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男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン iii 排尿障害に対するガイドラインとして,すでに 2008 年に日本排尿機能学会か ら男性下部尿路症状診療ガイドライン,2011 年に日本泌尿器科学会より前立腺 肥大症診療ガイドラインが発行されています。この度,5 年ぶりにこれらを基に 改訂し,日本泌尿器科学会より一本化して新しく男性下部尿路症状・前立腺肥 大症診療ガイドラインを発行することとなりました。 一般医,泌尿器科専門医に分けて利用できるように配慮されており,最新の データに基づいて疫学,様々な病態に対する診断・治療法,QOL について非常 にわかりやすく解説されています。この領域では内科的治療として様々な薬剤 が次々と開発されてきており,その適応と有用性についての熟知が求められま す。一方で外科的治療として,新しい医療機器が開発され,より低侵襲な様々 な治療方法が導入されてきており,それらの利点,欠点を十分理解したうえで 適応を決定し治療していく必要があります。 すでに 65 歳以上の人口が,全人口の 25% という時代において前立腺肥大症 を含む男性下部尿路症状を主徴とする疾患はますます増加し,泌尿器科診療に おいてはさらに重要な分野となって参ります。このような時期に,これらの疾 患・病態に対する体系的なガイドラインが発行されることは泌尿器科医をはじ め,一般医にとりましても大変有益であると思います。 本ガイドラインを皆様方の日常の診療に役立てて頂き,本領域における診療 の質が向上していくことを切に願っております。 最後に,本ガイドライン作成に当たりご尽力賜りました委員の諸先生方に心 より感謝申し上げます。 2017 3 社団法人日本泌尿器科学会 理事長 藤澤 正人

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男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン iii

 排尿障害に対するガイドラインとして,すでに 2008年に日本排尿機能学会から男性下部尿路症状診療ガイドライン,2011年に日本泌尿器科学会より前立腺肥大症診療ガイドラインが発行されています。この度,5年ぶりにこれらを基に改訂し,日本泌尿器科学会より一本化して新しく男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドラインを発行することとなりました。 一般医,泌尿器科専門医に分けて利用できるように配慮されており,最新のデータに基づいて疫学,様々な病態に対する診断・治療法,QOLについて非常にわかりやすく解説されています。この領域では内科的治療として様々な薬剤が次々と開発されてきており,その適応と有用性についての熟知が求められます。一方で外科的治療として,新しい医療機器が開発され,より低侵襲な様々な治療方法が導入されてきており,それらの利点,欠点を十分理解したうえで適応を決定し治療していく必要があります。 すでに 65歳以上の人口が,全人口の 25%という時代において前立腺肥大症を含む男性下部尿路症状を主徴とする疾患はますます増加し,泌尿器科診療においてはさらに重要な分野となって参ります。このような時期に,これらの疾患・病態に対する体系的なガイドラインが発行されることは泌尿器科医をはじめ,一般医にとりましても大変有益であると思います。 本ガイドラインを皆様方の日常の診療に役立てて頂き,本領域における診療の質が向上していくことを切に願っております。 最後に,本ガイドライン作成に当たりご尽力賜りました委員の諸先生方に心より感謝申し上げます。

 2017年 3月

社団法人日本泌尿器科学会

理事長 藤澤正人

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男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン

iv

はじめに

背景と目的 本ガイドラインの目的は,前立腺肥大症を含む男性下部尿路症状を主徴とする疾患・病態に対する,適切な診療の指針を提示することである。先行する 2008年発行の男性下部尿路症状診療ガイドライン 1)と 2011年発行の前立腺肥大症診療ガイドライン 2)を基盤とし,これらを合併する形で,2016年末時点で内容を改訂した。

対象患者・利用者 対象患者は下部尿路症状を訴える中高齢の成人男性である。要介護高齢者や明らかな神経疾患による下部尿路障害を有する患者は除外される。利用者としては,対象患者の診療に関与する医師,薬剤師,看護師を想定した。医師は,日本泌尿器科学会認定専門医(専門医)と,それ以外の医師(一般医)に分けた。

使用方法・適応範囲 診療ガイドラインの推奨は強制されるべきものではなく,診療行為の選択肢を示すひとつの参考資料であって,患者と医療者は協働して最良の診療を選択する裁量が認められるべきである 3)。したがって,このガイドラインは診療の方向性を示唆するだけのものであり,規則や法的基準を示すものではなく,個々の治療の結果に対して責任を負うものでもない。

作成方法 作成は日本泌尿器科学会のガイドライン作成指針に従った。作成委員(別掲:1

名の内科医を含む)が,論文の収集・精読を通して分担部分の原案を書き,それを書面連絡および委員会会議での意見交換を行い修正して試案とした。それを評価委員(別掲)および日本泌尿器科学会の理事の校閲を受け,ホームページに一般公開して広く意見を聴取し修正して完成とした。

論文検索とレベルの表示 論文検索は,2010年以降の論文を対象とし,2016年 12月末に PubMedまたはMEDLINEで行った(Epub掲載も含む)。日本語の論文は必要に応じて同じキーワードを用いて医学中央雑誌(医中誌Web)で検索した。検索のキーワードは各項目の担当委員が選定した。この検索で得られた論文の中から重要なものを選んだ。これに,先行する男性下部尿路症状診療ガイドライン 1)と前立腺肥大症診療ガイドライン 2)に引用されている論文の一部,および検索以外の方法で得られた論文を加えて記述した。論文のレベル(I~V)は主に治療の論文について評価し,文献リストの

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男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン v

末尾に記載した(表 I)。ただし,ガイドラインはGL,Meta-analysisはMeta,Systematic

reviewは Syst,Systematicではない Reviewは総説と記載した。

推奨のグレード 推奨のグレード(表 III)は,「診療ガイドライン作成の手引き 2007」4)を参考として,論文のレベルとそこから導かれる根拠のレベル(表 II)に,結論の一貫性,効果の大きさ,適用性,副作用および費用などの治療の特性を加味し,委員の議論と合意を反映させて定めた(Consensual recommendation)(治療の章も参照)。

用語基準や他のガイドラインの略記 用語・訳語は 2002年の国際禁制学会(International Continence Society: ICS)による用語基準と,その和訳「下部尿路機能に関する用語基準:国際禁制学会標準化部会報告」に準拠し,「ICS用語基準」と略記した(表 IV)。 本邦の男性下部尿路症状診療ガイドライン,前立腺肥大症診療ガイドライン,米

表 I 論文のレベル

レベル 内容

RCT:無作為化比較試験注 1: 「大規模」の基準は各群の症例数 100例以上

を目安とする。注 2: 結果が明らかでない場合はレベルを 1つ繰り

下げる。注 3: 一定のプロトコールに従った介入研究など。

I 大規模な RCTで結果が明らかな研究注 1,注 2)

II 小規模な RCTで結果が明らかな研究注 2)

III 無作為割り付けによらない比較対照研究IV 前向きの対照のない観察研究注 3)

V 後ろ向きの症例研究か専門家の意見

表 II 根拠のレベル

レベル 内容1 複数の大規模 RCTまたはMeta-analysisや Systematic reviewに裏付けられる2 単独の大規模 RCTまたは複数の小規模 RCTに裏付けられる3 無作為割り付けによらない比較対照研究に裏付けられる4 前向きの対照のない観察研究に裏付けられる5 後ろ向きの症例研究か専門家の意見に裏付けられる

表 III 推奨のグレード

グレード 内容

推奨のグレードは,1)根拠のレベル,2)結論の一貫性,3)効果の大きさ,4)臨床上の適用性,5)副作用,6)費用に関する委員の議論と合意で定めた。

A 行うよう強く勧められるB 行うよう勧められるC 行うよう勧めるだけの根拠が明確でない

C1  行ってもよいC2  行うよう勧められない

D 行わないよう勧められる保留 推奨のグレードを決められない

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男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン

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国泌尿器科学会(AUA)の前立腺肥大症ガイドライン,欧州泌尿器科学会(EAU)の神経疾患以外の前立腺肥大症を含む男性下部尿路症状ガイドラインは,本文中で各々MLGL,BPHGL,AUAGL,EAUGLと略記することがある。引用する場合は,各々 a),b),c),d)と記載した。

その他の略語 本文中にしばしば使用される略語を表 Vにまとめて示した。これらは本文中に断りなく略語で表記されることがある。

表 IV 用語基準やガイドラインの略記と引用の様式

正式名称 略記 引用

Abrams P, Cardozo L, Fall M, Griffiths D, Rosier P, Ulmsten U, van Kerrebroeck P, Victor A, Wein A. The standardisation of terminology of lower urinary tract function: report from the standardisation sub-committee of the International Continence Society. Neurourol Urodyn 2002; 21: 167–178

本間之夫,西沢 理,山口 脩.下部尿路機能に関する用語基準:国際禁制学会標準化部会報告.日排尿機能会誌 2003; 14: 278–289

ICS用語基準

日本排尿機能学会 男性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会 編.男性下部尿路症状診療ガイドライン.ブラックウェルパブリッシング,2008

MLGL a)

日本泌尿器科学会 編.前立腺肥大症診療ガイドライン.リッチヒルメディカル,2011 BPHGL b)

AUA Guideline on the Management of Benign Prostatic Hyperplasia(BPH).http://www.auanet.org/content/guidelines-and-quality-care/clinical-guidelines.cfm AUAGL c)

EAU Guideline. Treatment of Non-neurogenic Male LUTS.https://uroweb.org/guideline/treatment-of-non-neurogenic-male-luts/ EAUGL d)

表 V 略語一覧

略語 英語 日本語

BPH Benign Prostatic Hyperplasia 前立腺肥大症CLSS Core Lower Urinary Tract Symptom Score 主要下部尿路症状スコアED Erectile Dysfunction 勃起障害ICS International Continence Society 国際禁制学会IIEF International Index of Erectile Function 国際勃起機能スコアIPSS International Prostate Symptom Score 国際前立腺症状スコアLUTS Lower Urinary Tract Symptom 下部尿路症状MLUTS Male Lower Urinary Tract Symptom 男性下部尿路症状OAB Overactive Bladder 過活動膀胱OABSS Overactive Bladder Symptom Score 過活動膀胱症状スコアPDE5 Phosphodiesterase-type 5 ホスホジエステラーゼ 5

PFS Pressure-Flow Study 内圧尿流検査PSA Prostate Specific Antigen 前立腺特異抗原QOL Quality of Life 生活の質RCT Randomized Controlled Trial 無作為化比較試験TURP Transurethral Resection of the Prostate 経尿道的前立腺切除術

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男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン vii

利益相反 本ガイドラインは社会貢献を目的として作成されたものである。各委員個人と企業間との講演活動等を通じた利益相反は存在する。しかし,本ガイドラインの勧告内容は,科学的根拠に基づくものであり,特定の団体や製品・技術との利害関係により影響を受けたものではない。作成に要した費用は,日本泌尿器科学会のガイドライン作成助成金により賄われた。なお,作成委員と理事の利益相反は日本泌尿器科学会に届けられ,利益相反委員会により重大な支障となる利益相反問題はないと判断された。

修正・改訂 本ガイドラインは,日本泌尿器科学会のガイドライン作成指針に従い,毎年見直しを行い修正または改訂を行う予定である。

公開 本ガイドラインは,作成後すみやかに日本泌尿器科学会の限定公開サイトであるJUA Academyに公開される。1年後からは,Mindsガイドラインセンター(http://

minds.jcqhc.or.jp/n/top.php)をはじめ,その他の学術団体の要請があれば公開される予定である。

 本ガイドラインが前立腺肥大症の診療に少しでも役立てば,作成委員一同の幸いとするところである。

  2017年 4月

男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン作成委員一同

参考文献1) 日本排尿機能学会男性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会編.男性下部尿路症状診療ガイドライン.ブラックウェルパブリッシング,2008

2) 日本泌尿器科学会編.前立腺肥大症診療ガイドライン.リッチヒルメディカル,20113) Mindsからの提言.診療ガイドライン作成における法的側面への配慮について.EBM普及推進事業.2016.http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/guideline/pdf/Proposal1.pdf

4) Minds診療ガイドライン選定部会監.診療ガイドライン作成の手引き 2007.医学書院,2007