Title 腎嚢胞を伴った右胸部腎の1例

Author(s) 志村, 哲; 吉田, 一成; 門脇, 和臣; 石橋, 晃; 小林, 健一; 福田,潔

Citation 泌尿器科紀要 (1990), 36(11): 1321-1324

Issue Date 1990-11

URL http://hdl.handle.net/2433/117039

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌尿 紀要36=1321-1324,1990 1321

腎嚢胞を伴った右胸部腎の1例

北里研究所病院泌尿器科(部 長=門 脇和臣)

志村 哲,吉 田 一成,門 脇 和臣,石 橋 晃

牛久愛和総合病院泌尿器科

小 林 健 一

牛久愛和総合病院内科

福 田 潔

RIGHT THORACIC KIDNEY WITH SIMPLE RENAL CYST :

REPORT OF A CASE

Satoru Shimura, Kazunari Yoshida, Kazuomi Kadowaki

and Akira Ishibashi

From the Department of Urology, the Kitasato Institute Hospital

Kenichi Kobayashi

From the Department of Urology, Ushiku Aiwa Hospital

Kiyoshi Fukuda

From the Department of Internal Medicine, Ushiku Aiwa Hospital

A case of right thoracic kidney with simple renal cyst is reported. A 67-year-old man was

pointed out to have an abnormal shadow in the right lower lung field of chest X-ray film. He was asymptomatic. Laboratory test was normal. Computed tomography and excretory urography confirmed the right thoracic kidney with a simple cyst. Adrenal scintigraphy revealed a high ectopic adrenal gland with right thoracic kidney. Since he was asymptomatic, treatment was not required. High ectopic kidney is extremely rare and 74 cases have been reported in the domestic literature in Japan. Thoracic kidney should be considered as one of differential diagnoses of abnormal mediastinal shadow.

(Acta Urol. Jpn. 36: 1321-1324, 1990)

Key words: Thoracic kidney, Renal cyst

緒 言

腎の単純性位置異常には,骨 盤腎,腸 骨腎,腹 部腎

お よび胸部腎の4種 類があるが,胸 部腎は これ ら異所

性腎の5%以 下と非常に稀である,わ れわれ は健診に

て胸部x線 異常陰影を指摘 され発見された腎襲胞を伴

った右胸部腎を経験 したので報告す る.

症 」伊

患者=67歳,男 性

主 訴=胸 部X線 異常陰影

現病歴=1989年5月,健 診にて胸部X線 異常陰影を

指摘 され,内 科にて胸部CTを 施行 された,CT上

右胸部に腎を認め 当科へ依頼 された.自 覚症状はなか

った.

既往歴 ・家族歴=外 傷等特記すぺ きことなし

理学的所見:異 常な し

血液 ・尿検査=異 常 なし

X線 学的検査:胸 部単純X線;正 面豫では,右 下肺

野の内側に半楕円形の腫瘤状陰影を認める,陰 影 の上

縁は第10肋 骨に達 し,下 方は横 隔膜 と分離 されてお り

心陰影 と シルエ ッ トサイン陰性 である.右 側 面 像 で

は,心 陰影 の背面にやや前傾 した腫瘤状陰影を認め横

隔膜 とは分離 されている(Figl).

CT;第10胸 椎上縁 レベルよ り胸部X線 の腫瘤状陰

影に一致 した腫瘤 を認める.そ の腫瘤は下方へ続 き第

10胸椎下縁 レベルでは腎陰影の所見を示す.ま た右腎

周囲には被薄 した横隔膜 と思われる陰影を認める.腎

上部には内部はlowdensityで 均一な 約3cm大 の

単純性 の腎嚢胞が認め られ る.左 腎は第12胸 椎 より第

1322 泌尿紀要36巻11号1990年

2腰 椎の レベルに認 め異常所見は認めない(Fig'2).

排泄性尿路造影;両 腎 とも造影剤の排 泄は良好であ

▽

Fig.1.RightlowerlungfieldabnormalshadowinchestX-ray(postero-anterlorandlateralview)

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Fig.2,Gomputedtomographyrevealedright

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Fig4.

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る.右 腎は上方へ偏位 してお り斜位像では前傾 を認め

る.腎 の長軸は上方か ら内下方へ向けて傾斜 してそれ

に伴い尿管 が進展 してい る.腎 嚢胞に よる腎孟 ・腎 杯

の圧排は明らかではない.左 腎に異常所見は認 めない

(Fig3).

副腎 シンチ;右 副腎が腎 とともに上昇 している所見

を認め る.左 副腎は左腎 とともに正常 の位置に存在す

る(Fig●4).

考 察

腎の位置異常 の うち胸部腎は非常に稀なものである,

胸部腎の成因には先天性 と後天性があ り大部分は先

天性のものである.Perlmutferら1)に よれば,腎臓 は

胎生8週 目に成人 の位置に到達 しこの時期に胸腹膜管

が閉鎖 して横隔膜が形成 され るが,こ の閉鎖が遅延 し

て腎が上 昇するか,あ るいは閉鎖は正常に行われるが

腎の上 昇が早す ぎるために胸部腎が起 こるもの とされ

ている.そ して,右 側には肝臓があ り,ま た胸腹膜管

の閉鎖が右側の方 が左側 よ り早 く行われるため胸部腎

は左側に多 く起 こるとされている.後 天性の成 因の主

なものには外傷があるが 明かな因果関係を認 めた報告

は ない.

本邦 ではわれわれが調べた限 り自験例を含め75例 の

報告2-6)が あ りこれ らをまとめた.年 齢は0歳 か ら80

歳以上 まで分布 し10歳以下 と,71歳 か ら80歳 までが若

干多いがその他の各年齢層にはほぼ均等に分布 してい

る(Fig・5)・ 性 別は男性39例,女 性34例,不 明2例

と今 まで男性が女性 より約3倍 多い1)と され てきたが

ほぼ同数である.発 見動機 としては,報 告のある65例

志村,ほ か=胸 部腎 ・腎嚢胞

合 併 症(35例)

その他

4例

外傷(疑)

2例 心 肺 奇 形

7例

横 隔 膜

弛 緩 症

1323

例 数

Fig.5.Agedistributionofthoracickidneyin

Japan

診断方 法

剖検3例

超音波6例

手術8例

気管支造影2例

Fig.6.Methodfordiagnosisofthoracickidney

中,健 診お よび他の原因によ り撮影 され たX線 の胸部

異常陰影に よるものが最 も多 く49例,直 接 の原因であ

るか どうか不明であるが高血圧 ・蛋白尿に より発見さ

れた ものが3例,腰 背部痛を訴えたものが7例 とその

他8例 である,部 位は右側30例,左 側41例,両 側1

例,不 明3例 と左側に多い傾 向がみられ る.診 断方法

は最近では排泄性尿路造影 またはCTを 容 易に行 う

ことができ,こ れ らの方法にて診断された症例が最 も

多 くそれ ぞれ54例,24例 である.検 診や他の原因に よ

り胸部X線 写真を撮影する機会が増 し,胸 部単純写真

または腹部単純写 真の詳 細な 読影 にて本 症を疑 い,

CTな い し排泄性尿路造影を容易に行 うことができる

ため胸部腎の発見率も増加する もの と思われ る(Fig.

6)・合併症あるいは合併奇形は,横 隔膜の弛緩 ・ヘル

ニア ・欠損 と横隔膜の奇形が最 も多 くこれ ら3つ で19

例である.こ れ らを臨床的に鑑別す ることは難 しい.

胸部へ上昇す る腎の多 くはBochdalek孔 よ り横隔膜

に囲まれ たまま上昇するので普通気胸を起 こす ことは

ない.ま た腎が高位にあるため尿流の停滞を起 こす ご

Fig.7・

横隔膜 ヘルニア横隔膜欠損

3例2例

ComplicatlonandanQmalyinthoracickidney(35cases)

とはな く水腎症 の発生は認め られ ていない.心 肺奇形

では,患 側肺の低形成 ・心 の患側 への偏位などが認め

られた.腎 嚢胞の合併例は本症例で2例 目にあたる.

1例 目6)は急性心筋 梗塞で緊急入院し胸部X線 にて偶

然発見 された左側の胸部腎であ った(Fig.7)・ 副腎

は腎とともに上昇す るものと正常の位置に とどまるも

の とあるとされ るが,い ままで副腎についての報告は

されていない,わ れわれの症例では腎 とともに上昇 し

ていた.

本症は 自覚症状を欠 くものが多 く,腎 機能に異常を

認めない ものが多いため積極的に検査,治 療を行わず

経過観察 される症例が多い。われわれの症例 も健診で

偶然発見されたものであ り,自 覚症状な く血液 尿検

査所見に異常を認めず積極的な検査,治 療は行わず経

過観察を している.

結 語

健診にて偶然発見され排泄性尿路造影,CTに て診

断された腎嚢胞を伴った右胸部腎を経験 したので報告

し,本 邦における胸部腎の報告例 を集計した.健 診 で

発見され ることが多 く胸部異常陰影の鑑別診断の一つ

として考慮すべ きと思われた.

なお,本 論文の要旨は第464回El本 泌尿器科学会東京地方

会 にて発表 した,

文 献

1)PerlmutterAD,RetikABandBauerSB:

EditedbyWalshPC,GittesRF,Perlmutter

ADandStameyTA:Anomaliesofascent.

In=CampbelPsUrology,5th.ed.pp.1674一

i324 泌尿紀要36巻11号1990年

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敬,中 島彰 久,前 田 宏文,芦 沢 昭:脾 湾 曲 部結

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典 男,増 山哲 茂,大 野 完,吉 村 正 治=急 性 心 筋

梗 塞 で入 院 し,多 発 性 の う胞を 伴 う胸 部 腎 が発 見

され た一 症 例.日 胸 疾 会 誌22=1171,1984

(ReceivedonJanuary10,1990AcceptedonJune26,1990)