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2013年度 デミング賞 受賞報告講演要旨 株式会社アドヴィックス

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2013年度

デミング賞 受賞報告講演要旨

株式会社アドヴィックス

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社名の由来

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1 会社概要

1.1 沿革

当社は、自動車用ブレーキ部品事業の国際競争力の強化を狙いに、アイシン精機、デンソー、

住友電気工業の3社の開発、販売部門を統合し、日本初のブレーキシステムサプライヤとして2001

年に設立された。

設立: 2001年7月3日

事業内容: 自動車用ブレーキシステムおよびコンポーネントの開発、生産、販売

資本金: 70.4億円(2013年3月31日現在)

比率 アイシン精機㈱ 55%、㈱デンソー 18%、住友電気工業㈱ 18%、

トヨタ自動車㈱ 9%

従業員: 4,691名(連結、2013年3月31日現在)

沿革

2007年 1月

9月

ADVICS VISION 2015を制定

世界初のクロールコントロールを量産化

2008年 4月

5月

7月

11月

市販用ブレーキ部品販売会社を取得 – S&Eブレーキ株式会社

ADVICS EUROPE OFFICE を設置

米国にてESCの現地生産を開始

愛徳克斯(天津)汽車零部件有限公司が天津愛信汽車零部件有限公司を合併

世界最小・最軽量のESC(ADS-V2P)を量産化、iQより搭載

2009年 5月

11月

回生協調ブレーキシステム(ECB-R)を量産化、プリウスより搭載

日産自動車に制御ブレーキ製品を初納入(ADS-V2Gがフーガに搭載)

2007年 1月

9月

ADVICS VISION 2015を制定

世界初のクロールコントロールを量産化

2008年 4月

5月

7月

11月

市販用ブレーキ部品販売会社を取得 – S&Eブレーキ株式会社

ADVICS EUROPE OFFICE を設置

米国にてESCの現地生産を開始

愛徳克斯(天津)汽車零部件有限公司が天津愛信汽車零部件有限公司を合併

世界最小・最軽量のESC(ADS-V2P)を量産化、iQより搭載

2009年 5月

11月

回生協調ブレーキシステム(ECB-R)を量産化、プリウスより搭載

日産自動車に制御ブレーキ製品を初納入(ADS-V2Gがフーガに搭載)

2001年 7月 株式会社アドヴィックス設立 (10月より営業開始)

2002年 1月 米国に ADVICS North America, Inc. 設立

2003年 4月

5月

8月

住友電工より、北米生産会社2社を取得 – ADVICS Manufacturing Ohio, Inc. , SAFA, L.L.C.タイに ADVICS Asia Pacific Co., Ltd. 設立

インドネシアに PT. ADVICS Indonesia 設立

2004年 2月

7月

11月

中国に愛徳克斯(天津)汽車零部件有限公司を設立

本社屋竣工、基本理念制定、環境方針制定

中国に愛徳克斯(広州)汽車零部件有限公司を設立

2005年 1月

12月

環境に関する国際規格 ISO14001 認証取得

台湾に台湾愛徳克斯汽車零件股份有限公司を設立

2006年 9月

10月

国産車初となる電動パーキングブレーキ(EPB)をLS460用に量産化

ABS(ADS-A2)及びESC(ADS-V2G)をカローラ用に量産化

2001年 7月 株式会社アドヴィックス設立 (10月より営業開始)

2002年 1月 米国に ADVICS North America, Inc. 設立

2003年 4月

5月

8月

住友電工より、北米生産会社2社を取得 – ADVICS Manufacturing Ohio, Inc. , SAFA, L.L.C.タイに ADVICS Asia Pacific Co., Ltd. 設立

インドネシアに PT. ADVICS Indonesia 設立

2004年 2月

7月

11月

中国に愛徳克斯(天津)汽車零部件有限公司を設立

本社屋竣工、基本理念制定、環境方針制定

中国に愛徳克斯(広州)汽車零部件有限公司を設立

2005年 1月

12月

環境に関する国際規格 ISO14001 認証取得

台湾に台湾愛徳克斯汽車零件股份有限公司を設立

2006年 9月

10月

国産車初となる電動パーキングブレーキ(EPB)をLS460用に量産化

ABS(ADS-A2)及びESC(ADS-V2G)をカローラ用に量産化

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2010年 4月

7月

アイシン精機より、刈谷工場、ASブレーキシステムズ(株)を取得

アイシン精機より、北米生産会社を取得 – ADVICS Manufacturing Indiana, L.L.C.

2011年 6月

7月

8月

12月

中国に愛徳克斯(常州)管理有限公司を設立

中国に愛徳克斯(福州)汽車零部件有限公司を設立

ドイツにADVICS Europe GmbHを設立

タイにADVICS Manufacturing (Thailand) Co., Ltd.を設立

2012年 4月

8月

9月

中国に愛徳克斯(雲浮)汽車零部件有限公司を設立

インドにADVICS North India Private Limitedを設立

インドにADVICS South India Private Limitedを設立

品質に関する国際規格 ISO9001、ISO/TS16949 認証取得

2010年 4月

7月

アイシン精機より、刈谷工場、ASブレーキシステムズ(株)を取得

アイシン精機より、北米生産会社を取得 – ADVICS Manufacturing Indiana, L.L.C.

2011年 6月

7月

8月

12月

中国に愛徳克斯(常州)管理有限公司を設立

中国に愛徳克斯(福州)汽車零部件有限公司を設立

ドイツにADVICS Europe GmbHを設立

タイにADVICS Manufacturing (Thailand) Co., Ltd.を設立

2012年 4月

8月

9月

中国に愛徳克斯(雲浮)汽車零部件有限公司を設立

インドにADVICS North India Private Limitedを設立

インドにADVICS South India Private Limitedを設立

品質に関する国際規格 ISO9001、ISO/TS16949 認証取得

1.2 売上高と経常利益の推移(連結)

当社は、創業以来、T社中心のビジネスを展開し、T社のグローバル展開に合わせて大幅に売

上げを伸ばしてきた。リーマンショックで落ち込んだ売上げは回復し、利益についても順調に伸

びている。

01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年 10年 11年 12年 13年

経常損益

01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年 10年 11年 12年 13年

売上高とT社生産台数

★リーマンショックT社生産台数

01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年 10年 11年 12年 13年

経常損益

01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年 10年 11年 12年 13年

売上高とT社生産台数

★リーマンショックT社生産台数

図 1-1 売上高と利益の推移

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1.3 アドヴィックスの組織とアドヴィックスグループ

当社は、アイシングループ中核6社の1社としてブレーキ事業を担い、アドヴィックスグループ

会社を通して全世界で事業を展開している。

1) 当社の組織

当社は経営企画・管理、品質保証、営業、技術開発、事業企画・管理、生産の 6部門、31 部

より構成されている。人員は 2013 年 3月末時点で、1,742 名である。

社長

経営企画・管理部門

監査部

経営管理部

人事総務部

TQM推進部

品質保証部

営業企画部

営業部門

第2営業部

浜松営業所

大阪営業所

東京営業所

宇都宮営業所

広島営業所

技術開発部門

技術企画部

技術管理部

研究開発部

ブレーキシステム技術部

制御第1技術部

アクチュエーション技術部

ファウンデーション技術部

フリクション技術部

シャシーシステム技術部

制御第2技術部

制御第3技術部

事業企画部

刈谷工場

生産技術部

工場管理部

品質管理部

製造部

海外事業推進部

品質保証部門

事業企画・管理部門

生産部門

第1営業部

制御第4技術部

生産管理部

調達部

第3営業部

信頼性技術部

設計監査部

社長

経営企画・管理部門

監査部

経営管理部

人事総務部

TQM推進部

品質保証部

営業企画部

営業部門

第2営業部

浜松営業所

大阪営業所

東京営業所

宇都宮営業所

広島営業所

技術開発部門

技術企画部

技術管理部

研究開発部

ブレーキシステム技術部

制御第1技術部

アクチュエーション技術部

ファウンデーション技術部

フリクション技術部

シャシーシステム技術部

制御第2技術部

制御第3技術部

事業企画部

刈谷工場

生産技術部

工場管理部

品質管理部

製造部

海外事業推進部

品質保証部門

事業企画・管理部門

生産部門

第1営業部

制御第4技術部

生産管理部

調達部

第3営業部

信頼性技術部

設計監査部

図 1-2 当社の組織図

2) アドヴィックスグループ

下図のように国内外に開発・営業拠点、製造拠点を展開している。

(2013 年 3 月時点)

図 1-3 アドヴィックスグループ

拠点の状況拠点の状況拠点の状況拠点の状況拠点の状況拠点の状況 連結会社21社

ADVICS Tianjin

S&E Brake

ADVICS Mfg. Indiana

AS Brake Systems

AISIN Chemical Thailand

Tangshan AISIN Chemical

ADVICS Changzhou

ADVICS EUADVICS Fuzhou

ADVICS Mfg. Thailand

ADVICS YunfuADVICS North India

ADVICS South India

ADVICS Guangzhou

ADVICS Taiwan

PT. ADVICS INDONESIA

ADVICS Mfg. Ohio ADVICS North America

SAFA

ADVICS

ADVICS Asia Pacific

連結会社21社

ADVICS Tianjin

連結会社21社

ADVICS Tianjin

S&E Brake

ADVICS Mfg. Indiana

AS Brake Systems

AISIN Chemical Thailand

Tangshan AISIN Chemical ADVICS Fuzhou

ADVICS Changzhou

ADVICS EU

ADVICS Mfg. Thailand

ADVICS YunfuADVICS North India

ADVICS South India

ADVICS Guangzhou

ADVICS Taiwan

PT. ADVICS INDONESIA

ADVICS Mfg. Ohio ADVICS North America

SAFA

ADVICS

ADVICS Asia Pacific

S&E Brake

ADVICS Mfg. Indiana

AS Brake Systems

AISIN Chemical Thailand

Tangshan AISIN Chemical ADVICS Fuzhou

ADVICS Changzhou

ADVICS EU

ADVICS YunfuADVICS North India

ADVICS South India

ADVICS Mfg. Thailand ADVICS Guangzhou

ADVICS Taiwan

ADVICS Mfg. Ohio ADVICS North America

SAFA

ADVICS

ADVICS Asia Pacific

PT. ADVICS INDONESIA

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3) アドヴィックスと関連する会社

社内生産、グループ会社以外にアイシン精機を始めアイシングループ各社、デンソーなど

が弊社の製品を生産をしている。

㈱アドヴィックス

海外拠点

<主要仕入先>

営業部門

事業企画・管理部門

経営企画・管理部門

技術部門

生産部門

品質保証部門

刈谷工場

・アイシン精機、デンソー

・アイシングループ各社

国内拠点

藤岡分室

・統括、開発・販売会社(

・販売会社(S&Eブレーキ)・生産会社(ASブレーキシステムズ)

<アドヴィックス グループ>アドヴィックス

海外拠点営業部門

事業企画・管理部門

経営企画・管理部門

技術部門

生産部門

品質保証部門

刈谷工場

・アイシン精機、デンソー

・アイシングループ各社

国内拠点

藤岡分室

・統括、開発・販売会社(5社)

・生産会社(11社)

・販売会社(S&Eブレーキ)・生産会社(ASブレーキシステムズ)

<アドヴィックス

アイシン高丘アイシン化工豊生ブレーキ

㈱アドヴィックス

海外拠点

<主要仕入先>

営業部門

事業企画・管理部門

経営企画・管理部門

技術部門

生産部門

品質保証部門

刈谷工場

・アイシン精機、デンソー

・アイシングループ各社

国内拠点

藤岡分室

・統括、開発・販売会社(

・販売会社(S&Eブレーキ)・生産会社(ASブレーキシステムズ)

<アドヴィックス グループ>アドヴィックス

海外拠点営業部門

事業企画・管理部門

経営企画・管理部門

技術部門

生産部門

品質保証部門

刈谷工場

・アイシン精機、デンソー

・アイシングループ各社

国内拠点

藤岡分室

・統括、開発・販売会社(5社)

・生産会社(11社)

・販売会社(S&Eブレーキ)・生産会社(ASブレーキシステムズ)

<アドヴィックス

アイシン高丘アイシン化工豊生ブレーキ

図 1-4 アドヴィックスと関係する会社

1.4 主要製品とその特徴

当社で扱う製品は大きく分けて加圧系、足回り系、制御系の3つの製品群に分類される。加

圧系は、ドライバーが踏むブレーキペダルの力を油圧に変換しエンジン負圧、蓄圧器(アキュム

レータ)を使って増幅させる製品(ブースタマスタシリンダ(BMC)、ハイドロブースタ)。足回

り系は油圧を摩擦力に変換し、車両を制動させる製品(キャリパ、ロータ、パッド、ドラムブレ

ーキ)。そして制御系は、車両の状態を各種センサーで検出しコンピュータを介して各車輪にか

かるブレーキ油圧をアクチュエータにより制御する製品(ABS、ESC、回生協調ブレーキ)である。

2012年度売上げ比率では、足回り系製品が55%、制御系製品が33%、加圧系製品が12%となって

いる。

グローバル市場調査

実車評価評価設備

解析技術

ハイドロブースタ

ABS

電動パーキングブレーキ

キャリパ ・ ロータ

ESC

足回り系足回り系

制御系制御系

加圧系加圧系

ブースターマスターシリンダ

ドラムブレーキ

パッド回生協調ブレーキ

グローバル市場調査

実車評価評価設備

解析技術

ハイドロブースタ

ABS

電動パーキングブレーキ

キャリパ ・ ロータ

ESC

足回り系足回り系

制御系制御系

加圧系加圧系

ブースターマスターシリンダ

ドラムブレーキ

パッド回生協調ブレーキ

図 1-5 アドヴィックスの製品とそれを支える技術

― 113 ―

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このようにパッドを含めた全てのブレーキ製品を自社製品として提供できるブレーキサプラ

イヤは世界で当社だけである。(当社調べ)

また、当社はブレーキ製品の単品を開発するだけではなく、ブレーキシステムサプライヤとし

ての業務も担っている。ブレーキシステムサプライヤとはカーメーカのブレーキ要求性能を満た

すためのブレーキシステムを設計、そのシステムの性能を予測し、それに基づき、それぞれのブ

レーキ製品の仕様にまとめるとともに、開発された製品を車両に搭載し適合評価し、性能保証す

る役割を担っている。

1.5 当社の市場ポジション

世界の自動車用ブレーキは、欧米大手など当社を含めた5社が先進国を中心にカバーしている。

中国、インドにおいては現地のカーメーカを支える新たなブレーキサプライヤも急激に増加して

いる。

当社は、国内ブレーキ3社の合体であり、国内では最大のシェアを持つが、海外では10%台に

留り、これを伸ばす為には今後拡大する新興国市場での事業展開が急務である。それぞれの製品

群を代表する製品の市場シェアは次の通りである。

図 1-6 ブレーキ製品のシェア

<世界シェア> <国内シェア>

キャリパ

ブレーキマスタシリンダ

制御系

※ADS調べ

(足回り系)

(加圧系)

14%

13%

13%

47%

41%

41%

ADS

ADS

ADSADS

ADS

ADS (その他)

(その他)

(その他)(その他)

(その他)

(その他)

<世界シェア> <国内シェア>

キャリパ

ブレーキマスタシリンダ

制御系

※ADS調べ

(足回り系)

(加圧系)

14%

13%

41%

13%

41%

ADS

ADS

ADSADS

ADS

ADS (その他)

(その他)

(その他)(その他)

(その他)

(その他)

47%

― 114 ―

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2 会社活動の経緯

2.1 設立から2008年(リーマンショック)まで

1) 会社設立の背景

1990年代の後半に欧米自動車メーカは、グローバルな競争力を強化させるために、従来部品単

位・地域単位で発注をしていた自動車の部品をシステム単位で開発から委託し、グローバルに供

給させようとしていた。ブレーキ関係では、欧米に大手サプライヤが存在し、ブレーキのシステ

ム発注化が進み出した。システム発注に応えるため欧米大手は、事業買収を行ってシステム開発

とグローバル供給の体制の整備をしていた。

T社も同じくブレーキのシステム発注化を考えていたが、日本のブレーキメーカには1社でシ

ステム受注に対応できるところは無かった。

そこで1998年から、T社グループのアイシンとデンソーは欧州メガサプライヤと戦う体制整備

のために、世界的に急拡大していたABS事業で構成部品共通化を進めることで、協業化の第一歩

をスタートさせていた。その後、欧米の早い動きに危機感を強めたアイシンとデンソーは、住友

電工も交え、2001年に3社は新会社設立に合意した。加圧系を中心に製品ラインアップが広いア

イシン、制御系で特徴ある技術を持つデンソー、そしてキャリパ・パッドに特徴ある技術を持ち、

グローバル化で先行している住友電工が、各社それぞれの強みを生かした形で、2001年7月に日

本初のブレーキシステムサプライヤとしてアドヴィックスを誕生させた。

生産拠点の集約や社員の転籍まで一挙に実施するには難しい課題が多くあったことから、生産

はアイシン・デンソー・住友電工に残し、社員は出向形態のまま、まずは「開発と販売を担う

会社」としてスタートをさせた。

2) システムサプライヤとしての成果

アドヴィックス発足以来2007年まではT社の大増産(毎年50万台)が続き、当社はブレーキシ

ステムの技術面・供給面で貢献した。当社では毎年10%以上の増収が続き、親会社のブレーキ生

産事業の業績も順調に良くなっていった。

技術面では、専門メーカとして固有技術をブレーキシステムに存分に活かすことができ、一般

市場クレームの大半を占めるNV(ブレーキ鳴き等のノイズや振動現象)性能クレームを改善し

た。T社との新しい関係により、社内では、より総合的な技術開発に取組むことがやりやすくな

った。また、ハイブリッド車向けのまったく新しい技術である『回生協調ブレーキシステム』で

は、システム全体や車両を見ながら提案をすることで環境に優しい自動車市場の拡大に、

貢献できた。

ハイブリッド車の技術分野では欧米競合に対して技術面で先行することができ、ハイブリッド

車拡大により当社の売上げも増えた。

供給面では、T社のグローバル展開に伴い、ブレーキシステムのTier1である当社は海外でも

ブレーキシステムの供給ができる体制が必要となり、北米・アジア・中国に販社を設立した。し

かし、新興国では自社(親会社含む)のブレーキ生産拠点が少なかったため、競合する他のブレ

ーキ部品サプライヤからの調達にも取組んだ。これは当社が自前による生産に、こだわらず協業

及び外部調達と選択肢を広げて検討することを学ぶ機会となり、実務メンバーがグローバルに活

躍できる人材へと成長した。これは、後々当社が未経験の市場へ進出する際に大いに役立った。

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3) 会社構造面の課題

当社は、出向形態でスタートし勤務地も親会社各所に分散しているという難しい状況下で、今

まで互いに競争していた3社から集まった社員の一体感を何とか醸成しようと努力した。ひとつ

には、2004年7月に社屋を建設し、

全員ができるだけ同じ場所に集まれ

るようにした。続いて2006年には、

ONE ADVICSのスローガンの下、自

らビジョン作りに取組み、「ビジョ

ン2015」と「長期構想」を制定した。

しかし、期待したようには一体感は

高まらなかった。設立時に先送りし

た課題である生産拠点の集約や社員

の転籍なくしては、解決できないこ

とであった。2008年のリーマンショ

ックを機に、会社構造面の改善も進 写真 2-1 アドヴィックス本社屋

めることになる。

2.2 第一の正念場(2009~2012年)会社体質革新への取組み

リーマンショックの時期に日本の自動車事業は大きく変化していた。

まず、販売の面では、日本国内市場は縮小、先進国での販売は伸びず、増え続けるのは新興国市

場である(図2-2、3)。従って新興国の自動車に採用される製品を供給できない部品メーカは、

事業存続が難しくなっていた。

0

50

100

150

200

250

2000 2005 2008 2015 2020 2025

インド

中国

ブラジル・ロシア

主要先進国(含む日本)

米国

(100万台)

日経BPコンサルティング『未来予測レポート自動車産業 2011-2025』

図2-1 自動車国内生産・販売実績と予想 図2-2 自動車世界販売台数実績と予想

次に、市場が拡大している新興国では、50万円以下の車の販売が増加しており、「安くて良い

車」が売れる状況であった。このため、「現地で開発、現地で生産」をしないとコストで競合他

社に負けることになる。

― 116 ―

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0

100

200

300

400

500

'05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 '14 '15 '16 '17

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0EV

HV

普及率

万台 % 一方、先進国では顧客の環境・安

全技術に対する要求が高まっており、

環境技術の例となるHV・EV車の

販売は、図2-4の通り着実に増加し

ていくと予想された。

これら、自動車市場特有の変化に

加えて、超円高が定着することにな

り、国内での事業拡大は、非常に難

しくなった。

競争環境を見てみると、当社とシ

ェアを争っている欧米各社は、今後 (出典:東洋経済’12/5/12)

市場の大きな伸びが期待される新興

図2-3 HV・EVの世界販売予想 国をはじめ世界各国で、生産拠点ば

かりではなく開発拠点も、既に立ち上げていた。国内で開発を行い、売上げの多くを輸出に頼る

当社は、競合に比べ海外事業の基盤整備が大幅に遅れていた。当社がブレーキ事業を継続するた

めには、競合とのあらゆる面での時間競争に勝たないといけない状況であった。

これまでのように、事業の意思決定を行う時に、親会社との折衝が必要な進め方では、時間競

争に勝つための要素である重要な意思決定をスピーディに行うことや、タイムリーに資金を投入

することに、大きな支障がある。右肩上がりのビジネス環境ではなくなった中で、当社が自らビ

ジネスを運営する会社に生まれ変わらないと事業存続さえ難しいと判断した。これを当社が自立

化するための正念場(第一の正念場)と考え、次の3つの柱で進めた。

① 会社構造の大きな変更

経営面では、スピーディに経営を進める体制を整えるため、生産部門を社内組織として持つこ

とにし、2010年にアイシン精機の刈谷工場と住友電工の3工場、ASブレーキシステムズ(以下

ASBと略す)を当社に統合した。

人員面では、当社の従業員はほとんどが出向者で構成されていたため、価値観の共有や意志の

統一といった点で一体感のある組織とは言えなかった。

08年 09年 10年 11年 12年

出向者

プロパー社員

そこで、生産部門の移管に続いて、刈谷工場で働く従業員を含めてアイシン精機、デンソー、

住友電工から当社へ出向中の従業員の転籍

の実現に取組んだ。大企業である出向元か

ら転籍に同意してくれるメンバーがどれだ

けいるか不明ではあるが、一体感のある組

織になるためには、リスクを覚悟で実行し

た。「働く場がアドヴィックスにはいっぱ

いある」と夢を語り、結果的に多くの人た

ちの転籍が実現した。

図2-4 国内社員数の推移

― 117 ―

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② マネジメントの変更

グローバルに事業を展開し、会社全体が一体感を持って経営を進めるためにマネジメントの変

更に積極的に取組み、意思決定が迅速に出来るように変更をした。

従来は親会社の事業計画がベースであり、それを執行するために技術本部、営業本部など本部

制による組織運営を行っていた。本部長の権限は強力で、本部内の活動はスピーディに行える。

しかし、本部間の協業が図りにくく、全社一体で意思統一して進める場合には相応しい組織とは

いえない。そこで、重要な事項を会社のトップ層がチームとして話し合い、その結果を展開する

機能制の運営に変更した。これにより、部門横断での意思統一が進み、事業の展開が全社で行え

るようになった。

意思決定の面では「取締役会」の常勤取締役を定足に足るだけ増やし、かつ取締役会の開催頻

度も増やし、自らがスピーディに結論を出せるようにした。また、常勤取締役による「経営役員

会」を設置し、隔週で経営レベルの重要事項を審議し方向性を決定する経営の意思決定機能を持

った。これに伴い従来から開催していた執行役員会は、業務執行レベルでの報告とその審議・決

定行うなど機関に切替えた。尚、社長以下常勤取締役は毎週月曜日朝一番に集まって「月曜ミー

ティング」を開催している。これは、経営に関する事項を自由に話し合う場で、意思決定に至る

までのいろいろな情報交換や共通認識の確認など、常勤取締役会相互の一体感の醸成に効果的な

機関となっている。図2-6に概要を示すような会議体系で運営をしている。

取締役会

執行役員会

業務執行上重要事項の報告と審議・決定

審議会

全社的・専門的な視点による個別重要案件の審議・決定

全社監査

部方針・業務実施計画の説明及び指摘各部の業務実施状況の報告及び指摘

全部長に周知すべき重要事項の報告

部長連絡会

経営レベル

執行レベル

月曜ミーティング

経営トップの意見交換

品質に関する重要事項の審議・決定

品質会議

業務執行・運営の適正化とリスクの最小化に関する事項全社に関わる諸問題への対応に関する事項

委員会

労使懇談会

労働組合代表との意見交換

経営上の重要事項の審議・決定

経営役員会 取締役会

執行役員会

業務執行上重要事項の報告と審議・決定

審議会

全社的・専門的な視点による個別重要案件の審議・決定

全社監査

部方針・業務実施計画の説明及び指摘各部の業務実施状況の報告及び指摘

全部長に周知すべき重要事項の報告

部長連絡会

経営レベル

執行レベル

月曜ミーティング

経営トップの意見交換

品質に関する重要事項の審議・決定

品質会議

業務執行・運営の適正化とリスクの最小化に関する事項全社に関わる諸問題への対応に関する事項

委員会

労使懇談会

労働組合代表との意見交換

経営上の重要事項の審議・決定

経営役員会

図 2-5 会議体の概要

一方、良い意思決定には良い情報が必要である。しかしながら、日常の情報を収集、取り纏め

を行う情報システムは、親会社のシステムを借用しており、当社のニーズにあった情報システム

への変更が行いにくい状態であった。そこで、当社専用の情報システムを構築することにし、2012

年度に稼働させた。

取締役会

執行役員会

業務執行上重要事項の報告と審議・決定

審議会

全社的・専門的な視点による個別重要案件の審議・決定

全社監査

部方針・業務実施計画の説明及び指摘各部の業務実施状況の報告及び指摘

全部長に周知すべき重要事項の報告

部長連絡会

月曜ミーティング

経営トップの意見交換

品質に関する重要事項の審議・決定

品質会議

業務執行・運営の適正化とリスクの最小化に関する事項全社に関わる諸問題への対応に関する事項

委員会

労使懇談会

労働組合代表との意見交換

経営上の重要事項の審議・決定

経営役員会 取締役会

執行役員会

業務執行上重要事項の報告と審議・決定

審議会

全社的・専門的な視点による個別重要案件の審議・決定

全社監査

全部長に周知すべき重要事項の報告

部長連絡会

月曜ミーティング

品質に関する重要事項の審議・決定

品質会議

委員会

労使懇談会

経営上の重要事項の審議・決定

経営役員会

― 118 ―

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③ 営業リードの事業推進

当社は創業以来、T社向けのビジネスを開発部門が主導して展開し、売上げを伸ばしてきた。

しかし、リーマンショックを機に、営業リードの事業推進、すなわちT社だけではなく、世界の

顧客のニーズに応えられるグローバルな顧客志向に立ち返った進め方に切替えた。

リーマンショックを踏まえて、ビジョン2015の売上げ6000億円の達成時期は、2015年から2017

年に延ばさざるを得ない状況であった。計画の再検討にあたり、具体的に狙う市場を役員が全員

で議論し直し、新興国市場への拡販目標も定めたグローバルプラン(図2-7)を作り上げた。

開発部門では現地のニーズにあった製品開発を行えるように見直し、新興国にはコンパクト・

低コスト、先進国には環境・安全をキーワードにしたグリーンプログラムとして開発計画をま

とめた。この2つのプランを実現すべく、中国・インド・欧州に開発・営業部隊を展開し、新規

顧客と細やかな折衝をすることで、現地ニーズにあった製品を早く開発ができるようにした。

この新しい営業リードの体制で、拡販活動を進めた結果、これまで取引がなかった地域の顧客

とのビジネスを獲得できた。また、ドラムブレーキのように成熟した製品でも、世界市場での規

模と重要性を営業が展開することにより、海外市場や新機能付加による市場開拓により、売上の

大幅拡大の道筋が開けた。一方、客先と共同開発するスタイルだけではなく、客先のニーズを考

えた開発をする動きが出始めた。例えば、2輪用制御製品では市場のニーズを汲んで、全社で開

発期間の大幅な短縮に取組み、成功している。更に、生産拠点の整備や部品の現調化も中国を中

心に進め、2013年から現地生産が次々と開始している。

日本

北米中国

アセアン

インド

欧州

南米南ア

アフター

11年度実績 17年度目標グローバル連結目標

日本

北米中国

アセアン

インド

欧州

南米南ア

アフター

11年度実績 17年度目標グローバル連結目標

売上げ目標 6000 億円利益目標 300 億円

図2-6 グローバルプラン

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2.3 TQMの推進

1) TQM推進の狙い

当社では、2009 年当初より全社を挙げたTQM推進活動に取組んできた。推進に当たっては、

TQM活動を「経営目標を達成する企業体質の改革活動」と位置づけ、第一の正念場を乗り切

る活動を推進してきた。推進の狙いは、以下の 3点に関する活動を強化し、自己革新を継続でき

る企業になることである。

① 顧客ニーズと環境変化への的確な対応

② 組織能力の自己認識と持つべき能力の強化

③ 人を活かす(価値観共有、行動ベクトル合わせ、人材育成)

また、TQMの推進によって、具体的には以下のような効果を期待した。

① 環境の変化に対応したトップマネジメント層の戦略的な意思決定ならびに経営

活動の加速化

② 営業リードの活動を通して顧客ニーズにスピーディに対応できる企業体質への変革

③ カーメーカのニーズに即応した新製品が開発できる開発能力の強化

④ 営業、開発、生産機能など関連部門が一体となった活動をする意識の醸成

2) TQM推進のフレーム

体質革新へのフレームは(図2-8)のような体系になっている。自立した会社として継続的発

展を実現するために、トップダウンでベーシックな部分を作り変える。そのため、まず始めに、

利益を生み出す生産を統合し、働く人のスキームを変えていく。次に、組織とガバナンスを変え、

体質革新へのフレーム

4年間の活動

トップダウンで推進

「自ら稼いで、自ら投資する」自立した会社として継続的に発展する

1.会社構造の変更

・利益を生み出す生産を統合・働く人のスキームを変える

マネジメントの変更

・組織とガバナンスの変更・業務プロセスとそれを支える情報システムの構築

3.戦略・計画づくり

・グローバルプラン ・グリーンプログラム

5.企業価値の向上

・成功体験の積み重ねで自信をつける(人材育成)

2.マネジメントの変更

・組織とガバナンスを変える・業務プロセス/情報システムの構築

4.計画の実行

・将来を担う新製品の開発・営業リードの拡販活動・世界中で拠点の整備

全員参加で推進

体質革新へのフレーム

4年間の活動

トップダウンで推進

「自ら稼いで、自ら投資する」自立した会社として継続的に発展する

「自ら稼いで、自ら投資する」自立した会社として継続的に発展する

1.会社構造の変更

・利益を生み出す生産を統合・働く人のスキームを変える

1.会社構造の変更

・利益を生み出す生産を統合・働く人のスキームを変える

マネジメントの変更

・組織とガバナンスの変更・業務プロセスとそれを支える情報システムの構築

マネジメントの変更

・組織とガバナンスの変更・業務プロセスとそれを支える情報システムの構築

3.戦略・計画づくり

・グローバルプラン ・グリーンプログラム

5.企業価値の向上

・成功体験の積み重ねで自信をつける(人材育成)

5.企業価値の向上

・成功体験の積み重ねで自信をつける(人材育成)

2.マネジメントの変更

・組織とガバナンスを変える・業務プロセス/情報システムの構築

2.マネジメントの変更

・組織とガバナンスを変える・業務プロセス/情報システムの構築

4.計画の実行

・将来を担う新製品の開発・営業リードの拡販活動・世界中で拠点の整備

全員参加で推進

図2-7 体質改革へのフレーム

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業務プロセスと情報システムを構築する。このようにベーシックな部分を整えた上で、戦略と計

画を作って、全員参加で素早く実行に移す。そして、仕事での成功体験を積み重ねることで人材

が育ち、また、人・モノ・金のリソースが充実する。これらにより企業そのものの価値が高まっ

ていく。トップダウンで推進する部分を1年でやりきり、時間がかかる人材育成の部分を全員参

加で進める。このサイクルを4年間で廻すことを目標に進めた。会社構造の変更とマネジメント

の変更は、当社の体質革新の取組みの中でも特徴的な部分であり、生産統合をして転籍を実行す

ることは確たる勝算があって実行したことではなく、リスクを覚悟の上で決断した。結果として

うまくいき、体質改革のスタートが切れた。

3) 価値観共有のための活動

TQMを推進する上では、役員や社員がまず価値観を共有することが重要である。特に当社の

ように統合した会社ではなおさらであり、革新すべき組織能力像を明確にして共有しなければな

らない。価値観に関わるコミュニケーションを行う場として、経営層を対象に経営懇談会、事務・

技術部門の実務層には業務品質向上活動を行うことにした。また、全社の業務プロセス整備と

それを支える情報システムの構築に取組んだ。

① 経営懇談会

グローバルプランを実現する上で、経営層の意識改革が必要であった。役員を対象に事業推進

の最重点テーマを選び、年 3回の懇談会を実施した(表 2-1)。普段の社内会議では結論を得るこ

とが優先で、価値観や体質まで掘り下げて議論をする機会は少ない。そこで、選んだテーマにつ

いてあらかじめ検討した内容を報告したのち、全役員と社外有識者とで意見交換しながら、お互

いの価値観や体質を理解しあうという形式にした。懇談会では社外有識者の客観的な問いかけに

答えていくことを通して、当社の体質や強み・弱みがより明確になり、伸ばすべき力に役員自ら

が気づく場になるよう運営の配慮をした。

懇談会の第 1期では、役員を中心に会社全体の動きを共有してグリーンプログラムやグローバ

ルプランを促進することを意識したテーマを選んだ。例えば、第 1回では、変化の時代に対応す

るためには、自分達の見識に自信を持ち、これまで以上にスピード感を持って社内の意思決定や

お客様の説得を行わないと競合にキャッチアップできないことを再認識した。

第 2期では、技術・営業・生産・事業企画の常務役員・部長でチームを作り、製品別に「歴史

と今後について」の議論を行った。懇談会を通して、製品について種々の視点から議論すること

で、課題の認識が共有され、経営判断を行うための共通認識がさらに深まった。

表2-1 経営懇談会でのテーマ

回数 日付 テーマ第1回 2010年5月31日 グリーンプログラム、海外調達、グローバル品質第2回 2010年9月15日 会社全体の俯瞰第3回 2011年3月2日 年度方針第4回 2011年6月15日 マスターシリンダーの歴史と今後第5回 2011年11月23日 制御製品の歴史と今後第6回 2012年2月18日 寒冷地テストと客先プレゼンテーション第7回 2012年6月21日 足回り製品の歴史と今後

1期

2期

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例えば、アイシン精機から刈谷工場と生産技術部を取得したが、第 4回では、刈谷工場の主要製

品であるマスタシリンダを対象に議論した。製品だけではなく、刈谷工場の歴史と今後について

役員間で共有する非常に効果的な場となり、生産技術の強みと、海外展開における課題を理解し

た。第 6回では、お客様へのアピールの場である寒冷地テストにて、当社のプレゼンテーション

に関して懇談した。普段ブレーキについて話をしている専門家同士であれば理解できる内容であ

るが、新たなお客様にアピールするには専門家以外にも売込みが可能なプレゼンの工夫が必要と

の認識を得た。

② 業務品質向上活動

業務品質向上活動とは、2010 年から本社若手を対象に始めた小集団活動である。当社の年齢

構成を見ると若手が多く中堅が少ないので、若手の早期育成と中堅の指導力向上をねらって、

この活動を始めた。TQM推進部が全社統一のテーマや方針を細かく規定して縛るのではなく、

各部長が部の人材育成のニーズを考え、育成ポイントを決めた上でテーマや運営を工夫するよう

に進めている。

一方、部内で行っている発表会に社長が参加し、

発表内容について、社長がどのような思いでいるの

を語りかけている。発表者は自分が取組んだ内容に

ついて、社長が話をしてくれる機会となり、大きな

動機付けにもなっている。

社員の転籍を進めるだけで、価値観の共有や、ベ

クトル合わせが進むわけではない。トップと第一線

とが、このように対話を行う機会を大切にしている。

写真2-2 社長を交えた部内発表会 ③ 自前の情報システム構築

3 社の製品や拠点を合体したことから、3 社の既存プロセスやコンピューターシステムを流用

して業務をすすめていた。そのため、当社の業態に合わせた管理データの作成・変換に大変苦労

していた。そこで、2010 年に生産機能を持つことに併せ、全業務プロセス・管理項目/基準を見

直し整備して、それを支える自前のコンピューターシステムを構築することにした。情報システ

ムを構築する際にTQM推進として付加したねらいは次の通りである。

・業務プロセス全体の課題を洗い出す良いチャンスにすると同時に、社員が会社業務の全体

を部門横断で理解する人材育成の場にした。特に生産部門を新たに保有することで業務の

幅が広がることの理解を助けた。

・情報システムの自前化後、経営者が現場の最前線のデータを迅速に把握できることも目的

にした。これにより、トップと現場のコミュニケーションを高め、迅速な経営判断と日常

業務の改善が同時に進むようにする。

以上は、業務プロセス改善と上司部下・部門横断のコミュニケーションに関わるTQM活動の

一環であり、全社が深く関わることから「アドヴィックスシステムビジョン 2012」と命名し全

社プロジェクトとして推進した。プロジェクト推進の会議では、社長を始め全ての関係役員から、

実際にデータを扱う現場の社員までが、実際のデータを前にして目的を共有し意思疎通すること

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を重視した。

2013 年 3 月に自前の情報システムが稼動し、社員の業務プロセスへの理解も深まった。

生産機能を含めた業務プロセスが整備され、そのプロセスに適した情報システムが構築できた。

そして、プロセスとシステムに精通した人材が育成でき、今後の改善のベースが整った。現在は、

グローバル展開を見据えて第二期の情報システム構築に取組んでいる。

3)TQM診断とデミング賞受審

第一の正念場を乗り切るための体質革新活動を実施してきたが、当社の活動が適正であるかを

外部の方に診断していただき、改善点を明らかにするため、2012年11月にTQM診断を受けた。

TQM診断の結果、診断委員からは、リーマンショックを契機として実施した活動により、国

際競争力強化という方向性に対して、TQMが全社的な一体感を醸成しながら実施され、大きな

成果をあげつつあると評価された。そして、今後強化すべき事項として、以下の意見を頂いた。

① 開発・営業・事業企画・生産が一体となったグローバルな事業展開に対応した資金面の確

保や計画変更をフレキシブルに行えるようなマネジメント。

② 扱っている製品の社会性を考え、会社のブランド力の向上ために、CSRを積極的に実施。

③ 経営目標・戦略を具体的に展開した活動を適正に評価できる評価指標の検討。

当社では、企業環境の大きな変化に的確に対応するため、体質改革を進めている。これを達成

するためTQM活動を継続的に推進しているが、その活動を経験が豊富な識者に審査を受け、意

見をいただくため、デミング賞に挑戦した。

当社のTQM活動は、グローバル化の急進という環境の中で、これに迅速に対応するための諸

活動として実施している。デミング賞への受審活動と経営活動とを一元化して実施することによ

り「顧客ニーズと環境変化への的確な対応」「組織能力の強化」「人を活かす」活動を加速でき

た。

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3 方針管理

3.1 方針展開の仕組みと運営

当社は、ビジョンに基づいて、グローバルプラン

グリーンプログラムを中核とした長期経営計画を策

定しており、その実現に向けて毎年度、具体的施策

を年度会社方針に落としている。毎年度初めに、前

年度会社方針の達成状況を振り返り、事業環境の変

化を加味し、社内取締役全員が議論を重ねて、ビジ

ョン・長期経営計画に向けた新年度方針を立案する。

正式には取締役会での承認を経て、部長連絡会など

写真 3-1 全社監査の状況 での社内展開を実施している。新年度方針を受け、

各部方針を策定する一方で、新年度利益計画の策定も進め、資源配分の意思決定につなげている。

年度会社方針に基づく業務執行状況

部 方 針

業務実施計画

経営理念

ビジョン

環境分析

長期経営計画

年度会社方針

年度利益計画

予 算

実 施

実行計画

年度目標実績業務実績報告

全社監査

予算実績

部 方 針

業務実施計画

部 方 針

業務実施計画

経営理念経営理念

ビジョン

環境分析

長期経営計画

年度会社方針

年度利益計画

予 算

年度利益計画

予 算

年度利益計画

予 算

実 施

実行計画実行計画

年度目標実績業務実績報告

全社監査

予算実績

を確認する仕組みとして、執行役員会

での月度報告に加えて、全社監査を年

2 回開催している。全社監査では社内

取締役全員が監査団となり、各部長の

部方針及び業務執行状況を監査する。

この監査は社内取締役と各部長との直

接のコミュニケーションを促進する狙

いもあり、実効を上げている。

全社監査終了後、各部が部方針をよ

り詳細な業務実施計画に落とし込み、

室・グループ・個人へと展開し、最終

的には個人の目標管理につなげる。10

月の全社監査では、上期の執行状況を

確認するが、大きな残課題や環境変化

があれば部方針を見直すこともある。

図 3-1 方針管理の仕組み

3.2 グローバルでの方針管理

連結マネジメントの一環として、海外子会社でも方針管理体制を確立している。各海外子会社

は、年度初めに、日本本社と同様、長期経営計画に向けた新年度方針を立案する。海外各社の新

年度方針は、新年度利益計画とともに、日本本社の役員が非常勤役員となっている海外各社の取

締役会の中で提案され、承認される仕組みとしている。連結経営上、日本本社の方針との連携が

重要となるため、現地出張かテレビ会議を活用した直接コミュニケーションでの取締役会開催と

している。2013 年度からは、会計年度をグローバルに 4月スタート・3月決算に統一するが、こ

れにより会社方針・利益計画の連結での同期化も実現するため、より効果的な方針管理として運

営していく。

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4 事業企画活動

4.1 背景

会社設立以降事業企画部門は、開発・販売会社というスキームの下、急増する受注案件への対

応や開発方針の意思決定、全社予算を含めた管理体制など、システムサプライヤとしての会社の

仕組みづくりや親会社、仕入先との調整を担っていた。

体質改革の動きにより2010年に開発・販売から生産までの一貫体制を整え、自前リソーセスに

よる事業構造へ移行した。事業企画部門の役割は、全社共有の目標となったグローバルプランを、

実現可能なプランとして成り立つように他部門をリードすることに変わった。そして、長期目標

を達成すべくリソーセス(人材・投資)の配分を企画して次の3点を重点に取組んだ。

① グローバルな事業展開の迅速な実践

・ 新興国を中心とした海外事業拠点の整備

・ 競争力確保に向けた現地生産化

・ 国内市場の縮小を見据えた国内生産の再編

② コスト競争力の強化

・ 製品仕様の最適化と、現地調達の拡大

・ ローカルサプライヤの発掘とTier2コントロールの強化

③ 収益体質の向上

・ 必要な資金を自ら稼ぐ収益体質の確立

4.2 実施状況

1)グローバルな事業展開の迅速な実践

2008年 2014年

日本

北米

中国

アセアン

欧州

インド

南米

南ア

開発 販売 生産●開

■販

◆生

●開●開

■販

■販■販

■販

■販■販■販■販■販■販■販■販

◆生

◆生

●開●開●開

●開●開

①海外事業拠点の整備

2008年当時の当社の拠点整備状況は、日本・北米・

中国・アセアンの事業拠点と日本・北米の開発拠点の

みで、欧州メガサプライヤに対し大幅に不足している

状況であり、グローバルプランを踏まえて新興国を中

心とした海外事業拠点の整備を進めた。

受注拡大が見込める中国では、生産拠点の増設に際

し、リスクを考慮して台湾企業との合弁や中国内で資

金を回すことを考えた。また、市場が伸びるアセアン

においても保有資金の範囲で再投資することを考えて

生産拠点の企画を進めた。今後新たに受注を目指す新

図 4-1 海外事業拠点の整備状況 規進出地域では、Tier2への生産委託による投資負担の

軽減やグループでの効率的な拠点運営を踏まえて、スリムな体制でスタートすることにした。

同時に、中国・欧州・インドに開発拠点を設け、お客様ニーズをタイムリーに反映した製品の

開発・提案ができる基盤づくりを進めた結果、欧米やアジアで新規得意先に参入する事ができた。

現在計画中の新拠点を含め、図4-1に示すように短期間でグローバル事業拠点が確立できる見

通しである。これらの新拠点を確実に立ち上げるために、2012年に海外事業推進部を設立し、会

社設立から生産準備、事業性の早期確保に向けてプロジェクト活動で取組んでいる。

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② 現地生産化

「小さく生んで大きく育てる」を基本的な考え方で、海外事業拠点の整備と、主要製品の現地

生産化に取組んだ。制御製品は、投資規模も大きく、高い技術・品質が必要になる。グローバル

での拠点整備は一度に行わず、日本・北米・中国・アセアン4極で効率的な生産を目指し、中国

とタイでの現地生産化を段階的に進めている。BMCとキャリパについては、受注量を踏まえて内

製生産する地域と投資リスク回避を狙いにTier2を活用する地域に層別して計画を策定した。BMC

のスリムM/Cは、メンテナンス性と投資低減を踏まえて汎用設備で工法を確立させ、北米を頭出

しにタイ・中国の現地生産化を進め、インドへの展開を計画中である。

③ 国内生産の再編成

国内外の受注と生産能力のバランスを

豊生ブレーキ

ASB三重

アイシン半田

生技・事務スタッフ

ASB伊丹

ADS刈谷

生産の効率化 新技術・新製品内製化

制御マザー工場化

海外拠点

(現地生産化)

ADS本社

念頭に、図4-2に示すように現地生産化で

減少する国内工場へは、キャリパ一体EPB

や制御の新製品を投入する一方で、他拠点

と重複生産しているASB三重の製品を2012

年に移管・閉鎖し、生産効率を高めた。

合わせて、ASB三重のスタッフの異動により

人材の有効活用を行い、刈谷工場を制御

図 4-2 国内生産の再編成 製品のマザー工場化につなげる企画を進めた。

2)コスト競争力の強化

2010年7月に製品知識が豊富な技術部メンバーを加えたG-CI(グローバル・コスト・イノベ

ーション)推進部を設立し、新興国向けコンパクト車製品の原価低減活動を中国から取組んだ。

競争力強化には調達力の強化が鍵と考え、技術部・品証部を加え機能横断的に構成したキャラバ

ン隊による新規サプライヤの開拓を進めた。現地調達率の目標は達成したが、高く設定したコス

ト目標は未達で、2013年に海外部品調達室を設置しローカルサプライヤ探索に取組んでいる。

3)収益体質の向上

「必要な資金を自分で稼ぐ」を念頭に継続的な事業の発展を目指し、高い利益目標を設定して

活動を進めている。必要投資を踏まえて策定した長期利益計画を基に、チャレンジ目標を加味し

た年度予算計画を展開している。そして、毎月々の実行検討会や海外拠点との運営会議で、業務

進捗のフォローとタイムリーなアクションを実施し、その結果、2012年度は長期計画を超える売

上、利益を出すことができた。

4.3 今後の進め方

2017年の目標達成には、海外での利益確保が鍵である。海外生産体制の強化とグローバルな最

適調達活動、及び地域統括制によるリスクマネージメントの強化を図り、資金・人材の効率的な

地域内運用や、製品・部品の拠点間相互補完などを進め、海外拠点の体質向上を図り、地域軸で

の最適な事業展開を進めていく。また、情報システムを拡大し、グローバルな経営指標の見える

化を図って、迅速な施策を展開することで収益体質を確立し、グローバルプランを達成する。

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5 開発活動

5.1 ブレーキシステム開発の取組み

当社はブレーキ製品の開発に留まらず、ベンチマーク・市場調査に基づくブレーキシステムの

企画から、コンポーネント開発、評価、また車両での適合までを一貫して行なえるブレーキシス

テムサプライヤとしての能力を持っている。

ブレーキシステム設計では、まず車両に応じたブレーキの効きなどの基本設計を行い、その車

に使われるコンポーネントの設計、開発を行う。またブレーキ時のフィーリング、車両運動性能

の作込みには、車両での適合・評価は重要な技術である。そのため、車両シミュレーションやコ

ンポーネントの現象解析などのベンチで評価している。更に、実際の車両を用い、世界各地の様々

な路面を模擬した評価コースにおいて、ユーザーの色々な走行を想定し評価・適合を行い、短期

間でお客様の要望・ニーズに適応した性能・フィーリングを作込んでいる。

図 5-1 ブレーキシステム開発の取り組み

5.2 活動状況

1)環境変化を見据えた開発戦略検討

当社は、世界に先駆けてESCを市場に投入して以来、この技術を核に、安全・安心の提供を

第一に開発を進めてきた。しかし、リーマンショックは、車を取巻く環境を大きく様変わりさせ、

当社が経営を進める面で大きく 2つの変化があった。

一つ目は、ガソリン価格の高騰や環境保護への配慮を背景にユーザーの低燃費志向が強まる中、

ハイブリッド車や電気自動車など環境対応車が急速に増加することが予想された。

二つ目は、先進国から新興国へ市場がシフト、国内でも軽自動車などコンパクト車の増加が続

いていたことである。開発部門では、このコンパクト車への小型、軽量で、低コストな製品開発

が必要と考えた。

そこで、「環境」「安全」に、「コンパクト」を加えた三つのキーワードを新たな開発ドメイン

― 127 ―

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として、2015 年に向けた開発活動を、“グリーンプログラム”と名付け、活動を開始した。活動

のポイントは、①開発ドメインの変更、②製品開発期間の短縮・市場投入時期の早期化、の2つ

である。

2)グリーンプログラムでの開発例

① 環境

ハイブリッド車において重要な技術は、車の減速エネルギーを電気エネルギーとして効率よく

回収する回生協調ブレーキシステムである。当社はT社と共同で世界で初めて回生協調ブレーキ

システムを量産化し、技術経験、市場実績は世界トップレベルである。

しかし、グローバルプラン実現に向けて、普及拡

I車(協調制御なし)

コストアップ指数

協調制御時の 燃費向上率

図 5-2 2 つの回生協調 ブレーキシステム

大が予測されるさまざまな種類のハイブリッド車に

適応できるシステムの開発が必要と考え、燃費効率

とシステムコストのバランスを考慮した二つの回生

協調ブレーキシステムを開発する戦略を立てた。

その中で特に低回生量ハイブリッド車向けのシス

テムは、当社の独自技術であるギアポンプの特長を

生かし、搭載性に優れた世界初のESCを活用した回

生協調システムとして量産化を実現した。

② コンパクト

2009年までのアドヴィックスは、高級車の機能開発を得意としており、ベーシックな基本機能

のみの小型車むけの製品には充分な開発資源を投入していなかった。拡大対象市場が先進国から

新興国に変化していく中、更なる事業拡大を目指すためには、小型車市場でのシェア拡大が必須

である。グリーンプログラムでは、高級車仕様をベースとした従来製品群では達成は困難と判断、

従来設計を超えたスリムなベーシック製品群の企画をスタートさせた。

BMCにおいては、従来軽自動車から大型車両まで同一の構造とする事で量産効果を出してきた

が、本活動では軽自動車をターゲットに仕様特化した企画をスタートさせた。開発のポイントは、

質量、大きさ、コスト低減を目指し材料、構造、部品形状の簡素化、また、海外生産も意識した

組付け性の改善の2点である。特に、軽量化においては、ボデー板厚の低減、構造の簡素化など

により、世界最軽量を目指した。こうした活動の結果、軽自動車におけるシェアを従来の2倍で

ある70%まで伸ばすことができ、この新シリーズをベースに新興国市場向けの品揃えの拡充を行

い、中国、タイ、インドでの現地生産化を進めている。

3)開発のスピードアップ

① 実行サイクル改善

次に開発活動のスピードを上げるための、開発活動の実行サイクルの改善について説明する。

※回生協調ブレーキシステム ハイブリッド車や電気自動車など電気モーターを駆動力源とする自動車において、モーターで発電することにより制 動力を発生させるブレーキである。制動時には、油圧式ブレーキと分担して減速する。この分担割合は、ドライバー が普通のブレーキと同じように感じられ、かつ、エネルギーの回収が最大となるように、バッテリーの充電状態や速 度・減速度などによって変更する。

タイプⅡタイプⅠ

P車(高回生量システム)

I車(協調制御なし)

コストアップ指数

協調制御時の 燃費向上率

タイプⅡタイプⅠ

P車(高回生量システム)

I車(協調制御なし)

コストアップ指数

協調制御時の 燃費向上率

タイプⅡタイプⅠ

P車(高回生量システム)

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開発活動では毎年、開発方針を定め、開発テーマフロー、各部の実行計画、開発体制の見直しを

行っている。開発テーマの進捗状況については、副社長、技術役員を入れた検討会、報告会など

により迅速な判断、意思決定を行い、製品系列毎に技術系役員が開発状況を毎週チェックするな

どのPDCAのサイクルを回している。

② 製品開発期間の短縮

新規テーマの開発着手については、全社でオーソライズする開発企画審議会を設け、また他部

門との連携強化を図る連絡会などを設定し、全社をあげて開発期間の短縮化活動を推進している。

まず営業部門とは、「営業×技術連絡会」により顧客ニーズ、車両開発日程などを共有し、製品

の市場投入時期、コストなどの目標設定を行っている。事業企画部門とは、製品系列別に事業定

例会を開き、目標原価の作り込みをしている。生産部門とは、生産×技術連絡会にて、設計と生

産技術間の相互の要望のすり合わせなど、開発と生産準備を同時進行させるSE活動を進めている。

2輪専用ABSの開発において、当初は通常の開発期間で企画を進めていた。しかし、営業の情

報から、顧客ニーズに応えるためには、大幅に開発期間を短縮することが必要と判断し、全社体

制で短期開発を目指した。まず開発スタート時にモックをつくり、顧客や関係者との意識合わせ

を行い、開発企画審議会を通して全社の共同体制を整えた。新しい接続技術を導入するにあたっ

ては、設計から生産技術部に人を出向させ、開発と生産準備を同時開発するSE活動を行った。更

に、開発状況を、連絡会の場で課題をフォローするなどして、開発期間を従来の半分で量産化に

結び付けた。

5.3 活動の成果と今後の進め方

グリーンプログラム活動を通して、開発部門の組織能力、技術力が向上した。

組織能力面では、顧客ニーズにあった商品をタイムリーに提案できる能力が向上し、世界初、

世界Topレベルの製品の開発提案ができるようになってきた。今後も、顧客のニーズを先取り

した製品・システムの開発を行い、魅力あるシステムを継続的に提供していく。

技術力について、特許で当社のレベルを見ると、出願件数及びその有効性において、ソフトウ

ェアを含む加圧・制御・足回りの分野において、カーメーカに匹敵するポジショニングを確保し

ている。当社の技術力を支える人材も着実に育ってきている。

OEM T社

アドヴィックスOEM N社

OEM FH社 競合 C社

競合 B社

競合 HT社

OEM H社

競合MD社

競合 TR社

OEM MT社

OEM M社競合N社

OEM R社

OEM I社

:グループ会社

OEM D社

:競合部品サプライヤ

:カーメーカ(OEM)

今後は、こうし

た自社のポジショ

ニングを明確にす

ると共に、設計者

の発明に対する意

識付けと強化ポイ

ントを明確にし、

市場動向を見越し

た新機能分野での

技術開発を強めて

いく。

図 5-4 車両運動制御特許 総合力競合分析

(2013 年 ㈱パテント・リザルト社調査

― 129 ―

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6 営業活動 6.1 背景

2001 年の会社設立以来、グローバルブレーキシステムサプライヤとして、T社を中心とした

システム受注などにより売上高は順調に拡大した。またT社以外の国内外の一部のカーメーカに

おいても、システム受注や特徴のある差別化商品などを武器に新たな拡販が実現できた。しかし

ながら 2008 年のリーマンショックは、我々のビジネス環境に大きな変化をもたらした。営業部

門では、この市場環境の大きな変化に対応し、顧客志向のグローバル拡販の実現に向け、全社の

行動ベクトルを合わせた「営業リード」の拡販活動に取り組んだ。

6.2 営業リードの拡販によるグローバルプランの達成を目指して リーマンショックや急激な円高は、車両生産の大幅な減少や新興国を含めた海外生産の進展を

もたらし、また世界戦略車では、効率化を狙った全世界での量を束ねる「バンドル発注」の増加

をもたらした。一方、市場の求める製品は、「安全、環境、快適・利便」への対応商品、新興国

を中心に需要拡大が期待されるコンパクトカーへの対応商品であった。

このようにグローバル化が加速する厳しい環境の中、2010 年に、会社は達成年度を 2017 年と

するグローバルプランを策定し、全社を挙げてこの達成に取り組むこととなった。営業部門は、

このグローバルプラン売上目標 6000 億円の達成に向け、地域別目標を明確にし、1.新規顧客

を開拓し、拡販の畑をつくる、2.新技術・固有技術で拡販、3.市場ニーズ/変化を捉えた拡

販、の 3点を拡販活動の基本と定めた。そして全社で定めたグリーンプログラム商品を拡販の「戦

略アイテム」として、市場・顧客ニーズを的確に吸い上げ、グローバルな視点で販売時期、商品、

地域、価格、数量などを全社に提示して全社一体活動としてグローバル拡販を推進した。特に海

外顧客や新顧客の開拓に際しては、顧客の困り事や要望を把握した迅速な改良提案や、各顧客に

向けた専用商品の売り込み活動を強化。また統合した刈谷工場をマザーとした現地生産計画の訴

求によるバンドル発注への対応や新興国での拡販活動を推進した。

2010 年より新設された「販

売計画審議会」の場では、営

業部門の中長期の活動方針・

活動方策について全社のコン

センサスを取り、これを年度

方針に反映。営業各部の具体

的な活動計画を「拡販テーマ

活動進捗表」に落し込み、月

度の「営業部門運営会議」に

て状況を把握、迅速な課題対

応と活動活性化に取り組んだ。

また「営業×技術連絡会」では、 図 6-1 営業活動のフォロー体系

技術部門とグリーンプログラ

ムを中心とした売込み活動のベクトルを合わせ、情報・課題の共有化で解決策を立案。そして「受

注審議会」に加え、2009 年から新設した「受注検討会」では生産部門を中心とした関連部門と受

― 130 ―

Page 24: Ⅱ 株式会社アドヴィックス...ADVICS North America ― 112 ― 3) アドヴィックスと関連する会社 社内生産、グループ会社以外にアイシン精機を始めアイシングループ各社、デンソーなど

注に向けた意思を統一し、全社を牽引した拡販活動を推進した。

6.3.活動の結果

「営業リード」のグローバル拡

販活動の結果、売上高目標 6000

億円に対しテーマ充足は完了し、

2010 年以降の 3年間の新規拡販は、

630 億円を見込めることとなった。

海外売上比率、T社外売上比率も

ほぼ目標を達成できる状況である。

グローバル拡販では、グローバ

ルバンドル車などの受注により、

新興国市場のインド、南米、南ア

等新たな拠点設立の目処をつけ、

拡販の橋頭堡を構築することがで

図 6-2 地域別充足状況 きた。地域別目標に対しては、ア

セアンをはじめほぼ充足しているが、中国市場は売上目標に対して大きく未達の状況である。中

国以外の地域の売上を更に伸長させると共に、今後も中国は最重点市場として拡販に取り組んで

行く。

環境対応商品では、技術力を訴求する中で顧客ニーズにタイムリーに対応した活動により回

生協調ブレーキシステムの受注が拡大。差別化商品では、独自技術を活かした足回り、及び制御

製品で欧州、北米、韓国の海外顧客への新規参入が実現した。特に自動車先進市場である欧州で

は、実車試乗による困り事解決など、現認による技術力の訴求で新規参入を果たし、今後の欧州

事業の起点を築くことができた。安全対応商品では、顧客ニーズに即応した 2輪専用制御商品の

商品化で 2輪ビジネス拡大の目処づけができた。なお、この期間の新規顧客開拓数は 13 社とな

り、2017 年までに取引を開始することとなる。

6.4 今後の進め方

今後も生産、販売のグローバル化は益々進展する。売上目標 6000 億円を確かなものにする為

に、「営業リード」で拡販テーマを確実に受注につなげ、グリーンプログラム商品の更なる市場

拡大に取り組んでいく。

地域別取組みでは、重点市場である中国市場において、民族系、外資系に対しトップ交流も

含めた人脈拡大で人的つながりを深め、加えて製品展示会や試乗会で体感させる現地現認活動に

より受注につなげて行く。また日本車が強いアセアンやインドでは、日本で培った信頼感やシス

テム開発力、技術力を武器に、開発効率の訴求、現地生産基盤の拡充で受注拡大を狙っていく。

また商品力強化に向けて、技術、価格、競合などの情報収集と分析を強化し、将来を見通したタ

イムリーな提案を社内に展開し、衝突回避に代表される予防安全技術の商品化などの新たな将来

テーマの探索に取り組んでいく。

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7 生産活動

7.1 背景(生産部門のスタート)

2010 年 4 月に刈谷工場とASB3工場の移管を受けて当社の国内生産部門の歩みが始まった。

これまで刈谷工場はアイシン精機 12 工場の一つとして生産の維持や生産性の向上に取組んでき

た。移管後も基本的な活動としてTPMやTPSあるいはQCサークル活動などを推進しながら

着実に体質強化の活動を進めている。

また生産技術部もアイシン精機の生産技術部から移管され、刈谷工場と連携して生産準備活動

に取組んでいる。移管後はASBとより強固に連携し、従来の加圧系や足回り系に加えて高付加

価値製品である制御系製品への対応を進めている。

7.2 グローバル生産への対応

生産部門の新しい大きな役割は、グリーンプログラムに沿った新製品の安価なコスト実現と

グローバルプランに準じた海外生産拠点の円滑な立ち上げである。この役割を果たすため、次

の 3点を柱として世界をリードする生産体制の構築を進めている。

1) 儲かる新製品にしていく ・SE活動の強力な推進

・世界で勝てる新技術・新工法の開発

2) 海外拠点の自立化を進める ・既存拠点の自立化

・新拠点の円滑な立ち上げ

3) マザーとしての刈谷工場の ・もの造り改革による収益体質の改善

体質強化 ・もの造りの基本となる生産基盤の継続強化

(安全、品質、活性化、人材育成)

1)儲かる新製品にしていく

【SE活動の強力な推進】

従来から造りの工程の Gate(節目管理)として、生産検証(PV)を軸にSE活動を実施す

ることにより、設計と綿密な連携をとり、より造りやすい図面に変えてきている。

さらに、SE活動をこれまでよりも前の構想図の段階で設計・生技が共同で活動するように

させ、プロジェクト審議会や仮工程計画検討会を追加して、工程 Gate を充実させてきた。ま

た、フロントローディングさせた活動から抽出した具体的な課題を早期に実証し解決するため

に、試作のできる環境作りと、人材育成を行っている。

これらの活動は、BMC の大幅な原価低減や、制御製品の新工法の具現化に結びついた。

工程計画

研究フェーズ 開発フェーズ 量産確認フェーズ

PV32PV31

DR30DR20DR10構想図商品戦略

設備計画 工程整備フロントローデイング

仮工程計画検討会

プロジェクト審議会

設計設計GateGate

工程工程GateGate

図 7-1 生産準備基本業務プロセスの見直し

― 132 ―

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生産性の極限追求と商品の魅力拡大に貢献する工法開発  生産性の極限追求と商品の魅力拡大に貢献する工法開発  

生産の革新に向けた活動生産の革新に向けた活動

品質・製品機能革新に向けた活動

品質・製品機能革新に向けた活動

-

生産の革新に向けた活動

品質・製品機能革新に向けた活動

品質・

機能

品質・

機能

劣 優

世界No.1   の   商品づくり

2009

2012

2015

CO2低減(環境)CO2低減(環境)

機能向上機能向上

品質・生産性向上品質・生産性向上

炉体断熱強化炉体断熱強化

廃熱回収バーナ廃熱回収バーナ

熱処理レス化熱処理レス化熱処理レス化

高速熱処理高速熱処理高速熱処理

外観検査自動化外観検査自動化外観検査自動化

バリレス型バリレス型

オール電化鋳造機オール電化鋳造機オール電化鋳造機

ゴム部品高速組付ゴム部品高速組付ゴム部品高速組付 高速溝加工高速溝加工高速溝加工

1ショット溶解1ショット溶解1ショット溶解

刃具寿命N倍刃具寿命N倍刃具寿命N倍

高L/D高速加工高高L/DL/D高速加工高速加工高速アルマイト高速アルマイト 高速Znめっき高速高速ZnZnめっきめっき

B/B粉体塗装B/BB/B粉体塗装粉体塗装

高精度ギア成形高精度ギア成形高精度ギア成形

塗型レス塗型レス塗型レス樹脂接合樹脂接合樹脂接合

1パス高速加工1パス高速加工1パス高速加工

高速リーク検査高速リーク検査高速リーク検査

ハンダレス接合ハンダレス接合ハンダレス接合

交差孔バリ取り交差孔バリ取り交差孔バリ取り

内径溝自動検査内径溝自動検査

超高速相対切削超高速相対切削超高速相対切削

内径鋳巣自動検査内径鋳巣自動検査

鋳造・成形多数個取り鋳造・成形多数個取り

専汎分離金型専汎分離金型

極狭加工機極狭加工機極狭加工機

世界世界No.1No.1商品に向けた先行開発ビジョン商品に向けた先行開発ビジョン  

生産性・コスト

生産の革新に向けた活動

品質・製品機能革新に向けた活動

【世界で勝てる新技術・新工法の開発】

抜本的にコスト構造を変えるために世界

No.1商品づくりの技術課題を整理して、

新技術・新工法の開発に取組んでいる。

具体的なテーマとしては、「生産の革新」

に向けた高速化や「機能の革新」である制

御製品の新工法に取組み、その技術の手の

内化を進めている。

そしてこれらの技術は、ダントツ工場を

実現するための「1/N 化活動」へ活用して

図 7-2 世界 No1 商品に向けた先行開発ビジョンおり、高付加価値製品の内製化の加速、拡

大につなげている。

また、これらの活動を支えるためには、強力な現場力が必要であり、そのために生産部門の

力を結集した夢工房『匠』を誕生させて製造技術に磨きをかけている。『匠』の取組みは刃具の

再研磨技術を応用した内製化からスタートし、現在は技術・技能のプロ集団育成を図っている。

こうした技術・技能を活かし、新製品開発における開発試作の自前化に取組んでいく。

2)海外拠点の自立化を進める

マルチ人材育成 業務プロセス改善

1.業務フローから必要知識の明確化

2.必要技術の明確化

◇業務のスリム化

標準化

ムダな業務の改善

◇海外機能人員スリム化

教育のシナリオ

づくり

◇最少人数の駐在員で工場運営準備・マルチ人材育成マルチ人材育成、業務プロセス改善業務プロセス改善

開始(’12~)

マルチ人材育成 業務プロセス改善

1.業務フローから必要知識の明確化

2.必要技術の明確化

◇業務のスリム化

標準化

ムダな業務の改善

◇海外機能人員スリム化

教育のシナリオ

づくり

◇最少人数の駐在員で工場運営準備・マルチ人材育成マルチ人材育成、業務プロセス改善業務プロセス改善

開始(’12~)

【既存拠点の自立化】

海外既存拠点が真に自立化していく

には、世界中の拠点が共通の考え方を

理解し、自己評価ができ、改善まで行

えることが必要である。

そこで、『工場基本要件(あるべき姿』

を明確化して海外拠点に展開し、この

工場基本要件と現状のギャップを明確に

図 7-3 マルチ人材育成 するアセスメント活動を推進してきた。

今後は、グローバルでの造りのベンチマーク推進と体質改善活動の展開、アセスメント活動定

着と改善推進、そのフォローに取組んでいき、真のグローバル化を目指していく。

【新拠点の円滑な立ち上げ】

新拠点の立ち上げ準備については、建屋建設、工場内のレイアウトの順で進めて、工場設立手

順のパッケージ化につなげている。また、グローバル競争に打ち勝つためには、最少人数の駐在

員で現地工場運営を行っていく必要があり、人員のスリム化を狙った「マルチ人材の育成」や業

務のスリム化を狙った「業務プロセスの改善」を進めている。これらの活動を支える組織として、

2012 年より工場管理部内に「グローバル生産推進室」を新設し、この活動をリードしている。

3)マザーとしての刈谷工場の体質強化

【もの造り改革による収益体質の改善】

刈谷工場の収益体質は、着実に改善されてきているが、既存製品は現地生産化で今後は

売上げが伸びない中で更なる体質強化が必要であり、高付加価値新規製品の投入も必要となっ

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ている。

10 11 12 13 15

売上

利益

計画 計画

そこで、「ものづくり改革活動」として次の 3項目

を重点に活動を展開している。

(Ⅰ)限られたスペースで最大の付加価値を創出

(Ⅱ)工場の課題解決のための生産技術力の強化

(Ⅲ)もの造り原点探求による圧倒的競争力を創出

この活動の成果により得られたスペースは新規製品

に充当しており、新製品の実現を支える新技術・新工

図 7-4 刈谷工場収益推移 法の手の内化を進め、新規制御製品の生産につなげる

ことができた。

【もの造りの基本となる生産基盤の継続強化】

以上のような体質強化の活動を進めていく一方で、工場としてのもの造りの基本となる地道な

活動も行っている。

まず安全については、相互啓発型の人づくりを狙いながら災害の未然防止活動を進めている。

主な活動としては、リスクアセスメント活動によるリスクの明確化と改善の実施や危険予知活

動による危険感受性の向上である。

品質では、スマイルプロ活動とネーミングした全員参加の品質向上活動を展開している。良

品条件の確立による工程保証度の向上や標準作業遵守、そして異常処置ミスの撲滅を重点とし

た基本に忠実な活動を推進している。

また、「明るく前向きにチャレンジ出来る現場造り」をスローガンに活性化委員会を発足させ、

各種啓蒙活動も盛り込みながらモラールを向上させている。これにより、働きやすい職場づく

りと全従業員の一体感醸成を狙っている。

日々のこれらの活動を加速させるために、QCサークルの活用によるチームリーダー育成や夢

工房の活用による技術・技能のプロ集団育成、そして階層別教育等による人材育成の充実も図っ

ている。

7.3 今後の進め方

今後も、3本柱を中心にグローバル生産戦略を推進していくが、更にスピード感を持って進

化させていく必要があると認識している。具体的には、次の 3点に精力的に取組んでいく。

① 儲かる新製品にしていく

・ 試作機能の充実(匠からの進化、試作ノウハウの蓄積)

・ 生産技術開発人材の育成と増員による開発テーマの実行加速

② 海外拠点の自立化

・ 現地調達可能な設備仕様の見直しによる設備現調化の拡大

・ TPS/TPM活動の活性化を狙った現地での教育プログラム充実と実施

③ マザーとしての刈谷工場の体質強化

・ 高精密部品や新分野製品内製化の拡大(制御製品、電子制御基盤など)

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8.品質保証

8.1 背景

当社は、開発と販売の会社として設立され、生産機能の品質保証は生産会社に委託するという

スキームから始まった。品質保証部門は、最初に生産を委託した3社と客先をつなぐ仕組みを混

乱無く統合することに取組んだ。また、3社の製品、商権を受け継ぐとともに、3社の品質問題

も受け継ぐことにもなり、Tier1として親会社を含む生産会社の生産品質の向上を進めた。

2003年からは、国内に生産機能を持たない中、海外で先行して生産統合が始まり、海外の地域

統括拠点に品証機能を整備するなど、海外品質の基盤作りに取組んだ。そして、2010年には国内

でも生産統合を果たし、開発から生産まで一貫した体制へと成長してきた。

8.2 品質保証体系のポイント

重要保安部品と呼ばれるブレーキ製品の品質保証には、まず企画段階で、製品の新規性、変化

点に応じたランクを設定し、開発段階から生産まで、ランクに応じた品質ゲートを通して、製品

化するようにしている。また、設計から生産を通して、製品機能に対して重要な品質特性には図

面・標準に特別管理マークを表示し、一般部品/特性と明確に区分して重点管理をする。

生産を Tier2に委託する場合には、アドヴィックスの設計段階の品質ゲートに生産会社を参画

させたり、生産会社の生産準備のゲートにアドヴィックスが参画したりするなど、相互の乗り入

れによって、抜けのない品質確認ができるように連携している。

8.3 アドヴィックスの課題

月度品質会議月度品質会議

品質状況/活動 報告

頻度:1回/月参加:社長、副社長、専務、関係役員

市場クレーム低減会議

市場状況/EDER活動報告

頻度:1回/3ヶ月(製品系列毎)参加: 製品担当役員

製品別技術連絡会

情報分析によるテーマ抽出

重要登録テーマ進捗フォロー

頻度:1回/月参加: 部長以下の実務

特記品質改良会議

重要品質報告(再防〆)

頻度:都度参加: 社長、副社長、

専務、関係役員

【特定テーマ】

【全社定例会議】

全社品質会議全社品質会議

方針展開/品質マネジメント

頻度:3回/年参加:社長以下全役員

生産品質向上トップ活動会議

生産品質 会社間横断活動

頻度:3回/年参加: 社長、副社長、

生産会社品質トップ

生産会社相互研鑽会

生産品質活動/相互研鑽

頻度: 都度参加: 部長以下の実務

【市場クレーム低減】

【生産品質向上】

10年10月 体制強化

【重要テーマ】

議論を尽くし、早期に方向付け議論を尽くし、早期に方向付け解決解決

品質定例会議品質定例会議重要テーマ進捗フォロー

頻度:1回/2週間

参加: 副社長、専務、製品担当役員

強化強化

月度品質会議月度品質会議

品質状況/活動 報告

頻度:1回/月参加:社長、副社長、専務、関係役員

市場クレーム低減会議

市場状況/EDER活動報告

頻度:1回/3ヶ月(製品系列毎)参加: 製品担当役員

製品別技術連絡会

情報分析によるテーマ抽出

重要登録テーマ進捗フォロー

頻度:1回/月参加: 部長以下の実務

特記品質改良会議

重要品質報告(再防〆)

頻度:都度参加: 社長、副社長、

専務、関係役員

【特定テーマ】

【全社定例会議】

全社品質会議全社品質会議

方針展開/品質マネジメント

頻度:3回/年参加:社長以下全役員

生産品質向上トップ活動会議

生産品質 会社間横断活動

頻度:3回/年参加: 社長、副社長、

生産会社品質トップ

生産会社相互研鑽会

生産品質活動/相互研鑽

頻度: 都度参加: 部長以下の実務

【市場クレーム低減】

【生産品質向上】

10年10月 体制強化

【重要テーマ】

議論を尽くし、早期に方向付け議論を尽くし、早期に方向付け解決解決

品質定例会議品質定例会議重要テーマ進捗フォロー

頻度:1回/2週間

参加: 副社長、専務、製品担当役員

強化強化【重要テーマ】

議論を尽くし、早期に方向付け議論を尽くし、早期に方向付け解決解決

品質定例会議品質定例会議重要テーマ進捗フォロー

頻度:1回/2週間

参加: 副社長、専務、製品担当役員

強化強化強化強化

アドヴィックスは設立以来、重要品質問題の撲滅に取り組んできたが、目標としているレベ

ルに達していない。その背景に市場での品質要求の変化がある。世界各地の厳しい使われ方に加

え、各地の市場で使われているオイルの仕様違いなど、これまで想定していた以上に広範な使用

環境でも性能を発揮することが期待されるようになり、重要品質問題につながるケースがあった。

優れた製品を開発する能力があり、新興市場での成長機会があっても、重要品質問題が一つでも

あれば、大きな経営リスクになりえる。今後、グローバルに成長するには、製品を開発する時点

の品質要求だけでなく、将

来の品質要求を見通し、さ

らに品質改善しつづける組

織能力が必要である。

そこでまず、品質マネジ

メント体制の強化に取組ん

だ。これまでの品質会議体

を整理し、マネジメント点

検の全社品質会議、活動状

況の報告、フォローを行う

月度品質会議に分けた。抽

出された品質課題について

は、適時、役員会で会社課 図8-1 品質マネジメント強化

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題として共有するとともに、その早期解決を進めるための判断、フォローを行う品質定例会を新

設した。これは技術開発、生産、品質保証 各部門の統括役員を常任として、テーマにより関係

役員、部長を招集している。単なる報告の場とせず、問題に関する議論を尽くし、会社として早

期の方向付けの判断を行うよう進めている。この会議は50回を越え、懸案テーマの開発に活用

している。

また、品質の取り組みの基本には、「お客様から信頼される品質保証」を継続キーワードとし

て設定し、お客様志向を明確にした。更に重点実施事項として、再発防止のやりきりと未然防止

を掲げ、設計、生産、市場の全領域での早期検出、早期解決と再発防止の徹底を進めている。ま

たグローバルな成長に向け、世界の顧客をサポートするための、品質保証体制と基盤構築、更に

高度化する品質、安全要求に応える開発力の強化、を掲げ、技術開発部門、生産部門、品質保証

部門が協力、分担し、取組んでいる。

【再発防止のやりきり】

再発防止は問題の最後の仕事と考えられがちである。しかし、当社では、有効な再発防止活動は、

将来に向けた前向きな活動にできると考えた。まずEDERで問題を片付け、問題の芽を早く摘

むが、ただ解決にとどめず、問題の真因を突き止めれば、その対策は将来の同種問題を防ぐ大き

な財産となるはずである。また、元の問題からお客様や市場の変化も分析できるはずである。

更に、解決により、手戻りも減り、開発パワーを前向きの設計活動や未然防止に振り向けること

が出来るようになる。これらの実現には、問題と、その真因分析が非常に大事であり、このため、

役員から実務までの「なぜなぜ」教育からやり直すとともに、良い進め方の規定化を進めてきた。

また再発防止結果をトップが成果として評価するように工夫した運営によって、「良い再発防止

は成果」という意識付けを図っている。

8.4 品質向上への取組み

このように品質向上への取組みを進め、市場、納入品質の向上に向けた、設計、生産、市場そ

れぞれの品質向上活動を進めているが、これらの基盤となる部分を大切にして進めている。

問題の真因をつかむことによって、マネジメントや仕事のやり方の改善に繋げる再発防止の取

組みや、ブレーキ専業メーカとして競争力の1つとなる、品質解析力の向上を目指したQAセン

ターの整備、人員育成、更には品質マネジメントシステムの整備などの活動である。当社の更な

る成長のためには、現在進めている活動に加えて、グローバル品質を支える仕組みづくりが課題

と考えている。

8.5 今後の進め方

当社はグローバル体制を整えている段階で、海外に優秀なキーマンを送り出し、このキーマン

がそれぞれの拠点を支え、時間を掛けて現地の人材を育てている。しかし、このままでは日本人

材の払底などの問題が出てくる。そこで、後発であるが故に、考え方を変え、日本流の良さは評

価しつつ、欧米流、例えばドイツのVDA規格のような「見て分かるルールと仕組み」を品質シ

ステムに取り入れ、現地人材を活用し、現地仕入れ先をコントロールできるような進め方を工夫

し、従来とは違った組織能力の獲得、開発ができるように取り組んでいきたいと考えている。

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9 人材育成

9.1 背景

「世界トップクラスのブレーキシステムサプライヤ」というビジョンの達成に向かって全社が

前進していくためには、人材の適正な配置と全社員のビジョン共有が必要であった。特にリーマ

ンショック以降、事業領域は新興国を中心にグローバルに拡大しており、海外で活躍できる人材

へのニーズは高まっていた。ところが、競合関係にあった親会社からの出向者が主体であった当

社では、人材を海外も含め適正に配置することが難しく、また、目標の共有も充分ではなかった。

このため、当社における人材育成の重点は、社員の転籍によるプロパー化と当社独自の教育によ

るグローバル人材の育成であった。

9.2 プロパー社員化

出向者で構成されていた当社では、共通の文化や価値観を持つことが難しい状況であり、転籍

を進め「ONE ADVICS」体制を作り上げることが重要だった。しかし、親会社はいずれも一流企業

であり、子会社へ転籍することは、従業員本人はもちろん、その家族にとっても大きな決断であ

る。拙速に進めると人材が親会社に帰任してしまう可能性があった。よって、十分な時間を掛け

て慎重に進めることとした。

まず、中途社員・新入社員の採用活動から

始め、新入社員採用のタイミングを機に、そ

の上司となる管理職の転籍の実現を目指した。

上位の管理職から順次転籍を進め、最後のス

テップとして組合との連携も進めながら、組

合員の転籍を実現した。これにより、プロパ

ー社員率が一気に高まり、グローバルプラン

やグリーンプログラムなど目標を共有化でき

る環境が整った。 写真 9-1 社長による転籍説明会

9.3 グローバルに活躍できる人材の育成

1)教育体系の整備

社員が出向者で占められていた当時、出向者は出向元の親会社の教育体系下にあり、当社とし

て統一感のある教育体系の整備には着手できない状況が続いた。転籍・中途社員・新入社員によ

りプロパー社員化の目処付けが進む中、グローバルでの競争を勝ち抜くための海外で活躍できる

駐在員の育成など、当社のニーズに即した統一感のある教育体系の整備を急速に進めた。

まず、当社として総合的に人材育成の仕組みを整えるため、階層別教育から着手した。2008

年、新卒社員が入社することに伴い、新入社員研修から始め、2010 年には転籍によりプロパー

化した管理職の昇格者研修、2011 年には組合員の転籍に合せ専門職・担当職研修と、段階的に

自前化を進めた。

専門教育メニューも少しずつ充実させ、「ADVICS Learning Guide」として体系化し、階層別・

専門別の教育ツールの蓄積が進んだことにより、ようやく海外駐在者の赴任前研修の自前化も実

現できるようになった。

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2)人材ローテーション制度の確立

一方で、海外拠点では各人の専門分野にとどまらず幅広い業務に携わるケースが多いため、マ

ルチ人材の育成を目指し、人材ローテーションを積極的に実施する必要がある。しかし、親会社

からの出向形態では、本格的な人材ローテーションは難しかった。また、出向形態では経歴から

人事考課・昇格に至るまで親会社の管理下にあり、適材適所を狙おうにも、当社には社員の人事

情報がないに等しかった。

管理職から組合員までの転籍を実現した 2012 年、すぐに社員全員の全ての人事情報データベ

ースを整備し、まず役員で共有した。これにより、将来の海外駐在員候補などを考慮し、能力や

経歴を加味した人材育成ローテーションを考え易くなり、制度として確立した。部門毎に 3年間

限定のローテーション枠を設定し、定期的に他部門経験を積ませる試みをスタートさせた。

以上のように、当社の人材育成は親会社の人材と教育体系に依存した状態からスタートしたが、

現在では教育体系化が進んだ。グローバル人材の育成の面でも、赴任前教育・人材ローテーショ

ン制度などを整備し、着実に内容の充実を進めてきている。今後は、意欲と能力のある若手社員

を実際に海外法人に送り込み、現場での仕事を通してマネジメントを経験させる「海外トレーニ

ー制度」の導入など、更に実践的なメニューの充実を図っていく。また、全社レベルで具体化が

できていない中長期的な人材育成計画の策定にも着手していく。

10 総合効果と将来計画

グローバルプラン、グリーンプログラムなどの活動に取り組んだ結果、拠点の充実、新規顧客

の開拓など、具体的な効果が出てきた。拠点に関しては、グローバルプラン推進の成果として、

アドヴィックスグループは図1-3 に示す通り21社となった。

新規顧客の開拓の面では、欧米で当社が得意とする対向型キャリパを売り込んで、新規ビジネ

スを受注することができた。この受注を機に、ドイツのフランクフルトに開発評価ができる拠点

を整備している。今後は、制御系製品を含めた拡販により、欧米市場でのさらなるビジネス拡大

を図っていきたい。

一方、中国では、グローバルプラン

で設立した制御製品の生産を始めた。

また、ADVICS Mfg Thailandは、アド

ヴィックスが建物の設計から自らの手

で進めた初めての生産会社で、現在は

量産開始に向けて、準備を進めている。

総合効果を売上と利益の面から見る

と、生産統合と転籍からスタートした

体質革新の効果で、図1-1の通り、 写真 10-1 ADVICS Manufacturing Thailand

2010年以降、売上、利益ともに順調に

増加している。引き続き、売上6000億円の目標に向かって、活動を加速させていく。

一方、生産統合を経て会社規模も拡大し、活動の領域がグローバルに拡大してきたことから、

CSRへの対応も着実に進めた。企業倫理、危機管理といった内部統制の充実を図り、環境対策や

地域社会への貢献にも力を入れて取組んでいる。さらにモータースポーツへの協賛などを通して、

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アドヴィックスのブランド力も少しずつ向上してきた。

これらの取り組みを振り返り、2013年に初めて「CSRレ

ポート」として取り纏め、社員をはじめとする社内外

のステークホルダーに対する情報発信も開始した。

これらビジネス面での具体的な効果もさることなが

ら、一番の効果は、やはり「着実に人が育っている」

ことである。生産統合と転籍を実施する以前は、寄り

合い所帯でどこか遠慮がちに仕事をしていた人たちが、

いまでは出向元や部門の壁を超えて、時には激しく議

論しながら、仕事に取組んでいる。海外拠点が急拡大

していることに合わせて、日本からの駐在員も急増し、

グローバルに活躍できる人材の育成も着実に進んでい

る。

日本で開催したグローバルQCサークル大会に3か国

から9チームが参加し、国を超えたアドヴィックスグ

写真 10-2 CSR Report ループの一体感醸成も進んだ。また、若手技術者の教

育の場として毎年参加している、組込みソフトウェア

の技術力を競うETロボコン大会では、優勝争いの常連会社となり、昨年は初めて全国大会2連覇

を達成した。

自立化を目指した第一の正念場を乗り切り、

グローバルな拠点の整備が進んだ。これらの拠

点が利益を生む体質にするには、まだ課題が残

っている。2013年以降は事業計画を確実に実現

させていく第二の正念場である。そのために、

今後は次の4点を重点課題として取組む。

写真 10-3 Global QC サークル大会 ① 今後主力となる制御製品の海外生産

② 新たな地域への展開を含めたグローバル進出の加速

③ グローバル拡大を支える生産技術、生産など国内マザー機能の充実

④ 走行安全・衝突防止自動ブレーキ等高度化するシステムへの開発力強化

今回の体質革新への取り組みの経験を活かして、世界一のブレーキシステムサプライヤの実現

のため、2020年代には売上げ1兆円のビジョンの実現を目指す。そして、自己革新を続けながら、

継続的に発展できる会社にしていくため、これからも人材育成と組織能力の向上を推進する。

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