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Chapter Three: Characters

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Chapter Three:Characters

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CHAPTER THREE

 この章は『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』基本ルールブックの情報を補い、ヴィクトリア朝時代の新キャラクターを創造するのに必要な手段を提供している。キャラクター創造の手順は同じだが、設定だけが異なっている。

 現代の(ヴィクトリア朝時代とは対照的な)暗黒の世界に棲むヴァンパイアの創造を何度も経験したプレイヤーは、ヴィクトリア朝時代ヴァンパイアの創造時にも自分のやり方を踏襲するだろう。非常に創造的なプレイヤー集団であっても、歴史を題材にした史劇は荷が重いかもしれない。主役の怪物自体は変わらなくとも、文脈が異なる。注意深く創造手順を踏めば、普段軽く流している箇所で思いもかけない選択をする自分に気づくかもしれない。 同様に、あなたの一座がストーリーテラーの直接的な監督下でキャラクターを創る習慣がないとしても、新たな同胞や陰謀集団を創るときはストーリーテラーに同席してもらったほうがよい。どんな史劇でも、設定の趣きやストーリーラインの方向性、キャラクターの最終目標などから先が読めてしまうという危険性を伴う。史劇が始まる前に一座が先の展開の見通しを固めてしまわない限り、キャラクターとその動機との間には溝が生まれる。世紀と大陸が変われば、あなたや仲間のプレイヤーたちが抱く見通しは確実に変化し、その効果をゲームに生かす機会が生まれるのだ。 ヴィクトリア朝時代は、たいていの暗黒の世界の史劇からはるかにかけ離れた設定であり、このあらたな設定に対するストーリーテラーの視点の範囲内で行動せねばならない。想像上の世界に関する共通認識が活用できなければ、あなたの一座は健全な意思疎通が不可能になり、史劇は始まった途端にバラバラになるだろう。あなたがプレイする暗黒のヴィクトリア朝時代に関する明確な認識を共有できなければ、一座が結集してきた繊細な想像力は混乱を来たして崩れ去るだろう。あなたと他のプレイヤーは皆、同じ舞台に立っており、その舞台を設計するのはストーリーテラーなのだ。 同時に、ヴィクトリア朝時代の血族に関する硬直化した見解であなたの創造性を締めつけてはならない。とりわけ、その見解があなた自身のものならば。キャラクターシートは歴史クイズではない。歴史設定と、あなたが探求するホラー分野との間でバランスをとって欲しい。一座で相談して、同胞や史劇の中におけるあなたのキャラクターの立場をはっきりさせよう。あなたは劇作家であり、役者であり、他のプレイヤーにとっては観客であるが、これは本当の演劇ではない。物語のために、我慢してつまらないキャラクターで毎回のセッションに参加すべきではないのだ。 初心者プレイヤーは、『ヴィクトリアン・エイジ:ヴァンパイア』の歴史設定に尻込む必要はない。ヴァンパイアの物語に加わったこの古典的な環境は、ゲーム卓に新たな息吹を吹き込むこの上ない機会である。ヴァンパイアと、免れえないその二重性の呪いは、ヴィクトリア朝時代の時代精神の直感的な要素だ。現代の作家と聴衆は、未だにガス灯や霧、大きな外套、馬車などとヴァンパイアとを結びつけている。こうしたヴィクトリア朝時代とヴァンパイア間のつながりを心に抱いていれば、初めてのプレイヤーでも順調にキャラクター創造をこなして史劇に参加することができるだろう。また、プレイヤーは、現代の設定において強調されすぎる「正体の隠匿」をいくらかは切り捨てることができる――フロックコートに紳士

用手袋、シルクハットの血族は、2002年のシカゴのストリートでは注目を集めてしまうが、1890年頃のロンドンではごく普通の存在なのだ。 新しいプレイヤーや、一座の新しい方針から生まれた新しいアイデアは、よりスリリングなゲーム世界を構築する。何にせよ、ヴァンパイアの史劇を始めるにあたっては、180°ひっくり返るとはいかないまでも、運営方針を再考することが重要だ。だからこそ、ケープと仕込み杖が登場する『ヴィクトリアン・エイジ:ヴァンパイア』の史劇によって、現代史劇の反復を避けることができるだろう。

 アイデア工場などありはしない。完璧なキャラクターを拾い出せるようなカタログ本だって存在しない。素晴らしい『ヴァンパイア』のキャラクターを創造するための、信頼に足る公式などないのだ。次善の策は、あなたの想像力とゲームのメカニズムとヴァンパイア神話に関する知識を組み合わせることだ。これは燃料である。以下に挙げる五つのステップのどこかに、起爆剤となる何かがあるだろう。

/Concept ヴィクトリア朝時代の神秘性をキャラクターに導入しなければ、このゲームの素晴らしい可能性を無視することになる。トレメールにケープを着せただけでは

ケープ

(あるいは、岬に立たせただけでは)設定を生かしているとは言えない。怪物としてのヴァンパイアは、この時代の優れた隠喩として、ヴィクトリア朝時代の作家の筆によって迷信から甦った。それからというもの、豊富な物語や小説や映像が生み出されており、そこから掘り出せるアイデアやインスピレーションには事欠かない。 歴史上の人物やヴァンパイア伝承、『ヴァンパイア』で使用したキャラクターなど、あらゆる方向からキャラクターの身上を考慮しよう。キャラクターはあなたの声でゲーム世界に活動することをわすれてはならない。初期の神経学や競馬など、ヴィクトリア朝社会に関してあなたが考察したい要素があるのなら、それをキャラクターの身上に適用することも考慮しよう。 歴史上の人物から身上を創るのは、歴史に厳密なゲームを行わない限り困難を伴う。ストーリーテラーに相談して、史劇においてどのくらい歴史的な要素を扱うつもりかを量っておくべきだ。キャラクターを実際の歴史に密接に関わらせることは、再考に再考を重ねたほうがよい。あなたは自分自身の物語を創りたいのであって、歴史を繰り返したいのではないはずだ。 キャラクターをヴァンパイア版の切り裂きジャックにするよりは、この犯罪史上の奇妙な転換点に人間と

同様の興味を抱くヴァンパイアを創るほうがよい。キャラクターはこの悪名高い事件をぴったりと追いかけ、警察では立ち聞きし、歴史上最初の連続殺人の背後に不可解な怪物の影を見つけて恐れおののくノスフェラトゥやトレメールなのかもしれない。こうしたキャラクターのほうがより緻密で、『ヴァンパイア』のテーマに協調する部分が多く、個性的な物語を提供してくれる。キャラクターはなお伝説的な殺人鬼に焦点を合わせていられるが、彼の物語はあなたが語るべき物語となり、歴史の表面には現れず、素晴らしいことに反証は不可能だ。再三述べるが、ヴィクトリア朝時代は設定であり、物語ではないのだ。 ヴァンパイア伝承からキャラクターを創る方法は、馴染み深いと同時に、再定義の必要がある。ドラキュラとレンフィールドの関係は、長いあいだヴァンパイア物語(そして少なからず『ヴァンパイア』の物語)の主要素であった。この関係性が逆転してレンフィールドが怪物だったとしたらどうだろう。あなたのキャラクターは才気あるマルカヴィアンで、都市の療養所という療養所に従者がいるとしよう。そのキャラクターは収容所内にある窓ひとつない部屋部屋を自由にさまよい歩く。入念な仮面舞踏会の一部として、ドラキュラ役のグールを仕立て上げ、狩人の勘を逸らしている。 ヴィクトリア朝時代の身上を決定する手立てをまったく思いつかなかったら、完璧に現代の『ヴァンパイア』でキャラクターを創り(〈コンピュータ〉や〈運転〉といった【技能】は別として)、あとからヴィクトリア朝的な細部を“色づけ”するための骨組みにすることも可能だ。こうすれば、史劇に関わる前からキャラクターをしっかりと把握することができるが、没頭しきれない可能性もある。キャラクターが設定や史劇に何ら結びつきのない状態でプレイし始めねばならないし、いくつかの特性値、とりわけ【背景】の扱いは、ストーリーテラーの慈悲にすがらねばならなくなるだろう。とはいえ少なくとも、プレイすることはできる。

/Clan『ヴィクトリアン・エイジ:ヴァンパイア』の氏族は、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』で紹介したものとはやや異なっている。記憶に頼って氏族を選択する前に、もう一度第二章を拾い読みし、ヴィクトリア朝時代の文脈に沿った理解をしてから選択してほしい。いつものように、ストーリーテラーは選べる氏族を指定してくるかもしれない。

/Nature and Demeanor(Archetypes) 人格のアーキタイプは『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』に説明されているとおりで、この時代においても同様に扱う。【本性】と【外面】は、キャラクター

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に生活の場を移さなかったような長老は、長いあいだ人間の目に触れずに闇の生を永らえてきた結果として、非常に〈人間性〉が低いだろう。

/Willpower〈勇気〉の値がキャラクターの〈意志力〉の初期値となる。〈意志力〉の値は1から5で始まるということだ。しかしながら、どの時代においても意志の強さはヴァンパイアにとってとりわけ重要であるので、自由割振点で上昇させるべきだろう。

/Blood Pool『ヴィクトリアン・エイジ:ヴァンパイア』のキャラクターは十二世代から始まるため、通常の『ヴァンパイア』のキャラクターよりも〈體血〉が多いことに注意せよ。だが、キャラクター創造時にダイスを1個振ることに変わりはない。物語が始まったときにキャラクターが残している〈血〉の量を決めるために、ダイスを1個振ること。

/Freebie Points 自由割振点の機能は『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』と同じである。キャラクター創造の過程において、非常に貴重であることは変わらない。さまざまな特性ごとに必要な自由割振点は下表のとおり。自由割振点を使えば、氏族で提供される以外の【訓え】を習得できる(ストーリーテラーが制限をかけるかもしれないが)。割振点の使い方には慎重に慎重を期したほうがよい。ここまでのキャラクター創造過程で行ってきた点数配分では、どこにでもいるヴァンパイアのひとりがまたできるだけかもしれない。どのように自由割振点を使えば、あなたの怪物は語るに値する個性を発揮するだろうか?

特性 必要な点数【能力】 5点/ 1レベル【技能】 2点/ 1レベル【訓え】 7点/ 1レベル【背景】 1点/ 1レベル【徳】 2点/ 1レベル〈人間性〉 1点/ 1レベル〈意志力〉 1点/ 1レベル

を深めていくうえでの出発点に過ぎないということを忘れないでほしい。決して固定化した完全なキャラクター描写などではないので、ロールプレイを疎かにしてはならない。 アーキタイプによるキャラクター描写の二重性は、『ヴィクトリアン・エイジ:ヴァンパイア』には特に適している。ヴィクトリア朝時代人は非常に個人主義的で、部外者を排斥する。体裁が重要であり、ほとんどの人は何かしら本音に逆行するような行動をとっている。厳格な規律がまかりとおり、真実がどうあれ退屈な人物や性的魅力のないお堅い女性に歴史的評価が集まる。あらゆるヴィクトリア朝社会は公共の顔と自分たちだけの顔とを持っているかのようだ。 この時代は、仮面舞踏会の掟に甚大な影響を与えた。個人主義が厳しく守られたため、規律を隠れ蓑にヴァンパイアが人間社会に潜り込むことは容易である。そのうえ、閉じられた扉の向こうでは、ヴァンパイアの迷信から目を逸らさせようと多くの怪物が暗躍している。

/Attributes『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』で説明されているとおりに実行すること。プレイヤーはキャラクターの第一【能力】に7レベルを振り分ける。第二【能力】には5レベル、第三【能力】には3レベルを振り分ける。

/Abilities『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』と同様。【技能】の三分野を優先度順に第一、第二、第三に分ける。第一分野には13レベル、第二分野には9レベル、第三分野には5レベルを振り分ける。この段階では、1つの【技能】に3レベルを超える点数を割り振ってはならない。あとから自由割振点で上昇させることはできる。 現代の血族にとって有用な【技能】のほとんどは、ヴィクトリア朝時代においても有用である。時代は変わったように見えるが、多くの長老が証言しているとおり、西洋文明はそれほど変化していない。いくつかの【技能】は『ヴィクトリアン・エイジ:ヴァンパイア』用に入れ替わっている。それについては P.119 を参照。

/Advantages あなたのキャラクターは個性的なヴィクトリア朝時代の住人になったことだろう。この段階で、彼は個性的なヴァンパイアとなる。特徴を選ぶ過程は『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』で説明されているとおりだ。しかし、若干含意が異なる特徴もある。それについてはP.122 を参照。

/Disciplines キャラクターは最初に3レベル分の【訓え】を受け取る。自由割振点でさらに買い足すこともできる。最初の【訓え】は氏族のものから選択せねばならないが、キャラクター創造の第五段階の中で自由割振点で買う分は、ほかの【訓え】でもよい。

/Backgrounds 創りたての『ヴァンパイア』のキャラクターは5レベル分の【背景】を持つ。自由割振点でさらに買い足すこともできる。【背景】は、ゲームの機能としてキャラクターの構想の一面を示すものだから、5レベル分を好きな【背景】に割り振ってよい。あなたのキャラクターが他のキャラクターたちからどのように扱われたいかを【背景】の選択に反映させるのはよい考えである。【背景】は、世界とキャラクターとの外面的な関係性を表しており、その外部の世界は『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』とはかなり異なっている。内面的には、本来ヴァンパイアは静的で変化しないものだ。歳を取らぬ不死の体は、個性の固定化と変化のない惰性を招くことがある。だが、科学と社会が発達し続けるこの世界では、ヴァンパイアは順応か破滅かを選ばねばならない。だから、『ヴァンパイア』キャラクターのための【背景】の選び方も変わらねばならない。古いやり方はまだ消え去っていないのだ。

/Virtues【徳】の選択は『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』の記述に従って行う。3つの【徳】に7レベル分を割り振る。前世紀までは、多くの血族が自分の存在に偉大な目標を掲げながら、異なる〈路/Road〉や〈道 /Pass〉に従っていた。こうした傾向はこの時代に逆転した。『ヴィクトリアン・エイジ:ヴァンパイア』のキャラクターのほとんどは、〈人間の道〉の〈良心〉と〈自制〉とで作成する。詳しくは P.124を参照。

 この段階では、キャラクターの〈人間性〉と〈意志力〉と開始時の〈體血〉を決める。さらに、15点の自由割振点を使って最終調整を行う。そのあとに、【長所】と【短所】を選んで更なる細部(キャラクターの癖など)を再現してもよい。

/Humanity〈人間性〉の値は〈良心〉と〈自制〉の合計に等しく、自由割振点によってあとから調整できる。若いヴァンパイア(十一から十二世代)の〈人間性〉は高い傾向にある。世代が低いヴァンパイア、特にこの時代に都市

 人間は自己認識の在り方を常に変化させており、血族もそれに倣っている。この自己認識の結果として、外側に感情を見せるための振舞いか、感情を隠すための受動的隠蔽かを起こす。古参の血族によれば、こうした人間の態度は昔から変わっていないという。ゆえに、人格のアーキタイプは人類社会を通じて限定的で固定的になりそうなものだが、そうではない。 人々は社会動向の中で集まり、外部の世界に対する認識を心に刻み、常に再定義を繰り返す社会に適応しようともがいている。『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』で紹介されている人格のアーキタイプは『ヴィクトリアン・エイジ:ヴァンパイア』にも適用できるが、わざと明確にしていない部分もある。キャラクター独特の個性を反映させるために、アーキタイプは常に発展すべきであるから、その時代の精神を反映させるための再構築も問題なく可能なのだ。こうした新しい、あるいは内容が変わるアーキタイプは、ヴィクトリア朝時代のスタイルを導入することから始めるとよいが、それで確定というわけではない。あなたのキャラクターは、必ずしも颯爽とした進歩的なヴェントルーである必要はない。一座のストーリーテリングに合わせた個性的な選択をすべきなのだ。 同胞を駆り立て、ヴィクトリア朝世界に対する視点をまとめられるようなアーキタイプの使い道を、一座で考えるべきだ。個々のキャラクターを構築するのと同時に、アーキタイプによるキャラクター同士の結びつきの在り方も考慮するとよい。人間が家族や年齢の枠以外の集団も形成するように、ヴァンパイアが集まる理由も氏族や世代のみではない。キャラクター同士の関係を決めるにあたって、ヴィクトリア朝時代特有の設定を用いたり、ヴィクトリア朝時代にありふれた設定を脚色したりしてほしい。アーキタイプを基に設定された関係性は根源的で、キャラクター間の直感的な相互理解を促すものだ。 こんがらがった頭を落ち着かせるために娼婦(〈負けず嫌い〉)を買った教授(〈完璧主義〉)という関係を想像してほしい。もし彼らが抱擁されたら、その関係はどう変わるだろうか? 何世紀ものあいだヴァンパイア神話を体感してきた衝動的な貴族(〈危険好き〉)と賢明な執事(〈伝統主義〉)の取り合わせはどうだろう。消耗して死にかけた患者(〈悔悟者〉)を、罪滅ぼしに永遠を与えようと抱擁した〈世話好き〉な血族の医師は? さらに、ヴィクトリア朝時代文化に既存の社会構造

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を考慮すれば、気の合う者同士を集めることも可能だ。紳士クラブには、単に身近だからというクラブもあったが、たいていは同じ関心や業績を共有する者が集まった。〈反逆者〉たちはヘルファイア・クラブで戦友に会えたし、〈享楽家〉たちは茶番仕立ての夜会で話し相手を見つけた。大学や美術館、貧しい下宿屋などが、確固としたつながりとして同胞をまとめる場合もある。こうした場所は、〈意志力〉を回復するためのちょっとしたきっかけや、史劇を通じて多くの物語の可能性を提供する。 裕福なヴェントルーが、食餌のため、新たな継嗣や従僕を選ぶために紳士クラブを創立したとしよう。似たような〈本性〉を持つ紳士の集団には、さりげない会話と質のいい煙草がつきものだ。このヴェントルーにとって、クラブで過ごす時間は大いに慰めになる(そして〈意志力〉を回復できるだろう)。あなたの同胞がこのヴェントルーに抱擁された身分の高い英国紳士ばかりならどうだろう? クラブが私欲(血や金や〈意志力〉)のために会員を利用したら? 件のヴェントルーが突然えこひいきを始めたらどうか? これはヴァンパイア社会の縮図となるだろう。

/Artiste〈芸術家〉は芸術そのものに興味を抱く。創作こそ人間を人間たらしめる能力なのだ。芸術の大家はそれを知り、栄光ある人間として生まれたことのみならず、人間のみに贈られた表現力を悦ぶ。〈芸術家〉は自分の芸術を感得して飲み込み、受け入れることで成長する。詩人、劇作家、画家、作曲家などのロマンティックな表現を行う人物は〈芸術家〉のアーキタイプである。パリやブダペストの喫茶店、バー、大学宿舎、場末の売春宿、地域共同体のホステルなどにいるのが一般的だ。 ――自らの創作物を通じて観客を“境地に到達”させたら〈意志力〉を1点回復する。観客が受け入れない、あるいは感動しない場合は回復しない。

/Coward〈臆病者〉は何よりも自分自身を恐れている。攻撃や拒絶に対して脆いため、何であれ自分の本心を表に出すことができない。しかし外界から完全に隔離されることも怖いので、愛と承認を得るために若干の考えや感情を外に出している。〈臆病者〉は認められ受け入れられることを切望しているのだ。聖職者や軍隊、工場などの中で特徴のない立場にあろうとする人物は〈臆病者〉のアーキタイプであることが多い。 ――自分自身をある程度さらけ出すことができたら〈意志力〉を1点回復する。このとき、傷つけられたり過度にさらけ出しすぎたりしてはならない。

/Explorer 未だ誰にも語られていない地域が無数に存在する現在、我々は世界を理解していると言えるだろうか?〈探検家〉は、周囲の環境に対する理解を完全なものにすることで、自身を高めようとする。そのくせとても飽きっぽく、大量の収集品を放ったらかしにすることもしばしばだ。〈探検家〉だからといって、世界中を物理的に旅するとは限らない。大西洋を渡ってアメリカまで行くことで満足するかもしれないし、単に異国の食べ物(あるいは血)や音楽を求めているだけかもしれない。好事家、兵士、商人、芸術家、科学者、開拓者などが〈探検家〉のアーキタイプの体現者である。 ――新しい何かや新しい場所を体験できたら〈意志力〉を1点回復する。一週間ほども新しい刺激的な何かに触れられずにいると、退屈のあまり〈意志力〉を1点失う。

/Fatalist〈運命論者〉は不可避たる運命の力を信じている。楽天的な〈運命論者〉は、たとえ結果がどうなろうと人生を生きねばならないと考える。何が起ころうとも自分の存在を恥じることなどない。決定的な重荷を背負っていると感じる悲観的な〈運命論者〉にとって、この世界にはどこにも逃げ場がない。あらゆる近代的科学技術、社会改革、芸術擁護は無意味だ。〈運命論者〉の前途は果てのない自由か不可避の牢獄のいずれかである。〈運命論者〉は、艱難辛苦を内在化したり肉体的経験としたりすることで、これを耐え抜くことがある。 ――あなたの個人的な運命の解釈を誰かが経験上納得してくれたら〈意志力〉を1点回復する。ストーリーテラーの判断によっては、個人的な苦難を通じてこの宇宙の無限の単純性に至る閃きを得たら〈意志力〉を1点回復してもよい。

/Futurist〈進歩主義〉は壮大な未知に夢を抱いている。人類は驚異的かつ興味深い新時代の入り口に立っているのだ。新たに来るものは受け止めなければならない。〈進歩主義〉は科学技術や人類の努力の驚くべき発見に歓喜し、ときには〈情熱家〉と同じように、新たな理論、原理、実践を発見しようとする者もいる。進歩主義は領土拡張論から発展し、やはりこの時代に生まれたサイエンス=フィクションのジャンルとは姉妹関係にある。科学者、後援者、作家、教師など、前向きな姿勢を持つ人々は〈進歩主義〉であることが多い。 ――あなたが最初に進歩的な装置や理論を見つけたときに〈意志力〉を1点回復する。ただし、読みかじるだけでは不十分だ。実際に人に会い、物に触れねばならない。ストーリーテラーの判断によっては、進歩的

発展の創造に実際に寄与したときには〈意志力〉を2点回復させてもよい。

/Outsider〈部外者〉は、社会に参加しないことによって定義される受動的な反逆者である。自分が同意しない社会構造をあえて貶めたりはせず、自己流の解釈と受け入れ方をするのだ。使用人、芸術家、犯罪者、浮浪者などが一般的な〈部外者〉である。 ――他人の決定によって、自分自身について何らかの発見をしたら〈意志力〉を1点回復する。その決定が自分の判断と異なる場合は特に。

/Quester〈探求者〉は、全世界にとって有意義となる偉大な真理を捜し求めている。周囲に大いなる苦難と混乱を振りまきつつ、追求するのはただ理解のみである。〈探求者〉はあらゆる苦境や困難を根本的な対立点に還元し、あらゆる関係性をこなれやすく、扱いやすく、克服可能なように単純化する。また、穏やかに過ごしながら、世界を完全に理解することのみが幸福への道であると静かに信じている〈探求者〉もいる。聖職者、科学者、瞑想家、降霊術者などが〈探求者〉にあてはまる。 ――経験則となるような簡明な人生の教訓を得たら〈意志力〉を1点回復する。この経験則は必ず反証されるだろうが、あなた自身が見つけた答えだということが重要なのであって、真実が必要ではないのだ。

『ヴァンパイア』のゲーム機能に対するヴィクトリア朝設定の影響は、微々たるとはいえ確実に存在する。とはいえ、あなたが慣れ親しんでいる【技能】の大部分はそのまま使用できる。これは、あなたがどのようにゲーム設定とゲーム機能に向き合うかによる。ヴィクトリア朝時代の世界観は、〈保安〉や〈銃器〉、〈医学〉といった特性値に機能的な調整が必要ない程度には近代的である。適切なヴィクトリア朝時代の事例に合わせようとルールを弄くらなくてもいい。霧むせぶロンドンの裏道を描写するのに特性値が邪魔になっているのなら、その特性値に重点を置き過ぎているということだ。現代設定で何年もプレイしていれば、〈保安〉の【技術】は本作には相応しくないと思うだろう。だが安心してほしい。『ヴァンパイア』のシステムはガス灯にもストロボ蛍光灯にも対応できる。 また、1780年にヴァイオリンの達人であったヴェントルーは1880年にも達人のままである。同様に、中世の錠前を巧みに開錠したブルハーはヴィクトリア朝時代の鍵も開けられる。キャラクターの【技能】を維持す

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るために経験点を消費する必要はない。代わりに、時代や技術の進展とともに拡大する【技能】の焦点に対して、単純な読み替えが必要になる。つまり、5レベルの〈保安〉を持つブルハーの宝石泥棒は、最新の銀行警備や南京錠に置いていかれなかったと仮定するのだ。ストーリーテラーによっては少し調整をかけるかもしれないし、それはルール違反ではない。しかし、ストーリーを重視するなら、こうした【技能】の老朽化を考慮しないこと。 【技能】使用の鍵は文脈である。“〈銃器〉4”という表記は、ストーリーテラーシステムの文脈と、進行する史劇の物語中の成り行き上でしか実際の意味を持たない。単発式のリボルバーと初期のボルト・アクション・ライフルの時代には、4レベルの〈銃器〉は、弾と火薬と薬莢から銃弾を組み上げられるだけの経験を積んでいることを示している。無薬莢のホローポイント弾の時代には、4レベルのキャラクターは被帽も詰め綿も使ったことがないだろう。こうした詳細は、〈銃器〉の定義に暗黙のうちに含まれているように思えるが、そうではない。物語の中に描写として現れる機会がおとずれるそのときまで、技能がそのキャラクターの内部でどうなっているかは問題にならないのだ。【技能】は能力や背景を厳密に表現しているわけではないし、その定義によって史劇が結果づけられることもない。もしも、キャラクターシート上の抽象的なレベルに実際のデータを厳密に割り当てることでキャラクターの行動を決めるとしたら、物語の流れは薀蓄に占拠されるだろう。なんと言おうが、レベルはダイスの数を表しているに過ぎない。描写の機会は運任せなのだ。【技能】は、あなたのキャラクターの腕前が物語上の他のキャラクターに比べてどうであるかを示している。物語の上で意味を持たせない限り、もともと曖昧なものなのだ。 考えておくべきことは、時代設定を利用したゲーム世界の中でどのように【技能】を表現するかだ。1950年代シカゴの刑事が持つ〈調査〉3と、19世紀のスコットランドヤードの巡査が持つ〈調査〉3はどう異なるか? ふたりの習慣や衣装の違いを差し引いても、彼らの使う玄人の手法は違っているだろう。新しい専門分野も必要だ。専門分野は、複雑すぎてドラマを停滞させない程度のゲーム的特殊効果で物語に彩りを与える。これは、技能レベルだけで明確な歴史上のキャラクターを設計するための秘訣である。 【技能】が4レベルに達していなくとも専門分野を選んでおくことをお勧めする。これは特に、キャラクターシート上の略記として重要なのだ。歴史用語や新進気鋭の科学概念(骨相学など)を書いておけば、一目でキャラクターの構想が思い出せるし、設定を補強できる。すぐ忘れてしまうような閃きがキャラクターシートにメモしてあれば、プレイ中にも役に立つ。

 ヴィクトリア朝時代には、現代の読者が奇妙に感じるような技術がさまざまにあった。それらをキャラクターに組み込めば、時代の雰囲気を味わう助けとなるだろう。頭蓋の突起を扱う骨相学は、人物の本質までも露わにすると考えられ、1890年には現代科学・現代医学として認められる。筆跡鑑定は〈調査〉技術のひとつであり、個人の性別や国籍さえも明らかにできると一部では考えられている。犯罪者リストには頭骨の寸法が記録され(頭蓋は成人してから変化しないため)、犯罪者の知的能力の指標とされている。心理学や人類学といったソフトサイエンスは研究され始めたばかりで、学者、すなわち科学者たちから重大に受け止められている。百科事典や小説、歴史書を読めば、ストーリーテリングに役立つアイデアをさらに得られるだろう。 一方で、現代では一般的な技術を、新たなる手法としてかつての時代に戻してやるのも興味深い。記録方法としては古臭くなってきた写真も、新たな〈表現力〉の手法となる。第一号の機関銃は開発されたばかりだ。細菌学と殺菌法は、新しくてまだ広まっていない医療技術である。「進化論」は科学の新理論、マルクス主義は新種の政治学だった。

【才能】は直感的な行動であり、実践と経験によって研ぎ澄まされる。他人から学ぶこともできるが、どちらかといえば独学で習得される。この時代において異なるのは、特殊で当世風な【才能】の形態だけである。英国の上流階級では、〈共感〉や〈虚言〉のような【才能】はより洗練されているが、使われ方は根本的に変わらない。プロボクサーは紳士的な殴り屋である。ルイス・キャロル、ウォルト・ホイットマン、トマス・ハーディー、ラドヤード・キプリング、エミリー・ディキンソンはみな当世の作家だ(故人もいるが)。〈表現力〉の形態は、アメリカやヨーロッパやアジアの作家や画家たちが容易かつ頻繁に交流できるようになったため、大なり小なり革命的に変化している。 壮大さを好むストーリーテラーやプレイヤーは、ゲーム中の【才能】の利用にヴィクトリア朝時代の豊富で多様な伝統を香辛料として利かせることができるだろう。そうでなければ、【才能】は『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』のルールどおりに運用すること。

 自動車がないことを除けば、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』に詳述されている【技術】のほとんどはヴィクトリア朝時代にも適合する。〈運転〉の【技術】は、このゲームのキャラクターには習得不可能だ。それ以外は大いに使える。社会的立場のあるキャラク

ターにとって、〈礼儀作法〉は特に重要だ。この時代の人たちは、まず間違いないく〈近接武器〉を習得する(大金がかかるわけでもないし)。非常に多くの人々が、〈製作〉の【技術】で生活している。平均的な労働者は工場機械より安い賃金で雇われている。馬はヴィクトリア朝時代の都市の至る所にいる。不幸な事故を避けたいのなら日中の管理人と調教師が必要だろう。 短い芝居じみた軽薄なダンスや、ギルバート&サリバンのオペレッタなどが〈演技〉の演目としては人気がある。蝋による鍵の型取りやダイナマイトの使用(比較的自由に使えた)などが、この時代の〈保安〉の使い方となる。決闘による裁判は公式にはなくなっていたが、フェンシングは未だに一般的である。犬と馬の繁殖が貴族のあいだでもてはやされているため、〈動物理解〉に優れたキャラクターは裕福になれるだろう。【技術】は弟子入りや実践を通して習得するのが適当である。優れた技術を持つ労働者にとって最も頼りになるのは経験であるから、生涯の職業を通して学ぶのが一般的だ。【才能】と同様に、【技術】の習得は社会階級の高低によらない。

/Ride 襲撃者が馬車の屋根から転がり落ちて道路の玉石の上で身をよじるのを確認すると、ドノヴァンは馬に注意を戻した。頭の傍では馬車のカンテラが狂ったように揺れ、その明かりのおかげでガツガツと進む蹄の下に消える雨がよく見えた。靴は泥まみれだ。厄介仕事にかかる前に見せる生前からの癖というやつで、拳を打ち合わせると、彼は近い方の馬に飛び移ってその首に手を回した。 両足を馬具に絡ませると、彼は馬を馬車から外して遮眼帯を引っ張った。走り過ぎる馬車を脇に避ける。「さあて、お嬢ちゃん」馬首を返しながらドノヴァンは馬の耳に囁きかけた。「何が起こったのか確かめてみようかね」愚痴を垂れながら、ひとりと一頭は小道を駆け戻っていった。 この【技術】は、基本の乗馬技術から馬勒、鞍、厩舎の知識に至るまでの馬術に関する一般的な理解を表している。〈騎乗〉を有するキャラクターは馬の価値や健康状態を推し量ることができる。修練を積めば、訓練された馬に曲芸をやらせたり、馬上で戦闘を行ったりできる。この【技術】があれば、四輪馬車や二輪馬車の操縦も可能だ。この【技術】を持たなくても馬の背に乗ることはできるが、馬を操ることはできない。● 初心者:決まったコースを走り、必

要最低限の世話をするだけ。●● 経験者:疾走や難しい方向転換、

ちょっとした跳躍ができる。●●● 中級者:狩りや悪天候でも騎乗で

き、華麗な跳躍を決め、鞍ずれも起

こさない。●●●● 熟練者:サロンよりも鞍上にある方

が落ち着く。●●●●● 達人:勇ましい曲乗りと馬上剣術が

あなたの存在理由だ。所有者:猟師、御者、伝令、兵士、地方の有力者専門分野:跳躍、競馬、馬上戦闘、市街地、芸乗り

【知識】全般に適用できる標準的な教育は存在しないため、一般人が〈科学〉や〈教養〉といった技能に慣れ親しむ機会はない。大学の組織運営が始まってからすでに一世紀以上が経っているが、公教育は存在しないし、それが有望な起業であることを認識している上流階級の人間もほとんどいない。慈善活動によって教育を受けられる貧民や被抑圧層もいるが、稀である。ヴィクトリア朝時代の市民の大半は、無教育のまま45年かそこらの人生を全うしているのだ。 この時代には新たな政治哲学が立て続けに現れ、知識人や自由人たちを彼らの政治信条をもって分類するのも一般的になった。降霊術の流行や旧世界の迷信は〈オカルト〉知識が非常に一般的になったことを意味するが、同時に、深く追求されることは滅多にない。英国の法理論の数々は、大英帝国において程度の差こそあれ実践されている。精神科医と考古学者は〈科学〉と〈オカルト〉を交差させ、同時代の作家の想像力を惹きつけている。医療技術はアメリカ南北戦争からそれほど進歩していない。皮下注射器と聴診器は比較的新しい。〈科学〉は進化理論上の分岐を考察し始めたばかりで、元素周期表も作成過程である。『ヴィクトリアン・エイジ:ヴァンパイア』のキャラクターは〈コンピュータ〉知識を習得できない。代わりに〈謎解き〉の解説を以下に用意した。この時代のキャラクターのほとんどは、【知識】を第一分野にしない。それができるのは物事を知る職業に就いている者か、大学の関係者くらいだ。いずれにせよ、下記以外の【知識】の扱いは変わらない。

/Academics マルコムはエドガーを注視しつつ、彼の反応を待っていた。目の前の台の上にはギリシャ文字が彫られた、壊れた石版がある。マルコムは石版をちょうどよい大きさの真鍮のスタンドに置き、特製の電球で照らしていた。「どう思う?」マルコムは尋ねた。 エドガーはきわめて慎重に親指でマッチを擦ると、石版の表面に近づけた。風に削られたため、輪郭の丸いギリシャ文字はほとんど読めなくなっている。「これはサッフォーの詩だな。おそらくその片割れだろう」エドガーはマッチの火を消してマルコムを振り返った。

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CHAPTER THREE

笑顔に牙がのぞき、血が脈打った。エドガーは続けた。「残りは1878年にアインハワー博士が発見し、彼の乗ったメリーウェザー号とともにコルシカの海岸沖に沈没したという。残念なことだね」 この【知識】が取り扱う「人文科学」は、19世紀においては重要な研究だと考えられている。〈教養〉が0レベルのキャラクターは文盲である。教養に関するテーマの学習にはさまざまな方法があり、大学などの学校に通ったり、家庭教師や個人の蔵書から学んだりできる。通常の使い方のほかに、〈教養〉は紳士クラブやお茶会やサロンでの社交目的に用いたり、大学で聴衆に感銘を与えたり、裕福な人物から助成金を勝ち取ったりすることにも利用できる。最古参の血族は、実際の事件に関与していたという経験そのものを、〈教養〉という形で所持している。ジハドで彼らの裏をかくためにもこの【知識】は必要になるだろう。● 学生:文字が読める。学校で読んだ

ことのある古典から一節を暗唱できるだろう。『デイリーテレグラフ』を読んでいる。

●● 学士:古典の一節を理解しており、余暇にも本を読み、『タイムズ』を購読している。

●●● 修士:古典芸術および現代芸術の流行を理解しており、新しい社会科学にも遅れを取っていない。自分の本を出版することもできる。

●●●● 博士:授業や講義ができ、知識人や気取り屋たちのために大学や博物館の催しに招かれることもある。

●●●●● 学者:偉大な精神を持つ市民として帝国中から認められている。

所有者:教授、ボヘミアン、後援者、長老、エリート専門分野:エジプト学、アメリカ独立革命、比較神話学、ラファエル前派、王立探検隊

/Enigmas「それは何だい?」再び肩越しに研究室の入り口を一瞥しながらエドガーは囁いた。マルコムは答えない。彼は手にした長方形のカードを星明りの天窓にかざした。カードに開けられた小さな穴を光が通り、マルコムの顔に小さな白い点が射した。「マルコム?」「パンチカードさ、エド」マルコムはカードをひっくり返してまた眺め入った。「アンドルー氏は思ったほど古臭くはないようだ」かすかに笑いながら、マルコムはパンチカードをエドガーに手渡し、眼鏡を後ろに置いた。「彼は実に高度な演算式を用いているよ」 エドガーは少し頷いてカードを返し、山高帽を被り直した。「で、どんな演算式なんだ?」 謎かけや入り組んだ難問を解くコツを表すこの【知

識】は、科学にも人文にも役に立つ。科学や歴史の分野が合理的に整理されるためには、まずそれぞれの謎が解決されねばならない。この特性値を持つキャラクターは、あらゆる分野に登場する複雑な問題を解く頭脳を持っている。故意に偽装されたりこれまで知られていなかったような失われた言語や実験手続き、見慣れない演算式などを解読するための論理的能力だ。〈謎解き〉の才能を身につけるには、柔軟な精神と相当の忍耐力を必要とする。● 学生:新聞のパズルを解くのが得

意。●● 学士:規模の大きい複雑なパズルに

時間をかけて取り組める。●●● 修士:謎を簡単に理解し、解決し、説

明できる。●●●● 博士:何世紀ものあいだ気づかれな

かった謎を認識し、答えられる。●●●●● 学者:意味不明な話の中に暗号を見

つけ、混沌の中に規則性を見出す。所有者:神秘家、災厄予言者、密偵、偏執狂、博徒専門分野:古英語の謎かけ歌、暗号解読、パンチカード、演算式、ヒエログリフ

 意思疎通手段の急速な拡大は、圧倒的に無能な公子や大司教を除く多くの長老血族の力を増大させた。文明が動くスピードの増加は、驚くべき域に達している。電報と鉄道によって、情報流通速度は以前よりもますます速くなっている。いったん暴かれた秘密は、電車に乗ってしまえば、パリにいる仲間からプラハにいる宿敵のもとまで四日と待たずに届いてしまう。もちろん、汽車には運行スケジュールがあるが。それがプラハに到着したら自分の導師の影響力が壊滅してしまうくらいに危険な情報を持ったグールが乗る汽車を幼童に追わせる……という話もできる。興味深い物語になることだろう。 血族社会は、未だ大部分が日中移動の危険によって分断されている。ヴァンパイアの社会組織の多くは小規模で孤立している。ブダペストで敬意を払われ認められている長老たちがロンドンまで旅したなら、自分たちの影響力の管轄区域を外れていることに気づくだろう。協力者やコネも一定の地域内に限られる。権力の範囲が増大すれば、発達する縄張りの維持にかかる人員数も増え続ける。ヴィクトリア朝時代の作法によって増大する社会の複雑性に備え損ねた公子は危険に晒され、そこには弱体化の噂を聞きつけた敵対者たちが数晩のうちにやってくるだろう。 名声ある血族は、遠く離れた街に自分の崇拝者を得

ることになる。まず初めに、名声は蓄音機と写真によって旅をする。だが、科学技術による名声の伝播は完全無欠ではない。『ローリングストーン』の表紙に載る人気歌手の写真はまだなく、著名な人物は『虚栄の市』の表紙にイラストで手描きされている。美しく精巧な美術から新しくポスターが生まれ、踊り子や歌手の姿を誇張したり様式化したりして公演に対する興味をかきたてた。たとえばサラ・ベルナールは、アルフォンス・ミュシャの手によるフランスのポスターに、さまざまな幻想的衣装とポーズで描かれた。こうした空想的描写が個人の特定を誤らせる可能性は充分にあり、面白い物語の種になりうる。 ヴィクトリア朝時代の従者の役割については特別に考察する必要がある。社会的な人間を装う血族なら、少なくともひとりの近侍を持つべきだ。実際、従者と資産と影響力と人間性のあいだの関係は繊細で、かつ高い身分のヴァンパイアが仮面舞踏会の掟を維持するための鍵なのだ。影響力があるがあまり姿を見せられない(〈人間性〉の値が低いため)人物は、医者に注目されるかもしれない。大事な患者になると思って熱心に近づいてくるばかりか、日中に会えないとなるとさらに関心を抱くだろう。莫大な財産で知られる人物がひとりの召使も持たないのは奇妙なことだ。意義ある社会的立場にありながら、週末に訪れるための田舎の別荘を持たない人物は人間社会の名望を失うだろう。従者は雇い主のために日中の用事をこなし、社会的な日程と約束を調整し、ごく普通の成功した英国貴族という幻想を支えてくれる。

 血族にとってありがたいことに、ヨーロッパ中に複数の寝処を維持することは昔より簡単になった。ヴァンパイアは非常に安全に遠くまで旅することができる。相当な資産を持つ者なら、日中の移動のために窓のない自家用車両を走らせることも可能だろう。国際的な移動をより現実的に実現させようという(プライドのない)血族なら、自分を積荷にして蒸気船で送らせるだろう。こうした旅行には信頼のおける従者が必要不可欠である。

/Generation エドガーはブランデーグラス越しにマルコムを見た。ふたりは、凝った装飾の中国製のテーブルを挟んで、深いウィスキーブラウン革の椅子に座っていた。テーブルの上には濁った水晶の大皿と中身の減ったブランデーが置かれている。「なあエド、アンドルーは老いぼれた。彼は僕らの提案する計画を何もかもややこしくしてしまう」マルコムは火の点いてない煙草をひと嗅ぎした。「彼の血は濃くて強い。戦慄ものだ」 エドガーはブランデーをひとすすりした。彼が舌をなめずり、ブランデーを水晶のボウルに吐き出し、口ひげの下に指を走らせると、牙がチラリと覗いた。「だから我々から行動を起こさねばならないんだ、先生。彼の血を手に入れれば恐れるものなど何もないだろう?」 血族の血の純粋さは未だ弱体化を始めていない。この、ヴァンパイアの力が偉大であった最後の時代、血族が広大な地所内に個人的な不死者の社会集団を維持できていた時代には、強力な父の存在はより一般的で

世代 特性の最大値 體血の最大値 ターン消費上限3 10 ??? ???4 9 50 105 8 40 86 7 30 67 6 20 48 5 15 39 9 14 210 9 13 111 9 12 112 9 11 113 + 9 10 1

特性の最大値:その世代のヴァンパイアの特性の上限を表す(〈人間性〉/〈道〉や〈意志力〉は除く)。【訓え】や【能力】に関して特に重要である。體血の最大値:ヴァンパイアが体内に蓄えられる〈血〉の上限を表す。長老の血は濃いのであって、体内に他のヴァンパイアより多量の血を蓄えているわけではない。一滴の血が1点以上の価値を持っているのだ。ターン消費上限:〈血〉を 1ターンに何点まで使えるかを表す。

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あった。弱い世代がもたらす恐怖など、ほんの些細な噂に過ぎない。同族喰らいの機会が訪れることなどほとんどない。この時代のヴァンパイアは強力かつ自信に満ちている。結局のところ、世代で劣ることは救い難いのだ。〈世代〉が1レベルもないヴィクトリア朝時代のキャラクターは、第十二世代の血族となる。

● 第十一世代:〈體血〉は12、1ターンに〈血〉を 1点使用できる。

●● 第十世代:〈體血〉は13、1ターンに〈血〉を 1点使用できる。

●●● 第九世代:〈體血〉は14、1ターンに〈血〉を 2点使用できる。

●●●● 第八世代:〈體血〉は15、1ターンに〈血〉を 3点使用できる。

●●●●● 第七世代:〈體血〉は20、1ターンに〈血〉を 4点使用できる。

/Resources マイクロフトは厚手の外套を羽織る前に、その絹の裏地を点検した。銀の隼の頭をあしらった杖を仰々しく脇に挟み込むと、時計と鎧を通り越し、本棚と風景画を過ぎ、玄関まで辿りついた。帽子を取って被るあいだだけ立ち止まり、玄関もたちまち行き過ぎる。街の別邸の入り口から鉄柵までのあいだに、彼を待っている二輪馬車をじっくり見た。折り畳み階段を一段上がると、彼は薄暗い馬車の座席に姿を消した。「クラブへやればいいんですね、旦那」外から御者が尋ねる。 イタリア製の革手袋をつけると、マイクロフトは懐中時計を見た。「だがまずピカデリーを通ってくれ、君。道中軽く食餌としよう」 この【背景】は、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』のものと事実上同じである。あちらの本とはある種の富の概念が異なっているに過ぎない。貧富の格差は凄まじく、ほとんど克服することができない。実際、ヴィクトリア朝時代のロンドン社会は、富裕層が下層階級の市民を(雇用している者を除いては)目にすることなく日々を過ごせるように構築されている。 大量生産は始まったばかりだが、無産階級に賃金を浪費させ、その経済的地位を固定するために大量のうわべだけの“消耗品”が存在している。ヴィクトリア朝時代社会では、ただ金銭を使用するだけでは不十分で、どのように使うかを周囲に認識される必要がある。無論、慈善活動は上流階級に相応しいとされたが、そうした金がどこへ行くべきかについては非常に独特な(かつ偏見に満ちた)決まりがある。 流動的資産は、高いレベルの〈資産〉とは相容れない。不遇の時代を過ごしている英国領主であるが、彼らの富は不動産や美術品などのものに縛られており、

簡単に消費できない。同様に、上流階級の者が起業して財産を稼ぐことが普通になり始めてはいるが、裕福な両親から小遣いをもらう者も珍しくない。ゆえに、純粋な社会的関心に私財を投じた場合、一時的にはその消費能力を低下させたとしても、生活水準を劇的に変化させることはない。逆に貧者の側から見ると、彼らはたとえ棚ぼたで財産を得たとしても、借家や労働階級から逃げ出すことはできない。資産家層に受け入れられない限り、現金を持っていても生活水準の変化には寄与しないのだ。● わずかな貯金:田舎の下宿屋で数週

間分の払いが済んでいる。所持品といえば持ち歩ける程度のもので、家宝か何かが含まれるかもしれない。財産を処分すれば15ポンドになる。ひと月に 7ポンドの収入がある。

●● 中流:テラスつきの平屋。財産を処分すれば300ポンドになる。ひと月に 40ポンドの収入がある。

●●● 資産家:都市の別邸か田舎の別荘。財産を処分すれば7,000ポンドになる。ひと月に450ポンドの収入がある。

●●●● 裕福:上流階級。贅沢な都市別邸や広大な田舎の地所を持つ。財産を処分すれば 200,000ポンドになる。ひと月に 4,000 ポンドの収入がある。

●●●●● 大富豪:財産を処分すれば1,000,000ポンドになる。ひと月に12,000ポンドの収入がある。

/Humanity ヴァンパイアは社会的な存在だ。彼らは感情面でも肉体維持の面でも人間を必要としている。〈人間性〉が無ければ彼らはヴァンパイアではない。ただの“獣”だ。 産業革命は何もかもを変えた。血族はそもそも家畜の群れに惹かれ、人間が増え続ける都市にやってきた。そこでは狩りが容易で、獲物はどこにでもいた――都市に食料を求めて来たというのが嘘である場合を除けば。はるか昔からヴァンパイアは餌となる家畜たちから距離を置いてきたが、現在は、自分たちの生存に必要だからではなく、人間に囲まれた環境を好むがゆえに、密かに共存している。“丘の上の城に棲む”やり方が非常に有効であったのは間違いない。トンネルを徘徊するノスフェラトゥに聞けばわかる。ヴァンパイアは食うために文明地への襲撃を繰り返し、日中は遠く離れた地で眠りについていたのだ。だが、なんたることか、彼らは人間と一緒に棲むことを選んだ。ヴァンパイアが社会的な存在であるがゆえに。

 自暴自棄な、あるいはたいていのことをヴァンパイアの呪いで賄おうとする多くのサバトは、〈人間性〉からかけ離れた〈道〉に従おうとする。彼らは人間に対してもカマリリャの血族に対しても好き勝手する暴君と

とわ

して振舞う。少なくとも永遠の滅びを目前にすれば、その傾向が顕著に現れる。そして、こうした状況はよくあることだ――異質な倫理観は人間の精神では受け入れがたいし、サバトがどんなに否定しようとも、ヴァンパイアは“獣”であると同時に人間そのものなのだから。 サバトの長老は兵卒たちに、ヴァンパイアは〈人間性〉を否定できると教えるが、それは飢えた幼童に力を錯覚させるための方便である――主人の命ずるままに、曖昧で謎めいた〈道〉を真っ逆さまに駆け下りられるだけの錯覚を与えるのだ。幼童たちが超常の憤りと尊大さをよく溜め込んだなら、彼らはカマリリャに向けて解き放たれる。 この手段は、ヴァンパイアの力に対抗しようなどという人間がほとんどいなかった暗黒時代には有効であった。だが、ヴァンパイアと獲物の距離が近くなればなるほど、この手段は高くつくようになった。ヴァンパイアの存在を派手に見せつけることは、いまやカマリリャに敵対するだけでなく、科学と宗教と炎によって自信をつけた人間の敵視をも買ってしまう。 サバトの幼童の多くが別の倫理観に従っているのは、年長のカイン人が彼らにそれを強いたからだ。長老は、幼童には力不足であったり理解できなかったりするような目標に向かって彼らを駆り立てる。若いサバトが主人の命令に逆らうようなことがあれば、陽光に焼かれる運命を辿る。派閥の中で若輩になれる者が極端に少なく、また、長老たち自身が華々しい自殺戦術に投入された革命の暴徒にほかならないため、サバトの長老にとってこのやり方は当たり前なのだ。 サバトの幼童がその無秩序な幻想を行動として実現させようとするとき、それは大きくふたつの方法を取り、どちらも同じ運命に帰着することが多い。ひとつはカマリリャに対する攻撃で、法と礼儀作法で構築されたカマリリャの社会的な砦を動物的な蛮勇と狂乱によって打ち崩そうとする。ふたつめは、派閥間の抗争を完全に避け、脆い人間たちを永遠に支配できる古のヴァンパイアの秘密を求めて禁断の儀式に没入する。どちらの場合も破滅に終わるのが一般的である。 19世紀が終焉を迎えようとしているいま、サバトの長老と幼童とのあいだに深刻な世代間格差が生じてきている。長老は、寝処に篭って自らの〈道〉を堅持し、カマリリャとの抗争に敗れた者の補充要員を得るため新たな抱擁の許可を与えている。狡猾で我慢強い長老

たちは何十年ものあいだ同じ戦略を続けており、幼童の消耗とカマリリャへの挑戦が繰り返されている。結果、ヴィクトリア朝時代のサバトは、倫理観の変容と対カマリリャ抗争の最前線とに立たされながら主人に抵抗している、経験のない幼童が大部分を占めている。彼らの背後では長老たちが暗躍し、将来の対抗馬が減少する中で力と安寧を増している。長老たちは権力と安全を握っているのだ。 そうしているあいだに、カマリリャが台頭する。

 ヴィクトリア朝時代において、人間性は科学を味方につけ、心理学と文化人類学という方法論を手に入れた。たとえわずかであっても人間の本質に傾注してきた数々の芸術は、裕福な後援者や大都市の観客たちから社会的関心を集めて賑わっている。医学の分野では、人間の体(と血液)の秘密に関する重要な発見が為された。あらゆる文明が、自身の成功に沸き立ちながら自己を分析している。科学者、詩人、画家、音楽家、医者、政治家、皆が人間たることの意味を求めている。人間たちの中にいるヴァンパイアも、同じように興味を抱くようになった。 人間の文明は、ヴァンパイアたちがかつて体験したことのない速度で発達している。神秘主義や科学、歴史、オカルトによる人間性の自覚は、完璧とはいかないまでも、均衡を見せている。人間の潜在力には血族ですら驚いているのだ。この驚愕の時代、世界の神秘が明かされる時代に、不死者でさえ注目せざるを得ない。 こうした人類種と人類史の革命の中、ヴァンパイアたちは、自身の呪われた社会と歴史を静かに眺めている。カマリリャの構成員は、ますます人間の活動に没入し、尊大にも周囲の人間に対する手綱を緩めている。こうした人間社会への親近さは、一度は危険なほどに“獣”に近づいてしまった非常に多くのヴァンパイアに人間的な感情を惹起させている。この時代に多くのヴァンパイアが為した決断によって〈人間の道〉が再評価され、次の世代に向けてカマリリャの方向性を規定していった。 カマリリャが人間文明の基盤に適応することで力を増している間に、サバトは分解し始めている。かつては戦略上有用であった立ち位置を墨守しているサバトの長老たちは、いまや表舞台から遠く離れてしまった。〈人間性〉以外の〈道〉に人間やカマリリャを打ち負かす力を見出していたサバトの若輩たちは、急成長する人間の力によって滅ぼされている。

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 人間社会内におけるヴァンパイア社会の拡大は、人間よりも血族に対して影響を与えている。ヴァンパイアの存在に影響を受けた人間の大多数は、ほんの数年(あるいは数分)のあいだに自身の世界観を変えてしまう。人間の存在に影響を受けたヴァンパイアには、何世紀もかけて自身の経験をゆっくり思考する余地がある。だから、長老をも含む多くのヴァンパイアは終末の夜を目の前にして、〈人間の道〉に従っているのだ。このヴァンパイアたちは人間をひどく嫌ったり哀れんだりもするが、人間の冥い鏡像以外の何者でもない。 サバトもまた、この時代から多大な影響を受けている。ヴィクトリア朝時代と終末の夜の狭間で、サバトのカイン人は、自分たちが選択した自己破滅的な路線を理解しつつありながら、なお己が主義を押し通そうとしている。異質な倫理を真に理解しているカイン人たちは、顔も知らない長老のために旧態依然とした自滅突撃の犠牲になりたいとは思っていない。代わりに彼らは知識を集め、それを弱い同族の目から隠している。もはや、愚かな子らの集団が盲目的に権力を目指す時代ではない。世紀が代わったのちには、見込みのある怪物だけが〈道〉を歩むのだ。残りはサバトのために燃えてしまえばいい。 ヴィクトリア朝時代に抱擁されたカマリリャのヴァンパイアは自然に〈人間の道〉を遵奉し、別の倫理観を学ぶ者はほとんどいない。ケイティフですら〈人間性〉に向かい合っている。多数派が圧倒的なこのヴィクトリア朝時代に、サバトと、独立氏族の中でも最も経験豊富な構成員だけが、異質な倫理観を遵守している。

/Merits and Flaws まず何よりも、この特性は選択ルールであることを覚えておいてほしい。基本の能力値とストーリーテリングを通してキャラクターを描写するほうが単純かつ効果的であることはままある。多くの【長所】と【短所】を費やしてキャラクターを説明しようとすれば、ひとつひとつの価値は下がってしまう。節約しよう。『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』に紹介されているすべての【長所】と【短所】は、『ヴィクトリアン・エイジ:ヴァンパイア』に適用できる。すべてを上手く適応させるためには、【技能】でそうしたように時代に特徴的な内容を修正する必要があるだろう。たとえば、このゲーム中の〈キャリア〉はHIVを媒介しないだろう。マラリアなど、当世の恐ろしい病気はいくらでもある。

 肉体的な【短所】、とりわけキャラクターが人間だったときから持っている特長は、この時代にはある種の注目を浴びる。〈不細工〉や〈歩行障害〉の人間はヴィクトリア朝時代では珍しくなく、すべてのヴァンパイアが特別な種類の人間を抱擁するわけではない。〈中毒〉はスラムから紳士クラブに至るまで、傑出した人物にも有象無象にも蔓延し、1900年代に心理学が円熟するまでは問題と見なされていなかった。医療は普及するに至っておらず、不十分な手当ての結果は不死者の肉体にまで残る。 ヴィクトリア朝時代社会の特殊性を描き出すために、社会の【長所】と【短所】を新たに導入したいと思うかもしれないが、その必要はない。あなたはヴァンパイアの時間旅行者ではなく、同時代人をプレイするのだから。【長所】と【短所】はキャラクターを例外として扱うためのものだ。もし史劇中のすべてのキャラクターが同じ社会規則に従うとしたら、例外も何もない。【社会】の特性値を効果的に用いれば人間同士の劇的な相互作用の核心を描写できる。流行ものや慣習のような表面的要素にこだわるべきではない。社会の【長所】も【短所】も、キャラクターの内面を厳密に表現してはくれない。それは、想像力を働かせ、ロールプレイによって描き出すほうがよい。【長所】や【短所】は、極端に重大かつ闇の生を変貌させる結果をもたらして史劇の表舞台に出てくるのでない限り、ゲームデータの形成を保証するほどの重要性は持たないのだ。 以下に挙げる【長所】と【短所】は、ストーリーテラーが許可した場合にのみ選択できる。ここでは分野ごとに分類せず、ひとつずつ掲載した。

 最近、十二世代のヴァンパイアによって抱擁された。同世代の血族はほとんどいない。ヴァンパイア社会の底辺に形成される非公式の社会階層に参加することになるだろう。氏族の特徴と偏向は維持しているが、長老と若輩と多くの十二世代の幼童から見下されている。他人の倍の声で叫ばねば聞いてもらえないし、他人の倍の力で働かねば気づいてもらえない。尊敬や信頼を授けられることは、いまはまだない。この時代には受け入れられない存在だ。十三世代の時代はまだ到来していない。その時が来れば状況も変わるだろう。十三世代のヴァンパイアは、〈體血〉の最大値が10で、1ターンに 1点の〈血〉を使用できる。

 近年の流行に対して不愉快を覚える。機械はやかましいし、石炭は汚いし、当然ながらガス灯は神経を逆なでする。これらのことはすべて人間の力が増大している信号であり、明らかな混乱の元凶だ。物事がこのままの方向へ進むとしたら、闇の生は正真正銘の地獄

と化すだろう。この50年以内に発明された機械や技術に関するあらゆる【精神】と【社会】の行動は、難易度が 2上昇する。

 大勢を為す社会的幻想に毒されている。もっぱら経済的地位と社会的立場、人種的・民族的背景によって個人を判断するのだ。従者や外国人などという人間は、英国人とは明らかに種類が異なると思っている。自分とは社会的立場あるいは経済的地位が異なる集団に属する人物に対するすべての〈知覚〉、〈共感〉、〈指揮〉、〈虚言〉、〈調査〉の判定の難易度は2上昇する。両方の要素とも異なる相手に対しては、難易度の上昇が3になる。この振る舞いを適切にロールプレイするなら、〈交渉〉や〈魅力〉の判定も同様に困難になるはずである。

 不潔、粗悪などと見なしている血液を肉体的に受け入れられない。圧倒的に灯油臭と石炭臭がする工場労働者の血を目の前にすれば逃げ出すだろう――あるいは貴族のキャラメルのように甘いドロドロの血が駄目なのかもしれない。この【短所】は〈選り好み〉とは組み合わせられない。単なる好き嫌いの問題ではない。合わない相手の血を飲んだままにしておくためには〈体力〉+〈自制〉(難易度8)の判定を行う必要がある。成功数と同じ点数の〈血〉を溜めておける。それ以上の血液は吐き戻してしまう。

 この【短所】は、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』の〈第十四世代〉と〈血が薄い〉を包括している。単にヴィクトリア朝時代のヴァンパイアから弱い存在と見なされるのみならず、もはや破滅の象徴である。その存在は他の血族にとって、少なくとも不愉快、往々にして脅威とされる。あなたは幼童や愚か者の存在に慰めを見出すかもしれないが、多くのヴァンパイアはあなたの存在の意味を考えるより先にあなたを焼いてしまおうとする。単純に言えば、あなたの血の弱さの秘密を知った相手は必ずあなたを嫌悪するわけだ。慎重にやりたまえ。

 飲んだ血を分析する能力は、ほとんど超常的と言ってもいい。血をひと舐めして、馴染みがある味かそうでないかを判断するために〈知覚〉(難易度は7+[血が流れてから経過した時間数])の判定を行ってよい。成功したら、ストーリーテラーは血の風味(テムズ川の水、フランスのメルロー、リンゲンワルドの工場の煤、特定の一家の血)を確かめさせるために2回目の判定を要求してもよい。

 この驚くべき世紀中に発達した仰天するような機械に対する理解が並外れている。過去50年以内に発明された機械装置に触れる、操作する、設計するなどの判定において、2個のダイスを加えることができる。この【長所】を長老が持っていることは稀で、次の世紀には大きな強みとなるはずだ。

 生まれつき、あるいは訓練によって、周囲の幽霊や精霊の存在を感じ取れる。2点の【長所】では、声を聴く、匂いを嗅ぐなどの曖昧な感覚で付近の霊を感じる。人間と意思疎通するときのあらゆる手段を通じて霊と意思疎通できるが、霊以外の不愉快な他人に対して行える以上の干渉を霊に及ぼすことはできない。4点の場合、近くにいる霊をはっきりと見て感じることができる。見た目から霊の身元や生い立ちを推定できるかもしれない。さらには精霊界において奇妙な権威を発揮し、中立的な霊を脅したり、なだめたり、説得したりする【社会】の判定に追加の1成功を得ることができる。しかし、独自の動機を持っている霊はこの権威に敬意を払うとは限らない。いずれにせよ、この【長所】を持っていると精霊界において目立ち、望まざる存在の注意を引いてしまうかもしれない。

 未来を見て、重要な瞬間を発見することができる。未来を覗き見ようとするときには決まった儀式や所作を行うのかもしれないが、ほとんどの場合、この能力は不意かつ散発的に発現する。未来から時間を遡ってきた音に悩まされるのかもしれないし、未来のある瞬間の映像が非常に鮮やかに心の中に浮かぶのかもしれない。ストーリーテラーは〈知覚〉+〈警戒〉(難易度は、予言に関係する人物や場所の親しみの度合いによる)の判定を行わせ、予言の意味を解釈させること。予言は重要かもしれないし、取るに足らないかもしれない。世界の命運に関わるかもしれないし、自分ひとりの未来にしか関係ないかもしれない。