大学院総合科学技術研究科(修士課程) - Shizuoka University...令和2(2020)年度 大学院総合科学技術研究科(修士課程) 工学専攻 学生募集要項
技術者と倫理 -...
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技術者と倫理
スペースシャトル・チャレンジャー号の惨事1986年1月
今後望まれる技術者(JABEE)
1)数理科学,自然科学および人工科学等の知識を駆使
2)社会や環境に対する影響を予見しながら資源と自然力を経済的に活用
3)人類の利益と安全に貢献するハード・ソフトの人工物やシステムを研究・開発・製造・運用・維持する専門職業に携わる専門職業人
Professional Engineer
Profession:聖職
⇒ 日本では,医師,弁護士など
⇒ 米国では,Engineerも
日本のEngineer に職業を尋ねると
多くの答えは ⇒ 「会社員」や「公務員」
全米プロフェッショナル・エンジニア協会
の倫理綱領
◇プロフェッショナルとしての責務を遂行するにあたり,公衆の安全,健康,福利を最優先しなければならない。
◇エンジニアは,常に自らの第一の義務が公衆の安全,健康,財産,福利を守ることであるのを認識していなければならない。
日米の比較
<米国>・詳細な規則や手順書が必要とされる社会・事故発生⇒原因究明(刑事免責)と情報公開を優先⇒民事訴訟,弁護士(懲罰的賠償)に依存
<日本>・集団活動,改善活動 ⇒ 世界に冠たる安全と品質・事故発生⇒刑事訴追(業務上過失罪)を優先⇒技術的真相解明と情報公開は二の次
・JABEE
・技術士制度の改正日本の技術者倫 理 ⇒
◇”公衆に対する義務“よりも”雇用主に対する義務が優先“されやすい
◇ 技術者は“社会に特別の責任”を負う
・技術は危険なものを安全に利用する知恵
・高度化した技術は一般大衆には理解できない
・技術が巨大な力を持つようになった
シティーコープ・ビル・1977年 マンハッタンに完成
・シティの負担で街区の一角にあった古い教会を建て替え
・代償に上空の占有権を譲り受け,59階建てのビル
・9階分の高さの4本の巨大な柱 ⇒ ビルの本体部分は軽量構造⇒8階ごとに“すじかい” (⇒ 重量を主柱に)
+ 屋上重量ダンパー
設計:ウイリアム・ルメジャーの設計事務所
翌年:・某大学建築科の学生から電話
「指導教授が主柱は辺の真ん中ではなく,4 隅
にあるべきだと主張」
・ルメルジャーは,「あなたの先生は私の設計を理
解していない。かえって対角方向の風に強くなっ
ている。」と反論
ニューヨーク市の建築基準:直角方向の風に対する強度
計算だけ ⇒ 誰も対角方向の計算はしていない
ルメジャーは
・この1月前に,「設計では“すじかい”接合部は溶接とあるのに,コスト高のために施工では “ボルト締め”に
変更」になっていたことを知る
・これでも,ニューヨークの建築基準は十分満足
・対角方向の風の影響について,講師を務めるハーバード大学建築科での学生の課題にしようと考え,授業準備にために計算
予想外の計算結果
対角方向の風が吹くと,直角方向の場合より
・“すじかい”の半数は,40%余分の力を受ける
・接合部のボルトにかかる力は,160%も増える
事務所のニューヨーク分室で確認すると
・工事仕様の変更に際して,対角方向の風については計算していない
・“すじかい”は,柱ではなく梁の基準を適用
設計の過程で風洞実験を依頼したカナダの大学の耐風工学の専門家に相談
風のゆれを考えると,ルメルジャーの計算より大きな力がかかる
過去の気象データから「16年に一度の嵐」でビルは倒壊
一晩悩み,苦しむ 建築家としての評判,莫大な損害賠償
ルメジャーは,ビル倒壊の確率を知っているのも,大惨事を防げるのも自分だけだと考え
設計事務所が加入している損害賠償保険会社と,ビル建設を請け負ったゼネコンに通報
構造を補強する計画を立て,それに必要な時間と費用を見積もり,すぐにシティーコープにすべてを報告
シティーコープは,補強計画を受け入れ,直ちに実行
補強工事
・ニューヨーク市,ニューヨーク市警察,赤十字にも協力を要請して緊急事態に備える
・テナントや一般市民に不安を与えないように,深夜に集中して行う
補強工事がなかば進んだ頃,ハリケーンがニューヨークに向かって北上
⇒ 「200年に一度の嵐」に耐えられるまでに
工事が完了後 ⇒ 「700年に一度の嵐」に耐えられるまでに
工事終了の後
シティーコープへ払う損害賠償金は,当初400万ドルとも,800万ドルとも言われたが,ルメルジャーの行動が高く評価され,200万ドルに
保険会社が全額支払
ルメルジャーの責任ある行動を評価して,以後の保険料率を引き下げ
この事例から学ぶこと
1.公衆の安全,健康,福利を最優先に考え,行動する
2.日頃から尊敬できる相談相手をつくっておくこと,そし
て問題に出会ったら相談すること
3.日頃から周りの人と何でも話し合い,意見やアイデア
の表明は積極的に
4.倫理にかかわる問題に出会ったら,担当部署に相談
する,自分や関係者の言動を正確に記録する
事例研究
1.仮想事例「ゴルフボール」を題材にグループ討論を通し
て,“自分が鈴木さんだったらどうするか”について考え
よう
2.実際の事例についても考えてみよう
例:チャレンジャー事故 みずほ銀行システムトラブル
東海村核燃料工場臨界事故
雪印乳業食中毒事件 東京電力トラブル隠し
三菱自動車クレーム隠し など
課題 9次の事例の中から一つを選び,技術倫理の立場から考察し,レポートとしてまとめなさい。
1)仮想事例「ゴルフボール」2)実際の事例:チャレンジャー事故 みずほ銀行システムトラブル,東海村核燃料工場臨界事故,雪印乳業食中毒事件,東京電力トラブル隠し,三菱自動車クレーム隠し など
提出締め切り:7月31日
グループ討論
色々なやり方があるけど,全員が自由に楽しく意見を言えるやり方がいいよね。
グループ討論はどうやってやるのですか?
グループ討論(1)
・5~6名でグループ討論
・リーダー、記録係、発表係を決める
◇グループリーダー・進行と時間管理 ・コミュニケーションの促進・問題点の焦点を明確に,交通整理を
◇記録係・グループでの討論の経過,まとめを記録
◇発表係・グループを代表して,グループでの討議の結果を発表
グループ討論(2)
a)主題について討論
・自分の意見・発言,他人の意見・発言 → メモ
・討論中に気付いたこと,思いついたことなど → メモ
・メモする内容は文章よりもキーワードや記号を
→ メモ中に自分の思考を中断することが少なく,
後で整理するうえでも好都合
メモの仕方
メモの仕方の例(1)
メモの仕方の例(2)
グループの意見をまとめるには,どうしたらいいですか?
グループ討論(3)
b)グループとしての「まとめ」→ 合意に達するために以下のことに留意
・論理を重視し,感情的にならない。・意見の相違は→ 「意思決定の障害としてより,むしろ多面的に物事を把握する上での助けになる」と,プラス思考に考える。
・投票による多数決,決定のためだけの妥協などのテクニックは用いない。
参考書
• 川喜多二郎:「発想法」,中公新書(中央公論社)
• 斎藤 孝:「ストレス知らずの対話術」,PHP新書(PHP研究所)
• 木下是雄著:「理科系の作文技術」,中公新書(中央公論社)
• 池上 彰:「伝える力」,PHPビジネス新書(PHP研究所)