Title 成長期先天性副腎過形成(CAH)の臨床的検討

Author(s) 南部, 明民; 熊本, 悦明; 立木, 仁; 伊藤, 直樹; 三熊, 直人; 恒川, 琢司; 高木, 良雄; 丸田, 浩

Citation 泌尿器科紀要 (1989), 35(11): 1831-1837

Issue Date 1989-11

URL http://hdl.handle.net/2433/116759

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿 紀 要35:1831-1837,1989 1831

成長期先天性副腎過形成(CAH)の 臨床的検討

札幌医科大学泌尿器科教室(主 任:熊 本悦明教授)

南部 明民,熊 本 悦明,立 木 仁,伊 藤 直樹

三熊 直人,恒 川 琢司,高 木 良雄

市立室蘭総合病院泌尿器科(部 長1丸 田 浩)

丸 田 浩

A CLINICAL STUDY OF CONGENITAL ADRENAL HYPERPLASIA

Akihito NANBU, Yoshiaki KUMAMOTO, Hitoshi TACHIKI,

Naoki ITOH, Naoto MIKUMA, TSUNEKAWA,

and Yoshio TAKAGI

From the Department of Urology, Sapporo Medical College

Hiroshi MARUTA

From the Department of Urology, Muroran General Hospital

We have compared three treatments of congenital adrenal hyperplasia (CAH) for their effect on physical development. Thirteen girls and two boys with CAH due to 21-hydroxylase deficiency were treated with three different treatments, hydrocortisone (HC), dexamethasone (DXM) and cyproterone acetate (CA).

The results showed that height growth was better with IIC and CA than DXM, and bone excessive maturation were more suppressed with DXM and CA than HC. A dose-dependent rela-tionship was revealed between body weight and dose of HC. Iatrogenic obesity was found in 42.9% and 38.1% of the patients treated with DXM and HC, but none of the patients treated with CA did became obese.

Physical growth was better with CA treatment than HC or DXM treatment, but CA may have a suppressive effect on the pituitary-adrenal axisis observed carefully, especially on pre-

pubertal and pubertal cases. (Acta Urol. Jpn. 35: 1831-1837, 1989)

Key words: Congenital adrenal hyperplasia, Cyproterone acetate

緒 言

成長 期の先天性副 腎過形成(以 下CAH)症 例では

治療開始が遅れ た り,内 分泌学的に充分な コン トロー

ルが行われな か った 場合,過 剰 な副 腎性androgen

に よる骨端線 の早期閉鎖が起 こ り,最 終 的な低 身長 を

もた らすこ とがある.こ れは 内分泌的な コン トロール

とともに,特 に成長 期のCAH症 例では 臨床上 問題

となる点である.

当教室では成長 期お よび 思春期齢 前後のCAH症

例に対 し,か つては主にhydrQcortisone(以 下HC)

を 中 心 に,症 例 に よ ってdexamethasone(以 下

DXM)を 単独,あ るいは少量併用 して治療薬 として

用いて きた.し か し症例に よっては骨の過剰成熟を抑

制 し,最 終身長を伸ばす とい う目的か らsteroid剤

の投与 が過 剰にな り,肥 満を もた らす ことがあ った。

最近,こ の よ うに副腎性androgenの コン トロー

ルのために,HCま たは,DXMの 過剰 投与 が 必要

な症 例に対 し,末 梢で の抗androgcn作 用 の 強 い

cyproteroneacetate(以 下CA)に よる治療 を行 っ

ている,

今回,成 長 期お よび思 春期齢 前後のCAH症 例 に

ついてこれ ら各種薬剤の治療効果を,特 に身体発育の

面 を中心 に臨床的検討を加 えた,

また最近使用を 開始 したCAに 関 して は,投 与に

よる内分泌学的な検討 も加えた.

対象および方法

対象 は1968年 より1988年12月 までに当教室において

治療,経 過観察を 行い え た 成 長 期 お よび 思 春 期 齢

1832

TableI.

泌 尿紀要35巻11号1989年

Dataonour15patientswithcongenitaladrenalhyperplasia

PatientsTypeatAgeatDurationof

Ne.-Sex-!nitialInitialDiagnosisDiagnosisFollow-up

Drugswith

Treat皿ent

耳

0

区

K

K

K

K

N

T

Y

S

H

K

H

一

騨

一

一

〇

F

F

F

F

F

M

F

一

一

,

一

昌

1

2

3

」鴨

「0

00

7

Si皿Ple-Virilizing

1m◎.

1ロo.

3皿o。

4皿o。

1yr。

3yr,

5yr.

14yr.

7yr。

11yr.

7yr.

15yr.

16yr.

22yr.

HC,DXM,CA

HC,DXM

HC,DXM,CA

HC

HC

HC,DXM

HC

8F-N.F.

9F-M.A.

10F-Y●M.

11F-H.F。

12-FK。0.

13-FY●0,

14-FM・F.

15幽M-T.F.

Salt-10sing

臨

臨

脇

臨

脇

臨

鳳

臨

1

1

1

1

1

1

1

1

10yr.

12yr.

9yr.

7yr,

13yr.

4yr。

5yr.

15yr.

HC,DXM

HC

HC,DXM,CA

HC

HC,DX凹,C《

HC

HC,DXH

HC,DXM,CA

HC:Hydrocortisone

DXN:Dexanethasone

CA3Cyproteroneacetate

CAH症 例15例 である.男2例,女13例 であった.全

例21-hydroxylase欠 損症 であ り,そ の うち単純男性

型8例,塩 喪失型7例 であ った(Tablel).

成長 期お よび思春期齢におけ る治療 はHC単 独投

与が5例,HC投 与を基 本に さらにDXMを 併用,

あるいはDXM単 独投与 した症例は9例 で あった.

全経過にわた りDXMの みで治療をお こなった症例

は1例 のみであった.な おcortisoneacetateはHC

と一括 して検討対象 とした.

またCAを 単独,あ るいはHCと 併用 し,6ヵ 月

以上経過観察 しえた症例はその うち5例 であった,

肥満度 の評価は各身長 におけ る標準体 重に対す る率

(%ofstandardbodyweight)で 評価 した,

身体発育 の検討対象 としては各症例で複数 の治療を

行 っている場合には,そ の治療期間が6ヵ 月以上であ

ればそれを1件 と した(Table2).た だ し,身 長,

骨成熟等の評価項 目において,評 価可能な件数は各投

与群でそれ ぞれ若干異な ってい る.身 長 発育(linear

growth)は1981年 度 の厚生 省統計を 用いた.身 長年

齢は暦齢に対する身長 の平均値を もって評価 した.

骨年 齢の評価はGreulich-Pyleのatlasi)を 参考

に し,6ヵ 月を最小単位 と した,

また,最 近当教室に おいて使用 したCAに よる治

療効果については身体発 育の面 とともに,内 分泌学的

Table2.TreatmentsandNo.ofcases-Ouri5

patientswithcongenitaladrenal

hyperplas三a

Treatment No。ofCases

Hydrocortisone

Hydrocortisone

十

Dexamethasone

Dexamethasone

Cyproteroneacetate

21

7

7

5

Tota1 40

検討 も加えた,

最 後に身体発育に関 し長期観察を行い,良 好な経過

を辿 った2症 例の治療経過 を呈示す る.

結 果

1)各 種 治療薬における肥満度

各種治療薬 での肥満度をFig・1で 比較 した.標 準

体重の10%以 上の症例数でみる とHC投 与 群で38 .1

%・HCとDXM併 用群で57・1%・DXM単 独投

南 部,ほ か:先 天 性 副 腎 過 形 成 ・Cyproteroneacetate 1833

欝 綴:1『 ■ ・20%囮le-19%國0-9%ロ ・-1%

Hydrocortisorle

(n目21)

Hydrocortisoneand

Dexamethasone(n=1)

Dexamethasone(n=7)

Cyproteroneacetate

(n=5)

Fig.1.Relationshipbctweentypeoftreatmentand三atrogenicobesity

%o響st8nderd

bodywolght

十50

十40

十30

十2e

十10

o

一10

le 20 30

Y=-8.21十 〇.95×

r=O.69

40(mglm21day)

Hydrocortisone

Fig.2. Re!ationshipbetweendoseofhydrocortisoneand%ofstandardbodywcight

与群で42.9%とSH投 与群 で高率であ った.CA投

与群では症例数は少ないが,1例 も認 めなかった.

2)HC投 与量 と肥満度

Fig,2.にHC投 与量 と肥満度(各 年齢 の標準体重

に対す る%増 加率)と の関係 を示 した.な お,HC投

与期間は最低6ヵ 月以上の ものであ り,同 一治療期間

内での件数は平均値 で示 した.HC投 与量 の増加に伴

い,肥 満度は上昇 してお り,相 関係数0.69と 強い正の

相関が認めれた.

3)各 種治療 薬に よる身長 発育

各種 治療薬に よる身長 の伸 びを,暦 齢 に対す る身長

年齢(暦 齢におけ る身長 の期待値)の 比で示 した(Fig.

3).HC単 独投 与群では身長 年齢 の伸び 率が平均L16

ともっとも高か った.次 にCA投 与群 であ り,HC

とDXM併 用群,DXM単 独投与 群ではHC単 独

投与群に比べ,有 意に低下 していた.

4)各 種治療薬に よる骨年齢に対 する影 響

Fig.4に 各種治療 薬に よ る骨年 齢の変 化を 暦齢 と

の比で示 した.骨 年 齢の進行率はHC単 独投与群が

平均1.20と 最 も高 く,HC,DXM併 用群が それにつ

いで高 く,DXM単 独投 与群では0,80と 低値 であっ

た.CA投 与 群では平均O.78と 他 の薬剤 に よる治療 に

比較 して,有 意に低値 であった.

5)CA治 療に よる内分泌学的変 動

CA投 与群において投与前後における治療 における

血中ACTH,尿 中pregnanetriolの 値 の 変 化 を

1834 泌尿諮要35巻11号lg8g年

△Helght%ge

暴

吻拶〃Fig.3.Effectofvariousdrugsonheightagevelocity

△Bon●a

Fig.4.Effectofvariousdrugsonboneagevelocity

Fig.5,6に 示 した.(CA投 与 前は 全 例HCに ょ

る治療 である)CA投 与に よ り,両 者 とも低下傾 向が

認め られた.ま た各種 薬剤に よる治療期 間中の尿 中

pregnanetriolのf直 をFig.7に 示 した.有 意差は認

めないが,CA投 与 群で高い傾向にあった.

Gonadotropinに 関 してはCA投 与前後 において

有意な差は認めなか った(Fig.8)が,投 与前後1カ

月以内にLH-RHtestを 施行 しえた1例 ではLH・

FSHのLH-RHに 対する反応 性 の低 下 が 認 め た

(Fig,9).

6)症 例 の治療経過

症例1は 治療薬剤の細 かな調惣 こよ り,暦 齢相 当の

身長発育を得て きたが,骨 年齢は過剰進行傾 向であ っ

た.13歳 時 よ りCAに よる治療 に 切 り替 え,身 長の

伸び と骨成熟の抑制を認めた(Fig.10).症 例2で は

同様 に10歳4ヵ 月 よ りCAを 投与 し,骨 年 齢の進 行

抑制が認め られた(Fig,ll).

考 察

CAH症 例の治療 はsteroidhormone(以 下SH)

大量投与お よび輸液を中心に した初期療法 と,そ の後

のSH維 持療法 とに分 け られ る・SH維 持療 法 では

glucocorticoidの 欠乏症状を 起 こさない ことが 最低

限必要であ るが,さ らにglucocorticoidの 過剰投 与

に よる副作用を防 ぐことや・ACTHを 抑制 し,副 腎

性androgenに よる骨 の過剰成熟を抑え,最 終 身長

の低下を防 ぐことも重要 な指標 である2).

従来CAHのSH維 持 療法 の中 心 とな って きた

南 部,ほ か:先 天 性 副 腎 過 形成 ・Cyproteroneacetate 1835

ACTH

Fig.5.

(P9/ml)

loe

50

//EffectofcyproteroneacetateonACTH

sccretion

〔mg/dey}

Fig.7. Effectofvariousdrugsonurinary

pregnanetriol

Urlnery

Pregnenetriol

Fig。6.

(mglday〕

30

20

10

/ !ノ

Effectofcyproteroneacetateon

urinarypregnan旦trio1

HCやDXMはglucocorticoidのcontrolの 面

では 満 足 の ゆ く結 果 で あ っ た が,症 例 に よ っ て は

glucocorticoidの 過 剰 症 状 を お こ さ ない 程 度 の投 与

量 で は 副 腎性androgenを 充 分 に 抑 制 で き ず,骨 の

過 剰 な 成 熟 を 防 ぎ きれ な い症 例 も あ った.ま たFig.

1に 示 した よ うに,HC,DXMに よる 治 療 で は ど う

して もSHに よる副 作 用 と して の 体 重 の 増 加 が 認 め

られ た 症 例 が 多 か った.

身 長 発 育 の 面 で は,当 教 室 の 経 験 で はDXMを 中

{mlVtrnD

20

℃

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働

FSH

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誰

る

甲心 とした治療では抗androgen作 用のため か身 長発

育の抑制が強 く働 き過 ぎた症例 があ り,そ れ以降は当

教室ではHCを 中心 とした 治療に変更 した 経過があ

る.HC中 心 の治療 では身長発育に関 しては,あ る程

度満足のい く結果であ った.

しか しHC中 心の治療 で は思春期齢 に近 づ くにつ

れ副 腎性androgenの コン トロー ルが困 難 とな る症

例があ り,投 与量を増加 しなけれぽ過剰な骨成 熟に よ

る骨端線の早 期閉鎖 がおこ り,最 終的な低身長 を もた

らす結 果が危惧され てきた,こ の場合,肥 満をは じめ

とす る,様 々な副作用が問題 となってい る(Fig.2).

近年,こ の ようなHC(ま たはDXMと の併用)だ

1836 泌尿紀要35巻11号1989年

けでは副腎性androgenの 抑制が 充分 で な く,二 次

性の中枢性思春期 早 発 症 を 呈 している患者に対 し,

cyP「oteroneacetate(CA)に よる治療 が試み られ

成果をあげている4「1).CAは 間脳 一下垂体系におい

てgonadotropin分 泌抑制作用を有す るのと同時に末

梢での強力な抗androgen作 用を有 して お り,特 に

骨の過剰成熟 を抑える効果 につい ての報 告は 多い5,6`

10,11>.

当教室例におけるCAに よ る治療 結果で は まだ経

過観察期間が充分 とはいえないが,骨 に対す る抗an-

drogen作 用 は強 く,骨 の過剰 成熟はHC,DXM

に よる治療に比ぺ,抑 制で きた.ま たDXMに よる

治療にみ られた ような身長発育 自体 の抑制は明 らかで

はなか った.HC,DXMで 認め られた10%以 上の肥

満を示 した症例はなかった.

内分泌的にはFig.5,6に 示 した ようにCA投 与

前後 でACTH,尿 中pregnanetriolの 低下を認め,

間脳一下垂体系への若干 の抑制効果が示 された.し か

LH(m臼U/ml,

50

o

FSH⊂m書urmO

20

10

0

Fig.9.

C直●●-1剛(.

o→Hydrocortlsone

HCyprO電eroooao酬a量 ●

cr3e'60' 12σ

σ 3σ6σ 12cr

Effectofcyproteroneacetateon

LH.RHtest

He}ghtage

Boneage

(y.o.)

15

■レー一●Bono80e

(〉一■()Height80e

HC=Hydrocortisone

DXM:Dexamethosone

CA=Cyproteroneecet8te

15(y,α)

chrδnolegicalage

Fig.10.Growthchartofcase1-N.K.

Heヒヨhtaoe

Boneage

(y.o.)

10(

y.o、》

Chronologicelagθ

●一 ●Boneage

(》一一一く)Heightage

HC:Hydrecortisone

DXM:Dexemethosone

CA:Cyproteroneecetate

Fig.11.Growthchartofcase2-Y.K.

南 部,ほ か:先 天 性 副 腎 過 形 成 ・Cyproteroneacetate

しこれ はFig.7に 示 した よ うにHC,DXMのSH

剤 に比較す ると弱い もの と考え られた.骨 成熟 の抑制

効果 とも考 え合 わせ ると,当 教 室例 での結 果 は,抗

androgen作 用は主に 末梢性で あるCAの 作用機序

と矛盾 は しない。

Gonadotropineに 関 しては,血 中LH,FSHの 値

には差が認め られなか ったが,1例 のみであるがCA

投 与前お よび直後でLH-RHに 対する反応性は抑制

された.ま た女 児の1例 で 生理 が止 まった 症例 があ

り,性 腺に対 する影響 を考慮す ると,特 に思春期齢で

は慎重な投与が必要 であると考え られた.

この ように,CAに よ る治療で は他 家の報 告 とほ

ぼ同様の結果がえ られたが,し か し身体発 育の効果を

評価す るには充分 な経過観察がえ られた とはいいがた

く,わ れわれ も含め今後 もさらに検討を重ねる必要が

あろ う.

症例で示 した ようにCAHの 治療,特 にSH維 持

療法においては詳細な内分 泌学的検討を加え,治 療薬

を選択,あ るいは量の調節をすることに よ り,身 体発

育の面 で今後 さらに改善が期待で きると考え られた.

文 献

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(1989年3月6日 受 付)