Agricultural and 農業農村開発協力の新たな 視点 - maff.go.jp · 2019. 4. 14. ·...

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39 開発途上国の農業農村では、人口増加、食料の生 産性低下などの現状のもと、栄養不足や貧困といった 課題に直面している。 グローバル化の進展により国際社会の相互依存関 係が深まる中、これら開発途上国の開発課題は国際 社会が協力して取り組む必要があるとの観点から、国 際社会では共通の開発課題である持続可能な開発や 貧困削減に関する議論が行われている。 そのため、国際社会に共通の開発目標であるミレニ アム開発目標(MDGs)、中でも農業農村開発分野にお いて直接貢献が可能な「極度の貧困と飢餓の撲滅」に 資する農業農村の持続可能な開発を実現することが 第一の視点である。 開発途上国の農業農村では、栄養不足や貧困など の中でより多くの生産と収入を得るため、資源収奪的 な生産活動を余儀なくされてきた。その結果、土地や 水などの資源が急速に劣化し、砂漠化、黄砂、地球温 暖化などの地球的規模の環境問題が発生している。 また、世界の水使用量が今後も増加すると見込まれ る一方で、使用量の約 7 割を占める農業用水では、地 下帯水層の枯渇や国際河川における紛争のほか、施 設の不適切な維持管理による灌漑効率の低下といっ た問題が発生し、持続可能な水利用の実現が課題と なっている。 そのため、農業農村の持続可能な開発を行うことに よりその地域の環境を保全し、地球環境の保全に資す ることが第二の視点である。 (1) 極度の貧困と飢餓の撲滅 (2) 地球環境の保全 Agricultural and Rural Development 農業農村開発協力の新たな 視点 改定後の ODA 大綱や、開発途上国の農業農村が直面する課題などに基づき、今後5年程度を念 頭においた協力の意義・目的を次の5つの「視点」として整理した。 栄養補助食の配給を待つ子供たち(マラウイ) ©WFP/Crispin Hughes 砂漠化防止のために設置したストーンライン(石積)(ニジェール) 写真提供:J-Green

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開発途上国の農業農村では、人口増加、食料の生

産性低下などの現状のもと、栄養不足や貧困といった

課題に直面している。

グローバル化の進展により国際社会の相互依存関

係が深まる中、これら開発途上国の開発課題は国際

社会が協力して取り組む必要があるとの観点から、国

際社会では共通の開発課題である持続可能な開発や

貧困削減に関する議論が行われている。

そのため、国際社会に共通の開発目標であるミレニ

アム開発目標(MDGs)、中でも農業農村開発分野にお

いて直接貢献が可能な「極度の貧困と飢餓の撲滅」に

資する農業農村の持続可能な開発を実現することが

第一の視点である。

開発途上国の農業農村では、栄養不足や貧困など

の中でより多くの生産と収入を得るため、資源収奪的

な生産活動を余儀なくされてきた。その結果、土地や

水などの資源が急速に劣化し、砂漠化、黄砂、地球温

暖化などの地球的規模の環境問題が発生している。

また、世界の水使用量が今後も増加すると見込まれ

る一方で、使用量の約 7 割を占める農業用水では、地

下帯水層の枯渇や国際河川における紛争のほか、施

設の不適切な維持管理による灌漑効率の低下といっ

た問題が発生し、持続可能な水利用の実現が課題と

なっている。

そのため、農業農村の持続可能な開発を行うことに

よりその地域の環境を保全し、地球環境の保全に資す

ることが第二の視点である。

(1) 極度の貧困と飢餓の撲滅

(2) 地球環境の保全

Agricultural and Rural Development

4 農業農村開発協力の新たな

視点

改定後の ODA 大綱や、開発途上国の農業農村が直面する課題などに基づき、今後5年程度を念

頭においた協力の意義・目的を次の5つの「視点」として整理した。

栄養補助食の配給を待つ子供たち(マラウイ)©WFP/Crispin Hughes

砂漠化防止のために設置したストーンライン(石積)(ニジェール)写真提供:J-Green

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冷戦後の国際社会では、民族、宗教、歴史などに根

ざす対立が顕在化して紛争が多発し、開発途上国の

農村でも多くの難民が発生している。

また、2004 年 12 月に発生したインドネシア・スマトラ

島沖大規模地震及びインド洋津波災害など、洪水、台

風、地震などの災害は、世界各国において毎年のよう

冷戦後に多発した紛争などの結果、政府が存在しな

い、もしくは政府の統治能力が弱体化した国や地域が

発生している。そのような国や地域の農民は、貧困、飢

餓、紛争、災害といった人間に対する直接的な脅威か

ら自らを守ってくれるものが存在しないという現実に直

面している。

これらの農民が生存・生活・尊厳を全うするためには、

人間個人に着目した取り組み、すなわち「人間の安全

保障」の視点に立った取り組みが必要との認識が 2000

年代に入り国際社会において拡大した。

そのため、1990 年代から国際的議論が行われてき

たジェンダー平等の視点を含め、貧困、飢餓、紛争、災

害といった種々の困難から人間を守る「人間の安全保

障」に貢献する農業農村開発協力を推進することが第

四の視点である。

開発途上国が直面する貧困、飢餓、紛争、災害など

の課題に対処するためには、基幹産業である農業と生

産・生活の場である農村の両者が一体となった「農業

農村」の持続可能な開発に対する協力を推進する必要

がある。

一方、一国・一地方の農業農村開発をすべて援助で

賄うことは不可能なことからも明らかなように、開発途

に発生している。特に開発途上国の農村では、災害に

脆弱な貧困層が被害を受け、持続可能な開発を阻害

する要因の一つとなっている。

そのため、農業農村開発協力を通して平和の構築

や災害復興といった「復興支援」に貢献することが第三

の視点である。

上国の自助努力を支援するという観点から協力するこ

とが必要である。

すなわち、農業農村の持続可能な開発を実現するた

め、その主体である開発途上国の農民や技術者並び

にこれを支援する日本国内の技術者などの資質の向

上を図る「人づくり」を推進することが第五の視点であ

る。

(3) 復興支援

(4) 人間の安全保障の実現

農村女性に対する識字教育(ブルキナファソ)写真提供:J-Green

(5) 人づくりの推進

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苗代からの苗運び(タイ)

Agricultural and Rural Development

5 農業農村開発協力の新たな

展開方向

5つの「視点」として整理した協力の意義・目的を達成するため、これまでの協力実績や成果の評価

結果も踏まえて、農業農村開発協力の具体的な施策の方向を5つの展開方向として整理した。

(1) 極度の貧困と飢餓の撲滅

新たな視点

(2) 地球環境の保全

(3) 復興支援

(4) 人間の安全保障の実現

(5) 人づくりの推進

具体的な

施策の方向

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新たな展開方向

(2) 復興支援や地球環境の保全にも資する 「村づくり」協力の推進

○ 各地域の主要課題の解決に「村づくり」協力の手法を応用 ○ 協力の成果を地域的に拡大

(1) 貧困・飢餓の撲滅や人間の安全保障の実現にも資する

灌漑開発の推進

○ 農民が自ら持続的に維持管理し易い末端灌漑施設の整備 ○ 人間の安全保障の実現にも資する組織の育成と制度の整備 ○ 多様な関係者の参加による水資源開発

(3) 持続循環型の農業農村へ向けた技術開発

○ 汎用化した農地・土壌侵食防止対策技術 ○ 地域資源を利活用した循環型の砂漠化防止対策技術 ○ 黄砂発生抑制技術 ○ 地球温暖化防止対策技術

(4) 地域の特性に応じ重点化した協力

○ 東南アジアにおける協力の方向 ○ サブ・サハラアフリカにおける協力の方向 ○ 南西アジア・中東・中国などにおける協力の方向 ○ 中南米における協力の方向

(5) 効果的・効率的な協力の推進

○ NGO など国内外の関係機関との連携強化 ○ 南南協力・広域協力の推進 ○ 農業農村開発協力体制の整備 ○ 現地 ODA タスクフォースへの積極的な関与 ○ 外部の視点を加えた評価

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貧困や飢餓の撲滅には経済成長が必要であり、そ

のためには灌漑開発などのインフラ整備が重要である。

その際、

①持続可能な水利用を実現するため灌漑用水の効

率的な利用を推進する

②灌漑開発は、組織育成のために行う人づくりを通

した農民の「能力強化」と、制度の整備による農民

の「保護」により、人間の安全保障の実現に貢献

する

灌漑用水の効率的な利用を推進するためには、計

画段階から農民を参加させ、補修が容易、少ない労力

で水配分が可能など、農民が自ら持続的に維持管理し

やすい末端灌漑施設を整備する必要がある。

整備した末端灌漑施設を持続的に機能させるため

には、農民水管理組織を整備する必要がある。

その際、組織育成のために行う人づくりを通した農民

の「能力強化」と、制度や法律の整備による農民の「保

護」により、人間の安全保障の実現にも貢献することが

可能である。

また、水管理組織の育成に際しては、わが国土地改

良区を参考にしつつ、地域の現状に応じて活動項目を

増減するなどの検討が必要である。

③農業用水は、物理的な水利システム、水管理組

織などの組織、水利権などの制度という3要素が

相互に関係しつつ形成されている

という観点から、次のような灌漑開発を推進する必要

がある。

その際、中央アジアで発生しているような、不適切な

灌漑開発が招く塩害などのマイナスの効果にも十分留

意する必要がある。

(1) 貧困・飢餓の撲滅や人間の安全保障の実現にも資する 灌漑開発の推進

農民水管理組織の総会(タイ)

農民(水管理組織のメンバー)により維持管理されている小用水路(タイ)

人間の安全保障の実現にも資する組織の育成と制度の整備

農民が自ら持続的に維持管理し易い末端灌漑施設の整備

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紛争予防の観点も含めた持続可能な水利用を実現

するためには、多様な関係者が参加した水資源開発を

推進する必要がある。

また、農業用水が持つ多面的機能に関する理解の促

進を図る必要がある。

その際、各国との情報交換、パートナーシップなどを

目的とした国際水田・水環境ネットワーク(INWEPF:

International Network for Water and Ecosystem in

Paddy Field)の取組みを推進することが重要である。

多様な関係者の参加による水資源開発

■ 国際水田・水環境ネットワーク(INWEPF) ~誰もが参加可能な水田と水に関する情報交換の場~

食料安全保障と 貧困軽減

①研究、②政策、③国際協力の3つの分

野が連携し三つのチャレンジを実現

運営会議

ヴァーチャルミーティング

ワーキンググループ

拡大会議

INWEPF

持続可能な 水利用

パートナー シップ

■ 貧困・飢餓の撲滅や人間の安全保障の実現にも資する灌漑開発の推進

開発途上国における灌漑開発の現状と直面する課題

人間の安全保障の実現にも資する組織の育成と制度の整備

○ 整備した末端灌漑施設を持続的に機能させるため、農民水管理組

織を育成するとともに制度を整備

農民が自ら持続的に維持管理し易い末端灌漑施設の整備

○ 計画段階から農民を参加させ、補修が容易、少ない労力で水配分

が可能など、農民が自ら持続的に維持管理し易い末端灌漑施設を

整備

農民の意見を反映させた事業

の実施(施設の整備など)

計画段階から農民参加

施設に対する農民のオーナー

シップ向上

自ら農民水管理組織を設立し、施設の維持管理を行うことに対する

農民のモチベーションの向上

地域の農民が自ら持続的に維持管理し易い末端灌漑施設の整備手

法を既存技術の選択・組み合わせにより開発・展開

ハードとソフトが一体となった灌漑開発の推進

施設の不適切な維持管理

(灌漑効率の低下)

施設更新の早期化

政府予算の圧迫

負の サイクル 施設の老朽化進行

持続可能な水利用

の実現が課題

・水使用量の増加 ・末端灌漑施設の未整備

ソフト面の取組 ハード面の取組

農民水管理組織の育成 法律や制度の整備 ソフト面の取組と一体となった末端灌漑施設の整備

制度や法律の整備

農民の「保護」

農民の「能力強化」

研修(人づくり)

貧困農民の水の確保

地方政府の

事業実施

担当者

農民(住民)

のリーダー

中央政府の

政策立案

担当者

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「村づくり」協力は、成果が直接農民に届き、地方政

府や農民の自助努力を誘発・促進させる協力手法であ

平和の構築や災害復興といった復興支援において、

「村づくり」協力の農民参加による計画策定などの手法

が農業農村の機能を再構築するために有効である。ま

た、農民参加による将来計画策定は、農民・政府間、

農民同士間における紛争、例えば水争いなど、の発生

を予防する効果も期待される。

砂漠化防止や土壌侵食防止といった地球環境の保

全においても、「村づくり」協力の農民参加による計画

策定の手法が、村落の将来計画策定などに有効であ

る。

一方、ジェンダー平等、農村女性の能力強化の観点

から見た場合、農村女性の過重労働を解消する方策

の一つとして、農民参加による将来計画策定などの手

法を適用し、計画段階から農村女性の参加を求めるこ

とが考えられる。

さらに、発展段階が一定水準に達した農村では、当

該農村の一層の発展のため、農業農村開発分野以外

の分野との連携を強化することが重要である。

地域の主要課題を解決するためには、「村づくり」協

力の手法を応用した地区を拠点として、現地政府、国

際機関、NGO とも連携した活動により成果を地域的に

拡大する必要がある。

る。そのため、次のような形で「村づくり」協力を推進す

る必要がある。

(2) 復興支援や地球環境の保全にも資する「村づくり」協力の推進

住民参加による農村再生計画の策定(アフガニスタン)写真提供:J-Green

バングラデシュなどでは、

インドネシアにおける「村

づくり」協力で用いられた

ストックファンドなどの手法

を取り入れた FAO の事業

が実施された。 写真は、ストックファンドの

個 人 通 帳 を 掲 げ る 女 性

(バングラデシュ)

各地域の主要課題の解決に「村づくり」協力の手法を応用

協力の成果を地域的に拡大

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■ 復興支援や地球環境の保全にも資する「村づくり」協力の推進

各地域の農業農村が抱える主要課題の解決に「村づくり」協力の手法を応用

各地域の農業農村が 抱える主要課題

・復興支援(平和の構築、災害復興) ・地球環境の保全(砂漠化防止、土壌

侵食防止、地球温暖化対策)など

解決

村づくり協力の

手法を応用

アフガニスタンにおける

農業農村復興支援対策の事例

・農民、難民、女

性などが参加 ・復興のための課

題を各人が共有

・地域コミュニティ

の再生 ・農民組織の設立

・長い戦乱により

失われた農業技

術の復活

・農民、難民など

による事業実施

・荒廃したカナート

などの灌漑施設

の復旧・整備 ・農村生活環境の

整備

・就業機会の確

保による社会

安定 ・地域のルール

の再生 ・持続的農業農

村開発の定着

・ 農業農村の復興 ・ 持続可能な開発

地域的に拡大

協力の成果を 地域的に拡大

「村づくり」協力の手

法を応用した地域を

拠点として、政府機

関、国際機関、NGOとも連携した活動によ

り成果を地域的に拡

大(国内、同一地域

内、アジア→アフリカ

など)

連携

連携

政府機関 国際機関 NGO

難民などの就職機会の確保や地域コミュニティの再生

インドネシアを初めとして実施されてきた「村づくり」協力

インドネシア南東ス

ラウェシ州における

村づくり協力の事

・農民、地方政府

職員が参加 地域的に拡大

・農民水管理組織

の育成

・農民による水路・

道路の建設

・地方政府職員

な ど と 共 同 で

推進

農民による農村

再生計画策定 ソフト技術 ハード技術 農村社会の

再生

地域の 将来計画の策定

農民の組織化 農村基盤の整備現地適合型技

術の開発・普及

住民自身の手による、集落内給水施設の維持管理(ラオス)

写真提供:J-Green

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貧困・飢餓の撲滅、地球環境の保全などを実現する

ためには、資源収奪型の農業農村から、限りある資源

を有効活用する持続的で循環型の農業農村へ移行す

る必要がある。そのためには、国内外におけるわが国

これまで南米ボリビアの山岳部農地で

実証された土壌侵食防止対策技術を汎

用化し、緩傾斜部及び平野部農地にも

適用可能な農地・土壌侵食防止対策技

術をパラグアイで開発する。

農業農村開発の経験と知見を活用するとともに、現地

適応可能性が高いと考えられる伝統的な在来の技術

を発掘・活用・改良することにより、相手国の開発段階

に合わせて次の技術を開発する必要がある。

■ 農地土壌侵食防止対策技術の汎用化のイメージ

山岳部農地(ボリビア) ストーンライン、ベンチテラス、粗朶、コ

ンクール方式など

山岳部

平野部

汎用化

緩傾斜部及び平野部農地 (パラグアイ)

■ 持続循環型の農業農村へ向けた技術開発

地域資源を利活用した 循環型の砂漠化防止対策技術

(東アフリカ)

黄砂発生抑制技術 (中国西部、モンゴル)

汎用化した 農地・土壌侵食防止対策技術

(パラグアイ)

地球温暖化防止対策技術

(インドネシアなど)

(3) 持続循環型の農業農村へ向けた技術開発

汎用化した農地・土壌侵食防止対策技術

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これまで西アフリカの乾燥地域で開発した砂漠化防

止対策技術を改良し、自然・社会条件の異なる東アフ

リカの半乾燥地域において、農業・森林・牧畜を地域の

これまで西アフリカの乾燥地域で開発した砂漠化防

止対策技術を改良し、地球的規模の環境問題となって

いる黄砂の発生地域である中国西部やモンゴルにお

地球温暖化防止のためには、小水力発電などの代

替エネルギーの導入や吸収源となる農地の保全により

温室ガスを削減するなどの、地域資源を利活用した対

状況に応じ連携させて土壌を保全するなど、地域資源

を利活用した循環型の砂漠化防止対策技術を開発す

る。

いて、植生回復や水資源管理により、草地の裸地化を

防止するなどの黄砂発生抑制技術を開発する。

策技術を熱帯林が減少しているインドネシアなどで開

発する必要がある。

■ 地域資源利活用型砂漠化防止対策技術のイメージ

地域資源を有効に活用したウ

ォーター・ハーベスティング技

術、土壌保全技術の確立

地域資源を利活用した

循環型土壌保全システ

ムの技術指針の確立

○ 乾燥飼料の保存 ○ 市場性を考慮した家畜品

種選定 ○ ふん尿からの堆肥製造 ○ 放牧の集約化

牧畜

○ 小規模ポンプ水源開発 ○ 輪作体系の確立 ○ ストーンライン、半月工法 ○ 住民管理組織の構築 ○ 乾期・雨期の野菜栽培

農業

過放牧で収奪された牧草

を再生する牧草栽培技術

人の手によ

る森林管理

ふん尿を堆肥 として利用

下草を肥料 として利用

○ 苗木生産 ○ 苗木の種子保存 ○ 育苗園などの育苗方法 ○ 用途別の適応品種の選定

森林

薪炭材として収奪された

森林を再生し、持続的に

維持する植林・育林技術

地域資源を利活用した循環型の砂漠化防止対策技術

黄砂発生抑制技術

地球温暖化防止対策技術

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効果的・効率的な協力を進めるためには、地域の特

性に応じ分野や対象などを重点化する必要がある。そ

のため、農業農村に関して共通の特徴を有する①東南

アジア、②サブ・サハラアフリカ、③南西アジア・中東・

東南アジアの各国は、開発段階により全体的貧困、

農村部での貧困、都市と農村の格差、水資源の逼迫

などの課題に直面している。

これらの課題に対処するため、開発段階が低い国か

ら順に、①基礎インフラの整備などを通じた貧困削減、

②開発の遅れた地域における総合的な農業農村開発

などを通じた農業生産の安定化・多様化、③条件不利

地での小規模灌漑開発などを通じた都市と農村の格

差の是正、④河川流域全体の水管理改善などを通じ

た持続可能な開発など、開発段階に応じて重点化した

協力を推進する必要がある。

中国、④中南米の4つの地域別に、開発段階や優先

的に解決すべき課題に応じ重点化した協力を推進する

必要がある。

■ 東南アジアにおける協力の方向

注:詳細は、農林水産省ホームページ「平成 14 年度第 2 回国際小委員会配付資料一覧 資料-5 東南アジア 8 カ国の農業農村開発分野における協力の方向について」 (http://www.maff.go.jp/www/counsil/counsil_cont/nouson_sinkou/nogyo_noson_seibibukai/kokusai_syoiin/2/5.pdf)参照

開発

段階 取り巻く社会状況 協力の方向

・全体的貧困 ・人口の増大 ・農業が重要産業 ・財政状況が脆弱

③都市と農村の格差の是正 ・条件不利地での小規模灌漑開発 ・末端灌漑施設の整備 ・水管理組織育成、水管理改善

①貧困削減 ・基礎インフラの整備 ・総合的な農業農村開発 ・人材育成

②農業生産の安定化・多様化 ・開発の遅れた地域における総合

的な農業農村開発 ・基幹灌漑施設の整備 ・人材育成

④持続可能な開発 ・河川流域全体の水管理改善 ・農地・土壌侵食防止対策 ・南南協力の支援

・農村部での貧困

・人口の増大 ・農業が重要産業

・財政逼迫

・都市と農村の格差

・都市への人口流入

・工業化の促進

・生活環境の整備

農業農村の状況

食料安全保障

カンボジア ラオス

ベトナム ミャンマー

インドネシア

フィリピン

タイ

マレーシア

各国の状況土地利用 水資源(灌漑)

・村単位での自給自

足 ・自然順応的な農業

(天水田、沼沢、

増水利用)

・小規模で伝統的な

灌漑(河川自流利

用)

・主食の米の増産 ・耕地面積の拡大

(森林減少) ・平野部での大規模

開発(水源及び基

幹施設)

・米の乾期作の導

入 ・作物の多様化

・土地生産性の向

上 ( 乾 期 作 の 拡

大)

・水管理面への対

応 ・圃場内水利整備

・労働生産性の向

上 ・農業の比重の低

・工業化の拡大 ・農業生産の地域 の特定

・水資源の逼迫 ・灌漑効率の向上 ・生活用水、工業用

水との競合

高い

低い

・農村環境整備 ・環境保全 ・水田の多面的機能

発揮

(アジアのパートナーとしての技術

交流、連携の実施)

・米の自給率の低

下 ・耕作放棄地や不 作地の増加

・圃場内排水条件 の改良

・生活用水、工業用

水との競合

農民による用水路の建設(ラオス)写真提供:J-Green

(4) 地域の特性に応じ重点化した協力

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東南アジアにおける協力の方向

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初めに、サブ・サハラアフリカの各国を、水・土地など

の資源的制約要因と、社会・経済的制約要因から4つ

のグループに分類した。

この各グループに共通の課題として、①ネリカ米の

普及による主食の増産などを通じた栄養不足や貧困

の解消、また、土地資源の保全の必要性が高い国に

は、②砂漠化防止対策などを通じた地球環境の保全、

また、水・土地資源に開発優位性を有する国には、③

グッド・ガバナンスの強化などを通じた人間中心の開発、

というように、制約条件に応じて重点化した協力を推進

する必要がある。

農民による用水路の建設(コートジボワール)

■ サブ・サハラアフリカにおける協力の方向

緩い 厳しい

厳しい 緩い

注:詳細は、農林水産省ホームページ「平成 15 年度第 2 回国際小委員会配付資料一覧 資料-3 サブ・サハラアフリカにおける協力の方向」 (http://www.maff.go.jp/www/counsil/counsil_cont/nouson_sinkou/nogyo_noson_seibibukai/kokusai_syoiin/h15_2/siryo3.pdf)参照

社会・経済的制約要因

自立発展がある程度見込める国 ・アフリカのパートナーとしての技術交流、連携の実施

(人間開発中位国であり、他グループへの協力を優先) ・社会状況: HIV/AIDS 感染者率が高い ・代表的な国: 南アフリカ共和国、ガボン

土地資源の保全の必要性が低い国

・水資源 天水利用中心。開発可能性は低い

・土地資源 保全の必要性は低い

・農業 メイズや米等穀類中心の国が多い

施肥は他グループに比べれば多い

・社会状況 栄養不足人口割合が高い

・流通インフラ 道路密度が低い ・代表的な国

コートジボワール、ジンバブエ

土地資源の保全の必要性が高い国 ・水資源

天水利用中心、干ばつ常 襲地帯、開発可能性は低い

・土地資源 砂漠化の進行が著しい ・農業 メイズや米など穀類中心 の国が多い ・社会状況

栄養不足人口割合が高い ・流通インフラ 道路密度が低い ・代表的な国

ニジェール、エチオピア

水・土地資源に開発優位性を有する国

・水資源 天水利用中心

開発可能性は比較的高い ・土地資源

開発可能性は比較的高い ・農業

キャッサバなど澱粉類中心の国が多い

・社会状況 栄養不足人口割合が高い 内戦、紛争が多発

・流通インフラ 道路密度が低い

・代表的な国 モザンビーク、コンゴ民主共和国

②地球環境の

保全

・砂漠化防止

対策

①栄養不足や

貧困の解消

・陸稲ネリカ

普 及 と 合

わ せ た 畑

地 の 土 壌

保全対策

①栄養不足や貧困の解消(共通課題) ・ネリカ米の開発・普及による主食の増産 ・根茎類などを主食とする国における食料の

増産 ・農家収入向上、農村女性の過重労働解消

資源的制約要因

①栄養不足や貧困の

解消

・ウォーター・ハー

ベスティングなど

の天水利活用技術

の導入

③人間中心の開発

・グッド・ガバナンス

の強化、復興支援

①栄養不足や貧困の

解消

・地域の現状に応じた

規模の灌漑開発

サブ・サハラアフリカにおける協力の方向

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51

初めに、南西アジアや中東の各国を、農業形態や降

雨量などから4つのグループに分類した。

この各グループが抱える課題に対処するため、①水

管理技術の改善などを通じた持続的成長支援、②塩

類集積を抑制する用排水管理技術の開発などを通じ

た地球的規模の問題への取組み、③灌漑施設の改修

などを通じた栄養不足や貧困の削減、に重点化した協

力を推進するとともに、共通課題として、④平和の構築

や災害復興といった復興支援、に対する協力を推進す

る必要がある。

■ 南西アジア・中東・中国などにおける協力の方向

低い 高い

厳しい 緩い

注:詳細は、農林水産省ホームページ「平成 16 年度第 2 回国際小委員会配付資料一覧 資料-2 南西アジア・中東・中国等における農業農村開発分野の協力の方向」 (http://www.maff.go.jp/www/counsil/counsil_cont/nouson_sinkou/nogyo_noson_seibibukai/kokusai_syoiin/h16_2/siryo2.pdf)参照

中東を中心とした小麦を主食とする国

<開発課題> ・限られた水資源 ・大きい男女間の格差 ・大きい都市と農村の格差

代表的な国 イラン、エジプト、モロッコ

中央アジアを中心とした小麦を主食とする国

<開発課題> ・モノカルチャー的農業構造 ・塩類集積による土壌劣化の拡大

・高い栄養不足人口割合 代表的な国

ウズベキスタン、 タジキスタン、 キルギス

南西アジアを中心とした米を主食とする国

<開発課題> ・高い栄養不足・貧困人口割合 ・大きい都市と農村部の格差 ・高い零細農家割合

代表的な国 バングラデシュ、インド、ネパールなど

多様な農業形態を有する中国

<開発課題> ・急速な砂漠化、黄砂の影響拡大 ・都市部と農村部の大きな格差

栄養不足・貧困人口割合

天然資源・環境

②地球的規模の問題

・塩類集積を抑制する

用排水管理技術の開

③栄養不足や貧困の削減

・米の生産性向上と農業の

多様化に向けた灌漑施設

の改修 ・食料供給のアンバランス

是正に向けた輸送インフ

ラ整備 ・不均衡な土地所有形態の

改善に向けた支援

①持続的成長支援

・農業用水の効率的

利用のための水管

理技術などの整備 ・伝統的灌漑施設な

どを将来へ継承す

るための支援 ・ジェンダー平等の推

進に向けた取組み

②地球的規模の問題

・砂漠化防止対策の開発 ・黄砂の発生を抑制する

技術の開発

①持続的成長支援

・農業の多様化と主

要作物の土地生産

性向上に向けた支

援 ・大規模灌漑施設の

維持管理とリハビリ

体制の整備

伝統的な横井戸式地下水灌漑システム「カナート」の末端水路と水番「ミラ

ーブ」(写真中央の人)(イラン)

南西アジア・中東・中国などにおける協力の方向

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初めに、中南米の各国を、土壌劣化の進捗度合いと

開発段階から4つのグループに分類した。

この各グループが抱える課題に対処するため、①小

規模灌漑施設や道路といった基礎インフラの整備など

を通じた栄養不足や貧困の削減、②土壌侵食の防止

などを通じた地球環境の保全、③大型台風などの自然

災害に対する農村インフラの復興支援、④水管理組織

の育成などを通じた持続可能な農業生産への支援、に

重点化した協力を推進する必要がある。

土壌侵食防止用のベンチテラスでの野菜栽培(ボリビア)写真提供:J-Green

■ 中南米における協力の方向

高い 低い

厳しい 緩い

注:詳細は、農林水産省ホームページ「平成 17 年度第 1 回国際小委員会配付資料一覧 資料-3 中南米における農業農村開発分野の協力の方向」 (http://www.maff.go.jp/www/counsil/counsil_cont/nouson_sinkou/h170902syo_iin/siriyou3.pdf)参照

貧困、土壌劣化ともに厳しい国

<開発課題> ・栄養不足、貧困 ・土壌劣化

該当国 ハイチ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラ

グア、ドミニカ共和国、グアテマラ、ペルー

土壌劣化が進行中の農業中心の貧困国

<開発課題> ・土壌劣化 ・栄養不足、貧困

該当国 ボリビア、パラグアイ、ガイアナ、 エクアドル、コロンビア

環境・天然資源

開発程度が比較的高い国

<開発課題> ・台風などの自然災害 による大規模な被害

該当国 パナマ、コスタリカ

自助努力が相当程度 期待できる国

<開発課題> ・地域間格差(都市と農村の 格差)の拡大 ・水資源の有効活用

該当国 ブラジル、アルゼンチン、 チリ、ウルグアイ、 メキシコ、ベリーズ

経済的な発展段階

①栄養不足や貧困の削減

・農道、基幹灌漑施設など

の基礎インフラの整備 ・「村づくり」協力による総合

的な農業農村開発 ・人間の安全保障の視点に

配慮した貧困問題への

対応

②地球環境の保全

・土壌侵食の防止

③復興支援

・農業被害実態把握の

ための調査団派遣 ・農村社会と農村インフ

ラの再建支援 ・防災に関する専門家育

成支援

②地球環境の保全

・土壌侵食の防止 ・塩類集積の抑制

②地球環境の保全

・地球温暖化防止対

策技術の開発 ・住民参加型環境保

全事業での支援

④持続可能な農業生産への支援

・地域間格差を解消するための農道

などの輸送インフラの整備 ・水管理組織の育成・強化など、生

産基盤の維持管理体制の強化 ・農業用水の水質改善

①栄養不足や貧困の削減

・農道、小規模灌漑施設、

水管理組織などの整備 ・「村づくり」協力による総合

的な農業農村開発

中南米における協力の方向

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改定後の ODA 大綱の「政策協議の強化」と「国民参

加の拡大」の概念も取り入れ、効果的・効率的な協力

NGOなどを支援するODAスキームにより、国内の農

業農村開発関係団体の海外での技術協力への参加

の拡大を図るなど連携を強化する必要がある。

また、政府機関職員のみならず、カウンターパートに

を進めるため、次の取り組みを推進する必要がある。

農民や現地のコンサルタンツを加えるなど連携を強化

する必要がある。

さらに、国内外の関係機関との協力、連携、ネットワ

ークの構築が重要である。

(5) 効果的・効率的な協力の推進

■ NGO などとの連携強化のイメージ(灌漑施設の維持管理の事例) 従来の協力の範囲

国外の援助関係機関

相手国 わが国

政府機関職員

農民

政府機関職員

国内の援助関係機関

今後の協力の範囲

わが国

政府機関職員

国内の援助関係機関

相手国

農民、大学、民間団体など

政府機関職員

国外の援助関係機関

連携強化

土地改良区、大学など

連携強化

■ 相手国の NGO との連携強化の方向 ○ わが国が相手国内で行う調査や事業の実施に際し、行政の

活動を補完する形で現地NGOと連携

〔事例〕 ブルキナファソにおいて J-Green が実施している農林水産省補助

事業「砂漠化防止対策推進体制検討調査」(2001~)において、村

落社会調査や、住民組織化などの村落別事業について、当該分野を

得意とする現地 NGO へ業務を委託する形で連携

普及員とNGOが連携をとりながら住民を指導(ブルキナフ

ァソ) 写真提供:J-Green

■ わが国土地改良区との連携強化の方向 ○ わが国土地改良区の職員を相手国に派遣し、農民水管理組

織のメンバーを直接指導 〔事例〕

JICA 技術協力プロジェクト「タイ水管理システム近代化計画」

(1999~)において、北海道の北海土地改良区の職員を「水利用者

グループ連合の会計管理」短期専門家として 2003 年 9 月に約 1 ヶ

月間派遣し、農民水管理組織の役員(農民)に技術移転 ○ 相手国政府の技術者や農民水管理組織のメンバーをわが

国土地改良区に受け入れ、土地改良区職員が直接指導 〔事例〕

北海道の旭鷹土地改良区では、JICA 草の根技術協力の制度を使

い、2002 年よりインドネシア、スリランカ、バングラデシュなど

から技術者を受け入れ「農民参加型用水管理システム研修」を実施

写真提供:旭鷹土地改良区

NGOなど国内外の関係機関との連携強化

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技術やノウハウを有する大学や灌漑技術センターな

どを核にした南南協力、広域協力を、当該各国間の関

係も十分考慮して推進する必要がある。

特に、成功事例、先行事例を有するタイなどの開発

途上国において、わが国の協力により整備した灌漑技

術センターなどを協力の拠点とし、開発の遅れた周辺

国の技術者を集めて研修を実施する形の協力を推進

することが重要である。

タンザニアのキリマンジャロ農業技術者訓練センターでは、インドネシ

アから来た講師が、ケニア、ウガンダなどの研修生に水牛による圃場

耕起方法を指導(タンザニア)

南南協力・広域協力の推進

■ 南南協力のイメージ

注:援助国、非援助国以外の国、特に比較的開発の進んだ途上国の人材を専門家として活用するもの

開発の進んだ途上国 (タイ、マレーシアなど) 南南協力

・第三国専門家派遣(注)など

支援

わが国

開発の遅れている 途上国

■ 広域協力のイメージ

研修講師派遣などの支援

成功事例、先行事例を

有する途上国 (タイなど)

技術やノウハウを有する、

わが国協力により整備した

灌漑技術センターや大学な

どを拠点に研修を実施

広域協力

わが国

研修生 研修生

開発の遅れて いる途上国

開発の遅れて いる途上国

開発の遅れて いる途上国 研修生

開発の遅れて いる途上国 研修生

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効果的・効率的な協力を推進するためには、内外の

人材を育成・確保する必要がある。

また、内外の技術情報を収集すると共に、これまでに

蓄 積 し た 情 報 も 含 め て IT ( Information and

Communication Technology:情報通信技術)化し整理

する必要がある。

特に、蓄積した情報を早期に活用する観点から、情

報源情報(報告書名、保管場所など、本体情報の概要

とアクセス方法が分かる程度の情報)の IT 化を優先す

ることが重要である。

さらに、IT 化した情報をメールやインターネットを通じ

て派遣専門家、国内の土地改良区、開発途上国の

NGO などが利用できる体制を整備し、わが国の経験と

知見を適時・適切に提供する体制を整備する必要があ

る。

■ 農業農村開発協力体制の整備(技術情報の整備) のイメージ

派遣専門家

開発途上国の 政府機関職員

国内の援助 関係機関

国内の土地改

良区、大学など

開発途上国の

農民

開発途上国の 大学、NGO など

国外の援助 関係機関

国内の 農業農村開発協力関係機関

● 技術情報の収集・整理 ● IT 化 ● メールやインターネットを通じた技術情

報の提供

農業農村開発協力体制の整備

開発途上国における人材育成の一例「用水路の流量観測実習」(タイ)

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育成した人材を活用した専門家などによる情報提供

や、海外農業コンサルタンツ協会(ADCA: Agricultural

Development Consultants Association)による案件形

農村振興局の行う主要な ODA 事業の実績について、

農業農村開発協力の特性を踏まえた上で、外部の視

点も含めて評価する必要がある。

また、案件実施のみならず評価も含め、国際機関と

の連携を強化する必要がある。

成調査結果の提供を通じて、現地 ODA タスクフォース

へ積極的に関与していくことが必要である。

現地ODAタスクフォースへの積極的な関与

外部の視点を加えた評価

■ 現地 ODA タスクフォースとの連携強化 資料:ODA 白書2003年版(外務省)の図に一部加筆

協力 意見交換

現地 ODA タスクフォース

大使館 ・大使 ・経済協力班 ・各省出向者

政策協議対処方針作成、

分析、研究

JICA 事務所 JBIC 事務所

現地ベース政策協議

被援助国政府

現地援助コミュニティ

民間企業、ボランティアなど協力・

連携

援助協調

JICA 専門家 JETRO、 国際交流基金など

■ 外部の視点を加えた評価の事例

○ 平成 13 年度より J-Green は、第三者からなる「緑資源機

構海外農業開発事業評価委員会」を設置し、農林水産省

補助事業などについて事後評価を実施 ○ 評価結果は、ホームページにおいて公表 ○ これまでに、次の事業などについて評価を実施

〔農林水産省補助事業〕 ・砂漠化防止対策技術開発調査(ニジェール、マリ、ブルキナファ

ソ) ・農地・土壌侵食防止対策実証調査(ボリビア) など

〔JICA 技術協力プロジェクト〕 ・インドネシア 南東スラウェシ州農業農村総合開発計画 ・ラオス ヴィエンチャン県農業農村開発計画 など

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57

高さ 189.02 幅 185.47、左 5 上 45 右 89 下 58

Agricultural and Rural Development

参考 世界で活躍する農村振興局

派遣の技術者

タイ●

インドネシア ●●●●

ベトナム ●●●●●

スリランカ●●●

タンザニア ●●

ジンバブエ ●

エチオピア

●●

エジプト●●●

イタリア ●

オランダ ●

フランス ●

ポーランド ●

イラン●

トルコ ●

ミャンマー●

バングラデシュ●●

パキスタン●●

ラオス●●

カンボジア ●●

フィリピン ●●●●●

中国 ●●●●●

東ティモール●

ネパール●

イタリア ● 国際連合食糧農業機関(FAO)技術協力局 オランダ ● 在オランダ日本大使館 フランス ● 経済協力開発機構(OECD)食料農業水産 局 ポーランド ● 在ポーランド日本大使館

エジプト ● 在エジプト日本大使館 ● ナイルデルタ水管理改善計画 ● ナイルデルタ水管理改善計画 トルコ ● 在トルコ日本大使館

インドネシア ● 国際連合食糧農業機関(FAO)インドネシア

国事務所 ● 公共事業省水資源総局 ● 水利組合強化計画 ● 水利組合強化計画 カンボジア ● 在カンボジア日本大使館 ● 水資源気象省計画国際協力局 タイ ● 在タイ日本大使館 スリランカ ● 在スリランカ日本大使館 ● 国際水管理研究所(IWMI) ● 農業・環境・灌漑・マハベリ開発省灌漑局

欧州

中東

エチオピア ● 農業農村開発省計画局 ● 灌漑農業改善計画 ジンバブエ ● 在ジンバブエ日本大使館 タンザニア ● 在タンザニア日本大使館 ● キリマンジャロ農業技術者訓練センター計

画フェーズⅡ

アフリカ

アジア

イラン ● 農業開発推進省国際地域機関局

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58

高さ 189.02 幅 185.47、左 91 上 45 右 3 下 58

(2006年2月1日時点)

米国 ● 在サンフランシスコ日本総領事館

ベトナム ● 在ベトナム日本大使館 ● 農業農村開発省国際協力局 ● 農業生産性向上のための参加型水管理改

善推進計画 ● 農業生産性向上のための参加型水管理改

善推進計画 ● 農業生産性向上のための参加型水管理改

善推進計画 ミャンマー ● 在ミャンマー日本大使館 ラオス ● 在ラオス日本大使館 ● メコン河委員会事務局(MRCS)

中国 ● 在中華人民共和国日本大使館 ● 大型灌漑区節水かんがいモデル計画 ● 大型灌漑区節水かんがいモデル計画 ● 大型灌漑区節水かんがいモデル計画 ● 大型灌漑区節水かんがいモデル計画 ネパール ● 在ネパール日本大使館 パキスタン ● 在パキスタン日本大使館 ● 水利電力省チーフ技術アドバイザーオフィス

兼連邦洪水委員会 バングラデシュ ● 在バングラデシュ日本大使館 ● 地方自治農村開発協同組合省地方行政技

術局 東ティモール ● 農林水産省農業局 フィリピン ● 在フィリピン日本大使館 ● アジア開発銀行(ADB)東及び中央アジア局 ● 国家灌漑庁事業開発部 ● 国家灌漑庁組織育成部 ● 農地改革省事業開発管理局

北米

中南米

コロンビア ● 在コロンビア日本大使館 チリ ● 在チリ日本大使館 ● 住民参加型農村環境保全計画 ドミニカ共和国 ● 在ドミニカ共和国日本大使館 ● 灌漑農業技術改善計画 ● 灌漑農業技術改善計画 ● 灌漑農業技術改善計画 パラグアイ ● 農牧省企画総局 ボリビア ● 在ボリビア日本大使館 ● 持続的農村開発のための実施体制

整備計画

凡 例

● 大使館書記官など ● 国際機関職員 ● 個別専門家 ● 技術協力プロジェクト専門家 注:本図には、農村振興局関係

の派遣中の技術者計59名を

記載した。

米国 ●

コロンビア ●

チリ ●●

ドミニカ共和国 ●●●●

パラグアイ ●

ボリビア ●●