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2015. October NEWSLETTER 中部支部 夏季研究大会 IN 静岡 子どもたちの英語の学びを支える様々な実践 2015.7.12. 東海大学短期大学部にて 〖 Contents 〗 1 ワークショップ 常名剛司(浜松市立与進小学校) 「英語教育推進リーダーの役割と 中央研修の内容紹介」 2 実践発表Ⅰ 三好菜津希(藤枝市立藤枝小学校) 「楽しんでコミュニケーションする 子どもの育成」 3 実践発表Ⅱ 藤曲明子 (沼津市教職員研修センター) 「沼津市『言語科』での積極的に人と 関わっていこうとする態度の育成」 4 実践発表Ⅲ 髙橋佑末子(東海大学付属小学校) 「”Welcome to our hometown! プレゼンテーションまでの 指導過程とそこからみえた 4 年生の課題」 5 実践発表Ⅳ 下村昭宏(静岡サレジオ小学校) 「小学校英語教育を CLIL の視点で考える」 6 講演 小泉清裕(昭和女子大付属昭和小学校 校長) 「小学校からの英語教育をどうするか」 外国語活動 Lesson7での実践を通して~」 新しいクラスで不安を感じている子どもたちを見て、友だち同士良い関係を築いていけ るようにしたいと考えた。そこで、使い慣れない言語という困難を乗り越えながら活動す る中で「しっかり伝えたい」「話を理解したい」と思えるようになり、何より「友だちと 話すって楽しい」と実感できるような活動を考えた。まず行ったのは単元構想の工夫であ る。第1時の導入として第5時のメインアクティビティにも設定している「Picture Quiz」を少しルールを変えて行った。クイズの後に「第5時ではみんながクイズを作って 出し合うよ」と伝えた。そうすることで「Picture Quiz」を楽しむために「問題の出し方や答え方などに慣れる」とい う見通しをもたせ、第2時からの活動に入ることができた。さらに第3時で、ほぼ同じルールでクイズを行った。する と「早く私も問題を出したい!」という気持ちが生まれ、言い慣れの活動により意欲的に取り組むようになった。次に 行ったのは教材の工夫である。子どもがかかわりたくなるアクティビティにするために、題材は子どもたちに自由に選 ばせ、写真も子どもに撮らせた。さらに「3ヒント」ルールを作り、何往復ものやりとりを行えるようにした。また写 真を撮る際は、撮りたい物の一部を撮らせて「白黒」印刷し、クイズの難易度を大きく上げた。『Picture Quiz』本番 では、知っている単語を使って自信をもってヒントを出したり、もらったヒントから考え笑顔で楽しそうに答えたりす ることができていた。 4月と 12 月にアンケートを行った結果「外国語活動や普段の生活で“楽しんでコミュニケーションする”ことができ ていますか?」という質問に対し「はい」と答えた子どもが 46%から 100%になった。本実践を通し、日常的に友だ ちとより良くかかわることができるようになったと考えられる。 文責:三好菜津希(藤枝小学校)

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2015. October

NEWSLETTER 中部支部 夏季研究大会 IN 静岡

子どもたちの英語の学びを支える様々な実践 2015.7.12. 東海大学短期大学部にて

〖 Contents 〗

1 ワークショップ

常名剛司(浜松市立与進小学校)

「英語教育推進リーダーの役割と

中央研修の内容紹介」

2 実践発表Ⅰ

三好菜津希(藤枝市立藤枝小学校)

「楽しんでコミュニケーションする

子どもの育成」

3 実践発表Ⅱ

藤曲明子 (沼津市教職員研修センター)

「沼津市『言語科』での積極的に人と

関わっていこうとする態度の育成」

4 実践発表Ⅲ

髙橋佑末子(東海大学付属小学校)

「”Welcome to our hometown!

プレゼンテーションまでの

指導過程とそこからみえた

4 年生の課題」

5 実践発表Ⅳ

下村昭宏(静岡サレジオ小学校)

「小学校英語教育を CLIL

の視点で考える」

6 講演

小泉清裕(昭和女子大付属昭和小学校

校長)

「小学校からの英語教育をどうするか」

外国語活動 Lesson7での実践を通して~」

新しいクラスで不安を感じている子どもたちを見て、友だち同士良い関係を築いていけるようにしたいと考えた。そこで、使い慣れない言語という困難を乗り越えながら活動する中で「しっかり伝えたい」「話を理解したい」と思えるようになり、何より「友だちと話すって楽しい」と実感できるような活動を考えた。まず行ったのは単元構想の工夫である。第1時の導入として第5時のメインアクティビティにも設定している「Picture Quiz」を少しルールを変えて行った。クイズの後に「第5時ではみんながクイズを作って

出し合うよ」と伝えた。そうすることで「Picture Quiz」を楽しむために「問題の出し方や答え方などに慣れる」という見通しをもたせ、第2時からの活動に入ることができた。さらに第3時で、ほぼ同じルールでクイズを行った。すると「早く私も問題を出したい!」という気持ちが生まれ、言い慣れの活動により意欲的に取り組むようになった。次に行ったのは教材の工夫である。子どもがかかわりたくなるアクティビティにするために、題材は子どもたちに自由に選ばせ、写真も子どもに撮らせた。さらに「3ヒント」ルールを作り、何往復ものやりとりを行えるようにした。また写真を撮る際は、撮りたい物の一部を撮らせて「白黒」印刷し、クイズの難易度を大きく上げた。『Picture Quiz』本番では、知っている単語を使って自信をもってヒントを出したり、もらったヒントから考え笑顔で楽しそうに答えたりすることができていた。 4月と 12 月にアンケートを行った結果「外国語活動や普段の生活で“楽しんでコミュニケーションする”ことができていますか?」という質問に対し「はい」と答えた子どもが 46%から 100%になった。本実践を通し、日常的に友だちとより良くかかわることができるようになったと考えられる。 文責:三好菜津希(藤枝小学校)

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4 実践発表Ⅲ “Welcome to our hometown!” プレゼンテーションまでの指導過程とそこから見えた 4年生の課題

プレゼンター:高橋佑未子(東海大学付属小学校) 同校は、学校創立(1967 年)から英語教育に力を入れており、まず、黎明期の1st Stage と現在の 2nd Stage の様子が写真等を用いて紹介された。次に、同校英語教育の特色が、「6.4 倍」(公立との時間数比較)、「2→22」(6 年間の自己紹介文数)、「31 回」(6年間の発表活動数)等のキーナンバーをもとに説明され、とても充実した英語教育が展開されていることがわかった。 質的にもさまざまな工夫がなされており、特にプレゼンテーションについては、他教科と連動しながら、スピーチフォーマット(beginning+body+ending)やルール

(Speak loudly, clearly, smilingly, Eye contact+Gesture)の指導が徹底的に行われている点は特筆すべきである。 そして、「三保の観光スポットを英語で紹介しよう!」の取組の紹介がなされた。本取組は、昨年11 月の同校教育研究会において発表されたものであるが、その時の授業後の分科会でも行われたように、18 時間にもおよぶ発表会までの指導過程が VTR で紹介された。この試みは、研究授業の新しい形として今後あらゆるところで取り入れてもらいたい試みである。そして、最後に発表者からフロアへの問題提起がなされたが、時間の都合でこれらについて議論できなかった。フロアからも出たように、次回以降これらについて改めて議論されることを期待したい。

文責:中上健二(東海大学短期大学部)

岐阜県教育委員会教育長の松川禮子氏は、十数年も前に、これからの教育には、 『言語コミュニケーション能力の育成』が必要不可欠である、と言及されたことがあった。それは「型にはまった表現方法をとび出し、より自由に・豊かに、そしてより即興的に、切り返したり、話したりする言語活動」のことを示していた。昨今の全国学力学習状況調査の問題からも、そういった言語活用能力の育成が強く意識され「21世紀型能力の育成」という枠組みの中でも、これからの日本人にとって必要とされる資質・能力の1つとして取り上げられている。 沼津市独自の言語教育『言語科』は、そういった力を子どもたちに身につけさせるために2つの柱をもって子どもたちの言葉の活用をより豊かにしようと試みている。

① 読解の時間の充実による「読解力の育成」 ② 英語の時間の充実による「積極的にコミュニケーションする態度の育成」

とくに、①読解力の育成は、②積極的にコミュニケーションする態度を支える基盤となる力であると位置づけ、仲間同士の関わり合いの場面を通して、テキストを理解・評価しながら4技能(読む・聴く・書く・話す)の育成を目指している。この2つの柱に共通して大切にされていることは、「仲間同士の本物の関わり合いの場面において、お互いが言葉を豊かに活用しながら、自分の言葉に自信をもって人と関わる」ということではないかと感じた。まさに今の子どもたちに必要な「自己肯定感」・「自己表現力」・「他者理解力」を『人との本物の関わり』を通して育成したい、という沼津市の強い願いが現れている内容であった。それは、沼津市独自の副読本を開発して推進していることからも明らかである。 本発表では、各学年に応じた具体的な活動例が示され、フロアにとっても、沼津市の願いがよりイメージ化されていった。最後に藤曲氏は、より児童・生徒にとって「意味のあるコミュニケーション活動」をより充実したものにいくことが、これからの『言語科』を形骸化させないキーワードであることを本発表のしめくくりとしてまとめられた。

4 研究発表 「小学校英語教育を CLIL の視点で考える」

プレゼンター:下村昭宏(静岡サレジオ小学校) 下村明宏先生の発表に臨むにあたり、演題にある「CLIL」をググった。次に先生の勤務校の「サレジオ」をググった。さらにネットサーフィンしていくと下村先生が「音楽」の先生と出てきた。「音楽専門である先生がどう CLIL と関わるのだろう?」という興味で当日を迎えた。事前にググっておくことは以前はできなかったことで、ネット社会の恩恵。 “Google it!” “Do you yahoo?” “Email me!” など、 「名詞を動詞に使う」英語はますます普通になるのだろう。 先生は、静岡サレジオ小学校が上智大学教育提携校として力を入れている「クリルについて」を紹介された。従来は、与えられたものの中からの活動が中心。これをクリル型にするとはどういくことかを “Learn as you use, use as you learn.” に集約させ、生徒の様子をビデオも活用して紹介された。

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“What time do you get up?” を学習した生徒は、次に「自分の生活を自分で考え」絵カードに時刻を書く。さあ! クリル型のはじまりだ。それをただ読むのではなく「歌に合わせて」発表する。さあ! 音楽専門の下村先生のはじまりだ。「英語は音楽だ!」と考える私は興奮して先生の発表に引きこまれた。英語のリズム・イントネーションを体感しながら、自分の生活のことを英語で発表し合う生徒たちは幸せだ。“Learn as you use, use as you learn.” とはこういうことなんだ! 最後の方は「クリルって リズムに合わせて ルンルン発表」なんて頭の中で「あいうえお作文」作成に励む私でした。あっ! クリルを動詞に使ってる!

文責:箕浦永世(English House)

講演 「小学校からの英語教育をどうするか」 講演者:小泉 清裕(昭和女子大学附属昭和小学校校長)

本研究大会の締めくくりは、小学校英語教育界の重鎮、昭和女子大学附属昭和小学校校長の小泉清裕氏による聞き手の「頭と心」に響く“熱い”講演だった。 まず、演題となっている今年3月に出版された岩波ブックレット『小学校からの英語教育をどうするか』に触れたのち、幼稚園から大学院までの英語教育のご経験と1994年に飛び込まざるを得ない状況でスタートした小学校現場での試行錯誤の日々が紹介された。加えて、20年あまりの実践の結果「見えてきたこと」、すなわち「小学校からの英語教育をどうするか」に対する見解を述べるとともに、そこに内在する問題点を挙げた。

総じて、数々の問題を抱えながらの長い道のりではあるが、目の前の児童・生徒のことを第一に考え、英語教育に関わる一人ひとりが「何を目指し、何をどこまで行動に移すのか」を意識することの重要性を訴えた。最後に紹介した「漢字で英語」の授業映像は、小泉氏の主張を具現化したものであり、感動と勇気を与えてくれた。

<ある出版社の編集者からのメール> 数日前に小泉氏に寄せられたメールに答える形で、岩波ブックレット『小学校からの英語教育をどうするか』の要点を語ってくれた。 よく教室で行われている英語活動には、英語を引用的に再生することを目指すだけに終わってしまうものもあり、

豊かな学びを阻害する危険性をはらんでいるというのだ。児童・生徒には感情・身体・思考を統合した状態での意味のある学習が必要である。そのためには種類も増え、入手し易くなった英語教材を、どんな目的でどのように活用するかを考えなければならない。子どもたちの実情をよく知る教員が担当すべき所以もここにある。 圧巻だったのは、そこにあった大型絵本『Dear Zoo』を活用してのパフォ―マンスだ。参加者は一瞬寄席に迷い込んだかのように感じただろう。絵本を素材として自由自在に活用し、興味関心と笑いを引き出す。絵とリズムに助けられ、そのまま読み聞かせれば良いのではなく、いかにしてそこにいる子どもたちの心と身体と思考を揺さぶり、意味のあるコミュニケーションを展開させるかを示してくれた。 <20年間を振り返って ~やってきたこと、見えてきたこと~> 中学英語の手法が役に立たないことを痛感し、何のための英語なのかを考えつつ、自作教材を作っては試す日々。他教科の教科書をすべて読み、他教科の授業を見学し、子どもの知的好奇心を刺激する活動を次々と創作。数字を使った活動だけでも100種類を超えるというから驚きである。 ハッとさせられたのは「カードで英語を覚えると、カードを見せると英語が出てくる」という一節だ。言語学習に「繰り返し」は欠かせないが、英語活動で育てたいのは「パブロフの犬」ではない。「使える」ようになるためには一つのトピックについてたくさんのアクティビティーを用意し、知的で楽しく、主体性が発揮される活動を繰り返す必要があるというのだ。 映像で紹介された「漢字で英語」の授業は、学びたい生徒と学ばせたい教師が、ともに意欲的に、そして明るく楽しく、意味のあるコミュニケーションを交わしながら展開する素晴らしいものだった。双方の心と頭と身体が十二分に機能し、真の「学び」が実現していると感じられた。 <小学校からの英語教育をどうするか> 教科化に向け、学習時間の確保、教員の養成と研修、教科書、評価、費用など、問題は山積しており、見切り発車時期尚早との声も聞こえる。しかし、お膳立てをしてもらうのを待つのではなく、我々英語教育に関わる者たちこそが、明確な「目的」、具体的な「目標」を設定し、シラバスおよび教材の作成に尽力し、授業力を高めることに正面切って取り組むよう、力強いエールを送ってくださったと認識している。 小学校からの英語教育の目指すところは「コミュニケーション」。すなわち、興味関心を喚起し、持てる知識を思考につなげ、その結果生まれる意見や感情を交わすことで、個々の世界が広がっていく。こうした活動を通じて自己理解・他者理解が進む。そうした感情・身体・思考を統合した状態での活動、つまり心と頭と身体を同時に機能させる場面を経験してもらい、それらが将来における自身の活かし方への足がかりとなることを描きながら努力を重ねようと気持ちを新たにすることができた。 小泉先生、本日はありがとうございました! 文責:永倉由里(常葉大学短期大学部) この Newsletter をごらんになった読者の皆様より、ご意見やご感想、そして、JASTEC 中部支部へのご要望などがございましたから、

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