英国BIM政策とその情報インフラについて
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(一財)建築コスト管理システム研究所 総括主席研究員岩松 準
英国のBIM普及率は既に60%超 昨 秋、BIM(Building Information Modeling)がテーマの訪英調査の機会を得た。この国でBIMがどれくらい進展しているのかに関して、王立建築家協会(RIBA)傘下で建築仕様書を扱うNBS
(National Building Specification)という機関が、2011年から継続して調べている。「NBS National BIM Report 2017」(同年7月発行)によると、
「60%超が既にBIMを使い、3年以内に95%が使う見込み」となっている。 NBSは、ロンドンから特急電車で4時間のイングランド北部の工業都市ニューカッスル市にある。付近一帯のダラム炭田は18世紀末からの産業革命を支えた。この都市にはかつて、明治政府が導入したアームストロング砲の工場があった。中心を流れるタイン川は船舶が行き交えるよう、有名なシドニー・ベイブリッジとそっくりなTyne Bridgeや 可 動 橋 のSwing BridgeとMillennium Bridge等の珍橋が架かる(写真1)。NBSはこの
地で40年以上、建築工事、エンジニアリング、ランドスケープ各分野の仕様書開発や情報サービスの提供に関わってきた。鉄道駅近くの歴史ある郵便局舎をモダンに改造したオフィスには250人ほどが働く。最近は、後述する英政府のBIM推進策に沿う関連サービスに深く関わっている。 前記レポートは、NBSの顧客へのアンケート結果だが、先端的BIMユーザーだけでなく、一般的なレベルの建設関係者を含む数字と思われる。既に60%超がBIMを利用中というのは、英国ではここにきて爆発的にその普及が進んだことを物語る。この点は、今回筆者がロンドンで見聞きした調査実感とも符合する。 一方、日本では、BIM導入のコストとメリットがバランスしない状況で、まだまだ一部の先端事例が紹介される程度ではなかろうか。日本で
「BIM元年」と言われた2009年から随分と経過したのだが、建築分野でのBIM普及にはまだ遠いのではと思われる。この点、日本では案外、公共土
木分野が先行しているのかもしれない。 なぜ、このように英国でBIMは進展したのか? 一口に言うと、建設業界トップや英政府のリーダーシップに基づく、
「サプライサイドのプッシュ戦略」と「クライアントサイドのプル戦略」により、BIMを強力に推進したからだ。プッシュ-プル(Push-Pull)はマーケティング戦略用語から来たものだが、それを具体的に説明してみよう。
写真1 タイン川に架かる珍しい橋(ニューカッスル)
建築コスト研究 No.101 2018.4 77
英国のBIMマーケティング戦略 2011年3月のコスト研調査で、筆者が英国を訪れた際、建設業界のエキシビションEcobuildのBIMセミナーを予約して覗いたことがある。熱心に議論する参加者の姿に、BIMへの高い関心を感じた。当時の調査で見聞きした実施例は、日本と大差のないレベルだったと記憶している。 しかし、同年5月に英国内閣府は「2011年政府建 設 戦 略:Government Construction Strategy
(GCS)」という約40頁の文書(図1上)を公表し、遅くとも2016年までに3D BIMを公共調達で義務付けた。つまり、「すべてのプロジェクトとアセットの情報、文書及びデータをBIMで電子的なものにする!」と宣言したのであった。これは後 に“UK governmentʼs BIM level 2 mandate”
(BIMレベル2により公共調達を行う英政府の命令)、あるいは単純に“BIM mandate”と呼ばれ、2016年4月4日(月)がその日に定められた。 つまり、英政府はトップダウンで、約5年の猶
予期間のうちに、公共発注者並びに建設業界にBIMへ対応するよう仕向けたのである。これはクライアントサイド(あるいは、公共発注者側から)のプル戦略(引っ張り上げる戦略)と言ってよい。 図2は「BIM成熟モデル」と呼ばれる有名な図で、政府文書や規格文書にも多出する。BIMの進展度合いをレベル0~3で定義しており、太いラインがレベル2を示すのが分かる。レベル3に は、 ラ イ フ サ イ ク ル 等(Lifecycle asset management)の語が見える。詳細は確定していないものと思われるが、2025年までには実現される見通しの「レベル3」の内容規定をめぐって議論が続けられている。 また、この図2の下半分には関係する規格文書
(スタンダード)の番号が記されており、政府等の発注者が求めるBIM要件や内容がハッキリとする。レベルが上がるとともに、BIMに求められる内容も‘成熟する’のである。なお、この図自体
BIM セミナーを予約して覗いたことがある。熱心
に議論する参加者の姿に、BIM への高い関心を感
じた。当時の調査で見聞きした実施例は、日本と
大差のないレベルだったと記憶している。しかし、
同年5月に英国内閣府は「2011年政府建設戦略:
Government Construction Strategy(GCS)」とい
う約 40 頁の文書(図 2 上)を公表し、遅くとも
2016 年までに3D BIM を公共調達で義務づけた。
つまり、「すべてのプロジェクトとアセットの情報、
文書及びデータをBIMで電子的なものにする!」
と宣言したのであった。これは後に“UK
government’s BIM level 2 mandate”(英政府の
BIMレベル2の権限・指令)、あるいは単純に“BIM
mandate”と呼ばれ、後に2016年4月4日(月)
がその日に定められた。つまり、英政府はトップ
ダウンで、約5年の猶予期間のうちに、公共発注
者並びに建設業界にBIMへ対応するよう仕向けた
のである。これはクライアントサイド(あるいは、
公共発注者側から)のプル戦略(引っ張り上げる
戦略)といってよい。
図 3は「BIM 成熟モデル」と呼ばれる有名な図
で、政府文書や規格文書にも多出する。BIM の進
展度合いをレベル0~3で定義しており、赤い太い
ラインがレベル2を示すのが分かる。レベル3に
は、ライフサイクルマネジメント等の語がみえる。
詳細は確定していないものと思われるが、2025年
までには実現される見通しの「レベル 3」の内容
規定を巡っての議論が続けられている。
また、この図3の下半分には関係する規格文書
(スタンダード)の番号が記されおり、政府等の
発注者が求めるBIM要件や内容がハッキリとする。
レベルが上がるとともにBIMに求められる内容も
‘成熟する’のである。なお、この図自体も随時
書き換えられているほか、強調されるポイントの
違いによる様々なバリエーションが見られる。こ
こに書き込まれた規格文書の背後には、ガイドラ
イン、標準コード分類、デリバリー等の関係文書
が控えており、これら公式文書の更新作業は淡々
(注)上:2011.5、下:2016.3発行 図2 英建設産業戦略書
(注)http://bim-level2.org/より。このサイトから本図にあるBS、PAS規格文書一式を入手可。
政府調達で2016年4月に「レベル2」の適用開始。現在「レベル3」のルール作りを模索中。 図3 英国「BIM 成熟モデル」(©2008/2016 Bew-Richards)
図1 英国建設産業戦略書
(注)上:2011.5、下:2016.3発行
BIM セミナーを予約して覗いたことがある。熱心
に議論する参加者の姿に、BIM への高い関心を感
じた。当時の調査で見聞きした実施例は、日本と
大差のないレベルだったと記憶している。しかし、
同年5月に英国内閣府は「2011年政府建設戦略:
Government Construction Strategy(GCS)」とい
う約 40 頁の文書(図 2 上)を公表し、遅くとも
2016 年までに3D BIM を公共調達で義務づけた。
つまり、「すべてのプロジェクトとアセットの情報、
文書及びデータをBIMで電子的なものにする!」
と宣言したのであった。これは後に“UK
government’s BIM level 2 mandate”(英政府の
BIMレベル2の権限・指令)、あるいは単純に“BIM
mandate”と呼ばれ、後に2016年4月4日(月)
がその日に定められた。つまり、英政府はトップ
ダウンで、約5年の猶予期間のうちに、公共発注
者並びに建設業界にBIMへ対応するよう仕向けた
のである。これはクライアントサイド(あるいは、
公共発注者側から)のプル戦略(引っ張り上げる
戦略)といってよい。
図 3は「BIM 成熟モデル」と呼ばれる有名な図
で、政府文書や規格文書にも多出する。BIM の進
展度合いをレベル0~3で定義しており、赤い太い
ラインがレベル2を示すのが分かる。レベル3に
は、ライフサイクルマネジメント等の語がみえる。
詳細は確定していないものと思われるが、2025年
までには実現される見通しの「レベル 3」の内容
規定を巡っての議論が続けられている。
また、この図3の下半分には関係する規格文書
(スタンダード)の番号が記されおり、政府等の
発注者が求めるBIM要件や内容がハッキリとする。
レベルが上がるとともにBIMに求められる内容も
‘成熟する’のである。なお、この図自体も随時
書き換えられているほか、強調されるポイントの
違いによる様々なバリエーションが見られる。こ
こに書き込まれた規格文書の背後には、ガイドラ
イン、標準コード分類、デリバリー等の関係文書
が控えており、これら公式文書の更新作業は淡々
(注)上:2011.5、下:2016.3発行 図2 英建設産業戦略書
(注)http://bim-level2.org/より。このサイトから本図にあるBS、PAS規格文書一式を入手可。
政府調達で2016年4月に「レベル2」の適用開始。現在「レベル3」のルール作りを模索中。 図3 英国「BIM 成熟モデル」(©2008/2016 Bew-Richards)
図2 英国の「BIM成熟モデル」(©2008/2016 Bew-Richards)
(注) http : //bim-level2.org/より。このサイトから本図にあるBS、PAS規格文書一式を入手可。政府調達で2016年4月に「レベル2」の適用開始。現在「レベル3」のルール作りを模索中。
建築コスト 遊学[35]
78 建築コスト研究 No.101 2018.4
も随時書き換えられているほか、強調されるポイントの違いによる様々なバリエーションが見られる。ここに書き込まれた規格文書の背後には、ガイドライン、標準コード分類、デリバリー等の関係文書が控えており、これら公式文書の更新作業は淡々と進められている様子だ 1 。 このような整然と構成された規格文書類とあわせて、実務に携わる建設関係者向けに、関係法令や標準約款の整備、各種研修コースの実施、ソフトウェア開発等が進む。こうした条件整備によって、英国ではBIMを使うメリットが徐々に増しているのではないか。これらはサプライサイド(あるいは、建設業界側)へのプッシュ戦略(押し出す、あるいは、仕向ける戦略)と言えるだろう。 10年前(2008年)に初めて図2を描いたのは、2 人 の コ ン サ ル タ ン トMark BewとMervyn Richardsで、この図の中にもその名が見える。筆者が覗いた上記BIMセミナーでは、Mark Bewがパネリストの一人だった。氏は今も、2015年2月に公開された「Digital Built Britain(DBB:英国デジタル建設)」(図3)という新しい政府の建設戦略(その推進センター(CDBB)は2018年にケ
1 例えば、建設プロジェクトの進捗段階を規定する英国建築家協会(RIBA)の伝統的な文書であるRIBAワークプランの2013年版(Digital Plan of Work)への改訂を始め、契約実務上必然的に使われる契約約款も2ステージ(Two-Stage-Open-Book)を指向する等、BIM対応を模索中の様子だった。それらの内容解説は本小論では扱いが難しいため、割愛する。
ンブリッジ大学内に置かれた)に関わり、引き続き英国の建設産業政策の検討体制の一部に位置付けられるBIMタスクグループ 2 の議長を務める。 この英政府の「デジタル建設」の取組みはEUに波及し、20余の政府部門発注者が参加し組織されたBIMタスクグループが、各国の取組みをまとめたハンドブックを作成した(図4)。公共部門がBIMによる発注体制とすることに大きなメリットがあることを説く内容で、中南米、アジア、北米、アフリカのいくつかの政府機関が関心を示したようだ。日本もその一つと思われ、J
ジ ャ シ ッ ク
ACIC(一般財団法人日本建設情報総合センター)のサイトからこのハンドブックの日本語版が入手できるようになっている。なお、このプロジェクトにはEU予算が2016-17年についており、現在はケンブリッジ大学に置かれたCDBB内に事務局がある模様である 3 。
2 近年の英国での政治混乱からか全体像が見えにくいのだが、2012年頃までには英内閣府(Cabinet Office)内にGovernment Construction Board(GCB)が設けられていた。その後2015年には、BIS(Department for Business, Innovation & Skills)という政府機関内のConstruction Leadership Council(CLC)にて、様々な建設産業施策が取り組まれている。BIMタスクグループは引き続きその一部の位置付けで、民間主体メンバーで構成される。ここが英国のBIM施策の中心的存在と思われる。
3 Autodesk社 に い た 英 国 人 で、CDBBに 所 属 す るAdam Mathews氏がLead-International Stream という肩書きの欧州BIMタスクグループの議長を務める。アジアからは香港が先行参加したようだ。(@eubimgroupによる。)
図3 Digital Built Britain関係文書(一部)
(出典)CDBBサイト:https : //www.cdbb.cam.ac.uk/
と進められている様子だ1。
このような整然と構成された規格文書類と合わ
せて、実務に携わる建設関係者向けに、関係法令
や標準約款の整備、各種研修コースの実施、ソフ
トウェア開発等が進む。こうした条件整備によっ
て、英国ではBIMを使うメリットが徐々に増して
いるのではないか。これらはサプライサイド(あ
るいは建設業界側)へのプッシュ戦略(押し出す、
あるいは、仕向ける戦略)といえるだろう。
初めて10年前(2008年)に図2を描いたのは、
2人のコンサルタントMark BewとMervyn Richards
で、この図の中にもその名がみえる。筆者が覗い
た上記BIMセミナーでは、Mark Bewがパネリスト
の一人だった。氏は今も2015年2月に公開された
「Digital Built Britain(DBB:英国デジタル建
設)」(図 4)という新しい政府の建設戦略(推進
センター(CDBB)は2018年にケンブリッジ大学内
に置かれた)に関わり、引き続き英国の建設産業
政策の検討態勢の一部に位置づけられている BIM
タスクグループ2の議長を務める。
1 例えば、建設プロジェクトの進捗段階を規定する英国建築家
協会RIBAの伝統的な文書であるRIBAワークプランの2013年
版(Digital Plan of Work)への改訂をはじめ、契約実務上必
然的に使われる契約約款も2ステージ(Two-Stage-Open-Book)
を指向する等、BIM対応を模索中の様子だった。それらの内容
解説は本小論では扱いが難しいため、割愛する。 2 近年の英国での政治混乱からか全体像が見えにくいのだが、
2012年頃までには英内閣府(Cabinet Office)内にGovernment Construction Board(GCB)が設けられていた。その後2015年には、BIS(Department for Business, Innovation & Skills)という政府機関内のConstruction Leadership Council(CLC)
この英政府の「デジタル建設」の取り組みはEU
に波及し、20余の政府部門発注者が参加し組織さ
れたBIMタスクグループが、各国の取り組みをま
とめたハンドブックを作成した(図5)。公共部門
がBIMによる発注態勢とすることに大きなメリッ
トがあることを説く内容で、中南米、アジア、北
米、アフリカのいくつかの政府機関が関心を示し
たようだ。日本もその一つと思われ、JACIC(一般
財団法人日本建設情報総合センター)のサイトか
らこのハンドブックの日本語版が入手できるよう
になっている。なお、このプロジェクトには EU
予算が2016-17年についており、現在はケンブリ
ッジ大学に置かれた CDBB 内に事務局がある模様
である3。
NBSの役割 話を英国内に戻そう。サプライサイドへのプッ
シュの役割を先導する機関のひとつが、本稿冒頭
に出てきたNBSである。ここが進めるBIM関連事
業には英国政府の資金も入っていると聞く。NBS
のBIMサービス事業は多岐に亘っている。その代
にて、様々な建設産業施策が取り組まれている。BIMタスクグ
ループは引き続きその一部の位置づけで、民間主体メンバーで
構成される。ここが英国のBIM施策の中心的存在と思われる。 3 Autodesk社にいた英国人で、CDBBに所属するAdam Mathews氏がLead - International Stream という肩書きの欧
州BIMタスクグループの議長を務める。アジアからは香港が先
行参加したようだ。(@eubimgroup)
(出典)CDBBサイト:https://www.cdbb.cam.ac.uk/
図4 Digital Build Britain 関係文書(一部)
(解説)このハンドブック
は、20以上の欧州諸国の公
共政策立案者、公的財産所
有者およびインフラ運営管
理者の経験を集めたもの
で、なぜ各政府はBIM を支
援し奨励する行動を取った
のか? どんなメリットあ
るか? どう政府はリーダ
ーシップを発揮し、産業界
と協力するか? 欧州の連
携がなぜ重要か? 欧州に
おけるBIM の定義は何か?
等に答える内容。2017 年 7
月に発表されたハンドブックは日本語(JACIC の HP より入手
可)をはじめ19カ国語に翻訳されている。 http://www.cals.jacic.or.jp/CIM/international/index.html
http://www.eubim.eu/handbook-selection/
図5 欧州 BIM タスクグループのハンドブック
図4 欧州BIMタスクグループのハンドブック
( 解説)このハンドブックは、20以上の欧州諸国の公共政策立案者、公的財産所有者及びインフラ運営管理者の経験を集めたもので、
「なぜ各政府はBIMを支援し奨励する行動を取ったのか?」「どんなメリットがあるか?」「どう政府はリーダーシップを発揮し、産業界と協力するか?」「欧州の連携がなぜ重要か?」「欧州におけるBIMの定義は何か?」等に答える内容。2017年7月に発表されたハンドブックは日本語(JACICの
と進められている様子だ1。
このような整然と構成された規格文書類と合わ
せて、実務に携わる建設関係者向けに、関係法令
や標準約款の整備、各種研修コースの実施、ソフ
トウェア開発等が進む。こうした条件整備によっ
て、英国ではBIMを使うメリットが徐々に増して
いるのではないか。これらはサプライサイド(あ
るいは建設業界側)へのプッシュ戦略(押し出す、
あるいは、仕向ける戦略)といえるだろう。
初めて10年前(2008年)に図2を描いたのは、
2人のコンサルタントMark BewとMervyn Richards
で、この図の中にもその名がみえる。筆者が覗い
た上記BIMセミナーでは、Mark Bewがパネリスト
の一人だった。氏は今も2015年2月に公開された
「Digital Built Britain(DBB:英国デジタル建
設)」(図 4)という新しい政府の建設戦略(推進
センター(CDBB)は2018年にケンブリッジ大学内
に置かれた)に関わり、引き続き英国の建設産業
政策の検討態勢の一部に位置づけられている BIM
タスクグループ2の議長を務める。
1 例えば、建設プロジェクトの進捗段階を規定する英国建築家
協会RIBAの伝統的な文書であるRIBAワークプランの2013年
版(Digital Plan of Work)への改訂をはじめ、契約実務上必
然的に使われる契約約款も2ステージ(Two-Stage-Open-Book)
を指向する等、BIM対応を模索中の様子だった。それらの内容
解説は本小論では扱いが難しいため、割愛する。 2 近年の英国での政治混乱からか全体像が見えにくいのだが、
2012年頃までには英内閣府(Cabinet Office)内にGovernment Construction Board(GCB)が設けられていた。その後2015年には、BIS(Department for Business, Innovation & Skills)という政府機関内のConstruction Leadership Council(CLC)
この英政府の「デジタル建設」の取り組みはEU
に波及し、20余の政府部門発注者が参加し組織さ
れたBIMタスクグループが、各国の取り組みをま
とめたハンドブックを作成した(図5)。公共部門
がBIMによる発注態勢とすることに大きなメリッ
トがあることを説く内容で、中南米、アジア、北
米、アフリカのいくつかの政府機関が関心を示し
たようだ。日本もその一つと思われ、JACIC(一般
財団法人日本建設情報総合センター)のサイトか
らこのハンドブックの日本語版が入手できるよう
になっている。なお、このプロジェクトには EU
予算が2016-17年についており、現在はケンブリ
ッジ大学に置かれた CDBB 内に事務局がある模様
である3。
NBSの役割 話を英国内に戻そう。サプライサイドへのプッ
シュの役割を先導する機関のひとつが、本稿冒頭
に出てきたNBSである。ここが進めるBIM関連事
業には英国政府の資金も入っていると聞く。NBS
のBIMサービス事業は多岐に亘っている。その代
にて、様々な建設産業施策が取り組まれている。BIMタスクグ
ループは引き続きその一部の位置づけで、民間主体メンバーで
構成される。ここが英国のBIM施策の中心的存在と思われる。 3 Autodesk社にいた英国人で、CDBBに所属するAdam Mathews氏がLead - International Stream という肩書きの欧
州BIMタスクグループの議長を務める。アジアからは香港が先
行参加したようだ。(@eubimgroup)
(出典)CDBBサイト:https://www.cdbb.cam.ac.uk/
図4 Digital Build Britain 関係文書(一部)
(解説)このハンドブック
は、20以上の欧州諸国の公
共政策立案者、公的財産所
有者およびインフラ運営管
理者の経験を集めたもの
で、なぜ各政府はBIM を支
援し奨励する行動を取った
のか? どんなメリットあ
るか? どう政府はリーダ
ーシップを発揮し、産業界
と協力するか? 欧州の連
携がなぜ重要か? 欧州に
おけるBIM の定義は何か?
等に答える内容。2017 年 7
月に発表されたハンドブックは日本語(JACIC の HP より入手
可)をはじめ19カ国語に翻訳されている。 http://www.cals.jacic.or.jp/CIM/international/index.html
http://www.eubim.eu/handbook-selection/
図5 欧州 BIM タスクグループのハンドブック
HPより入手可)を始め19 ヵ国語に翻訳されている。(出典) http : //www.cals.jacic.or.jp/CIM/international/
http : //www.eubim.eu/handbook-selection/
建築コスト 遊学[35]
建築コスト研究 No.101 2018.4 79
NBSの役割 話を英国内に戻そう。サプライサイドをプッシュする役割を先導する機関の一つが、本稿冒頭に出てきたNBSである。ここが進めるBIM関連事業には英国政府の資金も入っていると聞く。NBSのBIMサービス事業は多岐にわたっている。その代表メニューとしては、いくつかのデジタルツールの提供がある(図5)。製品名を挙げると、NBS Create(BIM用仕様書作成ソフト)、NBS BIM Toolkit(BIMレベル2要件に対応した様々なデジタルツール)、NBS National BIM Library
(BIMソフトに直接取り込めるオブジェクトの無料ライブラリ 4 )、NBS Plug-ins(NBSの仕様書関係製品を代表的なBIMソフトウェアであるRevitやArchiCADで使うためのプラグイン)ほかがある。更に重要なのは、建築情報の分類体系UniclassのメンテナンスをNBSが担っていることである 5 。これらの詳細説明は図5のNBSサイトを見ていただくほかないが、要するに建設のサプライチェーンを担う顧客に直接働きかけて、BIM対応をサポートするのがNBSの役割となっている。
情報インフラの一つUniclass 以 下 で は、 こ れ ら の う ち、 建 築 情 報 分 類Uniclassに絞り検討してみたい。1年前の記事No.32(岩松2017)で米国のOmniClassを詳述したが、英国のUniclassは簡単に触れただけなので、それを補いたいと思う。一般に、BIMが使いやすくなるためには、建物やその工事にまつわる行為や製品等にコンピュータが扱いやすいコードを振っておく方がよい。日本に似たものはあるのだが、残念ながらあまり使われていない。一方、米国や英国はその整備や普及にかなり力を入れている。そのことをNo.32では書いた。本稿の準備中に図3右資料中にUniclass 2015の使い方を詳しく書いたものを見つけた。それに加え、NBSサイトでUniclass 2015を無償配信しており、関係記事もある。それらを読み解いてみる。 表1はNBSサイトから入手したUniclass 2015の11のテーブルのリストである。1年前と比べると、EF、Zz、FIの3表以外は内容の追加・変更がある。特に、Ac、Pr、PMの各表はアイテム数
4 オブジェクトは150を超えるカテゴリーで整理されているが、多いものから並べると、ドア712、窓291、屋根238、床仕上げ229、断熱仕様175、壁144等である(2018/3検索)。建設資材関係等の登録メーカー数もかなり多い。RevitやArchiCAD等のBIMプラットフォーム別に対応する。ユーザーはオブジェクトデータをそれぞれのプラットフォーム上でダウンロードし、設計中のBIMモデルに直接取り込んで設計する仕組み。
5 拙稿(2017)の「英国のUniclass」の項で、当初の1997年版が2013年に改訂されUniclass2となり、更に現在はUniclass2015となっている等の経緯や概要をまとめている。図5 NBSのBIMサービスメニュー(一部)
(出典)https : //www.nationalbimlibrary.com/
表メニューとしては、いくつかのデジタルツール
の提供がある(図 6)。製品名を挙げると、NBS
Create(BIM 用仕様書作成ソフト)、NBS BIM
Toolkit(BIMレベル2要件に対応した様々なデジ
タルツール)、NBS National BIM Library(BIMソ
フトに直接取り込めるオブジェクトの無料ライブ
ラリ4)、NBS Plug-ins(NBS の仕様書関係製品を
4 オブジェクトは 150 を超えるカテゴリーで整理されているが、
多いものから並べると、ドア712、窓291、屋根238、床仕上
229、断熱仕様175、壁144等である(2018/3検索)。建設資材
関係等の登録メーカー数もかなり多い。RevitやArchiCAD等
のBIMプラットフォーム別に対応する。ユーザーはオブジェク
トデータをそれぞれのプラットフォーム上でダウンロードし、
設計中のBIMモデルに直接取り込んで設計する仕組み。
代表的な BIM ソフトウェアである Revit や
ArchiCADで使うためのプラグイン)他がある。さ
らに重要なのは、建築情報の分類体系 Uniclass
のメンテナンスをNBSが担っていることである5。これらの詳細説明は図6のNBSサイトを見ていた
だくほかないが、要するに建設のサプライチェー
ンを担う顧客に直接働きかけて、BIM 対応をサポ
ートするのがNBSの役割となっている。
以下では、これらの内、建築情報分類Uniclass
に絞り検討してみたい。1年前の記事No.32(岩松
2017)で米国のOmniclassを詳述したが、英国の
Uniclassは簡単に触れただけなので、それを補い
たいと思う。一般に、BIM が使いやすくなるため
には、建物やその工事にまつわる行為や製品等に
コンピュータが扱いやすいコードを振っておくほ
うがよい。日本に似たものはあるのだが、残念な
がらあまり使われていない。一方、米国や英国は
その整備や普及にかなり力を入れている。そのこ
とをNo.32では書いた。本稿の準備中に図4右資
料中にUniclass 2015の使い方を詳しく書かいた
ものをみつけた。それに加え、NBS サイトで
Uniclass 2015 を無償配信しており、関係記事も
ある。それらを読み解いてみる。
表1はNBSサイトから入手したUniclass 2015
5 拙稿(2017)の「英国のUniclass」の項で、当初の1997年
版が2013年に改訂されUniclass2となり、さらに現在は
Uniclass2015となっている等の経緯や概要をまとめている。
表1 英国のUniclass 2015テーブル一覧
テーブル名 ステータス・改訂情報 Co – Complexes(複合) v1.5, 2018/1(399) En – Entities(エンティティ) v1.7, 2018/1(429) Ac – Activities(活動) v1.5, 2018/1(894) SL - Spaces/ locations(空間/場所) v1.7, 2017/1(793) EF - Elements/ functions(エレメント/機能) v1.2, 2016/11(70) Ss – Systems(システム) v1.9, 2018/1(2090) Pr – Products(製品)) v1.9, 2018/1(6968) TE - Tools and Equipment(⼯具・装置) v1.4, 2018/1(736) PM - Project management(プロジェクト管理) v1.0, 2017/9(523) Zz- CAD v1.0, 2015/7(129) FI - Form of information(情報の形態) Beta版(48) (注)https://toolkit.thenbs.com/articles/classifications(参照:
2018/3)右列括弧は各テーブルのアイテム数合計値を示す。Cf.岩松(2017)pp.56‐57の表6、表7を参照。
(出典)https://www.nationalbimlibrary.com/
図6 NBS の BIM サービスメニュー(一部)
建築コスト 遊学[35]
80 建築コスト研究 No.101 2018.4
が1割ほども増えている。番号システムはGroup–Subgroup–Section–Objectという4階層の構成であり、各階層には2桁のアラビア数字が振られ、アンダーバーで結ばれる。例えば、第4階層までを揃えるSs(システム)表、Pr(製品)表で分かりやすい部分をそれぞれ10行(アイテム)を抜き出してみた(表2)。番号は必ずしも連番ではなく、将来的な拡張にも対応できるようにしている。また、各表にはNBSの仕様書コード番号、RICSが作っている積算用のNRMコード番号6の欄が設けられており、Uniclassとの対応を取っている。 Uniclass 2015は、11表からなるファセット型定義による建築情報分類法であり、ISO 12006-2に準拠する7。15種類ほどある米国OmniClassより若干少なめだが、基本的な構成はよく似てい
表1 英国のUniclass 2015テーブル一覧
(注) https : //toolkit.thenbs.com/articles/classifications( 参 照:2018/3)右列括弧は各テーブルのアイテム数合計値を示す。Cf.岩松(2017)pp.56-57の表6、表7を参照。
表メニューとしては、いくつかのデジタルツール
の提供がある(図 6)。製品名を挙げると、NBS
Create(BIM 用仕様書作成ソフト)、NBS BIM
Toolkit(BIMレベル2要件に対応した様々なデジ
タルツール)、NBS National BIM Library(BIMソ
フトに直接取り込めるオブジェクトの無料ライブ
ラリ4)、NBS Plug-ins(NBS の仕様書関係製品を
4 オブジェクトは 150 を超えるカテゴリーで整理されているが、
多いものから並べると、ドア712、窓291、屋根238、床仕上
229、断熱仕様175、壁144等である(2018/3検索)。建設資材
関係等の登録メーカー数もかなり多い。RevitやArchiCAD等
のBIMプラットフォーム別に対応する。ユーザーはオブジェク
トデータをそれぞれのプラットフォーム上でダウンロードし、
設計中のBIMモデルに直接取り込んで設計する仕組み。
代表的な BIM ソフトウェアである Revit や
ArchiCADで使うためのプラグイン)他がある。さ
らに重要なのは、建築情報の分類体系 Uniclass
のメンテナンスをNBSが担っていることである5。これらの詳細説明は図6のNBSサイトを見ていた
だくほかないが、要するに建設のサプライチェー
ンを担う顧客に直接働きかけて、BIM 対応をサポ
ートするのがNBSの役割となっている。
以下では、これらの内、建築情報分類Uniclass
に絞り検討してみたい。1年前の記事No.32(岩松
2017)で米国のOmniclassを詳述したが、英国の
Uniclassは簡単に触れただけなので、それを補い
たいと思う。一般に、BIM が使いやすくなるため
には、建物やその工事にまつわる行為や製品等に
コンピュータが扱いやすいコードを振っておくほ
うがよい。日本に似たものはあるのだが、残念な
がらあまり使われていない。一方、米国や英国は
その整備や普及にかなり力を入れている。そのこ
とをNo.32では書いた。本稿の準備中に図4右資
料中にUniclass 2015の使い方を詳しく書かいた
ものをみつけた。それに加え、NBS サイトで
Uniclass 2015 を無償配信しており、関係記事も
ある。それらを読み解いてみる。
表1はNBSサイトから入手したUniclass 2015
5 拙稿(2017)の「英国のUniclass」の項で、当初の1997年
版が2013年に改訂されUniclass2となり、さらに現在は
Uniclass2015となっている等の経緯や概要をまとめている。
表1 英国のUniclass 2015テーブル一覧
テーブル名 ステータス・改訂情報 Co – Complexes(複合施設) v1.5, 2018/1(399) En – Entities(施設) v1.7, 2018/1(429) Ac – Activities(活動) v1.5, 2018/1(894) SL - Spaces/ locations(空間/場所) v1.7, 2017/1(793) EF - Elements/ functions(エレメント/機能) v1.2, 2016/11(70) Ss – Systems(システム) v1.9, 2018/1(2090) Pr – Products(製品)) v1.9, 2018/1(6968) TE - Tools and Equipment(⼯具・装置) v1.4, 2018/1(736) PM - Project management(プロジェクト管理) v1.0, 2017/9(523) Zz- CAD v1.0, 2015/7(129) FI - Form of information(情報の形態) Beta版(48) (注)https://toolkit.thenbs.com/articles/classifications(参照:
2018/3)右列括弧は各テーブルのアイテム数合計値を示す。Cf.岩松(2017)pp.56‐57の表6、表7を参照。
(出典)https://www.nationalbimlibrary.com/
図6 NBS の BIM サービスメニュー(一部)
表2- 1 Ss(システム)表の例示(Ss Systems-01 February 2018-v1.9)
の11のテーブルのリストである。1年前と比べる
と、EF, Zz, FIの3表以外は内容の追加・変更が
ある。特にAc, Pr, PMの各表はアイテム数が1割
ほども増えている。番号システムは Group –
Subgroup –Section – Objectという4階層の構成
であり、各階層には2桁のアラビア数字が振られ、
アンダーバーで結ばれる。たとえば、第4階層ま
でを揃えるSs(システム)表、Pr(製品)表で分か
り易い部分をそれぞれ10行(アイテム)を抜き出
してみた(表 2)。番号は必ずしも連番ではなく、
将来的な拡張にも対応できるようにしている。ま
た、各表にはNBSの仕様書コード番号、RICSが作
っている積算用の NRM コード番号6の欄が設けら
れており、Uniclassとの対応を取っている。
Uniclass 2015は、11表からなるファセット型
定義による建築情報分類法であり、ISO 12006-2
6 Royal Institution of Chartered Surveyors(英国王立チェータ
ート・゙サベイヤーズ協会)が制定するNRMに関しては、拙稿(2017b)を参照されたい。なお、NRM コードはAc表( Sub-groupに3項目、Sectionに48項目)、Ss表(Sectionに2項目、Objectに918項目)に記載があり、各項目にNRM コードが複数指定さ
れているものもある。今のところは、概算用途での利用が想定
されているのではないかと思われる。(詳細未調査)
に準拠する7。15 種類ほどある米国 Omniclass よ
り若干少なめだが、基本的な構成はよく似ている。
NBS資料によると、主な各表には図7、図8に示す
ような有機的関係がある。例えば、都市レベル(Co
表)、空間レベル(SL表)、建築システムレベル(Ss
表)、部品レベル(Pr 表)に至る建築情報の一貫
性を意識して構成しているものと理解できる。
(出典)Steve Thompson, ‘Product Data Definition’, April 2016, p.24 http://bim-level2.org/globalassets/pdfs/product-data-definition_v2.pdf
(注)本レポートは副題に「構造化したデジタル建設製品情報の定義と共
有のための技術仕様」とあり、BIMタスクグループのために書かれたもの。
建築情報の関係者間でのやりとりを、DNA螺旋のアナロジーで説明する刺
激的内容である。本小論で扱うには手に余るが、一読をお勧めしたい。
図7 Uniclass 2015の主要表の関係イメージ
7 Cf. 岩松(2017a)p.54
表2-1 Ss システム表の例示 (Ss Systems - 01 February 2018 - v1.9) Code Title NBS Code NRM
Ss_20 Structural systems(構造システム) ・・・Group Ss_20_05 Substructure systems(サブストラクチャシステム) ・・・Subgroup Ss_20_05_15 Concrete foundation systems(コンクリート基礎システム) ・・・Section Ss_20_05_15_65 Precast concrete pad and strip foundation systems(プレキャストコンクリートのパッドとストリップの基礎システム) ・・・Object 15-05-15/160 1.1.1 Ss_20_05_15_70 Reinforced concrete pad and strip foundation systems(鉄筋コンクリート製のパッドとストリップの基礎システム) 15-05-15/110 1.1.1 Ss_20_05_15_71 Reinforced concrete pilecap and ground beam foundation systems(鉄筋コンクリート杭打ちシステム) 15-05-15/120 1.1.1 Ss_20_05_15_72 Reinforced concrete raft foundation systems(鉄筋コンクリート筏基礎システム) 15-05-15/130 1.1.3 Ss_20_05_15_80 Steel ground beam foundation systems(スチール地上梁基礎システム) 15-05-15/170 1.1.1 Ss_20_05_15_90 Unreinforced concrete foundation systems for cast in products(鋳造製品⽤⾮補強コンクリート基礎システム) 15-05-15/135 1.1.1 Ss_20_05_15_91 Unreinforced concrete pad and strip foundation systems(補強されていないコンクリートパッドおよびストリップ基礎システム) 15-05-15/140 1.1.1
表2-2 Pr 製品表の例示 (Pr Products - 01 February 2018 - v1.9) Code Title NBS Code NRM
Pr_25 Skin products(スキン製品) ・・・Group Pr_25_30 Fixed access products(固定アクセス製品) ・・・Subgroup Pr_25_30_30 Floor plates, gratings and edgings(フロアプレート、グレーティングおよびエッジング) ・・・Section Pr_25_30_30_01 Aluminium cold formed planks(アルミ製冷間成形板) ・・・Object 45-30-40/310 Pr_25_30_30_02 Aluminium duckboards(アルミダックボード) Pr_25_30_30_03 Aluminium edging sections(アルミニウムの縁取りセクション) 45-30-40/400 Pr_25_30_30_04 Aluminium expanded gratings(アルミ拡張格⼦) 45-30-40/325 Pr_25_30_30_05 Aluminium open bar metal gratings(アルミオープンバーメタルグレーティング) 45-30-40/350 Pr_25_30_30_06 Aluminium solid metal plates(アルミニウムの固体⾦属板) 45-30-40/375 Pr_25_30_30_12 Carbon steel cold formed planks(炭素鋼の冷間成形板) 45-30-40/315
(注)タイトル欄の日本語は仮訳。また、NBS CodeやNRM欄には英語表記の説明があるが省略している。詳細はNBSのサイトからダウンロードして見ていた
だきたい。最新版は、NBSサイト(https://toolkit.thenbs.com/articles/classification/)より入手可。
表2- 2 Pr(製品)表の例示(Pr Products-01 February 2018-v1.9)
の11のテーブルのリストである。1年前と比べる
と、EF, Zz, FIの3表以外は内容の追加・変更が
ある。特にAc, Pr, PMの各表はアイテム数が1割
ほども増えている。番号システムは Group –
Subgroup –Section – Objectという4階層の構成
であり、各階層には2桁のアラビア数字が振られ、
アンダーバーで結ばれる。たとえば、第4階層ま
でを揃えるSs(システム)表、Pr(製品)表で分か
り易い部分をそれぞれ10行(アイテム)を抜き出
してみた(表 2)。番号は必ずしも連番ではなく、
将来的な拡張にも対応できるようにしている。ま
た、各表にはNBSの仕様書コード番号、RICSが作
っている積算用の NRM コード番号6の欄が設けら
れており、Uniclassとの対応を取っている。
Uniclass 2015は、11表からなるファセット型
定義による建築情報分類法であり、ISO 12006-2
6 Royal Institution of Chartered Surveyors(英国王立チェータ
ート・゙サベイヤーズ協会)が制定するNRMに関しては、拙稿(2017b)を参照されたい。なお、NRM コードはAc表( Sub-groupに3項目、Sectionに48項目)、Ss表(Sectionに2項目、Objectに918項目)に記載があり、各項目にNRM コードが複数指定さ
れているものもある。今のところは、概算用途での利用が想定
されているのではないかと思われる。(詳細未調査)
に準拠する7。15 種類ほどある米国 Omniclass よ
り若干少なめだが、基本的な構成はよく似ている。
NBS資料によると、主な各表には図7、図8に示す
ような有機的関係がある。例えば、都市レベル(Co
表)、空間レベル(SL表)、建築システムレベル(Ss
表)、部品レベル(Pr 表)に至る建築情報の一貫
性を意識して構成しているものと理解できる。
(出典)Steve Thompson, ‘Product Data Definition’, April 2016, p.24 http://bim-level2.org/globalassets/pdfs/product-data-definition_v2.pdf
(注)本レポートは副題に「構造化したデジタル建設製品情報の定義と共
有のための技術仕様」とあり、BIMタスクグループのために書かれたもの。
建築情報の関係者間でのやりとりを、DNA螺旋のアナロジーで説明する刺
激的内容である。本小論で扱うには手に余るが、一読をお勧めしたい。
図7 Uniclass 2015の主要表の関係イメージ
7 Cf. 岩松(2017a)p.54
表2-1 Ss システム表の例示 (Ss Systems - 01 February 2018 - v1.9) Code Title NBS Code NRM
Ss_20 Structural systems(構造システム) ・・・Group Ss_20_05 Substructure systems(サブストラクチャシステム) ・・・Subgroup Ss_20_05_15 Concrete foundation systems(コンクリート基礎システム) ・・・Section Ss_20_05_15_65 Precast concrete pad and strip foundation systems(プレキャストコンクリートのパッドとストリップの基礎システム) ・・・Object 15-05-15/160 1.1.1 Ss_20_05_15_70 Reinforced concrete pad and strip foundation systems(鉄筋コンクリート製のパッドとストリップの基礎システム) 15-05-15/110 1.1.1 Ss_20_05_15_71 Reinforced concrete pilecap and ground beam foundation systems(鉄筋コンクリート杭打ちシステム) 15-05-15/120 1.1.1 Ss_20_05_15_72 Reinforced concrete raft foundation systems(鉄筋コンクリート筏基礎システム) 15-05-15/130 1.1.3 Ss_20_05_15_80 Steel ground beam foundation systems(スチール地上梁基礎システム) 15-05-15/170 1.1.1 Ss_20_05_15_90 Unreinforced concrete foundation systems for cast in products(鋳造製品⽤⾮補強コンクリート基礎システム) 15-05-15/135 1.1.1 Ss_20_05_15_91 Unreinforced concrete pad and strip foundation systems(補強されていないコンクリートパッドおよびストリップ基礎システム) 15-05-15/140 1.1.1
表2-2 Pr 製品表の例示 (Pr Products - 01 February 2018 - v1.9) Code Title NBS Code NRM
Pr_25 Skin products(スキン製品) ・・・Group Pr_25_30 Fixed access products(固定アクセス製品) ・・・Subgroup Pr_25_30_30 Floor plates, gratings and edgings(フロアプレート、グレーティングおよびエッジング) ・・・Section Pr_25_30_30_01 Aluminium cold formed planks(アルミ製冷間成形板) ・・・Object 45-30-40/310 Pr_25_30_30_02 Aluminium duckboards(アルミダックボード) Pr_25_30_30_03 Aluminium edging sections(アルミニウムの縁取りセクション) 45-30-40/400 Pr_25_30_30_04 Aluminium expanded gratings(アルミ拡張格⼦) 45-30-40/325 Pr_25_30_30_05 Aluminium open bar metal gratings(アルミオープンバーメタルグレーティング) 45-30-40/350 Pr_25_30_30_06 Aluminium solid metal plates(アルミニウムの固体⾦属板) 45-30-40/375 Pr_25_30_30_12 Carbon steel cold formed planks(炭素鋼の冷間成形板) 45-30-40/315
(注)タイトル欄の日本語は仮訳。また、NBS CodeやNRM欄には英語表記の説明があるが省略している。詳細はNBSのサイトからダウンロードして見ていた
だきたい。最新版は、NBSサイト(https://toolkit.thenbs.com/articles/classification/)より入手可。
(注) タイトル欄の日本語は仮訳。また、NBS CodeやNRM欄には英語表記の説明があるが省略している。詳細はNBSのサイトからダウンロードして見ていただきたい。最新版は、NBSサイト(https : //toolkit.thenbs.com/articles/classification/)より入手可。
6 Royal Institution of Chartered Surveyors(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)が制定するNRMに関しては、拙稿(2017b)を参照。なお、NRMコードはAc表(Sub-groupに3項目、Sectionに48項目)、Ss表(Sectionに2項目、Objectに918項目)に記載があり、各項目にNRMコードが複数指定されているものもある。今のところは、概算用途での利用が想定されているのではないかと思われる。(詳細未調査)
7 Cf. 岩松(2017a)p.54
建築コスト 遊学[35]
建築コスト研究 No.101 2018.4 81
る。NBS資料によると、主な各表には図6、図7に示すような有機的関係がある。例えば、都市レベル(Co表)、施設レベル(En表)、空間レベル
(SL表)、建築システムレベル(Ss表)、部品レベル(Pr表)に至るスケールを意識した建築情報の一貫性により構成しているものと理解できる。
結 語 本稿は拙稿(2018)に加筆したものである。英国では、公共発注者がBIM導入によるメリットをはっきりと理解して、産業施策的視点からの生産性向上、すなわち、コストダウン、工期遅延の回避、CO2削減、建設製品の貿易ギャップ解消等の政策目標をも盛り込み、プッシュ -プルの戦略によりながら、民間の力を活用してBIM化を強力に推し進めており、急激に普及が進んでいる。そして、その流れがEU諸国にも及んでいるように見える。 本稿ではそのことを主にコスト管理や積算方面の関心からリポートすることも試みたが、記述内容の不十分さや他に取り上げるべき話題が抜け落
ちている可能性がある。また、インターネットによる情報も多く、誤解等がないか心配している。
なお、本稿準備のための英国現地調査には、安藤正雄・千葉大学名誉教授を研究代表者とする科研費の研究協力者として参加した。昨秋の調査にご一緒した諸先生、研究者等の方々、そして、現地で御協力いただいた日本人・英国人の方々に感謝の意を申し上げたい。
(参考文献)1)岩松準(2017a)「建築コスト遊学32:建築コード標準化の経緯
と建築コスト」『建築コスト研究』No.97,pp.52-58,2017.4.2)岩松準(2017b)「英国RICSの新測定指針NRMについて―3シ
リーズの抄訳完了―」『建築コスト研究』No.99,pp.32-38,2017.10.
3)岩松準(2018)「英国BIM印象記」『月刊建設物価』(一般財団法人建設物価調査会)建設時評,pp.8-9(記事欄),2018.3.
図6 Uniclass 2015の主要表の関係イメージ
(出典) Steve Thompson, ‘Product Data Definitionʼ, April 2016, p.24http : //bim-level2.org/globalassets/pdfs/product-data-definition_v2.pdf
(注) 副題に「構造化したデジタル建設製品情報の定義と共有のための技術仕様」とあり、BIMタスクグループのために書かれたもの。建築情報の関係者間でのやりとりを、DNA螺旋のアナロジーで説明する刺激的内容である。本小論で扱うには手に余るが、一読をお勧めしたい。なお、この図における各表の関係には図7と若干矛盾する部分があるかもしれない。
図7 Uniclass 2015主要表の関係(NBS解説記事より)
(出典)https : //toolkit.thenbs.com/articles/classification/
(出典)https://toolkit.thenbs.com/articles/classification/
図8 Uniclass 2015主要表の関係(NBS 解説)
結 語 本稿は拙稿(2018)に加筆したものである。英
国では、公共発注者がBIM導入によるメリットを
はっきりと理解して、産業施策的視点からの生産
性向上、CO2 削減、コストダウン等の政策目標も
盛り込み、プッシュ-プルの戦略によりながら、民
間の力を活用してBIM化を強力に推し進めており、
急激に普及が進んでいる。そして、その流れがEU
諸国にも及んでいるようにみえる。本稿ではその
ことを主にコスト管理や積算方面の関心からリポ
ートすることも試みたが、記述内容の不十分さや
他に取り上げるべき話題が抜け落ちている可能性
がある。また、インターネットによる情報も多く、
誤解等がないか心配している。
なお、本稿の作成過程において、JSPS 科研費
16K06636の助成を受けた。研究代表者の安藤正雄
千葉大名誉教授をはじめ、昨秋実施した英国現地
調査にご同行いただいた諸先生、研究者等の方々、
そして、現地で御協力いただいた日本人・英国人
の方々にも感謝の意を申し上げたい。
参考文献:
1. 岩松準(2017a)「建築コスト遊学 32:建築コード標
準化の経緯と建築コスト」建築コスト研究 No.97,
pp.52-58, 2017.4.
2. 岩松準(2017b)「英国RICS の新測定指針NRM につ
いて―3シリーズの抄訳完了―」No.99, pp.32-38,
2017.10.
3. 岩松準(2018)「英国BIM印象記」月刊建設物価(一
般財団法人建設物価調査会)建設時評, pp.8-9(記事
欄), 2018.3.
(出典)https://toolkit.thenbs.com/articles/classification/
図8 Uniclass 2015主要表の関係(NBS 解説)
結 語 本稿は拙稿(2018)に加筆したものである。英
国では、公共発注者がBIM導入によるメリットを
はっきりと理解して、産業施策的視点からの生産
性向上、CO2 削減、コストダウン等の政策目標も
盛り込み、プッシュ-プルの戦略によりながら、民
間の力を活用してBIM化を強力に推し進めており、
急激に普及が進んでいる。そして、その流れがEU
諸国にも及んでいるようにみえる。本稿ではその
ことを主にコスト管理や積算方面の関心からリポ
ートすることも試みたが、記述内容の不十分さや
他に取り上げるべき話題が抜け落ちている可能性
がある。また、インターネットによる情報も多く、
誤解等がないか心配している。
なお、本稿の作成過程において、JSPS 科研費
16K06636の助成を受けた。研究代表者の安藤正雄
千葉大名誉教授をはじめ、昨秋実施した英国現地
調査にご同行いただいた諸先生、研究者等の方々、
そして、現地で御協力いただいた日本人・英国人
の方々にも感謝の意を申し上げたい。
参考文献:
1. 岩松準(2017a)「建築コスト遊学 32:建築コード標
準化の経緯と建築コスト」建築コスト研究 No.97,
pp.52-58, 2017.4.
2. 岩松準(2017b)「英国RICS の新測定指針NRM につ
いて―3シリーズの抄訳完了―」No.99, pp.32-38,
2017.10.
3. 岩松準(2018)「英国BIM印象記」月刊建設物価(一
般財団法人建設物価調査会)建設時評, pp.8-9(記事
欄), 2018.3.
建築コスト 遊学[35]
82 建築コスト研究 No.101 2018.4
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