2. 市場実態 - maff.go.jp

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2. 市場実態 (1) 概況 ドイツはヨーロッパの茶貿易の中心として知られており、国際的な茶市場においても 強固なポジションを作り上げている。 ドイツの影響力の大きさの主たる要因は、ドイツの茶企業が世界中から高品質な茶葉 を輸入し顧客のニーズに応じて加工、パッケージする専門技術の高さと経験の蓄積にあ る。実際、ドイツで加工、パッケージされた高品質の茶の多くが、拡大する国際マーケ ットに向けて再輸出されている。 ドイツの中でも、特にハンブルグは、ヨーロッパ大陸における茶ビジネスに関する最 も重要な都市であり、ドイツの茶輸入の約 70%がここを通じて行なわれているだけで なく、ヨーロッパ全体の茶貿易の半分以上のシェアを持っている。 したがって、ヨーロッパを含めた国際的な茶市場におけるドイツの役割を理解するこ とは、最終的な販売市場がドイツ以外である場合でも、非常に重要である。中でも、な ぜドイツがヨーロッパでの茶に関する問題についてのオピニオンリーダーとなったの か、またなぜドイツ向けに輸出する能力を持つことが重要なのか理解しておくべきであ る。 (2) 輸出入動向 2006 年のドイツの茶輸入量は、前年に比べ 12.2%増加し 46,785t と過去最高を記録し た。同時に輸出も 25,302t と過去最高となっている。ドイツの茶企業は輸入した茶葉を 加工(ブレンド、フレーバリング、デカフェニング等)し、世界各地、特にイギリス、 アメリカ、ロシアに向けて再輸出する産業構造となっている。 ドイツの 2006 年の茶平均輸入価格は 1kg 当たり 3.06 ドルであり、一方、同年の輸出 平均価格は 6.20 ドルであり、両者の価格差はドイツでの加工等による付加価値を示し ているといってよい。 1 が示すように、ドイツが輸入する茶の最大の供給国は中国である。 そのウエイトは年々増加しており、 06 年では 10,328t で、 22.07%のシェアを占めてい る(2005 年は 19.73%)。インドが第 2 位で、 6,976t を供給しており、市場シェアは 14.91となっている。 インドの茶の品種は紅茶用のアッサムで、北海に面したオストフリースラントやニー ダーザクセン州などの北西部で好まれる強いブレンドの茶に用いられる。その他の主な 輸入先国は、インドネシア、スリランカ、アルゼンチン、ベトナムである。 177

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2. 市場実態 

 

(1) 概況 

ドイツはヨーロッパの茶貿易の中心として知られており、国際的な茶市場においても

強固なポジションを作り上げている。 

ドイツの影響力の大きさの主たる要因は、ドイツの茶企業が世界中から高品質な茶葉

を輸入し顧客のニーズに応じて加工、パッケージする専門技術の高さと経験の蓄積にあ

る。実際、ドイツで加工、パッケージされた高品質の茶の多くが、拡大する国際マーケ

ットに向けて再輸出されている。 

ドイツの中でも、特にハンブルグは、ヨーロッパ大陸における茶ビジネスに関する最

も重要な都市であり、ドイツの茶輸入の約 70%がここを通じて行なわれているだけで

なく、ヨーロッパ全体の茶貿易の半分以上のシェアを持っている。 

したがって、ヨーロッパを含めた国際的な茶市場におけるドイツの役割を理解するこ

とは、最終的な販売市場がドイツ以外である場合でも、非常に重要である。中でも、な

ぜドイツがヨーロッパでの茶に関する問題についてのオピニオンリーダーとなったの

か、またなぜドイツ向けに輸出する能力を持つことが重要なのか理解しておくべきであ

る。 

 

(2)    輸出入動向 

2006 年のドイツの茶輸入量は、前年に比べ 12.2%増加し 46,785tと過去最高を記録し

た。同時に輸出も 25,302t と過去最高となっている。ドイツの茶企業は輸入した茶葉を

加工(ブレンド、フレーバリング、デカフェニング等)し、世界各地、特にイギリス、

アメリカ、ロシアに向けて再輸出する産業構造となっている。 

ドイツの 2006 年の茶平均輸入価格は 1kg当たり 3.06ドルであり、一方、同年の輸出

平均価格は 6.20 ドルであり、両者の価格差はドイツでの加工等による付加価値を示し

ているといってよい。 

表 1が示すように、ドイツが輸入する茶の最大の供給国は中国である。 

そのウエイトは年々増加しており、06 年では 10,328tで、22.07%のシェアを占めてい

る(2005年は 19.73%)。インドが第 2 位で、6,976tを供給しており、市場シェアは 14.91%

となっている。 

インドの茶の品種は紅茶用のアッサムで、北海に面したオストフリースラントやニー

ダーザクセン州などの北西部で好まれる強いブレンドの茶に用いられる。その他の主な

輸入先国は、インドネシア、スリランカ、アルゼンチン、ベトナムである。 

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表 1 ドイツの茶の輸入先 2005‐2006 年 

国名  輸入量  2005 

(t) 

前年比(%) 

2005 

輸入量  2006 

(t) 

前年比(%) 

2006 

中国  8,225  19.7  10,328  22.1 

インド  6,216  14.9  6,977  14.9 

インドネシア  7,572  18.2  6,545  14.0 

スリランカ  5,245  12.6  6,283  13.4 

南アメリカ  3,062  7.4  3,704  7.9 

ベトナム  3,131  7.5  3,618  7.7 

アフリカ  2,608  6.3  3,029  6.5 

その他  5,630  13.4  6,302  13.5 

合計  41,691  100%  46,786  100% 

出典:ドイツ茶連盟 注:南アメリカ:アルゼンチン、ブラジル、チリ、エクアドル、ペルー、ベネズエラ  

アフリカ:ブルンジ、ガーナ、ケニア、リベリア、マラウィ、モザンビーク、シエラレオナ、ジンバブエ、タンザニ

ア南アフリカ、トーゴ、ルアンダ、その他:EU、その他アジア、旧ソ連、再輸出のための再輸入 

 

以上はドイツの茶全体の輸出入の概観だが、これを緑茶についてみたのが表 2と表 3

である。 

2006 年ドイツの緑茶輸入量の 11,696tに対して、中国(台湾含む)からの輸入が 85%

を上回る圧倒的なシェアを獲得している。これに対して、日本からの輸入量はわずかに

73t、0.06%のシェアしかない。 

 

表 2 ドイツの緑茶輸入 

  2003  2006  増加量    03/06 増加率(%)

輸入量(t)  7,666 11,696 4,030  +53%

消費量*(t)  c 5,300 7,006 2,259  +43%

輸出量(t)  c 2,366 4,690 1,730  +98%

日本からの輸入量(t)  62 73 11  +18%

ドイツの緑茶輸入に対する日本から

の輸入の割合 

0.08% 0.06%  

出典:世界緑茶協会(日本) 

* RTD(ready  to  drink:そのまま飲める形態)製品、原料用途(特に化粧品)を含む。また、

2006年の数値には、ハーブ・漢方茶や、果実茶と緑茶の混合茶も含んでいる。 

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* Cは概数 注:ドイツ茶連盟では、非公式に 2006年の日本緑茶の輸入量は 400t近くに上るとしている。た

だし、この数値は日本を経由して輸入される中国産の緑茶も含んだ数値である。 

 

表 3 2006年のドイツの緑茶輸入量 

  輸入量  シェア(%) 

輸入量(t)  11,696 100% 

日本からの輸入量  73 0.06% 

中国からの輸入量(台湾を含む)(t)  c 10,000 85.8% 

出典:世界緑茶協会(日本) 

* cは概数 

 

ドイツの緑茶輸入先では、中国が支配的なポジションを確立しており、近年ドイツの

緑茶輸入増も中国の生産者が最もその恩恵を受ける一方で、日本の輸出はほとんどメリ

ットを受けていないのが実態である。 

 

こうした背景には、中国とドイツの業者間の強い関係についても注目する必要がある。

例えば、大手の輸入業者のコメントが、こうした関係を示唆している。 

「われわれの中国との関係は、100 年以上前から続いている。」(大手茶輸入業者) 

「われわれの取り扱う緑茶の多くが中国から来ており、中国との取引では、われわれ

自身が品質管理を行なえる、非常に良い関係を持っている。われわれは、この状況

に非常に満足している。」(大手茶輸入業者) 

 

(3) 消費動向 

a  緑茶消費 

ドイツが国際的な茶貿易のセンターとして成長しているのとは対照的に、ドイツ国内

の茶消費は全体としては厳しい状況にある。 

貿易統計によると、輸出から再輸出を差し引いたドイツ国内の消費可能な茶は

21,483t であるが、ドイツ茶連盟の調査では、在庫量調整済みの正味の国内消費量は

17,530tであるとしている。これは一人当たり消費量に換算すると 25リットル弱であり、

この数字はここ数年若干の減少傾向にある。 

ドイツ国内の茶消費量は全体としては余り変動が無い中で、緑茶はハーブティーと同

様に、その消費量を大きく伸ばしている。 

Tea and Coffee Trades  Journal 誌において、茶・コーヒーの業界関係者に、この分野で

179

最も重要な動向は何かを尋ねたところ、2007 年ではドイツの関係者全員が緑茶の重要

性が増したことを挙げている。 

また、The EIU Quarterly Tea Outlook  (2007年 11 月版)では、以下のような指摘がさ

れている。 

「ドイツでの紅茶消費の減退は、緑茶やその他のスペシャルティ茶の消費増加により

埋め合わせられている」。 

なおドイツ国内の茶消費の 77%が紅茶で、23%が緑茶である。また、輸入される緑

茶の 60%は、加工や再輸出ではなく、国内で消費されている。 

 

ドイツ国内での緑茶消費の堅調さにより、ドイツの茶輸入量は直近 2007 年 10月時点

で前年比 11%増の水準となっている。しかし、ドイツ所在の日系輸入業者に行なった

ヒアリングでは、2007 年の日本からの緑茶輸入量は、ほとんど変化が無いか、若干減

少しているという指摘であった。 

 

b RTD 緑茶 

ボトルに詰められた緑茶(RTD 緑茶)は、今のところは主に夏季に消費されるニッチ

製品であるが、その消費量は小さいながら成長している。 

ドイツの RTD における大手ブランドは、低価格に特化した Pfanner の同名ブランドと

Unilever の  Lipton Iceである。 

 

表 4 ドイツの RTD 緑茶市場 

  量(百万リットル)  割合(%) 

ドイツにおける RTD 全体  813  100%

レモンを混ぜた緑茶  19  2.3%

桃を混ぜた緑茶  12  1.5%

出典:Euromonitor 

 

また、緑茶の抽出物は化粧品産業で原材料として使用されており、Beiersdorf (Nivea)、 

Reckitt Benkiser (Lancaster)、  Proctor & Gamble (Wella)といった世界的な化粧品企業の製品

に使用されている。 

 

 

c   緑茶消費の見通し 

180

「(ドイツのような)人口減少国では、人々は食品をより多く購入することはない」。 

  これは、2006 年 11 月の” GfK Consumer Index”が指摘した、ドイツの食品市場に関す

る見通しである。 

また「伝統的にコーヒーを飲用してきた国民に対し、茶の消費を増加させるのは大い

なる課題である」(ドイツ茶連盟議長)という見方もある。 

しかし、ドイツの茶企業は、緑茶の将来性については楽天的にみている。緑茶の基本

的な条件が良好であるためで、具体的には緑茶のような特別なプレミアム商品分野の消

費がドイツでは増加しているという明るいサインがある。 

われわれのヒアリング調査においても、多くの回答者が緑茶販売は全体的に増加して

いると感じており、年間の増加幅は 5~20%位だとしている。 

 

(4) 小売価格動向 

ハンブルグのお茶専門店での緑茶小売価格(日本産および中国産)は、表 5 のとおり

である。  

 

表5  大手お茶専門店での日本茶価格(ハンブルグ)小売価格 日本円換算ユーロ/100g 1ユーロ=161.83円

Gyokuro 20.9 3,382Gabalong 10.5 1,699Japan Fancy Sencha 5.95 963Bancha 5.4 874中国産緑茶Yuncui(有機、50g) 10.5 1,699Huang Cha 10.9 1,764Jade Needles(50g) 10.9 1,764Golden Jasmin 9.45 1,529Finest Yun Wu(有機) 7.95 1,287Greeen Keemun Congou 4.95 801*50gパックのものは2倍して小売価格を表示  

 

 

 

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大手お茶専門店での日本茶価格(ハンブルグ)小売価格 日本円換算ユーロ/100g 1ユーロ=161.83円

Japan Sencha(有機) 9.9 1,602Japan Bancha(有機) 7.8 1,262Japan Genmaicha 8.8 1,424Japan Sencha Extra Fine(有機) 16.8 2,719Japan Kikucha Extra(有機) 19.7 3,188Japan Tamayuracha 22.3 3,609Japan Kabuse-cha(有機) 26.4 4,272Japan Gyokuro(有機) 39.9 6,457Japan Matcha Powdered Tea(有機) 17.93 2,902中国産緑茶China Chun Mee(有機) 7.9 1,278China Gunpowder(有機) 5.9 955China Lung Ching(有機) 16.9 2,735China Lung Ching 14.4 2,330China Mu Dan Tea Roses 7.4 1,198China Wuyuan Jasmine(有機) 11.4 1,845  

 

 

(5) 消費者嗜好と販売形態 

a ドイツの喫茶文化 

ドイツで伝統的に茶に親しんでいる地域は、限られている。 

オストフリースラント地方(Ostfriesland、北オランダ・ドイツ北海沿岸地域を指す)

は、最高品質の茶の消費者として世界中に知られている。彼らは、茶を選りすぐり、非

常に強い紅茶を好み、また茶の入れ方にもこだわりがあるとされる。 

オストフリースラントのお茶は、伝統的に小さな磁器のカップ(kopke)に、ゆっく

りと溶ける氷砂糖と一緒入れ、それに乳脂肪の多いヘビークリーム(room)を、かき

混ぜずに注意深く加え、クリームの「雲」をつくる。お茶は、ゆっくりすするように飲

まれ、一緒に小さなクッキーを食べることも多い。冬には、茶に甘いラム酒の一種を加

えることもある。 

                                             

オストフリースラントの氷砂糖(klutje) オストフリースラントのお茶   

(クリームと氷砂糖を加えた強い紅茶) 

 

オストフリースラント以外では、茶の飲用人口の多いのはフランクフルトやベルリン

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などのドイツ北部に集中している。これに対して、ドイツ南部では茶の消費量は非常に

少なく、コーヒーを飲用する文化が普及している。 

ドイツで消費される茶のうち、約 60%がリーフで、40%がティーバッグで販売され

ている。 

 

b  緑茶消費者の嗜好 

ドイツで典型的な緑茶消費者の属性は、「若くて、健康に対する意識が高く、裕福で

新しいものが好きな層」である。アジア系の人口の多い地域では、こうしたな傾向はな

く、幅広く緑茶を消費する層が存在している。 

 

アジア系の人々は食事の際に緑茶を飲むが、ドイツ人もアジア料理レストランでは同

じように緑茶を飲んでいる。また、ドイツ人は、特に午後に緑茶を菓子やケーキと共に

飲んでいる。 

通常、緑茶はストレートで飲まれ、牛乳やレモンを加えることはないが、わずかなが

ら砂糖を加えて飲む消費者も存在する。カフェインを抜いた緑茶の需要はほとんどない

と考えられており、実際ほとんど流通していない。 

 

緑茶の飲用以外の用途としては、料理の調味料として用いたり、アイスクリームに用

いられたりしている。 

「われわれは、自分たちで作成したレシピを顧客に提供し、緑茶を料理やパンを焼く

際の調味料として利用することを勧めている。」(  茶専門店) 

 

また、ドイツでは有機緑茶が普及しているが、輸入業者の中に「有機」という言葉が

実際には何を意味するのかという懐疑的な見方もある。有機緑茶はドイツの残留農薬規

制をクリアし、市場参入するための潜在的な戦略としてみなされている側面がある。ド

イツやスイスには様々な有機認定機関が存在している。 

 

c  緑茶の販売形態 

ドイツでの緑茶の主要な販売形態は、煎茶のリーフ売りであり、ティーバッグや抹茶、

RTD ボトルはそれほど普及していない。しかし、アジア系の人口の多いハンブルグ周辺

では、状況は異なっており、ティーバッグや抹茶の需要も存在している。 

「われわれにはアジアから来た多くの顧客がいて、彼らは多くの種類の緑茶を好んで

いる」(  ハンブルグ周辺の茶販売店チェーン) 

183

 

われわれの調査によると、緑茶消費は最初リーフ売りが増加するものの、次第にティ

ーバッグがより便利な形態として広がり、一般的なものになる傾向がある。 

また、緑茶販売では「茶のシーズン」といった季節要因も重要であり、ドイツ北部で

は、秋と冬が重要な季節であるとされている。 

 

通常、輸入業者や卸売業者は、40 種類ほどの緑茶を取り扱っている。それらのうち

の多くは、中国本土で生産されており、また、台湾も重要な輸入先である(”Formosa Gun 

Powder”など)。これに対して、一般的に日本茶は数種類しか在庫がなかった。 

 

緑茶の取扱量は、企業規模と茶に対する特化の度合いによって主に決まってくる。 

小さな茶販売店では、平均して 1ヶ月に 3kg程度のリーフ売りの販売をしている。そ

れに対して、アジア系人口の多いハンブルグの大規模な茶専門店では、リーフ売りで

250kg、ティーバッグ 45kg、抹茶を 45g 販売している。また、大規模な茶専門の輸入業

者は、1ヶ月で 250tもの茶を取り扱っている。 

 

(6)  緑茶の小売販売チャネル 

小売セクターにおいて、日本茶は主にニッチ製品として高級品市場、アジア系向けレ

ストラン、小売店舗で販売されている。 

 

a  茶専門店 

多くの小売向け緑茶は、茶専門店で販売されている。茶専門店は、明るく現代的な感

覚の店舗が多く、その多くは街のメインストリートなどの中心地に立地している。 

例えば、Teegeschwender は世界中の茶を数多くリーフ売りしているだけでなく、ヨー

ロッパやアジアのデザイナーによる茶器も販売している。ハンブルグの中心部にある、

Teegeschwender の大規模店舗の一角では、急須やカップ、抹茶椀や、その他の日本の茶

器が販売されている。また、日本茶についてのセミナーや「ティーソムリエ(Tea 

Sommelier)」資格の取得に向けたクラスも提供している。 

茶専門店では、通常、1~2 種類の日本茶(普通は煎茶)が売られているが、中国や

台湾産の緑茶(珠茶、Gunpowder:鉄砲玉のように茶葉を丸めた緑茶)が 6~7 種類ほ

ど売られている。これに加えて、数十種類の紅茶やフレーバーティーが売られている。 

また、ドイツの都市の中には、アジア食品の専門小売店(ミニ市場やコンビニエンス

ストア)も存在しており、そこでも幾つかの日本茶が販売されている 

184

                                 

  ハンブルグの茶専門店の外観 

 

 

 

b  スーパーマーケット 

Edeka(そのデリカテッセン売り場でさえも)や Real のような大規模なスーパーマー

ケットチェーン店でも、日本茶はほとんど見かけない。 

販売されている緑茶の多くは中国産か台湾産、もしくはレモンなどのフレーバーを付

けたものである。デュッセルドルフの Real の大型店舗では、リーフ売りの茶の大きな

ディスプレイがあるが、日本産の茶はたった 1 種類しか売られていない。しかし、こう

したリーフ茶のディスプレイは、近年見られるようになったもので、大手なスーパーマ

ーケットが、スペシャルティ茶について関心を持ち始めていることの表れであるといえ

る。 

Aldi や Lidl のようなディスカウントストアでは、日本茶は販売されていない。 

 

c  外食セクター 

外食セクターでの日本茶の販売チャネルは、主に 2 つある。ひとつは(日本食を含む)

アジア系レストランであり、もうひとつは主にドイツ北部の主要都市の高級ホテルに併

設されている喫茶店である。 

 

アジア系レストランでの緑茶の消費量は非常に多い。しかし、緑茶は顧客へのサービ

スとして提供され、多くの場合は無料のため、レストラン経営者にとっては、緑茶の価

格が最も重要となる。中国産緑茶はより安価なため、経営者は中国産を購入するのが一

般的である。このことは、韓国人や中国人が経営する日本食レストランにも当てはまる

185

ことで(それぞれの出身国の製品を好むのは自然な話でもある)、少なくとも高価な日

本茶を選択する理由は無い。 

他方で、多くのドイツ人にとって、アジア系レストランで提供されるこうした無料の

茶が、初めての緑茶体験となる。 

 

ハンブルグのようなドイツ北部の主要都市の大規模ホテルでは、併設された喫茶店で

日本茶が提供されており、そこでは「ティーソムリエ」や茶の専門家をスタッフに雇用

している店もある。 

そうした喫茶店では中国産緑茶と日本茶に大きな価格差はない。しかし、日本茶は中

国産緑茶に比べて、提供されている種類が少ない。これは、レストラン経営者が、中国

産緑茶の方が日本茶に比べて味がマイルドで、ヨーロッパ人に馴染み易いことを知って

いるからである。また、緑茶を飲んだことの無い消費者に対して、ストレートの緑茶で

はなく着香した緑茶を勧めることからも、消費者はマイルドな味への嗜好があることが

分かる。 

 

d  ティーラウンジ 

ドイツでは、ティーラウンジはごく少数しかないが、流行を発信する場所ともなって

いる。ティーラウンジは、カフェやコーヒーショップと多くの共通点もあるが、店でリ

ーフ売りの茶が買えるだけでなく、茶に関連した書籍や、品物を購入することができる

点で異なっている。また、その場で大体は無料で茶を飲むことができる。彼らは、リラ

クゼーションや生活の質を強調したライフスタイル・人生観を提案している。 

 

ハンブルグのティーラウンジのひとつである Samova では、ヨーロッパやアジアへの

進出を計画している。彼らは自身のブレンド茶やブランドを作るだけでなく、イベント

やパーティーを行ない、お茶ベースのカクテルを提供し、世界のファッション、音楽、

化粧、流行に深く結びついた活動を行なっている。こうしたティーラウンジでの緑茶の

販売量は小さいながらも、イベントでの新製品の宣伝や、メディアの関心の高さなど、

その潜在的な影響力は重要である。 

 

(7) 日本茶の位置付け 

a  ドイツでの緑茶消費と MRL 問題の影響 

1992年から 1999年にかけて、ドイツの緑茶消費は大きく増加し、日本産はこの間

の消費増加において優位に立っていた。 

186

しかし、1999 年に、ドイツの有力消費者雑誌である「Test」が茶の残留農薬に関する

最初のレポートを掲載した。このレポートの中で、緑茶の残留農薬を計測し、多くの日

本茶から高いレベルの残留農薬が検出されたことを指摘した。さらに、中国を始めとし

た日本産以外の緑茶については、残留農薬のレベルが低いか、残留農薬が検出されなか

ったと報じた。 

 

図1 ドイツの緑茶国内消費量と日本のシェアの推移 

1999 年“Test”誌で、茶の

農薬残留レベルに関する

最初の論文が掲載された。

 

=  ドイツの茶市場における日本のシェア概算 

 

=  日本以外(中国等)のシェア 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2003 

5,300t 

1992 

105t 

1999 

5,992t 

2006 

7,006t ドイツ国内総消費量

(t)

 

 

 

 

 

うち日本のシェ

ア(%)推定 80% 83% 1.2% 1.0%

出典:ドイツ茶連盟、貿易業者インタビュー 

多くの日本茶が EUの残留農薬基準(MRL)を満たしていないことが明らかとなり、メデ

ィアは消費者に日本茶を購入しないように呼びかけただけでなく、法律によっても日本

茶は締め出される結果となった。結果、ドイツの緑茶全体の消費量が大幅に落ち込み、

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特に日本茶のシェアは著しく縮小した。1999 年以降、ドイツの緑茶消費は回復に向か

うものの、日本茶はその利益をまったく享受できていない状況にある(図 1)。 

 

EU で流通する茶の多くがドイツを経由するため、お茶全般に影響する否定的な記事

によりドイツが最も損害を被ることから、ドイツの茶産業は、MRL の基準をより厳格に

しなければ、産業全体に打撃が波及すると懸念するようになった。 

 

ドイツのジャーナリズムによる緑茶の残留農薬に関するレポートは、99 年以降もた

びたび出されており、はやりその中で日本茶から基準値を超える残留農薬が検出された

と報じている。最近では、2006年にはや「Test」誌が日本の緑茶から基準値を上回る残

留農薬が検出されたとのレポートを発表し、大きな波紋が広がった。 

 

元々、ドイツは食品・飲料の様々な分野に厳しい規制がある国である。環境問題につ

いての圧力団体が、連邦・州のレベルで非常に強力であり、環境や健康問題に力をいれ

ている影響が大きい。こうした環境運動は、環境問題や遺伝子組換え作物、農薬問題な

どに関するロビー活動に熱心であり、今後はそうした声がますます大きくなると思われ

る。 

 

b  日本茶のイメージ 

われわれの調査では、ドイツでは一般に日本の「国」としてのイメージは非常に良い。

日本は優秀な技術の中心地で、熟練技術、細やかな気配りなどに優れていると考えられ

ている。また、多くの西ヨーロッパと同様に、ドイツでも寿司ブームがあり、日本食は

健康的で低カロリーであると考えられている。 

 

それに加えて、緑茶そのもののイメージもまた良く、健康的であると考えられている。

しかし、日本と緑茶を結びつけると、特に貿易業者の間に、残念ながら悪いイメージが

ある。そもそも多くの貿易業者は、日本が EU への緑茶輸出に関心を持っていることに

むしろ驚きを示している。 

「日本は多くの緑茶を飲んでいるのに、なぜ輸出したいのか。輸入するべきだろう。」 

(輸入・卸売業者) 

さらに、残留農薬問題が圧倒的にネガティブなイメージを作り上げている。 

「(日本茶は)記帳が十分でないうえ、認可された薬品類の使用は少な過ぎ、反対に認可

されていない薬品使用の痕跡が数多い。」(  輸入・卸売業者) 

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こうした日本茶についてのイメージは、貿易業者間でかなり浸透しており、日本の緑

茶が健康的で味に優れているといった良いイメージに上回っているのが実情である。 

 

また、ドイツの茶貿易業者にとって、日本の MRL 問題への対応に困惑を感じている。

日本は、ドイツの基準に従うことに関心が無く、この問題の解決に真剣ではないという

印象がもたれている。そのため、EUへの輸出に真剣に組む国ではないと思われている。

ドイツの茶貿易に関わる重要人物の多くは、かつて日本の代表団と茶産業についての議

論を交わしたことがあるが、日本がドイツの要求に応える動きがあるとは感じていない。 

「(日本は)EUの基準に従うことがスタートになるだけだ。」(輸入・卸売業者) 

 

われわれのヒアリング調査でも、すべての面談者が日本は EU の残留農薬基準や、そ

れよりも厳格なドイツの基準を順守しないかぎり(両者は今年中にドイツ基準に一本化

される)、将来的に日本茶が伸びる希望はないと明確に述べている。また、日本が再度

ドイツ市場に参入したいのならば、残留農薬基準の順守を直ちに行なう必要があること

を指摘している。もし日本が適切な対応をしなければ、ドイツの RTD 市場など将来成長

するとみられる緑茶市場からも、日本は締め出されることになるとみている。 

 

ドイツの業界関係者が日本茶について MRL への対応から否定的なイメージが強いの

に対して、消費者レベルでの受け止め方はやや異なっている。 

消費者が日本茶を選択するポイントは、その風味にあって、食品の安全性や価格とい

った風味以外の要素は、あまり重要視されていない。逆に、日本茶を購入しない消費者

は、残留農薬や価格について心配をしているといえる。 

 

c  日本茶のプロモーション 

われわれのヒアリング調査では、日本を含む様々な国から輸入される緑茶をドイツ国

内でどのように販売促進を行なっているかについて質問した。その結果、日本茶も中国

産緑茶も販売促進の手法において、本質的な違いは見られなかった。 

しかし、既に市場では中国産緑茶が圧倒的に優位に立っているため、中国産は非常に

高いプロモーション効果を発揮しており、日本茶が中国産と対等に競争することは多大

な挑戦だとみられている。 

 

「われわれは、インターネットや価格リスト、またフランチャイズ店舗を通じて、砂糖

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やティーポット・カップのような関連商品を販売している。もちろんショーウィンド

ウもきれいに装飾し、特別セールや茶に関する情報をどのように入手したら良いかと

いった冊子も用意している。」(小売業者) 

「われわれは、茶に関する情報や、レシピ、試飲、入れ方などを提供している。」(小売

業者) 

 

日本産であるか他国産であるかに関わらず、緑茶の販売促進を行なう際には、その正

しい入れ方についての教育を行なうことは重視されるべきであろう。なぜなら、多くの

消費者にとって初めて飲む緑茶はレストランで出される緑茶であるが、レストランでは

緑茶を入れるところみることはできないし、実際不適切な入れ方をされることが多い。 

また、最初に好奇心から店で緑茶を購入する消費者は、茶を長く浸す傾向があり、結

果的に苦味が強くなってしまうことが多い。ドイツの消費者の多くは、マイルドな茶を

好むことが多いため、正しい緑茶の入れ方の知識が重要となる。 

 

大手の茶輸入業者と卸売業者は、茶専門店やホテルの喫茶店の店員に対する緑茶につ

いての教育を行なっており、それにより店員たちは消費者に緑茶について正しい情報を

提供できるようになる。特に、日本の茶産業は競合国のそれとは異なったイメージがあ

り、日本の茶文化、哲学、歴史は、日本産の茶を差別化するための助けとなる。 

 

こうした茶販売に従事する人々への教育と同様に、パッケージの説明やメディアを通

じた一般消費者向け教育も緑茶の販売促進に効果的である。 

ある大手茶卸売業者は、日本茶に関する販売促進資料が不足していることが残念であ

ると指摘し、日本茶の産地についての情報を、高品質なメディア(DVD、写真、ポスタ

ー等)で提供すれば、業者に評価されるだろうとしている。 

 

ドイツ人に日本産の緑茶の風味を紹介すると、好まれない場合も多い(日本茶の風味

について、「草」、「ほうれん草」、「魚」のようだと表現する消費者もいる)。しかし、そ

の風味をドイツの消費者に親しんでもらうことに成功している Keiko(e のケース・ス

タディ  :Keiko・下堂園インターナショナルを参照)のような企業も存在する。Keiko は、

日本の緑茶を使ったチョコレート、デザート、緑茶飲料向けや抹茶を料理の材料に用い

たレシピ本などの販売を強力に行っている。Keiko の販売額は小さいが、このような取

組みは、新たな消費者が緑茶の風味に慣れ親しむことに効果的である。 

 

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また、いくつかの卸売業者は、日本茶の優位性を示す科学的な根拠を提示すべきと指

摘している。しかし、いまのところ、そのような明確な根拠は得られていない。Keiko

の ような企業では、自身の茶について分析を行ない、ドイツで販売されている競合製

品との違いを示している。しかし、こうした分析はコストが高くつくため、取組みは限

定的である。 

 

現在のところ、ヒアリング面談者の多くは、日本茶は健康面に関する販売促進を行な

うべきであり、かつ適正な価格で、残留農薬の無い、できれば有機栽培された茶の提供

が必要であると考えている。こうした条件をクリアできない限り、業界関係者に対する

イメージ改善は難しいとみられる。 

さらに将来的な日本茶の販売促進について考えると、ドイツ茶連盟の取組みに注目す

るのが有効であるといえる。ドイツ茶連盟では、組織のメンバーであるインドなどの外

国の生産者と共に、ドイツの複数のメディアでの販売促進活動を行なった経験がある。 

 

d 主な競合相手 

緑茶業界関係者へのインタビューによると、中国産緑茶は広く一般的に在庫されてお

り、販売全体の 85%を占めている。 

日本産の緑茶と競合相手(多くの場合は中国産)と比較すると以下の点が指摘できる。 

 

➢日本茶は、味覚について優位である。(味が強く、特別である) 

➢日本茶は、主として農薬残留問題と価格面で不利である。 

 

「中国は彼ら自身が、ヨーロッパの基準と要求に非常に早く対応した。中国人はより良

い品質で特別な緑茶を生産しており、ヨーロッパの化学物質の残留問題に対する要求

にも対応している。」(  輸入業者) 

「日本茶は高価である。」(大手輸入・卸売業者) 

ある大手輸入業者の、主要な緑茶の輸入先はブラジル(アメリカを経由)である。 

「彼らは、日本人よりも輸入に関する規則、慣習を理解している」(  輸入・卸売業者) 

 

ヒアリング先全ての輸入・卸売業者は、フレーバー付けされた緑茶を取り扱っていた。

ある販売業者は、18 種類ものフレーバー・ティーを在庫している。一方、日本茶の在

庫割合が最も高い専門小売業者では、フレーバー付けされた緑茶の在庫はしていなかっ

た。 

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純粋な日本茶の消費者と、フレーバー付けされた緑茶を好む消費者の間に違いがある

ことが理解できる。高齢者やアジア系はストレートの緑茶を好むが、特に若年層を中心

に、初めて緑茶を飲んでみる層については、フレーバー・ティーが重要である。 

「若い人々や、初めて緑茶を飲んでみる人は、フレーバー・ティーを好む。」(輸入・卸

売業者) 

 

日本茶と競合相手との価格差も、広く認識されている。中国産に比べ日本茶の種類が

少ない理由として、販売価格が高いことが挙げられる。また、小売店やレストランの関

係者は、緑茶は価格変動が激しい商品とはみていないが、他国産に比較して日本茶は価

格変動が大きいとみられており、そのことが大きな不利な点とされている 

「日本茶は、30~50%くらい高価である。」(小売業者) 

また有機緑茶は、それ自身がカテゴリーとして認識されているが、有機認証について

は懐疑的な見方もがある。 

「過去 5年まで遡って、植物と土壌について有機認証を行なう必要がある。」(小売・輸

入業者) 

 

紅茶は、緑茶の直接の競合相手となることはほとんどなく、紅茶の消費者はより伝統

的で高齢者層であると感じられている。 

「紅茶の消費者はより保守的で、緑茶の飲用者は若く、健康に関心の高い、積極的な

人である。」(  レストラン) 

 

e  ケーススタディ:Keiko・下堂園インターナショナル 

Keikoは、ドイツ緑茶市場の中でほんの小さな企業だが、市場に参入した 1992年以降、

着実に成長を続けている。同社は、2008年 1月 31日に決算を迎える会計年度において、

日本産の有機栽培茶を 11t 近くドイツに輸入している。前年度の実績が 9t であったこ

とからも、Keiko の成長をうかがい知ることができる。 

Keiko は、ドイツの Keiko のオーナーと鹿児島の茶企業である下堂園が、協力して構築

したブランドである。Keiko ブランドは、ドイツ市場で唯一ブランドを確立している日

本茶であり、販売されている日本茶はすべて有機栽培のものである。ドイツに輸入され

るその他の日本茶は、ドイツの加工企業によりブランド化されるのが一般的で、原料茶

葉の供給の域を脱していないのと対照的である。 

 

Keiko はドイツの市場において特異な存在であり、その成功はいくつかの要素が融合

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した結果であるが、その主要な要因のひとつが、「われわれはただお茶を購入するので

はなく、一緒に育てるのである」というスローガンに表現されている。このスローガン

は、Keiko が有機認証取得や輸出の取組み、包装、ブランド化、販売など茶のサプライ

チェーン全体に関与していることを反映している。 

 

Keiko の事例は、ドイツの輸入業者、卸売業者と日本の生産者が、緊密に協力するこ

とが成功のための重要な要因であることを示唆している。特に有機栽培への転換や有機

認証の取得には、数年間という時間と金銭的な投資が必要なため、その移行には双方の

合意が必要となるからである。 

下堂園は鹿児島の農家に、茶の有機栽培技術を指導しているが、この地域は静岡など

の地域に比べて、広い農地があり、作業機械の導入により効率化を図りやすかったため、

茶の有機栽培の導入に向いていた。さらに、下堂園は新しい技術を受け入れやすく、有

機栽培に意欲のある農家グループと契約を結ぶことができた。 

Keiko では、現在 5 つの有機認証を取得しており、毎年これを維持するために約 15,000

ユーロの費用を投じている。毎年日本での監査と、ドイツでの検体が全ての有機基準を

満たしているかの検査が行なわれる。 

有機認証は、その茶が残留農薬に関して問題がないことを証明するもので、実際に、

Keiko は、1999 年の”Test”誌に掲載された残留農薬に関するレポートで、残留農薬が検

出されなかった、唯一の日本産の茶のブランドであった。 

 

Keiko は、有機栽培茶と有機栽培ではない茶の間に、品質の差異は無いとして、有機

栽培茶がドイツ市場で十分に競争可能であると考えた。 

また、Keiko の緑茶は「有機」であることで特別なマージンはほとんど設定していな

い。中国産や低価格帯の茶は、有機栽培による利益を確保しようとすると、大きく価格

を上げる必要があるのに対して、日本産の茶は、すでに高価格帯であることから、有機

プレミアムはごくわずかとなる。価格プレミアムは、高品質の「一番茶」であることを

反映したものである。 

Keiko の茶は、ホイルで真空パックにされ、ドイツに輸送されることで、酸化や光に

よる色あせを防ぐとともに、さらに窒素注入によって茶の鮮度を保っている。この工程

は比較的高価であるものの、他の茶輸出地域に対して日本の技術的な優位性を示すこと

ができる。中国産の茶などの競合製品でも、同じ工程を行なうことができるが、一般的

にはコストが高すぎて、低価格茶の価格を押し上げることになってしまう。 

 

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Keiko のブランド管理は、ドイツ側が完全に管理している。ブランドの名称は、下堂

園兄弟の妻の名前から生まれたものだが、音の響きがいい事と、ドイツ人が発音しやす

い名前であった事から、決められた名前である。製品のパッケージには、流行に乗った

魅力を感じさせる目的と共に、消費者に茶のことを教育するという目的がある。  

 

パッケージは、ドイツ人のデザイナーが、ドイツ市場を念頭に置いてデザインしたも

のである。デザインは、「日本産である」ことを強調するのではなく、ドイツ人消費者

に対して、「有機、自然、流行、アジア」というイメージを持たせるようなデザインに

なっている。 

色は、こげ茶、オリーブ色、黄褐色を主体に、金で目立たせている。デザイン要素は、

輝く緑茶の木の写真、ロゴの畳に似た模様、日本の書体のように縦書きで書かれたブラ

ンド名、そして、一部の商品に描かれた様式化された顔の人形や女性などが挙げられる。 

また、パッケージは茶と一緒に日本文化を売るという観点から、”speaking box”として

デザインされている。表裏を使って、6 ヶ国語で茶に関する情報や英訳された俳句、ま

た最高の風味を引き出すための茶の入れ方が書かれている。 

 

Keiko Tea  のパッケージ 

  

 

Keiko では、茶のほかにも、抹茶でフレーバリングしたデザートや、ドイツ人の好き

なマジパンなどを提供している。さらに、Green Kiss と名づけられた緑茶チョコレート

製品も提供していて、このチョコレートはよく売れており、日本でのプロモーションに

も用いられている。 

これらのデザートやケーキは、喫茶店で茶と一緒に甘い菓子が出てくることや、ドイ

ツの市場で、緑茶の風味を甘くして親しみやすい形態にすることで、その風味に慣れ親

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しんでもらう必要があるという認識から、生まれた発想であった。 

飲食品だけでなく、Keiko では、茶器や緑茶の料理本(英語だけであるが)や、喫茶

店向けの緑茶ラテをつくる機械までも販売している。 

また Keiko は、専門店での販売と同様にカタログ販売も行っている。専門店は、ヨー

ロッパの数ヶ国に出店しているほか、近い将来は北アメリカにも出店が予定されている。 

 

 

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