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水産Eブルテン 2016 年5月号 タイ水産業における労働者虐待 ITUC と ILO の提訴を受け、ILO が問題に着手 2016 年2月、国際運輸労連(ITF)と国際労働組合総連合(ITUC)は、タイの水 産業にはびこる労働者虐待について、タイ政府を相手に ILO へ提訴した。 この二つのグローバル・ユニオンは、タイの水産業は搾取的労働慣行に強く依存しており、タイ政府は 既存の労働法の履行により、労働者を制度的搾取から保護する等の有効な対策を講じていないとして、ILO に提訴した。 タイは 1969 年に ILO 第 29 号条約を批准している。つまり、漁船員の権利保護のための国内法を履行す る義務がある。 しかし、ITF 法務部がタイで漁船員や水産労働者にインタビューをしたところ、タイの水産業には、搾 取的労働が、一部の例外としてではなく、慣行として根強くはびこっていることが分かった。 水産加工工場や陸上での仕事を約束された多くの若者が、無理矢理漁船に乗せられ、働かされている。 脅迫や誘拐によって、漁船に乗せられる者もいる。

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水産Eブルテン 2016 年5月号

タイ水産業における労働者虐待

ITUC と ILO の提訴を受け、ILO が問題に着手

2016年2月、国際運輸労連(ITF)と国際労働組合総連合(ITUC)は、タイの水

産業にはびこる労働者虐待について、タイ政府を相手に ILOへ提訴した。

この二つのグローバル・ユニオンは、タイの水産業は搾取的労働慣行に強く依存しており、タイ政府は

既存の労働法の履行により、労働者を制度的搾取から保護する等の有効な対策を講じていないとして、ILO

に提訴した。

タイは 1969年に ILO第 29号条約を批准している。つまり、漁船員の権利保護のための国内法を履行す

る義務がある。

しかし、ITF法務部がタイで漁船員や水産労働者にインタビューをしたところ、タイの水産業には、搾

取的労働が、一部の例外としてではなく、慣行として根強くはびこっていることが分かった。

水産加工工場や陸上での仕事を約束された多くの若者が、無理矢理漁船に乗せられ、働かされている。

脅迫や誘拐によって、漁船に乗せられる者もいる。

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これらの漁船に共通するのは、搾取と虐待だ。賃金は支払われず、けがをしても医療措置が施されるこ

とはない。休憩時間は守られず、夜通し働かされたり、危険な環境の中、21時間連続で働かされたりする

こともある。インタビューに応じたある若者は、休憩なしで働かされた挙句、船内事故で指を3本失った

が、治療費を自分で払わされていた。

インタビューに加わった ITFのルワン・スバシンゲ法律顧問は、「我々のインタビューによって、この

業界で虐待がはびこっていることが証明された。インタビューに応じた労働者は、睡眠を奪われたり、借

金の方に入れられたり、隔離されたりと、様々な虐待を受けていた。中には、仲間が殺されるのを目撃し

た者もいた」と語った。

2008年の統計によると、タイの漁業・水産加工業の規模は 1042億バーツ(29億ドル)で、同国の GDP

の 9.9%に相当する。

ITFのインタビューは、タイ国内や世界の NGOが実施した同様の調査結果を裏付けた形となり、タイの

水産業が立場の弱い労働者の搾取・虐待により、利益を生み出している構図を明るみにした。

ITUCと ITFは、ILOへの提訴の中で、タイ政府が水産業の問題に対する国際的な批判を受けて、新法を

導入したことを好意的に受け止めている。同時に、これらを制度的に、かつ確実に実施する必要性を強調

している。

「提訴を受けて、ILOが設置した三者構成委員会が、タイ政府に対して、ILOと ITF と協力しながら、問

題を是正するよう勧告することが期待される。船員の権利保護の監視に関して、経験豊富なインスペクタ

ーが大勢いる ITFは、協力相手として適任だ。今回の提訴をきっかけに、タイ政府が ILO条約第 188号を

批准することも期待される」と ITFのルワン・スバシンゲ法務部長は述べた。

ILOの三者構成委員会は、ITUCと ITFの共同提訴を受け、9カ月から1年以内に調査結果を公表するこ

とになっている。

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タイのシーフード産業

サプライチェーンに圧力をかける米国

米国政府は、奴隷労働の疑いのある製品の輸入を禁止する、86年前に制定された

法律を復活させた。これにより、タイのシーフード産業は壊滅的な影響を受けるか

もしれない。

1930年の関税法は、奴隷労働による製品を税関・国境警備局が押収し、国内で販売することを禁じてい

る。しかし、この法律には抜け穴が存在し、商品の供給が市場の「消費需要」に追い付かない場合は適用

が除外されるため、この条件を満たせば、いかなる製品も輸入可能だった。

そのため、シーフード業者にとっては、搾取的な労働慣行をベースに、利益を生み出すことのできる、

旨みのある仕事だったはずだ。しかし、この度、同法から「消費需要」という言葉が削除されることとな

り、今後は、税関・国境警備局が奴隷労働による製品の輸入禁止を実行、報告できるようになる。

タイ漁船の奴隷的な労働環境を暴露した AP通信の報道は、米国の消費者に強い衝撃を与えた。移民労働

者の話-暴力、搾取、虐待-は、消費者の意識を変え、スーパーや政府も対応を迫られた。

オハイオ州選出のシェロッド・ブラウン上院議員(民主党)は、ニュヨークタイムズ紙のインタビュー

の中で、「飼い犬や飼い猫に与えていたペットフードに入っている魚が、強制労働をさせられている子供

たちが捕まえたものだったと知り、ゾッとしたアメリカ人は多いことだろう」と語った。ブラウン議員は、

オレゴン州選出のロン・ワイデン議員(民主党)と共に法改正を提唱した。

2013年のタイの米国向け魚類・シーフード輸出額は 70億ドルに上る。

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国際食品労連(IUF)加盟水産労組の会議

国際食品労連(IUF)に加盟する水産労組がオスロに結集し、水産業界のサプラ

イチェーンから強制労働を排除する取り組みについて協議した。

この会議は、IUFと ITFの合同運動「漁獲から売り場まで」の範囲拡大を検討するために開催された。

「漁獲から売り場まで」は、世界の水産業に蔓延している搾取的労働慣行、奴隷労働、人身売買をなくす

ために、水産サプライチェーンの様々な労働者(漁船員、水産加工労働者、レストラン従業員等)を結集

させてきた。

「水産サプライチェーンに関する議論を、海を越え、農業、工業、飲食業にまで広げていくことを目指

している」と IUFのキリル・ブケトフ部長は言う。「シーフード産業は大きな成長を遂げており、新規雇

用が多数創出されているが、労働者からは、きつい、汚い、危険の 3K職場と称されている」とブケトフ部

長は続けた。

運動への自由参加の原則は、オスロの会議で確認された重要なポイントだ。サプライチェーンのあらゆ

るところに、団体交渉が困難な労働者が多数存在するからだ。「組合を通じて団結すれば、労働条件、そ

して人生を変えられるのだが、彼らは、変化を全く望まない使用者から大きな圧力をかけられている」と

ブケトフ部長は指摘する。

オスロの会議には、複数の組合を代表する代議員が出席し、IUFと ITFの共闘議論に貢献した。ITFから

はジョニー・ハンセン水産部会議長、ジョン・ウィットロー船員部長、ニコラ・スミス ITF・IUF水産プロ

グラム・アシスタントが参加した。「IUFと ITFのパートナーシップは、その性格上、戦略的なものだ。

海上であろうが、陸上であろうが、シーフード業者に搾取されている全ての労働者を一致団結させること

を目指している」とブケトフ部長。

もう一つの重要課題は、人権や労働者の権利に関する国際基準の遵守だ。強制労働や不透明な雇用契約

に基づく不安定な雇用形態は、労働者の搾取、賃金未払い、長時間労働などの問題を生み出している。

「水産会社やシーフード会社に、サプライチェーンの全ての労働者の人権を尊重させる国際基準が必要

だ。また、国際連帯が効果的に機能するしくみも必要だ。インドンシア、フィリピン、モロッコ、ペルー

の現場労働者に効果的に支援の手を差し伸べられるようにしなければならない。オスロの会議は、「漁獲

から売り場まで」のさらなる発展のために、新たなアイデア、ビジョン、機会を生み出す機会となった」

とブケトフ部長は述べた。

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アイルランドの新制度に対応する ITF インスペクター

2016年5月 16日にアイルランドの非典型労働制度(AWS)が開始された。ITFイ

ンスペクターは、欧州経済領域(EEA)外の漁船員が AWSの恩恵を十分に享受して

いるかどうかを確認すべく、現場に出向いている。

AWSは、アイルランド船に乗り組む域 EEA域外の漁船員の保護・規制を目的としている。AWSの下では、

使用者は、適切な雇用契約の締結、被雇用者の医療保険加入、最低賃金(時給 9.15ユーロ)の支給を義務

付けられる。

しかし、2015年 11月に AWSが導入されて以来、農業食料海運局が設定する 500件の許可枠に対して、

許可申請は 53件にとどまっている。このことは、搾取や虐待を受けやすい労働者の保護・規制を目的とす

る AWSに対する船主の関心の低さを表している。

英国とアイルランドの ITFコーディネーター、ケン・フレミングは、AWSの許可書なしに働いている EEA

域外漁船員が訪船で見つかることは予想していたが、「ひどい事態だ。船主に許可書を要求して、身体的

な虐待を受けた後、下船、つまり解雇させられた漁船員がいる」と制度開始二日後にコメントした。

フレミングによると、船主は、言われるがままに条件を受け入れる労働者を望んでいるため、許可書を

要求する者には制裁を加えるという。

フレミングらの ITFインスペクター・チームは現在、AWSを支える覚書の締結機関の一つである職場関

係事務所(WRO)に提出するための証拠集めを行っている。

「多くの政府機関が MOUで協力している。それらの政府機関に悪徳船主を報告するとともに、メディア

にも訴えていく」とフレミングは言う。

アイルランド政府は、アイルランド漁船に乗り組む移民労働者の搾取的な労働条件を暴露したガーディ

アン紙の報道を受け、EEA域外の労働者保護を目的とするタスクフォースを設置した。AWSはその結果とし

て誕生した。

ITFは、アイルランドで虐待を受けたり、遺棄されたりした漁船員の保護活動を最前線で行っている。

AWSがしっかりと履行されるよう、これからも活動を継続していく。

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専門家、漁業犯罪へのグローバルな対応を議論

「国際犯罪ネットワークが運航する漁船によって、人間、薬物、武器等は世界の

海を越え、絶えず密輸されてきた。そのため、政府も国際機関も、そのような事態

に一致団結して効果的対応をしなければならない」この 2月にウィーンで開催され

た政府機関間漁業犯罪専門家会議の結論はそう述べている。

国際的な組織漁業犯罪を標的とし、刑法や警察の力を最も効果的に活用する方法を探るため、国連薬物

犯罪事務所(UNODC)と世界自然保護基金(WWF)が会議を共催した。司法管轄が複雑で、組織間で情報が

共有されていないため、また、犯罪の規模についてよく知られていないため、警察の手が組織漁業犯罪に

及ぶことは少ない。

ITFを含む会議の参加者は、こうした犯罪を調査し、訴追する際に、国際的な政府機関間の協力をいか

に改善できるか、また犯罪と闘うために必要な知識やスキル基盤をいかに効果的に構築できるかについて

議論した。会議の報告書では、UNODC、インターポール(国際刑事警察機構)、ILO、OECD に対し、漁業犯

罪対策で緊密に協力することが要請されている。

会議の結論として、漁業犯罪対策が喫緊の課題である点や、漁業犯罪やその訴追に関して、国境を越え

て効果的に対応できるよう、法律を改正することを含め、各国政府に助言を行うことが合意された。

漁業犯罪や IUU漁業がしばしば暴力団がらみであるという犯罪の性質から、関連会議には UNODCと WWF

の両組織が参加してきた。漁業犯罪には、マネーロンダリングを行う許可を違法に入手することや、誘拐、

麻薬密輸や人身売買が関わる。同時に IUU漁業関与しており、違法な乱獲を行う漁船の存在により、漁業

の持続可能性が脅かされ、何千人もの生存漁業従事者の実際の生活に深刻な影響を及ぼす。これらの会議

の最終報告書には、「今や、違法漁業と許容できない労働慣行、人権侵害が密接に関係していることが明

白となった」と書かれ、ILO 第 188号漁業労働条約および強制労働に関する ILO条約の 2014年議定書の広

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範な批准を要請している。これら条約が批准されれば、強制労働や人身売買の被害者を保護する方策が増

えることにつながる。

ITF を代表して会議に出席した船員部会のジョン・ウィットロー部長は、会議の出席者が情報を共有し、

まとめ上げた結論を前向きに受け止めている。最も重要なのは、漁業犯罪が現代の奴隷労働と密接に関連

しているという状況が認識されたことだ。 「ITF と全ての労働組合は、強制労働や奴隷労働にはゼロ寛容

の精神で対応するべきだと確信している。我々は違法漁業と不当労働行為が密接に関係していることや、

一方への対処には、もう一方への対応も必要であることを明確に伝えることができた」とウィットロー部

長は述べた。

ITF と IUF が ILO 会議で労働者の権利を主張

国際運輸労連 (ITF)と国際食品労連(IUF) は、2015年 11月にオスロで開催され

た ILO会議で、労働者の団結権と団体交渉権を擁護する明確な声明を発表した。

IUU漁業や人身売買の専門家を含む政労使の代表者がハイレベル会合に参加し、漁業産業で働く立場の

弱い労働者を保護する戦略を前進させる方法について議論した。非政府組織(NGO)や政府間組織、マスコミ

団体も参加した。

ITFと IUFはこの会議の場を活用し、長らく主張してきた、職場では労働者が自決権をもつという見解

を表明し、「労働者搾取の問題をどう解決すべきかを最もよく知っているのは、労働組合に加入している

労働者自身だ」と述べた。

両組織は「ITFと IUFの加盟組織によって代表されている職場では、強制労働は問題にならない」こと

を理解し、政府や使用者と議論する際には、結社の自由の重要性を認識するよう、ILO に要請した。

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あるスーパーチェーンの代表者がこの見解を支持し、漁業サプライチェーンに関する消費者の懸念に応

えようとする中で、漁業産業のトレーサビリティと労働者の権利に注意を向けることがカギであることを

学んだ」と述べた。

ITF/IUF 水産プログラム・アシスタントは、この展開を歓迎し、「使用者も私たちの見解に同調している。

つまり、転機は訪れたのだ。消費者の意識が高まり、使用者や政府に対し、弱い立場にある労働者への対

応や保護を促すようになってきた」と述べた。

この会議開催中にノルウェーが ILO188号条約の批准を発表した。また、今年 5月には、エストニアも同

条約を批准すると表明した。同条約の批准国はこれで 8か国に達し、発効要件である、「全 ILO加盟国の

うち 10か国による批准」に今一歩近づいた。

EU、タイの水産輸出に関する決定保留

欧州連合 (EU)は、違法無報告無規制(IUU)漁業が懸念されているタイ

からの水産物の輸出を完全に禁じるべきかの決定を現在も保留している。

違法に捕獲された漁獲物が欧州市場向けのサプライチェーンに供給されていることが証明されたため、

EUは 2015年 4月にタイに対し、「イエローカード」を出した。最終判断は「レッドカード」になる可能

性があり、これはタイの水産物が欧州経済地域に流入することが一切禁じられることを意味する。スリラ

ンカやギニアなどは既に EU圏への水産物の輸出を全面的に禁じられている。

この EUの動向がタイを動かし、漁業を監督・規制する政策が一部策定されるに至ったが、政策は現在

のところ、満足のいくものとなっていない。

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労働者、搾取に抗議して団結

6 か国のエビの加工工場の労働者が、労働契約の欠如、安全衛生問題、

結社の自由や組合結成の妨害などの労働問題をめぐり、労使紛争中だ。

国際運輸労連 (ITF)と国際食品労連 (IUF) は、これらの労働者の条件闘争を支援している。二つの国際

産別は引き続き、労働者の結社の自由権、安全衛生、団体交渉権の擁護運動を展開し、アウトソーシング

を止めさせるよう求めていく。

インドネシア

ブミ・メナラ・インテルヌーサ (BMI)は、インドネシア最大の水産物加工会社の一つで、エビ、カニ、

魚の倫理的供給業者であると謳っている。しかし、大部分が女性の労働力の 8割が完全な出来高制で働か

され、不安定な収入が扶養家族の貧困につながっている。

2012年、BMIの工場労働者が組合を結成し、労働問題について使用者と交渉を開始した。しかし、組合

員に対する攻撃が始まり、組合の議長と教育部長が解雇された。労働者は 2015 年にランプンでピケを張り、

組合役員の解雇や不安定雇用、脅し工作に対する抗議を開始した。

フィリピン

シトラミーナ・グループはフィリピンのジェネラルサントスを拠点とする会社で、マグロをはじめとす

る水産物の缶詰製造、加工、流通、輸出を行っている。同グループは 5社から成る大グループで、ホアキ

ン・T・ルーの一家が所有・管理している。

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同社が 75隻の自社漁船の登録ライセンスを変更したという証拠や、労働者に対する反組合活動を行って

いた証拠が上がっている。シトラミーナ・グループ企業合同労組(Samahang )を結成した 234名の労働者

の雇用契約が 2013年に打ち切られたが、そのうちの 78名は今も職場復帰と結社の自由権を求めて闘って

いる。

労働者は加工工場でピケを張り、地域社会もこの闘いを支援した。さらに、フィリピン下院によるシト

ラミーナ・グループに対する調査も 2015年 3月に開始されが、彼らの闘争はまだ続いている。

タイ

チャロエン・ポクファンド・グループ(CP)はタイの最大手企業で、アジアの大手多国籍企業だ。CP グ

ループには 20か国で営業する 250 社以上が属しており、エビとエビ製品や家畜のえさを製造している。

カリフォルニアを拠点とする法律事務所がスーパーマーケットの Costco とそのサプライヤーの CPグル

ープを相手取り、集団訴訟を起こした。これは、Costco が CP グループのエビ製品のサプライチェーンに

奴隷労働が関与していると知りながら、CPグループの製品を販売していたためだ。CPグループはそのよう

な集団訴訟には何の意味もないと否定しているが、CPグループのために操業する漁船の奴隷生活から、命

からがら逃れてきた漁師たちの証言がある。一日 20時間の労働シフト、むち打ち、拷問、仲間の漁師の殺

害現場を目撃したなどの証言がある。

モロッコ

モロッコの缶詰工場の Bicha はイワシ、サバ、マグロの缶詰、アンチョビや野菜のペースト、冷凍の果

物や野菜を製造している。

同社の従業員の殆どが女性で、モロッコ民主労働総連合 に加盟する部門全体が閉鎖され、25名の組合

員が解雇されたことを受け、500人の労働者が 2015年 3月からストを続けている。スト中の代替労働者の

導入を禁じるモロッコ労働法第 16条に直接違反する形で、会社は司法当局や警察の協力を得ながら代替労

働者を導入した。組合員は解雇され、犯罪人扱いされ、組合活動を理由に罰せられた。この労働者たちは

今も闘いを続けている。

アメリカ合衆国

フィリップス・シーフードは米国を拠点とする企業で、世界最大のカニ肉の製造会社であり、米国きっ

ての殺菌カニ肉輸出会社だ。同社は米国、エクアドル、メキシコ、インドネシア、インド、フィリピン、

タイ、ベトナムに 17のカニ加工工場を所有し、運営している。これらの国で、同社はあるシステムを生み

出した。独立型の小規模漁業者を雇い、小規模の企業家が所有する「小規模加工工場」用のカニを捕獲さ

せるというシステムだ。この工場主は、フィリップス社が求める衛生基準を満たしているとされているが、

フィリップスは漁船で働く人々の安全衛生には全く責任を負っていない。この労働形態はアウトソーシン

グに等しく、最低時間保証もない。仕事がある時に SNSメッセージで知らされるだけで、業界でも最低の

賃金しか支払われない。

IUFに加入し、フィリップスで働く 200人余りの労働者がインドネシアのランプンで労使紛争中だ。仲

間を復職させ、労働条件を改善するためだ。彼らの運動は 205名の仲間(中には 10年以上も工場で払いて

きた労働者もいたが)が、「今後仕事は提供できない」という SMSメッセージを受け取ったことがきっか

けとなった。50名は復職したが、組合活動には二度と関与しないという条件付きだった。労働者の闘いは

今後も続く。

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パプアニューギニア

RD ツナはフィリピン所有の企業で、パプアニューギニアやフィリピンでマグロの缶詰工場を運営してお

り、オーストラリアやイタリアへの輸出も行っている。

2010年にマダン工場の労働者が、最低賃金の引き上げに合わせ、会社が賃金を引き上げなかったことを

受け、抗議の声を上げた。州政府の労働担当官は、新たな最低賃金基準に基づき、賃金の未払い分を支払

うよう、同社に命じたが、これに対し、RDツナ社は 489名の労働者の雇用を差し止め、彼らから違法に社

員証を取り上げた。

2014年 5月、マダンの警察が RDツナ社の缶詰工場の敷地内にある住宅やシェルターを焼き払った。そ

こに住んでいた労働者とその家族は家を失ったが、会社側は「違法に占拠されていた土地を取り戻しただ

け」と主張している。これに対し、労働者は、「会社が住宅を用意してくれないので、一時的にシェルタ

ーを建てるしかなかった」と述べている。

タイ

多国籍企業のタイ・ユニオン・フローズンプロダクツ(TUF)社はタイを拠点とする世界最大のツナ缶製

造会社だ。タイ、インドネシア、ベトナム、米国、フランス、ポルトガル、セイシェル、ガーナにも製造

設備をもつ。

水産業の奴隷労働に関する AP通信の有名な調査に答え、同社のシラフォン・チャンシリ CEOは、声明を

発表し、「またしても我々だけでなく、水産業界全体に対しても警鐘が鳴らされた」と述べた。

TUFは、自社のサプライチェーンの清廉さを消費者に納得してもらうため、外部のエビ加工工場との提

携を止めたと発表した。外注していた業務を自社工場で働く 1000名の労働者に提供する。TUFは米国のウ

ォルマートやコストコ・ホールセール・グループの供給業者だ。