高齢化社会とHIV...高齢化社会とHIV...

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平成 28 年度 エイズ治療啓発普及事業 高齢化社会とHIV 国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター 田 沼 順 子 平成 29 年 3 月 公益財団法人エイズ予防財団

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平成 28 年度 エイズ治療啓発普及事業

高齢化社会とHIV

国立研究開発法人国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター

田 沼 順 子

平成 29 年 3 月公益財団法人エイズ予防財団

公益財団法人エイズ予防財団では、厚生労働省委託事業の一つとして、エイズに関する治療、研究等の情報を全国のエイズ治療拠点病院の医療従事者、研究者等に提供し、同拠点病院の診療支援を行うことを目的とする「エイズ治療啓発普及事業」を実施しているところですが、今般、この事業による情報提供誌として、本冊子を作成、発行することといたしました。本冊子は、平成 28年 11月、全国のエイズ中核拠点病院の相談員(カウンセラー)を対象として、カウンセリング技

術向上のために当財団が開催した研修会(厚生労働省委託事業「HIV感染者等保健福祉相談事業」の一環)における講義から、『高齢化社会とHIV』を取り出し、その内容を冊子としてとりまとめたものです。

高齢化社会とHIV

国立研究開発法人国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター

田 沼 順 子

1

高齢化社会とHIV

1.HIV 感染症・エイズをめぐる ホットトピックス

■ 全員治療時代を迎えた HIV 感染症と早期治療

2014 年、UNAIDS から「90-90-90」という概念が発

表されました。これは、HIV 感染者の 90%を診断し、そ

の 90%を治療につなげ、その治療につながった 90%の

人はウイルス量を検出可能値以下にするという目標です。

これを 2020 年までに達成して、さらに 2030 年までに

蔓延を終了させようということが世界的なゴールとされま

した(図 1)。

最近、他者への感染抑制に加え、AIDS 以外の合併症を

治療により減少させることが重要となっており、合併症の

抑制についていくつかの報告がなされています。その一つ

である START study という大規模臨床試験では、CD4

350/ μ L 以下と免疫状態が一定程度低くなるまで待機し

てから治療した群と、すぐに治療を開始した群とでイベン

ト累積発生率を比較したところ、すぐに治療開始した群で

心筋梗塞・脳梗塞・癌などのイベントの累積発生率が抑制

されることが示されました(図 2)。こうした結果や治療

薬の副作用が徐々に減少している現状を踏まえると、免疫

状態が一定程度低くなるまで治療開始を待つことはなく、

早期治療が重要であると考えられます。また、START

study の年齢層別の解析では、免疫状態が一定程度低くな

るまで治療を待った場合、年齢層が高くなればなるほどイ

ベントの累積発生率が高まることが明らかにされました

(図 3)。このことからも、年齢層が高い患者ほど早期治療

により、高い効果が得られることが示されています。

従来、CD4 高値の HIV 感染者に対しては、免疫状態を

経過観察して一定程度以下になったところで治療を開始し

高齢化社会とHIV 国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター(ACC) 田 沼 順 子

図 1 HIV 感染者、全員治療時代-他者への感染が減る

90-90-90An ambitious treatment targetto help end the AIDS epidemic

Released in 2014

90%

Diagnosed

90%

On treatment

90%

Virally Suppressed

60 0 12 0 12

VOL. 373 NO. 9

The N E W E N G L A N DJ O U R N A L of M E D I C I N E

ESTABLISHED IN 1812 AUGUST 27, 2015

図 2 HIV 感染者、全員治療時代 -AIDS 以外の合併症も減る

イベントの累積発生率

Cum

ulat

ive P

erce

nt w

ith a

n Ev

ent

10

8

6

4

2

0

START study

Initiation of Antiretroviral Therapy in Early AsymptomaticHIV Infection

The INSIGHT START Study Group*

すぐ治療 治療待機

イベント数 42 96

発生率(/100PY) 0.60 1.38

HR(赤/青) 0.43 95% Cl: 0.30 - 0.62 p<0.001

エンドポイント:AIDS, 非 AIDS 重症 , すべての死

:すぐ治療:CD4 350 まで待って治療

0 6 12 18 24 30Months

36 42 48 54 60

Age ≥ 50 yrs

図 3 HIV 感染者、全員治療時代 -AIDS 以外の合併症も減る

Cum

ulativ

e Pe

rcen

t with

an

Even

t 1614121086420

0 12 24 36 48 24 36 48 60 24 36Months NNT=206 Months NNT=151 Months NNT=45

48 60

START study Age<30 yrs Age 30 - 49 yrs

:すぐ治療 :CD4 350 まで待って治療 NNT:1つのイベントを防ぐために、何人の患者を「すぐ治療」しなければならないか

2.6

1.3

3.3

1.3

11.7

2.9

N Engl J Med 2015; 373: 795-807.

Abstract THAB0201, 21st International AIDS Conference, July 18-22, 2016, Durban, South Africa.

2

平成 28 年度 エイズ治療啓発普及事業

ステロール値上昇などの副作用や相互作用が課題となりま

した。それに代わる薬剤として、10 年前にインテグラー

ゼ阻害剤が登場し、副作用と相互作用の少なさから、ここ

2 ~ 3 年で HIV 治療の主流となっています(図 4)。

実際、米国保健福祉省の DHHS ガイドラインでも、初期

治療ではプロテアーゼ阻害剤は1種類のみが推奨されてお

り、大部分の推奨薬はインテグラーゼ阻害剤となっていま

す(表 1)。プロテアーゼ阻害剤の時代は終わり、今後は代

替治療として残っていくものと思われます。その後に発表

60 0 12 0 12

VOL. 373 NO. 9

The N E W E N G L A N DJ O U R N A L of M E D I C I N E

ESTABLISHED IN 1812 AUGUST 27, 2015

図 2 HIV 感染者、全員治療時代 -AIDS 以外の合併症も減る

イベントの累積発生率

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START study

Initiation of Antiretroviral Therapy in Early AsymptomaticHIV Infection

The INSIGHT START Study Group*

すぐ治療 治療待機

イベント数 42 96

発生率(/100PY) 0.60 1.38

HR(赤/青) 0.43 95% Cl: 0.30 - 0.62 p<0.001

エンドポイント:AIDS, 非 AIDS 重症 , すべての死

:すぐ治療:CD4 350 まで待って治療

0 6 12 18 24 30Months

36 42 48 54 60

Age ≥ 50 yrs

図 3 HIV 感染者、全員治療時代 -AIDS 以外の合併症も減る

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0 12 24 36 48 24 36 48 60 24 36Months NNT=206 Months NNT=151 Months NNT=45

48 60

START study Age<30 yrs Age 30 - 49 yrs

:すぐ治療 :CD4 350 まで待って治療 NNT:1つのイベントを防ぐために、何人の患者を「すぐ治療」しなければならないか

2.6

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N Engl J Med 2015; 373: 795-807.

Abstract THAB0201, 21st International AIDS Conference, July 18-22, 2016, Durban, South Africa.

図 4 抗 HIV 治療:インテグラーゼ阻害剤が主役に -忍容性が高い・効果が確立

1.00

0.75

0.50

0.25

0.00

ATV/rRALDRV/r

Cumulative incidence of tolerability failure

Cum

ulat

ive in

cide

nce

ATV/r (13.9%)vs. RAL(0.9%Cl)

DRV/r (4.7%)vs. RAL(0.9%Cl)

ATV (13.9%)vs. DRV/r(4.7%Cl)

Difference in 96 wks cumulative incidence(97.5% Cl)

12.7%(9.4%, 16.1%)

3.6%(1.4%, 5.8%)

9.2%(5.5%, 12.9%)-20 -10 0 10

Favors RAL

Favors DRV/r

Number ofsubjects in the rist set

20

605 548 522 467 349603 565 562 534 411601 576 553 517 392

ATV/rRALDRV/r

0 24 48 64 80Study week

96 112 128 144

ACTG5257:プロテアーゼ阻害剤(ATVr 青、DRVr 赤)よりも Raltegravir(緑)の方が副作用による中断が少なかった。Ann Intern Med. 2014 Oct 7; 161(7): 461‒471.

ており、患者によっては 1 ~ 2 年待機することもありま

した。しかし、現在では早期からの治療を想定しており、

カウンセリング内容にも変化がみられています。

■抗 HIV 治療薬の変遷

HIV 治療では、薬剤耐性を考慮して 3 種類の薬剤を併

用します。1997 年にプロテアーゼ阻害剤が登場以降、3

剤併用療法が可能となりました。その結果、死亡率は激減

したものの、プロテアーゼ阻害剤の長期服用により、コレ

3

高齢化社会とHIV

薬剤の選択が重要です。従来のウイルスのコントロールの

成功から、いかに長期間にわたって治療薬を継続して服薬

ができるかに、治療の考え方も変遷しているのです。

将来的には、インテグラーゼ阻害剤や併用で用いられて

いる非核酸系逆転写酵素阻害剤についても使用されなくな

る可能性があります。インテグラーゼ阻害剤については、

耐性変異がある場合には効果が減弱する可能性があり、そ

のような点から、たとえ副作用発現の頻度が低くとも、数

十年という長期にわたり服薬が継続できるかは現時点では

明らかではありません。

された米国感染症学会の IAS-USA ガイドラインでは、推奨

治療はインテグラーゼ阻害剤のみとなっています(表 2)。

3 剤併用療法の組み合わせの中には、従来から併用で用い

られている非核酸系逆転写酵素阻害剤が 2 剤含まれている

ものの、その中心となる薬剤がインテグラーゼ阻害剤となっ

ています。

HIV 治療は、基本的には一生継続する必要があるという

のが現在のコンセンサスです。治療中止により、様々な合

併症や他者への感染率も増加します。そのため、治療薬は

長期間にわたって服薬を継続できるような副作用が少ない

Class初回治療

推奨 代替

インテグラーゼ阻害剤

・DTG/ABC/3TC・DTG+FTC/TDF or FTC/TAF・EVG/COBI/FTC/TDF・EVG/COBI/FTC/TAF・RAL+FTC/TDF or FTC/TAF

プロテアーゼ阻害剤・DRV+RTV+FTC/TDF or FTC/TAF ・ATV/(COBI or RTV) +FTC/TDF or FTC/TAF

・DRV/(COBI or RTV)+ABC/3TC・DRV/COBI+FTC/TDF or FTC/TAF

非核酸系逆転写酵素阻害剤・EFV/FTC/TDF・EFV + FTC/TAF・RPV/FTC/TDF or RPV/FTC/TAF

Bolding indicates single-tablet regimen.DHHS Guidelines. July 2016.

表 1 抗 HIV 治療:インテグラーゼ阻害剤が主役に −DHHS ガイドラインの変化

Class初回治療

推奨 代替

インテグラーゼ阻害剤・DTG/ABC/3TC・DTG+FTC/TAF・EVG/COBI/FTC/TAF・RAL+FTC/TAF

プロテアーゼ阻害剤 ・DRV/(COBI or RTV)+ABC/3TC・DRV/(COBI or RTV)+FTC/TDF or FTC/TAF

非核酸系逆転写酵素阻害剤 ・EFV/FTC/TDF・RPV/FTC/TDF or RPV/FTC/TAF

Bolding indicates single-tablet regimen.Günthard HF, et al. JAMA. 2016; 316: 191-210.

表 2 抗 HIV 治療:インテグラーゼ阻害剤が主役に −IAS-USA ガイドラインの変化

4

平成 28 年度 エイズ治療啓発普及事業

2

1.5

1

0.5

0Placebo TDF TDF/FTC

1.99HIV Incidence

0.650.50

67%reduction

(p< 0.001)

75%reduction

(p< 0.001)

HIV

Inci

denc

e(pe

r 100

PY)

N Engl J Med 2012; 367: 399-410

Partner’s PREP など多数の臨床研究結果が発表されている

図 5 HIV 陰性者の PrEP:臨床研究で有効性が確立 -Pre-exposure Prophylaxis(曝露前予防)

図 6 HIV 陰性者の PrEP:臨床研究で有効性が確立 -実効性は不明

1200

100

800

600

400

200

0

TFV-

DP

(fmol

/pun

ch)

via D

ried

Bloo

d Sp

ot

薬の血中濃度の経時変化→「服用しているかどうか」アドヒアランスを確認

Hosek S, et al. AIDS 2016. Abstract TUAX0104LB.

OverallWhiteLatinoMixedBlack

0 4 8 12 24Weeks

36 48

■曝露前予防(PrEP)の有効性と課題

HIV 治療のもう一つの大きな変化として、曝露前予防

(Pre-exposure prophylaxis:PrEP)の確立があります。

これはすなわち、HIV 感染予防のための抗 HIV 薬の服薬

であり、4 ~ 5 年前頃から実施されています。実際に 2

剤併用でも感染率が抑制されることが、米国やアフリカの

大規模臨床試験の結果からも示されています(図 5)。米

国では高頻度では実施されていないものの、PrEP は一般

的になっています。しかも PrEP は家庭医により実施され

ることも多く、Medicare という公的保険でも適応が認め

られています。海外ではすでに実行段階となりつつある

PrEP ですが、日本では、ハイリスク者の定義や投与対象

に関する議論すらもできていないのが現状で、実施施設も

現時点ではほとんどないものと思われます。なお、ACC

では PrEP を希望する外国人に対しては自費治療で対処し

ています。今後、2020 年の東京オリンピック開催に際し、

外国人に対する PrEP の実施について、どのように対処す

べきかを検討する必要があるものと思われます。

しかしながら、PrEP が各地域・社会でどの程度の有効

性を示すのかは未知数です。予防効果を得るためには服薬

の継続が重要です。アフリカでアドヒアランスの確認を目

的として、薬剤の血中濃度の経時変化を検討したところ、

血中濃度は 24 週時点で大きな低下が示され、アドヒアラ

ンスの低下が明らかとなりました(図 6)。当初は毎月来

院していたものの、服薬どころか来院すらしなくなってし

まったのです。いくら PrEP の有効性が高いといっても、

アドヒアランスが低ければ、新規発症の抑制は疑わしく

なってしまいます。

5

図 7 HIV 治療がうまく行けば非感染者と同じ生存率 -デンマーク

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0

Prob

abill

ity o

f sur

vival

30 40 50 60

+AIDS or CD4<200

+ その他の合併症

+ 薬物・アルコール依存症

Group 0Group 1

Group 2

Group 3

Group 4

PLoS One. 2011; 6(7): e22698.

70

高齢化社会とHIV

■ HIV 感染者の高齢化と平均余命

現在、海外では HIV 感染者の高齢化が問題となってい

ます。2013 年に発表された UNAIDS のレポートによる

と、欧米の 50 歳以上の HIV 感染者は、2001 年には全体

の 17%でしたが、2012 年には 33%を占めるまでになっ

ています。このことは、2000 年代前半の新規感染者の平

均余命が延びたことを示していますが、実際に ACC でも

患者は確実に高齢化を呈しています。

HIV 感染者は、HIV 治療が奏効することにより、非感染

者とほぼ同じ生存率が得られることが数多く報告されてい

ます。デンマークの報告でも、CD4 が 200/ μ L 以上で

早期に発見・治療された群の生存率は、非感染群の生存率

と差がないことが明らかにされています(図 7)。一方で、

米国カイザー・パーマネンテ(Kaiser Permanente)社

の保険加入者調査によると、20 歳時点での HIV 感染者群

の平均余命は、非感染群と比較して 13 年短いことが分か

Lines

: Dea

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00,0

00 P

Ys

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t age

20

8000

6000

4000

2000

0

80

60

40

20

0

図 8 HIV 治療がうまく行けば非感染者と同じ生存率か -米国ではまだ差がある

1996-1997

439

19

63

7077 65

53

1054381P=0.062

P=0.001

13 - Yr Gap

1998-1999

2000-2001

2002-2003

2004-2005

2006 2007 2008 2009 2010 2011

Marcus JL, et al. CROI 2016. Abstract 54

-米国カリフォルニア州 Kaiser Permanente からの報告-

HIV positive HIV negative

6

平成 28 年度 エイズ治療啓発普及事業

りました(図 8)。この背景には、社会的な要因が影響を

及ぼしていることが考えられます。米国ではドラッグの蔓

延をはじめ、医療を受けにくい人々で HIV 感染者が多い

ことを考慮すると、このように生存率に差が生じるものと

考えられます。

■ HIV 感染者の高齢化と合併症

さらに、高齢化に伴い合併症も課題となっています。

HIV感染と抗HIV薬服用は糖尿病発症のリスクファクター

となっており(図 9)、血糖コントロール不良により糖尿

病性腎症から透析に至るといった、糖尿病合併症のリスク

がもたらされます。また、HIV 感染は急性心筋梗塞のリ

スクファクターであることも示されていますが(図 10)、

これには薬剤の副作用が関与している可能性があります。

急性心筋梗塞で入院する場合、受け入れ先の病院でスタッ

フが HIV に対する知識を有することや、感染に対する守

秘義務を遵守することも前提として必要になります。さら

に、HIV 感染者では骨折のリスクが非感染者の 3 倍であ

図10 HIV感染は急性心筋梗塞のリスク因子

121086420

100

80

60

40

20

0

A B

Even

ts P

er 1

000

PYs

Even

ts P

er 1

000

PYs

* 年齢、性、人種、高血圧、糖尿病、 高脂血症で補正しても有意

HIV

RR 1.75P<0.0001

Non-HIV 18-34 35-44 45-54Age Groupe(Years)

55-64 65-74

J Clin Endocrinol Metab. 2007: 92: 2506.

HIV SeronegativeHIV Infected Using HAART

Antiretroviral Therapy and the Prevalence and Incidence of Diabetes Mellitus in the Multicenter AIDS Cohort Study

図 9 HIV 感染とART導入は糖尿病発症のリスク因子

0 1 2Study Time, y

3

HIV(-)

HIV(+)、ART(+)

*有意差あり

No. of PatientsHIV Seronegative

HIV Infected Using HAART361 265 177 89229 204 145 62

Patie

nts F

ree

Diab

etes

Milli

tus,

%

Arch Intern Med. 2005: 165: 1179.

100

80

60

40

0

7

Select Metabolizing Enzymes and Transporters, Highly Active Combination Antiretroviral Therapy, and ChemptherapyEnzyme HAART Inhibitor HAAT Inducer ChemotherapyCYP3A4 Delavirdine, ritonavir, amprenavir, atazanavir,

indinavir, lopinavir, nelfinavir, saquinavirNevirapine, efavirenz Paclitaxel, docetaxel, erlotinib, sunitinib,

sorafenib, etoposide, vincristine, vinblastine, vinorelbine, cyclophosphamide

CYP2C9 Efavirenz, ritonavir CyclophosphamideCYP2C19 Efavirenz, amprenavir Cyclophosphamide, ifosfamide, thalidomideCYP2D6 Ritonavir TamoxifenCYP2B6 Efavirenz, nelfanivir, ritonavir Nevirapine Cyclophoshamide, ifosfamideCYP2E1 Ritonavir Etoposide, dacarbazineUGT1A1 Atazanavir Irinotecan

Abbreviation: HAAT, highly active combination antiretroviral therapy.Clinical Infectious Diseases 2012; 55(9): 1228–1235.

併用により抗癌剤の代謝が阻害され、毒性増強のリスクがある。併用により抗癌剤の代謝が促進され、効果減弱のリスクがある。

薬剤師の役割は重要

表 3 抗癌剤と ART の相互作用には注意が必要

表 4 HAND (HIV-associated neurocognitive disorder)とは

1. 以下の 6 領域のうち 2 領域以上で、同年代平均より 1SD 以上の異常がある(ANI) Verbal/ language Attention/ working memory Abstraction/ executive Memory (learning, recall) Speed of information processing Sensory perceptual, motor skills2. 上記に加え、日常生活上何らかの支障がある(MND)3. 以下の 6 領域のうち 2 領域以上で、同年代平均より 1SD 以上の異常がある(HAD)4. 他に、原因となる疾患がない

Antinori A, et al. Neurology 2007; 69: 1789-1799.

高齢化社会とHIV

ることも明らかにされており ( 図 11)、高齢の HIV 感染

者では ADL 低下が前倒しで起こる可能性が考えられます。

なお、HIV 感染者では肺癌、大腸癌、肛門癌、口腔咽頭

癌のリスクが上昇することが示されており、原因として腫

瘍免疫の低下、長期 HPV 感染、高喫煙率などが考えられ

ています。定期的に HIV 感染者を診察する場合、癌のス

クリーニングをいかにして実施していくかが課題となって

きます。さらに、抗癌剤と抗 HIV 薬の併用により、抗癌

剤の種類によっては毒性増強や効果減弱といったリスクが

生じます(表 3)。そのため、これらの相互作用をチェッ

クするには薬剤師の役割が重要となってくるのです。

さらには、加齢に伴う腎機能低下による薬剤の血中濃度

上昇や胃酸分泌低下、心拍出量低下などにも注意が必要で

あると言えます。

■ HAND(HIV 関連神経認知障害)

HIV 感染により認知機能障害を引き起こすことが知ら

れており、そのような障害は HIV 関連神経認知障害(HIV-

associated neurocognitive disorder:HAND)と呼ばれ

て い ま す。 表 4 に 示 す 診 断 基 準 に 当 て は ま る 場 合、

HAND と診断されます。HAND の頻度については明確で

はないものの、米国の報告では、無症候性神経心理学的障

8

平成 28 年度 エイズ治療啓発普及事業

ません。

現在、HAND 治療について、同じ抗 HIV 薬の中でも

中枢神経系への移行性の高い薬剤を投与することにより、

HAND の症状を抑制できるのではという仮説が考えられ

ています(表 5)。抗 HIV 薬の血中濃度と脳脊髄液中の濃

害が 33%、軽度神経認知機能障害が 12%、顕著な機能

障害を伴う認知障害が 2%となっています。HAND は他

の疾患との鑑別が重要であるものの、HIV 自体によるダ

メージ、免疫応答・自己免疫疾患など、神経心理学的異常

をもたらす原因は多彩であることから鑑別は容易ではあり

Much Above Average Above Average Average Below AverageNRTIs Abacavir

EmtricitabineLamivudine Tenofovir

NNRTIs Etravirine1,2

EfavirenzRilpivirine3

PIs Darunavir-rLopinavir-r

Atazanavir-r

Entry/fusion inhibitors MaravirocIntegrase inhibitors Dolutegravir4 Raltegravir Elvitegravir/c1 Tiraboschi et al, J Antimicrob Chemother. 2012: 67: 1446-1448.; 2 Nguyen et al, J Antimicrob Chemother. 2013; 68: 1161-1168; 3 Mora-peris et al, J Antimicrob Chemother. 2014; 69: 1642-1647; 4 Letendre et al, CROI 2013 178LB

表 5 中枢神経への薬剤の到達度

ガイドライン上の位置づけは様々、HAND と診断されれば CPE スコアを考慮するのが一般的US DHHS EACS Mind Exchange

・Does not discuss CPE or "CNS-active" ART

・Earlier initiation of ART may prevent subsequent brain dysfunction

・Use "CNS-active" ART for patients with HIV-ASSOciated cognitive impairment and CSF viral escape

・Without HAND: No evidence supports use of higher-CPE ART

・With HAND: Higher-CPE ART generally associated with better neurocognitive functioning, but evidence base is limited

表 6 HAND のことを考えて治療薬を選ぶのか

図11 HIV感染者の骨折リスクは3倍

2001751501251007550250

2000 2001 2002 2003 2004Year

骨折発生頻度(人/年)

2005 2006 2007

NHAMCS-OPDp=0.32

HOPSp=0.01

HIV 感染者

HIV非感染者

2008

Rate

per 1

0,00

0 pe

rson

s

Clin Infect Dis. 2011: 52: 1061.

9

高齢化社会とHIV

度の比較から、中枢神経移行・有効性のランキングをス

コア化したものが CPE スコアと言います。実際に HAND

の疑いのある場合に CPE スコアの高い薬剤を投与するこ

とが試みられています。欧米のガイドラインでは HAND

を考慮した治療薬の選択について言及はないものの、

HAND と診断された場合には CPE スコアを考慮するのが

一般的となっています(表 6)。

なお、HAND の未解決の部分については、以下のよう

なことが挙げられます。①悪化の有無や進行速度がわから

ないなど自然経過が不明、② HCV 混合感染者でリスクが

2 倍になることが知られているものの、そのほかのリスク

因子が不明、③どのような検査で、どのような患者にスク

リーニングを行うべきか不明、④髄液中の HIV-RNA はど

の程度参考になるのか不明、などです。

2.高齢化社会の HIV

■高齢化に伴う医療ニーズの増加

日本をはじめとする先進主要国では高齢化が進んでお

り、その中でも日本はトップクラスのスピードで高齢化

が進行しています。2015 年 10 月 17 日の The Lancet

.com Vol.386 号では日本の超高齢化社会に関する記事が

掲載されました。そこでは、日本は世界の未来ではないか

と指摘がなされていました。国民皆保険制度が行きわたっ

た日本が、今後どのような高齢化対策を打ち出していくの

かという課題もあり、この点については、HIV 領域の医療

にも当てはまるものと思われます。

現在、日本では 60 歳以上の 60%以上が月 1 回以上医

療サービスを受けていると報告されています(図 12)。

ACC では、大部分の患者は 3 ヵ月に 1 回の来院です

が、そのすべての患者が 1 ヵ月に 1 回来院するようにな

ると、対応が困難になり早急に体制が破綻することは目に

見えています。現在は、比較的若くて元気な患者が多いの

で、HIV 感染症の診察を行い、抗 HIV 薬を中心に処方し

ています。しかし、HIV 感染症を診察する医師は、ある意

味、総合診療科やかかりつけ医の役割も果たしているとも

言え、今後、生活習慣病をはじめとする様々な疾患につい

ても、診察する必要に迫られることが想像されます。

実際に、医療ニーズは年齢とともに増加・変化すること

80

70

60

50

40

30

20

10

0

%

スウェーデン

68.5

健康である

14.6

65.4 61.6 61.2

24.6

53.5

23.6

43.2

59.2

33.5 32.9

日本 米国 フランス(’05)

韓国 ドイツ

(注)各国 60歳以上の男女が対象(施設入所者を除く)。「現在、健康かどうか」及び「『医療サービス』を日頃どのくらい利用するか」という 2つの問いに対する回答結果。

(資料)内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(2010年調査)

月に1回以上医療サービスを受けている

図12 60 歳以上の 6 割が 月1回以上医療を受けている日本

600

500

400

300

200

100

0

千人 男女年齢別総患者数

2014 年 10月

男 女

2 4

20 歳未満

20歳代

30歳代

40歳代

50歳代

60歳代

70歳代

80歳以上

6 935 22

132

58

254

130

552

400

549492

240294

図13 医療ニーズは年齢とともに増加する-日本の糖尿病患者総数

10

平成 28 年度 エイズ治療啓発普及事業

が示されています。日本の糖尿病患者数は加齢とともに増

加していますが(図 13)、これには加齢に伴う代謝の変

化が関与しているものと思われます。加えて、悪性疾患も

加齢に伴い増加することが示されています(図 14)。今

後、予防医学の重要性がますます高まってくるでしょうが、

HIV 感染者の集団に対して、どのような医療サービスを提

供していくべきかについて議論してもいいのではないで

しょうか。さらには、加齢に伴い ADL(日常生活動作)に

何らかの支障を来している高齢者は増加しており(図 15)、

深刻な問題となっていますが、HIV 感染者にも当てはまる

と考えています。

■「老い」をどのように考えていくか

病気とともに「老い」というものを、どのようにして考

えていったらよいのだろうか。このことについては様々な

議論がされており、特に医師からは、代謝性疾患や生活習

慣病などに対するアドバイスが比較的多くなされていま

す。しかし、この点については多職種での議論が必要だ

図15 ADLに支障を来している高齢者の割合

65 歳以上の高齢者の有訴者率及び日常生活に影響のある者率(人口千対)

男性 女性 65歳以上の者総数

600.0500.0400.0300.0200.0100.00.0

600.0500.0400.0300.0200.0100.00.0

364.9406.8 420.8

467.2 482.9532.8 525.0551.1 532.9 534.3

466.1

65~69歳 70~74歳 75~79歳 80~84歳

有訴者率(人口千対) 日常生活に影響のある者率(人口千対)

85歳以上 65歳以上の者総数

65~69歳 70~74歳 75~79歳 80~84歳 85歳以上 65歳以上の者総数

154.4 150.6204.5 200.2

264.0 277.4353.3 379.0

439.4495.8

258.2

資料:厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成 25年)

76543210

% 悪性疾患の有病率

(注)患者率は総患者数の対総人口比。点線は 2011年値(資料)厚労省「患者調査」、総務省統計局「人口推移」

0.0 0.0 0.1 0.30.8

2.12.6

5.1

2.2

20 歳未満

20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代 80歳以上

0.0 0.1 0.30.8

1.52.5

6.6

図14 医療ニーズは年齢とともに増加する

11

高齢化社会とHIV

と思われます。いかに良く老いるかは、必ずしも病気に

関する話にとどまるものではありません。国際生活機能

分類(ICF)の概念では、健康状態は病気といった心身機

能・構造にとどまらずに、ADL をいかに保持していくか

という活動性や、環境や社会参加なども、それぞれ相互に

関与しているものと考えられています(図 16)。そのため、

医師だけではなく、理学療法士をはじめとした多職種のス

タッフで、健康状態や老いにどのように取り組んでいくか

を議論していった方がよいと考えています。

また、老いの行く先である「理想の最期」については、

55 歳以上を対象に内閣府が調査した結果、最期を迎え

たい場所としても最も多かったのが自宅であり、全体の

54.6%を占めていました(図 17)。このことからも、老

人ホームや長期的な療養施設に入所させることだけではな

く、自宅でいかに生きていくかという、本人の意思を反映

させることを考慮すると、訪問診療を実施している医師や

関与している医療スタッフとの関わりも重要になるものと

思われます。

図 16 “より健康的な生活”とは何か

国際生活機能分類のモデル(International Classification of Functioning, Disability and Health, ICF)

健康状態

活 動心身機能・構造 参 加

生活機能

社会参加ADL疾病

環境因子 個人因子

文化・慣習など(例:日本、Stigma 有無)

生育・生活環境など(例:家族の有無、教育、収入、LGBT)

図17 “理想の最期”とは何か

70

60

50

40

30

20

10

0

% 最期を迎えたい場所(2012年)

27.723.0

31.6

54.662.4

48.2

0.7 0.2 1.0 0.4 0.5

55 歳以上計(n=1919)

男性(n=865)

女性(n=1054)

総数・男女別

0.3 4.1 2.5 5.3 4.5 3.5 5.4 1.1 1.3 0.96.9 6.6 7.2

病院などの医療施設

自 宅 子どもの家 兄弟姉妹など親族の家

高齢者向けケア付き住宅

特別擁護老人ホームなどの福祉施設

その他 わからない

(注)全国の 55歳以上の男女を対象に面接聴取法で 2012年 9~10月に調査(資料)内閣府「平成 24年度高齢者の健康に関する意識調査結果」

12

平成 28 年度 エイズ治療啓発普及事業

■ HIV 感染者特有の高齢者医療に関する問題点

こうした高齢者医療の一般的な問題を踏まえ、HIV 感染

者に特有な高齢者医療として、以下のような問題点を考え

ていく必要があります。

1.セクシュアリティに関わる課題

日本における HIV 感染者の多くは男性同性愛者です。

介護や終末期医療における意思決定者は誰なのか、法律問

題を含め重要な問題です。患者に血縁者と同性のパート

ナーの両者がいる場合、どちらに意思決定を委ねるかとい

うことです。このことは、家族にどのようにセクシュアリ

ティを告白しているかも関わってきます。特に、脳梗塞な

どを発症して医師が意思決定の確認ができなかった場合な

どで困ることになります。また、親族と同性パートナーと

の関係性への配慮も必要となってきます。

2.介護施設に関する課題

介護施設の HIV に対する無理解も課題となっています。

薬剤をしっかり服用していればウイルスのコントロールが

可能であるのに、HIV 陽性ということで受け入れを拒否す

る施設が存在することも想定されます。実際、介護施設を

紹介しても、都内ではなく関東周辺の県にある施設に紹介

されたり、ある施設で HIV 感染者を受け入れると、そこ

に集中したりすることも起きています。そのため、HIV 感

染者を受け入れる施設をどう広げていくかも重要です。仮

に介護施設に入所できても、入居者との関係性の問題もあ

り、施設内で孤立することも考えられます。

3.地域コミュニティとの関わり

さらに、年をとると、就労していた会社などとの繋がり

もなくなるので、地域コミュニティとの関わり方も変わっ

てきます。薬害 AIDS の被害者、セクシャルマイノリティ、

HIV 感染者の場合、地域コミュニティとの心理的な壁を感

じてしまう可能性もあります。

4.薬剤管理の難しさ

高齢化に伴い合併する疾患が増加してきます。服用が必

要な薬剤が増えていった場合でも、抗 HIV 薬を確実に服

薬してもらうことに加え、薬物相互作用に対する懸念も出

てきます。

5.在宅医療スタッフの感染対策

在宅医療スタッフに対する、針刺し事故などへの感染対

策も重要です。ACC では、訪問診療を行う場合でも、院

内の針刺し事故の対応を適用しています。東京都では労災

が認定されるものの、施設の無理解でその対応に苦慮して

いるケースも散見されます。

6.血友病患者のさらなる ADL 低下

血友病患者については、高齢の場合、血液製剤の投与が

遅れていることもあり、関節拘縮や関節変形が進行しており、

比較的早期から ADL の低下が出現する可能性があります。

■参加者アンケートから

高齢の HIV 感染者に関して、以下の質問により研修会

参加者と意見交換を行い、寄せられた意見とそれらに関す

る回答、感想をまとめました。この冊子を読む方にも役立

つことと思いますので、ご参考にしてください。

Q1:高齢の HIV 感染者において、健康上、他にどのような課題があると思われますか?

課題の一つとして生活費が挙げられました。長期間にわ

たって働くことができれば問題はありませんが、不況もあ

り簡単に仕事が見つからないという切実な問題もありま

す。生活保護受給についても社会資源の活用の面からは課

題もあります。また、かかりつけ医と拠点病院について

も課題として挙げられました。大規模な拠点病院の場合、

そこが HIV 感染者にとってかかりつけ医状態となるので、

風邪をひいても受診してしまいます。そのため、いかに地

域に戻すか、さらには、地域のかかりつけ医をいかに育て

ていくかは重要です。

Q2:HIV 感染者に対し、より良い老後のため、あなたならどのようなアドバイスをしますか?

生きがいという回答が多くみられました。生きがいとは、

生きる意義、次に何をしたいのかが明確にあって、それに

13

向かって生きていくことですが、「生きがい」という言葉

がそのまま英語で説明されるように、日本独特の誇るべき

考え方です。この生きがいを HIV 感染者に見つけてもら

うことが、より良い老後を送るためのヒントになるかもし

れません。

Q3:HIV 感染者のよりよい老後のために、われわれ医療チームそして社会が準備することは何でしょうか?

回答の一つとして、社会資源とのネットワークが挙げら

れました。病院に関わる人々だけではなく、地域のどの部

分の人々とどのようにつながっていき、巻き込んでいくか

が重要となります。加えて、現在では HIV 感染者の治療を

CD4 が 500/ μ L から開始するというように、治療制度の

変更がなされています。早期治療では、技術的な様々なも

のが求められていますが、さらにその点を変えていこうと

活動をしています。学会としても動きがあり、それをサポー

トする形でエビデンスを発表することを考えています。

まとめ:より健康な老後のためのヒント

HARVARD PUBLIC HEALTH 2015 年秋号に、エビ

デンスベースで言える、より健康な老後のためのヒントと

して、次のとおり報告されていたので、まとめとして紹介

させていただきます。

1 よい生活習慣を築く(Healthy habits)

禁煙、適度な運動、バランスの良い食事、糖質の摂り過

ぎに気を付け、飲酒量は適度にする。これを若い時から心

がけることが大切です。

2 長く働く(Rethinking work)

お金を稼ぐという意味もあるものの、リタイア後に、ボ

ランティアとして何らかの働き方を見つけることは、生き

がいにもつながるものと思われます。

3 他者との交流を続ける(Connecting with others)

ICF(図 16)の「参加」に該当するものですが、「ス

ポーツクラブに参加しているがあまり運動をしない高齢

者」、「参加しない高齢者」、「参加しないで運動をして

いた高齢者」、「スポーツクラブに参加してよく運動をし

ていた高齢者」の各群を対象に、ADL の低下速度を検

討した研究があります。その結果、「スポーツクラブに

参加しているがあまり運動をしない高齢者」と、「参加

しないで運動をしていた高齢者」では ADL 低下の程度

がほぼ同等であることが認められました。このことか

ら、何らかの形で社会に参加することで、外出する機会が

増えることは大切だと考えられています。そして、そのよ

うな機会をどのようにして作っていくかが重要です。

4 やりたいことを考える(Preserving Purpose)

残りの人生の中で、優先させたいことを考えること

も重要です。誰かと次にやりたいことを話し合うだけ

で、幸福度が変わるとうことを研究をした報告もあります。

長期療養施設に入所したものの、自分の行きたいと思った

場所とは環境が違っていたかもしれないが、その施設のス

タッフと、何をしたい、こうしたい、次はこうしようかと

話しただけで、気分が変わってきたという事例もあります。

そのほかには、社会的に安定して、マイノリティを受け

入れるようなマインドセットが広く一般に広がることや、

科学自体が発展してアンチエイジングをはじめとする様々

な技術が発達することも将来的には必要だと考えられてい

ます。

高齢化社会とHIV

平成 28年度厚生労働省委託事業「エイズ治療啓発普及事業」

平成 29年 3月発行

公益財団法人エイズ予防財団〒 101-0061 東京都千代田区三崎町 1-3-12http://www.jfap.or.jp/