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ロシアの WTO 加盟 〜中長期的には行政手続きの簡素化・効率化と汚職撲滅が鍵に〜 みずほ総研論集 2012年Ⅱ号 要  旨  ロシアの WTO 加盟 〜中長期的には行政手続きの簡素化・効率化と汚職撲滅が鍵に〜 政策調査部 主任研究員 金野 雄五 1.99年6月にロシアが関税および貿易に関する一般協定(GATT)(世界貿易機関:WTOの前身)への加 盟申請を行ってから9年を経て、ついに本年8月22日、ロシアの WTO 加盟が実現した。 2.ロシアの加盟交渉においては、①天然ガスの内外価格差、②農業分野、③工業アセンブリ措置、④木材輸 出関税、⑤知的財産権保護、⑥対グルジア関係などが主要な争点となった。これらの論点に関する加盟交 渉の合意内容は、総じてロシアによる小幅な譲歩にとどまるものとなった。 3.ロシアの WTO 加盟に伴い、物品の輸入関税率については、加盟前に全品目の単純平均で0%、工業製品 は同9.5%であったが、加盟後はそれぞれ7.8%、7.%以下に引き下げられる。サービス分野については、 電気通信事業会社に対する外国企業の出資比率制限が加盟後年以内に撤廃されるほか、これまで外国企 業の支店開設が禁止されていた保険業において、加盟後9年以内に支店開設が解禁される。 4.WTO 加盟による短期的な影響として、輸入関税率の引き下げによるロシアの輸入数量へのインパクトに ついて試算すると、その増加率は.%であるとの結果が得られた。これは、ロシアの輸入額において最 大シェアを占める機械・設備・金属加工品の関税率の引き下げ幅が小さいこと、さらに輸入数量の関税率 弾力性も低いことによると考えられる。また、輸入数量の増加による産出量への影響は、わずか▲0.% にとどまるとの結果が得られた。 5.同様の手法により、日本、欧州連合(EU)、米国からのロシア向け輸出金額への影響を試算した。予想さ れる輸出増加額については、EU が日本および米国を著しく上回るが、増減率でみると、日本のロシア向 け輸出額の増加率(.0%)が最も高いとの結果が得られた。 6.石油・ガスに依存した経済構造からの脱却という政策目標を掲げるロシアにとって、WTO 加盟を契機と する対内直接投資の増加が望まれるところだが、煩雑な行政手続きや汚職・腐敗などの問題がこれを阻ん でいる。より長期的な視点から見て、ロシアが今後、WTO 加盟によるメリットを実現できるかどうかは、 プーチン新大統領が今後、行政手続きの簡素化・効率化と汚職撲滅に向けて、どこまで有効な措置を講じ られるかにかかっていると考えられる。 E-Mail:[email protected]

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ロシアのWTO加盟〜中長期的には行政手続きの簡素化・効率化と汚職撲滅が鍵に〜

みずほ総研論集 2012年Ⅱ号

要  旨 

ロシアのWTO加盟〜中長期的には行政手続きの簡素化・効率化と汚職撲滅が鍵に〜

政策調査部 主任研究員 金野 雄五*

1.�99�年6月にロシアが関税および貿易に関する一般協定(GATT)(世界貿易機関:WTO の前身)への加盟申請を行ってから�9年を経て、ついに本年8月22日、ロシアの WTO 加盟が実現した。

2.ロシアの加盟交渉においては、①天然ガスの内外価格差、②農業分野、③工業アセンブリ措置、④木材輸出関税、⑤知的財産権保護、⑥対グルジア関係などが主要な争点となった。これらの論点に関する加盟交渉の合意内容は、総じてロシアによる小幅な譲歩にとどまるものとなった。

3.ロシアの WTO 加盟に伴い、物品の輸入関税率については、加盟前に全品目の単純平均で�0%、工業製品は同9.5%であったが、加盟後はそれぞれ7.8%、7.�%以下に引き下げられる。サービス分野については、電気通信事業会社に対する外国企業の出資比率制限が加盟後�年以内に撤廃されるほか、これまで外国企業の支店開設が禁止されていた保険業において、加盟後9年以内に支店開設が解禁される。

4.WTO 加盟による短期的な影響として、輸入関税率の引き下げによるロシアの輸入数量へのインパクトについて試算すると、その増加率は�.�%であるとの結果が得られた。これは、ロシアの輸入額において最大シェアを占める機械・設備・金属加工品の関税率の引き下げ幅が小さいこと、さらに輸入数量の関税率弾力性も低いことによると考えられる。また、輸入数量の増加による産出量への影響は、わずか▲0.�%にとどまるとの結果が得られた。

5.同様の手法により、日本、欧州連合(EU)、米国からのロシア向け輸出金額への影響を試算した。予想される輸出増加額については、EU が日本および米国を著しく上回るが、増減率でみると、日本のロシア向け輸出額の増加率(�.0%)が最も高いとの結果が得られた。

6.石油・ガスに依存した経済構造からの脱却という政策目標を掲げるロシアにとって、WTO 加盟を契機とする対内直接投資の増加が望まれるところだが、煩雑な行政手続きや汚職・腐敗などの問題がこれを阻んでいる。より長期的な視点から見て、ロシアが今後、WTO 加盟によるメリットを実現できるかどうかは、プーチン新大統領が今後、行政手続きの簡素化・効率化と汚職撲滅に向けて、どこまで有効な措置を講じられるかにかかっていると考えられる。

*E-Mail:[email protected]

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ロシアのWTO加盟

《目 次》

1.はじめに……………………………………………………………………………………45

2.WTOへの新規加盟プロセスとロシアの加盟交渉の経過… …………………………46

⑴ 新規加盟プロセス…………………………………………………………………………………… 46

⑵ ロシアの加盟交渉の経過…………………………………………………………………………… 46

⑶ ロシアの加盟が遅れた理由………………………………………………………………………… 47

3.加盟交渉における主要な争点とその帰結……………………………………………………48

⑴ 天然ガスの内外価格差……………………………………………………………………………… 48

⑵ 農業分野の問題……………………………………………………………………………………… 50

⑶ 工業アセンブリ措置………………………………………………………………………………… 51

⑷ 木材輸出関税………………………………………………………………………………………… 54

⑸ 知的財産権保護……………………………………………………………………………………… 55

⑹ 対グルジア関係……………………………………………………………………………………… 55

4.加盟条件の概要とロシア・ビジネス環境への示唆……………………………………56

⑴ 加盟条件の概要……………………………………………………………………………………… 56

⑵ 輸入関税率引き下げによるロシアの輸入数量へのインパクト………………………………… 57

⑶ 日・米・欧のロシア向け輸出額への影響比較…………………………………………………… 59

⑷ ロシアのビジネス・投資環境上の問題点とWTO加盟後の展望………………………………… 59

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みずほ総研論集 2012年Ⅱ号

1.はじめに

�99�年6月にロシアが関税および貿易に関する一般協定(GATT)(世界貿易機関:WTO の前身)への加盟申請を行ってから�9年を経て、ついに本年8月22日、ロシアの WTO 加盟が実現した。

ロシアが WTO 加盟を果たすまでに要した�9年という期間は史上最長であるが、なぜこれほどまでに長い期間を要したかについては、日本ではあまり知られていない。また、WTO への加盟後、ロシアの様々な物品の輸入関税率やサービス分野への投資障壁が引き下げられるが、その具体的なスケジュールや、日本を含む外国企業へのインプリケーションに関する論考も少ない。こうした状況を踏まえ、本稿では、ロシアの WTO 加盟に至るまでの交渉の経緯や争点、最終的な加盟条件の概要を整理した上で、WTO 加盟がロシア向け輸出に及ぼす影響や、加盟によるロシアのビジネス・投資環境への示唆について考える。

本稿の構成は以下の通りである。第2節では、WTO への新規加盟プロセスについて解説し、その中で実際にロシアの加盟交渉がどのような経過をたどってきたかを概観する。第3節では、ロシアの加盟交渉において、主要な

争点となった個別論点と、その交渉の帰結について考察する。具体的には、①天然ガスの内外価格差、②農業分野、③工業アセンブリ措置、④木材輸出関税、⑤知的財産権保護、⑥対グルジア関係の問題について考察する。これらの多くは、主に欧州連合

(EU)および米国とロシアとの間で問題になった争点であり、日本ではあまり知られていないが、ロシアにとってはいずれもきわめて重要な問題として位

置付けられる。第4節では、ロシアの加盟条件の概要とビジネス・

投資環境への示唆について考察する。ここではまず、WTO 加盟後のロシアの輸入関税率の変更や、サービス分野の対外開放など、日本を含む外国企業にとって広く関心があると思われる市場開放スケジュールの概要を紹介し、その上で、WTO 加盟後の輸入関税率の引き下げによるロシアの輸入(外国からのロシア向け輸出)およびロシアの産出へのインパクトについて定量分析を行う。また、この分析結果を踏まえて、日本、EU、米国のロシア向け輸出へのインパクトについても試算する。最後に、現在のロシアのビジネス・投資環境上の制度的問題点の所在を明らかにした上で、それらの問題点とWTO 加盟との関係性について検討する。

なお、近年、世界的な広がりをみせている自由貿易協定(FTA)などの二国間、あるいは地域的な経済連携の動きについては、ロシアでも、20�0年初からベラルーシ、カザフスタンとの間での関税同盟が発足しており、その後、20��年�0月�8日の独立国家共同体(CIS)政府首脳評議会会議では自由貿易協定が調印されるなど一定の進展がみられる�)。ただし、ロシアによるこうした FTA 締結などの動きは、現在までのところ、上記のベラルーシやカザフスタンなどの旧ソ連諸国を対象としたものに限られており、近い将来、旧ソ連域外の国との間で FTA等が締結される可能性は低いとみなされる。こうした現状を踏まえ、本稿の考察対象は、ロシアのWTO 加盟に関連する諸問題に限定することとしたい。

�) ロシア、ベラルーシ、カザフスタンによる関税同盟の詳細については、金野(20�0,20�2a)等を参照。なお、20��年�0月�8日のCIS 政府首脳評議会会議では、CIS 参加��カ国のうち、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アルメニアの8カ国が自由貿易地域条約に調印した。ウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンの�カ国は、20��年末までにこの条約に調印するか検討するとされたが、現在までのところ、調印したとの情報は得られていない。同条約の詳細については、田畑(20�2)参照。

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ロシアのWTO加盟

2.WTOへの新規加盟プロセスとロシアの加盟交渉の経過

⑴ 新規加盟プロセス

ロシアの WTO 加盟交渉の経過の説明に先立って、新規加盟国(�995年の WTO 発足後に加盟した国々)による加盟プロセスについて概観しておこう。

新規加盟国による加盟プロセスは、以下に述べるように、大まかに加盟申請、加盟交渉、承認の三つから成っている2)。

加盟申請は、まず WTO への加盟を希望する国がWTO 事務局長にその意向を表明することで始まる。同意向はすべての WTO 既加盟国に伝えられ、WTO の一般理事会が、当該国の加盟に関する作業部会(Working Party)の設置を決定する。この作業部会には当該国の加盟に関心があるすべてのWTO 既加盟国が参加することができる。

続いて、第二のプロセスである加盟交渉が開始される。加盟交渉は、作業部会会合における多国間交渉と、加盟申請国と作業部会参加国とによる二国間交渉とが並行する形で進められる。作業部会会合では、まず申請国の貿易・経済制度の審査が行われ、WTO 協定に整合していない分野の特定と、それらの法制度を WTO 協定に整合させていくための作業が進められる。一方、二国間交渉は、作業部会参加国がそれぞれの関心分野について市場アクセスの改善(具体的には、申請国による WTO 加盟後の輸入関税率の引き下げや、農業補助金の削減、サービス分野の自由化等)を求めて申請国と個別に交渉するもので、双方がリクエストとオファーを繰り返すかたちで進められる�)。これらすべての多国間・二国間交渉が妥結すると、作業部会によって一連の加盟協定文書(作業部会報告書、加盟議定書案およびそ

の付属文書である関税率譲許表やサービス約束表等)が採択され、加盟交渉は完了する。

最後に、WTO の閣僚会議または一般理事会による加盟決議と、申請国による受諾(議会による批准等)が行われ、WTO 事務局が受諾通知書を受領してから�0日後に WTO 加盟の効力が発生する。加盟決議は、まずコンセンサス方式(事実上の全会一致)で行われ、コンセンサスが得られない場合は�分の2以上の賛成多数により承認される。

⑵ ロシアの加盟交渉の経過

これらのプロセスのうち、ロシアがもっとも長くとどまってきたのは加盟交渉、すなわち第�回作業部会会合が実施されてから採択が行われるまでのプロセスである。ロシアの場合、この加盟交渉に�6年以上の期間を要し、その結果、加盟申請から加盟までの全プロセスに要した期間は�9年間を超えた。この期間の長さを他の中東欧・旧ソ連諸国および中国と比較すると、最短のキルギス(約�年間)はもちろんのこと、これまでの最長記録であった中国(約�5年半)をも優に上回っている(図表1)�)。

ロシアの加盟交渉の経過を、多国間交渉と二国間交渉のそれぞれについて概観すると、まず多国間交渉については、加盟申請と同月の9�年6月に作業部会が設置された後、年数回のペースでその公式会合が実施されてきた。特に2002〜05年については、年�〜5回もの会合が実施されており、その頃に交渉の著しい進展があったものと推測されるが、2006年�月の第�0回会合を最後に公式会合は行われなくなっていた。ただし、ロシア国内の法制度の WTO 協定への整合化については、税関手続き全般について定めた新税関法典(200�年5月28日付連邦法 No.6�)や知的財産権保護に関する法律を集約した民法典第

2) WTO 新規加盟国による加盟申請、加盟交渉、承認の各プロセスの詳細については、WTO(200�)参照。 �) ただし実際の交渉では、多国間交渉と二国間交渉とで、交渉テーマが必ずしも明確に区別されないケースも多い。例えば、法制度

問題が二国間交渉で扱われたり、市場アクセス(とくに農業分野)の改善について多国間交渉の枠組みで話し合われたりするケースである。

�) 中東欧・旧ソ連諸国による WTO 加盟の経緯と概況については金野(2008a)参照。

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みずほ総研論集 2012年Ⅱ号

�部(2006年�2月�8日付連邦法 No.2�0)の制定など、主要な関連法令の制定・改正作業はすべて2006年頃までには完了しており、残された課題は、後述する知的財産権保護の徹底など、主に法令の規定細則や執行面に関わるものとなっていた。

また、二国間交渉についても、200�年5月に EUとの間で基本合意に達したのを始めとして、日本とは2005年��月に、米国とは2006年��月にそれぞれ基本合意に達するなど、2006年末までにはほとんどすべての交渉相手国との間で譲許税率(当該国がWTO 加盟後に各品目に対して導入することができる輸入関税率の上限)やサービス分野の自由化スケジュールに関して基本合意が成立しており、この時点で交渉妥結のめどが立っていない相手国は、事実上、後述するグルジアのみとなっていた5)。

⑶ ロシアの加盟が遅れた理由

ロシアが WTO に加盟するまでに史上最長の期間を要した理由としては、主に以下の二つを指摘することができる。

第一に、ロシアの WTO 加盟に関する作業部会への参加国数が史上最多であったことが、加盟交渉における合意形成を難しくさせたと考えられる。前述

のように、WTO への新規加盟に関する作業部会には、当該国の加盟に関心があるすべての既加盟国が参加することができる。この既加盟国の数は、GATT 発足時にはわずか2�カ国であったのが、その後、増加の一途をたどり、ロシアの加盟直前の時点には�55カ国となっていた。さらにロシアの場合、WTO 未加盟の「最後の大国」と言われていたように、中国の加盟(200�年�2月)によって、ロシアの貿易・経済規模は未加盟国のなかで最大となったことから、ロシアの加盟に対する既加盟国の関心は総じて高かった。これらの結果、ロシアの加盟に関する作業部会への参加国数は、史上最多の65カ国

(EU27カ国は�カ国としてカウント)にも達したのである(WTO(20��b))。

第二は、ロシアの貿易構造に起因する理由である。一般に、WTO 加盟によって当該国が直接的に得られるメリットとは、加盟後、すべての既加盟国から最恵国待遇を付与されることで、当該国の輸出が差別的な扱いを受けることがなくなり、輸出増加が見込まれることである。一方、加盟に際して当該国は、輸入関税率の引き下げなどによって、自国の財・サービス市場をある程度開放することが求められる6)。市場開放は、消費者や輸入企業には低価格で質の高

5) 2008年5月�6日に WTO に加盟し、同月中にロシアの加盟に関する作業部会に加わったウクライナについても、当時、ロシアのウクライナ向けガス輸出価格などの問題をめぐり両国関係が悪化していたことから、交渉が難航する可能性が高いとみられていたが、実際にはそのような事態には至らなかった。

6) 前述のように、自国市場の具体的な開放スケジュールは、主に二国間交渉で決められる。

図表1:中東欧・旧ソ連諸国および中国のWTO加盟交渉の推移加盟申請(年/月)

作業部会設置(年/月)

第1回作業部会会合(年/月)

作業部会採択(年/月)

加盟決議(年/月)

加盟(年/月)

申請~加盟の期間(年/カ月)

ブルガリア 86/09 90/02 93/07 96/09 96/10 96/12 10/03キルギス 96/02 96/04 97/03 98/07 98/10 98/12 02/10ラトビア 93/11 93/12 95/03 98/09 98/10 99/02 05/03

エストニア 94/03 94/03 94/11 99/04 99/05 99/11 05/08グルジア 96/07 96/07 98/03 99/10 99/10 00/06 03/11

アルバニア 92/11 92/12 96/04 00/07 00/07 00/09 07/10クロアチア 93/09 93/10 96/04 00/06 00/07 00/11 07/02リトアニア 94/01 94/02 95/11 00/10 00/12 01/05 07/04モルドバ 93/11 93/12 97/06 00/12 01/05 01/07 07/08

アルメニア 93/11 93/12 96/01 02/11 02/12 03/02 09/03マケドニア 94/12 94/12 00/07 02/09 02/10 03/04 08/04ウクライナ 93/11 93/12 95/02 08/01 08/02 08/05 14/05

中国 86/07 87/03 87/10 01/09 01/11 01/12 15/05ロシア 93/06 93/06 95/07 11/11 11/12 12/08 19/02

(資料) WTO(2001)等よりみずほ総合研究所作成

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ロシアのWTO加盟

い財・サービスへのアクセスの増加というメリットをもたらすが、競合する財・サービスの国内生産者にとっては、輸入増加による競争圧力の高まりや、国内市場の喪失というデメリットをもたらす。

こうした観点からロシアの貿易品目構成をみると、輸出については、その60%以上が原油、石油製品、天然ガスなどの鉱物資源によって占められている(図表2)。これらの鉱物資源の輸入に対して、差別的な扱いをする国は事実上、存在しないことから、ロシアにとっては、WTO 加盟によって得られる輸出増加の効果がきわめて限定的であることが容易に予想される7)。一方、ロシアの輸入の多くは、機械・設備、輸送機器などの製造業品によって占められていることから、早期加盟のために既加盟国からの市場開放要求を多く受け入れると、概して競争力が低いとされるロシアの製造業が、WTO 加盟後に被る打撃も大きくなることは明らかである。つまり、ロシアの貿易構造は、WTO への加盟によるメリットが期待しにくい一方で、デメリットが容易に予想されるものであり、このことがロシア国内で加盟に向けたモメンタムが高まり難い状況を生じさせたと考えられる。

3.加盟交渉における主要な争点とその帰結

本節では、ロシアの加盟交渉において主要な争点となった個別論点と、それらを巡る交渉の帰結について考察する。これらの論点の多くは、主に EU および米国との間で問題になったものであり、日本では広く知られているとは言い難いが、ロシアにとってはいずれもきわめて重要な問題として位置付けられるものである。結論を先取りして言えば、これらの論点に関する加盟交渉の合意内容は、総じてロシアによる小幅な譲歩にとどまるものとなった。

⑴ 天然ガスの内外価格差

2000年代前半を中心に、ロシアの WTO 加盟交渉において最大の争点となったのは、天然ガスの内外価格差の問題であった。

近年ロシアでは、ガソリンや重油などの石油製品については、国内市場価格と輸出価格(または国際市場価格)がおおむね同水準で推移してきたが、天然ガスについては、国内市場価格が輸出価格を著しく下回る状態が続いている(図表3)。天然ガスに関してこのように著しい内外価格差が生じている直接的な原因は、その価格決定メカニズムの違いにある。すなわち、ロシアの天然ガスの輸出価格は、石油製品の国際市場価格に連動して決定される。このため、近年の原油価格の高騰によって、石油製品の国際市場価格も高騰し、それによってロシアの天然ガスの輸出価格も高騰してきたのである。一方、国内価格については、ロシアの天然ガス生産の約8割を占める国営企業ガスプロムによる国内産業向け販売価格は、政府(連邦料金庁)によって政策的に決定されており、しかもその引き上げペースは、国内

7) ロシアの WTO 加盟によって輸出増加の効果が見込まれるのは、鉄鋼、非鉄金属、化学品などの一部の品目に限られるとみられている。鉄鋼については、これまで EU および米国がロシアからの輸入に対して数量制限を実施していたが、WTO 加盟後、これらの輸入数量制限は撤廃される。また、ロシア経済発展省によれば、これまで鉄鋼、非鉄金属、化学品を中心に、ロシアからの輸入に対して、WTO 協定に準拠しない方法でアンチダンピング税が課されるケースが多く、それによるロシア側損失額は年間�5億ドルに達していたが、WTO 加盟によって、その多くが軽減される(RAN−NIS(2002))。

図表2:ロシアの貿易品目構成(1995~2011年平均)

0

20

40

60

80

100

輸出 輸入

鉱物性生産物機械・設備,輸送機器金属・貴石

化学製品・ゴム食料・農業原料(繊維を除く)その他

(%)

(資料)Rosstatよりみずほ総合研究所作成

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みずほ総研論集 2012年Ⅱ号

産業への配慮から、かなり抑制されてきた。これらの結果、ロシアの�995〜20��年平均の天然ガス国内価格は、国際市場価格の約�分の�にとどまるという、著しい内外価格差が生じてきたのである。

こうした天然ガスの内外価格差は、ロシアのWTO 加盟交渉の過程で、とくに EU と米国によって問題視されるところとなった8)。EU および米国は、ロシアの天然ガスの国内価格が国際価格よりも著しく低く抑制されていることが、天然ガスを主要な原材料とする一部の産業(冶金、農業化学など)に不当に高い輸出競争力を生じさせているとして、WTO 加盟交渉の場でその解消を求めたのである

(図表4)9)。そして実際の交渉では、この問題との関連性が疑われる WTO 協定の様々な条項(補助金及び相殺措置に関する協定、国家貿易企業協定等)への違反・抵触が問われるかたちで議論が争われた様子である�0)。

こうして、天然ガスの内外価格差を巡って半ばこう着状態に陥っていたロシア・EU 間の交渉に一石を投じたとみられるのが、200�年7月に世界銀行から発表されたレポート(Tarr and Thomson(200�))

である。同レポートは、ロシアの天然ガス内外価格差に関する EU 等の要求が法的な根拠を欠くとした上で、経済的な観点からは、ロシアが天然ガスの国内価格を長期的にコストの回収や投資資金の確保が可能な長期限界費用(long−run marginal cost)の水準にまで引き上げ、その一方で、輸出価格については実際の水準よりも引き下げることが適正であるとした。そして、2000〜0�年時点の国内価格と、最大の輸出先である EU 向け輸出価格の適正水準が、それぞれ�,000立方メートル(㎥)あたり�5〜�0ドル(実際の価格は�5〜20ドル)、79〜82ドル(同、

8) なおロシアでは、原油についても国内価格が国際価格の約�0〜80%の水準にとどまる状態が続いているが、WTO 加盟交渉では、原油の内外価格差は問題視されなかった模様である。この理由としては、①原油については、国内価格、輸出価格ともに政府によって規制されていないこと、②原油の内外価格差は天然ガスのそれよりも小さく、かつ、ロシアの�次エネルギー消費量に占める原油の割合(20%)も、天然ガス(55%)と比べて格段に小さいこと、が考えられる(IEA(2009))。

9) ロシアの天然ガス内外価格差の解消に関する EU 等の要求は、ロシアの WTO 加盟に関する第��回作業部会会合(2002年�月2�〜25日実施)で提出された作業部会報告書草案(非公表)に盛り込まれたとされる。

�0) 違反・抵触が問われたとみられる WTO 協定の諸条項と議論の詳細については、金野(2008b)参照。

<天然ガス>

0

100

200

300

400

500

1994 97 2000 03 06 09(年)

(ドル/1000㎥) <ガソリン>

0

250

500

750

1,000

1994 97 2000 03 06 09(年)

(ドル/トン)<重油>

0

200

400

600

800

1994 97 2000 03 06 09(年)

(ドル/トン)

図表3:ロシアの天然ガス・石油の内外価格差

(注)実線が国際価格、破線が国内価格。国際価格は、天然ガスがIMFによる国際市場価格、ガソリンおよび重油は、CIS域外向け輸出価格。  国内価格は、工業購入者価格。(資料)IMF、Rosstatよりみずほ総合研究所作成

一般家庭21%

その他35%

セメント2%

農業化学(肥料)7%

冶金7%

発電28%

図表4:ガスプロムの国内販売先構成

(注)国内販売先構成は2011年、国内販売量は2010年データ。 (資料)Gazpromよりみずほ総合研究所作成

国内販売量2,621億㎥

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ロシアのWTO加盟

�06〜�26ドル)であると提言したのである��)。この問題については結局、上記レポートの発表後、

�年を経ずして EU とロシアの間で合意が成立した。すなわち200�年5月2�日、EU とロシアは、天然ガスの内外価格差問題を含め、ロシアの WTO 加盟に関する諸条件について合意し、二国間交渉を妥結したのである。欧州委員会が同日に発表したプレスリリースには、ロシア政府が「天然ガスの国内産業向け供給価格が、将来的にコストや利益、新規ガス田開発のための投資資金をカバーすることを約束」したことが記された(EC(200�))。そして、ロシアの最終的な加盟条件を記した加盟議定書(WTO

(20��c))においても、これと同様の約束が繰り返されたことが確認できる�2)。

⑵ 農業分野の問題

農業分野に関しては、WTO 加盟後に政府が供与することができる補助金額の上限が主要な争点となった��)。交渉が本格化した当初、ロシア政府はソ連時代の数字をベースに最大で年間約�60億ドルの補助金を認めるよう主張していたが、ロシアに農産品を輸出している米国や EU、そしてアルゼンチンやオーストラリアなど�9カ国が構成するケアンズ・グループ等がこれに強い難色を示したことから、ロシア政府が主張する補助金額の上限は、2005年頃まで

に年間90億ドルに引き下げられた(坂口(2007))��)。ロシア政府はその後も譲歩を続け、20�0年�月にはメドベトコフ・ロシア WTO 加盟交渉首席代表が、WTO 加盟時の補助金額の上限を約90億ドルとし、これを20�7年ないし20�9年までに約半分に減らすことを目指すと発言し、これが最終的な合意内容となった�5)。すなわち、ロシアの WTO 加盟議定書

(WTO(20��d))によれば、20�2〜��年については農業補助金額の上限を年間90億ドルとし、その後、20��〜�7年の�年間でこの上限額を毎年9億ドルずつ、年間5�億ドル(20�7年)にまで引き下げ、20�8年以降は年間��億ドルとすることが決まったのである。ただし、近年ロシアで実際に支払われてきた補助金額は、削減後(20�8年〜)の上限額の��億ドルを下回っていたとされることから、実質的な影響はほぼ皆無であるとみなされる(Golos Rossii, Feb. ��, 20��)。

農業分野に関して、補助金問題と並ぶ困難な交渉課題となったのが、食肉の関税割当制度の問題である。関税割当制度は、一定の輸入数量(関税割当量)の枠内においては低税率(�次税率)の関税が適用されるが、これを超える輸入分についてはより高い税率(2次税率)の関税が適用される制度であり、ロシアでは200�年春から食肉(鶏肉・豚肉・牛肉)の輸入に関して導入されている�6)。ロシアが食肉の

��) Tarr and Thomson (200�) が示したロシアの天然ガスの長期限界費用(�5〜�0ドル)の内訳は、ガス田の開発コスト(8ドル)、輸送コスト(22ドル)、流通コスト(5〜�0ドル)。他方、欧州向け輸出価格については、ロシアが欧州市場に対して一定の市場支配力を持っている現状においては、長期限界費用(�0ドル)と輸出輸送コスト(27ドル)の合計に、さらに�2〜�5ドルを上乗せした価格が適正であるとして79〜82ドルという価格水準が導き出されている(単位はいずれも�,000㎥あたり)。

�2) 加盟議定書において、ロシアの天然ガスの輸出価格に関する言及箇所は見あたらない。 ��) WTO 発足時(95年)からの原加盟国については、GATT ウルグアイ・ラウンド合意によって、86〜88年の農業補助金(後述する

黄の補助金)の平均支払額を基準として、先進国の場合は�995年からの6年間で20%、途上国の場合は同�0年間で��%削減することとされた。新規加盟国については通常、加盟前の直近の�年間が基準期間に用いられることが多いが、ロシアの場合、ソ連崩壊後の財政悪化に伴い、農業補助金が90年代に急減したため、まず基準期間をどの年に設定するかを巡って議論が紛糾したとされる。

��) ケアンズ・グループとは、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル等の農産品輸出国(全�9カ国)によって構成され、世界貿易における農産品貿易の自由化を主張するグループである。

�5) 最終的に、どの期間が基準期間に用いられたかは明らかにされていない。なお、ここで挙げられている�60億ドル、90億ドルという金額は、GATT ウルグアイ・ラウンド農業合意で各国に削減が義務付けられた、いわゆる「黄の補助金」(正式名称は AMS:Ag-gregate Measurement of Support)を意味している。GATT ウルグアイ・ラウンド合意では、農業補助金がその貿易歪曲性に応じて、黄の補助金、デミニミス、青の補助金、緑の補助金に�分類されており、これらの中で最も貿易歪曲性が高いのが黄の補助金であるとされている。

�6) 200�年�月2�日付政府決定 No.�8、No.�9、No.50による。

5�

みずほ総研論集 2012年Ⅱ号

輸入に関して WTO 加盟後も関税割当制度を維持することについては交渉の比較的早い段階から合意が得られていたようだが、その具体的な関税割当量や�次税率をめぐって、ロシアへの主要な食肉輸出国である米国や EU との間で交渉が難航していた。

とくに鶏肉については、図表5が示すように、2009年以降、国内の養鶏部門の保護を目的として関税割当量が大幅に削減され、その結果、輸入量も急減していたことから、ロシアへの最大の鶏肉輸出国である米国が反対を強めていた。ロシアの WTO 加盟議定書(WTO(20��d))によれば、最終的な合意内容は、加盟後、最低税額基準を撤廃した上で、①牛肉については関税割当量を20��年比で�万トン増やす一方で、2次税率を5%ポイント引き上げる、

②豚肉については、関税割当量を20��年比で7万トン減らす一方で、�次税率と2次税率をそれぞれ�5%ポイント、�0%ポイントずつ引き下げる、③鶏肉については関税割当量を20��年比で�万�千トン増やし、税率は変更しない、というものとなっている。牛肉、豚肉、鶏肉のいずれについても、税率、関税割当量ともに20��年比で小幅な変更にとどまっており、とくに焦点となっていた鶏肉については、関税割当量が20��年比では拡大されたものの、2008年比では約70%の削減率となっている。農業補助金、食肉の関税割当制度とも、基本的にはロシア政府による国内農業分野の保護の意向が反映された合意内容であるとみなされる(図表6)。

⑶ 工業アセンブリ措置

工業アセンブリ措置とは、生産能力や現地調達率に関してロシア政府が定める基準を満たすことを条件に、自動車(完成車および部品)の現地組み立てプロジェクト(ロシア資本、外資の別は問われない)に対して、通常5〜20%の輸入関税率を0〜5%に引き下げるという形で部品もしくは原材料の輸入関税上の特典を供与するという措置である。ロシアのWTO 加盟交渉では、工業アセンブリ措置の適用条件の一つである部品・原材料の現地調達義務が、

0

500

1,000

1,500

2006 07 08 09 10 11 加盟後

牛肉(割当量)豚肉(割当量)鶏肉(割当量)鶏肉(輸入量)

(年)

(資料)割当量は2005年12月5日付政府決定No.732、2009年12月16日付政府決定No.1021、2010年12月24日付政府決定No.1111、WTO(2011d)、鶏肉輸入量はUN comtradeよりみずほ総合研究所作成

図表5:食肉の関税割当量の推移(千トン)

図表6:WTO加盟後の食肉の1次・2次関税率<加盟前> <加盟後>

品目

関税率 譲許税率

統一税率1次税率(最低課税額)

2次税率(最低課税額) 1次税率 2次税率関税割当量

(千トン)関税割当量(千トン)

牛肉 15%(0.2ユーロ/kg以上) 560 50%

(1ユーロ/kg以上) 15% 570 55% 27.5%

豚肉 15%(0.25ユーロ/kg以上) 500 75%

(1.5ユーロ/kg以上) 0% 430 65% 25%

鶏肉 25%(0.2ユーロ/kg以上) 350 80%

(1.5ユーロ/kg以上) 25% 364 80% 37.5%

(注)1.加盟前の関税割当量は2011年の数値。  2.統一税率は、将来、関税割当制度が撤廃された場合の譲許税率。  3.豚肉についてのみ、2020年以降、関税割当制度を撤廃し、統一税率に移行することが決まっている。

(資料)2010年12月24日付政府決定No.1111、WTO(2011d)よりみずほ総合研究所作成

52

ロシアのWTO加盟

WTO の貿易関連投資措置(TRIM)協定に違反するとして問題視された。

この工業アセンブリ措置については、日本企業の関心も高いものと思われるが、やや複雑な制度であるので、加盟交渉における論点や合意内容の意味合いを明確にするためにも、まず工業アセンブリ措置の変遷と、自動車組み立てプロジェクトへの適用状況について詳しく解説する。

ロシアで工業アセンブリ措置が最初に導入されたのは2005年であり、同年以降、多くの外資系の完成車・部品メーカーが、この工業アセンブリ措置の適

用を受けた上でロシアでの現地生産に踏み切った。その後、工業アセンブリ措置の適用条件は20��年

から大幅に厳格化された(図表7)。例えば、完成車組み立てに関して工場を新規に建設する場合(グリーンフィールド方式)、厳格化される前の条件(以下、旧条件�7))は、①工業アセンブリ措置の適用に関する協定発効後、8年以内に生産能力を年間2万5千台以上とすること、②協定発効後、�0カ月以内に溶接・塗装ラインを設置してコンプリートノックダウン(CKD)方式�8)の生産を開始すること、③減免税率による部品・原材料の輸入価額を、CKD 開

�7) 完成車組み立てプロジェクトへの工業アセンブリ措置適用の旧条件は、2005年�月�5日付経済発展貿易省・産業エネルギー省・財務省共同指令 No.7�/8�/58による。

�8) コンプリートノックダウンとは、加工度が低い、より細分化された部品から完成車を組み立てる方法である。これに対して、すでにある程度組み立てられた部品から完成車を組み立てる方法をセミノックダウンという。

図表7:工業アセンブリ措置の新・旧条件の比較旧条件 新条件

完成車組み立て

<グリーンフィールド方式の場合>(1) 工業アセンブリ措置の適用に関する協定の有効期

間(最長8年間)内に生産能力を2交代制下で年間2万5千台以上とする

(2) 協定発効後、30カ月以内に組み立て・溶接・塗装ラインを設置してコンプリートノックダウン(CKD)による生産を開始する

(3) 減免税率による部品・原材料の輸入価額を、CKD開始から2年後に部品・原材料総額の10%相当分減少させ、3年半後と4年半後にさらに10%相当分ずつ減少させる

<ブラウンフィールド方式の場合>(1), (3):上記と同じ(2) 協定発効後、18カ月以内に溶接・塗装ラインを設置

してCKDによる生産を開始する

<グリーンフィールド方式の場合>(1) 協定発効後4年以内に生産能力(CKD)を年間30万

台以上とする(協定の有効期間は最長8年間)(2) 部品・原材料の現地調達率を協定発効後4年目に

30%以上、5年目に40%以上、6年目以降は60%以上にする

(3) 生産される自動車の30%に国産のエンジンおよび(または)トランスミッションを装備する

(4) 組み立て・溶接・塗装ラインの他に、協定発効後4年以内にプレスラインを設置する

(5) 協定発効後4年以内にR&Dセンターを設置する

<ブラウンフィールド方式の場合>(1) 協定発効後3年以内に生産能力を年間35万台以上

とする(2) 部品・原材料の現地調達率を協定発効後1年目に

35%以上、2年目に40%以上、3年目に45%以上、4年目に50%以上、5年目に55%以上、6年目以降は60%以上にする

(3)~(5):上記と同じ

部品組み立て

(1) 協定の有効期間は、エンジンおよびトランスミッション部品(ギアボックス、ドライブシャフト)については最長7年間、その他の部品については最長5年間

(2) 協定の有効期間内に生産能力を以下のようにする(以下は一部抜粋)

・エンジン(2,500cc以下):2交代制下で年間2万5千基以上

・ギアボックス(トルク30kg・m以下):年間2万5千基以上

・ドライブシャフト:2交代制下で年間5千基以上(3) 減免税率による部品・原材料の輸入価額を、CKD開

始から18カ月以内に部品・原材料総額の10%相当分減少させ、30 カ月以内と 40 カ月以内にさらに10%相当分ずつ減少させる

(1) 協定の有効期間は2020年末まで(2) 組み立てる部品に応じて、現地調達率の下限を、①

2011~14年、②2015~17年、③2018~20年にそれぞれ下記の通りとする(以下は一部抜粋)・エンジン、トランスミッション部品(ギアボック

ス、ドライブシャフト)、ハンドル装置:①15%、②30%、③45%

・ディスクブレーキ、バンパー:①15%、②③45%・シート:①~③30%・車体プレス部品:①~③15%

(注)生産台数に関する規定は、個別協定ごとに定められるとみられる。

(資料)2005年4月15日付経済発展貿易省・産業エネルギー省・財務省共同指令No.73/81/58等よりみずほ総合研究所作成

5�

みずほ総研論集 2012年Ⅱ号

始から2年後に部品・原材料総額の�0%相当分減少させ、�年半後と�年半後にさらに�0%相当分ずつ減少させること等であった。

しかし20��年以降、工業アセンブリ措置の適用条件(以下、新条件�9))は、①生産能力を協定発効後�年以内に年間�0万台以上とし、②部品・原材料の現地調達率を協定発効後�年目に�0%以上、5年目に�0%以上、6年目以降は60%以上にすることとされた。さらに、従来は無かった条件として、③生産される自動車の�0%に国産のエンジンおよび(または)トランスミッションを装備すること、④協定発効後�年以内にプレスラインを設置すること、⑤協定発効後�年以内に研究開発(R&D)センターを設置することが新たに義務付けられた。

なお、完成車組み立てプロジェクトに対する旧条件での工業アセンブリ措置適用に関する協定の締結は、当初、2007年��月�0日までしか認められていなかったが、2009年に例外規定が導入され、極東地域など経済発展が遅れた地域でのプロジェクトについては、大統領もしくは首相の承認を得た上で、旧条件に基づく工業アセンブリ措置の適用が認められることになった20)。

こうして、ロシアでは現在、多数の完成車組み立てと部品組み立てプロジェクトのそれぞれに関して、旧条件または新条件のいずれかに基づいて工業アセンブリ措置の適用に関する協定が締結済みか、

もしくは締結されつつある2�)。前述のように、ロシアの WTO 加盟交渉では、こ

れら新条件と旧条件のいずれに基づくものであるかを問わず、すべての工業アセンブリ措置の現地調達義務が問題視された22)。そして、最終的にはロシア政府が妥協するかたちで工業アセンブリ措置のルールを部分的に変更することを約束した。a.現地調達義務の緩和

ロシア政府が約束したルール変更とは、第一に、完成車組み立てに関する新条件の現地調達率に関する義務の緩和である。旧条件が義務付けている現地調達率(�0%)と新条件のそれ(60%)とでは、現地調達率の算定基準が異なるため単純な比較はできないが、仮にどちらかの算定基準で統一した場合でも、新条件の現地調達義務は旧条件のそれよりも格段に厳しいことが確実とみられていた2�)。このため、WTO 加盟交渉ではとくに新条件の現地調達率の高さに対して批判が集中し、最終的にロシア政府は、新条件の現地調達義務の緩和を余儀なくされた。すなわちロシア政府は、新条件が義務付ける現地調達率である60%が、旧条件の算定基準では(旧条件の義務を5ポイント上回るだけの)�5%に相当するとみなすこととし、事実上、この�5%基準を現地調達義務の履行状況チェック等において用いることを約束したのである。

�9) 完成車組み立てプロジェクトへの工業アセンブリ措置適用の新条件は、20�0年�2月2�日付経済発展省・産業商業省・財務省共同指令 No.678/�289/�8�による。

20) 完成車組み立てプロジェクトに対する旧条件での協定締結に関する例外規定は、2009年�2月�7日付経済発展省・産業商業省・財務省共同指令 No.5��/�0�8/��7による。ただし、この例外規定による協定締結も、20��年6月2�日をもって締め切られたとされる(WTO

(20��c))。なお、部品組み立てプロジェクトについては、旧条件に基づく工業アセンブリ措置協定の締結期限は20�0年末までとされ、それ以降に締結される協定は、すべて新条件に基づくとされている。

2�) 20��年末時点における完成車・部品別、新・旧条件別の締結済み協定数は次の通りである(国内メーカーと外資系メーカーの合計数)。完成車・旧条件:��、完成車・新条件:�、部品・旧条件:�2、部品・新条件:0。なお、部品・新条件プロジェクトについては、20��年末の時点で、協定締結の前段階として位置付けられる「メモランダム」が、�78件(うち、外資系メーカーは50件超)締結されており、今後、これらのメモランダムを締結したメーカーの一部が正式な協定締結に至るものとみられる(WTO(20��c))。外資系の完成車および部品メーカーによる工業アセンブリ措置協定の締結状況については、金野(20�2b)参照。

22) 工業アセンブリ措置を巡っては、とくに EU がロシアへの自動車部品の輸出量が減少することに強い懸念を持ち、現地調達義務の早期撤廃を求めていたとされる。

2�) 旧条件の現地調達率(�0%)は、完成車�台あたりの組み立てに要した部品・原材料(輸入品および国産品)の総額に占める現地調達の部品・原材料の割合であるのに対して、新条件の現地調達率(60%)は、完成車の販売価格(ただし付加価値税(VAT)、物品税を除く)に占める現地調達の部品・原材料の割合である。

5�

ロシアのWTO加盟

b.優遇税率の適用期間が短縮

工業アセンブリ措置に関するルール変更の第二点目は、工業アセンブリ措置の適用期間の短縮である。具体的には、旧・新条件のいずれに基づくものであるかを問わず、また、完成車・部品組み立てのいずれのプロジェクトであるかを問わず、工業アセンブリ措置の適用に関する協定はすべて20�8年6月末をもって失効することが約束された。

この約束により、20��年に協定が締結された完成車組み立てプロジェクトについては、当初予定で20�9年頃までと見込まれていた部品・原材料輸入に対する減免関税率の適用期間が�年程度、短縮されることになるとみられる。また、これから新条件に基づいて工業アセンブリ措置協定が締結される予定の部品組み立てプロジェクトについては、減免関税率の適用期間が一律で2020年末までと規定されていたことから、今般のロシア政府の約束により、これらすべてのプロジェクトに関して減免関税率の適用期間が�年半ずつ短縮されることになる。

減免関税率の適用期間が短縮された経緯については明らかではないが、ロシア政府の立場から見た場合、工業アセンブリ措置の狙いは、現地調達義務と部品・原材料輸入に対する減免関税率の適用をセットにすることで、外資系メーカーのロシア進出を促すとともに、ロシアの自動車部品産業の競争力強化を図ることにあったとみられる。しかし、前項でみたように、現地調達義務の緩和が求められるなか、ロシア政府としては、減免税率によって外資系メーカーを優遇する意義は、もはや無くなったものと考えられる。

なお、減免関税率の適用期間の短縮により、工業アセンブリ措置の適用を受けて現地組み立てを行う各完成車・部品メーカーは関税コストの増大による損失を被ることになるが、こうした損失については、現在ロシア政府がその補填方法を検討しているとの情報があり、今後の動向が注目されている。

⑷ 木材輸出関税

木材輸出関税の問題は、200�年5月にロシア・EU間の二国間交渉が妥結した後、ロシアが木材(丸太)の輸出関税率を大幅に引き上げる動きをみせたために、追加的な交渉課題として浮上したものである。具体的には、ロシア政府は国内の木材加工業(合板、紙パルプ製品等の生産・輸出)の保護・育成を目的として、針葉樹丸太の輸出関税率を2007年7月に従来の6.5%から20%に、2008年�月に25%に引き上げ、さらに2009年初からは80%に引き上げるとの決定を下 し た(2006年�2月2�日 付 政 府 決 定 No.795に よる)2�)。これに対して EU は、国内の関連産業に甚大な被害が生じることが予想されたフィンランドとスウェーデンの意向を汲むかたちで、同措置がロシアの WTO 加盟の障害になり得るとして、輸出関税率の引き上げの中止を要請したのである(EC(2008))。

この問題については結局、ロシアが譲歩する形で、WTO 加盟後の針葉樹丸太の輸出関税を�5%以下とする約束をすることで合意が成立し、20�0年��月2�日付で二国間交渉の妥結に関する EU・ロシア共同声明が出されている25)。

2�) 2006年�2月2�日付政府決定 No.795によって規定された�回の木材輸出関税率の引き上げ(2007年7月、2008年�月、2009年初)のうち、最初の2回は実施されたが、�回目の引き上げ(針葉樹丸太:80%)は実施されなかった。この背景には、EU による中止要請に加えて、ロシア国内の伐採企業の不満が高まったこと、過去2回の引き上げ措置による木材加工業育成の効果が十分に得られなかったこと等の事情があったとみられる。

25) 厳密には、加盟後、ロシアの針葉樹丸太の輸出関税には関税割当制度が導入されることになり、その�次税率の上限が�5%または��%に定められた。具体的には、エゾマツおよびトドマツ(HS ��0� 20 ��0, ��0� 20 �90)については、関税割当量を62�.65万㎥(うち、EU 向けは596.06万㎥)、�次税率の上限を��%とし、マツ(HS ��0� 20 ��0, ��0� 20 �90)については、関税割当量を�,60�.82万㎥(うち、EU 向けは�6�.59万㎥)、�次税率の上限を�5%とすることが約束された(WTO(20��d))。2次税率については、ロシア政府が自由に決定できる。なお、20�0年��月2�日の EU・ロシア共同声明(EC(20�0))は、200�年5月の二国間基本合意(EC(200�))を補完するものとして位置付けられている。

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みずほ総研論集 2012年Ⅱ号

⑸ 知的財産権保護

知的財産権保護については、従来、特許法、商標・サービスマーク・原産地表示法、著作権・著作隣接権法等によって個別に制定されていたが、近年、WTO の TRIPS 協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)に適合させるかたちでこれらの法改正が進められ、2008年�月�日に発効した民法典第�部(2006年�2月�8日付連邦法 No.2�0)として一本化された26)。2008年の非公式作業部会会合では、こうした法整備の取り組みが評価され、作業部会報告書の当該章(TRIPS 協定の遵守義務に関する章)が採択された(Tarr(2008))。

しかし、こうした法整備の進展の一方で、実態面ではコンパクト・ディスク(CD)、ビデオソフト、コンピューター・ソフトの海賊版等の知的財産権侵害物品が公然と販売される状況が続いたことから、特に米国が不満を強め、ロシア政府に対して有効な取り締まり措置の実施を求めてきた経緯がある

(USTR(2006))。加盟交渉においては、こうした執行面の取り組みに関してどの程度踏み込んだ約束が行われるかが焦点になったが、加盟議定書においては、ロシア政府が今後も引き続き知的財産権侵害物品の取り締まりを強化していくとの表記にとどまり、事実上、現状を容認する合意内容となった

(WTO(20��c))。

⑹ 対グルジア関係

グルジア政府は、200�年に二国間交渉の妥結に関する議定書をロシアとの間で締結したが、その後のロシアとの関係悪化を背景に、締結した議定書を撤回する意向を2006年7月に表明した27)。ロシアの加盟交渉において具体的な争点となったのは、2006年

春からロシアが衛生上の問題を理由に導入したグルジア産ワイン等の輸入禁止措置と、グルジアからの分離を求めて事実上独立状態にある南オセチアとアブハジアがグルジア政府のコントロールが及ばない形で、独自にロシアとの国境に設置している税関の存在であったとみられている。とくに後者の問題については、2008年8月にロシア・グルジア間で軍事衝突(南オセチア紛争)が発生し、その後、ロシア政府が南オセチアとアブハジアの独立を承認したことから完全に政治問題化し、解決への道筋がきわめて不透明な状況となっていた。

この問題については、20��年�月頃からスイス政府を仲介役とした協議が進められ、最終的には、中立的な民間企業が税関の管理・運営を行うとするスイス政府の案にロシア・グルジア両政府が同意したことで二国間交渉が妥結し、その翌日に作業部会の合意が成立した。諸報道によれば、両国が合意した税関管理・運営のメカニズムとは、①税関の管理・運営を行う中立的な民間企業は、ロシア・グルジア両政府との協議に基づいてスイス政府が選定する、②税関は、ロシア−アブハジア−グルジアを結ぶ交易ルート(コリドール�)と、ロシア−南オセチア−グルジアを結ぶ交易ルート(コリドール2)のそれぞれの両端(ロシア領内に2カ所、グルジア領内に2カ所の計�カ所)に設置される、③これらのコリドールに入るすべての貨物には税関で電子シール(electronic seal)が貼られ、その後の動きが全地球測位システム

(GPS)によってモニタリングされる、④コリドール進入後の貨物のモニタリングは、ロシア・グルジア両政府がそれぞれ行い、モニタリングから得られたすべての情報は、両政府によって当該民間企業に伝達される、というものである(Civil.ge, Nov. �8, 20��)。

26) 民法典第�部にまとめられた連邦法は、①特許法、②商標・サービスマーク・原産地表示法、③著作権・著作隣接権法、④コンピュータ用プログラムとデータベースの権利保護法、⑤集積回路配置の権利保護法、⑥営業秘密法、⑦品種改良法の七つである。これらの連邦法は、いずれも民法典第�部の発効に伴い失効した。

27) 前述の通り、新規加盟の最終的な承認は WTO 閣僚会議または一般理事会によるコンセンサス、もしくは�分の2以上の賛成多数によって行われるが、その前段階である作業部会による加盟協定文書の採択は、これまでの慣例上、作業部会の全参加国のコンセンサスによって行われる(WTO(200�))。グルジアが単独でロシアの WTO 加盟を阻止できるとされていたのは、このためである。

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ロシアのWTO加盟

4.加盟条件の概要とロシア・ビジネス環境への示唆

ロシアの WTO 加盟によって、ロシア経済、そして日本を含む外国企業から見た場合のロシアのビジネス環境にはどのような変化が生じるのだろうか。本節ではまず、WTO 加盟後のロシアの輸入関税率の変更や、サービス分野の対外開放など、外国企業にとって広く関心があると思われる市場開放スケジュールの概要を紹介し、その上で、WTO 加盟後の輸入関税率の引き下げによるロシアの輸入および産出へのインパクトについて定量分析を行う。また、この分析結果を踏まえて、日本、EU、米国のロシア向け輸出への影響を試算する。最後に、より長期的な視点から、現在のロシアのビジネス・投資環境上の制度的問題点の所在を明らかにした上で、それらの問題点が WTO 加盟によって解消されるか、具体的には WTO 加盟による対内直接投資の増加と産業構造変化の可能性について展望する。

⑴ 加盟条件の概要

a.輸入関税率の引き下げ

WTO 加盟後、ロシアのさまざまな商品の輸入関税率が引き下げられる。具体的には、加盟前のロシアの輸入関税率は全関税分類品目の単純平均で�0%、工業製品は同9.5%であったが、加盟後はそれぞれ7.8%以下、7.�%以下にまで引き下げられる

(図表8)。ただし、すべての品目の関税率が加盟日から即座

に引き下げられるわけではないことには注意が必要である。具体的には、全体の約半数の品目については、加盟前の関税率が加盟後も維持される。また、全体の約�分の�の品目については、関税率が加盟後2〜�年をかけて、約束された上限税率(最終譲許税

率)以下に引き下げられる(Minecon(20��))。ロシアにとって特に重要(センシティブ)な品目とされる自動車、ヘリコプター、民生用航空機については、関税率の引き下げに加盟後7年間を要する。

個別品目ごとにみると、日本からロシアへの最大の輸出品目である自動車のうち、乗用新車の関税率は、リーマン・ショック後に25%から�0%に引き上げられていたが、これが加盟日をもって元の25%に引き下げられ、その後�年間は同税率で据え置かれた後、�年目から7年目まで毎年約2.5%ポイントずつ引き下げられて�5%となる。中古乗用車(�〜6年落ち)の場合、加盟前の関税率は�5%程度だが、これが加盟日から乗用新車と同じ25%に引き下げられ、その後5年間据え置かれた後、最後の2年間で20%に引き下げられる。この他、医薬品は加盟前の5〜�5%から5〜6.5%に、家電製品は同�5%から7〜9%に、いずれも加盟後2〜�年かけて関税率が引き下げられる。b.サービス分野への投資障壁も低減

また、外国企業がこれまでロシアのサービス分野に進出する際に直面してきた投資障壁も低減される

図表8:ロシアの加盟前の関税率と最終譲許税率(単位:%)

加盟前の関税率 最終譲許税率全品目平均 10.0 7.8

農産品 13.2 10.8 工業製品 9.5 7.3

品目別平均乳製品 19.8 14.9 穀物 15.1 10.0 油脂 9.0 7.1 化学品 6.5 5.2 自動車 15.5 12.0  うち乗用新車 30.0 15.0 航空機 20.0 7.5 電気機器 8.4 6.2 木材・紙 13.4 8.0

(注)1.税率はすべて単純平均。  2.自動車の現行税率には、部品類の減免税率が含まれる。  3.航空機は、ワイドボディー(客室通路が2本以上の旅客機)。

(資料)WTO(2011a、2011d)よりみずほ総合研究所作成

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みずほ総研論集 2012年Ⅱ号

(WTO(20��e))。例えば、ロシアの電気通信事業会社に対する外国企業の出資比率は従来、�9%以下に制限されてきたが、この制限は加盟後�年以内に撤廃される。また、これまで禁止されていた金融分野

(銀行、証券、保険)における外国企業の支店開設については、保険業に限り、加盟後9年以内に解禁されることが決まった(ただし、現地法人の設立を通じた支店開設は従来から可能)。銀行・証券業における外国企業の支店開設については今後、ロシアの経済協力開発機構(OECD)加盟交渉などで議論される予定である。c.将来的には政府調達協定に加入する可能性

もう一つ、外国企業にとって、将来的にロシアにおけるビジネス・チャンス拡大の重要な契機となり得るのが、WTO の政府調達協定に加入する可能性が出てきたことである。WTO の政府調達協定は、政府機関(中央政府、地方政府、政府関係機関)による物品およびサービスの調達に関して、内国民待遇原則の適用義務(国産品・輸入品間の差別禁止)と、その実現のための公平・透明な調達手続き等を定めている28)。

この政府調達協定に関して、ロシア政府は WTO加盟と同時に同協定へのオブザーバー参加を要請すること、また、加盟後�年以内に同協定加入のための交渉を開始することを約束している(WTO

(20��d))。現在ロシアでは、法令上は政府調達における内国民待遇原則の適用が定められているものの、実態面では公開入札等において国産品が優先され、外国の産品は不利な扱いを受けているとの指摘

も多い29)。将来、ロシアが WTO の政府調達協定に加入すると、こうした実態面の協定違反が相当程度是正され、外国産の物品・サービスのロシア政府調達市場へのアクセスが現在よりも格段に容易になると考えられる�0)。

⑵ 輸入関税率引き下げによるロシアの輸入数量へ

のインパクト

以上でみたように、WTO 加盟後、様々な品目に関してロシアの輸入関税率が引き下げられることが決まっており、日本を含む諸外国の企業から見た場合、こうした輸入関税率の引き下げによって、従来よりもロシア向け輸出が容易になり、輸出数量が増加することが予想される。一方で、ロシア企業にとっては、こうした輸入数量の増加が短期的には国内市場の喪失につながり、産出の減少を余儀なくされる可能性がある。そこで以下では、ロシアの WTO 加盟後に予想される様々な影響のうち、輸入関税率の引き下げによるロシアの輸入数量の増加への影響について、商品グループ別に検討する。また、輸入数量の増加によるロシアの国内産出量への部門別影響についても検討する。

分析手法は、以下の通りである。ロシアの輸入数量への影響については、予想される関税率の変化

(A)と輸入数量の関税率弾力性(B)から、また、産出量への影響については、A および B から予想される輸入数量の変化と、産出量の輸入弾力性(C)から、それぞれ定量的な分析が可能である。本稿では、予想される関税率の変化(A)として、各商品グループの加盟前の関税率と最終譲許税率の差を用

28) 政府調達協定への加入は、WTO 加盟に際しての義務ではないため、現在、同協定への加入国数は、先進国を中心とする�5カ国(EUは�カ国としてカウント)にとどまっている。

29) ロシアの政府調達法(2005年7月2�日付連邦法 No.9�第��条)は、ある国の政府調達において、ロシアの物品・サービスに内国民待遇が付与されている場合に限り、ロシアの政府調達においても当該国の物品・サービスに対して内国民待遇を付与すると定めている。

�0) WTO の政府調達協定では、政府機関の調達手続きに協定違反があったと考える業者が、苦情を申し立てることが可能となるような制度を整備することが義務付けられている。提起された苦情は、裁判所又は公正かつ独立した機関によって審査され、協定違反の是正、損害賠償等が行われることとなる。なお、近年のロシアの中央(連邦)および地方政府による調達市場の規模は年間約5兆ルーブル(約�,600億ドル)であり、国有企業(国有比率50%超)とその子会社および国家コーポレーションによる調達市場もこれとほぼ同規模(5兆ルーブル)であるとみられている(Vedomosti, Feb. 7, 20�2)。

58

ロシアのWTO加盟

いている。また、輸入数量の関税率弾力性(B)は、ロシア科学アカデミー・国家投資評議会(RAN −NIS)が推定したデータを用いている(RAN −NIS(2002))��)。産出量の輸入弾力性(C)は、入手可能な最新の200�年産業連関表(Rosstat(2006))から筆者が推計したものである�2)。なお、ここでは輸入関税率の引き下げに関する移行期間を考慮しておらず、また、輸入財と国産財との間の完全代替を想定しているため、分析結果は、輸入数量の増加、産出量減少への影響ともに上方バイアスが働いていることに注意する必要がある。

分析結果は図表9の通りである。輸入関税率の引き下げによる輸入数量の増加率が最も大きいと予想

される商品グループは鉄鋼(�.2%)であり、これに非鉄金属(�.6%)、木材加工品(2.6%)、軽工業品(2.�%)が続く。

輸入全体の数量の増加率は、�.�%と小幅なものにとどまると予想されるが、これは主に、ロシアの輸入額において最大シェア(200�年産業連関表ベースで��%)を占める、機械・設備・金属加工品の輸入増加率が小さいことによるものと考えられる。輸入数量の増加率が高いと予想される前述の商品グループと比較すると、機械・設備・金属加工品は、関税率変化(▲�.0%ポイント)、輸入数量の関税率弾力性(▲0.�)ともにやや低く、これらの結果、輸入増加率(0.8%)も小幅にとどまると予想される。

��) RAN−NIS(2002)は、�997〜99年の年次データより、まず商品グループ別の内外価格差(輸入価格/国内価格)の変化率を関税率変化(%ポイント)に換算し、次にそれらと商品グループ別の輸入量の変化率から輸入数量の関税率弾力性を推定している。この輸入数量の関税率弾力性の推定においては、所得変化の影響が考慮されていないことに注意する必要がある。なお、�997〜99年は、主にロシア金融危機の発生(�998年8月)に伴う通貨ルーブルの急落という、価格変化の影響により輸入量が大きく変動した時期であるとみなされる。

�2) 産出量の輸入弾力性は、産業連関表の次のバランス式による。 X =[I −(I − M)A]−�×[(I − M)Y + E]ただし、X:国内産出ベクトル、I:単位行列もしくは単位ベクトル、M:輸入ベクトル、A:投入係数行列、Y:国内最終需要ベクトル、E:輸出ベクトル。なお、ロシアの産業連関表(オリジナル)は各取引エレメントに純生産物税等が含まれない基本価格表示である。このため、本稿では分析に先立ち、運輸マージン表、商業マージン表、純生産物税表を用いて、日本や米国の標準型である生産者価格表示の産業連関表(輸入競争型)への組み替えを行った。基本価格表示から生産者価格表示への組み替え方法は久保庭(�999, pp.78−79)による。なお、こうした産業連関表を用いた分析は、構造変化を捕捉できないという制約があることに注意する必要がある。

図表9:関税率引き下げによる輸入数量・産出量への影響加盟前関税率

(%)関税率変化(%ポイント)

輸入の関税率弾力性

産出の輸入弾力性

輸入変化率(%)

産出変化率(%)

[A] [B] [C] [A×B] [A×B×C]電力・熱 0.0 0.0 n.a. ▲ 0.007 0.00 0.00原油 0.0 0.0 ▲ 0.5 ▲ 0.013 0.00 0.00石油製品 5.0 0.0 ▲ 0.5 ▲ 0.043 0.00 0.00ガス 0.0 0.0 ▲ 0.1 ▲ 0.015 0.00 0.00石炭 5.0 ▲ 2.5 0.0 ▲ 0.065 ▲ 0.08 0.00その他燃料 0.0 0.0 n.a. ▲ 0.005 0.00 0.00鉄鋼 15.0 ▲ 7.5 ▲ 0.6 ▲ 0.158 4.20 ▲ 0.67非鉄金属 5.0 ▲ 2.0 ▲ 1.8 ▲ 0.102 3.58 ▲ 0.36化学・石油化学品 8.0 ▲ 3.0 ▲ 0.2 ▲ 0.462 0.60 ▲ 0.28機械・設備、金属加工品 9.4 ▲ 3.0 ▲ 0.3 ▲ 0.546 0.78 ▲ 0.43木材加工品、紙・パルプ 15.0 ▲ 5.0 ▲ 0.5 ▲ 0.259 2.60 ▲ 0.67建設資材 15.0 ▲ 5.0 ▲ 0.3 ▲ 0.235 1.55 ▲ 0.36軽工業品 15.0 ▲ 9.0 ▲ 0.2 ▲ 2.314 2.07 ▲ 4.79食品 15.0 ▲ 3.0 ▲ 0.2 ▲ 0.247 0.72 ▲ 0.18その他鉱工業品 8.0 ▲ 3.0 ▲ 0.4 ▲ 0.158 1.26 ▲ 0.20農林業産品 10.3 ▲ 3.0 ▲ 0.1 ▲ 0.065 0.30 ▲ 0.02平均 -- -- -- -- 1.28 ▲ 0.31

(注)現行関税率と関税率変化は、「機械・設備、金属加工品」のみMinecon(2011)による鉱工業品の加重平均。その他は最頻値。(資料)現行関税率は KTS(2011)および Minecon(2011)、関税率変化は WTO(2011d)、輸入の関税率弾力性は RAN-NIS(2002,

pp.17-18, Table 1.2)、産出の輸入弾力性はRosstat(2006)よりみずほ総合研究所作成

59

みずほ総研論集 2012年Ⅱ号

他方、産出量への影響については、最も大幅な減少率が予想される軽工業品(▲�.8%)を別とすれば影響は総じて小さく、全商品グループ平均の産出量の減少率はわずか0.�%にとどまると予想される。軽工業品の産出量の減少率が大きいのは、同商品グループの2�0%というきわめて高い輸入浸透度(輸入/産出:200�年)によるものと考えられる(Rosstat

(2006))。

⑶ 日・米・欧のロシア向け輸出額への影響比較

次に、上記の試算とほぼ同様の手法によって、日本、EU、米国のロシア向け輸出額が、ロシアのWTO 加盟後にそれぞれどのように変化するのか、比較検討してみよう。

ここでは、図表9で用いた商品グループのうち、機械・設備・金属加工品を、①自動車、②航空機、③その他の機械・設備の三つに細分化し、自動車については乗用新車の関税率変化(▲�5%ポイント)を、航空機についてはワイドボディーの関税率変化

(▲�2.5%ポイント)をそれぞれ用いている��)。これら�品目の輸入額の関税率弾力性には、いずれも細分化される前の機械・設備・金属加工の輸入数量の弾力性(▲0.5�6)を用いている。その他の商品グループについては、関税率変化、輸入額の関税率弾力性とも、図表9と同じものを用いている。

以上の関税率変化と、輸入額の関税率弾力性、そして日本、EU、米国による20��年のロシア向け輸出実績(UN comtrade)に基づいて、これら�地域のロシア向け輸出額の変化を予想した結果が図表10である��)。EU のロシア向け輸出額が、日本、米国よりも圧倒的に大きいことを反映して、予想される輸出増加額も、EU が日本および米国を著しく上回ることが見込まれる。ただし、増加率でみると、

日本のロシア向け輸出に関して最も高い増加率(�.0%)が見込まれる点が特徴的である。

日本、EU、米国によるロシア向け輸出の予想増加額を、商品グループ別にみると、自動車(��億ドル)、その他機械・設備(�.�億ドル)、鉄鋼(2.�億ドル)、軽工業品(2.�億ドル)が�大品目となっており、なかでも自動車輸出の予想増加額が他を大きく引き離している(図表11)。日本については、予想される輸出増加額(�5億ドル)のうち、86%(�0億ドル)が自動車によるものとなっている。これは、20��年の日本のロシア向け輸出総額のうち、実に66%が自動車によって占められていることによる。つまり、日本のロシア向け輸出構造は、EU、米国よりも自動車に特化したものとなっており、その自動車に関して、より大幅な輸入関税率の引き下げが予定されていることから、日本はロシアの WTO 加盟による輸出額増加のメリットを、より強く享受できると見込まれるのである。

⑷ ロシアのビジネス・投資環境上の問題点と

WTO加盟後の展望

最後に、本稿のまとめとして、現在のロシアのビジネス・投資環境上の制度的問題点の所在を明らかにした上で、それらの問題点と WTO 加盟との関係性について、やや長期的な視点から検討したい。

一般に、WTO 加盟が当該国にとって大きいメリットとなり得るのは、輸出の増加に加えて、

��) 前述の工業アセンブリ措置については考慮していない。 ��) ここでもロシアの輸入関税率の引き下げに関する移行期間を考慮しておらず、また、自動車と航空機については、WTO 加盟後の関

税率の引き下げ幅が比較的大きい乗用新車とワイドボディー航空機の関税率変化を用いているため、輸出増の効果には上方バイアスが働いていることに注意する必要がある。

図表10:EU・日本・米国のロシア向け輸出増の効果加盟前の輸出額(100万ドル)

加盟後の予想輸出増加額(100万ドル)

増加率(%)

EU 133,495 2,047 1.5

日本 11,748 352 3.0

米国 7,503 96 1.3

(注)加盟前の輸出額は2011年実績。(資料)UN comtrade等よりみずほ総合研究所作成

60

ロシアのWTO加盟

WTO に加盟することで当該国の貿易・投資制度の予見可能性が高まり、それによって当該国への直接投資(FDI)が増加する可能性である。とくにロシアの場合、石油・ガスに依存した経済構造からの脱却は、前回のプーチン大統領時代から掲げられ続けてきた課題であり、その課題を実現する上で、製造業・サービス分野への先進技術の移転が見込まれるFDI の増加が不可欠であることは明白である。

しかしロシアについては、WTO への加盟後、即座にこうしたメリットを享受できる態勢にはなっていない。世界銀行が毎年公表している、世界各国のビジネス環境調査“Doing Business”の20�2年版

(World Bank(20�2))によれば、ロシアはビジネスの容易さの総合ランキングにおいて、全�8�カ国中、�20位というきわめて低い評価となっている(図表12)。評価項目別にみると、電力調達(�8�位)、建設認可(�78位)、貿易(�60位)などの項目の評価

がひときわ低くなっている。さらに、評価が低いこれらの項目の評価内容をみると、所要手続き数が多い、所要日数が多い、書類数が多いなど、いずれも行政手続きの煩雑さや腐敗・汚職問題との関連性が疑われる項目であることがわかる。

つまり、現在のロシアにおいては、貿易・投資制度の予見可能性以前の問題として、煩雑な行政手続きや汚職・腐敗などが、ビジネス・投資環境上の最も深刻な障害となっており、これらの問題が解決されない限り、WTO 加盟後も FDI の本格的な増加は見込めない。しかし、煩雑な行政手続きや汚職・腐敗などの問題は、いわば WTO 協定の範疇外の問題であり、これらの問題の解決には、ロシア政府が自ら積極的に取り組んでいくほかない。

本年�月の選挙で大統領に復帰したプーチン政権は、復帰後間もない5月7日付の大統領令により、「世界銀行のビジネス環境ランキングにおけるロシア連

(注)本図表で用いた各商品グループと、関税分類番号(HSコード)の対応関係は以下の通り。鉄鋼:72、73、非鉄金属:74、75、76、78、79、80、81、82、83、化 学・石油 化 学 品:28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、自動車:87、航空機:88、その他機械・設備:84、85、86、88、89、90、91、93 、木材加工品、紙・パルプ:44、47、48、49、建 設 資 材:68、69、70、軽 工 業 品:41、42、43、45、46、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、94、95、食品:09、11、16、17、18、19、20、21、22、23、24、その他鉱工業品:15、25、26、71、92、農林業産品:01、02、03、04、05、06、07、08、10、12、13、14。

(資料)UN comtrade等よりみずほ総合研究所作成

図表11:EU・日本・米国のロシア向け輸出増の効果(商品グループ別)

0 100 200 300 400 500 600 700 800(100万ドル)

鉄鋼

非鉄金属

化学・石油化学品

自動車

航空機

その他機械・設備

木材加工、紙・パルプ

建設資材

軽工業品

食品

その他鉱工業品

農林業産品

EU日本米国

6�

みずほ総研論集 2012年Ⅱ号

邦の順位を、現在の�20位から20�5年には50位に、20�8年には20位に引き上げる」という目標を掲げるなど、今後、ビジネス環境の改善に向けた取り組みを強化する姿勢を明確にしているが、これまでのところ、具体的な措置の実現には至っていない。ロシ

アが今後、WTO 加盟によるメリットを最大化できるかどうかは、プーチン新大統領が今後、行政手続きの簡素化・効率化と汚職撲滅に向けて、どこまで有効な措置を講じられるかどうかにかかっていると言えるだろう。

図表12:世界銀行“Doing Business”によるロシアのビジネス環境評価

(注)輸出入コストは、関税および賄賂を含まない。 (資料)World Bank (2012)

順位   国名

1 シンガポール

4 米国

19 ドイツ

20 日本

31 オランダ

71 トルコ

91 中国

120 ロシア

126 ブラジル

132 インド

183 チャド

  評価項目 ロシアの順位

起業 111

建設認可 178

電力調達 183

資産登録 45

融資関連法制 98

投資家保護 111

租税支払い 105

貿易 160

契約の履行 13

廃業 60

「建設認可」の評価内容所要手続き数 51所要日数 423コスト(国民 1人あたり所得比:%) 184

「電力調達」の評価内容所要手続き数 10所要日数 281コスト(国民 1人あたり所得比:%) 1,852

「貿易」の評価内容輸出に必要な書類数 8 輸出所要日数 36輸出コスト(ドル/コンテナ) 1,850輸入に必要な書類数 10輸入所要日数 36輸入コスト(ドル/コンテナ) 1,800

62

ロシアのWTO加盟

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