Title あなたの電子出版物は適格? --2012年9月の規約改正を今 一度振り返る...

6
Title あなたの電子出版物は適格? --2012年9月の規約改正を今 一度振り返る-- Author(s) 中野, 隆文; Grygier, Mark J. Citation タクサ: 日本動物分類学会誌 = TAXA, Proceedings of the Japanese Society of Systematic Zoology (2018), 44: 64-68 Issue Date 2018-02 URL http://hdl.handle.net/2433/230215 Right Type Journal Article Textversion publisher Kyoto University

Transcript of Title あなたの電子出版物は適格? --2012年9月の規約改正を今 一度振り返る...

Title あなたの電子出版物は適格? --2012年9月の規約改正を今一度振り返る--

Author(s) 中野, 隆文; Grygier, Mark J.

Citation タクサ: 日本動物分類学会誌 = TAXA, Proceedings of theJapanese Society of Systematic Zoology (2018), 44: 64-68

Issue Date 2018-02

URL http://hdl.handle.net/2433/230215

Right

Type Journal Article

Textversion publisher

Kyoto University

64   タクサ No. 44 (2018)

あなたの電子出版物は適格? ―2012年9月の規約改正を今一度振り返る―

はじめに

国際動物命名規約第4版[International Commission

on Zoological Nomenclature (ICZN), 1999]の「著作

物の公表」に関する条項の改正が公表されてから5

年が経った(ICZN, 2012a, b, c).ZootaxaやZooKeys

をはじめとした受理から出版までの迅速性を謳う新

興雑誌や,Zoological Journal of the Linnean Societyや

Journal of Natural Historyなど歴史ある雑誌が軒並み,

論文の電子出版を行っており,今や動物の記載分類

において「電子的に公表・配布される著作物(電子

著作物)」はなくてはならない公表媒体であると言

えよう.そして2017年6月の日本動物分類学会総

会で諮られた通り,本学会が出版しているSpecies

Diversityも2018年より冊子体の出版に先行して,

電子出版を行う予定である(2018年1月15日現在).

しかし残念なことに,動物命名規約2012年9月改

正の理解が不十分なままに,それら電子出版物が

「未公表な著作物」となっている事例が依然として

散見されるのもまた事実である.動物の新分類群名

を設立しようとするあらゆる著者が,2012年9月改

正にほんのもう少しでも注意を払えば,そのような

事態を回避することが可能である.そこで,本小考

では自戒の念も込めて,2012年9月改正でも特に

「2012年1月1日以降に公表された電子出版物の適

格性」について,今一度振り返りたい.2012年9月

改正の詳細については野田・西川(2013)をご参照

願いたい.また,電子出版物の適格性については,

Krell(2015a)とKrell and Pape(2015)に詳しいの

で,それらをご覧になることも勧めたい.加えて,

ICZNは「未公表な著作物」問題に既に多大な関心

を払っており,それら著作物に対処する必要性を認

識していることをここに付記しておきたい(Pape

and Harvey,私信).

適格であるための条件

2012年1月1日以降に公表された電子著作物が適

格となるためには,特に以下にあげる5つの条件に

留意する必要がある(図1).

1) 条8.1.3.2:著作物は組版が済んでおり,かつペー

ジ番号が付いている最終版(あるいはページ番

号が付いていない「Version of Record(VoR)」).

VoRが改正条8.1.3.2を満たしているか否かの議論

は決着を見ていない(Dubois et al., 2015).しかし,

当時のICZN ZooBank CommitteeのChairであるFrank-

Thorsten Krell博士がVoRを改正条8.1.3.2を満たす著

作物として認めていること(Krell, 2015a; Krell and

Pape, 2015),そして多くの雑誌においてAdvanced

ArticleやOnline Firstの呼称で公表されている電子著

作物は,VoRとして規約を満たした著作物として振

る舞っていることから,本小考でもVoRを改正条

8.1.3.2を満たす著作物と見なす.いずれにせよ重要

なのは「組版が済んでいること」であり,「受理時

の原稿」や「校了前の原稿」は適格な著作物とは見

なされない.

未公表となる例: ZooDiversity WebのEarly view

(http://zdw.zoology.or.jp/EarlyView)で先行公開されて

いる,Zoological Scienceに掲載予定の各論文のPDF

は組版前の原稿である.新分類群名の提唱や命名法

的行為を含む当該雑誌に掲載予定の論文は先行公開

されないようになっているが,仮にEarly viewでそ

のような論文のPDFが公開されたとしても,その

論文が規約の意味において公表されたと見なされる

ことはない.

2) 条8.5.2: 著作物中に公表の日付(年あるいは年

と月のみでも可)を含んでいること.

改正条8.5.2の通り,電子著作物の中にその著作

物の公表の日付が明記されていなければならない.

随 筆

タクサ No. 44 (2018)   65

3) 条8.5.3: ZooBankに登録済みでかつその証拠を

電子著作物が含んでいること.

まずその電子著作物が公表前にZooBankに登録さ

れていることが必須である.その上で,登録済みで

あることを示す「証拠」が電子著作物中になくては

ならない.2012年9月改正では「証拠」の例として,

ZooBankに登録されたレコード(以降ZooBankレ

コード)に付与される「著作物レコードのLSID(=

レコードに固有の番号)(図2A)や学名レコードの

LSID」,「レコードが登録された日付(図2B)」をあ

げている.その上で,電子著作物がPDFファイル

の場合はその証拠が「不可視でも良い」とも述べて

いる.要するにPDFのプロパティ等でZooBankレ

コードへのハイパーリンクが閲覧できるといった状

況は,改正条8.5.3を満たしていると言うことであ

る.Species Diversityでは分類学的行為(新分類群

の設立やレクトタイプ指定など)を含む各著作物の

1ページ目に,当該著作物のZooBankレコードへの

URLを明記しており,本条件を満たしている.

未公表となる例: オンライン雑誌であるAnimal

図1. 電子的に公表・配布された著作物が適格になるための5つの条件と行程.動物命名規約第4版2012年9月改正(ICZN, 2012a, b, c;野田・西川,2013)の条8.1と条8.5を基に作製.

66   タクサ No. 44 (2018)

Systematics, Evolution and Diversityに掲載されたLee

and Kim(2017)は公表前にZooBankに登録されて

いなかったため(2018年1月15日確認),規約の意

味において「未公表の著作物」である.

4) 条8.5.3.1: 条件3で登録された著作物のZooBank

レコードには,出版者以外のインターネット

アーカイブ機関の名称とそのインターネットア

ドレスを含んでいること.

本条件と条件5が特に失念されやすいのではない

だろうか.当該条項は,出版者が電子出版物を配布

し続けることが不能となった場合に備えていること

を示しなさい(改正条8.1)と,いうことである.

例えば,ZooKeysに掲載されたNakano(2016)の

ZooBankレコードには,出版者(Pensoft)以外のイ

ンターネットアーカイブ機関として,PubMed Cen-

tralの名称とそのインターネットアドレスが記され

ているため(図2A),改正条8.5.3.1を満たしてい

る.勿論ZooBankレコードに表示されるインター

ネットアーカイブ機関は複数でも構わない.一方

Species Diversityに掲載されたNakano and Lai(2017)

のZooBankレコードにはインターネットアーカイブ

機関に関する情報が含まれていないため(図2C),

J-STAGE上で公表されたNakano and Lai(2017)の

電子著作物(https://doi.org/10.12782/specdiv.22.143)

は未公表となり,よって,冊子体に収録された紙媒

体の著作物のみが規約の意味において公表され,な

おかつ適格となる.

図2. 雑誌に収録された著作物のZooBankレコード.A,ZooKeysに掲載されたNakano(2016)のレコード

(http://zoobank.org/References/FCCE8F28-BBCE-4C47–8305–4C43EEFF1C01; 2017年12月19日 閲 覧).

B,Nakano(2016)のレコードが登録された日付(LSIDにマウスカーソルを乗せると表示される).C,Species Diversityに掲載されたNakano and Lai(2017)のレコード(http://zoobank.org/References/90220F49-CD28-47AB-A627-9C4C8682F50E; 2017年12月19日閲覧).

タクサ No. 44 (2018)   67

ちなみにインターネットアーカイブ機関の名称・

インターネットアドレスが,雑誌等の定期刊行物や

書籍のZooBankレコードに,「ZooBank上で紐付け

された日付」(2012年9月3日; 図2A)は,各著作

物レコードの登録日とは別に表示される(2016年1

月12日; 図2B).したがって,電子著作物が公表

された時,「ZooBankには登録されていたが,アー

カイブ機関情報がレコードに無かった」ということ

で,後から著作物のレコードを修正しても,その電

子著作物は適格にならない.つまり誤魔化すことは

出来ない仕組みとなっている.

未公表となる例: Entomological Scienceにおいて

Early viewとして公開されたSobczak et al. (2017) はVoR

ではあるが,そのZooBankレコード(http://zoobank.

org/F7F10C35-1B88-4FE9-9316-26D72A15766F; ただ

しログインしなければ閲覧できない)にアーカイブ

機関情報を含んでいないため (2018年1月15日確認),

Sobczak et al. (2017) のEarly viewは規約の意味にお

いて「未公表の著作物」である.

5) 条8.5.3.2: 条件3で登録された著作物のZooBank

レコードには,ISBN(書籍の場合)あるいは

ISSN(s) (雑誌収録物の場合) が含まれていること.

これも改正条8.5.3.2の通りである.特に電子著作

物の場合,書籍のe-ISBNあるいは,著作物が収録

されている雑誌のe-ISSNが,その著作物のZooBank

レコードに含まれていなくてはならない.Species

Diversityに掲載されたNakano and Lai(2017)の

ZooBankレコードは,この条件は満たしている (図2C).

注) 条8.5.3.3:条8.5.3に関する錯誤は許容されている.

すなわち,著作物中に誤ったZooBank LSIDを引

用した場合や,ZooBankレコードの登録の日付を

誤って引用した場合でも,それによって未公表にな

らないと言うことである.ただし,ZooBankに登録

済みのある著作物の新版を公表する際には,必ず改

めて新版をZooBankに登録しなければ,その版は適

格とならない.

おわりに

以上,電子著作物が適格となるための条件を概説

した.例えば,Species Diversityの第22巻2号に掲

載された分類学的行為を含む各著作物は,条件1–3,

5を満たしているが条件4は満たしていないため,

繰り返しになるが J-STAGE上で公開されたPDF

ファイルの各著作物は「未公表」,紙に印刷された

冊子体に収録されている各論文が動物命名規約上

「適格な著作物」となる.

ZooKeysやZootaxa,あるいは分類学的論文を扱

うメジャーな雑誌については,編集部がこれら条件

を満たす環境を整えている.したがって,例え著者

に登録を頼んでいる場合でも,よほどのことがない

限りその電子著作物が「未公表」になることはない

であろう.ただし,ZooBankには既に雑誌レコード

があるのにも関わらず,著者が新たに同じ雑誌のレ

コードを作成してしまい,なおかつそのレコードが

条件を満たしていないために「未公表」となる例も

見られる.ZooBankに雑誌レコードを重複して登録

してしまった場合でも,著者が上述した5つの条件

を満たすように気をつけていれば,その電子著作物

が「未公表」となることはない.

電子著作物が未公表とならないために,各著作物

の著者は自身の電子著作物が上記5条件を満たして

いるか否かに注意を払う必要があるだろう.加え

て,電子的な配布を実施/検討している,分類学的

研究の成果を公表している大学の紀要や学会誌を出

版している国内の団体は,その雑誌等のZooBankレ

コードが条件4と条件5を満たしているか否か,再

度確認することが望ましい.

条件4を満たすために,ZooBankにおいてイン

ターネットアーカイブ機関として指定できるのは,

Bioline International,Biotaxa,British Library Online

Archive,CINES,CLOCKSS,e-Helvetica,German

National Library,HAL Open Archives,Harvard Digi-

tal Repository Service,Hathitrust,Internet Archive,

LOCKSS,National Digital Heritage Archive of The

National Library of New Zealand,National Library of

Australia,Portico,PubMed Central,State Library of

Queensland,Virginia State Publications Depository,

Zenodoの計19機関である(2018年1月15日現在).

インターネットアーカイブ機関への著作物供託が済

んでいない団体は,速やかに加入手続きを進めるこ

とが推奨される.

68   タクサ No. 44 (2018)

また,雑誌のZooBankレコードには,そのレコー

ドそのものと,その雑誌に紐付けされた各著作物レ

コードの編集権限を有する,「Affiliated User(s)」を

指定することが可能である.例えば,Species Diver-

sityのAffiliated Userは本小考の第一著者(中野)

である(http://zoobank.org/References/D224A030-

5453-45F8-89CD-E381F0CD21DB; ただしAffiliated

Userの情報はログインしなければ閲覧できない).

各出版者は自身の雑誌等の出版物エントリーにAf-

filiated Userを指定することで,ZooBank内での情報

の混乱を防ぐことが出来よう.

最後にZooBankの登録については,第一著者の小

著(中野,2013)をご参照いただきたい.また,著

者 二 名 は 共 に「ZooBank Content Editor」(Krell,

2015b)の権限を有しており,ほぼ全てのZooBank

レコードの編集が可能である(DOIやExternal

Link(s)の編集は出来ない).ZooBankレコードの問

題にお気づきの際は,何なりとご連絡いただきた

い.

いずれにせよ,本小考が電子的に公表・配布され

た著作物の適格性について今一度注意を喚起し,あ

るいは適格性を判断するための一助となれれば幸甚

である.

謝辞

本稿に有益なご指摘をくださった,北海道大学の柁

原宏准教授と広島大学の富川光准教授,若林香織助

教 に 御 礼 申し 上 げる.加 えて,Natural History

Museum of DenmarkのThomas Pape博士(ICZN

President) とWestern Australia MuseumのMark S. Harvey

博士(ICZN Vice-President)には未公表な著作物に

対する ICZNの対応に関して貴重な情報をご提供い

ただき,Bernice P. Bishop MuseumのRichard L. Pyle

博 士(ICZN Commissioner; ZooBank Administrator)

はZooBankレコードの画像を本小考の図に使用する

ことを許可してくださった.記して御礼申し上げる.

文献

Dubois, A., Bour, R., and Ohler, A. 2015. Nomenclatural

availability of preliminary electronic versions of taxo-nomic papers: in need of a clear definition. Bulletin of Zoological Nomenclature, 72: 252–265.

International Commission on Zoological Nomenclature. 1999. International Code of Zoological Nomenclature. Fourth Edition. The International Trust for Zoological Nomenclature, London, xxix+306 pp.

International Commission on Zoological Nomenclature. 2012a. Amendment of Articles 8, 9, 10, 21 and 78 of the International Code of Zoological Nomenclature to expand and refine methods of publication. ZooKeys, 219: 1–10.

International Commission on Zoological Nomenclature. 2012b. Amendment of Articles 8, 9, 10, 21 and 78 of the International Code of Zoological Nomenclature to expand and refine methods of publication. Zootaxa, 3450: 1–7.

International Commission on Zoological Nomenclature. 2012c. Amendment of Articles 8, 9, 10, 21 and 78 of the International Code of Zoological Nomenclature to expand and refine methods of publication. Bulletin of Zoological Nomenclature, 69: 161–169.

Krell, F.-T. 2015a. A mixed bag: when are early online pub-lications available for nomenclatural purposes? Bulletin of Zoological Nomenclature, 72: 19–32.

Krell, F.-T. 2015b. ZooBank Progress Report. Bulletin of Zo-ological Nomenclature, 72: 181–185.

Krell, F.-T. and Pape, T. 2015. Electronic publications need registration in ZooBank to be available. Bulletin of Zoo-logical Nomenclature, 72: 245–251.

Lee, J. and Kim, I.-H. 2017. Siphonostomatoid copepods (Crustacea) associated with sponges from the Philip-pines and Vietnam. Animal Systematics, Evolution and Diversity, 33: 73–99.

中野隆文.2013.ZooBankデータ登録の実践的解説.

タクサ�日本動物分類学会誌,34: 54–66.Nakano, T. 2016. A new quadrannulate species of Orobdella

(Hirudinida, Arhynchobdellida, Orobdellidae) from western Honshu, Japan. ZooKeys, 553: 33–51.

Nakano, T. and Lai, Y.-T. 2017. A new quadrannulate species of Orobdella (Hirudinida: Arhynchobdellida: Orobdel-lidae) from Pingtung, Taiwan. Species Diversity, 22: 143–150.

野田泰一・西川輝昭.2013.国際動物命名規約第4版の2012年9月改正.タクサ�日本動物分類学会

誌,34: 71–76.Sobczak, J. F., Pádua, D. G., Costa, L. F. A., Carvalho, J. L.

V. R., Ferreira, J. P. S., Sobczak, J. C. M. S. M., and Messas, Y. F. 2017. The parasitoid wasp Eruga unilabi-ana Pádua & Sobczak, sp. nov. (Hymenoptera: Ichneu-monidae) induces behavioral modification in its spider host. Entomological Science. doi: 10.1111/ens.12278.

中野隆文(京都大学)・Mark J. Grygier(国立台湾海洋

大学)