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今月の野菜 野菜情報 2017.4 28 トマトは、栄養豊かな野菜として広く料理 に使われ、世界で最も愛されている野菜の一 つといわれている。南米にあるアンデス山脈 の西側のペルー、エクアドル、ボリビアにか けての高原が原産地といわれ、コロンブスの 新大陸発見によってヨーロッパ各地へと伝 わった。当初はもっぱら観賞植物として栽培 され、食用とされるようになったのは19世 紀になってからのことである。イタリアやギ リシャを中心に、いろいろなトマト料理や調 味料的加工品が作られるようになり、世界的 な野菜となっていった。 オランダ人によって日本に伝わったのは江 戸時代初期で、当時は観賞用や薬用として用 いられた。明治時代になり、米国から品種改 良されたトマトが伝わったが、酸味が強く香 りもきつかったため、当時の食生活に根づく ことはなかった。その後、戦後の食の洋風化 とともに、栽培技術が発展して品種改良も進 んだ結果、消費量は急速に拡大した。 トマトは、果皮の色によって桃色系トマト、 赤色系トマト、黄色系トマトの3つに大別さ れる。桃色系トマトは、甘みに富み酸味やト マト臭が少なく、生食用に利用される。赤色 主要産地 資料:農林水産省「平成27年産野菜生産出荷統計」 注: 図中の番号は収穫量の多い順番、期間は主な出荷 期間を表している。 トマトの需給動向 調査情報部 トマト(熊本産) トマト(北海道産) ⑥栃木県 周年 ⑦岐阜県 周年 ⑧福島県 7月~ 10月上旬 ②北海道 4月~11月 ④千葉県 周年 ⑨群馬県 5月~8月 ⑩長野県 6月下旬~ 10月上旬 ③茨城県 2月~ 7月中旬 8月下旬~ 11月 ⑤愛知県 10月~7月 ①熊本県 周年

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今月の野菜

野菜情報 2017.428

トマトは、栄養豊かな野菜として広く料理に使われ、世界で最も愛されている野菜の一つといわれている。南米にあるアンデス山脈の西側のペルー、エクアドル、ボリビアにかけての高原が原産地といわれ、コロンブスの新大陸発見によってヨーロッパ各地へと伝わった。当初はもっぱら観賞植物として栽培され、食用とされるようになったのは19世紀になってからのことである。イタリアやギリシャを中心に、いろいろなトマト料理や調味料的加工品が作られるようになり、世界的な野菜となっていった。

オランダ人によって日本に伝わったのは江戸時代初期で、当時は観賞用や薬用として用いられた。明治時代になり、米国から品種改良されたトマトが伝わったが、酸味が強く香りもきつかったため、当時の食生活に根づくことはなかった。その後、戦後の食の洋風化とともに、栽培技術が発展して品種改良も進んだ結果、消費量は急速に拡大した。トマトは、果皮の色によって桃色系トマト、赤色系トマト、黄色系トマトの3つに大別される。桃色系トマトは、甘みに富み酸味やトマト臭が少なく、生食用に利用される。赤色

主要産地

資料:農林水産省「平成27年産野菜生産出荷統計」 注:�図中の番号は収穫量の多い順番、期間は主な出荷

期間を表している。

トマトの需給動向   調査情報部

トマト(熊本産)

トマト(北海道産)

⑥栃木県周年

⑦岐阜県周年

⑧福島県7月~10月上旬

②北海道4月~11月

④千葉県周年

⑨群馬県5月~8月

⑩長野県6月下旬~10月上旬

③茨城県2月~7月中旬8月下旬~11月

⑤愛知県10月~7月

①熊本県周年

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野菜情報 2017.429

平成27年の作付面積は、1万2100ヘクタール(前年比100.0%)と、前年と同様である。上位5道県では、◦熊本県� 1250ヘクタール(同103.3%)◦茨城県� 937ヘクタール(同 99.7%)◦北海道� 879ヘクタール(同101.0%)◦千葉県� 826ヘクタール(同 99.5%)◦愛知県� 511ヘクタール(同 98.3%)となっている。

27年の出荷量は、65万3400トン(前年比98.2%)と、前年よりわずかに減少した。上位5道県では、◦熊本県� 12万2100トン(同100.2%)◦北海道� 5万6700トン(同 97.6%)◦茨城県� 4万4100トン(同 96.9%)◦千葉県� 3万8800トン(同 93.7%)◦愛知県� 3万8200トン(同 89.0%)となっている。

出荷量上位5道県について、10アール当たりの収量を見ると、熊本県の10.10トンが最も多く、次いで愛知県の7.95トン、北海道の7.02トンと続いている。その他の県で多いのは、栃木県(9.42トン)、福岡県(8.83トン)であり、全国平均は6.01トンとなっている。

系および黄色系は酸味と甘みが強く、ジュースや加熱調理用に使われる。日本では生食が中心のため、桃色系が主流となっている。特

に、完熟させてから収穫できるように品種改良された桃色系トマトである完熟系大玉トマトが、現在では最も多く出回っている。

作付面積・出荷量・単収の推移

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

平成20 21 22 23 24 25 26 27

(ヘクタール)

その他

愛知

千葉

北海道

茨城

熊本

(年)

作付面積の推移

資料:農林水産省「平成27年産野菜生産出荷統計」

0

100

200

300

400

500

600

700

800

平成20 21 22 23 24 25 26 27

(千トン)

その他

愛知

千葉

茨城

北海道

熊本

(年)

出荷量の推移

資料:農林水産省「平成27年産野菜生産出荷統計」

10.10

7.95

7.02

5.25 5.05

9.42 8.83

6.01

0

2

4

6

8

10

12

熊本 愛知 北海道 千葉 茨城 栃木 福岡 全国

(トン/10a)

平成27年の主産地の単収

資料:農林水産省「平成27年産野菜生産出荷計」 注:�黄色は、出荷量上位5道県以外で単収が多い2県および全

国平均。

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野菜情報 2017.430

量販店などには、通常、ミニトマトも含めて20種から25種のトマトが並ぶといわれている。そうした消費者のさまざまな好みや作型、栽培環境などに応じて、トマトの品種は多数存在する。また、特定の品種ではないが、水やりを抑えるなど特別な栽培法で甘みを引

き出したフルーツトマトが注目を集めている。比較的多くの産地で作付けされているりんか409は、トマトモザイクウイルスや萎凋病などへの耐病性やネマトーダへの耐虫性を持ち、着果性の良い品種である。

東京都中央卸売市場の月別入荷実績(平成27年)を見ると、年間を通じて他の品目より比較的多くの産地から入荷している。冬か

ら春にかけては熊本産を中心に栃木産、愛知産などの入荷が見られ、夏から秋にかけては北海道産や青森産などが中心となっている。

作付けされている主な品種等

資料:農畜産業振興機構の関係者聞き取りによる。

都道府県名 主 な 品 種熊 本 県 りんか409、桃太郎ピース、桃太郎ホープ、アニモ

北 海 道 CF桃太郎ファイト、りんか 409、桃太郎ギフト、桃太郎ファイト

茨 城 県 麗容、麗旬、桃太郎ピース、りんか 409

千 葉 県 麗容、桃太郎はるか、りんか 409、桃太郎グランデ

愛 知 県 りんか 409、麗旬、みそら64、桃太郎ヨーク

東京都・大阪中央卸売市場における月別県別入荷実績

熊本 (44) 熊本

(35) 熊本 (31)

熊本 (30)

熊本 (25)

栃木 (19) 青森

(16)

北海道 (21) 北海道

(20) 千葉 (19)

熊本 (38)

熊本 (46)

愛知(16)

栃木(16)

栃木 (18)

栃木 (19)

栃木 (20)

熊本 (14)

北海道 (11)

青森 (20)

青森 (18)

茨城 (16)

千葉 (16)

愛知 (18)

栃木(11)

愛知(14)

愛知(13)

愛知 (13)

愛知 (13)

千葉 (13)

茨城(11)

福島 (16)

千葉 (13) 青森(12)

愛知 (14)

千葉(8) 宮崎(6)

宮崎(7)

宮崎(7)

千葉(6)

千葉(9) 愛知 (12)

福島(9)

群馬(10)

福島 (12)

北海道(10)

茨城(8)

栃木(8) 千葉(6)

千葉(5)

千葉(5)

宮崎(6)

茨城(7) 茨城 (12)

岩手(9)

岩手(9)

茨城(11)

福島(9)

栃木(4)

静岡(6) その他

(17) その他

(23)

その他 (26)

その他 (26)

その他 (26)

その他 (30)

その他 (44)

その他 (24)

その他 (26) その他

(34)

その他 (20)

その他 (14)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

(トン)

(月)

資料:農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:平成27年東京都中央卸売市場年報) 注:( )内の数値は、月別入荷量全体に占める割合(%)である。

平成27年 トマト(トマト+ミニトマト)の月別入荷実績(東京都中央卸売市場計)

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野菜情報 2017.431

大阪中央卸売市場の月別入荷実績(平成27年)を見ると、東京都中央卸売市場と比べて入荷トップ産地の全体に占める割合が多

い。冬から春にかけては熊本産が全体の60%以上を占め、7月から9月にかけては北海道産が40%前後を占めている。

東京都中央卸売市場の価格(平成27年)を見ると、トマトは1キログラム当たり292〜514円(年平均371円)、ミニトマトは1キログラム当たり551〜930円(年平均

683円)の幅で推移している。年による差はあるものの、3月や4月から下げ基調が続いて6月には最安値となり、その後に上昇する傾向にある。

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

(円/kg)

平成25年 平成26年 平成27年

平成25年 平成26年 平成27年

(月)

トマト

ミニトマト

資料:農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:東京都中央卸売市場「市場月報」)

卸売価格の月別推移(トマト)

熊本 (64)

熊本 (64)

熊本 (65)

熊本 (66)

熊本 (61) 熊本

(39) 北海道 (41)

北海道 (46)

北海道 (39)

熊本 (21)

熊本 (62) 熊本

(68)

福岡9) 福岡(14)

福岡(13)

福岡 (12)

福岡 (13)

北海道 (13)

岐阜(10)

岐阜 (33)

岐阜 (33)

北海道 (21)

石川(7)

和歌山(8) 和歌山(7) 和歌山(6)

和歌山(5)

和歌山(4)

愛知(5)

石川(9)

熊本(8)

石川(5)

岐阜 (17)

和歌山(5)

愛知(5)

愛知(7)

愛知(4)

和歌山(4) 福岡(7)

石川(8)

石川(7)

愛知(4)

福岡(5)

愛知(6)

奈良(4)

福岡(4)

徳島(4)

その他(14) その他(16)

その他 (17)

その他 (14)

その他 (17)

その他 (25)

その他(30)

その他 (14)

その他 (18)

その他 (30)

その他(22) その他(10)

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

(トン)

(月)

資料:農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:平成27年大阪市・大阪府中央卸売市場年報) 注:( )内の数値は、月別入荷量全体に占める割合(%)である。

平成27年 トマト(トマト+ミニトマト)の月別入荷実績(大阪中央卸売市場計)

東京都中央卸売市場における価格の推移

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野菜情報 2017.432

トマトの輸入量を見ると、生鮮に比べて加工品が圧倒的に多く、平成28年は生鮮の7383トンに対し、加工品は23万287トンである。生鮮トマトの輸入量は、25年をピークに減少傾向にあったが28年は増加に転じており、一定の水準を維持している。また、

トマト加工品は24年をピークに漸減している。28年の国別輸入量を見ると、生鮮では韓国が50%以上、ニュージーランドが約16%を占めている。加工品ではイタリアが40%以上を占め、米国、中国と続いている。

輸入量の推移

0

2

4

6

8

10

平成21 22 23 24 25 26 27 28

(千トン)

(年)

0

50

平成21 22 23 24 25 26 27 28

(千トン)

(年)

0

50

100

150

200

250

300

21 22 23 24 25 26 27 28

(千トン)

(年)

トマトピューレ等関割 ピューレ等関割以外 トマトケチャップ トマトソース トマトジュース 混合野菜ジュース その他のトマト加工品

トマト(生鮮)の輸入量の推移

トマト加工品輸入量の推移

資料:農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:財務省「貿易統計」)

国別輸入量

韓国 894

38.2% 米国 788

33.7%

カナダ 431

18.4%

ニュージーランド 187

8.0%

メキシコ 38

1.6%

合計 トン

韓国 3,740 50.7%

ニュージーランド

1,191 16.1%

米国 1,017 13.8%

カナダ 702

9.5%

オランダ 438

5.9%

メキシコ 296

4.0%

合計 トン

平成21年トマト(生鮮)

平成28年トマト(生鮮)

資料:農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:財務省「貿易統計」)

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野菜情報 2017.433

トマトの1人当たり年間購入量は、トマトブームの影響もあって平成23年から増加傾向にあり、25年以降は4000グラム台と、安定した推移を見せている。トマトはそのまま生食でき、一度にたくさん食べられるため、栄養分を摂取しやすい野菜である。トマトの赤色の成分はリコピンで、活性酸素を除去する抗酸化作用があり、老化の進行を抑制するほか、がんや動脈硬化を予防する働きがある。リコピンは熱に強く、煮

たり焼いたりしても抗酸化力が低下しにくい。また、コラーゲンの生成を促し美肌効果が期待できるビタミンCや、体内のナトリウムの排出を促すカリウムも含んでいる。さらに、酸味の主な成分であるクエン酸は、食欲を増進させる働きがあるため、食欲の低下しがちな暑い時期に取り入れると効果的である。さまざまな効能を持つトマトは、生食はもちろん、いろいろな調理にも上手に使い、健康増進に役立てたい野菜である。

イタリア 86,225

43%

中国 41,075

21%

米国 25,916

13%

トルコ 15,249

8%

ポルトガル 13,543

7%

チリ 5,601

3%

その他 11,201

5%

合計 トン

イタリア 102,543 44.5%

米国 35,653 15.5%

中国 25,011 10.9%

ポルトガル 22,664 9.8%

スペイン 13,461 5.8%

トルコ 11,185 4.9%

その他 19,770 8.6%

合計 トン

平成21年トマト加工品

平成28年トマト加工品

資料:農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:財務省「貿易統計」)

3,748 3,544

3,675 3,752

4,022 4,064 4,068 4,000

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500

5,000

平成21 22 23 24 25 26 27 28

(グラム)

(年)

トマトの1人当たり年間購入量の推移

資料:農畜産業振興機構「ベジ探」(原資料:総務省「家計調査年報」)

消費の動向