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How to make a local herbarium in Japan

Article · February 2016

DOI: 10.18942/bunrui.KJ00010238508

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2 authors, including:

Some of the authors of this publication are also working on these related projects:

Taxonomy and systematics of the genus Sagittaria View project

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Takashi Shiga

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ISSN 1346-6852 Bunrui 16(1): 17-30 (2016)

日本植物分類学会第14回大会(福島)公開シンポジウム講演記録これからの標本室 ~ハーバリウムの管理・運営や情報発信,利用に関する新しい流れ~

植物さく葉標本室をつくろう

黒沢高秀1・志賀 隆2

1 福島大学共生システム理工学類(〒960-1296 福島県福島市金谷川1)2 新潟大学教育学部(〒950-2181 新潟市西区五十嵐2の町8050)

Takahide Kurosawa ([email protected]) and Takashi Shiga: How to make a local herbarium in Japan

 さく葉標本は植物分類学的な研究の基礎になるだけでなく,地域の植物研究の拠り所となり,保全活動や環境行政を支え,生育する種類や産地などの次代への知識の継承の役割も果たす.そのため,さく葉標本を一定数保持し,地域の植物の研究者に開かれた公的な標本室がない地域では,地域の植物の研究,特に植物誌やレッドデータブックの編さんなどの網羅的な研究を行う場合,標本室がある地域に較べて,多大な労力が必要であろう.さらに,これらを改訂する際には,証拠標本に当たることができず,誰も詳しい産地がわからない種類や,消滅したのか誤同定なのか不明な種類が多数出てくるなど,困難を極めるであろう.日本分類学会連合データベース委員会が2015年3月時点でまとめた「国内重要コレクション調査[植物標本]」(http://www.ujssb.org/collection/index.html,2015年11月29日確認)によると,都道府県単位で見ても,山梨県,香川県,長崎県には維管束植物に関して十分な量(目安として1万点以上)の標本を備え,活動中である標本室がない(広島県と愛媛県では植物全体として1万点以上報告されているが,前者は活動中かどうかの情報なしとされ,後者は維管束植物が何点あるか明らかにされていない).一方で,同じ地域に公的標本室が沢山あるのも,様々な非効率が生じ,考え物である.本稿では,執筆者の経験を踏まえながら,公的な標本室がない地域で設立が可能な立場にいる人向けにつくり方を,既に利用できる標本室がある地域の人向けに標本室への関わり方を解説したい.標本の作り方(近田ほか 2003,豊橋市自然史博物館 2005,内貴 2007など),標本の寄贈のしかた(総説として黒沢(2011),志賀(2013)がある),標本室の管理のしかた(Bridson and Forman 1998,近田ほか 2003など)に関しては多くの文献があるが,意外なことに標本室の設立のしかたや,標本寄贈以外の標本室への関わり方に関する文献はほとんどないようである. なお,本稿において,特に断りがない場合は,標本室はさく葉標本室 herbarium を指す.また,標本室は,Bridson and Forman(1998)では全世界の標本が集まる国際さく葉標本室

(general herbaria または international herbaria),近隣国の標本を多数含む地域さく葉標本室(national herbaria または regional herbaria),主に一国の標本からなる国内さく葉標本室

(local herbaria)に区分されている(訳語は黒沢(2011)をもとに一部改変).日本にある標本室は,地域さく葉標本室や国内さく葉標本室にあたる.これは,世界的視野からみた標本

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第16巻  1号18 分  類

室の区分で,日本にある標本室の区分には,国内さく葉標本室をもう少し細かく区分した方が良さそうである.日本の国内さく葉標本室は,全国の標本を広く収集している標本室と,その標本室がある地域の標本を中心に収集している標本室に分けられる.後者の場合,都道府県内がほとんどで,近隣都道府県の標本をも等しく多数含む標本室はあまりない.そのため,全国の標本が集まる標本室を狭義の国内さく葉標本室,主に一都道府県内の標本からなる標本室を「都道府県内さく葉標本室(Japanese local herbaria)」と呼ぶことにする.本稿において対象としているのは,標本を国内の職業研究者,あるいは地方の研究者に公開している,公的な都道府県内さく葉標本室である.

公的標本室をとりあえずつくる 標本を私蔵することと,これを基に標本室を作ることとは,どこが異なるであろう.標本の量や設備の違いというよりは,自分や親しい人だけが標本を利用する前提で整備するか,それ以外の不特定多数が利用することを考えて整備するかの違いが大きいと思われる.標本室を作るということは,自分や身内以外の人が標本を利用できるような状態にすることである. 自分が採集した標本,寄贈された標本,前任者が残した標本,あるいは植物誌やレッドデータブック作成時に作られた標本など,いずれにしても標本があり,それが管理者以外でもわかるような配列に配架されていて,博物館・資料館あるいは大学など外部者の利用可能な公的な機関で保持していれば,公的標本室の一応のできあがりである.標本を増やすことを考えなければ,防虫や防湿以外に手間やコストはほとんどかからない.とくに支障がなければ,これでも良いと思われる. この「とりあえずの標本室」に必要な標本自体以外の物品・設備は,標本を置く場所,除湿機,標本棚あるいは箱,および後述する防虫に関する設備のみである.その他,来訪者が記帳する帳面(来訪者ノート)は,この段階でも何かの時のための記録として作っておいた方が良いであろう.標本を置く場所は部屋のような区切られた場所が望ましい.花弁などの柔らかい部分を好んで食害するチャタテムシ類を発生させないためには,相対湿度を50% 程度以下に保つ必要があり(杉山 2000),低い湿度の維持には,部屋のような区切られた場所で市販の除湿機をかけるのが効率的と思われるからである.地震対策や防虫管理のために,標本をしまうのは棚より箱(アーカイバル容器を含む)が望ましい.標本箱は,寄贈者や前任者が用いていたものが利用できることも多いと思われるが,購入が必要な場合もある.購入する場合,木製または金属製のさく葉標本専用のものもあるが表1のように高価である.外部の利用者が頻繁でない場合は,4,000~5,000円程度で標本が200~300枚程度入るアーカイバル容器(例えば,資料保存器材社製,組み立て式棚はめ込み箱)で良いであろう(図1A). 外部も内部も含めて頻繁な利用がない場合は,台紙に貼る,正式なラベルを作るなどする必要はなく,必要な情報(金井 1979-1980,藤井 1995,豊橋市自然史博物館 2005,黒沢 2011)が記された新聞紙に挟まれた状態や「仮ラベル」(金井 1995)が付された状態で十分かもしれない.自分以外の人が標本を利用できるような状態にするためには,むしろ,標本をどのように配列するかが重要である.さく葉標本は,別の人が別の時期に採集した標本でも,同じ科ごとにまとめる.そして,一つの科の標本が多数あり,何束あるいは何棚かになる場合は,属ごとに束または棚にまとめる(まとめる際はカバー紙(ジーナスカバー)と呼ばれる

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February 2016 19黒沢・志賀:植物さく葉標本室をつくろう

表1. 福島大学共生システム理工学類生物標本室(FKSE)および新潟大学教育学部植物標本室(NGU)で標本一枚あたりの標本整理にかかる値段。アルバイトの場合,時給900円で換算している.入力・ラベル作成,貼り付け,同定は,標本の種類や状態によって大きく異なる.経験や作業者への聞き取りに基づくかなり大まかな数値である(黒沢 2011を改変).

事項 標本1枚あたりの値段 根拠,前提,仕様,メーカーなど

標本室をとりあえず作る時期の経費 標本台紙 14.5円(NGU)

40.0円(FKSE)ナポレンホワイト菊判,90kg,45×31cm,1,000枚14,500円(2015年4月1日,山忠アートメディア事業部,NGU); ダイヤペーク45×30cm,2,000枚80,000円(2015年10月14日,N 理化製作所,FKSE).

 カバー紙 2.8円(FKSE) 4.0円(NGU)

彩美カード67.3×46cm,200枚17,000円(2015年10月14日,N 理化製作所,FKSE); ボンアイボリー+,265kg,66×46cm,100枚12,000円(2015年4月1日,山忠アートメディア事業部,NGU).一枚に標本を平均30枚入れるとして.

 ビニール袋 0.6円(NGU) ユニパック SL-4,100枚1880円,1袋に標本を平均30枚入れるとして.

 ここまでの小計 19.1円(NGU) 42.8円(FKSE)

標本室を発展させる時期の経費 標本箱 25.0円(NGU)

84.0円(FKSE)資料保存器材社製組み立て式棚はめ込み箱,50×40×30cm,5,000円,一箱に標本を平均200枚いれるとして

(NGU); 宮垣鋼器製168,000円,一台に標本を平均2,000枚入れるとして(FKSE).

 ここまでの小計 44.1円(NGU)126.8円(FKSE)

地域を代表する標本室にする時期の経費 入力・ラベル作成 60.0円(FKSE)

60.0円(NGU)一時間で標本15枚として

 貼り付け 90.0円(FKSE) 一時間で標本10枚として 配架 15.0円 一時間に標本60枚として(実際には FKSE, NGU とも

アルバイトでは行っていない) ここまでの小計 104.1円(NGU)

276.8円(FKSE)

オプション 画像スキャン 15.0円(FKSE) 森口ほか(2012)の高速デジタル化法を用いて一時間

に標本60枚として(FKSE) 同定 90.0円 一時間に標本10枚として(実際には FKSE,NGU とも

アルバイトでは行っていない) 総計 104.1円(NGU)

291.8円(FKSE)

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第16巻  1号20 分  類

紙で挟むことが多い.種ごと以下も同様).さらに同じ属の標本が多数ある場合は種ごとに,同じ種の標本が多数ある場合は種内分類群ごと,同じ分類群が多数ある場合は産地などごとにまとめる.科内では学名のアルファベット順に並べるのが普通である.科の順番は,分類学的研究を行う研究者が主な利用者である標本室では,一般的にコープランド体系(シダ類,Copeland 1947)と新エングラー体系(裸子植物 Melchior and Werdermann 1954; 被子植物 Melchior 1964)の組み合わせ,あるいは Christenhusz らの体系(シダ類 Christenhusz et al. 2011a,2011b; 裸子植物 Christenhusz et al. 2011c)と APGIII 体系(被子植物 Haston et al. 2009)の組み合わせによって科が配列されている(海老原ほか 2013).しかし,地元の研究者や学生が主な利用者である場合は,科の学名のアルファベット順としたほうが利用者にとって便利かもしれない.いずれにせよ,一度配列した標本の並び方を変更するのは多大な労力がかかる(海老原ほか 2013).途中で配列の変更をしないで済むよう,標本室の現在の利用者や標本室の将来像をよく考えて並べ方を選択すべきであろう.採集者や採集場所などにまとめず,徹底的に種類ごとにまとめることは,考古や歴史資料のような人文系の資料だけでなく,昆虫などの自然史系の標本においてさえもほとんど行われることのない,さく葉標本独特の整理方法である.この整理方法のお陰で,ある程度の標本室の知識を身につけた分類学者は,初めて訪れた標本室でもすぐに目的の標本を一人で探し出すことができる.このことは,定期的な交換標本制度と並んで,植物分類学的研究において標本が活発に利用される基礎となっていると思われる. 防虫に関する設備は,50℃以上になる恒温機か(瀬戸口 1995),-18℃以下に冷やすことができる強力な冷凍庫(Bridson and Forman 1998)があると望ましい.しかし,小規模な標本室であれば,タバコシバンムシやジンセンシバンムシが発生した標本室や個人から標本をそのまま受け入れるようなことをしなければ,規模不相応な設備を保有する必要もないであろう.利用があまり多くない場合は,チャック袋に標本の束を入れるのも効果的である(図1B).いずれにせよ,この段階でも,チャタテムシ類など防ぐことが不可能に近いものを除いて,害虫を外部から持ち込まないようなシステム作りをすべきである.収蔵庫の湿度を低く保った上で厳密な害虫持ち込み防止措置をとり,フェ

図1. 新潟大学教育学部植物標本室(NGU)で使用しているアーカイバル容器(A)および防虫のために使用しているチャック袋に入れた標本(B).

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February 2016 21黒沢・志賀:植物さく葉標本室をつくろう

ロモントラップなどでモニタリングをして早期発見・侵入経路特定に努め,発生が確認されたら被害が広がらないよう必要な措置をとるという,IPM(総合的有害生物防除管理 Integrated Pest Management)(杉山 2000,秋山 2002)が推奨される.なお,日本の植物標本室では,忌避効果があるナフタレンを大量に設置して,害虫が外部から入り込むのを防ぐのが一般的であったが,ナフタレンには周囲への臭気の拡散や,毒性,発がん性のおそれなどの問題点がある(秋山 2002).そのこともあって,2015年11月1日に施行・適用された特定化学物質障害予防規則等の改正により,特定第2類物質に位置づけられると共に,特別管理物質になり,使用には様々な義務と規制が生じるようになった(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/ 0000101692.pdf,2015年12月2日確認).また,ナフタレン臭は,植物分類学者が気にならない程度でも,周囲にとっては相当不快に感じられるものである(秋山 2002).標本室や標本に対する周囲の悪い印象を助長し,標本室拡充に対する反対や,退職や死去後に同僚や家族によって標本が廃棄されることの原因の一つになっていると思われるので,なるべく使用すべきではないだろう.他に方法がない場合は,周囲に最大限の配慮や気配りをしつつ,慎重に取り扱うべきである.

標本室を発展させる とりあえず標本室をつくった場合でも,もし地域の植物研究の拠り所となることを目指すと,どうしても標本は増えてゆくであろう.また,特に公的な標本室がない地域,あるいはあっても不十分な地域に設立した場合,標本寄贈の切実な要望に直面するかもしれない.標本が増えるようになった場合は,1,000~2,000点を超える頃までには標本室の管理システムを整えたい.管理システムの整備内容は,貼付道具や消耗品の準備,台紙やカバー紙(ジーナスカバー)の規格の統一,ラベル作成システムとデータの蓄積方法の整備,配架済み標本に対するこれらの遡及(ラベルデータ入力や,規格外の台紙の交換)である. 標本の利用がほとんどなく,保管が主目的の場合は,台紙に貼らず新聞紙に挟まれた状態でも,あるいは様々なサイズや紙質の台紙に貼られていても構わないと思われる.しかし,利用がある程度の頻度になると,新聞紙に挟まれた状態では標本を見る際に新聞紙を開く手間や,その際に標本の一部やラベルを落とすなどして紛失するおそれがある.また,様々なサイズや紙質の台紙に貼られていると,特に小さな堅い台紙は他の標本を破損するおそれがある.今後のために,新たな標本は統一した規格の標本の台紙に貼付することを考えた方が良いであろう.また,余裕があれば規格外の台紙の標本,特に小さな堅い台紙のものを貼り直すと良いであろう.標本の台紙への貼り付けは,以前はアラビアゴムの粉末を溶いて細い紙に塗ったものが使われた.海外ではスプレー糊などで行われることも多い.現在,国内の主な標本室のほとんどでは,金井弘夫氏が発明した,ラミントンテープ(樹脂をコートした紙)を電気で熱したこてで貼る押葉標本貼付システムが採用されている(金井 1974).ラミントンテープ,細(幅5mm)1巻500円(税別,以下同様),太(幅10mm)1巻600円と,押葉標本貼付器(1台26,000円)は双羽製作所の専売品である(金井 2009).種子や標本断片は,種子袋と呼ばれる袋に入れて直接貼るほか,その種子袋を折った紙で包んだものを貼る,あるいは折った紙を台紙に貼ったものに種子袋なしで直接種子等を入れる方法もある.種子袋は以前には双羽製作所で一枚あたり大(8.5×12cm)7円,中(6.5×10cm)6円,小(5×7cm)6円

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第16巻  1号22 分  類

で販売されていたが,職人の引退で販売終了となった.全国の標本室の間で困惑が広がったが,それぞれ独自の方法で凌いでいる.福島大学共生システム理工学類生物標本室(FKSE)では大学出入りの業者に依頼して,中に当たるサイズのものを1枚13円で納品してもらっている. 台紙は,国内の主な標本室,それも特に自分が管理する標本室と関連が深い標本室で使われている紙やサイズに合わせるのが無難であろう.表2に国内の主な標本室の台紙の紙の種類とサイズを示す.誤って台紙に貼ってしまった標本を交換や寄贈に出す時や,後述のように何らかの理由で標本室を閉じなければならなくなった時に,寄贈がスムーズに進むための配慮による. 標本を増やす際には,標本ラベル作成システムを整えておくと効率的である.電子データの蓄積も兼ねて,マイクロソフト社のエクセルのような表計算ソフトウェアに入力するのが基本である.電子データを蓄積すると,検索が瞬時にできるようになり,標本や標本室の価値や活用の利便性が飛躍的に高まる.表計算ソフトウェアのデータを用いてマイクロソフト社のワードの差し込み印刷機能を用いて打ち出すのが簡易な方法である.和名と学名のリストがある際には,ファイルメーカーなどのデータベースソフトのリレーション機能を用いると,和名の入力だけで学名などを自動入力できて,さらにラベル印刷ができる.現状では,海老原(2011)が指摘しているように,植物名の管理には学名ではなく,和名が適している.電子データに入力する項目は,独自の様式にするのではなく,S-Net(サイエンスミュージアムネット,http://science-net.kahaku.go.jp/,2015年12月2日確認)などの有力な全国的データベースに合わせるのが無難である.具体的には福田ほか(2010)に示してあるデータセットのうち,ラベル作成に必要な和名,学名,採集者,採集場所,標本番号に関する最小限の項目について,S-Net の指定する形式で入力するのが良いであろう.標本室の標本番号(標本1シートに1番号)はこの段階までにラベルか台紙に印字するシステムにした方が良いであろう.後で調べて書き加える遡及作業には,意外と手間がかかる.標本ラベル作成システム全部を個人で整備するのは大変な労力が必要である.他の標本室で確立されたシステムを提供してもらい,当該標本室に合わせて改良するのが合理的であろう. 配架済み標本に対するラベルデータ未入力標本の遡及入力や,規格外の台紙の網羅的な交換は,行うことを決めたら早めに行う方が,最終的なコストや精神的な負担は少なくてすむ.できればあまり標本数が増加する前に行いたい.遡及入力は古い大きな標本室では莫大な労力と費用と歳月が必要で,日本ではなかなか進んでいないのが実情である(海老原 2011).標本室の全ての標本のデータが電子化されていると,標本室管理の上で便利になるだけでなく,特定分類群の研究にも,植物誌作成やレッドデータブック作成などの網羅的な研究にも大きな力を発揮する(主要な都道府県内さく葉標本室の例であるが,神奈川県植物誌調査会 2001,千葉県レッドデータブック改訂委員会 2009).そのような状況を比較的簡単に実現できるのは,作り始めの標本室ならではである. この段階になると,標本箱,標本台紙,カバー紙(ジーナスカバー)などの備品や消耗品が経常的に必要になってくる.これらは標本一枚あたり130円程度(標本箱を除くと45円程度)であるので(表1),整理する標本数が年間数百点程度の増加であれば,年間十万円程度以下で済む.地方大学の一研究室でも,個人でも捻出が可能な額である. 外部の利用者が一定数以上ある場合は,利用者の手引きを整備したい.利用者の整備に際

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February 2016 23黒沢・志賀:植物さく葉標本室をつくろう

表2.国内の主な標本室*の台紙とカバー紙(ジーナスカバー)の規格.

標本室 台紙の紙の種類(斤量)とサイズ

カバー紙(ジーナスカバー)の紙の種類(斤量)と加工・サイズ

備考

北海道大学総合博物館SAPS

双羽製作所押し葉標本台紙,42×30cm

双羽製作所ジーナスカバーの白,62×43.5cm(本州用);ACカード

(200kg)の空色,65.5×46.0cm (千島サハリン用);ケンラン(180kg)のふかみどり,65.5×46.0cm(北海道用);ケンラン

(180kg)のべに,65.5×46.0cm (外国用)

標本台紙は透明袋(通称)に入れている. ビニール質ではなくセロハン質.透明度はよいが,現在の購入品は静電気がおこり出し入れの際に注意が必要.以前の製品はそのようでなかった印象.

東北大学植物園TUS(TUSGも含む)

ダイヤペーク(180kg)の白,45×30cm

彩美カード(175kg)の白,濃クリーム,あさぎ,うぐいすの4色

(日本用は白,外国用は産地により紙の種類や色を変える),67.3×46cm

国立科学博物館TNS ナポレン(220kg)の ホワイト,43×33cm

ナポレン(265kg)のホワイト, 1線筋押入62×43cm,2線筋押入

(マチ2cm)64cm×43cm千葉県立中央博物館CBM

アラベール・ナチュラル(139kg),42×30cm

日本産はアラベール・ナチュラル(139kg),外国産は紀州色上質厚口A判Y目,62×44cm

東京大学総合研究博物館・理学研究科附属植物園TI

パウダリーアイボリー(200kg),45×30cm

パウダリーアイボリー(200kg),66×46.5(以前は63~64×45.5)cm,マチ3cmつきの場合69×46.5cm;仕分けなど用途により ケンラン(265kg),66×48,5cm

(色はいろいろ);マチつきとケンランは最近は博物館のみで使用

首都大学東京牧野標本館MAK

ダイヤペーク(180kg)白,42×29cm

ピーチケント(220kg),一線筋押入61×43cm

標本台紙にセロハンのカバーをつけている.タイプ標本のみ赤い縁のビニール袋に入れている.

神奈川県立生命の星・地球博物館KPM

双羽製作所押し葉標本台紙,43×29cm

双羽製作所ジーナスカバー, 62×43.5cm

金沢大学植物標本庫KANA

ピーチケント(135kg),42×29.7cm(A3サイズ)

HSKアイボリー(265kg),折線 2カ所入59.4×42cm(A2サイズ)

京都大学総合博物館KYO

白老上質(93.5kg), 45×31cm

AWカード(399kg),2つ折用  折り目[罫線加工]66.8×46.8cm

大本花明山植物園OOM

しらおい菊判(215kg),45×31cm

HSKアイボリー キク判(93.5kg),63.6×46.8cm

大阪市立自然史博物館OSA

ナポレン(草本等の軽い標本は90kg,木本等の重い標本は121kg)の ホワイト,45×31cm

アイベスト(265kg),69×46cm,筋入れ加工1本

高知県立牧野植物園MBK

ふつうはクラーク70(125kg),果実がある など重みのある標本は竹バルキー(220kg), 45×31.7cm

色つきはケンラン(220kg),白はゴールデンアロー(180kg),2折 加工68×46cm(四国は水色、四国以外の日本は黄色等,標本が収集された地域により色を変える)

*日本分類学会連合データベース委員会が2015年3月にまとめた「国内重要コレクション調査[植物標本](http://www.ujssb.org/collection/index.html)で,新しい情報が得られ,維管束植物の登録(整理済)標本点数20万点以上かつ活動中で,Index Herbariorum に登録されている標本室,および東京大学総合研究博物館・理学研究科附属植物園,京都大学総合博物館.

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第16巻  1号24 分  類

しては,その標本室の位置づけやビジョンをある程度確定しておく必要がある.外部の利用を積極的に増やしたいかどうか,その外部は地元の植物の研究者か他の研究機関の研究者か,非意図的な標本破損のリスクをどの位許容するか,DNA 用のサンプリングなどの標本を不可逆的に破壊する活用法をどこまで許容するか(海老原 2016),防虫に関してどの程度厳密に行うかにより,利用者の手引きの内容は変わってくる.付録に福島大学共生システム理工学類生物標本室 FKSE のものを掲載する.地元と他の研究機関の研究者の利用を共に増やしたいと思っており,非意図的な標本破損のリスクよりも利用者の利便性を優先し,標本を不可逆的に破壊する活用法を一定レベル許容し,防虫に関して厳密に対処する標本室の利用者の手引きの例である.いずれにしても,標本室や標本利用による成果に関する情報を還元してもらう工夫は,後述する周囲の理解を得る問題に対応するために,利用者の手引きに必ず含めておくべきであろう. 標本室や標本の他の研究機関の研究者の利用を積極的に増やしたい場合は,標本貸し出しや標本寄贈に応じる体制も整えたい.標本貸し出しは,標本室訪問による利用に較べて,標本の非意図的・意図的な破損のリスクが格段に高まるだけでなく,貸し出し先によっては紛失の可能性や返却されない可能性すら出てくる.そのため,貸出先の限定や,貸し出し依頼をうけた際の可否の判断は重要になってくる.FKSE では,標本室を保持している場合,あるいは標本貸し出しを伴う研究成果がある場合は,基本的に貸し出しを許可する方針であるが,Index Herbariorum 登録標本室(http://sweetgum.nybg.org/science/ih/,2015年11月29日確認)に限る,個人的によく知っている人に限るなどもあるだろう.標本貸し出しや標本寄贈の書類の例は藤井(2012)に掲載されている. この段階で十分に気をつけるべきことは,同僚等の周囲の理解を得るよう努めることと,標本室を何らかの原因で閉じなければならなくなった際のことも普段から考えておくことである.標本が増え,標本箱を置くスペースが増えてくると,周囲との軋轢が生じるようになる可能性も増えてくる.周囲が自然史系の専門家でなければ,標本を無価値で,標本室はスペースの無駄と思う人はむしろ多いであろう(例えば中西 2015).あるいは自然史系の専門家であってもそう思う人は結構多いかもしれない.ナフタレンを使っている,あるいは使っていなくても過去に使っていた標本が含まれると,標本室管理者が気づかない場合でも,周囲には悪臭源として迷惑がられているかもしれない.筆者の一人(黒沢)は教育学部時代に標本室に使っていた部屋を,理科の会議およびその若手のワーキンググループでの審議を経て立ち退かされる憂き目に遭ったことがある(黒沢 2002).前任者が約20年前のキャンパス移転時から使用していたものの元々は理科の共通の部屋という位置づけであり,新課程が作られるという理由があったが,その部屋の標本室としての利用の継続に誰の賛同も得られなかった.若手のワーキンググループの手助けもあり,学部が管理している別の部屋を借りることで標本室と標本の存続ははかられた.しかし,標本を用いた業績を積み重ね,自分の分野の証拠標本として重要であることをアピールするだけでは不十分であり(地方の大学などではその分野のポスト自体がなくなることも多い現状では当然であろう),周囲に社会的にも重要で,その組織にとっても価値があることを認識してもらうことの大切さを痛感した.周囲の理解を得るためには様々な方法があると思われる.近い分野の同僚がいる時には,その同僚の標本を受け入れる,標本から得られるサンプルを提供する,標本を用いた共同研究をするなどは直接的な効果が得られるが,そのような同僚は元々理解を持っている場合が多

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February 2016 25黒沢・志賀:植物さく葉標本室をつくろう

いであろう.古い標本の価値を活かして,大学の創立記念などのイベントに積極的に企画を出し,あるいは展示などで協力することは,特に運営の中枢にいる人達の理解を得るのに効果的であるだろう.大学などでは,標本室を持っている海外の姉妹校や協定締結校があれば,交換標本をするのも手かもしれない(ただし,執筆者らはこの方法をまだ試していない).貴重なコレクションが寄贈された際など,マスコミに取り上げてもらうと,同僚だけでなく事務職員など広い理解が得られるだけでなく,その標本の寄贈者にとっても嬉しいものである.貴重な植物が見つかった際に,証拠となる標本の寄贈先や保管先として,記事の最後の方に加えてもらうのも手である.来訪者ノートを元に標本室利用者の統計を算出し,様々な機会に公表する,標本室に関する記事や報告を学会誌や研究会誌,同好会誌に機会を見て書いておくことは,周囲の理解を得る特効薬にはならないが,長期的には誰かの目にとまるなど,何かの時に役に立つかもしれない.また,標本室管理とは関係ないように思われるかもしれないが,普段から周囲と協調的であることを心がけ,敵を作らないことも実は重要である. 標本室に寄贈標本が集まるようになり,外部の利用が増加し,標本が論文に引用されるようになると,その標本室の標本が廃棄される,あるいは利用できなくなった時に研究に与える影響は甚大である.博物館や資料館のように廃棄の心配がない場所以外,標本室が永続的なものになるよう,様々な機会を捉えて活動すべきである.具体的には,大学の研究室あるいは教員個人で管理している標本を,大学博物館や資料館が保管するよう交渉する,そのようなものがない場合は設立を求めてゆくなどである.しかし,活動や交渉を粘り強く,かつ適切に続けても,うまくいく方が少ないかも知れない(例えば中西 2015).そのため,これと並行して,何らかの原因で標本室を閉じなければならなくなった際のことも普段から考えておくべきである.具体的には,標本室を閉じた際の標本の寄贈先の標本室を決めておき,いざとなった時に引き受けてもらえるよう交渉しておく必要がある.これらは,標本を増やすことと同じぐらい重要なことである.

地域を代表する標本室にする 1万点を超えるような大型のコレクションの寄贈があるとそれまでのような標本整理方法では立ちゆかなくなる.年間数百点以上の標本を整理するのは,標本室管理自体を業務としている場合を除き,個人ではなかなか困難であろう.データ入力,標本貼り付けなどのボランティアやアルバイトが必要になってくる.配架と未同定標本の同定をボランティアで行い,オプションで画像スキャンを行っている FKSE では,備品や消耗品も含めて標本一枚あたり300円程度かかっている(表1).新潟大学教育学部植物標本室(NGU)では,学生指導の一環として2週間ごとに半日程度の標本整理(標本貼り付け,配架,未同定標本の同定)の時間を作り,年間で800~1,000点程度の標本整理を進めている.アーカイバル容器の標本箱を利用し,アルバイトをほぼ利用していないことから標本一枚あたり100円程度の費用で済んでいる.しかし,ボランティアがいない場合,年間数千点以上の標本を増やすためには数十万円以上のコストがかかる.このような状況になると,優秀なアルバイトの確保,資金の調達が課題となり,理解あるボランティアは標本室の運営に大きな助けとなる.  この段階では,標本の入力や貼り付けに関して,優秀で長く勤続するアルバイトを確保することは重要である.入力や貼り付けの作業は,内容を覚えてもらうのに少なからず時間が

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第16巻  1号26 分  類

かかり,アルバイトが頻繁に交代すると教える手間や時間がかかる.長く勤続すると入力や貼り付け作業に慣れて仕事が早くなる.しかし,それだけではなく,優秀で経験が豊富なアルバイトは,入力データやラベルのミスを発見して自分で訂正したり,破損していたり不適切な張り方をした標本を見分けて自分で修理したり,時には同定間違いや複数種類の混合標本(「コンタミ」)を発見して教えてくれる.その他,管理者の留守中に標本調査に訪れた研究者に適切に対応をする,標本整理のシステムがうまく回っているかに気を配り,問題を見つけてアドバイスをくれる.標本室を運営する上で頼れる仲間となってくれるのである.しかし,資金が豊富であるとは限らないので,能力に見合った処遇をすることができないことが多いと思われる.そのような時にできるのは,職場環境をなるべく良くする,勤務時間や休日の希望に柔軟に対応する,休憩の時間を適宜設ける,日頃から感謝の意を示すぐらいであろうか.優秀で長く勤続するアルバイトの処遇や雇用の継続は常に頭を悩ます問題である. 年間数十万円以上の標本整理の資金を経常経費から出せる状況にある標本室は必ずしも多くないであろう.必然的に外部資金に頼ることになる.生物多様性保全行政に関する地方自治体の調査,都道府県誌や市町村誌の執筆のための調査,レッドデータブックやレッドリスト作成や改訂の調査などは,標本室にとって比較的獲得しやすい外部資金であろう.地域にとって重要なコレクションの整理は,うまくコレクションの特色をアピールできれば,地域の競争的研究資金に採択されるようなテーマになるであろう.標本の整理自体で科研費や企業の外部資金に応募するのは無謀と思われるが,うまくテーマ設定すれば,費用の一部を標本整理にかかる備品,消耗品,謝金に当てることができるであろう.地域の研究者に標本室運営の理解や共感が広がれば,寄付をしてくれることもあるかもしれない.次に述べるS-Netと GBIF(Global Biodiversity Information Facility 地球規模生物多様性情報機構,http://www.gbif.org/,2015年12月2日確認)へのデータの提供は有償なので(福田ほか 2010; 2014年実績では一件あたり税別で40円),元が取れるほどではないが,標本整理の一部に充当することができる. ラベルデータが1万点を超えるようになったら,S-Net や GBIF へのデータの提供を考えると良いであろう.保持している標本やそのデータを社会に広く活用してもらうという意味もあるし,多少とも標本整理のための資金を得るという意味もある.指定した形式にデータを合わせるのに最初は手間がかかるが,何年か続けるうちにノウハウが蓄積され,少しずつ効率よく提供できるようになってくる.S-Net と GBIF の窓口は国立科学博物館が行っており,問い合わせ先等の情報が福田ほか(2010)に掲載されている. 標本のラベル情報を電子化してデータを蓄積している標本室は,国内でだいぶ多くなったが,スキャンをして標本画像の電子データを蓄積している標本室はそれほど多くない.小川

(2008)や森口ほか(2012)はこの分野での日本の取り組みが諸外国に較べて遅れている現状を指摘しているが,現在でもその状況は変わっていない.標本画像に関しては,ラベル情報における S-Net や GBIF のような,データ提供の敷居の低い公的なデータベースがないことや,スキャナなどの特別な装置(例えば徐ほか 2006)や画像処理ノウハウ(小川 2008,森口ほか 2012)が必要なことが,取り組みを遅らせているのかもしれない.例えば森口ほか

(2012)の方法を使えば,一度システムを作ってしまうと,ラベル情報の入力よりも少ない手間やコストで標本画像の電子化が可能である(表1).小さな標本室であれば,全標本画像の電子化もそれほど困難ではないと思われる.今のところ,標本室運営における必要性は,ラ

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February 2016 27黒沢・志賀:植物さく葉標本室をつくろう

ベル情報の電子化より高くはないが,標本画像の電子化や公開は,分類学的研究の進展のためにも,標本室の持つ情報の社会への還元のためにも,取り組む価値がある事業であると思われる.

永続的な標本室にする この部分は執筆者らにとってまだ経験のない領域であるので,簡単に述べるにとどめたい.永続的といっても,博物館や標本館が建設されるなど標本を保管する場所が得られるような,物理的な永続性と,標本室を管理するポストができるようなシステム的な永続性がある.物理的な永続性が得られたら,標本は散逸や廃棄の可能性は当面なくなったと考えて良いであろう.ひとまず安心であるので,Index Herbariorum(http://sweetgum.nybg.org/science/ih/)への登録を考えるべき時期に至ったものと思われる.逆に言うと,この段階に至る前,つまり散逸や廃棄の可能性があるうちに Index Herbariorum に登録することは,後の混乱の元となる可能性があるので,避けるべきであろう.後は,標本室を設置した人でなくとも維持管理ができるよう,標本室に関わるシステムの整備,マニュアル化を進めてゆくとともに,未整理標本などをなるべく減らす努力も始めるべきであろう.自分の退職や引退後に,標本室や標本を管理できる人が採用されるよう,様々に働きかけや努力やアピールを続けることも重要であろう.標本室を管理するポストができるなどして,自分の退職や引退後に標本室や標本を管理できる人が採用され,引き継がれれば,標本室作りのゴールといえるであろう. このような幸せなゴールに到達できる標本室は,たとえ適切な努力や働き掛を続け,目を見張る業績をあげたとしても,現状では様々な偶然と幸運に恵まれた希有なことであろう.うまく引き継がれなかった場合も,標本室の設立者や管理者がボランティアでしばらく標本室や標本整理に関わっていく(周囲の迷惑にならない範囲で)などして,管理されている状況をなるべく長く維持できるような仕組みを作っておくべきであろう.

標本を寄贈する人,支える人の役割 ここまで,標本室を設立し,管理する人の役割について述べてきた.しかし,最後に標本寄贈する人と支える人の役割にも触れておきたい.標本室の設立には標本の寄贈者も大きな役割を持っている.標本の寄贈は標本室の標本の質と量を増加させる潜在力を持っている.貴重な標本の寄贈は標本室の価値を劇的に高め,重要なコレクションの寄贈は標本室運営のための外部資金の獲得につながることもある.一方,必要なデータ(採集地,採集者,日付)のないあるいは不明瞭な標本や,特殊な整理や保管がなされている標本の整理のために,標本室は多大なコストや労力を強いられる事がある.多くの文献でこの点は強調されており,黒沢(2011)にこれらの総説がある.寄贈する人にとって苦にならない少しの手間(例えば,間違っていても良いから同定をする)だけで,標本整理のコストを大幅に減らすことができる(表1; 黒沢 2011).好ましい標本の種類や状態については標本室ごとに異なるので,寄贈を考えている場合は,標本室管理者とのコミュニケーションが重要である. また,標本室を支える人の役割も重要である.標本の入力,貼り付け,配架,同定のボランティアは標本室の運営に大きな助けとなる.必要な資金の調達額を抑えるだけでなく,管理者の心の支えになる点も大きいと思われる.また,適切な標本室利用者がいて,標本を用

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第16巻  1号28 分  類

いた成果をあげることも,標本室の運営や継続の大きな力となると思われる. 本稿は標本室をやみくもに作ることを勧めるものではない.標本室を作り,維持するのは労力やコストがかかる.また,同じ地域に同じような標本室が多数あるのは利用する側にとっても不便である.既に公的な標本室がある場合は,その標本室を支える側に回ることも,有力な選択肢である.

 北海道大学総合博物館の高橋英樹氏,東北大学植物園の牧雅之氏,米倉浩司氏,国立科学博物館の海老原淳氏,千葉県立中央博物館の天野誠氏,東京大学総合研究博物館の池田博氏,清水晶子氏,首都大学東京牧野標本館の村上哲明氏,神奈川県立生命の星・地球博物館の田中徳久氏,金沢大学理工研究域の植田邦彦氏,京都大学総合博物館の永益英敏氏,大本花明山植物園の澤田徹氏,大阪市立自然史博物館の横川昌史氏,高知県立牧野植物園の藤川和美氏には標本室の台紙とカバー紙についての情報を頂きました.双羽製作所には,商品についての情報を頂きました.以上の方々に感謝申し上げます.また,FKSE と NGU の標本室の設立,運営,発展に寄与して下さいました,現在および歴代の学生,ボランティア,アルバイト,標本寄贈者にこの場を借りてお礼申し上げます.本研究の一部は福島大学資料研究所の事業の一環として行われた.

引 用 文 献

秋山弘之.2002.植物標本を有する収蔵庫における害虫・黴対策について.日本植物分類学会ニュースレター(6): 8-12.

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Christenhusz, M. J. M., J. L. Reveal, A. Farjon, M. F. Gardner, R. R. Mill and M. W. Chase. 2011c. A new classification and linear sequence of extant gymnosperms. Phytotaxa 19: 55-70.

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類 13: 39-43.海老原淳.2016.21世紀のハーバリウム活用とその課題.分類 16: 31-37.福田知子・井上透・松浦啓一.2010.GBIF について~利用とデータ提供~.分類 10: 77-86.藤井伸二.1995.標本ラベル記載事項の表記方法.JSPT Newsletter(79): 7-11.藤井伸二.2012.ハーバリウムにおけるローン制度と貸し出し方法.In: 種生物学会(編),種間関係の

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February 2016 29黒沢・志賀:植物さく葉標本室をつくろう

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ger, Berlin.Melchior, H. and E. Werdermann. 1954. A. Engler’s Syllabus der Pflanzenfamilien, vol 1, Allgemeiner

Teil. Bakterien bis Gymnospermen. Gebrüder Borntraeger, Berlin.森口淳樹・山根渉・前田修宏・萬代功・Jeong Yu Neung・井上雅仁・上野誠・松崎貴・林蘇娟・秋廣高

志.2012.植物標本画像の高速デジタル化法の確立と維持管理が簡便なデジタル植物標本館の構築.分類 12: 41-52.

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豊橋市自然史博物館,豊橋.

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第16巻  1号30 分  類

付録. 福島大学共生システム理工学類生物標本室 FKSE 外来研究者利用のてびきの内容(黒沢 2011を一部改変).

福島大学共生システム理工学類生物標本室(FKSE)外来研究者利用のてびき

2010年9月8日1. 当標本室の利用を希望する外来研究者の方は,事前に下記の標本室管理者に連絡し,

標本室利用の許可を得てください.2. 虫害防止のため,殺虫処理を行っていない標本の標本室内への持ち込みは禁止です.

未殺虫処理標本の持ち込みを希望する場合は,事前にご相談ください.3. 利用は,原則的に平日の9時から17時までです.これ以外の時間に利用したい場合は

事前にご相談ください.4. 標本の観察に生態学実験室を利用する場合は,行われている授業等に支障が生じない

ようにしてください.5. 標本室はもとより大学構内全体が禁煙です.標本室および生態学実験室は飲食厳禁で

す.6. 標本はカバーごと出し,必ず元の場所へ戻してください.誤同定があっても,同定ラ

ベルへ記入しない場合は元の場所に戻してください.ただし,科のカバーに貯まっている標本は,ラベルの同定に従って属や種のカバーに分けてくださって結構です.間違った位置にあったカバーや標本は,管理者に渡してください.

7. 標本を曲げたり,表裏逆にしたりしないでください.8. 標本から試料を採取するときには,必ず標本室管理者の許可を得てください.解剖後

の試料は必ず元の標本上の標本小袋に入れてください.試料を採取した標本は元の場所に戻さず,標本室管理者に渡してください.

9. 同定結果は同定ラベル上に書き,ラベルや標本を隠さないように貼付してください.同定ラベルには学名および和名,同定者名(日本語表記およびローマ字表記の両方),同定年月日(英語表記)を所定の万年筆または持参の耐候性インクで記入してください.ボールペン等永続性のないインクは使用しないでください.同定ラベルを付けた標本は元の場所に戻さず,標本管理者に渡してください.

10 .当標本室の名称,略号は以下の通りです.標本を論文中に引用する際は,当標本室の標本であることを明記してください.

   福島大共生システム理工学類生物標本室   Herbarium of Faculty of Symbiotic Systems Science, Fukushima University   略号 FKSE11 .当標本室を利用した成果を論文として発表された方は,必ず別刷り1部または pdf

ファイルを管理者に送付してください.12 .外来研究者が利用しやすい標本室を目指しています.ご意見,ご要望,アドバイス

などがありましたらお伝えください.

FKSE 管理者 〒960-1296 福島市金谷川1 福島大学共生システム理工学類 黒沢高秀 024-548-8201 [email protected]

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