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慶應義塾大学イノベーション創出セミナー 『グローバル知財戦争』基調報告 2012 12 18 一色外国法事務弁護士事務所 一色太郎 米国弁護士(カリフォルニア州・ワシントン DC 弁護士) グローバル知財競争の最前線で起きていること ~スマートフォン業界等における特許訴訟、売買取引の現状~

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慶應義塾大学イノベーション創出セミナー

『グローバル知財戦争』基調報告

2012年12月18日

一色外国法事務弁護士事務所 一色太郎

米国弁護士(カリフォルニア州・ワシントンDC弁護士)

グローバル知財競争の最前線で起きていること ~スマートフォン業界等における特許訴訟、売買取引の現状~

Page 2: Toshiba Corp. v. Imation Corp., et al. No. 3:09-cv-00305 ...アップル対サムスン 2011年4月、アップルはサムスンを米国で提訴。現在、10ヵ国 で50件以上の訴訟が進行中。

発表の概要

I. アップル対アンドロイド陣営の特許紛争

II. アップル、アンドロイド陣営による特許権取得

III. 特許権行使・取得に多額の資金が投入される理由

IV. グーグル、アップルの特許戦略

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「スマートフォン特許戦争」

「スマートフォン特許戦争」は、2009年10月にノキアがアップルを米国で提訴し、ドイツ、イギリス、オランダでの全面対決へと発展したのが始まりとされる。

2011年6月に和解が成立。アップルが6億ドルの一時金に加え継続的にライセ

ンス料を支払いうことで合意。

2006年以降、米国で提起されたスマートフォンをめぐる特許訴訟の数は、アップル148件、サムスン127件、HTC121件、モトローラ127件とされる*。

多くはNon-Practicing Entities(特許不実施主体)によって提起された訴訟。

本発表では、アップルと競合関係にあるアンドロイド陣営の事業会社、グーグル、サムスン、HTCにフォーカスをあてる。

*出典:LexMachina(2012年10月)

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出典:Verizon(2012年1月)

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アップル対HTC

2010年3月、アップルはHTCを米国で提訴。

当時HTC(台湾)は、グーグルが開発したOS「アンドロイド」を搭載したスマートフォンの最大手メーカー。

HTCは自社特許のみならず、他社から取得した特許(後述)を活用して、米国およびイギリスでアップルを提訴。

2012年11月、和解。

10年間のライセンス契約を締結(条件は非公開)。

アップル対アンドロイド陣営の特許訴訟(1)

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アップル対サムスン

2011年4月、アップルはサムスンを米国で提訴。現在、10ヵ国で50件以上の訴訟が進行中。

2012年8月、アップルはカリフォルニアでの訴訟で、10.5億ドルの陪審評決を得た。

サムスンのスマートフォン(ギャラクシー・シリーズ)などが、アップルのデザイン特許、トレードドレス、技術特許を侵害と認定。

デザイン特許・トレードドレス侵害については、陪審員はサムスンが侵害製品の販売によって得た利益(売上高の約14%~19%)をアップルの損害額として認定。

故意侵害による損害額の増額(技術特許のみ)、侵害製品の差止めについては近々地裁の判断が出される見込み。

アップル対アンドロイド陣営の特許訴訟(2)

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アップル対モトローラ・モビリティ

2010年10月、モトローラ・モビリティはアップルを米国で提訴。現在、米国およびドイツで訴訟が進行中。

2011年8月、グーグルがモトローラ・モビリティを125億ドルで買収(後述)。

アップルとグーグルは直接にはお互いを提訴していないが、モトローラを介して特許訴訟を継続中。

アップル対アンドロイド陣営の特許訴訟(3)

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アップルによる特許取得

2011年7月、アップルは、マイクロソフト、ソニーなどと、ノーテル・ネットワークスの特許(出願中含む)約6,000件を45億ドルで購入。

経営破綻したノーテル(カナダ)の特許オークションが行われ、アップルらによるコンソーシアム(計6社)が、グーグルやインテル等他社に競り勝ち落札。

単純計算で、特許一件あたり75万ドル(約6,000万円)。

アップルの財務諸表によると、アップルは45億ドル中の26億円(全体の約58%)を拠出。

アップル、アンドロイド陣営による特許取得(1)

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グーグルによる特許取得

2011年7月、IBMからおよそ1,000件の特許を取得(金額は非公開)。

2011年8月、モトローラ・モビリティを125億ドルで買収。

買収にあたってグーグルは、24,500件のモトローラ特許(出願中含む)の価値を55億ドルと評価。(特許一件あたり、約22万ドル。)

2011年7月以前、グーグルの保有する米国特許は1,000件未満であった。

2011年9月、グーグルは9件の特許をHTCに「譲渡」し、HTCはこれらを用いてアップルを反訴。

グーグルはこれらの特許をHTCに「譲渡」したと主張しているが、将来取り戻す権利を留保した「貸与」であると考えられる。

特許の「貸与」については、法的問題が存在。

2012年6月、ITCの行政法判事は、HTCが対象特許に関する「すべての実質

的な権利」を保有していない為、原告としての適格性を兼ね備えていないとしてこれらの特許による訴えを却下。

アップル、アンドロイド陣営による特許取得(2)

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HTCによる特許取得

ADCテレコミュニケーションズから特許を購入

2011年4月、HTCはADCテレコミュニケーションズからワイヤレス通信に関する96件の特許(出願中含む)を7,500万ドルで購入。(特許一件あたり約78

万ドル。)

ADCから取得した4G-LTE関連特許(ワイヤレスでの高速ダウンロード技術)2件をアップルとのITC訴訟で活用。

S3グラフィックスを買収

2011年7月、S3グラフィックスを3億ドルで買収し、画像処理技術を中心とする 235件の特許(出願中含む)を取得。

買収当時、 S3はアップルと特許訴訟中。HTCは、S3がITCで有利な予備決定を得てから一週間足らずで買収。

アップル、アンドロイド陣営による特許取得(3)

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サムスンによる特許取得

モバイル高速通信規格4G-LTEにおける強い特許力 サムスンは高速大容量通信の実現、電力管理の効率化、通信信頼度の向上等の4G-LTE関連技術分野で多くの特許を取得している。

欧州電気通信標準化協会(ETSI)に対し宣言されているLTE関連特許件数

出典:サイバー創研(2012)

アップル、アンドロイド陣営による特許取得(4)

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4G-LTE関連分野における特許力

会社名 特許数 特許

保有割合

有力

特許数

有力特許

保有割合

4G-LTE特許取得について

サムスン 1177 9.36% 79 12.15% ---

クアルコム 710 5.65% 81 12.46% ---

パナソニック 389 3.1% 13 2% ---

インターデジタル 336 2.67% 23 3.54% 4G-LTEやWi-Fi技術に関する1,700件の特許を3.75億ドルでインテルに売却(2012年)。(特許一件あたり、約22万ドル。)

ノキア 293 2.33% 27 4.15% ---

エリクソン 247 1.97% 29 4.46% ノーテル特許6,000件を45億ドルで購入したコンソーシアム・メンバー(2011年)。

LG 224 1.78% 26 4% ---

モトローラ・

ソリューションズ

192 1.53% 13 2% ---

モトローラ・

モビリティ

32 0.25% 12 1.85% グーグルがモトローラ・モビリティを125億ドルで買収し、24,500件の特許(出願中含む)を取得(2011年)。

ソニー 189 1.5% 14 2.15% ノーテル特許6,000件を45億ドルで購入したコンソーシアム・メンバー(2011年)。

テキサス・

インスツルメンツ

173 1.38% 6 0.92% ---

ノーテル

ネットワークス

152 1.21% 11 1.69% 2009年経営破綻。2011年、6,000件の特許を45億ドルで売却。

インテル 145 1.15% 36 5.54% インターデジタルから1,700件の特許を3.75億ドルで購入(2012年)。

出典: iRunway(2012年)

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特許取得の主目的

1. 「他社を排除するため」の特許取得

他社による模倣を防ぐため、自社の製品や製法などに関する特許を取得。

2. 「自社事業の自由度を確保するため」の特許取得

他社から差止めや巨額の損害賠償の請求を防ぐため、競合会社の製品等をカバーする特許を取得。

競合会社が必要とする特許を取得しておけば、自社が必要とする競合の持つ特許のライセンスが得られやすくなる。競合が必要な特許を押さえておく

ことは、訴訟を抑止することに繋がる。

スマートフォン関連特許は25万件以上あるとされ、多数の特許権者から使用許諾を得る必要がある。

一件の特許侵害がスマートフォン製品の差止めにつながるリスクがある。

特許権行使・取得に多額の資金が

投入される理由(1)

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有効な特許に基づき権利行使をされた場合の選択肢は、お金を払うか、自社特許を対価とするライセンスの締結。

お金は一度払ってしまえばおしまいだが、特許を保有していれば何度でもライセンスできる。

4G-LTE技術など今後あらゆるモバイルデバイスで使用される可能性があり、事業において汎用性が高い技術の場合、特許価値は高くなる。

FRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)による制限。FRANDとは、あ

る企業の特許が技術標準として採択される場合、他企業がその特許を使用する際、特許権利者は「公平で、合理的、かつ非差別的」に協議しなければならないという義務。

特許権行使・取得に多額の資金が

投入される理由(2)

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グーグルの特許戦略

他社特許を取得することの目的

「IT業界では特許訴訟が過熱しているが、訴訟対象となっている特許の中には質の低

いものが多く含まれており、訴訟の頻発がイノベーションを脅かしている。(中略)こういった特許訴訟から自らを守るもっともよい手段の一つは、皮肉にも膨大な特許ポートフォリオを持つことであり、そうすることで新製品やサービスを開発する自由度を維持することができる。」(ゼネラル・カウンセル、Kent Walker氏、2011年4月)

モトローラ・モビリティ買収の狙い

モトローラを買収することで、グーグルは「特許ポートフォリオを強化し、アンドロイドをアップルやマイクロソフトなどによる(特許の活用による)競争抑止的な脅威からより守ることができる。」(CEO、Larry Page氏、2011年8月)

「グーグル特許の傘」によるアンドロイド協力企業の保護

HTCの例に見るグーグル特許の譲渡・貸与に関する課題

グーグル、アップルの特許戦略(1)

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アップルの特許戦略

故ジョブス氏は2010年初頭に、「私はアンドロイドを破壊する。なぜなら、アンドロイドは(アップル製品の)盗品だからだ。この件に関しては、核戦争も辞さない。」と自伝の著者に語ったとされる。

アップルは知財戦略の基本に、自社製品の特徴的なユーザー経験 (“Distinctive Apple User Experience”)に関する技術やデザインを一貫してライセンスしないことを据えている。

製品デザインやユーザー・インターフェース技術などについては、「他社を排除するため」の特許戦略をとり、それ以外はクロスライセンスの対象とし、「事業の自由度を確保するため」の戦略をとっている。

アンドロイド陣営のHTCと和解したが、ライセンス契約では、デザイン特許を対象外とし、HTCが“Distinctive Apple User Experience”(契約にて定義)をコピーすることを禁じている。

グーグル、アップルの特許戦略(2)

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アップル対サムスン特許訴訟

進行中の一連の訴訟においては、10.5億ドルの損害賠償評決を得たアップルが優勢と見られているが、4G-LTEなどの通信技術においてはサムスンの特許力が勝っている。

アップルがノーテルから取得した特許ポートフォリオには相当数の4G-LTE特許が含まれている。

アップル、グーグルが2011年度に特許取得に費やした額は研究開発費の総額を上回る。

グーグル、アップルの特許戦略(3)

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2011年度 アップル グーグル

研究開発費総額 24億ドル 52億ドル

特許取得費用 26億ドル (ノーテル特許取得のため)

55億ドル (モトローラ・モビリティ

特許取得のため)

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一色 太郎

米国弁護士(カリフォルニア州・ワシントンDC弁護士)

一色外国法事務弁護士事務所

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