財務情報だけでなく内部統制監査に代表される「業務プロセス」や金融機関などの赤道原則運用状況に関する開示に対する独立業務実施者としての保証業務などに見られるような非財務情報にまで広がっています

「信頼づくりのサポート」型サービス

サービスの対象が従来の財務報告の信頼性を確保するための体制づくりのご支援から会計不正リスク贈収賄リスクサイバーセキュリティリスクカルテルリスクエネルギーカーボンリスクなどクライアントの重要なリスクを企業グループやサプライチェーン全体で制御するための GRC

(ガバナンスリスクコンプライアンス)体制を構築するご支援業務に広がっています

「信頼の基盤の創生」型サービス

世の中の信頼に関する課題の中には信頼性を確保するための基準がない効率良く信頼性を検証する仕組みがないため費用対効果が見合わないなど制度的デジタル技術的な基盤(インフラ)が整備されていないことに起因するものがたくさんありますPwCはこれらの課題を解決するために制度づくりやデジタルトラストサービスプラットフォームの開発に取り組んでいます

3デジタルトラストサービスプラットフォーム

情報オーバーロードを起こしているといわれるデジタル社会においてPwCの存在意義(Purpose)を追求しVisionを実現しようとするならばトラストサービスの生産性および品質を大幅に改善しより多くの方にご利用いただけるような体制を構築しなければなりませんそこで PwC Japanグループは安全かつ迅速に品質の高いトラストサービスをご利用いただけるよう継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser(以下「FPA」)をアジア各国と共同開発するとともにクラウド上にデジタル

トラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を構築しましたFPAや PLATを利活用

することによって秘匿性の高い情報であっても安全に効率良く情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)を行うことができます

次のページからは FPA をご紹介するとともにPLATの全体像を皮切りに外部委託先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった利用シーンに応じたPLATの活用事例とメリットをご説明します

丸山 琢永 (まるやま たくえい )

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当)PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー公認会計士当法人のリスクアシュアランス事業のリーダーとしてクライアントの重要な事業リスクに対して総合的な解決策を提示することにより経営者に安心を提供する活動に取り組んでいる最近ではマネーローンダリング(AMLKYC)不正贈収賄有価証券報告書の虚偽記載海外事業進出海外拠点運営などに係るガバナンスリスクマネジメントコンプライアンス(GRC)体制の構築強化を支援している

7PwCrsquos View Vol 23 November 2019

DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化―PwCのデータ分析プラットフォームFPAの活用PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当パートナー 久禮 由敬

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門

マネージャー 今村 峰生

はじめに デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は第一線のビジネスの現場にとどまらずリスク管理や経営企画内部監査も含めた3つのディフェンスラインの全てに影響を与えていますデジタル革命を通じて経営者は従前以上に企業活動全体の「いま」を的確に把握しタイムリーに意思決定に生かすことができるようになっています具体的には経営者は従来型の「定期的」かつ「サンプリングに基づくモニタリング」する手法にとどまらず企業活動全体を「継続的」かつ「網羅的にモニタリング」する手法を利用することもできるようになってきましたデータ分析の活用を通じた企業活動の透明性の向上は持続的な企業価値創造の助けともなります デジタル革命の恩恵をより早くより多く享受するためにはそれぞれのディフェンスラインにおいてバラバラにデータの入手分析を行うのではなく共通のデータ分析プラットフォームを活用することが有意義ですそこで本稿ではこのような継続的かつ網羅的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラットフォームである「Financial Processes Analyser」(以下「FPA」)の概要をご紹介しますなお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことをあらかじめご理解いただきたくお願いします

1PwCが提供するデータ分析プラットフォームFPAの概要

(1)FPAの主な特徴

FPA は組織の主要なプロセスとその管理活動レポーティング業務モニタリング活動全体の透明性信頼性の向上に貢献するデータ分析プラットフォームですFPAはモニタリングを継続的かつ網羅的に実施することをサポートするため以下の特徴機能を備えています(図表1)① 販売購買人事給与従業員経費総勘定元帳運転資

金データ品質の領域を対象とした分析モジュールをあらかじめ用意しています一部だけを使うことも可能です

② 各種明細データとマスターデータを利用し各プロセスの全取引をモニタリング分析対象としています

③ PwCのこれまでの知見を基にさまざまな組織業界で一般的に使用されている標準的なテストをあらかじめ用意していますこれを取捨選択することで素早いデータ分析の実装が可能になります

④ テストの結果識別された取引を調査視覚化するためのさまざまな Business Intelligenceダッシュボードを用意しています

⑤ 元データを生成管理している情報システムの変更アップグレードや基盤変更に影響を受けずに複数の組織業務について安定して一貫した分析を実現すべくFPA固有のデータモデルを用意していますこのためシステム基盤が異なる複数のグループ会社の情報もFPAを使うことで同じ切り口視点で分析することができます

⑥ 必要に応じて特定のニーズに合 わせてテスト内容とダッシュボードをカスタマイズすることもできます

(2)FPA活用の主なメリット

①スピードとコストFPAの利用にあたっては実績ある既存のクラウド環境を

活用することで大規模な初期投資をすることなく迅速な利用開始が可能です操作方法も簡単であるためサンプ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

8 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ルデータを用いたパイロットテストを行った上ですぐに分析モニタリングに集中することができますFPAは投資コストおよび維持コストの削減に貢献します

②業務改善基礎となる財務データから新しい洞察を引き出し業務改

善の余地を特定定量化することができます例えばさまざまなカテゴリに分類される支出を統合整理して組織ごとの調達に関する支払サイクル戦略的なベンダー評価を行います

基幹システムへのデータ分析機能の追加実装など新しいソリューションへの多額の投資を行う前に継続的な価値と用途についてビジネスニーズをテストするための道具としてFPAを利用することも可能です

③社内のステークホルダーとの対話の加速FPAを用いれば事実に基づいたデータ主導型の対話が

可能になりますこれにより利害関係者のお互いの理解を深め何が問題でどのように対応改善すればよいのかという意識の共有が進みます

④業務プロセスの透明性の向上と内部統制の信頼性向上FPAを用いて全ての取引データを一貫的かつ反復的な

方法で分析することにより業務プロセスの質を可視化することができますまた関連する内部統制が効果的に運用されているかどうかについての信頼性も高まります分析を通じて発見された例外的な事項の調査の際もデータをドリルダウンして詳細なデータにアクセスすることで調査から改善アクションまでの期間を短縮化することができます

(3)FPAの利用形態

FPAは基本的にはクラウド型サービスですがオンプレミスでの設定も可能ですさまざまなユーザーがさまざまなデバイスを通じて FPAの各モジュールに 24 時間年中無休でアクセス可能とすることで分析から得られる示唆を共有することができます一般的にデータ分析プラットフォームの導入に際しては「システム開発の高い負荷が高い」「分析結果からアクションにつながらない」「導入までの時間がかかり過ぎる」といった課題が散見されますがFPAは SaaS形式で利用可能であるためシステム開発をせずにビッグデータの分析に向けた第一歩をすぐに踏み出すことができます

2 FPAによるモニタリング―分析の視点

(1)継続的モニタリングのプラットフォームとしてのFPA

継続的モニタリングを導入していない企業ではリスクが顕在化する大きな事案が発生したときに初めてリスクが特定される傾向にあります事前にリスクを特定し大きな事案を未然に防ぐためには継続的に幅広く取引データの分析を行いリスクを察知するアンテナを張っておくとともにその状況を3つのディフェンスラインで共有しておくことが有意義ですFPAには150種類以上の標準的な分析を実装しているため幅広いリスクに対する早期の分析が可能ですリスクを察知するグループ共通のアンテナとしてFPAを活用することが有効です

(2)モジュールごとの分析の視点(抜粋)

継続的モニタリングの事例として販売プロセス購買プロセス人事給与プロセスの 3モジュールを題材に具体的な分析の事例と視点の一部を抜粋してご紹介します

図表 1Financial Processes Analyser(FPA)の概要

Financial Processes Analyser FPAの有用性

標準モジュール

異常の検出と修正 高度なレポーティング

ガバナンスの枠組み

コンプライアンス管理

営業債権債務の流動性の改善

トランザクションの精度を改善して

効率を向上内部統制の

運用有効性の評価

業務プロセスの改善点の特定

関連当事者管理の向上

販売プロセス 人事給与 従業員経費 総勘定元帳 運転資金 データ品質購買プロセス

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9PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)顧客所在地全ての顧客の所在地を把握し会社の国際ポリシーへの準拠を確保しますまたサービスの改善や効率化の余地を特定します

例えば以下のような取引を評価して特定します 顧客との取引を所在地の分析を通じて評価することによ

る贈収賄および腐敗の指標 国ごとに期限内に支払われる販売請求書の割合など

(ロ)顧客プロファイリング選択した顧客の全取引のプロファイリングにより分析指標に対する相対的なパフォーマンスを確認します

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 顧客および期間ごとの営業活動 顧客と合意した SLA(サービスレベルアグリーメント)を

評価するための販売サイクル期間 運転資本への影響など

(ハ)エンドトゥエンドのデータへのアクセス各種分析やテストを実行した結果について受注から販売入金までの取引に関する一連のデータを一元的に把握することによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します ユーザーが期間内に処理した受注請求入金の各伝

票数 受注請求入金の各種処理の伝票量のバランスに基づ

く期間のカットオフの検証など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような指標を評価します 正しい VAT(付加価値税)を適用せず財務報告または

法的義務に影響を与える請求書の割合 請求書の減額が高い顧客の割合など

① 販売プロセスモジュール

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10 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

emsp

(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

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11PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

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12 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

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13PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

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14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

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15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

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参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

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全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

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18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

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19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

emspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemsp

emspemspemspemspemspemspemspemspemsp

高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

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24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

言語を選択する

ご希望の連絡先メールアドレスと認証番号を 入力する

日本語

メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

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26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

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27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

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30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

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れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 4: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

4 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

昨今のデジタル化による情報量の爆発的な増大により私たちの社会は情報オー

バーロードを起こしているといわれていますこのようなデジタル社会においては

情報やデータの安全性や信頼性の確保が重要な課題となります安全性や信頼性

に関する課題は財務非財務情報だけでなくガバナンスやリスクマネジメント

コンプライアンス内部統制を含む業務プロセスさらには社会を支える制度インフ

ラの整備運用の安全性や信頼性にまで無辺際に広がりつつあります

私たちPwCはデジタル社会における多様な信頼に関する課題に着目しPwC

の専門性テクノロジーグローバルネットワークの力を駆使してそれらの課題を

解決する「トラストサービス」でクライアントをご支援することにより社会の信頼レ

ベルの向上に貢献してまいります

さらにトラストサービスをより多くのクライアントに安心してご利用いただくため

にトラストサービスの生産性を大幅に改善しますこのためPwC Japanグルー

プは継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser

をアジア各国の PwCメンバーファームと共同開発しましたまたクラウド上にデジ

タルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)

を構築しました今号の特集ではこれらデジタルツールの利活用に焦点を当てて

論じます

最初の論考ではPwCあらたの戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充」

に焦点を当てデジタルツールの利活用によりPwCの経営理念をいかに追求して

いくのかについてご説明いたします2つ目の論考ではこのような継続的かつ網羅

的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

トフォームFinancial Processes Analyserの概要をご紹介します

そして3つ目の論考では PLATの全体像をご紹介し続く5本の論考で外部委託

先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった

利用シーンに応じた活用事例とメリットをご説明します

特集

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

5PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当) PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー 丸山 琢永

はじめに  P w C あらた 有 限 責 任 監 査 法 人 は 2 0 1 8 年 1 1 月 に

「V i s i on 2 0 2 5 ldquoデジタル社 会に信 頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたVision 2025とは当法人がPwCの Purpose(存在意義)である「社会における信頼を築き重要な課題を解決する」を実現し社会から必要とされる存在であり続けるために2025年における私たちを取り巻く環境を概観し今後の法人の在り方を構想したものです

「信頼(トラスト)」をキーワードとし「品質の追求」「トラストサービスの拡充」「デジタル化とデータ活用」「人財の未来への投資」「ステークホルダーへの発信と対話」の 5つを戦略的優先領域に挙げています 本稿では戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充 」に焦 点 を当てデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求について解説いたします

1 PwCの存在意義(Purpose)

PwCの存在意義(Purpose)は「社会における信頼を構築し重要な課題を解決する」ですこれは理念ともいえるものでPwCのビジネスとは何かPwCはなぜ存在するのかを明確にしあらゆる意思決定における極めて重要な道しるべやベンチマークの役 割 をもっています私たちのVision 2025「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」「トラストサービスの拡充」はこの PwCの存在意義

(Purpose)を追求するために作られました

2 Vision 2025の実現のために―監査を応用したトラストサービスの拡充

トラストサービスの本質は企業や社会が抱える不安や心配信頼を失墜させるような不祥事など信頼に関する経営社会課題を対象としてPwCの専門家の知見デジタル技術やネットワークを駆使してこれらの課題を解決することにあります

PwCの伝統的な事業である監査はトラストサービスのコア事業です(図表の「Core Audit」参照)監査の基本的構造

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

図表PwCあらたのトラストサービス

トラストサービスの拡充

Core Auditをベースとしつつ「PwCあらたのトラスト」を財務業務プロセス社会

に拡大する

財務のトラスト 業務プロセスのトラスト

信頼の付与

信頼づくりのサポート

信頼の基盤の創生

社会へのトラスト

CoreAudit

財務報告 経営報告 統合報告 内部統制 保険数理

個人情報管理 トラストトランスペアレンシー

社会の信頼づくりを支える制度構築への貢献 デジタルトラストサービスプラットフォームの構築

データアナリティクス アシュアランス

持続可能な開発目標 SDGsESG

プロジェクトアシュアランス ガバナンスリスク コンプライアンス

内部監査経営監査 危機管理 フィナンシャルクライム (金融犯罪)対策

サイバーセキュリティ

6 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

と私たちの専門性やネットワークを駆使して企業や社会の信頼に関するさまざまな課題を解決しようとする取り組みが

「トラストサービスの拡充」です 現在トラストサービスの対象範囲は財務情報の信頼

に関する課題にとどまらず業務プロセスの信頼やさらには個人や社会の信頼に関する課題にまで広がっています

また信頼に関する課題を解決する方法(サービスの種類)は以下のように多様化が進んでいます

「信頼の付与」型サービス

サービスの対象が伝統的な監査のような財務情報だけでなく内部統制監査に代表される「業務プロセス」や金融機関などの赤道原則運用状況に関する開示に対する独立業務実施者としての保証業務などに見られるような非財務情報にまで広がっています

「信頼づくりのサポート」型サービス

サービスの対象が従来の財務報告の信頼性を確保するための体制づくりのご支援から会計不正リスク贈収賄リスクサイバーセキュリティリスクカルテルリスクエネルギーカーボンリスクなどクライアントの重要なリスクを企業グループやサプライチェーン全体で制御するための GRC

(ガバナンスリスクコンプライアンス)体制を構築するご支援業務に広がっています

「信頼の基盤の創生」型サービス

世の中の信頼に関する課題の中には信頼性を確保するための基準がない効率良く信頼性を検証する仕組みがないため費用対効果が見合わないなど制度的デジタル技術的な基盤(インフラ)が整備されていないことに起因するものがたくさんありますPwCはこれらの課題を解決するために制度づくりやデジタルトラストサービスプラットフォームの開発に取り組んでいます

3デジタルトラストサービスプラットフォーム

情報オーバーロードを起こしているといわれるデジタル社会においてPwCの存在意義(Purpose)を追求しVisionを実現しようとするならばトラストサービスの生産性および品質を大幅に改善しより多くの方にご利用いただけるような体制を構築しなければなりませんそこで PwC Japanグループは安全かつ迅速に品質の高いトラストサービスをご利用いただけるよう継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser(以下「FPA」)をアジア各国と共同開発するとともにクラウド上にデジタル

トラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を構築しましたFPAや PLATを利活用

することによって秘匿性の高い情報であっても安全に効率良く情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)を行うことができます

次のページからは FPA をご紹介するとともにPLATの全体像を皮切りに外部委託先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった利用シーンに応じたPLATの活用事例とメリットをご説明します

丸山 琢永 (まるやま たくえい )

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当)PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー公認会計士当法人のリスクアシュアランス事業のリーダーとしてクライアントの重要な事業リスクに対して総合的な解決策を提示することにより経営者に安心を提供する活動に取り組んでいる最近ではマネーローンダリング(AMLKYC)不正贈収賄有価証券報告書の虚偽記載海外事業進出海外拠点運営などに係るガバナンスリスクマネジメントコンプライアンス(GRC)体制の構築強化を支援している

7PwCrsquos View Vol 23 November 2019

DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化―PwCのデータ分析プラットフォームFPAの活用PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当パートナー 久禮 由敬

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門

マネージャー 今村 峰生

はじめに デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は第一線のビジネスの現場にとどまらずリスク管理や経営企画内部監査も含めた3つのディフェンスラインの全てに影響を与えていますデジタル革命を通じて経営者は従前以上に企業活動全体の「いま」を的確に把握しタイムリーに意思決定に生かすことができるようになっています具体的には経営者は従来型の「定期的」かつ「サンプリングに基づくモニタリング」する手法にとどまらず企業活動全体を「継続的」かつ「網羅的にモニタリング」する手法を利用することもできるようになってきましたデータ分析の活用を通じた企業活動の透明性の向上は持続的な企業価値創造の助けともなります デジタル革命の恩恵をより早くより多く享受するためにはそれぞれのディフェンスラインにおいてバラバラにデータの入手分析を行うのではなく共通のデータ分析プラットフォームを活用することが有意義ですそこで本稿ではこのような継続的かつ網羅的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラットフォームである「Financial Processes Analyser」(以下「FPA」)の概要をご紹介しますなお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことをあらかじめご理解いただきたくお願いします

1PwCが提供するデータ分析プラットフォームFPAの概要

(1)FPAの主な特徴

FPA は組織の主要なプロセスとその管理活動レポーティング業務モニタリング活動全体の透明性信頼性の向上に貢献するデータ分析プラットフォームですFPAはモニタリングを継続的かつ網羅的に実施することをサポートするため以下の特徴機能を備えています(図表1)① 販売購買人事給与従業員経費総勘定元帳運転資

金データ品質の領域を対象とした分析モジュールをあらかじめ用意しています一部だけを使うことも可能です

② 各種明細データとマスターデータを利用し各プロセスの全取引をモニタリング分析対象としています

③ PwCのこれまでの知見を基にさまざまな組織業界で一般的に使用されている標準的なテストをあらかじめ用意していますこれを取捨選択することで素早いデータ分析の実装が可能になります

④ テストの結果識別された取引を調査視覚化するためのさまざまな Business Intelligenceダッシュボードを用意しています

⑤ 元データを生成管理している情報システムの変更アップグレードや基盤変更に影響を受けずに複数の組織業務について安定して一貫した分析を実現すべくFPA固有のデータモデルを用意していますこのためシステム基盤が異なる複数のグループ会社の情報もFPAを使うことで同じ切り口視点で分析することができます

⑥ 必要に応じて特定のニーズに合 わせてテスト内容とダッシュボードをカスタマイズすることもできます

(2)FPA活用の主なメリット

①スピードとコストFPAの利用にあたっては実績ある既存のクラウド環境を

活用することで大規模な初期投資をすることなく迅速な利用開始が可能です操作方法も簡単であるためサンプ

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ルデータを用いたパイロットテストを行った上ですぐに分析モニタリングに集中することができますFPAは投資コストおよび維持コストの削減に貢献します

②業務改善基礎となる財務データから新しい洞察を引き出し業務改

善の余地を特定定量化することができます例えばさまざまなカテゴリに分類される支出を統合整理して組織ごとの調達に関する支払サイクル戦略的なベンダー評価を行います

基幹システムへのデータ分析機能の追加実装など新しいソリューションへの多額の投資を行う前に継続的な価値と用途についてビジネスニーズをテストするための道具としてFPAを利用することも可能です

③社内のステークホルダーとの対話の加速FPAを用いれば事実に基づいたデータ主導型の対話が

可能になりますこれにより利害関係者のお互いの理解を深め何が問題でどのように対応改善すればよいのかという意識の共有が進みます

④業務プロセスの透明性の向上と内部統制の信頼性向上FPAを用いて全ての取引データを一貫的かつ反復的な

方法で分析することにより業務プロセスの質を可視化することができますまた関連する内部統制が効果的に運用されているかどうかについての信頼性も高まります分析を通じて発見された例外的な事項の調査の際もデータをドリルダウンして詳細なデータにアクセスすることで調査から改善アクションまでの期間を短縮化することができます

(3)FPAの利用形態

FPAは基本的にはクラウド型サービスですがオンプレミスでの設定も可能ですさまざまなユーザーがさまざまなデバイスを通じて FPAの各モジュールに 24 時間年中無休でアクセス可能とすることで分析から得られる示唆を共有することができます一般的にデータ分析プラットフォームの導入に際しては「システム開発の高い負荷が高い」「分析結果からアクションにつながらない」「導入までの時間がかかり過ぎる」といった課題が散見されますがFPAは SaaS形式で利用可能であるためシステム開発をせずにビッグデータの分析に向けた第一歩をすぐに踏み出すことができます

2 FPAによるモニタリング―分析の視点

(1)継続的モニタリングのプラットフォームとしてのFPA

継続的モニタリングを導入していない企業ではリスクが顕在化する大きな事案が発生したときに初めてリスクが特定される傾向にあります事前にリスクを特定し大きな事案を未然に防ぐためには継続的に幅広く取引データの分析を行いリスクを察知するアンテナを張っておくとともにその状況を3つのディフェンスラインで共有しておくことが有意義ですFPAには150種類以上の標準的な分析を実装しているため幅広いリスクに対する早期の分析が可能ですリスクを察知するグループ共通のアンテナとしてFPAを活用することが有効です

(2)モジュールごとの分析の視点(抜粋)

継続的モニタリングの事例として販売プロセス購買プロセス人事給与プロセスの 3モジュールを題材に具体的な分析の事例と視点の一部を抜粋してご紹介します

図表 1Financial Processes Analyser(FPA)の概要

Financial Processes Analyser FPAの有用性

標準モジュール

異常の検出と修正 高度なレポーティング

ガバナンスの枠組み

コンプライアンス管理

営業債権債務の流動性の改善

トランザクションの精度を改善して

効率を向上内部統制の

運用有効性の評価

業務プロセスの改善点の特定

関連当事者管理の向上

販売プロセス 人事給与 従業員経費 総勘定元帳 運転資金 データ品質購買プロセス

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(イ)顧客所在地全ての顧客の所在地を把握し会社の国際ポリシーへの準拠を確保しますまたサービスの改善や効率化の余地を特定します

例えば以下のような取引を評価して特定します 顧客との取引を所在地の分析を通じて評価することによ

る贈収賄および腐敗の指標 国ごとに期限内に支払われる販売請求書の割合など

(ロ)顧客プロファイリング選択した顧客の全取引のプロファイリングにより分析指標に対する相対的なパフォーマンスを確認します

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 顧客および期間ごとの営業活動 顧客と合意した SLA(サービスレベルアグリーメント)を

評価するための販売サイクル期間 運転資本への影響など

(ハ)エンドトゥエンドのデータへのアクセス各種分析やテストを実行した結果について受注から販売入金までの取引に関する一連のデータを一元的に把握することによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します ユーザーが期間内に処理した受注請求入金の各伝

票数 受注請求入金の各種処理の伝票量のバランスに基づ

く期間のカットオフの検証など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような指標を評価します 正しい VAT(付加価値税)を適用せず財務報告または

法的義務に影響を与える請求書の割合 請求書の減額が高い顧客の割合など

① 販売プロセスモジュール

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emsp

(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

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11PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

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3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

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しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

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① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

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参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

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17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

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20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

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21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

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22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

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24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

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法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

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26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

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27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

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会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

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きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

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PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 5: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

昨今のデジタル化による情報量の爆発的な増大により私たちの社会は情報オー

バーロードを起こしているといわれていますこのようなデジタル社会においては

情報やデータの安全性や信頼性の確保が重要な課題となります安全性や信頼性

に関する課題は財務非財務情報だけでなくガバナンスやリスクマネジメント

コンプライアンス内部統制を含む業務プロセスさらには社会を支える制度インフ

ラの整備運用の安全性や信頼性にまで無辺際に広がりつつあります

私たちPwCはデジタル社会における多様な信頼に関する課題に着目しPwC

の専門性テクノロジーグローバルネットワークの力を駆使してそれらの課題を

解決する「トラストサービス」でクライアントをご支援することにより社会の信頼レ

ベルの向上に貢献してまいります

さらにトラストサービスをより多くのクライアントに安心してご利用いただくため

にトラストサービスの生産性を大幅に改善しますこのためPwC Japanグルー

プは継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser

をアジア各国の PwCメンバーファームと共同開発しましたまたクラウド上にデジ

タルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)

を構築しました今号の特集ではこれらデジタルツールの利活用に焦点を当てて

論じます

最初の論考ではPwCあらたの戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充」

に焦点を当てデジタルツールの利活用によりPwCの経営理念をいかに追求して

いくのかについてご説明いたします2つ目の論考ではこのような継続的かつ網羅

的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

トフォームFinancial Processes Analyserの概要をご紹介します

そして3つ目の論考では PLATの全体像をご紹介し続く5本の論考で外部委託

先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった

利用シーンに応じた活用事例とメリットをご説明します

特集

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

5PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当) PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー 丸山 琢永

はじめに  P w C あらた 有 限 責 任 監 査 法 人 は 2 0 1 8 年 1 1 月 に

「V i s i on 2 0 2 5 ldquoデジタル社 会に信 頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたVision 2025とは当法人がPwCの Purpose(存在意義)である「社会における信頼を築き重要な課題を解決する」を実現し社会から必要とされる存在であり続けるために2025年における私たちを取り巻く環境を概観し今後の法人の在り方を構想したものです

「信頼(トラスト)」をキーワードとし「品質の追求」「トラストサービスの拡充」「デジタル化とデータ活用」「人財の未来への投資」「ステークホルダーへの発信と対話」の 5つを戦略的優先領域に挙げています 本稿では戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充 」に焦 点 を当てデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求について解説いたします

1 PwCの存在意義(Purpose)

PwCの存在意義(Purpose)は「社会における信頼を構築し重要な課題を解決する」ですこれは理念ともいえるものでPwCのビジネスとは何かPwCはなぜ存在するのかを明確にしあらゆる意思決定における極めて重要な道しるべやベンチマークの役 割 をもっています私たちのVision 2025「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」「トラストサービスの拡充」はこの PwCの存在意義

(Purpose)を追求するために作られました

2 Vision 2025の実現のために―監査を応用したトラストサービスの拡充

トラストサービスの本質は企業や社会が抱える不安や心配信頼を失墜させるような不祥事など信頼に関する経営社会課題を対象としてPwCの専門家の知見デジタル技術やネットワークを駆使してこれらの課題を解決することにあります

PwCの伝統的な事業である監査はトラストサービスのコア事業です(図表の「Core Audit」参照)監査の基本的構造

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

図表PwCあらたのトラストサービス

トラストサービスの拡充

Core Auditをベースとしつつ「PwCあらたのトラスト」を財務業務プロセス社会

に拡大する

財務のトラスト 業務プロセスのトラスト

信頼の付与

信頼づくりのサポート

信頼の基盤の創生

社会へのトラスト

CoreAudit

財務報告 経営報告 統合報告 内部統制 保険数理

個人情報管理 トラストトランスペアレンシー

社会の信頼づくりを支える制度構築への貢献 デジタルトラストサービスプラットフォームの構築

データアナリティクス アシュアランス

持続可能な開発目標 SDGsESG

プロジェクトアシュアランス ガバナンスリスク コンプライアンス

内部監査経営監査 危機管理 フィナンシャルクライム (金融犯罪)対策

サイバーセキュリティ

6 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

と私たちの専門性やネットワークを駆使して企業や社会の信頼に関するさまざまな課題を解決しようとする取り組みが

「トラストサービスの拡充」です 現在トラストサービスの対象範囲は財務情報の信頼

に関する課題にとどまらず業務プロセスの信頼やさらには個人や社会の信頼に関する課題にまで広がっています

また信頼に関する課題を解決する方法(サービスの種類)は以下のように多様化が進んでいます

「信頼の付与」型サービス

サービスの対象が伝統的な監査のような財務情報だけでなく内部統制監査に代表される「業務プロセス」や金融機関などの赤道原則運用状況に関する開示に対する独立業務実施者としての保証業務などに見られるような非財務情報にまで広がっています

「信頼づくりのサポート」型サービス

サービスの対象が従来の財務報告の信頼性を確保するための体制づくりのご支援から会計不正リスク贈収賄リスクサイバーセキュリティリスクカルテルリスクエネルギーカーボンリスクなどクライアントの重要なリスクを企業グループやサプライチェーン全体で制御するための GRC

(ガバナンスリスクコンプライアンス)体制を構築するご支援業務に広がっています

「信頼の基盤の創生」型サービス

世の中の信頼に関する課題の中には信頼性を確保するための基準がない効率良く信頼性を検証する仕組みがないため費用対効果が見合わないなど制度的デジタル技術的な基盤(インフラ)が整備されていないことに起因するものがたくさんありますPwCはこれらの課題を解決するために制度づくりやデジタルトラストサービスプラットフォームの開発に取り組んでいます

3デジタルトラストサービスプラットフォーム

情報オーバーロードを起こしているといわれるデジタル社会においてPwCの存在意義(Purpose)を追求しVisionを実現しようとするならばトラストサービスの生産性および品質を大幅に改善しより多くの方にご利用いただけるような体制を構築しなければなりませんそこで PwC Japanグループは安全かつ迅速に品質の高いトラストサービスをご利用いただけるよう継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser(以下「FPA」)をアジア各国と共同開発するとともにクラウド上にデジタル

トラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を構築しましたFPAや PLATを利活用

することによって秘匿性の高い情報であっても安全に効率良く情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)を行うことができます

次のページからは FPA をご紹介するとともにPLATの全体像を皮切りに外部委託先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった利用シーンに応じたPLATの活用事例とメリットをご説明します

丸山 琢永 (まるやま たくえい )

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当)PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー公認会計士当法人のリスクアシュアランス事業のリーダーとしてクライアントの重要な事業リスクに対して総合的な解決策を提示することにより経営者に安心を提供する活動に取り組んでいる最近ではマネーローンダリング(AMLKYC)不正贈収賄有価証券報告書の虚偽記載海外事業進出海外拠点運営などに係るガバナンスリスクマネジメントコンプライアンス(GRC)体制の構築強化を支援している

7PwCrsquos View Vol 23 November 2019

DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化―PwCのデータ分析プラットフォームFPAの活用PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当パートナー 久禮 由敬

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門

マネージャー 今村 峰生

はじめに デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は第一線のビジネスの現場にとどまらずリスク管理や経営企画内部監査も含めた3つのディフェンスラインの全てに影響を与えていますデジタル革命を通じて経営者は従前以上に企業活動全体の「いま」を的確に把握しタイムリーに意思決定に生かすことができるようになっています具体的には経営者は従来型の「定期的」かつ「サンプリングに基づくモニタリング」する手法にとどまらず企業活動全体を「継続的」かつ「網羅的にモニタリング」する手法を利用することもできるようになってきましたデータ分析の活用を通じた企業活動の透明性の向上は持続的な企業価値創造の助けともなります デジタル革命の恩恵をより早くより多く享受するためにはそれぞれのディフェンスラインにおいてバラバラにデータの入手分析を行うのではなく共通のデータ分析プラットフォームを活用することが有意義ですそこで本稿ではこのような継続的かつ網羅的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラットフォームである「Financial Processes Analyser」(以下「FPA」)の概要をご紹介しますなお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことをあらかじめご理解いただきたくお願いします

1PwCが提供するデータ分析プラットフォームFPAの概要

(1)FPAの主な特徴

FPA は組織の主要なプロセスとその管理活動レポーティング業務モニタリング活動全体の透明性信頼性の向上に貢献するデータ分析プラットフォームですFPAはモニタリングを継続的かつ網羅的に実施することをサポートするため以下の特徴機能を備えています(図表1)① 販売購買人事給与従業員経費総勘定元帳運転資

金データ品質の領域を対象とした分析モジュールをあらかじめ用意しています一部だけを使うことも可能です

② 各種明細データとマスターデータを利用し各プロセスの全取引をモニタリング分析対象としています

③ PwCのこれまでの知見を基にさまざまな組織業界で一般的に使用されている標準的なテストをあらかじめ用意していますこれを取捨選択することで素早いデータ分析の実装が可能になります

④ テストの結果識別された取引を調査視覚化するためのさまざまな Business Intelligenceダッシュボードを用意しています

⑤ 元データを生成管理している情報システムの変更アップグレードや基盤変更に影響を受けずに複数の組織業務について安定して一貫した分析を実現すべくFPA固有のデータモデルを用意していますこのためシステム基盤が異なる複数のグループ会社の情報もFPAを使うことで同じ切り口視点で分析することができます

⑥ 必要に応じて特定のニーズに合 わせてテスト内容とダッシュボードをカスタマイズすることもできます

(2)FPA活用の主なメリット

①スピードとコストFPAの利用にあたっては実績ある既存のクラウド環境を

活用することで大規模な初期投資をすることなく迅速な利用開始が可能です操作方法も簡単であるためサンプ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

8 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ルデータを用いたパイロットテストを行った上ですぐに分析モニタリングに集中することができますFPAは投資コストおよび維持コストの削減に貢献します

②業務改善基礎となる財務データから新しい洞察を引き出し業務改

善の余地を特定定量化することができます例えばさまざまなカテゴリに分類される支出を統合整理して組織ごとの調達に関する支払サイクル戦略的なベンダー評価を行います

基幹システムへのデータ分析機能の追加実装など新しいソリューションへの多額の投資を行う前に継続的な価値と用途についてビジネスニーズをテストするための道具としてFPAを利用することも可能です

③社内のステークホルダーとの対話の加速FPAを用いれば事実に基づいたデータ主導型の対話が

可能になりますこれにより利害関係者のお互いの理解を深め何が問題でどのように対応改善すればよいのかという意識の共有が進みます

④業務プロセスの透明性の向上と内部統制の信頼性向上FPAを用いて全ての取引データを一貫的かつ反復的な

方法で分析することにより業務プロセスの質を可視化することができますまた関連する内部統制が効果的に運用されているかどうかについての信頼性も高まります分析を通じて発見された例外的な事項の調査の際もデータをドリルダウンして詳細なデータにアクセスすることで調査から改善アクションまでの期間を短縮化することができます

(3)FPAの利用形態

FPAは基本的にはクラウド型サービスですがオンプレミスでの設定も可能ですさまざまなユーザーがさまざまなデバイスを通じて FPAの各モジュールに 24 時間年中無休でアクセス可能とすることで分析から得られる示唆を共有することができます一般的にデータ分析プラットフォームの導入に際しては「システム開発の高い負荷が高い」「分析結果からアクションにつながらない」「導入までの時間がかかり過ぎる」といった課題が散見されますがFPAは SaaS形式で利用可能であるためシステム開発をせずにビッグデータの分析に向けた第一歩をすぐに踏み出すことができます

2 FPAによるモニタリング―分析の視点

(1)継続的モニタリングのプラットフォームとしてのFPA

継続的モニタリングを導入していない企業ではリスクが顕在化する大きな事案が発生したときに初めてリスクが特定される傾向にあります事前にリスクを特定し大きな事案を未然に防ぐためには継続的に幅広く取引データの分析を行いリスクを察知するアンテナを張っておくとともにその状況を3つのディフェンスラインで共有しておくことが有意義ですFPAには150種類以上の標準的な分析を実装しているため幅広いリスクに対する早期の分析が可能ですリスクを察知するグループ共通のアンテナとしてFPAを活用することが有効です

(2)モジュールごとの分析の視点(抜粋)

継続的モニタリングの事例として販売プロセス購買プロセス人事給与プロセスの 3モジュールを題材に具体的な分析の事例と視点の一部を抜粋してご紹介します

図表 1Financial Processes Analyser(FPA)の概要

Financial Processes Analyser FPAの有用性

標準モジュール

異常の検出と修正 高度なレポーティング

ガバナンスの枠組み

コンプライアンス管理

営業債権債務の流動性の改善

トランザクションの精度を改善して

効率を向上内部統制の

運用有効性の評価

業務プロセスの改善点の特定

関連当事者管理の向上

販売プロセス 人事給与 従業員経費 総勘定元帳 運転資金 データ品質購買プロセス

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9PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)顧客所在地全ての顧客の所在地を把握し会社の国際ポリシーへの準拠を確保しますまたサービスの改善や効率化の余地を特定します

例えば以下のような取引を評価して特定します 顧客との取引を所在地の分析を通じて評価することによ

る贈収賄および腐敗の指標 国ごとに期限内に支払われる販売請求書の割合など

(ロ)顧客プロファイリング選択した顧客の全取引のプロファイリングにより分析指標に対する相対的なパフォーマンスを確認します

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 顧客および期間ごとの営業活動 顧客と合意した SLA(サービスレベルアグリーメント)を

評価するための販売サイクル期間 運転資本への影響など

(ハ)エンドトゥエンドのデータへのアクセス各種分析やテストを実行した結果について受注から販売入金までの取引に関する一連のデータを一元的に把握することによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します ユーザーが期間内に処理した受注請求入金の各伝

票数 受注請求入金の各種処理の伝票量のバランスに基づ

く期間のカットオフの検証など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような指標を評価します 正しい VAT(付加価値税)を適用せず財務報告または

法的義務に影響を与える請求書の割合 請求書の減額が高い顧客の割合など

① 販売プロセスモジュール

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10 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

emsp

(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

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11PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

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12 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

13PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

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14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

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20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

emspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemsp

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

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21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

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22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

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24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

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26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

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30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 6: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当) PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー 丸山 琢永

はじめに  P w C あらた 有 限 責 任 監 査 法 人 は 2 0 1 8 年 1 1 月 に

「V i s i on 2 0 2 5 ldquoデジタル社 会に信 頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたVision 2025とは当法人がPwCの Purpose(存在意義)である「社会における信頼を築き重要な課題を解決する」を実現し社会から必要とされる存在であり続けるために2025年における私たちを取り巻く環境を概観し今後の法人の在り方を構想したものです

「信頼(トラスト)」をキーワードとし「品質の追求」「トラストサービスの拡充」「デジタル化とデータ活用」「人財の未来への投資」「ステークホルダーへの発信と対話」の 5つを戦略的優先領域に挙げています 本稿では戦略的優先領域の一つ「トラストサービスの拡充 」に焦 点 を当てデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用による理念追求について解説いたします

1 PwCの存在意義(Purpose)

PwCの存在意義(Purpose)は「社会における信頼を構築し重要な課題を解決する」ですこれは理念ともいえるものでPwCのビジネスとは何かPwCはなぜ存在するのかを明確にしあらゆる意思決定における極めて重要な道しるべやベンチマークの役 割 をもっています私たちのVision 2025「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」「トラストサービスの拡充」はこの PwCの存在意義

(Purpose)を追求するために作られました

2 Vision 2025の実現のために―監査を応用したトラストサービスの拡充

トラストサービスの本質は企業や社会が抱える不安や心配信頼を失墜させるような不祥事など信頼に関する経営社会課題を対象としてPwCの専門家の知見デジタル技術やネットワークを駆使してこれらの課題を解決することにあります

PwCの伝統的な事業である監査はトラストサービスのコア事業です(図表の「Core Audit」参照)監査の基本的構造

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

図表PwCあらたのトラストサービス

トラストサービスの拡充

Core Auditをベースとしつつ「PwCあらたのトラスト」を財務業務プロセス社会

に拡大する

財務のトラスト 業務プロセスのトラスト

信頼の付与

信頼づくりのサポート

信頼の基盤の創生

社会へのトラスト

CoreAudit

財務報告 経営報告 統合報告 内部統制 保険数理

個人情報管理 トラストトランスペアレンシー

社会の信頼づくりを支える制度構築への貢献 デジタルトラストサービスプラットフォームの構築

データアナリティクス アシュアランス

持続可能な開発目標 SDGsESG

プロジェクトアシュアランス ガバナンスリスク コンプライアンス

内部監査経営監査 危機管理 フィナンシャルクライム (金融犯罪)対策

サイバーセキュリティ

6 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

と私たちの専門性やネットワークを駆使して企業や社会の信頼に関するさまざまな課題を解決しようとする取り組みが

「トラストサービスの拡充」です 現在トラストサービスの対象範囲は財務情報の信頼

に関する課題にとどまらず業務プロセスの信頼やさらには個人や社会の信頼に関する課題にまで広がっています

また信頼に関する課題を解決する方法(サービスの種類)は以下のように多様化が進んでいます

「信頼の付与」型サービス

サービスの対象が伝統的な監査のような財務情報だけでなく内部統制監査に代表される「業務プロセス」や金融機関などの赤道原則運用状況に関する開示に対する独立業務実施者としての保証業務などに見られるような非財務情報にまで広がっています

「信頼づくりのサポート」型サービス

サービスの対象が従来の財務報告の信頼性を確保するための体制づくりのご支援から会計不正リスク贈収賄リスクサイバーセキュリティリスクカルテルリスクエネルギーカーボンリスクなどクライアントの重要なリスクを企業グループやサプライチェーン全体で制御するための GRC

(ガバナンスリスクコンプライアンス)体制を構築するご支援業務に広がっています

「信頼の基盤の創生」型サービス

世の中の信頼に関する課題の中には信頼性を確保するための基準がない効率良く信頼性を検証する仕組みがないため費用対効果が見合わないなど制度的デジタル技術的な基盤(インフラ)が整備されていないことに起因するものがたくさんありますPwCはこれらの課題を解決するために制度づくりやデジタルトラストサービスプラットフォームの開発に取り組んでいます

3デジタルトラストサービスプラットフォーム

情報オーバーロードを起こしているといわれるデジタル社会においてPwCの存在意義(Purpose)を追求しVisionを実現しようとするならばトラストサービスの生産性および品質を大幅に改善しより多くの方にご利用いただけるような体制を構築しなければなりませんそこで PwC Japanグループは安全かつ迅速に品質の高いトラストサービスをご利用いただけるよう継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser(以下「FPA」)をアジア各国と共同開発するとともにクラウド上にデジタル

トラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を構築しましたFPAや PLATを利活用

することによって秘匿性の高い情報であっても安全に効率良く情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)を行うことができます

次のページからは FPA をご紹介するとともにPLATの全体像を皮切りに外部委託先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった利用シーンに応じたPLATの活用事例とメリットをご説明します

丸山 琢永 (まるやま たくえい )

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当)PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー公認会計士当法人のリスクアシュアランス事業のリーダーとしてクライアントの重要な事業リスクに対して総合的な解決策を提示することにより経営者に安心を提供する活動に取り組んでいる最近ではマネーローンダリング(AMLKYC)不正贈収賄有価証券報告書の虚偽記載海外事業進出海外拠点運営などに係るガバナンスリスクマネジメントコンプライアンス(GRC)体制の構築強化を支援している

7PwCrsquos View Vol 23 November 2019

DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化―PwCのデータ分析プラットフォームFPAの活用PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当パートナー 久禮 由敬

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門

マネージャー 今村 峰生

はじめに デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は第一線のビジネスの現場にとどまらずリスク管理や経営企画内部監査も含めた3つのディフェンスラインの全てに影響を与えていますデジタル革命を通じて経営者は従前以上に企業活動全体の「いま」を的確に把握しタイムリーに意思決定に生かすことができるようになっています具体的には経営者は従来型の「定期的」かつ「サンプリングに基づくモニタリング」する手法にとどまらず企業活動全体を「継続的」かつ「網羅的にモニタリング」する手法を利用することもできるようになってきましたデータ分析の活用を通じた企業活動の透明性の向上は持続的な企業価値創造の助けともなります デジタル革命の恩恵をより早くより多く享受するためにはそれぞれのディフェンスラインにおいてバラバラにデータの入手分析を行うのではなく共通のデータ分析プラットフォームを活用することが有意義ですそこで本稿ではこのような継続的かつ網羅的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラットフォームである「Financial Processes Analyser」(以下「FPA」)の概要をご紹介しますなお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことをあらかじめご理解いただきたくお願いします

1PwCが提供するデータ分析プラットフォームFPAの概要

(1)FPAの主な特徴

FPA は組織の主要なプロセスとその管理活動レポーティング業務モニタリング活動全体の透明性信頼性の向上に貢献するデータ分析プラットフォームですFPAはモニタリングを継続的かつ網羅的に実施することをサポートするため以下の特徴機能を備えています(図表1)① 販売購買人事給与従業員経費総勘定元帳運転資

金データ品質の領域を対象とした分析モジュールをあらかじめ用意しています一部だけを使うことも可能です

② 各種明細データとマスターデータを利用し各プロセスの全取引をモニタリング分析対象としています

③ PwCのこれまでの知見を基にさまざまな組織業界で一般的に使用されている標準的なテストをあらかじめ用意していますこれを取捨選択することで素早いデータ分析の実装が可能になります

④ テストの結果識別された取引を調査視覚化するためのさまざまな Business Intelligenceダッシュボードを用意しています

⑤ 元データを生成管理している情報システムの変更アップグレードや基盤変更に影響を受けずに複数の組織業務について安定して一貫した分析を実現すべくFPA固有のデータモデルを用意していますこのためシステム基盤が異なる複数のグループ会社の情報もFPAを使うことで同じ切り口視点で分析することができます

⑥ 必要に応じて特定のニーズに合 わせてテスト内容とダッシュボードをカスタマイズすることもできます

(2)FPA活用の主なメリット

①スピードとコストFPAの利用にあたっては実績ある既存のクラウド環境を

活用することで大規模な初期投資をすることなく迅速な利用開始が可能です操作方法も簡単であるためサンプ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

8 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ルデータを用いたパイロットテストを行った上ですぐに分析モニタリングに集中することができますFPAは投資コストおよび維持コストの削減に貢献します

②業務改善基礎となる財務データから新しい洞察を引き出し業務改

善の余地を特定定量化することができます例えばさまざまなカテゴリに分類される支出を統合整理して組織ごとの調達に関する支払サイクル戦略的なベンダー評価を行います

基幹システムへのデータ分析機能の追加実装など新しいソリューションへの多額の投資を行う前に継続的な価値と用途についてビジネスニーズをテストするための道具としてFPAを利用することも可能です

③社内のステークホルダーとの対話の加速FPAを用いれば事実に基づいたデータ主導型の対話が

可能になりますこれにより利害関係者のお互いの理解を深め何が問題でどのように対応改善すればよいのかという意識の共有が進みます

④業務プロセスの透明性の向上と内部統制の信頼性向上FPAを用いて全ての取引データを一貫的かつ反復的な

方法で分析することにより業務プロセスの質を可視化することができますまた関連する内部統制が効果的に運用されているかどうかについての信頼性も高まります分析を通じて発見された例外的な事項の調査の際もデータをドリルダウンして詳細なデータにアクセスすることで調査から改善アクションまでの期間を短縮化することができます

(3)FPAの利用形態

FPAは基本的にはクラウド型サービスですがオンプレミスでの設定も可能ですさまざまなユーザーがさまざまなデバイスを通じて FPAの各モジュールに 24 時間年中無休でアクセス可能とすることで分析から得られる示唆を共有することができます一般的にデータ分析プラットフォームの導入に際しては「システム開発の高い負荷が高い」「分析結果からアクションにつながらない」「導入までの時間がかかり過ぎる」といった課題が散見されますがFPAは SaaS形式で利用可能であるためシステム開発をせずにビッグデータの分析に向けた第一歩をすぐに踏み出すことができます

2 FPAによるモニタリング―分析の視点

(1)継続的モニタリングのプラットフォームとしてのFPA

継続的モニタリングを導入していない企業ではリスクが顕在化する大きな事案が発生したときに初めてリスクが特定される傾向にあります事前にリスクを特定し大きな事案を未然に防ぐためには継続的に幅広く取引データの分析を行いリスクを察知するアンテナを張っておくとともにその状況を3つのディフェンスラインで共有しておくことが有意義ですFPAには150種類以上の標準的な分析を実装しているため幅広いリスクに対する早期の分析が可能ですリスクを察知するグループ共通のアンテナとしてFPAを活用することが有効です

(2)モジュールごとの分析の視点(抜粋)

継続的モニタリングの事例として販売プロセス購買プロセス人事給与プロセスの 3モジュールを題材に具体的な分析の事例と視点の一部を抜粋してご紹介します

図表 1Financial Processes Analyser(FPA)の概要

Financial Processes Analyser FPAの有用性

標準モジュール

異常の検出と修正 高度なレポーティング

ガバナンスの枠組み

コンプライアンス管理

営業債権債務の流動性の改善

トランザクションの精度を改善して

効率を向上内部統制の

運用有効性の評価

業務プロセスの改善点の特定

関連当事者管理の向上

販売プロセス 人事給与 従業員経費 総勘定元帳 運転資金 データ品質購買プロセス

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

9PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)顧客所在地全ての顧客の所在地を把握し会社の国際ポリシーへの準拠を確保しますまたサービスの改善や効率化の余地を特定します

例えば以下のような取引を評価して特定します 顧客との取引を所在地の分析を通じて評価することによ

る贈収賄および腐敗の指標 国ごとに期限内に支払われる販売請求書の割合など

(ロ)顧客プロファイリング選択した顧客の全取引のプロファイリングにより分析指標に対する相対的なパフォーマンスを確認します

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 顧客および期間ごとの営業活動 顧客と合意した SLA(サービスレベルアグリーメント)を

評価するための販売サイクル期間 運転資本への影響など

(ハ)エンドトゥエンドのデータへのアクセス各種分析やテストを実行した結果について受注から販売入金までの取引に関する一連のデータを一元的に把握することによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します ユーザーが期間内に処理した受注請求入金の各伝

票数 受注請求入金の各種処理の伝票量のバランスに基づ

く期間のカットオフの検証など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような指標を評価します 正しい VAT(付加価値税)を適用せず財務報告または

法的義務に影響を与える請求書の割合 請求書の減額が高い顧客の割合など

① 販売プロセスモジュール

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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10 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

emsp

(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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11PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

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12 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

13PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

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『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

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コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 7: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

と私たちの専門性やネットワークを駆使して企業や社会の信頼に関するさまざまな課題を解決しようとする取り組みが

「トラストサービスの拡充」です 現在トラストサービスの対象範囲は財務情報の信頼

に関する課題にとどまらず業務プロセスの信頼やさらには個人や社会の信頼に関する課題にまで広がっています

また信頼に関する課題を解決する方法(サービスの種類)は以下のように多様化が進んでいます

「信頼の付与」型サービス

サービスの対象が伝統的な監査のような財務情報だけでなく内部統制監査に代表される「業務プロセス」や金融機関などの赤道原則運用状況に関する開示に対する独立業務実施者としての保証業務などに見られるような非財務情報にまで広がっています

「信頼づくりのサポート」型サービス

サービスの対象が従来の財務報告の信頼性を確保するための体制づくりのご支援から会計不正リスク贈収賄リスクサイバーセキュリティリスクカルテルリスクエネルギーカーボンリスクなどクライアントの重要なリスクを企業グループやサプライチェーン全体で制御するための GRC

(ガバナンスリスクコンプライアンス)体制を構築するご支援業務に広がっています

「信頼の基盤の創生」型サービス

世の中の信頼に関する課題の中には信頼性を確保するための基準がない効率良く信頼性を検証する仕組みがないため費用対効果が見合わないなど制度的デジタル技術的な基盤(インフラ)が整備されていないことに起因するものがたくさんありますPwCはこれらの課題を解決するために制度づくりやデジタルトラストサービスプラットフォームの開発に取り組んでいます

3デジタルトラストサービスプラットフォーム

情報オーバーロードを起こしているといわれるデジタル社会においてPwCの存在意義(Purpose)を追求しVisionを実現しようとするならばトラストサービスの生産性および品質を大幅に改善しより多くの方にご利用いただけるような体制を構築しなければなりませんそこで PwC Japanグループは安全かつ迅速に品質の高いトラストサービスをご利用いただけるよう継続モニタリングのプラットフォームとしてFinancial Processes Analyser(以下「FPA」)をアジア各国と共同開発するとともにクラウド上にデジタル

トラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を構築しましたFPAや PLATを利活用

することによって秘匿性の高い情報であっても安全に効率良く情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)を行うことができます

次のページからは FPA をご紹介するとともにPLATの全体像を皮切りに外部委託先管理リスク情報管理内部通報管理ESG情報管理情報収集管理といった利用シーンに応じたPLATの活用事例とメリットをご説明します

丸山 琢永 (まるやま たくえい )

PwCあらた有限責任監査法人執行役常務(リスクデジタルアシュアランス担当)PwCビジネスアシュアランス合同会社 代表執行役社長パートナー公認会計士当法人のリスクアシュアランス事業のリーダーとしてクライアントの重要な事業リスクに対して総合的な解決策を提示することにより経営者に安心を提供する活動に取り組んでいる最近ではマネーローンダリング(AMLKYC)不正贈収賄有価証券報告書の虚偽記載海外事業進出海外拠点運営などに係るガバナンスリスクマネジメントコンプライアンス(GRC)体制の構築強化を支援している

7PwCrsquos View Vol 23 November 2019

DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化―PwCのデータ分析プラットフォームFPAの活用PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当パートナー 久禮 由敬

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門

マネージャー 今村 峰生

はじめに デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は第一線のビジネスの現場にとどまらずリスク管理や経営企画内部監査も含めた3つのディフェンスラインの全てに影響を与えていますデジタル革命を通じて経営者は従前以上に企業活動全体の「いま」を的確に把握しタイムリーに意思決定に生かすことができるようになっています具体的には経営者は従来型の「定期的」かつ「サンプリングに基づくモニタリング」する手法にとどまらず企業活動全体を「継続的」かつ「網羅的にモニタリング」する手法を利用することもできるようになってきましたデータ分析の活用を通じた企業活動の透明性の向上は持続的な企業価値創造の助けともなります デジタル革命の恩恵をより早くより多く享受するためにはそれぞれのディフェンスラインにおいてバラバラにデータの入手分析を行うのではなく共通のデータ分析プラットフォームを活用することが有意義ですそこで本稿ではこのような継続的かつ網羅的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラットフォームである「Financial Processes Analyser」(以下「FPA」)の概要をご紹介しますなお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことをあらかじめご理解いただきたくお願いします

1PwCが提供するデータ分析プラットフォームFPAの概要

(1)FPAの主な特徴

FPA は組織の主要なプロセスとその管理活動レポーティング業務モニタリング活動全体の透明性信頼性の向上に貢献するデータ分析プラットフォームですFPAはモニタリングを継続的かつ網羅的に実施することをサポートするため以下の特徴機能を備えています(図表1)① 販売購買人事給与従業員経費総勘定元帳運転資

金データ品質の領域を対象とした分析モジュールをあらかじめ用意しています一部だけを使うことも可能です

② 各種明細データとマスターデータを利用し各プロセスの全取引をモニタリング分析対象としています

③ PwCのこれまでの知見を基にさまざまな組織業界で一般的に使用されている標準的なテストをあらかじめ用意していますこれを取捨選択することで素早いデータ分析の実装が可能になります

④ テストの結果識別された取引を調査視覚化するためのさまざまな Business Intelligenceダッシュボードを用意しています

⑤ 元データを生成管理している情報システムの変更アップグレードや基盤変更に影響を受けずに複数の組織業務について安定して一貫した分析を実現すべくFPA固有のデータモデルを用意していますこのためシステム基盤が異なる複数のグループ会社の情報もFPAを使うことで同じ切り口視点で分析することができます

⑥ 必要に応じて特定のニーズに合 わせてテスト内容とダッシュボードをカスタマイズすることもできます

(2)FPA活用の主なメリット

①スピードとコストFPAの利用にあたっては実績ある既存のクラウド環境を

活用することで大規模な初期投資をすることなく迅速な利用開始が可能です操作方法も簡単であるためサンプ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

8 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ルデータを用いたパイロットテストを行った上ですぐに分析モニタリングに集中することができますFPAは投資コストおよび維持コストの削減に貢献します

②業務改善基礎となる財務データから新しい洞察を引き出し業務改

善の余地を特定定量化することができます例えばさまざまなカテゴリに分類される支出を統合整理して組織ごとの調達に関する支払サイクル戦略的なベンダー評価を行います

基幹システムへのデータ分析機能の追加実装など新しいソリューションへの多額の投資を行う前に継続的な価値と用途についてビジネスニーズをテストするための道具としてFPAを利用することも可能です

③社内のステークホルダーとの対話の加速FPAを用いれば事実に基づいたデータ主導型の対話が

可能になりますこれにより利害関係者のお互いの理解を深め何が問題でどのように対応改善すればよいのかという意識の共有が進みます

④業務プロセスの透明性の向上と内部統制の信頼性向上FPAを用いて全ての取引データを一貫的かつ反復的な

方法で分析することにより業務プロセスの質を可視化することができますまた関連する内部統制が効果的に運用されているかどうかについての信頼性も高まります分析を通じて発見された例外的な事項の調査の際もデータをドリルダウンして詳細なデータにアクセスすることで調査から改善アクションまでの期間を短縮化することができます

(3)FPAの利用形態

FPAは基本的にはクラウド型サービスですがオンプレミスでの設定も可能ですさまざまなユーザーがさまざまなデバイスを通じて FPAの各モジュールに 24 時間年中無休でアクセス可能とすることで分析から得られる示唆を共有することができます一般的にデータ分析プラットフォームの導入に際しては「システム開発の高い負荷が高い」「分析結果からアクションにつながらない」「導入までの時間がかかり過ぎる」といった課題が散見されますがFPAは SaaS形式で利用可能であるためシステム開発をせずにビッグデータの分析に向けた第一歩をすぐに踏み出すことができます

2 FPAによるモニタリング―分析の視点

(1)継続的モニタリングのプラットフォームとしてのFPA

継続的モニタリングを導入していない企業ではリスクが顕在化する大きな事案が発生したときに初めてリスクが特定される傾向にあります事前にリスクを特定し大きな事案を未然に防ぐためには継続的に幅広く取引データの分析を行いリスクを察知するアンテナを張っておくとともにその状況を3つのディフェンスラインで共有しておくことが有意義ですFPAには150種類以上の標準的な分析を実装しているため幅広いリスクに対する早期の分析が可能ですリスクを察知するグループ共通のアンテナとしてFPAを活用することが有効です

(2)モジュールごとの分析の視点(抜粋)

継続的モニタリングの事例として販売プロセス購買プロセス人事給与プロセスの 3モジュールを題材に具体的な分析の事例と視点の一部を抜粋してご紹介します

図表 1Financial Processes Analyser(FPA)の概要

Financial Processes Analyser FPAの有用性

標準モジュール

異常の検出と修正 高度なレポーティング

ガバナンスの枠組み

コンプライアンス管理

営業債権債務の流動性の改善

トランザクションの精度を改善して

効率を向上内部統制の

運用有効性の評価

業務プロセスの改善点の特定

関連当事者管理の向上

販売プロセス 人事給与 従業員経費 総勘定元帳 運転資金 データ品質購買プロセス

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

9PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)顧客所在地全ての顧客の所在地を把握し会社の国際ポリシーへの準拠を確保しますまたサービスの改善や効率化の余地を特定します

例えば以下のような取引を評価して特定します 顧客との取引を所在地の分析を通じて評価することによ

る贈収賄および腐敗の指標 国ごとに期限内に支払われる販売請求書の割合など

(ロ)顧客プロファイリング選択した顧客の全取引のプロファイリングにより分析指標に対する相対的なパフォーマンスを確認します

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 顧客および期間ごとの営業活動 顧客と合意した SLA(サービスレベルアグリーメント)を

評価するための販売サイクル期間 運転資本への影響など

(ハ)エンドトゥエンドのデータへのアクセス各種分析やテストを実行した結果について受注から販売入金までの取引に関する一連のデータを一元的に把握することによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します ユーザーが期間内に処理した受注請求入金の各伝

票数 受注請求入金の各種処理の伝票量のバランスに基づ

く期間のカットオフの検証など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような指標を評価します 正しい VAT(付加価値税)を適用せず財務報告または

法的義務に影響を与える請求書の割合 請求書の減額が高い顧客の割合など

① 販売プロセスモジュール

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emsp

(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

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11PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

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3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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emspemspemspemspemspemspemspemspemsp

高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

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24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

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監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

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47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 8: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化―PwCのデータ分析プラットフォームFPAの活用PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当パートナー 久禮 由敬

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門

マネージャー 今村 峰生

はじめに デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は第一線のビジネスの現場にとどまらずリスク管理や経営企画内部監査も含めた3つのディフェンスラインの全てに影響を与えていますデジタル革命を通じて経営者は従前以上に企業活動全体の「いま」を的確に把握しタイムリーに意思決定に生かすことができるようになっています具体的には経営者は従来型の「定期的」かつ「サンプリングに基づくモニタリング」する手法にとどまらず企業活動全体を「継続的」かつ「網羅的にモニタリング」する手法を利用することもできるようになってきましたデータ分析の活用を通じた企業活動の透明性の向上は持続的な企業価値創造の助けともなります デジタル革命の恩恵をより早くより多く享受するためにはそれぞれのディフェンスラインにおいてバラバラにデータの入手分析を行うのではなく共通のデータ分析プラットフォームを活用することが有意義ですそこで本稿ではこのような継続的かつ網羅的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラットフォームである「Financial Processes Analyser」(以下「FPA」)の概要をご紹介しますなお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことをあらかじめご理解いただきたくお願いします

1PwCが提供するデータ分析プラットフォームFPAの概要

(1)FPAの主な特徴

FPA は組織の主要なプロセスとその管理活動レポーティング業務モニタリング活動全体の透明性信頼性の向上に貢献するデータ分析プラットフォームですFPAはモニタリングを継続的かつ網羅的に実施することをサポートするため以下の特徴機能を備えています(図表1)① 販売購買人事給与従業員経費総勘定元帳運転資

金データ品質の領域を対象とした分析モジュールをあらかじめ用意しています一部だけを使うことも可能です

② 各種明細データとマスターデータを利用し各プロセスの全取引をモニタリング分析対象としています

③ PwCのこれまでの知見を基にさまざまな組織業界で一般的に使用されている標準的なテストをあらかじめ用意していますこれを取捨選択することで素早いデータ分析の実装が可能になります

④ テストの結果識別された取引を調査視覚化するためのさまざまな Business Intelligenceダッシュボードを用意しています

⑤ 元データを生成管理している情報システムの変更アップグレードや基盤変更に影響を受けずに複数の組織業務について安定して一貫した分析を実現すべくFPA固有のデータモデルを用意していますこのためシステム基盤が異なる複数のグループ会社の情報もFPAを使うことで同じ切り口視点で分析することができます

⑥ 必要に応じて特定のニーズに合 わせてテスト内容とダッシュボードをカスタマイズすることもできます

(2)FPA活用の主なメリット

①スピードとコストFPAの利用にあたっては実績ある既存のクラウド環境を

活用することで大規模な初期投資をすることなく迅速な利用開始が可能です操作方法も簡単であるためサンプ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

8 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ルデータを用いたパイロットテストを行った上ですぐに分析モニタリングに集中することができますFPAは投資コストおよび維持コストの削減に貢献します

②業務改善基礎となる財務データから新しい洞察を引き出し業務改

善の余地を特定定量化することができます例えばさまざまなカテゴリに分類される支出を統合整理して組織ごとの調達に関する支払サイクル戦略的なベンダー評価を行います

基幹システムへのデータ分析機能の追加実装など新しいソリューションへの多額の投資を行う前に継続的な価値と用途についてビジネスニーズをテストするための道具としてFPAを利用することも可能です

③社内のステークホルダーとの対話の加速FPAを用いれば事実に基づいたデータ主導型の対話が

可能になりますこれにより利害関係者のお互いの理解を深め何が問題でどのように対応改善すればよいのかという意識の共有が進みます

④業務プロセスの透明性の向上と内部統制の信頼性向上FPAを用いて全ての取引データを一貫的かつ反復的な

方法で分析することにより業務プロセスの質を可視化することができますまた関連する内部統制が効果的に運用されているかどうかについての信頼性も高まります分析を通じて発見された例外的な事項の調査の際もデータをドリルダウンして詳細なデータにアクセスすることで調査から改善アクションまでの期間を短縮化することができます

(3)FPAの利用形態

FPAは基本的にはクラウド型サービスですがオンプレミスでの設定も可能ですさまざまなユーザーがさまざまなデバイスを通じて FPAの各モジュールに 24 時間年中無休でアクセス可能とすることで分析から得られる示唆を共有することができます一般的にデータ分析プラットフォームの導入に際しては「システム開発の高い負荷が高い」「分析結果からアクションにつながらない」「導入までの時間がかかり過ぎる」といった課題が散見されますがFPAは SaaS形式で利用可能であるためシステム開発をせずにビッグデータの分析に向けた第一歩をすぐに踏み出すことができます

2 FPAによるモニタリング―分析の視点

(1)継続的モニタリングのプラットフォームとしてのFPA

継続的モニタリングを導入していない企業ではリスクが顕在化する大きな事案が発生したときに初めてリスクが特定される傾向にあります事前にリスクを特定し大きな事案を未然に防ぐためには継続的に幅広く取引データの分析を行いリスクを察知するアンテナを張っておくとともにその状況を3つのディフェンスラインで共有しておくことが有意義ですFPAには150種類以上の標準的な分析を実装しているため幅広いリスクに対する早期の分析が可能ですリスクを察知するグループ共通のアンテナとしてFPAを活用することが有効です

(2)モジュールごとの分析の視点(抜粋)

継続的モニタリングの事例として販売プロセス購買プロセス人事給与プロセスの 3モジュールを題材に具体的な分析の事例と視点の一部を抜粋してご紹介します

図表 1Financial Processes Analyser(FPA)の概要

Financial Processes Analyser FPAの有用性

標準モジュール

異常の検出と修正 高度なレポーティング

ガバナンスの枠組み

コンプライアンス管理

営業債権債務の流動性の改善

トランザクションの精度を改善して

効率を向上内部統制の

運用有効性の評価

業務プロセスの改善点の特定

関連当事者管理の向上

販売プロセス 人事給与 従業員経費 総勘定元帳 運転資金 データ品質購買プロセス

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

9PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)顧客所在地全ての顧客の所在地を把握し会社の国際ポリシーへの準拠を確保しますまたサービスの改善や効率化の余地を特定します

例えば以下のような取引を評価して特定します 顧客との取引を所在地の分析を通じて評価することによ

る贈収賄および腐敗の指標 国ごとに期限内に支払われる販売請求書の割合など

(ロ)顧客プロファイリング選択した顧客の全取引のプロファイリングにより分析指標に対する相対的なパフォーマンスを確認します

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 顧客および期間ごとの営業活動 顧客と合意した SLA(サービスレベルアグリーメント)を

評価するための販売サイクル期間 運転資本への影響など

(ハ)エンドトゥエンドのデータへのアクセス各種分析やテストを実行した結果について受注から販売入金までの取引に関する一連のデータを一元的に把握することによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します ユーザーが期間内に処理した受注請求入金の各伝

票数 受注請求入金の各種処理の伝票量のバランスに基づ

く期間のカットオフの検証など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような指標を評価します 正しい VAT(付加価値税)を適用せず財務報告または

法的義務に影響を与える請求書の割合 請求書の減額が高い顧客の割合など

① 販売プロセスモジュール

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emsp

(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

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11PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

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3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

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20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

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内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

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『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

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コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 9: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

ルデータを用いたパイロットテストを行った上ですぐに分析モニタリングに集中することができますFPAは投資コストおよび維持コストの削減に貢献します

②業務改善基礎となる財務データから新しい洞察を引き出し業務改

善の余地を特定定量化することができます例えばさまざまなカテゴリに分類される支出を統合整理して組織ごとの調達に関する支払サイクル戦略的なベンダー評価を行います

基幹システムへのデータ分析機能の追加実装など新しいソリューションへの多額の投資を行う前に継続的な価値と用途についてビジネスニーズをテストするための道具としてFPAを利用することも可能です

③社内のステークホルダーとの対話の加速FPAを用いれば事実に基づいたデータ主導型の対話が

可能になりますこれにより利害関係者のお互いの理解を深め何が問題でどのように対応改善すればよいのかという意識の共有が進みます

④業務プロセスの透明性の向上と内部統制の信頼性向上FPAを用いて全ての取引データを一貫的かつ反復的な

方法で分析することにより業務プロセスの質を可視化することができますまた関連する内部統制が効果的に運用されているかどうかについての信頼性も高まります分析を通じて発見された例外的な事項の調査の際もデータをドリルダウンして詳細なデータにアクセスすることで調査から改善アクションまでの期間を短縮化することができます

(3)FPAの利用形態

FPAは基本的にはクラウド型サービスですがオンプレミスでの設定も可能ですさまざまなユーザーがさまざまなデバイスを通じて FPAの各モジュールに 24 時間年中無休でアクセス可能とすることで分析から得られる示唆を共有することができます一般的にデータ分析プラットフォームの導入に際しては「システム開発の高い負荷が高い」「分析結果からアクションにつながらない」「導入までの時間がかかり過ぎる」といった課題が散見されますがFPAは SaaS形式で利用可能であるためシステム開発をせずにビッグデータの分析に向けた第一歩をすぐに踏み出すことができます

2 FPAによるモニタリング―分析の視点

(1)継続的モニタリングのプラットフォームとしてのFPA

継続的モニタリングを導入していない企業ではリスクが顕在化する大きな事案が発生したときに初めてリスクが特定される傾向にあります事前にリスクを特定し大きな事案を未然に防ぐためには継続的に幅広く取引データの分析を行いリスクを察知するアンテナを張っておくとともにその状況を3つのディフェンスラインで共有しておくことが有意義ですFPAには150種類以上の標準的な分析を実装しているため幅広いリスクに対する早期の分析が可能ですリスクを察知するグループ共通のアンテナとしてFPAを活用することが有効です

(2)モジュールごとの分析の視点(抜粋)

継続的モニタリングの事例として販売プロセス購買プロセス人事給与プロセスの 3モジュールを題材に具体的な分析の事例と視点の一部を抜粋してご紹介します

図表 1Financial Processes Analyser(FPA)の概要

Financial Processes Analyser FPAの有用性

標準モジュール

異常の検出と修正 高度なレポーティング

ガバナンスの枠組み

コンプライアンス管理

営業債権債務の流動性の改善

トランザクションの精度を改善して

効率を向上内部統制の

運用有効性の評価

業務プロセスの改善点の特定

関連当事者管理の向上

販売プロセス 人事給与 従業員経費 総勘定元帳 運転資金 データ品質購買プロセス

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

9PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)顧客所在地全ての顧客の所在地を把握し会社の国際ポリシーへの準拠を確保しますまたサービスの改善や効率化の余地を特定します

例えば以下のような取引を評価して特定します 顧客との取引を所在地の分析を通じて評価することによ

る贈収賄および腐敗の指標 国ごとに期限内に支払われる販売請求書の割合など

(ロ)顧客プロファイリング選択した顧客の全取引のプロファイリングにより分析指標に対する相対的なパフォーマンスを確認します

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 顧客および期間ごとの営業活動 顧客と合意した SLA(サービスレベルアグリーメント)を

評価するための販売サイクル期間 運転資本への影響など

(ハ)エンドトゥエンドのデータへのアクセス各種分析やテストを実行した結果について受注から販売入金までの取引に関する一連のデータを一元的に把握することによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します ユーザーが期間内に処理した受注請求入金の各伝

票数 受注請求入金の各種処理の伝票量のバランスに基づ

く期間のカットオフの検証など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような指標を評価します 正しい VAT(付加価値税)を適用せず財務報告または

法的義務に影響を与える請求書の割合 請求書の減額が高い顧客の割合など

① 販売プロセスモジュール

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10 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

emsp

(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

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11PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

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12 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

13PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

emspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemsp

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

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法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 10: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

(イ)顧客所在地全ての顧客の所在地を把握し会社の国際ポリシーへの準拠を確保しますまたサービスの改善や効率化の余地を特定します

例えば以下のような取引を評価して特定します 顧客との取引を所在地の分析を通じて評価することによ

る贈収賄および腐敗の指標 国ごとに期限内に支払われる販売請求書の割合など

(ロ)顧客プロファイリング選択した顧客の全取引のプロファイリングにより分析指標に対する相対的なパフォーマンスを確認します

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 顧客および期間ごとの営業活動 顧客と合意した SLA(サービスレベルアグリーメント)を

評価するための販売サイクル期間 運転資本への影響など

(ハ)エンドトゥエンドのデータへのアクセス各種分析やテストを実行した結果について受注から販売入金までの取引に関する一連のデータを一元的に把握することによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します ユーザーが期間内に処理した受注請求入金の各伝

票数 受注請求入金の各種処理の伝票量のバランスに基づ

く期間のカットオフの検証など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような指標を評価します 正しい VAT(付加価値税)を適用せず財務報告または

法的義務に影響を与える請求書の割合 請求書の減額が高い顧客の割合など

① 販売プロセスモジュール

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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10 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

emsp

(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

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11PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

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12 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

13PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

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14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

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15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

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参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

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全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

emspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemsp

emspemspemspemspemspemspemspemspemsp

高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

言語を選択する

ご希望の連絡先メールアドレスと認証番号を 入力する

日本語

メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

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会計監査

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ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

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会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

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きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

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河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

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れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

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占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

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おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 11: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

emsp

(イ)調達サイクル期間発注書の生成から最終的な支払いが行われるまでのエンドトゥエンドの期間やサイクルを把握しますベンダーの種類ごとに評価でき個々のベンダーにフォーカスして調達契約への適合を分析できます

例えば次のような指標を評価分析します 発注書の承認後ベンダーが請求書を発行するのにか

かる平均期間 契約期限内に支払われたベンダー請求書の割合など

(ロ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要な取引を強調表示します これによりリスクを軽減し企業の標準的なコンプライアンスを維持できます

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します 請求書がない支払いまたは支払いの重複 従業員マスターに登録された銀行口座と同一口座が設

定されているベンダーへの支払いなど

(ハ)通例でないユーザーの行動ユーザーがシステムとやり取りするタイミングを把握して互いにベンチマークすることによりリスクの高いトランザクションや生産性の改善点を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 期間時間ユーザーごとに処理された請求書の数 3営業日以内に承認されなかった請求書の数 同じ支払請求書を承認するユーザーなど

(ニ)データ品質FPA内蔵のデータマッチング機能を使用してリンクする注文書請求書および支払いを特定し標準的なプロセスから逸脱している取引を特定します

例えば次のような指標を評価分析します 注文なしで処理された請求書の割合 請 求 書 が承 認される前に処 理された支 払いの割 合

など

② 購買プロセスモジュール

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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11PwCrsquos View Vol 23 November 2019

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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12 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

13PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

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16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

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17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

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18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

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19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

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20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

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22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

言語を選択する

ご希望の連絡先メールアドレスと認証番号を 入力する

日本語

メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

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26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

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27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

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30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 12: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

(イ)パターン分析機械学習を使用して同じ行動パターンを示す従業員の給与コードや経費利用情報をクラスタリングします

例えば以下のような取引を評価して特定します 雇用契約に対するコンプライアンスをチェック(同じタイ

プの業務を実行する従業員に対する給与コードの誤った適用)

将来の人材計画を資する人材層の現状など

(ロ)人事給与レポーティングFPA内の用意されたレポートにより企業は従業員をよりよく理解できます

例えばサマライズされた情報を使用して以下を識別します 性別の多様性と潜在的な性別賃金格差の問題 潜在的な不正または従業員満足度の問題に影響を及ぼ

す可能性のある通例ではない残業パターン どの場所部門チームが最高の基本給時間外勤務

インセンティブを受けているかなど

(ハ)コンプライアンスのレポーティング主要な給与要素に対して分析を実行してさらなる調査が必要なコンプライアンスの問題を引き起こしている可能性のある通例ではないパターンまたは傾向を特定します

例えば以下のような診断を評価します 支払不足を示唆する給与明細に適用された年金率 不正確な給与明細処理を示唆する税率割合など

(ニ)疑わしい取引FPA 内にあらかじめ用意された標準的なテストを使用してさらなる調査が必要なトランザクションを強調表示してリスクを軽減し企業標準へのコンプライアンスを維持します

標準的なテストは画面右側に一覧として表示されます テストでは例えば次のような取引を特定します EFT(電子銀行取引)の銀行口座と従業員マスターの

銀行口座の不一致 週末などの休業日に処理される給与明細など

③ 人事給与モジュール

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

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12 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

13PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

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全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

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リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

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Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

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2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

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内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

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22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

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出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

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たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

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とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

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26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

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『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

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コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 13: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

3 おわりに

企業のグローバル化DXが今後もますます加速していく中で多種多様な地域ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは持続的な価値創造を実現する上で不可欠ですFPAには引き続きマシンラーニング機能を含めさまざまな機能利便性を追求予定です私たちは経営者はもとより実務を担われている皆さまと一緒に高速で PDCAをまわし試行錯誤しながらディフェンスライン共通でより使いやすくより便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて精進してまいります

下記 WebページではFinancial Processes Analyser(FPA)を動画で解説していますあわせてご参照ください

Financial Processes Analyser(ldquoFPArdquo)

httpswwwpwccom jp jaser vicesassurancefinancial-processes-analyserhtml

今村 峰生 (いまむら みねお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人勤務を経て2012年8月にPwCあらた有限責任監査法人に入所財務諸表監査内部統制監査システム監査IPO支援の経験を有するデータ分析を活用したリスク管理の高度化内部監査や不正調査再発防止支援等に多数従事CAATをはじめとするデータ分析のエキスパートでありPwCのFPA(Financial Processes Analyser)コアチームメンバー公認会計士公認不正検査士システム監査技術者メールアドレスmineoimamurapwccom

久禮 由敬 (くれ よしゆき ) 

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門およびステークホルダーエンゲージメントオフィス担当 パートナー経営コンサルティング会社を経て現職財務諸表監査内部統制監査コーポレートガバナンスの強化支援グローバル内部監査経営監査支援CAATによるデータ監査支援不正調査支援サステナビリティESGSDGsおよび統合報告をはじめとするコーポレートレポーティングに関する調査助言などに幅広く従事『経営監査へのアプローチ ~企業価値向上のための総合的内部監査 10の視点~』ほか執筆講演多数PwC Japan アシュアランスにおけるデータアナリティクスリーダーメールアドレスyoshiyukikurepwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

13PwCrsquos View Vol 23 November 2019

デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

emspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemsp

emspemspemspemspemspemspemspemspemsp

高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

言語を選択する

ご希望の連絡先メールアドレスと認証番号を 入力する

日本語

メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

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会計監査

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ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

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会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

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きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

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河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

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れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

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占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

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おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 14: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタルトラストサービスプラットフォームを活用した 社会的信頼の創出

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部ディレクター 皆本 祥男

はじめに デジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域においてクライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤

(インフラ)ですデジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容していますまたPwCサービスにデジタル技術を導入することによっていわば「信頼の空白域(トラストベイカンシー)」を新たに発見しそこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することでコスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています 本稿では社会が必要とするトラストサービスを提供するためにそもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考えこれに PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられますこのためIDパスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できますまたPLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなくその子会社関係会社外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できますそれぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント経理内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます

PLATには情報処理作業(収集分類整理計算保存報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっていますしかしながら PLATの「機能」とその利用によって担保される信頼すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールと

図表 1デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)の概念

お客様(親会社経営企画部)

弁護士 公認会計士監査法人

弁理士法人

お客様(親会社法務コンプライアンス部)

お客様(親会社内部監査部)

お客様(子会社製造部)

お客様(子会社内部監査部)

取引先(プロジェクト参加企業)

省庁自治体等

<外部利害関係者><規制監査当局>

<ユーザー企業様>

<プロフェッショナルサービスの提供者>

PLAT

PwC(構築運用支援)

クラウドサービス

プロジェクト資金管理

内部通報コンプラ調査

内部監査リスクアセスメント

外部サプライヤー調査

その他のテーマ

セキュリティが確保された領域で限られたメンバーが秘匿性の高い情報を安心して取り扱うことができる環境(バーチャルトラストプラットフォーム)

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

14 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

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17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

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18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

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19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

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20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

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22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

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内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

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27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

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30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 15: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

しての活用」に焦点を当てどのように信頼を担保して社会に価値を還元できるかについて詳述します

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1) 現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年 6 月 21 日)では技術デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには科学技術を戦略的に活用しその成果を社会に還元していく必要がありますそれには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て大きくしていくことが重要です

私たちは企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え政府自治体などに対する豊富な支援実績を有しています技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります例えば省庁ごとに異なる経理処理ルール記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ研究者自らが経費執行管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的効果的に活用する際の大きな障害となっています

これらの課題に適切に対処するためには研究支援の専門人材を確保することが必要ですしかしながら長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状ですこのため研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として私たちは PLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装しまた資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供していますそして会計および検査の専門家として PLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより研究者は煩雑なタスクから解放され

ます

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません研究者は PLATによりこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ成果を生み出すことに注力できるようになりますまたプロフェッショナルの支援を適宜受けることによって会計や関連規制に係るリスクを低減し予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り価値ある研究を長く継続できるようになるのです

また資金拠出者である関連省庁の立場ではまったく違うPLATの価値が存在します昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られていますこのため限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し透明性が担保されている必要がありますPLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで研究活動における財務の状況が正確に表現され会計経理が予算や法律政令等に従って適正に処理されることが担保されますゆえに税金を財源とする研究資金が正しくムダなく有効に使われていることの証明が容易になるでしょう

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず日本の技術研究が活性化しその成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです

これはまさしく信頼の空白域に対し新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoTビッグデータAI時代の到来によりビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展していますその中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は膨大で複雑なデータの中にあるといえますこれらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためにはまず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し変換出力する作業(ETLExtractTransformLoadの略称)が必要ですPLATにETLツールを組み込むことで効率的なデータ分析作業が可能になります

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

15PwCrsquos View Vol 23 November 2019

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

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20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

emspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemsp

emspemspemspemspemspemspemspemspemsp

高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

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21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

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22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

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24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

言語を選択する

ご希望の連絡先メールアドレスと認証番号を 入力する

日本語

メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

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26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

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27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

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会計監査

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ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

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会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

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きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

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河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

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れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

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占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

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おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

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emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

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アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

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韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 16: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

① システムが多様化し効率的なデータ抽出が難しい② 抽出したデータの整形変換作業に時間を要する

前述のとおり多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで新しい知見を獲得し可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です

しかし組織内ではさまざまなシステムが利用されているためデータ分析の対象となるデータは分散して保管されていますそのためまずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから効率的にデータを抽出できるデータの抽出方法はシステムごとに異なることからこれ

を手作業で行うことは効率的ではありませんまたデータソースの側に仕様変更があれば抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました

ここに ETL機能を導入することで従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し大幅に効率化できます データの分析や活用に資源を投下し技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります

抽出したデータを整形変換して表示できる複数のシステムから抽出したデータはそのまま分析対象

とすることはできません不要なデータを特定の条件に従って削除する欠落しているデータを補完するなどの一連の

「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます

上述の変換作業に人手が介在すると人為的なミスを誘発しデータ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります

しかしこの変換作業に ETL機能を導入することで作業を自動化し人為的ミスを排除することができ加工データの品質を大幅に向上させることができるのです

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用イノベーションの創出」を喚起し国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには政策部門がエビデンスベースの政策意思決定(Evidence Based Policy MakingEBPM)を推進することが重要です

しかしエビデンスの収集や分析を人力で行うことは前述のとおり実現困難です今後効果的効率的な EBPMを

広く導入するためにはデジタル技術の活用が不可欠でありETL機能を備えた PLATは一つの有力なツールといえるでしょう機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し匿名化して政策意思決定に活用することでこれまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます

このように PLATを介して分野を超えたデータや知識がつながり社会に大きな革新がもたらされ豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラストサービスプロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう

4 おわりに

以上適切なトラストサービスを社会に提供するためにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しましたPLATはさらに今後ビッグデータへの対応や AI化データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です

皆本 祥男 (みなもと さちお )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 RDA事業開発部 ディレクター投資ファンド及び不動産運用会社等を中心とした資産運用会社の会計監査業務に従事した経験を有するほか公的研究費に係る適正執行のためのモニタリング業務にも多数従事した経験を有するPLAT開発プロジェクトにおけるプロダクトマネージャーを務めている共著に『経営監査へのアプローチ企業価値向上のための総合的内部監査10の視点』(清文社)がある公認会計士公認不正検査士メールアドレスsachiominamotopwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

16 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

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20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

emspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemsp

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

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21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

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22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

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24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

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26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

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30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

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参加者が築く外部委託のトラスト―デジタルトラストサービスプラットフォームで共有する委託情報

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部パートナー 辻田 弘志

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部マネージャー 加藤 美保子

はじめに 企業活動において企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ業務を効率化しまた専門性を活用していますこのような事業活動における第三者は多岐にわたりますサプライヤー販売会社ITサービスプロバイダーバックオフィス業務の委託先専門領域のサービス提供者などさまざまな第三者との取引が行われています近年では特にイノベーションを加速するための業務提携専門性の活用も盛んですこのように外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう 第三者を活用することにはメリットもありますがリスクもあります業務統合が進むと「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが個別の取引と認識されることは少なく全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされますその結果主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます実際に米国海 外 腐 敗 行 為 防 止 法( F C P A )や 英 国 贈 収 賄 防 止 法

(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています 本稿では委託元委託先の双方にとってメリットとなり得るデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します なお文中の意見に係る部分は筆者たちの私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1外部委託先管理におけるデジタルプラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため多くの企業では取引の契約締結前に事前調査を行っています最も単純な方法として例えばデータベースを検索したりインターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしていますさらに質問票を用いてコンプライアンスの実践状況政府関係者や政府機関との関係第二階層の第三者の利用情報セキュリティに関する管理状況CSRについての取り組み等の情報も収集していますさらにより確実な取引先の情報を得るために実地調査を実施するケースもあります

このように第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素ですしかしある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり同じような質問票の回答を求めたりすることはあまり効率的ではないとも言えます取引先との関係を正しく理解しリスクに応じた調査を行うことを通して特に注意が必要な取引先管理項目により多くの注意を払うべきです委託先にとっても取引の度に各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょうPLATの活用により委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで委託元委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合新たに調べる必要がないことまた既に他社での取引実績が公開されている場合は調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点がありますさらに取引開始前に限らず委託先の情報が更新されれば取引先の状況の変化を監視することにもつながります委託先にとってのメリットは自社の管理状況取り組み状況を一度登録しておけば新しい取引先との業務を開始する都度必ずしも

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17PwCrsquos View Vol 23 November 2019

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

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18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

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20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

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21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

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22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

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内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

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占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

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おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 18: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

全ての質問票項目を提出せずに済む点があります

2外部委託先管理のデジタルプラットフォームが築くトラスト

図表 1のプラットフォームの例では各委託先企業が登録する情報は自己申告による情報がベースとなりますこれらは一般的に公開している情報を中心に各法人の基本情報(名称所在地設立年月日代表者氏名など)財務情報(直近の主要経営指標など)事業内容などを含む

「基本項目」に加え各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス情報セキュリティなどのリスク管理CSRなど)が含まれます委託元が開示しても良いという範囲で取引実績についての概要を開示することも可能です一方各委託業務についての管理情報

(委託する業務内容リスク判断など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し各委託元だけが管理参照することができますまた個別調査実地調査が必要と判断した場

辻田 弘志 (つじた ひろし )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 パートナー大手都市銀行を経て現職ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部においてグループグローバルの視点でのガバナンスリスク管理コンプライアンス内部監査についての高度化支援サービスを提供クライアントは大手金融機関製薬会社総合電機を中心にその他サービス会社政府機関など幅広いリスク管理コンプライアンスの高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスhiroshitsujitapwccom

加藤 美保子 (かとう みほこ )

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンスリスクコンプライアンスアドバイザリー部 マネージャー大手金融機関製薬会社を中心にコンプライアンス内部監査リスクガバナンス全社リスク管理に関する高度化支援各種アドバイザリー業務に従事している高度化の一環としてデータを活用したアナリティクスサービス「アドバンストリスクアンドコンプライアンス アナリティクス(ARCA)」の提供も行っているメールアドレスmihokokatopwccom

合独自に実施した調査結果は実施した委託元だけで管理することが基本となります

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は法的契約によって発生する取引関係において必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にありますデジタルの活用により委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したりデータ連携を行ったり自社と他社との距離感はますます近づいているといえます外部委託先管理のようなプラットフォームにはさらに直接取引関係にはないものの同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有協働を可能にしますそれぞれが情報の出し手となり同時に利用者となることでプラットフォームは価値を発揮します外部委託先管理のデジタルプラットフォームでは委託先企業は自社が信用に足る取引先であることを自己申告し委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで11や 1Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます

図表 1PwCの考える外部委託管理プラットフォーム例

PwC

発注元企業 ベンダー

個別調査依頼 個別調査実施

閲覧 ベンダー情報DB

プラットフォーム提供

調査情報の反映

自社情報提出

現場負荷の低減 チェック対象情報の一元化 関連証憑の一括入手

より高い更新頻度による ベンダー情報の利用

発注元からの個別的な問合せ対応 (都度資料提出)の負担軽減

潜在的な優良顧客への宣伝

閲覧情報に基づき自社内チェック実施

提出情報の様式準拠性確認

金融機関に対する外部委託チェック実務についての聴き取りでは過去に発注実績のあるベンダーへの発注について委託先チェックに際して直近 1年以内に入手した情報証憑の再利用を認めているケースがあった本スキームではベンダー自身に情報更新のインセンティブが考えられることや個別調査による情報更新により1年未満での情報更新がなされる可能性が高いことから直近 1年以内での入手情報の利用との比較において更新頻度が高まることが期待できる

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

18 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

emspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemsp

emspemspemspemspemspemspemspemspemsp

高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

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27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

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30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 19: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

リスクとデジタルトラストサービスプラットフォーム―企業リスクや内部統制の可視化

PwCあらた有限責任監査法人 リスクデジタルアシュアランス部門パートナー 高木 和人

はじめに 海外子会社での会計不祥事コンプライアンス違反多額の減損損失や品質問題等が多発したこともあり企業のリスク管理体制に対する投資家の注目が高まっています一方でリスク管理の強化に必要なグローバル人材の確保が難しくリスク情報の収集や内部統制の評価が十分でない会社が数多く見受けられますそこでPwC Japanグループが開発したデジタルトラストサービスプラットフォーム

(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用することにより比較的少ない本社リソースにより全社のリスクや内 部 統 制 の 状 況 を可 視 化 する R i s k C o n t r o l S e l f -Assessment (RCSA)の事例をご紹介しますこの PLATは比較的容量の大きいデータのやり取りをセキュアな環境で提供するクラウド型のプラットフォームです証憑の添付機能やチャット機能を備えているためリスクや内部統制の有効性の評価を世界中の拠点と双方向のコミュニケーションにより行うことができますこの PLAT上に PwCのノウハウを搭載することでRCSAリスクカルチャー分析およびグローバル内部監査などの効率的な実施が可能となります なお文中の意見に係る部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことあらかじめご理解いただきたくお願いします

1 Risk Control Self-Assessment(RCSA)

リスクの評価

リスクが顕在化した場合に企業のコアバリューを大きく棄損する重大経営リスクが明確になるようにリスク評価項目を設定します拠点の自己評価で重大な経営リスクが識別されるためにはリスクの発生可能性やリスクが顕在化した場合の影響度をビジネスの実態に合った明確な評価基準として設定することが重要となりますリスク評価者の主観によるバラツキをなくすためにビジネスに即した定量基準や判断しやすい定性的基準の設定が重要であり本社の事業部やコーポレート部門と議論の上で進めますその際にはPwCの標準版の RCSAを参考に企業の実態に合わせてカスタマイズすることで効率的に進めます

リスクに対する内部統制の評価

次に評価された重大経営リスクに対する内部統制の状況を確認するために下記の ExCUSMEフレームワークの項目ごとに自己評価の基準を設定しますその際には自社のグロ ーバル ポリシー に基 づくSta n d a r d O p e ra t i n g Procedure (SOP)の実在性やその展開の状況(伝達)など自社が整備運用している内部統制の状況が明確になるように評価基準を設定します

Existence(実在性)関連するリスクに対応するプロセスまたはプログラムが存在しているか

Communication(伝達)プロセスまたはプログラムの存在が関係者に周知されているか

Understanding(理解)プロセスまたはプログラムが有効であるために関係者によって理解されているか

Support(支援)プロセスまたはプログラムが有効に運用されるためにそれが支援されているか

Monitoring(モニタリング)プロセスまたはプログラムの品質を検証するためにそれが監視されているか

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

19PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

emspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemsp

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

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27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

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30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

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PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 20: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

Enforcement(徹底)プロセスまたはプログラムが有効であるためにそれが経営者によって徹底されているか

またリスク評価と同様にリスク評価者の主観によるバラツキをなくすように注意することが必要ですしかし拠点が回答に迷った場合は各評価項目の隣にあるチャット機能を活用することで英語が話せない担当者も文字による双方向のコミュニケーションが可能ですまた自己評価に対する根拠資料を検証するために証憑添付機能を活用することで実際に各拠点の SOPや証憑を本社で確認しますまた重大経営リスクとそれに対応する内部統制の識別漏れがないように自由記載欄も設定されます

RCSAの各拠点への展開

本社のリスク管理部門は実態と異なる回答が行われないように事前の環境テストに併せて各拠点への事前説明や配布するガイドラインを充実させます子会社の営業法務人事IT等の各部門担当者が職責に関連するリスクと

内部統制に対してのみ評価が行えるように担当者ごとにIDとパスワードを配信します各担当者の 1 次回答の結果に対してCFO等の責任者が全体を通して最終承認をPLAT上で実施した後に本社へ送信されます

成果物

回答はデータで回収されBIツールと併せて活用することで拠点別のリスクマップが自動的に作成されます(図表)特に残余リスクが高い項目については全社レベルで一覧化することで優先的に対応すべき課題を可視化しますその際ExCUSMEの回答結果から課題の分析を行い本社地域統括現地拠点の各コーポレート部門が連携することで改善に向けた責任者を明確にしリスク管理体制の高度化に向けた取り組みの指導や支援を行います

以上のようにPLATを活用して RCSAを展開することにより比較的少ない本社リソースで全社のリスクや内部統制の状況が可視化されExCUSMEと組み合わせることで対応が必要な課題を効率的に整理することが可能となります

図表デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿における「PLAT」)を用いたリスク情報の収集とリスクの可視化

リスクおよびコントロール(リスクに対する統制)の評価基準を設定しPLATのアンケート機能を活用して各拠点からリスク情報を収集

アンケート結果をPLATからCVS出力後BIツールを活用することでリスクを可視化

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

20 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

emspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemspemsp

emspemspemspemspemspemspemspemspemsp

高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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職場環境を害する行為(パワハラ等)

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法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

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河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

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占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

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PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 21: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

2 その他のPLAT活用事例

リスクカルチャー分析

リスク管理体制の高度化のためにプロセスを整備して文書化を進めたとしても実際にプロセスが機能するためには従業員に周知され理解されることが必要ですそしてプロセスが運用されるためには各従業員の行動に影響を与えるリスクカルチャーの醸 成 が重 要となりますそこでRCSAの調査に加えて部門別のリスクカルチャーを調査することで各部門と経営層が期待するリスク選好のギャップを洗い出すことが可能となりますまた管理者と被管理者の回答結果のギャップから問題となる部門の識別も行われます特に問題が検出された部門に対しては研修の実施や会社の期待するリスクカルチャーを浸透させるために人材交流を進める等の対応策が実施されます

グローバル内部監査

海外拠点数が増える一方で日本の内部監査チームが年間に往査できる件数はリソースや出張予算を考慮すると限られているため仮に全拠点の往査をするとなると10 年以上必要となることがありますそこでPLATを活用して内部監査のプログラムをグローバルに展開しチャット機能や証憑添付機能を活用することで遠隔地の監査を本社にて実施することが可能となります海外子会社の内部監査は重要拠点や重大経営リスクをPLATで識別した拠点を優先させることで効率的かつ効果的にグローバル全体をカバーした監査手続の実施が可能となります

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高木 和人 (たかぎ かずと )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナーemspemsp2000年公認会計士登録監査法人および事業会社の国内外にて勤務事業会社では国際税務経営計画グローバル内部監査を担当海外親会社と海外子会社の2度の欧州短期駐在経験監査法人では香港駐在を含めた会計監査および内部統制評価を担当現在はこれまでの監査法人と事業会社での勤務経験を活かし国内外の企業に対する内部監査助言業務ガバナンスリスクコンプライアンス態勢の高度化支援などを担当 メールアドレスkazutotakagipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

21PwCrsquos View Vol 23 November 2019

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

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メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 22: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

内部通報制度におけるデジタルトラストサービスプラットフォームの利活用PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部パートナー 本多 守

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門RDA事業開発部マネージャー 南 倫央

はじめに 近年ステークホルダーへの説明責任を果たす上で不正事案の識別とその対応(いわゆる危機対応)は非常に重要なテーマとなっています危機対応を誤ると企業の信頼レベルは著しく下落し信頼回復までに要する時間が長期化する可能性があります(図表1) 究極的には不正を完全に抑止することができれば危機対応そのものが不要となりますが企業には数多くの人員が在籍しており完全な撲滅は事実上不可能と言わざるを得ません内部統制の整備および運用による防止策を講じることで一定の効果を得ることはできますがそれでも内部統制の隙間から発生する不正事案や経営者による内部統制の無効化などによる不正事案が発生してしまう可能性があります そうすると次に重要となるのはいかに不正事案を早期に識別し企業が自浄機能を発揮し信頼回復に要するコストを下げるのかということになります

図表 1不正事案発生時における企業の信頼レベル 図表 2不正事案の発覚の端緒

企業の信頼レベル

時間

二次目標レベル(当初レベルを超える)

当初レベル一次目標レベル

(外部利害関係者の許容下限)

モニタリング 危機対応 信頼回復

不正事案検出

企業の信頼レベルの下落の度合いは不正事案の内容及び検出の経緯によって異なる下落の度合いによって一次目標 レベルに達するまでの時間も異なる 0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

その他

自白

IT統制

法務執行機関からの通知

監視監督

外部監査

書類の精査

勘定の照合

偶然

マネジメントレビュー

内部監査

内部通報

出典 Association of Certified Fraud Examiners 2018 『2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書』より引用

 そのために重要となるのが内部通報制度の活用ですそれは不正事案の発覚の端緒として内部通報が最たるものだからです(図表2) しかし不正事案の発覚の端緒となる内部通報制度ですが消費者庁による『平成 28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書』(以下「平成 28年度消費者庁調査」)にて実際の活用状況を見てみると内部通報制度の現状と課題が見えてきます 本稿では現状の内部通報制度が抱える問題点を検討しデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)の利活用がその解決にあたっていかに有用かを検討します なお本稿において意見にあたる部分は筆者の私見でありPwC JapanグループPwCあらた有限責任監査法人の正式見解ではないことをあらかじめお断りします

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

22 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

言語を選択する

ご希望の連絡先メールアドレスと認証番号を 入力する

日本語

メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

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26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

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会計監査

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ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

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会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

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きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

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河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

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『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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1 内部通報の現状と課題

(1) 内部通報の現状

平成 28 年度消費者庁調査より従業員が 300 人を超える企業における内部通報制度の導入運用状況の調査結果を抜粋一部統合したところ従業員が 300 人を超える企業のほとんどは内部通報制度を導入済みであることが分かります(図表3)

しかし制度が導入されていたとしても制度が機能していなければ意味がありません実際の運用実績を見てみると301 人~1000 人規模の会社で 4 割強の会社が通報件数がゼロ件と回答していますまた3000 人超というたくさんの人が集まる企業においても10 件以下という回答が 4割弱を占めています人数規模に比して通報案件が少ないことが分かります(図表4)

通報内容もハラスメントに関する事案や人間関係などの悩みに関するものがほとんどでありガバナンスやコンプ

ライアンスに関するイシューに該当するような通報の件数は少ないと言えるでしょう(図表5)

(2) 内部通報の課題

上記の運用状況に関する調査結果は不正がほとんどないガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるということを意味する可能性ももちろんありますが内部通報制度が有効に機能していないということを意味する可能性もあります

平成 28 年度消費者庁調査では内部通報制度における課題や負担についても回答を集計しています当該集計結果を筆者独自の観点で並び替えたところ(図表 6)ガバナンスやコンプライアンス遵守に優れた企業がたくさんあるとは言いがたい状況が見えてきます

図表 6の一つ目から三つ目の項目は通報者の保護匿名性の確保に関する課題ですまたその他の中には通報したところでもみ消されてしまうのではという懸念も見受けられましたここに課題がある状況下では内部通報をし

図表 5内部通報の内容 図表 6運用上の課題や実務上の負担

図表 3内部通報制度の導入状況

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

導入済み  検討中  導入予定なし  その他

0 20 30 5010 40 60

職場環境を害する行為(パワハラセクハラ等)

不正とまでは言えない悩み等の相談(人間関係等)

会社のルールに違反する行為(就業規則違反等)

労働基準法等の労務上の法令違反(残業代の未払等)

その他の不正行為

その他の法令違反

その他

窓口設置以来通報はない

0 10 20 30 40 50

その他

特になし

人手不足

制度の周知徹底が進まない

担当者の事務負担が大きい

通報というより不満や悩みの窓口となっている

通報者の個人情報の保護が難しい

社内風土から通報への心理的な圧迫感があるように感じる

本当に保護されるのか従業員に不安があるように感じる

図表 4内部通報件数

0 20 40 60 80 100

301人~1000人

1001人~3000人

3000人超

0件  1件~10件  11件~50件  51件超  その他

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

出典 消費者庁2017『平成 28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査』を基にPwC作成

23PwCrsquos View Vol 23 November 2019

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

言語を選択する

ご希望の連絡先メールアドレスと認証番号を 入力する

日本語

メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

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26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

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27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

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29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

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30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

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きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

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河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 24: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

たいと思っているものの躊躇している人(以下「潜在的内部通報者」)は監督官庁メディアあるいは SNSといった外部への告発に踏み切るリスクがあります

四つ目から七つ目の項目は制度の設計そのものに課題があると言えるでしょう

2 内部通報という局面におけるPLATの特性

(1) 完全にセキュアな環境

PLATはクラウドを利用した SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ですPLATを導入すればクラウドのインフラストラクチャレイヤにおけるセキュリティサービス(物理セキュリティネットワークセキュリティ仮想化セキュリティ管理者権限管理認定認証評価)を利用することで下記を実現できデータをセキュアに管理することができます 通報者の完全な匿名性の確保 会社から隔離された第三者によるシステム運用 会社の組織構造に合わせたアクセス権限付与 ユーザーアカウントの適時適切な管理(定期的なアカウン

ト棚卸のアラートの設定)

(2) リアルタイムコミュニケーション

PLATを導入すれば情報伝達の迅速化が実現するためコミュニケーション面において以下のような効果を期待できます

365日24時間対応が可能 通報があった際にメールSMSなどで通知可能 (定期的なログインによる確認は不要) 匿名性を維持したまま通報者とコミュニケーションが可能(通報コード発行)その後に記名式の通報に変更すること

も可能 多言語での対応が可能 内部通報者と継続したやり取りが可能 システムに参加する関係者とリアルタイムで情報共有が可

能(チャット形式によるコミュニケーション) トップページにステータスを表示させることが可能(チャッ

トへの返信通報内容の確認対応完了済みなどの状況) 内部通報に関連するエビデンスの添付が可能(エビデンス

はファイルフォルダに一元的に格納され通報案件ごとにエビデンスをまとめて閲覧可能)

サーベイを利用した関係者へのインタビューが容易 サーベイ作成の自由度が高く質問形式のテンプレート(ラ

ジオボタンドロップダウンなど)を作成することでサーベイ作成の知識がない担当者でも直感的にサーベイを作成することが可能

(3) 信頼性の高い調査結果および回答

PLATではオンライン上でのチャットによる調査やエビデンスの添付も容易ですまた関係部署に回答を依頼する場合も担当者の回答に対する上席者の承認機能を追加することで責任関係を明確化した信頼性の高い回答を得るこ

図表 7コミュニケーションラインの設定

リスクコンプライアンス コミュニケーション体系図(イメージ)

経営トップ

<通常のコミュニケーションライン> <ガバナンスライン>

通報窓口

社外取締役監査役

経営幹部(役員)

報告連絡相談 情報提供(アンケート回答)

情報提供(アンケート回答)

相互コミュニケーション(ワークショップ等)

子会社サプライチェーン等

従業員

内部通報制度

サーベイ機能 内部通報機能

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

24 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

言語を選択する

ご希望の連絡先メールアドレスと認証番号を 入力する

日本語

メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

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25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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とができます

(4) 機能に応じたコミュニケーションラインの設定

PLATでは組織構造に合わせて仕様を変更することが容易であり個社ごとに管理しやすいようにフォームを設計することができます

そのため企業内のリスクコンプライアンスに関するコミュニケーションを通常のコミュニケーションラインとガバナンスラインに分けることができますそして前者にサーベイ機能を後者に内部通報機能を持たせることで内部通報機能の有用性を向上させることができます(図表7)

さらに通常のサーベイと同一のツールを利用することでユーザーエクスペリエンスを高め利用しやすい環境を用意することができ内部通報制度の利用を促進できることも期待できます

3 PLAT活用のメリットと留意点

(1)PLAT活用のメリット

潜在的内部通報者の減少PLATではセキュアな環境下で匿名性を確保したコ

ミュニケーションが可能ですそのため図表6(P23)で掲げ

られている一つ目から三つ目にかけての課題(通報者保護内 部 通 報 が困 難 な風 土個 人 情 報の保 護)についてはPLATを利用することで解消することが期待できます

制度の設計の改善PLATは設計の自由度が高いことから管理運用面に

おける改善が期待できます(図表8)通報チャネルを一つに統合しそこから複数の窓口へと展

開させることで例えば直接不正に関係ない事案と不正事案とを振り分けることができますまた揉み消しなどへの不安がある潜在的内部通報者は直接社外の弁護士へとコンタクトを取ることができ不安を解消することも可能です

AIを利用した翻訳サービスを組み合わせることも可能であり多言語に対応した表示が可能となり海外にも展開するグループ企業においても本社での一元管理が可能となります

メールなどの管理を誤り情報を漏洩してしまった場合内部通報者が潜在的内部告発者になってしまうリスクがあります対応状況などの管理シートを手元で作成するのも管理工数がかかり負担が大きくまた人の手を介することによる管理ミスのリスクもありますこの点PLATを利用すればステータス管理はダッシュボード機能でカバーできさらにアラート機能などでのリマインドも可能であり工数

図表 8PLATを活用した内部通報の例

内部通報(匿名) 〇〇〇〇グループ プライバシーポリシー 利用規約 ユーザ編集 ログアウト Topへ戻る フィードバック

言語を選択する

ご希望の連絡先メールアドレスと認証番号を 入力する

日本語

メールアドレス

リスク区分を選択する(複数選択可)

職場環境を害する行為(パワハラ等)

通報先を選択する

法律事務所AAA弁護士

会社のルール違反(就業規則違反等)

労務上の法令違反(残業代の未払い等)

不適切な会計(粉飾決算架空売り上げ等)

競争法違反(カルテル入札談合等)

腐敗防止法違反(外国公務員贈収賄等)

マネロン(麻薬取引組織的犯罪テロ資金供与犯罪収益移転等への関与)

認証番号

内部通報の新しいスレッド

相談者5508 Aug 15 2018 1037

私の上司のXXは2018年3月インドネシアにおける政治家が主催する私的パーティーに出席しましたがその際添付画像のとおりギフトと選挙協力金として現金10百万円を渡しましたこれはFCPAに抵触する可能性があると思いますがどうすれば宜しいですか

   AAA弁護士(JP 法律事務所) Aug 15 2018 1137

5508さんこんにちは 弁護士のAAAと申します 海外腐敗行為防止法(FCPA)によれば

相談者5508 Aug 16 2018 937

AAA先生ご連絡ありがとうございます問題解決いたしました

JPG

返信

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

25PwCrsquos View Vol 23 November 2019

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

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28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

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30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 26: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

負担を減少させつつリスクも低減できますまたチャット機能の活用によるタイムリーコミュニケーションが可能であり利用者の満足度も高まることが期待されます

(2)留意点

一方で以下に掲げる課題はPLATの導入そのものが解決になるものではありませんそのため解決のための工夫が必要といえます 内部通報制度そのものの認知度の向上 初回アクセスへの心理的ハードルの軽減

PLATでは図表 7(P24)に記載のように内部通報機能だけでなくサーベイ機能などの機能を持たせることも可能です定期的に実施する各種サーベイについてPLATを用いることによりPLATそのものへのアクセス経験を増加させユーザーに「見覚えがある」という印象を植え付けていくことは一つの解決案になり得るのではないでしょうか実際に PLATにアクセスさせるという経験を通じることで制度そのものへの認知度を高めまた内部通報制度への初回アクセスの心理的ハードルの高さを取り除く効果を期待することができます

4 おわりに

テクノロジーツールの活用は一見するとハードルが高く思われがちですが昨今ではツールも多様化され大きく進化しておりさらに導入コストもかつてに比べれば低減されつつあります

安定して運用できるようになれば従業員のリスク管理やコンプライアンス活動の工数削減に大きく寄与し生産性の向上や働き方改革の推進への一助となることが期待されます

種々の改善活動の結果従業員による認知度が高まり内部通報制度が頻繁に活用されるようになれば不正事案等にかかる信頼回復コストも大幅に下げることが期待できます

PLATのようなデジタルツールを活用した企業のガバナンスリスクコンプライアンス態勢のトランスフォーメーションの検討をおすすめします

本多 守 (ほんだ まもる )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 パートナー監査法人に入所後一貫して製造業商社への会計監査および各種アドバイザリー業務に従事現在PwCあらた有限責任監査法人の東京事務所にてグローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や経営管理態勢の強化を支援するアドバイザリー業務を多数提供しているメールアドレスmamoruhondapwccom

南 倫央 (みなみ のりあき )

PwCあらた有限責任監査法人リスクデジタルアシュアランス部門 マネージャー監査法人に入所後会計監査に従事しグローバル企業の現場統括として海外子会社のガバナンスイシューや海外買収案件等に幅広く対応現在グローバル企業の会計監査業務に加えGRC態勢の構築や不正調査業務を始めとする各種アドバイザリー業務にも従事しているメールアドレスnoriakiminamipwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

26 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

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占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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企業に求められる効率的なESG情報開示―デジタルトラストサービスプラットフォームの活用例

PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービスパートナー 田原 英俊

はじめに 2015年 9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む

「持続可能な開発に向けた 2030アジェンダ」が採択されましたまたこのサミットにおいて安倍首相が SDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が ESG投資を推 進する国 際 的 なイニシアティブ国 連 責 任 投 資 原 則

(UNPRI)へ署名したことが発表されましたこれにより日本国内における ESG投資は急速に伸展しておりGlobal Sustainable Investment Allianceが今年 4月に発表した最新の情報によると日本の ESG投資は 2016~2018年の2年間で 307の成長を見せており2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は 183にまで増加しているとのことですそしてその投資判断の礎となる企業の ESG情報開示の重要性がますます高まっています企業の非財務情報開示についてはその開示情報を規定するようなスタンダードフレームワークなどが誕生し企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります加えてESG投資の高まりにより投資家や ESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっていますそこで本稿ではあらためて企業が ESG情報開示をさらに進化させるにあたりデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的な ESG情報の管理について紹介しますなお本稿では非財務情報サステナビリティ情報ESG情報は全て同義として使用していますまた文中の意見にわたる部分は筆者の私見でありPwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします

1 企業に求められるESG情報とは

では企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか企業の非財務情報開示については各国の法規制や ESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますがグローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOである Global Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表 1)が最も多くの企業に利用されていますGRIスタンダードの全体像は図表 1に示すとおりで項目別スタンダードではさまざまな ESG情報についてそれぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています具体的には GRIスタンダード200 番台の「経済」においては経済パフォーマンス地域経済での存在感間接的な経済インパクト調達慣行腐敗防止反競争的行為について300 番台の「環境」にお

Global Sustainable Investment Alliance 2019 Global Sustainable Investment Review 2018

図表 1 GRIスタンダードの概要

基礎

GRI101

一般開示事項

GRI102

経済

GRI200

環境

GRI300

社会

GRI400

マネジメント手法

GRI103

GRIスタンダードを使用するための出発点

組織に関する背景情報の報告

マテリアルな項目に関するマネジメント手法の報告

マテリアルと特定した項目を選択してその開示事項を報告

共通スタンダード

項目別のスタンダード

出典GRI

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

27PwCrsquos View Vol 23 November 2019

いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

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特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

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シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

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ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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いては原材料エネルギー水生物多様性大気への排出排水および廃棄物環境コンプライアンスサプライヤーの環境面のアセスメントについてそして 400 番台の

「社会」においては雇用労使関係労働安全衛生研修と教育ダイバーシティと機会均等非差別結社の自由と団体交渉児童労働強制労働保安慣行先住民族の権利人権アセスメント地域コミュニティサプライヤーの社会面アセスメント公共政策顧客の安全衛生マーケティングとラベリング顧客プライバシー社会経済面のコンプライアンスについてそれぞれの項目において詳細な開示指標が設定されていますそしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています加えてサプライヤーの環境社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えてサプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています

2 PLATを活用したESG情報管理

非財務情報ESG情報の管理とその開示においては取り扱うべき課題の多さに加えて管理すべきバウンダリーの広さが求められるためそれを実施する上で多くの困難が伴いますがPLATの活用によりそれらを効率的に実施することが可能になりますここではESG 情報の管理において特に PLATの活用により実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします

① サプライチェーンマネジメントの ESGチェックリスト管理におけるPLATの活用

ESG 情報開示の要請からグローバル企業に対しては全てのもしくは主要な一次サプライヤーへの SAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められていますそしてもしリスクが検出された場合には ESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています国内においても大企業を中心に自社で独自に作成した ESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われていますしかし多くの場合表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されていますつまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布されその結果はマニュアルで集計されておりこの一連の作業に膨大な工数が割かれていますまたそれらは集計されているもののその結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません

そこで現在の表計算ソフトで作られた ESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することでサプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時にシステム上で一元化された情報となることで集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります

② 海外子会社のESGデータ管理への活用

温 室 効 果 ガス(G H G)排 出 量水 使 用 量 などの環 境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが離職率従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや人財開発のための研修投資費用行動規範違反件数とその内訳人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません一方でESG投資のためのESG情報開示においてはこのようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には簡易で効率的な収集方法が適しておりこのような場面でも PLATは有効に機能するものと考えられます

3 おわりに

本稿では企業の効率的な ESG情報開示における PLATの活用例について概説しました昨今の ESG投資の盛り上がりを受け多くの企業が投資家の要請に応えるべく今まで以上に ESG情報開示の拡充を図っていますそしてこの取り組みを効率的効果的に推進する上でデジタル技術の活用はますます重要になるものと思われます

田原 英俊 (たはら ひでとし )

PwCあらた有限責任監査法人サステナビリティサービス パートナー理学修士(環境政策環境技術)工学修士(土木工学)大手自動車メーカーにて環境戦略立案マネジメント改善情報開示に従事したのち2011年 1月よりPwCにて自動車通信食品エネルギーなど幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案マネジメント改善情報開示格付け支援などのアドバイザリー業務を担当環境省環境コミュニケーション大賞WG委員(現在)メールアドレスhidetoshitaharapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

28 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 29: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

情報収集基盤としてのデジタルトラストサービスプラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

PwCあらた有限責任監査法人 名古屋 製造流通サービス部マネージャー 大山 卓也

はじめに 本特集ではこれまでの稿でデジタルトラストサービスプラットフォーム(以下本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や内部通報制度の利用などに触れてきました 本稿ではPLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し具体的にどのような場面で PLATを活用できるのかについて検討します

1 PLATの利点

企業が定例的定型的に行っている業務の多くで情報のやり取りが発生しますここでは例として情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します通常情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行いますこの情報の流れにおいて情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便社内便経由で行われている場合複数の人手が必要となります手作業による収集情報管理進捗管理ですので業務は煩雑となりますまた人手が介入することでヒューマンエラーが発生するおそれもありますこのような情報収集業務はPLATの導入により改善できる可能性がありますPLATは情報提出依頼者において情報収集の進捗管理や電子メールや郵便社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表 1)また被依頼部署や子会社において

図表 1 デジタルトラストサービスプラットフォーム(本稿では「PLAT」)の活用による情報収集作業の改善イメージ

従来

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

電子メール郵便等

手作業による収集情報管理進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

PLATを活用

A

B

Z

情報提出依頼部署 被依頼部署

PLAT上でのやりとり

PLATによる情報一覧化進捗管理

依頼

依頼

依頼

回答

回答

回答

ABZ

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

29PwCrsquos View Vol 23 November 2019

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 30: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

も過去に提出した情報と合わせ提出履歴管理を行うことができます経営企画部などにおいて予算策定システムを導入し各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられますまた経理部や財務部において連結決算を行うために連結決算システムを導入し子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられますこれらのシステムを導入していない会社において子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他これらを導入している会社においても既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで業務を簡単化できると考えられますそれでは具体的な場面を検討していきましょう

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において予算策定プロセスで各部から売上予算や費用予算を収集する場合や子会社などから予算情報を収集する業務において情報を電子メールなどでやり取りしている場合PLATの活用が検討できます電子メールなどでは情報収集の進捗管理が煩雑になったり収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますがPLATでは情報収集の進捗管理が行える他収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領でPLAT上で管理できるため収集資料の一覧化ができ最新版管理なども簡単化できると考えられます

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にもPLATの活用が検討できますPLATを活用することで子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます

月次報告資料の管理

経営企画部など関係会社を管理統括する部門において子会社などから定性的な営業概況売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても改善が可能です電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合にPLATを活用することで提出資料の一覧管理が可能になります

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において内部監査を行う際に被監査部門や子会社などに対して資料提出依頼を行い

資料の提供を受けることがありますこの場合にもPLATの活用が検討できると考えられますPLATを活用することで被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています経営者による評価のため監査を実施する部門で内部統制のプロセスフローやリスクコントロールマトリックスなどの各部への更新確認や統制評価のための資料の各部からの収集が必要となりますこれらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合PLATの活用が検討できますPLATを活用することで情報収集の進捗管理や資料保管管理を簡単化することができると考えられます

棚卸資料の管理

棚卸において工場サプライヤー外部倉庫などから棚卸のタグコントロールシートの回収や棚卸の完了報告の受け渡しを電子メールなどで行っている場合においてPLATの活用が考えられますPLATを利用することで棚卸の一連の時間軸を工場間サプライヤー間外部倉庫間などで横並びで比較することもできますまた実地棚卸のタグについてもPDF化することでPLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたようにPLATを利用することで従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性がありますこのようなケースに該当しそうな業務を行われている場合にPLATの導入のご検討をおすすめします

大山 卓也 (おおやま たくや )

PwCあらた有限責任監査法人名古屋 製造流通サービス部 マネージャー公認会計士製造業を中心とした日本の上場企業非上場企業の会計監査およびアドバイザリー業務を経験2012年 2月より3年間製造業を営む株式会社に出向2015年の帰任後は主として製造業の会計監査およびアドバイザリー業務を担当メールアドレスtakuyaoyamapwccom

特集デジタルトラストサービスプラットフォームの利活用

30 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

1 httpsjicpaorjpspecialized_field20190712ejchtml2 httpsjicpaorjpspecialized_field20190722bchhtml3 httpswwwfsagojpcpaaobshinsakensakouhyou20190730-220190730-1

html4 httpswwwfsagojpnews30singi20190827html

会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

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emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

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シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

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タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

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47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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監査報告書の透明化第7回 監査上の主要な検討事項(KAM)を 考え始めるPwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部パートナー 廣川 朝海

はじめに 2019年は急に梅雨が明け激しい暑さの夏がやって来ました3月決算の第 1四半期のレボートを提出しお盆休みあるいは夏休みの間に次の課題であるところの KAM(Key Audit Matters監査上の主要な検討事項)に思いを馳せた方もいるのではないでしょうかしかし暑い夏がやって来たと思ったら台風が多く秋かと思ったら暑いままで勉強のペースが乱れます 第 6回でも若干触れましたが2019年 7月以降に公表されているものについて今回は言及したいと思います 日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は7月 12日に公表された会長声明「「監査上の主要な検討事項」の適用に向けて」 1と7月 18日に監査基準委員会研究報告第 6号「監査報告書に係るQampA」2を公表しています  また公認会計士監査審査会(以下「CPAAOB」)が 7月30日に「令和元年版 モニタリングレポート」 3を公表していますがその中で「会計監査に係る最近の動向」の中で「監査報告書の透明化(KAMの導入)」について述べています 2019年 9月 3日に企業会計審議会総会会計部会(第 6回) 4が開催されました監査関係の項目についても議論されました KAMは「当年度の財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう監査上の主要な検討事項は監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(監査基準報告書(以下

「監基報」)701 第7項)」と定義されています また本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします

1 会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」

会長がJICPAの会員である公認会計士に対して発出しているものですA4一枚弱のものですがこれだけ変わってしまうKAMという制度について今までの歴史求められているものが凝縮されて書かれていると私は考えます一義的には JICPAの会員に対しての声明ですが裏返せば会社へのお願いということになりますし両者の協力体制を求める文書であるということになります

まず「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであることについて会社の理解を得ることが重要と考えます」とありますKAMは監査人が従うべき監査基準の新設というところから引き出されるので乱暴な言い方をすれば今までの監査報告書の幅を広げるためのものであり会社には関係がない付き合わなければならなくて面倒であると言う人もいらっしゃるでしょうしかしながら記載されているように本当は会社と監査人との間でもう一度リスクに関するものを共有するということが大切であってそのための監査人と会 社 との 間で認 識 合 わ せが 必 要 となります 金 融 庁 やJICPAから基準や監基報等が多量に公表されますしそして所属する監査法人からは KAMについて勉強しろとガンガン言われますもちろん大きな変革ですから監査人は真摯に取り組んでいる方々が多いと思います会社の方々にもどういうことが起こっているかを背景から説明しKAMを書くことは直接的には監査人の仕事ではあるけれども良い KAMを書くことは結果として会社の誠実さとかリスクアナリシスの確からしさを上げていくことになることを話すことになります

その次に「『監査上の主要な検討事項』を円滑かつ有意義に導入するためには何より個々の監査人が監査上の主要な検討事項の趣旨について十分理解し能動的に取り組むことが肝要です監査における重点項目を外部に説明す

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会計監査

31PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

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会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

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考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

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1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

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占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

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おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

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43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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ることを通じて監査人は自らの監査をあらためて見直す様々な気付きが得られる可能性がありますこの監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が将来の監査の価値に大きく影響するものと考えます」とあります私としてはこの声明の恐ろしい意味はここにあるのではないかと考えます極めて簡単に言うとリスクを考えてそれを評価してそれに合った監査手続をするのが必要とされていますが一番肝心なリスク評価を間違えていたら美しい日本語の作文ができていたとしてもKAMは本質としてゼロ点ですリスクを間違えなく把握しても監査手続が間違っていればやはりKAMは意味なしですもしかしたら会社からの説明や資料が意図的か単なる勘違いかは分かりませんが十分でなくそれを受け入れて監査をしていたとしたらKAMはゼロ点です本当は監査における対応を外部に説明しようがしまいが同じような結論になるべきですKAMを記載するからと言って特別な監査基準が求められているわけではありませんですから今までと同じ議論ややり取りをして仮に後から KAMがおかしいということになったら今までは何だったのだろうか利害関係者一同が思うことになりますKAMは監査人が書くのでまずは監査人は何をしていたのだということになるかもしれませんが場合によっては会社が何か不思議なことをしているということが容易にわかることもあるかもしれません日本においてはKAMはまだ適用前なのでこれから起きるであろうことを自由に想像できるわけですが実際にいろいろあるのは困難を伴うことになりますので「監査人は自らの監査を改めて見直すさまざまな気づきが得られる可能性があります」という言葉の意味をかみしめながら監査人は適用前の年度であっても今一度の見直しをすべきでしょうし会社の方々とも確認の意味を込めて深い議論をすることが望ましいと考えます

こちらの声明についてはこの記事でリンクをひも付けていますが携帯から公認会計士協会の HPを見ていただき

「専門情報を探す」というところで「会長声明」というキーワードを入れて検索するとすぐ出てきます2019年7月12日公表です短い文章なのでぜひ全文を読んでみてくださいどなたでもアクセス可能です

2 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQampA」

PwCrsquos View 第 22 号で説明しましたが非常に詳細なQampAとなっています58 ページもあって読むのは簡単ではありませんまず 3 ページほどの背景を読んでいただき個別業務の質問については目次の中にご自身と関係する

会社にとって必要な事項があるかどうかを見極めそれを読んでくださいもし分からないなら会社の方は担当される監査人の方と議論を始めてください監査人である場合はチーム内で議論するのも大切ですが当法人では私の所属する部門が積極的にサポートすることにしています監査基準も監基報も QampAも平均的な会社を想定して書かれています会社によりケースはいろいろですがそうしないと文書がまとまりません会社は本当はどうなっているのかということを今一度振り返りながら読んでいただけば良いことがあるはずです

3 CPAAOB「令和元年版モニタリングレポート」

2019 年 7 月 30 日に CPAAOBが監査及び会計の専門家だけではなく市場関係者及び一般利用者に対しても監査事務所の状況等について分かりやすい形で情報提供するためにモニタリングレポートを公表していますその中で「IV監査をめぐる環境変化への対応」-「3会計監査に係る最近の動向」の箇所で KAMの導入について触れています内容的は導入の事実や定義等ではありますがCPAAOB がKAMに注目していることが理解できます

4 企業会計審議会総会会計部会(第6回)

2019 年 9 月 3 日に実施されましたが討議内容等は以下のとおりでした

(1) 監査基準等の改訂について

2019年 5月に公開草案が公表された監査基準中間監査基準四半期レビュー基準についてパブリックコメントを踏まえた審議の結果公開草案とほぼ同様の内容で最終化されました

(2) 内部統制基準実施基準の改訂について

2018 年 7 月に公表された監査基準の改訂により財務諸表監査の監査報告書の記載順序(監査意見を冒頭に記載等)の変更監査役等の責任の追加といった変更が行われたため内部統制監査報告書も同様の変更を行うべく内部統制基準実施基準の改訂(公開草案)が提案されました審議の結果公開草案として公表し1カ月間の意見募集がされます

(3) 会計基準を巡る変遷と最近の状況等について

IFRS 任意適用IFRS日本基準の並行開示単体簡素

会計監査

32 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

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きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

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47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 33: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

会計監査

廣川 朝海 (ひろかわ あさみ )

PwCあらた有限責任監査法人メソドロジーテクノロジー部 パートナー 公認会計士国内会社外資系子会社の会計監査アドバイザリー業務に従事2008年9月より2010年 6月まで公認会計士監査審査会に転籍し検査官兼審査検査室長補佐として監査法人の検査等に従事帰任後はリスク管理メソドロジーテクノロジー部長の後クオリティーレビュー部において法人における監査品質の向上対応に従事2019年7月よりメソドロジーテクノロジー部にて主としてKAMの導入サポートを行っている日本公認会計士協会監査保証実務委員会委員長メールアドレスasamihirokawapwccom

化四半期開示の在り方等について委員からさまざまな発言や問題提起がありましたいずれの意見等についても本審議会においては明確な方向性は示されず事務局(金融庁)において整理し今後必要な検討を行っていくことになりました

委員の方からCRUF(Corporate Reporting Usersrsquo Forum)について投資家の知見向上意見発信等のための非常に良いプラットフォームとなっている旨の発言がありましたCRUFは投資家の視点すなわち企業が開示する財務非財務情報の利用者の視点から会計開示の制度や基準の在り方について積極的に意見発信を行い金融資本市場の参加者間の対話をよりいっそう実りあるものとすることを主な目的として日本だけではなく各国でさまざまな活動を行っています(PwCは事務局として世界各国でこの活動を支援しています)投資家アナリストの目線を理解し読み手を具体的に想定しながら企業が情報開示を強化しさらにその開示と一緒に立体的に KAMが受け止められることは非常に意義の大きなことだと考えます投資家アナリストの目線は十人十色でありさまざまな機関投資家や投資家コミュニティが意見発信を行っていますこうした声を幅広く深く傾聴しつつKAMが国内外のステークホルダーの皆さまにとってより実務的で意義の高いものになるよう努めていきたいと思います

2020 年 3 月決算からは監査報告書の形式そのものが変わります監査意見が監査報告書の最後から最初に来ますKAMは早期適用しなければ2020 年 3 月期は関係ないと思っていてももしかしたらあらかじめいろいろ考えなければいけないことがあるかもしれません当法人においてもま ず は 全 体 的 な 勉 強 を し ま しょう と い うこ と で e-learningを受けるようにしていますその後監基報のテストの中にも監査報告書関係の監基報 700 番台の問題を入れています先ほども述べましたようにKAMは会社によって全く違うものになるはずですから全般的なe-learningだけで研修が完璧というわけにはいきませんそれぞれの会社に合わせての個別サポートや実際にどのように KAMを書いていくのかというより細かい研修に入っていくことになります「食欲の秋」ではなくて「勉強の秋」にしないといけません

33PwCrsquos View Vol 23 November 2019

Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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Vision2025PwCあらた有限責任監査法人の挑戦第5回 デジタル化とデータ活用

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)久保田 正崇

はじめに PwCあらた有限責任監査法人は2018年 11月 15日に

「Vision 2025ldquoデジタル社会に信頼を築くリーディングファームrdquo」を発表しましたPwCrsquos View 第 19号では「ビジョンの背景と3つのトラスト」について解説しましたまたVisionを実現していくための 5つを戦略的優先領域として第 20号で

「品質の追求」第 21号で「トラストサービスの拡充」第 22号で「人財の未来への投資」についてご紹介しました今回は 第 4の戦略的優先領域である「デジタル化とデータ活用」について解説します

1「デジタル化とデータ活用」が目指すもの

2025年の世界においては社会のデジタル化がいっそう進展し日々の経済活動の多くがデジタル上あるいはデジタルを経由して行われる結果それらについて膨大なデータが生み出されますPwCの業務も監査業務であれアドバイザリー業務であれ向き合っているクライアントやステークホルダー自体がデジタル化するがゆえにこのデジタル化の波を避けて通ることはできませんそこでこの潮流に流されるのではなくむしろ先頭を切って私たちの業務をデジタル化しそこで生み出されるデータを活用することによって社会にトラストを生み出す基盤を作っていきます2025 年にはいわゆる定型的反復的で判断を要しない業務の多くはデジタル化自動化されていることによりプロフェッショナルはより高度な判断を要する業務やコミュニケーションなど付加価値の高い業務に専念する一方で時間を効率的に使い場所の制約も低くなることでワークライフバランスを向上させた新しい働き方を実現できるように改革を進めます

2 2025年のデジタル社会

まず前提としての2025年の社会の在り方ですが5Gなどの通信技術の発達やAIの活用領域の拡大により今よりも格段にデジタル化が進んでいると考えられますこの時代においてはクライアントの通常業務自体もデジタル化され現在紙面などで提供されているデータやスプレッドシートなどを使ってやり取りされているデータが全て標準的かつ大容量のデータ(ビッグデータ)になっていると考えられます

この世界においては例えば監査であれば現在のようにクライアントから提供された資料に基づく試査を行うのではなくクライアントのデータを直接クライアントのシステムから入手しそのデータをAIなどを利用して解析して異常値を見つけていくというような手法が一般的になっていくと

会計監査

34 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

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占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

httpsinformpwccom

PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 35: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

考えられますまたアドバイザリー業務においてもクライアントのサポートとしての資料作成などの業務についてはロボットなどにより代行されていくことが考えられますつまりデジタル化が進展することにより従来どうしても自動化ができなかった部分についての障害が除去され急速に自動化が進んでいくことが想定されますそしてその過程においては全ての業務がデジタル上にデータを残しつつ行われることから日々の業務においてさまざまなデータが生み出されることになっていきます

しかしこれらは段階を踏むことなしに成し遂げられるものではありません実現には3つのステップが必要になります

3「デジタル化とデータ活用」の3つのステップ

第 1 段階として業務自体の標準化が必要です現在私たちの業務は監査であれアドバイザリー業務であれ個々のクライアントの状況に最適化することを目的にデザインしている結果定期的反復的な業務であっても実際にはばらばらで多様な実務が存在していますその結果例えば現場の業務をデジタル化したとしてもそこで生み出されるデータは標準化されていないものであることから他のデータと組み合わせた分析はできませんこれはシステム変更があったときに前年同期比のデータをつくるのに苦労した経験がある方ならイメージがしやすいかと思います特に日本企業では部署ごとに最適化活動を行うことが多く結果としてシステムも各部門で使いやすいものをカスタマイズして作った結果社内でも標準化されていないシステムデータとなっていることが多いです監査は企業のデータをまず入手して進めますので日本における監査においてはどうしてもまずこのデータの標準化問題に直面しますこれは時間がかかる作業ですがひとつずつできるところから標準化を進めていくしかないかと思います一方でまずは1カ所に業務を集中した上でそこの業務を標準化していく手法が有効と考えられます

第2段階としてデジタル化が必要ですAIは自己学習するプログラムにすぎませんのでデジタルデータでないと力を発揮できませんサーキットでしか走れないレーシングカーのようなものです従って標準化された業務で生み出されたデータを活用して監査をするように監査業務自体のデジタル化が必要ですこれには被監査会社からデータを入手しそれを現場あるいはシェアードサービスセンターで BIツールなどを用いて自動で加工することが含まれますこのデジタル化にあたっては監査法人側の努力だけでは実現することは不可能で被監査会社のご協力を頂くことが必須と考えていますしかしながら現在技術革新が急激に進みつつあり

会計ソフトシステムについてもクラウドサービスによる提供が主流となりつつあることから被監査会社側のほうでデジタル化については進んでおりこのままではむしろ監査法人が取り残される状況になってしまうのではないかと懸念しています一方でこのデジタル化が実現することによるメリットは巨大ですこれまでの監査で一番時間を要した原因は監査証拠が紙面であることデータであっても加工しにくいことでした(例PDF)分かりやすい例で言えば大型汎用コンピュータから定型で紙に印刷された売上データしか入手することができず売上テストや分析のために膨大な量の紙を印刷しそこから手で一つ一つ取引を拾った上で監査手続をしていたことなどがありますこれらについて基幹システムから直接標準化された形でのデータを入手することができればこれまでのような印刷しそれを手で転記するということに費やされていた膨大な時間を転記ミスもなくした形で瞬時に入手することができます結果として監査の本来の業務であるデータそのものについての検証検討に時間を使うことができますさらにこれらの資料の準備に被監査会社側が費やしていた時間も削減できます

そして第 3 段階としてAIなどによる自動化に進むことができます最近AIの活用事例も増えていますが導入できる業務にむらがあるのは上記のような標準化デジタル化ができているかどうかによる影響を受けているところが大きいと考えていますこの AIの活用についてはPwCでは現在は日本でもまたグローバルレベルでも研究を進めており既に会計仕訳の分析ツールなどは発表をしていますAIでなくても単純な自動化であればさまざまなツールが安価で提供されるようになっていますのでそれらを活用した効率化は既に始まっていますし今後ますます行われるようになると考えていますこのとき重要なのはAIに進む前にAIが学習すべき良質なデータをいかに蓄積できたかどうかでありこれによってAIの能力は大幅に変わってきますつまり将来の社会課題を解決できる AIの活用には標準化とデジタル化を通じたデータの蓄積が欠かせないのです

PwCではこれらの研究を監査法人単独で実施するのではなくPwC Japanグループ全体さらには PwCグローバルネットワークの総力を挙げて進めていきさらに外部企業との協業も通じて「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」になることを目指します

会計監査

久保田 正崇 (くぼた まさたか )

PwCあらた有限責任監査法人執行役専務(アシュアランスリーダー監査変革担当)1997年青山監査法人入所後国内外の多数の企業の監査およびアドバイザリー業務に従事2001年から2004年までPwCシカゴ事務所駐在2016年からAI監査研究所副所長を経て監査業務変革推進部長を歴任2019年7月より監査変革担当執行役に就任2019年9月より執行役専務

35PwCrsquos View Vol 23 November 2019

国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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国立大学法人滋賀大学連載企画「データアナリティクスの最前線」

第10回 デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは 技術力ではなく経営者の力量である滋賀大学データサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長 河本 薫

はじめに 2015年ぐらいからメディアは連日のように AIや IoTを見出しにした記事を掲載している経営者たちも初めのうちは傍観姿勢だったかもしれないがやや誇張された他社の取り組みを毎日聞かされるうちに少しずつ焦燥感を持ち始めるそして社内の AIや IoTに強そうな人を呼び出しては

「5段階のお告げ」を始める 第 1段階のお告げは「他社に負けないよう我が社も AIで新しいことをしてくれ」本心は半信半疑だが世の中の流行に乗り遅れていると思われたくない保身的発言である 第 2段階のお告げは「私には AIは専門的すぎて分からない我が社の AI戦略についてはITに強い君たちに任せる」他社に負けないよう取り組まねばという意識はありながらも自ら学んで自ら考える気概はないので指揮権を

外部寄稿

趣旨emspデジタル時代において日本企業が低迷している主因はITやデータサイエンスといった技術の不足ではないアナログ時代に醸成された企業体質をデジタル時代に向けて変革できないからである日本企業の体質は「継続」と「改善」と「責任」に強い一方で「変革」や「破壊」や「創造」には弱いデジタル時代とはビジネス環境が不連続かつ不確実になる時代でありこのような企業体質では戦えないemspしかし企業体質とは社員の心に深く根付いたものであり簡単に変えられるものではない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくても)社員の行動は変わるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけであるemsp経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために前記のような行動を起こすそういった役割を果たさなければならない

使って丸投げしてしまう他人任せ的発言である  第 3段階のお告げは「人とカネは出すからよろしく頼むよ」IT投資やデータサイエンティスト採用さえすれば結果はついてくると考える手段を目的化してしまった発言である   第4段階のお告げは「もっとすごいことを期待しているんだよ」自らは理解できないためにAIを不思議な玉手箱のように妄想してしまう無いものねだり的発言である 第 5段階のお告げは「(あまり波風を立てずに)うまくやってくれ」丸投げされた AI推進部などの横串機能は事業部と衝突することが多いがそれを受け止めず逃げる事なかれ的発言である あなたの会社の経営者がこれら発言の一つでもしている場合は残念ながらその経営者の在任中は「失われた時間」となるだろうなぜならばAIや IoTは技術課題ではなく経営課題だからである今や世界中の企業は従来のビジネスモデルから脱却してAIや IoTといったデジタル技術を活用した新たなビジネス形態へと驚くべきスピードで進化を遂げている3年前のビジネスモデルは既に陳腐化しているそんなスピード感である上記のような経営者が 6年間君臨すればその間にその企業は 2周遅れになってしまうのである 日本企業の経営者に事の重大さに気付きまた自ら学び自ら考え自らが率先して取り組んで欲しいその一助になればとの思いで本稿を執筆した筆者の見聞に基づく限られた内容であるが「デジタル時代においてなぜ経営者の責任が重いか」を認識してもらうことを目的に筆者が考える経営者の役割を具体的に書いてみた企業経営者の方々にとって失礼な表現があるかもしれないその点はどうか大目に見ていただきたいなお本稿はさまざまな企業の方々との交流をもとにまとめたものであり筆者の前職時代の企業とは一切関係のない内容である

36 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

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『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 37: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

1 デジタル経営の4段階

最近のメディアで見出しを飾るのはAIや IoTといった言葉が多いそれらは特定の技術分野を指すには適切かもしれないが経営へのインパクトを考える場合はそれらも包含した「デジタル技術」という言葉を使う方が適切であろう

今や企業にとってデジタル技術をどうビジネスに取り入れるかは社運を決める大きなお題であるデジタル技術をビジネスにどれだけ効果的先駆的全体的革新的に活用していくかデジタル技術は技術の最先端を競う技術課題ではなくいかにビジネスに生かすかという経営課題なのであるこの側面から見た企業経営を「デジタル経営」と呼びたい筆者は多くの日本企業と付き合ってきた感覚でそのレベルを4段階に分けて整理できると考えている

デジタル経営10(情報処理の効率化)

人がやってきた情報処理をITで自動化している段階である例決済システム顧客管理システムPOSシステムの導入

デジタル経営20(業務改善)

現状の業務プロセスの枠内でデータと分析力による業務改善を図る段階である例顧客ターゲティング故障予知による予防保全画像判別による検品

デジタル経営30(業務プロセスの改革)

これまでの組織別や担当者別に細分化された個別最適な仕事のやり方をデジタル技術により可能になる全体統合な仕事のやり方に抜本改革する段階である例サプライチェーンとトレーディングの一体化e-コマースと店舗販売の一体化

デジタル経営40(ビジネスモデルの変革)

デジタル技術が及ぼすゲームチェンジを先読みしてビジネスモデルを変革している段階である例建機メーカーによる土木工事サービスプラットフォーム倉庫会社による倉庫保管サービスプラットフォーム自動車会社による愛車サブスクリプションサービス

2デジタル経営の進化を阻む壁は技術ではなく社員の心にある

残念ながら日本企業の多くはデジタル経営 15あたりにとどまっているデジタル経営 40に相当する取り組みをやっている企業でも20や30に相当する取り組みは立ち遅

れている場合も多い新聞や雑誌の記事に「ディープラーニング」など最先端の

テクニカルワードを見いだすと読者の多くは「すごいことをやっている」という思いになるのではないか確かに技術的にはすごいことかもしれないでもその用途が画像判別による検品自動化や音声認識によるコールセンター効率化ならば技術的には最先端かもしれないが経営的にはデジタル経営20に過ぎない

なぜ日本企業は20から30そして 40へと脱皮できないのか多くの企業人はデジタル経営の進化を阻む壁はAIや IoTといった技術力の不足にあると考えているしかし本当にそうだろうか少し飛躍する例になるがライドシェアリングやホームシェアリング(いわゆる民泊)を提供するゲームチェンジャーは他社にないデジタル技術を持っていたのだろうか今の時代はディープラーニングのライブラリーをはじめ多様なデジタル技術はパブリックユースできるAPI経由で他社のサービスを活用することもできる自前の技術力で勝負するのではなく他者の技術を組み合わせて使う時代なのである

では日本企業は革新的なビジネスモデルを発想し設計することが苦手だからであろうか確かにここは少しあると思うしかし足元の状況を見ているとデザインシンキングは少しずつ浸透しつつあり外部からプロを招聘してビジネスモデルを検討する企業や若手を中心に新たなビジネスモデルを考えるコンテストを催す企業も出始めているもちろんまだまだなところはあるが筆者は仮に革新的なビジネスモデルを発想し設計できたとしても日本企業はうまくいかないだろうと思っている

デジタル経営10rarr20rarr30rarr40への進化を阻む壁の本当の正体はデジタル技術の不足ではない新たな業務プロセスやビジネスモデルを考案する力の欠如でもない現状から変わろうとしない人の心にあると思う

縦割り組織で部分最適化を是とする体制と職責権限説明責任を徹底的に求める企業カルチャー社員一人一人長年引き継がれてきた業務を絶対視しそこに自らの存在意義を見いだしそれを遂行することに責任と達成感を覚える長年変わらぬビジネスモデルの中でこれら企業体質は日本企業の中に「普遍的になるほど」定着されてきたしかしデジタル技術の時代はこのような企業体質は革新の壁になる縦割り体質はデジタル技術が得意な全体最適化を阻むだろうし過剰な説明責任は AIの活用を阻むだろうなにより現状の仕事のやり方を絶対視する社風においてはデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの変革を妨げるだろう

このような企業体質においてデジタル技術による革新を進めようとすると現場担当者から経営者まで心理的に大

外部寄稿

37PwCrsquos View Vol 23 November 2019

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 38: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

きな葛藤を感じるだろうデジタル経営 10では仕事の型はそのまま便利になるだけなので葛藤は生じないデジタル経営 20では現場担当者の心に葛藤が生じるすなわち長年培ってきた勘と経験を否定してデジタル技術を活用するやり方に変える葛藤であるデジタル経営 30では現場からミドル層の心に葛藤が生じる組織長は自らの組織の領土と利益を広げるために戦ってきたのに全社で業務プロセスが統合されると組織長としての権限領域が曖昧になってしまう部分最適から全体最適に変える葛藤であるデジタル経営40では経営者の心に葛藤が生じる大企業の多くの経営者は従来のビジネスモデルの中でのサラリーマンレースの勝者であり既存ビジネスモデルへの愛着がそれへの固執となる従来のビジネスモデルを破壊して新たなビジネスモデルを創造する葛藤である

3デジタル経営の核心は経営者が企業の体質改善に乗り出すことである

データプラットフォームに巨額の投資をしてもデータサイエンティストを採用してもまた著名な経営コンサルタントにデジタルビジネス戦略を描いてもらってもそれだけでは企業のデジタル経営は進化しない前述のとおり進化を阻む壁は「人の変わりたくない心」にありその集合体がなす企業体質にあるからである人の心を変えることは非常に難しい

現実的にはまずは何らかの強制力やインセンティブを与えながらこれまでと違う行動を社員に促していくしかないだろうそのためには組織体制や業績目標指標人事制度といった企業経営の根幹をなす制度を改変しなければならないそれができるのはまさに経営者だけである

以下ではデジタル経営の各ステージに進化するために具体的にどのような制度設計を検討すればよいか筆者の拙いアイデアを述べたいと思う

デジタル経営20に向けた制度設計

このステージのキープレーヤーは現場担当者とデータサイエンティストである前職時代に何度も経験してきたがデータサイエンティストが効果的なソリューションを提供しても現場担当者は「従来の勘と経験に頼った仕事のやり方」に固執する一方データサイエンティストはソリューションを作るまでが自分の仕事と割り切り現場担当者に導入を促すことまでしないその結果折角のソリューションは使われないままお蔵入りになる

この状況を打破するために経営者がなすべきことはまずは現場担当者に対する勘と経験の仕事のやり方からデータドリブンな仕事のやり方に改変するインセンティブ設

計である事業部長に指示して事業部単年度計画に従来のやり方の延長上では達成できないような高い目標を掲げさせるデータ活用による業務改変を明示させる自らの業務のやり方をデータドリブンな仕事のやり方に変えた担当者を社長表彰するなどが挙げられる次にデータサイエンティストに対しては「解く」だけでなく「導入する」ところまでを業務範囲とする人事設計を行う専門職としてデータサイエンティストを配する場合にはその人事考課において「解く」だけでなく「導入する」を重点項目とするこのように経営者は事業部計画や人事設計に介入することでデジタル経営20を遮る企業体質を改変していけるのである

デジタル経営30に向けた制度設計

このステージでは個別最適目標と全体最適目標が合致しないところに軋轢が生じる例えば物流機能も保有する卸売事業者を考えようこの事業者には売買値差で儲けるトレーディングという側面と予定通りの物流を実現するサプライチェーンという側面があるこれまではサプライチェーン組織ではできる限り少ない倉庫やトラックでまわすことでコスト低減に努めてきたその結果コストダウンは図れるが物流の自由度が小さくトレーディングによる収益機会を逸してきたかもしれないトレーディングとサプライチェーンを統合して全体利益の拡大を目指すならばサプライチェーン組織はサプライチェーンのコストダウンという目標とトレーディング組織と一体化した収益最大化という目標の相異なる二つの目標に直面して混乱と軋轢を生む

この状況を打破するために経営者がなすべきことは個別最適な目標を明示的に撤回し全体最適につながる新たな組織目標を設計することであるサッカーに例えればアシストポイントという指標を新たに導入するイメージであるこの設計にこそ成否がかかっている

デジタル経営40に向けた制度設計

このステージでは既存ビジネスモデルを棄損することが多いため新たなビジネスモデルへ舵を切ることに躊躇する例えばホテル会社にとって新たな民泊サービスを始めることは既存のホテルビジネスを棄損するため経営者は躊躇する例えば自動車会社がカーシェア型ビジネスを始めることはマイカー保有を減らすことにつながり自動車販売ビジネスを棄損するため経営者は躊躇する

このケースでは葛藤は経営者自身の心の中にあるため経営者自身による解決は難しい人の心はそう変わらないものであるこの状況を打破するために経営者がなすべきことは自らがなすことは難しいと認識し別会社を作って親会社とのしがらみを意識することなく自由にやらせることと筆者は思う

外部寄稿

38 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

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47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 39: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

河本 薫 (かわもと かおる )

滋賀大学 データサイエンス学部 教授兼 データサイエンス教育研究センター副センター長博士(工学経済学)1991年京都大学応用システム科学専攻修了大阪ガス(株)に入社1998年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事2011年から大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長2018年4月より現職大阪大学招聘教授を兼任

4 まとめ

デジタル時代における企業の盛衰を決めるのは技術力よりもむしろ企業体質の変革である「普遍性」を貴ぶ企業体質から「変革性」を貴ぶ企業体質に変えていかなければならないしかし社員の心はそう簡単には変わらない目標設定や人事制度組織改編機能分離などにより(社員の心は変わらなくとも)社員の行動を変えるように仕向けなければならないそれができるのは経営者だけである

経営者はデジタル技術について自分事と捉え自らの頭でデジタル技術のポテンシャルを考えビジョンメイキングしその実現に向けて人や組織の体質を変えるために上記のような行動を起こすそういった姿勢を持たなければその企業は表面的に難しいデジタル技術を使っていても経営的には何ら進歩しない特に非オーナー企業の経営者におかれては在任期間の短さゆえの近視眼と過去の成功体験にもとづく現状維持志向は不確実かつ不連続なデジタル時代に会社を変えていく力を損なうことに注意されたい本稿を読んで企業経営者の方々の行動を少しでも喚起できれば筆者として望外の喜びである

外部寄稿

39PwCrsquos View Vol 23 November 2019

IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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PwCグローバルからの最新情報をお届けします

スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

動画イメージ

PCやスマホからどなたでも

ご覧いただけますすき間時間に

ご活用ください

44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

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IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への対応

はじめに 国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月法人所得税に係る税務処理に不確実性がある場合の会計処理に関しI A S 1 2 の 解 釈 指 針として I F R I C 2 3 を公 表しました IFRIC23はあくまで解釈指針であって IAS12で定められている法人所得税に係る既存の会計基準を変えるものではありませんがIAS12では企業が特定の取引を行った場合に発生する法人所得税の税務処理が不明確な場合についての会計処理について必ずしも明確な基準を示しておらず企業によってその解釈および処理方法にばらつきがあったといわれています従ってIFRIC23の公表およびその適用により実務的には新たな対応が必要となってくる企業も少なくないものと考えられます 本稿では2019年 1月 1日以降開始する事業年度から適用開始となる IFRIC23についてIFRSを適用している日本企業として必要となる対応につき会計の専門家および税務の専門家の双方の立場から解説をします

1 IFRIC23の概要

国際会計基準審議会(IASB)は2017年 6月 7日IFRIC23「法人所得税の税務処理に関する不確実性」(Uncertainty over

Income Tax Treatments)を公表しましたIFRIC23は企業が行った特定の取引または状況につき法人所得税の税務処理に不確実性がある場合におけるIAS12「法人所得税」(Income Taxes)における認識(recognition)と測定(measurement)の適用にあたっての解釈指針となるものです

IFRIC23で取り扱われている論点(issue)は主に 4つあります一つ目の論点は不確実な税務処理 1 を個々に考慮するか他の不確実な税務と合わせて考慮するか(par 6-7)二つ目が税務当局による調査が行われることを前提とすること(par 8)三つ目が不確実な税務処理に係る課税所得

(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか(par 9-12)四つ目が新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化をどのように取り扱うか(par 13-14)です

(図表 1)なおIFRIC23は米国会計基準における旧 FIN48(現在は ASC740-10の一部)に相当するものであるといえ

相違点はあるものの基本的な考えとしてはFIN48と同様のアプローチが採られています

IFRIC23の適用時期は2019 年 1 月 1 日以降開始する事業 年 度 とされ ており早 期 適 用 も 可 能 となっています

1 IFRIC23では uncertain tax treatmentsと表現されています(par 3(c))がFIN48ではuncertain tax position(UTP)として表現されており日本語での定訳は「不確実な税務ポジション」とされてきたものです

税務法務

PwC税理士法人

パートナー 高野 公人

PwCあらた有限責任監査法人 財務報告アドバイザリーパートナー 澤山 宏行

図表 1IFRIC23 において指針が示された4つの論点(issues)

論点1 不確実な税務処理を個々に考慮するか他の不確実な税務処理と合わせて 考慮するか whether an entity considers uncertain tax treatment separately

論点2 税務当局による調査が行われることを前提とすること the assumptions an entity makes about the examination of tax treatments by taxation authorities

論点3 不確実な税務処理に係る課税所得(税務上の欠損金)税務基準額繰越欠損金繰越税額控除額適用税率をどのように決定するか

how an entity determines taxable profit (tax loss) tax bases unused tax losses unused tax credits and tax rates

論点4 新しい情報が入手されたことにより事実関係が変化した場合にその変化を どのように取り扱うか how an entity considers changes in facts and circumstances

40 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

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上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

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コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

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ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

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中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

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47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

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PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

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れるケースが多いものと考えられますがこのような場合にIFRIC23の適用によって計算される測定金額とFIN48 の適用によって計算される測定金額は相違することがありますその相違に係る計算構造について例を示すと以下のとおりとなります(図表2)

まずIFRIC23の期待値法に基づいて税金引当額を計算する場合(①)ケース 1からケース 4の各ケースにつき将来の追徴に係る見積追加税額を特定するとともにそれぞれの発生可能性を見積もります期待値法による場合は全てのケースについて発生可能性に基づいた加重平均計算により最終的な税金引当額を計算することになるためこの場合税金引当額は 630となりますなおもしここで仮に最頻値法を適用した場合にはケース 2の 300となります一方同じ事象において FIN48の累積確率法に基づいて税金引当額を計算する場合(②)各ケースの見積追加税額やそれぞれの発生可能性の見積もりを行うことは上述の期待値法の場合と同様ですが累積確率法においては税務ベネフィットの高い方から順に各ケースの発生可能性を累積し50超となった時点のケースにおける税務ベネフィットを認識する裏を返すと当該ケースにおける見積追加税額を最終的な税金引当額とするためこの場合税金引当額はケース3の800ということになります

3IFRS適用日本企業におけるIFRIC23への実務対応

2019 年 7 月現在東証上場会社のうちIFRSを適用している会社は 198 社IFRSの適用を決定している会社は 16 社IFRSの適用を予定している会社は 11 社となっておりこれら合計 225社の 2019年 6月末時点の時価総額の合計は 220兆円で東証上場会社全体の時価総額の合計(605 兆円)に

(Appendix B)従って12 月決算会社の場合には 2019 年12月末事業年度から3月決算会社の場合には 2020年 3月末事業年度(いずれも本稿執筆時点での進行事業年度)からの適用となります

2 FIN48との類似性と相違点

IFRIC23は 2017 年に公表された新しい解釈指針ですが上述のとおりIFRIC23は 2006 年に公表され10 年以上の実務集積を持つ米国会計基準の FIN48に相当するものでありその全体的なアプローチや取扱いは多くの点で近似しているといえます従ってFIN48との類似性と相違点を確認して FIN48の実務集積をIFRIC23の適用に役立てていくことは極めて有用であると考えられます

いずれの指 針においても対 象 は 法 人 所 得 税(i n co m e tax)のみであり税務ポジションの特定を最初に行った上で認識(recognition)測定(measurement)という2ステップアプローチを採っている点はプロセス上の大きな共通点といえますまた税務当局は事実関係に関する必要な全ての情報を入手している(full knowledge)ものと仮定して当該不確実な税務ポジションは全て調査が行われるものとするといったいわゆる発見リスク(detection risk)を考慮しないという前提も両者で共通していますさらに事後に新しい情報が出現したことによる事実関係の変化すなわちトリガーイベントの発生に基づく税金引当額の見直し修正方 法 も類 似しています また 不 確 実 性 の 認 識 の 閾 値

(threshold)についてIFRIC23は「probable」という用語を使用しており一方FIN48ではこれについて「more likely than not」という用語を使用していますが両者の意味は同じものであると考えられます

以上がアプローチの主要かつ重要な部分における両者の共通点でありプロセスのほぼ全体が大体共通していると言ってもよいものと考えられますが大きな相違点として挙げられるのが税金引当額の測定の際の計算方法ですすなわちIFRIC23では不確実性の影響を財務諸表に反映させる場 合 の 計 算 方 法 として 最 頻 値 法( m o s t l i k e l y amount method)と期待値法(expected value method)の 2つの方法を提示しておりいずれの方法を適用するかに際しては不確実性の解消がより適切に予想できる方法を適用するとされていますがFIN48においては当該計算方法に 関して は 累 積 確 率 法( c u m u l a t i v e p r o b a b i l i t y approach)を適用するものとされています

特に移転価格課税に係る不確実性を評価するような際には想定される結果が二者択一でなくシナリオがいくつかのケースに分散する場合が多いため期待値法が適用さ

税務法務

図表 2IFRIC23とFIN48の測定方法の相違(期待値法と累積確率法)① IFRIC23 における期待値法を適用した場合

見積追加税額

発生可能性 期待値

ケース1 0 emsp 5 0ケース2 300 emsp 40 120ケース3 800 emsp 20 160ケース4 1000 emsp 35 350合計 100 630

② FIN48における累積確率法を適用した場合見積

追加税額見積税務

ベネフィット発生

可能性累積発生

可能性 判定

ケース1 0 1000 5 5 <50ケース2 300 700 40 45 <50ケース3 800 200 20 65 >50ケース4 1000 0 35 100合計 100

41PwCrsquos View Vol 23 November 2019

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

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中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

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オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

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ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

Page 42: PwC's View 第23号 特集「デジタル・トラストサービス・プラッ … · 的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラッ

占める割合は 36となっています 2 これらの IFRS適用企業においてはいずれも IFRIC23 への対応が必要となりますがわが国の税務だけでなく子会社所在国の税務に関する不確実な税務ポジションについても評価を行うことが必要となるという極めて難易度が高く専門的な領域において子会社からの情報収集やそれぞれの税務情報に対する評価十分なドキュメンテーション監査人対応などが求められることになりますのでこれまで解釈指針がなかった期間において FIN48に準ずる対応をしてこなかった企業においては実務対応に苦労される場面が生ずることも少なくないものと考えられます以下では筆者らの米国会計基準に基づくFIN48への対応に係る実務経験も踏まえてIFRIC23への対応に際して生ずることが想定される問題やこれらに対する実務対応について紹介していきます

① 高度な会計税務に関するスキル専門知識および十分な時間が必要であること

IFRIC23や FIN48において求められているアプローチは相当程度粒度の高いものであることからそのために必要な作業や要求される税務情報は時に膨大なものとなりまたそれらを分析処理する高度な会計税務に関するスキルと専門知識を有した人的リソースや各種ツールが必要となりますしかしながら適用前導入前にはこの必要性がマネジメントから過少に見積もられているケースが少なくありません

潜在的に不確実な税務ポジションは全て特定され認識のための評価が必要となりますがその次のステップとしての測定のための詳細な分析が必要となりその結果について整然としたドキュメンテーションが必要となりますまた不確実性が解消されるまでの期間新しい情報の出現による再評価が必要になるかどうかモニタリングを継続することが必要になります最終的に IFRIC23 適用の本番環境においてスムーズな導入を行っていくためにはこれら実務対応のためにどれほどの人的リソースや各種ツール時間が必要となるか事前に把握しておくことが重要となりますそのためには適用開始前の早い段階において例えばいくつかの税務ポジションのサンプルを使ってドライランを行い想定とのギャップを認識調整しておくことが効果的であると考えられます

なお対応においては適切な社内リソースを配分することが重要ですが必要に応じて外部専門家のリソースを利用することも検討すべきものと考えられます

② 親会社レベルで海外税務に関する知識や実務経験を集積させることが必要であること

上述の IFRS適用の上場日本企業においてはIFRSの適用は連結レベルでの適用が前提となるものと想定されます

が海外子会社を含めたグループ企業における個々の不確実な税務ポジションに係る IFRIC23の適用については日本親会社の経理部ないし税務部が各子会社から必要情報を収集し親会社レベルで最終判断を行う責任を負うことになるのが通常であると考えられますそのような状況においては特に世界各国にグローバル展開している企業の場合には世界各国の現地税務問題について親会社としての最低限の判断を可能とするレベルまでの専門知識や実務経験の蓄積をし常に適切な判断を行うことができる体制を整えていくことが重要であると考えられます

③ 海外子会社の税務情報を早期に入手することが必要であること

特に新興国に所在する海外子会社に係る不確実な税務ポジションなどについてはその評価にあたって追加的な資料が必要となることもあり当該海外子会社の税務担当や現地の税務専門家のコメントやアドバイスなしには現地特有の税務実務や税務手続を理解することが困難であることも多いといえますこのようなケースについては親会社の担当として十分な検討対象資料と検討時間を確保できるようにしておくことが重要となりますまたこれらの情報や関連資料を入手するには時間を要するケースも多くまた現地税務手続に関する証憑資料については翻訳などが必要となる言語によって作成されている資料も数多く存在しますこのような問題に対して十分な検討対象資料と検討時間を確保するためには早い段階において現地の税務担当や税務専門家と連絡を取るといった早めのアクションを取ることで現地において既に生じている不確実な税務ポジションを早期に把握し親会社の責任者として評価に必要となる資料を事前に特定しておくといった対応を行うことが有効であると考えられます

④ 監査上も必要十分な情報および関連資料を収集することが必要であること

不確実な税務ポジションに関連する資料はその評価を行う主体である企業側において必要となるだけでなく監査手続上も重要な監査証拠を形成するものとなり得ますこの点監査人が求める関連資料の範囲と企業側が収集している関連資料の範囲にギャップが生ずることが少なくありませんこのギャップは特に上記のような海外子会社の不確実な税務ポジションを評価する際に多く生じるといえますこのギャップを生じさせないようにするためには例えば子会社に対するインフォメーションリクエストの標準テンプレートを作成しその内容について事前に監査人と合意しておくとともに早い段階でこれを各子会社と共有し期末および各四半期末に

2 出所東京証券取引所2019『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2019年8月1日)』

税務法務

42 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

税務法務

43PwCrsquos View Vol 23 November 2019

ldquoInformrdquoへようこそIFRSに関するPwCの総合情報サイト

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スライドショー4枚目の『IFRSビデオシリーズ

ポッドキャスト(英語)』をクリック

『4』をクリック❶

『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

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44 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

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PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

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おける提出期限には完全な情報および資料を入手できるようにしておくという対応が有効であると考えられます

PwCでは子会社に対する税務ガバナンスの有効化ツールとして「Tax Operations Manager」という子会社情報収集管理ツールを提供していますこのようなツールを利用して不確実な税務ポジションに関する必要十分な税務情報を適時に親会社で収集するという仕組みを構築するのも効果的であると考えられます

⑤ 会計担当者と税務担当者の緊密な連携が不可欠であること

他の税効果会計と同様IFRIC23FIN48は法人所得税に関する会計処理開示を取り扱うものであることからその対応に際しては会計税務の両面からの分析や評価が求められることになり財務報告を担当する会計担当者と特にグローバル税務を担当する税務担当者の連携が重要となりますすなわち税務担当者の関与が限定的となる場合には不確実な税務ポジションの認識や測定に関して特に発生可能性に係るテクニカルな分析が不十分なものとなってしまう可能性があり一方で会計担当者の関与が小さい場合や理解が不足している場合にはこれらの指針に示された会計上のルールに基づいた処理ができないあるいは過度な対応をしてしまうといった事態が生じ得るため会計の担当者と税務の担当者でそれぞれの役割と責任を明確にして緊密な連携を図りながら作業を進めていくことが不可欠であると考えられます

企業側の担当者の役割分担や外部アドバイザーへのアウトソーシング業務の整理に係るプロセス構築についてはIFRIC23FIN48に係る他社での導入コンサルティングの経験のあるアドバイザーを活用することも有効です

⑥ インプリメンテーションの場面においても専門家の活用が有効であること

上記①から⑤まではどちらかというとIFRIC23の適用前

および適用初年度のプロセス構築の段階に発生しやすい問題点とその実務対応に関するものですが適用後のインプリメンテーションの場面において効果的に専門家を活用して監査対応や開示の準備を行っていくということも検討すべき課題であると考えられます

外部の会計税務アドバイザーを活用する場面としては情報収集やドキュメンテーションのサポートなど社内のリソース不足を補うためのサポートとして活用するということが第一に考えられますただしある特定の不確実な税務ポジションのうちに特に複雑な取引に関するものないしは税務上の解釈が特に難解であるものなどについては税務専門家としての IFRIC23 目的でのタックスオピニオンを発行させ企業側の会計処理ポジションのサポートに役立てるという活用方法もありますまた監査人対応の場面においても監査人との合意の形成を円滑化するために企業側のアドバイザーとして監査人との議論に参加させるという活用方法も考えられます

PwCにおいて IFRIC23に関するアドバイザリーを行う際にはいずれも IFRIC23FIN48の実務に精通した財務報告アドバイザリーに所属する会計専門家と税理士法人に所属する税務専門家が一体となった体制でサービスを提供していますただしインプリメンテーションの場面において移転価格課税の問題や海外現地課税の問題などトピックごとの専門家のアサインが必要な事案が生ずる場面においては当該領域に十分な知見と経験を有する適切なプロフェッショナルをアサインしワンストップかつトータルにクライアントをサポートすることが可能となっています

⑦ 内部統制の構築

J-SOXもしくは US-SOXの適用がある企業については当該 IFRIC23の検討プロセスに係る内部統制構築および評価が必要になるものと考えられますので併せて検討が必要と思われます

高野 公人 (たかの きみひと )

PwC税理士法人パートナー公認会計士税理士米国公認会計士金融機関におけるクレジットアナリストを経て2001年にPwC税理士法人に入所法人税務の一般的なコンサルティング業務の他国際税務国内外のMampAや事業再生などのトランザクション分野の税務まで幅広くカバーしているタックスアカウンティングについては日本基準だけでなくUSGAAPおよびIFRSに基づく税効果会計およびFIN48IFRIC23への対応に係る実務にも数多く携わっているメールアドレスkimihitoktakanopwccom

澤山 宏行 (さわやま ひろゆき )

PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリーパートナー公認会計士国内および米国証券取引委員会(SEC)企業を含む海外の上場企業国内非上場および外資系国内企業の会計監査業務金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制監査(J-SOX)米国企業改革法に基づく内部統制監査(US-SOX)業務に従事またJ-SOXUS-SOX導入支援IFRSUS GAAPコンバージョン支援株式上場(IPO)支援連結経営構築支援決算早期化決算期統一支援会計業務標準化支援など多岐にわたる財務報告アドバイザリー業務に従事しているメールアドレスhsawayamapwccom

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PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

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上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

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最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

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emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

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海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

アイルランド 若本 裕介 Yusuke Wakamoto +353-087-377-2591 yusukexwakamotopwccom

チェコハンガリー 山崎 俊幸 Toshiyuki Yamasaki +420-733-611-628 toshiyukixyamasakipwccom

ロシアCIS 糸井 和光 Masahiko Itoi +7-495-967-6349 mitoipwccom

南アフリカ 鈴木 智晴 Tomoharu Suzuki +27-63-420-6324 tomoharuosuzukipwccom

米州カナダ 北村 朝子 Asako Kitamura +1-604-806-7101 asakokitamura-redmanpwccom

米国 久保 康 Yasushi Kubo +1-312-298-2477 yasushikubopwccom

日本企業の海外事業支援の詳細はWebをご覧くださいhttpswwwpwccomjpjaissuesglobalizationhtml

46 PwCrsquos View Vol 23 November 2019

47PwCrsquos View Vol 23 November 2019

本誌に関するご意見ご要望ならびに送付先変更などのご連絡は下記までお願いいたしますjp_llc_pwcs-viewpwccom

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディングTel03-6212-6800 Fax03-6212-6801

PwC Japanグループは日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwCあらた有限責任監査法人PwC京都監査法人PwCコンサルティング合同会社PwCアドバイザリー合同会社PwC税理士法人PwC弁護士法人を含む)の総称です各法人は独立して事業を行い相互に連携をとりながら監査およびアシュアランスコンサルティングディールアドバイザリー税務法務のサービスをクライアントに提供しています copy 2019 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC All rights reservedPwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC PricewaterhouseCoopers Kyoto PwC Consulting LLC PwC Advisory LLC PwC Tax Japan PwC Legal Japan) Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance consulting deal advisory tax and legal services

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ポッドキャスト(英語)』をクリック

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『IFRSビデオシリーズポッドキャスト(英語)』

IFRS ビデオシリーズ(英語)

IFRS ポッドキャスト(英語)

PwCのスペシャリストがIFRSの新基準の主要な論点や実務上の影響について経験に基づく洞察を含めて分かりやすく動画で解説(1回あたり約10分間)

PwCのスペシャリストがIFRSの最新動向を考察(1回あたり約20分間)

上記7シリーズの合計で60本超の動画を公開中今後も随時追加予定ですYouTubeで視聴ができ英語スクリプトも表示していただけます

IFRS第3号「企業結合」ldquo事業の定義rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo一般企業rdquo IFRS第9号「金融商品」ldquo減損rdquo IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 IFRS第16号「リース」 IFRS第16号「リース」の適用方法 IFRS第17号「保険契約」

PwC IFRS Talks

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PwCJapanグループ調査レポートのご案内会 計税 務経営に関連するさまざまな調査レポートまた海 外の拠 点から発 行された PwCの各種出版物をご紹介します

最新トピック

コンプライアンスにおけるテクノロジー活用の最前線2019年度コンプライアンス調査emspデジタル化にはメリットとデメリットがあり機会を獲得できる一方コストの高いコンプライアンス要件を見逃す恐れがありますデータプライバシーや責任あるAI(Responsible AI信頼性公平性安定性に優れた AIシステムのこと)といった変化し続けている分野における規制の変更に備えるためにコンプライアンスプログラムは企業のデジタルフィットネスに合致していなけれ ばなりません合 致していないとディフェンスライン間のギャップが拡大しリスクの発生可能性が拡大してしまいますデジタルに対応しデータに依拠したコンプライアンス倫理プログラムは経営者に対して変化し続ける規制についての明確な洞察を提供できます経営者はそれによってリスクを予測し備えることができるだけでなく機会をつかむこともできるようになりますemsp私たちはコンプライアンス部門のデジタルフィットネスについてビジョンとロードマップ働き方オペレーションサービスモデルステークホルダーの参画という5つの重要なフィットネスの要素を踏まえて分析しました

各レポートはWebより詳細をご確認ダウンロードしていただけます httpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershiphtml

本レポートの詳細はこちらhttpswwwpwccomjpjaknowledgethoughtleadershipstate-of-compliance-study2019html

PwC Japanグループ調査レポートのご案内

emsp分析の結果よりデジタルに適合したリスク機能 (リスク管理コンプライアンス内部監査)を構築する

ための 6つの行動を特定しましたこれらの行動は企業がデジタル化を推進するにあたって実効的なコンプライアンスプログラムとリスク管理の実施に役立つと考えられます最もデジタルに適合したグループとして分類される「ダイナミック」の行動からコンプライアンス部門がさらに進化するためにするべきことを学ぶことができます

45PwCrsquos View Vol 23 November 2019

海外PwC日本語対応コンタクト一覧PwCは全世界 158カ国25万人以上のスタッフによるグローバルネットワークを生かしクライアントの皆さまを支援していますここでは各エリアの代表者をご紹介いたします

担当国地域 写真 担当者名 電話番号 E-mail

アジア太平洋

中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

中国(華南香港) 柴 良充 Yoshimitsu Shiba +852-2289-1481 yoshimitsushibahkpwccom

台湾 奥田 健士 Kenji Okuda +886-2-2729-6115 kenjiokudatwpwccom

韓国 原山 道崇 Michitaka Harayama +82-10-6404-5245 mharayamasamilcom

シンガポール 山本 浩史 Koji Yamamoto +65-6236-3388 kojikyamamotopwccom

マレーシア 杉山 雄一 Yuichi Sugiyama +60-3-2173-1191 yuichisugiyamapwccom

タイカンボジアラオス 魚住 篤志 Atsushi Uozumi +66-2-844-1157 atsushiuozumipwccom

ベトナム 今井 慎平 Shimpei Imai +84-90-175-5377 shimpeiimaipwccom

ミャンマー 山上 洋平 Yohei Yamaue +95-9-256-919-073 yoheiyamauemmpwccom

インドネシア 割石 俊介 Shunsuke Wariishi +62-21-521-2901 shunsukewariishiidpwccom

フィリピン 東城 健太郎 Kentaro Tojo +63-2-459-2065 kentarotojophpwccom

オーストラリア 神山 雅央 Masao Kamiyama +61-3-8603-4383 masaokamiyamapwccom

ニュージーランド 森田 悠貴 Yuki Morita +64-21-811-772 yukimmoritapwccom

インド 古賀 昌晴 Masaharu Koga +91-124-330-6531 masaharukogapwccom

欧州アフリカ

英国 小堺 亜木奈 Akina Kozakai +44-7483-391-093 akinaakozakaipwccom

フランス 猪又 和奈 Kazuna Inomata +33-1-5657-4140 kazunainomatapwcavocatscom

ドイツ 藤村 伊津 Itsu Fujimura +49-69-9585-1537 itsuxfujimura-hendelpwccom

オランダ 佐々木 崇 Takashi Sasaki +31-88-792-2761 sasakitakashipwccom

イタリア 井上 麗 Rei Inoue +39-347- 448-6690 reiinouepwccom

ルクセンブルク 斎藤 正文 Masafumi Saitoh +352-62-13-32-095 masafumissaitohlupwccom

スイス 佐藤 晃嗣 Akitsugu Sato +41-58-792-1762 satoakitsuguchpwccom

ベルギー中東欧全域 森山 進 Steve Moriyama +32-2-710-7432 stevemoriyamapwccom

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中国大陸および香港 高橋 忠利 Tadatoshi Takahashi +86-21-2323-3804 toshittakahashicnpwccom

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