Title 前立腺分泌液の研究 2: 前立腺分泌液及び精液の遊離アミ ......592...

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Title 前立腺分泌液の研究 2: 前立腺分泌液及び精液の遊離アミ ノ酸に就いて Author(s) 田中, 広見 Citation 泌尿器科紀要 (1965), 11(7): 592-601 Issue Date 1965-07 URL http://hdl.handle.net/2433/112787 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

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  • Title 前立腺分泌液の研究 2: 前立腺分泌液及び精液の遊離アミノ酸に就いて

    Author(s) 田中, 広見

    Citation 泌尿器科紀要 (1965), 11(7): 592-601

    Issue Date 1965-07

    URL http://hdl.handle.net/2433/112787

    Right

    Type Departmental Bulletin Paper

    Textversion publisher

    Kyoto University

  • 592

    '泌尿紀要11巻7号

    、 昭和40年7月

    前立腺分泌液の研究

    II前立 腺分 泌液 及 び精 液 の遊 離 ア ミノ酸 に就 い て

    広島大学医学部泌尿器科教室(主 任 加藤篤二教授)

    大学院学生 田 中 広 見

    STUDIES ON PROSTATIC SECRETION

    II. STUDIES ON FREE AMINO ACIDS OF PROSTATIC FLUID AND SEMEN

    Hiromi TANAKA

    From the Department of Urology, Hiroshima University School of Medicine

    (Director • Prof. T. Kato M. D.)

    Using a high voltage paper electrophoretic apparatus of the "Ishidai" type, free amino

    acids in human semen, prostatic fluid and dog prostatic fluid were separated and con-

    firmed. Changes of amino acid composition in human semen following ejaculation were

    also investigated.

    1) With the reference of 17 kinds of pure amino acid crystals as standards, electro-

    phoresis with 100 volt/cm for 30 minutes confirmed 10 fractions including 2 alkaline frac-tions. Among the amino acids studied, overlapping occurred between tyrosin and cystine,

    asparagic acid and phenyl alanine, glutamic acid and methionine, leucine and iso-leucine

    or threonine, varine and serine, and arginine and histidine so that these were unable to

    separate each other.

    2) As the free amino acids in human semen, asparagic acic (phenyl alanine), glutamic

    acid, leucine (threonine) and varin (serine) were demonstrated immediately after fluctua-

    tion, followed by increased numbers in demonstrable amino acids being tyrosine (cystine),

    asparagic acid (phenyl alanine), glutamic acid, leucine, varine (serine), alanine, glycine,

    arginine and lysine.

    3) Among these amino acids, particularlly large amount of asparagic acid, glutamic

    acid and leucine were thought to be contained in the semen.

    4) The level of non-protein nitrogen in human semen was 85 mg/dl immediately after

    fluctuation, followed by a rapid increase with lapse of time and came to the maximum

    level up to 240-260 mg/dl.

    5) The level of free amino acid in human semen was found to be about 70 mg/dl in 1

    hour of ejaculation, followed by gradual increase up to the maximum of 190 mg/dl . 6) As the free amino acids in human prostatic fluid, glutamic acid , glycine, varine

    (serine), arginine, alanine and lysine were found. 7) In the dog prostatic fluid, glutamic acid, lcucine (threonine), varine (serine) , alanine,

    glycine and lysine were demonstrated.

    8) No difference in confirmable free amino acid composition of semen between patients

    complaining of sterility and healthy subjects. However, a slight difference in the total

    level of free amino acid was demonstrated between healthy subjects and patients with

    aspermatogenesis.

  • 田中一前 立 腺 分 泌 液 の 研 究H

    射 精 直 後 の精 液 に含 まれ る遊 離 ア ミ ノ酸 の濃

    度 は非 常 に低 い が,37。Cに 保 温 す る か,又 は室

    温 に放 置 して も非 常 な速 度 で そ の濃 度 が 上 昇 す

    る こ とは 旧 くよ り知 られ て い る.即 ち,精 漿 の

    蛋 白質 含 有 量 は射 精 後 不 動 の ま まで は な く,急

    速 な酵 素 的 変 化 を受 け て非 透 析 性 の蛋 白性 窒 素

    は そ の 濃 度 が ど ん どん減 少 し,同 時 に 非蛋 白性

    の窒 素 や 遊 離 ア ミ ノ酸 が蓄 積 して 終 りに 近 くな

    つ て 遊 離 ア ソ モ ニ ヤ が蓄 積 す るの で あ る.

    ヒ ト精 液 中 の遊 離 ア ミノ酸 に つ い て の 記 載 と

    し て は,精 液 中 に遊 離 チ ロ ジ ン を 見 出 し た

    Wagner-Jauregg(1941年)の 研 究 が 先 づ 上 げ

    られ る が,そ の 後Jacobsson,Lundquist,

    Adamu.Korting,Smith,石 橋,西 浦 等 は ペ

    ー パ ー ク ロマ トグ ラ フ ィ ーを 用 い て そ れ ぞ れ 約

    10数 種 の ア ミ ノ酸 を 分 離 確 認 して い るが,そ の

    種 類 に つ い ては 必 ず しも一 致 して い な い.

    私 は 正 常 精 子 数 保 有 者 の精 液 の 遊 離 ア ミノ酸

    の 高 圧 濾 紙 電 気 泳 動 に よ る同 定,定 量,及 び そ

    の時 間 的 消 長 に つ い て,減 精 子 症 及 び 無 精 子症

    患 者 の精 液 の遊 離 ア ミノ酸 とを 比較 検討 し,又

    ヒ ト前 立 腺 分 泌液 と犬 前立 腺 分 泌液 の遊 離 ア ミ

    ノ酸 の 同定 を行 つ た の で報 告 す る.

    実 験

    1.ヒ ト精液の遊離ア ミノ酸の同定,定 量及びその

    時間的消長について

    A.実 験材料及び実験方法

    1)実 験材料

    ①精液=用 手法に より清潔な ガラス容器 に直接採取

    した精液を液 化す るのを待つて,そ の一部 について精

    子数を測定し,他 の1ccを37.Cの 恒温槽の中に保

    存 した.

    ②ア ミノ酸:グ ル タ ミン酸 他15種.

    ③呈色試薬:0.2%ニ ソヒ ドリン ・n一ブタノール溶

    液 を使用 した.

    ④ クエ ソ酸緩衡液:2LOO89の クエン酸をN・NaOH

    200ccに 溶解し,水 を加 えて500ccと した後,pH5.0

    ±0.1と な る様 に補正 した.

    ⑤装置:医 歯 大式水平高圧炉紙電気泳動装置を使用

    した.本 装置は高圧 整流器 と低温泳動槽の2部 分 より

    成 り,電 圧は直流10000V迄,電 流 は50mAま でを任

    意に変え ることができる.低 温泳動槽内には高圧泳動

    593

    の際最 も障碍 とな る発熱 と炉紙面の乾燥 を防止す るた

    め冷却溶媒 としてn一 ヘキサ ソを,寒 剤 として氷 と塩

    を使 用し,電 極は白金 を使用 した。

    緩衡液 にはギ酸,酢 酸,水(5:15:18)(pH1.5)

    混和液 を使用 した.

    炉紙 は東洋炉紙No.50(40×2cm)を 用 いた.

    2)実 験方法

    ① 試料作製法=精 液1ccに6倍 量 のメタノール ・ア

    セ トソ混液(3:1)を 滴下混和後30分 間氷室内に静

    置後3000rpm5分 間遠心 した上清を と り,80.C以

    下の湯水上で減圧蒸溜し,0.5cc迄 に濃縮 し,こ れに

    4ccの エーテルを混和撹拝 し,再 び3000rpm5分 間

    遠心 して下層透明部分をと り炉紙への塗布 試 料 と し

    た.

    ②泳動方法:瀕 紙を緩衡液に浸漬した後大型炉紙の

    問に挾んで,余 剰の緩衡液を充分吸いと り,枠 に固定

    してか ら正極側端 よ り7cmの 部位 に ミクロピペッ ト

    にて試料を横 に線状に塗布 し,炉 紙両端 を正負両電極

    槽に浸 し100V/cm30分 間泳動 した.

    多{' 一誘 雛織

    灘灘鎌灘 響懇騒写真1高 圧炉紙泳動像

    ③ 呈 色 法:泳 動 後湧 紙 を 乾 燥 し,0.2%ニ ン ヒ ド リ

    ソ水 飽 和 ブ タ ノー ル溶 液 を 噴 霧 し,100.C5分 間 加 熱

    して発 色 させ た.

    ④ 定 量 法:

    イ.グ ル タ ミソ酸 検 量 線 作 製:グ ル タ ミン酸 を50~

    SOOγ/cc含 有 す る溶 液 を作 り,そ れ ぞれ に1%ニ ン ヒ

    ドリン溶 液2ccを 加 え た 後100.C沸 騰 水 中に て20分

    間加 熱 発 色 させ て,冷 却 後 クエ ン酸 緩 衡 液5ccを 加 え

    全 量 を8ccと し,波 長570mμ の フ ィル タ ー・を 用 い

    て吸 光 度 を 測 定 し,検 量 線 を 作製 した.こ の検 量 線 は

    Lambert-Beerの 法 則 に 従 う こと を認 め た.

    ロ 試 料 中 の全 遊 離 ア ミノ酸量 の測 定:前 記 作 製 法

    で得 た 試 料 を0.01cc取 り,水 を加 え て1ccと した もの1

    に1%ニ ソ ヒ ド リン溶 液 を2cc加 え加 温,100。C,1(ン

    分 間 煮 沸 し発 色 後冷 却 し クェ ソ酸 緩 衡 液5ccを 加 え,

  • 594 田中一前 立 腺 分 泌 液 の 研 究H

    570mμ のフ ィルターにて吸光度を測定 し上記 グル タ

    ミソ酸検量線 よ り全遊離 ア ミノ酸量を算出 した.こ の

    試料 中にはア ミノ酸ばか りでな く,ア ミソ,ペ プチッ

    ド類 も含 まれ るので正確 には全 ニソヒ ドリソ陽性物質

    量 の測定を行なつた ことにな る.こ の際発色濃度が著

    し く高い場合は適宜稀釈して比色を行なつ た.

    ハ.試 料中の非蛋 白性窒素の測定:前 記作製方法で

    得 た試料 の0.1ccに 硫酸を加 え強熱す るとNPNは 硫

    化 されて硫酸 アンモニウムとな る.生 じた硫酸 アソモ

    ニウムに水5ccを 加え,こ の中の1ccを と り水3cc

    を加 えた後ネス レル液 を作用 させる とNPN含 量に相

    応す る黄色調 に発色す るか らこれ を光電比色計を用 い

    比色定量 した.

    B.実 験成績

    1)ア ミノ酸 の同定

    泳動に よつ て展開 されたア ミノ酸 の同定法には被検

    試料 と既知ア ミノ酸を2枚 の炉紙 の原点に塗布し これ

    を並べて泳動し,既 知 ア ミノ酸 と同一 の移動値を もつ

    被検試料の発色 を見 出す平行法と,被 検試料に既知 ア

    ミノ酸の適量を混合 して泳動 し,こ れ を未処理の被検

    試料 の泳動像 と比較 して増強 された発色位置を求 める

    混合法があ り,又 各 ア ミノ酸の相対移動度 も参考 にす

    ることがで きる.Wieland等 は30例 の泳動像につ い

    て実験 した結果,各 ア ミノ酸の移動距離がペ ーバーク

    ロマ トグラフィーにおけ るRf値 と同様特徴的な点が

    ある ことを認めている,著 者は これ らの平行法及び混

    合法 と共 に試料にグルタ ミン酸及び リジンを混入し,

    この両者の距離を1,0と して各ア ミノ酸の相対的移動

    距離を求め,第1図 に示す様な結果 を得た.即 ち負極

    ②一/00-一 一

    原Cノ ηi点A8C∠)EFG〃JJ

    A-… ・トリプ トファンE・ 一・・ノ旬 ンセリン

    B-… チロ ジンチスチンG-一 ・・アラニン

    C・… アスパラギン酸 、乃 ニールアラニン 〃… ・・グリシン

    0-一 ・クウレタミン函餐J-一 一一」アルギニン

    E・ 一一一ロ イシン、トレオニン 」一一一一一リジン

    第1図 各 種 ア ミ ノ 酸 の 泳 動 距 離(/00V/cm・30分)

    (pH!.5)。

    口 囲]捌[匪 互]甕[匪

    側 よ りリジン,ヒ スチジソ,及 び アルギニソの塩基性

    分画,次 いでグ リシンを先頭 とす る中性分 画 か ら な

    る,グ ル タ ミソ酸及 びアスパ ラギ ン酸の酸 性 分 画 は

    pH1.5の 緩衡液 では独立 して現われず,メ チオニソ

    及び フェニールアラニンの分画と重畳 して出現 した.

    2)精 液中の遊離 ア ミノ酸 の泳動像

    射精後精液の液化す るのを待 つて,除 蛋白,脱 脂後

    濃縮 した試料0.02ccを ミクロピペッ トで炉紙に塗布

    し,高 圧炉紙電気泳動にか け,ニ ン ヒドリンを用 いて

    [][]猛[[==]coE戸

    C-一… アスパラギン酸 、フェニールアラニン

    tつ一…tク,ル9ミ ン酸

    ε ・一… ロイシン、トレオニン

    F-・…/N'リ ン、セ リン

    第2図 精 液 液 化 直 後 の 遊 離 ア ミ ノ酸

    37。CIncubation

    発色 させた炉紙上 には第2図 に示す如 き泳動像が えら

    れ た.即 ちアスパ ラギ ソ酸(フ ェニール ア ラニン),

    グルタ ミン酸,ロ イシソ(ス レオニソ),パ リソ(セ

    リソ)を 認めた.呈 色濃度か ら推定 され るア ミノ酸 の

    量 としてはアスパラギ ン酸 とグル タ ミソ酸が多 い様 で

    あつた,以 後25日 間 にわたつて370C恒 温槽 内に貯 え

    た精液についてその遊離 ア ミノ酸 を観察 してみた.

    口θCOε 戸 θ 〃ZJ

    B-一… チロジンチスチン0-一 一一一アラニン

    C-… アヌパラギン醗7.ニ ールアラニンH-一 一一・グソシン

    D-一… グルタミン醒 ∫一一一一アルギニン

    E-一一一・ロィシン,トレオニン 」一一一一・リジンF-一・一・バ リン セリン

    第3図 精 液 中 の 遊 離 ア ミ ノ酸(射 精 後1時 間 ~

    7日)37。CIncubation

    射精後1時 間から7日 の間 には第3図 に示す如 く,

    チロジ ソ(チ スチソ),ア スパラギ ソ酸(フ ェニール

    ァラニソ),グ ルタ ミン酸,ロ イシン(ス レオニン),

    バ リソ(セ リソ),ア ラニソ,グ リミソ,ア ルギニ

    ン,リ ジ ソを分離 した.こ れ らのア ミノ酸 の中で もア

    スパ ラギ ン酸,グ ルタ ミン酸,戸 イシンは特 に炉紙上

    に強い呈色を示 していた.源 紙上 につ くるア ミノ酸 の

    呈色濃度は射精 後時間 の経過 と共に24~48時 間迄 は次

    第 に濃 くな るために炉 紙に塗 布す る試料 を漸次稀釈 し

    なければな らなかつ たが,炉 紙上 に現われ る遊離 ア ミ

    ノ酸は射精後1時 間か ら7日 間迄 は既述 した約9種 の

    ア ミノ酸が常に存在 し,そ の種類 につい ては増加や減

    少はみ られなかつた.

    射精後8日 ではチ ロジソ(チ スチン),グ リシンの

    帯が炉紙上か ら消失 した(第4図)

    射精後14日 ではチ ロジソ,グ リシ ソの他アルギ ニソ

    の帯が消失 していた(第5図)

    射精後24日 では アスパ ラギ ン酸(フ ェ:・一・ルア ラニ

    口[コ巫]=工coEF(}1

    、'c・;一一一7スパラギン酸 フ屯ニールアラニン σ・・一・アラニンD--t.クウレタミン酸 ヱ「"・・アルギニン

    E-… ロイシン トレオニン 」… 一・リジン

    β・一… バつン.セリン

    第4図 精 液 中 の 遊 離 ア ミ ノ酸(射 精 後8日)

    37'CIncubation

  • 田中一前 立 腺 分 泌 液 の 研 究H 595

    口1 lllll 目 嘱C∠)EFG-J

    C… ・アスパラギン酸=左 ニールァラニン ノ「・・一・・バリンセリン

    σ一・・クリレタミン酸 θ・… アラニン

    E-一・・ロィシン,トレオニンJ-・ … リジン

    第5図 精 液 中 の 遊 離 ア ミ ノ酸(射 精 後14日)

    37。CIncubation

    口/so

    oEFGJ

    D-… クりレタミン酸G-一 一一一アラニン

    E.一一"一ロイシン トレ才ニンJ-。 一:一リミラン

    F-・… パリンtセ リン

    第6図 精 液 中 の 遊 離 ア ミ ノ酸(射 精 後24日)

    37。CIncubation

    /ee

    ン)も 消失 し,初 め約9種 認め られ ていた遊離 ア ミ ノ

    酸は,グ ル タ ミソ酸,ロ イシソ(ス レオニン),パ リ

    ソ(セ リン),ア ラニソ,リ ジンの約5種 類 のア ミノ

    酸が見出 され るのみ となつ た(第6図)

    以上は正常精子数保有者即 ち精子数100×106以 上

    の ヒト精液の高圧炉紙電気泳動に よる遊離 ア ミノ酸の

    泳動像であつたが,次 に精子数99~50×106以 下の

    減精子症,無 精子症患者 の精液を同様 の処理を行 なつ

    て,射 精後3時 間 の精液の遊離ア ミノ酸の高圧湧紙電

    気泳動を試 みた.

    高圧炉紙 電気泳動に よつて炉紙上に検出された遊離

    ア ミノ酸 は正常精子保有者 の精液にみ られたそれ と同

    様 で,ア スパ ラギ ソ酸,グ ルタ ミン酸他7種 の遊離ア

    ミノ酸であつた.

    3)精 液遊離 ア ミノ酸,非 蛋白性窒素の消長 につい

    1234567891e〃12fj#石 「16〃tets20212223242∫

    DaySafrerζ ノσσσ6.

    第8図 精 液 中 の 全 遊 離 ア ミ ノ酸 量 の 消 長

    37。CIncubation

    精液中の全遊離 ア ミノ酸量は,射 精後37。C恒 温槽

    にて1時 間を経た精液の中には約70mg/d1の 遊離 ア

    ミノ酸が含 まれていた.そ して射精 後48時 間迄は急速

    に増加を続 け,最 高190mg/d1の 値を とつた.以 後

    約20日 間頃迄は170~190mg/d1の 間を増減し,そ の

    後は遊離 ア ミノ酸 は減少 し,25日 後 にはUOmg/d1の

    値 をとつていた(第7、8図)

    一方精液中の非蛋 白性窒素量 の消長についてみ てみ

    る と,液 化直後の精液中 には平均約85mg/d1の 非蛋

    悌200「

    略/50

    100

    切「

    1

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    ハ \ ~ ・

    50

    L_!23456789fO〃12

    伽ftsafierEJ'acut.

    第7図 精 液 中 全 遊 離 ア ミノ酸 の消 長

    37。CIncubation

    5じ一Hours読 θ〆ζ々 cα∠.

    第9図 精 液 中 のNPNの 消 長

    37。CIncubation

  • 596

    粥1

    田中一前 立 腺 分

    性一/2345678910〃12/e14/51617rS/9rO2tn2ヲ242∫

    DqysafierEJ'ocuL.

    第10図 精 液 中 のNPNの 消 長

    37。CIncubatien

    泌 液 の 研 究H

    白性窒素が含 まれ ていたが,時 間 と共 に これ は急速 に

    増加 し,射 精後約4日 迄は増加 をつづ け,最 高約260

    mg/d1に 迄達 した.

    その後は240mg~260mg/d1の 間の増減を くりか え

    し,ほ とん ど一定 の値を とるが,約20日 後に至 り非蛋

    白性窒素の値 は下降 しは じめ,25日 後 には200mg/d1

    の値を とつていた(第9,10図)

    4)不 妊 を訴 える患老の精液の遊離 ア ミノ酸量につ

    いて

    不妊を主訴 として来院 した患者の精液の全遊離 ア ミ

    ノ酸量を正常精子数保有老のそれ と比較 してみた.

    精 液の液化す るのを待つて測定 したが正常精子数保

    有者では80~1201ng/d1の ア ミノ酸量 を示 し,平 均

    94mg/d1減 精子症では80~100mg/d1平 均92mg/

    d1,無 精子症 では42・-68rng/d1の 問の値を と り,平

    均55mg/d1で あつ た(第1表)

    H.ヒ ト及び犬の前立 腺分泌液 の遊離 ア ミノ酸の

    同定

    A.実 験材料及び実験方法

    第1表 精液中の ア ミノ酸量の比較

    氏 名

    竹群

    1小1

    O

    0

    副 清

    西

    無 山

    精 砂

    子 佐

    症 奥

    精 液 量

    5cc

    4CC

    4.5cc

    5cc

    2cc

    3.5cc

    2.3cc

    1.4CC

    5.OCC

    1.8cc

    4.7cc

    2.7CC

    精 子 数

    150×lO6

    100×106

    175×106

    200×106

    9×106

    18×106

    12×106

    29×106

    遊離 ア ミノ酸量

    88mg/d1

    84mg/dl

    112mg/dl

    95mg/d1

    82mg/dl

    96mg/d1

    80mg/d1

    100rrlg/dl

    55mg/d1

    58mg/d1

    42mg/d1

    68mg/dl

    睾 丸 生 検 像

    Hypoplasiatestis

    Hypoplasiatestis

    Hypoplasticspermatogenesis

    Spermatogenesisの 障 害

    HypoPlasiatestis

    ① ヒ1・前 立 腺 分 泌液

    成 人 健 康 男 子 に つ い てProstaticmassageを 行 つ

    て採 取 した 分 泌 液O.5ccに つ い て,メ タ ノ ール ・ア セ

    トン混 液 及 び エ チル エ ーテ ル に て除 蛋 白,脱 脂後0.1

    cc迄 に濃 縮 し,そ のO.04ccを 炉紙 に塗 布 して 高圧 炉

    紙 電 気 泳 動 を行 なつ た.

    ②犬前立腺分泌液

    雄性成犬を使用し前立腺分泌液を経尿道的 に採取 で

    き る様 た手術を実施 した後,塩 酸 ピロカル ピソ ユmg

    を静注 し,前 立腺分泌液を採取した.前 立腺分泌液の

    10ccを 精液に行つた と同じ方法 で除蛋 白,脱 脂 し,

    0.5cc迄 減圧蒸溜 によ り濃縮 し,そ の0・02ccを 炉紙

  • 田中一前 立 腺 分 泌 液 の 研 究H

    に塗布 し高圧 炉紙電 気泳動 を行なつた.

    B.実 験成績

    ① ヒト前立腺分泌液の遊離ア ミノ酸

    Prostaticmassageで 採取 した前立腺分泌液を37

    ℃ に1時 間放置後泳動 を行つた 炉紙上 には

    グルタ ミン酸,グ リシ ソ

    バ リソ(セ リソ),ア ルギ ニソ

    ア ラニン,リ ジソ

    の6種 の遊離 ア ミノ酸を認めた(第11図)

    口、OFσ 〃lJ

    D・ 一一・グルタミン酸 〃一一一一一グリシン

    E-一・・パリンsセリン1-一 一・一アルギニン

    θ …一アラニン アー一一一リジン

    第11図 人 の 前 立 腺 分 泌 液 中 の 遊 離 ア ミ ノ酸(分 泌1

    時 間 後)370CIncubation

    ②犬前立腺分泌液の遊離 ア ミノ酸

    塩酸 ピロカル ピソ刺戟 にて採取 した前立腺分泌液10

    ccを370C,24時 間 放置後泳動 を行 なつたが約6種 の

    遊離ア ミノ酸 を分離 した.

    グルタ ミソ酸,ロ イシソ(ス レオニソ)

    バ リソ(セ リン),ア ラニソ

    グ リシソ リジソ

    ヒ ト,犬 前立腺分 泌液 中にみ られた遊離 ア ミノ酸は

    泳動後の炉紙 の呈色濃度 よ り見 て,い つれ も同じ程度

    の呈色濃度 を示 していた.

    考 按

    ヒ ト精 液 の ア ミ ノ酸 に つ い て の記 載 と し て

    は,精 液 中 に遊 離 チ ロジ ン を見 出 したWagner-

    Jaureg9(1941)の 研 究 が 先 づ上 げ ら れ る.

    1944年Jacobsson,Consden,Gordon,Martin

    は ペ ー パ ー ク ロマ トグ ラ フ ィー に よ り ヒ ト精 液

    中 に遊 離 ア ミノ酸 が存 在 す る こ とを 証 明 し,同

    時 に精 液 を室 温 に放 置 した と き時 間 の経 過 と共

    に炉 紙 上 に現 われ る ア ミノ酸 の ス ポ ッ トの呈 色

    濃 度 が 次 第 に濃 くな る こ とを見 出 し て い る.

    Jacobsson(1949)は 精 液 中 の非 蛋 白性 窒 素 及

    び遊 離 ア ミノ酸 の α一ア ミ ノ窒 素 の 測 定 に よ り

    射 精 後37。C,20分 で は 非蛋 白 性 窒 素 が ユ00

    mg%,遊 離 ア ミ ノ酸 は50mg%以 下 で あ るが,

    時 間 の経 過 と共 に 増 加 し,射 精 後1時 間 では 非

    蛋 白性 窒 素260mg%,遊 離 ア ミ ノ酸60mg%

    を 示 して い た と し,ペ ー パ ー ク ロマ トグ ラ フ ィ

    ー に よ り精液 中 の遊 離 ア ミノ酸 と し て,セ リ

    597

    ン,グ リシ ン.ス レオ ニ ン,ア ラ ニ ソ.バ リ

    ン.イ ソ ロイ シ ソ,ロ イ シ ン,フ ェ ニ ール ア ラ

    ニ ソ,リ ジ ン,ア ル ギ ニ ソ.ア ス パ ラギ ソ酸,

    グル タ ミン酸 等12種 の ア ミノ酸 を 分 離 し て い

    る.Christensen(1947)は ヒ ト精 液 の ア ミ ノ

    酸 窒 素 が射 精 直後 で は15mg/100m1で あ るが

    12時 間後 に は100mg/100m1に も達 す る と し,

    Lundquist(195ユ)も 同様 な 実 験結 果 と共 に ペ

    ー パ ー ク ロマ トグ ラ フィ ー に よ り ア ラ ニ ン.グ

    リシ ン.バ リン.ロ イシ ン,セ リン,ス レオ ニ

    ン.ア ス パ ラギ ン酸,グ ル タ ミン酸,そ の 他 微

    量 の チ ロジ ソ,フ ェ ニー ル ア ラ ニ ン,プ ロ リソ

    を精 液 中 に見 出 して い る.

    一 方本 邦 で は石 橋(1954)は 人 精 液 の 構成 ア

    ミノ酸 と して ペ ー パ ー ク ロマ トグ ラ フィ ー に よ

    り,ア ス パ ラギ ン酸,グ ル タ ミソ酸,セ リン.

    グ リシ ン,ヒ ス チ ジ ソ.ア ル ギ ニ ソ,リ ジ ソ,

    ア ラニ ン,チ ロジ ソ,メ チ オ ニン,バ リソ,ロ

    イ シ ン,イ ソ ロイ シ ン.フ ェ ニー ル ア ラニ ン.

    プPリ ン のユ4種を分 離 確 認 で きた と し,こ れ ら

    遊 離 ア ミノ酸 が 射 精 後5分 以 内 の精 液 に は認 め

    られ なか つ た が,射 精 后30分 よ り先 づ グ ル タ ミ

    ン酸 が 呈 色 し初 め,1時 間 で セ リン.4時 間 後

    に は ア ス パ ラギ ン酸 が 呈 色 し,8時 間後 に は前

    述 した如 き遊 離 ア ミ ノ酸 が 全 て星 色 す る と述 べ

    てい る.叉 精 子 と精 漿 の間 の構 成 ア ミ ノ酸 の差

    につ い て もみ てい るが,両 者 の間 に は大 差 を認

    め て い な い.西 浦(1960)も ヒ ト精 液 につ い て

    二 次 元 ペ ーパ ー ク ロ マ トグ ラ フ ィ ー を行 い,射

    精 後 漸 次 ア ミ ノ酸 の種 類 の増 加 す る こ とを認 め

    て い る.即 ち 射 精 直 後 で は グル タ ミン酸,ア ラ

    ニ ンLセ リン の3種 の ア ミ ノ酸,射 精 後30分 で

    は ア ス パ ラギ ン酸,グ ル タ ミン酸,グ リシ ン,

    ア ラ ー ン.ロ イ シ ン.セ リン,ス レオ ニン の7

    種 を,1時 間 後 に は ア ス パ ラ ギ ソ 酸,グ ル タ ミ

    ソ酸,グ リシ ソ.ア ラ ニ ソ.ロ イ シ ン,セ リ

    ソ,ス レ オ ニ ソ.ア ル ギ ニ ン の8種 を,2時 間

    後 に は ア ス パ ラ ギ ン 酸,グ ル タ ミ ン 酸,グ リシ

    ソ.ア ラ ニ ン,ロ イ シ ン.バ リ ン,セ リソ.ス

    レ オ ー ン,ア ル ギ ニ ン の9種 の ア ミ ノ酸 を 検 出

    し て い る.更 に5時 間 後 に は ア ス パ ラ ギ ン 酸,

    グル タ ミ ソ酸,グ リシ ン,ア ラ ニ ン,バ リン,

  • 598 田申一前 立 腺 分 泌 液 の 研 究ll

    ロイ シ ン.セ リソ,ス レ オ ニ ン,チ ロジ ソ,ヒ

    ス チ ジ ン.リ ジ ン,ア ル ギ ニ ソ.の12種,10時

    間 後 に は ア ス パ ラ ギ ン酸,グ ル タ ミン酸,グ リ

    シ ン,ア ラ ニ ン,バ リン.β イ シ ソ,プ ロ リ

    ン.チ ス チ ン,セ リソ.ス レオ ニソ,フ ェ ニー

    ル ア ラ ニソ.チ ロジ ソ.ア ル ギ ニン の13種 の ア

    ミ ノ酸 を検 出 して い る.以 上 述 べ た ア ミノ酸 の

    同定 に お い て,い つ れ もペ ー パ ー ク ロマ トグ ラ

    フィ ー が用 い られ て い るが,高 圧 炉 紙 電 気 泳動

    法 に よる精 液 中 の遊 離 ア ミノ酸 の分 離 を試 み た

    報 告 は み られ な い.

    電気 泳動 法 に よ りア ミノ酸 を分 離 せ ん とす る

    試 み は,Consdenが1946年woolhydrolysate

    の 泳 動 分 析 を 行 い,そ の後Haugaard,Wie1-

    and,Grassmann&Hannig等 の 研 究 が み られ

    るが 特 にDurrumは 比 較 的 高 圧(20~25V/

    cm)に よる電 気 泳動 法 に よ り多 数 の ア ミ ノ酸

    分 離 に成 功 した.し か し,こ れ らの方 法 で は蛋

    白質 に比 して は る か に低 い分 子 量 を有 す る ア ミ

    ノ酸,糖 類,ビ タ ミン類,そ の他 の 中 ~低 分 子

    化 合 物 で は 泳動 時 間 が 長 い た め,そ の 間 の炉 紙

    上 の拡 散 が大 で,塩 基 性,中 性,酸 性 の3群 に

    分 離 す る程 度 で個 々の ア ミノ酸 を分 離 定 量 す る

    こ とは 困 難 で あつ た.電 気 泳動 を用 い て分 離 精

    度 を 高 め るた め に は 高 電圧 を用 い て 時 間 を短 縮

    す る必要 が あ るが,こ の高 圧 法 で最 も問 題 とな

    るの は炉 紙 に 発生 す る ジ ュ ール熱 で,こ の熱 を

    奪取 す る様 な 冷却 法 が 施 され な け れ ば塗 布物 質

    の 熱 に よ る変 化 が 起 るば か りで な く,固 定 相 と

    して の済 紙 の 燃 焼 も起 るの で,炉 紙 の 冷 却 及 び

    絶 縁 処 置 に多 くの 工夫 が な され て い る.

    1951年 以 来Mich1,Kickh6fen&Westphal,

    Turba,Lange等 の本 法 につ い ての 報 告 が み ら

    れ,Heilmeyer等 は本 法 を用 いて 血 清 及 び尿

    の残 余 窒 素 部 分 を鮮 明 に分 劃 した.

    高 電 圧 泳 動 装 置 に は泳 動 方 法 に よ り懸 垂 式 と

    水 平 式 が あ り,Mich1,Heilmeyer,佐 野,若

    佐,宮 本,菅 野,Gross,Werner等 の研 究 が

    み られ る,又 泳 動 距 離 を左 右 す る重 要 な 因子 と

    して電 圧,緩 衡 液,炉 紙,温 度 が考 え られ,特

    に緩 衡 液 の種 類 に つ い て数 多 くの報 告 が み られ

    る.

    更 に重 要 な 因 子 とし て炉 紙 上 の 緩 衡 液 の 移 動

    が 上 げ られ る.即 ち泳 動 を始 め る と炉 紙 上 か ら

    緩 衡 液 の蒸 発 が 起 り,一 方 源 紙 の両 端 か らは こ

    れ を補 充 す べ く毛 管 作 用 で緩 衡 液 が 流 れ で く

    る.そ の上 電 気 滲 透 に よ り緩 衡 液 全 体 の 陰 極 側

    へ の移 動 が 起 り,実 際 は これ らが合 成 され,炉

    紙 の各 部 で 大 き さ と方 向 が 異 る流 れ が 出来 る.

    また宮 本 は 懸垂 式 に は電 気 泳 動 とペ ーパ ー ク 戸

    マ トグ ラ フィ ー的 影 響 が作 用 す る の で は な い か

    と述 べ て い るが,若 佐 は この ペ ー パ ー ク ロマ ト

    グ ラ フィ ー的 影 響 は無 視 して よ い と 述 べ て い

    る.

    懸 垂 式 高 圧炉 紙 電 気 泳動 法 を 用 い て佐 野 は血

    清 の 除 蛋 白 液 よ り約35の ニ ソ ヒ ド リン陽 性 物 質

    を検 出 し,梶 田 はNicotin,Codein,Morphin,

    Ohton,Heroin,Chlorpromazin等 の薬 物 の尿

    中 証 明 に 応 用 して い る.

    宮 本 は 水 平 式 高 圧 炉 紙 電 気 泳 動 装 置 の試 作 を

    行 い,同 時 に血 清 の除 蛋 白 液 に つ い て の分 離,

    各 種 ス テ ロイ ドホ ル モ ン,色 素 形 成 菌 の菌 体 成

    分 の ニ ソ ヒ ド リソ可 染 分 画 に つ い て 研 究 を 行

    い,磯,花 崎 も同 様 な研 究 を行 つ て い る.そ の

    他 に 胃液,尿,眼 球 硝 子 体,胎 盤,肝 臓 ホ モ ジ

    ェ ネ ー ト,人 胆 汁 につ い て の 研 究 が み られ る.

    山本 は血 清 の 遊 離 ア ミ ノ酸 に っ い て 医 歯 大 式

    (水平 式)高 電 圧 炉 紙 電 気 泳 動 装 置 を 用 い て実

    験 し,中 尾 が 腐敗 臓 器 中 の遊 離 ア ミノ酸 及 び ア

    ミン に つ い て 佐 野 式(懸 垂 式)高 電 圧 炉 紙 電 気

    泳 動 装 置 に よ り検 して い る.曽 根 も水 平 式 に よ

    り臓 器遊 離 ア ミ ノ酸 の消 長 につ い て検 索 し てい

    る.著 者 は 医 歯 大 式 高 電 圧 湧 紙 電 気 泳動 装 置 を

    使 用 して 先 づ 精 液 中 の遊 離 ア ミノ酸 の 同 定 を 行

    つ た が,射 精 後5~10分 で は ア ス パ ラ ギ ン 酸

    (フ ェ ニ ール ア ラ ニ ン),グ ル タ ミン酸 が 主 に

    証 明 され,そ の他 ロイ シ ン(ス レナ ニ ン),バ

    リソ(セ リン)を 認 め た.石 橋 に よれ ば 射 精 後

    30分 に して初 め て グル タ ミン酸 を確 認 し て い る

    が,著 者 の経 験 で は射 精 後30分 を待 た ず に遊 離

    ア ミ ノ酸 を検 出 した 。 西 浦 も射 精 直 後 に グ ル タ

    ミン酸,ア ラニ ン,セ リン を分 離 して い る .射

    精 後1時 間 で は チ ロ ジ ソ(チ ス チ ン),ア ス パ

    ラギ ン酸(フ ェ ニ ール ア ラ_ン),グ ル タ ミソ

  • 田中一前 立 腺 分 泌 液 の 研 究 豆

    酸,ロ イ シ ン(ス レナ ニ ソ),バ リソ(セ リン),

    ア ラ 乙 ン.グ リシ ン,ア ル ギ ニ ソ,リ ジ ソが 炉

    紙 上 に 出 現 し,以 後 これ らの 各 々 の ア ミ ノ酸 を

    示 す 帯 の 呈 色 濃 度 が24~48時 間 後 迄 は 増 強 して

    も,ア ミ ノ酸 の種 類 の 増 加 は み られ なか つ た.

    西 浦 に よれ ば 射 精 後10時 間 迄 は遊 離 ア ミ ノ酸 の

    種 類 の増 加 す る こ とを 記 して い る.

    これ らの ア ミ ノ酸 は1~2の 種 類 の 差 は あつ

    て も,そ の大 部 分 は ペ ーパ ー ク ロマ トグ ラ フ ィ

    ー で分 離 したJacobsson,Lundquist,石 橋 が 精

    液 中 に見 出 して い る遊 離 ア ミ ノ酸 の種 類 と一 致

    して い た.射 精 後8日 く らいか らは ア ミノ酸 は

    消 失 しは じめ24日 後 には グル タ ミン酸 ロイ シ ン

    (ス レ オ ニ ン),バ リン(セ リン),ア ラニ ン,

    リジ ンが 残 るの み となつ た.こ れ はMannも

    述 べ て い る如 く,遊 離 ア ミノ酸 が 分 解 して 遊 離

    ア ンモ ニヤ が 蓄 積 す るた め と考 え られ る.

    次 に この ア ミ ノ酸 の変 動 をNPN,遊 離 ア ミ

    ノ酸 量(ニ ン ヒ ドリン陽 性 物 質)の 変 動 か らみ

    て み た が,遊 離 ア ミ ノ酸量 は 射 精 後1時 間 で は

    70mg/dlで 時 間 の経 過 と共 に増 加 し,最 高190

    rng/d1に 迄 達 して い た .こ れ は'Jacobssonが

    射 精 後 遊 離 ア ミ ノ酸量 が20分 で501ng%,1時

    間 で60mg%,Christensenが 射 精 直後 の精 液

    ア ミ ノ酸 窒 素 が15mg/d1,12時 間 後 ユ00mg/dI

    と測 定 結 果 を報 告 して い る もの ほぼ 一 致 して い

    る.Jacobssonは 非 蛋 白性 窒 素 が 射 精 後20分 で

    100mg%で あつ た と して い るが,著 者 の測 定

    で は,非 蛋 白性 窒 素 量 は射 精 後10分 で は85mg

    /d1,そ の 後漸 次増 加 し,最 高 約260mg/d1迄 に

    も達 して い た.

    遊 離 ア ミ ノ酸量,非 蛋 白 性 窒 素 量 共 に射 精 後

    増 加 す る こ とは,前 述 の ア ミノ酸 の 同定 にお い

    て 時 間 の経 過 と共 に そ の種 類 の 増 加 す る こ とか

    らも うな ず け る結 果 で あ る し,こ れ らの 遊 離 ア

    ミ ノ酸 の 増 加 が ヒ ト精 液 中 に含 まれ る蛋 白 融 解

    酵 素 の 活 動 の結 果 と して射 精 後 起 つ て い る こ と

    が 解 る.

    精 液 の ア ミ ノ酸 の同 定 に お い て は 正 常 者 の そ

    れ と,減 精子 症,無 精 子 症 の そ れ との 間 には 差

    異 は認 め られ なか つ た が,遊 離 ア ミノ酸 量,非

    蛋 白性 窒 素 量 につ い て は多 少 の 差異 を 認 め た.

    599

    TylerandLordRothschildは ア ミ ノ酸 が 性

    器 の生 理 の 中 で重 要 な役 目を もつ こ とを,例 え

    ば あ る種 の ア ミ ノ酸 はseaurchinの 精 子 の生

    存 期 間 を廷 長 す る こ とを見 出 して い る し,Lo-

    renz,TylerはGlycinがseaurchinの 精 子

    に対 す る紫 外 線 や 可 視 光 線 の 障害 を 防 ぐ役 目を

    もつ こ とを記 して い る.し か し ヒ ト精 液 の 精 子

    と精 漿遊 離 ア ミ ノ酸 の 関係,性 ホ ル モ ン活 性 度

    と精 液 遊 離 ア ミノ酸 の 関係 に つ い て は未 だ 記 載

    を見 な い.牛 の精 液 に つ い て み て み る とそ の 精

    漿 遊 離 ア ミ ノ酸 がandrogenに よ り調 整 され て

    い る とGassner,Hopwood(1952)は 述 べ て い

    る し,精 漿遊 離 ア ミ ノ酸 と睾 丸,副 性 器 機 能 と

    の関 係 に つ い て追 求 し,次 の如 き結 果 を得 て い

    る.1)正 常 牛 精 液 の遊 離 ア ミ ノ酸 と して は グ

    ル タ ミン酸 が 最 も多 量 に存 在 す るが そ の他 ア ラ

    ニ ソ,グ リシ ソ,セ リソ.ア ス パ ラギ ン酸 等14

    種 の ア ミ ノ酸 を見 出 したが 精 管 結 紮 を行 な つ た

    牛 の精 液 か らは2種 類 の ア ミ ノ酸 を 見 出 した の

    み で あつ た.2)精 管 結 紮 に よつ て減 少 す る ア

    ミノ酸 の中 で 最 も影 響 を 受 け て い る の は グル タ

    ミン酸 の量 で あ るが,こ の減 少 が グル タ ミソ酸

    以外 の ア ミノ酸 で は テ ス トス テ ロン の投 与 に よ

    り回 複 した.3)睾 丸 を保 温 す る こ とに よつ て

    無精 子症 の状 態 に した 精 液 の遊 離 ア ミ ノ酸 は睾

    丸 の 精子 形 成 能 が 最 も障 害 され た時 期 に一 致 し

    て ア ラ ニ ソ.グ リシ ン.セ リソ.グ ル タ ミ ン

    酸,ア ス パ ラギ ソ酸 等 の 精 液 を 構 成 す る ア ミノ

    酸 の 増量 が み られ た.

    著 者 は外 来 に 不 妊 を 主 訴 と して来 院 した患 者

    の精 液 を 正常 精子 数 保 有 者,減 精 子 症,無 精 子

    症 の3者 に分 け 各 々の 精 液 の液 化 直 後 の遊 離 ア

    ミ ノ酸 量 を測 定 した が 正 常 者 と減 精 子 症 の 問 に

    は測 定 値 に ほ とん ど差 を認 め な か つ たが 無 精 子

    症 で は正 常者 に比 べ 遊 離 ア ミ ノ酸 量 が 減 少 して

    い た.Gassner,Hopwoodの 研 究 で は牛 精 液 の

    遊 離 ア ミ ノ酸 は 精 管 結 紮 に よつ て減 少 し,無 精

    子 症 で は ア ミノ酸 量 の 増 加 を 認 め て い るが,こ

    れ は ヒ ト精 液 と牛 精 液 の問 の性 状 の差 に よ る も

    の と考 え られ る.即 ち ヒ ト精 液 の遊 離 ア ミ ノ酸

    は射 精 後 精 液 に 含 まれ る蛋 白融 解 酵 素 の活 動 に

    よ り発 生 し,こ の 酵 素 の活 動 に よ り時 間 の経 過

  • 600 田中一前 立 腺 分 泌 液 の 研 究H

    と共に遊離 アミノ酸は蓄積するのであるが,牛

    の精液ではかかる現象はみ られず,精 液を37℃

    に保温 しても時間の経過 と共に遊離ア ミノ酸が

    増加することはないのである.

    次 に 前 立 腺 の ア ミノ酸 に つ い て の研 究 と して

    はBarronandHuggins(1946)が 犬 の前 立 腺

    に お い て クエ ソ酸 の合 成 がTransaminationに

    よつ て 行 わ れ る こ とを証 明 した の に 始 ま る.

    Marvin,Awaparaは1951年 ラッ トの前 立 腺 の

    ア ミ ノ酸 の 研 究 に お い て ア ミノ酸 がTransami-

    nationを 受 け.去 勢 又 は性 ホ ル モ ンに よつ て

    影 響 を 受 け る こ とか ら,蛋 白質 の破 壊,血 中 へ

    の 吸収,蛋 白 質 の合 成,ア ミ ノ酸 変 性 の4段 階

    の 可 能 性 を 論 じ,前 立 腺 に おけ る代 謝 異 常 特 に

    蛋 白 質 代 謝 異 常 につ い て説 明 して い る.又 前 立

    腺 に お け る構 成 ア ミノ酸 に っ い て は肥 大 症 患 者

    の 前 立 腺 も癌 患 者 とほ ぼ 同種 の ア ミ ノ酸 を 有

    し,特 別 な差 を認 め て い な い,大 村(1959)は

    前 立 腺 腫 瘍 に際 して発 生 す る代 謝 障害 の要 因 を

    検 索 せ ん と して,前 立 腺 粥 の蛋 白質 を各 種 溶 媒

    に よつ て抽 出 し,そ の窒 素 の移 動 を 観察 し更 に

    ア ミ ノ酸 の分 布 状 態 を調 査 して い る が,蛋 白 質

    窒 素 量 に つ い て は,肥 大 症 と癌 に つ い て は大 差

    な く,わ ず か に癌 に お い て窒 素 量 の低 下,溶 解

    度 の減 少 を認 め,ア ミ ノ酸 分 布 に つ い て も著 変

    を認 め て い な い.性 ホ ル キ ン投 与 に よつ て は 女

    性 ホ ル モ ソ と男性 ホ ル モ ン とは 多 少 態 度 が 異

    り,肥 大 症 で は 男性 ホ ル モ ン投 与 に よつ て や や

    窒 素 量 の減 少 傾 向 が うか が わ れ,更 に ア ミ ノ酸

    分 布 は去 勢,及 び性 ホ ル モ ソ投 与 に よ り変化 を

    受 け る こ とを認 め て い る.ヒ トの 前 立 腺 粥 の ア

    ミノ酸 と して は,ロ イ シ ソ.フ ェ ニ ール ア ラ ー

    ソ,バ リソ.ア ラ ニ ン,グ リシ ン,チ ス チ ン,

    グル タ ミン酸,プ ロ リンを 検 出 して い る.i著 者

    の前 立 腺 マ ッ サ ー ジ で採 取 した ヒ ト前 立 腺 分 泌

    液 に は グル タ ミン酸,グ リシ ソ.バ リソ(セ リ

    ン),ア ル ギ ニ ン.ア ラ ニ ン,リ ジ ン の6種 の

    遊 離 ア ミノ酸 を認 め,又 塩 酸 ピ ロカル ピン刺 戟

    で採 取 した犬 前 立 腺 分 泌 液 には グル タ ミン酸,

    ロイ シ ン(ス レオ ニ ン),バ リソ(セ リン),

    ア ラ ニ ン,グ リシ ン,リ ジ ンを 検 出 した.西 浦

    は分 劃 射 精 法 に よ り得 た前 立 腺 分 泌 液 で遊 離 ア

    ミノ酸 としてア不パラギン酸のみを認めている

    が,著 者は既述の如 き約6種 の遊離ア ミノ酸を

    認め,然 も之は大村が前立腺粥の中に認めた遊

    離ア ミノ酸 とほぼ同種のものであつた.

    結 語

    医 歯 大 式 高 電 圧 炉 紙 電 気 泳 動 装 置 を 用 い て ヒ

    ト精 液,前 立 腺 分 泌 液,犬 前 立 腺 分 泌 液 の遊 離

    ア ミ ノ酸 の 同定 を 行 う と共 に ヒ ト精 液 の ア ミノ

    酸 の 消 長 に つ い て 検 し た.

    1)17種 の ア ミ ノ酸 純 粋 結 晶 を 用 い て100V

    /cm30分 間 泳 動 を 行 い,塩 基 性 分 画2本 を 含

    む 計10本 の分 画 を 同 定 した.そ の う ち チ ロジ ソ

    とチ スチ ソ.ア ス パ ラギ ン酸 と フ ェ ニ ー ル ア ラ

    ニ ン,グ ル タ ミン酸 と メチ オ ニ ン.ロ イ シ ソ と

    イ ソ ロイ シ ソ,及 び ス レオ ニ ソ.バ リソ とセ リ

    ソ.ア ル ギ ニ ン と ヒス チ ジ ソは 互 に重 畳 して 分

    離 し得 な か つ た.

    2),ヒ ト精 液 中 に み られ る遊 離 ア ミ ノ酸 とし

    て は,精 液 の液 化 直 後 には ア ス パ ラ ギ ン 酸(フ

    {一 一 ル ア ラ ニ ン),グ ル タ ミン酸,ロ イ シ ン

    (ス レオ ニ ン),バ リン(セ リン)で あ るが,

    そ の後 増 加 して,チ ロ ジ ソ(チ ス チ ソ),ア ス

    パ ラ ギ ン酸(フ{三 一ル ア ラニ ン),グ ル タ ミ

    ソ酸,ロ イ シ ン,バ リン(セ リン),ア ラ ニ

    ソ,グ リシ ン,ア ル ギ ニ ン,リ ジ ンが 検 出 され

    た.

    3)こ れ らの ア ミ ノ酸 の 中 で も,ア ス パ ラギ

    ソ酸,グ ル タ ミン酸,ロ イ シ ン は 特 に多 く含 ま

    れ て い る様 に 思 わ れ た.

    4)ヒ ト精 液 中 の 非 蛋 白性 窒 素 の 量 は 精液 々

    化 直 後 で は85mg/dlで あつ た が,そ の 後 時 間

    の経 過 と共 に 急 速 に増 加 し,最 高 約240~260

    mg/d1に 迄 達 した .

    5)ヒ ト精 液 中 の全 遊 離 ア ミ ノ酸 量 も射 精 後

    1時 間 で は 約70mg/dlで あつ たが,次 第 に増

    加 し最 高190mg/dlに 達 した.

    6)ヒ ト前 立 腺 分 泌 液 中 には 遊 離 ア ミ ノ酸 と

    して グル タ ミン酸,グ リシ ン,バ リン(セ リン),

    ア ル ギ ニ ソ,ア ラ ニ ン 。 リジ ソ を見 出 した .

    7)犬 前 立 腺 分 泌 液 中 に は,グ ル タ ミソ酸,

    ロイ シ ソ(ス レオ ニ ソ) ,バ リン(セ リン),

  • 田中一前 立 腺 分 泌 液 の 研 究 ■

    アラニソ.グ リシン.リ ジソを検出した.

    8)不 妊を主訴 とする患者の精液 と健康人精

    液中の遊離ア ミノ酸の同定における差は見出さ

    れなかつたが,全 遊離ア ミノ酸の量は健常者の

    それ と無精子症患者のそれとの間には多少の差

    が認め られた,

    (稿を終 るに臨み懇篤な御指導,御 校閲を賜つた加

    藤 教授並 に高圧電気泳動装置の使用について御指導を

    いただいた法医学教室小林教授,曾 根博士に深謝致 し

    ます.)

    文 献

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