モジュラー曲線の整モデルchida/Gross-Zagier/...一方, Deligne-Rapoport...

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モジュラー モデル (大学) 1 0. Gross-Zaiger [13] するモジュラー モデル につい するこ ある. モジュラー レベル いう き楕円 ある. えている楕円 C , モジュラー リーマン Q して つこ がわかっている. 扱う レベル あり, それに っていくつか モジュラー れる. 々が がある Y 0 (N ) C いう モジュラー ある. ( ) える き、こ コンパクト X 0 (N ) C モデルが ある. によって, ( 1 だが, Krull 2) すこ すこ き、さらに えるこ きる ある. あるように、 体に する Heegner x X 0 (N ) Z x Z って, それ x σ Z Hecke T m による (x Z ,T m x σ Z ) するこ [13] 大き 一つ っている. K する Heegner K Hilbert H された つ楕円 が対 する. って, O H X 0 (N ) Z スキーム わら いこ 意する. X 0 (N ) Z Z[ 1 N ] らか ある. って, p, p 6 |N . p p|N , する楕円 E 異かつ Aut(E) 6= 1} , また j (E)(j (E) - 1728) = 0 mod p たす いて ある. また った して それら ある. ,(x Z ,T m x σ Z ) p (x Z ,T m x σ Z ) p , それら よう けされて されている. (1)([13]5,6 ) p N を割る , p K するこ ( えている から) かり, x F p ,x σ F p 楕円 (ordinary elliptic curve) に対 する. , X 0 (N ) Z 2 わら , ( ) によら . だし, j (x)(j (x) - 1728) = 0 mod p って してから ある. (2)([13]7 ) p N を割ら , p K するこ ( えている から) わかり, x F p ,x σ F p Aut(E)= 1} たす 異楕円 E に対 する. p 6 |N , X 0 (N ) Z (regular locus) X 0 (N ) reg Z われているため まされずに むが における , それ ある. 1 大学大学院 2 する楕円 異楕円 (supersingular elliptic curve) 1

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モジュラー曲線の整モデル

山内 卓也 (大阪府立大学)1

0.序文

本稿の目的はGross-Zaiger の論文 [13]に登場するモジュラー曲線の整モデルの構成につい

て解説することである. モジュラー曲線とは集合論的にはレベル構造という付加構造付き楕円

曲線の同型類の集合である. 考えている楕円曲線をC上のものに限ると, モジュラー曲線は自

然に開リーマン面の構造を持ちQ上の代数曲線としての構造をもつことがわかっている. 本

稿で扱う基本的なレベル構造は数種類あり, それに伴っていくつかのモジュラー曲線が定義さ

れる. 我々が特に興味があるのが Y0(N)Cという型のモジュラー曲線である. 数論 (幾何)への

応用を考えるとき、この曲線のコンパクト化X0(N)Cの整数環上でのモデルが必要である. こ

のことによって, 曲線を数論的曲面 (相対的には 1次元だが, Krull次元が 2)と見做すことで点

を曲線と見做すことができ、さらには数論的な交点理論を考えることができるのである. 杉山

氏の稿にもあるように、虚二次体に付随するHeegner 点 xを数論的曲面X0(N)Z上の曲線 xZ

と思って, それとその複素共役 xσZの Hecke作用素 Tmによる像との数論的交点数 (xZ, Tmxσ

Z)

を計算することが [13]の大きな仕事の一つとなっている. 虚二次体Kに付随するHeegner点

はKのHilbert類体H上定義された虚数乗法をもつ楕円曲線が対応する. 従って, OH上潜在

的良還元をもつのでX0(N)Zの尖点スキームとは交わらないことに注意する. 交点数を計算す

る土台となる数論的曲面X0(N)ZはZ[ 1N

]上滑らかである. 従って, 標数が p, p 6 |N の点では正則. 標数が pの点で p|N の場合は, 対応する楕円曲線Eが超特異かつAut(E) 6= ±1となる場合か, または j(E)(j(E) − 1728) = 0 mod pを満たす場合を除いて正則である. また特異点

をもったとしてもそれらは商特異点である.

このとき,(xZ, TmxσZ)は素数 pでの局所交点数 (xZ, Tmxσ

Z)pで記述でき, それらは次のよう

に場合分けされて計算されている.

(1)([13]5,6節) pがNを割るとき, この場合 pはKで分裂することが (考えている設定から)わ

かり, x ⊗ Fp, xσ ⊗ Fp は通常楕円曲線 (ordinary elliptic curve)に対応する. 特に, X0(N)Zの

超特異点2とは交わらないので, 交点数の計算が超特異点での (商)特異点解消によらない. た

だし, j(x)(j(x)− 1728) = 0 mod pとなる場合は被覆をとって商特異点を解消してから計算す

るのでやや複雑である.

(2)([13]7節) pがNを割らないとき, この場合 pはKで惰性することが (考えている設定から)

わかり, x ⊗ Fp, xσ ⊗ Fp はAut(E) = ±1を満たす超特異楕円曲線Eに対応する. p 6 |N な

ので, 交点数の計算はX0(N)Zの正則な部分 (regular locus) X0(N)regZ で行われているため特

異点に悩まされずに済むが超特異点における交点数の計算となり, それは複雑である.

1講演当時の所属は広島大学大学院理学研究科2対応する楕円曲線が超特異楕円曲線 (supersingular elliptic curve)

1

2

(1)の場合, 計算は比較的簡単で寄与がないことがわかる. (2)の場合, 計算に必要なことは

(i)悪い還元でのモジュライ解釈, (ii) 超特異点におけるモジュライ解釈である. 上記 (i)と (ii)

はDrinfeld レベル構造を導入することで達成される. 実は p|N が p = 2, 3のときX0(N)Zの

ファイバーの様子やZp上の安定モデルなどは一般には (いまだに)よく分かっていない. そう

でない場合 (p|N, p 6= 2, 3)はモジュライ問題が基底変換で安定なので井草曲線を用いて, 特

異ファイバーの解析が可能になる. しかし, いずれにせよ「p = 2または p = 3がN をわり

x⊗Fp, xσ ⊗Fpに対応する楕円曲線EがAut(E) 6= ±1を満たすような超特異点」という設

定で交点数を計算しなければならない場面が起こらなかったというのが幸運なことであった.

本稿の構成について述べる. 1節で C上の話を述べる. 2節では Z上の構成を述べる前に Z[ 1

N]上の井草モデルについて述べ, 続いて Z上の Katz-Mazur モデルについて紹介する.

Gross-Zagierに必要なのはKatz-Mazurモデルと [7]で議論されている超特異点 (supersingular

point)での特異点解消 (resolution) である. ただ先にも説明したように超特異点が特異点に

なっているところでの議論は避けられるので特異点解消については気にしなくてよい.

KatzとMazur [17]は任意のN ∈ Nに対してZ上のアファイン平坦スキームとして Y0(N)C

の整モデルを構成し, X0(N)C の整モデル X0(N)Z を射 Y0(N)Z −→ Y0(1)Z = SpecZ[j] →P1

Z の正規化として, P1Z-スキーム (Z上の射影平坦スキーム)を構成した. 尖点スキームは

X0(N)Z \ Y0(N)Zの被約化によって定義され, Z上の Tate 曲線を用いて調べられている. し

かし, このような構成をしているため尖点でのモジュライ解釈がない.

一方, Deligne-Rapoport [7]は半安定曲線 (semistable curves of genus one) の概念を用いる

ことで, N が 2乗因子を持たない場合にX0(N)Cの整モデルX0(N)Zを直接構成した. この場

合は尖点にもモジュライ解釈があるという点でKatz-Mazurのモデルより優れている. Nが一

般の場合, 彼らの構成ではX0(N)ZはDeligne-Mumford スタック3 (stack)にはならないので

通常の交点理論が適用できない. 余談ではあるが, Conrad によってそれらを統合する理論が

整備され, 固有 Artinスタックであることは分かっている [4].

以上が本稿の構成である. 本来ならさらに Y0(N)Zのコンパクト化の構成と正標数の体上の

モジュライ問題も詳しく説明すべきだが, 講演中すべてに解説をつけると豪語していたにもか

かわらず, 執筆者の怠慢により, Y0(N)Cのアファインモデルの構成しか解説することしかで

きなかった. お詫びすると共にお許しいただきたい.

本稿を執筆する上で [17]と [11] を主に参考にした. [11]は未出版だが Edixhovenのホーム

ページから入手可能である.

Contents

1. C上の話 3

2. Katz-Mazur モデル 8

2.1. 井草の構成 8

2.2. KatzとMazurによる構成 20

2.3. モジュライ問題 21

2.4. Coarse moduli schemes 31

3雑に言うと局所的に正則スキーム, 叉は, その有限商で書けるということ.

3

3. 補足 36

4. 謝辞 37

References 37

1. C上の話

自然数N ≥ 1に対して, Γ := SL2(Z) =(

a b

c d

)∈ M2(Z)

∣∣∣ad − bc = 1の部分群

Γ0(N) :=(

a b

c d

) ∣∣∣c ≡ 0 mod N

を考える. H := z ∈ C| Imz > 0を複素上半空間とすると, ここには Γが左から一次分数変

(a b

c d

)· z =

az + b

cz + dの形で作用する. 当然, Γ0(N)も同様にHに作用する. これによっ

て, 商空間

Y0(N)C := Γ0(N)\H

を考えることができる. Y0(N)Cにはリーマン面の構造が入ることが具体的に座標系を与える

ことで確認でき (cf. [8]), そのコンパクト化は

X0(N)C := Γ0(N)\H ∪ Q ∪ √−1∞

によって与えられる. X0(N)C \ Y0(N)Cの元を尖点 (cusp)という. X0(N)Cはコンパクトリー

マン面となることが知られているので, 代数曲線としての構造が入る. 従って, X0(N)Cのこ

とをモジュラー曲線 (modular curve) と呼ぶことにする. この節では Γ0(N)しか扱わない

が, 同様に Γの指数有限部分群 Γ′であって, 合同部分群

Γ(N) := (

a b

c d

)∈ Γ

∣∣∣a − 1 ≡ d − 1 ≡ b ≡ c ≡ 0 mod N

, N ∈ N

を含むものに対して, それにコンパクトリーマン面

XΓ′ := Γ′\H ∪ Q ∪ √−1∞

を付随させることができる. それらもモジュラー曲線と呼ぶことにする4.

モジュラー曲線 Y0(N)Cの重要な性質として, それがレベル構造付き楕円曲線の同型類の集

合と自然に同一視できることが挙げられる. このような状況をしばしば「モジュラー曲線は

モジュライ解釈 (modular interpretation)を持つ」などと説明する. 実際, τ ∈ Hに対して,

4Γ′ がいかなる合同部分群 Γ(N), N ∈ Nもふくまないとき, Γ′ のことを非合同部分群という. このような群

に対応するモジュラー曲線は代数対応をもたない. これは Hecke 理論が展開できないことを意味するので, 非合

同部分群は避けて議論するのでが常である. しかし, そのような悲劇的な状況でも数論 (幾何)は展開されている

(cf. [18],[21]).

4

Eτ = C/Lτ , Lτ := Z + τZとするとき, Cτ :=⟨ 1

N

⟩は位数N の巡回部分群であるので, これ

によって, 対応

H −→ (E,C)| EはC上の楕円曲線, CはEの位数N の巡回部分群 / 同型∼

τ 7→ (Eτ , Cτ )

を考えると, これは全射であることが簡単にわかる. さらに, γ ∈ ΓがCτ を不変にするために

は γ ∈ Γ0(N)となることが必要十分条件であるので、この射は Y0(N)Cを経由する:

Y0(N)C1:1−→ (E,C)| EはC上の楕円曲線, CはEの位数N の巡回部分群 / 同型∼

これによって, Y0(N)Cの点と右辺のC上の構造付き楕円曲線とを同一視する.

先に説明したように, X0(N)Cは Y0(N)Cのコンパクト化であった. X0(N)CのQ上のモデルをX0(1)C上の関数 jを用いて構成する. 関数 jは

j = j(τ) = j(q) :=E3

4(q)

∆(q)=

∞∑n=−1

cnqn = q−1 + 744 + 196884q + · · · , q = e2π√−1τ , τ ∈ H

と定義される関数である. ただし, E4(q) = 1 + 240∑n≥1

σ3(n)qn, σ3(n) =∑

d|n,d>0

d3 は重さ 4,

レベル 1の Γに関するEisenstein 級数のフーリエ展開 (q展開)を表し, ∆(q) = q∏n≥1

(1− qn)24

は重さ 12,レベル 1の Γに関する尖点形式のフーリエ展開 (q展開)を表す. 定義から, j(γτ) =

j(τ), ∀γ ∈ Γなので, jは τ =√−1∞でのみ極をもち,その位数 1だからそれは同型

X0(1)C ' P1C, τ 7→ j(τ)

を与える.

整モデルの構成に必要な事実は次の二つである:

(i) 関数 jはX0(1) ' P1の関数体の生成元

(ii) 関数 jの q展開の係数 cnはすべて整数.

これらを用いて次の事実を証明する.

定理 1-1. C(X0(N))をX0(N)のC上の関数体とする. このとき次が成立する.

(1) C(X0(N)) = C(j, jN). ただし, jN = j(Nτ)

(2) ΦN := ΦN(j, Y ) ∈ C(j)[Y ]を jN のC(j)上の最小多項式とするとき, 次が成立:

(a) degY ΦN = [Γ : Γ0(N)]

(b) ΦN(X,Y ) = ΦN(Y,X) ∈ Z[X,Y ]

証明. Γ =⋃µ

i=1 Γ0(N)γi, γ1 := 1 と右剰余類に分解すると, 有限集合

SN := jN |[γi](τ) = j(Nγiτ)| 1 ≤ i ≤ µ

に関する基本対称多項式は Γ不変なのでそれらはC(j)に属す. 従って,

ΦN(j, Y ) :=

µ∏i=1

(Y − jN |[γi]) ∈ C(j)[Y ]

5

が分かる. ここで,十分一般の点 τ ∈ H (CM点でなければなんでもよい)に対して各 jN |[γi](τ)

は異なることがわかるので ΦN(j, Y )が既約モニックであることがわかり, これが jN の C(j)

上最小多項式であることがわかる. 実際, τ に対応する楕円曲線をE = C/Lτ としその位数N

の異なる巡回部分群L1, L2 をとると, 自然な全射E −→ E/Li, i = 1, 2はエタール被覆なので,

同型 φ : E/L1∼−→ E/L2は φ ∈ End(E) = Zに持ち上がる. よって, φ = ±1だから, L1 = L2

がわかる. レベル構造を忘れる射

X0(N) −→ X0(1) = P1j

の次数は µなので, (a)が従う.

次に (b)を示す. 各 γiに対して, 行列 A ∈ Γが存在して, A−1Nγi =

(a b

0 d

), a, b, d ∈

Z, d|N を満たすようにできる. これより,

j(Nγi) = j(A

(a b

0 d

)τ) = j(

aτ + b

d) =

∞∑n=−1

cnζbdq

and ∈ Z[ζd][[q

1N ]].

一方, (a)より, ΦN(j, jN) = 0かつ j, jN ∈ Q[[q]][1q] なのでΦN(X,Y ) ∈ Q[X,Y ]がわかる. こ

のことから, ΦN の係数はQ ∩ Z[ζN ] = Z 上定義されていることがわかる. 最後に対称性を示

す. WN :=

(0 −1

N 0

)を Atkin-Lehner 対合 (involution)とすると, これは (リーマン面と

しての)X0(N)に位数 2の自己同型 (τ 7→ WNτ)を引き起こす. j|WN = j(− 1Nτ

) = j(Nτ) =

jN , jN |WN = j(− 1τ) = j(τ) = jなので, ΦN(Y,X)も YN の定義方程式であるから, ある定数が

存在して, Φ(X,Y ) = cΦ(Y,X)が存在する. よって, Xと Y の役割を交換することで,

Φ(X,Y ) = cΦ(Y,X) = c2Φ(X,Y )

を得る. これより, c = ±1. c = −1のときは, Φ(X,X) = 0となり, Φ(X,Y )は (X − Y ) で割

れるため, Φ(X,Y )の既約性に矛盾. よって, c = 1. ¤

このようにして得られた ΦN は以下のようにモジュラー曲線のひとつの整モデルを与える

ことがわかる. YN を射Γ0(N)\H −→ A2C, τ 7→ (j(τ), jN(τ))の像に対応するアファインスキー

ムとする. 即ち, YN = SpecC[X,Y ]/ΦN . 既に YN 自身特異点を沢山持つので扱いやすいもの

ではない.

定理 1-1の (2)-(b)より, ΦN はQ上で定義されているので, YN,Q = SpecQ[X,Y ]/ΦN を YN

のQ上のひとつのモデルとして考えることができる. YN,Qを自然な埋め込みA2Q → P1

Q × P1Q

によって, P1Q × P1

QのQ-部分スキームと思って, 正規化を取ったものをXN と書く.

系 1-2.代数曲線またはリーマン面としての同型XN(C) ' X0(N)Cが存在.

証明. 代数曲線の一般論から明らか. [14] の 1節を参照. ¤

定理 1-1より ΦN は整数環上で定義されたことを思い出すと, YN,Z := SpecZ[X,Y ]/ΦN は

Y0(N)の Z上平坦なアファインモデルのひとつと思える. 射 j : YN,Z −→ A1Z → P1

Z の正規化

をX0(N)Zとおく. これは2節以降で紹介する井草モデルやKatz-Mazur モデルと本質的には

6

同じであるが, 構成が非常にナイーブなため扱いにくくその正規化の様子を具体的に把握する

ことはできない.

このとき, 素数 pに対して, その特殊繊維 (special fiber at p) X0(N)Fp := X0(N)Z ×SpecZ

SpecFpを考える. そうすると, p|N時はΦN mod pの分解の様子が次のようにある程度具体的

にわかる. これに2節に出てくる Katz-Mazur モデルの悪い素点での振る舞いを忠実に反映

している.

定理 1-3(Kronecker の合同式).(cf. p.285,定理 6.6 [7]) N > 1と仮定し, N を割る素数の1

つを p > 0とする. N = pkn, p 6 |nと表しておく. このとき,

ΦN(x, y) ≡∏

s+t=km=mins,t

Φn(xps−m

, ypt−m

)φ(pm) mod p

が成り立ち, X0(N)Zの因子 (divisor)として,

X0(N)Fp =∑

s+t=km=mins,t

φ(pm)Fs,t

が成り立つ. ただし, Fs,t ' X0(n)Fp で各 Fs,tはすべての超特異点で交わる. また, φ(∗)はオイラー関数である.

証明. N = pのときのみ示す. 一般も同様である. 定理 1-1の証明で登場した集合 Spは

Sp = jp|[γi](τ) = j(pγiτ)| 1 ≤ i ≤ p + 1 = j(pτ), j(τ + i

p)| 0 ≤ i ≤ p − 1

となる. j( τ+ip

) ∈ Z[ζp][[q1p ]]となることに注意しておく. Z[ζp]の pを割る素元 π := 1 − ζp を

とると,

j(τ + i

p) =

∞∑n=−1

cnζinp q

np ≡

∞∑n=−1

cnqnp mod π = j(

τ

p)

なので,

Φp(j, Y ) = Φp(Y, j) = (Y − j(pτ))

p−1∏i=0

(Y − j(τ + i

p)) ≡ (Y − j(τ)p)(Y − j(

τ

p))p mod π

≡ (Y − j(τ)p)(Y p − j(τ)) mod π

が成立. 左辺と右辺は共に Z係数なので,

Φp(j, Y ) ≡ (Y − j(pτ))(Y p − j(τ)) mod p

を得る. ¤

系 1-4. 上記の整モデルの特異点解消を X0(p)Zとする. このとき, pでの特殊繊維 X0(p)Fpの

既約成分はX0(1)Fp' P1

Fpの 2つのコピーである. さらに, この二つの既約成分は対応する点

が超特異楕円曲線の所だけで交わり, さらにその交わり方は横断的である.

7

証明. 定理 1-3より, X0(p)Fpの既約成分はそうなっていることがわかり, xを第一既約成分, y

を第二既約成分の元とする. このとき, (x, y)が既約成分の交点ならば,

x = yp, y = xp

が成り立つ. これより, x = xp2. xに対応する楕円曲線をE/Fpとすると, これはE = E(p2)を

意味する. ただし, E(pr)によって相対フロベニウス射 F による r回捻りを表す. このとき完

全列

EF−→ E(p) F−→ E(p2) = E

は恒等射なので二つ目の射はVerschiebung V = F ∗となる. よって,

E[p](Fp) = Ker(V F )(Fp) = Ker(F 2)(Fp) = 0.

これはEが超特異楕円曲線であることを意味する (cf. [23]).

横断的に交わるという主張はモジュライ解釈を用いたもう少し踏み込んだ議論が必要なの

で省略する ([7]や [17]の交叉公理定理を参照). ¤

例 1-5. ΦN(x, y)はたとえNが小さくても計算は複雑になり, Nが大きくなるにつれ爆発的に

ΦN(x, y)の係数が大きくなり計算も困難になる5. 例えば, N = 2, 3の場合は次のようになる:

Φ2(x, y) = x3 + y3 − x2y2 + 24 · 3 · 31xy(x + y) − 24 · 34 · 53(x2 + y2) + 34 · 53 · 4027xy

+ 28 · 37 · 56(x + y) − 212 · 39 · 59,

Φ3(x, y) = x4 + y4 − x3y3 − 22 · 33 · 9907xy(x2 + y2) + 23 · 32 · 31x2y2(x + y)

+215 · 32 · 53(x3 + y3)+216 · 35 · 53 · 17 · 263xy(x+ y)+2 · 34 · 13 · 193 · 6367x2y2

− 231 · 56 · 22973xy + 220 · 33 · 56(x2 + y2) + 245 · 33 · 59(x + y).

さて, Gross-Zagier [13]では何をやっているか再び思い出す. K を虚二次体とし, H をそ

のヒルベルト類体, OをH の整数環とする. XN のO上の固有モデルをX0(N)Oとする. こ

のとき与えられた Heegner 点 x, y ∈ X0(N)(H)はX0(N)O の正則部分 (regular locus)のO-

切断 xZ, yZ に伸びる. x, y は K の整数環に虚数乗法をもつ H 上の楕円曲線で定義され, こ

れは潜在的良還元 (potentially good reduction)をもつので, 切断 xZ, yZは尖点部分スキーム

X0(N)Z \ Y0(N)Z には交わらない. Gross-Zagier の主要な結果の1つは, 切断 xZ, yZ の (数

論的)交点数の計算公式の導出であった. 交点数の計算は局所的に行えるので, 上記のような

X0(N)Cの整モデルX0(N)Oがひとつあれば原理的には計算できるということになる. 具体的

にN を与えれば, [19]の結果からXN ⊗ Oの特異点解消は存在し, 正則スキームX0(N)regO を

得る. よって, 原理的には交点数の計算は可能である. しかし, 我々は一般の場合を問題にし

ており, たとえ具体的なN で計算するにしてもΦN の定義方程式を見る限り, このようにXN

から出発して一般論を用いて正則モデルを求め交点数を求めるという議論は絶望的と言える.

さらに計算ができたとしてもそれがどのような量を意味するか理解することは難しいように

思える.

このように, モジュラー曲線上の整モデル上で交点数を計算したければ整モデルに自然なモ

ジュライ解釈があり、それ用いて交点数を計算することが自然な流れに思える. 従って, 交点5メモリーの問題. 本稿の文字サイズで, N = 43のとき, 係数の絶対値の最大のものは A4用紙を満たす.

8

数はモジュラー曲線上の点に付随する数論的な量で記述されるのが自然であり, それを可能に

するモジュラー曲線の良い整モデルが要求されるのである.

2. Katz-Mazur モデル

2.1. 井草の構成. 以下, N ≥ 1は自然数とする. 井草 [15]による Y0(N)CのZ[ 1N

]上の滑らかな

アファインモデルを構成する. つまり, Z[ 1N

]上滑らかなアファインスキームでその生成的繊維

(generic fiber)のCへの基底変換 (の解析化)が開代数曲線 (又は開リーマン面)Y0(N)Cと同型

になるものを構成する.

まずスキーム上の楕円曲線を復習する. 体k上の楕円曲線とはP2 3 [x : y : z]内でWeierstarss

方程式

zy2 + a1xyz + a3z2y − (x3 + a2zx

2 + a4z2x + a6z

3) = 0, a1, a3, a2, a4, a6 ∈ k

で定義される代数曲線のことであった6(cf. [23]). 良く知られているようにEの k値点全体の

成す集合

E(k) = [x : y : z] ∈ P2(k)| zy2 + a1xyz + a3z2y − (x3 + a2zx

2 + a4z2x + a6z

3) = 0

には単位元を [0 : 1 : 0]とする群構造が入る. このように k上の楕円曲線を定義した時点で内

在的に備えている点 [0 : 1 : 0]のことを楕円曲線の原点と呼ぶことにする. また, k上の楕円曲

線を与えることは k上の種数 1の代数曲線Cとその上の k-値点P との組 (C,P )を与えること

と同値であることがわかる. 実際, C ' Pic0(C), Q 7→ Q−P によって, Cに k上の楕円曲線の

構造を入れることができる (詳細は [23]を参照). これをスキーム上に一般化する. そのために

少し準備をする.

定義 2-1-1. Sを勝手なスキームとし, X を Sスキームとする. このとき, 次の条件を満たす

X/Sの閉部分スキームDをXの有効Cartier因子という:

(i) Dは S上平坦

(ii) イデアル層 I(D) ⊂ OX は可逆OX 加群

この定義は S に関して局所的なので, S がアファインスキーム SpecRの場合に上の条件

(i),(ii)を見てみる. 条件 (ii)より, X =⋃

i Ui, Ui = SpecAi, Aiは R代数, とアファイン開

集合による被覆でD ∩ Uiが fi = 0, fi ∈ Ai によって与えられているものがとれる. さらに,

OX |Ui= Ai

∼−→ I(D)|Ui= fiAi, a 7→ fiaは同型を与えているので fiはAiの非零因子. (i)か

らAiはR上平坦になっている. また, 完全列

0 −→ I(D) −→ OX −→ OD := OX |D −→ 0

は Ui上の完全列

0 −→ fiAi −→ Ai −→ Ai/fiAi −→ 0

になる. このような考察から有効Cartier因子Dを与えることと上記 fi, Uiiというデータを

与えることは同値であることがわかる.

6添え字は敢えて,1, 3, 2, 4, 6とするのが慣例のようである.

9

補題 2-1-2.f : X −→ Y を Sスキームの平坦射とする. このとき, Y の有効Cartier因子Dの

X への引き戻し f ∗(D)を f と閉埋め込みD → Y とのファイバー積で定義する. このとき,

f∗(D)はXの有効Cartier因子である.

証明. 閉埋め込みであることと平坦性は基底変換で安定なので f ∗(D)f−→ Dは平坦. よって,

Dは S上平坦なので f∗(D)も S上平坦. また, 完全列

0 −→ I(D) −→ OY −→ OY |D −→ 0

は f の平坦性により, f∗を施しても完全なので

0 −→ f ∗(I(D)) = I(f ∗(D)) −→ f ∗OY = OX −→ OX |f∗(D) −→ 0

を得る. 真ん中と右端は可逆層なので I(f∗(D))もそうなる. ¤

補題 2-1-3. Sを局所ネータースキーム, Xを平坦 Sスキーム, D ⊂ Xを S上平坦な閉部分ス

キームとする. このとき, Dが有効Cartier 因子であることと任意の幾何的点 s : Speck −→ S

に対して, 閉部分スキームD ×S k ⊂ X ×S kはX ×S kの有効Cartier 因子であることは同値.

証明. 必要性は有効Cartier因子が基底変換で安定であることから従う. これは平坦性の fibre-

by-fibre 判定法 ([1]のV.3.6)からの帰結である.

十分性を示す. OX 加群の完全列

0 −→ I(D) −→ OX −→ OD −→ 0

はOS 加群とも思える. OX ,ODは S上平坦なので, この完全列は順完全 (pure exact ). よっ

て, いかなるOS加群をテンソルしても完全性は保たれるから, ⊗OSkを施すと,

0 −→ I(D) ⊗OSk −→ OX ⊗OS

k = OX⊗kπ−→ OD ⊗OS

k = OD⊗k −→ 0

を得る. これより同型,

I(D) ⊗OSk

∼−→ Kerπ = I(D ⊗ k)

を得る. 仮定より, D ⊗ kは有効 Cartier因子なので, I(D) ⊗OSkは可逆層で, 特に k上平坦.

平坦性の fibre-by-fibre 判定法より, I(D)はOX 上平坦. また, 上記完全列から, I(D)は連接

層なので, 局所的に有限生成加群M で表されるが, I(D)はOX 上平坦であることから, M は

自由加群であることがわかる. また, ファイバーをみることで階数が 1であることもわかるの

で, I(D)は階数 1の局所自由OX 加群である. ¤

補題 2-1-4. Sをスキーム. C/Sを滑らかな曲線, 即ち, 滑らかな射 f : C −→ Sで相対的に1

次元, 分離的, かつ有限表示をもつものとする. このとき任意の切断 s ∈ C(S) = HomS(S,C)

(s f = idS) はC/Sの有効Cartier因子 [s]を定める.

証明. f は有限表示, EGA 8章命題 (8.9.1)から Sは局所ネーターとしてよい. よって, Sが代

数閉体 kの Spec kの場合に帰着する. こうなると主張は自明である. ¤

10

補題 2-1-5. Sをスキーム. C/Sを滑らかな曲線, DをC/Sの閉部分スキームで S上有限, 平

坦かつ有限表示であるとする. このとき, Dは S上固有な有効Cartier因子である. 逆に, 任意

の有効Cartier因子は S上固有であり, S上有限, 平坦かつ有限表示である.

証明. 最初の主張示す. 補題 2-1-4と同様にS = SpecR,Rはネーター環, の場合に帰着できる.

任意の幾何的点 s : Speck −→ Sに対して, D ⊗S kは k上有限なので (重複度も込めて) 有限

個の元からなるスキーム. よって, C ⊗S kの有効Cartier因子を与える. すると, 補題 2-1-3か

ら, DはCの有効Cartier因子であることがわかる. Dは S上有限なので固有である (cf. [14]

II, 4節の問 4.1).

次に逆の主張を示す. Dを有効 Cartier 因子とする. 定義よりDは Cの閉部分スキームな

ので C 上有限. よって, C/S は有限表示をもつのでD/S もそう. よって, S = SpecRはア

ファインネーターとしてよい. 先ずDは S上有限であることを示す. しかし, 一般に準有限

(quasi-finitedef⇐⇒ ファイバーに含まれる元は有限個)な固有射は有限射という事実があるので,

準有限であることを示す. ファイバーの元の有限性は係数体を代数閉体に基底変換して考えて

も変わらないので, 結局, 幾何的点 s : Speck −→ SでのファイバーD ⊗S kが有限 kスキーム

になることをいえばよいが, これはC ⊗S kの 0次元閉部分スキームなので明らかにそうなっ

ている. ¤

注意 2-1-6. 補題 2-1-5より C/Sが固有滑らかな曲線であるとき, Cの任意の有効 Cartier因

子は S上固有であることがわかる.

定義 2-1-7.(1) S をスキームとする. このとき, S スキーム E/S が楕円曲線であるとは次を

満たすときをいう: E/Sは S上相対次元 1の滑らかかつ固有なスキームであって, ゼロ切断

0 = 0E/S : S −→ Eを持ち, E/Sのすべての幾何的繊維 (geometric fiber)は種数 1の代数曲

線7.

(2) 二つのS上の楕円曲線E/S,E ′/Sに対してS-同種 (isogeny)φ : E/S −→ E ′/Sとは準有

限, 全射かつ φ 0E/S = 0E′/S なるスキームの射を指す.

命題 2-1-8. (1) E/Sは abelian スキーム.

(2) Sの適当な開集合 U 上8で P2U に埋め込める. つまり, E/U := E ×S U はWeierstrass 方程

式でかける.

(3) 二つの S上の楕円曲線 E/S,E ′/Sとその間の S-同種 (isogeny)φ : E/S −→ E ′/Sに対し

て, Kerφをゼロ切断 0と φとのファイバー積で定義すると, Kerφは有限平坦局所自由なOE

加群である. これにより, KerφのOE 加群としての階数を φの次数といい, degφと書くこと

にする.

7代数閉体 kと射 s : Speck −→ Sとの組を幾何的点といい, これとE/Sとのファイバー積Es := ES ×S Speck

のことを幾何的繊維という. E/S の定義から 0s : s : Speck −→ Es は Es のゼロ切断 (楕円曲線の原点)8このような状況を「Zariski localに~」という

11

(4) 自然数N ≥ 1に対して, N 倍射 [N ] : E/S −→ E/Sは次数N2の有限平坦局所自由な射で

ある. もし Sが Z[ 1N

]スキームならばKer[N ]は S上の有限エタールで, エタール局所的には

(Z/NZ)2と同型.

証明. (1) S上の楕円曲線f : E −→ SのSスキームTへの基底変換をfT : ET = E×S T −→ T

とかく. このとき,

E(T )∼−→ Pic0(ET )/f∗

T Pic(T )

P 7→ [I(P )−1 ⊗OEI(OT )] modulo f∗

T Pic(T )

となることを示す. ただし, Pic0(ET )は ET の次数が 0の ET 上の可逆層の同型類, f∗T Pic(T )

の元は fT が平坦なのでその引き戻しは Pic(ET )の元であり, その次数は 0である. よって

Pic0(ET )/f∗T Pic(T )はwell-defined である.

上記同型を示すために同型

E(T )∼−→ Pic1(ET )/f∗

T Pic(T )

P 7→ [I(P )−1] modulo f ∗T Pic(T )

を示せば十分である. ただし, Pic1(ET )はET の次数が 1のET 上の可逆層の同型類.

以下に説明する証明から S = T の場合に示せば十分なことがわかる. またこの同型は f の

基底変換と可換である.

先ず問題を Sがアファインスキームの場合に帰着する. L,L′をE上の可逆層とし, Sのア

ファイン開被覆 Uiiと各Ui上の可逆層L0,iが与えられているとする. このとき, 各 iに対し

て f−1(Ui)上の同型

φi : L ∼−→ L′ ⊗ f ∗(L0,i)

が存在するなら, ある S上の可逆層L0と同型

φ : L ∼−→ L′ ⊗ f ∗(L0)

でφ|Ui = φiなるものが存在. これは次のように示される. fは固有平坦スキームでファイバー

が連結なので f∗(OE) = OSが成り立つ (cf.[5] 系 1.1.1.12). よって, Ui上では

f∗f∗(L0,i) = L0,i ⊗OUi

f∗(OE)|Ui= L0,i ⊗OUi

OS|Ui= L0,i.

従って, Ui上で

f∗(L−1 ⊗ L′) = f∗f∗L−1

0,i = L−10,i , f∗(L ⊗ L′−1

) = f∗f∗L0,i = L0,i

を得る. ここで, L0 := f∗(L ⊗ L′−1) , L′′ := L′ ⊗ f∗(L0) とおくと,

f ∗(L−1 ⊗ L′′) = f∗(L−1 ⊗ L′ ⊗ f∗(L0)) = f∗(L−1 ⊗ L′) ⊗ f∗f∗(L0)) = L−1

0 ⊗ L0 = OS

が成り立つ (これらの等式は φi に依存). Lと L′′ は modulo f ∗Pic(S)で同型でそのズレは

f ∗(L−1 ⊗ L′′) = OS の可逆元として出てくる. この等式は Ui上で φiに依存しておりそれに

伴って, fi ∈ Γ(Ui,OS)×が定まる. これは自然に張り合って f ∈ Γ(S,OS)× を選ぶと, これに

伴って同型

Lφ∼−→ L′′ = L′ ⊗ f ∗(L0)

12

を得る. 構成から (f |Ui= f だから)φ|Ui

= φがわかる. よって, Sがアファインの場合に帰着

された.

E/S は有限表示なので S = SpecR,Rはネーター環, としてよい. L ∈ Pic1(E)をとり,

これにある切断 E(S) が対応することを示せばよい. いま, f : E −→ S は固有平坦かつ

相対次元 1なので任意の s ∈ S に対して (Rif∗L)s ⊗ k(s) = H i(Es,Ls) = 0, (∀i ≥ 2)だか

ら9, [20]p.53の系 3より, R1f∗Lは基底変換で安定. 従って任意の s ∈ S = SpecRに対して

(R1f∗L) ⊗ k(s) = H1(Es,Ls) = 0. ここで, k(s)は sの剰余体で, H1(Es,Ls) = 0はLsが次数

1なのでリーマン・ロッホから従う. よって, 中山の補題より, R1f∗L = 0. 再び [20]p.53の系

3より, f∗Lは S上の局所自由層で基底変換と可換であることがわかる. さらにファイバーの

階数をみることで f∗Lは階数 1つまり S上の可逆層であることがわかる. よって, Sの開被覆

Uiと各開集合Ui上での f∗LのOS|Ui基底 `iをとることができる. これを f−1(Ui)上に引き

戻したものを `∗i とかく. `∗ = `∗i , Uiiとすると, これは次の完全列を定める:

0 −→ OE`∗−→ L −→ L/OE −→ 0.

L,OEは S上平坦なのでL/OEもそう. よって, Lは有効Catier 因子を与え, 次数が 1なので

それはEの S切断に対応することがわかる. 以上により (1)の主張を得る.

(2) f : E −→ S を楕円曲線とする. このとき, Grothendieck-Serre 双対性より, 基底変

換で安定な同型 R1f∗Ω1E/S ' OS を得る. これより, (1)の証明の最後に議論したことから

ωE/S := f∗Ω1E/SはS上の可逆層であることがわかる. 以下, S上局所的な話なので, S = SpecA

とし, ωE/S の局所自明化 ωE/S = OSω が与えられていると仮定してよい (ωは各ファイバー

上では楕円曲線の正則 1形式を定める). f−1(S)を覆うアファイン開被覆 UのメンバーU = SpecBはE/Sが S上有限表示をもち, 滑らかかつ相対次元 1なのである自然数 nが存在

してB = SpecA[T1, . . . , Tn]/(h1, . . . , hn−1) と表示できる. ここで, f 0S = idSなので,

Af∗−→ U

0∗S−→ A

は恒等射. よって, 0∗S は全射でその核をm0とすると, U は A上滑らかかつ相対次元 1なの

で, B = lim←−n

B/mn0 = A[[T ]]となる. これは E の 0切断の定める閉部分スキームに沿った

完備化を局所的にみたものに他ならない. ωを Ω1B/A

= A[[T ]]dT の元とみて展開したものは

ω = (1 + α1T + · · · )dT となっているとしてよい. これはパラメータ T の取り方に依存してい

るが逆に, ωの 0切断のまわりでの展開を考えることはパラメータT を定めることと同じある.

I(0)によって, 0切断が定めるEの有効Cartier因子とする (補題 2-1-4). このとき, I−n(0)

はE上の可逆層であり, f∗(I−n(0))は階数 nの S上の局所自由層である. f∗(I

−1(0))の局所自

明化は 1で生成される. また, f∗(I−2(0))の局所自明化は 2元 1, xで生成され, f∗(I

−3(0))の

局所自明化は 3元 1, x, yで生成される. これらの生成元を用いると, f∗(I−4(0))は 1, x, x2, y

で f∗(I−5(0))は 1, x, x2, y, xy でそれぞれ生成されていることがわかる. 一方, f∗(I

−4(0))は

1, x, x2, yで一方で上記のパラメータ T を用いると,

x =1

T 2(1 + x1T + · · · ), y =

1

T 3(1 + y1T + · · · )

9相対次元 1より Es の次元は 1だから.

13

となっているとしてよい. よって,

y2 − x3 ∈ f∗(I−5(0))

だから,

h(x, y) := y2 + a1xy + a3 − (x3 + a2x2 + a4x + a6) = 0, a1, a3, a2, a4, a6 ∈ OS

という関係式をえる. これより

H0(E \ 0,OE) = limn→∞

H0(E \ 0, I−n(0)) = A[x, y]/(h(x, y))

をえる. 後はこれを同次化して射影化すればEの局所的な定義方程式となる.

(3) 問題は局所的で基底変換で安定であることに注意する. 楕円曲線 E/Sは Zariski local

に P2Sに埋め込むことができ,

y2z + a1xyz + a3yz2 = x3 + a2x2z + a4xz2 + a6z

3

という方程式で定義されていたので, Sは SpecZ[a1, a3, a2, a4, a6] の∆(a1, a3, a2, a4, a6) 6= 0と

いう開集合で定義されているとしてよい. この場合に φ : E/S −→ E ′/S が有限平坦局所自

由であることを示せば, 基底変換で一般の場合に示せたことになる. さて今の場合 Sは正則

スキーム SpecZ[a1, a3, a2, a4, a6]の開集合なので Sもそう. よって, E,E ′も正則スキームであ

る. [1]のV 3.6より正則スキームの間の有限射は自動的に平坦なので, φが有限であることを

示す. E/S,E ′/Sは (3)より固有スキーム. よって, φは固有射となる. 固有射が準有限なら有

限射であるという事実があるので同種射の仮定から φが有限であることがわかる.

また Sはネーターなので, 有限平坦性と有限かつ局所自由であることはは同じなので主張

を得る.

(4) (3)より, [N ]は準有限な射であることを示せば, 同種射であることがわかる.  (3)よ

り, Sは正則スキーム Spec Z[a1, a3, a2, a4, a6]の開集合としてよい. s ∈ Sをとりその剰余体を

k = k(s)とする.

kの標数がN を割らないとき, Ω1Ek上で [N ]はN 倍写像を引き起こすことが次のようにわ

かる. 一般に, 楕円曲線 E ′/SpecA, (Aは Cの Z部分代数)を Cに基底変換し, E ′/SpecA 'C/Λτ , τ ∈ Hという群多様体としての解析的表示を用いると, 明らかに [N ]は Ω1

C/Λτ= Cdz

上でN 倍射を引き起こし, その核はKer[N ] =1

NΛτ ' (Z/NZ)2であることがわかる. 一方,

E ′/SpecA側ではN 倍する操作はA上代数的に行われていることが具体的に群演算をみるこ

とで確認できるから, [N ]はA加群Ω1E′/SpecA上でN 倍射を引き起こす. このことからA = k

としてもよいので, kの標数がN を割らないときはN 倍射を引き起こし, 準有限かつエター

ルであることがわかる. さらに, [N ]の核はエタール局所的に (Z/NZ)2と同型. よって, E[N ]

は S[ 1N

]上エタールであり, Sは連結 (かつ正規)なのでエタール局所的に (Z/NZ)2と同型.

kの標数がN を割るときは, N と素な自然数M > 1をとると, [M ]はE/k上エタール局所

的に (Z/MZ)2と同型であり, [N ]はE[M ](k)上同型を引き起こす. よって, [N ]は準有限.

¤

14

次に精モジュライ (fine moduli)と粗いモジュライ (coarse moduli)について解説する. モ

ジュラー曲線は任意のスキーム Sに S上のレベル構造付き楕円曲線の同型類の集合を対応さ

せることでスキームの圏から集合の圏への関手と見做すことできる.

定義 2-1-9. Sをスキームとする. SスキームXに対して, Sスキームの成す圏 SchSから集合

の圏 Setsへの反変関手 hX を hX(T ) = HomS(T,X)によって定義する. Sスキームの成す圏

から集合の圏への反変関手 F : SchS −→ Setsと自然変換Φ : F −→ hX を考える. このとき,

組 (X, Φ)が F に対する粗いモジュライであるとは次を満たすときをいう.

(i) Sの幾何的点 s = Speck (k:代数閉体) に対して, Φ(k) : F (k) −→ hX(k)は全単射.

(ii) (普遍性)すべてのSスキームY と自然変換Ψ : F −→ hY に対して,ある射 f : X −→ Y

が一意に存在して, 次の可換図式を満たす:

F

Ψ @@@

@@@@

@

Φ // hX

h(f)

hY

さらに, Φが同型を与えるとき, (X, Φ)は F に対する精モジュライであるという.

注意.(1) ほとんどの場合, 関手 F は精モジュライにはならない. 例えば, S = SpecQとして,

Sスキームの成す圏 SchSから集合の圏 Setsへの反変関手 F を S スキームXにX上の楕円

曲線のX-同型類の集合に対応させることで定義する. F に対する粗いモジュライはレベル 1

のモジュラー曲線 Y0(1) = A1Q = SpecQ[j]と (Φ : F −→ hY0(1)) で表現されることがわかる.

もし, F が精モジュライならば, あるスキームX によって, F = hX と書け, hX ' hY0(1)であ

る. このとき, hX(S) = X(Q) −→ hX(SpecQ(√

d)) = X(Q(√

d))(d 6= 0, 1は 2乗因子を持た

ない整数)は単射. しかし, E/QのQ(√

d)の捻りEdおよびE/Qは hX(S)の異なる元である

が, 同型 hX ' hY0(1) で右辺に送ると, 右辺ではQ(√

d)上の同型類は同一視するので, これら

は一致してしまい同型であることに矛盾. よって, Y0(1)は粗いモジュライであることがわか

る. これがその「粗い」理由である.

定理 2-1-10.(Igusa) N ≥ 1とする. このとき, アファインスキーム Y0(N)/Z[ 1N

]であって, そ

の生成的繊維 (generic fiber)は幾何的に既約かつ

(Y0(N)/Z[1

N] ⊗ C)(C) ' Y0(N)C

となるものが存在する. また, Y0(N)/Z[ 1N

]は反変関手

FN : SchZ[ 1N

] −→ Sets,

FN(S) :=

(E/S,G/S) E/Sは楕円曲線, G/SはEの部分群スキームで

etale localに群スキーム (Z/NZ)Sと同型

に対応する粗いモジュライ空間を与える.

15

証明. 構成は具体的に行う. S = Z[λ, 1λ(λ−1)

, 12] とおく. S上の Legendre 曲線

E/S : y2 = x(x − 1)(x − λ)

を考える. Riemann-Rochの定理および楕円曲線の構成から, x ∈ I−2(0), y ∈ I−3(0)がわかる.

P = (0, 0), Q = (1, 0) ∈ E(S)[2]を位数 2の S切断とする. ω = −dx

2yとおくと, Ω1

E/S = OEω

となる. この同型は P とQの選択, 同値であるが関数 x, yおよび ωの選択で決まっているの

で, この状況を (P,Q) ; ωと書く.

ここで, Legendre 構造 (full level 2 structure)を導入する. Aを Z[12]-スキームとする. 4つ

組 (E/A, P,Q, (P,Q) ; ω)を次のデータとして定義し, これをE/Aの Legendre 構造という:E/Aは楕円曲線,

P,Q ∈ E(A)[2] \ 0A, P 6= Q,

ΩE/A = OEω.

これら楕円曲線の間の同型は構造を保つ同型として定義する.

上記の Legendre 構造を持つ楕円曲線E/Aをとると, 2はAで可逆なので, Zariski local に

E/Aは y2 = x3 +a2x2 +a4x+a6 という方程式で定義される. xを x−x(P )で置き換えること

により, x(P ) = 0としてよい. また仮定より, x3 +a2x2 +a4x+a6 = x(x−x(Q))(x−x(Q+P ))

としてよい. さらに, x(Q) = 1を仮定するとき, “ωは P,Qに順ずる”といい, P,Q ; ω

とかく. この仮定はAが S-スキームであり, E/A ' ES ×S A を意味する.

このとき, 反変関手

L : SchZ[ 12] −→ Sets,

L(T ) :=

(E/T, P,Q, P,Q ; ω)

/同型∼

は滑らかなアファインスキーム S = Z[1

2][λ,

1

λ(1 − λ)] = A1

Z[ 12]\ 0, 1によって表現される精

モジュライであることがわかる. 実際, 上記考察から, Legendre 曲線E/Sを用いると, Z[12]-ス

キーム T に対して,

hS(T ) ' L(T ), f 7→ (ES ×S,f T, P = (0, 0), Q = (1, 0), P,Q ; −dx

2y)

を得るのでよい.

次にHesse cubic 曲線を用いて, full level 3 構造を持つ楕円曲線のモデルを決定する. S =

Z[1

3][µ,

1

µ3 − 1, ζ3], ζ3 := e

2π√

−33 とし, P2

S内の種数 1の曲線C : x3 + y3 + z3 − 3µxyz = 0を考

える. Cは S切断 (1,−1, 0)を 1つ持つので, これによって, Cには群構造を入れることができ

る (前に見た). また,

[1 : −ζ i3 : 0], [0 : 1 : −ζ i

3], [−ζ i3 : 0 : 1]| i = 0, 1, 2

は代数閉体上では C の 9個の変曲点 (inflection point)になっており, これらは S 群スキー

ムの同型 α : C[3] ' (Z/3Z)⊕2S を与える. (C,α)には有限群 G := GL2(Z/3Z)が作用して

いることに注意しておく. 一般に, S 上で 3等分点構造付き楕円曲線 C ′/S ⊂ P2S が与える

と, C ′[3]の基底を e1, e2, e3とすれば, 適当な P2S によって, これらの基底は Hesse cubic の偏

極点 [1 : −ζ3 : 0], [0 : 1 : −ζ3], [−ζ3 : 0 : 1]に移すことができる. これによって, C ′/S は

16

Hesse cubic Cと同じ変曲点を持つと仮定してよく, これらすべてが 3等分点構造を与えてい

る. 一方, C ′は P2S内で cubic form の形にかけることがリーマンロッホから分かるので, C ′は∑

i+j+k=3i,j,k∈Z≥0

aijkxiyjzk = 0という (未定係数)方程式で定義されていると仮定してよい. これに

変曲点を代入し, 係数に関する方程式をとくと, C ′ : a300(x3 + y3 + z3) − a111xyz = 0の形を

していることがわかる. a300はOS上可逆であることが分かるので, µ′ = a111

3a300とおけば,

C ′ : x3 + y3 + z3 − 3µ′xyz = 0

となり, Hesse cubic と同型であることがわかる10.

以上により,所望のモデルを構成する準備が整ったが,ここで問題が1つ生じる. Katz-Mazur

[17]の p.111-112に Legendre 構造の中の 2等分点構造には GL2(Z/2Z)が右から作用, ±1が

楕円曲線上の −1倍射 [−1] : (x, y) 7→ (x,−y)によって作用し, これらの作用を用いて, 微

分形式に [−1]∗ω 7→ −1 · ω と作用させることで群 G := GL2(Z/2Z) × ±1 3 (g, ε)が, 右

から作用していると主張している. しかしこれが誤りであることが次のようにわかる. 実

際, g =

(1 1

0 1

)∈ GL2(Z/2Z)(ε = 1とする)が右から (E/S, P,Q, (P,Q) ; ω)作用し,

(E/S, P ′, Q′, (P ′, Q′) ; ω′)に写ったとすると, ある S-射としての同型 f : E −→ Eが存在し

て, f ∗(ω) = ω′が成り立つ. 一方,

(P ′, Q′) = (P,Q)g = (P, P + Q)

であり, (P ′, Q′) ; ω′を満たすために x′ =x

λ, y′ =

y

λ√

λ, λ =

1

λ′ と変換すればよい. こうする

と x′(P ′) = 0, x′(Q′) = 1, x′(P ′ + Q′) = λ′となっている. よって,

ω′ =dx′

2y′ =√

λ′dx

2y=

√λ′ω

となり, f ∗(ω) 6= ω′となるので矛盾. また仮に ω′を ω′√

λ′ に置き直したとしても,√

λ′ = 1√λと

いう関数が S上で必要になってくるが, Sの座標環にはこれらの元が入っていないので不可能

である.

そこで, 完全ルジャンドル構造 (complete Legendre structure, 以下 CLSと略) なる概念を

導入しこれを克服する. Z[12]上のスキームA上のCLSとは次の性質を満たす組 (φ, ω)のこと:

φ : (Z/2Z)⊕2S −→ E[2], S-群スキームとしての同型

ω : GL2(Z/2Z) −→ Γ(E, Ω1E/S), (P,Q)g ; ω(g)を満たす写像

10Weierstrass 方程式を好む方は対応

[x : y : z] 7→ [X : Y : Z] = [3(1 + µ + µ2)(x + y + z) : 9(1 + µ + µ2)(µx + y + z) : −(x + y + µz)]

によって, C を

D : Y 2Z + 3(µ + 2)XY Z + 9(1 + µ + µ2)Y Z2 = X3

に写して議論すればよい.

17

例えば, ルジャンドル曲線 E/S上のCLSは写像 ωの定義から,

(P,Q) ; ω(12) =dx

2y:= ω1

(P,Q)

(1 1

0 1

); ω(

(1 1

0 1

)) =

√λ

dx

2y=

√λω1

(P,Q)

(0 1

1 0

); ω(

(0 1

1 0

)) =

√−1

dx

2y=

√−1ω1

(P,Q)

(0 1

1 1

); ω(

(0 1

1 1

)) =

√λ − 1

dx

2y=

√λ − 1ω1

(P,Q)

(1 1

1 0

); ω(

(1 1

1 0

)) =

√−λ

dx

2y= ε1

√−1

√λω1, ε1 = ±1

(P,Q)

(1 0

1 1

); ω(

(1 0

1 1

)) =

√−(λ − 1)

dx

2y= ε2

√−1

√λ − 1ω1, ε2 = ±1

ここで, ε1, ε2は根√−1,

√λ,

√λ − 1の選び方によって, (例えば,

√−λと

√−1

√λの間に)生

じる±1のズレを表す. これに伴って, S-スキーム T0 := SpecZ[12, λ, 1

λ(λ−1),√−1,

√λ,

√λ − 1]

のコピーを 4枚用意して,

T =∐

ε1=±1, ε2=±1

T0

とおくと, E/TはCLSをもつ楕円曲線の普遍族になっている. つまり, 反変関手

SchZ[ 12] −→ Sets,

T 7→

(E/T, CLS)

/同型∼

は滑らかな (非連結)アファインスキームTによって表現される精モジュライであることがわかる. さらにここにはGが作用することは構成から明らかである.

以上で構成の準備が整った. Y0(N)/Z[ 1N

]の構成は次のように行う. 先ず, Y0(N)/Z[ 12N

]を

構成することを考える. T′ = T/Z[12]と制限し, E′ = E/T′を考える. N を割る自然数M に対

して, E′[M ]は E′[N ]の閉スキームだが, これらは T上エタールなので開部分スキームでもある (T 上 0次元のスキームなのでそうなるということ). よって,

X :=(E′[N ] \

⋃M |N,M 6=N

E′[M ])

Z[ 12N

]

とおくと11, これは構成から Z[ 12N

]上滑らかであり, 反変関手

SchZ[ 12N

] −→ Sets,

11Y (2) ×Y0(1) Y1(N)の (CLSに伴って)4つのコピーを表現している

18

T 7→

(E/T, CLS,位数N の点 P )

/同型∼

を表現する精モジュライ空間であることがわかる. ただし, 楕円曲線E/T の位数N の点 P と

いうのはEの T -切断 P ですべての幾何的点 sに対して, PsはEsの位数N の捻じれ点のこと

を指す. E′[M ]は E′の等分多項式 φM で定義されるので (cf. [23]) Xは

X =∐

ε1=±1, ε2=±1

SpecΓ(E′,OE′)[ 1

φM

∣∣∣ M |N,M 6= N]

と表現されるのでXはアファインスキームである. 簡単のためX = SpecBとかくと, さらに,

XにはG′ = G × (Z/NZ)∗が固定点自由に作用しているので,

Y0(N)/Z[1

2N] := X/G = Spec(BG)

となり, 所望のモデルが得られた.ただし, 上記の二つ目の等式はアファインスキームの有限群

による商はアファインであるという良く知られた事実を用いた (SGA 3 を参照). また, X が

滑らかなので商X/Gも滑らかであることは簡単にわかる. Y0(N)は反変関手

SchZ[ 12N

] −→ Sets,

T 7→

(E/T, CLS,位数N の点Eの部分スキーム)

/同型∼

を表現する粗いモジュライ空間であるが, p.7の注意で見たように精モジュライ空間ではない.

また, Tが非連結だったので少し不安になるが, Gで割っているので連結スキームにもなって

いることがわかる (ファイバーが非連結であることを見ればよい).

同様にして, Hesse cubic 曲線を用いて, 滑らかアファインモデル Y0(N)/Z[ 13N

]が構成でき

る. あとは Z[ 1N

] = Z[ 12N

]⋃

Z[ 13N

]なので Y0(N)/Z[ 12N

]と Y0(N)/Z[ 13N

]を Z[ 16N

]上で貼り合わ

せて滑らかアファインモデル Y0(N)/Z[ 1N

]を得る. ここで, 貼り合わせがアファインになるこ

とは, 構造射 Y0(N) −→ Z[ 1N

]がアファイン射であることがわかるので, Z[ 1N

]がアファインだ

からその引き戻し Y0(N)もアファインである12.

最後に, Y0(N)Z[ 1N

] × SpecCのC-値点がモジュラー曲線 Γ0(N)\Hとリーマン面として解析的同値であることを示す. Y0(N)Z[ 1

N]の構成に出てきたX を思い出す. これは精モジュライ

なので普遍族 E/X が存在する. EはX 上の楕円曲線になっているのでこれに対応する射を

π : E −→ Xとすると, π∗Ω1E/X はX上の直線束で, R1π∗ZはX上の Z上階数 2の局所定数層

となる. x ∈ X(C)を勝手にとり, xを含む上記直線束と局所定数層を同時に自明化する開集

合 U をとる. U 上で π∗Ω1E/X の基底を ω, R1π∗Zの基底を γ1, γ2とすると,

τ :=

∫γ1

ω∫γ2

ω

は U 上の解析的多価関数となるがそのずれは Γ0(N)の作用を引き起こす. よって, U 7→Γ0(N)\Hという解析的な射を得るが, 普遍性より, この射は U/Gを経由し (Gについては

12スキームの射 f : X −→ Y がアファインであるとは任意の Y のアファイン被覆 Uiに対して, f−1(Ui)は

アファインスキームであることが定義ではある. これは「任意の Y のアファイ被覆 Uiに対して~」の部分を「ある Y のアファイン被覆 Uiが存在して~」に変えた主張と同値であることがわかる. このことを用いた.

19

p.17を見よ), 解析的同型埋め込みを得る. 埋め込みかつ解析的なので xでの微分は消えない

からよって, Y0(N)(C)は Γ0(N)\Hと解析的同型. ¤

Remark 2.1. 位数 4の点を備えた楕円曲線の普遍族 E/Z[1

2, t,

1

t(1 − 16t)]:

y2 + xy + ty = x3 + tx2, P = (0, 0)

を考える. P は位数 4の Z[1

2, t,

1

t(1 − 16t)]-切断を与える. Z[

1

4]-スキームAに対し, 位数 4の

A-切断を備えたA上の楕円曲線はある射A −→ Z[12, t, 1

t(1−16t)]があって,

E/A ' E ×Spec(Z[ 12,t, 1

t(1−16t)]) A

と書ける. これにより, Y1(4)の滑らかアファイン整モデルとして Spec(Z[12, t, 1

t(1−16t)]) をとる

ことができる. これを Legendre 曲線の代わりに使っても良い. というかこの方がはるかに簡

単である.

次に, 上で構成したアファインモデル Y0(N)/Z[ 1N

]の射影モデルを構成し, 尖点スキームを

定義する. レベル構造を忘れるという対応によって, 有限射 (finite morphism)

j : Y0(N)Z[ 1N

] −→ Y0(1)Z[ 1N

] = A1Z[ 1

N]

を得る. さらにこれをA1Z[ 1

N]→ P1

Zと合成したものも再び jと書くことにする. P1Zのアファイ

ン開被覆 SpecAAをとる. jはアファイン射なので, j−1(SpecA) = SpecBとかくと, SpecB

は Y0(N)Z[ 1N

]の稠密開集合なので, それぞれの関数体は一致する. よって, 環準同型の射

A −→ B → Q(B) = Q(Y0(N)Z[ 1N

])

を得る. AのQ(B)の中での整閉包をAとし, X0(N)Zをこれらの貼り合わせつまり、

X0(N)Z :=⋃A

SpecA

によって定義する. SpecAAの貼り合わせの射と整閉包をとるという操作は明らかに整合的

なので右辺は自然に張り合う. 構成から j : X0(N)Z −→ P1Zは有限射 (finite morphism)なの

で, 射影的である. また P1Zは SpecZ上射影的なので (cf. proof of Theorem 4.9[14]), その合成

も射影的であることから, X0(N)ZはZ上射影的. また, A1Z[ 1

N]= Spec(Z[ 1

N][j])も P1

Zの開被覆

のメンバーとしてよいので, Y0(N)Z[ 1N

] = j−1(A1Z[ 1

N]) ⊂ X0(N)Zであり, X0(N)Zのアファイン

開部分スキームになっている. Y0(N)Z[ 1N

] −→ Z[ 1N

]は構成から滑らかな射であり, Z[ 1N

]は正

則ネーター環なので, Y0(N)Z[ 1N

]も正則 (regular).

次にコンパクト化したときに付け加えた点,所謂C上では尖点 (cusp)と呼ばれているスキー

ムの記述を見る. 閉部分スキーム∞Z := P1Z \A1

Zを無限遠スキームと呼ぶことにする. このス

キームの幾何的点 sに対しては, ∞sはP1sの無限遠点になっている. j : Y0(N)Z[ 1

N] −→ A1

Z[ 1N

]は

SpecZ[ 1N

][j, 1j(j−1728)

]上では有限エタールなので無限遠スキームの各点x ∈ ∞(SpecZ)の開近傍

U から xを除いたところでもそうなっている. ここで, Abhyankerの補題 (cf. Exp.X,Lemma

3.6, Expose. XIII, Section 5 Appendice of [22])を用いると, U のアファインエタール被覆

20

U ′ = SpecA′が存在して,U ′は j : X0(N)Z −→ P1Zによる U の引き戻しになっており, さらに,

U ′は次の形のアファインスキームの disjoint unionでかける:

Spec(A′[t]/(tn − j−1)).

X0(N)C −→ X0(1)Cの尖点での分岐指数はN を割るので, n|N がわかる.

相対的 0次元のスキームX0(N)Z \ Y0(N)Zの被約化Cusps(X0(N)Z)はX0(N)Zの閉部分ス

キームであり, 尖点スキームと呼ばれる. X0(N)ZはZ[ 1N

]上滑らかなので, Cusps(X0(N)Z)は

Z[ 1N

]上有限エタールとなっている. さらにTate曲線を用いて尖点スキームの詳しい解析がで

きるが前にも述べたようにKatz-Mazur model の構成が本稿の目的であるのでここで終える.

この節で紹介した井草のアファイン整モデル Y0(N)Zは次節で有効活用される.

2.2. KatzとMazurによる構成. 先ずA構造 (A-structures)とA生成系 (A-generators) の概

念を紹介する. これは Drinfeld によるアイデアである13. これらのアイデアの導入が Katz-

Mazur の本で重要な役割を果たす. この節の内容は高次元志村多様体のレベル構造にも適用

することができる.

Sをスキーム, E/Sを楕円曲線, N を自然数とする. 補題 2-1-5によって, 閉部分スキーム

D/Sの階数を対応するEの可逆層 I(D)の各幾何的点に制限したときの次数として定義する

(次数は幾何的点の取り方によらない). これは f∗I(D)の OS 加群としての階数と一致する.

D/Sの階数がN であるとき,「Dは局所自由かつ階数N ( locally free of rank N)」と言うこ

とにする.

E/Sを楕円曲線とする.

定義 2-2-1. (i) S-切断 P ∈ E(S)が exact 位数N(exact order of N)をもつとは Cartier因子

D :=N∑

a=1

[aP ]はE/Sの部分群14になっているときをいう.

また, Dのことを P で生成される位数N の巡回部分群 (cyclic group of order N)という.

(ii) E/Sの閉部分スキームGは S上有限, 局所自由かつ階数N とする. このときGが巡回的

であるとは, S上 fppf15(忠実平坦強有限生成射, faithfully flat かつ finite presentation) スキー

ム T と P ∈ E(T )が存在して, GT = G ×S T =N∑

a=1

[aP ]となるときをいう.

注意 2-2-2. 自然数 N がスキーム S で可逆 (S は SpecZ[ 1N

]-スキームということ) であると

き, P ∈ E(S)が exact位数 N であることと「任意の幾何的点 s = Speck(k閉体)に対して,

Ps ∈ E(k)は通常の意味で exact位数N の点となる」ことは同値である. 証明は=⇒はOort-

Tateの結果より, S上有限、局所自由かつ階数N の可換群スキームはN で annihilateされる

のでよい. 逆は [17],p.18の Lemma1.4.4

13Drinfeldはこのアイデアを用いてDrinfeld加群を定義し,そのモジュライ空間を用いて関数体上のLanglands

予想を 2次元の場合に解決した [9],[10]14すべての S-スキーム T に対して, D(T )が E(T )の部分群になっていることを意味する. これは S-閉埋め

込みD → E でその像が E/S の閉部分群スキームになるものを定めることと同値である.15fidelement plat et de presentation finie

21

定義 2-2-3. Aを有限アーベル群とし, E/Sを楕円曲線とする.

1. 群準同型 φ : A −→ E(S)がE/S上のA構造であるとはA-部分群G :=∑a∈A

[φ(a)]がE/Sの

部分群となるときをいう.

このとき, φはGのA生成系と呼ばれる.

2. fppf local にA-部分群となるE/Sの閉部分群スキームのこともA-部分群という.

注意 2-2-4. 1. Z/NZ構造 P := φ(1) ∈ E(S)は exact 位数N .

2. E/Sの閉部分群スキームGはS上有限,局所自由かつ階数Nとする. このとき, GがZ/NZ部分群であることとGは巡回群スキームであることは同値である.

2.3. モジュライ問題. 圏 (Ell)を対象を楕円曲線E/S(底スキーム Sも動かす), 二つの楕円曲

線E1/S1, E/Sの間の射を cartesian 図式

E1

π1

α // E

π

S1

α1 // S

(=⇒ E1

(α,π1)' E ×S S1)

と決めることによって定まる圏とする. (Ell)は groupoid である.

定義 2-3-1. 共変関手 P : (Ell) −→ Setsのことをモジュライ問題と呼ぶ. また, E/S ∈Ob((Ell))に対して, 集合 P (E/S)のことをレベル構造と呼ぶ. また任意の環 Rに対して,

(Ell/R)を対象を SpecRスキームS上の楕円曲線E/S, 射は (Ell)の射とする圏として定義す

る. このとき同様に (Ell/R)上のモジュライ問題を考えることができる. (Ell)上のモジュライ問

題P はR構造を忘れる忘却関手によって, (Ell/R)上のモジュライ問題と思える. それをP ⊗R

とかく. P がE/M(P )で表現可能であるとき, P ⊗Rは表現可能であり, (E⊗R)/(M(P )⊗R)

によって表現される.

例 2-3-2. 次はよく扱うモジュライ問題の例である. ただし, 有限アーベル群Aに対して, AS

は S上のアーベル群スキームを意味するものとする.

1. [Γ(N)](E/S) =群同型φ : (Z/NZ)⊕2 −→ E(S)

∣∣∣ E[N ] =∑

a,b∈(Z/NZ)2

φ(aP + bQ), P =

φ(1, 0), Q = φ(0, 1)

レベル構造 φに対して, P = φ(1, 0), Q = φ(0, 1)のことをDrinfeld 基底という. S =

Speckが標数 pの代数閉体でE/kが超楕円曲線のとき, E[pn]は階数 p2nの有限群スキームで

E[pn] = p2n[0E]である. よって, レベル構造は1点からなりそのDrinfeld 基底は P = Q = 0

である: [Γ(pn)](E/k) = φ = 0.E/kが通常楕円曲線のとき, 次の分裂する完全列が存在:

0 −→ (KerF n)k −→ E[pn] −→ (KerV n)k −→ 1.

22

(KerF n)k ' µpnkは連結群スキームで (KerV n)k ' Z/pnZkはエタール群スキームである. 従っ

て, E[pn]のDrinfeld 基底は (KerF n)kを生成する P = 0と (KerV n)kを生成する点Q(取り方

は (Z/pnZ)× の分だけある)である.

2. [Γ1(N)](E/S) =群準同型φ : Z/NZ −→ E(S)

∣∣∣ φは Z/NZ構造を与える.

3. [bal.Γ1(N)](E/S) =

(P, P ′, π : E −→ E ′) P ∈ Ker(π)(S)は exact 位数N

P ′ ∈ Ker(π∗)(S)は exact 位数N

4. [Γ0(N)](E/S) =

Eの Z/NZ部分群G

5. [Pnaive(N)](E/S) =

S群スキームとしての同型φ : (Z/NZ)⊕2S −→ E(S)

Eが標数 pの体 k上の楕円曲線の場合. Pnaive(p

n)(E/k) = ∅である. これがDrinfeld レベ

ル構造導入の動機になっている.

6. [P completeLegendre

](E/S) =

E/S上の complete Legendre 構造 (φ, ω, P,Q)

定義 2-3-3. 1. モジュライ問題P が表現可能であるとはあるE/M(P ) ∈Ob(Ell)が存在して,

P (E/S) = HomOb(Ell)(E/S, E/M(P ))が任意の楕円曲線E/Sについて成立するときをいう.

2. モジュライ問題Pが相対的に表現可能である(relatively representable)とはあるE/S ∈Ob(Ell)

に対して,

PE/S : SchS −→ Sets, T 7→ P (ET /T ), ET := E ×S T

が表現可能であるときをいう.

定理 2-3-4.(p.102,定理 (3.6.0),定理3.7.1 in [17])モジュライ問題Pは [Γ(N)], [Γ1(N)], [bal.Γ1(N)],

または [Γ0(N)]のいずれかとする. このとき次が成立.

P は相対的に表現可能. より詳しく, 任意の楕円曲線E/Sに対して, PE/SはS上の有限スキー

ムで表現される.

(2) SがZ[ 1N

]上のスキームであるとき, 任意の楕円曲線E/Sに対して, PE/Sは S上の有限エ

タールスキームで表現される.

証明. 証明はより一般の群スキームのレベル構造の表現可能性の議論に含まれる. 証明は難し

くないが, 長くなるので略. ¤

命題 2-3-5.(p.108,(4.3.1),(4.3.2),p.111(4.4) in [17])モジュライ問題P が楕円曲線E/M(P )に

よって表現されているとき次が成立.

(1) 関手 Sch −→ Sets, S 7→ (E/S, α)| E/Sは楕円曲線, α ∈ P (E/S)はM(P )で表現可能.

(2) P は相対的に表現可能で, 任意の楕円曲線E/Sに対して,

PE/S ' IsomS×M(P )(pr∗1(E), pr∗2(E))

が成立. ただし, pr∗1(E) = E ×S (S ×M(P )), pr∗2(E) = E ×M(P ) (S ×M(P )).

23

(3) P は rigid 即ち, 任意の楕円曲線E/Sに対して, Aut((E,α)) = 1が成立する.

証明. (1) E/Sを楕円曲線とすると, α ∈ P (E/S)を与えることと, 射 S −→ M(P ) を与える

ことは同じなので, これより明らかに従う.

(2) 一般に, S上の楕円曲線E/S,E ′/Sの S同型類全体の集合は S上の有限スキームで表現

されることからわかる (命題 5.3 in [6]).

(3) AutS(E/S)がレベル構造 P (E/S)に自由に作用することを示せば良い. しかし, 今

P (E/S) = Hom(Ell)(E/S, E/M(P )) なので, これより従う.

¤

命題 2-3-6. P, P ′をモジュライ問題とし, P はE/M(P )によって表現され (表現可能), P ′は相

対的に表現可能であるとする. このとき, (P, P ′) : (Ell) −→ Sets, E/S 7→ P (E/S)×P ′(E/S)

は P ′E/M(P )を表現するスキームM(P, P ′)で表現可能.

証明. P (E/S)の元 αを与えることと cartesian 図式

E

α // E

Sf// M(P )

を与えることは同値であり, このとき, E ' E ×M(P ) Sが成立するので,

P ′(E/S) = P ′(E ×M(P ) S) = P ′E/M(P )(S)

が成り立つ. ここで, P ′は相対的に表現可能なので, P ′E/M(P )は表現可能であるので, 主張を得

る. P ′E/M(P )はM(P )スキームM(P ′)で表現されるので, M(P, P ′) = M(P )×M(P )M(P ′) =

M(P ′)が求めるものとなる. ¤

定義 2-3-7.(1) ∗をスキームの射に関する性質とする (cf. ∗ = surjective, affine, finite,flat,etale).

このとき相対的に表現可能なモジュライ問題 P が任意の楕円曲線 E/Sに対して. PE/S が S

上 ∗であるとき, P は (Ell)上 ∗であるという.

例えば, Pnaive(3)は (Ell)上でetale であるが, 3が可逆でないスキーム S(cf. S = SpecF3)

に対して, (Ell/S)上では空集合を対応させる自明になるので全射ではない. 同様に. P completeLegedre

は (Ell)上でetale であるが全射ではない. ただし, P completeLegedre

∐Pnaive(3) は (Ell)上でetale かつ

surjectiveである.

(2) 楕円曲線E/M がモジュラー族 (Modular family)であるとは, それが (Ell)上のあるモ

ジュライ問題を表現しているときをいう. Ei/Miiをモジュラー族の集まりとし, それらに対

応するモジュライ問題を Piとする. このとき,∐

i Piが (Ell)上etaleかつ surjective であると

き, 「Ei/Miiは (Ell)を覆う (cover)」と言う. 例えば, Pnaive(`)と Pnaive(`′), `, `′は 3以上

の素数, は (Ell)を覆う.

簡単な考察から相対的に表現可能なモジュライ問題 P が性質 ∗を

24

(3) ∗′をスキームに関するetale localな性質とする (cf. ∗′ = regular of dimension n, (n ≥ 0),

smooth over Z, normal). このとき,相対的に表現可能なモジュライ問題 P が性質 ∗′をもつとは任意のモジュラー族E/M に対して, PE/M が ∗を満たすときを言う.

定理 2-3-8(p.111, SCHOLIE(4.7.0) in [17]). P を相対的に表現可能なモジュライ問題と

し, (Ell)上 affine であるとする. このとき, P が表現可能であることと P が rigidであること

は同値である.

証明. complete-Legendre 構造と naive level 3 構造を使えばよい. ¤

定理 2-3-9(p.116, (4.7.1) in [17]). P を相対的に表現可能なモジュライ問題で rigidである

とし, (Ell)上 affine かつetaleであると仮定する. このとき, M(P )はZ上の smooth affine 曲

線である16.

証明. 定理 2-3-8より, P は affine スキームM(P )上の楕円曲線E/M(P )で表現される. この

とき, M(P, P completeLegendre

)の存在から, M(P )は Z[12]上定義されることがわかり,

M(P, P completeLegendre

)/GL2(F2) × ±1 = M(P ) ⊗ Z[1

2]

を得る. 同様に. M(P, Pnaive)の存在から, M(P )は Z[13]上定義されることがわかり,

M(P, Pnaive)/GL2(F3) = M(P ) ⊗ Z[1

3]

を得る. ここで, 次の可換図式を考える:

M(P, P completeLegendre

∐Pnaive)

f

// M(P )

M(P completeLegendre

∐Pnaive)

g

SpecZ

.

横向きの射と f は構造を忘れることによってできる射で仮定より, 横向きの射はetaleかつ全

射, f はetale. また, 部分節 2-2より, gは Z上 smoothな相対次元 1の affine 曲線を与えてい

ることがわかる. これより, M(P )は Z上 smoothな相対次元 1の affine 曲線でることがわか

る. ¤

系 2-3-10(p.117,系 4.7.2 in[17]). N を 3以上の自然数とする. このとき, モジュライ問題

Pnaive(N)は Z[ 1N

]上の smooth affine 曲線で表現される.

証明. N ≥ 3より, Pnaive(N)は rigid かつ (Ell/Z[ 1N

])上でetaleだから, 上記定理 2-3-9より主

張は従う. これは単に 2-2節の Igusaの構成の証明を言い換えただけである. ¤16実際には P は適当な自然数N があって, (Ell/Z[ 1

N ])上エタールかつ全射なモジュライ問題になっている.

25

定理 2-3-11(5節 in[17]). P を 3つのモジュライ問題 [Γ(N)], [Γ1(N)], bal− [Γ1(N)], [Γ0(N)]

のいずれかとする. このとき, P は regular でそのKrull次元は 2である.

この定理は次のように証明する. まず, 問題を素数冪レベルN = pnに帰着できるのでこの

場合に関して次の公理的正則性定理を証明する. あとは上記のモジュライ問題がこれらの公

理を満たすことを確認する. ただし, [Γ0(N)]はの証明だけはやや異なる. 以下, 素数 pは固定

する.

定理 2-3-12(5節 p.130 in[17]). 次の4つの公理を満たすモジュライ問題 P は (Ell)上相対

的に表現可能かつ (Ell)上 finite, flat, constant rank (≥ 1), かつ regular of dimension 2 (Z上の局所有限型スキームになる).

Reg.1. P は相対的に表現可能で (Ell)上 finite.

Reg.2. P ⊗ Z[1p]は (Ell/Z[1

p])上 finite かつ etale.

Reg.3. スキーム S上の楕円曲線E,E ′に対して, E[p∞]∼−→ E ′[p∞]ならば PE/S

∼−→ PE′/Sが

成立.

Reg.4. kを標数 pの代数閉体としW = W (k)をそのWitt 環とする. E0/kを超特異楕円曲線

としE/W [[T ]]をそのE0の普遍変形とする17. このとき次が満たされる:

(4A) P (E0/k)は 1点からなる.

(4B) PE/W [[T ]]は2次元の正則局所環.

証明. (Ell)上etaleな表現可能モジュライ問題 δに対して, M(δ, P )が2次元正則スキームかつ

M(δ)上 finite, flat, constant rank (≥ 1)であることを示せば良い. M(δ, P ) −→ M(P ) −→ Zを考えると, 最初の射は公理 Reg. 2より ⊗Z[1

p]するとetale で後ろの射は smooth である (定

理 2-3-9). これより, M(δ, P ) ⊗ Z[1p]は Z[1

p]上 smooth なので, Z[1

p]が正則ネーターである

ことからM(δ, P ) ⊗ Z[1p] は正則スキームであることがわかる. さらに, M(δ, P ) ⊗ Z[1

p]は

M(δ, P ) ⊗ Z[1p]上 finite flat なので, 2次元で Z上有限型であることもわかる.

よって, pでのファイバーに含まれる点での正則性が問題になるのである素数 ` 6= pに対し

て, M(δ, P ) ⊗ Z[1`]が正則であることを言えばM(δ, P )の正則性がわかる.

δ1 = Pnaive(`)をとるとこれは (Ell/Z[1`])上 etale かつ surjective である. このとき次の

cartesian図式を考える (下に現れる射は各レベル構造を忘れるという忘却関手より定まる射

17完備局所 Artin 環 Aで剰余体と kとの間の同型 i : A/mA ' kが固定されたもの (A, i)を対象とする圏か

ら集合の圏への関手 (A, i : A/mA ' k) 7→ (E/A, i)| E/A⊗A/mAi' E0/k は楕円曲線は一次元なので障害を

持たない (unobstructed)こととH1(E, Ω∗E) = H1(E,OE)が一次元であることから,そのように表現される.

26

である):

M(δ, δ1, P )

s

ttjjjjjjjjjjjjjjj

t

))SSSSSSSSSSSSSS

M(δ, P ) ⊗ Z[1`]

π

M(δ1, P )

π1

M(δ) ⊗ Z[1

`] M(δ, δ1)

αooβ

// M(δ1)

公理Reg.1 より π1は finite. αは etale surjective で βは etale. M(δ1)はZ上の smooth curve

なのでこれは2次元正則スキームである. s, tは etale 射だから, etale local にはM(δ, P )と

M(δ1, P )は同型なので, M(δ, P )の正則性を得る.

よって, 示すことはM(δ1, P )が正則かつM(δ1)上 flat であることである. もしこれが成立

すれば, M(δ1, P )は2次元正則スキームであることがわかる.

次の開集合を考える.

U = y ∈ M(δ1)| ∀x ∈ π−11 (y), OM(δ1,P ),xは正則かつOM(δ1),y上 flat .

M \Uは正則でないM(δ1, P )点全体の集合 (閉集合)と flatでないM(δ1, P )点全体の集合 (閉

集合)の和集合の π1による像だが, π1は公理Reg.1より finite なので proper な射. proper な

射は閉集合を閉集合に移すので, U は開集合であることがわかる.

ここで, U = M(δ1)となることを示す. もしこれが示されればM(δ1, P )の正則性が出るこ

とは明らかである.

M(δ1)はZ上の有限型スキームなので閉点が一致することをみればよい. また, U ⊗Z[1p] =

M(δ1)⊗Z[1p]なので, pのファイバーの点だけに注目すればよい. つまり, U ⊗Fp = M(δ1)⊗Fp

を示す.

M(δ1) ⊗ Fpの超特異点 (supersingular point) 18の集合は空ではない有限集合である. ここ

で, U は次の”同次性”(homogeneity property) を満たすことを示す:

(H1) U が超特異点をひとつ含むならすべての超特異点を含む.

(H2) U が通常点をひとつ含むならすべての通常点を含む.

これらを示した後に, U が超特異点をひとつ含むことを示せば, (H1)より, U はすべての超

特異点を含み, U が開集合であることから, 通常点を含む. (H2)より, すべての通常点を含む

ので U = M(δ1)を得る.

では U の同次性を示す. 定義より, 剰余体が標数 pである点 y ∈ M(δ)が U に入ることと

「任意の x ∈ π−11 (y)に対して, OM(δ1,P ),xは正則かつOM(δ1),y上 flat」であることは同値.

k = Fpとし, W = W (k)をそのWitt環とする. xに対応する pでのファイバー上の点を x0

とし,その剰余体をkx0とする. 埋め込みkx0 → kを固定すると, (x0, i)に対してM(δ1, P )⊗W

の閉点 xを対応させることができ, このとき,

OM(δ1,P )⊗W,x ' Oh.sM(δ1,P ),x0

18対応する楕円曲線が超特異楕円曲線になっている点. そうでない点を通常点 (ordinary point)という.

27

が成り立つ. これは厳ヘンゼル化 (Strictly Henselization) という操作で,剰余体の代数閉体に

話を帰着できることを意味する. 右辺はHenselizationの後に完備化をとったものである. 超

特異性は正標数の代数閉体上の概念であり, さらに, 正則性は局所化と完備化で不変なのでこ

のような操作を行ったわけである.

そうすると, y ∈ M(δ)がUに入るという条件は「任意のx ∈ π−11 (y)に対して, OM(δ1,P )⊗W,x

は正則かつ OM(δ1),y上 flat」と同値になることがわかる (ネーター環に対する完備化の操作の

忠実平坦性を用いた).

π1は finite なので, 各ファイバーは有限個の閉点しかもたないので,

(∗) Spec(⊕

x∈π−11 (y)

OM(δ1,P )⊗W,x) = M(δ1, P ) ⊗ W ×M(δ1)⊗W Spec(OM(δ1),y)

となる. 剰余体の標数が pの点 yに対応する楕円曲線E0/kを考え, その普遍変形をE/W [[T ]]

とする. δ1は (Ell)上 etale なので, 特にW [[T ]]上エタールだから, 同型

W [[T ]] ' OM(δ1),y

を得る. これによって, E/W [[T ]] ' E ×M(δ1) OM(δ1),y と同一視される. よって, PE/W [[T ]]は

(∗)によって表現されることがわかる. ここで, Serre-Tate の定理により, E/W [[T ]]の p可除

群とE0/kの p可除群の普遍形式変形は同型である. これより, 公理Reg.3から PE/W [[T ]] = (∗)はE0/kの p可除群の普遍形式変形の同型類できまるということになる. ここで, いま kは閉

体なので,

E0[p∞] '

µp∞ × Qp/Zp (E0は通常)

一変数の形式 Lie群 (E0が超特異)

が成り立つので, (H1),(H2)は示されたことになる.

公理 Reg. 4 から, 超特異点の存在 (4A)およびその条件 (4B)から PE/W [[T ]]はW [[T ]]上有

限かつ正則であり, (正則スキームの間の有限射は平坦であることがわかるので,) U の条件を

満たしていることがわかる.

P の階数が一定であることは簡単にわかるので略. ¤

定理 2-3-13(5.2.2. in[17]). P を定理 2-3-12のReg 1-3とReg 4 (4A)を満たすモジュライ問

題とする. このとき, P がReg 4 (4B)を満たすことは次の条件を満たすことと同値である:

Reg. 4 (4B) bis PE/W [[T ]]は局所環でその極大イデアルが2元で生成されるもので表現される.

証明. (4B)が (4B) bis を導くことは正則局所環の定義19から明らか. 逆を示す. PE/W [[T ]] =

SpecAとすると (4A)より, Aは局所環. Reg. 1 より, AはW [[T ]]上の有限加群. Reg. 2より,

AはW [[T ]] ⊗ Z[1p]上エタール. このとき有限射 SpecA −→ SpecW [[T ]]は全射である. 実際,

有限射は固有射なのでこの射の像は閉集合で稠密開集合 Spec W [[T ]] ⊗ Z[1p] を含むからそう

なっている. 従って, Aの次元は少なくとも 2である. (4B) bisよりAの極大イデアルは2元

で生成されるので, dimA = 2であるのでAは2次元の正則局所環である. 正則環の間の有限

射は自動的に平坦なのでAはW [[T ]]上平坦でもある. ¤19(A,m)が正則局所環であるとは極大イデアルmが Krull-dimA個で生成されているときをいう.

28

証明. (定理 2-3-11の P = [Γ(N)], [Γ1(N)], [bal.Γ1(N)]の場合の証明) N = pn, n ∈ Nの時に調べればよい. 定理 2-3-4より, Reg. 1,2は満たされる. Reg.3は容易に確認できるのでこれら

のモジュライ問題がReg. 4 (4A),(4B)を満たすことを示す.

先ずReg. 4 (4A)を確認する. E0/kを標数 pの閉体 k上の超特異楕円曲線とする.

P = [Γ(pn)]のとき, E[pn]は階数p2nの (unique)群スキームである. よって, E[pn] = KerF 2n.

従って, Drinfeld 基底 (0, 0)でE[pn]は生成される. 従って, P (E0/k)は 1点からなる.

P = [Γ1(pn)]のとき, Drinfeld 基底 P = 0でKerF nは生成される. よって, P (E0/k)は 1点

からなる.

P = [bal.Γ1(pn)]のとき, Drinfeld 基底 P = 0E でK := Ker(F n : E −→ E)は生成される.

また, E ′ = E/Kとおくと, Drinfeld 基底 P ′ = 0E′ がK ′ := Ker(F n : E ′ −→ E ′)を生成する.

よって, P (E0/k)は 1点からなる.

次に, Reg. 4 (4B)と同値なReg. 4 (4B) bis (命題 2-3-13)を確認する. E/W [[T ]]を普遍形式

変形とする. このとき, PE/W [[T ]]は定理2-3-4-(1)から表現可能だから, PE/W [[T ]] = SpecAとかけ

る. Reg. 4 (4A)より, Aは局所環で, Reg. 1より, W [[T ]]上有限である. E/A := E/W [[T ]]⊗A

とおく. ALW によって, Artin 局所環 (R,mR)で剰余体と kとの間の同型射が1つ固定されて

いるものの成す圏とする. 対象の間の射は局所射が引き起こす剰余体の間の同型は固定した k

との同型と可換となるものとする. このとき, R = (R,mR) ∈ Ob(ALW )に対して,E/RはR上の楕円曲線

(E/R, α, i) α ∈ P (E/R).s.t, α mod mR ∈ P (E0)

i : E ⊗R (R/mR)∼−→ E0

を対応させる関手は E/Aで副表現可能である. すなわち, AはALW の対象の射影極限として

得られる.

ここで, 局所環Aが2次元正則局所環であることを示すためにmAが2元 f, gで生成されて

いることを示す. これは, 次と同値であることがわかる: R = (R,mR) ∈ Ob(ALW )と, 環準同

型 φ : A −→ Rで φ(f) = φ(g) = 0 を満たすものに対して, Rは k代数で (E/R, α, i)は定数20.

つまり, (E/R, α, i) ' (E0/k, ∗) ⊗k R. ここで定数アーベルスキームの間の準同型スキームは

定数なので, 最後の条件は (E/R, α) ' (E0/k, ∗) ⊗k R を考えても同じである.

実際, この条件はA/(f, g)の任意のArtin 商にB対してALW 上の関手 SpecBと Speckは

同型なので, 米田の補題より B ' k. よって, 極限をとることで A/(f, g) ' k を得るから

mA = (f, g).

よって, この条件を各モジュライ問題に対して確認する.

P = [Γ(pn)]のとき. E/Aの 0切断に沿った完備化の形式パラメータをXとする:

E/A ' SpfA[[X]].

P,Qを E [pn]のDrinfeld 基底とする. E0/kは超特異なのでP,Qはmod mAで 0に一致するか

ら, X(P ), X(Q) ∈ mAである. よって, 次の剛性 Iを確認すれば結論を得ることがわかる. 剛

性 Iの確認は後に回す.

20[17]p.137ではこれを constant と呼んでいる. 定数が良い和訳かどうかわからない.

29

(剛性 I) E/R, R ∈ Ob(ALW )が (0, 0)をDrinfeld pn基底としてもつ (∃φ : A −→ R, φ(X(P )) =

φ(X(Q)) = 0)ならRは k代数で, E/Rは定数.

P = [Γ1(pn)]のとき. P (E/A)は exact order pnの A切断 P のみからなる. P mod mAは

0E0 と一致するので, X(P ) ∈ mAである. 一方, AはW [[T ]]代数でもあるので, T ∈ mAと思

える. このとき, X(P ), T がmAを生成することを示せばよい. これは, 次の剛性 IIを確認す

れば結論を得ることがわかる. 剛性 IIの確認は後に回す.

(剛性 II) E/R, R ∈ Ob(ALW )が0をexact order pnの点としてもつ (∃φ : A −→ R, φ(X(P )) =

φ(T ) = 0)なら, Rは k代数である (E/Rが定数であることは k ' A/mAの中で T = 0となる

ことから出る).

P = [bal.Γ1(pn)]のとき. E/Aの exact order pn の A切断 P とし, K = pn[0E ]とする.

E ′ := E/Kとおく. E ′/Aの exact order pnのA切断 P ′とし, K ′ = pn[0E ′ ]とする. このとき,

P (E/A) = (P, P ′). E ′/Aの 0切断に沿った完備化の形式パラメータをX ′とする. E0/kは

超特異なのでP, P ′はmod mAでそれぞれ 0E , 0E ′に一致するから, X(P ), X(P ′) ∈ mAである.

よって, 次の剛性 IIIを確認すれば結論を得ることがわかる. 剛性 IIIの確認は後に回す.

(剛性 III) E/R, R ∈ Ob(ALW )に対して, φ : A −→ Rで φ(X(P )) = φ(X(P ′)) = 0をみた

すなら, Rは k代数で, E/Rは定数.

では上記, (剛性 I,II,III)を確認する. 先ず (剛性 II)を確認する.

そのために次の命題を示す.

命題 2-3-14(5.3.4 p.140 in [17]). pを素数とし, Rを可換環とする. C/RをR上の滑らか

可換1次元群スキームとする. このとき, 0 ∈ C(R)は exact order pn の与える, つまり, 有効

Cartier因子 pn[0]はC/Rの部分群スキーム.

証明. XをC/Rの 0切断に沿った完備化の形式パラメータをする:

C/R ' SpfR[[X]].

G = X + Y + · · · を Cに対応する形式群とする. 仮定から SpfR[[X]]の中で方程式Xpn= 0

は C[pn]0 = C[pn]の階数 pnの部分群スキーム T を定める. このとき, Rの中で p = 0かつ,

T = Xpn= 0 = KerF nを示す. Rの中で p = 0が示せば, フロベニウス射が存在するので,

後半は明らか. よって, これを示す.

以下, T 上で考える. B = R[[X,Y ]]/(Xpn, Y pn

)とおく. Bの中でXpn

= Ypn

= 0だから,

X,Y ∈ G|T (mB)である (部分群であることから形式群Gによる群構造が伝播される). よって,

0 = 0 ⊕G 0 = Xpn

⊕G Ypn

= G(Xpn

, Ypn

) = G(X, Y )pn

.

これはR[[X,Y ]]では

G(X,Y )pn ∈ (Xpn

, Y pn

)

を意味する. よって,

G(X,Y )pn

= Xpn

A(X,Y ) + Xpn

B(X,Y ), A(X,Y ), B(X,Y ) ∈ R[[X,Y ]]

30

と書ける. 総次数が pnの所を比べると,

(X + Y )pn

= Xpn

A(0, 0) + Xpn

B(0, 0).

さらに係数を比較して, A(0, 0) = B(0, 0) = 1. よって, 恒等式

(X + Y )pn

= Xpn

+ Y pn

がRで成立する. これは2項係数 pnCi = 0 (1 ≤ i ≤ pn − 1) を意味するが, i = 1から pn = 0,

これより, Rは Zp代数であることがわかる. 一方, i = pn−1のとき,

pnCpn−1 =pn · · · (pn − p) · · · (pn − pn−2) · · · (pn − pn−1 + 1)

pn−1!

なので, 右辺の分子の pの位数は n + 1 + · · · + n − 2 = 1 + n(n−1)2

, 分母はの pの位数は

1 + · · ·+ n− 1 = 1 + n(n−1)2

. 従って, pnCpn−1は p×(pと素な整数)という形をしているのでR

のなかで p = 0. ¤

では剛性の確認に戻る. (剛性 II)は命題 2-3-14から従う. (剛性 III)はRで p = 0となるこ

とは命題 2-3-14から従うがE/Rが定数であることは (剛性 I)から次のようにわかる. E/Rに

対して, アーベル群としての完全列

0 // Z/pnZ

0

// (Z/pnZ)2

(0,0)

// Z/pnZ

0

// 0

0 // K(R) // E[pn](R) // K ′(R) // 0

より, 真ん中の射は定数E/Rの (定数)Drinfeld 基底を与えるから (剛性 I)より, 左右の縦の射

は定数楕円曲線 (E/R,K), (E ′/R,K ′)の (定数)Drinfeld 基底を与える.

最後に (剛性 I)を確認する. 次の2本のR群スキームの完全列を考える:

0 // Ker(pn) // Epn

// E // 0

0 // Ker(F 2n) // EF 2n

// E(P 2n) // 0

仮定より (0, 0)がE[pn]のDrinfeld 基底なので,

Ker(pn) = pn[0]

よって, 命題 2-3-14よりRの中で p = 0. よって, フロベニウス射が考えられるから,

Ker(pn) = Ker(F 2n).

よって, 上の完全列からE∼←− E(p2n). この同型のフロベニウス引き戻しを繰り返すことで同

型射の列

E∼←− E(p2n) ∼←− E(p4n) ∼←− E(p6n) · · ·

31

を得る. このとき, 十分大きな r > 0に対して, E(p2r)/Rは定数である. 実際, Rはアルチ

ン環なのでmp2r

R = 0(r À 0). よって, F (2r) : R −→ Rは k = R/mRを経由する. 従って,

E ' E(p2r)/Rは定数である21. ¤

証明. (定理 2-3-11の P = Γ0(N)の場合の証明)

モジュライ問題 [N−isog] : (Ell) −→ Setsを楕円曲線E/Sに対して,

[N − isog](E/S) :=

(E,G)∣∣∣ G ⊂ Eは階数N の有限平坦局所自由群スキーム/S

と定めることで定義する. Γ0(N)とはレベル構造に現れる群スキームGが巡回的かどうかの

違いしかない. 特に, N が二乗因子を含まないときは両者は一致する.

[N−isog]は相対的に表現可能で (Ell)上有限であることがわかる (p.165,命題 6.5.1 [17] ).

実際, 楕円曲線E/Sに対して, [N−isog]E/S : S − schs −→ Setsはグラスマン多様体の閉部分

スキームとしてで表現され, それは S上有限となっている.

また, 楕円曲線 E/Sの階数N の有限平坦局所自由群スキームG が巡回的であるという条

件は S上の閉集合を定めるので, [Γ0(N)]E/Sは [N−isog]E/Sの閉集合で表現される. 閉埋め込

みは有限射なので, [Γ0(N)]は相対的に表現可能かつ (Ell)上有限であることがわかる.

次に [Γ0(N)] が2次元正則であることを示す. 即ち (Ell) 上エタールなモジュライ問題

δ に対し, M(δ, [Γ0(N)])が2次元正則であることを示す. [Γ1(N)]E/S は [Γ0(N)]E/S の fppf

(Z/NZ)×-torsorになっているので, (普遍)群スキーム (Z/NZ)×は有限平坦なので [Γ1(N)]E/S

は [Γ0(N)]E/S 上有限平坦である. よって, M(δ, [Γ1(N)]) −→ M(δ, [Γ0(N)]) は有限平坦かつ

(すでに示したように)M(δ, [Γ1(N)])は 2次元正則スキームなので [1]の VII 定理 4.822より,

M(δ, [Γ0(N)])もそうなっている. また, 自然な射M(δ, [Γ0(N)]) −→ M(δ)は正則スキームの

間の有限射なので, (自動的に)平坦であることがわかる. よって,[Γ0(N)]が (Ell)上平坦であ

ることもわかった.

次数の計算は局所的に行えばよいから, Nを可逆にしたスキーム上で (Z/NZ)2の位数Nの

巡回群の数を数えるとN2

φ(N)

∏p|N

(1 − 1

p2) = N

∏p|N

(1 +1

p)

となる. ¤

2.4. Coarse moduli schemes. この節では精モジュライでない場合のモジュライ問題の取

り扱いに触れる. Coarse moduli schemesとはモジュライ問題が表現可能でない場合の “最も

良い代替物”である. 井草の構成でもみたようにX0(N)は coarse moduli schemeであった. モ

ジュライ問題 P に対して, そこから coarse moduli schemeを以下のように構成する.

Rを環とし, P を (Ell/R)上の相対的に表現可能なモジュライ問題とする. Rを適当に局所

化して, ある素数 `が可逆であるとしてよい. このとき, (Ell/R)上有限エタールかつガロアな

表現可能なモジュライ問題 δでそのガロア群をGとするとき,

M(P ) := M(P, δ)/G

21同型に依らないというところで定数アーベルスキームのHomはまた定数スキームであるということを使っ

ている.22[1],p.131の命題 2.2もみよ. また, flat かつ surjectiveなら faithfully flatであることに注意

32

と定義すると, これはRスキームになり, δに依らないこともわかる (例えば, δ = [Γ(`)], G =

GL2(Z/`Z) と取ればよい). この操作を張り合わせることで一般の環R上のスキームM(P )を

得る.

以下, 簡単に分かるM(P )の性質を列挙する:

(1) P が表現可能ならばM(P ) = M(P )

(2) P が正規ならばM(P )も正規

(3)有限群Gで位数がRにおいて可逆となるものがPに作用しているとき,自然な射M(P ) −→M(P/G)は同型M(P )/G

∼−→ M(P/G)を導く.

(4)(基底変換) R −→ R′を勝手な係数拡大とするとき, 自然な射

M(P ⊗ R′) −→ M(P ) ⊗R R′

は次の条件のどれか一つを満たす場合同型:

(i) P は表現可能

(ii) R −→ R′は平坦

(iii) 6はRで可逆

(iv) P = P ′/G (]Gの位数はRで可逆)と表される.

一般に基底変換は成立しない. 実際, [17]p.227のRemark (8.1.7.1)で反例が構成されている.

次に粗いモジュライ空間としての j-直線 (1次元のアファン空間) を理解し, これを基に粗い

モジュライ空間の構造を調べる.

楕円曲線の j不変量はレベル 1のモジュライ問題に対応する粗いモジュライ空間のパラメー

タとなっている. 実際, 任意の環Rに対して, (Ell/R)上のモジュライ問題 [Γ(1)]から,

M([Γ(1)]) = SpecR[j]

を得る.

命題 2-4-1 (8節p.229,命題 8.2.2 in[17]). P を (Ell/R)上相対的に表現可能かつアファイン

なモジュライ問題とする. このとき, レベル構造を忘れるという忘却関手P −→ [Γ(1)]が誘導

する射M(P ) −→ SpecR[j]は P が (Ell/R)上有限かつRがネーターならば有限射なる.

証明. Rで可逆となる素数 `をとる. このとき次の自然な可換図式を考える.

M(P, [Γ(`)])α

wwooooooooooo β

&&MMMMMMMMMM

M([Γ(`)])

γ ''OOOOOOOOOOOM(P )

xxqqqqqqqqqq

SpecR[j]

M([Γ(`)])上の普遍楕円曲線を Eとすると, 仮定より,

M(P, [Γ(`)]) = PE/M([Γ(`)])α−→ M([Γ(`)])

33

は有限. γ も G` = GL2(Z/`Z)被覆になっているの有限. よって, 合成 γ αはネータース

キーム SpecR[j] (RはネーターなのでR[j]もネーター)上の有限射なのでアファインスキーム

M(P, [Γ(`)])に対応する環BはR[j]上の有限生成加群. βはG`被覆なのでM(P ) = Spec(BG`)

となり, SpecR[j]上有限であることがわかる. ¤

命題 2-4-2 (8節p.229,命題 8.2.3 in[17]). P を (Ell/R)上相対的に表現可能かつアファイン

なモジュライ問題とし, R上の平坦代数Bは完備ネーター局所環でその剰余体 kは閉体であ

るとする. E0/kを楕円曲線とし, その普遍形式変形をE/B[[T ]]とする. j0 = j(E/k) ∈ kのB

への持ち上げを j′とおく. このとき次の cartesian 図式を得る.

M(P )

(PE/B[[T ]])/Aut(E/k)oo

SpecR[j] SpecB[[j − j′]]oo

証明. 証明は略. この事実は超特異点の周りの局所モデルを調べることに用いられる. ¤

一般にモジュライ問題は表現可能であることが望めない場合が多いが, モジュライ問題に適

当な制限を設けることでそれを表現可能にし, より詳しい性質を引き出すことができる. 我々

はいま楕円曲線のモジュライ問題を考えているため, このことは j直線上のモジュライ問題の

局所化を考えていることになる.

U ⊂ SpecR[j]を開集合とする. このとき圏 (Ell/U/R)を (Ell/R)の充満部分圏であって,そ

の対象を (Ell/R)の対象E/Sであって, その j不変量がUに入る, すなわち射Sj−→ SpecR[j]

が U を経由するもので定義する.

上記Uに対して (Ell/R)上のモジュライ問題 [U ]をE/S ∈ Ob((Ell/R))に対して, j : S −→SpecR[j]がU を経由するなら1点集合, その他の場合は空集合決めることによって定義する.

[U ]E/S = S ×SpecR[j] U

なので [U ]は相対的に表現可能で, U −→ SpecR[j]は開埋め込みなのでエタールだから [U ]E/S

は S上エタール. よって, [U ]は (Ell/R)上エタールである.

P を (Ell/R)上のモジュライ問題とするとき, P |U を

P |U(E/S) =

P (E/S) (j : S −→ SpecR[j]が U を経由)

∅ (それ以外)

で定める. P が表現可能ならば

P |U E/S = PE/S ×SpecR[j] U =: PE/S|U

となることが簡単にわかる. さらに U が SpecR[j]のアファイン開部分スキームであるとき,

P |U は (Ell/R)上アファインで

M(P |U) = M(P ) ×SpecR[j] U =: M(P )|U

が成り立つ. 特に, M([U ]) = U である.

34

以下では具体的にUを決め, (Ell/U/R)上のモジュライ問題の表現可能性を見る. その前に

次の補題を用意する. ただしここでは証明しない.

補題 2-4-3(cf. [6]) E/Sを楕円曲線とする. このとき次は同値

(1) 連結 Sスキーム T に対して, AutT (E ×S T ) = ±1.

(2) j(j − 1728)(の Sへの引き戻し)は Γ(S,OS)上可逆.

(3) E/S ∈ Ob((Ell/U/Z)), U = SpecZ[j][ 1j(j−1728)

]

命題 2-4-3(系 8.4.5) Rを正則ネーター環, P を (Ell/R)上の表現可能なモジュライ問題とす

る. U を j(j − 1728)が可逆になるような SpecR[j]のアファイン開集合とし, P |U は [U ]上有

限エタールとする. このとき,

M(P ) = M(P ) −→ SpecR[j]

は U 上有限かつエタール ( これより, M(P |U) −→ U は有限エタールで U は正則なので

M(P |U)も正則であることがわかる).

証明. U は正則スキーム SpecR[j](Rは正則環!) への開埋め込みなので正則. P は表現可能な

ので対応する普遍楕円曲線を E/M(P )とする (M(P ) = M(P )に注意). このとき, 仮定より

P |U は [U ]上有限エタールなので,

P |U E/M(P ) = PE/M(P ) ×SpecR[j] U −→ [U ]E/M(P ) = M(P ) ×SpecR[j] U = M(P |U)

は有限エタール. PE/M(P )はM(P )上エタールなので23 PE/M(P ) ×SpecR[j] U は正則スキーム.

よって, M(P |U)も正則スキーム.

命題 2-4-1の証明と同様にして, M(P |U) −→ U は有限であることがわかる. よって正則ス

キームの有限射は平坦なのでM(P |U) −→ U は有限平坦であることがわかる. エタール射の

概念は基底変換で安定なので次の図式の射 pr1がエタールであることを示す.

M(P |U , P |U)

t

s

((RRRRRRRRRRRRR

M(P |U) ×U M(P |U)pr1 // M(P |U)

(M(P |U) ×U M(P |U))(S) = Hom(S,M(P |U) ×U M(P |U)) の元 (射)f に対応するデータ

(E1, α, E2, β)とする. このとき次のファイバー積を得る.

IsomS(E1, E2)

// S

f

M(P |U , P |U)t // M(P |U) ×U M(P |U)

補題 2-4-3より, IsomS(E1, E2) = ±1 より射 tはエタール ±1-torsorであることがわかる.

仮定より, sは有限エタールなので pr1も有限エタール. ¤23仮定より P は表現可能なので rigid. これよりレベル構造は 1点集合からなるのでエタールであることがわ

かる.

35

命題 2-4-4(命題 8.4.6) Rを環とし, U を前の命題と同じものとする. P を (Ell/R)上相対

的に表現可能なモジュライ問題でアファインとする. E/S ∈ Ob((Ell/U/R))とし, [−1]E の

P (E/S)への作用は固定点を持たないとする. このとき, P |U は表現可能で

M(P |U) = M(P |U) = M(P )|U

が成立.

証明. P |U は (Ell/U/R)上 rigid なので明らか. ¤

系 2-4-5(系 8.4.7) N を自然数とし, UN を SpecZ[j]の開集合であって, j(j − 1728)は可逆か

つ ∀p|N に対して UN(Fp)は超特異点を含まないものとして定義. このとき,

(1) N ≥ 3ならば [Γ(N)]|UNは (Ell/Z)上表現可能

(2) N = 1, 2, 4ならば bal − [Γ1(N)]|UNは (Ell/Z)上表現可能

証明. (1),(2)の証明はレベル構造に楕円曲線の自己準同型が自明に作用することを具体的に

確認すればよい. ¤

系 2-4-6 N を自然数とし, UN を系 2-4-5と同じものとする. このとき,

Y0(N)Z := M([Γ0(N)]) −→ Y0(1)Z = A1Z,j = Spec(Z[j])

は有限平坦であり, UN 上で有限エタールである (その次数は p.26に書いてるものと一致).

証明. ` ≥ 3をN と素な素数とする. 定理 2-3-11から, Z[1`]上では上の射は正則スキームの間

の有限平坦射のエタール商として得られている (p.26の証明参照). よって, Y0(N)Z −→ Y0(1)Z

は Z[1`]上平坦. 別の `′ ≥ 3をもってきて同様に議論すれば Z上有限平坦であることがわか

る. ¤

定理 2-4-7 Y0(N)Z := M([Γ0(N)])はZ上正規アファインな平坦連結曲線で, Z[ 1N

]上滑らか. ま

た, Y0(N)Z上の標数p(p|N)の点xが「Aut(x) 6= ±1をみたす超特異点または j(j−1728) = 0

を満たす点」であるときに限り, Y0(N)Z は特異点をもち,それらは孤立商特異点になっている.

証明. Y0(N)Q⊗Cの解析化は1節のY0(N)Cと解析的同値なのでY0(N)Qは連結,とくにY0(N)Z

も連結. 定理 2-3-11より, Y0(N)Zは正則スキームで被覆されるのでその有限商Y0(N)Zは正規.

また, 定理 2-3-11より Γ0(N)が (Ell/Z[ 1N

])上エタールかつ全射であるので Y0(N)ZはZ[ 1N

]上

滑らかな曲線である. 後半の特異点に関する主張は系 2-4-5および命題 2-4-2からわかる. さ

らに定理 2-3-11より Y0(N)Zは正則スキームの有限商として表されるので特異点があったと

しても UN の定義から, それは孤立商特異点であることがわかる. ¤

Y0(N)Zのコンパクト化X0(N)Zは井草モデルのそれと同じようにY0(N)Z −→ Y0(1)Z → P1Z

の正規化によって定義される. このようにコンパクト化を定義したため尖点スキームCuspZ =

(X0(N)Z \ Y0(N)Z)red はモジュライ解釈を持たない. 従って, [17]においてはZ上のTate 曲線

を用いてこのスキームを調べている. 詳しい証明は与えないが次のことがわかる:

定理 2-4-8(p.250,定理 8.6.8.[17]) X0(N)Zは Z上の正規射影曲線で各ファイバーが連結であり, Z[ 1

N]上滑らかである. さらに, X0(N)Z上の標数 p(p|N)の点 xが「Aut(x) 6= ±1をみ

36

たす超特異点または j(j − 1728) = 0を満たす点」であるときに限りX0(N)Z は特異点をもち,

それらは孤立商特異点になっている. 特に, 尖点スキームの周りでは正則である.

証明. (P1Z上有限だから) Z上正規かつ射影的であることは定義から明らか. 証明のポイント

はX0(N)Zは尖点スキームの周りでは正則であることを示すことである. 後は定理 2-3-7の性

質から主張を得る. ¤

X0(N)Zの悪い素点 p|N での還元の詳しい様子は p ≥ 5の場合は基底変換 (cf. p.21の性質

(4)) X0(N)Fp = M([Γ0(N) ⊗ Fp])が成り立つので問題を正標数のモジュライ問題 (井草曲線)

の解析に帰着できる. (超)特異点での局所モデルは [17]の p.411, 定理 13.4.7で与えられてい

るのでこれを用いてX0(N)Zの最小特異点解消なども調べられている (cf. [12],[2],[3]).

3. 補足

定義.(1) スキームの間の射 f : X −→ Y が quasi-finiteであるとは, 各点 y ∈ Y の逆像 f−1(y)

は有限. これは [14]に書いてある定義で SGA1にはさらに, この条件に locally of finite type

を課している. 我々の設定では対象となる射が locally of finite type である場合しか考えない

ので気にしなくてよい.

(2)スキームの間の射 f : X −→ Y が locally of finite type とは次を満たすときをいう: Y のあ

るアファイン開被覆 Ui = SpecBiiが存在して, 各 f−1(Ui)がXのアファイン開集合 SpecA

で, Aは有限生成B代数になっているもので覆われている.

さらに各 f−1(Ui)が有限個のそのようなアファイン開集合 SpecAで覆われている時, f は

finite type であるという.

(3) スキームの間の射 f : X −→ Y が finiteであるとは, 次を満たすときをいう: Y のあるア

ファイン開被覆 U = SpecBが存在して, 各 f−1(U)は f−1(U) = SpecAとXのアファイン

開集合で表され, かつAは有限生成B加群になっている.

(4) スキームの間の射 f : X −→ Y が quasi-finite かつ proper なら, f は finite になることが

知られている. proper という条件をはずすと判例がある (cf. SpecZ[1p] → SpecZ, Spec(Z[1

p]×

Fp) −→ SpecZなど. 後者は集合としては 1対 1である.).

定義. (1) Aを環, M をA加群とする. M が有限表示をもつとはある自然数m,n, n ≥ mに対

し, 次の形の完全列が存在するときをいう:

Am −→ An −→ M −→ 0.

これはM が nの元で生成され, 生成元の間にm個の線形関係式が存在していることを示して

いる.

(2) スキームの射 f : X −→ Y が locally of finite presentation であるとは, Y の各アファイン

開集合 SpecBに対して, f−1(SpecB) =⋃

i SpecAi と表示するとき, 各AiはB加群として有限

表示をもつときをいう. Y が局所ネーターならばこれは局所有限型であることと同値である.

37

さらに, fが finite presentation (又は finitely presented)であるとは, locally of finite presen-

tationかつ quasi-compact であるときをいう. これは上記 f−1(SpecB)が有限個のアファイン

開集合で覆われることを意味する.

4. 謝辞

この原稿を書く機会を与えてくださいました千田雅隆さんと講演中にいろいろと質問して

くださった安田正大さんに感謝致します. この原稿を作成する上で河村尚明さんに作成して

頂いた講演ノートを有効活用させて頂きました. 河村尚明さんに感謝致します.

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