第18回群馬緩和医療研究会 - Gunma University ·...

2
第18回群馬緩和医療研究会 時:平成 209 28( ) 10:30 17:00 所:群馬県民会館 小ホール マ:緩和医療における症状マネジメント ―呼吸器症状に対するチームアプローチ― 当番世話人:小林 , 大井寿美江 (独立行政法人国立病院機構西群馬病院) 一般演題> 1.がん専門診療施設における麻薬使用量調査 猿木 信裕 (群馬県立がんセンター 麻酔科) 丸山 洋一 (新潟県立がんセンター新潟病院 麻酔科) 【はじめに】 2002年にフェンタニル貼付剤, 2003年に オキシコドン徐放錠および塩酸モルヒネのアルミ分包液 が臨床使用可能となり, 我が国においてもオピオイド ローテーションの概念が普及しつつある. 厚生労働省が ん研究助成金研究班 (16 - 2猿木班) では, 全国がん ( 成人 ) センター協議会 ( 以下, 全がん協) 加盟施設の協力を 得て, 2004年から全がん協加盟施設の麻薬使用量調査を 開始したのでその結果を報告する. 【対象および方法】 全がん協加盟 30施設における 20031月から 200612月まで 4年間の麻薬使用量を調査した. 各施設にはす べてのオピオイドについて入院処方, 自院外来処方, 外処方それぞれの 1年間毎の使用量の集計をお願いし . 各オピオイドの使用量はその効力に応じて経口モル ヒネ 10mg 相当量に換算した数値を用いた. 【結 果】 全がん協加盟施設の全オピオイド使用量は年々増加し . 使用量が最も多かったのはフェンタニルであり, 酸モルヒネ使用量は年々減少し, オキシコドンの使用量 は年々増加した. 外来処方率が 50 %を超えたのは経口硫 酸モルヒネ, オキシコドンであった. 【考 察】 2006 6月がん対策基本法が成立し, 緩和医療の推進が大き な課題となり, 全国の麻薬使用量が「がんの統計 2007 に掲載されることとなった. 全がん協加盟施設の麻薬使 用量を全国と比較するとモルヒネは全国使用量の 7.9, フェンタニル 4.5 , オキシコドン 9.8 %となり, 全がん 協加盟施設では全国の施設と比較し, フェンタニルの使 用量が低く, オキシコドンの使用量が高かった. 群馬に おいてもがん診療連携拠点病院を中心にこうした麻薬使 用量調査を継続して行うことにより, 緩和医療対策の評 価が可能になると思われた. 2.ケタラールの経口投与の使用経験 神戸奈美恵,苅部 舞,金沢 真実 北爪 一成,清水 政子,須藤 弥生 土屋 道代,小保方 馨,岡野 幸子 田中 俊行 (前橋赤十字病院 かんわ支援チーム) 【はじめに】 医療用麻薬でがん性疼痛をコントロールす ることが緩和チームの支援のひとつである. 現在, 日本 で使用可能な医療用麻薬は 4種類ある. その中のひとつ の塩酸ケタミン ( 以下ケタラール) は神経因性疼痛に対 する鎮痛補助薬として使用している. 今回, ケタラール 以外の医療用麻薬でコントロールが不良な患者に, ケタ ラールを経口投与した症例を経験したので報告する. 【対 象】 200710月-20086月までに身体的苦痛 で「かんわ支援チーム」に依頼があり,WHO 3段階除痛 ラダーに沿い NSAIDsや医療用麻薬を使用するも疼痛 の改善が見込めず, ケタラールを使用した患者は 22( 腰痛症 2症例を含む) であった. そのうち, 経口投与に 切り替えた患者 6例を対象とした. 【方 法】 静注用 ケタラール (200mg / 20ml) の持続静脈 ( 皮下) 投与を行 , 必要量を設定したあと, ケタラールを単シロップに まぜ一日 4回を原則に経口投与した. 口腔のあれの予防 にアロプリノール含嗽水を定期的に使用した. 【結 果】 静脈 ( 皮下) 投与から経口投与へ移行した症例は 27 (22例中 6) ,3,3,平均 62.8歳で,療科は, 消化器科 2, 泌尿器科 1, 乳腺甲状腺 1, 腎臓内科 1( 腰痛症), 循環器科 1( 腰痛症) , 骨転 移は腰痛症を除く 4例に認めた. 全例 NSAIDsを使用 , 医療用麻薬は, 経口モルヒネ換算で平均 438.8mg 投与していた. ケタラールの経口投与する前は, 持続静 脈投与 3, 持続皮下投与 4( 重複 1例あり) であっ . 投与経路を経口に変更したことで, 痛みスケールや レスキューの使用回数の増大はなかった. 有害事象とし 179 Kitakanto Med J 2009;59:179~190

Transcript of 第18回群馬緩和医療研究会 - Gunma University ·...

Page 1: 第18回群馬緩和医療研究会 - Gunma University · 以外の医療用麻薬でコントロールが不良な患者に,ケタ ラールを経口投与した症例を経験したので報告する.

第18回群馬緩和医療研究会

日 時:平成 20年 9月 28日 (日) 10:30~17:00

場 所:群馬県民会館 小ホール

テ ー マ:緩和医療における症状マネジメント

―呼吸器症状に対するチームアプローチ―

当番世話人:小林 剛,大井寿美江

(独立行政法人国立病院機構西群馬病院)

一般演題>

1.がん専門診療施設における麻薬使用量調査

猿木 信裕

(群馬県立がんセンター 麻酔科)

丸山 洋一

(新潟県立がんセンター新潟病院 麻酔科)

【はじめに】 2002年にフェンタニル貼付剤, 2003年に

オキシコドン徐放錠および塩酸モルヒネのアルミ分包液

が臨床使用可能となり,我が国においてもオピオイド

ローテーションの概念が普及しつつある.厚生労働省が

ん研究助成金研究班 (16-2猿木班)では,全国がん (成人

病)センター協議会 (以下,全がん協)加盟施設の協力を

得て, 2004年から全がん協加盟施設の麻薬使用量調査を

開始したのでその結果を報告する.【対象および方法】

全がん協加盟 30施設における 2003年 1月から 2006年

12月まで 4年間の麻薬使用量を調査した.各施設にはす

べてのオピオイドについて入院処方,自院外来処方,院

外処方それぞれの 1年間毎の使用量の集計をお願いし

た.各オピオイドの使用量はその効力に応じて経口モル

ヒネ 10mg相当量に換算した数値を用いた.【結 果】

全がん協加盟施設の全オピオイド使用量は年々増加し

た.使用量が最も多かったのはフェンタニルであり,硫

酸モルヒネ使用量は年々減少し,オキシコドンの使用量

は年々増加した.外来処方率が 50%を超えたのは経口硫

酸モルヒネ,オキシコドンであった.【考 察】 2006

年 6月がん対策基本法が成立し,緩和医療の推進が大き

な課題となり,全国の麻薬使用量が「がんの統計 2007」

に掲載されることとなった.全がん協加盟施設の麻薬使

用量を全国と比較するとモルヒネは全国使用量の 7.9%,

フェンタニル 4.5%,オキシコドン 9.8%となり,全がん

協加盟施設では全国の施設と比較し,フェンタニルの使

用量が低く,オキシコドンの使用量が高かった.群馬に

おいてもがん診療連携拠点病院を中心にこうした麻薬使

用量調査を継続して行うことにより,緩和医療対策の評

価が可能になると思われた.

2.ケタラールの経口投与の使用経験

神戸奈美恵,苅部 舞,金沢 真実

北爪 一成,清水 政子,須藤 弥生

土屋 道代,小保方 馨,岡野 幸子

田中 俊行

(前橋赤十字病院 かんわ支援チーム)

【はじめに】 医療用麻薬でがん性疼痛をコントロールす

ることが緩和チームの支援のひとつである.現在,日本

で使用可能な医療用麻薬は 4種類ある.その中のひとつ

の塩酸ケタミン (以下ケタラール) は神経因性疼痛に対

する鎮痛補助薬として使用している.今回,ケタラール

以外の医療用麻薬でコントロールが不良な患者に,ケタ

ラールを経口投与した症例を経験したので報告する.

【対 象】 2007年 10月-2008年 6月までに身体的苦痛

で「かんわ支援チーム」に依頼があり,WHO 3段階除痛

ラダーに沿いNSAIDsや医療用麻薬を使用するも疼痛

の改善が見込めず, ケタラールを使用した患者は 22例

(腰痛症 2症例を含む)であった.そのうち,経口投与に

切り替えた患者 6例を対象とした.【方 法】 静注用

ケタラール (200mg/20ml)の持続静脈 (皮下) 投与を行

い,必要量を設定したあと,ケタラールを単シロップに

まぜ一日 4回を原則に経口投与した.口腔のあれの予防

にアロプリノール含嗽水を定期的に使用した.【結

果】 静脈 (皮下) 投与から経口投与へ移行した症例は

27% (22例中 6例)で,男 3例,女 3例,平均 62.8歳で,診

療科は,消化器科 2例,泌尿器科 1例,乳腺甲状腺 1例,

腎臓内科 1例 (腰痛症),循環器科 1例 (腰痛症)で,骨転

移は腰痛症を除く 4例に認めた. 全例NSAIDsを使用

し,医療用麻薬は,経口モルヒネ換算で平均 438.8mgを

投与していた.ケタラールの経口投与する前は,持続静

脈投与 3例, 持続皮下投与 4例 (重複 1例あり) であっ

た.投与経路を経口に変更したことで,痛みスケールや

レスキューの使用回数の増大はなかった. 有害事象とし

179Kitakanto Med J

2009;59:179~190

Page 2: 第18回群馬緩和医療研究会 - Gunma University · 以外の医療用麻薬でコントロールが不良な患者に,ケタ ラールを経口投与した症例を経験したので報告する.

て,1例に口腔のあれを認めたため中止した.呼吸抑制な

ど重篤な有害事象はなかった.在宅療養に移行できたの

は 5例で,死亡退院は 1例であった.平均入院日数は 67

日であった.【結 語】 NSAIDsや医療用麻薬で除痛

が困難な症例に,痛みの増強なくケタラールを経口投与

にすることができた.また,疼痛のコントロールに難渋

するため入院日数が長くなる傾向にあった.目標が在宅

療養となれば,患者の負担を減らす方向で (静脈 (皮下)

投与の点滴チューブから解放するなど)可能な限り支援

していくことが必要と考える.

3.当院における一般病棟でのオピオイドローテーショ

ンの現状調査

眞中 章弘,小林 剛,奥澤 直美

(独立行政法人国立病院機構西群馬病院

疼痛緩和チーム)

【目 的】 これまで本邦のがん疼痛治療はモルヒネ偏重

とならざるをえない状況であったが,近年,経皮吸収型

フェンタニルパッチ (以下 FP)やオキシコドン徐放剤の

登場によりオピオイドローテーション (以下OR) が可

能になった.しかしその反面,選択肢の多さから同一患

者でのORも散見されるようになってきている.そこで

今回,当院における一般病棟と緩和ケア病棟でのORの

現状調査を行った.【方 法】 2006年 1月から 2007年

11月の間に当院入院中に行われたORについて retro-

spectiveに調査した.【結 果】 ORを行った患者は一

般病棟では 420人中 84人 (20%) 106件,緩和ケア病棟

では 219人中 69人 (32%) 70件であった. ORの理由

として,一般病棟ではコンプライアンスの上昇 (内服困

難など) 45件 (42%), 疼痛コントロール不良 23件

(22%),呼吸困難・咳嗽 20件 (19%),副作用対策 15件 (悪

心・嘔吐 7件,アレルギー症状 3件,せん妄 2件,便秘,腎

機能低下による傾眠,眠気各 1件) (14%),蠕動痛,倦怠

感,浮腫各 1件 (0.9%)であった.緩和ケア病棟ではOR

の理由としてコンプライアンスの上昇 (内服困難など)

38件 (54%),呼吸困難・咳嗽 15件 (21%),副作用対策 9

件 (悪心・嘔吐,腎機能低下による傾眠各 3件,せん妄 2

件,便秘 1件)(13%),疼痛コントロール不良 7件 (10%),

蠕動痛 1件 (1.4%)であった.【考 察】 一般病棟と緩

和ケア病棟のORを比較すると,一般病棟では一人あた

りのORの回数が多い傾向があった.これは,治療に伴

う病態の変化などによって生じた差であると考えられ

た.また,ORの理由として一般病棟では二番目に疼痛コ

ントロール不良によりORをしていた.これらの中には

経口徐放性製剤を鎮痛等量まで増量せずにORしてしま

うケースもあり, 増量に見合った徐痛が得られず再び

ORするケースもあった.安易なORを避け適切なOR

を行う為にチームによる丁寧な痛みのアセスメントを行

い,患者に安全かつ有効な疼痛治療を提供していくこと

が重要と考えられた.

4.当院『がん疼痛マネージメントマニュアル』の紹介

とその評価

深澤 一昭,神宮 彩子,関根菜光子

仁科 砂織,望月 裕子,吉田 長英

河合 弘進,平山 功

(済生会前橋病院 かんわケアチーム)

細内 康男 (同 外科)

がん患者はがんの診断時および治療開始前後から様々

な身体的苦痛や精神的苦しみを体験する.さらに病状の

進行に伴いそれらの程度・種類・頻度が大幅に増すこと

で日常生活も障害され, より緩和ケアの必要性が増大す

る.緩和ケアには全人的な痛み (Total pain)への多角的

なアプローチが必要とされるが,とりわけ身体的苦痛の

マネージメントはその基盤となり,それにおける薬物療

法はその主軸となすものと思われる.当院においても平

成 20年 4月に『かんわケアチーム』を立ち上げ,安全か

つ有効な薬物療法を推進することを目的に『がん疼痛マ

ネージメントマニュアル』の作成から活動を開始した.

このマニュアルは最新のエビデンスを基に①痛みの分

類,②痛みの評価,③治療目標の設定,④痛みの治療,⑤

副作用対策のカテゴリーに分類した上で,図や表,フ

ローチャートを多用することによって医療現場で活用し

やすいマニュアルとなるよう工夫して作成した.そこで

今回はこの『がん疼痛マネージメントマニュアル』の紹

介,さらに処方統計を基にしたオピオイド製剤使用状況

ならびに副作用対策実施状況の集計から,オピオイド導

入時における①オピオイド製剤 (ベース・レスキュー)の

適正使用,②NSAIDs併用状況,③ノバミンョ併用状況,

④下剤併用状況などをマニュアル運用前後で比較するこ

とにより本マニュアルの有用性についての評価を行った

ので合わせて報告したい.

5.緩和ケア病棟における地域連携の実際 ―グループ

ホームでの看取りの支援―

津金澤理恵子,藤井 智代,石塚 裕子

橋本かよ子 (公立富岡総合病院 PCU)

佐俣 雅和 (同 MSW)

佐藤 尚文,野田 大地 (同 外科)

【はじめに】 認知症ケアにおいて,本人を取り巻く人と

の関係,馴染みのモノや場所との関係,地域社会との関

係など,関わりの継続を支援することは安心感と状態の

安定を生み出す.認知症グループホーム (以下, GH)は,

この関わりのケアを大切にしている. 利用者にとって

第 18回群馬緩和医療研究会180