研究開発成果等報告書 - Minister of Economy, Trade …...1...

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平成23年度戦略的基盤技術高度化支援事業 (平成23年度第3次補正予算事業 研究開発の前倒し事業) 「自動車用プラスチック製次世代電動ウォーターポンプユニットの開発」 研究開発成果等報告書 平成25年2月 委託者 東北経済産業局 委託先 株式会社インテリジェント・コスモス研究機構

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平成23年度戦略的基盤技術高度化支援事業

(平成23年度第3次補正予算事業 研究開発の前倒し事業)

「自動車用プラスチック製次世代電動ウォーターポンプユニットの開発」

研究開発成果等報告書

平成25年2月

委託者 東北経済産業局

委託先 株式会社インテリジェント・コスモス研究機構

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目 次

第1章 研究開発の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1-1 研究開発の背景・研究目的及び概要

(1)研究開発の背景

(2)研究の目的

(3)研究の概要

1-2 研究体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

1-2-1 研究組織および管理体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

(1)研究組織(全体)

(2)管理体制

1-2-2 研究者氏名 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

1-2-3 他からの指導・協力者名及び指導・協力事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

1-3 成果概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

1.4 当該プロジェクトの連絡窓口 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

第2章 本論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

2.1 電動ウォーターポンプ回転部の小型・軽量化

2.1.1 プラスチックマグネット製小型ローターの開発

(1)型内磁性配向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

(2)マグネット着磁のプロセス確立 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

(3)ローター仕様の設計 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

2.1.2 高効率インペラーの開発

(1)中子材料・保持機能の改良 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

(2)インペラー形状の最適設計 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

(3)電動ウォーターポンプの試作と評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

2.2 プラスチック製ハウジングの開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

2.2.1 一体成形可能な高熱伝導性プラスチック材料の開発

(1)市場にある高熱伝導性プラスチックの検索・調査 ・・・・・・・・・・・・・・・ 13

(2)本開発に最適なプラスチック材料の選定と改良・開発・評価・・・・・・・・ 13

2.2.2 プラスチック製ハウジングの開発

(1)ハウジングの設計、試作・評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

2.3 事業化に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

(1)電動ウォーターポンプについて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

(2)市場調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

(3)特許調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

(4)顧客へのアプローチ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

(5)まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

第3章全体総括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

3-1 複数年の研究開発成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

3-2 研究開発後の課題・事業化展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

1

第1章 研究開発の概要

1-1 研究開発の背景・研究目的及び目標

1)研究開発の背景

環境にやさしい自動車の観点から、燃費の良いハイブリッド自動車への関心が高まってい

るが、当該ハイブリッド自動車には、さらなる燃費の向上、低価格化が求められている。

ハイブリッド自動車を駆動させるためのハイブリッド・ユニットは、モーター・バッテリー・

ジェネレータ(発電機)・ガソリンエンジンから構成されている。自動車の駆動は主にバッ

テリー駆動のモーターにより行われ、当該バッテリーへの充電は、車輌減速時のジェネレ

ータ駆動、ならびに、ガソリンエンジンによるジェネレータ駆動にて行われる。

ガソリンエンジンは適温にて駆動しなければならないため、駆動時の負荷に応じて冷却す

る必要があり、冷却水を冷却するためのラジエター、冷却水を循環させるためのウォーター

ポンプなどの機構を備えている。当該ウォーターポンプは、通常エンジン駆動軸とベルトで

連結されており、エンジン駆動時にはエンジン駆動軸と共に回転している。

しかしながらハイブリッド自動車では、エンジンは主にバッテリー充電のために駆動され

るので、走行中常にエンジンが駆動しているわけではない。そのため、エンジンの冷却が必

要なときにウォーターポンプを駆動できない状態が生じるので、最新のハイブリッド自動車

では、バッテリーで駆動する電動のウォーターポンプを採用し、エンジン駆動にかかわらず、

必要な時に必要に応じて駆動できるようにしている。

しかしながら、必要な時に必要なだけ駆動できるという、効率向上に寄与する能力がある反

面、従来のベルト駆動式ウォーターポンプにモーター等の部品が付加される構成となるため、

重量増・部品点数増といった燃費向上要求にそぐわない面がある。

2)研究の目的

今後の自動車は「環境」、「安全・快適」、「軽量化」、「品質」、「価格」の5つのキーワー

ド中心に展開されていくと考えられるなか、本研究開発は ①軽量化②品質③価格 の3つ

のキーワードに対する課題及びニーズへの取り組みを成すものである。

電動ウォーターポンプは、常にエンジンが駆動しているわけではないハイブリッド自動車

において、必要な時に必要に応じて駆動できる重要部品である。

しかし、従来のウォーターポンプにモーター等の部品が付加される構成では重量増・部品

点数増となり、環境への貢献の観点からは燃費向上要求にそぐわない面があり、小型・軽

量化が求められている。

本研究開発では、これらの問題を解決するため、プラスチック材料の使用量を大幅に増や

すとともに、モーター各部品を小型化する事による、小型化・軽量化を目的とする。

3)研究の概要

強磁性・防錆型プラスチックマグネットを適用することにより、現行品と同等のトルク

特性を有した小型・軽量ローターの設計開発をすすめる。

これらを実現するため、現行ローターの特性確認や、着磁特性の計測・シミュレーション

などを行い、ローター仕様の設計に活かす。また、設計された構造品ができる成形条件を

確立する。

2

次に放熱効果を向上させる電動ウォーターポンプモーター構造の基礎検討を実施する。具体

的には、高熱伝導性を実現するハウジング構造や材料の基礎検討をすすめ、その加工技術につい

ての基礎技術を得る。 (第 1-1図 参照)

マグネット

エンジンブロック

ステーター

ハウジング

研究品

防錆皮膜あり

焼結 → プラスチック

サイズ 縮小

一体化

インペラー 現状品

第 1-1図 本プロジェクト構成部品

3

1-2 研究体制

1-2-1研究組織及び管理体制

(1)研究組織(全体)

株式会社インテリジェント・

コスモス研究機構

再委託 株式会社イーノス

アイ・アンド・ピー株式会社

宮城県産業技術総合センター

国立大学法人山形大学

大学院理工学研究科

(2)管理体制

① 事業管理者[株式会社インテリジェント・コスモス研究機構]

代表取締役社長

企画・総務部

(経理担当者)主計統括マネージャー

産学官連携・インキュベーション事業部

(業務管理者)産学官連携・インキュベーション事業部長

再委託先

株式会社 イーノス

アイ・アンド・ピー株式会社

宮城県産業技術総合センター

研究推進会議

研究推進会議

総括研究代表者(PL)

株式会社イーノス

取締役 橋本 明

副総括研究代表者(SL)

アイ・アンド・ピー株式会社

代表取締役 松村 周治

4

②(再委託先)

宮城県産業技術総合センター

所 長

副所長

事務局

自動車産業 支援部

機械電子情報 技術部

デバイス技術

開発班

材料開発・分析 技術部

環境プロセス

応用班

株式会社イーノス

アイ・アンド・ピー株式会社

国立大学法人山形大学

代表取締役 管理部

開発部

研究員

代表取締役 営業本部 営業部

管理本部

東北工場

総務・経理部

製造部

本社工場 製造部

大学院

理工学研究科 学 長

大学院

理工学研究科

工学部

事務ユニット

財務会計

チーム

5

1.2.2 研究者氏名

株式会社イーノス

氏名 役職・所属

橋本 明

栗城 長英

大友 利文

櫻井 守

取締役

研究員

研究員

研究員

アイ・アンド・ピー株式会社

氏名 役職・所属

松村 周治

尾崎 賢

松本 卓也

野村 孝之

増田 佳継

田中 光弘

代表取締役

営業開発グループ グループマネージャー

営業本部 本部長

営業開発グループ マネージャー

営業グループ グループマネージャー

製造第一グループ マネージャー

宮城県産業技術総合センター

氏名 所属・役職

萱場 文彦

古川 博道

和嶋 直

阿部 貴宏

小松 迅人

久田 哲弥

高田 健一

佐藤 勲征

推野 敦子

自動車産業振興コーディネーター

自動車産業支援部 部長

自動車産業支援部 主任研究員

自動車産業支援部 技術主査

自動車産業支援部 研究員

自動車産業支援部 副主任研究員

機械電子情報技術部 副主任研究員

材料開発・分析技術部 副主任研究員

材料開発・分析技術部 技師

国立大学法人山形大学

氏名 役職・所属

高橋 一郎

宮田 剣

大学院理工学研究科 教授

大学院理工学研究科 助教

6

1.2.3 他からの指導・協力者名及び指導・協力事項

研究推進会議 委員

氏名 所属・役職 備考

橋本 明 株式会社イーノス 取締役 PL 委

栗城 長英 株式会社イーノス 研究員 委

大友 利文 株式会社イーノス 研究員 委

櫻井 守 株式会社イーノス 研究員 委

松村 周治 アイ・アンド・ピー株式会社 代表取締役 SL

尾崎 賢 アイ・アンド・ピー株式会社 営業開発グループ

グループマネージャー

松本 卓也 アイ・アンド・ピー株式会社 営業本部 本部長

野村 孝之 アイ・アンド・ピー株式会社 営業開発グループ マネージャー 委

増田 佳継

田中 光弘

矢口 仁

アイ・アンド・ピー株式会社 営業グループ グループ

マネージャー

アイ・アンド・ピー株式会社 製造部製造第一グループ

マネージャー

宮城県産業技術総合センター 研究連携推進監 兼

企画・事業推進部長

萱場 文彦 宮城県産業技術総合センター 自動車産業振興コーディネーター

古川 博道 宮城県産業技術総合センター 自動車産業支援部 部長

和嶋 直 宮城県産業技術総合センター 自動車産業支援部 主任研究員

阿部 貴宏

小松 迅人

久田 哲弥

宮城県産業技術総合センター 自動車産業支援部 技術主査

宮城県産業技術総合センター 自動車産業支援部 研究員

宮城県産業技術総合センター 自動車産業支援部

副主任研究員

高田 健一 宮城県産業技術総合センター 機械電子情報技術部

副主任研究員

佐藤 勲征 宮城県産業技術総合センター 材料開発・分析技術部

副主任研究員

推野 敦子 宮城県産業技術総合センター 材料開発・分析技術部 技師

高橋 一郎 国立大学法人山形大学 大学院理工学研究科 教授

宮田 剣

宍戸 郁郎

国立大学法人山形大学 大学院理工学研究科 助教

株式会社インテリジェント・コスモス研究機構 常務取締役

兼 産学官連携・インキュベーション事業部 事業部長

猪股 則夫

菊地 公博

三浦未紀枝

小野恵美子

産学官連携・インキュベーション事業部 統括マネージャー

産学官連携・インキュベーション事業部

プロジェクトマネージャー

産学官連携・インキュベーション事業部 管理員

産学官連携・インキュベーション事業部 管理員

7

1.3 成果概要

(1)電動ウォーターポンプ回転部の小型・軽量化

(1-1)プラスチックマグネット製小型ローターの開発

ローターの軽量化およびレアアースの省資源化を目的に、エンジン用電動ウォーター

ポンプ用ローター外径に見合う内径寸法・形状の最適化を図った加工プロセスを実施し、

下記の結果を得た。

・ローターの内側のくり抜き形状を工夫し、A社製と同等性能を維持しながら軽量化を

実現出来た。

・上記のプラスチックマグネット製ローターの重さは約 120gと、40%程度の軽量化・

省資源化が達成できた。

・事業化をにらんで多数個取りでの型内磁性配向マグネットの成形と脱磁工程を挟んだ

着磁プロセス確立を行った。

(1-2)高効率インペラーの開発

・吐出容量 80L/min程度のエンジン用電動ウォーターポンプに関して研究開発を実施

し、高い性能を持つA社製インペラーと同等の性能が得られた。

・搭載車種が限定されているエンジン用に加え、ビジネス的にも用途が広がる各種電

装部品を冷却する 20L/min程度の電装用電動ウォーターポンプに関しても研究開発

を実施し、市販品同等あるいは上回る成果を得た。

・インペラーおよび一体成形ローターに関して電装用電動ウォーターポンプに焦点を

合わせてシミュレーション・設計・試作品製作・試作品評価を行い、市場品を上回

る性能が確認できた。

・バイクのエンジン用冷却用途についても検討を行い、50L/min程度の電動ウォータ

ーポンプのインペラーの設計とポンプ構造の検討を行った。

第 1-1図 高容量 EWPの概略構造図

仕様

インペラー

ステーター

うず形室蓋 ハウジング

ローター

8

(2)プラスチック製ハウジングの開発

高伝熱性樹脂とハウジング構造について、下記の結果を得た。

・熱伝導性を発現させるための充てん量、熱伝導性を高めるためのフィラー形状につ

いて明確にすることができた。

・高熱伝導率の成形材料として、放熱特性をもたせるためにフィラーが多いことから、

堅くて脆い・表面スキン層が張りきれないという課題を確認した。この課題を解決

するため、市販材料と PPベースの独自に開発した材料を準備し、各々の材料特性を

評価して、ハウジングを含めて用途に応じた使い分けが出来る様になった。

・A社製ハウジングについて構造解析を行い、試作金型の設計および製作を行った。

・水流路付きプラスチック製ハウジングは、ロストワックス(LWIM)工法による検討

の結果、中子除去に課題が残ることが判明し、製品開発を中止した。この代替案とし

てアルミ部品をインサート成形する方法を見出した。

・アルミ部品の部分インサートと上記の材料の組み合わせ成形品を準備して、熱伝導

評価を実施し、アルミダイカスト品を置き換えら得る熱伝導性を具備して、重量が

半分に近いものを完成した。尚、この材料は他用途にも応用が可能である。

(3)事業化に関する研究

当初、ハイブリット自動車の普及と共にエンジン冷却用ウォーターポンプの電動化が

促進されると言うことで、本テーマをスタートした。

エンジン冷却用ウォーターポンプの電動化が限定されている中、電装部品冷却用電動ウ

ォーターポンプが多くの自動車に搭載されるようになっており、電気自動車への搭載を

含めて電動ウォーターポンプの必要性は高まっている。

事業化もポンプユニットに限定せず、本研究により競争力を高めた部品加工技術および

シミュレーション技術や評価解析技術を含めた設計技術による顧客支援により部品領域

まで広げた事業領域で事業化をはかる。

本研究成果としては、

・各社の電動ウォーターポンプに関した知見を得た。

・市場調査を行い、市場規模予測と電装部品冷却用電動ウォーターポンプの必要性を

把握した。

・特許調査を実施した。

・顧客へのアプローチとして、顧客マップを製作し、セールスツールを準備した。

1.4 当該プロジェクト連絡窓口

株式会社インテリジェント・コスモス研究機構

産学官連携・インキュベーション事業部

プロジェクト・マネージャー 菊地 公博

〒989-3204 宮城県仙台市青葉区南吉成六丁目 6番地の 3

TEL:022-279-8811,FAX:022-279-8880

9

第 2-1図 PPS製試作ローター

第2章 本論

2-1 電動ウォーターポンプ回転部の小型・軽量化

2-1-1 プラスチックマグネット製小型ローターの開発

(1)型内磁性配向

吸水劣化のない PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂をベースとしたプラスチック

マグネット製ローターを開発し、最適加工条件等の検討を行い、下記の結果を得た。

・耐水性があり、A社製現行ローターの表面磁束密度を上回る性能を達成した。

・キャンドモーターポンプ構造でエンジン冷却用ポンプのローターに、プラスチックマグ

ネットとして PPS 樹脂の使用が可能であることを確

認した。

・多数個取りに最適なプラスチックマグネットの成形

金型の構成を見出すため、型内における磁気解析を

行い、磁性部品の配置及びサイズを決定し、製作し

た試作金型で試作したサンプル品の検証を行った。

第 2-1 図に 試作ローターを、また第 2-2 図に 磁

束密度ベクトル分布の解析結果を示す。

・成形品の配向率 90%以上を目標とし、多数個取り金

型へ組込む配向用磁石のサイズ・配置について最適な構成を解析した。

(2)マグネット着磁のプロセス確立

プラスチックマグネットの目標値は、厚肉品で 350(mT)

以上、薄肉品で 300(mT)以上とし、第 2-3図に示す着磁プ

ロセスを確立し、成形・磁化配向・着磁に関わる一連の

ローター製造プロセスを経て、表面磁束はキャビ別でも

ほぼ性能差が無く、厚肉品で平均 350(mT)、薄肉品で平均

300(mT)となり、目標値を達成した。

第 2-3図 着磁プロセス

第 2-2図 プラマグローターの

磁束密度ベクトル解析

10

(3)ローター仕様の設計

1)エンジン用電動ウォーターポンプ用ローター

ローターの軽量化およびレアアースの省資源化を目的に、ローター厚みの検討により

外径に見合う内径寸法・形状の最適化を検討した。解析モデルを第 2-4図に示す。

この結果をもとにローターの内径寸法・形状を推定し、

磁気解析によるトルク解析および成形したローターのトルク特性に基づき、ローター仕

様をまとめ以下の結果を得た。

・A社製に比べ約 1.3倍の表面磁束密度および約 1.36倍の

高トルク化

・プラスチックマグネット製ローターの構造では、高回転数域で回り難く回転数可変

範囲の狭いことを確認

・A社製と同等の性能を維持し軽量化・省資源化の効果を上げるには、磁化配向が

最大限活かされる十字A(+A)の形状が最も良く、最適な断面積を設計することにより、

A社製と同等程度の性能が得られる。

その場合に 40(%)程度の軽量化・省資源化が達成できる見込み。

2)電装用電動ウォーターポンプ用ローター

上記 1)の結果も活かし、電装用途のローター厚みの検

討を行い、外径に見合う内径寸法・形状の最適化を図った。

解析結果に基づいたローター形状を第 2-5図に示す。

2-1-2 一体成形型高効率インペラーの開発

(1)中子材料・保持機能の改良

ロストワックス法によって PPS樹脂でインペラーを一体成形するため、これまで実績のある

中子材料の耐熱温度を 280℃から 320℃に高めると同時に、硬度を上げて成形性を改善

することを検討し、下記の結果を得た。

・当初の目標は 320℃であるが耐熱温度を 300℃に上げる手法と、中子材料の水溶性樹脂

と炭酸カルシウムの配合比率を最適化することで硬度を高めることと相まって、中子に起因

する問題を解決し中子保持機能の簡略化を達成した。

・水溶性樹脂のエクセバールにシランカップリング剤を塗布する表面処理によって、中子表面

の平滑性を著しく改善することができた。

・成形時の射出圧力・樹脂摩擦・樹脂温度の要因から中子が保護されており、中子と接する

第 2-4図

トルク解析モデル

第 2-5図

解析ローター形状

11

成形面の平滑性にも改善の効果があった。

・PPS樹脂を使った成形で中子の表面粗度と成形品の表面粗度の値に差が生じたのは、外殻

成形時に中子表面のシランカップリング剤が溶けたためと推測。

(2)インペラー形状の最適設計

1)エンジン用および電装用電動ウォーター

ポンプの仕様とA社製インペラーの計

測結果に基づく形状設計と、ポンプ効率の

向上を目指し流体解析ソフトによって羽

根形状の最適設計を行った。

第 2-6図に、エンジン用で検討した水流・

静圧に関する解析結果を示す。

また、HVでは他にも電装用電動ウォーターポン

プ(以下、電装用EWP)が使われている。電装用EWPはエンジン用と比較して非

常に小型であるためエンジン用とは異なった

インペラー形状が必要になると考えられることから、電装用EWPの最適設計を行っ

た。

第 2-7図に、電装用に設計したインペラー形状を示す。

2)高容量電動ウォーターポンプの仕様(バイクのエンジン用途など)

電動ウォーターポンプの調査を進める中で、電装用EWPよりも高容量な電動ウォータ

ーポンプのニーズが明らかになったことから、解析を検討した。第 2-7図に示すインペ

ラー形状を設計した。

(3)電動ウォーターポンプの試作と評価

エンジン用として試作したサンプル(第 2-8 図)と、1例として、ポンプ回転数

が 4500rpmにおける流量特性を第 2-9図に示す。

揚程のカーブがほぼ重なっており同等の流量特性となっていることがわかる。

軸動力が下回った分PPSベースのプラスチックマグネット材(A12)を使ったロー

ターの効率が改善した。

第 2-6図 水流・静圧解析結果

第 2-7図 電装用インペラー形状

12

第 2-10図 インペラー金型構造

プラスチックマグネット製ローターの割れ

対策として、ローターに4面の平行部を設け、

金型の位置決めを行い、円周部に4方向のス

ライド機構で保持することで、ローターと金

型に隙間をなくし、割れを防ぐ構造とした。

第 2-10図に金型を示す。

試作品のインペラーの薄肉および圧肉タイプをT社 PRIUS 車と流量特性を比較評価

し、第 2-11図に示した。

ほぼ同等の特性を確保できたものと考える。

流量特性 n=4,500(rpm)一体品

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

0 20 40 60 80 100 120

流量(L/min)

揚程(m)

0

20

40

60

80

100

120

140

動力(W) 効率(%)

軸動力(W)

揚程(m)

水動力(W)効率(%)

実線:A社製破線:一体品

第 2-8図

試作ローターインペラー形状

(エンジン用)

第 2-9図 流量特性

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

揚程

(m)

流量(L/min)

揚程特性比較(DC13.5V 3500rpm)

PRIUS

薄肉3

厚肉11

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

水動力

(W)

流量(L/min)

水動力特性比較(DC13.5V 3500rpm)

PRIUS

薄肉3

厚肉11

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

ポンプ効率

(%

)

流量(L/min)

ポンプ効率特性比較(DC13.5V 3500rpm)

PRIUS

薄肉3

厚肉11

第2-11図 特性比較

PRIUS、試作インペラー(厚肉)、

試作インペラー(薄肉)

(上)揚程、(中)水動力、(下)ポンプ効率

13

2-2 プラスチック製ハウジングの開発

2-2-1 一体成形可能な高熱伝導プラスチック材料の開発

(1)市場にある高熱伝導プラスチックの調査と探索

樹脂製のハウジングに必要とされる仕様項目は、①放熱性(熱伝導性)、②耐水性、

③耐熱性・剛性・耐衝撃性のバランスが良いこと、④流動性、と考えられる。特に、

①熱伝導性は電動ウォーターポンプに搭載されるパワー半導体が過熱されないように

するための重要な項目となる。

PPSをマトリックス樹脂とし、現状入手可能な材料のうち熱伝導に優れた熱伝導プラ

スチックを選定し、熱伝導率と物性を調べ、実際のハウジング形状の成形試験を行った。

(第2-1表 参照)

その結果、選定材料Cは、熱特性も優れ、流動性も幾分良好で、実際のハウジング形状

の成形においても、成形機の持つ能力を100%使った条件での成形となったが、成形

品の形状は良好であった。

(2)本開発に最適なプラスチック材料の選定と改良・開発・評価

(1)の市場調査から選定した材料は改良が困難なため、本プロジェクトとして、オリジ

ナルの材料組成についても併せて検討している。昨年度までに熱伝導性を付与することの

できるフィラーの形状や充てん量が熱伝導性に与え影響を調べ、熱伝導性を発現させるた

めの充てん量、熱伝導性を高めるためのフィラー形状について明確にすることができた。

その結果から、熱伝導性の良好な組成を2種選定し、(1)同様の特性評価を行った。さ

らには、流動性を向上させる処方も検討し、最終的にはハウジング形状の成形を行い、成

形性の善し悪しを判定した。

上記結果から、特に開発材αは添加剤の効果が最大限に活かされたと考えられ、高流動性

を示すMFRの結果となっている。開発材及び開発材+は選定材料C、Dと比較して機械的特性

は劣るが熱伝導率は選定材料Dと遜色なし。開発材αは繊維状物質を配合しているため、開

発材及び開発材+の機械的特性を改善し、選定材料C、Dよりも弾性率は優れていることがわ

第 2-1表 市販プラスチック材料特性

第 2-2表 開発プラスチック材料特性

14

かった。また、繊維状物質の配合により、一方向(流れ方向)の熱伝導率が著しく高いこと

がわかった。

2-2-2 高熱伝導性プラスチック製ハウジングの開発

2.2.1で得た開発材α材の結果をもとに、ハウジングの試作成形を行った。

またパワーIC 背面部の熱が最も上昇しやすい為、熱伝導率の良いアルミをインサートした

成形も行った。アルミ形状は第 2-12図の通りである。

成形したハウジングおよび現行アルミダイカスト品との重量比較は、第 2-3 表の通りであ

り、40%以上の軽量化が図れている。

アルミ (*1タイプ) アルミ(*2タイプ アンダーカット形状)

ハウジング 材料 重量

アルミダイカスト 400g

α材+※2タイプ 224g

試作成形したハウジングについて放熱特性を把握すべく、温度測定を行った。

サーモグラフィーで観察した温度分布(アルミダイカスト、α+*2)の 50分後の状

態を第 2-13図に示した。

カラースケールは 20~90℃の範囲で表示してある。

第 2-12図 ハウジングアルミ形状

第 2-3表 ハウジング重量

15

第2-13図 ハウジングの材料別温度変化

アルミ、α+ *2

アルミダイカスト α + *2タイプ

PowerIC背面(試作品でアルミインサートされた部分)の温度では、アルミダイカス

トが最も温度上昇が少ないが、α材も PowerIC 背面の温度上昇を抑えることができて

いる。α材+*2はアンダーカットを設けたことも関係して樹脂の接触面積が増すこ

とによりインサート金具から樹脂ハウジングへ熱が伝わりやすくなっていることが確

認できる。これは、今回のα材製ハウジングは、使用する熱伝導性の成形性(流動性)

とインサート金具と構造的な密着性を上げたことで、放熱性を高めることができたと

推測される。

α材は、ハウジングのみならず放熱を目的にする家電製品等の用途にも使える材料な

ので、今後の事業化の中で応用展開を図る。

2.3 事業化に関する研究

当初、ハイブリット自動車の普及と共にエンジン冷却用ウォーターポンプの電動化が

促進されると言うことで、本テーマをスタートした。

エンジン冷却用ウォーターポンプの電動化が限定されている中、電装部品冷却用電動ウ

ォーターポンプが多くの自動車に搭載されるようになっており、電気自動車への搭載を

含めて電動ウォーターポンプの必要性は高まっている。

事業化もポンプユニットに限定せず、本研究により競争力を高めた部品加工技術および

シミュレーション技術や評価解析技術を含めた設計技術による顧客支援により部品領域

まで広げた事業領域で事業化をはかる。

以下、本研究成果を列挙する。

(1)電動ウォーターポンプについて

・エンジン用電動ウォーターポンプを採用するメリットとデメリットについては、

下記のように考えられる。

50分後の温度

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メリット デメリット

・燃費が2~3%向上 ・部品費が増加する

・配置の自由度が向上 ・実績少なく信頼性蓄積中

・暖房との連係自由度が向上

・エンジンストップ時の冷却が可能

・電動ウォーターポンプの市場動向

・各社電装用電装部品冷却ポンプ調査

PRIUS用旧型と新型の2種類、CROWN用、BOSCH製、KN企画製の5

機種を購入し分解調査した。第 2-15図に外観等を示した。

第 2-14図 車載電動ウォーターポンプの経緯

第 2-15図 各社の電動ウォーターポンプの外観・構成

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(2)市場調査

電動ウォーターポンプ市場がどのように推移していくかを、各種調査をもとに

検討した。その結果、その市場は増加していくと予測される。

ハイブリッド車やアイドリングストップ車でエンジン用途の顕著な増加が見えていな

い現状に鑑み、電動ウォーターポンプの市場性を考えた場合、他の用途としてインバ

ーター冷却や暖房循環用についても増加する可能性も検討した。

1)市場予測-1

エンジン冷却用・暖房用・モーター・インバーター冷却用・バッテリー温度管理用

などの電動ウォーターポンプユニットの需要予測として、2011年度年間約200

万個から2015年には3倍の600万個程度になると需要の拡大が予測されている。

冷却用電動ウォーターポンプはその内のある割合になるわけであるが、ハイブリッド

車の比率が増加する見通しがあることから、増加していくことが予測される。

2)市場予測-2

環境課題への対応も加速し、ガソリン・ディーゼル車から次世代自動車への変換が

すすんでいく。ハイブリッド車のみならず電気自動車も普及していくが、冷却が必要

な電装系部品の割合も増加していくことになり、この点からみても冷却用電動ポンプ

の市場要求は高まると予測される。

(3)特許調査

技術動向を知るべく特許調査を実施した。

トヨタ自動車および関連企業からの特許申請が多く、他では最近の現代自動車からの

申請が目立っている。本プロジェクトで検討している開発品に近い構造がアイシン精

機(株)から申請されていたが無効となっており、開発に支障が無いことも確認でき

た。

(4)顧客へのアプローチ

自動車メーカー、自動車部品およびポンプメーカーを訪問、電動ウォーターポンプ

および部品供給の可能性に関して知見を得ることが出来た。

従来から進めてきた顧客との連携では、電装用ポンプ領域まで広げた顧客マップを作

成した。今後の販売活動に使っていく。

最近は、自動車部品の展示会などの参考展示を開始し、開発したサンプル品の展示

や設計技術あるいは評価結果より、興味を持って頂ける様になってきた。

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(5)まとめ

各自動車部品メーカー、民生用のポンプメーカーな

どの訪問により、電装部品冷却用ポンプの重要性と将

来の需要が拡大していくことをあらためて確認した。

これらの需要に対して本事業で得た研究成果をもって

事業化達成を目指す。

また、本事業により得た加工技術および材料を武器

として、業界の違う分野への応用展開による事業化も

可能なので、積極的なPRを行い早期事業化実現をめ

ざす。

尚、これらの販売に向けてセールスツールとして第

2-16図のようにまとめた。

第 2-16図 セールスツール

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第3章 全体総括

3-1 複数年の研究開発成果

本研究は、初年度および2年度目はエンジン用冷却用電動ウォーターポンプ、前倒しで

実施した3年度目は車載に使われ始めた電装部品冷却用電動ウォーターポンプの研究を

行った。また、研究期間を延長して、バイクのエンジンなどに使われる中間に位置する吐

出量の電動ウォーターポンプの研究を追加して実施した。

PPSをベースとしたSmFeNのプラスチックマグネットは、型内異方性着磁品の成

形加工と、脱磁加工と、インペラーと一体成形後再着磁加工を実現した。最終年度は事業

化では不可欠な多数個取りの成形加工も実現した。磁性特性も業界最先端レベルである。

次に、磁性粉混入率が高いPPSは割れ易い材料で、インペラーとの一体成形加工で

割れる課題があったが、金型構造を工夫して解決した。

マグネットおよびローターおよびポンプ駆動では、磁気シミュレーションを駆使して

市販品の解析,仕様設定,設計値実現に向けた部品設計といった分野まで活用した。

インペラーの設計では、羽根形状の良し悪しが重要となるので、ここでも流体シミュレ

ーション技術を駆使して、かつ、成形性を加えた設計を行い、市販品と同等あるいは上回

るインペラーを設計・製作し、更にポンプに組込んでこれを検証した。

ポンプの評価としては、車両に搭載して市販品との比較を行ったものもある。

次に現行アルミダイカストになっているハウジングは、樹脂単独では限界があることよ

り、熱源に近い所だけにアルミ部品をインサートする方法とインサート部品の形状改善に

より大幅に改良し、更に独自に開発した樹脂との組合せでアルミダイカストに匹敵する熱

特性を実現した。樹脂コストは樹脂の生産規模が大きくなれば解決できると思われる。

また、この樹脂は熱伝導を要求されるもの全てに使える可能性を残している。

事業化に関する研究では、市場・顧客・特許などの調査を通じて何処に売れば良いかが

見えて来た所で、最近展示会や商談会などで参考展示を始めた中では、サンプルにあるい

は解析技術に興味を持ってもらえる顧客が出てきた。

3-2 研究開発後の課題・事業化展開

電動ポンプの需要に対して本プロジェクトで得た研究成果を活かしていくにあたり、

顧客仕様へのより具体的なマッチングをすすめる必要がある。すなわち、自動車部品メー

カー、民生用のポンプメーカーなどの顧客との協業をすすめること、その中で具体的な仕

様に対し、信頼性含めた素材や電動ポンプ構造の吟味、コスト面からの素材および加工工

程の詳細検討、あるいは競合品に対する、より特長をもつ工夫を積極的にすすめることに

より早期事業化をめざす。また、開発した樹脂はその熱伝導性の特長から素材としての提

供もすすめたい。

本プロジェクトを総括するにあたり、事業管理機関である(株)インテリジェント・コ

スモス研究機構様はじめ、研究共同体としての宮城県産業技術総合センター様、国立大学

法人山形大学様、アイ・アンド・ピー株式会社様のご指導・ご協力に感謝致します。

大変ありがとうございました。

- 以上 -