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製造業の IoT 化 中東欧の現状と展望

4 年 寺山

目次

Ⅰ はじめに

Ⅱ IoT と製造業

Ⅲ インダストリー4.0~第 4 次産業革命~

Ⅳ 中東欧の現状

Ⅴ おわりに

参考文献

- 1 -

Ⅰ はじめに 日本ではモノのインターネット(IoT)という言葉が定着し、様々なモノがインターネット

により繋がりより便利な時代になりつつある。身近な例を挙げると、スマートフォンや、

それに操作される家電製品、そして自動運転も将来的には実現されるだろう。しかし、

IoT 化は私たちの消費生活に関わるだけではない。IoT 化は製造業を変えつつある。まず

IoT 化について全体的に検討し(Ⅱ)、次にドイツにおける製造業の IoT 化(インダストリー

4.0)に注目する(Ⅲ)。そして、インダストリー4.0 影響下で中東欧諸国の税増業にどのよう

な変化が起こっているかを明らかにする(Ⅳ)。最後に中東欧の製造業の IoT 化の将来性に

ついて考える。(Ⅴ)

Ⅱ IoTと製造業

この章では IoT とは何か、そして製造業との関わりについて論じる。

図 1 IoT の概念図 出典:KDDI

1 IoT とは IoT とは「モノのインターネット=Internet of

Things」と呼ばれる技術のことだ。「インターネ

ットを介しあらゆるモノが繋がり、ヒトとモノ

とコンピューター(クラウド)が有機的に結合す

ることで新しい経済価値を生むことだ」1。身近

な例でいうと自動運転や、最近流行のスマート

スピーカー、話す家電などが当てはまる。アメ

リカの調査会社によると、2015年に IoTでイン

ターネットに繋がるデバイスの数は全世界で 49

億個になると予測している。その多くは PCやス

マートフォン、タブレット端末といったデバイ

スだが、今後急速に拡大するのはセンサーやコ

ンピューターを内蔵した自動車や機械、そして

工場設備などだ。2020年には、500億個のモノがネットにつながりその過半数以上がコン

ピューター以外のデバイスになると予想されている。2

スマートフォンがヒトとヒト、ヒトとモノをインターネットで繋ぐとすれば、センサー

1 江澤『インダストリー4.0 の衝撃』(2015) p9 2 江澤『インダストリー4.0 の衝撃』(2015) p10

- 2 -

はモノとモノを繋ぐ。技術革新や小型化、それに伴う価格の低下が進んだ結果、センサー

の数は爆発的に増えている。このセンサーを介してモノとモノが自らデジタルネットワー

クで繋がることが IoT 社会だと尾木(2015)は述べている。3

2 IoT と製造業 製造業でも IoT 化は進んでおり、その目的は 2つある。山田(2016)4 によると、これは

混同してよく考えられてしまうが、まず、工場=モノづくりの現場の自動化・省力化だ。

これはスマートファクトリー構想が代表例だといえる。そして他方は工場から生み出され

るすべての製品がインターネット化することだ。具体的に言うと、ただ製品を売るだけで

はなく、インターネットによって付加価値が加わった製品を販売し、製造業ではなくサー

ビス業として展開することだ。

大野(2019)5によると、製造業の IoTの進捗には 3段階ある。まず課題解決段階で日本で

は 80%の企業が取り組み、機械の予防保全、省エネ、無駄の見える化などが当てはまる。

次に最適化段階で日本では 30%ほどの企業が導入しており、従来の FA(ファクトリーオー

トメーション、工場自動化)の延長にあたる段階だ。そして最後に顧客価値創出段階があ

り、15%程度の企業が導入していると考えられているが、殆ど大手製造業である。従来の

物売りからの脱却し、サービスの提供もできることを目指している段階だ。

まとめると、製造業の IoT化には 2種類ある。まずートファクトリーを目指す、生産性

等の向上を目的とした、生産者側に価値を創出する IoTだ。もう 1つは製品等を IoT化

し、顧客側に価値を創出する、製造業をサービス化させる IoT化だ。

2-1 スマートファクトリー

製造業の IoT化の目標の 1つはスマートファクトリーの実現だ。大野(2019)はスマート

ファクトリーについて、「スマート工場に明確な定義はないが、IoT技術を用いて工場内の

あらゆる工作機械や生産ラインなどを相互にネットワークで接続し、生産効率や品質管理

の向上、生産の自動化、故障の余地などを図る革新的な工場をスマート工場というのがお

方の意見だ」と述べている。6 また大野(2019)スマートファクトリーの概要について、以

下のように述べている。

スマートファクトリーは全てのモノがイセンサーを介しンターネットで繋がることによ

り、工場内の生産プロセスや物流、販売チャネル等のサプライチェーンの状況までもが瞬

時に把握できるようになる。さらに、収集したデータを分析し、AIを活用することによ

3 尾木『決定版 インダストリー4.0 第4次産業革命の全貌』(2015) 4 山田『日本版 インダストリー4.0 の教科書』(2016) 5 大野『日本型 IoT ビジネスモデルの壁と突破口』(2019) 6 大野『日本型 IoT ビジネスモデルの壁と突破口』(2019) p41 引用

- 3 -

り、どこに無駄があるか、どこを改善すればよいか、といったピンポイントの現状分析と

解決策の発見ができるようになる。また将来の需要予測も可能になると予測されている。

例えば、販売された商品の使用状況や在庫がリアルタイムにモニタリングできれば商品企

画や生産企画の制度が高まる。さらに市場状況など外部のデータも活用できれば将来の需

要予測に基づいた無駄のない効率的な生産も可能となる。これを実現したスマート工場で

は、固定的な生産ラインの概念がなくなり、動的に再構成できるセル生産方式に変わる。

これにより、①顧客の要求なら 1個でも注文に応じるカスタマイズ性、②注文を受ければ

瞬時に生産を始めるリアルタイム性、③顧客からの少量の要求にも大量生産と変わらない

価格での提供などの要求にこたえられる。これまでのような個別最適化されたプロセスで

分断されていた各工程をデジタルで繋ぐことにより、サプライチェーン全体で新たな価値

を生み出していく次世代型の製造モデルが出現しつある。労働者不足という現実的な問題

を解決し、現在抱えるスタッフをより高度な職域へと進め、研究開発から生産までの速度

を速め、競争力のあるある製品を開発することができる。7

製造業の IoT化は第4次産業革命とも呼ばれる。第 3次産業革命では生産工程のオート

メーション化が図られ、工場内にロボットを取り入れるなど自動化を目標にしていた。8第

4次産業革命、すなわち現在進む製造業の IoT化は単なる自動化を目指すのではなく、

IoT や AI などを取り入れて生産工程を軸に原材料調達から販売までをネットワークで繋

ぎ自動で最適化することが目的だ。

2-2 製造業のサービス化

もう 1つの IoT 化は製造業のサービス化だ。IoT技術を用いて、製品や部品にセンサー

を装着して顧客にサービスの提供を図ることで、自社製品の競争力を高めようとする。大

野(2019)はサービス化について以下のように述べている。

サービス化の目的は、製品を販売した後も継続的に顧客とのコンタクトを続け、関係を

維持しながら部品などを含めたアフターサービスで売り上げを確保し、次の新規製品への

買い替えやマーケティング、次期製品の設計開発につなげていくことだ。これだけなら従

来から採用してきた戦略だと思われるだろうが、ここに IoTを活用して製品は同じままで

も製品の能力を引き出し、顧客にとっての価値を高めるのだ。例えば、販売した商品一台

ごとに稼働情報を一元管理することで、製品のライフサイクル全体にわたって情報活用が

可能となる。タイムリーなきめ細かいサービスは、製品の販売によって得る利益よりも大

きくなる傾向がある。これは IT 産業が長年行ってきた手法で、IoT化は、この方式を全て

の製品に適用できる。具体的には、商品にセンサーを取り付け、そこからリアルタイムに

7 大野『日本型 IoT ビジネスモデルの壁と突破口』(2019) p41 要約 8 江澤『インダストリー4.0 の衝撃』(2015)

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データを収集する。収集したビッグデータを分析することで、顧客へのサービスを強化す

る。9 具体例は後述する。

3 製造業の IoT 化の事例 前節で述べた製造業の IoT化、すなわちスマートファクトリーと製造業のサービス化を

実践している企業の具体的な事例を紹介する。

3-1 三菱電機のスマートファクトリー事例 10

三菱電機は 2003年から産業機器群と IT製品群を体系化して生産現場の構造改革に取り

組んでいる。三菱電機は元来、生産自動化(通称 FA Factory Automation)に強みを持って

いる企業だ。その工場向けソリューション「eF@ctory」は国内外で 7700件以上の導入実

績がある。三菱電機は顧客が満足する製品を適切な品質や価格で提供することを実現する

ために、モノづくりのあらゆる局面でデジタル情報、つまり IoTを活用する動きを進めて

いる。工程の無駄や無理を防ぐためのシミュレーション、生産設備から集めたビッグデー

タを活用して故障を未然に防ぐ予防保全などだ。

例えば、出荷検査の効率と制度の向上だ。従来では工程内での試験は、担当者が結果を

帳票に記し、それを基に出荷検査の担当者がチェックし、出荷可否を判断していた。この

ため帳票への記入ミスや検査漏れ、判断ミスなどのヒューマンエラーを完全に防ぐことが

できなかった。このプロセスを「eF@ctory」を利用し自動化することで、基準に満たない

製品が絶対に市場に出ないようになった。

また金型の例もある。金属は繰り返し使い続けることによりその加工精度は低下する。

従来は加工した製品の現場の担当者の気づきで金型を交換していた。だが、気づきが遅れ

れば不良品を生み出すことになる。そこで、金型を使用した回数を数えながら金型の制度

を計測し、そのデータとメンテナンスのタイミングの関係をデータベース化した。

3-2 GEのサービス業化の事例 11

GEの航空機エンジン事業は製造業のサービス化事例の代表例だ。世界最大のコングロマ

リットの GE は航空機エンジンを多数のセンサーによりモニタリングすることで、航空会

社に航空機の最適な運航(航空機の燃費改善や消耗品の適切なサービス)を提供している。

というのも、航空機エンジンにセンサーを装着し、モニタリングすることでビッグデータ

を取得・分析することで、運用状況や故障の予兆発見などを通して、ソフトウェア制御に

9 大野『日本型 IoT ビジネスモデルの壁と突破口』(2019) p23 要約 10 大野『日本型 IoT ビジネスモデルの壁と突破口』(2019) 11 大野治『IoT で激変する日本型製造業ビジネスモデル』(2016)

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よって再適なタイミングでメンテナンスされた低コスト高稼働率の航空機エンジンを利用

できるサービスを提供する、サービス業に変化した。

大野(2019)は「航空機エンジンの機能を提供するというサービス業に変わろうとしてい

る。」12 と述べ、これにより、GEは航空機エンジンのモノ売りビジネスから、安定的で高

効率なオペレーションを提供するサービス売りビジネスへと転換していると評した。この

施策は GEの収益の向上と安定化に寄与し、顧客にも大きなメリットを与えている。

発電機の保守サービスも変化した。航空機エンジン同様に修理そのものが価値ではなく

なる。故障しそうな部位をデータから予測し、あらかじめ修理して計画外停止を防ぐこと

で発電所の稼働率を向上させることが顧客に提供する価値になる。

つまり、従来の GEは産業用機器の販売と修理サービスを提供するメーカーだった。しか

し、IBM や SAP など新たな IT 系競合企業の参入により顧客に対する価値提供の変革が生じ

た。ただ信頼性の高い産業用機器を提供するだけではなく、それらの機器から生まれたデー

タに基づいた分析等から生まれる効率性やメリットを実現することも求められることにな

り、GE は変革した。

図 2 従来の製造業ビジネスモデル(筆者作成) 図 3 GEの新たなビジネスモデル(筆者作

成)

また、GE は「predix」という IoT プラットフォームビジネスにも着手していることが特

徴的だ。事前の想定では収集したデータを社内で処理するために社内向けに作ったシステ

ムだが、様々なデジタルサービスを開発する中で、GE は「自社サービスをデジタル化する

ために開発したソフトウェアが、GE 以外の企業にとっても価値があること」13に気づいた。

「predix」は開発効率の改善やコスト削減など社内で成果を上げ、ビジネスの世界では製造

12 大野『日本型 IoT ビジネスモデルの壁と突破口(2019) p64 引用 13 中田(2017) p61 引用

製品

運用

故障

修理

製品

運用

データ

活用

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業大手がこぞって産業機器に関連するビッグデータ分析や製造業の IoT化(インダストリー

4.0)に力を入れ始めていた時期であった。こうした企業に提供し始めたことで、GEは ITベ

ンダーとしての側面を持ち始めた。14

Ⅲ インダストリー4.0(第4次産業革命)とは 15

前章では製造業の IoT化とは何かについて述べた。本章ではなぜ IoT化の流れが進むの

か、インダストリー4.0を提唱し、製造業の IoT化を強力に推進するドイツを中心に、そ

の社会背景についても論じていく。

ドイツは各国に先駆けて 2011年に国全体のプロジェクトとして「インダストリー4.0」

(第4次産業革命)を提唱した。ドイツがインダストリー4.0(製造業の IoT化)に取り組む

理由は、端的に言えばモノづくり大国の地位を死守するため、つまり国際競争力維持とド

イツ国内の人口減少対策に必要だからだ。

まず、ドイツは世界有数の製造業大国だが、インドや中国などのアジアの新興国と競争

し続けるためには、GDPの約 4分の1もある国の主力産業である製造業の競争力をさらに

強化しなければならない。ドイツは歴史的に、1994年から 2014年までに年平均で 2.4%16

ずつ労働生産性を改善し続けているが、2010年に連邦教育研究省は「2010年のハイテク

ノロジー戦略」を発表し、さらなる労働生産性の向上の手段として「IoT」の振興を打ち

出した。部品や機械がセンサーを通じてコミュニケーションを取り合い、自動化のレベル

を飛躍的に高め労働生産性をさらに引き上げることを提唱した。これがインダストリー

4.0 の発端となった。

また、ドイツ製造業の強みは、企業数の約 99%を占める中・小規模企業が高いイノベー

ション力を持つことだ。大半が家族企業であり、携帯電話やテレビなど価格競争の激しい

大衆向け製品ではなく、他のメーカーが必要とする工作機械や部品など特殊な製品に特化

している B to B企業だ。これらの企業は特許取得率が高く、品質も高いため他社製品で

は代替できない場合が多い。よって顧客は彼らが要求する価格を受け入れる可能性が高

く、価格競争に巻き込まれずに済む。ドイツは人件費が高い国なので付加価値が高い製品

に特化することが極めて重要でそれを実現するためにインダストリー4.0の果たす役割は

大きい。

さらに、人口減少により労働力が不足し、潜在成長率に占める労働投入寄与度のマイナ

14 中田敦『GE 巨人の復活 シリコンバレー式デジタル製造業への挑戦』(2017) 15 江澤『インダストリー4.0 の衝撃』(2015) 、岩本『インダストリー4.0』(2015) 16 江澤『インダストリー4.0 の衝撃』(2015) p37

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ス、熟練技能を持ったマイスターの減少による技術力と競争力を失う、といったことが課

題として挙げられていた。人口減少・少子高齢化が進みドイツでは「ドイツが毎年 10万

人の移民を受け入れても、2030年には労働人口が 650万人減る。毎年 30万人の移民を受

け入れても、労働人口は 100万人減る」と予測されている。17 ドイツの潜在成長率におい

て、今後労働投入寄与度のマイナスが続くと想定 18されているため、社会でイノベーショ

ンを強力に推進しなければならない。さらに、少子高齢化が進み、大学進学を希望する若

者が増えたことにより成績の悪い子供が職人になるという傾向が強まっている。子供の総

数が減り、大学進学者は増え、職人を養成する訓練校に進学する人は急激に減少してい

る。高齢化しつつある職人が保有する技能やノウハウを早く機械に記憶させることが製造

業の課題の 1つとなっている。膨大なビッグデータを蓄積、運用するといったことは製造

業の IoT化の基本的なコンセプトの 1つであり、熟練技能を伝承することができることも

インダストリー4.0が推進される理由の 1つだ。

また、労働コストが安い中東欧諸国に製造業が移転することに歯止めをかけること、米

国の製造業が国内回帰を始め、製造業の本格的な競争力強化に取り組んでいることも要因

の1つだ。米国はドイツが高い国際競争力を持つ自動車、電機、機械、化学の分野で、

IoT 技術を用いてドイツの牙城を崩しにかかっており対策として取り組んでいる。

Ⅳ 中東欧の IoT化の現状

中東欧地域は、1989 年の民主化以降、安い労働コストを背景とした生産拠点としての

優位性から、欧米企業を中心に投資が盛んに行われ、EU 統合に伴い欧州の製造業拠点が

増えてきた。欧州の生産工場という位置づけだ。中東欧でもドイツのインダストリー4.0

の影響が散見され、製造業の IoT 化が進んでいる。以下ではその事例を取りあげ中東欧の

IoT 化の現状を述べていく。

1 中東欧の IoT化の概観

もともとチェコ、ポーランド、ハンガリーはドイツの経済的な影響が強い。というの

も、ドイツの大規模なメーカーは労働コストが比較的な安価な中東欧諸国に生産工場とし

て進出しているからだ。2016 年前後に各国ともインダストリー4.0 への対応および産業

デジタル化普及のための国家戦略を発表しており、実際の政策や企業の動きは失業率、

GDP に占める製造業の割合、各国のドイツとの距離感、IT 企業の数などの要因により異

17 江澤『インダストリー4.0 の衝撃』(2015) p38 18 岩本『インダストリー4.0』(2015)

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なる。

まず中東欧の IoT 化の現状について 2 つの図を示す。図 4 は欧州委員会発表の EU 加盟

28 ヵ国のデジタル化を指数化した「デジタル経済および社会指数」だ。2017 年調査では

中東欧諸国のデジタル化は EU 平均を下回る水準にある。そこで、政府が状況を大きく

改善するための手段として注目したのが、デジタル化による国内産業の再構築である。こ

れが製造業の国際競争力向上、人手不足対応に役立つことが期待される。

図 4デジタル経済および社会指数 出典:欧州委員会 19

図 5は EU 各国のインダストリー4.0 準備状況の分類図だ。各国政府は、現在のポジシ

ョンを「Traditionalists」(従来型製造業)から「Frontrunners」(先駆者)グループに

近づけたいと考えており、各国とも戦略を練っている。

図 5 EU 各国のインダストリー4.0 準備状況の分類図 出典:ローランドベルガー20

19 欧州委員会 https://ec.europa.eu/digital-single-market/en/desi 引用・編集 20 ローランドベルガー https://www.rolandberger.com/publications/publication_pdf/roland_berger_tab_industry

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JETRO21によると、中東欧諸国の製造業の IoT化の相違点として、①IoT(インダストリー

4.0)対応のための施設の設立、②IT 人材の数、③企業への浸透度が挙げられている。政府

主導のインダストリー4.0 対応プロジェクトが最も進むのはチェコで、施設の数にも影響

している。IT 人材とソフトウェアデベロッパーの数はポーランドが最も多いが、他方、

労働力における IT 人材の割合でみるとチェコとハンガリーがポーランドを上回ってい

る。 失業率の高い地域などでは労働コストの競争力が高く、IoT化へのモチベーションが

高いとは言えない。

共通傾向としては①ローカルベンダーの台頭 、②最適な自動化の推進、③生産性、効

率化向上を目的とした自動化が挙げられている。大手ベンダーに比べると安価でサービス

を提供するローカル IT ベンダーが採用される例が多く、また、労働力のコスト競争力の

低下が進む一方、各国の人件費は未だにドイツの 50%以下の水準なので、工場の完全自

動化ではなく、現状の従業員を確保しながら、自動化できる部分から進めているという。

さらに、企業の進める自動化が生産工程全体の最適化というインダストリー4.0の概念と

は結び付いていない。インダストリー4.0 の重要な要素としてデータ統合や予知保全が挙

げられるが、各国ともそうした段階にある企業は少なく、生産性向上や効率化を高める目

的で自動化を進めており、労働者不足が深刻な地域ほどこの傾向は強いという。先述のよ

うな GEの製造業をサービス化していくような事例もあまり見られない。

共通課題としては中小企業の意識の向上と IT 人材の不足が挙げられている。各国にお

いて IoT化が進んでいるのは外資系を中心とした大手企業およびその Tier1(1 次下請

け)クラスだ。グローバルサプライチェーンに組み込まれていない中小企業や Tier2(2

次下請け)以下のサプライヤーは自動化に費やす投資も限られるため、企業によっては対

応が進んでいない。 また、特に IoT 関連技術者が不足していることも IoT化の進展を妨

げる課題となっているようだ。

2 チェコ チェコは GDP に占める製造業の割合が 27.1%と欧州内でも高く(EU平均 19.6%)、

国内製造業の 50%がドイツと取引をしていると言われている。22チェコにおける全体的な

傾向として JETRO23の調査では、①ドイツ系企業を中心としたインダストリー4.0への取り

組み、②Tier1企業は労働者不足への対応として生産効率向上に取り組み、③ローカルベ

ンダーの台頭、④インダストリー4.0 の要素を取り入れているローカル企業は少数派、の

_4_0_20140403.pdf 引用・編集 21 JETRO『中・東欧 IoT ユースケース調査』 22 JETRO『中・東欧 IoT ユースケース調査』 23 JETRO『中・東欧 IoT ユースケース調査』

- 10 -

4点が挙げられている。

まず、外資大手企業はドイツ企業(ボッシュ、コンチネンタル、シュコダ、フォックス

コン)を中心にインダストリー4.0 への取組みを開始している。

次に Tier1企業は労働者不足への対応から生産効率向上に取り組み始めた。日系企業を

中心とした Tier1 企業では、人材不足も一因として、生産工程の自動化、ロボット導入

による省人化に取り組み、生産効率の向上を目的に進める。チェコの人件費はドイツの 3

分の 1 の水準なため、全自動の工場を目指すよりも、できるところから自動化を進めて

いる企業が多いのが現状だ。

また、ローカルベンダーが大手企業のシステム・インテグレーションに貢献している。

製造実行システムやシーケンサ、分散制御システムのレベルではローカルベンダーが開発

やメンテナンスで幅を効かせているという。

そして、インダストリー4.0 の要素を取り入れているローカル企業は少数派だ。一般的

にチェコの中小製造業は、静観している企業が多いが、今後チェコ政府が計画しているイ

ンセンティブ(企業がインダストリー4.0 関連のソリューションを導入した際のコスト助

成プログラム)が開始されると、動きが加速する可能性もあるという。

チェコ企業の意識はアーンスト・アンド・ヤング(EY)がプラハ経済大学デジタル移行

センターと共同で、2017年にチェコ製造業 102 社に行った調査によると、インダストリ

ー4.0 をビジネスの機会と捉えている企業は 76%に上る。利点として挙げたのは、作業

効率の向上(64%)、生産性の向上(56%)、 生産の柔軟性の引き上げ(41%)、経費

削減(33%)となっている。インダストリー4.0 に関連する技術開発や機械への投資にお

ける障害として技術有資格スタッフの不足(57%)、必要とされる投資レベルの高さ

(57%)、データセキュリティー(27%)、インダストリー4.0 に関する意識の欠如

(24%)が挙げられた。24

国の政策としては、2016年にチェコ政府はチェコ版の「プルミスル(Prumysle)4.0」

(チェコ語で「インダストリー4.0」)国家戦略を閣議決定した。責任編集者であるチェコ

工科大学のウラジミール・マジック教授は、プルミスル 4.0 の長期的な目標として①生産

性の向上とサービスの効率化、低料金化を支援する、②チェコのプルミスル 4.0 研究と産

業の競争力強化を進め、解決策の提供能力を身に付ける、③チェコの中小企業がグローバ

ルバリューチェーンに組み込まれるよう支援する、の 3 点を挙げている。25

3 ハンガリー

24 JETRO『中・東欧 IoT ユースケース調査』 25 JETRO『欧州各国の産業デジタル化推進策と IoT 導入事例』

- 11 -

ハンガリーはヨーロッパ諸国の中でも GDPに占める工業生産の割合が 23.6%(2017

年)で、EU平均の 19.6%を上回っている欧州屈指の工業国だ。(ハンガリーより割合が大

きいのは、アイルランド 32.3%、チェコ 27.1%、スロベニア 23.8%)26 特にここ数年の

経済成長を支える自動車産業などで最も存在感を示しているのがドイツ企業だ。ハンガリ

ー・ドイツ商工会議所によると、2015 年は 6,000 社が従業員 30 万人を雇用し、ハンガ

リーの輸出と輸入に占めるドイツの割合はいずれも 27%前後となっている。今後ともドイ

ツ企業の影響によりインダストリー4.0が進むと予想される国の 1つだ。

JETROによると、全体的な傾向として「ドイツなどグローバル企業を中心に、業務の効

率化、労働力不足、作業の安全性の向上などに対応するため、①ロボットの導入、②デジ

タル技術による業務・生産工程の管理等が進む。それに伴い、ドイツやスイス、日本そし

て地元系のデジタルプロバイダの活動も活発になっている。ただし、グローバル企業は本

国などと共有した技術の導入が容易だが、ハンガリー地場企業は独自に企業に適合した技

術開発を自ら行う必要があり、インダストリー4.0 導入のスピードは資本や業務量などの

理由から外資企業の後塵を拝する状況」27となっている。

ハンガリーでは労働力不足や労働コストの上昇、生産性と競争力の改善、製造業重視の

方針から工場の IoT化が進む。28具体的な事例では特にドイツ企業が目立ち、ボッシュは

ハンガリー国内で最初にインダストリー4.0 を電動工具製造工場に導入した企業とされ、

その結果、多品種小ロットを同時に効率的に、そして低コストで柔軟性をもって製造する

ことが可能になった。 SAPやボッシュ、ダイムラーやアウディはこうじょうにインダスト

リー4.0、製造業の IoT化技術を導入し、スマートファクトリー化を進め生産性の向上を

図っている。

政府のインダストリー4.0 の取り組みとしては、「イリニー計画」が進行中だ。長期的

な経済成長を支えると期待される付加価値の高いモノづくりを推進し、GDP に占める製造

業の割合を現在の24.6%から2020 年までに30%に引き上げることを目標としている。

また、政府はデジタル化の進展に伴い労働人口の約10%、30 万~40 万人の仕事がなく

なると予想しており、労働市場では技術専門家のニーズが高まっている。また、インダス

トリー4.0 導入の経済効果として、製造業の生産効率が少なくとも10%向上すると見積も

る。政府関係者は、インダストリー4.0 の推進にはメーカー、研究機関、大学などの国際

的な連携が欠かせないとしている。29

26 JETRO『自動車製造関連を中心に広がる FA 市場(ハンガリー) 77 億ユーロ規模のビジネス機会』 27 JETRO『中・東欧 IoT ユースケース調査』引用 28 JETRO『自動車製造関連を中心に広がる FA 市場(ハンガリー) 77 億ユーロ規模のビジネス機会』 29 JETRO『欧州各国の産業デジタル化推進策と IoT 導入事例』

- 12 -

4 ポーランド JETRO30によると、政府の支援策は徐々に具体化し始めたが、現実の工場でのインダスト

リー4.0 の導入は、他の中東欧諸国と同じく、未だ初期段階にある。ポーランドの有力シ

ステムインテグレーターであるアストール(ASTOR)の調査によれば、ポーランド企業の

多くは、自国産業が第三次産業革命かそれより手前の段階にあると考えている。 しか

し、3 分の 1 の企業がインダストリー4.0 に向けた何らかの措置をとっており、大多数

の企業が競争優位性を確保するうえで決定的に重要であると認識している。2013 年時点

で全く自動化を導入していないと回答した企業は 13%だったが、2016 年には 4%となっ

ている。さらに、完全に自動化していると回答した企業は 26%で、2013 年の 13%から

大幅に増えている。

しかし、もともと労働コストの優位性を武器に欧州の生産拠点として発展したポーラン

ドは、自動化はあまり進んでいない。他国と比較してもロボットの導入割合は少なく、国

際ロボット連盟の「ワールドロボティクス 2017」によれば、2016 年の製造業の従業員 1

万人当たりのロボット保有台数は 32 台で、これは近隣のチェコ(101 台)、スロバキア

(135 台)、ハンガリー(57 台)などと比べても極めて低い水準で、インダストリー4.0

を議論する以前になすべきことはまだまだ多いと評される。また、特に地場企業に顕著だ

が、初期投資に慎重で短期での効果を求める傾向がある。昨今の人手不足を受けロボット

への引き合いは増えているものの、ポーランドでは、投資をできるだけ抑え、少しずつ導

入していこうとする傾向がみられる。短期的効果が比較的検証しやすい予知保全サービス

を導入する企業が多いのもポーランドの特徴ともいえる。31

また、ソフトウェア面で地場企業が活躍 しているのも特徴で、背景としてポーランド

は優秀なソフトウェア人材を豊富に抱えていることが挙げられる。著名なプログラミン

グ・コンテストサイト「ハッカーランク」のランキングによれば、ポーランドは中国、ロ

シアに次ぎ優秀なディベロッパーを抱えている。32

Ⅴ おわりに

前章までは製造業の IoT化とは何か、なぜそれが進むのか、そして中東欧にどのように

影響し広がっていくのかについて論じてきた。この章ではそれを踏まえ中東欧が今後どう

していくべきかについて論じていく。

30 JETRO『中・東欧 IoT ユースケース調査』引用 31 JETRO『欧州各国の産業デジタル化推進策と IoT 導入事例』要約 32 JETRO『欧州各国の産業デジタル化推進策と IoT 導入事例』

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まず、私は中東欧諸国に求められること、最も重要なことは IT人材の育成だと考え

る。前章でも述べたが、各国の共通の傾向としてローカルベンダーの台頭、課題として IT

人材の不足を挙げた。ドイツ発のインダストリー4.0は世界で確実に進行していく中、IT

関連の需要は増え、従来の工場におけるような単純な労働力が求められる仕事はいずれ世

界中から消えてしまう。

しかし、ドイツがインダストリー4.0を進めるから IT人材を増やす、という理由だけで

はなく、ヒトがモノを作るということがなくなってしまう世の中に備えて ITに精通する

国になるべきだと考えている。ヒトがモノを作らない世の中になっても、つまり AIなど

で自律的に動く工場が実現しても、それらを管理するシステムエンジニアといった職業は

絶対になくならないはずだ。というのも、中東欧諸国はもともと外資の生産工場という意

味合いが強く、また、ドイツ企業は前述のようにこれ以上中東欧諸国に積極的に進出する

ことがなくなったり、今後撤退することも考えられる。そうなった場合、各国は膨大な雇

用と主力産業の消失が生じる可能性がある。しかし、現在進行中の製造業の IoT化を契機

に、IT 人材を増やし、IoT関連のノウハウを蓄積すれば自国以外に生かすことも、つまり

輸出もできるはずだ。そうすれば外資が撤退しても新たな主力産業として国を盛り立てる

ことができると考える。

参考文献一覧

岩本晃一『インダストリー4.0 ドイツ第 4 次産業革命が与えるインパクト』(2015)日刊工

業新聞社

江澤隆志『インダストリー4.0 の衝撃』(2015) 洋泉社 MOOK

大野治『IoT で激変する日本型製造業ビジネスモデル』(2016)日刊工業新聞社

大野治『日本型 IoT ビジネスモデルの壁と突破口』(2019)日刊工業新聞社

尾木蔵人『決定版 インダストリー4.0 第4次産業革命の全貌』(2015)東洋経済新報社

中田敦『GE 巨人の復活 シリコンバレー式デジタル製造業への挑戦』(2017)日系 BP 社

山田太郎『日本版 インダストリー4.0 の教科書』(2016) 日系 BP 社

KDDI 公式サイト 2020 年 1 月 21 日閲覧

https://iot.kddi.com/iot/ JETRO『中・東欧 IoT ユースケース調査』 2020 年 1 月 21 日閲覧

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/b649abb34a5f9d0b/20180017_01.pdf JETRO『自動車製造関連を中心に広がる FA 市場(ハンガリー)77 億ユーロ規模のビジ

ネス機会』 2020 年 1 月 21 日閲覧

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https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2018/f607ec141ac2a290.html JETRO『欧州各国の産業デジタル化推進策と IoT 導入事例』 2020 年 1 月 21 日閲覧

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/1a84f835a1faf51a/20160123.pdf#page31 JETRO『中・東欧 IoT 調査 ユースケース集』 2020 年 1 月 21 日閲覧

https://www.jetro.go.jp/ext_library/1/_Reports/01/b649abb34a5f9d0b/20180017_02.pdf 欧州委員会 https://ec.europa.eu/digital-single-market/en/desi 2020 年 1 月 29 日閲覧

ローランドベルガー

https://www.rolandberger.com/publications/publication_pdf/roland_berger_tab_industry_4_0_20140403.pdf 2020 年 1 月 29 日閲覧