ISO 14001:2015の...

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図26/ I S O 1 4 0 0 1:2 0 1 5 の要求事項⑪ 059 24. ISO 14001:2015の要求事項 (8.1) 8 . 1「 運用の計画及び管理 」の冒頭の下線が引かれ ていない共通要求事項は、「 次の事項によってEMS の要求事項及び 6. 1 」、つまり細分箇条 6. 1 までですが、 ISO 14001 では細分箇条 6. 2も、下線部分「決定し た取組みのためのプロセスを確立し、実施し、管理及 び維持する」を追加しました。要するに要求事項を満 たすため、6 . 1、6 . 2 で抽出したやるべき課題をやるた めに必要なプロセスをつくりなさいと書かれています (図 26) 従って、特定の細分箇条にプロセスをつくれと書かれ ていないという組織があっても、細分箇条 4 . 4「 環境マ ネジメント」と8. 1「 運用の計画及び管理 」を根拠にして プロセスをつくってもらう。それで「プロセスのための運 用基準 」をつくり、それに従って「プロセスの管理を適 用する」と書かれています。 さらに「 管理は、工学的な管理、手順などを含み得る。 これらは、優先順位 (例えば、除去、代替、管理) に従って 実施されることもあり、また、単一で又は組み合わせて 用いられることもある」という注記が E M S 固有で、日本 からはこの要求は必要ない、もしくは記載するとしてもこ の箇所でなく細分箇条 6 . 1「リスク及び機会への取組 み 」ではないのかと話しましたが、ここに残っています。 この「 優先順位に従って」とは管理のヒエラルキー (階層) を考慮して考えるということで、そのコンセプトが記載さ れています。 これは労働安全衛生のコンセプトの延長上にあります。 まず失くせる危険源は失くし、より安全なものに変えられ るものは変えて、それでも残るものは管理的な方法で対 応する。環境で言えば 3 R、リユース、リデュース、リ サイクルの順番に従っていくという優先順位の考え方が 書かれています。 次に 8 . 1 には「 計画した変更を管理し、意図しない 変更で生じた結果をレビューし、必要に応じて、有害な 影響を緩和する処置をとる」とあります。計画とは必ず 何かを変えながら実施していくのですが、あるものを変 えると、当初意図していなかった周辺の様々なサイドエ フェクト (副作用) が生じて、そちらの変更を引き起こして しまう。それらが何か有害な方向に働いているような兆 候がみえたら、放っておかずにこの影響を緩和する処 置をとりなさいという趣旨です。 ISO 14001:2015の 改訂内容について (後編) 合同会社グリーンフューチャーズ 社長 吉田 敬史 YOSHIDA Takashi 昨年 9 月 15 日にISO 14001 の 2015 年版が発行された。改訂のポイントとして「 組 織トップのリーダーシップを求める」、「 環境改善と事業戦略の一体化 」、「 事務局任せでは 許されない 」、「トップマネジメントの説明責任 」の四つが挙げられる。 本稿は 2 0 1 5 年改 訂の経緯、変更点、要求事項等改訂内容の全般について、ISO/TC207/SC1 ( ISO 14001) 日本代表委員である吉田敬史氏にご講演いただいた内容をまとめたものである。 (一般社団法人 産業環境管理協会発行「CEAR」誌掲載「CEAR講演会講演録」より内容を一部変更の上、転載)

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  • 図26/ISO 14001:2015 の要求事項⑪

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    14001:2015の改訂内容について(後編)

    報告

    24. ISO 14001:2015の要求事項(8.1)

     8. 1「運用の計画及び管理」の冒頭の下線が引かれていない共通要求事項は、「次の事項によってEMSの要求事項及び 6. 1」、つまり細分箇条 6. 1までですが、ISO 14001 では細分箇条 6. 2も、下線部分「決定した取組みのためのプロセスを確立し、実施し、管理及び維持する」を追加しました。要するに要求事項を満たすため、6. 1、6. 2 で抽出したやるべき課題をやるために必要なプロセスをつくりなさいと書かれています(図26)。 従って、特定の細分箇条にプロセスをつくれと書かれていないという組織があっても、細分箇条 4. 4「環境マネジメント」と8. 1「運用の計画及び管理」を根拠にしてプロセスをつくってもらう。それで「プロセスのための運用基準」をつくり、それに従って「プロセスの管理を適用する」と書かれています。 さらに「管理は、工学的な管理、手順などを含み得る。これらは、優先順位(例えば、除去、代替、管理)に従って実施されることもあり、また、単一で又は組み合わせて用いられることもある」という注記がEMS固有で、日本からはこの要求は必要ない、もしくは記載するとしてもこの箇所でなく細分箇条 6. 1「リスク及び機会への取組み」ではないのかと話しましたが、ここに残っています。この「優先順位に従って」とは管理のヒエラルキー(階層)を考慮して考えるということで、そのコンセプトが記載されています。 これは労働安全衛生のコンセプトの延長上にあります。

    まず失くせる危険源は失くし、より安全なものに変えられるものは変えて、それでも残るものは管理的な方法で対応する。環境で言えば 3R、リユース、リデュース、リサイクルの順番に従っていくという優先順位の考え方が書かれています。 次に 8. 1 には「計画した変更を管理し、意図しない変更で生じた結果をレビューし、必要に応じて、有害な影響を緩和する処置をとる」とあります。計画とは必ず何かを変えながら実施していくのですが、あるものを変えると、当初意図していなかった周辺の様々なサイドエフェクト(副作用)が生じて、そちらの変更を引き起こしてしまう。それらが何か有害な方向に働いているような兆候がみえたら、放っておかずにこの影響を緩和する処置をとりなさいという趣旨です。

    ISO 14001:2015の改訂内容について(後編)

    合同会社グリーンフューチャーズ 社長

    吉田 敬史  Y O S H I D A T a k a s h i

     昨年 9 月 15 日にISO 14001 の 2015 年版が発行された。改訂のポイントとして「組織トップのリーダーシップを求める」、「環境改善と事業戦略の一体化」、「事務局任せでは許されない」、「トップマネジメントの説明責任」の四つが挙げられる。本稿は 2015 年改訂の経緯、 変更点、 要求事項等改訂内容の全般について、ISO/TC207/SC1( ISO 14001)日本代表委員である吉田敬史氏にご講演いただいた内容をまとめたものである。

    (一般社団法人 産業環境管理協会発行「CEAR」誌掲載「CEAR講演会講演録」より内容を一部変更の上、転載)

  • 図28/ISO/FDIS 9001 のプロセス要求事項との比較

    図27/ISO 14001:2015 におけるプロセス

    060 環境管理│2016年 6月号│Vol.52 No.6

    特別寄稿③

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     これは運用管理における一種の予防処置であり、2015 年版では2004 年版の「是正処置及び予防処置」というセットではなく、是正処置と切り離され、6「計画」の部分に吸収されています。「望ましくない影響を防止又は低減する」観点からの 6. 1「リスク及び機会への取組み」の部分です。 図 26 の真ん中にある「外部委託したプロセスが、管理又は影響を及ぼされることを確実にする」に関しては、ISO 9001 では 2000 年改訂からあったのですが、ISO 14001 では管理又は影響の部分ではアウトソースしたプロセスも管理対象になるということです。ただし、アウトソースしたすべてのものを一律に等しく管理しなさいといっているわけではありません。附属書Aに細かく書かれていますが、「管理又は影響の方式及び程度」は基本的には組織がEMSで決定することになります。リスクの大きさ、環境影響の大きさ、利害関係者が問題視しているかどうか、事業継続上きちんとやる必要があるかどうか等々で優先順位を付けてやっていけばよい。リスクも環境影響もないようなアウトソース先、アウトソース内容が存在していた場合、そこまでやる必要はないと

    いうことです。 次の「ライフサイクルの視点に従って」というのは、6.1.2

    「環境側面」で、ライフサイクルの視点を考慮して「環境側面」、「著しい環境側面」を特定し決定することが求められていましたが、そこで決定されたことをa)〜d)

    (図 26 下部)で反映することになります。その課題がきちんとその製品・サービスの設計開発プロセスで考慮されるよう確実にする。「ライフサイクルの視点」でという、組織の直接の管理下を離れたところでの改善活動、設計開発などに織り込んで効果が出るようにしていく。それに合わせてサプライヤーに対する要求事項が出てくればそれをきちんと伝達してくださいということです。 b)、c)はサプライチェーンでの情報伝達です。d)は、組織から出て行く製品やサービスの輸送から、お客様が使ってリサイクラーを経由して最終的に廃棄される。その過程でもし潜在的な著しい環境影響が出るような段階を認識していたら、それは当然直接コントロールできないので、設計段階で手を打ったうえで情報提供をしていく必要があります。 例えばお客様に対して、「ここにニッケル・カドミウム電池が入っているから捨てるときは別にして自治体に処分をお願いしてください」と情報提供する。廃棄物業者に対しては、「ヘキサメチレンテトラミンはこのまま流して浄水場で塩素を入れるとホルムアルデヒドに変わってしまうので、このような処理で無害化してください」というように廃棄物、特に化学物質の組成情報や適正処理に必要な情報をきちんと渡していかないとリサイクラーや廃棄物処理業者側で大きな問題が出てくる可能性があるわけですから、それを避けるためにきちんとやってくださいという意図があります。

    25. ISO 14001:2015におけるプロセス

     細分箇条 8. 1 の「プロセス」について附属書に説明があります。まず「プロセス」と「手順」の違いは何か。

    「手順」はやり方を決めているだけです。図 27のd)「プロセスを、特定した方法で遂行する」の部分にDISでは括弧して手順と書いてあったように、やり方を規定しているわけです(図 27)。 しかし、やり方を規定したからといってきちんとした結果が出るという保証にはなりません。「プロセス」とは単にそのやり方だけでなく、望む結果、アウトプットを明確に規定し、そのために必要な資源、インプットは何か、またそれを実施するための手順やツールとして何が必要なのか、そしてそれが本当に実施されているのか、さらに何を監視測定して評価していくのか。実施されていなかったらPDCAにフィードバックする。それら全体が「プ

  • 図30/ISO 14001:2015 の要求事項⑫

    図29/アウトソースしたプロセス

    061

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    14001:2015の改訂内容について(後編)

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    ロセス」です。 「プロセス」の概念を入れると、PDCAは一義的にはシステム全体ではなく個々の「プロセス」に対してPDCAが働く。それによって「プロセス」が計画したとおりの結果をコンスタントにばらつきなく期待したとおりに出せるようにしていくことが「プロセス」の最も重要な概念になります。「手順」だけではそれはできません。例えば以前、JR北海道で貨物列車の脱線事故がありました。調べてみると、保線上の点検の手順はあったが、その手順通りやられていなかった。人的資源が足りないのか、能力がなかったのか、何が足りなかったのかは不明ですが、PDCAが働いてなかったことは確かです。誰もチェックしていないから改善も行なわれず事故が起きてしまった。 「プロセス」がなくて「手順」だけあればなんとかなるというものではないのです。「プロセス」の概念を入れることは、望む結果を達成するよう「プロセス」の有効性を保証するためです。だから「プロセス」を設計し、必要な技術を導入し、人の資源についてはその人の力量を考えなくてはいけません。大事なのは結果がきちんと出ているかどうか、「プロセス」を監視測定すればPDCAが適用され、「プロセス」が適用されて安定すればそれが組み合わされた仕組みであるEMSやQMSで期待通りの結果が出るという信頼感がはるかに高まるのです。 また、ISO 9001 のプロセスの要求事項はその辺を細かく言っていますが、規定していることは同じであります(図 28)。

    26. アウトソースしたプロセス

     アウトソースしたプロセスについては、「 outsource」という動詞が共通要求事項として定義されています。この注記に「外部委託した機能又はプロセスはマネジメントシステムの適用範囲内にあるが、外部の組織はマネジメントシステムの適用範囲の外にある」と極めて重要なことが書かれています(図 29)。 他の会社にプロセスを委託するのだから、もちろん他の会社は適用範囲の外になります。ただアウトソースしたプロセスの責任は基本的にアウトソースした側にあり、それをどこにアウトソースしようが、アウトソースした先のEMSの適用範囲の中にあるとみなされます。ただ「管理する又は影響を及ぼす方式及び程度は、環境マネジメントシステムの中で定めなければならない」とあるとおり、自分で決めることになります。これはISO 9001も同じです。 これはアウトソースしたプロセスの重要性、リスクなど

    にもよりますし、そのロケーションによっても「管理」又は「影響」の方式は違うわけです。メッキや塗装を場内外注の協力工場に委託する場合と、同じ業務をミャンマーの工場に委託する場合では、ロケーションが違うので同じように管理できるわけがない。ですから同じことでもどこに委託したかによって管理の「方式」や「程度」は違うわけです。そういうことを優先順位を付け、管理をきめ細かくやらないと意図した成果が得られない可能性があるようなことに対して、まずは実施していくということでいいと思います。

    27. ISO 14001:2015の要求事項(8.2)

     次に 8. 2「緊急事態への準備及び対応」です(図30)。「 13.ISO 14001:2015 の要求事項( 6. 1. 1)」で説明しましたが、2004 年版では 4. 4 . 7「緊急事態への準備及び対応」で「特定」と「準備及び対応」を一括して要求していました。2015 年版では「特定」が「決定」となり、6. 1「リスク及び機会への取組み」に移動し、8. 2 では「手順」が「プロセス」に変わり、「準備及び

  • 図 31 /ISO 14001:2015 の要求事項⑬

    図32/ISO 14001:2015 の要求事項⑭

    062 環境管理│2016年 6月号│Vol.52 No.6

    特別寄稿③

    総説

    対応」のプロセスの計画が規定されています。 要求されていることは、2004 年版の附属書にも細かく書かれていましたが、可能ならばテストしなさい、テストして必要ならプロセスを見直しなさいということなどです。中でも重要なのは、f)の情報伝達コミュニケーションです。社内の管理下で働く人だけではなく、適切な利害関係者にも教育訓練を含めた情報提供の必要がある。流出事故とか火災爆発事故が起こっても、規模によっては組織の中だけでとどまらない場合があります。だから、所轄の行政や保健所、警察署や消防署、自治会等々に必要な情報はきちんと提供して人的被害が起こらないようにすることは当たり前ですし、必要ならば原発でやっているように、地域住民の方を含めた避難計画のテストをしなければなりません。この内容は 2004 年版より少し明確に書かれていると思います。

    28. ISO 14001:2015の要求事項(9.1.1)

     次に 9「パフォーマンス評価」です(図 31)。細分箇条 9. 1「監視、測定、分析及び評価」については、

    2004 年版の「監視及び測定」に「分析及び評価」が付加されました。これだけでも大きな進展ですが、共通要求事項では監視・測定が必要な対象と、それをどうやって監視・測定・分析・評価するのか、またそれらをいつやるのか、これらをすべて決めなさいという、極めて当たり前のことが書かれています。 ただ、意外とこの当たり前のことが行なわれていません。監視・測定しても、分析評価してフィードバックされていなければ何の役にも立ちません。今回共通要求事項にプラスして、「環境パフォーマンスを評価するための基準及び適切な指標」も決めなさいという要求事項が

    「環境」固有で入れられています。 「 20.ISO 14001:2015 の要求事項( 6. 2)」の「環境目標」でも、測定可能な環境目標をつくった場合には、評価方法として指標を含むという要求が明確に入っています。ただしここでは「環境目標」だけでなく、例えば運用管理で扱うような「パフォーマンス情報」(2004 年版における「運用のかぎ(鍵)となる特性」「キー・パフォーマンス・インディケー

    ター( KPI)」)については、改善しているのか悪化しているのか判定するための基準と、それを明確に表す指標の決定が求められてきます。それとともに、校正・検証は当然のこと、環境パフォーマンスとEMSの有効性を評価しなければならないという、包括的な要求事項が書いてあります。 またEMS固有として「コミュニケーションプロセスで決定されたとおり、かつ順守義務による要求によって、関連する環境パフォーマンス情報を、内部及び外部にコミュニケートする」という要求事項がここにも書かれています。 これは細分箇条 7. 4「コミュニケーション」の7. 4. 1「一般」に持って行けばいいのでは、という声ももちろんありました。「著しい環境側面」についても、必要に応じて社内の階層及び機能に伝えるという事項がありましたが、ここでもパフォーマンス情報や有効性評価結果のような情報の発生源にきちんとコミュニケートするというのが規定されているわけです。したがってコミュニケーションの要求事項の全体像を把握するためには、細分箇条 7. 4だけでは見落としが発生します。「 6.規格を理解するうえでの基本事項」で説明したとおり、「規格の要求事項は、システム的、又は全体的な視点」でよくみて洩れがないように理解をしていただくということが重要になります。

    29. ISO 14001:2015の要求事項(9.1.2)

     次は 9. 1. 2「順守評価」です。2004 年版では法的要求事項とその他の要求事項に分けて書かれています

  • 図34/ISO 14001:2015 の要求事項⑯

    図33/ISO 14001:2015 の要求事項⑮

    063

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    ISO

    14001:2015の改訂内容について(後編)

    報告

    が、アメリカも分けろという要求はしなくなりました。 ここでも「手順」ではなく「プロセス」が求められています。「定期的に評価をする」という事項が「頻度を決定する」に変わったくらいです。「順守を評価し、必要な場合には、処置をとる」とありますが、不順守が見つかったら直しなさい、特に法令違反が見つかった場合にはきちんと所管行政と相談して対処方法を決めるということが附属書に書かれています。 一番大事なのは、「組織の順守義務の達成状況に関する知識と理解を維持する」ことです。順守義務というのは「リスク及び機会」でも説明しましたが、組織の状況を含めて次 と々変わる。例えば、新しい法制、法律、条令ができたり、改正されたりする。その都度、どう適用するかというのを細分箇条 6. 1. 3「順守義務」に従ってやっていくわけです。ですから順守義務の達成状況というのは、途中で新しい順守義務が追加されたら、それを評価していかなければなりません。 2015 年版の規格で「維持する( maintain)」という言葉が使われているところは、当初はすべて「維持し最新化する( maintain and up to date)」と書かれていました。それがあまりにもまどろっこしいので、「維持する」と書いてあればそれはすべて「最新化する( up to date)」という意味を含むということで合意し、この表現になっています。ということは、この順守状況自体が頻繁に変化する中で、いまこの時点で組織の順守状況はどうなのかという知識と理解が常に最新化されてなければならない。最新化できるようにプロセスを確立し、実施し、維持してくださいということです。 ということは、順守義務に変化があれば直ちに反映されるとともに、評価においてもそれがきちんと反映される。そのためには順守評価者の力量、順守評価者にきちんと様々な状況変化の情報が渡ることがとても重要になります。

    30. ISO 14001:2015の要求事項(9.2)

     9. 2「内部監査」ですが、ここではほとんどEMS固有の要求はありません(図 33)。ちょっとした表現の見直しや、細分箇条 9. 2 . 2「内部監査プログラム」の「組織に影響を与える変更」などはありますが、これはISO 9001 でも入っています。 監査についてはISO 19011をはじめかなり以前から環境及び品質マネジメントシステムでの監査という概念は固まっていましたが、今回最も重要なのは細分箇条9. 2 . 1 のb)「有効に実施、維持されている」ことを確認するため定期的に内部監査を実施する――つまり内部監査で有効性を監査しなさいということが盛り込まれ

    ていることです。 1996年版から2004年版の改訂では「effectively(有効に)」ではなく「properly(適切に)」という言葉を意図的に使って、有効性の確認を内部監査から意図的に外しました。これは 90 年代前半のアメリカやカナダの新自由主義的な考え方で、有効でない経営システムを経営者が放っておくはずがない、内部監査で経営システムが有効かどうかはわからない、わかるのは経営者だけだから「適切」かどうかをきちんと報告してくれるだけでよい。「有効」でなければ経営者が改善するはずだから余計なことは書かないほうがいいという考え方で「適切に」となったわけです。 そんな中、「 11.事業プロセスへの統合」で説明したJABのコミュニケ(声明書)が出て、「マネジメントシステムの有効性」を審査しなさいということになった。ところがISO 14001 の要求事項にはこの内部監査ですら有効性監査が求められておらず、審査ができませんでした。だから今回、「有効に」が追加されてISO 9001と同様になったのです。

  • 図35/ISO 14001:2015 の要求事項⑰

    図36/ISO 14001:2015 の要求事項⑱

    064 環境管理│2016年 6月号│Vol.52 No.6

    特別寄稿③

    総説

    31. ISO 14001:2015の要求事項(9.3)

     9. 3「マネジメントレビュー」では従来、「インプット」と書かれていたのが「考慮しなさい」に変わりました(図34)。特徴としては、従来目標達成の程度など「結果」のレビューが主で、変化している周囲の状況という項目は一項目だけだったのですが、今回は「前回までのレビュー結果に対する処置の状況」の次に「次の事項の変化」――「EMSに関連する内部・外部の課題」、「順守義務を含む、利害関係者のニーズ及び課題」、「著しい環境側面」、「リスク及び機会」の考慮が求められています。それほど現在の経営を取り巻く環境は激変しており、状況が変化してしまえば、例えば環境目標を達成したといっても実は意味がないかもしれない。だからやはり変わったことをきちんとレビューして反映させていくということに重点が移っているわけです。 また「アウトプット」という書き方は継承して、「 EMSの適切性、妥当性及び有効性に関する結論」が含まれました(図 35)。つまり「有効性」をレビューし、その結論を書きなさいという要求になったのです。ただ「有効で

    すよ」というだけでなく、経営者が全体的にどう考慮してこれを有効と結論したのか、有効性に対する説明責任がベースになっているわけです。 次に「資源を含め、EMSの変更の必要性」や「必要な場合、環境目標が満たされていない場合の処置」。さらに重要なのは、「必要な場合、EMSの、他の事業プロセスへの統合を改善する機会」が要求されていることです。システムを構築するとき、一度決めてしまったら未来永劫変わらないということではいけない。事業プロセス自体が、毎年もしかしたら四半期で変わってしまうかもしれない。かつ、EMSでやらなければならない新しい課題が出てきた場合に、これは資材プロセス、購買プロセスの中でやらなければいけないとなったら、資材・購買担当役員にトップが指示をしてその中で対応しなければならない。ですから、事業プロセスも変わるし、環境としてやらなくてはいけないことも変わる。「事業プロセスへの統合」というのも常に動いていくわけです。

    32. ISO 14001:2015の要求事項(10)

     最後が 10「改善」です(図 36)。2015 年版の新規箇 条です が、ISO 9001 にはあった項目で、ISO 14001 では「継続的改善」はあっても「改善」がなかったことからつくられました。もともと「継続的改善」はEMS由来のもので、QMSでは「継続的改善」よりも「改善」が重要とされています。つまりQMSの「品質保証」とは、これから継続的に改善していくからとりあえずこの程度でという話では済みません。お客様の要求をきちんと保証するために、やるべきことをきちんとやらなければならない。それで何かあったら改善する。改善は継続的ではなくても、イノベーション等、大幅な一回だけの改善でもよい。QMSの 8 原則は 2015 年版で 7 原則に変わっており、「継続的改善」から「改善」に変わっています。ISO 9001 で細分箇条 10. 1 に入ったので、目次構成を合わせるために我 も々そこのエッセンスだけは入れたということです。 10. 2「不適合及び是正処置」は、リスクの概念を入れたことによって「予防処置」は明示的に消えています。ただb)の 3)「類似の不適合の有無、その発生の可能性を明確化する」というのがあります。つまり、不適合が起こって真の原因を見つけて、それを除去して再発防止の処置をとると、そこまでが是正処置となりますが、やはり起こったことをみて初めてこんなことが起こるのかと気付く。ではこんなことが起こるのなら次はこんなことも起こるかもしれないという類似の考察を行う、そういうことです。これも組織次第でどこまで広げるか決まります。

  • 図37/規格作成者として、EMS審査員への期待

    065

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    ISO

    14001:2015の改訂内容について(後編)

    報告

     ただし類似のことをきちんと考えれば、「不適合及び是正処置」を契機として、やらなければならないその延長上にある従来の狭い意味での予防処置というものはカバーすることができるわけです。つまり、決して予防処置の概念が完全にこの是正処置から削除されたわけではありません。 最後に10. 3「継続的改善」。これは「EMSの適切性、妥当性及び有効性を継続的に改善する」。そこに「環境パフォーマンスを向上させるために」が追加されました。

    33. 規格作成者として、EMS審査員への期待

     2015 年改訂にどれくらい大きなインパクトがあるのか。環境優良企業といわれるような大企業においてはすでに対応済みのところもあれば、いまだ「紙・ごみ・電気」でやっているところにとっては非常に大きなギャップがあります。そのインパクトは組織によって異なります。 ただ要求事項が大きく変わったということは事実であり、それはIAFのドキュメントに明記されています。ではなぜそのような大きな変更が起こったのか。――環境の悪化が止まらない、それに対して市民社会がいろいろな要求を強めていく。これに対してきちんとISO 14001が対応できなければ存在価値がなくなってしまうという大変な危機感のもとでつくられたわけです。ですから、2004 年版のちょっとした延長という認識で、小手先で認証を継続するなんていうことをやっていると、やがて大変大きな失敗をしたり、つまずいたりすることになるでしょう。 畑村洋太郎さんという福島原発事故原因究明の調査委員長もやられた失敗学の提唱者の方が著書『 失敗学のすすめ』で書いています。「 TQCなどを取り入れている多くの組織の社員は管理のための書類作りに精を出しているだけで、新しいことに挑戦する意欲をすっかりなくしている姿を多々見かけます」、「 ISO の採用についても、形だけ整えればよいという風潮がひそかに広がっています。このような実態からの乖離は、失敗学の観点からすると最も重大な危険の種となります」と。 時代の要請に応える形に変わることができない組織は、必ずその実態とのズレから大きな失敗をすると言っているわけです。実際、畑村さんの予言どおり、2005 年前後に大防法違反のデータ改ざん事件など多くの問題が噴出しました。2010 年に出版された『 失敗学実践講座』には「時代の要請に応えられる形に変わることができない組織は、必ず実態とのズレから大きな失敗をします」と書かれていましたが、翌年には原発事故が起こっているわけです。 今回の改訂は、アメリカの主査が 2030 年まで今後

    15 年から20 年に渡って十分有効な仕組みを規定したといっています。組織の立場でも審査の立場でも、この改訂の意図、目的、これをきちんと反映した適用と適正な審査、これをぜひ実行に移していただきたいと思います。