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Chapter 1 燃焼と火災の メカニズム

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Chapter 1

燃焼と火災の メカニズム

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1 火によって進化してきた人類の歴史

地球上で火を使うことができるのは、人間だけです。人類の歴史を振り返ってみると、火の活用は人類の発展に大いに影響を与えてきています。私たちの生活のあらゆる面で、火はコントロールされて活用されています。時には、火祭りや迎え火・送り火のように、あるいはオリンピックの聖火のように歴史的に神聖なものとして伝えられている火もあります。

(1)火の使用と人類の発展

人類が火を使い始めたのはホモ・エレクトス(原人)の時代で、アフリカ、ヨーロッパ、アジアの各地の遺跡などから推定すると、紀元前150万年前から紀元前35万年前の間ではないかといわれています。どのようなきっかけで火を使うようになったかは不明ですが、例えば、山火事による火を持ち帰って使い続け、やがて自分達で火を発生させることを発見したのではないかと考えられています。人類は、動物が本能的に恐れる火を使うことにより、言語の使用と併せ、地球の支配者になることができたのです。更に、火を調理、照明、暖房などに日常的に利用できるようになったため、生活様式の向上と活動範囲の拡大をすることができるようになったのです。

最初は原始的な使い方をしていた火ですが、時を経るにつれて動力源や発電に利用するなど、人々の生活をより便利で快適にするとともに、産業構造にも変革をもたらしました。

その一方で、兵器や武器として使用されてきたことも事実です。

(2)現代に引き継がれる火にまつわる行事

私たちの生活の中で、キャンプファイヤーやたき火などはアウトドア

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ライフには欠かせませんし、屋外の大きな行事には打ち上げ花火は欠かせません。また、春先には新芽がよく出るようにと野焼きが行われることもあります。

火にまつわる年中行事については、小正月(1月15日)に門松などを燃やす「どんど焼き」、盆の入りの提灯に火をともす「迎え火」と盆明けに火をたく「送り火」や「精霊流し」があります。特に、8月16日に京都で行われる「五山送り火」には多くの観光客が集まり、夏の風物詩となっています。

また、修験道や仏教の修行の一環として行われる儀式の火としては、毎年3月に奈良東大寺二月堂修二会に行われる大きな松明で有名な「お水取り」があります。

この他、日本各地には「鞍馬の火祭り(京都:由岐神社)」に代表される火祭りもあり、また、神仏が霊力によって火災を防ぐことを意味する「火伏(防)せ」の神を祀る神社があり、古くから信仰されています。

オリンピックの開催期間中にともされ続ける聖火は、プロメテウスがゼウスの元から火を盗んで人類に伝えたというギリシャ神話に由来しています。

図表1–1 五山送り火

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2 物が燃焼するにはいろいろな条件がある

物が燃える(燃焼)とは、可燃性の物質が空気中で多量の熱と光の発生を伴う急激な酸素との結合反応(酸化反応)を起こすこと、ということができます。ライターで1枚の紙に火をつけると炎を上げて燃えますが、この現象は、紙の主成分であるセルロースが熱分解して一酸化炭素や水素など可燃性のガスを放出し、それらのガスが空気中の酸素と反応して二酸化炭素と水を生成する発熱反応である、と説明できます。

ところが、同じ紙でもページ数の多い月刊誌や電話帳に着火すると、一部は燃焼するものの完全に燃え尽きることはありません。燃え残っている部分を棒などで持ち上げ押し広げ、うちわで扇ぐと再び炎を上げて燃え始めます。このように、着火後に燃焼を続けるには、可燃物の量に応じた着火源の大きさ(エネルギー量)や酸素の量など、一定の条件が必要です。

(1)酸化反応について

酸化反応とは、燃焼現象も含め、物質が酸素と結合する反応ですが、分子レベルでみるとその物質の電子が失われることであり、その物質の水素が失われる反応ともいうことができます。

私たちに身近な酸化反応としては、空気中に放置された鉄等の金属が徐々に錆びてゆく反応や、酸素系漂白剤を使用して衣類の汚れを落とす(着色の原因となる有機色素を無色化する)ことなどがありますが、これらは燃焼とはいいません。また、私たちの体内で起こる有酸素運動による脂肪の燃焼や、ブドウ糖が酸化されて二酸化炭素と水になる燃焼は、本書で扱う燃焼の範囲に入りません。

(2)木炭はなぜ炎を上げずに燃えるのか

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木炭は、炭素が主成分なので、着火すると表面の炭素が酸素と直接結合して二酸化炭素が発生し炎を出さずに燃えます。これは、熱分解による可燃性の気体を生じないためです。いったん燃え始めると、発熱量が大きく十分な高温状態となり、木炭には細かな空洞があるために内部まで空気が入り易く燃焼が継続します。

木炭が燃えると酸素(O2)と炭素(C)が結合して二酸化炭素(CO2)を発生する。

図表1–2 木炭(炭素)の燃焼

(3)燃焼と煙

セルロースやメタノールのような炭化水素有機物が燃焼する場合、酸素が十分にあれば完全燃焼をし、燃焼生成物である二酸化炭素と水が発生します。二酸化炭素は無色ですが、発生した水は水蒸気の状態なので周囲の温度や湿度により白い煙となります。

一方、酸素の供給量が不十分であると、不完全燃焼となり熱分解物である炭素が酸素と結合しないでそのまま放出され黒い煙(煤)となります。この時、一酸化炭素なども発生します。

なお、窒素や硫黄を成分中に含む有機物の場合は、燃焼に伴う熱分解物及び酸素との結合物にこれらの元素が含まれています。

煙の定義:煤などの固体微粒子、水滴などの液体微粒子、一酸化炭素などの有害物質や刺激成分を含む燃焼性生物と周囲空気の混合物(「火災便覧第3版」)。

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3 必要不可欠な燃焼の3要素

燃焼には、①可燃物(燃えるもの)、②酸素(酸化反応に必要)、③熱(酸化反応をおこすための点火エネルギー)が不可欠です。これらを燃焼の3要素といい、いずれか一つが欠けても燃焼は起きません。そして、燃焼を継続させるためには、連鎖反応が必要になります。

点火エネルギー

燃焼

酸素

連鎖反応(燃焼の継続)

可燃物

点火エネルギー、酸素、可燃物の 3 つがそろうと燃焼が起り、連鎖反応により燃焼が継続する

図表1–3 燃焼の3要素と連鎖反応

(1)なぜロウソクは燃え続けるか

一般的なロウソクは、炭素と水素からなるパラフィンを主な原料としています。ロウソクの芯の先端に点火すると、その熱でパラフィンが溶けて液体になり、更に、気化して燃焼します。この熱により、ロウソク本体の固体のパラフィンが溶けて液体となります。液体のパラフィンは、毛細管現象により芯を伝わって上昇して、炎の中心部で芯の表面から気化します。