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第2章 総論 業務改善の課題

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第2章

総論 業務改善の課題

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第2章 総論 業務改善の課題

髙橋 紘委員

今年度行われた「保育所における業務改善に関する調査研究」においては、近年の保育所現

場における業務改善・工夫に関する現況について、研究を行った。

1.はじめに~背景保育所が措置制度から契約制度に代わり、社会福祉基礎構造改革により社会福祉法が制定さ

れ、社会福祉施設経営の概念も大きく変わって久しい。

社会福祉法は「福祉サービスの基本的理念」に基づき、社会福祉施設に対し「福祉サービス

提供の原則」に従って事業展開することを求めている。保育所も例外ではない。民間保育事業

の主たる担い手としての社会福祉法人には、事業主体としての「経営の原則」に従い、事業を

確実、効果的かつ適正に行うため、自主的に経営基盤の強化を図るとともに、その提供する福

祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図るよう求めている。

保育所はこれらの定めに加え、保育所保育指針に示されている保育の内容に関わる事項及び

関連する事項に従い、また、保育所の実情に応じて創意工夫を図り、保育所の機能及び質の向

上に努めている。措置費制度の時代からいまや状況が一変し、保育所の運営も自助努力が期待

される時代となった。

2.保育所の業務改善はなぜ必要か国家財政の低迷化が進む中で保育需要は拡大し続けており、国家予算に占める保育所運営費

も増えている。しかしながら量の拡大のみであり、保育単価は一向に上がらず、各保育所ごと

の予算額も増えていない。

一方で、保育所への要望も年々増大しており、低年齢児の受入れや長時間受入れ等ニーズへ

の適正な対応を図りながら、保育の質の向上も求められている。提供するサービスの質が均一

となるよう、業務やサービス提供の方法の標準化をすすめ、限られた予算で効果的なサービス

が提供できるようにするために業務効率化・省力化の必要に迫られているのである。

交代勤務というサービス提供体制の特性や、利用者の苦情への対応、複雑化する業務により、

従事する職員の職場環境も変化していると思われる。これらを改善し、業務への負担感を軽減

し、意欲を高める工夫も必要である。

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3.業務改善の二面性業務改善は実施場面で分けると大きく分けて二つあると考えられる。

一つは不具合・マイナス面の是正のための改善・工夫であり、もう一つは現状のサービスレ

ベル・プラス面をさらに向上させる改善・工夫である。

具体的には、前者が監査指摘による改善命令や、苦情解決・クレーム処理等に当たり、後者

は福祉サービス向上のための第三者評価の活用等に当たる。いずれにしても、自己評価によっ

て改善すべき点を積極的に見つけ、対応することによって、苦情やトラブル、監査指摘等を予

防することができ、利用者や地域から喜ばれるばかりでなく職員も誇らしく業務に当たること

ができる。

4.業務改善の成果待機児童の増加や保育士不足が社会問題となる中で、これらの問題に直面している保育所現

場では、どのような業務改善・工夫によりこの難局を乗り越えているのであろうか。保育所現

場での取り組み状況については、今まで把握できていなかったきらいがある。業務改善・工夫

の状況を把握し、実践例から学び合うことができれば幸いである。これらを達成して確保でき

た時間および労力を、子どもの処遇の向上や保育士の負担軽減のために活用することが可能と

なる。

5.問題の洗い出しの実績と成果保育士の人材確保については、平成24年度に本協会が行った「保育所運営の実態とあり方に

関する調査研究」の中で、全国の保育所に対して調査票調査を行い、以下の項目について尋ね

ている。

(1)新卒保育士の正規採用状況について

(2)現在勤務している保育士の人員確保について

(3)保育士の経験者採用の工夫について

(4)その他ご意見、課題等

上記(2)の中で「職員が不足する理由」について、①「待遇面が他業種より低い」(22.1

%)、②「仕事の量が多い」(15.5%)、③「勤務時間が合わない」(14.4%)、④「行政の補助

金不足」(7.8%)、⑤「保護者対応の難しさ」(8.1%)、⑥「新設園開設」(5.8%)、⑦「職員

間の人間関係」(5.3%)、⑧「その他」(21.1%)となっていた。(パーセンテージは、有効回

答数989件に対する割合を筆者が再計算している)

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「保育士が働き続けるために大切なことは何だと思われますか」(複数回答可)の設問に対し、

①「人間関係の良い職場」(77.4%)、②「やりがいのある仕事と本人が思う事」(76.1%)、③「給

与などの待遇条件」(39.9%)、④「休暇が取りやすい」(39.0%)、⑤「意見・要望を言いやす

い」(19.0%)、⑥「人員配置の改善・加配」(18.2%)、⑦「働き方を選べる」(7.2%)の順と

なった。

いずれも、公民の差、地域差の有ることが示されている。例えば「給与などの待遇条件」に

ついては、民営の全国平均は40.9%、中国・四国地区の民営では47.1%、と公営より高い数値

が示されている。

実際にこれらの問題点の傾向が見えてきたところで、次の段階へと進むために上記の結果を

参考に活用していただければ幸いである。

6.改善への取り組みと成果改善すべき項目には、職場環境改善等の保育所独自で解決できるものと、行政等外部に要請

しなければ解決できないものとがある。これらの実態が明らかになり、それぞれへの働きかけ

を行ってきたところである。このような永年の数値的な働きかけの積み重ねが成果として具体

化されて来れば、調査研究の意義があるというものである。

保育単価に含まれる人件費相当分は長い間変わらず、事業主体で操作できる幅が限られてい

たところだが、「保育士等処遇改善臨時特例事業交付金」が平成25年度途中から適用されるこ

とになり、平成26年度政府予算案の中にも計上されることとなった。

7.効果的な業務改善手法としてのQC活動業務改善の手法にはいろいろあるが、効果的な改善手法としてQC活動がある。(日本福

祉施設士会ホームページ「福祉QC」参照 http://www.dswi-sisetusi.gr.jp/annai/k_semi.

html#qc)

QC(Quality Control)活動は、品質管理や業務改善のための手法で、産業界で導入され

ている。問題を共有した管理者と職員によるグループ活動により実施することが原則である。

解決すべき課題を明確にした上で、要因解析を通して課題解決のための対策を立案し、3か月

から6か月の活動期間を定め、具体的な問題解決に結びつける。また、データ化や図表化を図

ることにより、客観的な判断をしながら業務改善を行うことができる。以下、PDCAサイク

ルに当てはめてみる。

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(1)Plan(計画)

1)問題点を見つける……仕事の点検

2)テーマを決める……何の何をどうする

3)現状の把握、目標を立てる……現状の姿を事実・データで分析

4)活動計画を作成する……………スケジュールと役割分担を決める

(2)Do(実施)

5)要因の解析をする………………要因を取り上げるデータで要因を検証する

6)対策を立てる……………………改善案(アイデア)を抽出検討具体化する

7)対策を実施する…………………改善案を施行する

(3)Check(確認)

8)効果を調べる……………………改善後のデータを集め分析目標値と比較

(4)Action(処置)

9)歯止めをする……………………標準化、歯止めを確認する

具体的に各保育所の現場ではどのように取り組んでいるであろうか。その取り組み状況に興

味深いものがある。

8.保育所における問題ここ数年続く問題や、各保育所がこの調査研究の内容を参考にして解決に向けて主体的に取

り組める組み立て方、及び内容を中心に、研究委員会において数回にわたり協議した。いくつ

か出てきた問題に対して、その解決方法についても案が出てきた。

調査研究は、現状を調べるだけでなく、問題をどの様に解決したらよいかを示唆する材料を

導き出せれば、実際の保育所では有益なものとなる。今回の調査では、保育士の離職問題を中

心に取り上げることとした。保育士が欠員となれば、園児の受入数を減らさざるを得なくなり、

待機児童問題を加速することになりかねない。

仮説として、離職の原因に「モチベーションの低下」があると考えた。職場としての組織環

境、中でも仕事上に負担を感じる業務があるであろう、という点である。

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9.調査票の設問項目について今回は、全国の認可保育所を対象とした調査票調査を行った上で、以下の(1)~(6)の

項目について調査研究を実施した。調査票は、保育所1施設ごとに〔保育所長編〕・〔保育士編〕

の二種類を送付し、各々の立場で回答頂いた。設問内容も一部を除いて共通しており、その回

答から、認識の違いについて比較できるようにした。

(1)保育所の職場環境に対する評価

保育所における職場環境の評価について、主要な項目をピックアップして並べた。

(2)保育士の業務への負担感に対する評価

保育業務の中で負担と考えられる項目をピックアップして並べた。

(3)保育所業務の改善・工夫

各々の保育所で、保育士の業務負担を改善する(減らす)ために行うであろう代表的な事項

を6項目上げた。

〔保育所長編〕では、業務の改善・工夫に取り組んだことがあるかどうかを尋ねた。取り組

んだことがある場合は、その理由について、4つの選択肢より選んでもらった。同時に、改善

に取り組んだことのない場合にも、必要あると認識している場合には、その理由について、4

つの選択肢より選んでもらった。

〔保育士編〕においても同様の設問を用意したが、すでに実施したか否かではなく、今後と

り組む必要があると思うか否か、という風に尋ねた。

また、〔保育所長編〕・〔保育士編〕の双方にも、上記6項目に当てはまらない事項があった

場合を想定し、自由記述欄を設けた。

(4)保育所長の職と退職について

(5)保育士の職と退職について

離職の意識とその原因について、〔保育所長編〕・〔保育士編〕のいずれにおいても尋ねた。

本人の健康面、家族の問題、職場の問題(人間関係・待遇等・業務上の失敗)等、退職の原因

として考えられる選択肢を上げた。また、保育士の退職に関する保育所長の認識、勤務する保

育士が退職を申し出た場合の対応等も尋ねた。

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(6)現在の保育所に対する総合的な満足度

日常保育や保育所内の安全、保護者への連絡・指導等、保育現場における業務に対する、保

育所長から保育士への指導・監督についての満足度を尋ねた。

組織・職場管理に対する職員の態度や満足度、問題意識等を調査するための方法として、「モ

ラールサーベイ・チェック」がある。モラールサーベイとは、企業の組織・職場管理に対して、

従業員がどういう点にどの程度満足し、またどんな問題意識をもっているのかを科学的に調査

分析する手法で、一般には「士気調査」あるいは「従業員意識調査」「社員満足度調査」と呼

ばれている。(人事労務用語辞典)

この調査票を作成するに当たり、「東京都社会福祉法人経営適正化検討会報告書」(平成21年

度)【参考資料8】モラールサーベイ・チェックの項目を一部参考とした。この報告では、調

査結果の平均値が出されており、今回実施する調査結果と比較できると考えたからである。

これらの調査項目は、順不同で並べてあるが、Ⅰ.経営への信頼、Ⅱ.上司への信頼、Ⅲ.

利用者満足、Ⅳ.労働条件、Ⅴ.職場生活満足の五つに分類できる。

問題があると薄々感じつつもそのままにしていたことも、この調査の結果によって、焦点化

することができ、解決すべき課題の優先順位を決めることができるであろう。