腎臓移植...2 7 血液透析(HD) 腹膜透析(PD) 腎臓移植 腎機能 腎機能廃絶...

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1 1 砂川市立病院 泌尿器科 柳瀬雅裕 腎臓移植 2 4. 感染症(サイトメガロウイルス、ニューモシスチス肺炎1. 腎不全治療の現況(透析と腎移植の比較-予後・医療費2. 生体腎移植と死体腎移植(適応・検査・手術) 本日のお話 3. 拒絶反応と免疫抑制剤 5. 腎移植 最近の進歩血液型不適合腎移植、先行的腎移植3 4 透析導入患者の主要原疾患の推移 慢性透析療法の現況 (年) 慢性透析患者数の推移 0 50 100 150 200 250 300 350 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 200912290,675(千人) 1年間で およそ1万人の増加 37,543人の導入 27,729人の死亡 糖尿病腎症 44.5% 慢性糸球体腎炎 22.0% 腎硬化症 10.7% (年) 0 10 20 30 40 50 60 70 '83 '84 '85 '86 '87 '88 '89 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 (%) 新規導入患者 5 慢性腎不全の治療 腹膜透析(PD) 血液透析(HD) 腎移植 (Peritoneal Dialysis) (Hemo Dialysis) 6 腹膜透析= 3.4% 血液透析= 96.6%

Transcript of 腎臓移植...2 7 血液透析(HD) 腹膜透析(PD) 腎臓移植 腎機能 腎機能廃絶...

1

1

砂川市立病院 泌尿器科 柳瀬雅裕

腎臓移植

2

4. 感染症(サイトメガロウイルス、ニューモシスチス肺炎)

1. 腎不全治療の現況(透析と腎移植の比較-予後・医療費)

2. 生体腎移植と死体腎移植(適応・検査・手術)

本日のお話

3. 拒絶反応と免疫抑制剤

5. 腎移植 最近の進歩(血液型不適合腎移植、先行的腎移植)

34

透析導入患者の主要原疾患の推移

慢性透析療法の現況

(年)

慢性透析患者数の推移

0

50

100

150

200

250

300

350

68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09

2009年12月290,675人

(千人)

1年間でおよそ1万人の増加

37,543人の導入27,729人の死亡

糖尿病腎症 44.5%

慢性糸球体腎炎 22.0%

腎硬化症 10.7%

(年)0

10

20

30

40

50

60

70

'83 '84 '85 '86 '87 '88 '89 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09

(%)

新規導入患者

5

慢性腎不全の治療

腹膜透析(PD) 血液透析(HD) 腎移植

(Peritoneal Dialysis) (Hemo Dialysis)

6

腹膜透析= 3.4%

血液透析= 96.6%

2

7

血液透析 (HD) 腹膜透析(PD) 腎臓移植

腎機能 腎機能廃絶 正常の50%程度

必要な手術 シャント手術 カテーテル挿入術 腎臓移植手術

通院回数 3回 / 週 1回 / 月 1回 / 1~2月

治療による自覚症状

穿刺による痛み

除水による血圧低下お腹が張る 爽快感など症状の

改善

免疫抑制剤 不要 不要 不可欠

食事・水分制限 多い(水・塩分・K・P) やや多い(水・塩分・リン) 少ない

旅行・出張制限あり 制限あり

自由

出 産 困難 困難 腎機能により可能

スポーツ ほぼ自由 腹圧がかからないように注意 ほぼ自由

入浴 透析後はシャワーが望ましい カテーテルの保護が必要 問題なし

社会復帰率 中程度 やや高い 高い

その他の利点医学的ケアが常に提供される。日本で最も普及している治療方法

血液透析に比べ

自由度が高い

透析による束縛からの開放感

(透析液・装置の準備運搬)(通院透析施設の確保)

腎不全治療の比較(血液透析・腹膜透析・腎移植)

8

わが国の透析医療の実体

透析患者=全国で30万人

日本人の400人に1人が透析をしている!

毎年 3万7500人が導入

毎年 2万7600人が死亡

毎年 1万人ずつ増加

国民総医療費35兆円の4%を占める

(1兆3500億円)

9

なぜ腎移植か?

末期腎不全に対する唯一の根本的治療

1.生存率の改善

2.QOLの向上

3.医療経済の改善

10

87.3

60.2

39.6

79.8

38.8

18.8

67.0

35.0

11.0

0

20

40

60

80

100

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

日本

米国

EU

透析患者の生存率(日・米・欧)

(%)

透析期間 (年)

生存率

11

• 5年生存率 61.4%

• 10年生存率 39.2%

• 15年生存率 28.7%

• 20年生存率 26.9%

DM腎症:10年生存率= 28%

原疾患別の透析導入後の生存率

観察期間(年)12

献腎移植 1年 3年 5年 10年1982以前 51.6% 41.6% 34.8% 26.8%83-89 81.4% 70.9% 62.8% 45.9%90-99 84.5% 75.8% 67.4% 52.6%2000以降 90.6% 84.7% 78.6% -

成績:年代別の生着率 (生体・献腎)

献腎移植生体腎移植

1983年よりシクロスポリン、1990年代にはタクロリムス、2000年以降にはミコフェノール酸モフェチルが使用できるようになった。(バシリキシマブは、2002年より市販される。)2000年以降の5年生着率は、生体腎移植90.9%・献腎移植78.6%にまで向上している。

生体移植 1年 3年 5年 10年1982以前 82.7% 75.0% 69.1% 57.7%83-89 94.2% 87.2% 79.1% 60.2%90-99 93.5% 88.2% 81.9% 67.6%2000以降 96.7% 93.8% 90.9% -

%100

80

60

40

20

0

0 10 20 30 年

1982年以前(n=564)

1982年以前(n=2588)

%100

80

60

40

20

0

0 10 20 30 年

1983-1989年(n=1695)

1983-1989年(n=4045)

1990-1999年(n=989)

1990-1999年(n=2561)

2000年以降(n=191)

2000年以降(n=981)

3

13

移植後生存率

14

15

1.老廃物や毒素の排泄2.水分や電解質の調整3.ホルモンの分泌と調節

腎臓の主な働きは?

正常な腎臓:24時間 x7日間=168時間/1週間

血液透析:4時間 x 3日間=12時間/1週間

12/168=7%

腎臓は働き者

16

尿毒症の症状

17

透析中の合併症

1. 高血圧 2. 低血圧(透析困難症)

3. 心筋梗塞、狭心症、拡張型心筋症

4. 脳梗塞、脳出血 5. 閉塞性動脈硬化症 (ASO)

<循環器系合併症>

<腎性貧血>

< 高カリウム血症> < 高リン血症>

<悪性腫瘍>

<感染症> 細菌 (肺炎)ウイルス結核

発生率:1.4倍

死亡率:1.9倍

< 消化管合併症>

胃潰瘍、十二指腸潰瘍

18

・ 不眠・ かゆみ ・ 便秘

<骨合併症>

<透析アミロイドーシス>

・ 二次性副甲状腺機能亢進症による線維性骨症

・ 副甲状腺機能低下症による無形成骨症

透析中の合併症

・ アミロイド骨・関節症

・ 手根管症抗群 ・ 破壊性脊椎関節症

<その他>

4

19

0

100

200

300

400

500

600

700

800

1年 2年 3年 4年 5年

生体腎移植(血液型適合)

生体腎移植(血液型不適合)

(万円)

(移植後経過)

6,672,000

7,877,000

1,480,0001,491,000

1,596,0001,628,000

2,087,0001,834,000

1,430,000 1,319,000

生体腎移植における年間医療費

国内で腎移植をする場合、医療費には医療保険が適応され、それ以外の自己負担分は特定疾病療養制度、自立支援医療(更生・育成)、小児慢性特定疾患、重度障害者医療費助成制度の対象となるため、医療費の自己負担はほとんどありません。

生体腎移植年間医療費-血液型適合移植、不適合移植の比較

20

医療費比較(2008) ( 生体腎移植 / 献腎移植と血液透

析)

生体腎移植の総医療費は、ドナーも含めた手術費や入院費などにより、血液透析に比べて高額になるが、移植後20ヵ月を過ぎると生体腎移植の総医療費が血液透析を下回り、それ以降は差が拡大している。また献腎移植の総医療費は28カ月以降に血液透析を下回っている。

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親子、兄弟、祖父母などからの提供

配偶者からの提供

心臓停止前に、脳死と判定されたドナーから摘出された腎臓を移植

心臓停止直後に摘出された腎臓を移植

血縁間腎移植血縁間腎移植

腎移植腎移植

生体腎移植生体腎移植

献腎移植献腎移植

非血縁間腎移植非血縁間腎移植

脳死腎移植脳死腎移植

心臓死腎移植心臓死腎移植

腎移植の種類

生体腎移植(健全な生体からの提供)と

献腎移植(死体からの提供)の2種類がある。

22

総数

生体腎

献腎(心停止)

献腎(脳死)

(年)

(例)

腎移植症例数の年次別推移

生体腎移植:86%死体腎移植:14%

2378 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89

移植希望者

2009年度1312

献腎 175

脳死腎 1

透析患者数生体腎移植数

心停止下献腎移植数

脳死下献腎移植数

献腎移植希望登録者

300,000

250,000

200,000

150,000

100,000

透析患者数

10,000

生体腎1123

(年)

わが国における透析・腎移植患者数の推移2009年末現在、およそ29万人が透析療法を受けており、腎移植は1,312例実施された。脳死を含む献腎移植は少なく生体間移植が大部分を占めているのが特徴で、ABO血液型不適合移植や夫婦間移植も年々増加傾向にある。

1200

1000

800

600

400

200

移植者数

90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 24

米国は、anonymous donor( 匿名提供者)による生体腎移植が少数ながらも増加傾向にある。韓国は、人口比で日本の約2倍の症例数であった。

米国

中国

韓国日本

(腎移植実施人数)

(2001年:5,496例)

(2005年:754例) (2009年:1,312例)

(2008年:16,519例)

(年)

5

25 26

世界の腎移植件数 (2003年度:百万人あたりの移植件数)

Opting Out

Opting In

(件)日本

アメリカ

ドイツ

オランダ

イギリス

オーストリア

ベルギー

フランス

イタリア

スペイン

アメリカの人口は、日本のおよそ2倍であるが、人口百万人当たりの腎移植数は約10倍にもなる。日本の移植数は、他の先進国と比べても桁違いに少ないのが現状である。

本人が生前、臓器提供に反対の意思を文書で残さない限り、臓器提供をするものとみなす。

臨床の現場では家族の反対があれば実際には臓器提供しないことが多い。

本人が生前、臓器提供の意思を示していた場合または家族が臓器提供に同意した場合、臓器提供がおこなわれる。

総移植件数

献腎移植件数

42.2

43.0

32.5

46.7

26.4

29.5

25.6

22.0

25.2

1.1

27

生体腎移植 について

28

全身麻酔の手術を受けることができる患者さんであれば、基本的には問題ありません。(心臓、肺の働きがしっかりとしている人)

腎移植は誰でも受けられるの?

しかし・・・・・

次のような患者さんは、腎臓移植はできません。

・血液透析や腹膜透析を受けている患者さん・近々透析治療が必要な患者さん

★ 本人が腎臓移植を強く希望し、家族もそれに同意していることが大切です。

29

腎臓移植が受けることができない人(禁忌)

1. 活動性の感染症(C型肝炎、B型肝炎、梅毒、結核、

エイズ(HIV) など)がある人

2. 治っていない癌、または治って間もない癌(肺癌、悪性リンパ腫、胃癌、大腸癌、肝臓癌、

腎癌、子宮癌、乳癌など)がある人

3. 性格や気質、精神疾患で自己管理ができない人

4. 献腎移植では、ドナー (腎提供者)のTリンパ球に対する抗体を持っている人(クロスマッチ陽性)

30

レシピエントの適応基準

1. 末期腎不全患者であること。

2. 本人が移植を強く希望し、家族もそれに同意している場合。

4. 全身麻酔と手術に耐えられること。

6. 全身感染症 (ウイルス、細菌、結核、真菌) がないこと。

7. 活動性肝炎がないこと。

8. 悪性腫瘍がないこと。(癌があれば癌が治ってから)

3. 自己管理ができる人。

5. 心不全、狭心症、不整脈、脳血管障害、下肢の動脈閉塞、肝障害などがある場合は、治療をきちんと受けてから。

6

31

生体腎移植のドナー (腎提供者)には誰でもなれるの?

生体腎提供者(ドナー)の条件として、倫理的な条件と医学的な条件があります。

<倫理的条件>

・意思表示がしっかりできる人で、自発的に腎臓の提供を申し出ていること。

・あくまでも見返りのない善意の提供であること。

・報酬 (金銭授受など) を目的とするものであってはならない。

・誰からも強制されない自らの意思に基づいた提供であること。

・親族に限定する。32

親族とは6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族を指す。※ 姻族 : 配偶者の血族や血族の配偶者など

「親族」とは?

1

1

血縁者の親等

本人本人 配偶者配偶者

親親1

甥・姪甥・姪3

兄弟・姉妹兄弟・姉妹

2

4

おじ・おばおじ・おば

3

祖父母祖父母2

子供子供1

いとこいとこ4

親親

1

兄弟・姉妹兄弟・姉妹

2

配偶者配偶者2

孫孫23

3

日本移植学会(平成15年10月27日改定)倫理指針より

非血縁者の親等

33

長 所 短 所

生体腎移植

・計画的な手術が行えるため、生体腎ドナーと生体腎レシピエントがともに最善な状態で移植が可能

・透析離脱

・血液型不適合や前感作症例等、前処置が必要な患者の場合でも可能

・健康人(生体腎ドナー)に対して手術が必要

・精神的な葛藤が大きい

献腎移植 ・ 健康人を傷つけない

・献腎ドナーがきわめて少ない

・移植後しばらく透析継続のケースが多い

生体腎移植と献腎移植の特徴

34

生体腎移植 ドナーのリスク①手術に伴うリスク手術による死亡リスクは0に近いが、感染・ヘルニアなどは数%の可能性がある。

腎摘出手術による死亡率は米国の古いデータでは0.03%(3,333人に1人)。現在の医学の進歩のもとではこのようなリスクは限りなく0に近い(しかし、0とは言い切れない)。命に関わらない合併症としては、数%に傷の感染や出血・ヘルニアなどがみられる。

②腎摘出に伴う腎機能低下などのリスク透析にいたるようなリスクは殆ど無い(0.5%未満)が、高血圧や蛋白尿は数%ある。

腎摘出後の腎機能は提供前のおよそ70~75%程度となるが、その後はほとんど変化しないとされ、それ自体で透析や移植が必要な腎不全になることは稀。

しかし、もともとの腎機能が低いと、そのリスクが高くなるので、術前に腎機能が良好であることが必要。欧米のデータでは10年以上の後に透析にいたるような腎不全の率は約0 5%未満

35

何歳まで腎移植を受けれますか?

手術に耐えられる健康状態であれば、年齢のみで腎移植は制限されません。

36

血液型は合っていないとダメですか?

生体腎移植の場合は、血液型が違っても移植は可能です。

腎提供者(ドナー)

受腎者(レシピエント)

A BO AB

A BO AB

“血液型一致”

7

37

腎提供者(ドナー)

受腎者(レシピエント)

O

AB

A B

O

ABA

B

OO

AB

ABAB

A

B

A B

AB

OO

B

A A B

腎提供者(ドナー)

受腎者(レシピエント)

“血液型不適合”

“血液型 ”不一致

38

提供者(ドナー)の血液型

患者(レシピエント)の血液型

適合

一致不適合

不一致

A

B

O

AB

A

B

O

AB

AB

AB

A、B、AB

B、O

A、O

A、B、O

腎移植における血液型の組み合わせ

39

生体腎移植の流れ① ドナーとレシピエントの適合性を調べるために、血液型、組織適合性(HLA)、クロスマッチテスト(交差試験)などの検査を行う② 血液やウイルス検査などの精密検査によって手術適応を判断する。不適応の疾患がある場合は前もって治療する。

生体腎ドナーでは提供する腎臓の検査を行う③ 生体腎移植実施

レシピエント

適合性検査

・血液型

・HLA(ヒト白血球抗原)

・リンパ球直接交差試験

・PRA

精密検査

・血液(血液一般、生化学、電解質)・検尿・ウイルス検査(HIV抗体, HTLV-1抗体, HBs抗原,HCV抗体, CMV抗体, EB抗体)・心電図検査・肺機能検査・胸・腹部単純X線検査・上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)・下部消化管内視鏡検査(便潜血)・腹部CT検査(腹部エコー)・歯科/眼科精査・(婦人科受診)・細菌培養検査・膀胱造影

ドナー(複数)

適合性検査

・血液型

・HLA(ヒト白血球抗原)

・リンパ球直接交差試験

精密検査

・血液(血液一般、生化学、電解質)・検尿・ウイルス検査(HIV抗体, HTLV-1抗体, HBs抗原,HCV抗体, CMV抗体)・心電図検査・肺機能検査・胸・腹部単純X線検査・クレアチニン・クリアランス(Ccr)・腎血管3D-CT・腎シンチグラフィー・上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)・下部消化管内視鏡検査(便潜血)

生体腎移植希望

①レシピエント

移植コーディ

ネーターと面談

外来受診

②レシピエントの

移植適応確認

ドナーの決定

③生体腎移植

※最近では提供が自発的意思であることを確認するため、精神科医が評価することが増えています。

40

抗T細胞抗体陽性(LCT法、AHG-LCT法)

抗体価が低下しない場合移植不可能

不適合・移植時の脾臓摘出、抗血液型抗体の除去⇒血漿交換やDFPP⇒強力な代謝拮抗剤とステロイド剤の投与などの術前処置により、抗体価低下すれば可能(現在では脾臓を摘出しないケースも多くなっています)

条件によって移植可能

高感度の検査法で陽性であっても、前処置により可能な場合もある

免疫抑制剤投与により、不一致の場合でも特に問題はない

適合(一致・不一致)

ドナーリンパ球(T・B)に対する抗体の有無を調べる検査

白血球の表面にある膜抗原で、これによって自己と非自己を認識することができる。class Ⅰ(A、B各2つ)とclass Ⅱ(DR2つ)があり、それぞれの適合性を検査

薬剤投与や処置により移植が可能

移植可能

ABO型生体腎ドナーとレシピエントの適合性検査

①血液型、②HLA、③リンパ球クロスマッチテスト(交差試験)の適合検査を行う。

リンパ球クロスマッチテスト

(交差試験)HLA血液型

抗T細胞抗体 陰性

41

ドナーとレシピエントの関係 (生体腎:2000年~推移)

非血縁(夫婦)

兄弟・姉妹

親子

夫婦間腎移植(非血縁に含まれる)の占める割合は、この数年増加傾向にある。他 (実子、祖父

母、叔父叔母、一卵性双生児、血縁その他、未記入)

68.8% 65.0% 56.2% 55.2% 56.5% 52.2% 46.7% 44.7%66.6%

14.6%13.8%

14.2%13.7%15.7%15.8%

14.2%

12.2% 12.8%

11.0% 17.5%21.3% 24.2% 25.1% 28.7%

34.9% 37.2%

12.5%

6.3% 6.6% 5.0% 4.7% 4.1% 6.2% 5.2%3.2%6.3%

42

ABO血液型の適合度(生体腎:2000年~推移)

不適合

適合

ABO血液型の不適合生体腎移植は、臓器不足と移植成績の向上に伴い、2008年度には全体の24.2%を占めるまでに至っている。

不明

不一致

一致63.3% 63.8% 65.7% 61.5% 59.4% 55.1% 55.8% 52.3%66.4%

21.1%

18.2%21.3%

19.7%20.4%18.6%19.9%

20.2% 23.5%

13.3%

15.5% 14.6% 17.7% 20.9% 23.3% 23.3% 24.2%

11.9%5.2%

1.1% 0.4% 0.0% 0.2% 0.8% 0.0%0.8%0.5%

8

43

レシピエントの術前透析療法と透析期間(2009)

生体腎(n=973)

生体腎移植のレシピエントの中には、術前に透析を行わない人もいるが、献腎移植では、ほとんどのレシピエントが術前に慢性透析を行っている。

術前の透析期間の平均は、生体腎で4年、献腎で17年と大きな差が認められている。

献腎(n=203)

14.8%

21.9%

46.9%

8.6%

7.2%

0.6%

1ヶ月未満(透析なしを含む)1ヶ月以上1年未満1年以上10年未満10年以上不明(透析期間)不明(透析療法の有無)

1.5%

8.9%

80.3%

9.4%

1年未満1年以上10年未満10年以上不明(透析期間)

44

HLAの謎

45

遺伝子の型(組織適合抗原、HLA型)は合っている必要がありますか?

HLA抗原とは、拒絶反応の原因となる物質です。

HLA抗原の個数が合うほど移植後の腎機能は良好ですが、優れた免疫抑制剤の登場により、一つも合っていなくても移植はできます。

46

血液の成分には、赤血球と白血球があります。良く知られているABO式血液型は、赤血球のタイプを表すものですが、HLAはヒトの白血球のタイプを表すもので、いろいろな組織の細胞にも存在します。

HLAは、指紋のように一人一人違った型を持っているため、その違いを認識して体内に侵入した異物(ウイルスや細菌)を排除します。早期移植でも、自分の臓器ではないものが体内に入るため、それを異物として認識し、排除しようとします。

この時に怒る発熱、血圧の上昇や移植臓器の膨大などの拒絶反応を抑えるためには、ドナーとレシピエントのHLAの型をあわせることがもっとも重要となります(腎臓。脾臓移植の場合)。骨髄移植はさらに厳しい適合が必要とされます。

47

ドナーとレシピエントのHLAが完全に一致していれば、拒絶反応はほとんどなく、移植された臓器も順調に機能します。

しかし、HLAが必ずしもすべて一致していない場合でも、細菌は優れた免疫抑制材が開発されているため、臓器は拒絶されにくくなりました。

移植は可能です。しかし、HLAの一致数が少なければ少ないほど、移植後の予後は悪くなってきます。

48

父親から1本、母親から1本もらい、2本で一対になっています。従って子供同士では4つの組み合わせがあり、ぴったり合う確率は25%です。一方父親や母親とは半分は一致するがもう一本は合わないことになります。

父親 母親

子供1 子供2 子供3 子供4

A座

B座

DR座

A座

B座

DR座

HLA(Human Leukocyte Antigen)

HLA抗原の遺伝子群はヒトの第6染色体の短腕に位置していて、A・B・C・D(DR・DQ・DP)の抗原型がタイピングされている。現在、腎移植ではHLA-A、B、DRの適合性が重要視されており、各々が2本の染色体上に存在しているので、計6つのHLAの型の適合を一般的に調べています。

9

49

HLAは、両親から遺伝的に受けついているもので、数多くのタイプが知られています。その中でも特に移植に関与するのは、HLA・B(57種類)、HLA・DR(21種類)で、一人の人がそれぞれについて2つづつ、合計6種類のタイプを持っています。

たとえば、両親がHLAのA・B・DRの1つずつを1組として合計で2組のHLAを持っていると、その子供は父親の1組と母親の1組を遺伝的に受け継ぐため、4通りの組み合わせができます。

つまり、兄弟姉妹間では4分の1の確立で同じHLAタイプを持つことになります。

これが他人となるとその組み合わせは膨大で、およそ1万人に一人、日本人では50人から千人に一人しかいないことになり、HLAのタイプが合う人を見つけることは大変です。

50

献腎移植(死体腎移植)について

51

腎移植手術までの流れ

生体腎移植の場合 ※ ドナーの状況によっては、透析導入前の移植も可能。

透析治療 生体腎移植

透析治療

組織適合性検査医学的適応検査

透析治療 継続待機

組織適合性検査医学的適応検査

登録

献腎移植の場合

一般的な移植手術後の流れ(期間は目安です)

免疫抑制療法開始

感染症予防

免疫抑制療法開始

感染症予防

初期維持期

週1~2回受診

初期維持期

週1~2回受診

維持期

月1~2回受診

維持期

月1~2回受診手術手術 退院退院

※ 免疫抑制療法、感染症予防は、退院後も継続する。

約4週間 移植後3~4ヵ月まで 4ヵ月以降

献腎移植

52

献腎移植 レシピエント選択基準

腎臓

適合条件

優先順位 以下4項目を点数化し、合計点数が多い順

ABO式血液型の一致

リンパ球 クロスマッチ 陰性

提供施設と移植登録施設の所在地

HLA抗原のミスマッチ数の少なさ

待機日数

小児待機患者 (16歳未満加点)

53

腎移植希望者 (レシピエント) 選択基準

前提条件

(1) ABO式血液型

(2) リンパ球直接交叉試験陰性

優先順位

(1) 搬送時間 (阻血時間) 同一都道府県内、

同一ブロック内 ( 6 or 12点 )

(2) HLA型の適合度 (0 ~ 14点)

(3) 待機日数 ( 1年:1点 10年以上 log計算 )

(4) 小児待機患者 ( 16歳未満: 14点 )

54

レシピエント優先順位の点数1.搬送時間 同一 都道府県内 12点

同一 ブロック内 6点

2.HLA型の適合度

3.待機日数 > 4014日 N/365

(N) ≦ 4014日 10+log1.74 (N/365-9)

4.小児 待機患者 年齢≧16 0 点

<16 14 点

DRミスマッチ数 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2

AおよびB

ミスマッチ数0 1 2 3 4 0 1 2 3 4 0 1 2 3 4

点数 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0

10

55

移植待機患者数 (日本臓器移植ネットワーク登録)

心(心肺同時含む) 肺(心肺同時含む) 肝臓腎臓

(膵腎・肝腎同時含む)

膵臓 小腸

現登録者数 170 141 254 11,708 179 4

11,7084,0727,636合計

1,135427708九州沖縄

928345583中国四国

1,7716721,099近畿

2,2317101,521東海北陸

4,5051,5182,987関東甲信越

652213439東北

486187299北海道

希望者女男ブロック

<2010年 9月 30日 現在>

腎臓移植 希望登録者数 (ブロック別)

56

腎移植待機患者 年代別と待機期間

<2010年 9月 30日 現在>

年代別 待機期間

*15歳未満:46名

(日本臓器移植ネットワーク登録 : n=11,708)

0.2% 0.5% 2.9%

13.1%

27.7%

33.9%

19.7%

1.8%

0~9歳10~19歳20~29歳30~39歳40~49歳50~59歳60~69歳

41.7%

25.7%

21.3%

7.6%3.8%

5年未満

5年以上10年未満

10年以上15年未満

15年以上20年未満

20年以上

平均待機期間= 17年

57

臓器提供者として不適格な場合

①悪性腫瘍の既往がある場合(根治手術後、5年無再発は献腎ドナー候補として考慮)

(*脳腫瘍、皮膚がんを除く)

②活動性感染症(肺炎、敗血症など)がある場合

③伝染性感染症(AIDS、B型肝炎ウイルスなど)をもっている場合

④年齢が70歳を超える場合

⑤血液検査、尿検査などで器質的腎障害が考えられる場合

献腎ドナー適応条件

・臓器提供意思表示カード(ドナーカード)の所持 ⇒ 臓器提供の意思あり・生前に本人が書面による意思表示をしている。・患者家族の承諾がある。

58

提供可能な臓器および組織

◆脳死下、心停止下での臓器・組織提供:生前に本人の意思表示がなくても家族の書面による同意があれば提供可能 (組織提供については、臓器移植法範疇外)

心臓肺肝臓小腸

皮膚 耳小骨 気管心臓弁 血管 骨

脳死下 心停止下

臓器

組織

腎臓眼球膵臓

59

【親族への優先提供が行われる場合】

① ご本人(15歳以上の方)が臓器を提供する意思表示に併せて、親族へ優先

提供の意思表示を書面により表示している

② 親族(配偶者※1、子ども※2、父母※2)が移植希望登録をしている

③ 医学的な条件(適合条件)を満たしている

※1 婚姻届を出している方。いわゆる事実婚の方は含みません。

※2 実の親子のほか、特別養子縁組による養子及び養父母を含みます。

臓器移植法の一部改正に伴い、2010年1月17日より、臓器を提供する意思表示に併せて、親族に対し臓器を優先的に提供する意思を書面により表示することができる。

親族への優先提供について①

60

【親族への優先提供の意思を表示する方法】① (社)日本臓器移植ネットワークのホームページから意思を登録する臓器提

供意思登録サイトから、意思を登録することができます。

ホームページ http://www.jotnw.or.jp

モバイルサイト http://www.jotnw.or.jp/m

② 臓器提供意思表示カード・シールなどの意思表示欄に記入する余白に「親

族優先」と記入することができます。(優先提供する親族の名前を記入した

場合の取扱いは、留意事項②をご覧ください)

【留意事項】① 医学的な条件などにより移植の対象となる親族がいない場合は、親族以外

の方への移植が行われます。

② 優先提供する親族の方を指定(名前を記入)した場合は、その方を含めた親族全体

への優先提供意思として取り扱います。

③「○○さんだけにしか提供したくない」という提供先を限定する意思表示があった場

合には、親族の方も含め、臓器提供が行われません。

④ 親族提供を目的とした自殺を防ぐため、自殺した方からの親族への優先提供は行

われません。

親族への優先提供について②

11

61

移植に関する費用

62

腎移植手術について

63

腎臓摘出術(ドナーの手術)

手術方法

直視下:従来から行われている手術法。後腹腔を開く。

鏡視下:後腹膜と腹腔からのアプローチがある。

基本的には、両方とも1cm程度の小さな切開をおいて内視鏡と手術器具を挿入して行う。

直視下腎臓摘出手術 鏡視下腎臓摘出手術

青線:切開部(手術創)手術時間:通常4時間程度。 輸血:通常必要ない。

64

腎移植手術:レシピエントに移植する場所

下大静脈

尿管

腎静脈

膀胱

腎動脈

腹部大動脈

下腹部を20~25cm切開する

移植腎

腎臓は本来、腰のあたりにありますが、腎移植の際には、おなかの右下の皮膚をおよそ15cm切開し、骨盤の中(腸骨窩)に移植します。

おなかの中には「腹膜」という膜があり、腹腔を形成していますが、移植後の腹膜炎や腸閉塞等の合併症を予防するため腹膜を傷つけないように腹腔の外(後腹膜)にスペースをつくり、そこに腎臓をおさめます。

腎臓には「動脈」「静脈」「尿管」の3本の管があり、それぞれを「内あるいは外腸骨動脈」「外腸骨静脈」「膀胱」につなぎます。

通常、手術時間は約4時間。

65

移植手術

レシピエントの腎臓は摘出せず、ドナーの腎臓を下腹部(腸骨窩)に移植 66

拒絶反応を抑えろ

12

67移植腎を攻撃排除 (拒絶) する。

腎移植において免疫と拒絶とは?

リンパ球が働く (免疫)

マクロファージが働く

移植された腎臓を非自己(自分と違う)と判断する。

68

拒絶反応の起こり方

69 70

71

HLA型HLA-A、B、DR(各2種類、計6つ)の抗原について検査を行う。リンパ球を分離し、すでに型の判明している抗血清と反応させ、約6時間で決定することができる。

ドナーとレシピエントの間でHLA型が一致するほど生着率が高くなる。しかし、シクロスポリン等の優れた免疫抑制剤の登場でHLAの適合率と生着率の関係はそれほど明確ではなくなった。

レシピエントの血清中にドナー腎に対する抗体がないかどうかを調べる。ダイレクトクロスマッチ陰性であることが必要である。とくにT細胞が常温で反応する場合には(T-warm)といい、超急性拒絶反応を起こす可能性が強い。

ダイレクトクロスマッチ(リンパ球交叉試験、白血球クロスマッチ)

72

13

73

免疫抑制剤の進歩

74

75

主な免疫抑制剤の種類

分類 一般名(略号) 商品名(販売会社)

シクロスポリン(CyA)

シクロスポリン・マイクロエマルジョン(CyA ME)

タクロリムス(FK506)

タクロリムス水和物徐放性カプセル

アザチオプリン(AZ) イムラン(グラクソスミスクライン)/アザニン(田辺三菱)

ミゾリビン(MZ) ブレディニン(旭化成ファーマ)

ミコフェノール酸モフェチル(MMF) セルセプト(中外)

プレドニゾロン プレドニン(塩野義)

メチルプレドニゾロン ソルメドロール/メドロール(ファイザー)

抗IL-2レセプター抗体 バシリキシマブ シムレクト(ノバルティスファーマ)

免疫グロブリン 抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン サイモグロブリン(サノフィアベンティス)

その他 塩酸グスペリムス(DSG) スパニジン(日本化薬)

核酸合成阻害剤

ステロイド剤

カルシニューリン阻害剤

プログラフ/グラセプタ―(アステラス)

サンデミュン/ネオーラル(ノバルティスファーマ)

76

免疫抑制剤とサジ加減

77

免疫抑制剤と拒絶反応・感染症

78

免疫抑制剤が関係する合併症

14

79

拒絶

生着(至適量)

感染症、悪性腫瘍(オーバーイムノサプレッション)

副作用

副作用

副作用

単独療法 併用療法

投与量が少ないので軽減される

免疫力

副作用発現

免疫抑制剤の副作用に対する対策

併用療法:複数の免疫抑制剤を組み合わせることで各薬剤の投与量を減らし副作用の発現を抑えようとする投与法。

80

カルシニューリン阻害剤

プログラフ・グラセプター(タクロリムス)

サンディミュン(シクロスポリン)

ネオーラル(シクロスポリン)

薬理作用

リンパ球に作用する(IL-2産生抑制)。代謝拮抗剤のように、細胞毒性的に働くのではなく、lymphostaticに可逆的に機能を抑制する。濃度が低ければリンパ球の活性は抑制されない。

50 mg 546円

81

100

200

300

400

500

600

1 2 3 4 5 6 128

(mg/dl)

(hr)

シクロスポリンの血中濃度

トラフ値

C2 AUC0-4

82

代謝拮抗剤

ミコフェノール酸モフェチル (MMF)

アザチオプリンミゾリビン

ミコフェノール酸モフェチル (MMF)(セルセプト)

起源

ミコフェノール酸の誘導体、経口投与後、加水分解され活性体ミコフェノール酸となる

作用機序

プリン代謝系のイノシンフォスフェイト脱水素酵素の活性を阻害

→ グアノシンヌクレオチド合成のデノボ経路を阻害する

副作用

下痢、CMV感染症

84

IMP

XMP

GMP

DNA, RNA

IMP dehydrogenase

プリン合成経路 (de novo 系)

ミコフェノール酸

MZB-5’-P

6-MP, TIMP

細胞内

15

85

抗体製剤:バジリキシマブ(CD25抗体)

シムレクト (20mg)

・IL-2レセプターα鎖(CD25)に対する

ヒト/マウス キメラ型モノクローナル抗体。

・2回投与(Day 0, 4)のみで、IL-2レセプター

を1ヵ月以上ブロックする。

86

モノクローナル抗体の種類

Murine Chimeric Humanized(マウス抗体) (キメラ抗体) (ヒト化抗体)

マウス100% マウス25% マウス10%

マウス型 ヒト型

親和性 高い 高い 低い抗原性 高い 低い 低い半減期 短い 長い 長い

87

シムレクトの特性

● IL-2レセプターα鎖(CD25)に対するヒト/マウス キメラ型モノクローナル抗体。

● 2回投与(Day 0, 4)のみで、IL-2レセプターを1ヵ月以上ブロックする。

● ネオーラル、 ステロイドとの併用により、急性拒絶反応の発現を30%減少させる。

● プラセボと同等の有害事象発現率。

(海外データ:二重盲検比較試験)88

0-2 2日数

4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30

シムレクト 20mg (day 0, 4)

ソルメドロール(mg)

125100 80 60 40

CyAネオーラル

4~8mg/kg

メドロール(mg)

MMF (セルセプト) (30~20mg/kg/day)

生体腎移植 免疫抑制療法

20 16 12 8 4

シクロスポリン (ネオーラル) 8mg/kg/day

日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日

CyA 2mg/kgサンディミュン

89

感染症との戦い

90

免疫抑制剤による感染症

免疫抑制剤を服用していると、免疫力が低下しすぎて感染症が起こることが問題となる。

ただし、移植後3~4ヵ月を過ぎて安定期に入ると免疫抑制剤の服用量は減少するので、感染症の発症する頻度は少なくなる。

感染症の種類としては肺炎が多く、中でもサイトメガロウイルス(CMV)による肺炎が7割以上にもなる。

近年サイトメガロウイルス感染症の早期診断(サイトメガロウイルスアンチゲネミア)が可能になり、さらに非常によく効く薬(ガンシクロビル・バルガンシクロビル)が開発され、治癒率が高まった。

また、移植後にカリニ肺炎が起こることもある。昔はカリニ肺炎が起こると7割ぐらいの患者が死亡していたが、ST合剤の予防投与でカリニ肺炎の発症頻度は極めて少なくなった。

16

91

腎移植後に起こりやすい感染症

サイトメガロウイルス

92

サイトメガロウイルス (CMV)

公式名称:ヒトヘルペスウイルス 5

身近な、ありふれたウイルス。

正常な人には感染しても発症しない。

易感染性宿主には重篤な感染症を引き起こす。

(感染防御免疫が未熟な胎児、移植患者、HIV感染者)

∴ CMVは典型的な日和見病原体である。

日本人の成人の90%が既に感染して抗体陽性。

93

潜伏 CMV

免疫抑制、腫瘍、AIDS、妊娠

再活性化

感染性 CMV

(reactivatuin)

① 同種免疫反応によるTリンパ球の活性化② 免疫抑制によるCMVの内因感染・体内伝播の助長

サイトメガロウイルスの再活性化機序

94

サイトメガロウイルス感染症の治療

ガンシクロビル(デノシン注) 副作用:骨髄抑制、腎毒性

バルガンシクロビル(バリキサ錠)

:ガンシクロビルのプロドラッグ 副作用:骨髄抑制、腎毒性

CMV抗体 (+)

CMV抗体 (-) CMV抗体 (-)

CMV抗体 (+)

ドナー レシピエント

CMV抗体 (+) CMV抗体 (-)

CMV抗体 (-) CMV抗体 (+)

どのパターンがCMV感染を発症し易いか?

95

CMV感染症の臨床像と障害機序

肺炎

(間質性肺炎)

消化管潰瘍・出血

網膜炎

肝炎

腸炎 CMVの直接的な細胞障害に基づくもの

CMV感染細胞に対する間接的な細胞障害に基づくもの

96

症候性CMV感染症の診断基準

1. ウイルス学的所見(ウイルス/抗体)

① CMV (ウイルス/抗原/核酸)の検出

② ペア血清で、抗体陽転あるいは抗体価の4倍以上の上昇・単一血清でIgM抗体の検出

( ①および②の両方またはどちらか一方が陽性であること )

2. 臨床所見(症状/徴候)

① 不明熱

② 白血球減少・血小板減少・異型リンパ球の出現肺炎・網膜炎・肝炎・消化管潰瘍・膵炎・腎症

( ①に加えて②の9項目中1項目以上が陽性であること )

17

97

CMV感染症の診断法

1. 血清学的診断法 (ELISA法):IgM抗体 IgG抗体

2. 組織学的診断法:封入体細胞 (owl,s eye cells)

3. ウイルス分離培養:尿、咽頭ぬぐい液、血液

シェルバイアル法:感染線維芽細胞上に発現される初期抗原をモノクローナル抗体で染色

4. PCR法:CMV-DNAの検出

5. CMVアンチゲネミア法 (CMV抗原血症):CMV抗原に対する特異的モノクローナル抗体を反応させ感染細胞を検出する方法

98

サイトメガロウイルス感染症の治療

ガンシクロビル(デノシン)

初期投与:1回5mg/kg を1日2回、12時間ごと1時間以上かけて、14日間点滴静注。

維持投与:1日6mg/kg を週に5日または1日5mg/kg を週に7日、1時間以上かけて点滴静注。

副作用:骨髄抑制、腎毒性

バルガンシクロビル(バリキサ):ガンシクロビルのプロドラッグ1錠=450mg 副作用:骨髄抑制、腎毒性

初期投与:1回900mg を1日2回、21日間。(Ccr= 40~59:450mg x2 Ccr= 25~39:450mg x1)

維持投与:1回900mgを1日1回

99

ニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)

原因:Pneumocystis jirovecii (真菌)

臓器移植、骨髄移植、白血病、AIDSなどにより細胞性免疫能が低下した患者に日和見感染を引き起こす。

バクタ (ST合剤): 4~12錠 2× /day

ベナンバックス (Pentamidine isetionate):

治療:

吸入療法:1日1回100~300mgを30分間で吸入

筋注(点滴静注):1日1回 3~4 mg/kg

バクトラミン注 (ST合剤):

15~20 mg/kg/day を2~3分割, div100

101

ABO血液型不適合腎移植

今や生体腎移植のうち、25%を占める。

102

血液型は合っていないとダメですか?

生体腎移植の場合は、血液型が違っても移植は可能です。

腎提供者(ドナー)

受腎者(レシピエント)

A BO AB

A BO AB

“血液型一致”

18

103

腎提供者(ドナー)

受腎者(レシピエント)

O

AB

A B

O

ABA

B

OO

AB

ABAB

A

B

A B

AB

OO

B

A A B

腎提供者(ドナー)

受腎者(レシピエント)

“血液型不適合”

“血液型 ”不一致

104

Gal Gal

Fuc

GalNAc GlcNAc

Gal Gal Gal

Fuc

GlcNAc

A型

B型

血液型と糖鎖抗原

105

血液型不適合腎移植

ABO式血液型が不適合の場合は、何も処置をしないで移植すると移植腎血管内皮細胞上に発現している血液型糖鎖抗原にレシピエント血中の抗血液型抗体が結合し、補体を活性化し内皮細胞障害から血栓形成、出血、梗塞、壊死を引き起こし、移植腎は廃絶してしまう。

そのため、あらかじめ存在する抗体(抗A抗体、抗B抗体)を除去し、抗体産生を強力に制御する免疫抑制療法(脱感作療法)を術前から行う必要がある。

その術前処置により抗原抗体反応と補体活性化によって惹起される急性抗体関連型拒絶反応の抑制が可能となる。 106

ABO血液型不適合腎移植

従来は「免疫学的禁忌」とされていた。

<免疫学的禁忌の理由>

ドナーの移植腎血管内皮細胞に発現されている血液型抗原に対してレシピエント体内に存在する「自然抗体」である抗B抗体が反応して、「抗体関連型拒絶反応」により早期に移植腎を喪失してしまう。

B型

A型 抗B抗体

107

1. 脱感作療法 (免疫抑制療法:術前4週前~セルセプト内服)

4. 抗凝固療法 (anti-DIC療法、抗血小板薬)

2. 抗体 (抗A抗B抗体) 除去 :血漿交換、二重濾過血漿交換)

3.リツキサン (CD20抗体)投与 または 脾臓摘出

「ABO血液型不適合腎移植における治療戦略」

108

リツキサン (Rituximab) について

・分子標的治療薬(抗体製剤)

・適応:CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫

・マウス-ヒトキメラ型モノクローナル抗体

・ヒトBリンパ球表面の分化抗原CD20リン蛋白に結合して抗腫瘍効果を示す。

・副作用:infusion reaction (アナフィラキシー様症状、肺障害)

19

109

血漿交換

110

DFPP (double filtration plasma pheresis)

111

抗A・抗B抗体 抗A・抗B抗体

1〜2週腎移植

抗体除去

(DFPP)

Accommodation(免疫学的順応)

-2週-1ヶ月

0

細胞性免疫

液性免疫

ミコフェノール酸 (MMF)

T細胞

カルシニューリン阻害剤 (CYS/FK506)

バジリキシマブ (抗CD25 抗体)

細胞障害性T細胞リツキシマブ ( 抗CD20 抗体)

B細胞 形質細胞Pre-B細胞

脱感作療法

112

years(Kaplan-Meier)

%

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 5 10 15

log-rank

(3年)’01-‘04 (245cases) 96%

(1年)

生着率

ABO血液型不適合腎移植における年度別生着率

’98-’00 (149cases)

’95-’97 (123cases)

’92-’94 ( 85cases)

’89-’91 ( 83cases)

94%

85% 79%

81% 78%

81% 76%

82% 81%

日本ABO血液型不適合移植研究会 2005

<2001~2010年>1年生着率=96% 1年生存率=98% 5年生着率=91% 5年生存率=96%9年生着率=83% 9年生存率=91%

113

先行的腎移植 (PEKT: preemtive kidney transplantation)

定義:維持透析療法を行うことなく直接腎移植を行う治療。(一過性の透析を行った場合も含む。)

・1980年代に小児を主体に行われ始めた。(小児への透析の困難さ、小児に対する成長・発達への利点)

・わが国の腎移植のうち12%がPEKT(成人でも年々増加)。

・PEKTの利点:移植腎生着率が良好。患者生存率が良好。

・eGFR= 15~30ml/minで移植準備、eGFR= 10~15ml/minで移植。

114

何故、PEKT (preemptive kidney transplantation:先行的腎移植) なのか?

移植腎予後を規定する因子は何か? ⇒ 移植前の透析期間

Paired kidney analysis の考え

PEKTの利点とは?

1.心血管系疾患の悪化や発症を抑制する ⇒ 生存率が良い

移植前のEF<20% の拡張型心筋症 ⇒ 腎移植 ⇒ 84%の患者がEF>50%

心機能が改善するかしないかの違いは何か? ⇒ 透析期間

心収縮機能 改善例 ⇒ 透析期間 1年未満心収縮機能 非改善例 ⇒ 透析期間 3年以上

20

115

2.PEKTの概念が浸透⇒ 保存期腎不全のCKDケアの質的向上が得られる。

CKD stage 4, 5 での教育入院は、その後のGFRの低下スピードを減らす。

循環器内科/腎臓内科:CKD患者に冠動脈造影やインターベンションを行うことを躊躇する。(造影剤で腎機能が悪化することを恐れる)

CKD患者の虚血性心疾患 (IHD)では、胸痛を訴えない。労作時呼吸困難で腎性貧血のせいにされたり、IHDと考えられないこともある。

保存期のCKD患者に早期のCAGを行うことは腎移植後の予後にメリットが高い。

PEKTの利点とは?

CKD-MBDの管理:移植後高Ca血症の問題(intact-PTH>500では高率に高Caになる。)保存期からのVitD3製剤投与の重要性必要であれば移植前に副甲状腺のインターベンションを。 116

・ より早期に専門医に紹介する・ CVDスクリーニング・積極的IHDの除外・ 腎性貧血への積極的治療・ CKD-MBDの積極的治療・ がんスクリーニング率の向上・ 感染症 の監視・予防・ ワクチン接種率向上(HBV、肺炎球菌)・ 医療経済的メリット

Transplant first initiatine(まず腎移植をやっていこう! というイニシアチブ)

KDOQIの推奨 ⇒ 全移植の50%をPEKTで!!

PEKTのCKDに対する利点とは?

CKD stage 4 / eGFR 20ml/min くらいで移植施設へ紹介を!

117

腎移植患者の死因(n=497)

12.7%

16.9%

14.1%

18.1%

7.8%

4.8%

1.8%1.6%

1.2%

1.0%13.9%

2.4%

脳血管障害

感染症

悪性新生物

心疾患

消化器疾患

呼吸器疾患

自殺

事故

血液・造血器疾患

腎・泌尿器疾患

その他

記入なし

心疾患

脳血管障害

118

病期

透析や移植の準備

透析や移植を導入

1

2

3

4

5

60~89

30~59

15~29

< 15

≧ 90

慢性腎臓病 (CKD) の病期分類と治療計画

Cr

1.9~3.54

1.0~1.89

60歳 男

3.55~

< 0.68

0.69~0.99

Cr (クレアチニン) = 1.2 ⇔ GFR= 49.1

GFR 推奨診療計画

経過観察

慌てて治療をする。

食事指導を厳しくする。

実際は・・・・

Cr= 6~8でやっと紹介

貧血管理

腎心保護薬(ACEI/ARB)の投与

腎心保護薬(ACEI/ARB)の投与DM腎症はACRで早期発見

専門医への紹介

119Stage 1

Stage 1

Stage 2

Stage 2

Stage 3

Stage 3 Stage 4

Stage 4

Stage 5

Stage 5

現在の治療

今後の治療

GFR

60~89 30~59 15~29 < 15> 90

心血管合併症

透析移植

死亡

先行的腎移植

心血管合併症

CKDに対する新たな治療戦略

介入(教育・指導・治療)

Preemptive kidney transplantation 120

腎移植成績の向上

21

121

新たな免疫抑制剤の開発

腎移植医療の進歩

Over immunosuppressionからの回避・感染症の減少

適切な血中濃度モニタリング (トラフ値、AUC0-4)

CMV感染の早期診断と治療法の碓立

急性拒絶反応の減少

CMVアンチゲネミア/ガンシクロビル、バルガンシクロビル

シクロスポリン、タクロリムスMMF、抗CD25抗体、抗CD20抗体抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリンmTOR阻害剤

122

本日のまとめ

腎移植と透析は車の両輪である。

移植医療は拒絶反応と感染症の戦いである。

移植医療は集学的医療である。

移植医療は命(愛)のリレーである。