当院におけるVendor Neutral ArchiveとOpen Connect Data Baseの …

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Vol.15 No.9 201749 特集2│PACS 2017Part 1 次のPACS更新時にはこの施設を参考に! 1)大阪国際がんセンター 2)GEヘルスケア・ジャパン株式会社 川眞田 実 1) 山根康彦 1) 岡本 英明 1) 中西克之 1) 大越 厚 2) 向井勇人 2) 米倉功将 2) 鳥羽輝久 2) 当院におけるVendor Neutral ArchiveとOpen Connect Data Baseの導入について はじめに 2016年3月、大阪府立成人病センター は大阪国際がんセンターとして新築移転 となり、システム更新が行われた。 2014年くらいから医療情報学会などで も取り上げられていたVNAに注目して きたが、2015年以降、国内でもPACS各 社からVNAが提唱され始め、VNAは医用 画像管理における大きな流れになりつつ あると感じ、病院移設のタイミングで VNAを導入することの効果、メリット/デ メリット等について情報収集と検討を行 ってきたので、その内容を報告する。 PACSは「データを受信して管理する部 分」と「データを表示して活用する部分」 の組み合わせであり、従来のPACSは、各 ベンダーから、この「管理」の部分と、「活 VNAとは VNAの定義は明確に定まっているわ けではないが、根底は、前述の通り、従 来PACSが一体で提供してきた「管理」と 「活用」の分離、役割分担であると考えて いる。各診療科のニーズを満たすビュー ワ、すなわち「活用」の部分は複数ベンダ ーが提供するPACSやビューワであって も良いが、データ管理の部分は、ベンダ ー中立的に、かつ一元化するというのが VNAの基本概念であると考えている(図2)。 そ の た め、VNAはDICOMやHL7な ど の 標準規格に準拠していて、十分にIHEの ような標準規約をサポートしていること が求められる 1) 。 逆に言えば、この十数 年で、DICOMやIHEのような標準規格・ 規約が普及してきたことが、PACS+VNA 用」の部分が、不可分のワンセットで提供 されてきた(図1)。しかし、画像データ は病院全体の共通資産であり、診療科ご とに様々な「活用ニーズ」があり、そのす べてに応えられるビューワは残念ながら 存在しない。その結果、各診療科の個別 活用ニーズに応えるために、多くの専用 PACSが導入され、院内に複数のPACSが 乱立することとなった。例えば、循環器 PACS、マンモPACS、整形PACS、内視鏡 PACSなどである。 そこで問題となるのが、①複数PACSの 導入コスト、②データ保管の重複や管理 の手間、③保管空き容量のバラつき、など である。また、データが複数PACSに分散 すると、電子カルテからのアクセスが多 方向になり、患者単位で一元的に把握す るのが難しくなる。VNAとは、こうした 諸問題を解決するために提唱された概念 だと理解している。 近年、PACSが持つべきコンセプトとしてVendor Neutral Archive(以下、VNA)という考え方が広まりつ つあり、医用画像管理においても大きな変化が生じようとしている。実際のVNA導入にあたりどのような効果が 期待できるのか、また、どのような課題があるのかを述べる。また、現状のVNAの課題を補うOpen Connect Data Base(以下、公開DB)を構築したので、その導入の経緯、仕組みやメリットを述べる。 This report describes what kind of benefits can be expected by implementation of VNA, which is becoming a big flow in medical image management, and what kind of issues are there. And since “Open Connect Data Base (OCDB)" that supplements the issues of the current VNA has been implemented, the background of implementation, the mechanism and the merits of OCDB are also described. p49-52_t02_kawamada@責.indd 49 21/06/15 17:14

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特集2│PACS 2017│Part 1 次のPACS更新時にはこの施設を参考に!

1)大阪国際がんセンター2)GEヘルスケア・ジャパン株式会社

川眞田 実1)、 山根康彦1)、 岡本 英明1)、 中西克之1)、大越 厚2)、 向井勇人2)、 米倉功将2)、 鳥羽輝久2)

当院におけるVendor Neutral ArchiveとOpen Connect Data Baseの導入について

はじめに

 2016年3月、大阪府立成人病センターは大阪国際がんセンターとして新築移転と な り、 シ ス テ ム 更 新 が 行 わ れ た。2014年くらいから医療情報学会などでも取り上げられていたVNAに注目してきたが、2015年以降、国内でもPACS各社からVNAが提唱され始め、VNAは医用画像管理における大きな流れになりつつあると感じ、病院移設のタイミングでVNAを導入することの効果、メリット/デメリット等について情報収集と検討を行ってきたので、その内容を報告する。 PACSは「データを受信して管理する部分」と「データを表示して活用する部分」の組み合わせであり、従来のPACSは、各ベンダーから、この「管理」の部分と、「活

VNAとは

 VNAの定義は明確に定まっているわけではないが、根底は、前述の通り、従来PACSが一体で提供してきた「管理」と

「活用」の分離、役割分担であると考えている。各診療科のニーズを満たすビューワ、すなわち「活用」の部分は複数ベンダーが提供するPACSやビューワであっても良いが、データ管理の部分は、ベンダー中立的に、かつ一元化するというのがVNAの基本概念であると考えている(図2)。そ の た め、VNAはDICOMやHL7な ど の標準規格に準拠していて、十分にIHEのような標準規約をサポートしていることが求められる1)。 逆に言えば、この十数年で、DICOMやIHEのような標準規格・規約が普及してきたことが、PACS+VNA

用」の部分が、不可分のワンセットで提供されてきた(図1)。しかし、画像データは病院全体の共通資産であり、診療科ごとに様々な「活用ニーズ」があり、そのすべてに応えられるビューワは残念ながら存在しない。その結果、各診療科の個別活用ニーズに応えるために、多くの専用PACSが導入され、院内に複数のPACSが乱立することとなった。例えば、循環器PACS、マンモPACS、整形PACS、内視鏡PACSなどである。 そこで問題となるのが、①複数PACSの導入コスト、②データ保管の重複や管理の手間、③保管空き容量のバラつき、などである。また、データが複数PACSに分散すると、電子カルテからのアクセスが多方向になり、患者単位で一元的に把握するのが難しくなる。VNAとは、こうした諸問題を解決するために提唱された概念だと理解している。

 近年、PACSが持つべきコンセプトとしてVendor Neutral Archive(以下、VNA)という考え方が広まりつつあり、医用画像管理においても大きな変化が生じようとしている。実際のVNA導入にあたりどのような効果が期待できるのか、また、どのような課題があるのかを述べる。また、現状のVNAの課題を補うOpen Connect Data Base(以下、公開DB)を構築したので、その導入の経緯、仕組みやメリットを述べる。

 This report describes what kind of benefits can be expected by implementation of VNA, which is becoming a big flow in medical image management, and what kind of issues are there. And since “Open Connect Data Base (OCDB)" that supplements the issues of the current VNA has been implemented, the background of implementation, the mechanism and the merits of OCDB are also described.

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のような「管理」と「活用」の分離、役割分担を可能にしたと言えるのではないだろうかと考える。

VNAによる一元統合参照

 VNAでは、DICOMデータはもちろん、各診療科・各部門で生成される診断・検査レポートなどを含む、様々な非DICOMデータも含めて、標準規格で、かつ一元的にデータを管理する。これによる最大のメリットは、医師は電子カルテから

「すべての画像が見える」という環境、すなわち、「シングルポイント・オブ・アクセス」という環境を作り上げることが可能だという点である。当院が導入したGEヘルスケア社製のVNA(製品名:Centricity Clinical Archive)が提供するビューワは、DICOM/非DICOMに関わらず、VNA上のすべてのデータの所在を把握でき、ワンクリックでプレビューできる。また、診療各科が高機能なビューワで計測や解析を行いたい時は、VNAビューワから専用ソフトウェア(各科専用PACS)を起動することが可能である。しかし、すべてのデータが集約されると、患者によっては膨大な検査データを有しているため、一覧できても、その中から見たいデータを探すのに手間がかかることも想定されることから、当院のVNAビューワはデータの発生日時と、データ種別によって、マトリクス状に一覧表示される(図3a、b)。この時に、自科の検査データだけに絞り込む、よく見るデータ種別だけに絞り込む、といった機能が充実しているため、目的とするデータを探すのに有用である。また、事前にフラグを付けておいたデータだけに絞り込むことも可能で、フォローアップ用にフラグを付けたり、カンファレンス用にフラグを付けておいて素早くアクセスすることが可能となっている。

VNAの課題

 前述の通り、VNAから診療各科の専用ビューワを起動する時、その時点でVNAからデータを取得して、各科専用PACS

(ワークステーション)で表示させること

は技術的には可能である。その場合、一般的にはDICOM Q/Rを用いてVNAからデ ー タ を 取 得 す る こ と に な る が、DICOM通信はオーバーヘッドが大きく、数秒以内での即時参照という現場のニーズを満たすことができない。即時参照を実現するためには、VNAのデータを各科専用PACS側にもキャッシュ的にデータを持たせることになる。すると、結局、

「管理」と「活用」が一体となった診療各科

用PACSを複数導入することとなり、導入コストの削減というVNA導入によるメリットが十分に得られなくなる。従来、各社のPACSが、「管理」と「活用」が不可分であったのは、データを表示させる際に、DICOM通信を用いると、オーバーヘッドが大きく、時間がかかるため、各社独自の通信プロトコルで高速化していることが主な理由である。 これを解決する手段として、DICOM

図2 VNAの概念

図1 従来型のPACSの仕組み

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規格としても、「DICOM Web Service」を既にサプリメントとして公開している2)。

「DICOM Web Service」 と は、“RESTful Service”(略称RS)と呼ばれる一般的なWebの技術を採用し、httpやhttpsプロトコルでDICOMデータを高速に取得する仕組みである。具体的なサービスとしては、STOW-RS(転送)、QIDO-RS(検索)、WADO-RS(画像取得)などがある。WADO- RSは従来のWADOが8bit JPEG画像による取得であったのに対し、フルビットのオリジナル画像を高速に取得できるのが特徴である。当院で導入したGE社製VNAでは、これらのサービスをサポート済みであったが、当院がシステム更新を検討していた2015年時点では、残念ながらこれらのサービスをサポートしているビューワが皆無であった。本稿執筆時点でも、DICOM Web Serviceを公式にサポートしているビューワは、OsiriX version8.5くらいだと認識している3)。

VNAの課題を補う仕組み(公開DB)の導入へ

 各診療科の要求を満たすビューワを採用しつつ、できるだけ専用PACSにはデ

ー タ を 持 た な い 形 を 模 索 す る 中 で、2016年6月に更新された京都大学病院のシステムで、公開DBという仕組みが稼働したという情報を得た。京都大学病院のPACSもGE社製であるが、GE社を含めその他のPACSベンダーも、通常はDBの構造そのものを他社に公開しSQLをかけ

て検索することを許していない。そこで、京都大学病院では、VNAに加え、データの保管場所を示すヘッダ情報を格納したデータベースを構築し、他システムからSQLで検索できるようにした。これにより、各社ビューワは、自社システム内にデータを持たなくても、データの所在を

当院におけるVendor Neutral ArchiveとOpen Connect Data Baseの導入について│大阪国際がんセンター│川眞田 実 ほか

図3aCentricityClinicalArchiveのVNAビューワによるマトリクス表示

図3bVNAビューワ内における画像表示例

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SQLで公開DBへ検索し、ファイル格納パスが取得できるため、DICOM Q/R通信ではなく、一般的なファイル転送プロトコルでデータを取得し、表示できる。また、同一Studyによる画像表示までの時間についてDICOM Q/Rと比較した結果、表示時間は1/5~1/10に短縮されるという検証報告されている4)。 当院での課題は、マンモ画像について、マンモ専用PACS(ビューワ)を導入すると、同一ビューワ内でCTやPETといった

他の検査種と組み合わせて画像診断が困難であり、過去の診断した画像はサーバ容量に合わせて自動削除されるという制約などがあった。他の検査種や、すべての過去データをマンモ専用PACSに入れると、当然ながら導入コストが膨れ上がる。そこで、当院でも公開DBの仕組みを採用することで、マンモビューワを含む様々なビューワで、画像を高速に取得でき、他の検査種や、過去データとの比較にも制約がなくなった(図4)。しかし、

VNAと公開DBを採用することで、画像に患者情報の修正等の必要があった場合に、VNAと公開DB側での画像修正手順や画像確定のタイミングも新たに考慮する必要が発生した。日本放射線技術学会から出されている「画像情報の確定に関するガイドライン」5)の考え方をベースに様々な運用形態を想定し画像情報の確定のタイミングについて検討を行い、運用の確立を行なった。また、画像修正に関しては、VNA側で画像を修正すれば修正画像が公開DB側に送信され、公開DB側にも反映される仕様とした。 最後に、本システム導入にあたりGE様はじめ多くのベンダーのご協力をいただいた。特に、公開DBの仕組みを実現するためにクライム・メディカル様(マンモビューワ)、キヤノンITS様(3Dサーバ)、ザイオ様(3Dサーバ)、アレイ様(画像参照ビューワ)には何度もご参集いただきシステムの概要とその仕様についての打ち合わせを行った。関係各社の担当者の方へ、この場を借りて感謝申し上げたい。

〈文献〉1) https://en.wikipedia.org/wiki/Vendor_

Neutral_Archive2) http://dicom.nema.org/Medical/dicom/

current/output/html/part18.html3) http://www.osirix-viewer.com/osirix/

osirix-md/osirix-8-5-release/4) http://www.innervision.co.jp/ad/suite/

gehealthcare/seminarreport/17035) http://www.jsrt.or.jp/data/activity/

guideline/図4 旧システムとVNA+OCDBを用いた新システムとの構成比較

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