Title 小児に見られた精嚢および射精管結石の1例 …...1843 泌尿紀要30巻12号...

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Title 小児に見られた精嚢および射精管結石の1例 Author(s) 内島, 豊; 平賀, 聖悟; 阿久津, 元秀; 吉田, 健; 保母, 光俊; 岡 田, 耕市 Citation 泌尿器科紀要 (1984), 30(12): 1843-1849 Issue Date 1984-12 URL http://hdl.handle.net/2433/118353 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

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Title 小児に見られた精嚢および射精管結石の1例

Author(s) 内島, 豊; 平賀, 聖悟; 阿久津, 元秀; 吉田, 健; 保母, 光俊; 岡田, 耕市

Citation 泌尿器科紀要 (1984), 30(12): 1843-1849

Issue Date 1984-12

URL http://hdl.handle.net/2433/118353

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

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1843

泌尿紀要30巻12号

1984年12月

小児に見 られた精嚢および射精管結石の1例

埼玉医科大学泌尿器科学教室(主 任:岡 田耕市教授)

内島 豊 ・平賀 聖悟 ・阿久津元秀

吉田 健 ・保母 光俊 ・岡田 耕市

STONES OF SEMINAL VESICLES AND EJACULATORY

DUCT IN INFANT : REPORT OF A CASE

Yutaka UCHIJIMA, Seigo HIRAGA, Motohide AKUTSU,

Ken YOSHIDA, Mitsutoshi HOBO and Koichi OKADA

From the Department of Urology, Saitama Medical School

(Director: Prof. K. Okada)

A 7-year-old boy was brought to our clinic with the chief complaint of terminal pain on

urination. Rectal examination revealed a prostate of almost normal size and consistency, but seminal

vesicles were palpated to be hard and in a painful mass. Plain x-ray and urethrogram demonstrated

several small stones in the posterior urethra and in seminal vesicles.

In the first operation, the stones located in the posterior urethra were removed through the trans-

vesical approach, and the seminal vesicular stones were extirpated in the next operation. The stones

were found to consist of magnesium ammonium phosphate by infrared rays spectrum analysis. The

histopathological findings of the partially resected seminal vesicles showed no inflammatory or

tuberculous changes.

Twenty cases of stones in seminal vesicle, in seminal canal, or in ejaculatory duct have been reported

in the Japanease literature. Etiology, pathology, clinical problems and therapy of the stones of seminal

tract are discussed in relation to the cases reported in Japan including the present case.

Key words: Infant, Stones of seminal vesicles

緒 言

精路結石は尿路結石 と比較 して まれ であ り,臨 床症

状に も乏 しい ことか らこれ まであ ま り注 目されて こな

か った.し か し近年CTあ るいは超音波検査法 の発達

と利用に ともない,従 来 まれ と考え られ ていた精嚢,

射精管 の結石あるいは石灰化の報告 が増加 してきた.

われわれ も小児 に見 られた両側精嚢結 石お よび射精管

結石の1例 を経験 し興味あ る所見を得たので若干 の文

献的考察 を加えて報告す る,

症 例

症例:横 ○元07歳

初診年月 日:1973年3月27日

主訴:排 尿終末時痛

既往歴 ・家族歴:特 記事項 な し

現病歴:両 親が 工年前 よ り尿線が細い ことに気づ い

たが放置 していた.1973年3月26日 排尿終 末時痛が あ

り当科 を受診 した,骨 盤部X線 撮影にて恥骨上に結石

様 陰影 を認めた ので,精 査 を 目的 として同年3月31日

入院。

入院時 現症(第1回 目)1身 長116.3cm,体 重24

kg.頭 頚部お よび胸腹部理学的所見に異常を認めず.

陰茎 お よび両側陰嚢内容は年 齢相応 の発育を示す が,

直腸診に て前立腺直上に結石様硬結 を触知 した.

入院時諸検査所見(第1回 目):

尿検査:尿 は 軽度 混濁 してお り,蛋 白(十),糖

(一),沈 渣で赤血球o~1/HPF,白 血球 工o~20/

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1844 泌尿紀要30巻12号1984年

HPF,尿 培 養:E.CloacaelO5/ml以 上,末 梢 血 液 検

査:白 血 球 数7,loo/mm3,赤 血 球 数412×104/mm3,

血 色 素量13.29/dl,ヘ マ トク リ ッ ト39%,血 沈ll

時 間値13mm,2峙 間 値32mm,血 液 生 化 学 検 査=

ク レア チ ニ ン0.5mg/dl,Nai42mEq/l,K4.2mEq

/1,cllo2mEq/1,ca8.8mg/d1,Mg2.2mg/dl・

X線 学 的 検 査1胸 部X線 撮 影 に ては 異 常 を 認 め ず,

IVPで も両 側 腎 尿 管 に は異 常 は なか った.骨 盤 部X

線 撮 影 で恥 骨 上 両側 に 小指 頭 大 の 不 規 則 楕 円形 の結 石

様 陰 影 を認 め,右 側 で はそ の下 方 に 約2cmの 長 さ を

持 つ結 石 様 陰 影 を,さ らに 両 側 に 米 粒 大か ら半 米 粒 大

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Fig,1.Plainx-raydemonstratcdseveral

smallStOnesinseminalvesicles.

の結 石 様 陰 影 を3~4個 認 め た(Fig.1).尿 道x線

撮 影 時,尿 道 へ の カ テ ーテ ル 挿入 が 困難 で あ っ た ため

空 気 注 入 膀 胱 撮 影 は 施 行 せ ず,尿 道X線 造 影 のみ を施

行 した.結 石 のた め と思 わ れ る後 部 尿道 の変 形 と陰影

欠損 を認 め た(Fig.2).

以 上 の所 見 よ り精 嚢 結 石 お よび後 部 尿 道 結 石 と診断

し,同 年4月12日 排 尿 困難 を 改善 す る 目的 で膀 胱 高位

切 開 に よ る結 石 摘 除術 を施 行 した.

手 術所 見:膀 胱 壁 を切 開 し,膀 胱 内を 観 察す る と小

指 頭 大 の結 石 が 膀 胱 頚部 に 族 屯 した 形 に な っ てお り

(Fig.3),摂 子 を用 い て摘 出 し よ うと した が容 易 に は

移 動 せ ず,か な り力 を 入 れ て 摘 出 で きた.摘 出結 石 の

一 部は 欠 落 し結 石遺 残 の可 能 性 もあ ったが(Fig .4),

尿 道 に カ テ ー テル 挿 入 可能 で あ った の で,遺 残 結 石に

つ いて は 後 に経 尿道 的 に 処 置す る こ と と し て創 を閉 じ

た.

術 後排 尿 困難 は改 善 し,41日 目に は 遺 残 結 石 と思 わ

れ る4×6mmの 結 石 の 自然 排 石 を得 た.し か し尿 路

感 染 は そ の後 も持 続 し(1975年6月26日,尿 培 養 で

Proteusmirabzlis105/ml以 上,1976年2月24日

KlebsiellaIO5/m正 以 上),1976年1月 頃 よ り再 び 排 尿

終 末 時 痛 が 強 度 に 発 現 す る よ うに な った ため,同 年7

月30日 再 入 院 した.

入 院 時 諸 検 査 所 見(第2回 目):

尿 検 査:尿 は 混 濁 して お り,蛋 白(帯),糖(一),

沈1査で 白血 球 多 数/HPF,赤 血 球o~1/HPF,尿 培 養

:Proteusmirabilislo5/ml以 上,1(lebsiellalo5/m1

以 上,末 梢 血液 検 査:白 血 球 数5,500/mm3,赤 血 球 数

403×104/mm3,血 色 素 量12.89/dl,ヘ マ トク リッ ト

37%,血 沈lI時 間 値8mm,2時 間 値20mm,血 液

生 化 学 検 査:総 蛋 白6.5g/dl,尿 素 窒 素6mg/d1,ク

レア チ ニ ン0.5mg/dl,尿 酸3.omg/dl.P4.6mg/dl,

Fig.2. Urcthrogramshowcddefectanddeformitybycalculi

inposteriorurethraandseminalvesicles。

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内島 ・ほか:小 児 ・精嚢結石 1845

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一.齢

Fig.3.Inthefirstoperation,thestoncintheposterior

urcthrawasext三rpatedwithdifficulty.

奮 G 2 3

Fig.4.Thestonesconsistedofmagnesium

phosphate・

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Fig.5.Beforethesecondoperationplainx-rayshowed

scveralsmallstonesinseminalvesicles.

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1846 泌 尿紀要30号12巻1984年

Fig.6.PIainx-rayaftertheoperation.

ca8.!Bmg .id1,Na142mEq/l,K4PmEq/l,cno6

mEq〃 ・

X線 学的検査:IVPで 上部尿路に異常を認めず.

骨盤部X線 撮影 で恥 骨上に栂指頭大お よび小指頭大 の

不規則楕 円形 の結石様陰影 を認め,そ の下方に米粒大

以下の結石様陰影を2~3個 ずつ両側に認めた(Fig.

5).尿 道X線 造影では後部 尿道か ら膀胱頚部にか けて

結石に よる圧迫 のための変形 を認め た.

以上の所見 ならびに前回の手術時所見 よ り両側精嚢

結石 と診断 し,同 年8月12日 手術 を施行 した.

手術時 所見:前 回の手術搬痕 上を切開 して,膀 胱 後

方に達 し精嚢 を露 出した.精 嚢は周囲組織 と強固に癒

着 してお り精嚢 全体を露出するこ とが困難 であ ったた

め,精 嚢上部の一部を 切開 した後,結 石を摘出 した.

その際 両側射精管 に米粒大の結石の存 在を認め,同

rl寺にその結石 を摘 出した.術 後経過 は良好 で骨盤部X

線撮影 で一部の遺残結石は存 在す る ものの大部分の結

石陰影は消失 していた(Fig.6).そ の後現在 まで臨

床症状は とくに存在せず,遺 残結石 の増大 もと くに認

め られていない.な お赤外線分光分析に よる結石成分

の分析 では リン酸マ グネシ ウムアンモ ニアであ った.

考 察

精 路 の 結 石 症 は1765年Hartmani)が 最初 に 報 告 し,

精 嚢 結 石 に つ い て は1827年Collardi)が 最 初 に 報 告 し

て い るが 内 容 の 詳細 に つ い ては 不 明 で あ る.本 邦 では

1935年 石田2)が精嚢結 石の剖検例 を報告 したのが最初

で,こ れは 本邦 最初の精路結 石に も 該当す る.以 後

1983年12月 末 までにわれわれの検索 しえた限 りでは精

路結石 は自験例 を含め20例 が報告 され ている(Table

1).そ の発生部位 は精細管内結石1例(山 本3)),精 管

結 石4例(傑 脇4).水 本5),西 本6).久 志 本7)),精 嚢結

石10例(石 田2),並 木8),古 玉91,田 端10),福 田ll),山

崎12),稲 葉13),熊 崎14),自 験例),射 精管 結石4例

(池上15),古 玉9),水 本16))お よび精路 と交通ある嚢腫

内結石の1例(正 木1))で ある.こ のほか佐藤 匹7)(1929)

は精系結石 の一例 を報告 しているが,精 路結石か どう

か判然 としないため,今 回 の検索例か らは除外 した,

自験例 では結 石は精嚢 のみ ではな く射精管に も存在 し,

その一部が尿道 に露 出 した ため排尿障害の原因 となっ

た ことが示唆 された.

本邦 精路結 石20症 例 中,30歳 台が8例 ともっとも多

く(40%),つ いで40歳 台4例,50歳 台3例 で,自 験

例は本邦最年少報告例 であ る.患 側は不明4例 を除 く

16例 中右側6例,左 側7例,両 側3例 で,と くに左右

差を認め なか った.

精嚢結石 の発 生 頻度につ いては,Fulleri)(1913)

は精嚢の手術 を 施行 した240例 中2例,SmithiS)ら

(1923)は 精嚢の手術 を施行 した77例 中1例ec本 症を

認めた と報告 し,Banner19)ら(1982)も 精嚢結石の

項で,本 症はまれ であると記載 している.ま た稲葉13)

ら(1979)は 血精液症22例ec経 直腸的超音波断層法を

施行 し,2例 に本症 の発生 を認め ている.

精嚢結 石の発 生原因につ いては精嚢内容物の滞留,

濃縮が重要である とされている.Robin1)は 精嚢内容

物の滞留,貯 留に よ り形成 された無定形 の小体

(Sympexin)が 核にな りそれに 石灰 質が 沈着 し形成

され るとし,と きに結 石核 内に精子 を含む と述べてお

り,滞 留,濃 縮を生 じる原 因 としては(1)局 所の流

通障害,(2)長 期間の射精停 止などが あげ られてい

る・Schwarzwald1)(1928)は 結石形成 と精路の炎症

性病変 との間に深い関係がある ことを指摘 し,6年 間

淋疾を罹患 していた症例や精嚢の癒 着性病変に よって

生 じた精嚢小胞内に 発生 した 結石 症例を 報告 した.

Oberdorferi)(1931)も 本症が重症結核患 者ecよ く認

め られ ると報告 してい る.本 邦精路結石20症 例中,流

通障害 とな りうる炎症性病変を有 していた例 としては

精管結石4例 中に副睾丸結核が2例,精 嚢結石10例 中

副睾丸炎 お よび前立腺炎が各1例,な らびに前立腺結

石が2例,射 精 管結石4例 中 淋疾が2例 と合 計8例

(40%)を 認め るが,臨 床上精路 の流通 障害があきら

かに存在 した ことを示す所見は左精管末端部の異常拡

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Tablel.stonesofseminaltractinJapaneseli〔craturc

Ne.発 表 者 年 患報告年 主訴齢 側 結石の数 ・大 きさ ・形状 ・色 赤外線分析 治療法 合併症

1.精 細 管内結石

1山 本 治

H.精 管結石

1森 脇三朗

196333 無精子症

195531右 尿意頻 数 ・腰 部倦怠感

2水 本龍助 ・ほか196244

3西 村武久 ・ほか197230

4久 志本俊郎198219

IH.精 嚢 結石

1石 田和義

2

3

4

5

6

7

8

9

10

並木徳重郎

古玉 宏 ・ほか

田端重男

福 田和夫 ・ほか

山崎義久

稲葉 正 ・ほか

稲葉 正 ・ほか

熊崎 匠 ・ほか

自験例

左 左下腹部痛 ・肋膜炎

右 右下腹部痛 ・血精液症

左 血精液症

193555左 剖検

196041

196434

196637

197041

197259

197944

197952

198383

19847

両 血精液症

血精液症 ・射精痛 ・不妊

左 腎結石の精査

右 右陰嚢部痛 ・反復高熱発作

右 血精液症

両 尿路感染症の精査

両 排尿終末時痛

N.射 精管結石

1池 上 茂 ・ほ か196231左

2古 玉 宏 ・ほ か196436

3古 玉 宏 ・ほ か196466

4水 本 龍助 ・ほ か197122

血精液症

左 血精液症 ・射精痛J

右 血精液症

左 血精液症

1個 ・円形状 ・淡紅 色

2個 ・腕頭大 ・黄 白色(一 部褐色)

小指頭大 ・軟結石 ・黄白色(一 部褐色)

可個 ・小指頭大 ・不整形 ・柔 らかい

1個 ・3×3.5mm

1個

4個 ・小豆大

小豆大 ・不規則楕円形 ・褐黄色

小豆大 ・梢 長方形 ・淡黄褐色

米粒大 ・不規則菱形

多数 ・米粒大 およびそれ以下

38個 ・軟骨様の膠質物質

1個 ・アズキ大

5個 ・半米粒 大か ら米粒大 ・黄色

1個

2個 ・各25× ↑5田m

7個 ・半米粒 大か ら小指頭大

1個 ・エン ドウ大 ・硬い粘土状

黒褐 色の間質に帯茶灰色の石灰化層

10余 個

1個 ・栂 指頭 大

2個 ・半 米粒大 ・黄色 ・米粒大

睾丸生検

リン酸塩 ・炭酸塩 ・蛋 白質 摘出

リン酸塩 ・炭酸塩 ・蛋 白質

リン酸Ca・炭酸Ca・ 蛋白質 摘出

結石溶解⇒結石縮小

リン酸ア ンモニウムマ グネ 摘出

シウム 左精嚢の摘 出

リン酸石灰 ・炭酸石灰

炭 酸Ca・ リン酸Ca

リ ン酸Ca・ 炭 酸Ca

精嚢摘出

摘出

保存的

精嚢摘出

摘出

保 存的

リン酸マ グネシウムアンモ 摘出

ニ ウム

リン酸Ca・ 蛋白質

リン酸Ca・ 蛋白質

リン酸Ca・ 蛋白質

炭酸Ca・ リン酸Ca

左精嚢摘出

左精管膨大部および

射精管起始部の切除

摘出

摘出

自然排石(半米粒大)

両側副睾丸結核

左副睾丸結核

左精管末端部の異常

拡張

穿孔性腹膜炎

精嚢 の石灰化

左腎結石 ・無精子症

右副睾丸炎 ・肺結核

精嚢嚢腫

前立腺炎

前立腺結石

尿道結石

淋疾

淋疾

蝿サ

う轟

おミ

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1848 泌尿系己要30巻12号1984年

張 を認めた久志本7)の 症例を除けばほか の例 では判然

としない.自 験例において も泌尿器系 の厩往は と くに

な く,1回 目の手術で摘出 した後 部尿道結石 も精路結

石が原発 と考え られ るので結 石形成 の原因に局所 の流

通障害が関与 していたか どうかは不 明である,

精路結石に精路の石灰化をと もな う事突 も知 られて

いる20).精 路 の石灰化は結 石と比較す るとそれほ どま

れ ではな く,と くに糖尿病症例 では高頻度に合併する

ことが報告 されている2旦・22).Chiari23)は 精路の石灰

化の原因 と して(a)炎 症性 と(b)非 炎症性 の2

つに 分類 し,炎 症性の場 合は上皮が石灰化 し,と きに

内腔が閉塞す ることもあ り,い っぽ う非炎症性 では内

腔は正常の ことが多 く,な か でも老人性変化では筋層

が石灰化 し,糖 尿病 では動脈 の石灰化を合併す る こと

が多いとした.本 邦に おいて精路結石 と合併 した精路

の石灰化の報告例は並 木a)の1例 のみで,こ の例 では

精嚢上皮の石灰化を認 め,炎 症性に よる ものであるこ

とが示唆 され る.自 験例 では精嚢上皮に石灰化 あるい

は炎症性所見を認めなか った.

精路結石は尿路結石 と異 な り,あ ま り硬 くは な く,

泥状 あるいは 砂状 で 容易に 指 で破砕 しうる ことが多

い15).結 石成分については尿路結石では シュウ酸 カル

シウム ーリン酸カル シウム混合結 石が約80%を 占める

のに対 して24),精 路結石 では リン酸塩,炭 酸塩 および

蛋白質か らな ることが 多 く,自 験 例では リン酸 ア ンモ

ニウムであ った.ま た 結石の 核 内に精子を 認めた 池

上15)らの報告 もある.

精路結石,と くに精嚢結石は多発する傾 向があ り,

Beyer2)(1916)は156個,Fulier1)は240個,Alber2)は

200個 の結石 を報告 した.本 邦に おいても古玉9>ら は

38個 の膠質物 質の存在 した例を報告 し,そ のほかに自

験例を含めて8例 にお いて2個 以上 の結石が認め られ

てい る.結 石 の大 きさはおお よそ米粒大か ら小豆 大が

多 く,本 邦では熊崎14)らの報告例のi.5×2×3cmの

ものが最大である.

精路結 石に ともな う臨床症状 と して正木1)は(1)

射精障害:射 精時痛,性 欲の刺激,血 精液症,精 子欠

乏症,精 液中 の砂糧,陰 茎強 直,(2)排 尿障害=排

尿時 お よび排尿終末時痛,頻 尿,血 尿,排 尿困難,

(3)腎 臓症状1腎 疵痛 をあげ ている.本 邦例に おい

ては初発症状 として血 精液症が8例(と くに射精管結

石 では全例)と もっとも多 く,下 腹部痛や膀胱炎症状

を示す症例 も存在 した.い っぽ うJames25)ら(1913)

け腎結石を思わせ る症状を呈 した症 例を経験 し,そ れ

が精嚢結石であ った ことか ら,腎 結 石に よる症状 の揚

合で も十 分に精路の精査を施行する必 要性 を指摘 した,

精路結石 の診断は,最 近 では従来考え られていたほ

ど困難ではな く,自 験例 では 施行 して いないがCT

あるいは超音波検査法 で十分診断可能である13).

治療 の原則は 一応 結石 の 摘出 と考え られ てお り,

本邦例で も手術的に結石 の摘 出を施行 された ものは 臼

験例 を含め20例 中」3例(65%)あ り,こ のほか 溶解液に

よ り結 石の縮 小を認めた報告例 もある.し か しなが ら,

臨床症状が な く,ほ か の疾患(た とえば不妊症)の 原

因 となっていなければ手術を施行する必要性 はなく,

結石周囲の炎症を抑制すれば よい とい う意見14)もある.

自験例にお いても難治性の尿路 感染が持続 し,膀 胱炎

症状 も激 しか ったので手術 を施 行 したが,手 術時精嚢

周囲の癒着が高度 で結石 の全部 は摘 出で きなか ったこ

と,あ るいは本邦 例で手術 を施 行され た10例(精 細管

内結石の1例 お よび睾丸近位 の精管結石 の2例 を除

く)中4例 が患側精 嚢の摘 出を,1例 が患側精管膨大

部の 切除を受けてお り,本 疾患 の治療については今後

とも検討が必要 と考 え られ た.

結 語

膀胱炎症状 を主訴 として来院 し,両 側精嚢な らびに

射精管に結石 を認め,こ れを手術的に摘 出 した7歳 男

児の1例 を報告 し,本 邦20例 の精路結石について文献

的考察 を加 えた.

本症例の治療に際しさまざまの御指導を賜った故駒瀬元治

教授に深謝の意を表します.

文 献

1)正 木 平 蔵:二,三 の輸 精 路疾 患 に就 て 〔1〕輸精

路 結 石 に 就 て.皮 膚 科 紀 要46:12~23,1950

2)石 田和 義:実 験 精 嚢結 石 の一 例.日 医 大 誌6=

875~879,1935

3)山 本 治:精 細 管 内 結 石 に つ い て.日 泌 尿 会誌

54=679~680,1963

4)森 脇 三 朗:精 管結 石に 就 て.臨 床 皮 泌9:983~

987,1955

5)水 本 龍 助 ・柴 田 昭 ・三 宅 則 保:尿 管 結 石 を 思わ

せ た 精 管結 石 の1例.臨 床 皮 泌19:827~829,

1965

6)西 村 武 久 ・松 浦 省三 ・堤 善 弘:右 精 管結 石 のi

例.日 泌 尿 会誌631467~468,1972

7)久 志 本俊 郎 ・有 吉 朝 美:精 管 末 端 部 異 常拡 張 の1

例.西 日泌 尿44:ll21,1982

8)並 木徳 重 朗:精 嚢 腺 石 灰 化 の1例.日 泌尿 会 誌

51:115,1960

Page 8: Title 小児に見られた精嚢および射精管結石の1例 …...1843 泌尿紀要30巻12号 1984年12月 小児に見られた精嚢および射精管結石の1例 埼玉医科大学泌尿器科学教室(主任:岡田耕市教授)

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(1984年5月10日 受 付)