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オゥ オ 璧鼡吮瘨4斟 Physics of Stringed Instrument 弦楽器,それは張られた弦を爪弾くなり,弓で擦る,あるいは叩くなどして音を出す楽器である。ただ,空間に弦だけ を張り(両端を何かで引っ張り)弾いたり擦っりしても微かな音しか出ず,それを机の上に固定して張り,弾くとそれなり の音がする。そう,弦楽器は弦が振動して音を出すのだが,弦の振動だけで発せられる音は非常に小さく,弦を固定して いる板や箱に弦の振動が伝わり,板等の振動により大きな音が発せられる。板(胴)は弦に錨螵こresonanceして音を出す ので錨螵隘こコァとも呼ばれる。通常,弦楽器にはいろいろな太さ・材質の弦が張られ,非常に幅広い振動数の音を出せる ようになっている。板()はそうしたいろいろな振動数の振動を受け止め,幅広い振動数の振動に同じように振動しな くてはならないため,単純な板でなく,取り様によってはいろいろな長さがとれるよう曲線をもった形をしている。ま た,箱になっていることで箱の中の空気も振動を起こし,弦と板と箱の中の空気がいっしょになって音が出されるように なっている。バイオリンの胴にS字の切れ目が開けられているのも,いろいろな振動数に効果的に共鳴を起こすための経 験的な技の一つである。板の厚さも場所毎に微妙な厚さとなっており,表面に塗られるニスも職人の極地の技で作られて いる(ある名器はニスに虫の羽を剃り込んでいるため素晴らしい音が出るようにしたという話もある)。ただ,そうした巧の技の話 となると,いろいろ試した挙句,多くの試み・失敗をの末,到達し受け継がれてきたもので,簡単な科学で対処できるよ うな話ではない。また,弦の種類,弾き方,等によっても音色に違いが出る。 ここでは,そもそもの振動の源になる弦の振動の基礎である振動数について科学して行きたいと思う。弦の出す音 の高さは,使われる弦の材質・太さ・密度,その張り具合と弦の長さ・・・弦を押さえる位置・・・によって音の高さが変わ る。そこで,同じ弦を同じように張り,艤㽷甾溺1瞟】睘瘳盖痆】皯瘃痠萇岬豁瘨垜畒瞥のだが,なぜそう した高さの音が出るのか,即ち,弦の振動の振動数がどのように決まるか,その鍵は驚くべきこ とに,振動現象と言うより,璧瞟挺尨という思いもよらない角度から解明される。ここで は,そのことについて順次お話して行こ う。 䐜䐈璧瞟挺尨 Wave of String 他端を固定して張られた伸縮性のある紐の一端を,紐に対して直角に素早く振ると,振った動きが横波となってを伝わって行く。穧䇮祲 こPulseであ る。このパルスが滝4脈瘜7岬痀ʒ邉畒尨瘨」㽷」熾である。波の伝わる速さは,紐を強く張っている・・・張力 T が大きい・・・ときほど速い。一 方,紐が太く重いと・・・正しくは単位長さ当たりの質量=線密度σが大きいと・・・,運動の法則や,ばね振り子運動からも明らかなようにゆっくりした振動になり, 伝わる速さも遅くなる。では,波の伝わる速さ v は張力 T に比例,密度 ρ に反比例し,v=k (kは比例定数)という関係になるのだろうか? こうしたこ とを判断するとき式の単位が良い指針となる。Tが[N][kgm/s 2 ] ,ρが [kg/m] であるから,[T]/ [ρ]=[kgm/s 2 ] / [kg/m][m 2 /s 2 ] となり,T/ρはv の 単位 [m/s] と一致しない。しかし,T/ρ でなく T/ρ なら, [m/s] になる。即ち, 璧瞟挺尨瘨」㽷臬ャ こ璧瘨瓱堀ァェこ璧瘨f杤熾ァ の可能性がある。・・・ しかし,これでは一つの条件を満たしているだけで,納得のゆく話ではなくk の値も定まらない。ただ,この解析は微積分を使った話になるので,‘詳し い計算をすれば’ということで,釈然とさせるのは先伸ばしにしてもよい。 (c) バンドゥーラ ハープ Fig 2-1 様々な弦楽器等 (弦の振動が音程を決める楽器武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵(a~e)(教育用として御好意により撮影(a) (b) (d) (e) 胡弓 (f) (g) キム (g) のキムはタイの人誰もが演奏する国民楽器, (タイ国留学生から寄進されたもの) T ρ

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Physics of Stringed Instrument                                                                      

弦楽器,それは張られた弦を爪弾くなり,弓で擦る,あるいは叩くなどして音を出す楽器である。ただ,空間に弦だけ

を張り(両端を何かで引っ張り)弾いたり擦っりしても微かな音しか出ず,それを机の上に固定して張り,弾くとそれなり

の音がする。そう,弦楽器は弦が振動して音を出すのだが,弦の振動だけで発せられる音は非常に小さく,弦を固定して

いる板や箱に弦の振動が伝わり,板等の振動により大きな音が発せられる。板(胴)は弦に resonance して音を出すので とも呼ばれる。通常,弦楽器にはいろいろな太さ・材質の弦が張られ,非常に幅広い振動数の音を出せる

ようになっている。板(箱)はそうしたいろいろな振動数の振動を受け止め,幅広い振動数の振動に同じように振動しな

くてはならないため,単純な板でなく,取り様によってはいろいろな長さがとれるよう曲線をもった形をしている。ま

た,箱になっていることで箱の中の空気も振動を起こし,弦と板と箱の中の空気がいっしょになって音が出されるように

なっている。バイオリンの胴にS字の切れ目が開けられているのも,いろいろな振動数に効果的に共鳴を起こすための経

験的な技の一つである。板の厚さも場所毎に微妙な厚さとなっており,表面に塗られるニスも職人の極地の技で作られて

いる(ある名器はニスに虫の羽を剃り込んでいるため素晴らしい音が出るようにしたという話もある)。ただ,そうした巧の技の話

となると,いろいろ試した挙句,多くの試み・失敗をの末,到達し受け継がれてきたもので,簡単な科学で対処できるよ

うな話ではない。また,弦の種類,弾き方,等によっても音色に違いが出る。

ここでは,そもそもの振動の源になる弦の振動の基礎である振動数について科学して行きたいと思う。弦の出す音

の高さは,使われる弦の材質・太さ・密度,その張り具合と弦の長さ・・・弦を押さえる位置・・・によって音の高さが変わ

る。そこで,同じ弦を同じように張り, のだが,なぜそう

した高さの音が出るのか,即ち,弦の振動の振動数がどのように決まるか,その鍵は驚くべきこ

とに,振動現象と言うより, という思いもよらない角度から解明される。ここで

は,そのことについて順次お話して行こ

う。

Wave of String

他端を固定して張られた伸縮性のある紐の一端を,紐に対して直角に素早く振ると,振った動きが横波となって紐を伝わって行く。 Pulse である。このパルスが ┞ である。波の伝わる速さは,紐を強く張っている・・・張力 T が大きい・・・ときほど速い。一

方,紐が太く重いと・・・正しくは単位長さ当たりの質量=線密度σが大きいと・・・,運動の法則や,ばね振り子運動からも明らかなようにゆっくりした振動になり,

伝わる速さも遅くなる。では,波の伝わる速さ v は張力 T に比例,密度ρに反比例し,v=k   (kは比例定数)という関係になるのだろうか? こうしたこ

とを判断するとき式の単位が良い指針となる。Tが[N]=[kgm/s2] ,ρが [kg/m] であるから,[T]/ [ρ]=[kgm/s2] / [kg/m]=[m2/s2] となり,T/ρはv の

単位 [m/s] と一致しない。しかし,T/ρ でなく T/ρ  なら, [m/s] になる。即ち,

 

の可能性がある。・・・ しかし,これでは一つの条件を満たしているだけで,納得のゆく話ではなくk の値も定まらない。ただ,この解析は微積分を使った話になるので,‘詳し

い計算をすれば’ということで,釈然とさせるのは先伸ばしにしてもよい。

(c) バンドゥーラ

ハープ

Fig 2-1 様々な弦楽器等 (弦の振動が音程を決める楽器)

武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵(a~e)(教育用として御好意により撮影)

(a)

(b)

(d)

(e)

胡弓

(f)

(g) キム

(g) のキムはタイの人誰もが演奏する国民楽器,

(タイ国留学生から寄進されたもの)

T

ρ

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Appendix 弦に波が送られ,ある瞬間,位置x からx+⊿x の弦の小部分の右端はθ

2の傾き,左端はθ

1の傾きに

なったとする。各部分は上下に運動するだけであるから(上下左右に運動する非線形振動は別の理論),両端

を引く力の横成分は打ち消し合う。その横成分の大きさをT とすると,この小部分に働く縦方向の力は

(右図,上向きを正として)      f= T tanθ2-T tanθ

1 

弦の形が y(x) であれば,tan はその傾き=微分係数 で,tanθ1=     ,tanθ

2=

で与えられる。従って,小部分⊿x が受ける力は

    f=T (      -    )=T   ⊿x  

ここで弦の線密度をρとすれば,小片⊿x の質量=ρ⊿x であるから,運動の法則より 

ρ⊿x   =T   ⊿x  →    =       ・・・ ①

ところで,一般に波の式は y=A sin 2πf ( t-  ) といった式で表される(前章)。これをtとxとで二階微分,

=-A(2πf)2sin2πf(t-  ) ,   =-A    sin2πf (t-  )  thus         ・・・ ② となる。

弦の場合の運動方程式①を波一般に言える波動方程式②とを照合すると,

ことがわかる。q.r.d.

Exercise 1  (注)次頁の“2 波の重ね合わせ”を学習してから(a) ~ (d) はいずれも左右から進んで来たパルスが通過して行く様子を,時間を追って上から順番に描いたもので,点線でやってきた波を記している。実

際にその瞬間・瞬間に媒質に,媒質はどのような変位を示すか,できる波の形を図中に描け(波が重なっている箇所では,y=y1+y

2,即ち,各点毎に変位の和

をとり点を打って行き,それをつらねるように曲線を描く,このときどこが変位0かによく注意すること)。

dy(x+⊿x)

dx

dy(x)

dx

d2y

dx2

x

vd2y

dt2

(d)(c)

d2y

dx2

d2y

dt2

d2y

dx2x

v

2πf

v

2

(a) (b)

dy(x)

dx

dy(x+⊿x)

dx

x

v

TT

θ1 θ

2

x x+⊿x

Fig2-2

⊿x

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Superposition前章でも少しお話ししたが,同じ媒質の同じ点に二つの波が来ると,波の上に波が乗ったような変位を起

こす。変位は ㈻ (変位 0)とし,変位(ずれ)を起こす方向(例えば上下方向)

にy軸をとり,いずれかの向き(例えば上向き) の変位を+,それと反対方向の変位を - として表現すると

(Fig2-3) , Ⅴ

^ ^ ^ (変位が+と-の場合は引き算,両方とも-の場合は-の足し算) のが見られる。これは 波

の Principle of Superposition と呼ばれる。

When two or more waves traverse the same medium, the displacement is equal to the sum of the individual displacement.また,二つの波が向かい合って進んで来て,あるところで衝突した場合,

。互いに向き合って話したり,歌を唱ったときなど,二人の真ん中で音がぶつかっているはずだが,相手の声も話も何も変化しない。このこ

とは,波がぶつかり合っても壊れも変形することもなく通り過ぎて来ることの証拠と言えよう。

水面の二点を叩いて波を出すと,それぞれの点から円形波が広がって行く。この円形波を見ると,交差しているにもかかわらず二つの円形波とも何事もな

く広がって行く。これも,波と波がぶつかっても何ら変形することなく互いに通過してゆくことの現れである。

reflection of Wave媒質が十分に広い(長い)場合は,波はどこまでも進んで行けるが,両端を固定した紐のように,媒質の広がりが限られている場合,端までやって来た波

は,そこで反射して行くが,このとき興味深いことが起こる。

他端が壁などに固定された紐や長い巻ばね等にパルス波を送り出すと,固定された端にまで達した波が反射して来るのだが,そのとき山は谷,谷は山に

なって帰って来る。このように ❻ ┞ ㌹ 。その様子はあた

かも壁の向こう側から逆位相の波が来て,壁で入射して行った波とすれ違って出て来る (Fig2-4a) ようにも見える。こうした現象を ❻ Fixed end

reflection と呼んでいる。*** Phase of the reflected wave at the fixed end become inverse. ***固定端に対し,例えば,紐や鎖等を鉛直に吊るし,上端を揺らして下方に波を送り出したとき,下端に達した波は,その先(下) に波のエネルギーを与えるも

のがないため, ┞ 。その様子は,端の向こうから

同じ位相の波がやってきて,端ですれ違ってゆくような動きを見せる (Fig2-4b) 。媒質が途切れ,端の媒質が自由に動けるような端を ❻ free end ,そこ

で起こる波の反射を ❻ free end reflection と呼んでいる。*** Phase of the reflected wave at free end doesn't become inverse***自由端で反射して位相が変わらないことより, ことの方が不思議かと思う。だが,物ではなく

揺れ=エネルギーである波の場合,エネルギーを与える相手がない,あるいは十分に与えることができなければ,そのエネルギーが自分に戻ってくるしかな

くなるため,波は何もないようなところで反射を起こす。位相が変わらぬこととともに,反射することを理解しておきたい。

固定端や自由端でなくても,媒質の密度や振動しやすさなどの状態が変わる境目に波が来ると,そこで,波は透過してゆく波 transimitted wave

と反射して来る波 reflected wave とに別れる。透過波は入射波に比べ弱くはなるが,位相が変わることはない。だが,反射波の位相は,㈻ ❻ ㌹ (Fig2-4c) , ㍇ ㈻ ❻

㌹ (Fig2-4d) 。

x

y

0

- の変位

+の変位

Fig 2-3

Fig2-4(a) 固定端反射

(b) 自由端反射

(より遅い)

入射波

反射波

透過波

(前)

(後)

(c)

(より速い)

入射波

反射波 透過波

(前)

(後)

(d)

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このことは 次の Investigation 1 のような実験で,途中から媒質が異なる十分に長い‘波すだれ’を作り,パルスをおくりだすことや,

ことでも観察できる。

 Investigation1  Observation of Superposition by Hand-made Wave Machine 《How to make》

◇ 机に型紙を置き,その上にセロテープを接着面を上にし机に固定する(両端を折り曲げて机に貼るとよい)。

◇ 長いストローを50本以上用意し,例えば1.5cm間隔で(裏返して吊ったときに傾かないように中央で)きちんと等間隔に貼り付けて行く。

◇ 貼り付け終わったら,セロテープの両端を持って持ち上げ,ストローが吊り下がるように裏返しにし,なるべく平になるように,テープの両端を椅

子などに固定する。

⑴端の棒を指で摘み,小さく上下させると,ストローすだれに何が起こる?

⑵他端を押さえていない場合(Free End)と,押さえている場合(Fix End),反射波が生じないのはどちら? また,どのような反射波ができる?

⑶ 両端の棒を指で持って,いっしょに小さく上下させる。中央でぶつかった波はどうなる? 

また,ぶつかった後,波ははね返って行くのか,それとも通り過ぎて行く?

  <Detect More> 

◇ ストローにスパゲッティーを入れたものを1.0 cm 間隔で同様のすだれ(B)を作る。

◇ はじめのすだれ(A)と密度の大きなすだれ (B) とが連続するように接続して連成すだれ(C)を作る。

⑷ 端を小さく上下させて送り出された波は,すだれAとすだれBの境目に達した後,どうなる?

**非常にわかりにくいが,頑張ってよ~く観察すると,次のようなことが見えなくもないと思うが,どうだろう?

▽ すだれBに進んで行く波(透過波)は同位相だが,振幅は減り,波長は短くなり,ゆっくり進んで行く

▽ Bに進む波と同時に,境目で反射して来る波が生じる。その波の振幅は小さくなり,波長も速さも変わらないが,位相が逆さになる。

( Top View )

( Side View ) 40cm以上40cm以上

(両側から山を出したとき)

(一歩からは山,他方からは谷を出したとき)

(Free End)

(Fixed End)

BA

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Stationary Wave 『一つの媒質に とき,そこにはどのような波が見られるだろうか? 下に,二つの正弦波を1/8周

期ずつ(従って,波長の1/8ずつ)ずらした波の図が1周期分,順番に描かれている。順次,その瞬間毎にできる変位=波の形を図に書き入れてみよう。さら

に,それら8枚の図を Fig2-5(b) に記入し,媒質全体がどのような動きを見せて来るか見ると,その答えが出る。

上記の9つの合成した波を,Fig 2-9(b) にまとめて描き,実際に媒質がどのような動きをするのか想像してみよ。どこかで見たことがないかな?

t = 0

1/8 T

2/8 T

3/8 T

1/2 T

5/8 T

6/8 T

7/8 T

t = T

(b)

Fig2-5(a)

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 Investigation 2  Standing Wave① 図1のように,つるまきばねの両端を二人で持って立つ(この長さは変えてはいけない)。

② どちらかの人が,ばねの一端を左右でも上下でもよいが振動させ続ける

(もう一人はじっと持っているだけで動かさない)。

③ タイミングが合わないと,ばねはぐじゃぐじゃしているだけで振動らし

い振動をしないが,振動の速さがうまく合うと,ばねの動きと手の動きが

して,図2のようにきれいな形で振動する。

④ 振動を速めると,図2のようにお腹の数が増す。

⑤ 図2のような振動を総じて と呼ぶが,定常波ができる(きれいにお腹ができる)のは,タイミング

=振動させる速さがマッチ(共振)した場合だけで,どんな速さで振動させても定常波ができるわけではな

い。その振動を と言う。

☞Measurement & Consideration 

定常波の の数と,振動の周期(1回の振動にかかる時間)にどのような関係があるだろうか? 振動させ

ていて,定常波が安定してきたら,実際に振動させている人が,振る回数を「0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10」と声を出

して数え,それを別の人がストップウォッチで測る(交替で必ず皆が振る役をして,定常波ができるときの感覚を掴も

う)。さて,測定結果を横軸におなかの数,縦軸に周期ないしは振動数をとったグラフに表し,その関係を探る

とともに,なぜそうなるのか考察せよ。

波は媒質の端で反射して来る。そのため,Inv.2 のように,巻きばねの一端から手で波を送り込み続けると,手から送り込まれた波と,端で反射して来た波

とが同時に同じ巻ばねを逆向きに進み,その結果,どちらにも進んで行かない,Inv.2 -図2のような波ができる。この右にも左にも進まず, antinode (大き

く振動する部分)と Node (振動しない部分)とが並びぶ波は stationary Waveあるいは Standing Wave と呼ばれる。この定常波,それは楽器の弦が起こす振動そのものである。そう,弦が起こしていた振動はその弦を左右に行き交う波の重ね合わせでできていた波だったのである。

定常波は反対方向に進む波の重ね合わせで生じる波だが,振り返って見ると,定常波の

である Distance between adjacent antinode or node is one half wavelength..・・・ 。弦が振動するとき,長さℓの弦にお腹がぴったり整数個入り両端に節ができなくてはならない。従って,長さℓの弦に定常波を作れるような波の波長はいくらでもよ

いのではなく, のものに限られる。例えば,弦の長さが 60cmのとき,そこに定常

波を作ることができるのは (a) のように,波長が 60/1 × 2=120cm の波か

(b) のように     60/2 × 2=60cm の波

(c) のように     60/3 × 2=40cm の波

(d) のように     60/4 × 2=30cm の波

に限られ,それ以外の波長の波は定常波を作ることができない。これ以外の波長の波を送り込むと,Fig2-7

のように反射し折り返すごとに位相が少しずつずれてゆき,幾重にも折り返した波が重ね合い結局は互いに

打ち消し合い,波の生じていない状態 (一直線) になってしまう。即ち, 

  ℓ= ×N → f=    =   N の振動を与えたときだけ弦に

振動が生じる。このような振動数をその弦の natural vibrationと呼ぶ。固有振動数は一つではなく,N=1 , 2 , 3 , 4 , 5 , 6 , ・・・ といく

つもあり,それは式が示すように,f1=   の整数倍となる。

例えば,Inv.2 で (a) のようなお腹一つを作ったときの周期が0.80秒 ⇒ 振動数 1.25 [Hz] であったなら,二つのお腹ができるのは 2.50 [Hz] のとき,3つ

のお腹ができるのは 3.75[Hz] のとき,4つのお腹ができるのは 5.00[Hz] のとき,・・・ というように一つのお腹を作る振動数= fundamental

frequency の整数倍の振動,2つのお腹を作る ,3つのお腹を作る ,4つのお腹を作る ,・・・ (resonant frequency) といった振動で,それ以外の振動数で振動させても弦は振動できない。言い換えれば,弦は押さえる位置=長さを決めたなら出る音の振動数=高さが決まる。

 Consider 1 T=12.0[N] の力をかけて張られた,線密度ρ=3.00×10-4 [kg/m] ,長さ 1.00[m] の弦では v=  12/3×10-4 =200[m/s] で波が伝わる。

⑴ これに基本振動を起こすにはいくらの振動数の振動を与えればよいか?

⑵ これに2つ,3つ,4つのお腹をある振動を起こさせるには,それそれいくらの振動数の振動を与えればよいか?

⑶ ⑴の振動数の半分の振動数の振動を与えたとき,また,1.5倍の振動数の振動を与えたとき,弦はどのような振動を起こすか?

長さを変えない

図 1

図 2

Fig 2-6

(a)

(b)

(c)

(d)

おなかの数 10回振動時間⑴ 周期⑴ 10回振動時間⑵ 周期⑵ 10回振動時間⑶ 周期⑶ 振動数の平均

1

2

3

4

ふし

はら

・・・

λ

2

λ

2

v

2ℓ

v

2ℓ/N

v

2ℓ

Fig2-7

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 Investigation 3  【Ⅰ】図のように,糸(1.5̃2.0m程度) の左端をスタンドで固定し,振動体(スピーカーに付けた円筒の穴) を通し,滑車を使い,錘り(500g前後) を吊るす。初

めℓ=80cm̃1m程度にし,スピーカーにつないだ発振器の振動数を徐々に上げてゆく。すると,ある振動数で糸が急に大きく振動し出す (腹が1つ) 。

⑴ 張力T,長さℓはそのままにしたとき,振動数 f を上げても波の速さ v は変わらない。それゆえ,振動数 fN=     で糸を振動させれば,糸に

はN個のお腹のある定常波が生じるはずである。ℓを変えずに弦に与える振動数を徐々に上げて行き,定常波ができる振動数を測定し,お腹の数と振動

数との関係を調べよう。

⑵ 次に,糸の振動部分の長さℓを変えて行き(例

えばℓ=50,60,70,80,90,…cm),それぞれ

の長さでの基本振動数 f1を測ったなら,f

1と 

 とで比例するグラフが得られるだろう。

また,使っている糸の質量と長さを計り,糸の

線密度ρ[kg/m] ,吊るした錘りの質量m[kg] か

ら波の速さ v= mg/ρ を求め,グラフに理論

値を記入せよ。 

【Ⅱ】糸をやや太めで伸縮のよい糸(タコ糸等)に,

吊り下げている錘りを30~50[g] のものに替え,

振動体の位置を少し高くし,振動体がゆっくり振

動させたとき,錘りを吊るす部分の糸が上下する

ようにする (右図破線) 。さらにℓ (振動体~滑車の長さ)と x(滑車~錘りの糸の長さ)とをほぼ同じにして,振動数を振動体と滑車の間にお腹が二つできる

ようにすると,滑車~錘りの間の糸にも定常波ができるが,ちょっと面白いことが起こったのではないか? なぜだろう?

 Consider 2 プラスチック製のつるまきばねの両端を二人で持ち,一方の人が振動させ続けたところ,他方の人はただ持っているだけで,タイミングが合うと,ば

ねに腹と節のある定常波が作られた①。このとき面白いことに振動を与えている人の持

つ位置もほぼ節となっており,腹の振幅は手の振れの何倍もの幅で揺れた②。

そこで,お腹の数によって周期がどう変化するか知るため,10回振動するのにかか

る時間をそれぞれ三回ずつ測定したところ,右表のような結果が得られた。見ると三

回の測定値を平均して求めた周期は腹の数を増すと減っており,下のようなグラフに

なる。どうも周期は腹の数に反比例しているように見える③。

さらに,試しにばねを初めのときの2倍程度に伸ばし測定したが,結果は右表と有為なさがなかった④。

⑴(下線部①)一方から波を送り込み続けることで,なぜ定常波ができるのか?

⑵(下線部①)なぜ,タイミングが合わないと定常波が作られないのか。

⑶(下線部②)振動させている手許よりはるかに大きな振幅のお腹ができるのはなぜか?

⑷(下線部③)確かに反比例していることを示すグラフを作成せよ。

⑸(下線部③)なぜ,周期がお腹の数に反比例するのか,ばねを伝わる波の速さv,ばねの長さℓとするとき,N個

のお腹ができる条件を解説することで,そのことを解明せよ。

⑹(下線部④)紐(弦)を伝わる波の速さが v= (張力)/(密度) といった性質があることで,伸ばしても周期

が大きな変化が見られないことを示せ。ただし,ここに密度は単位長さ当たりの質量を指す。

⑺ (張力)/(密度)が速さの単位を持つことを示せ。

 Consider 3 糸の一端を固定し,他端には滑車を介して 500 g の錘りを吊るす。その糸の途中の任意の位置で糸を振動させられるような振動体を取り付ける。

⑴ 滑車から振動体までの長さがℓ=60.0cm の位置で,振動体を 50.0[Hz] で振動させたところ,滑車と振動体の間にお腹が2つできた。このことから

何がわかるか?

⑵ 振動体の振動数をいくらに変えたなら,ℓ=75.0cm の位置で3つのお腹ができる

か。

⑶ ⑵の振動数で,振動体の位置を静かに左方向にずらしていったとき,糸に起こるのは

次のうちのどれか。

(  ) ① ℓがいくらであっても,必ずお腹が一つできる。

(  ) ② ℓがいくらであっても,滑車から 25.0 cm ごとに節ができる。

(  ) ③ ℓ=75.0,50.0,25.0 cm 付近以外のところでは糸は振動しない。

波が速さvで伝わる長さLの媒質の右端 ( x=L ) を固定し,左端にy=A sin2πf t

の振動を与えると,位置x の点に y1=A・sin 2πf(t-  ) の変位を作り出すよう

な波が送り出されて行く。その波が右端で固定端反射をすると,媒質には x=2L

の位置にあり左端とは逆位相で振動する波源から送り出されたような反射波 

腹の数 振動数 [Hz] 周期[s] 測定1 測定2 測定3

1 1.34 0.75 7.51 7.67 7.20

2 2.37 0.42 4.33 4.39 3.92

3 4.02 0.25 2.46 2.41 2.60

4 4.94 0.20 1.82 2.01 2.24

v

2ℓ/N

1

(吊るす錘りの質量は250[g] 以上(500[g] 前後)のものを使う。初め,どこで振動するかわからないので,10~

300Hzの範囲で大雑把に振動数を変えて行く。すると,ある振動数付近で突然振動し出すので,最も大きく振動

する振動数に正確に合わせる。あとの2つ以上のお腹の振動はあるていど予測しながら合わせて行く。)

m

x

x

v

x

y

0L 2L

0.8

0.6

0.4

0.2

043210

周期[s]

腹の数

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y2=-A・sin 2πf (t-     ) も入ってくる。さらなる反射波は問題にしないで,入射波と反射波の合成波を考えると

 y=y1+y

2=A sin2πf(t-  )-A sin2πf(t-    )=2A sin2πf    cos 2πf (t-  ) 

得られた式において,時間変化するのは cos2πf (t-  ) の部分で,その前の 2A sin2πf    は位置によって決まってしまう。言い換えると x の点

の振幅が 2A sin2πf    で,どの点も cos2πf (t-  ) と位置x による位相のずれはなく,振幅の違いが合っても同位相で振動することがわかる。

また,式によると x=L の右端は振幅 2A sin2πf    = 0 となるが, x=0 の左端は 2A sin2πf  で 0 にはならない。左端を振動させて弦に定常波

が作られるとき,0 点の振幅もほぼ 0 でなくては定常波ができないのであるから 2πf  =Nπ → L=N  =N  の条件が満たされると,両端に節

ができ,弦にきれいな定常波ができると説明がつく。その場合の,点 x の時刻 t における変位は 

y=2A sin (Nπ-2π  )・cos(2πft-Nπ)=2A sin 2π  ・cos 2πft  となり,x=  ×n (n;整数) の点の振幅は 0 ,即ち,節になること,

また,2π  =(2n+1)   (n;整数) の点の振幅は 2A ,即ち,腹となることがわかる。

なお,実際には,弦に入ってくる波は,左端から送り出される波と右端から反射してくる波の二つだけではなく,波は反射して来て再び左端で反射し,さら

に右端で反射し・・・と幾度も幾度も反射を繰り返し,振動を続けていると弦には無数の反射波が入り重ね合わさる。すると,計算上は,振幅が無限に大きくな

ることになるが,往復しているうちに波が減衰し,送り込まれるエネルギーと減衰するエネルギーが等しくなることで定常状態に達する。

 Consider 4 (2008岡山大)周波数を変化させることのできる発振器にスピーカーをつなぎ,これに弦を水平に取り

付け,上下方向に微小に振動させる。弦の反対側には滑らかな滑車を通して,質量が

0.25[kg] のおもりを複数個取り付けることができる。

(1) おもりを1つ取り付けてスピーカーを100[Hz] で振動させた場合,図のように腹が

3っの定常波が観測され,中央の節と節の間隔は0.25[m] であった。この場合,波の波

長は( ア )であり,弦を伝わる波の速さは( イ ) である。

(2) おもりを1個から10 個まで増やし,(1)と同じように3つの腹を持つ定常波が見られ

る周波数をそれぞれの場合で測定したところ,表のような実験結果を得た。お

もりの質量と定常波のできる周波数の関係を調べるために,図2のように横軸

をおもりの質量として縦軸が (a) 周波数 f [Hz] ,(b) 周波数の二乗f2 [Hz2]

,(c) 周波数の逆数 1/f [Hz -1] の3つのグラフをそれぞれ作成した。おもりの

質量 x [kg] と3つの腹を持つ定常波が観測される周波数 f [Hz] の関係を最も

わかりやすく表すグラフは( ウ ) であり,

周波数 f は( エ ) に比例すると考えられ

る。この関係から,おもり2個の時に3つの

腹を持つ定常波は ( オ ) [Hz] で観測される

と予測される。

(3) 固有周波数が 120 [Hz] から 360 [Hz] の範

囲に含まれるおんさがある。スピーカーから

200 [Hz] の音を発生させ,おんさと同時に鳴

らすと周期 0.5 秒のうなりが発生した。ス

ピーカーからの音を 201 [Hz] に変えると,うなりの周期は長くなった。このおんさの周波数を求め,その導出過程とあわせて解答欄に記述せよ。

Vibration of String長い巻きばねや弦に生じる振動,実はそれがそこを行き来する波が重ね合わさってできる定常波といった波動現象の一つとして捕らえることで明解に理解

できることが見えて来た。弦楽器の弦はその太さ,張り,押さえる位置で発せられる音の高さ (振動数) が変わる。また,弦の材質,楽器の種類(琴かバイオリン

かギターか等々)や弾き方等によって音色 ( 音の波形) も変わる。そこでこの章の最後に,音の高さがどう決まるのか,音色の違いがどこから来るのか,

FFT(Fast Fourier Transformation) Software =音声分析ソフトを使い調べてゆこう。まず,弦が出す音の高さについてだが,それは弦の種類(太さ,材質),張り方を調整し,押さえる位置を変えて音の高さを変えていることが思い出され

る。弦が音を出したとき(特別な場合を除いて),弦には必ず右図の(1) のような振動が起こる。この振動を と呼ぶが,その振動数 f1は 弦の長さL,

波が伝わる速さ v のとき と弦の長さ ・・・ 楽器で言うと‘弦を押さえる位置’で変わる。

このとき,両端を抑えられた弦には (2) , (3) , (4) ,・・・ のような振動も同時に起こる。それらの振動数は

⑵ λ2=(L/2)×2=  L → f

2=(v/2L)・2=2f

1 

⑶ λ3=(L/3)×2=  L → f

3=(v/2L)・3=3f

1 

⑷ λ4=(L/4)×2=  L → f

3=(v/2L)・4=4f

1 ・・・

と,いずれも基本振動数 f1の整数倍となる。そのため,⑵ , ⑶ , ⑷ , ・・・ のような振動は

総称して harmonic vibration ,そうした振動によって出される音は

総称して harmonic Sound と呼ばれる。実は,弦を弾いたとき,。即ち,弦が例えば260Hz の基本振

動をするとき,弦には倍振動が同時に起こっており,260Hz , 520Hz , 780Hz , 1040Hz , 1300Hz , ・・・ といっ

た倍音が同時に出される。

図 2

スピーカー

発振器

0.25m

滑車

おもり

図 1

317301283265245224200173( )99

10987654321

周波数[Hz]

おもり(個)

2L-x

v

Fig 2-7

(1)

(2)

(3)

(4)

L

・・・

x

v

2L-x

v

L

v

L-x

vL

v

L-x

vL-x

v

L

vL-L

vv

2f

λ

2

x

λλ

2

x

λx

λ

π

2

2

3

L

vL

v

2

2

2

4

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しかしそれはどういうことか理解に苦しむかと思う。Fig 2-8を見て欲し

い。同じ媒質に複数の波が入ると媒質にはそれらを重ね合わせた波ができる。

倍振動の場合,その波長は基本振動の整数分の1であるから,N倍振動の波は

基本振動の波1個の中にちょうどN個入る。そのため,倍振動が重なり形が変

わっても,その変わった形の波が基本振動の周期で繰り返される。図(a) は基

本振動,(b)では2倍振動が重なり波形が変わっているが,もとの基本振動と同

じ周期で繰り返している。(c) はさらに3倍振動が重なり波形が変化してい

る。だが周期は基本振動と変わらない。(d)では,強めの4倍振動が加わり,

波形はさらに複雑化しているが,周期は変わらない。波形が変わっても,周期

が変わらなければ音の振動数(高さ)は変わらない。即ち,倍振動が様々に混

ざっても,

・・・ ただし,奏法によっては基本

振動が出ない場合もある。そうしたときには,最も長い周期の振動によって音程が決ま

る場合がある。

《例1》250 N (≒25 kgw ) で張られた,密度0.025 kg/m の弦を伝わる波の

速さは  v=    =100 m/s ,その弦を固定している位置から

25.0cmのところで押さえて弾くと,波長50.0 cmの波による200 Hzの基本

振動および 400Hz , 600Hz , 800Hz ,・・・ といった振動が併せて起こ

る。ただし,それら以外の例えば150Hz , 300Hz , 500Hz, ・・・もちろん

201Hz も199Hz の振動も起こらない。弦を弾いて起こる振動はこうした倍

振動がmixした 200[Hz] の振動である。

(註) 弦から出される倍振動は 2,3,4,・・・倍ばかりではない。10̃30倍振動なども普通

に出される。さらにとんでもなく離れた可聴領域の限界前後の振動さえも含まれ

る。機械によってはこのかけ離れた高い振動数(それも基本振動の整数倍)が再現

できないため,音が忠実に再現されない。

《例2》500m/sで波が伝わる弦を25.0cmの位置で押さえて弾くと,お腹の

長さ 25.0 cm ,即ち,波長 50.0 cm の波による振動が起こり,1000Hzの

音が出る。また,押さえる位置を30.0cmの位置にずらすと,波長 60.0 cm

の波による基本振動で,833Hzの音が出る。

また,このような話をすると「どのようにしたら,様々な倍振動を入れる

ことができるのか?」「それこそ特殊な弾き方をしなくてはいくつもの倍振

動が入らないのではないか」と思うかも知れない。しかしそれは難しいこと

ではない。弦を引っぱたとき弦が三角形や不等辺三角形といった形になるのが普通で,sin型になることはまずない。実はこうした単純な形自体,たくさんの

波長のsin波の重ね合わせでできている。

一般に,振動数 f の振動による任意の時刻 t での媒質の変位は y=A1sin 2πft,2f

による変位は y2=A

2sin2π2ft , 3f による変位は y

3=A

3sin2π3ft,・・・ で表され

る。これらの倍振動を同時に起こすと,媒質はそれらを重ね合わせた

y=A1sin 2πf t + A

2sin2π2ft + A

3sin2π3ft + ・・・  

といった変位を起す。例えば,奇数倍振動を奇数分の1の振幅で重ね合わせると

y=10sin2πft+  sin2π3ft+  sin2π5ft+  sin2π7ft+  sin2π9ft +・・・

を,第一項,第二項まで,第三項まで ・・・ をグラフに描いて行くと,Fig 2-10 (a)~

(f) のように,合成波形はしだいに矩形波となってくる。このように,一見単純な形に

見える矩形波にはいくつもの奇数倍振動が含まれている。

三角波も同様で,一見単純な形であっても,その形を作るには多くの倍振動が重な

り合わなくてはならない。弦に弓をあてて弾くということは細かな振動を与えてい

る。そのとき振動が端まで伝わらない間に別の波が送り出されるなど,細かな歪みの

ある三角ができたりする。このように倍振動はsin型でないところにいくつも含まれて

いる。

 Consider 5 長さ70.0cmの弦を弾き発せられた音の振動数を測定したところ300Hzであった。

さらに,その音をPCで分析したところ,Fig2-8(d) のような波形とスペクトルを持

つことがわかった。

⑴ この弦を伝わる波の速さはいくらか?

⑵ このとき弦から出された音にはどのような振動数の倍音が含まれているか?

⑶ この弦を長さ50.0cmのところで押さえたとき出される音の振動数はいくらか?

⑷ ⑶の音に含まれる倍音にはどのような振動数のものが含まれている可能性があるか。

⑸ 振動させた長さ70.0cmの弦の中央を軽く指で触れて離すことはどういった効果が考えられ

るか(Harmonic奏法)。

f

A

0

f

A

0

f

A

0

f

A

0

Fig 2-8

(a)

(b)

(c)

(d)

y = A・sin2πf1t

y = A・sin2πf1t +0.5A・sin2π2f

1t

y = A・sin2πf1t +0.5A・sin2π2f

1t +0.3A・sin2π

3f1t

y = A・sin2πf1t +0.5A・sin2π2f

1t +0.3A・sin2π3f

1t +0.7A・sin2π4f

1t

10

3

10

7

302520151050

(a)

0

302520151050

(b)

0302520151050

(c)

0302520151050

(f)

0

0

(d)

30252015105

0

(e)

302520151050

250

0.025

70 cm

Fig 2-9 音声スペクトルの例

ある音のスペクトル。縦軸が振幅,横軸が振動数。一番,左が基本振動で順番に 2 , 3 ,

4・・・倍振動が56倍振動まで現われている。一つの弦等からの振動はこのようにたくさん

の倍振動を含むが,それ以外の振動数の音は含まず,スペクトルは等間隔に並ぶ。

Fig2-10

10

5

10

9

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 Investigation 4  コンピューターの表計算ソフト Excel を使い,

A1 に,これから描こうとする波の振動数(例えば,3Hz なら‘3’と置く),B1 に“=2*PI()*A1” と入れ‘2πf’の値を置こう

第2行には横に何倍音について計算するか,Eの列には基本振動を計算するので E2 には“1”を,F列には2倍振動を計算するのでF2には“2”

G列には3倍振動を計算するので G2 には“3”を・・・ というように加味したい倍振動の値を置いて行く。

第3行には横に基本音~倍音の振幅を入れておこう。

5列目 E3 から右に,加味したい倍振動の振幅 A1, A

2, A

3, A

4, A

5, A

6の値 (-1 ~ +1 ) を記入する(好きに決める)。

第1列には縦に時刻を入れる;5行目 A5 に‘0’,A6 に‘A5+0.01’と入れ,A7~A105 まで‘下方へコピー’する

(ここから各倍音ごとに各時刻に於ける変位を計算し,表に値を書き入れて行く)

5列目に基本振動‘A1sin 2πft’の値を記入するため E5 に“= E$3 *sin( $B$1 * E$2 * $A5 )”と入れる。

5行目に 加味する倍振動全てに対して E5 を‘右方へコピー’し,続けて,E5 ̃ I5 すべてを 105行まで‘下方へコピー’する

B2 に,“=SUM(E5:I5)”を入れ,それを B105 まで‘下方へコピー’する

(5倍音まで加味するとしてI5 としたが,何倍音まで加味するかによって使う列は適当に使えばよい)

2列目 B5 ~ B105 を選択し,折れ線グラフを描くと1秒間の波の形がグラフに表示される。

◇ A1 が振動数,2行目が加味する倍振動の種類,3行目がそれら倍振動の振幅であることを考え,それらの数字をいろいろ入れ替えて,波形がどのよ

うに変化するか試してみよ。

◇ これを使い次の波がどのようなものになるか,N=10まで加味して描いてみよ。

f(t)=sin2πft+  sin2π3ft+  sin2π5ft+ ・・・  =Σ   sin2π(2N-1)t   N=1,2,3,・・・

f(t)=sin2πft-  sin2π2ft +  sin2π3ft- ・・・  =Σ   sin2π(2N-1)t   N=1,2,3,・・・

 Investigation 5  Computer にMic を付け,FFT (Fast Fourier Transformation) のソフトを使うと,Mic に入った音の波形と

その音の音声 spectrum ・・・横軸に音の振動数,縦軸にその振動数の音の強さをとったグラフ・・・が real time で表示

される。音声 spectrum は取り入れた音が,どのような振動数の音がそれぞれどれほどの強さで重ね合わさっ

ているかを表している。

停止ボタンをクリックすると,その瞬間の音声spectrum が画面に示されたままになる。静止させた状態で

spectrumの画面にカーソルを持って行くと,その場所の振動数が表示されるので,実際に何か弦楽器を持っ

て来て,その音を取り込み,そのスペクトルを記録し,さらにそれぞれのピークの振動数と強さを読み記録

し,ここで学習したことを考えあわせてみよう。

またその音を出した弦の長さを測り,発せられた振動数から,その弦を伝わる波の速さを求めてみよう。測

る前に想像していた値と比べてどうだったか?

 Consider 6 弦はそこを伝わる波動の速さが174 m/s になるように張力を調整してある。

⑴ 弦に290 Hz の小さな振幅の振動を与える振動体の位置を,Bの近くから

ゆっくりと離して行ったととき,AB間にはどのようなことが見られるか。 

①つねにAからBに向けて波長60 cmの波が伝わって行く。 

②どの位置でも,AとBとが節になり腹が一つできるような定常波ができる。

③ABが30cmのN倍(N:整数)になったときにだけ,ABが一つの腹になるような定常波ができる。

④ABが30cmのN倍(N:整数)になったときにだけ,節から節までが30cm の腹がN個並んで見える。

⑤点Bはつねに節となるという条件で(A点は節にも腹にも中間にもなる),節から節までが30cmの定常波がつねにできている。

⑥Aが腹,Bが節になれるような,AB=15cm,45cm,75cm‥‥にのときにだけ,弦に節から節までが 30cm の定常波が作られる。

⑵ 振動体Aの振動を止め,AB = 50.0 cm に固定し,弦ABを弾いて音を出した。その音の振動数はいくらか。

また,その音の中に含まれることはありえない振動数は次の中のどれか。 

① 87   ② 174   ③ 348   ④ 522   ⑤ 870

1

3

1

5

1

2N-1

1

2

1

3

(-1)N

N+1

A B

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 Consider 7 (2014東工大) [A] 図1のように,長さLの弦を,左右の端を固定して,一定の張力Sでたるむことなく張

る。この弦を振動させると,定常波が生じて音を発する。弦を伝わる波の速さを v とする

と,v は弦の張力Sの平方根 S に比例することが知られている。弦の近くに,音の振動数

を連続的に変化させることのできる音源を置き,音を出す実験を行う。

(a) 音源の出す音の振動数 f を0 から連続的に大きくしたところ,ある振動数 f0ではじめ

て音源からの音と弦が共鳴し,音源と同じ振動数の定常波が弦に生じた。f0をvとLを用

いて表せ。

(b) 問(a)に引き続き,音源の出す音の振動数 f を f0から連続的に大きくしたところ,今度は振動数 f

1で弦が共鳴し,音源と同じ振動数の定常波が弦

に生じた。f1をvとLを用いて表せ。また,定常波の腹と節の弦の左端からの距離を,弦の両端を除いて全て答えよ。

(c) 弦に最も波長の長い定常波を生じさせて音を出し,同時に音源から一定の振動数の音を出す実験を,様々な張力で行った。弦の張力が S0の時,弦

の出す音は音源からの音よりも低く,うなりが単位時間あたり 2回生じた。次に,張力を S0より大きな S

1としたところ,弦の出す音は音源からの

音よりも高ぐ,うなりは単位時問あたり1回生じた。弦と音源の振動数が一致するときの弦の張力 S を,S0と S

1のみを用いて表せ。

[B] 設問[A]では両端を固定された弦に生じる定常波を考えた。ここでは十分に長い弦を伝わる進行波と定常波の関係について考えよう。静止していると

きの弦の方向に沿ってx軸,x軸と直交する方向に y軸をとり,図2のように,それぞれ右向きと上向きを正の向きとする。時刻 t ,水平位置 x におけ

るy方向の変位が   y1=A sin {2πf (t+  )}    ・・・・・・①

で表される波は x軸を左向きに進行し,y方向の変位が

y2=-A sin {2πf (t-  )}    ・・・・・・②

で表される波は x軸を右向きに進行する (図2) 。ここで,A は波の振幅,f は 振

動数,v は波の速さで,いずれも正である。

(d) 以下の空欄に入る適切な数式を答えよ。

弦に式①と式②で表される波が同時に存在する場合,それらを重ね合わせた

y=y1+y

2=2A sin(  1  ) cos(  2  )   ・・・・・ ③

で表される定常波が観察され,x=0 が節となることがわかる。ここで,公式  sin(α十β)-sin(α-β)=2cosαsinβ を使った。各水平位置にお

ける定常波の y方向の運動は,振動数 f の単振動である。定常波の振幅が最大値2A をとる腹の位置は,k を整数として x=  3  で与えられる。ま

た,x=0 に加えて,x=L も節となる状況では,弦の振動数 f と区間の長さ L の間には,ℓを自然数として f= 4  という関係が成りたつ。

このとき,0 ≦ x ≦ L の区間に注目すれば,式③は設問 [A] で考えた両端を固定した弦に生じる定常波に対応する。

[C] 弦を伝わる波の速さv は,弦の張力 S の平方根 S に比例する。これを弦の簡単なモデルを用いて考えよう。図3のように,弦を,N+1 個の質量

mの質点が,質量を無視できるひもでつながった系と考える。弦の両端間の水平距離を L として,静止しているときの弦の方向に沿って x 軸をとり,

右向きを正の向きとして,弦の左端を x=0 ,右端を x=L とする。左端の質点の番号を 0,右端の質点の番号を N として,質点に順に番号 n=0 , 1 ,

2 , ・・・, N を与え,n番目の質点の水平位置を xn, 垂直変位を y

nとする。両端の質点の水平位置と垂直変位は,それぞれ x

0=0 , y

0=0 および x

N=L ,

yN=0 に固定する。隣り合う質点間の垂直変位の差 ¦y

n+1-y

n¦ は,質点間の水平距離 ¦x

n+1-x

n¦ に比べて十分に小さく,ひもの長さが変化しても張力

S は常に一定とする。重力や空気抵抗は無視する。

(e) 以下の空欄に入る適切な数式を答えよ。なお, 7  ~  10  の解答は S , f , b , v , n のうち必要な記号を用いて表せ。

まず,質点がひもから受ける力を求めよう。図4のように,n番目の質点 (n=1 , …, N-1) の右側のひもに注目し,水平方向とひものなす角度をθ

とすると,xn, x

n+1, y

n, y

n+1を用いて tanθ= 5  と表すことができる。仮定より角度θは微小なので,cosθ≒1 , sinθ≒tanθ= 5  と近似

できる。この近似では,質点が右側のひもから受ける力の水平成分 Sxは S

x≒ S となる。同様に,左側のひもから受ける力の水平成分も-S と近似

できるので,質点に働く合力の水平成分はつりあい,質点は垂直方向にのみ動くと考えることができる。そこで,質点間の水平距離を一定値 b=  

としてn番目の質点の水平位置を xn=nb と表す。すると,n番目の質点が右のひもから受ける力の垂直成分 S

yは,S , b , y

n, y

n+1を用いて

Sy≒ 6  となり,左右のひもから質点が受ける合力の垂直成分は, F

n≒  7  ×(y

n+1-2y

n+y

n-1) と表すことができる。

弦を伝わる波の速さをvとし,弦の振動が振動数 f の定常波であるとすると,n番目の質点の垂直変位は,設問 [B] の式③の x を xn=nb とおく

ことにより,  yn=2A sin(  8  ) cos(  2  )・・・・・ ④   と書くことができる。

これは単振動を表すので,n番目の質点の加速度は  an=- 9  ×y

n ・・・・・ ⑤  となる。

n-1番目と n+1 番目の質点の垂直変位 yn-1, y

n+1も式④と同様に表し,公式 sin(α+β)+sin(α-β)=2 sinα cosβ を使うと,

力 Fnは   F

n≒  7  ×2{ cos(  10  )-1}×y

n   ・・・・・ ⑥  となる。

式⑤,式⑥をn番目の質点に関する運動方程式 man=F

n に代入し,公式 cosα=1-2sin2  を用いると,

m× 9  ≒ 7  ×4sin2 (  ×  10  )    ・・・・・・⑦ が得られる。さらに,定常波の波長が質点間の距離よりも十分に長い場

合を考える。このとき, 10  で表される量は小さいので,¦α¦ が小さいときの近似式 sinα≒α を式⑦に用いると,弦を伝わる波の速さは S ,

b , m を用いて  v ≒  11    と近似され,波の速さ v は張力 S の平方根 S に比例することがわかる。

x

v

L

N

α

21

2

左端

音源

L

右端S S

図 1

図 4

θ

xn

xn+1

yn+1

yn

n n+1

Sy

Sx

S

L

L

N0 1 2 n-1 n n+1・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・

0

y

x

S

yn

xn

S

図 3

N-1N-2

0

y

xL

図 2

進行波①

進行波②

x

v