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薬学部 医療薬学教育センター 臨床薬学研究室 吉尾 隆 教授 1979年3月、東邦大学薬学部衛生薬学科卒業、薬学博士。同 年5月、立川第一相互病院、同年11月、西八王子病院勤務。 1991年3月、同院・薬局長。1994年4月、桜ヶ丘病院・薬剤科 長、同年10月、同院・薬剤部長。2008年4月、東邦大学薬学 部医療薬学教育センター臨床薬学研究室・教授、現在に至る。 2008年10月~2012年3月、慶應義塾大学大学院健康マネジ メント研究科・非常勤研究員。 Profile 医療現場における臨床薬学の新たな領 域を追究 臨床の現場は コンプライアンスから アドヒアランスへ! 薬物治療の新たな評価尺度をつくるのが我々の目的ですが、そのために欠 かせないのがアドヒアランスです。最近は、治療は医師の指示に従うという 考え(コンプライアンス)から、患者との相互理解のもとに行っていくもの(ア ドヒアランス)であるという考えに変化してきています。薬剤師は医療者と患 者さんと協調しながら共同作業を経て、より良い治療をめざします。在学中 にその臨床のあり方を疑似体験できるこの研究室は、それだけに社会との 接点が多いという特徴も持っています。 薬学部6年生 三津田 華耶さん 薬学部6年生 迫田 卓也さん 平成 18 年度に6年制カリキュラムに 移行してから、今年で10 年目を迎えた 薬学部。臨床に強みを発揮する薬剤師 の輩出をめざす東邦大学薬学部では、 薬学教育モデル・コアカリキュラムの改 訂に伴い、平成 27 年度から新カリキュ ラムが導入され、薬学教育への新たな 試みが次々と実践される体制に入った。 その薬学部で、6年制カリキュラム 以降、当時から学部内で強化された部 門の代表的な存在の一つが臨床薬学 研究室である。 医療現場における薬剤師への期待 がますます高まるなか、同研究室で は、薬剤師の臨床業務を研究し、臨 床に強い、医療人としての薬剤師を育 成するための実践的な教育・研究を目 的としている。 景の患者に対して最大の効果を示すの か、また、副作用が出やすいのかを調 査する必要がある。その結果から服薬 指導や医療関係者に対して、より説得 力のある説明ができるようになるので あって、そのため同研究室では、各関 連医療施設における症例や事例の情 報をベースにして、薬の有効性、安全 性などの調査研究を行っているのだ。 研究に必要なデータは、協力を得て いる病院などの施設で治療を受けて いる患者さんたちの血液検査、心電 図、カルテなどの膨大な医療情報を根 拠として、それらをより多く収集し、分 析を実施。そこで得られた結果から、 従来の治療や処方がそのままでいい のか、個々の症例に応じた診療はどう あるべきかを考察し、最も効果が高い と思われる薬物治療のあり方を探って いく。 症例データからは、個々の患者さん の腎機能・肝機能なども皆同じではな いことがわかっているため、チーム医 療も意識して薬剤師が臨床現場で活 躍できるためのケーススタディを少し でも多く蓄積するのが研究室の目的だ と言える。だから研究活動においては、 臨床施設に出向いてデータ収集をは じめ、場合によっては患者さんたちへ のインタビュー調査も行う。 研究室の教員スタッフは吉尾隆教 授以下3名。より臨床的な薬物治療に 関する講義の数々をはじめ、医薬品情 報、精神科領域(吉尾教授)、糖脂質 代謝領域(佐々木英久准教授)、感染 症領域(松尾和廣講師)を中心とした、 さまざまな臨床領域の研究と学生指 導を担当している。 研究室に学ぶ学生は5年生と6年 生。このうち5年生は主に医療施設に 出向きデータ収集やインタビューを経 て、症例などの薬物治療の情報集積を 行い、6年生は研究室内を中心に関わ る領域のデータを分析し、報告をまと める作業をする形をとっている。 医療現場のスタッフや患者さんたち と直接触れ合う機会も多いだけに「研 究活動を通じて、臨床現場に必要とな るコミュニケーション能力が必然的に 鍛えられる研究室だと言えますね。」と 吉尾教授。 近年の医薬品には、個々の薬剤がも たらす有益な作用(ベネフィット)と副 作用(リスク)とのバランスで、個々の 患者に対する目的の疾患予防・治療に 臨床現場で30年にわたる勤務実 績を持つ吉尾教授をはじめ、スタッフ は皆、豊富な現場経験を持つだけに、 机上の学術情報よりも、臨床現場から 得られる医療情報をベースに薬学の 新たな境地を追究していくのが、この 研究室の特徴ある基本スタイルだと 言える。 レトロスペクティブ(過去のデータ) を生かし、プロスペクティブ(前向きな 情報)を発信していく臨床薬学。吉尾 教授は、薬の副作用のスクリーニング を薬剤師自身が行えば、より良い薬物 治療に直結しやすくなると考えている。 「マニュアルに縛られず、現場でどれだ け機能できるか。それが今後の薬剤師 に求められる最も重要なポイントで す。また、何年かして大学院に戻って 研究を重ねる卒業生も待望していま す。」と語る吉尾教授の言葉は、まさに プロスペクティブだ。 有用であるかを評価することが求めら れている。 それには、個々の薬剤の効果と副作 用を調査するのと同時に、どのような背 薬学療法に関する数々の情報を臨床現場から収集後、分析&集積 レトロスぺクティブを探り プロスペクティブに生かす 5年生が15人、6年生が12人在籍するこの研究室 は人数が比較的多いので、さまざまな価値観に触れ て自分の視野がとても広がりました。臨床に近い領 域の研究がしたくてこの研究室を選びましたが、現場 経験豊富な先生方の指導は、新鮮でいつも充実感 を味わっています。とくに吉尾先生はお父さん的な存 在で安心して学べています。 抗がん剤を対象とした研究を希望し、この研究室を 選択しました。 現在は「後発医薬品の適正使用に 関する課題」の卒論に取り組んでいます。学生個々 の研究テーマは多様ですが、臨床の現場でも管理 者だった吉尾先生はそれぞれの学生に合った指導を してくださり、私たち学生はのびのびと研究に取り組 むことができ、感謝しています。 10 TOHONOW 2015.July July.2015 TOHONOW 11

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Page 1: Profile...Profile 領 究 は ら へ!欠う 患 ア 在学中の。薬学部6年生 三津田 華耶さん 薬学部6年生 迫田 卓也さん 平成18年度に6年制カリキュラムに

●薬学部 医療薬学教育センター 臨床薬学研究室

この研究 吉尾 隆教授

この人

1979年3月、東邦大学薬学部衛生薬学科卒業、薬学博士。同年5月、立川第一相互病院、同年11月、西八王子病院勤務。1991年3月、同院・薬局長。1994年4月、桜ヶ丘病院・薬剤科長、同年10月、同院・薬剤部長。2008年4月、東邦大学薬学部医療薬学教育センター臨床薬学研究室・教授、現在に至る。2008年10月~2012年3月、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科・非常勤研究員。

Profile

医療現場における臨床薬学の新たな領 域を追究

臨床の現場はコンプライアンスから

アドヒアランスへ!

薬物治療の新たな評価尺度をつくるのが

我々の目的ですが、そのために欠

かせないのがアドヒアランスです。最近は

、治療は医師の指示に従うという

考え(コンプライアンス)から、患者との相

互理解のもとに行っていくもの(ア

ドヒアランス)であるという考えに変化して

きています。薬剤師は医療者と患

者さんと協調しながら共同作業を経て、よ

り良い治療をめざします。在学中

にその臨床のあり方を疑似体験できるこ

の研究室は、それだけに社会との

接点が多いという特徴も持っています。

薬学部6年生

三津田 華耶さん

薬学部6年生

迫田 卓也さん

 平成18年度に6年制カリキュラムに移行してから、今年で10年目を迎えた薬学部。臨床に強みを発揮する薬剤師の輩出をめざす東邦大学薬学部では、薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂に伴い、平成27年度から新カリキュラムが導入され、薬学教育への新たな試みが次 と々実践される体制に入った。 その薬学部で、6年制カリキュラム以降、当時から学部内で強化された部門の代表的な存在の一つが臨床薬学研究室である。 医療現場における薬剤師への期待がますます高まるなか、同研究室では、薬剤師の臨床業務を研究し、臨床に強い、医療人としての薬剤師を育成するための実践的な教育・研究を目的としている。

景の患者に対して最大の効果を示すのか、また、副作用が出やすいのかを調査する必要がある。その結果から服薬指導や医療関係者に対して、より説得力のある説明ができるようになるのであって、そのため同研究室では、各関連医療施設における症例や事例の情報をベースにして、薬の有効性、安全性などの調査研究を行っているのだ。 研究に必要なデータは、協力を得ている病院などの施設で治療を受けている患者さんたちの血液検査、心電図、カルテなどの膨大な医療情報を根拠として、それらをより多く収集し、分析を実施。そこで得られた結果から、従来の治療や処方がそのままでいいのか、個々の症例に応じた診療はどうあるべきかを考察し、最も効果が高いと思われる薬物治療のあり方を探っていく。 症例データからは、個々の患者さんの腎機能・肝機能なども皆同じではないことがわかっているため、チーム医療も意識して薬剤師が臨床現場で活躍できるためのケーススタディを少しでも多く蓄積するのが研究室の目的だと言える。だから研究活動においては、臨床施設に出向いてデータ収集をはじめ、場合によっては患者さんたちへのインタビュー調査も行う。

 研究室の教員スタッフは吉尾隆教授以下3名。より臨床的な薬物治療に関する講義の数々をはじめ、医薬品情報、精神科領域(吉尾教授)、糖脂質代謝領域(佐々木英久准教授)、感染症領域(松尾和廣講師)を中心とした、さまざまな臨床領域の研究と学生指導を担当している。

 研究室に学ぶ学生は5年生と6年生。このうち5年生は主に医療施設に出向きデータ収集やインタビューを経て、症例などの薬物治療の情報集積を行い、6年生は研究室内を中心に関わる領域のデータを分析し、報告をまとめる作業をする形をとっている。 医療現場のスタッフや患者さんたちと直接触れ合う機会も多いだけに「研究活動を通じて、臨床現場に必要となるコミュニケーション能力が必然的に鍛えられる研究室だと言えますね。」と吉尾教授。

 近年の医薬品には、個々の薬剤がもたらす有益な作用(ベネフィット)と副作用(リスク)とのバランスで、個々の患者に対する目的の疾患予防・治療に

 臨床現場で30年にわたる勤務実績を持つ吉尾教授をはじめ、スタッフは皆、豊富な現場経験を持つだけに、机上の学術情報よりも、臨床現場から得られる医療情報をベースに薬学の新たな境地を追究していくのが、この研究室の特徴ある基本スタイルだと言える。

 レトロスペクティブ(過去のデータ)を生かし、プロスペクティブ(前向きな情報)を発信していく臨床薬学。吉尾教授は、薬の副作用のスクリーニングを薬剤師自身が行えば、より良い薬物治療に直結しやすくなると考えている。「マニュアルに縛られず、現場でどれだけ機能できるか。それが今後の薬剤師に求められる最も重要なポイントです。また、何年かして大学院に戻って研究を重ねる卒業生も待望しています。」と語る吉尾教授の言葉は、まさにプロスペクティブだ。

有用であるかを評価することが求められている。 それには、個々の薬剤の効果と副作用を調査するのと同時に、どのような背

薬学療法に関する数々の情報を臨床現場から収集後、分析&集積

レトロスぺクティブを探りプロスペクティブに生かす

5年生が15人、6年生が12人在籍するこの研究室は人数が比較的多いので、さまざまな価値観に触れて自分の視野がとても広がりました。臨床に近い領域の研究がしたくてこの研究室を選びましたが、現場経験豊富な先生方の指導は、新鮮でいつも充実感を味わっています。とくに吉尾先生はお父さん的な存在で安心して学べています。

抗がん剤を対象とした研究を希望し、この研究室を選択しました。現在は「後発医薬品の適正使用に関する課題」の卒論に取り組んでいます。学生個々の研究テーマは多様ですが、臨床の現場でも管理者だった吉尾先生はそれぞれの学生に合った指導をしてくださり、私たち学生はのびのびと研究に取り組むことができ、感謝しています。

10 TOHONOW 2015.July July.2015 TOHONOW 11