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Title 中国の産業立地に関する分析( Dissertation_全文 ) Author(s) 小林, 拓磨 Citation Kyoto University (京都大学) Issue Date 2016-07-25 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k19912 Right Type Thesis or Dissertation Textversion ETD Kyoto University

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Title 中国の産業立地に関する分析( Dissertation_全文 )

Author(s) 小林, 拓磨

Citation Kyoto University (京都大学)

Issue Date 2016-07-25

URL https://doi.org/10.14989/doctor.k19912

Right

Type Thesis or Dissertation

Textversion ETD

Kyoto University

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京都大学 学位申請論文

中国の産業立地に関する分析

小 林 拓 磨

2016 年 3 月

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目 次 序章 1 第 1 節 地方政府主導型発展と産業立地 第 2 節 1990 年代の議論 第 3 節 2000 年代後半以降の議論 第 4 節 本稿の着目点 第 5 節 本稿の構成

第 1 章 中国における産業移転 -東部地域から中・西部地域への移転について- 13

第 1 節 地域発展政策の変遷 第 2 節 産業移転の事例と既存研究 第 3 節 沿海地域から内陸地域への産業移転 第 4 節 産業構造の同質化 おわりに

第 2 章 中国における産業立地 -分散か集中か- 45

第 1 節 産業立地の分散と集中に関する議論 第 2 節 産業立地を分散化させる一要因としての重複建設

第 3 節 立地の分散と集中に関する分析 第 4 節 産業立地の分散化の区別 おわりに

第 3 章 中国における産業立地の決定要因 -所有との関係を中心に- 71

第 1 節 産業立地の集中と分散 第 2 節 所有と産業立地の関係

第 3 節 混合市場の形成と生産能力過剰 第 4 節 混合市場における産業立地と生産能力過剰 第 5 節 地域保護主義の残存 おわりに

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終章 95 第 1 節 各章の要約

第 2 節 中国の産業立地再考 第 3 節 今後の課題

参考文献 103

初出一覧

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1

序 章

第 1節 地方政府主導型発展と産業立地

改革開放後の中国では,地域開発の担い手として地方政府が重要な役割を果たしてきた。

中央政府は地方財政請負制度を導入して,財政権限の地方分権化に踏み切った。財政自主権

を委譲された地方政府は競い合うように地域の発展に勤しんだ。改革開放初期において,企

業という市場経済の主体は未完成,未成熟であったが,地方政府がそれを代替した。中国の

地方政府は経済の「規制者」,「監督者」としての中央政府を補助することや経済環境を整備

し,企業活動を円滑に行うための条件を作り出すこと,そして,中央政府の認める範囲内で

独自に条例を定め,地方経済の振興をはかる施策を実施することという,市場経済国の地方

政府にもある役割だけでなく,管轄する企業の所有者の代表として資産の保持とその増殖

をはかる役割も担った(加藤, 1997, 58ページ)。市場の未発達を地方政府が補完するという

経済システムは中国の既存のシステムと適合的であり,移行初期段階にはきわめて有効に

機能した。加藤(2003)は地方政府主導型発展1が中国の市場移行に果たした貢献を次のよ

うにまとめている。第一に,地方政府主導型発展は,非国有企業の発展を促し,その結果,

中央政府の計画外で市場法則に従う企業の活動領域が拡大した。第二に,地方政府が制御で

きる資源が増大し,地域間での横向きの経済連携が強化された。それは上下の行政関係では

ない市場関係の拡大をもたらした。第三に,地域間での相互競争が激化し,効率性が高まっ

た。第四に,分権化体制の下では,改革の施行が実施しやすかった。

しかし,市場化の進展に伴い,以下のような問題が生じてきた。第一の問題は,地域格差

の拡大である。発展の条件に恵まれた沿海地域とそうでない内陸地域の格差は改革開放後

2000 年代半ばまで一貫して拡大し続けた。第二の問題は,地域保護主義の台頭である。地

元企業の振興を目的として,地方政府が域内市場の封鎖を行ったり,多くの地域で同一産業

に投資が集中する重複建設が発生した2(加藤, 2003, 118-119ページ)。

1 加藤(2003)は,熊賢良の「行政的な分権化」を「地方政府主導型発展」とみなしている。

2 日置(2003)は地域保護主義を次のように定義している。すなわち,「各地方政府が地方自身の利益追

求のために,各管轄区域範囲内で様々な手段を講じて,他地域の製品の自地域への流入阻止や自地域の

製品の他地域への流出阻止を行い,地域間の正常な商品流通を阻害すること」である(日置, 2003, 123

ページ)。

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2

地域格差や地域保護主義といった問題には産業立地が大きく関わっている。1949 年の中

華人民共和国建国以後,地域開発戦略は均衡発展戦略と不均衡発展戦略が繰り返し出現し

た。均衡発展戦略は後進地域の発展を優先する戦略である。一方,不均衡発展戦略は先進地

域である東部地域の発展を優先する戦略である。両者は正反対の戦略であるようにみえる

が,差違はそれほど大きくない。不均衡発展戦略は東部地域における経済成長の輻射力を利

用しながら,やがて東部から中部,そして西部へと発展を段階的に波及させるという,「梯

子理論」を理論的根拠としている。したがって,不均衡発展戦略も究極的には国民経済のバ

ランスのとれた発展を重視しており,両者の違いはどの程度のタイムスパンで,どのような

経路をへてバランスのとれた地域発展が実現されると考えるかにある(加藤, 2003, 43-45ペ

ージ)。

建国後から改革開放までの期間には,主として,沿海地域に比べて大きく遅れた内陸地域

の工業基盤の形成に重点が置かれた均衡発展戦略が採られたが,改革開放期に入ると効率

を重視する不均衡発展戦略に転換した。「梯子理論」が想定するように,東部地域が国外か

ら導入した先進技術やそれをもとに達成した発展が中・西部地域へと波及すれば,地域格差

は縮小する可能性があったが,そうはならなかった3。内陸地域は原材料生産地として特化

し,沿海地域は製造業を優先的に発展させるという分業システムが中央政府によって提起

されたが,地方分権の進展によって激しい地域間競争が生じることになった。原材料と製造

業製品の公定価格差が大きかったために,内陸地域の地方政府は原材料の流出を制限して,

財政収入を利潤率の高い製造業の業種に投資したことによって,地域間で産業構造の同質

化が進んだ(王, 2001, 49-50ページ)。また,地方政府は他地域で生産された工業品などの域

内流入を制限し,同種製品を生産する地元企業を保護しようとした(加藤, 2003, 106 ペー

ジ)。前者は移出制限型市場封鎖,後者は移入制限型市場封鎖と呼ばれる4。地方政府の地域

市場保護,すなわち,地域保護主義が存在したことは,鉄道や道路などのインフラの整備が

不十分であったことと並んで,沿海地域から内陸地域への波及メカニズムが有効に働かな

かったことの要因と考えられる。

3 日置(2004)では,地域間産業連関分析により,1990年代において,華東地域(長江デルタ地域)か

ら中部地域へと華南地域(南部沿海地域)から中部地域及び西南地域への波及効果は見られるものの水

準は高くなく,沿海地域から内陸地域,特に西部地域への波及効果は総じて限定的であったことが明ら

かにされている(日置, 2004, 139-141ページ)。

4 移入制限型市場封鎖と移出制限型市場封鎖の詳細は,加藤(1997)を参照されたい。

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3

第 0-1 図 分散的な立地と集中的な立地の例

a) 分散的な立地 b) 集中的な立地

1 1 1 1 1 25

1 1 1 1 1

1 1 1 1 1

1 1 1 1 1

1 1 1 1 1

出所)筆者作成

地域格差の急速な拡大が,国家や民族間の安定団結に影響を与えかねないという深刻な

危機感を背景に,1990 年代半ばには,地域開発戦略は均衡発展戦略へ転換することとなっ

た。沿海地域から内陸地域への発展の波及効果が限定的なものであるならば,内陸地域に新

たな成長拠点を開発がある。地域均衡発展戦略への転換は,1997 年 3 月の全国人民大会で

批准された「国民経済と社会発展第九次五か年計画と 2010年長期目標要綱」で公式に表明

された。そこでは,「地域経済の協調的発展の促進」が謳われ,沿海地域優先から内陸地域

への適切な産業移転が目指されることになった(加藤, 2003, 36ページ)。

以上のように,中国における地域開発戦略や産業立地政策は地域格差の動向から大きな

影響を受けている。また,1990 年代半ばの不均衡発展戦略から均衡発展戦略への転換から

は,沿海地域から内陸地域への発展の波及メカニズムが有効に機能しなかったことが示唆

され,その一つの要因として地域保護主義が台頭したことが考えられる。そこで,本稿では,

中国が地方政府主導型の発展を遂げた結果生じた地域格差の拡大や地域保護主義の台頭と

強い関わりがある産業立地について分析を行うことにしたい。

では,産業立地の何に着目するのか。本稿では,産業立地の分散化あるいは集中化に着目

する。第 0-1図を用いて,分散的な立地と集中的な立地がどのようなものであるかを簡単に

述べる。第 0-1 図のマスを 1 つの地域とし,ある産業の生産能力が 25 あると仮定する。こ

の場合,分散的な立地の極端な例は各地域が 1ずつ生産能力を持っている状態である(第 0-

1-a 図)。逆に集中的な立地とは極端に言えば,1 つの地域に 25 すべての生産能力が集中し

ていることである(第 0-1-b図)。

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4

第 2節 1990年代の議論

2.1. 産業立地と市場統合

中国における産業立地の分散化あるいは集中化に関しては,地域間市場分断5の強化ある

いは市場統合の進展を検討する際の一つの視点として 1990 年代から分析されてきた6。「各

地域の需要構造に大差がなく,存在する地域間交易は比較優位に根差した産業間交易が支

配的であると仮定する。このとき,各地域の産業構造が同質的であり,産業の地域特化が不

分明であれば,地域間交易が行われず,地域間で市場が分断していることになる(日置, 2003,

121 ページ)」という論理によって,分散的な産業立地は市場が分断していることと同義と

して扱われていた。逆に,集中的な立地は市場が統合していることと同義として扱われてい

た。

上記のような,「市場統合=集中的な産業立地=地域間産業構造差が大きい」という仮定

が現実的であるかどうかは吟味すべきである。産業立地が集中的である,あるいは,地域間

の産業構造が大きく異なっているからといって,地域間相互依存性が強く,市場が統合され

ているとは限らない。また,業種によって市場圏が異なるので,分散的な立地が非効率的で

集中的な立地が効率的であるとは一概には言えない。

しかし,改革開放以後,地域保護主義が台頭した中国では,地方政府による市場封鎖が行

われ,市場分断が生じており,規模の経済性が弱かった7。例えば,王(2001)によると,

1995年における小型トラック組立メーカー数は 37社で,そのうち,生産実績 1万台以下が

30 社と,規模の小さい企業が多数を占め,それらは全国各地に分散していたという(王, 2001,

96 ページ)。そのために,規模の大きな企業による集中的な生産,すなわち,産業立地の集

中化が求められ,地域間分業の進展と市場統合が期待された。また,新貿易理論の「貿易障

壁がなく,輸送費が低下してくると,市場規模の大きなところに企業集積を促す(佐藤・田

渕・山本, 2011)」というような論理からも,集中的な産業立地と市場が統合していることは

結び付けられるであろう。

5 日置(2003)は市場分断を次のように定義している。すなわち,「ある国の諸地域間で交易を妨げるな

んらかの制度的・物理的障害が存在するために,地域間交易が活発にとり行われない状態のこと」であ

る(日置, 2003, 121ページ)。

6 中国における地域間市場統合の進展を検討するための視点は他に,地域間の価格差,域外との交易量の

増減などがある。詳細は日置(2003)や加藤(1997; 2003)を参照されたい。

7 1995年,小型トラック組立メーカー37社のうち,生産実績 1万台以下が 30社(王, 2001, )

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2.2. 市場分断のデメリットと市場統合のメリット

ここでは,市場分断のデメリットと市場統合のメリットを確認しておく。

まず,市場分断のデメリットには以下のようなことが挙げられる。第一に,市場分断は中

国の戦略産業の成長を妨げ,新しい輸出産業の育成を妨げる。2001年のWTO加盟に伴い,

中国企業は国外企業との激しい競争にさらされるようになったため,企業組織の再構築と

輸出産業の構造転換を実現するために,国内市場の統合は必要である。国内市場が分断され,

全国規模での企業競争が展開されなければ,企業間の提携・吸収合併・リストラクチャリン

グによる資源の有効配置は不可能である。また,市場分断は規模の経済性を要求する機械・

電子・自動車などの戦略産業の育成を妨げる(王, 2001, 6-7ページ)。第二に,市場分断は生

産能力過剰を生み出す。地方政府は競って開発投資を行い,成長産業に一斉に参入したこと

で,地方政府単位の小規模で分散した企業立地と地域間で同質な産業構造が生まれ,生産能

力過剰が生じた。第三に,改革・開放政策を全国で足並みをそろえて進めることを困難にす

る。第四に,市場の大きさに着目した外資の進出に悪影響が及ぶこととなる(経済企画庁経

済研究所編, 1997, 113ページ)。

次に,市場統合のメリットを,ここでは岡本(2012a)の経済統合のメリットを参考に整

理する8。アダム・スミス以来,経済学では,経済の取引は効用を増大させ,交易にはメリ

ットがあると言われてきた。市場が統合することによって自由な交換や取引が空間的に拡

大すれば,交換のメリットを享受できるようになる。

市場統合のメリットには次のことが考えられる。第一に,市場が拡大して,企業にとって

は生産すればするほどコストを下げることになるため,規模の経済が発生する。

第二に,市場の拡大は分業をもたらす。自地域の得意な分野の生産に特化し,他地域に移

出して,生産が苦手なモノを他地域から移入することによって消費者も生産者も厚生を増

大させることが可能である。こうして経済の効率化が進む。

第三に,市場が統合されれば,同じモノは同じ価格で取引されるようになると考えられる。

市場がひとつになることにより一物一価の法則が働くようになる。労働市場でも,同一労働

同一賃金になることが期待される。

8 岡本(2012a)で用いられている「輸入(あるいは輸出)」を「移入(あるいは移出)」と置き換える。

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第四に,市場の拡大,規模の経済を通じて交換が生じるために消費者の厚生は増大すると

考えられている。また生産物や生産要素(労働と資本)が自由に動くことによって格差が縮

小することが期待される(岡本, 2012a, 294-297ページ)。

市場統合にはメリットだけでなく,次のようなデメリットもある。第一に,比較優位のな

い産業は市場統合の進展によって他地域の産業からの移入が増大し,競争によって淘汰さ

れることが考えられる。第二に,貧困層は地域間交易に参加できず,格差が拡大する可能性

がある。

以上のように,市場統合にはメリットとデメリットがあるが,競争促進,規模の経済,資

本財移入などにより生産性が向上し,長期的には正の外部効果が働いて経済成長を促進す

ることが期待される(岡本, 2012a, 296ページ)。

第 3節 2000年代後半以降の議論

中華人民共和国建国以降,分散的な産業立地が形成され,改革開放初期においても地方

財政請負制導入の影響を受けて産業立地は分散化傾向にあったが,1980年代後半より,よ

うやく産業立地は集中化傾向を見せ始めた(加藤・久保, 2009, 132ページ)。この産業立地

の集中化の動きは,同時に市場統合の進展を意味していると考えられた。すなわち,1980

年代後半以降における産業立地の東部地域への集中化は市場統合が進展していることを表

す一つの視点とされたのである。

また,Batisse and Poncet(2004)によると,1990年代には,産業立地の分散化をもたら

す要因である地域保護主義の影響力は他の要因(労働力及び資本の豊富さ,市場の潜在

力,中間投入財の利用可能度)に比べて小さく,また,Lu and Tao(2009)によると,そ

の影響力は弱まっているとされた。

2000年代後半になり,経済成長率が東高西低から西高東低へ転換すると,それは東部地

域から中・西部地域への産業移転の効果,すなわち,国内版雁行形態の効果の現れである

とする意見が出てきた。東部地域に集中的に立地していた企業が中・西部地域へ移転する

ことは産業立地の分散化を意味する。この動きは再び市場分断が強化されたことを示して

いるのであろうか。

王非暗・王珏・唐・範(2010)は,1998年から 2007年における製造業企業の立地を分

析し,1998年から 2004年までは,浙江省,江蘇省,山東省などの東部の地域への集中的

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7

な立地が見られたが,2004 年から 2007年においては,広東省,江蘇省,上海市などの東

部の地域から中部地域や北部沿海地域へと産業移転が生じていることを明らかにした。彼

らはこの事実をもって,中国が製造業立地の「分散期」に入ったと述べている。王らは製

造業立地が「分散期」に入ったことを地域統合の進展が進んだことによるものととらえ

た。

3.1. 中国国内版雁行形態論

ここでは,関(2002)を用いて,中国国内版雁行形態を説明する。

中国における地域格差を是正するには,先進地域から後進地域への資金移動が重要とな

る。アジア地域における経済発展は日本から NIEs へ,ASEAN へ,さらに中国へ広がって

いくという,雁行形態をモデルとしたのが中国国内版雁行形態である。

雁行形態は,アジア各国は工業化の発展段階に応じ,それぞれ比較優位のある工業製品を

輸出するといった分業関係を維持しながら工業化の水準を高めている構図である。先発国

も後発国も,それぞれが積極的に新産業の育成と衰退産業の海外への移転を組み合わせた

産業構造調整を進めていくことは,地域全体のダイナミックな発展の原動力となっている。

改革開放後,中国は東部に当たる沿海地域は労働集約型製品の生産と輸出を梃子に,高成

長を遂げてきた。しかし,沿海地域は賃金と土地の価格が上昇し,労働集約型産業の競争力

を失った場合は,より安い労働力と土地を求めて,外国企業のみならず,中国企業も直接投

資などを通じて,生産拠点を移転せざるを得なくなる。そのとき,中部や西部からなる内陸

地域が投資先として注目されるようになる。その一方で,沿海地域自身が新しい産業の育成

を怠ると,空洞化の危機にさらされることになる(関, 2002)。

なお,関(2011)では,次のような「雁行的発展」の条件が挙げられている。各構成地

域の間で,①地理的に近いこと,②貿易と直接投資が自由であること,③発展段階の差を

反映して産業構造が違うことである。そして,中国において,改革開放が進むにつれて,

東部,中部,西部という 3つの地域の間には,①に加え,②と③という条件も備わるよう

になったという判断が下されている(関, 2011)。

3.2. 地域統合と産業立地の関係に関する議論

次に,地域統合と産業立地の関係を範(2004)を用いて説明する。要素賦存状況の等しい

2 地域を想定する。また,v1と v2は地域 1と地域 2の産業立地の集中度(シェア)を表す。

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8

第 0-2図 地域統合と産業立地の関係

産業立地の集中度

𝑣1 = 1

𝑣1

𝑣1 = 𝑣2

𝑣2

𝑣2 = 0

𝑣1 = 𝑣2

地域統合の水準

出所)範, 2004, p.43

市場統合の水準が低い時は地域間交易がなく,2地域それぞれで自給自足をしている状況で

ある(v1=v2)。地域統合が進むと,より初期条件の整った地域に産業が(地域 1に)集中し

ていく(v1が上昇,v2が低下)。さらに地域統合が進むと,地域 1に集中立地して集積のメ

リットを得ていた企業が地代や人件費の高騰や交通渋滞などの問題を避けるために地域 2

へ移転していく(v1 が低下,v2 が上昇)。最終的に産業立地の集中度が等しくなる(v1=v2)

(第 2図参照)。

産業立地に影響を及ぼす力には集積力と分散力がある。集積力には,①市場規模(大きな

市場は前方連関,後方連関をつくりだす),②労働市場の厚み(十分な数の企業が立地して

いる地域では専門的な技能を持つ労働者を見つけやすくなる),③純粋な外部経済(スピル

オーバー効果により,情報や知識の伝達が容易になる)がある。また,分散力には,①移動

不可能な生産要素(土地や天然資源など),生産の集中によって生じる②地代の上昇と③外

部不経済(混雑や環境汚染など)が挙げられる(Krugman, 1999, p.143)。産業立地が集中化

している時は集積力が分散力を上回っている時であり,分散力がまったく働いていないわ

けではない。産業立地の集中によって労働市場や土地市場が逼迫すれば賃金,地代が上昇し,

一部の生産活動は近隣地域へスプロールする(黒岩, 2014, 277 ページ)。

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9

趙(2013)はこのモデルにおいて,中国は徐々に v1 が低下し,v2 が上昇するという段階

に入りつつあると述べている(趙, 2013, p.81)。

第 4節 本稿の着目点

4.1. 地域保護主義の残存

前節で述べたように,2000 年代後半になると,中国国内版雁行形態や地域統合と産業立

地の関係に関するモデルを用いて,中国の産業立地の変動を説明する研究が現れてきた。そ

れらは資本移動の自由が前提となっているモデルである。

しかし,中国では改革開放以降,市場経済化が進み,1990 年代に入ってから市場統合が

ゆるやかに進展しだしたが,地域保護主義や市場分断が消滅したわけではなかった9(加藤・

久保, 2009, 125-126 ページ)。李・侯・劉・陳(2004)は 2003年 3月から 6月にかけて,3500

社に対して地域保護の実態調査を行い,3156社から回答を得た。産業別ではタバコ,酒類,

自動車,食品,農産物,医薬,電力,化学工業品,飲料,農副産品の保護が著しいという結

果だった(李・侯・劉・陳, 2004, 82-82ページ)。また,中央政府の対応からも,1990年代

以降も地域保護主義が残存していることがわかる。1993 年 9 月 2 日に公布された「反不正

当競争法」には政府・部門による市場封鎖を禁止する条項が盛り込まれた。さらに,2001年

4 月 21 日には「市場経済活動において地区封鎖を行うことを禁止することに関する国務院

の規定」が規定されている。

市場分断のうち,資本市場の分断は中国で 1980年代から存在した経済現象である。資本

不足は途上国の工業化過程において共通する問題であるが,中国でも 1980年代初めから各

地方政府は資本不足を解消するために,域内資本の域外への流出を制限した。地方財政請負

制が採用されるようになると,資本の流出は地域内財政収入の減少と雇用問題の深刻化を

意味するため,ほとんどの地域は銀行に対するコントロールを強化し,資本の流出を禁止し

た(王, 2001, 33ページ)。

また,中国では 1996 年 3 月に採択された「2010 年長期発展目標要綱」に「七大経済圏」

構想が盛り込まれるなど,行政区画を超えた地域経済圏の形成が進められた。「七大経済圏」

は 30を超える省レベルの行政単位では経済圏としては小さいため,複数の省を含む経済圏

9 日置(2003)は 1995年から 2002年までの期間における市場封鎖の発生事例を紹介している。

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を形成し,それを緩やかに統合して全国統一市場を形成するという構想は中国のような大

国では妥当だと考えられた。しかし,同一の経済圏に含まれる各省の反応は,中央政府の意

図とは異なり,相互協調して一つの経済圏を作ろうとする志向よりも,域内での主導権を争

う相互反発の側面が強く,この構想は頓挫したという(加藤・久保, 2009, 132-133ページ)。

以上のように,中国では資本移動の自由や地域間の協調が限定的である。資本移動の自由

を前提とした中国国内版雁行形態や地域統合と産業立地の関係に関するモデルを中国にお

ける産業立地の現状に当てはめるのは適切ではないと考えられる。

4.2. 生産能力過剰の深刻化

中国は 1990年代半ばには過剰経済に入ったと言われている。繊維・紡績を代表とする軽

工業製品,家電部門・オートバイなどの家庭耐久消費財,鉄鋼・化学・石炭などの素材製品,

国の基幹産業である自動車産業も供給過剰体質に陥った。生産能力の稼働率は低く,それで

も大量の在庫を抱えるという状態であった。

このような生産能力過剰の直接の原因は投資の急速な拡大に由来している。投資の拡大

には地方政府の介入が大きく影響している。地方政府は競って開発投資を行い,成長産業に

一斉に参入したことで,小規模な企業が分散立地し,生産能力過剰が生じた(王, 2001, 7ペ

ージ)。このようなあたかも企業のように振る舞い,積極的に投資を行うという地方政府の

行為は地方政府官僚の昇進競争モデルで説明できる。事前に GDP 成長率のようなわかりや

すい指標を与え,地方政府間で相互に競争させ,その競争に勝った者を昇進させるという昇

進競争モデルは地方政府官僚に効果的なインセンティブを与えた。しかし,そのわかりやす

い経済目標は過当競争を生み出す恐れがある。また,地方政府官僚は自らの昇進のチャンス

を広げるために,財政や金融など,あらゆる手段を講じて企業を支援するため,予算制約が

ソフト化する。そして,昇進競争の下では,ソフトな予算制約は国有企業だけでなく民営企

業においても生じる(周, 2007, 46-47ページ)。

2000 年代に入ると中央政府から生産能力過剰の状況と過剰投資の抑制政策が頻繁に発表

されるようになった。また,世界金融危機後の巨額の投資の財源は 7割が地方政府によって

調達されたものだという(津上, 2013, 38ページ)。

以上のことから,2000 年代の産業立地の変動は生産能力過剰が深刻化していることを考

慮に入れて分析を行うべきと考える。

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4.3. 先行研究と本稿の着目点のまとめ

先行研究における主張を簡単に整理すると次のようになる。第一に,産業立地は計画経済

期と改革開放初期には分散化していた。第二に,1980 年代後半から 2000年代半ば頃までの

時期において産業立地は集中化し,市場統合は緩やかに進んだ(加藤, 2003)。第三に,1990

年代以降,地域保護主義が産業立地に及ぼす影響は他の要因に比べて小さく,また,縮小し

ていると述べられている(Batisse and Poncet, 2004; Lu and Tao, 2009 など)。第四に,2000年

代半ば以降,国内版雁行形態の出現や地域統合の進展という観点から産業立地の分散化が

説明されるようになった(王非暗・王珏・唐・範, 2010; 趙, 2013など)。

先行研究の主張に対して本稿では,2000 年代以降の中国における産業立地の変動を現在

においても地域保護主義が残存していることや生産能力過剰が深刻化していることに着目

して説明する。また,産業立地に大きな影響を与えていると考えられる生産能力過剰はどの

ような市場で生じているのかも明らかにし,所有制と産業立地の関係を分析する。

第 5節 本稿の構成

本稿の構成は以下の通りである。

第 1章では,2000年代後半になると中・西部地域の経済成長率が東部地域のそれを上回

るようになったことから中国国内版雁行形態が現れたとする議論を受けて,2000 年から

2010年にかけて,東部地域(環渤海,華東,華南)から中・西部地域(中部,西南,西

北)への産業移転が生じているか否かを検証する。また,各省市自治区とそれに隣接する

省市自治区の産業構造の違いを分析し,産業構造の同質化が進んでいるのか否かも確認す

る。

第 2章では,2000年代に入って,中央政府から重複建設が再燃したことが発表された

り,一部の業種の過剰な生産能力の削減を求める政策が頻繁に発表されるようになったこ

とから,産業立地の分散化が生じていると仮説を立て,それを検証する。特に,生産能力

過剰が指摘されている業種の立地に注目する。その際に,重複建設発生の要因やそれが経

済に与える影響についても触れる。また,産業立地の分散化が生じているとすれば,それ

は過去の分散化とどのような点で異なるのかについても検討する。

第 3章では,さまざまな産業立地の決定要因の中から,所有を分析対象に選び,産業立

地との関係を分析する。まず,生産能力過剰が国有企業と民営企業が並存する混合市場に

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おいて生じていることを説明する。次に,生産能力過剰問題とそれを表す指標である生産

能力利用率の推移について言及したうえで,混合市場において生産能力過剰が生じている

か確かめる。最後に,産業立地の分散化や生産能力過剰に影響を及ぼす地方政府の役割と

企業の旺盛な参入について言及する。

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第 1 章 中国における産業移転

―東部地域から中・西部地域への移転について―

はじめに

中国政府は改革開放以降,まず東部沿海地域の経済発展を加速させ,やがて,

東部沿海から中部,さらには西部へと段階的に発展を波及させていく地域不均

衡発展戦略を採るようになった 1。その結果,東部地域は中国の高度成長を牽引

する役割を果たすようになったが,東部地域と中・西部地域との経済格差は拡

大した。地域格差の問題を認識した政府は沿海地域に実施している優遇政策を

内陸地域の一部にも拡大し,1992 年から開放地域も内陸の多くの地域に拡大し

た。1999 年,中国政府は西部大開発戦略を提起して沿海地域-内陸地域間の地

域格差の是正に取り組んでいる。西部大開発戦略により西部地域に融資,イン

フラ整備,教育の普及,技術移転,東部地域からの支援などが行われている。

それによって西部地域と東部地域との格差は少しずつ縮小している(薛 , 2011,

172 ページ)。

では,東部地域から中・西部地域への産業移転は進展しているのであろうか。

東部地域における賃金上昇を受けて,沿海地域から内陸地域へ生産拠点を移す

企業も出てきている。また,在華南米国商工会議所は,今後 3 年間の有望投資

先として長江デルタと広東省を挙げる企業が大幅に低下していることを明らか

にした(The American Chamber of Commerce in South China, 2012)。そこで,本

章では中国の産業の東部地域から中・西部地域への移転について検証すること

にする。その上で,産業立地の集中が進んでいるのか,分散が進んでいるのか

について分析する。

本章の構成は次のとおりである。第 1 節では中華人民共和国建国以降の地域

1 中国を東部,中部,西部の 3 地域に区分する場合,東部地域とは北京,天津,河北,遼

寧,上海,江蘇,浙江,福建,山東,広東,海南,中部地域とは山西,吉林,黒龍江,

安徽,江西,河南,湖北,湖南,西部地域とは内蒙古,広西,重慶,四川,貴州,雲南,

西蔵,陝西,甘粛,青海,寧夏,新疆のこととする。

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開発戦略を概観する。第 2 節では産業移転の事例を挙げるとともに先行研究を

整理する。第 3 節では工業の各業種の全国シェア及び「特化係数」の推移と企

業数と生産額の増減を用いて,東部地域から中・西部地域への産業移転を検証

する。第 4 節では「地域構造差係数」を用いて産業立地の同質化が進んでいる

か否か,また,集中が進んでいるのか,それとも分散が進んでいるのか検証す

る。

第 1 節 地域発展政策の変遷

この節では,中華人民共和国建国後,地域の均衡発展と不均衡発展の間で揺

れ動いた地域開発戦略を整理し,その結果,産業立地がどのように変化してき

たかを簡単に述べる。

1.1. 中華人民共和国建国以降改革開放政策開始まで( 1949- 1978 年)

1949 年,中華人民共和国建国時には工業生産の 70%以上が東南部沿海地域に

集中していた。中華人民共和国はその後,疲弊した国土を建て直した経済復興

期をへて,1953 年から集権的な社会経済システムの下で経済発展に乗り出した。

1952 年における鉱工業生産額のシェアを見ると,第一位は上海で 19.1%,第二

位は遼寧で 13.0%,第三位は江蘇で 7.3%,第四位は天津で 5.6%であり,上位 4

省市自治区で 45%を占めていた。当時,工業基盤は沿海地域に大きく偏ってい

たのである。

計画経済期における地域開発戦略では,沿海地域と内陸地域の間の均衡が追

求された。市場の存在は公式に否定され,中央政府が計画による資源配分を通

じて産業立地に介入した。第一次五か年計画期( 1953-1957 年)には旧ソ連の

援助で建設された大型プロジェクトの多くが内陸地域に立地していた。沿海地

域に偏った工業立地を是正する必要があったことや主要な鉱物資源が内陸地域

に分布していたこと,そして,国防上の観点から工業施設の分散立地が進めら

れた。第一次五か年計画期,GDP 成長率は 9.4%という高い数値を記録した。し

かし,1958 年からの短期間で先進国に追いつくことを目指した大躍進運動によ

る混乱の結果,計画経済は機能しなくなり,国民経済は大きな混乱に陥った。

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調整期には計画経済の機能不全を補うために,多くの農村で市場が一時的に復

活を遂げたが,そうした動きは長くは続かなかった。1966 年から文化大革命が

始まると,計画経済は再び機能不全に陥り,経済的混乱は毛沢東が死去するま

で続いた。

計画が機能せず,市場の存在が否定される中で,地方政府や企業は必要な物

資を自ら生産し,自ら調達する自給自足経済を追求せざるを得なくなった。市

場圏は縮小していき,郷村レベルを単位とした「細胞経済」が出現した。本来,

工業化とは相容れないはずの農村部でも,鉄鋼,化学肥料,セメント,農業機

械製造・修理,発電所など,農業支援を目的とした「五小工業」の設立が目指

された。また,企業レベルでは「大而全,小而全(大きくても全面的,小さく

ても全面的)」が追求された。文革期には三線建設が実施され,内陸への重点

的投資はより大規模に,より広範囲に行われた。四川省の山間部に鉄鋼コンビ

ナートや炭鉱,大型機械工場などが,貴州省の山間部にはアルミニウム工場が

建設され,その他の地域でも内陸に発電所や機械工場を設立することが奨励さ

れた。1970 年代末までに全国の固定資産投資額の三分の一が重化学工業を中心

とする三線建設につぎ込まれたと言われている(久保 , 2011, 126 ページ)。こ

うして,計画経済期においては小地域範囲内における自己完結的産業体系が確

立し,産業立地は分散化した。

工業部門の総生産額について内陸地域が全国に占める比率は 1953 年に 32%

であったのが,1978 年には 39%にまで上昇した。1952 年と 1978 年における鉱

工業生産額のシェアに関して,第一位が上海,第二位が遼寧,第三位が江蘇で

あるのは同じであるが,上位 4 省市自治区のシェアは低下しており(第 1-1 表),

立地の分散化が見て取れる。しかし,沿海地域と内陸地域の 1 人当たり平均の

域内総生産額の比率は 1952 年において約 1.4:1 であったのが, 1978 年には約

1.6:1 となり,格差が拡大した。したがって,この時期の地域開発戦略は,沿

海地域と内陸地域の間に存在した工業基盤配置の不均衡を幾分是正することに

は成功したが,地域均衡発展という目標は必ずしも達成したとは言えない(日

置 , 2011, 101-102 ページ)。

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第 1-1 表 上位 4 省市自治区の鉱工業生産額のシェア

第 1 位 第 2 位 第 3 位 第 4 位 合計

1952 上海( 19.1) 遼寧( 13.0) 江蘇( 7.3) 天津( 5.6) 45.0

1965 上海( 16.5) 遼寧( 12.3) 江蘇( 6.3) 黒龍江( 6.3) 41.3

1978 上海( 12.1) 遼寧( 9.4) 江蘇( 8.0) 山東( 7.0) 36.5

1985 江蘇( 10.7) 遼寧( 8.9) 遼寧( 7.4) 山東( 7.0) 33.9

1990 江蘇( 11.6) 山東( 9.2) 広東( 8.0) 上海( 6.9) 35.6

1999 広東( 14.5) 江蘇( 12.3) 山東( 9.6) 上海( 7.5) 43.8

2005 広東( 14.3) 江蘇( 13.0) 山東( 12.1) 浙江( 9.2) 48.6

2008 江蘇( 13.4) 広東( 12.9) 山東( 12.4) 浙江( 8.0) 46.7

2011 江蘇( 12.8) 山東( 11.8) 広東( 11.2) 浙江( 6.7) 42.5

出所)『中国統計年鑑』各年版より作成。

1.2. 改革開放初期( 1978 年から 1980 年代末まで)

建国から改革開放前までは「公平」をより重視していたのに対して,改革開

放以降は市場が復活し,「効率」が優先されるようになった。この転換を受け

て,地域開発政策の重点は内陸地域から沿海地域に移った。経済条件が最も優

れた沿海地域で先行的に対外開放を実施し,外資受け入れのための減免税措置

などの各種優遇措置を講じ,優先的に公共投資を配分した。1988 年に当時総書

記であった趙紫陽が提起した「沿海地域経済発展戦略」は,内陸地域との原材

料争奪を避けながら,沿海地域に郷鎮企業を主たる担い手とした労働集約型輸

出志向工業を発展させるために,製品販路と原材料調達の双方を海外市場に求

める「両頭在外」を提起した。こうした沿海地域優先発展戦略の背景には「梯

子理論」の考え方があった 2。「梯子理論」では,中国の経済発展に大きな地域

的差異があり,経済発展水準と技術水準の地域格差は,沿海地域から内陸地域

へ向かって梯子状に広がっているとされる。内陸地域と辺境地域は,資源は豊

富であるが資金が不足しており,発展速度も緩慢である。この地域は「伝統技

術」を擁する後進地域である。他方,一部の沿海地域は「先進技術」地帯に区

分される。この地域は技術レベルが高く,経済力も大きい。残りの地域は「中

2 「梯子理論」は 1982 年に発表された夏禹龍他の論文「梯度理論和区域経済」で初めて提

起されたという(加藤 , 2003, 30 ページ)。

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間技術」地帯である。「梯子理論」では,「先進技術」地帯がまず国外から先

進技術を導入し,それを梯子状の段差に応じて徐々に「中間技術」地帯に波及

させ,さらに「伝統技術」地帯へと技術移転を進めるのが中国の現状にもっと

も適合した発展戦略であるとされている。こうして沿海地域への外資導入が進

むとともに,郷鎮企業を中心とする非国有経済主体が高い成長をみせ,経済成

長が加速した。

毛沢東時代の地域割拠の伝統が排除され,また,経済条件が優れた沿海地域

を優先する地域不均衡型開発戦略が実施されたことにより,経済合理性にもと

づいた生産の地域集中と地域間分業が進むと見られた。中国政府がめざした産

業立地の基本方針は,「長所を伸ばし,短所を避け,各地の比較優位を発揮す

る」というスローガンに端的に表れている。

しかし,この時期には計画経済期から引き続き産業立地の分散化が進んだ。

産業立地の分散化が進んだ理由の一つとして,改革開放前に先進地域であった

上海市や遼寧省が伸び悩んだのとは逆に,後進地域であった広東省や福建省な

どからなる華南地域が急速に経済成長を遂げ,東部地域内でキャッチアップが

生じたことが挙げられる。改革開放後,深圳,珠海,汕頭,アモイに経済特区

が設立された。中央政府はインフラ投資を行い,税制上の優遇措置を外資に与

えて,直接投資の積極的な導入を進めた。すると,広東省を中心とする華南地

域への製造業の立地が増加する。1970 年代後半に賃金高騰のため国際競争力を

失った香港製造業が,その後背地である広東省への工場施設の移転を進めたた

めである。その後,低廉な労働力を利用した加工貿易を目当てに,日本,アメ

リカ,台湾などの地域からの直接投資も急増した(加藤・久保 , 2009, 134-135

ページ)。

また,地域保護主義の台頭がこの時期に産業立地の分散化が進んだもう一つ

の理由として挙げられる。地方財政請負制度が導入され,地方が一定の割合の

税収を留保することができるようになると,発展の遅い地域の地方政府は地元

の企業を保護する動機が高まった。こうして,1980 年代半ばまでは逆に立地の

分散化が進んだ(白・杜・陶・仝 , 2004)。

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1.3. 1990 年代

1980 年代における市場経済化は計画経済を基礎として,そのうえで市場メカ

ニズムを導入するという限定されたものであった。しかし, 1993 年 11 月,中

国共産党第 14 期三中全会において「社会主義市場経済システムを確立するうえ

での若干の問題にかんする中共中央の決定」が採択されると,市場経済化が急

速に進み,全国統一的な市場の形成が目標となった。

このような中で,ようやく生産の地域集中が進むようになった。加藤・久保

(2009)は工業品 17 品目の地域集中度(CN4: 上位 4 地域の生産量のシェア)

の変化を分析し,1985 年から 2006 年までにおいて,タバコ,ビール,鉄鋼以

外の 14 品目で生産の地域集中が進んだことを明らかにしている 3。

この時期に急速な経済成長を遂げたのは上海市を中心とする長江デルタ地域

である。上海市は国有企業の基礎が障害となり,伸び悩んでいたが,1990 年の

上海浦東開発の提起を契機として,長江デルタ地域にも外国直接投資が集中す

るようになり,産業集積が形成された。また,長江デルタ地域は外資に依存せ

ずに発展を遂げた浙江省温州市などの中小都市も含んでいる。温州市の産業集

積は地元企業間での激しい競争,合併・吸収を通じた短期間での企業規模の拡

大,温州商人の全国に広がる人的ネットワークと販売ネットワークを特徴とし

て発展した(加藤・久保 , 2009, 136-138 ページ)。

しかし,沿海地域に重点をおいた地域不均衡発展戦略が採られ,沿海地域は

急速に成長したが,沿海地域-内陸地域間の地域格差の拡大が顕著となり,発

展戦略は地域均衡型へとシフトしていった。沿海地域に限定されてきた対外開

放が内陸地域にも及ぶようになり,1990 年代中頃には「全方位対外開放」が一

応実現した。しかし,全社会固定資産投資の地域比率は 1990 年代中頃から内陸

部の比重が上昇したものの,沿海地域と内陸地域間の地域格差は逆に拡大して

いった(日置 , 2011, 102-104 ページ)。

3 分析対象は,家電製品(冷蔵庫,洗濯機,エアコン,カラーテレビ),日用品(化学繊

維,布,紙,タバコ,ビール),機械製品(自動車,トラクター,工作機械,パソコン),

基礎生産財(鉄鋼,板ガラス,セメント,化学肥料)である。

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第 1-2 表 実質成長率の推移(単位:%)

2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

東部 14.25 14.64 11.37 11.01 12.51 10.61 9.29 9.04 7.97

中部 13.23 14.42 12.65 11.88 13.76 12.84 10.91 9.41 8.32

西部 13.53 14.87 13.04 13.46 14.21 14.07 12.43 10.73 9.05

全地域 13.89 14.63 11.95 11.63 13.10 11.75 10.24 9.44 8.25

出所)『中国統計年鑑』各年版

1.4. 1990 年代末以降現在まで

1990 年代末以降の地域開発政策は,地域均衡発展を基調としながら,環境保

全・持続可能な発展への傾向が強くなっている。もともと発展していた東部地

域以外の地域の開発も重点政策テーマとして議論されるようになった。江沢

民・朱鎔基体制において西部大開発が提起され,続く胡錦濤・温家宝体制にお

いては,西部・東北部・中部・東部の 4 大ブロックそれぞれに「西部大開発」,

「東北振興(東北地区等の旧工業地帯振興)」,「中部崛起(中部地区の勃興)」,

「東部地区の先行的発展の奨励」という戦略が定められた。

「西部大開発」は 1999 年に提起された。 21 世紀中頃までの半世紀の間に,

沿海地域と西部地域の地域格差を縮小させ,西部地域の少数民族や生態環境な

どの諸問題の解決を目指す長期的政策である。

東北地域は中華人民共和国建国後,主要な工業地帯であった。しかし改革開

放後,重厚長大型の国有大企業の比重が高く,設備が老朽化してきた。そのた

め,経済の市場化と対外開放の面で遅れをとり,経済成長が緩慢であった。「東

北振興」は 2003 年に提起された。旧工業地帯の改革と改造が課題とされている。

「中部崛起」は 2004 年に提起された。中部地域の東部と西部,北部と南部を

つなぐ交通の要衝に位置するという立地優位をさらに活用し,既存の農業生産

と素材産業の基盤強化とグレードアップ・高付加価値化を図りながら,成長の

核となる新しい基幹産業の育成を重点課題としている。

第十一次五か年計画( 2006-2010 年)の地域開発の章で提起されている「東

部地区の先行的発展の奨励」は自主革新能力の強化,産業構造の高度化,加工

貿易のグレードアップやハイテク産業・現代サービス業の積極的受け入れによ

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20

る外向型経済の高度化,土地や資源の利用効率の向上などを課題としている(岡

本 , 2012, 94-98 ページ ; 日置 , 2011, 104-108 ページ)。

「西部大開発」,「東北振興」,「中部崛起」は「調和のとれた社会」を実

現するべく取り組まれるようになった方策で,地域格差の是正が目指されてい

る。その一環として,沿海地域から内陸地域への産業移転が進められた。戦後

のアジア地域において多くの産業が先発国から後発国に段階的に移されてきた

ことは「雁行形態」と呼ばれているが,中国はその国内版,すなわち東部地域

から中部地域,そして西部地域へと移転させていくことを目標としている(関 ,

2009)。第 1-2 表で明らかなとおり,2007 年に西部地域の実質 GDP 成長率が東

部地域を上回るようになった。翌 2008 年には中部地域の実質 GDP 成長率も東

部地域を上回るようになった。そして,この状態は 2010 年まで継続している。

以上のように,2007 年以降,経済成長率が従来の東高西低型から西高東低型に

転じている。

それでは,中・西部地域の成長は「雁行的経済発展」に従うものなのであろ

うか,つまり,実際に東部地域から中・西部地域への産業移転が起こっている

のであろうか。次節では産業移転についての事例と先行研究を挙げる。

第 2 節 産業移転の事例と先行研究

2.1. 産業移転の事例

1990 年代以降,東部地域は国内関連産業の移転や国外からの産業移転により

産業集積を形成していった。また,東部地域は省外からの流動人口の主要な受

け入れ地域となった。しかし,地方政府が工業団地の建設や「小城鎮(小さな

都市と町)」の発展のために土地をみだりに占拠する地域が増加してきたため,

2000 年以降非農用地の使用に対する規制が強化された。2003 年には国務院が土

地市場に対して厳格な整理・整頓を行ったため,先進地域の土地供給は逼迫状

態に陥った。それと同時に経済発展や 1 人当たり所得の上昇に伴い,需要構造

が変化し,市場の販売圧力が強まったため,東部地域の企業は立地を移転して

新たな市場を開拓し,確立していく必要性が出てきた。1994 年以降,地域間所

得格差の縮小のために政府は中・西部地域へのインフラ投資を増加した。 2000

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21

年に西部大開発が始まり,西部地域発展のための 10 大プロジェクトが施工され,

西部地域の投資環境は改善に向かった。この他,政府は西部地域へ投資する国

内企業と外資企業へ優遇措置を設けた。

例えば,2002 年から浙江省政府が毎年 500 万元を拠出し,中・西部地域の開

発に関与する企業に対して政策によって支援したほか,西部地域の 8 省・市・

自治区において浙江企業連合会が設立された。これにより,西部地域において

創業した浙江省の起業家や浙江省から西部地域への投資が増加した。国外から

東部地域への産業移転が進んだことで,東部地域から中・西部地域へと移転し

た産業もある(陳 , 2009, pp.287-288)。

また,商務部は 2006 年からの 3 年間で約 1 万社の海外企業と東部企業が中部

及び西部へ投資するよう推進する「万商西進」というプロジェクトを進めてい

る。その具体的措置として,中・西部地域における経済開発区のインフラ整備,

人材育成,中部地域投資貿易博覧会の開催,西部横断高速物流ルートの構築な

どが実施されている。さらに,商務部は 2007 年 11 月と 2008 年 4 月に中・西部

地域において計 31 の加工業の重点移転先を認定し,それに合わせて関連プロジ

ェクトに対し融資などの面において優遇措置をとることとした。

2009 年の人民代表大会における温家宝総理の「政治活動報告」においても,

「中・西部地区における産業移転受け入れの具体策の検討,制定を急ぐ」こと

や,「輸出志向型加工業の中・西部への移転を奨励する」ことが 2009 年度の主

要任務とされている(関 , 2009)。

日本との関係では,ジェトロ(日本貿易振興機構)が 2011 年 7 月に武漢事務

所を開設し,日本企業の対中国内陸投資・ビジネスを支援する体制を整えたほ

か,中国内陸部の最重要拠点である重慶市が日中産業パーク(重慶両江新区内)

の建設に意欲を示しているなど,日本企業や日本製品の中国内陸部での展開が

これまで以上に整いつつある(江原 , 2011, 45 ページ)。

2.2. 中国の産業移転に関する先行研究

1980 年代中頃,中国では産業の「梯子」移転構想が提起された。すなわち,

東部地域が発展し,産業構造が高度化すると,労働集約型産業は東部地域で比

較優位を失い,中・西部地域へ梯子状に徐々に移転していくであろうという構

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22

想である。産業の「梯子」移転によって東部地域の産業構造の高度化が加速す

るだけでなく,中・西部地域の産業構造もグレードアップし,非農業への就業

機会も増加すると考えられた(陳 , 2009, p.282)。

この産業の「梯子」移転構想は人件費上昇などにより比較優位を失った労働

集約型産業の移転に関するものであるが,生産要素が自由に移動する環境下で

は,労働集約型産業だけでなく,資本集約型産業の移転も促されると考えられ

る。中国は世界最大の鉄鋼生産国であるが,中小規模の高炉が多く,これが恒

常的な生産効率の低下と過剰生産を引き起こし,環境面でも大きな負担とされ

てきた 4。第十一次五か年計画( 2006- 2010 年)では,「遅れた製法,装置及

び製品の淘汰を速め,製品の品質を高める。鉄鋼業の循環型経済を推進し,(中

略)企業の地域を越えたグループ化のための再編を奨励し,国際競争力を持つ

企業を誕生させる」とされている。もしこの政策が忠実に実行されていれば,

鉄鋼産業においても産業移転が大々的に生じると考えられる(三浦 , 2012, 64 ペ

ージ)。

陳(2009)は工業 24 業種の地域集中度の推移及びそれらの業種に沿海地域(東

部地域)と内陸地域(中・西部地域)のどちらが特化しているかを分析してい

る。陳によると,1994 年から 2003 年にかけて,工業各業種における生産額上

位 8 省市自治区のシェアは 24 業種のうち 19 業種で高まっている。また,この

期間,生産額が上位 8 位にランクインした中・西部の省市自治区数が増加した

業種は 4 であるのに対し,減少した業種は 10 を数える。このことは次のことを

意味している。第一に,中・西部への産業移転は比較優位に基づくものではな

く,市場の拡大によるものである。第二に, 2003 年においても紡織業や製紙・

4 1991 年から 1993 年にかけて,鋼材の計画価格から市場価格への転換が行われ,銑鉄価

格が大きく引き上げられ,銑鉄生産はきわめて利潤を確保しやすい産業になった。銑鉄

生産に有利な価格体系の成立は猛烈な高炉建設熱を招いた。高炉の急増は銑鉄生産に必

要な主原料である製銑用コークスの原料となる原料炭と鉄鉱石を容易に入手できる山

西省に集中していた。ただし,①投資主体である県や郷鎮政府,あるいは私営企業の資

金が限られていた,②巨大高炉は建設に要する期間が長く,産業や製品ごとに爬行的に

推進された価格改革の過程でたまたま生じた銑鉄価格の有利性はいつ消滅するかもし

れない不安定なもので,懐妊期間が長く即応性に欠ける巨大高炉の建設は不適当であっ

た,③小規模高炉は一般に出銑比が高く,資源の浪費と環境汚染を無視すれば,コスト

競争力が高かったという理由で,急増した高炉は小規模であった(杉本 , 2007, 113-115

ページ)。

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紙製品業などの労働集約型業種は東部地域で優位性がある。第三に,東部地域

内の先進地域から発展の遅れた地域へと移転していっている業種がある。した

がって,一部の業種は中・西部地域へ徐々に移転していっているが,大多数の

産業はまだ東部地域に集積しており,労働力も東部地域へと集積を続けている

という(陳 , 2009, p.288)。

三浦(2012)は 2004 年と 2008 年の経済センサスのデータを用いて,東部地

域から中・西部地域への産業移転が進んでいるか否かを検証し,労働集約的な

繊維製品・履物・帽子製造と通信設備・計算機及びその他電子設備製造,さら

に,資本集約的な鉄金属冶金・圧延加工でも産業移転が進んでいないと述べて

いる。

一方,曲・蔡・張( 2013)は 2000 年代前半までは東部地域に産業立地が集中

していたが,2000 年代後半になると特に労働集約型産業が東部地域における賃

金上昇や税負担の相対的な高さを要因として,中・西部地域へ移転しており,

雁行形態が現れていると主張している。

伊藤(2015)は 2008 年から 2010 年にかけて東部地域が賃金上昇に伴って労

働集約的な産業の比較優位を失い,中部地域が比較優位を発揮しつつあること

を指摘している。しかし,中部地域では労働集約的産業だけでなく技術集約的

産業も地方政府による支持のもと成長していることや西部・東北地域には相対

的に資本装備率の高い重工業を中心とした地域が少なくないことから,「国内

版雁行形態」は傾向としては確認されるが,中国の産業移転全体を説明するロ

ジックとして過大評価するべきではないとも述べている。

第 3 節 沿海地域から内陸地域への産業移転

第 2 節で挙げたとおり,近年東部地域から中・西部地域への産業移転を推進

する政策が出され,産業移転の事例も増えてきている。では,主要な生産拠点

はどの程度東部から中・西部地域へと移転していると言えるのだろうか。本章

では,生産額の全国シェア及び「特化係数」の推移や企業数と生産額の増減に

着目して,2000 年以降東部地域から中・西部地域への産業移転が起こっている

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24

か否かを検証する 5。

2.1. 地域区分

三浦(2012)は中国 31 省市自治区を南東,環渤海,中部,北東,南西,北西

という 6 地域に分類している。三浦は,世界銀行が 120 都市の 1 万 2400 社を対

象に行った調査から,「中国は投資環境によって 6 地域に分けられる」とした

分類(World Bank, 2006)を踏襲しつつ,世界銀行が北西に分類していた山西省

を「中部崛起」の対象地域となっていることを理由に中部に組み入れている(三

浦 , 2012, 56-57 ページ)。本章では三浦( 2012)の地域分類を参考にしながら,

東部地域から中・西部地域への産業移転の他,東部地域内の産業移転にも着目

するために,南東地域をさらに華東地域と華南地域に区分する。

①環渤海地域

北京,天津,河北,山東からなる。総面積は 37 万平方キロメートルで国土面

積の 3.9%を占める。2010 年の総人口は 2 億 19 万人で中国全体の 14.9%を占め

る。GDP と工業生産額はそれぞれ 8 兆 2902 億元,3 兆 5590 億元で,中国全体

の 19.0%,18.4%を占める。鉄金属採掘・選別,農産品・副産品食品加工,鉄金

属冶金・圧延加工,専用設備製造などが主要産業となっている。

②東北

遼寧,吉林,黒龍江からなる。総面積は 80 万平方キロメートルで国土面積の

8.4%を占める。2010 年の総人口は 1 億 952 万人で中国全体の 8.2%を占める。

GDP と工業生産額はそれぞれ 3 兆 7493 億元,1 兆 7326 億元で,中国全体の 8.58%,

8.96%を占める。石油・天然ガス採掘,鉄金属採掘・選別,農産品・副産品食

品加工,石油加工・コークス・核燃料加工,交通運輸設備製造 6などが主要産業

となっている。

5 したがって,本章における「産業移転」はある地域で比較優位を失った産業が淘汰され,

別の地域で発展するということを必ずしも意味しない。淘汰を企業数の減少と 1 社当た

り販売額の飛躍的な増加と定義すれば,それが進んだのは山西や河北などの一部の省に

限られる(三浦 , 2012, 64 ページ)。

6 国家統計局が起草し,国家質量監督検験検疫総局と国家標準化管理委員会が発表した「国

民経済行業分類」2002 年版によると,交通運輸設備製造は鉄道輸送設備製造,自動車製

造,オートバイ製造,自転車製造,船舶・浮遊装置製造,航空機・宇宙船製造などの業

種からなる。

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③華東

上海,江蘇,浙江からなる。総面積は 21 万平方キロメートルで国土面積の

2.2%を占める。2010 年の総人口は 1 億 5611 万人で中国全体の 11.7%を占める。

GDP と工業生産額はそれぞれ 8 兆 6314 億元,3 兆 8472 億元で,中国全体の

19.75%,19.90%を占める。紡織,紡織服装・靴・帽子製造,化学繊維製造,金

属製品,汎用般設備製造,電気機械・器材製造,通信設備・計算機とその他電

子設備製造,計測計量器・文化事務用機械製造などが主要産業となっている。

④華南

福建,広東,海南からなる 7。総面積は 34 万平方キロメートルで国土面積の

3.6%を占める。2010 年の総人口は 1 億 4986 万人で中国全体の 11.2%を占める。

GDP と工業生産額はそれぞれ 6 兆 2815 億元,2 兆 8246 億元で,中国全体の

14.37%,14.61%を占める。紡織服装・靴・帽子製造,金属製品,電気機械・器

材製造,通信設備・計算機とその他電子設備製造,計測計量器・文化事務用機

械製造などが主要産業となっている。

⑤中部

山西,安徽,江西,河南,湖北,湖南からなる。総面積は 103 万平方キロメ

ートルで国土面積の 10.7%を占める。2010 年の総人口は 3 億 5672 万人で中国

全体の 26.6%を占める。GDP と工業生産額はそれぞれ 8 兆 6109 億元,3 兆 9335

億元で,中国全体の 19.70%,20.35%を占める。石炭採掘・選別,鉄金属採掘・

選別,非鉄金属採掘・選別,非金属採掘・選別,タバコ製品,非金属鉱物製造,

非鉄金属冶金・圧延加工などが主要産業となっている。

⑥西南

広西,重慶,四川,貴州,雲南からなる。総面積は 137 万平方キロメートル

で国土面積の 14.3%を占める。 2010 年の総人口は 2 億 3602 万人で中国全体の

17.6%を占める。GDP と工業生産額はそれぞれ 4 兆 6507 億元,1 兆 9111 億元で,

中国全体の 10.64%,9.89%を占める。非鉄金属採掘・選別,非金属採掘・選別,

農産品・副産品食品加工,飲料製造,タバコ製品,医薬品製造,非鉄金属冶金・

7 三浦( 2012)では,海南は西南地域に含められている。しかし,広東省徐聞県の海安南

駅と海南省海口市の海口駅の間にある瓊州海峡が鉄道連絡船によって結ばれているた

め,本章では華南地域に組み入れた。

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圧延加工,交通運輸設備製造,電気・熱生産と供給などが主要産業となってい

る。

⑦西北

内蒙古,チベット,陝西,甘粛,青海,寧夏,新疆からなる。総面積は 544

万平方キロメートルで国土面積の 56.9%を占める。2010 年の総人口は 1 億 2436

万人で中国全体の 9.3%を占める。GDP と工業生産額はそれぞれ 3 兆 4901 億元,

1 兆 5238 億元で,中国全体の 7.99%,7.88%を占める。石炭採掘・選別,石油・

天然ガス採掘,鉄金属採掘・選別,非鉄金属採掘・選別,食品製造,石油加工・

コークス・核燃料加工,非鉄金属冶金・圧延加工,電気・熱生産と供給などが

主要産業となっている。

3.2. 特化係数

次項より,工業各業種の各地域における生産額の全国シェアと「特化係数」

の推移,そして,企業数と生産額の増減に着目して,東部地域(環渤海,華東,

華南)からその他の地域へ産業移転が起こっているか否かを検証する。分析に

入る前に,ここで「特化係数」について説明しておく。

LQ =E𝑖𝑗

E𝑖

E𝑗

E⁄

E i j は地域 j における業種 i の生産額,E j は地域 j の総生産額,E i は業種 i の総

生産額,E は総生産額を示す。つまり,「特化係数(LQ)」は業種 i の総生産

額に関する地域 j の全国シェアと総生産額に関する地域 j の全国シェアの比で

ある。地域 j における業種 i の LQ が 1 より大きければ,地域 j は業種 i に関し

て特化している,すなわち地域 j は業種 i に比較優位があることを示している

といえる(大友 , 1997, 75 ページ : 岡崎 , 2012, 48 ページ)。

3.3. 生産額の全国シェアの推移

まず,生産額の全国シェアを用いて,主要な生産拠点が移転しているか否か

を分析する(第 1-3 表参照)。第 1-5 表には第 1-3 表から 2000 年の全国シェア

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が 30%以上であり,かつ, 2010 年の全国シェアが 2000 年と比較して低下して

いる東部地域(環渤海,華東,華南)の業種を取り上げている 8。第 1-4 表から

次のようなことが読み取れる。第一に,環渤海地域の鉄金属採掘・選別,華東

地域の紡織,紡織服装・靴・帽子製造,文化教育スポーツ用品製造,化学原料・

化学製品製造,汎用設備製造,華南地域の文化教育スポーツ用品製造は 2010

年においても全国シェアが 30%以上である。第二に,華東地域の皮革・毛皮・

羽毛とその製品製造,木材加工と木・竹・藤・棕・草製品以外の業種は 2010

年においても特化係数が 1.0 以上であり,華東地域において比較優位を失った

わけではない。第三に,全国シェアが低下し,比較優位も失った華東地域の皮

革・毛皮・羽毛とその製品製造,木材加工と木・竹・藤・棕・草製品も含めた

第 1-5 表におけるすべての業種は 2010 年においても東部地域(環渤海,華東,

華南)のいずれかが最大の全国シェアを占めている。したがって,第 1-5 表に

おける業種は全国シェアが低下しているものの,東部地域において衰退したと

は言えない。

3.4. 「特化係数」の推移

次に,生産額の「特化係数」の低下,すなわち,比較優位の喪失に着目する

(第 1-4 表参照)。第 1-6 表は環渤海地域,華東地域,華南地域において特化

が失われた業種,逆にそれらの業種に特化している地域と特化を強めている地

域を示している。

環渤海地域の非鉄金属や非金属などの採掘・選別業への特化が失われている

が,これらの業種は資源の産地である内陸地域が主要な生産拠点となっており,

中部地域,西南地域,西北地域などが特化を強めている。内陸地域において資

源開発が進められ,採掘・選別業は資源の産地付近への立地が進んだと考えら

れる。また,2006 年に華南地域の非金属鉱物製造への特化が失われているのは

内陸地域が非金属採掘・選別への特化を強めていることに関連していると考え

られる。

8 ただし,汎用設備製造は 2006 年。

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第 1-3 表 工業生産額全国シェアの推移(単位:%)

環渤海 東北 華東

2000 2006 2010 2000 2006 2010 2000 2006 2010

石炭採掘・選別 23.50 24.09 21.61 12.97 7.15 6.35 4.81 2.20 1.30

石油・天然ガス採掘 22.03 25.52 28.73 40.09 30.24 23.36 1.31 1.14 0.78

鉄金属採掘・選別 43.14 40.41 38.65 8.50 13.74 19.30 2.35 3.61 1.31

非鉄金属採掘・選別 24.92 18.52 15.69 5.87 5.62 8.33 1.86 1.79 0.90

非金属採掘・選別 21.70 27.74 14.68 6.68 6.30 11.89 13.92 13.30 8.51

農産品・副産品食品加工 28.52 34.51 27.16 9.10 11.83 15.99 16.62 11.24 9.42

食品製造 27.55 29.91 24.91 9.16 7.51 9.74 19.83 13.74 10.99

飲料製造 22.63 21.21 15.71 7.28 7.52 9.10 18.89 16.44 13.18

タバコ加工 6 .19 7.15 9.01 2.38 3.39 3.61 12.95 19.14 19.96

紡織 19.25 22.91 24.02 2.72 1.56 1.68 45.44 48.96 41.92

紡織服装・靴・帽子製造 13.53 15.12 14.17 2.82 3.20 5.29 44.57 47.59 38.43

皮革・毛皮・羽毛とその製品製造 17.46 17.89 16.60 2.15 2.51 1.42 31.12 33.47 24.04

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品 12.30 21.83 17.58 10.81 10.64 15.01 35.30 29.98 22.09

家具製造 22.44 16.87 17.32 6.96 8.13 9.18 24.07 30.96 23.03

製紙・紙製品 22.97 27.88 23.13 4.84 2.95 4.22 26.65 26.27 23.29

印刷業・記録媒体の複製 18.84 17.35 17.69 3.20 3.21 4.22 25.37 27.16 23.32

文化教育スポーツ用品製造 12.48 15.72 14.28 0.88 1.21 1.75 40.31 40.74 36.65

石油加工・コークス・核燃料加工 23.20 22.78 25.16 24.60 19.87 15.51 15.88 16.70 14.40

化学原料・化学製品製造 18.86 23.68 23.07 10.97 7.18 7.34 31.90 33.50 31.23

医薬品製造 18.79 23.43 23.44 11.40 9.49 10.33 24.56 24.83 22.14

化学繊維製造 12.05 5.05 4.48 5.28 3.70 2.49 55.92 71.41 72.32

ゴム製品 33.05 34.92 37.59 6.85 5.49 6.45 26.82 28.75 24.44

プラスチック製品 14.60 15.47 14.35 4.37 4.67 7.35 34.15 36.53 29.43

非金属鉱物製造 21.69 26.59 20.74 7.54 6.72 10.39 19.96 18.46 14.31

鉄金属冶金・圧延加工 24.36 31.41 30.84 12.53 9.18 9.30 4.73 23.85 20.73

非鉄金属冶金・圧延加工 10.05 11.08 13.11 7.04 4.02 3.85 9.13 23.48 18.44

金属製品 18.97 19.36 19.84 5.10 4.80 7.44 26.90 38.62 31.89

汎用設備製造 - 22.72 23.81 - 9.62 12.35 - 43.80 35.17

専用設備製造 31.14 26.25 22.68 6.10 8.20 10.09 31.60 28.23 26.58

交通運輸設備製造 12.37 19.10 19.47 17.51 14.48 13.38 29.60 26.08 26.22

電気機械・器材製造 18.94 17.69 15.90 4.32 3.77 4.90 34.97 36.09 35.55

通信設備・計算機とその他電子設備製造 22.72 17.68 13.32 3.97 1.42 1.75 26.65 35.96 38.06

計測計量器・文化事務用機械製造 10.91 15.18 12.51 3.07 2.30 3.79 36.80 38.12 43.92

工芸品・その他製造 - 21.43 18.32 - 2.24 3.01 - 28.99 25.51

廃棄資源・廃材回収加工 - 6 .94 7.27 - 3.95 3.50 - 46.87 25.97

電気・熱生産と供給 16.55 18.45 19.73 10.91 8.34 7.16 17.89 20.65 19.58

ガス生産と供給 15.63 13.74 15.67 10.49 6.08 4.64 25.15 24.66 19.73

水生産と供給 13.73 13.18 13.88 14.88 7.17 8.40 16.48 18.73 21.10

注) シェアが 30%以上のところにアンダーラインを引いた。

出所)China Data Online,『中国工業経済統計年鑑』各年版より計算

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第 1-3 表 工業生産額全国シェアの推移(続き)(単位:%)

華南 中部 西南 西北

2000 2006 2010 2000 2006 2010 2000 2006 2010 2000 2006 2010

石炭採掘 0 .86 0.88 0.68 41.16 45.97 38.69 6.99 6.88 10.43 9.72 12.82 20.96

石油・天ガス採掘 8 .83 7.22 6.14 5.27 5.64 6.13 1.97 3.18 5.90 20.53 27.07 28.95

鉄金属採掘 8 .97 6.27 7.41 23.80 19.47 16.02 7.92 6.68 8.78 5.34 9.82 8.53

非鉄金属採掘 3 .66 4.35 5.33 30.15 36.55 39.36 19.54 12.90 11.82 14.00 20.27 18.56

非金属採掘 16.95 9.13 12.18 22.42 26.65 30.14 11.65 11.57 15.74 6.68 5.31 6.87

食品加工 12.29 10.31 9.03 19.87 17.62 22.61 9.73 10.03 10.40 3.87 4.47 5.39

食品製造 19.47 14.74 15.14 14.38 19.48 22.75 4.40 4.87 7.02 5.20 9.75 9.45

飲料製造 14.73 13.04 11.41 17.43 18.15 22.67 14.01 17.76 21.57 5.03 5.89 6.37

タバコ加工 8 .91 9.42 8.66 26.54 26.11 26.02 39.46 30.43 27.96 3.56 4.34 4.78

紡織 12.74 12.23 13.18 13.48 9.39 13.15 2.53 2.35 3.26 3.91 2.61 2.79

紡織服装 31.23 27.19 28.10 6.41 5.89 11.80 0.59 0.65 1.66 0.86 0.36 0.55

皮革・毛皮 37.84 34.43 39.36 8.61 7.85 12.57 1.67 3.45 5.38 1.16 0.39 0.63

木材加工 22.44 14.64 13.62 13.05 16.06 21.51 5.38 5.10 7.93 0.71 1.74 2.26

家具製造 31.16 32.86 29.91 9.70 6.66 12.51 2.92 3.64 7.22 2.76 0.88 0.84

製紙・紙製品 22.08 21.63 21.80 14.18 14.75 18.04 6.50 4.63 7.36 2.78 1.88 2.17

印刷業・記録 24.25 28.62 26.36 14.08 13.34 17.01 10.30 7.93 9.13 3.95 2.39 2.26

文化教育スポーツ 43.21 39.02 39.25 2.79 3.16 7.45 0.19 0.12 0.51 0.13 0.02 0.10

石油加工 12.17 10.46 13.26 15.41 14.94 14.46 0.54 1.68 3.43 8.20 13.57 13.78

化学原料・製品 11.74 12.07 10.35 14.31 12.51 16.29 7.96 7.46 7.50 4.26 3.60 4.22

医薬品製造 12.81 9.65 8.65 15.52 16.85 20.06 11.31 10.59 10.94 5.60 5.15 4.44

化学繊維製造 13.53 10.20 10.52 9.48 6.79 5.59 3.30 2.02 2.34 0.44 0.83 2.28

ゴム製品 13.84 14.92 12.17 12.21 11.05 13.24 5.17 4.16 4.90 2.06 1.33 1.20

プラスチック 33.34 29.96 29.40 8.63 8.82 12.64 2.51 2.96 4.80 2.40 1.59 2.05

非金属鉱物 17.74 17.16 13.95 20.57 20.25 25.93 8.48 7.44 9.90 4.02 3.39 4.79

鉄金属冶金・圧延 18.38 5.32 5.64 18.38 17.18 19.05 9.39 7.50 8.45 5.88 5.56 5.99

非鉄金属冶金・圧延 25.90 9.73 9.94 25.90 27.67 32.43 14.41 13.93 10.21 12.71 10.10 12.01

金属製品 8 .13 25.59 22.67 8.13 8.05 11.79 2.66 2.57 4.45 1.89 1.01 1.92

汎用設備製造 - 7 .56 7.22 - 9.48 13.25 - 5.09 6.37 - 1.74 1.84

専用設備製造 6 .80 11.01 9.05 17.20 16.62 21.50 3.78 5.91 6.67 3.39 3.77 3.44

交通運輸設備製造 10.97 12.81 11.42 16.28 14.32 16.16 10.84 10.78 10.45 2.44 2.42 2.90

電気機械・器材製造 27.39 29.20 23.88 9.17 8.36 13.18 3.32 3.43 3.95 1.88 1.46 2.65

通信設備・計算機 37.46 40.42 39.22 3.60 2.25 3.81 3.55 1.54 3.25 2.05 0.74 0.58

計測計量器 37.41 34.21 25.27 5.96 5.86 9.43 3.87 2.89 3.58 1.98 1.44 1.51

工芸品 - 33.91 35.97 - 10.31 12.31 - 2.42 3.73 - 0.70 1.55

廃棄資源・廃材 - 21.41 38.14 - 16.68 18.29 - 4.08 6.32 - 0.07 0.50

電気・熱 18.60 17.01 14.38 18.93 18.23 19.42 9.12 10.05 10.89 8.00 7.27 8.84

ガス 25.88 24.86 20.80 12.55 8.66 12.87 8.70 13.26 10.64 1.61 8.74 15.65

水 23.86 29.63 24.99 17.92 17.90 15.51 8.79 9.17 11.08 4.35 4.21 5.03

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30

第 1-4 表 「特化係数」の推移

注) 1 未満に低下しているところにアンダーラインを引いた。

出所)China Data Online,『中国工業経済統計年鑑』より計算。

環渤海 東北 華東

2000 2006 2010 2000 2006 2010 2000 2006 2010

石炭採掘・選別 1 .19 1.11 1.04 1.31 0.93 0.75 0.18 0.08 0.05

石油・天然ガス採掘 1 .12 1.17 1.38 4.05 3.93 2.77 0.05 0.04 0.03

鉄金属採掘・選別 2 .19 1.85 1.86 0.86 1.79 2.29 0.09 0.13 0.05

非鉄金属採掘・選別 1 .26 0.85 0.75 0.59 0.73 0.99 0.07 0.06 0.04

非金属採掘・選別 1 .10 1.27 0.70 0.68 0.82 1.41 0.51 0.47 0.34

農産品・副産品食品加工 1 .45 1.58 1.30 0.92 1.54 1.90 0.61 0.40 0.38

食品製造 1 .40 1.37 1.20 0.93 0.98 1.16 0.73 0.49 0.44

飲料製造 1 .15 0.97 0.75 0.74 0.98 1.08 0.69 0.58 0.53

タバコ加工 0 .31 0.33 0.43 0.24 0.44 0.43 0.48 0.68 0.80

紡織 0 .98 1.05 1.15 0.27 0.20 0.20 1.67 1.74 1.69

紡織服装・靴・帽子製造 0 .69 0.69 0.68 0.29 0.42 0.63 1.64 1.69 1.55

皮革・毛皮・羽毛とその製品製造 0 .88 0.82 0.80 0.22 0.33 0.17 1.14 1.19 0.97

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品 0 .62 1.00 0.84 1.09 1.38 1.78 1.30 1.06 0.89

家具製造 1 .14 0.77 0.83 0.70 1.06 1.09 0.89 1.10 0.93

製紙・紙製品 1 .16 1.28 1.11 0.49 0.38 0.50 0.98 0.93 0.94

印刷業・記録媒体の複製 0 .95 0.80 0.85 0.32 0.42 0.50 0.93 0.96 0.94

文化教育スポーツ用品製造 0 .63 0.72 0.69 0.09 0.16 0.21 1.48 1.45 1.48

石油加工・コークス・核燃料加工 1 .18 1.04 1.21 2.49 2.58 1.84 0.58 0.59 0.58

化学原料・化学製品製造 0 .96 1.09 1.11 1.11 0.93 0.87 1.17 1.19 1.26

医薬品製造 0 .95 1.08 1.13 1.15 1.23 1.23 0.90 0.88 0.89

化学繊維製造 0 .61 0.23 0.22 0.53 0.48 0.30 2.06 2.54 2.91

ゴム製品 1 .67 1.60 1.81 0.69 0.71 0.77 0.99 1.02 0.98

プラスチック製品 0 .74 0.71 0.69 0.44 0.61 0.87 1.26 1.30 1.18

非金属鉱物製造 1 .10 1.22 1.00 0.76 0.87 1.23 0.73 0.66 0.58

鉄金属冶金・圧延加工 1 .23 1.44 1.48 1.27 1.19 1.10 0.91 0.85 0.83

非鉄金属冶金・圧延加工 0 .51 0.51 0.63 0.71 0.52 0.46 0.76 0.83 0.74

金属製品 0 .96 0.89 0.95 0.52 0.62 0.88 1.34 1.37 1.28

汎用設備製造 - 1 .04 1.14 - 1.25 1.47 - 1.56 1.42

専用設備製造 1 .58 1.20 1.09 0.62 1.07 1.20 1.16 1.00 1.07

交通運輸設備製造 0 .63 0.88 0.94 1.77 1.88 1.59 1.09 0.93 1.06

電気機械・器材製造 0 .96 0.81 0.76 0.44 0.49 0.58 1.29 1.28 1.43

通信設備・計算機とその他電子設備製造 1 .13 0.81 0.64 0.41 0.18 0.21 0.98 1.28 1.53

計測計量器・文化事務用機械製造 0 .55 0.70 0.60 0.31 0.30 0.45 1.35 1.35 1.77

工芸品・その他製造 - 0 .98 0.88 - 0.29 0.36 - 1.03 1.01

廃棄資源・廃材回収加工 - 0 .32 0.35 - 0.51 0.42 - 1.67 1.05

電気・熱生産と供給 0 .84 0.85 0.95 1.10 1.08 0.85 0.66 0.73 0.79

ガス生産と供給 0 .79 0.63 0.75 1.06 0.79 0.55 0.92 0.88 0.79

水生産と供給 0 .70 0.60 0.67 1.50 0.93 1.00 0.61 0.67 0.85

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31

第 1-4 表 「特化係数」の推移(続き)

華南 中部 西南 西北

2000 2006 2010 2000 2006 2010 2000 2006 2010 2000 2006 2010

石炭採掘 0 .05 0.05 0.04 2.93 3.34 2.24 1.05 1.09 1.38 2.06 2.66 3.82

石油・天ガス採掘 0 .50 0.41 0.39 0.37 0.41 0.35 0.30 0.50 0.78 4.34 5.61 5.28

鉄金属採掘 0 .51 0.36 0.47 1.69 1.42 0.93 1.18 1.06 1.17 1.13 2.04 1.56

非鉄金属採掘 0 .21 0.25 0.34 2.14 2.66 2.28 2.93 2.05 1.57 2.96 4.20 3.39

非金属採掘 0 .96 0.52 0.78 1.59 1.94 1.74 1.74 1.83 2.09 1.41 1.10 1.25

食品加工 0 .69 0.59 0.58 1.41 1.28 1.31 1.46 1.59 1.38 0.82 0.93 0.98

食品製造 1 .10 0.84 0.97 1.02 1.42 1.32 0.66 0.77 0.93 1.10 2.02 1.72

飲料製造 0 .83 0.75 0.73 1.24 1.32 1.31 2.10 2.82 2.86 1.06 1.22 1.16

タバコ加工 0 .50 0.54 0.55 1.89 1.90 1.51 5.91 4.83 3.71 0.75 0.90 0.87

紡織 0 .72 0.70 0.84 0.95 0.68 0.76 0.38 0.37 0.43 0.83 0.54 0.51

紡織服装 1 .76 1.56 1.80 0.46 0.43 0.68 0.09 0.10 0.22 0.18 0.08 0.10

皮革・毛皮 2 .14 1.97 2.52 0.61 0.57 0.73 0.25 0.55 0.71 0.24 0.08 0.12

木材加工 1 .27 0.84 0.87 0.93 1.17 1.24 0.81 0.81 1.05 0.15 0.36 0.41

家具製造 1 .76 1.88 1.91 0.69 0.48 0.72 0.44 0.58 0.96 0.58 0.18 0.15

製紙・紙製品 1 .25 1.24 1.40 1.01 1.07 1.04 0.97 0.73 0.98 0.59 0.39 0.40

印刷業・記録 1 .37 1.64 1.69 1.00 0.97 0.98 1.54 1.26 1.21 0.84 0.50 0.41

文化教育スポーツ 2 .44 2.23 2.51 0.20 0.23 0.43 0.03 0.02 0.07 0.03 0.00 0.02

石油加工 0 .69 0.60 0.85 1.10 1.09 0.84 0.08 0.27 0.46 1.74 2.81 2.51

化学原料・製品 0 .66 0.69 0.66 1.02 0.91 0.94 1.19 1.18 1.00 0.90 0.75 0.77

医薬品製造 0 .72 0.55 0.55 1.10 1.23 1.16 1.69 1.68 1.45 1.18 1.07 0.81

化学繊維製造 0 .76 0.58 0.67 0.67 0.49 0.32 0.49 0.32 0.31 0.09 0.17 0.42

ゴム製品 0 .78 0.82 0.78 0.87 0.80 0.77 0.77 0.66 0.65 0.44 0.28 0.22

プラスチック 1 .88 1.71 1.88 0.61 0.64 0.73 0.38 0.47 0.64 0.51 0.33 0.37

非金属鉱物 1 .00 0.98 0.89 1.46 1.47 1.50 1.27 1.18 1.31 0.85 0.70 0.87

鉄金属冶金・圧延 0 .27 0.30 0.36 1.31 1.25 1.10 1.41 1.19 1.12 1.24 1.15 1.09

非鉄金属冶金・圧延 0 .52 0.56 0.64 1.84 2.01 1.88 2.16 2.21 1.36 2.69 2.09 2.19

金属製品 1 .52 1.46 1.45 0.58 0.59 0.68 0.40 0.41 0.59 0.40 0.21 0.35

汎用設備製造 - 0 .43 0.46 - 0.69 0.77 - 0.81 0.85 - 0.36 0.34

専用設備製造 0 .38 0.63 0.58 1.22 1.21 1.24 0.57 0.94 0.89 0.72 0.78 0.63

交通運輸設備製造 0 .62 0.73 0.73 1.16 1.04 0.94 1.62 1.71 1.39 0.52 0.50 0.53

電気機械・器材製造 1 .55 1.67 1.53 0.65 0.61 0.76 0.50 0.54 0.53 0.40 0.30 0.48

通信設備・計算機 2 .14 2.31 2.51 0.25 0.16 0.22 0.53 0.24 0.43 0.40 0.15 0.10

計測計量器 2 .11 1.96 1.62 0.42 0.43 0.55 0.58 0.46 0.47 0.42 0.30 0.28

工芸品 - 1 .94 2.30 - 0.75 0.71 - 0.38 0.49 - 0.15 0.28

廃棄資源・廃材 - 1 .23 2.44 - 1.21 1.06 - 0.65 0.84 - 0.02 0.09

電気・熱 1 .05 0.97 0.92 1.35 1.33 1.12 1.36 1.59 1.45 1.69 1.51 1.61

ガス 1 .46 1.42 1.33 0.89 0.63 0.74 1.30 2.10 1.41 0.34 1.81 2.86

水 1 .35 1.70 1.60 1.27 1.30 0.90 1.32 1.45 1.47 0.92 0.87 0.92

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32

第 1-5 表 東部地域における全国シェア低下業種

注) この表には 3 つの項目があるが,〇はそれぞれの条件を満たしていることを意味す

る。「 2010 年の全国シェアが最大」という項目で地域名が書いてある場合は,その

地域が最大の全国シェアを占めていることを意味する。

出所)第 1-3 表,第 1-4 表より作成。

飲料製造は環渤海地域が,食品製造,電気・熱生産と供給は華南地域が特化

を失っているが,これらは地域市場向け生産が主で,分散的な生産が向いてい

ると考えられる業種である。

交通運輸設備製造は 2006 年に華東地域が特化を失っているが, 2010 年には

再び特化するようになっている。

皮革・毛皮・羽毛とその製品製造とゴム製品は 2010 年に華東地域が,家具製

造は 2006 年に環渤海地域, 2010 年に華東地域が,通信設備・計算機とその他

電子設備製造は 2006 年に環渤海地域がそれぞれ特化を失っているが,東部地域

地域 業種

2010 年の全

国シェアが

30%以上

2010 年の

全国シェア

が最大

2010 年の

特化係数が

1 以上

環渤海 鉄金属採掘・選別 〇 〇 〇

専用設備製造

華東 〇

華東 紡織 〇 〇 〇

紡織服装・靴・帽子製造 〇 〇 〇

皮革・毛皮・羽毛とその製品製造

華南

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品

文化教育スポーツ用品製造 〇 華南 〇

化学原料・化学製品製造 〇 〇 〇

プラスチック製品

〇 〇

汎用設備製造 〇 〇 〇

専用設備製造

〇 〇

廃棄資源・廃材回収加工

華南 〇

華南 紡織服装・靴・帽子製造

華東 〇

家具

〇 〇

文化教育スポーツ用品製造 〇 〇 〇

プラスチック製品

華東 〇

計測計量器・文化事務用機械製造

華東 〇

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33

第 1-6 表 東部地域が特化を失った業種

注) 「特化している地域」とは当該業種で特化係数が 1.0 以上になっている業種を意味する

が,その中で 2000 年あるいは 2006 年と比べて特化係数が上昇している地域にはアンダ

ーラインが引いてある。

出所)China Data Online,『中国工業経済統計年鑑』各年版をもとに筆者作成

内のその他の地域が特化を強めてきている。すなわち,東部地域内で主要な生

産拠点が移動していることを意味する。

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品は,2010 年には特化している東部の地域

はなくなってしまった。しかし,第 1-3 表からわかる通り,2010 年にシェアが

最大であるのは東部の華東地域である。

ここで,特化係数を用いた分析により明らかになったことをまとめておく。

第一に,採掘・選別業やその資源を用いる業種は,東部地域で比較優位が失わ

れ,中・西部地域で比較優位が生じるようになっているし,食品製造,飲料製

造,電気・熱生産と供給などの分散的な立地が望ましい業種は,東部地域の比

較優位は明白でなくなってきている。第二に,規模の経済が働き,集中的な立

2006 年 特化を

失った地域 特化している地域

全国シェアが

最大の地域

非鉄金属採掘・選別 環渤海 中部,西南,西北 中部

飲料製造 環渤海 中部,西南,西北 環渤海

家具製造 環渤海 東北,華東,華南 華南

通信設備・計算機とその他電子設備製造 環渤海 華東,華南 華南

交通運輸設備製造 華東 東北,中部,西南 華東

食品製造 華南 環渤海,中部,西北 環渤海

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品 華南 環渤海,東北,華東,中部 華東

非金属鉱物製造 華南 環渤海,中部,西南 環渤海

電気・熱生産と供給 華南 東北,中部,西南,西北 華東

2010 年 特化を

失った地域 特化している地域

全国シェアが

最大の地域

非金属採掘・選別 環渤海 東北,中部,西南,西北 中部

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品 環渤海,華東 東北,中部,西南 華東

皮革・毛皮・羽毛とその製品製造 華東 華南 華南

家具製造 華東 東北,華南 華南

ゴム製品 華東 環渤海 環渤海

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34

地が望ましい紡織,機械製造などの業種が東部地域で比較優位が失われたとは

言えない。したがって,「梯子」移転構想の中で想定されているような状況に

は至っていない。

3.5. 企業数と生産額の増減

第 1-7 表は 2007 年から 2010 年における各業種の東部地域における企業数と

生産額の変動を示しているが,ほとんどが増加していることがわかる。企業数

と生産額のいずれかが減少しているのは環渤海の非鉄金属採掘・選別とタバコ

製品,華東の石炭採掘・選別,石油・天然ガス採掘,非鉄金属採掘・選別,華

南の化学繊維製造のみである。以上のうち,環渤海の非鉄金属採掘・選別以外

は生産額の全国シェアも特化係数も低い業種である。環渤海の非鉄金属採掘・

選別は前項で 2006 年に特化を失った業種として取り上げられているが, 2007

年から 2010 年にかけて企業数は減少しているものの,生産額は増加している。

したがって,環渤海の非鉄金属採掘・選別を除いて,2000 年時点で東部地域

における生産額の全国シェアや特化係数が高かった業種は,その後それらが低

下している業種も含めて,2000 年代後半に至っても企業数や生産額が増加して

いる。すなわち,主要な生産拠点でなくなったり,比較優位が失われたとして

も絶対的な生産規模までもが縮小している業種は東部地域にはほとんど存在し

ないのである。

3.6. なぜ,産業移転が起こらないのか

工業の主要な生産拠点が沿海地域から内陸地域へ移転していかない理由は以

下のとおりである。

第一に,生産拠点は沿海地域内の中心都市から周辺都市へ移転している可能

性がある。東部地域内の地域はすべて発展しているというわけではなく,発展

の遅れている地域も含まれており,産業においても近代産業と伝統産業が併存

している。中国の経済発展水準や技術の移転は東部から中・西部地域へだけで

なく,東部地域内でも生じている(樊・李 , 2004, p.66)。

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35

第 1-7 表 東部地域の業種別企業数と生産額の増減

注) 生産額の単位は 10 億元

出所)China Data Online,『中国工業経済統計年鑑』より作成

環渤海 華東 華南

企業数 生産額 企業数 生産額 企業数 生産額

石炭採掘・選別 54 2730.2 -1 105.5 3 75.3

石油・天然ガス採掘 11 818.1 0 -11.0 1 26.7

鉄金属採掘・選別 345 1518.8 9 3.5 29 308.2

非鉄金属採掘・選別 -13 240.6 -2 -1.2 0 75.8

非金属採掘・選別 58 109.0 29 99.6 153 246.9

その他採掘・選別 4 4.2 0 -2.4 0 -0.1

農産品・副産品食品加工 832 3690.7 880 1382.6 510 1389.7

食品製造 350 1045.5 239 466.3 363 833.3

飲料製造 126 437.2 98 401.4 320 413.6

タバコ製品 -2 254.5 1 441.7 5 139.8

紡織 219 2432.5 3427 3082.6 739 1551.6

紡織服装・靴・帽子製造 106 591.3 1401 1276.8 872 1373.1

皮革・毛皮・羽毛とその製品製造 253 445.7 470 267.6 398 1294.2

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品 390 528.9 976 666.9 388 494.5

家具製造 185 364.6 496 302.8 462 525.3

製紙・紙製品 189 730.0 538 766.8 460 919.5

印刷と記録媒体の複製 237 268.0 578 270.9 421 351.8

文化教育スポーツ用品製造 68 153.0 287 306.2 225 384.5

石油加工・コークス・核燃料加工 42 3145.4 41 1449.1 24 1737.1

化学原料・化学製品製造 1011 4817.4 1749 6024.4 818 1836.2

医薬品製造 236 1197.2 301 1108.9 110 458.2

化学繊維製造 9 24.3 352 647.1 -8 119.1

ゴム製品 166 996.1 437 479.6 151 246.8

プラスチック製品 415 679.6 2025 1258.7 1349 1617.7

非金属鉱物製造 1021 2708.7 1593 1939.0 803 1831.9

鉄金属冶金・圧延加工 14 5597.8 248 2836.2 155 1097.2

非鉄金属冶金・圧延加工 125 1622.2 544 1435.6 38 998.1

金属製品 1129 1759.3 2881 2135.2 1168 1634.2

汎用設備製造 2265 4147.0 5350 4566.3 746 1129.9

専用設備製造 937 2240.4 2489 2829.2 627 771.7

交通運輸設備製造 848 5767.7 2348 7579.3 499 2745.3

電気機械・器材製造 957 2870.7 3714 6739.4 1291 3519.6

通信設備・計算機とその他電子設備製造 36 632.0 1457 5926.9 1285 6594.2

計測計量器・文化事務用機械製造 40 178.5 695 1183.3 99 155.1

工芸品・その他製造 96 319.2 572 465.2 347 861.9

廃棄資源・廃材回収加工 80 113.9 187 342.3 166 710.6

電気・熱生産と供給 92 3318.4 85 2796.9 92 1568.4

ガス生産と供給 48 246.8 61 261.6 32 242.2

水生産と供給 47 52.5 86 84.0 47 54.3

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第二に,各地方政府は競い合うように経済発展に邁進している。ある地域に

おいて比較優位を失った業種の企業には他地域へ移転する誘因があるが,当該

地域の地方政府は自身の業績や関連業種のパフォーマンスのために,減税や免

税,土地の無償使用などの優遇政策を用いて引き留めようとする。また,企業

もサンクコストを考慮して,移転を見合わせたり,取りやめたりする(陳甬軍・

陳愛貞 , 2004, p.56)。

第三に,中・西部地域は民間セクターの発展が遅れているために,産業集積

の形成も遅れている。企業の移転先において産業集積が形成されていること,

また,出稼ぎなどによって専門の技術や知識を習得した人が積極的に起業でき

る環境が整備されていることが必要である。浙江省長湖州市織里鎮の子供服製

造業は元々貧しい農家の副業であったが,鎮政府の支援と貴州省からの大量の

農民工の受け入れによって発展を続けてきた(三浦 , 2012, 70-71 ページ)。

第四に,三浦は東部地域が労働集約的産業における競争力を失わない要因と

して,都市労働市場が国有,株式合作,有限責任,外資企業からなるフォーマ

ルな市場と小規模私営企業や自営業から構成されるインフォーマルな市場に分

断されていることを挙げている 9。農民工がフォーマルな労働市場に参入する機

会は都市戸籍保有者に比べ限られ,インフォーマルな労働市場はフォーマルな

市場に比べ賃金が低く,年金や医療などの社会保障の加入率も極端に低い。ま

た,インフォーマルな市場は東部地域で大きい(三浦 , 2012, 68-69 ページ)。

第五に,労働集約型産業の製品は海外へ輸出されるものが多いため,輸送コ

ストの面で東部沿海地域は内陸地域よりも比較優位がある。今後東部地域から

の産業移転は船舶による輸送が可能な長江沿いの内陸地域へのほか,東南アジ

ア諸国など国外への移転が拡大する可能性がある。

9 ここでのインフォーマルな労働市場とは,経済活動において公式に記録されない部門に

よって構成される労働市場のことではない。

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37

第 4 節 産業構造の同質化

第 3 節では,2000 年から 2010 年にかけて,東部地域から中・西部地域への

産業移転は限定的であることが明らかになった。産業移転が限られている中で,

産業立地は集中に向かっているのだろうか,それとも分散していっているのだ

ろうか。産業立地が集中していっているのであれば,地域間分業が進展してい

ることを意味する。この節では,まず,地域間分業に関する先行研究を整理し,

それから,「地域構造差係数」を用いて 2000 年代に産業立地が集中しているか

否か,あるいは産業構造の同質化が進んでいるかどうか検証する。

4.1. 地域間分業に関する先行研究

地域間分業が進展しているかどうかについての研究には以下のようなものが

ある。

Young(2000)は産業別 10産出額を用いて算出された各省市自治区の産業構造

差を示す指標が改革開放以降 1997 年まで趨勢的に低下していることから,省間

の産業構造差が小さくなっており,省間で産業構造の類似化が進んでいると指

摘している(Young, 2000)。

Bai, et al.(2004)は 1985 年から 1997 年における 29 省市自治区の工業 32 業

種のデータを用いて特定産業への集中度を示す「地域特化フーバー係数 11」を

算出し,1990 年代に入って多くの産業では地域への集中化が進んでいることを

示した(Bai, et al., 2004)。

Naughton(2000)は 1992 年の投入産出表のデータを用いて,1987 年から 1992

年にかけての地域間交易量の増加率が GRP 成長率及び対外貿易量の増加率を

上回っていることを示した。地域間交易量の増加は地域間で分業が進んでいる

ことを意味し,それを根拠に地域特化が進んでいると彼は述べている(Naughton,

2000)。

10 産業分類は第一次,第二次,第三次。

11 パイらは特定の産業についての「フーバー係数」の地域間のバラツキをジニ係数のアナ

ロジーによって算出したものを「地域特化フーバー係数」として定義し,その産業間に

おける平均値を中国全体における産業集中度の指標として用いている(梶谷 , 2011, 110

ページ)。

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Poncet(2003)は 1992 年と 1997 年における各省市自治区の生産構造 12と中国

全体のそれとの差を表す指標を比較し, 19 省市自治区で低下した一方で, 8 省

市自治区で上昇したことを明らかにした。また,彼は各部門の地域集中度も算

出し,全体的に低下傾向にあることや,資源集約的な部門は天然資源の産出地

に集中し,電気器材・機械,繊維製品,機械,電子設備など市場志向の強い部

門よりも地域集中度が高いことを明らかにしている(Poncet, 2003)。

加藤(2003)によると,北京,天津,上海,江蘇,山東,河南,湖北,広東,

四川(重慶を含む),陝西の 10 省市間の地域構造差が 1988 年から 2000 年まで

徐々に拡大しており(加藤 , 2003, 78 ページ),このことは産業立地の集中化が

進んでいることを意味する。

以上の先行研究が示すとおり,1990 年代までの地域間の構造差あるいは分業

の推移について激しい議論が行われている。以下では,2000 年以降のそれらに

ついて着目する。

4.2. 地域構造差係数

ここでは,地域間の産業構造差を生産額のデータを使って求めた地域構造差

係数を用いて分析する。

y i j が j 地域における i 部門の生産額を示し, y ik が k 地域における i 部門の生

産額を表すとすると, j 地域, k 地域の i 部門についての構成比はそれぞれ,

𝑑𝑖𝑗 =𝑦𝑖𝑗

∑ 𝑦𝑖𝑗𝑛𝑖=1

そして,𝑑𝑖𝑘 =𝑦𝑖𝑘

∑ 𝑦𝑖𝑘𝑛𝑖=1

となる(ただし, i =1, 2, … , n, j, k =1, 2, … , m)。このとき j 地域と k 地域

の産業構造差 Djk は次のように定義される。

𝐷𝑗𝑘 = ∑ |𝑑𝑖𝑗 − 𝑑𝑖𝑘|𝑛𝑖=1 0 ≤ 𝐷𝑗𝑘 ≤ 2

D j k は両地域の構造がまったく同じ場合,最小値の 0 となり,構造がまったく

異なる場合,最大値の 2 となる。D j k を 2 で割ることによって,その値を 0 から

12 農業部門と 20 の工業部門, 10 のサービス業部門に分けられている。

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1 までの値に平準化し,さらに複数地域の場合を想定すると,地域構造差係数

は次のようになる。

𝐷 =1

2𝑚(𝑚−1)∑ ∑ 𝐷𝑗𝑘

𝑚𝑘=1

𝑚𝑗=1 0 ≤ 𝐷 ≤ 1

したがって,地域構造差係数が小さいほど,地域間の産業構造差は小さく,

産業立地が分散していることを意味する。地域構造差係数には技術的な問題が

あるが 13,地域間の産業構造差を捉える手法として有用な指数である 14(加藤 ,

2003, 77-79 ページ)。

先行研究における地域構造差係数には,中国を 7 つの地域に区分し,それぞ

れの地域内における省市自治区間の産業構造の違いについて求めたもの(小林 ,

2013),ある地域とそれ以外の地域全体の産業構造の違いについて求めたもの

(範 , 2004),また,主要 10 省市自治区 15間に限定して求めたもの(加藤 , 2003)

がある。中国では「七大経済圏 16」などの地域経済圏構想が成功しているとは

言えないこと(加藤・久保 , 2009, 132-133 ページ)や互いに隣接している地域

間で産業構造差が小さいことが問題であることを考慮し,本章では各省市自治

区とそれに隣接する省市自治区の産業構造の違いについて計算する。

第 1-8 表によると,地域構造差係数が低下している省市自治区数は 1999 年か

13 第一に,産業区分の精粗によって,地域間依存関係がまったく異なってしまうことであ

る。たとえば,輸送機械製造業が A, B 両地域に立地し,雇用者数や生産額で測った規模

が同程度であるとすると,この場合,地域構造差係数は小さくなり,極端な場合ゼロと

いう結果になる。しかし,実際には,同じ産業に区分された完成車メーカーと部品メー

カーの間で,密接な相互依存関係が存在する可能性がある。第二に,地域間での分業関

係と企業間での分業関係とが明確に区分できないことである。たとえば,ある企業が他

地域の企業を吸収・合併して,そこに自社製品の製造工場を建設するといったケースを

考える。このケースでは,地域間での相互依存が小さく見えるが,地方企業が乱立して

産業構造が同一化した結果の相互依存の小ささとは状況が異なっている(加藤 , 2003,

78-79 ページ)。

14 海南とチベットは含めずに地域構造差係数を計算した。

15 主要 10 省市自治区とは北京,天津,上海,江蘇,山東,河南,湖北,広東,四川(重

慶を含む),陝西のことである。

16 1996 年 3 月に採択された「 2010 年長期発展目標要綱」に盛り込まれた構想。地域保護

主義を打破し,行政区画を超えた領域に地域経済圏をつくりあげ,それが緩やかに国民

経済に統合される構想が中央政府によって提起された。しかし,政府の政策誘導だけで

経済圏を形成することは困難であり,また,同一の経済圏に含まれる各省は相互協調せ

ず,域内での主導権を争う反発の方が強かったため頓挫した(加藤 , 2009, 132-133 ペー

ジ)。

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第 1-8 表 地域構造差係数の推移

全業種 資源採掘部門と公共サービス部門を除く

1999 2002 2005 2008 2011 1999 2002 2005 2008 2011

北京 0.322 0.310 0.332 0.384 0.415 0.291 0.268 0.280 0.306 0.317

天津 0.294 0.300 0.312 0.333 0.337 0.262 0.242 0.240 0.246 0.237

河北 0.320 0.338 0.370 0.391 0.395 0.256 0.270 0.300 0.303 0.289

山西 0.393 0.399 0.418 0.439 0.455 0.259 0.259 0.258 0.268 0.259

内蒙古 0.404 0.435 0.422 0.396 0.408 0.316 0.344 0.303 0.263 0.246

遼寧 0.378 0.407 0.378 0.373 0.388 0.315 0.356 0.329 0.302 0.308

吉林 0.464 0.529 0.511 0.411 0.455 0.402 0.449 0.415 0.308 0.344

黒龍江 0.427 0.460 0.533 0.464 0.447 0.369 0.398 0.346 0.282 0.273

上海 0.250 0.275 0.265 0.247 0.288 0.241 0.268 0.250 0.236 0.275

江蘇 0.230 0.248 0.265 0.246 0.262 0.208 0.220 0.236 0.215 0.235

浙江 0.278 0.312 0.320 0.295 0.286 0.251 0.280 0.291 0.267 0.260

安徽 0.465 0.485 0.541 0.598 0.617 0.331 0.347 0.389 0.418 0.396

福建 0.275 0.301 0.309 0.324 0.306 0.252 0.276 0.289 0.307 0.288

江西 0.306 0.335 0.312 0.325 0.308 0.264 0.287 0.279 0.294 0.282

山東 0.250 0.276 0.310 0.337 0.328 0.215 0.224 0.265 0.294 0.285

河南 0.282 0.303 0.323 0.338 0.332 0.213 0.228 0.247 0.258 0.251

湖北 0.263 0.274 0.282 0.287 0.295 0.212 0.220 0.224 0.218 0.243

湖南 0.289 0.304 0.304 0.303 0.328 0.259 0.272 0.259 0.248 0.276

広東 0.390 0.426 0.445 0.439 0.395 0.359 0.395 0.405 0.402 0.364

広西 0.385 0.407 0.376 0.377 0.384 0.344 0.374 0.326 0.311 0.315

重慶 0.323 0.373 0.367 0.282 0.370 0.285 0.326 0.302 0.210 0.298

四川 0.384 0.411 0.398 0.403 0.435 0.326 0.333 0.320 0.316 0.346

貴州 0.332 0.365 0.364 0.379 0.422 0.276 0.294 0.260 0.251 0.276

雲南 0.385 0.417 0.365 0.386 0.396 0.348 0.380 0.311 0.318 0.322

陝西 0.426 0.432 0.415 0.382 0.382 0.323 0.310 0.267 0.245 0.250

甘粛 0.384 0.390 0.414 0.382 0.372 0.285 0.291 0.302 0.274 0.266

青海 0.495 0.439 0.533 0.451 0.435 0.335 0.312 0.341 0.314 0.333

寧夏 0.419 0.436 0.400 0.355 0.342 0.332 0.344 0.281 0.248 0.203

新疆 0.563 0.402 0.559 0.430 0.363 0.309 0.284 0.292 0.265 0.252

注) 数値が低下しているところにアンダーラインを引いた。

出所)China Data Online より作成

ら 2002 年においてはわずか 3 であるが,2002 年から 2005 年においては 12 に

増え,2005 年から 2008 年においては 15,2008 年から 2011 年においては 12 と

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なっている。この傾向は資源採掘業部門と公共サービス部門を除くとさらに顕

著になり,2005 年から 2008 年においては 19,2008 年から 2011 年においては

15 となっている。

2005 年と 2011 年を比較すると東北地域,華東地域,華南地域,西北地域 17を

中心とした 13 の省市自治区で地域構造差係数が低下しているが,資源採掘部門

と公共サービス部門を除くと,これに環渤海地域と西南地域の省市自治区も加

わる。2008 年と 2011 年を比較すると中部地域の省でも地域構造差係数が低下

している。以上の通り,2000 年代,特に後半において隣接する省市自治区との

産業構造差が縮小している省市自治区が増加している。これは産業立地が分散

化し,地域間で産業構造が同質化していることを示唆するものである。

4.3. 重複建設の再燃

重複建設とは,各地域が競って同一製品に投資し,その結果,生産能力の過

剰が生じることを意味する(加藤 , 2003, 108 ページ)。重複建設は改革開放以

来,中国経済が抱えてきた問題であったが,近年は高度成長が続いていたため

に,表面化することが少なくなっていた。しかし,リーマンショック後に再燃

し,2009 年 9 月 30 日に国務院は生産能力過剰・重複建設の抑制を目指す新政

策を発表した(「関于抑制部分行業産能過剰和重複建設引導産業健康発展若干

意見的通知」)。「意見」は投資抑制のために地方政府に許認可の停止などを

求め,違反に対して指導者の「問責」にまで言及する強硬な緊急措置である。

一部の業種で生じた重複建設が深刻な生産能力過剰を招いたため,このような

強硬な投資抑制策が導入されたのである。「意見」の中で,8 つの業種(鉄鋼,

セメント,板ガラス,石炭化学,アモルファス・シリコン,風量発電設備,電

解アルミ,造船)は生産能力過剰が深刻であることが描写されている。これら

のうち,鉄鋼,セメント,板ガラスといった業種では, 4 兆元の景気刺激策の

17 環渤海地域は北京,天津,河北,山東,東北地域は遼寧,吉林,黒龍江,華東地域は上

海,江蘇,浙江,華南地域は福建,広東,中部地域は山西,安徽,江西,河南,湖北,

湖南,西南地域は広西,重慶,四川,貴州,雲南,西北地域は内蒙古,陝西,甘粛,青

海,寧夏,新疆からなる。

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もたらす需要増を当て込んで設備投資競争が生じた。これらの業種では激しい

シェア競争が繰り広げられているため,競争相手の設備増設の動きに応戦した

いという衝動を抑えがたくなる。また,太陽電池用素材であるアモルファス・

シリコンと風力発電設備が新たに生産過剰の業種と判定された。いずれも地球

温暖化対策推進,節約型社会の実現のために政府が奨励し育成に努めてきた新

興産業である。各地方政府が環境重視の中央政策動向を見て,一斉に事業を立

ち上げたために深刻な過剰設備が生じた(津上 , 2011, 91-92 ページ)。

以上のように,リーマンショック以降重複建設の問題が再燃していることが,

2000 年代後半における地域構造差係数の低下に表れていると考えられる。

おわりに

本章では中国国内の産業移転及び地域集中について検討した。その結果,以

下のようなことが明らかとなった。

第一に,2000 年代における産業移転は資源採掘業やその資源を用いた製造業

など,いくつかの業種に限られている。経済の発展とともに東部地域から中・

西部地域へと移転していくと考えられている紡織,紡織服装・靴・帽子製造,

機械製造などの労働集約型産業でも産業移転はまだ起こっていないと考えられ

る。

第二に,2000 年時点で東部地域における生産額の全国シェアや特化係数が高

かった業種は,その後それらが低下している業種も含めて,2000 年代後半に至

っても企業数や生産額が増加している。すなわち,主要な生産拠点でなくなっ

たり,比較優位が失われたとしても絶対的な生産規模までもが縮小している業

種は東部地域にはほとんど存在しない。

第三に,地域構造差係数を用いて,各省市自治区とそれに隣接する省市自治

区の産業構造差の推移について分析したところ,2000 年代,特に後半において

産業構造差が縮小している省市自治区が増加しており,産業立地が分散化し,

地域間で産業構造が同質化していることが明らかとなった。このことは 2000

年代後半に重複建設が再燃したことと関係があると考えられる。

先行研究の中には,生産額の全国シェアの上昇をもって産業移転が生じてい

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ると判断するものもある(伊藤 , 2015)。また,雁行形態が現れつつあると主

張するものもある(曲・蔡・張 , 2013)。本章では,生産額のシェアが低下し

ていても,比較優位を喪失していなければ(特化係数が 1 未満になっていなけ

れば),その産業は衰退していない,すなわち,産業移転の動きは顕著ではな

いと判断した。さらに, 2000 年代後半,生産額の全国シェアが低下しようが,

比較優位を喪失しようが,東部地域のほとんどの業種の企業数と生産額は増加

していることが明らかとなった。産業移転というと,企業が別の地域に拠点を

移す,すなわち,元々所在していた地域の拠点は閉鎖するというイメージがあ

る。また,雁行形態論も自国で比較優位のなくなった業種は生産をやめて,他

の地域で生産することを指している。中国はそのような状況には至っていない

と言える。

2000 年以降の中国全土を「東部」,「西部」,「東北部」,「中部」に区分

した地域発展計画に加え,2005 年以降は,さらに地域や分野を細分化した地域

発展計画が次々と中央政府の認可を受けている。2005 年以降の地域発展計画で

は,各地域の「自主性」と「特性」を最大限尊重した計画の立案を認め,他地

域にはない制度の制定,新たな取り組みの実践といった面で各地域に自主権を

与える一方,特別な優遇政策や,取り組みを進めるうえでの資金の重点的な投

入は行われないとみられている。地域主導の地域発展計画が数多く認可され,

地域経済の過熱に結び付くことが懸念されていたが(中井 , 2010),その懸念

のとおり,リーマンショック後,重複建設の問題が再燃することとなった。地

域発展計画の策定において各地域の「自主性」が尊重されるようになった結果,

2000 年代後半以降,地域構造差は縮小に向かい,産業立地は分散化傾向にある。

それにも関わらず産業移転の動きが限定的であることは各地域が同様な業種に

おいて生産を増加していることを示唆している。2005 年以降の地域発展計画に

はそれぞれの地域の「特性」に焦点を当て,それを「比較優位」として発展を

促す狙いがあるが,その狙いが果たされているとは言いがたい。

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45

第 2 章 中国における産業立地

―分散か集中か―

はじめに

企業の生産活動は,市場アクセスの利便性と並んで,労働力,原材料など生

産要素および投入財の調達可能性や調達価格の影響を受ける。そのため,縫製

業のような労働集約型産業は,低廉な労働力に強く引き付けられる。また,鉱

物資源の精製・精錬を行う資源集約型産業は,鉱物が採れる地域の近くで操業

するのがベストである。したがって産業立地は各地域の比較優位構造を反映し

たものになる。

計画経済期における中国の産業立地は各地域の比較優位構造を反映したもの

とは言い難い。中華人民共和国成立時,工業生産の 70%以上が国土面積の 12%

に満たない東南部沿海地域でなされるなど,非常に集中的なものであった。そ

の後の計画経済体制の下では市場の存在が公式に否定され,計画による資源配

分が市場を代替するものと考えられたが,大躍進運動や文化大革命による混乱

などが原因で計画がうまく機能せず,地方政府や企業は必要な物資を自分で生

産し,自分で調達する自給自足経済を追求せざるを得なかった。そのため,計

画経済期には産業立地の分散化が進んだ。市場圏は縮小し,本来,工業化とは

相容れないはずの農村部でも鉄鋼,化学肥料,セメント,農業機械製造・修理,

発電所など農業支援を目的とした「五小工業」の設立が目指された。また,企

業レベルでは「大而全,小而全(大きくても全面的,小さくても全面的,すな

わちフルセット主義の意)」が追求された(加藤 , 2009, 118-122 ページ)。

1978 年の改革開放以降,沿海地域に産業集積が形成され始めた。しかし,市

場が未発達な段階にある発展途上国や移行国では国内市場はしばしば地域ごと

に,産業ごとに分断され,さまざまな障壁が財・サービス,生産要素の,地域

を越えた流動を阻害し,市場経済の発達を妨げる。1980 年代の中国でも地方政

府が地元市場を保護して域外商品の流入を制限したり,域内からの原材料やエ

ネルギーの流出を禁じたりする地域保護主義が出現した。地域間で競い合うよ

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46

うに工業化が進められたため,1980 年代は産業立地の分散化が継続した。1980

年代後半以降,産業立地の集中化が徐々に進むようになった(加藤 , 2003, 74 ペ

ージ)が,地域保護主義が完全に払拭されたわけではない 1。

2000 年代に入ると一部の業種の過剰な生産能力の削減を求める政策が提起

されるようになった。また,2009 年 9 月には各地域が競って同一製品に投資し,

その結果,生産能力過剰が生じるという重複建設が一部の業種で深刻化してい

ることが政府により発表された。重複建設はゆるやかに進んでいた産業立地の

集中化を分散化へと逆転させるように働くと考えられる。そこで本章では,2000

年代の中国における産業立地は分散したのか,それとも,集中したのかについ

て検討する。

本章の構成は次のとおりである。第 1 節では,産業立地の分散あるいは集中

についての先行研究を整理する。第 2 節では,産業立地を分散化させると考え

られる重複建設の再燃とその発生要因,そして経済に与える影響について述べ

る。第 3 節では,2000 年代に工業の産業立地が分散化したのか,あるいは集中

化したのかについて,地域集中ジニ係数,CN8 を用いて分析する。第 4 節では,

2000 年代後半の産業立地の特徴を過去と比較する。

第 1 節 産業立地の分散と集中に関する議論

ここで中国における産業立地の集中あるいは分散に関する先行研究を整理し

ておく。

Young( 2000)は産業別産出額を用いて算出された各省市自治区の産業構造

差を示す指標が改革開放以降 1997 年まで趨勢的に低下していることから,省間

の産業構造差が小さくなっており,省間で産業構造の類似化が進んでいると指

摘している。すなわち,ヤングによると,1990 年代において産業立地の分散化

が進んだという。

1 法制度の整備が進むにつれ,道路に関所を設けて域外製品の流入制限をするというよう

な「超法規的」な地域保護の手段をとることは困難になったが,地方政府はより巧妙な

手段を使って地元企業の保護を行っている。例えば,中国有数の自動車製造業企業の第

一汽車を擁する吉林省では,地方政府の幹部職員専用車は原則として第一汽車が製造し

た自動車を配備しなければならないと規定されている(加藤 2009, 128 ページ)。

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47

Batisse and Poncet( 2004)は 1992 年と 1997 年における各省市自治区の雇用

者数のデータを用いて生産構造と中国全体のそれとの比を表す指標(バラッサ

指数 2)を計算したところ,19 省市自治区で低下し,8 省市自治区で上昇したこ

とが明らかになったことから,全体として産業構造差が小さくなっており,産

業立地の分散化が進んだと述べている。また,彼らは各部門の地域集中度も算

出し,全体的に低下傾向にあることや,資源集約的な部門は天然資源の産出地

に集中し,電気器材・機械,繊維製品,機械,電子設備など市場志向の強い部

門よりも地域集中度が高いことを明らかにしている。以上からすると,1992 年

から 1997 年にかけて産業立地の分散化が進んだように思えるが,業種別にバラ

ッサ指数を見ると,全 40 業種中 20 業種で,また,製造業 20 業種中 11 業種に

おいて上昇していることにも注目すべきである。

Bai, et al .(2004)は 1985 年から 1997 年における 29 省市自治区の工業 32 業

種の産出額のデータを用いて特定業種への集中度を示す「地域特化フーバー係

数 3」を算出し, 1990 年代に入って多くの業種では地域への集中化が進んでい

ることを示した。

Naughton(2000)は 1992 年の投入産出表のデータを用いて,1987 年から 1992

年にかけての地域間交易量の増加率が GRP 成長率及び対外貿易量の増加率を

上回っていることを示した。地域間交易量の増加は地域間で分業が進んでいる

ことを意味し,それを根拠に彼は産業立地の集中化が進んでいると述べている。

加藤(2003)は製造業 29 業種の企業数,雇用者数,生産額データを用いて,

北京,天津,上海,江蘇,山東,河南,湖北,広東,四川(重慶を含む),陝

西の 10 省市間の地域構造差係数を計測し,地域間の産業構造差が 1988 年から

2000 年にかけて徐々に拡大しており,産業立地の集中化が進んでいることを明

2 「バラッサ指数」 =∑ { (𝑦𝑖𝑘

𝑦𝑖⁄ )𝑘 / (

𝑦𝑛𝑘

𝑦𝑛⁄ )}。 𝑦𝑖

𝑘は i 地域における k 部門の生産額, 𝑦𝑖は i

地域における総生産額, 𝑦𝑛𝑘は中国全体における k 部門の生産額, 𝑦𝑛は中国全体における

総生産額。

3 パイらは特定の産業についての「フーバー係数( =(𝑦𝑖𝑘

𝑦𝑖⁄ ) / (

𝑦𝑛𝑘

𝑦𝑛⁄ ))」の地域間のバラツ

キをジニ係数のアナロジーによって算出したものを「地域特化フーバー係数」として定

義し,その産業間における平均値を中国全体における産業集中度の指標として用いてい

る(梶谷 , 2011, 110 ページ)。

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48

らかにした。

文(2004)は 1980,1985,1995 年における各省市自治区の生産額のデータを

用いて地域集中ジニ係数 4を計算し,改革開放後多くの製造業が沿海地域へ立地

するようになってきていることを明らかにした。賀・謝( 2006)は,付加価値

額,生産額,雇用者数のデータを用いて地域集中ジニ係数を計算し, 3 つの指

標すべてにおいて 1990 年代から 2003 年代前半にかけて立地が集中傾向にある

ことを明らかにした。李( 2010)は 1994 年から 2003 年における各地域の生産

額と面積の割合を用いて産業立地の集中の程度を表す指標を計算し,17 業種中

13 業種で立地が集中傾向にあることを明らかにした。

李真・範愛軍(2008)は製造業 20 業種の 1999 年から 2006 年にかけての E-G

地域集積指数(エリソン・グレーサー指数 5)を計算し,全体的に集中的な立地

になっていることを明らかにした。

以上の通り,中国における産業立地の集中あるいは分散に関する研究は 1980

年代,1990 年代そして 2000 年代前半を分析したものが多い。また,産業立地

の変動の傾向については多くの研究で集中化が進んでいるという結論が出され

ている。それらとは反対に,Young(2000) は立地が分散化したと主張してい

るが,産業分類が粗い 6。産業分類の精粗によって,産業構造の違いを表す指標

(例えば地域構造差係数など)の値はまったく異なってくる。そこで本章では

Young(2000)の分類よりは詳細に,工業の業種を 40 ほどに分類して,特に先

行研究で分析されていない 2000 年代後半の産業立地の変動に関して分析を行

う。

第 2 節 産業立地を分散化させる一要因としての重複建設

序章第 3 節第 2 項でとりあげたとおり,産業立地に影響を及ぼす力には集積

力と分散力がある。集積力には,市場規模,労働市場の厚み,純粋な外部経済

4 第 3 節の 1 で説明する。

5 エリソン・グレーサー指数も産業の地理的集中度を表す指標で,企業規模も考慮されて

いる。

6 ヤングの用いた産業分類は第一次,第二次,第三次。

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があり,分散力には移動不可能な生産要素,地代の上昇,混雑や環境汚染など

の外部不経済がある。筆者は 2000 年代後半に再燃した重複建設問題も分散力の

一つとして産業立地に対して大きな影響を及ぼしていると考えている。以下で

はその理由を重複建設の発生要因や経済に与える影響から述べ,2000 年代後半

における産業立地の変動に関して仮説を提起する。

2.1. 重複建設の再燃

重複建設とは,各地域が競って同一産業に投資し,その結果,生産能力過剰

が生じることを意味する(加藤 , 2003, 108 ページ)。重複建設は改革開放以来,

中国経済が抱えてきた問題であったが,近年は高度成長が続いていたために,

表面化することが少なくなっていた。

しかし,2008 年からの世界金融危機の影響を受けて,中国の輸出は急速に減

速し,それまで輸出を通じて解消できていた国内の過剰生産力が浮き彫りとな

った。2009 年 9 月 30 日に国務院は生産能力過剰・重複建設の抑制を目指す新

政策を発表した(「関于抑制部分行業産能過剰和重複建設引導産業健康発展若

干意見的通知」,以下では「意見」と表記する)。「意見」は投資抑制のため

に地方政府に許認可の停止などを求め,違反に対して指導者の「問責」にまで

言及する強硬な緊急措置である。一部の業種で生じた重複建設が深刻な生産能

力過剰を招いたため,このような強硬な投資抑制策が導入された。生産能力過

剰や重複建設を速やかにコントロールしなければ市場の「悪性競争 7」が避けら

れなくなり,それが企業の倒産や不良資産の増加につながることを国務院は懸

念していた。「意見」の中で, 8 つの業種(鉄鋼,セメント,板ガラス,石炭

化学,アモルファス・シリコン,風力発電設備,電解アルミ,造船)は生産能

力過剰が深刻であることが描写されている。これらのうち,鉄鋼,セメント,

板ガラスといった業種では, 4 兆元の景気刺激策のもたらす需要増を当て込ん

で設備投資競争が生じた。これらの業種では激しいシェア競争が繰り広げられ

ているため,競争相手の設備増設の動きに応戦したいという衝動を抑えがたく

なる。鉄鋼業では,成長の鈍化に伴ってこの数年,鉄鋼業界の設備過剰が深刻

7 激しい競争によって企業を疲弊させるような競争。

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50

化しているにも関わらず,余剰生産能力の拡大が続いているという。

中国鉄鋼工業協会の副事務総長,李新創氏によれば,2013 年時点で鉄鋼業界

の余剰生産能力は 3 億トンに達している。中国最大の鉄鋼生産量を誇る河北省

では古い施設の閉鎖が進められているが,その 2 倍のペースで新規施設の増設

が続いているという。また,太陽電池用素材であるアモルファス・シリコンと

風力発電設備が新たに生産過剰の業種と判定された。いずれも地球温暖化対策

推進,節約型社会の実現のために政府が奨励し育成に努めてきた新興産業であ

る。これらの業種では各地方政府が環境重視の中央政策動向を見て,一斉に事

業を立ち上げたために深刻な過剰設備が生じたが(津上 , 2011, 91-92 ページ),

他の業種でも同じようなケースが見られる 8。

ここで投資に関するデータを見ておく。第 2-1 図は全社会固定資産投資額の

推移を表しているが,2000 年代半ば以降大きく増加していることが見てとれる。

次に投資が効率的であるかどうか,限界資本係数を用いて検討する。限界資

本係数は名目 GDP(NGDP)に占める全社会固定資産投資( I)の比率と実質経

済成長率(∆𝑌′)との比率で求められる 9。この指標は一単位の成長を遂げるの

に必要な投資単位を表し,数値が高いほど投資効率が悪いことを意味する。

限界資本係数 =

𝐼

𝑁𝐺𝐷𝑃∆𝑌′⁄

第 2-2 図から限界資本係数が 2007 年以降大きく上昇していることがわかるが,

8 政府が環境汚染の深刻化に対処するため,電気自動車購入に対する補助金支給や課税免

除,充電スタンド建設への公的資金投入,公用車への低公害車導入拡大義務付けなどの

措置を導入したところ, 2014 年 1-10 月に電気自動車の販売台数は 5 倍に急増した。電

気自動車を発注しているのは個人ではなく地方政府であり,国民の多くは電気自動車を

購入できる態勢が整っていないため,生産能力過剰が懸念されているという

( http: // jp .reuters.com/art icle/ topNews/idJPKCN0J42OR20141120 2015 年 1 月 12 日アクセ

ス)。

9 三浦有史( 2013)によると,投資額に関するデータに関するデータは全社会固定資産投

資の他に総固定資本形成があるが,全社会固定資産投資は金融取引の裏付けのない投資

も含んでいるので,より正確に実態を表しているという(三浦有史 , 2013, 104 ページ)。

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51

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

兆元

全社会固定資産投資額

第 2-1 図 全社会固定資産投資額の推移

注) 1990 年を基準に実質化

出所)『中国統計年鑑』各年版

第 2-2 図 限界資本係数の推移

出所)『中国統計年鑑』各年版より作成

0.00

2.00

4.00

6.00

8.00

10.00

12.00

限界資本係数

限界資本係数

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これは投資効率が悪化していることを表している。以上から, 2000 年代後半,

投資額は大きく増加しているが,その効率性は低下していることがわかる。

2.2. 過剰投資の抑制政策

1999 年に中国は 1997 年から始まったアジア金融危機を乗り越えて, 2001 年

12 月に WTO 加盟を果たした。内外の旺盛な需要を背景に, 2001 年から 2005

年までの第 10 次 5 か年計画期間中の平均固定資産投資伸び率は 20.2%に達して

おり,第 9 次 5 か年計画の 11.2%を大幅に上回った。インフラ建設,不動産,

自動車産業の急速な発展と相まって,鉄鋼,アルミ,セメント,電力,石炭等,

上流産業の生産能力が急速に拡大された。

生産能力過剰は資源の無駄使いを意味するだけでなく,企業間の激しい値下

げ競争によってデフレを引き起こしかねないため,中央政府は第 2-1 表のとお

り,2003 年以降さまざまな過剰投資抑制のための政策を打ち出した。 2003 年

12 月に国務院は 103 号通達を発表し,鉄鋼,電解アルミとセメントの 3 業種を

対象に,過剰設備の淘汰を要求した。2005 年 12 月には淘汰業種を 11 業種に拡

大した。

2009 年 9 月には上述した通り,国務院は 3 年ぶりに過剰生産淘汰意見を発表

し,2010 年 8 月から毎年淘汰企業リストを公表し始め,過剰生産の淘汰を具体

化した。2012 年 12 月,習近平政権に変わり初めて開催された中央経済工作会

議において,目下中国が直面しているリスクの一つとして「経済成長の下振れ

圧力と生産能力の相対的な過剰の矛盾が幾分激しくなっている」ことが指摘さ

れ,生産能力過剰の解消が施策の重点とされている。また,2013 年の政府活動

報告においても,生産能力過剰がいまだ深刻で,その解消が重要な課題となっ

ているとの言及がなされている(三菱東京 UFJ 銀行(中国)有限公司 , 2013, 3-4

ページ)。

こうした問題意識を反映し,2013 年に入ってからも関連政策が公布されてい

る。例えば同年 1 月には,国家発展改革委員会や工業情報化部など関連 12 部署

が連名で「重点産業企業の合併・再編の推進加速に関する指導意見」を公表し,

立ち遅れた生産能力の淘汰等を目的として,指定した業種における企業の合

併・再編に向けた方針を示した。また 4 月には,工業情報化部が「工業分野 19

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第 2-1 表 生産能力過剰等に対する主な政策

2003 年 12 月 国務院は 103 号通達を公表。鉄鋼,電解アルミ,セメントの 3 業種を対

象に,過剰設備の淘汰を要求した。

2005 年 12 月 発展改革委は全国発展と改革工作会議を開催。鉄鋼,セメント,電解ア

ルミ,カーバイド,銅精錬,コークス,水力発電,石炭,紡績,自動車,

鉄合金など生産過剰化の 11 業種を対象に設備の淘汰を要求した。

2006 年 3 月 国務院が『生産能力過剰業種の構造調整を加速する通達』を公表。鉄鋼,

電解アルミ,カーバイド,鉄合金,コークス,自動車,セメント,石炭,

カーバイド,紡績,など 10 業種を生産能力の過剰化(あるいは潜在過剰

化)された業種に認定した。

2009 年 9 月 国務院が『発展改革委など部門の一部生産能力過剰と重複建設を抑制し,

産業の健康的発展を誘導する若干意見』を公表。鉄鋼,セメント,板ガ

ラス,石炭化学,シリコン,風力発電の 6 業種を重点対象とし,電解ア

ルミ,造船など生産能力の過剰化を指摘。

2010 年 8 月 工業情報化部が生産能力過剰化の企業リストを公表。製鉄,製鋼,コー

クス,鉄合金,カーバイド,電解アルミ,銅精錬,亜鉛精錬,鉛精錬,

セメント,板ガラス,製紙,アルコール,クエン酸,製革,捺染と化学

繊維など生産能力過剰化の 18 業種。

2011 年 7 月 工業情報化部が 2011 年生産能力過剰化の企業リストを公表。対象業種は

製鉄,製鋼,コークス,鉄合金,カーバイド,電解アルミ,銅精錬,亜

鉛精錬,鉛精錬,セメント,板ガラス,製紙,アルコール,クエン酸,

製革,捺染と化学繊維など 18 業種。

2012 年 7 月

9 月

工業情報化部が 7 月と 9 月に分けて生産能力過剰化の企業リストを公表。

対象業種は製鉄,製鋼,コークス,鉄合金,カーバイド,電解アルミ,

銅精錬,亜鉛精錬,鉛精錬,セメント,板ガラス,製紙,アルコール,

クエン酸,製革,捺染,化学繊維,鉛蓄電池の合計 19 業種。

2013 年 4 月 工業情報化部が 2011 年生産能力過剰化の企業リストを公表。対象業種は

製鉄,製鋼,コークス,鉄合金,カーバイド,電解アルミ,銅精錬,亜

鉛精錬,鉛精錬,セメント,板ガラス,製紙,アルコール,クエン酸,

製革,捺染,化学繊維,鉛蓄電池の 19 業種。

出所)三菱東京 UFJ 銀行(中国)有限公司( 2013)

業種の立ち遅れた生産能力の淘汰目標量」を地方政府に向け下達した(三浦祐

介 , 2013, 3 ページ)。

以上のように,過剰投資の抑制が 10 年以上にわたって取り組まれているが,

重複建設や生産能力過剰の問題は解消されていない。

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54

2.3. 重複建設発生の要因

なぜ,中央政府が長く取り組んでいるにも関わらず,重複建設や生産能力過

剰の問題は解消されないのであろうか。以下では重複建設発生の要因について

述べる。

第一に,高貯蓄が高投資を可能にしていることが挙げられる。中国では公的

制度によって十分な社会保障や教育を受けられる人の割合が低く,家計は将来

のリスクに対する保険として貯蓄に強く依存せざるを得ない状況にあるため,

貯蓄率が高い。

第二に,地方政府が主な投資主体となっていることが挙げられる。第 2-3 図

は全社会固定資産投資の主体の構成を示しているが,これから投資は中央政府

ではなく,地方政府によるものが多いことがわかる。ここでの中央政府は,日

本の中央省庁に相当する部によって実施される投資と「央企」と呼ばれる国務

院国有資産監督管理委員会(SASAC)及び各部の管轄下の企業による投資を指

す。地方政府は,31 省市自治区の政府及び「央企」以外のすべての企業の投資

を指す(三浦有史 , 2013, 105 ページ)。

第三に,以下の 4 点の通り,企業の退出メカニズムが欠落していることが挙

げられる。まず,地方政府は生産額,税収,雇用者数を減らしたくない。中国

では地方が管轄地域で挙がった増値税収入の一定割合を中央政府に上納するこ

とになっている。そのため,地元政府の税収は工場の新設や淘汰により影響を

受ける。そのため,地方政府は投資競争に邁進したり,中小老朽設備を淘汰す

るよう中央政府から指示が出てもそれをかいくぐって設備を温存しようとする

(津上 , 2013, 90-91 ページ)。2009 年 9 月 30 日に提出された「意見」で生産能

力が過剰になっていると判定された 8 業種のうち,鉄鋼は鉄金属冶金・圧延加

工業に,セメントと板ガラスは非金属鉱物製造業に,アモルファス・シリコン

は化学原料・化学製品製造業に,造船は交通運輸設備製造業に含まれるが,こ

れらは生産額,雇用者数,税収の業種別ランキングで上位に入っている業種で

ある(第 2-2 表参照)。生産,雇用,税収への期待から地方政府はこれらの業

種の淘汰に踏み切れないケースが多いと考えられる(三浦祐介 , 2013, 7 ページ)。

次に,国有銀行は融資をしている企業の倒産を望まず,市場からの退出を阻止

しようとする。また,労働市場の整備が不十分であるため,企業が倒産すると

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55

第 2-3 図 全社会固定資産投資主体の割合(農村を除く)

出所)『中国統計年鑑』 2015 年版より作成

多くの労働者が職を失うことになる。したがって地方政府は再就職問題の回避

のためにも業績不良の企業を維持しようとする。最後に,地方政府と企業の一

部の幹部は意思決定レベルが低く,市場調査を重視せず,市場のシグナルに対

して理性的に分析しない(王・蔡 , 2006, p.81)。

第四に,地方政府官僚の昇進競争や幹部の虚栄心によって,むやみやたらな

投資への欲望や衝動の制御が困難になっていることが挙げられる。地方政府官

僚の業績評価において GDP 成長率が一つの重要な指標となっているが,経済成

長を牽引する主な要素のうち,投資は消費や純輸出に比べて短期間に増加させ

られるため,GDP 成長率を高めたい地方政府の官僚は投資を増やそうとする

(王・蔡 , 2006, p.80)。利用者の享受する便益ではなく,目先の成長率引き上

げや関係する部局の予算獲得あるいは権益増大を目的とした投資が増えれば,

投資効率が低下する危険性がある(三浦有史 , 2013, 106 ページ)

第五に,地方政府が中央政府の政策に対して「拒否力 10」を発動することが

10 三宅( 2006)は,地方政府の中央政府に対する交渉力あるいは影響力の特徴を「拒否力」

という表現で捉えている(三宅 , 2006, 150 ページ)。

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

中央政府 地方政府

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56

挙げられる。地方政府は中央政府の委託を受けて中央政府の関連政策を執行す

るべきだが,外部からの監督制約が機能しない場合,地方政府は自地域の利益

のために中央政府の政策に反する決定を下す(王・蔡 , 2006, p.80)。地方政府

は中央政府に対する交渉力を有しており,中央の政策を唯々諾々と受け入れて

いるわけではない(三宅 , 2006, 193 ページ)。

第六に,地方政府によって策定される地域発展計画が増加していることが挙

げられる。2000 年以降の中国全土を「東部」,「西部」,「東北部」,「中部」

に区分した地域発展計画に加え,2005 年以降は第 2-3 表のとおり,さらに地域

や分野を細分化した地域発展計画が次々と中央政府の認可を受けている。 2005

年以降の地域発展計画では,各地域の「自主性」と「特性」を最大限尊重した

計画の立案を認め,他地域にはない制度の制定,新たな取り組みの実践といっ

た面で各地域に自主権を与える一方,特別な優遇政策や,取り組みを進めるう

えでの資金の重点的な投入は行われないとみられている。地方政府主導で地域

発展計画が数多く策定されるようになり,それが地域経済の過熱につながるこ

とが懸念されていた(中井 , 2010)が,2000 年代後半,重複建設問題が再燃し

た。

2.4. 重複建設が経済に与える影響

ここでは盧( 2001)などをもとに重複建設及びそれに伴う生産能力過剰が経

済に与える影響について整理する。

第一に,生産能力過剰は製品価格の下落を招き,企業の利益を圧迫する(盧 ,

2001, p.61)。

第二に,生産能力が過剰になり,設備の利用率が低下し,遊休設備が増加す

ると企業は生産活動を縮小するため,多数の失業者が生じる(盧 , 2001, p.62)。

第三に,経営不振の国有企業は融資を受けている国有銀行に対して返済がで

きないだけでなく,新たな借り入れを要求するため,国有銀行の経営状態が悪

化する(盧 , 2001, p.61)。

第四に,重複建設は短期的には経済成長をもたらすが,そのような成長は社

会資源を浪費することによって得られるものであり,投入量の拡大による粗放

型の経済成長から生産性の上昇による集約型の経済成長への転換を妨げる(関 ,

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57

第 2-2 表 生産額,従業員数,税収の業種別ランキング( 2011 年)

生産額 業種 シェア(%)

1 鉄金属冶金・圧延加工 8.8

2 通信設備・計算機とその他電子設備製造 8.8

3 交通運輸設備製造 8.7

4 化学原料・化学製品製造 8.4

5 電気機械・器材製造 7.1

雇用者数 業種 シェア(%)

1 通信設備・計算機とその他電子設備製造 10.5

2 電気機械・器材製造 7.7

3 紡織業 7.6

4 交通運輸設備製造 7.4

5 非金属鉱物製造 6.6

税収 業種 シェア(%)

1 交通運輸設備製造 9.8

2 化学原料・化学製品製造 8.7

3 非金属鉱物製造 7.3

4 電気機械・器材製造 6.5

5 通信設備・計算機とその他電子設備製造 6.5

出所)China Data Online より作成

2007)。

第五に,投資と生産が非効率になる。各地域が同様な業種に投資を行い,同

様な製品を生産することで,市場が分断化・小規模化するため,規模の経済が

働かなくなる(盧 , 2001, p.62)。

第六に,市場の需要や自地域の資源賦存を無視した投資は各地域の産業構造

を比較優位に合致しないものにするため,合理的な地域間分業関係が構築され

ない。また,重複建設は各地域の産業構造を同一化し,地域保護主義や市場分

断を深刻化させるため,生産要素の合理的な流動と配置を妨げる(王・蔡 , 2006,

p.80)。

以上から,重複建設の発生は産業立地に次のような影響を及ぼすものと考え

られる。すなわち,各地方政府が競って投資を行い,成長産業に一斉に参入す

ると,生産能力が過剰となり,分散した企業立地と地方ごとに同様な産業構造

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58

第 2-3 表 地域開発戦略一覧

地域開発戦略名

2005 年 6 月 上海浦東新区総合改革モデル地域

2006 年 5 月 天津濱海新区総合改革試験区

2007 年 6 月 重慶・成都の都市と農村の一体的発展に向けた総合改革試験区

2007 年 12 月 武漢都市圏・長株潭都市群の全国資源節約型

・環境友好型社会建設総合改革試験区

2008 年 1 月 広西北部湾経済区発展計画

2009 年 1 月 珠江デルタ地域改革発展計画綱要

2009 年 5 月 深圳市総合改革モデル地域

2009 年 5 月 福建省の海峡西岸経済区建設加速化支援に関する若干の意見

2009 年 6 月 江蘇沿海地域発展計画

2009 年 6 月 横琴総体発展計画

2009 年 6 月 関中-天水経済区発展計画

2009 年 7 月 遼寧沿海経済帯発展計画

2009 年 9 月 中部地域崛起促進計画

2009 年 11 月 中国図們江地域協力開発計画綱要

2009 年 12 月 黄河デルタ高効率生態経済区発展計画

2009 年 12 月 鄱陽湖生態経済区計画

2009 年 12 月 甘粛省循環経済総体計画

2009 年 12 月 国務院の海南国際観光島建設発展促進に関する若干の意見

2010 年 1 月 皖江都市帯産業受入移転模範区計画

出所)中井 , 2010, 16 ページ。

が生み出される。2000 年代後半の重複建設問題の再燃は産業立地の分散化をも

たらしていると予想される。

第 3 節 立地の分散と集中に関する分析

この節では,地域集中ジニ係数と CN8 を用いて,各業種の地域への集中度を

計測する。また,地域構造差係数を用いて,地域間の産業構造の違いも計測す

る。業種の分類に関しては 2 桁分類を用いて工業を約 40 の業種に分類する。ま

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59

第 2-4 図 地域集中ジニ係数

業種 i の生産額の地域分布

全業種の生産額の地域分布

出所)加藤 , 2003, 80 ページを参考に筆者作成。

た,データに関して既存研究では雇用者数か生産額が用いられているが,地域

によって,また企業によって雇用者の労働生産性には違いがあるので,雇用者

数では地域や企業の生産規模を正しく表すことができない。したがって,本章

では生産額のデータを用いて分析を行う(李 , 2010, p.87)。

3.1. 地域集中ジニ係数

各産業の地域分布の特徴を不平等度の指標であるジニ係数のアイデアを借り

て計測する。

𝐿𝑖𝑗 =

𝐸𝑖𝑗

𝐸𝑖𝑐𝑛𝐸𝑗

𝐸𝑐𝑛

上式の E i j はj地域の i 産業の生産額,E i cn は i 産業の総生産額,E j は j 地域

の総生産額,Ecn は総生産額を表す。上式の分母を横軸,分子を縦軸にとり,L i j

が大きい方から並べる。もし,すべての地域に i 産業が平均的に分散していれ

ば,地域集中ジニ係数は 0 をとり,1 つの地域に集中立地していれば,地域集

中ジニ係数は 1 をとる。地域集中ジニ係数が大きいほど立地が集中的であるこ

とを意味する(第 2-4 図)。

1

0 1

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60

第 2-4 表 分散立地している業種と集中立地している業種( 2011 年)

地域集中ジニ係数 業種数 業種名

非常に分散 < 0.20 1 化学原料・化学製品製造

分散 0.20- 0.30 10

食品製造,製紙・紙製品,印刷・記録媒体の複製,

医薬品製造,プラスチック製品,非金属鉱物製造,

金属製品,汎用設備製造,専用設備製造,電気機

械・器材製造

やや分散 0.30- 0.35 3 農産品・副産品食品加工,飲料製造,交通運輸設

備製造

やや集中 0.35- 0.40 8

紡織,紡織服装・靴・帽子製造,木材加工と木・

竹・藤・棕・草製品,家具製造,石油加工・コー

クス・核燃料加工,鉄金属冶金・圧延加工,非鉄

金属冶金・圧延加工,工芸品・その他製造

集中 0.40- 0.50 3

文化教育スポーツ用品製造,ゴム製品,計測計量

器・文化事務用機械製造,廃棄資源・廃材回収加

非常に集中 0.50< 4

タバコ製品,皮革・毛皮・羽毛とその製品製造,

化学繊維製造,通信設備・計算機とその他電子設

備製造

注) 基準は張・梁・宋( 2005) p.316 より。

出所)『中国工業経済統計年鑑』より作成。

第 2-4 表からわかるように,業種によって立地の集中度が異なる。王( 1997)

によると,それには次のような理由がある。

第一の理由としては,食品製造,飲料製造,飼料,家具製造などの業種は地

域市場向け生産を主とするため,分散的な生産に向いていることが挙げられる。

第二の理由としては,金属製品,医薬,プラスチック,ゴム,建材などの業

種は立地に志向性があり,原材料の産地や市場の近くに立地することが合理的

であるため,地域集中的な立地が望ましいことが挙げられる。

第三の理由としては,一般機械,輸送機械,電気機械などの業種は,規模の

経済が働き,需要が非常に大きいため集中的な立地が望ましいことが挙げられ

る。

第 2-5 表は地域集中ジニ係数の推移を表している。その結果は王( 1997)の

予想と合致する部分も多いが,合致していない部分もある。加藤はこの点に関

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61

第 2-5 表 地域集中ジニ係数の推移

1999 2002 2005 2008 2011

石炭採掘・選別 0.665 0.682 0.686 0.676 0.674

石油・天然ガス採掘 0.901 0.842 0.752 0.724 0.740

鉄金属採掘・選別 0.647 0.663 0.630 0.636 0.622

非鉄金属採掘・選別 0.667 0.664 0.699 0.652 0.624

非金属採掘・選別 0.330 0.341 0.420 0.391 0.413

その他採掘・選別 - - 0.870 0.790 0.805

材木・竹の伐採・輸送 0.917 0.903 - - -

農産品・副産品食品加工 0.296 0.348 0.382 0.369 0.340

食品製造 0.224 0.278 0.312 0.318 0.287

飲料製造 0.257 0.248 0.263 0.318 0.329

タバコ製造 0.615 0.585 0.619 0.515 0.507

紡織 0.339 0.366 0.396 0.393 0.385

紡織服装・靴・帽子製造 0.391 0.394 0.399 0.379 0.352

皮革・毛皮・羽毛とその製品製造 0.432 0.464 0.457 0.486 0.519

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品 0.248 0.222 0.274 0.320 0.353

家具製造 0.284 0.321 0.349 0.362 0.361

製紙・紙製品 0.221 0.239 0.280 0.260 0.250

印刷業・記録媒体の複製 0.259 0.297 0.307 0.281 0.265

文化教育スポーツ用品製造 0.485 0.460 0.455 0.475 0.482

石油加工・コークス・核燃料加工 0.373 0.424 0.406 0.397 0.372

化学原料・化学製品製造 0.168 0.145 0.187 0.185 0.191

医薬品製造 0.241 0.257 0.237 0.253 0.226

化学繊維製造 0.382 0.457 0.577 0.610 0.670

ゴム製品 0.294 0.371 0.349 0.335 0.409

プラスチック製品 0.310 0.292 0.304 0.202 0.286

非金属鉱物製造 0.184 0.190 0.230 0.249 0.244

鉄金属冶金・圧延加工 0.407 0.401 0.378 0.367 0.350

非鉄金属冶金・圧延加工 0.364 0.382 0.378 0.368 0.375

金属製品 0.252 0.257 0.254 0.247 0.241

普通設備製造 0.289 0.304 - - -

汎用設備製造 - - 0.284 0.275 0.271

専用設備製造 0.303 0.275 0.199 0.202 0.240

交通運輸設備製造 0.357 0.378 0.341 0.278 0.325

電気機械・器材製造 0.253 0.268 0.294 0.278 0.293

通信設備・計算機とその他電子設備製造 0.478 0.483 0.511 0.515 0.513

計測計量器・文化事務用機械製造 0.412 0.408 0.411 0.379 0.430

工芸品・その他製造 - - 0.397 0.404 0.385

廃棄資源・廃材回収加工 - - 0.519 0.496 0.488

電気・熱生産と供給 0.218 0.253 0.203 0.218 0.216

ガス生産と供給 0.332 0.315 0.379 0.379 0.372

水生産と供給 0.292 0.253 0.276 0.294 0.277

注) 数値が低下しているところにアンダーラインを引いた。

出所)『中国工業経済統計年鑑』各年版より計算

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62

して,産業の地域集中のメカニズムは歴史経路依存的であり,個性的であると

述べている(加藤 , 2003, 82 ページ)。例えば,医薬品製造業と交通運輸設備製

造業は地域集中ジニ係数が比較的低い値となっており,立地が分散的であるこ

とを示唆している。王( 1997)の主張する通り,交通運輸設備製造業は規模に

関して収穫逓増な業種であり,集中した立地になることが望ましいと考えられ

る。しかし,中国では高利潤が見込めることと,地方政府の官僚による昇進競

争により,各省市自治区が自地域に自動車産業の発展戦略を打ち出したため,

分散的な立地になっている(李 , 2010, p.95)。また,医薬品製造業は原料の産

地付近に集中立地するのが合理的な産業であるが,1990 年代,各地方政府が医

薬製品業集積の拠点を形成することを目指した発展戦略を提起したため,立地

の分散化が進んだ(李 , 2010, p.96)。

地域集中ジニ係数が低下した業種数は,1999 年から 2002 年にかけては 37 業

種中 14 業種,2002 年から 2005 年にかけては 35 業種中 13 業種であったが,2005

年から 2008 年にかけては 39 業種中 24 業種,2008 年から 2011 年にかけては同

じく 23 業種と,2000 年代後半以降急増している。また,資源の産出地付近に

立地することが合理的と考えられる資源採掘部門と住民の居住地に分散して立

地する公共サービス部門を除くと,地域集中ジニ係数が低下した業種数は 1999

年から 2002 年にかけては 28 業種中 9 業種,2002 年から 2005 年にかけては 27

業種中 10 業種であったが, 2005 年から 2008 年にかけては 30 業種中 18 業種,

2008 年から 2011 年にかけては同じく 17 業種とやはり 2000 年代後半以降急増

している。

3.2. CN8

第 2-6 表は工業の主要業種の地域集中を測る指標の一つである CN8 の推移を

表している。CN8 とは上位 8 省市自治区における生産額が占めるシェアのこと

で,値が大きいほど,その業種はより集中的な立地をしていることを表す。

以下に CN8 を用いた産業立地の集中と分散に関する分析結果を示す。まず,

CN8 が低下した業種数についてであるが,1999 年から 2002 年にかけては 37 業

種中 10 業種,2002 年から 2005 年にかけては 35 業種中 9 業種であったが,2005

年から 2008 年にかけては 39 業種中 29 業種,2008 年から 2011 年にかけては同

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63

第 2-6 表 上位 8 省市自治区のシェア(CN8,単位:%)

1999 2002 2005 2008 2011

石炭採掘・選別 75.11 76.35 76.44 75.47 73.54

石油・天然ガス採掘 100.00 96.68 86.96 81.34 79.79

鉄金属採掘・選別 78.20 77.77 69.67 72.10 73.18

非鉄金属採掘・選別 73.79 73.51 77.61 72.39 77.25

非金属採掘・選別 65.92 66.37 69.69 66.20 66.24

その他採掘・選別 - - 100.00 97.80 97.50

材木・竹の伐採・輸送 94.60 98.87 - - -

農産品・副産品食品加工 63.80 67.36 68.40 66.24 61.98

食品製造 66.47 64.95 64.89 62.56 58.47

飲料製造 62.27 62.49 62.44 60.00 60.88

タバコ製造 68.19 65.79 68.70 64.17 64.21

紡織 82.06 83.63 86.47 86.68 84.43

紡織服装・靴・帽子製造 88.60 90.04 89.94 88.73 80.41

皮革・毛皮・羽毛とその製品製造 88.40 91.33 89.37 88.60 85.68

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品 70.46 71.13 71.32 72.01 68.47

家具製造 73.15 78.02 83.52 82.67 76.47

製紙・紙製品 72.77 76.97 79.58 79.20 74.08

印刷・記録媒体の複製 65.54 67.64 73.21 70.53 66.73

文化教育スポーツ用品製造 95.20 95.10 95.50 93.32 89.38

石油加工・コークス・核燃料加工 65.47 65.35 61.91 61.05 58.64

化学原料・化学製品製造 63.02 67.17 69.69 69.81 67.37

医薬品製造 55.82 57.40 58.94 60.00 60.56

化学繊維製造 83.95 85.95 88.66 90.68 91.71

ゴム製品 72.48 76.32 81.04 80.88 80.84

プラスチック製品 81.58 81.82 82.49 69.72 73.47

非金属鉱物製造 65.98 65.64 70.02 69.58 63.27

鉄金属冶金・圧延加工 62.77 62.84 65.67 64.24 63.76

非鉄金属冶金・圧延加工 53.80 54.26 60.29 64.27 63.32

金属製品 80.26 82.16 83.69 81.03 74.42

普通設備製造 76.68 77.55 - - -

汎用設備製造 - - 78.81 78.75 74.29

専用設備製造 72.37 72.77 71.33 69.72 69.66

交通運輸設備製造 67.54 68.40 64.66 80.52 64.29

電気機械・器材製造 79.84 81.83 83.41 80.52 77.73

通信設備・計算機とその他電子設備製造 85.39 88.92 94.00 92.41 86.20

計測計量器・文化事務用機械製造 83.33 83.76 87.50 82.53 82.14

工芸品・その他製造 - - 87.14 85.75 78.75

廃棄資源・廃材回収加工 - - 89.44 83.34 79.64

電気・熱生産と供給 57.91 57.45 58.19 55.11 54.49

ガス生産と供給 65.25 66.94 68.17 72.04 66.03

水生産と供給 64.66 59.76 63.36 66.44 63.59

全業種 64.61 66.04 67.77 67.50 61.50

注) 数値が低下しているところにアンダーラインを引いた。

出所)『中国工業統計年鑑』各年版より計算

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64

じく 31 業種と,2000 年代後半以降急増している。また,資源採掘部門と公共

サービス部門を除くと,CN8 が低下した業種数は 1999 年から 2002 年にかけて

は 28 業種中 5 業種, 2002 年から 2005 年にかけては 27 業種中 7 業種であった

が,2005 年から 2008 年にかけては 30 業種中 23 業種,2008 年から 2011 年にか

けては同じく 25 業種とやはり 2000 年代後半以降急増している。

次に,CN8 が 80%を超える業種数は,1999 年に 37 業種中 11 業種であったの

が,2008 年に 39 業種中 16 業種まで増加した後,2011 年には同じく 9 業種まで

減少している。資源採掘部門と公共サービス部門を除くと, 1999 年に 28 業種

中 9 業種であったのが,2008 年に 30 業種中 14 業種まで増加した後,2011 年に

は同じく 8 業種とやはり 2000 年代後半に減少している。

上記の通り,2000 年代後半に CN8 が低下している業種が増加し,また,集

中度の高い業種が減少していることから,産業立地の分散が進んでいると考え

られる。

3.3. 生産能力過剰業種の立地

次に,2009 年 9 月 30 日に提出された「意見」で重複建設の再燃により生産

能力が過剰になっていると判定された 8 業種 11の立地に着目する(第 2-7 表参

照)。まず,石炭化学を含む石油加工・コークス・核燃料加工,造船を含む交

通運輸設備製造は 1999 年から 2011 年にかけて地域集中ジニ係数と CN8 がとも

に低下しており,2000 年代後半以降も低下傾向にある。次に,セメントと板ガ

ラスを含む非金属鉱物製造と鉄鋼を含む鉄金属冶金・圧延加工は 2000 年代後半

以降両指標ともに低下している。また,風力発電設備を含む電気機械・器材製

造は CN8 が第 2-7 表におけるすべての期間で低下している一方で,地域集中ジ

ニ係数の上昇が見られるが,数値は低い(2011 年の数値は 0.293 で 39 業種中

27 位)。そして,アモルファス・シリコンを含む化学原料・化学製品製造は両

指標がともに低下している期間はないが,両指標ともに数値が低い( 2011 年の

地域集中ジニ係数は 0.191 で 39 業種中 39 位,CN8 は 67.37 で 39 業種中 24 位)。

11 生産能力が過剰になっていると判定された鉄鋼,セメント,板ガラス,石炭化学,アモ

ルファス・シリコン,風力発電設備,電解アルミ,造船の 8 業種は産業の 2 桁分類によ

ると第 2-7 表における 7 業種に分類される。

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第 2-7 表 地域集中ジニ係数と CN8 の変動

1999-2011 2005-2011 2008-2011

石油加工・コークス・核燃料加工 ↓↓ ↓↓ ↓↓

化学原料・化学製品製造 ↑↑ ↓↑ ↓↑

非金属鉱物製造 ↓↑ ↓↑ ↓↓

鉄金属冶金・圧延加工 ↑↓ ↓↓ ↓↓

非鉄金属冶金・圧延加工 ↑↑ ↑↓ ↓↑

交通運輸設備製造 ↓↓ ↓↓ ↓↑

電気機械・器材製造 ↓↑ ↓↓ ↓↑

注) 左の矢印は CN8 の変動,右の矢印は地域集中ジニ係数の変動を

表す。両指標とも低下した期間にアンダーラインを引いた。

出所)筆者作成

残る電解アルミを含む非鉄金属冶金・圧延加工に関しては,両指標がともに低

下している期間がなく,また地域集中ジニ係数はそれほど小さいわけではない

(2011 年は 0.375 で 39 業種中 17 位)が,CN8 は相対的に数値が低い( 2011 年

は 63.32 で 39 業種中 33 位)。よって以上の生産能力が過剰になっていると判

定された 8 業種は特に 2000 年代後半において産業立地が分散化しているか分散

的であり,重複建設及びそれに伴う生産能力過剰との関連が考えられる。

第 4 節 産業立地の分散化の区別

ここまでの分析で 2000 年代後半以降,産業立地の分散化が生じていることが

明らかになった。産業立地の分散化は第 1 章第 1 節で簡単に触れたように,近

年のみではなく,計画経済期や改革開放初期にも生じた現象である。しかし,

それをもたらした背景は異なる。ここでは,各時期における産業立地の分散化

の特徴について整理する(第 2-8 表)。

4.1. 計画経済期の分散化

計画経済期は計画配分システムを通じて中央政府が産業立地に介入した。中

国では旧ソ連と比較して「緩い」計画が実施され,すべてが計画に組み込まれ

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第 2-8 表 産業立地の分散化の区別

資本 地域保護

計画経済期 不足 なし

改革開放初期 不足 あり

2000 年代後半 過剰 あり

出所)筆者作成。

ていたわけではなかった。また,農村部には市場が形を変えながら存続してい

た。しかし,この時期において,産業立地に最も大きな影響を与えたのは中央

政府の計画による資源配分であった。沿海地域に偏った工業立地を是正する必

要があったことや主要な鉱物資源が内陸地域に分布していたことから工業施設

の分散立地が進められた(加藤 ,・久保 , 2009, 120 ページ)。

また,国際的には,アメリカを主とする資本主義世界とは対立関係となり,

また,1950 年代後半からは旧ソ連との関係も悪化するなど,中国は国際的に孤

立し,自給自足,自力更生の道を歩むことになった。内陸地域への工業資産の

分散立地は戦争に備えるためでもあった(王 , 2001, 48-49 ページ)。

さらに,当時の中国は経済資源の不足により,高度集中の計画経済体制だけ

では全国規模の経済発展を支えられず,地方の資源を活用するために地方分権

が実施された。地方政府は重工業に投資して,地域内の重工業の自立を図った。

地方政府は地域内の最終製品を増産するために,すでに他地域の企業の分業関

係を形成している域内部品メーカーを最終製品の生産に転換させ,地域間の分

業関係は縮小した。こうして,産業立地の分散化が進み,地域間の産業構造の

同質性が強まった(王 , 2001, 48 ページ)。

この時期の財政制度は,中央・地方財政双方の支出・収入を中央政府が統一

的に管理する「統收統支」方式が採用されていた。しかし,「統收統支」は厳

密には 1950 年代初頭と文革期の 1968 年にしか実施されず,実際の財政制度の

運用は,「統一指導・分級管理」という,各級の地方政府が排他的に財政収入

を徴収し,その一部を上級政府に上納するという方式で行われていた。したが

って,地方政府には中央政府とのバーゲニングを通じて財政収入の地方留保分

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をある程度は増やす余地もあった。しかし,地方政府にとっての財政収入は自

由に使うことのできない,制約の多いものであり,実質的には,地方政府は財

政資金を集めるだけで,それを使うのは中央政府であるという構図ができてい

た(梶谷 , 2011, 31 ページ)。この時期の地方分権は,中央政府は地方政府に委

ねた権限をいつでも回収できる程度のものであった(加藤 , 2003, 96 ページ)。

地方政府は基本的に中央政府の政策の執行機関であり,独自な利害や権限がな

く,地域保護を実施するインセンティブがなかった(王 , 2013, 55 ページ ; 日置 ,

2003, 124 ページ)。

4.2. 改革開放初期の分散化

改革開放初期は農村経済の活性化,特に郷鎮企業の発展により,経済の市場

化は進展した。地方財政請負制度が導入され,地方政府は一定の割合の税収を

留保することができるようになったため,地方政府に経済発展のためのインセ

ンティブが生まれた。その反面,収益を見込める業種を中心に,地元の企業を

保護する動機が高まり,立地の分散化が進んだ。

この時期は,経済発展の水準が低く,資本不足が深刻であった。地方政府は

資本不足を解消するために,域内資本の域外への流出を厳しく制限した。資本

の流出は地方政府の財政収入の減少と雇用問題の深刻化を意味するため,ほと

んどの地域では銀行に対するコントロールが強化され,資本の流出が禁止され

た。地域間の資本移動はほぼ不可能であった(王 , 2001, 33 ページ)

また,当時の中国は供給不足の状態にあった。供給を増やそうと各地域が一

斉に投資を行ったとしても,資金も不足していたため,すぐには需要を満たす

ことはできず,生産能力過剰が生じることはなかった(津上 , 2013, 96 ページ)。

4.3. 2000 年代後半以降の分散化

2000 年代後半以降の産業立地の分散化は,資本が過剰である中で生じた。中

国は 1990 年代半ば以降,急速な経済成長と旺盛な国内投資を背景に,資本不足

経済から資本過剰経済へと転換していった(梶谷 , 2012, 31 ページ)。政府や企

業による積極的な固定資本投資によってその収益性が低下し,現在の投資を減

らして消費を増やした方が全体の経済厚生を改善できるにも関わらず,消費が

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抑制され,さらなる資本投資が継続して行われる状態を指す(梶谷 , 2012, 32 ペ

ージ)。第 2-1 図から,2000 年代後半以降,中国で投資が急増していることが

見て取れる。また,第 2-2 図からは,同じ時期に限界資本係数が上昇しており,

投資効率が悪化していることがわかる。そしてその投資の主体は第 2-3 図から

わかる通り,地方政府である。各地域が同一部門に投資を行ったことで産業立

地が分散化し,また,地方政府が戦略業種への企業の参入を支援し,業績の悪

い地元企業を保護しようとした結果,生産能力過剰が生じたと考えられる。改

革開放初期において,地域保護主義は資本不足のなかで仕方なくとられた手段

であったが,資本過剰の状況にある現在においても地方政府官僚の昇進競争を

背景に保護が行われていると考えられる点で異なる。

おわりに

本章では 2000 年代の中国において産業立地が分散化したのか,集中化したの

かについて検討した。その結果,以下のようなことが明らかとなった。

2000 年代後半以降,各業種の地域への集中度を表す 2 つの指標がともに低下

している業種が多く,産業立地が分散化していることが考えられる。また,「意

見」で重複建設の再燃により生産能力が過剰になっていると判定された 8 業種

に関して上記指標は低下している,あるいは低い値をとっており,このことは

8 業種の立地が分散化している,あるいは分散的であることを示唆している。

以上のように,2000 年代後半以降,産業立地が分散化したことが明らかとな

ったが,計画経済期と改革開放初期( 1978-1980 年代半ば)にも産業立地は分

散化していた。産業立地の「分散→集中→分散」という変動は,地域統合と産

業立地の関係に関するモデルの想定と一致する。すなわち,このモデルに基づ

いて考えれば,2000 年代後半以降,地域統合の進展とともに,先進地域に集中

立地して集積のメリットを得ていた企業が地代や人件費の高騰や交通渋滞など

の問題を避けるために他地域へ移転する局面が現れたということになる。しか

し,第 1 章の分析で明らかになった,2000 年代後半において工業の主要な生産

拠点の移動や東部地域の比較優位の喪失が限定的であること,それにも関わら

ず,地域間で産業構造が同質化していること,そして,企業数と生産額が多く

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の業種と地域で増加していることは,各地域が同一業種に投資を行い,その結

果生産能力過剰が生じるという重複建設が再燃したことと矛盾しない。したが

って,2000 年代後半以降における産業立地の分散化は地域保護主義の残存とそ

れによってもたらされる重複建設による影響が大きいと考えられよう。

また,地域保護主義の影響を受けた産業立地の分散化という点では改革開放

初期と同様である。しかし,改革開放初期には,資本不足を補うために地方政

府が保護を行ったが,2000 年代後半には,資本過剰の状態でも地方政府官僚の

昇進競争を背景に保護が行われていると考えられる点で異なる。

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第 3 章 中国における産業立地の決定要因

-所有との関係を中心に-

はじめに

計画経済期における中国の産業立地は各地域の比較優位構造を反映したものとは言い難

い。市場の存在が公式に否定され,計画による資源配分が市場を代替するものと考えられ

たが,大躍進運動や文化大革命による混乱などが原因で計画がうまく機能せず,地方政府

や企業は必要な物資を自分で生産し,自分で調達する自給自足経済を追求せざるを得なか

った。そのため,計画経済期には産業立地の分散化1が進んだ(加藤・久保, 2009, 121-122

ページ)。

改革開放以降も 1980 年代は地域保護主義が出現し,地域間で競い合うように工業化が進

められたため,産業立地の分散化が継続した。

1980 年代後半以降,珠江デルタや長江デルタなどにおける産業集積の形成や対外開放の

進展による外資企業の沿海地域への立地により,産業立地の集中化が進んだ(加藤, 2003, 74

ページ)。

2000 年代に入ると国内外の旺盛な需要を背景に投資が急増し,製造業における生産能力

が急拡大した。すると,一部の業種では生産能力過剰が発生し,その緩和を求める政策が

提起されるようになった。2009 年 9 月には各地域が競って同一製品に投資し,その結果,

生産能力の過剰が生じるという重複建設が一部の業種で再燃したことが政府により公表さ

れた。重複建設は産業立地の集中化を分散化へと逆転させるように働くと考え,第 2 章で

は地域集中ジニ係数2と CN8(上位 8 省市自治区における生産額が占めるシェア)を用いて

検証したところ,多くの業種で立地が分散化していることが明らかとなった。

本章では 2000 年代の中国における製造業の立地の分散に影響を及ぼす要因について,特

に所有に関して検討する。第 1 節では,産業立地の決定要因に関する先行研究を整理する。

第 2 節では,さまざまな産業立地の決定要因の中から,所有を分析対象に選び,産業立地

1 本章では,「立地が分散的(集中的)である」とは,ある時点において立地が分散(集中)した状態に

あることとし,「立地が分散化(集中化)する」とは,ある時点と比較して立地がより分散的(集中的)

になることとする。

2 地域集中ジニ係数については第 2 節で紹介する。

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との関係を分析する。第 3 節では,国有企業と民営企業が並存する混合市場において生産

能力過剰が発生することを説明する。第 4 節では,生産能力過剰の問題とそれを表す指標

である生産能力利用率の推移について言及したうえで,混合市場において生産能力過剰が

生じているか確認する。第 5 節では,産業立地の分散や生産能力過剰に影響を及ぼす地方

政府の役割について言及する。

第 1 節 産業立地の集中と分散

1.1. 中国における産業立地の決定要因に関する先行研究

中国における産業立地の集中あるいは分散をもたらす要因にはさまざまなものが考えら

れる。

第一は,比較優位理論に基づく要因で,次の点が争点となっている。さまざまな産業は

生産に使用する要素(天然資源,人的資本など)が豊富に存在する地域に立地する。

第二は,新経済地理学に基づく要因で,以下の点が争点となっている。規模に関して収

穫逓増な業種は市場規模の大きい地域やインフラの整った地域で生産を行う。また,中間

財を多く用いる業種はその輸送費用を節約するために工業設備の整った地域で生産を行う。

それから,生産財を生産する業種及び最終財を生産する業種はそれらの輸送費用を節約す

るために,それぞれ工業設備の整った地域や市場規模の大きい地域で生産を行う。

第三は,対外開放度の違いで,以下の点が争点となっている。生産品の多くを国外へ輸

出する業種は沿海地域へ立地する傾向がある。また,外資企業は沿海地域へ立地するもの

が多い。

以上の 3 つの要因に関して,次のような分析が行われている。Wen(2004)によると,

1995 年において,中国の製造業の多くはいくつかの沿海地域の省に地理的に集中して立地

している。また,改革開放後多くの製造業の立地は地域的な集中度を高めている。取引コ

ストの低下や規模の経済によって製造業の立地は集中化している。また,金・陳・陸(2006)

は 1987 年から 2001 年の省レベルのデータを用いて,中国における工業の集中的な立地を

もたらす要因について分析した。その結果,第一に,対外開放政策は特に沿海地域への集

中的な立地を促進すること,第二に,市場規模の拡大,都市化の進展,交通・通信インフ

ラ施設の改善,政府の退出も集中的な立地をもたらす要因であること,第三に,沿海地域

には工業集積にとっての地理的な優位性があることが明らかとなった。

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第四の要因として,地域保護主義が挙げられる。地方政府は,長期的に発展させる意義

のある,容易にコントロールできる,多額の財政収入と多くの就業者数が見込める,利潤・

税収率の高い業種はそれらが隣接する地域で発展していたとしても自地域で育成・保護す

る傾向にある(白・杜・陶・仝, 2004; 李, 2010)。上記地方政府が「容易にコントロールで

きる」のは国有部門比率の高い業種を指していると考えられる3。黄・李(2006)などによ

ると,各地方政府は国有企業を保護するインセンティブを持っているため,国有部門比率

の高い業種は立地が分散的になる(黄・李, 2006; 李・範, 2008; Lu and Tao, 2009 など)。ま

た,行・李(2012)によると,国有部門比率の高い地域(省市自治区)は地方政府が現地

企業を保護するために,他地域からの製品の流入を抑制する(行・李, 2012, p.64)。

それでは,地域保護主義が産業立地に及ぼす影響力は他の要因と比較してどうであろう

か。Batisse and Poncet(2004)によると,1992 年と 1997 年において,中国の産業立地は地

方政府による地域間交易を妨げる政策の影響を受けているが,それらが産業立地に及ぼす

影響力,すなわち地方保護主義が産業立地に及ぼす影響力は他の要因(労働力及び資本の

豊富さ,市場の潜在力,中間投入財の利用可能度)に比べて小さいという。また,Lu and Tao

(2009)は 1998 年から 2005 年にかけて,マーシャル的外部性(知識のスピルオーバー,

労働市場の厚み,投入物の共有化)が製造業の立地の集中化に対してますます重要な要因

となってきている一方で,地域保護主義は製造業の立地の集中化を妨げているが,その影

響力は次第に弱まってきていると分析している。

また,先行研究では,競争力の弱い国有企業を地方政府が保護するので,その結果とし

て国有部門の占めるシェアが高い業種は立地が分散的であるという論理展開がなされてい

る。地方政府の保護の対象は国有企業と考えられており,国有企業の従業員数や生産額が

全体に占めるシェア(Lu and Tao, 2009; 白・杜・陶・仝, 2004; 李・範, 2008)や国有資本

が総資本に占めるシェア(李, 2010; 李・範, 2008)が地域保護主義を説明する指標となっ

ている。

1.2. 本章における分析対象

前項で取り上げた先行研究における第四の要因には以下のような問題がある。

第一に,前項で記したように,地域保護主義は産業立地に影響を及ぼす要因として考え

3 地方政府官僚は国有企業の主要幹部を任免する権限を持っており,また,友人や親戚に就業や昇進のチ

ャンスを与えることができるなど,地方政府と国有企業の関係は密接である(白・杜・陶・仝, 2004, p.33)。

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られてきたが,その影響力は他の要因に比べて小さく,また,次第に弱まってきていると

捉えられている。しかし,地域保護主義の手段については,1990 年代に法制度の整備が進

んだため,地方政府が「超法規的」手段4をとることは難しくなったが,だからといって地

域保護主義は完全に払拭されてはいない5(加藤・久保, 2009, 125 ページ)。また,国務院

によって 2000 年代以降における重複建設の再燃と生産能力過剰の深刻化が発表されてい

ることからも,近年においても地域保護主義は産業立地に少なからぬ影響を及ぼしている

と考えられる。

第二に,1990 年代以降,地方政府間の経済成長をめぐる競争の激化に伴い,地方政府は

生産,税収,雇用者数の増加を期待して,国有企業だけではなく,民営企業の投資も強力

にバックアップするケースも増えている(範・李・応, 2015, p.21; 津上, 2013, 90-91ページ)。

国有部門比率が高い業種ほど立地が分散的であるという見解は一面的であろう。

そこで,本章では地域保護主義,特に,所有と産業立地の関係を分析する。産業立地の

集中あるいは分散に関する分析は地域区分の精粗によって大きな影響を受ける。例えば,

ある業種がある省に集中的な立地をしている場合,省内のある 1 つの市に集中して立地し

ている可能性と複数の市に分散して立地している可能性がある。日置(2010)や藤井(2015)

は郷鎮レベルあるいは県レベルで産業立地を分析している。しかし,そのようなデータは,

毎年公表されておらず,また,2008 年のデータが最新のものとなっている6。本章では 2000

年代以降の過剰投資の深刻化や重複建設の再燃が産業立地に与えた影響について検討を行

うことを理由に,China Data Online,『中国工業経済統計年鑑』及び『中国統計年鑑』のデ

ータを用いて,省レベルで分析を行う。また,業種の分類に関しては小林(2015)と同様

に製造業を約 30 の業種に分類する 2 桁分類を用いる。

4 「市場管理」・「品質監督」の名目で,人為的に検査基準を強化して,域外製品の流入を制限する方法,

地元のマスコミを動員して,域外製品を「偽ブランド」であると中傷宣伝する方法,行政区域の境に関

所を設けて域外製品の流入を制限する方法などがある(王, 2001, 31 ページ)。

5 地域保護主義は形を変え,目立たない形で残存していると考えられる。例えば,中国有数の自動車製造

業企業の第一汽車を擁する吉林省では,地方政府の幹部職員専用車は原則として第一汽車が製造した自

動車を配備しなければならないと規定されている(加藤・久保, 2009, 128 ページ)。

6 日置(2010)は第 1 回全国経済センサス(2004 年)及び第 1 回江蘇省経済センサス(2004 年)のデー

タを,藤井(2015)は第 3 回工業センサス(1995 年),第 1 回全国経済センサス(2004 年),第 2 回全

国経済センサス(2008 年)のデータを用いている。

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第 2 節 所有と産業立地の関係

この節では所有と産業立地の関係について分析するが,その前に,民営企業の市場への

参入が急増しているなかで,国有企業も残存し続けている要因について確認する。

2.1. 民営企業の参入増加

改革開放以来,中国の発展は,国有企業に独占されていた分野へ民営企業が参入し,競

争が促進されたことによるところが大きい。民営企業は 1990 年代まで多くの産業から排除

されていたが,生産や営業の許可をとったり,中国共産党との良好な関係を構築したりす

ることで,社会のなかでの地位を築いてきた。2000 年には「3 つの代表」という方針が打

ち出され,民営企業の経営者にも入党への門戸が開かれた。さらに,中国政府は 2005 年と

2010 年に民営企業の参入を奨励するという内容の通達を行った。「民営企業が資本参加で

きる分野」は「国有企業による絶対的コントロールを保持すべき分野」とほぼ同じである。

また,「民営企業が(単独出資で)参入できる分野」に関しても国有企業が担っている分野

がほとんどである。民営企業の参入を促進すると言っても,これまで民営企業が参入をた

めらっていた状況を改善するといった程度のことで,これらの分野を民営企業に委ねて国

家は退出するという意味ではないが(丸川, 2013, 275-277 ページ),実際には,参入費用が

巨額になり,規模の経済性が働くため,自然独占が発生すると考えられる鉄鋼業において

も,高利潤を目当てに民営企業の参入が増加しているなど(中屋, 2008, 88-89 ページ),民

営企業の参入は活発である。

2.2. 国有企業の存続

第 3-1 表には生産額ベースで見た製造業の各業種の国有部門比率の推移が示されている。

国有部門比率は国有部門の生産額が総生産額に占めるシェアとする。国有部門は第 3-1 図

の国有経済部分,すなわち,狭義の国有企業,国有連営企業,国有独資企業,国有支配企

業の 4 類型からなる7。タバコ製造と工芸品・その他製造を除いて国有部門比率が低下し,

7 狭義の国有企業は全資産が国家所有に帰する企業で,かつ「中華人民共和国企業法人登記管理条例」の

規定に基づき登記された「非公司法」(会社法の適用を受けない)の経済組織を,国有独資企業は国が

100%の株式を保有する企業を,国有連営企業は国とその他所有主体が株式を持ち合う企業を,国有支

配企業は,混合所有形態の企業のうち,企業の全資産に占める国有資産(株式)の割合が,そのほかの

いかなる所有者の占める割合より多い企業を指す(加藤・渡邉・大橋, 2013, 52 ページ)。

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第 3-1 表 国有部門比率(生産額)と地域集中ジニ係数の推移

国有部門比率 地域集中ジニ係数

1999 2005 2011 1999 2005 2011

農産品・副産品食品加工 42.00 10.27 5.43 0.296 0.382 0.340

食品製造 32.11 12.61 5.81 0.224 0.312 0.287

飲料製造 55.70 27.31 16.47 0.257 0.263 0.329

タバコ製品 97.86 99.02 99.35 0.615 0.619 0.507

紡織 34.17 7.29 2.36 0.339 0.396 0.385

紡織服装・靴・帽子製造 6.98 2.21 1.36 0.391 0.399 0.352

皮革・毛皮・羽毛とその製品製造 5.67 0.70 0.30 0.432 0.457 0.519

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品 17.60 9.44 2.30 0.248 0.274 0.353

家具製造 8.31 3.76 1.75 0.284 0.349 0.361

製紙・紙製品 29.80 12.59 6.94 0.221 0.280 0.250

印刷と記録媒体の複製 41.43 19.97 11.51 0.259 0.307 0.265

文化教育スポーツ用品製造 7.68 2.07 1.16 0.485 0.455 0.482

石油加工・コークス・核燃料加工 88.63 79.65 68.59 0.373 0.406 0.372

化学原料・化学製品製造 52.90 30.70 18.66 0.168 0.187 0.191

医薬品製造 54.78 23.94 11.83 0.241 0.237 0.226

化学繊維製造 55.07 22.28 8.17 0.382 0.577 0.670

ゴム製品 36.50 18.33 12.14 0.294 0.349 0.409

プラスチック製品 13.01 5.40 2.65 0.310 0.304 0.286

非金属鉱物製造 34.10 13.02 10.64 0.184 0.230 0.244

鉄金属冶金・圧延加工 74.06 47.33 36.92 0.407 0.378 0.350

非鉄金属冶金・圧延加工 51.85 34.45 28.83 0.364 0.378 0.375

金属製品 14.21 7.42 5.77 0.252 0.254 0.241

普通設備製造 42.71 - - 0.289 - -

汎用設備製造 - 23.39 12.53 - 0.284 0.271

専用設備製造 46.22 29.48 20.48 0.303 0.199 0.240

交通運輸設備製造 67.92 51.83 43.98 0.357 0.341 0.325

電気機械・器材製造 22.82 11.13 8.92 0.253 0.294 0.293

通信設備・計算機とその他電子設備製造 43.10 13.22 8.34 0.478 0.511 0.513

計測計量器・文化事務用機械製造 25.72 10.26 10.33 0.412 0.411 0.430

工芸品・その他製造 - 6.24 8.89 - 0.397 0.385

注) 国有部門比率の単位は%

出所)China Data Online,『中国統計年鑑』各年版より作成

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77

第 3-1 図 企業類型

法人

企業法人 その他法人

国内企業

外資企業

公有企業 非国有企業(民営企業)

国有企業及び国有支配企業

集団企業

広義の国有企業 国有支配企業

狭義の国有企業

国有連営企業

国有独資企業

国有経済 民有経済

出所)加藤・渡邉・大橋, 2013, 53 ページ。

民営化が進んでいることがわかる。しかし,2011 年に至ってもタバコ製品はほぼ国有企業

が独占しているし,石油加工・コークス・核燃料加工,鉄金属冶金・圧延加工,非鉄金属

冶金・圧延加工,専用設備製造,交通運輸設備製造は比較的高いシェアを保っている。こ

こでは民営企業の参入が増加し,また,民営化が進展する中で,国有企業が存在し続けて

いる要因について整理する。

第一に,民営企業の経営基盤が弱いことである。改革開放後,農村部で郷鎮企業などの

集団所有制企業や民営企業が急成長したが,発展の初期段階では規模が小さく,資金面で

も人材面でも国有企業に遥かに及ばない程度のものであった。そのため,民営企業が成長

してくるまでの間,それに代わる市場経済の担い手としての役割を政府部門や国有企業に

求めざるを得なかった(加藤, 2013, 116-117 ページ)。

第二に,1990 年代半ばから進められた国有企業改革の結果,今日の多くの国有企業はす

でに赤字を垂れ流す存在ではなくなっており,国家に莫大な額の税を上納する優良企業と

なっているため,なにがなんでも民営化を推進しなければならないという切迫感が政府に

はない可能性があるということである(加藤, 2013, 116-117 ページ)。

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78

第三に,ほとんどの国有企業は省,市,県などの地方政府が管理する事実上の「地方所

有」企業であるため,実際にも激しい競争を繰り広げてきた。国有企業のままで競争に勝

ち残れるのであれば,あえて国有企業に事業をやめさせたり,民営化するには及ばない,

というのが中国政府の方針のようである。そのため,国有企業と非国有企業が同じ業種の

中で競争する状況が見られる(丸川, 2013, 267-268 ページ)。

第四に,法の論理の貫徹,執行が不全に陥っている。2008 年に市場での公平な競争を作

るためのルールとして独占禁止法が施行された。しかし,現在においても寡占状態が続い

ている業種が存在している。例えば,石油製品流通分野においては,1999 年に「小型製油

工場の整理整頓と原油および石油製品の流通秩序に関する意見(38 号文件)」が制定され,

2001 年には「さらに石油製品の市場秩序の整理と規範化することについての意見(72 号文

件)」が発布されている。この二つの通達は独占禁止法の規定と矛盾しているにもかかわら

ず,現在に至っても有効とされている(渡邉, 2014, 333 ページ)。

第五に,国有企業は資金調達において優遇されている。株式市場,銀行融資のどちらも

国有企業が主な資金の受け手となっており,民営企業はフォーマルな金融システムへのア

クセスが制限されている。大型国有銀行から農村の農村信用合作社に至るまで,銀行シス

テムは基本的に公有部門が支配している。公有制下の銀行は民営企業よりも国有企業への

融資を好む。これは国有企業が法律や政策によって優遇を受けており,いざという時のセ

ーフティネットを持っている以上,国有企業への融資を優先する方が合理的だと判断され

ているためである(渡邉, 2014, 331 ページ)。

2.3. 所有と産業立地の関係

ここでは所有と産業立地の関係を分析する。第 3-2 図は 1999 年,2005 年,2011 年におけ

る製造業の各業種の国有部門比率と立地の集中度との関係を表している。産業立地の集中

度は地域集中ジニ係数で表す。

地域集中ジニ係数は下記の式で表される。

𝐿𝑖𝑗 =

𝐸𝑖𝑗

𝐸𝑖𝑐𝑛𝐸𝑗

𝐸𝑐𝑛

上式の Eij はj地域の i 産業の生産額,Eicn は i 産業の総生産額,Ej は j 地域の総生産額,

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79

0.000

0.100

0.200

0.300

0.400

0.500

0.600

0.700

0.00 20.00 40.00 60.00 80.00 100.00

地域集中ジニ係数

国有部門比率%

0.000

0.100

0.200

0.300

0.400

0.500

0.600

0.700

0.00 20.00 40.00 60.00 80.00 100.00

地域集中ジニ係数

国有部門比率%

0.000

0.100

0.200

0.300

0.400

0.500

0.600

0.700

0.00 20.00 40.00 60.00 80.00 100.00

地域集中ジニ係数

国有部門比率%

第 3-2 図 国有部門比率と地域集中ジニ係数の関係

a) 1999 年

b) 2005 年

c) 2011 年

出所)China Data Online, 『中国統計年鑑』各年版より作成。

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80

Ecn は総生産額を表す。上式の分母を横軸,分子を縦軸にとり,Lij が大きい方から並べる。

もし,すべての地域に i 産業が平均的に分散していれば,地域集中ジニ係数は 0 をとり,1

つの地域に集中立地していれば,地域集中ジニ係数は 1 をとる。地域集中ジニ係数が大き

いほど立地が集中的であることを意味する。

所有制と産業立地の関係についての先行研究では,国有部門比率が高い業種ほど立地が

分散的であるという結果が得られている(第 1 節)。つまり,先行研究における分析が正し

ければ,横軸が国有部門比率,縦軸が産業立地の集中度を表す指標である座標平面では,

両者の関係は右下がりの直線で表されるはずである。

しかし,第 3-2 図からは,いずれの年度においても,両者に右下がりの直線のような関係

は見出せない。第一に,国有部門比率が最も低い業種は 3 つの年度ともに皮革・毛皮・羽

毛とその製品製造であり,地域集中ジニ係数が高い。第二に,地域集中ジニ係数が最も低

いのは国有部門と民営部門が並存している業種である。第三に,国有部門比率上位 5-10

業種に限って見た場合は,国有部門比率が高いほど,地域集中ジニ係数が高くなっている。

国有部門比率が高い業種は必ずしも分散的な立地となっているわけではなく,国有部門比

率の上位 5 業種のうち,1999 年の飲料製造と 2005 年及び 2011 年の交通運輸設備製造以外

は地域集中ジニ係数が 0.35 を上回っており,比較的集中した立地となっている(第 3-1 表)。

第 3 節 混合市場の形成と生産能力過剰

前節では製造業における多くの業種で民営企業の参入が増加し,国有部門比率が低下し

ている一方で,比較的高い比率を維持している業種も存在していることを確認した。この

節では,国有企業と民営企業が市場において並存している状況について分析する。

3.1. 3 つの市場

大型国有企業への戦略的重視(1990 年代半ば以降)と中小民営企業の振興(1990 年代末

の農村部で急成長した郷鎮企業の民営化)を同時並行して進める政策の結果,中国には以

下の 3 つのタイプの市場が並存することになった。第一は,政府の規制により民営企業の

参入が認められず,国有企業が独占,寡占市場を形成している市場である。第二は,民営

企業同士が競争する市場である。第三は,混合市場と呼ばれる,国有企業と民営企業が並

存している競争市場である(渡邉, 2014, 338 ページ)。

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81

3.2. 企業の淘汰のメカニズムを歪ませる混合市場

競争的な市場であっても国有企業が淘汰されずに保持されていると,生産能力過剰が発

生すると考えられる。周(2006)は前項における 3 つの市場のうち,どこで生産能力過剰

が発生しているかについて,次のような指摘をしている。第一の国有企業による独占・寡

占市場では,生産能力過剰よりも,独占の弊害(コスト・価格の高止まり,供給不足)の

方が顕著だと言うべきであり,「国有企業が存在するから過剰な投資が生じる」という単純

な図式では整理できない。計画経済の時代には,価格が政府の統制によって低く抑えられ

たために,ほとんどの財に対する需要が供給を上回り,消費財を含めて,資源配分は配給

制や行列といった非市場的手段に頼らざるを得なかった。市場経済が定着しつつある今も,

参入障壁が高く,独占体制が維持される業種では,国有企業は生産を控えることによって

高い価格を維持しようとする上,投資を通じてシェアを拡大するという誘因が働かないた

め,生産能力の過剰が発生しない。

第二の民営企業同士が競争する市場では,需要の見通しの誤りにより,過大投資がなさ

れ,過剰な生産能力が一時的に生じることもあるが,恒常化することはない。なぜならば,

供給が需要を上回るようになると,製品価格が低下し,これにより,効率の悪い企業が倒

産するという形で退場するからである。

第三の国有・民営企業が並存する市場では,国有企業は投資に失敗しても市場に残り,

国有銀行からの融資を含む政府による支援8を受けながら投資を拡大して巻き返そうとする

ため,市場からの退出が進まない。一方で,こうした国有企業の存在は利益機会が存在し

ているという誤ったシグナルを発してしまうため,民営企業が高い利潤を狙って,新しい

設備に投資し,シェアの拡大を目指そうとする。こうした中で,市場競争が激しくなり,

効率の低い国有企業は売り上げが落ち込み,これまで抱えていた古い設備が過剰になって

しまう。したがって,過剰な生産能力が生じる。

上記のように,周(2006)は,混合市場では政府の保護を受け市場からなかなか淘汰さ

れない国有企業と保護を受けられない民営企業という異質な主体が存在していることで市

場からの淘汰のメカニズムが歪み,両者が激しい競争を繰り広げたことで生産能力過剰が

生じたと考えている(渡邉, 2014, 339 ページ)。

8 国有企業は政府との密接な関係を通じて,金融や土地などの資源に対する独占的な占有権をもつ。また,

免税や補助金などの優遇政策を受ける機会も多い(加藤, 2013, 114 ページ)。

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82

3.3. 企業間の競争戦略の違い

また,混合市場における国有企業と民営企業の競争戦略の違いも生産能力過剰をもたら

していると考えられる。

渡邉(2014)によると,国有企業は豊富な資金を背景に技術や企業を買収することでイ

ノベーションの目標を達成しようとするのに対し,資金が限られている民営企業は独自の

競争力を持つアイディア商品や商品をもって市場競争に臨まざるをえないため,ニッチな

領域に参入しようとする(渡邉, 2014, 339 ページ)。また,民営企業は資金や技術の面での

制約により,低級品市場への参入が多い。したがって,参入障壁の低い低級品市場におい

て生産能力過剰が発生しやすいと考えられる。

例えば,鉄鋼業では,2000 年頃より国有企業が総生産額において圧倒的なシェアを占め

る構造に変化が現れ始めた。この時期,不動産や自動車,インフラなどに代表される産業

の鉄鋼製品に対する需要が増加したことに伴い,鉄鋼業における生産・投資は大きく拡大

した。そこで,民営企業は国有企業を上回るスピードで投資を拡張し,シェアを上昇させ

た。冷延薄板や厚板などの相対的に高い技術を要求される品目は国有企業が手がけ,建材

用鋼材などの低付加価値品は民営企業を中心とする中小企業が手がけている。そして,そ

の中間に位置するセグメントでは国有企業と民営企業が激しく競争している。このように,

鉄鋼業では国有企業と民営企業の間で競争と棲み分けが共存している(今井, 2008, 91-92 ペ

ージ; 今井, 2009, 3 ページ)。

工作機械産業においては,国内企業の技術水準の低さにより,高価格機のほとんどと中

価格機の一部を輸入に依存しており,国内企業は低価格機市場におけるシェアが高い。そ

の中で,トップレベルの国有企業は輸入製品との格差縮小のため,技術・製品開発に力を

入れると同時に,外国製の高性能・高品質の主要部品を採用して自社製品と品質の向上を

図っており,技術競争力の面で民営企業に比べて長期的な蓄積を行っている(韓金江, 2015,

7 ページ)。民営企業は主として企業規模の拡大という量的な発展段階にあるのに対し,国

有企業はその段階から技術競争力を高める質的な発展段階に入っている(韓金江, 2015, 14

ページ)。

造船業においては高い技術水準を必要としないバラ積み貨物船や小型タンカー,普通漁

船などローエンド部門で生産能力が過剰になっており,LNG 船や豪華客船などのハイエン

ド部門では生産能力が不足している。中小型企業はローエンド部門へ参入し,製品の品質

や性能,安全などの問題を軽視している(上海財経大学中国産業発展研究院, 2013, p.315)。

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83

第 4 節 混合市場における産業立地と生産能力過剰

混合市場では周(2006)の通り,生産能力過剰が生じているのであろうか。この節では,

まず,2000 年代に入って重複建設が再燃し,その結果,生産能力過剰が深刻化したことに

ついて述べる。次に,製造業における生産能力過剰についてデータを用いて確認する。さ

らに,混合市場に属する業種の立地と生産能力過剰について分析する。

4.1. 重複建設の再燃

中国では各地域が競って同一製品に投資し,その結果,生産能力過剰が生じるという重

複建設の弊害がしばしば指摘されてきた。中国はアジア金融危機を乗り越えて,2001 年 12

月に WTO 加盟を果たして,国内外の旺盛な需要を背景に,第 10 次 5 か年計画期間(2001

-2005 年)における平均固定資産投資伸び率は GDP 成長率を大きく上回る 20.2%に達した。

インフラ建設,不動産,自動車産業の急速な発展ととともに,鉄鋼,アルミ,セメント,

電力,石炭等,上流産業の生産能力が急速に拡大された。生産能力過剰は資源の無駄遣い

を意味するだけでなく,企業間の激しい値下げ競争によってデフレを引き起こしかねない

ため,中央政府は 2003 年以降さまざまな過剰投資抑制のための政策を打ち出している。し

かし,2008 年からの世界金融危機の影響を受けて,中国の輸出は急速に減速し,それまで

輸出を通じて解消できていた国内の生産能力過剰がいっそう浮き彫りとなった。2009 年 9

月 30 日に国務院は生産能力過剰・重複建設の抑制を目指す新政策を発表した(「関于抑制

部分行業産能過剰和重複建設引導産業健康発展若干意見的通知」,以下では「意見」と表記

する)。「意見」は投資抑制のために地方政府に許認可の停止などを求め,違反に対して指

導者の「問責」にまで言及する強硬な緊急措置である。一部の業種で生じた重複建設が深

刻な生産能力過剰を招いたため,このような強硬な投資抑制策が導入された。生産能力過

剰や重複建設を速やかにコントロールしなければ市場の「悪性競争」が避けられなくなり,

それが企業の倒産や不良資産の増加につながることを国務院は懸念していた。「意見」の中

で,8 つの業種(鉄鋼,セメント,板ガラス,石炭化学,アモルファス・シリコン,風力発

電設備,電解アルミ,造船)は生産能力過剰が深刻であることが描写されている。

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84

01020304050607080

%

第 3-3 図 中央政府発表の生産能力利用率(2012 年)

出所)Rutkowski, 2014

第 3-2 表 製品別生産能力利用率

品目 業種(2 桁分類) 2005 2014

農業用化学肥料 化学原料・化学製品製造 70.30 69.59

化学繊維 化学繊維製造 77.87 82.20

セメント 非金属鉱物製造 79.54 71.90

板ガラス 非金属鉱物製造 92.67 87.80

粗鋼 鉄金属冶金・圧延加工 81.83 72.87

鋼材 鉄金属冶金・圧延加工

73.14

電解アルミ 非鉄金属冶金・圧延加工

77.55

金属切削工作機械 汎用設備製造 92.98 63.77

自動車 交通運輸設備製造 55.44 77.75

注) 単位は%,生産量を生産能力で除した値。

出所)『中国工業統計年鑑』2015 年版,『中国工業経済統計年鑑』2006 年版より作成。

その後も過剰投資抑制のための政策が打ち出されているが,生産能力の過剰は解消されて

いない9(三菱東京 UFJ 銀行(中国)有限公司, 2013, 3-4 ページ)。

9 例えば板ガラス製造やセメント製造では国務院が 2009 年に「意見」を発表後,地方政府は「駆け込み」

で建設プロジェクトを批准し,多くの生産ラインが新たに作られた(張・趙, 2014, p.39, 54)。

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85

4.2. 生産能力利用率

ここでは生産能力利用率10を用いて,中国において生産能力過剰が発生していることを確

認する。生産能力が過剰であるとは,実際の生産量が生産能力を下回り,使用されていな

い生産能力が一定以上存在する状態のことを指す。国際的な判断基準によると,生産能力

の利用率が 80-90%の場合は正常水準,90%以上になると生産能力が不足している状態,80%

未満であれば生産能力が過剰に存在している状態,70%未満は生産能力の過剰が深刻である

状態と判断される(三菱東京 UFJ 銀行(中国)有限公司, 2013, 4 ページ)。IMF の推計によ

ると,中国における製造業全体の生産能力利用率は世界経済危機発生以前には 80%を若干

下回る程度だったが,2011 年には約 60%にまで低下しているという。また,日信証券の推

計も同様の傾向を示している(日信証券, 2013, p.20)。

中央政府は 2012 年において鉄鋼,セメント,アルミニウム,板ガラス,造船,太陽光発

電の生産能力利用率が特に低かったことを発表している(第 3-3 図)。第 3-2 表は『中国工

業統計年鑑』,『中国工業経済統計年鑑』のデータを用いて計算したが,セメント,粗鋼,

金属工作機械の数値の低下が著しい。韓国高(2014)は 1999 年から 2008 年の製造業 28 業

種の生産能力の利用率を計算している11。第 3-3 表から,資本集約的な業種12の生産能力利

用率が低く,生産能力の過剰が顕著となっていることが見て取れる。資本集約的な業種は

市場化が遅れており,生産能力に占める国有企業のシェアが比較的高い。また,資本集約

的な業種には 1 企業あたりの資本規模が大きく,従業員数が多く,予算制約がソフトであ

るという問題がある。政府は大企業が倒産した時に失業者が増加することや GDP が低下す

ることを恐れるため,業績が悪くても大規模な国有企業を市場から退出させないようにす

る(範・李・応, 2015, p.20)。それから,資本集約的な業種の設備は専用性が高いため,企

業が市場から退出した場合に他企業に売却することが難しく,多額のサンクコストが生じ

ることもこれらの業種で生産能力の利用率が低い原因の一つである13。

10 生産能力利用率=(実際の生産量/生産能力)×100

11 資本ストック,資産の減価償却率,資本レンタル価格,労働投入量,賃金,エネルギー投入量,エネル

ギー価格,原材料投入量,原材料価格,可変費用,産出量,技術進歩などの指標を用いて計算されてい

る。韓国高(2014)は生産能力の利用率が 79-83%の場合は正常,90%以上になると生産能力が不足し

ている状態,79%未満であれば生産能力が過剰に存在している状態であるとしている(韓国高, 2014, p.31)。

12 資本集約度は 1 人当たり資本額(総資産額を従業員数で除した値)で表す。

13 韓国高(2014)によると,労働集約的な業種や労働集約的な工程を含むローエンドの技術集約的な業種

は産出と比較して資本の規模が小さく,大量の注文があった場合,生産設備や労働者に過剰な負担がか

かるため,生産能力利用率が高くなる。中でも煙草製造業の生産能力利用率が非常に高いのは,老朽化

した設備が多く,企業数と就業人数が減少しているが,独占利潤の獲得を目当てに国有企業が生産額を

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第 3-3 表 生産能力利用率(韓国高, 2014)

1999 2002 2005 2008

農産品・副産品食品加工 104.50 126.98 150.71 131.25

食品製造 91.11 100.68 112.39 95.56

飲料製造 95.29 94.50 101.07 89.45

タバコ製品 253.57 326.52 356.35 359.89

紡織 80.76 88.80 100.26 91.25

紡織服装・靴・帽子製造 182.28 182.35 197.44 185.12

皮革・毛皮・羽毛とその製品製造 183.01 205.85 226.56 226.35

木材加工と木・竹・藤・棕・草製品 79.13 87.77 121.21 142.18

家具製造 126.04 132.07 157.98 162.20

製紙・紙製品 68.34 63.85 62.69 60.60

印刷と記録媒体の複製 88.79 83.37 78.32 79.59

文化教育スポーツ用品製造 164.56 156.04 154.34 141.77

石油加工・コークス・核燃料加工 51.00 64.82 69.02 69.15

化学原料・化学製品製造 55.86 59.19 75.92 61.85

医薬品製造 124.88 107.53 88.30 102.18

化学繊維製造 46.02 46.11 47.64 45.93

ゴム製品 84.14 85.78 85.31 71.88

プラスチック製品 88.62 88.50 94.98 105.19

非金属鉱物製造 60.94 61.64 71.83 70.56

鉄金属冶金・圧延加工 46.23 55.86 65.62 58.22

非鉄金属冶金・圧延加工 56.44 61.22 68.59 49.05

金属製品 112.14 123.05 149.37 122.09

汎用設備製造 88.21 97.61 138.97 96.96

専用設備製造 89.67 111.09 120.60 81.41

交通運輸設備製造 85.47 111.05 99.72 92.89

電気機械・器材製造 121.38 134.75 179.57 138.09

通信設備・計算機とその他電子設備製造 153.32 144.79 177.14 162.49

計測計量器・文化事務用機械製造 114.88 119.31 165.31 160.47

注) 単位は%

出所)韓国高, 2014, p.30-31

大きく増加させているためである(韓国高, 2014, p.39)。

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87

第 3-4 表 生産能力利用率(魏, 2014)

2000 2002 2005 2008 2011 2012

石油加工・コークス・核燃料加工 61.40 63.80 68.10 69.20 73.30 74.60

化学原料・化学製品製造 58.90 58.30 74.90 61.90 63.90 63.60

医薬品製造 93.90 96.20 87.20 102.20 92.10 86.80

化学繊維製造 52.20 45.40 47.00 45.90 48.80 48.80

ゴム製品 90.60 84.50 84.20 71.90 71.10 71.10

プラスチック製品 93.60 87.20 93.70 98.80 91.80 87.90

非金属鉱物製造 66.30 60.70 70.90 70.60 71.10 69.20

鉄金属冶金・圧延加工 50.30 55.00 64.80 58.20 80.50 72.00

非鉄金属冶金・圧延加工 66.90 60.30 67.70 49.10 58.60 57.40

金属製品 95.20 93.20 98.70 87.60 90.80 89.90

汎用設備製造 93.90 96.10 87.20 97.00 74.60 67.10

専用設備製造 102.30 109.40 119.00 81.40 71.60 70.20

交通運輸設備製造 87.40 88.40 98.40 92.90 68.80 67.40

電気機械・器材製造 93.40 82.70 87.20 88.10 66.00 64.70

通信設備・計算機とその他電子設備製造 97.80 95.00 94.80 92.50 63.40 62.10

計測計量器・文化事務用機械製造 89.30 87.50 83.20 80.50 60.80 59.60

注) 単位は%

出所)魏, 2014, p.29

第 3-5 表 3 つの市場と立地(2011 年)

非国有 混合 国有

集中

ゴム製品,計測計量器・文化事務用機械製造,通信

設備・計算機とその他電子設備製造,化学繊維製造,

紡織,木材加工と木・竹・藤・棕・草製品,家具製

造,紡織服装・靴・帽子製造,文化教育スポーツ用

品製造,皮革・毛皮・羽毛とその製品製造

石油加工・コークス精製・

核燃料加工,鉄金属冶金・

圧延加工,非鉄金属冶金・

圧延加工

タバコ製品

分散

化学原料・化学製品製造,飲料製造,汎用設備製造,

医薬製品製造,印刷と記録媒体の複製,非金属鉱物

製造,電気機械・器材製造,食品製造,金属製品,

農産品・副産品食品加工,プラスチック製品

交通運輸設備製造,専用設

備製造

注) 集中は地域集中ジニ係数の値が 0.35 以上の,立地が集中的な業種であり,分散は地域集中ジニ係数

の値が 0.35 未満の,立地が分散的な業種である(張・梁・宋, 2005, p.316)。非国有は国有部門比率

が 20%未満の業種,混合は同 20-80%の業種,国有は同 80%以上の業種とする。

出所)China Data Online,『中国統計年鑑』2012 年版より作成。

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88

また,魏(2014)から,重工業のみではあるが,世界金融危機発生後の生産能力利用率

の推移を把握できる14。第 3-4 表によると,「意見」で生産能力が過剰であると判定された 7

業種(2 桁分類)のうち,交通運輸設備製造と電気機械・器材製造を除く 5 業種では各年度

において生産能力利用率が 80%を下回っていることがわかる。また,上記 2 業種の生産能

力利用率は 2000 年代後半以降低下し,2011 年以降は低い値になっている。原料及び生産財

を生産する業種の生産能力が過剰になると,下流の業種でも生産能力過剰が発生する(魏,

2014, p.30)。

4.3. 産業立地の分散と生産能力過剰

ここでは,周(2006)の通り,混合市場では生産能力過剰が発生しているか確認する。

第 3-5 表より,2011 年において混合市場に属する業種(国有部門比率が 20-80%である業

種とする)は石油加工・コークス精製・核燃料加工,鉄金属冶金・圧延加工,非鉄金属冶

金・圧延加工,専用設備製造,交通運輸設備製造の 5 業種である。このうち,専用設備製

造を除く 4 業種は「意見」において生産能力が過剰であると判定されている。第 3-6 表から

次のようなことがわかる。まず,地域集中ジニ係数に関しては,専用設備製造は数値が低

く,立地が分散的である。石油加工・コークス精製・核燃料加工,鉄金属冶金・圧延加工,

非鉄金属冶金・圧延加工は数値が高いが,2005 年と比較して低下しており,立地が分散化

している。交通運輸設備製造は数値が低いうえに,低下している。したがって,混合市場

に属する 5 業種は立地が分散的であるか,分散化している。次に,生産能力利用率に関し

ては,鉄金属冶金・圧延加工を除く 4 業種で 75%を下回っており,生産能力過剰が発生し

ていることが示唆される。鉄金属冶金・圧延加工は 2011 年こそ 80%をかろうじて上回って

いるが,2008 年は韓国高(2014)と魏(2014)の両方の算出結果において 60%を下回って

おり,また,魏(2014)によると 2012 年には 72.00%へと低下している。したがって,これ

らの 5 業種すべてで生産能力過剰が深刻であると考えられる。

ちなみに,国有部門比率が低く,混合市場には属していないが,「意見」で生産能力が過

剰であると判定された化学原料・化学製品製造,非金属鉱物製造,電気機械・器材製造に

関しては,3 業種とも地域集中ジニ係数の数値が低いことから立地が分散的で,なおかつ,

生産能力利用率も低い。

14 生産能力利用率の数値は計算方法によって異なる。韓国高(2014)は費用関数法を,魏(2014)は生産

関数法を用いている。

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第 3-6 表 混合市場に属する業種と生産能力過剰と判定された業種の特徴(2011 年)

「意見」 国有部

門比率

地域集中

ジニ係数

生産能力

利用率

資本集約度

ランキング

石油加工・コークス精製

・核燃料加工

石炭化学 68.59 低下 73.30 2

化学原料・化学製品製造 アモルファス・シリコン 18.66 低 63.90 6

非金属鉱物製造 セメント,板ガラス 10.64 低 71.10 14

鉄金属冶金・圧延加工 鉄鋼 36.92 低下 80.50 3

非鉄金属冶金・圧延加工 電解アルミ 28.83 低下 58.60 4

専用設備製造 - 20.48 低 71.60 9

交通運輸設備製造 造船 43.98 低・低下 68.80 12

電気機械・器材製造 風力発電設備 8.92 低・低下 66.00 10

注) 「意見」は 2009 年 9 月 30 日に国務院が発表した「意見」で生産能力が過剰になっていると判定さ

れた業種。国有部門比率の単位は%。地域集中ジニ係数の「低下」は地域集中ジニ係数が 2005 年と

比較して低下したことを意味する。また,「低」は地域集中ジニ係数が 0.35 以下であることを意味

する。生産能力利用率は魏(2014)を利用し,単位は%である。資本集約度は 1 労働者当たりの資

本額を指標とし,表中の数値は製造業 29 業種中のランキングを表す。

出所)China Data Online,『中国統計年鑑』2012 年版より作成。

上記より,混合市場に属する業種はすべて立地が分散的であるか,分散化していること

と,生産能力過剰が深刻であることがデータから示された。また,第 3-6 表における 8 業種

すべてにおいて資本集約度が高いが,このことも前項で述べた通り,生産能力過剰を発生

させている要因であると考えられる15。

第 5 節 地域保護主義の残存

第 3-6 表にあるような業種では生産能力過剰が生じているが,それは立地が分散的である

ことによってもたらされている。分散的な立地は少数の規模の大きな企業が各地に存在す

るだけでなく,小規模の企業が各地に乱立していることによって形成されている。例えば,

セメント産業では,2009 年における企業数は 5000 社を超えており,1 社あたりの年間生産

規模は 22万トンと,国外の企業の平均である 90万トンを大きく下回っている(韓国高, 2014,

15 資本集約度と生産能力利用率の間に負の相関関係があることは,董・梁・張(2015)で実証されている。

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90

p.78)。電解アルミ製造業に関しては,2009 年の中国における企業数は 101 社であるが,中

国を除いた全世界の企業数は 130 社ほどである。1 社あたりの年間生産規模は世界平均より

も低い(韓国高, 2014, p.80)。鉄鋼業に関しては,生産規模上位 4 社のシェアが他国に比べ

て低い16。

また,第 3-7 表は生産能力過剰が生じている主な業種の企業数と赤字企業比率の推移を所

有制別に表したものである。第 3-7 表から次のようなことがわかる。第一に,赤字企業比率

に関して,1999 年から 2005 年にかけては,石油加工・コークス精製・核燃料加工を除くす

べての業種で低下していたが,2011 年から 2014 年にかけては,すべての業種で上昇してい

る。第二に,生産能力過剰が生じている業種には赤字企業が数多く存在しており17,赤字企

業比率も比較的高く,2011 年と 2014 年にはそれぞれ 5 業種の赤字企業比率が全業種の値を

上回っている。また,2011 年から 2014 年にかけて,赤字企業比率の高い業種も含めて,企

業数が増加している。企業の市場への参入が旺盛であることの表れである。第三に,生産

能力過剰が生じている業種では,民営企業の赤字企業比率も比較的高い。2011 年は 6 業種,

2014 年は 4 業種で全業種の値を上回っている。特に,石油加工・コークス精製・核燃料加

工,鉄金属冶金・圧延加工,非鉄金属冶金・圧延加工は民営企業であっても赤字企業比率

が高いが,そのようななかでも民営企業の数が増加している。特に,鉄金属冶金・圧延加

工は企業数の増加が顕著である。国有企業と比較して民営企業は,赤字企業比率は低いが,

相当数の赤字企業が存在するなかでも企業数が増加している点は全企業の傾向と同様であ

る。競争産業で効率性の悪い国有企業が存続していると,民営企業は産業全体の生産能力

が過剰となっても,効率の悪い方が先に淘汰され,自身は生き残れると信じて規模拡大に

走る(劉・任・肖, 2015, 149 ページ)。

丸川(2011)は中国でこうした企業の旺盛な参入が生じる条件の一つとして,地方政府が

産業振興に積極的に関与し,地元企業に対して市場を確保させることを挙げている。すな

わち,地方政府による地域保護主義の実施である。また,地方政府が製品やサービスの購

買者として,あるいは市場流通の規制者として人為的な市場の分断を作り出せば,分断さ

れた市場の囲いの中でしか生存できないような企業の参入を可能にする(丸川, 2011, 2

16 2008 年において,中国が 24.74%であるのに対し,アメリカは 58.86%,日本は 78.1%,ロシアは 87.88%,

インドは 82.07%,韓国は 88.53%,ウクライナは 74.39%である(上海財経大学中国産業発展研究院, 2013,

p.162)。

17 2011 年において,セメント産業では 3866 社のうち 619 社が,造船業では 1591 社のうち 178 社が,ア

ルミニウム産業では 273 社のうち 50 社が赤字企業である(China Data Online より)。

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第 3-7 表 総企業数と赤字企業比率の推移

1999 2005 2011 2014

企業数

赤字企

業比率 企業数

赤字企

業比率 企業数

赤字企

業比率 企業数

赤字企

業比率

全業種 全企業 162033 27.27 271835 17.77 325609 9.35 377888 11.50

国有 61301 39.15 27477 35.53 17052 20.61 18808 26.67

民営 - - 123820 11.81 180612 5.89 213789 8.15

石油加工・

コークス精製・

核燃料加工

全企業 988 22.87 1990 27.14 1974 19.71 2033 25.87

国有 307 26.38 241 39.00 215 39.53 224 42.86

民営 - - 981 24.77 1015 15.76 1070 20.28

化学原料・

化学製品製造

全企業 11337 25.75 18716 16.83 22600 9.22 25262 11.61

国有 4267 36.79 1696 30.96 1124 22.42 1176 31.29

民営 - - 8525 12.68 12089 6.10 13749 8.03

非金属鉱物製造 全企業 14366 27.89 20111 20.68 26530 8.14 33993 10.28

国有 4950 37.29 1835 38.26 1206 16.75 1510 23.31

民営 - - 9669 15.65 15779 5.61 20235 7.93

鉄金属冶金・

圧延加工

全企業 3042 31.26 6649 26.03 6742 16.78 10363 17.72

国有 793 47.54 407 30.71 312 26.60 390 41.03

民営 - - 3900 23.72 4246 13.80 6852 14.58

非鉄金属冶金・

圧延加工

全企業 2426 25.52 5163 19.87 6765 13.08 7385 17.44

国有 652 35.43 429 30.54 466 19.53 509 40.28

民営 - - 2577 17.00 3926 10.80 4284 13.26

専用設備製造 全企業 6470 29.09 10260 16.35 13889 7.61 17397 10.50

国有 3002 43.70 1323 37.94 728 17.86 718 27.72

民営 - - 4396 8.78 7461 4.15 9819 6.84

交通運輸設備製造 全企業 7470 21.34 11315 18.62 15012 10.30 18434 11.46

国有 3061 41.49 1732 34.01 1141 18.49 1204 24.42

民営 - - 4713 11.29 7463 6.71 9432 7.77

電気機械・

器材製造

全企業 7624 24.28 15366 16.45 20084 10.21 23208 11.55

国有 1948 38.09 927 34.09 557 21.72 582 22.34

民営 - - 6609 10.08 10638 6.91 12782 8.68

注) 赤字企業比率の単位は%。2002 年までと 2003 年からとでは業種区分が異なっている。また,企業数

に関して,1999 年と 2005 年はすべての国有企業と年間売上高 500 万元以上の非国有企業,2011 年

と 2014 年は年間売上高 2000 万元以上のすべての企業が含まれている。

出所)China Data Online, 『中国工業経済統計年鑑』各年版より作成。

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92

ページ)。第 3-6 表における業種は多方面において巨大な需要を創出する戦略産業であり,

地域の経済成長を牽引し,大量の労働力を吸収できる業種であるので,地方政府の産業振

興の対象となる。このことは民営企業も含めた地元企業を保護しようとする強いインセン

ティブが地方政府にあることを意味する(加藤・久保, 2009, 125-126 ページ)。2004 年 4 月

に発生した鉄本事件18は常州市政府が経済目標の達成のために,中堅の鉄鋼企業を超大型

の企業に変えようと,さまざまな政策的優遇を与えた一例である

一方で,企業の退出メカニズムは欠落している。地方政府は雇用や税収への期待から,

それらの業種の経営状態が悪くても,淘汰に踏み切りにくくなっていることも考えられる

(三浦, 2013, 7 ページ)。

中国 EU 商会(The European Union Chamber of Commerce in China )は生産能力過剰が発

生する原因について述べている。それによると,製油業で生産能力過剰が生じている理由

の一つには,地方政府が収入や雇用の確保のために業績の悪い小型の製油工場を存続させ

ていることがあるという。また,鉄鋼業では各地方政府が自給自足を目指しているため,

中国全体の生産能力が大きく拡大しているという。さらに,板ガラス製造業では,各省政

府は短期的な経済成長の実現に明け暮れ,生産ライン新設の認可権も有しているという(中

国欧盟商会, 2016)。

以上のように,近年,小規模企業が各地に分散して立地しているのは残存している地域

保護主義の影響によるところが少なからずあり,現在においても地方政府の果たす役割が

大きいと考えられる。

おわりに

本章は中国の産業立地の決定要因の中で所有との関係について検討し,以下のことが明

らかとなった。

第一に,1999 年,2005 年,2011 年のいずれの年においても,中国における製造業は国

18 中国江蘇省常州市にある民営鉄鋼企業の江蘇鉄本鋼鉄有限公司は,地元常州市政府の全面支援を受け

て,本来中央認可が必要な大型製鉄所の建設を地方認可で足りる規模の多数の小プロジェクトに分割,

偽装して進めようとした。2004 年春にこれが発覚し,中央のマクロ・コントロール政策をないがしろ

にする悪質事案だとして,会社オーナーであった戴国芳の逮捕,市政府幹部等多くの関係者の処罰だけ

でなく,常州市共産党委書記まで解任される大事件に発展した(津上俊哉氏のホームページより。

http://www.tsugami-workshop.jp/article_jp_class7id20060430.html 2016 年 2 月 1 日アクセス )

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有部門比率が高い業種ほど立地が分散的であるとする先行研究の結果とは異なり,国有部

門比率が高い業種や低い業種よりも国有部門と民営部門が並存している業種の方が分散的

な立地になっている。

第二に,国有企業と民営企業が並存している業種では,すなわち混合市場では,生産能

力過剰が発生しているが,それは混合市場における企業淘汰のメカニズムの歪みによると

考えられる。また,生産能力過剰は混合市場の中でも,参入障壁の低い低級品市場におい

て発生している。

第三に,近年においても地域保護主義は残存している。混合市場に属する業種は多くが

戦略産業であり,地方政府は民営企業も含む地元企業が市場を確保できるような措置をと

ったり,業績が悪い場合は支援を行ったりもする。市場が地域間で分断されており,また,

混合市場においては参入障壁が低く,退出障壁が高い状態が形成されていることが,生産

能力過剰の発生につながっていると考えられる。

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終 章

第 1節 各章の要約

本稿では,2000 年代後半以降における産業立地の分散化を地域保護主義や重複建設,そ

してそれらの結果もたらされた生産能力過剰から説明した。まずは第 1章から第 3章まで

の各章で明らかになったことを要約する。

第 1章では,中国国内版雁行形態が想定しているような東部地域から中・西部地域への

産業移転が生じているかどうか,生産額の全国シェアと特化係数を用いて検証した。産業

移転が生じているか否かの判断については,生産額のシェアが低下していても,比較優位

を喪失していなければ(特化係数が 1未満になっていなければ),その産業は衰退してい

ない,すなわち,産業移転の動きは顕著ではないとした。分析結果は次の通りである。

第一に,2000 年代における産業移転は資源採掘業やその資源を用いた製造業など,いく

つかの業種に限られている。経済の発展とともに東部地域から中・西部地域へと移転してい

くと考えられている紡織,紡織服装・靴・帽子製造,機械製造などの労働集約型産業でも産

業移転はまだ起こっていないと考えられる。

第二に,2000 年時点で東部地域における生産額の全国シェアや特化係数が高かった業種

は,その後それらが低下している業種も含めて,2000 年代後半に至っても企業数や生産額

が増加している。すなわち,主要な生産拠点でなくなったり,比較優位が失われたとしても,

絶対的な生産規模までもが縮小している業種は東部地域にはほとんど存在しない。

第三に,地域構造差係数を用いて,各省市自治区とそれに隣接する省市自治区の産業構造

差の推移について分析したところ,2000 年代,特に後半において産業構造差が縮小してい

る省市自治区が増加しており,産業立地が分散化し,地域間で産業構造が同質化しているこ

とが明らかとなった。このことは 2000年代後半に重複建設が再燃したことと関係があると

考えられる。

2000 年以降の中国全土を「東部」,「西部」,「東北部」,「中部」に区分した地域発展計画

に加え,2005 年以降は,さらに地域や分野を細分化した地域発展計画が次々と中央政府の

認可を受けている。2005年以降の地域発展計画では,各地域の「自主性」と「特性」を最大

限尊重した計画の立案を認め,他地域にはない制度の制定,新たな取り組みの実践といった

面で各地域に自主権を与える一方,特別な優遇政策や,取り組みを進めるうえでの資金の重

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点的な投入は行われないとみられている。地域主導の地域発展計画が数多く認可され,地域

経済の過熱に結び付くことが懸念されていたが(中井, 2010),その懸念のとおり,リーマン

ショック後,重複建設の問題が再燃することとなった。地域発展計画の策定において各地域

の「自主性」が尊重されるようになった結果,2000 年代後半以降,地域構造差は縮小に向

かい,産業立地は分散化傾向にある。それにも関わらず産業移転の動きが限定的であること

は各地域が同様な業種において生産を増加していることを示唆している。2005 年以降の地

域発展計画にはそれぞれの地域の「特性」に焦点を当て,それを「比較優位」として発展を

促す狙いがあるが,その狙いが果たされているとは言いがたい。

第 2 章では,2000 年代の中国において産業立地が分散化したのか,集中化したのか,地

域集中ジニ係数と CN8 を用いて検証した。2000 年代後半以降,2 つの指標がともに低下し

ている業種が多く,産業立地が分散化していることが考えられる。また,「意見」で重複建

設の再燃により生産能力が過剰になっていると判定された 8 業種は上記指標が低下してい

る,あるいは低い値となっており,このことは 8業種の立地が分散化しているか,分散的で

あることを示唆している。

以上のように,2000 年代後半以降,産業立地が分散化したことが明らかとなったが,計

画経済期と改革開放初期(1978-1980 年代半ば)にも産業立地は分散化していた。産業立

地の「分散→集中→分散」という変動は,地域統合と産業立地の関係に関するモデルの想定

と一致する。すなわち,このモデルに基づいて考えれば,2000 年代後半以降,地域統合の

進展とともに輸送費が低下し,先進地域に集中立地して集積のメリットを得ていた企業が

地代や人件費の高騰や交通渋滞などの問題を避けるために他地域へ移転する局面が現れた

ということになる。しかし,第 1 章の分析で明らかになった,2000 年代後半において工業

の主要な生産拠点の移動や東部地域の比較優位の喪失が限定的であること,それにも関わ

らず,地域間で産業構造が同質化していること,そして,企業数と生産額が多くの業種と地

域で増加していることは,各地域が同一業種に投資を行い,その結果生産能力過剰が生じる

という重複建設が再燃したことと矛盾しない。したがって,2000 年代後半以降における産

業立地の分散化は地域保護主義の残存とそれによってもたらされる重複建設による影響が

大きいと考えられよう。

また,地域保護主義の影響を受けた産業立地の分散化という点では改革開放初期と同様

である。しかし,改革開放初期には,資本不足を補うために地方政府が保護を行ったが,

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2000 年代後半には,資本過剰の状態でも地方政府官僚の昇進競争を背景に保護が行われて

いると考えられる点で異なる。

第 3章では,中国における産業立地の決定要因の中で,所有との関係について分析した。

第 2 章では生産能力過剰が生じている業種は産業立地が分散化しているか,分散的である

ことが明らかになったが,この章では,どのような市場で生産能力過剰が生じているのかに

着目して分析を行った。その結果,以下のことが明らかになった。

第一に,1999年,2005年,2011 年のいずれの年においても,中国における製造業は国有

部門比率が高い業種ほど立地が分散的であるとする先行研究の結果とは異なり,国有部門

比率が高い業種や低い業種よりも国有部門と民営部門が並存している業種の方が分散的な

立地になっている。

第二に,国有企業と民営企業が並存している業種では,すなわち混合市場では,生産能力

過剰が発生しているが,それは混合市場における企業淘汰のメカニズムの歪みによると考

えられる。また,生産能力過剰は混合市場の中でも,参入障壁の低い低級品市場において発

生している。

第三に,近年においても地域保護主義は残存している。混合市場に属する業種は多くが戦

略産業であり,地方政府は民営企業も含む地元企業が市場を確保できるような措置をとっ

たり,業績が悪い場合は支援を行ったりもする。市場が地域間で分断されており,また,混

合市場においては参入障壁が低く,退出障壁が高い状態が形成されていることが,生産能力

過剰の発生につながっていると考えられる。

第 2節 中国の産業立地再考

ここでは,本稿から得られる含意を述べる。

本稿では,2000 年代後半に,重複建設の再燃と生産能力過剰の深刻化が政府から発表さ

れたことに着目して,地域統合の進展の結果とは異なり,それらが産業立地の分散化をもた

らしたのではないかという仮説を立て,分析を行ってきた。では,中国における地域統合に

はどのような展望を持つことができるだろうか。

第 1章で東部地域から中・西部地域への産業移転は顕著ではないと述べた。ここで,序章

で取り上げた「雁行的発展」の条件(各構成地域の間で,①地理的に近いこと,②貿易と直

接投資が自由であること,③発展段階の差を反映して産業構造が違うこと)について,改め

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て検討してみる。中国は広大な国家であり,東部-中・西部地域間の距離は大きいが,交通

インフラの整備が進み,①の距離の問題は緩和されていると言える。しかし,②の資本移動

の自由に関して,特に生産能力過剰が生じているような業種においては,今もなお制限され

ていると考えられる。③の産業構造に関しては,地域保護主義が存在する中国は欧米諸国に

比べて,産業構造の同質性が高く(王, 2001; 加藤, 1997),産業立地の集中度も低い(王非

暗・王珏・唐・範, 2010)とされ,また,本稿で分析した通り,2000 年代後半以降,産業構

造の同質性と産業立地の集中度の低さはより顕著になっているため,分業の利益は得られ

にくいと考えられる。したがって,②と③の条件を満たしているとは言えない。

第 2 章で述べた通り,2000 年代後半,産業立地は分散化傾向にあり,それは地域統合の

進展によって生じたというよりも,地域保護主義によってもたらされた重複建設の再燃や

生産能力過剰の深刻化と相関関係があると考えられる。産業立地の分散化はこの時期に初

めて生じた現象ではない。交通インフラが貧弱であった計画経済期,改革開放初期には地域

間分業が難しく,分散的な立地はある意味合理的だった(加藤, 2003, 108 ページ)。しかし,

交通インフラの整備がかなり進んだ現代においても産業立地は分散的であり,地域保護主

義の影響を受けているとすれば,中国における地域統合は交通インフラを整備すればただ

ちに進展するものではないことを示唆している。このことは上記「雁行的発展」の条件に関

する検討結果とも矛盾しない。

2010 年の国有資産監督管理委員会のデータによると,中国には 124,000 社余りの国有企

業があり,そのうち 94,000社は地方政府が管理する国有企業であるという(丸川, 2013, 193

ページ)。そのような地方政府が管理する国有企業は,いくら所在地域の賃金が上昇したと

いっても,企業を閉鎖して別の地域へ移転することは困難ではないだろうか。

以上から,現在の中国は東部地域で比較優位を喪失した業種が中・西部へ順調に移転して

いく「雁行的発展」を期待できる状況にはないと考えられる。

では,どのような地域で統合が進むのだろうか。「七大経済圏」構想が頓挫したのは各地

方政府が域内での主導権を争い相互反発したからだという(加藤・久保, 2009, 133ページ)。

周(2004)は,「長江デルタ地域や珠江デルタ地域の方が京津(北京・天津)地域より地域

統合が進んでいるのは上海市-江蘇省,浙江省間の方が北京-天津間よりも経済的な格差

が大きいからだ。珠江デルタにしても香港と広州の実力が抜きんでている」という仮説を立

てている。そうであるならば,経済的な実力差の大きい地域間の方が統合が進みやすいこと

になる。ただし,その場合,実力差のある地域間の統合は垂直的な分業を増加させ,地域格

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差が一層拡大する可能性も考えられる。一口に「市場統合」といっても,さまざまな展開が

ありうる。習近平国家主席が 2014年 2月に「京津冀協同発展の業務状況報告会」を主催し

て「国家戦略として位置づける」と発表した京津冀(北京市,天津市,河北省)一体化にど

のような展開が待っているのか興味深い。

本稿では,地域統合の進展を阻んでいる地域保護主義は重複建設や生産能力過剰を生み

出していると述べてきた。これらは第 2 章第 2 節で述べたように,中国経済を脅かす問題

である。しかし,その解決は困難である。第 3章では混合市場において生産能力過剰が深刻

になっていることを指摘した。生産能力過剰は,国有企業が地方政府の保護を受け,業績が

悪くても市場から退出しないことが原因で生じるだけでなく,業績の悪い国有企業が市場

に残留することによって民営企業の市場参入が旺盛になることや,時には民営企業さえも

が地方政府の保護の対象となることによっても生じている。すなわち,民営化すれば解決で

きるという問題ではない。

王(2001)で述べられている通り,市場による生産調整は,市場分断の存在により機能し

ないであろう。また,生産能力調整は地方政府の利益と結びついているため,地方政府は域

内企業の生産能力を維持しようと,中央政府主導の生産能力過剰の解消には抵抗するだろ

う(王, 2001, 9-10ページ)。生産能力過剰発生の背景には地方政府官僚の昇進競争があるか

ら,GDP を一面的に追求する方式を改め,新しい評価システムを採用すれば,解消できる

かもしれないが,加藤(2013)は次のような理由で経済指標と地方政府官僚の評価・選抜と

を結びつけるガバナンスのシステムを捨て去ることは容易ではないと考えている。第一に,

経済指標よりも非経済指標に高いウエイトが置かれるようになったとしても,そうした事

業を実施するために必要な財源を中央政府がすべて提供するわけではないので,地方政府

は独自財源の獲得に走らざるを得ず,結局,地方政府官僚は経済指標に注意を払わざるを得

ない。第二に,地方政府の官僚に対する監視体制が脆弱である(加藤, 2013, 142-143ページ)。

経済成長至上主義から訣別できなければ,生産能力過剰を解消し,非効率な分散的立地を改

善することは困難である。「供給側改革」の主要テーマである「ゾンビ企業」の淘汰は中国

における国内市場統合の進展にも関わる重要な課題である。

中国では改革開放後,市場経済化が進み,市場が経済活動の支配的な調整システムとなっ

た(加藤・久保, 2009, 11 ページ)。また,民営部門が GDP に占めるシェアも上昇した。し

かし,地域保護主義や市場分断が残存し,市場の原理が働かず,先進資本主義国では当然の

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ように存在する全国統一的な市場は形成されていない。地域保護主義の撲滅,さらには,市

場が十分に機能する経済システムが形成されるにはさらに時間がかかるであろう。

第 3節 今後の課題

最後に今後の研究課題を挙げる。

第一点は,産業分類についてである。本稿では 2桁分類を用いて分析を行った。産業立地

の分散化・集中化と産業移転に関する議論は産業分類の精粗によって分析結果が大きく変

わってくる。2 桁分類では同じ業種でも,3 桁分類では異なった業種になる可能性がある。

近年,産業内分業や企業内分業も増加しており,より細分化された産業区分で分析すること

が重要となる。また,産業構造の高度化が進むにつれて,第三次産業も含めた研究が必要と

なるだろう。

第二点は地域区分についてである。本稿では省レベルで分析を行った。第 3 章で触れた

が,日置(2010)のような郷鎮レベルで分析を行っている研究も出てきている。園部・大塚

(2004)では,多くの場合,産業集積の地理的な範囲は郷や鎮にほぼ合致しており,県レベ

ルのデータでは産業集積の実態は把握し難いと述べられている(園部・大塚, 2004, 93 ペー

ジ)。藤井(2015)も県レベルで分析を行っており,より細かな地理単位の統計データを用

いた分析が増加している。加藤・久保(2009)では,「複数の省を含む経済圏が形成され,

それが緩やかに統合して国民経済を形成するという構想は,中国のような大国で,地域差が

大きい国の将来像としては悪くない」(加藤・久保, 2009, 133ページ)と述べられているが,

そうであれば経済圏の内部や省内で産業移転や市場統合がどの程度進んでいるか検証する

ことには大きな意義があろう。

第三点は,第二点とも関わるが,中国では資本移動がどの程度自由なのか検討することで

ある。本稿では,中国には資本移動の自由が現在も制限されていると述べただけにとどまっ

た。前節で述べた通り,地方政府が管理する国有企業は容易には移転できないであろう。戦

略産業では民営企業も地方政府の保護の対象になるのであれば,民営企業といえど市場の

原理に即して移転することは困難であろう。中国の現状と資本移動の自由を前提とした産

業立地についてのモデルとの「距離」に注目していきたい。

第四点は,産業立地の決定要因についてである。本稿では産業立地の決定要因の中で特に

所有に着目して分析を行ったが,第 3 章第 1 節で取り上げた先行研究に見られる通り,産

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業立地の決定要因にはさまざまなものがある。例えば,これまでは交通インフラの整備が進

むと産業立地は集中化すると考えられてきた。しかし,近年交通インフラは整備がますます

進んでいるが,2000 年代後半以降,産業立地は全体的に分散化している(小林, 2015)。ま

た,本稿では,生産能力過剰が近年深刻化しており,それは地域保護主義との関わりが強い

と述べたが,地域保護主義が産業立地に対してどの程度影響を及ぼしているのか,また,そ

の影響力は強まっているのか,弱まっているのかは検討できなかった。産業立地の趨勢が変

化する中で,それを規定しているのは何か,改めて問い直す必要がある。

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三宅康之『中国・改革開放の政治経済学』ミネルヴァ書房,2006。

劉敬文・任雲・肖厳華『現代中国経済』朝日出版社,2015。

渡邉真理子『中国の産業はどのように発展してきたか』勁草書房,2013。

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わったか-改革開放以後の経済制度と政策を評価する』国際書院,2014,305-344ペー

ジ。

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初出一覧 序章 書き下ろし 第 1 章 中国における産業移転-東部地域から中・西部地域への移転につい

て- 「中国における産業移転-東部地域から中・西部地域への移転につ

いて-」『比較経済体制研究』第 19 号、2013 年 3 月に加筆・修正 第 2 章 中国における産業立地-分散か集中か- 「中国における産業立地-分散か集中か-」

『比較経済体制研究』第 21 号、2015 年 3 月に加筆・修正 第 3 章 中国における産業立地の決定要因-所有との関係を中心に- 「中国における産業立地の決定要因-所有との関係を中心に-」

『比較経済体制研究』第 22 号、2016 年 3 月発行予定に加筆・修正 終章 書き下ろし