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Instructions for use Title 救急の持続可能性 Author(s) 石井, 吉春 Citation 年報 公共政策学, 8, 33-54 Issue Date 2014-05-30 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/59388 Type bulletin (article) File Information ASSP8_005.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Title 救急の持続可能性

Author(s) 石井, 吉春

Citation 年報 公共政策学, 8, 33-54

Issue Date 2014-05-30

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/59388

Type bulletin (article)

File Information ASSP8_005.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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救急の持続可能性

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救急の持続可能性*

石井 吉春

1. 問題の所在

本稿で取り扱う救急は、「事故や急病に対応して傷病者を救急車で迅速に医療機関

に搬送する行政システム」と定義できるが、市民の安全と安心を支える重要な公共サ

ービスと位置づけられる。

119番は誰もが知っている電話番号となっているが、救急は、原則として市町村の

消防機関が担う事務とされている。救急出場件数は、2000年に 4 百万件を超え、2010

年には5.5百万件に達しており、消防出場件数の7割を占めるまでになっている。原則

として 3 名がチームとして 1 台の救急車に乗り込むことになっているが、24時間体制

で運用されていることから、11年で救急車が全国で 6 千台保有されているのに対して、

救急隊員は兼任も含めてほぼ10倍の60千人に達している。

当初は、災害や事故による怪我を想定して救急が制度化されたが、86年の消防法改

正により、急病が明確に救急の対象範囲に位置づけられている 1)。そして、年を追う

ごとに急病による搬送の比率は増加し、10年には 6 割を超えるまでになっている。一

方、急病による搬送の比率が 7 割を占める高齢者が、出場件数全体の 5 割を占めるよ

うになっている。

こうした傾向が今後も続けば、さらに救急出場件数は増加を続けていくものとみら

れ、財政制約が強まるなか、円滑な搬送が困難となる事態が懸念されている。

因みに、2010年度の消防費は、1 兆7,702億円で、歳出総額の1.9%を占めているが、

厳しい財政状況のなかで、最近では減少傾向を余儀なくされている。こうしたなかで、

直接的な経費に絞って救急費用を概算すると、約 5 千億円と試算 2)され、消防費用の

本稿作成に当たっては、総務省消防庁、札幌市消防局、横浜市消防局、大阪市消防局の担

当者から、救急の現状や課題について貴重な示唆をいただくとともに、分析に用いるデー

タを提供していただいた。ここに、深く感謝したい。

北海道大学公共政策大学院教授 E-mail:[email protected] 1) 1963年に消防法が改正され、消防機関の救急業務として、事故・災害などによる傷病者の

医療機関への搬送が義務化されている(消防法第 2 条 9 項)。86年には、同法施行令42条が

改正され、これまで明確に位置づけられていなかった急病人の救急搬送について明文化さ

れている。

2) 人件費については、兼任を出場件数按分で実人員換算を行い(47千人)、按分(3,951億

円)している。さらに、資本費については、救急車を 1 台30百万円として、6 千台の取得

費用を求めた上で、減価償却費を法定耐用年数 5 年として試算(360億円)している。投資的

経費を除くその他経費についても、人数按分(730億円)すると、救急の直接的な経費は

2010年度で5,041億円と試算される。

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3 割弱となる。したがって、救急出場 1 件当たりの費用は92千円となり、救急が財政

的に負担の大きい公共サービスとなっていることが理解できよう。

救急に関する先行研究をみると、搬送人員に関して、中野(2011)は、政令市を対

象とした重回帰分析を通じて、出場件数には高齢者人口、人口密度が説明変数として

有意であること、収容所要時間には人口密度や面積が大きな影響を与えていることを

指摘している。また、中澤(2012)は、秋田県の年齢別搬送比率を分析し、0~1歳と

20~30歳にわずかな増加があり、45~90歳に指数級数的な増加があることを明らかに

している。

一方、制度見直しに関しては、出場件数増加などを背景に、利用の適正化にかかわ

る問題提起が多くなされている。これまでの適正化に向けた流れとしては、有料化の

流れとトリアージ 3)の強化といった流れが併存してきたと言える。このうち、前者に

ついては、欧米の導入事例なども踏まえて複数の自治体で検討が進められたが、様々

な課題 4)も指摘されており、これまでのところ導入に至った事例は生まれていない。

また、後者に関しても、119番の前段として救急安心センターの導入などの取り組み

が行われ、一定の広がりを見せているが、費用負担などの課題もあり、社会的実験の

段階にとどまっている。

因みに、消防法上は、急病を「生命に危険を及ぼし、若しくは著しく悪化するおそれ

があると認められる症状を示す疾病」と定めているが、近年の積極的な広報活動により、

搬送人員の減少につながったとの見方がある一方で、人口当たり搬送人員が多い地域

ではほとんど効果が上がっていないといった問題点を指摘する声も出されている。

本研究では、こうした問題認識も踏まえた上で、あらためて救急の現況を確認する

一方で、出場件数の増加要因などについても複数の視点で分析を行った上で、課題抽

出や今後の救急業務の持続性確保に向けた方策などについても検討を試みている。

2. 救急の現況

2.1 救急にかかる役割分担

消防が行う救急業務に関し、市町村の役割を「市町村は、当該市町村の区域におけ

る消防を十分に果たすべき責任を有する。」(消防組織法第6条)、「市町村の消防に要

する費用は、当該市町村がこれを負担しなければならない。」(同法第 8 条)と定めて

いる。

関係機関の役割として、都道府県は、傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関

する基準を定めることなどの役割を担っている。国は都道府県に対し、実施基準の策

3) 重症度や緊急度を判定し、治療や搬送先の順位を決めること。

4) 東京消防庁の検討委員会では、有料化によってかえって安易な救急需要の増加を招く恐れ

があること、有料化の前提として、保険などの社会インフラの整備が必要なこと、本来救

急車が必要な事案について、要請を躊躇させる恐れがあることなどが指摘されている。

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救急の持続可能性

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定又は変更に関し必要な情報の提供、助言その他の援助を行うとされている。また、

医療機関についても、傷病者の受入れに当たり実施基準の尊重が求められている。

2.2 救急の実施体制

2.2.1 全国の状況

全国における救急業務の実施状況をみると、救急実施市町村は2011年で1,689市町

村と全体の97.9%に達している。実施市町村のうち、単独実施の531市町村に対して、

事務委託による実施が129市町村、一部事務組合による実施が1065市町村となってい

る。

また、救急隊員の総数は、2000年の56.1千人から11年には59.7千人へと、6.4%の

増加となっている。この間、91年に法制化され、医師の指導の下に救急救命処置を行

うことができる救急救命士は11年には22.1千人まで増加しており、全体の37.0%を占

めるまでになっている。

救急自動車数は、2000年の5.345台が、2011年には6,003台に増加しており、なかで

も救急救命士が活動しやすい装備を持つ高規格車は2,405台から5,204台まで増加して

いる。

2.2.2 都道府県別にみた実施体制

2010年における都道府県別の救急の実施体制をみたのが表 2 となるが、救急自動車

数は、北海道の398台が最も多く、東京都、大阪府がそれに続いている。一方、鳥取

県の33台が最も少なく、徳島県、佐賀県がそれに続いている。

救急隊数も北海道の306隊が最も多く、隊員数も北海道の4,570人が最も多くなって

いる。一方、救助隊数では鳥取県の31隊が最も少なく、隊員数では香川県の401人が

最も少なくなっている。また、1 台当たり隊員数は、東京都の6.5人が最も少なく、

鳥取県の16.9台が最も多い。

救急車 1 台当たりの人口と同面積の状況をみたのが図 1 となる。両者の関係は、負

の相関関係になっているが、面積要因が大きく影響して、地方での救急車配置が、大

表1. 救急実施体制の推移(隊・台・人・件)

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 00~11

増減率

救急隊数 4,582 4,563 4,596 4,649 4,711 4,751 4,779 4,846 4,871 4,892 4,910 4,927 7.5

救急自動車数 5,345 5,448 5,517 5,574 5,636 5,641 5,765 5,875 5,899 5,933 5,967 6,003 12.3

うち高規格車 2,405 2,742 3,062 3,307 3,637 3,859 4,144 4,391 4,503 4,722 4,958 5,204 116.4

救急隊員総数 56,128 56,557 57,515 57,968 57,936 57,966 58,510 59,216 59,222 59,010 58,938 59,650 6.3

1 台当たり隊員数 10.5 10.4 10.4 10.4 10.3 10.3 10.1 10.1 10.0 9.9 9.9 9.9 -5.4

1 台当たり出場件数 913 964 992 1,040 1,068 1,111 1,097 1,092 1,047 1,048 1,113 1,158 26.9

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都市よりも効率面で劣る形でしか配備できていないことを表している。

図 2 では、救急車 1 台当たり人口と 1 台当たり出場回数の関係をみているが、強い

正の相関関係が見出せる。このことは、適正稼働をどの水準で考えるかは別として、

救急車の運用効率が大都市と地方では大きく異なっていることを意味している。

表2. 都道府県別にみた救急体制(2010 年、台・%・隊・人)

救急自動車計 救急隊

数隊員数

1 台当たり

隊員数

救急自動車計 救急隊

数 隊員数

1 台

当たり

隊員数 計 高規格 その他

高規格

比率計 高規格 その他

高規格

比率

北海道 398 302 96 75.9 306 4,570 11.5 滋賀県 65 58 7 89.2 59 837 12.9

青森県 110 77 33 70 88 1,253 11.4 京都府 108 101 7 93.5 80 1,078 10.0

岩手県 98 79 19 80.6 83 1,149 11.7 大阪府 284 266 18 93.7 212 2,449 8.6

宮城県 103 97 6 94.2 87 937 9.1 兵庫県 214 207 7 96.7 185 2,077 9.7

秋田県 85 60 25 70.6 75 969 11.4 奈良県 77 60 17 77.9 64 920 11.9

山形県 73 60 13 82.2 62 774 10.6 和歌山県 79 75 4 94.9 65 719 9.1

福島県 128 66 62 51.6 115 1,389 10.9 鳥取県 33 29 4 87.9 31 558 16.9

茨城県 168 151 17 89.9 146 2,091 12.4 島根県 80 54 26 67.5 66 810 10.1

栃木県 99 94 5 94.9 85 956 9.7 岡山県 113 89 24 78.8 99 1,704 15.1

群馬県 106 101 5 95.3 92 895 8.4 広島県 163 151 12 92.6 124 1,176 7.2

埼玉県 255 244 11 95.7 216 1,979 7.8 山口県 87 83 4 95.4 71 937 10.8

千葉県 248 234 14 94.4 204 2,249 9.1 徳島県 49 39 10 79.6 42 536 10.9

東京都 335 333 2 99.4 239 2,176 6.5 香川県 53 51 2 96.2 42 401 7.6

神奈川県 271 262 9 96.7 210 2,045 7.5 愛媛県 91 75 16 82.4 78 750 8.2

新潟県 153 110 43 71.9 129 1,694 11.1 高知県 65 53 12 81.5 46 606 9.3

富山県 64 62 2 96.9 54 681 10.6 福岡県 176 173 3 98.3 148 1,452 8.3

石川県 56 56 0 100 49 708 12.6 佐賀県 49 46 3 93.9 41 597 12.2

福井県 52 46 6 88.5 49 444 8.5 長崎県 89 60 29 67.4 73 748 8.4

山梨県 63 42 21 66.7 52 620 9.8 熊本県 114 91 23 79.8 96 854 7.5

長野県 141 113 28 80.1 115 1,723 12.2 大分県 73 55 18 75.3 60 598 8.2

岐阜県 144 122 22 84.7 125 1,677 11.6 宮崎県 51 50 1 98 40 475 9.3

静岡県 165 152 13 92.1 139 1,420 8.6 鹿児島県 136 71 65 52.2 106 1,075 7.9

愛知県 247 238 9 96.4 219 3,236 13.1 沖縄県 74 62 12 83.8 58 957 12.9

三重県 118 104 14 88.1 102 1,701 14.4 計 6,003 5,204 799 86.7 4,927 59,650 9.9

図1. 都道府県別にみた救急車 1 台当たり人口と同面積

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2.3 救急出場件数などの推移

2.3.1 出場件数などの動き

救急出場件数、同搬送人員ともに増加の一途を辿っており、2000年代半ばに一次的

に減少傾向となったものの、足下では再び増加に転じており、2010年には出場件数で

5,464千件、搬送人員で4,980千人に達している。この数字は、人口の25人に 1 人が搬

送されているというものであり、いかに近年の増加幅が大きかったかが分かる。

70年代以降、65歳以上人口との対比でみた出場件数が、比較的安定的な推移をみせ

ており、高齢者の増加が搬送人員の増加に大きく影響しているものとみられる。

因みに、厚生労働省の2008年患者調査 5)から救急の位置づけを確認すると、救急搬

送された入院患者は120.5千人となっており、救急外来を受診した者、診療時間外に

受診した者を含む広義の救急患者196.4千人の61.4%となっているほか、全入院患者

1,392.4千人の8.7%を占めている。一方、救急搬送された外来患者は5.4千人(1

日)と、全外来患者数5,555,5千人の0.1%にとどまっている。

都道府県別に、10年の出場件数と人口 1 万人当たり出場件数の状況をみたのが図 4

となるが、出場件数は、東京都の706千件が最も多い一方で、鳥取県の22千件が最も

少ない。

同年の人口 1 万人当たりの出場件数をみると、大阪府の561件が最も多いほか、東

5) 同調査による傷病程度をみると、生命の危険は少ないが入院治療、手術を要する64.7%、

生命の危険がある14.2%、受け入れ条件が整えば退院可能12.8%、検査入院0.6%、その

他7.7%となっている。

図2. 救急車 1 台当たり人口と 1 台当たり出場回数

(資料)表1~2、図1~2ともに、総務省消防庁「救急・救助の現況」をもとに作成。

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京都、高知県、和歌山県がそれに続いている。一方、福井県が311件と最も少ないほ

か、石川県、青森県、富山県などがそれに続いている。05年からの変化でみると、ほ

とんどの都道府県で件数が増加しているが、傾向はさほど変動していないことが読み

取れる。

2.3.2 事故種別の動き

事故種別にみた出場件数の構成比の推移をみると、急病比率の上昇と交通事故比率

図3. 救急出場件数などの推移

図4. 都道府県別にみた救急出場件数など(2010 年)

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の低下が大きな趨勢となっている。

これを都市規模別にみたのが表 3 となるが、急病が特に規模の大きな自治体で増加

していること、その一方で、交通事故が全ての階層で減少していることなどが特筆さ

れる。

図5. 出場件数の事故種別構成比(%)

表3. 都市規模別にみた事故種別出場件数の変化

件数(千件) 構成比(%)

急病交通事故

一般負傷

その他うち転院

計 急病交通事故

一般負傷

その他 うち 転院

05

単独 実施

大都市 1,085 204 241 222 114 1,751 62.0 11.6 13.8 12.7 6.5 100.0

30万人以上 516 111 107 129 79 862 59.8 12.9 12.4 14.9 9.1 100.0

10万人以上30万人未満 479 108 101 122 75 809 59.1 13.3 12.5 15.0 9.3 100.0

5万人以上10万人未満 184 40 41 47 31 312 59.1 12.7 13.0 15.2 10.1 100.0

5万人未満 124 24 29 36 26 212 58.2 11.2 13.5 17.1 12.2 100.0

小計 2,387 487 518 556 325 3,947 60.5 12.3 13.1 14.1 8.2 100.0

消防 事務 組合

30万人以上 151 36 31 38 24 256 59.1 14.1 12.1 14.7 9.2 100.0

10万人以上30万人未満 386 87 82 105 72 660 58.5 13.2 12.4 16.0 10.9 100.0

5万人以上10万人未満 169 33 39 48 35 288 58.5 11.4 13.4 16.7 12.1 100.0

5万人未満 71 12 17 24 18 123 57.3 10.0 13.4 19.3 14.3 100.0

小計 776 168 168 215 147 1,327 58.5 12.7 12.6 16.2 11.1 100.0

計 3,163 655 686 771 472 5,274 60.0 12.4 13.0 14.6 9.0 100.0

10

単独 実施

大都市 1,239 186 286 242 126 1,953 63.5 9.5 14.7 12.4 6.5 100.0

30万人以上 493 85 106 113 69 797 61.9 10.6 13.3 14.2 8.6 100.0

10万人以上30万人未満 528 95 114 125 78 862 61.2 11.0 13.3 14.5 9.0 100.0

5万人以上10万人未満 209 36 46 49 33 341 61.3 10.7 13.5 14.5 9.8 100.0

5万人未満 136 21 32 36 26 224 60.6 9.3 14.2 16.0 11.4 100.0

小計 2,604 423 584 565 332 4,176 62.4 10.1 14.0 13.5 7.9 100.0

消防 事務 組合

30万人以上 151 28 31 35 23 246 61.5 11.5 12.5 14.4 9.2 100.0

10万人以上30万人未満 405 72 86 101 69 665 61.0 10.8 13.0 15.2 10.4 100.0

5万人以上10万人未満 161 24 36 42 30 263 61.2 9.2 13.7 16.0 11.5 100.0

5万人未満 67 9 16 21 16 114 59.1 8.3 13.9 18.7 14.0 100.0

小計 785 134 169 200 138 1,288 60.9 10.4 13.1 15.5 10.7 100.0

計 3,389 557 753 765 470 5,464 62.0 10.2 13.8 14.0 8.6 100.0

(資料)図3~5、表 3 ともに、総務省消防庁「救急・救助の現況」をもとに作成。

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2.3.3 傷病程度別の動き

傷病程度別の動きについては、最初に、動きが捉えやすい都市規模別、事故種別に

動きをみていく。実数の動きをみると、急病では、大都市、その他ともに、軽症のみ

ならず、死亡、重症、中等症ともに搬送人員が増加している。一方、交通事故では、

大都市の中等症以外は軒並み搬送人員が減少している。

構成比の動きをみると、急病の軽症比率は大都市で高く、その分、その他では死亡、

重症、中等症の比率が高い。また、交通事故の死亡、重症比率はその他の方で高く、

大都市は軽症の比率が高い。その他事故でも、その他(市町村)では重症比率が高く、

大都市の同比率は低い。

次に、道府県別に10年の傷病程度別の動きをみたのが図 6 となるが、軽症比率が最

も高いのが、大阪府の62.6%となっているほか、京都府、滋賀県、和歌山県が続いて

いる。一方、同比率が最も低いのが宮城県の32.9%となっており、大阪府とは 2 倍近

表4. 都市規模別にみた事故種別傷病程度(搬送人員)

実数(千人) 構成比(%)

急病 交通事故 一般負傷 その他 計 急病 交通事故 一般負傷 その他 計

05

大 都 市

死亡 9 0 1 2 11 0.9 0.2 0.3 0.9 0.7 重症 62 5 8 26 102 6.3 2.4 3.8 14.7 6.4

中等症 375 26 57 97 557 37.9 12.9 26.1 54.6 34.9

軽症 541 173 153 53 920 54.7 84.4 69.6 29.5 57.7

その他 2 0 0 1 4 0.2 0.1 0.2 0.3 0.2

計 990 205 220 178 1,593 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

そ の 他

死亡 43 3 4 7 57 2.2 0.7 1.0 1.3 1.7 重症 194 24 43 120 381 9.9 4.9 10.1 24.6 11.3

中等症 790 89 123 258 1,260 40.4 18.0 29.1 52.7 37.5

軽症 926 379 252 102 1,660 47.4 76.3 59.7 21.0 49.4

その他 2 1 0 2 5 0.1 0.2 0.1 0.4 0.1

計 1,954 497 423 489 3,363 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

死亡 52 4 5 8 68 1.8 0.5 0.8 1.2 1.4 重症 256 29 51 146 482 8.7 4.2 7.9 21.9 9.7

中等症 1,165 116 181 355 1,817 39.6 16.5 28.1 53.2 36.7

軽症 1,467 552 405 155 2,580 49.8 78.6 63.1 23.2 52.1

その他 4 1 1 3 9 0.1 0.1 0.1 0.4 0.2

合計 2,944 702 643 667 4,956 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

10

大 都 市

死亡 12 0 1 2 16 1.1 0.2 0.4 1.2 0.9 重症 73 4 10 28 114 6.6 2.5 3.8 14.7 6.7

中等症 435 28 77 109 648 39.7 15.5 30.1 57.9 37.8

軽症 575 145 167 49 936 52.5 81.7 65.6 26.0 54.6

その他 0 0 0 0 1 0.0 0.0 0.1 0.1 0.0

計 1,095 177 255 188 1,715 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

そ の 他

死亡 47 2 4 7 60 2.4 0.6 1.0 1.5 1.8 重症 197 18 44 105 364 10.0 4.6 10.1 22.9 11.2

中等症 801 70 138 255 1,264 40.4 18.2 31.4 55.6 38.7

軽症 936 294 251 91 1,572 47.2 76.4 57.4 19.8 48.2

その他 1 1 0 1 3 0.1 0.1 0.1 0.3 0.1

計 1,983 384 438 459 3,264 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

死亡 59 3 5 9 76 1.9 0.5 0.8 1.4 1.5 重症 270 22 54 132 479 8.8 3.9 7.8 20.5 9.6

中等症 1,236 98 214 364 1,912 40.2 17.4 30.9 56.3 38.4

軽症 1,511 439 419 139 2,508 49.1 78.1 60.4 21.6 50.4

その他 2 1 0 2 4 0.0 0.1 0.1 0.3 0.1

合計 3,078 562 693 647 4,979 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

(資料)総務省消防庁「救急・救助の現況」をもとに作成。

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救急の持続可能性

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い大きな差異が生じている。このほか、長崎県、宮崎県、鹿児島県などが低い比率と

なっている。

また、重症では、秋田県の20.7%が最も高くなっており、宮崎県、青森県などが続

いている。一方、大阪府の重症比率は1.7%にとどまっており、秋田県との間には10

倍を超える差異が生じている。

死亡についても、岩手県、青森県、山形県が 3 %を超えている一方で、福岡県、東

京都が 1 %を下回っており、3 倍を超える差異が生じている。

以上のとおり、高齢者比率が低いにもかかわらず、人口当たり搬送人員が多い大都

市の都府県で、総じて軽症比率が高くなっている。

図6. 傷病程度別搬送人員の構成比(%)

表5. 年齢別にみた傷病程度別搬送人員

実数(千人) 構成比(%)

新生児 乳幼児 少年 成年 高齢者 計 新生児 乳幼児 少年 成年 高齢者 計

05

死亡 0.1 0.6 0.4 17.7 49.7 68.5 0.7 0.2 0.2 0.8 2.3 1.4

重症 2.8 4.5 5.8 143.2 325.9 482.2 19.5 1.6 2.7 6.4 14.8 9.7

中等症 8.6 49.1 45.1 668.4 1,045.5 1,816.7 59.6 17.4 20.8 29.8 47.5 36.7

軽症 2.8 227.8 164.6 1,409.6 775.1 2,579.9 19.1 80.6 76.2 62.8 35.2 52.1

その他 0.2 0.4 0.3 4.4 3.5 8.7 1.1 0.2 0.1 0.2 0.2 0.2

計 14.5 282.5 216.2 2,243.2 2,199.7 4,956.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

10

死亡 0.1 0.5 0.3 16.3 59.2 76.4 0.5 0.2 0.2 0.8 2.3 1.5

重症 2.4 4.3 5.0 126.7 340.1 478.5 17.1 1.7 2.6 6.4 13.4 9.6

中等症 9.5 49.9 42.5 612.3 1,197.7 1,911.9 66.6 20.1 21.9 30.9 47.2 38.4

軽症 2.1 192.9 146.2 1,227.6 938.9 2,507.6 14.9 77.8 75.3 61.8 37.0 50.4

その他 0.1 0.3 0.2 1.8 1.9 4.3 0.9 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1

計 14.2 247.8 194.1 1,984.8 2,537.7 4,978.7 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

(資料)図 6、表 5 ともに、総務省消防庁「救急・救助の現況」をもとに作成。

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年報 公共政策学 Vol. 8

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年齢別に傷病程度別の動きをみると、10年で、高齢者が死亡で59.2千人と死亡全体

の77.5%を占めている。さらに、重傷でも340.1千人と重症全体の71.0%を占め、中

等症でも1,197.7千人と中等症全体の62.6%を占めている。これに対して、軽症は、

成年が1,227.6千人と軽症全体の49.0%を占めており、高齢者の938.9千人が続いてい

る。

年齢別の構成比をみると、高齢者の軽症比率は、10年で37.0%となっており、5 年

から1.8ポイント上昇しているものの、平均の50.4%より相当低い水準になっている。

ただし、軽症比率が低いことが必ずしも緊急度が高いことを意味していない実態があ

るということには留意を要する。

2.3.4 管外への移送状況

表 6 では、管外への移送状況の2005年と2010年の動きをみている。

これによれば、10年の管外比率は、大都市だけが6.0%と10%を下回っており、単

独の 5 万人未満に至っては48.5%を管外に依存している状況にある。

また、管外比率は、05年から10年で1.7ポイントも上昇しており、救急搬送の受入

がより厳しくなっていることを窺わせる。

2.3.5 現場到着時間など

10年の事故種別の現場到着時間別搬送人員をみると、5 分以上10分未満が3,507千

件と全体の64.2%を占めているほか、10分以上20分未満が1,258千件、3 分以上 5 分

未満が534千件と続いている。05年からの変化でみると、平均到着時間が、全ての事

故種別で 6 分台から 8 分台に伸びているが、5 分未満で件数が大幅に減少しているこ

となどによるとみられる。

次に、事故種別の収容時間別搬送人員の動きをみたのが表 8 であるが、10年で、30

分以上60分未満が2,628千人と全体の52.8%を占めるほか、20分以上30分未満が

表6. 管外への搬送の状況(千人・%)

2005 2010

搬送人員 うち管外 管外比率 搬送人員 うち管外 管外比率

単独 実施

大都市 1,593 70 4.4 1,715 103 6.0 30万人以上 806 82 10.2 721 88 12.1

10万人以上30万人未満 770 142 18.5 799 160 20.0 5 万人以上10万人未満 300 104 34.5 321 120 37.5

5 万人未満 206 91 44.3 212 103 48.5 小計 3,676 490 13.3 3,767 574 15.2

消防 事務 組合

30万人以上 246 23 9.4 229 25 10.9 10万人以上30万人未満 636 145 22.9 625 149 23.9 5 万人以上10万人未満 278 93 33.6 249 91 36.6

5 万人未満 120 43 35.6 109 43 39.1 小計 1,279 304 23.8 1,211 308 25.4

計 4,956 794 16.0 4,979 881 17.7

(資料)総務省消防庁「救急・救助の現況」をもとに作成。

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救急の持続可能性

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30.8%、60分以上120分未満が8.8%と続いている。平均収容時間は、交通事故が36.7

分と最も短く、一般負傷が39.2分と最も長くなっている。

現場到着時間が05年から10年にかけて 2 分程度長くなっているが、病院搬送時間に

ついては、この間 5 分程度長くなっている。足下で救急搬送人員が増加する一方で、

多くの地域で救急医療体制の維持が難しくなっているなかで、適切な救急受入体制が

十分確保できなくなってきている状況を表しているものと考えられる。

表7. 事故種別にみた現場到着時間別搬送人員

3 分未満3 分以上 5 分未満

5 分以上10分未満

10分以上20分未満

20分以上 合計 平均時間

実数 (千人)

05

急病 158 725 1,842 416 27 3,167 6.6 交通事故 44 166 350 86 9 655 6.5 一般負傷 37 159 387 94 8 686 6.7 その他 68 213 396 85 9 771 6.2

計 307 1,263 2,974 681 52 5,278 6.5

10

急病 43 295 2,217 794 38 3,387 8.1 交通事故 9 56 344 133 14 556 8.3 一般負傷 11 67 483 180 12 753 8.2 その他 22 116 463 150 13 764 8.1

計 85 534 3,507 1,258 78 5,461 8.1

構成比 (%)

05

急病 5.0 22.9 58.2 13.1 0.8 100.0 交通事故 6.8 25.4 53.4 13.1 1.3 100.0 一般負傷 5.4 23.2 56.4 13.7 1.2 100.0 その他 8.8 27.6 51.4 11.1 1.1 100.0

計 5.8 23.9 56.4 12.9 1.0 100.0

10

急病 1.3 8.7 65.4 23.4 1.1 100.0 交通事故 1.6 10.1 61.9 23.9 2.5 100.0 一般負傷 1.4 8.9 64.2 24.0 1.6 100.0 その他 2.9 15.2 60.5 19.7 1.7 100.0

計 1.6 9.8 64.2 23.0 1.4 100.0

表8. 事故種別にみた病院収容時間別搬送人員

10分未満10分以上 20分未満

20分以上30分未満

30分以上60分未満

60分以上120分未満

120分以上

計 平均時間

実数 (千人)

05

急病 12 491 1,139 1,173 123 7 2,944 31.1 交通事故 4 155 267 247 27 1 702 30.8 一般負傷 3 114 235 254 34 2 643 29.7 その他 4 131 223 257 48 3 667 31.8

計 23 891 1,865 1,931 232 13 4,956 32.8

10

急病 2 191 959 1,665 247 13 3,077 37.2 交通事故 0 45 179 288 47 2 561 36.7 一般負傷 1 43 197 371 75 5 692 39.2 その他 1 70 200 304 67 4 646 37.4

計 4 350 1,534 2,628 437 24 4,977 37.4

構成比 (%)

05

急病 0.4 16.7 38.7 39.8 4.2 0.2 100.0 交通事故 0.6 22.1 38.1 35.2 3.8 0.2 100.0 一般負傷 0.5 17.7 36.6 39.6 5.3 0.3 100.0 その他 0.6 19.7 33.5 38.6 7.2 0.5 100.0

計 0.5 18.0 37.6 39.0 4.7 0.3 100.0

10

急病 0.1 6.2 31.2 54.1 8.0 0.4 100.0 交通事故 0.1 8.0 31.8 51.2 8.4 0.4 100.0 一般負傷 0.1 6.2 28.5 53.6 10.9 0.7 100.0 その他 0.1 10.9 30.9 47.1 10.3 0.7 100.0

計 0.1 7.0 30.8 52.8 8.8 0.5 100.0

(資料)表7~8ともに、総務省消防庁「救急・救助の現況」をもとに作成。

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次に、都道府県別に平均の現場到着時間をみると、富山県の6.7分が最も早くなっ

ており、京都府、北海道、石川県がそれに続いている。一方、東京都の9.7分が最も

図7. 都道府県別にみた平均現場到着時間(分)

図8. 平均現場到着時間と平均病院収容時間(分)

(資料)図7~8ともに、総務省消防庁「救急・救助の現況」をもとに作成。

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救急の持続可能性

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遅くなっており、宮崎県、福島県、島根県などがそれに続いている。

平均現場到着時間と平均病院収容時間の関係をみたのが、表 8 となる。当然に一定

の相関関係が認められるが、東京都の54.3分が飛び抜けて長くなっている一方で、福

岡県の28.7分が最も短くなっている。

2.4 高松市の搬送記録からみた救急の現状

補足的に、2012年度の高松市の包括外部監査にかかわり、救急搬送記録を閲覧して

報告書に掲載した図表をもとに、転院搬送、多頻度利用など、統計では十分把握でき

ない救急搬送の現況の一端についてみていく。

2.4.1 転院搬送

高松市の場合、転院搬送の比率

が2011年で12.3%と全国平均より

もかなり高い水準にあるが、診療

科別の傷病程度について確認した

結果、表 9 のとおり、2,326人のう

ち、死亡は 5 人、重要も626人など

となっている一方で、軽症も154人、

中等症が1,541人となっており、そ

れほど緊急性の高くないものが相

当数含まれているとみられる。同

市の場合、医療機関からの要請が

あれば、ほとんどそのまま対応し

ている状況にあり、搬送人員の増

加要因の一つになっている。

全国でみても、転院搬送の比率は8.6%を占めている。最近の搬送人員は減少傾向

にあるものの、救急受入先からの要請も多いと言われており、本来的な必要性からみ

れば、やや安易に運用されている可能性が高いとみられる。

2.4.2 多頻度利用

約半月分に相当する閲覧した搬送記録のなかから、同じ月に 2 回以上利用した17人

について、2011年 1 年間の出場記録を再整理したのが表10となっている。病状が悪化

するなかで複数回利用しているケースや、搬送と転院で複数回利用いているケースも

見受けられるが、緊急性が必ずしも明確でないなかで頻繁に救急要請しているケース

も一定人数含まれている。

アルコール依存などのケースでも全件で救急出場しきているものの、常習的に要請

表9. 転院搬送の診療科別傷病程度(人)

死亡 重症 中等症 軽症 計 内科 1 242 629 49 921 外科 1 24 70 3 98

整形外科 77 109 10 196 脳外 44 138 33 215

麻酔科 2 3 5 小児科 1 12 63 5 81

産婦人科 14 53 67 眼科 1 2 3

耳鼻咽喉科 4 5 9 特殊診察 5 12 3 20 形成外科 1 1 泌尿器科 9 14 3 26 心療内科 1 1 精神科 8 10 2 20 皮膚科 1 2 3 救急科 2 176 394 44 616 その他 7 36 1 44 不明 5 31 83 1 120 計 5 626 1,541 154 2,326

(資料)2012年度高松市包括外部監査報告書より引用。

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年報 公共政策学 Vol. 8

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されるケースほど対応に関する説明や説得が必要になることも多く、受入機関がみつ

からないなどの理由も重なり、対応に長時間を要する結果となっている。

2.4.3 病院問い合わせ 5 回以上

2011年の搬送記録19,867件のうち、病院問い合わせが 5 回以上となっているのが表

11のとおり650人と、全体の3.3%となっている。この類型の平均の病院収容時間は、

高松市全体の29.9分に対して、48.3分と18分も長くかかっている。

表12では、搬送記録確認を行ったうちの問合せ 5 回以上の15件について、概要を整

理している。これをみると、病状が重いケースのほか、アルコール中毒など受入れ後

の処置に手間取るようなケースでなかなか受入れが決まらない状況が窺える。

表10. 閲覧結果から把握できた多頻度利用の状況

出動件数 年齢 傷病程度 経過

1 5 成年 中等症 3 回、軽症 2 回 急性アルコール中毒など

2 3 高齢者 中等症 3 回 肺炎など

3 8 成年 中等症 5 回、軽症 2 回など 肝硬変のほか、乗用車を転落させて負傷など

4 4 高齢者 中等症 4 回 喘息発作など

5 5 成年 中等症 1 回、軽症 4 回 過換気、薬物摂取など

6 2 成年 中等症 2 回 呼吸不全で同日に2度の要請

7 2 成年 中等症 1 回、軽症 1 回 親子げんかで負傷し病院収容後に転院

8 2 高齢者 中等症 2 回 脳梗塞疑など

9 2 成年 軽症 2 回 転倒し頭部打撲で病院収容後に転院

10 2 高齢者 中等症 2 回 嚥下障害など

11 8 成年 中等症 6 回、軽症 2 回 ヒステリーなど

12 4 成年 軽症 2 回ほか アルコール中毒など

13 5 高齢者 中等症 3 回、軽症 2 回 食欲不振など

14 5 高齢者 重症 1 回、中等症 2 回、軽症 2 回 便秘、急性心筋梗塞など

15 4 成年 死亡など 脳腫瘍など

16 4 高齢者 重症 2 回、中等症 2 回 ぜんそく発作、急性心筋梗塞

17 5 高齢者 軽症 4 回など 倦怠感など

(資料)2012年度高松市包括外部監査報告書より引用。

表11. 傷病程度別にみた病院問い合わせ 5 回以上の病院収容時間など(件・%・分)

搬送件数 全体に占める

比 率 車内収容

時 間 病院収容

時 間 病院問合せ

回 数

死亡 228 17.4 33.0 1.5 重症 2,206 16.9 30.9 1.3

中等症 9,381 17.3 29.9 1.5 軽症 8,041 17.0 29.6 1.7

その他 11 28.2 45.4 1.1 計 19,867 17.1 29.9 1.5

5 回 以 上

死亡 8 3.5 19.5 45.1 6.5 重症 43 1.9 17.6 48.3 6.5

中等症 289 3.1 16.8 49.8 6.3 軽症 309 3.8 19.2 46.6 6.2

その他 1 9.1 146.0 186.0 8.0 計 650 3.3 18.2 48.3 6.2

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救急の持続可能性

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なお、これに関連して、病院収容に120分以上を要したケースが2011年に10件ある

が、事故種別にみると、自損行為 4 件、急病 3 件(統合失調症、うつ病、パニック障

害)、交通事故 1 件などとなっている。これらの病院問い合わせ回数をみると、5 回

以上が 4 件あり、ある程度ケースが重なっていることが分かる。残り 6 件の問い合わ

せ回数も、4 回が 2 件、3 回が 1 件、2 回が 2 件、1 回が 1 件となっている。

3. 救急出場件数などの増加要因

3.1 都道府県別データによる要因分析

3.1.1 救急出場件数増加の背景要因

まず表13では、2005年と2010年の都道府県データを用いて、救急出場件数を被説明

変数とする回帰分析を行っている。先行研究なども踏まえ、人口密度や高齢化にかか

わる指標を説明変数として分析を行ったところ、両年ともに、DID 人口密度、人口千

人当たり単身高齢者数を説明変数とした場合に、最も決定係数が高くなり、2 つの説

明変数ともに 1 %有意となっている。

DID 人口密度は、都市化を表す指標と言えるが、都市化の進展や高齢化の進展が救

急出場件数の増加に影響を与えていると考えられる。

表12. 搬送記録確認したなかでの病院問い合わせ 5 回以上の概要

傷病程度 問合回数現場到着

時間

病院収容

時間 傷病名 経過

1 軽症 7 13 36 左肘部挫傷など 軽四輪と原付の接触事故

2 中等症 5 19 33 変形性腰痛症 自宅にて、腰痛で動けなくなったもの

3 軽症 5 12 32 非回転性眩暈 糖尿病と高血圧で治療中

4 中等症 6 12 47 鼠径ヘルニア 鼠径部の痛みを訴えたもの

5 軽症 5 10 28 過呼吸症候群 自宅にて過換気症候群が起こったもの

6 軽症 10 10 45 左上腕下腿打撲 停車中の乗用車に自動二輪で追突

7 軽症 7 7 51 アルコール中毒 自宅で飲酒し嘔吐、気分不良となったもの

8 軽症 9 14 59 アルコール中毒 家の壁を塗った後に飲酒し気分が悪くなったもの

9 中等症 6 34 46 急性薬物中毒 自宅で精神安定剤を服用、気分不良となったもの

10 中等症 9 17 75 薬物多量服用 睡眠剤多量服用

11 中等症 6 14 61 左下腿 はしごを踏み外し、転倒負傷

12 軽症 5 21 57 急性胃腸炎 上腹部痛を発症し、嘔吐し疼痛悪化したもの

13 軽症 5 16 52 変形性脊椎症など 検査ご帰宅したが腹痛により歩行不能となったもの

14 軽症 5 17 48 頚椎捻挫など 高速道路上で壁体に激突しそうになり横転したもの

15 軽症 6 14 45 左大腿部打撲など 自転車と軽四輪の交通事故

(資料)表11~12ともに、2012年度高松市包括外部監査報告書より引用。

表13. 人口 1 万人当たり救急出場件数を被説明変数とする回帰分析結果

決定係数R2 t P-値

2005 DID人口密度

0.67808488.2370812 0.000000

人口千人当たり高齢単身者 4.1145974 0.000167

2010 DID人口密度

0.64500856.5561821 0.000000

人口千人当たり高齢単身者 4.9744745 0.000010

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年報 公共政策学 Vol. 8

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3.1.2 救急出場件数増加の背景要因

表14では、都道府県別の平均病院収容時間を被説明変数とする回帰分析についても

試みているが、人口密度と人口10万人当たり医師数を説明変数にしたときに、一定の

説明力が見出せるものの、決定係数は0.333にとどまっている。このうち、人口密度

は 1 %有意、人口10万人当たり医師数は 5 %有意となっている。

このうち、人口密度が一定の説明力を有しているのは、交通混雑や建物密集などを

表しているものと考えられる。

3.2 大都市・中核都市データによる要因分析

表15では、総じて人口当たりの出場件数の多い大都市・中核都市を対象に、人口 1

万人当たりの出場件数を被説明変数として重回帰分析を行っている。

その結果をみると、人口密度と人口千人当たり高齢単身者数を説明変数にすると、

決定係数は0.6234となり、2 つの説明変数ともに 1 %有意となっている。都道府県別

の場合と選定された人口指標が異なっているが、都市部での人口当たり搬送人員が多

いために、都道府県別の場合には、人口密度よりも DID 人口密度の方が決定係数が

高くなっているものとみられる。

人口千人当たり高齢齢単身者数については、家族の支援を得られないことが救急利

用件数の増加につながっているとみられる一方、人口密度については、事故の発生な

どに一定の関連性があるというよりも、大都市になるほど安易な救急車利用が行われ

ている実情を反映したものと捉えるべきなのかもしれない。

因みに、確認のために大都市・中核市における2009年の救急出場件数をみたのが図

9 となる。

出場件数は、東京都の488.0千件が最も多く、大阪市、横浜市が続いているが、人

口 1 万人当たりの出場回数でみると、大阪市の779件が最も多く、東京都、東大阪市、

京都市がそれに続いている。一方、前橋市の249件が最も少なく、盛岡市、青森市、

秋田市、宮崎市がそれに続いている。

表14. 平均病院収容時間を被説明変数とする回帰分析結果

決定係数 R2 t P-値

人口密度 0.3330182

4.124412 0.0001623

人口10万人当たり医師数 -2.579731 0.0133047

表15. 人口 1 万人当たり救急出場件数を被説明変数とする回帰分析結果

決定係数 R2 t P-値

人口密度 0.6240654

5.6441192 5.46224E-07

人口千人当たり単身高齢者 5.2054628 2.75362E-06

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救急の持続可能性

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3.3 札幌市、横浜市、大阪市の年齢別搬送人員による分析

3.3.1 年齢別にみた人口1万人当たりの救急搬送人員

高齢化と救急搬送人員の関係をより明確にみるため、札幌市、横浜市、大阪市から

提供を受けた 1 歳階級別の搬送人員を用いて、年齢別の動きについてみていく。

確認のために、3 市の救急にかかる基礎データを示したのが表16となるが、大阪市

が大都市・中核市61市のなかで、人口 1 万人当たりの出場件数が最も多く、横浜市が

24番目、札幌市が37番目となっている。

3 市の11年の年齢別にみた人口1万人当たりの搬送人員を示したのが図10となり、

大阪市が他の 2 市より全般的に水準が高いこと、札幌市の80歳以降の水準が他の 2 市

より低いことなどの差異はあ

るものの、1 歳、20歳前後で

人数が増加しているほか、65

歳以上で急激な増加がみられ

る動きには、ほぼ共通性が認

められる。また、札幌市と横

浜市の05年と10年の人口 1 万

人当たり搬送人員の変化をみ

たのが図11、12となるが、両

市ともにそれほど大きな変化

表16. 3 市の救急体制など(2011年)

札幌市 横浜市 大阪市

人口 千人 1,897 3,689 2,670

面積 ㎢ 1,121 437 222

救急隊数 隊 31 64 60

救急隊員 人 314 600

出場件数 件 79.247 167 210

搬送人員 人 69.843 146 17

人口 1 万人当たり出場件数 件 418.0 453.0 787

1 隊当たり人口 千人 61.2 57.6 44.5

1 隊たり面積 ㎢ 36.2 6.8 3.7

1 隊 1 日当たり出場件数 件/日 7.0 7.2 9.6

図9. 大都市などにおける救急出場件数(2009 年・千件)

(資料)各自治体資料をもとに作成。

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年報 公共政策学 Vol. 8

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は認められない。

先行研究では、秋田県を例に0~1歳と20~30歳にわずかな増加があり、45~90歳に

指数級数的な増加があることが示されているが、大都市であること、人口当たりの出

場件数もかなり高い水準にあることなど、秋田県とは条件の異なる 3 市の場合でも、

傾向的な動きに大きな違いはないことが確認できる。

図10. 3 市の年齢別人口 1 万人当たり救急搬送人員(人)

図11. 横浜市における年齢別搬送人員の変化(人)

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救急の持続可能性

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すでに全国の救急搬送人員に占める高齢者の比率が 5 割を超えていることなども考

え合わせると、救急搬送が高齢者向けの医療・介護サービスを補完するサービスにな

りつつあることが明確になってきているものと考えられる。

3.3.2 今後の搬送人員の変化

上記の動きを前提として考えると、今後高齢化が進展していく過程で、さらに搬送

図12. 札幌市における年齢別搬送人員の変化(人) (資料)表16、図10~12ともに、各市資料をもとに作成。

表17. 3 市における今後の救急搬送人員の予測(千人・千件)

2011

(実績)

推計(実数) 推計(増減率)

2020 2030 2040 11~20 20~30 30~40

0~14 6 4 3 3 -27.0 -17.8 -14.2

15~64 31 29 27 23 -8.1 -6.9 -15.2

65~ 33 52 66 74 58.0 25.9 13.1

搬送人員計 70 85 96 100 21.7 12.7 4.3

出場件数 79 96 109 113 21.7 12.7 4.3

0~14 12 11 9 8 -12.4 -15.0 -7.8

15~64 60 58 56 48 -4.1 -2.6 -15.0

65~ 74 115 145 167 56.3 26.2 15.2

搬送人員計 146 183 210 223 25.6 14.7 6.1

出場件数 167 210 241 255 25.6 14.7 6.1

0~14 13 11 10 8 -12.0 -16.6 -13.2

15~64 78 72 69 59 -7.6 -3.5 -14.6

65~ 76 104 115 123 37.1 10.7 6.6

搬送人員計 167 187 194 190 12.4 3.6 -1.9

出場件数 210 236 245 240 12.4 3.6 -1.9

(資料)各市資料などをもとに作成。

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人員の増加が予想されるため、11年の年齢別の人口 1 万人当たり搬送人員が変化しな

いものと仮置きして、2013年 2 月の社会保障・人口問題研究所の地域別人口推計結果

(趨勢型)を用いて、3市における今後の救急搬送人員の変化を試算すると、2020年ま

での間に、横浜市が+25.6%、札幌市が+21.7%、大阪市が+12.4%といずれも2 桁

の増加になるものと見込まれる。その後も、増勢は弱まるものの、2030年までは 3 市

ともに増加を続ける見通しにある(表17)。

こうした動き勘案すると、大都市を中心に今後さらに救急搬送人員及び出場件数の

大幅な増加によって、現状の体制では早晩対応できない事態が懸念される状況にある

ことが指摘できる。

4. 救急の課題と今後の政策対応の方向

4.1 課題の抽出

これまで、様々な視点から救急の現況などについてみてきたが、その持続可能性に

かかわる主な課題を抽出すると、以下のような点があげられよう。

① 単身者の急速な増加を伴う高齢化の進展、大都市を中心とした救急利用に対する

モラル低下などにより、救急出場件数は増加の一途を辿っており、大都市の都道

府県の人口 1 万人当たり出場件数が特に高い水準にある。

② 札幌市、横浜市、大阪市のデータから、65歳以上の人口当たり搬送人員が、加齢

に伴いて急上昇していることが確認されたこと、全国の救急搬送人員に占める高

齢者の比率がすでに 5 割を超えていることなどから、救急がある意味で高齢者向

けの医療・介護サービスを補完するサービスになりつつあることが明確になって

きている。

③ 05年から10年にかけて病院収容時間が 5 分伸びるなかで、首都圏の都道府県など

では40分を超える平均病院収容時間となっていること、小規模自治体で管外への

移送が増加していることなど考えると、特に大都市や小規模自治体において、医

療機関における救急搬送受入れがより厳しくなっているものとみられる。

④ 今後の推移については、限られた分析にとどまっているが、年齢別の利用水準が

そのまま推移するとの仮定をおいて、札幌市、横浜市、大阪市の 3 市で将来の搬

送人員・出場件数を試算すると、11年から20年の間に 2 割近い増加が見込まれる。

こうした状況は、全国ベースでも続くものとみられ、順次体制整備などに取り組

まなければ、救急業務の円滑な遂行が困難になる事態も懸念される。

⑤ 一方、高松市の事例をもとに考えると、転院搬送については、本来的な必要性か

らみれば、やや安易に運用されている可能性が考えられる。また、人数的には多

いとは言えないものの、頻繁に救急要請しているケースのなかには、説明や説得

が必要になる上に、受入機関がみつからない場合も多く生じているとみられる。

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救急の持続可能性

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4.2 救急の持続性確保に向けて

上記のとおり、救急搬送人員の増加が顕著となっているが、地域的にみていくと、

東北などのように、ともすれば手遅れになってから救急を呼ぶような傾向が強い地域

から、大阪や東京などのように、やや気軽に救急に頼る傾向が強い地域まで、利用に

対する意識や行動の差異は大きい。

こうしたなかで、救急利用の適正化に向けての実効的な取り組みはなかなか難しい

のが実情と言えるが、それでも、足下からの改革として、転院搬送や多頻度利用者な

どに対するより厳正な対応が必要になっている。

一方で、高齢化の進展が出場件数増加の主要因になってきているなかで、現在の制

度的枠組みのままでは、早晩、救急及び救急医療の維持が難しくなる可能性が高い現

状にある。救急を必要不可欠な行政サービスと考えれば、本来は、必要な機材、人員

の充足を保障するような仕組みが不可欠となる。一方、財政制約などでそうした対応

が難しいのであれば、出場件数をある程度抑制する施策を取らなければ、救急及び救

急医療の持続性は確保できない。

そう考えると、これまでの検討では導入が難しいとされてきた救急車の有料化につ

いても、さらなる検討が必要になってきていると言えるのではないか。個人的には、

119番通報の前段階に相談窓口を置き、医師などの判断も踏まえながら重症度や緊急

度を判定していく仕組みを導入する一方で、直接119番する場合には、結果的に軽症

と判断された場合などは救急車利用を有料化するといった対応であれば、導入の可能

性があるのではないかと考えている。いずれにせよ、有料化に関する議論が市民意識

を変えていくきっかけにもなり得ることから、広く市民を巻き込んだ議論が必要を行

うべき時期に来ていると言える。そして、その前段階として、現在取り組まれている

救急相談センターのような相談窓口の設置がどこまで有効かについて、設置自治体を

広げて、その認知度を高めながら検証していくといった取り組みも重要になっている。

サービスコストという視点からは、最もコストの高い救急利用のハードルが、ある

意味で医療や介護よりも相当低いという事情が安易な利用を招いていると言えるが、

救急対応の詳細な分析を行った上で、医療・介護と救急の役割分担を見直していくと

いう視点も重要となる。特に、夜間における在宅医療・介護や見守りの充実などによ

り、高齢者が安心して生活できる環境整備に注力していく方が、総体の行政コストを

下げるだけでなく、市民の安心・安全にもつながっていくものとみられ、所管官庁を

超えて検討していくことが望まれる。

本項で検討した方向性はあくまで例の一つに過ぎないが、救急業務の持続性を守る

ためには、市民意識を含めて変革していく必要があり、早急な取り組みが求められて

いる。

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Sustainability of the transport system by ambulance

ISHII Yoshiharu

Abstract The purpose of the transport system by ambulance, is that it carry to the hospital in a short

period of time patients with sudden illness or injured by the accident. The stem is an important

public service to support the safety and security of citizens.

Transport by ambulance, has increased to 5.5 million cases in 2010. And the cost is more

than 500 billion yen. The time to carry the hospital increases, the quality of service has

decreased.

In this study, we analyze the current state of the transport system by ambulance, the factors

for the increase in transport number. Then, consider measures to ensure the sustainability of

the system

Keywords

the transport system by ambulance, sustainability