Title Chlormadinone acetateが著効を示した非特異性肉芽腫性前立腺炎の1例

Author(s) 米田, 尚生; 竹内, 敏視; 山田, 伸一郎; 篠田, 育男; 坂, 義人;河田, 幸道

Citation 泌尿器科紀要 (1988), 34(10): 1815-1817

Issue Date 1988-10

URL http://hdl.handle.net/2433/119731

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌尿紀 要34:1815-1817,1988 1815

Chlormadinone　 acetateが 著 効 を示 した

非特 異 性 肉芽 腫 性 前 立 腺 炎 の1例

岐阜大学医学部泌尿器科学教室(主 任:河 田幸道教授)

米田 尚生,竹 内 敏 視,山 田伸 一 郎,篠 田 育 男

坂義人,河田幸道

A CASE REPORT OF NON-SPECIFIC GRANULOMATOUS

PROSTATITIS : SUCCESSFUL TREATMENT WITH

CHLORMADINONE ACETATE

Hisao KOMEDA, Toshimi TAKEUCHI, Shinichiroh YAMADA,

Ikuo SHINODA, Yoshito BAN and Yukimichi KAWADA

From the Department of Urology, Gifu Unizersity School of Medicine (Director: Prof. Y. Kawada)

A case of non-specific granulomatous prostatitis is presented. A 61-year-old male consulted a doctor with the chief complaint of dysuria. For suspicion of prostate cancer, he was referred to our hospital. A digital examination showed stony hard prostate gland which was asymmetrically enlarged to hen's egg size with an irregular surface. Since biopsy specimin from the prostate showed eosinophilic granulation without fibrinoid necrosis, the case was diagnosed as simple non-specific granulomatous prostatitis. After oral administration of chlormadinone acetate (CMA), he showed a remarkable increase in urinary stream. The findings of urethrogram and prostatic sono-

gram demonstrated dramatic improvement. He has remained asymptomatic for 29 months without any further treatment. Therefore, CMA could be effective against granulomatous prostatitis.

(Acta Urol. Jpn. 34: 1815-1817, 1988)

Key words: Non-specific granulomatous prostatitis, Chlormadinone acetate

緒 言

肉芽腫性前立腺炎は稀 な疾患 であるが,前 立腺触診

上,表 面不整かつ石様硬に触れ るため前立腺癌 と鑑別

すべき疾患 とされているDわ れわれ は前立腺針生検

により非特異性 肉芽腫性前立腺炎 と診断 され,chlor-

madinoneacctatcの 内服療法で治癒 した1例 を経験

したので報告す る.

症

患者=61歳,男 性

主訴=排 尿困難

既往歴:特 記すべ きことな し

家族歴:特 記すべ きことな し

例

現病歴11985年9月 初め,尿 混濁 と共に38.5℃ の

発熱を認め,近 医を受診 した.こ の時,会 陰部 の不快

感,頻 尿お よび排尿困難に気づいた.直 腸診にて前立

腺 の 腫 大 と 硬 化 が 認 め ら れ,prostaticacidphos-

phatase(PAP)が7.6ng/mlと 高値 を示 したた め,

10月2日,当 科 に 紹 介 され た.

現症'胸,腹 部 に異 常 所 見 を認 め ず.ま た外 性 器 も

異 常 なか った.前 立腺 は 触診 上,左 右 非 対称(右 葉 〉

左 葉),鶏 卵 大,表 面 は 小結 節 の ため 凹 凸不 整,両 葉

と も石 様 硬 で,前 立腺 癌 が強 く疑 われ た.

検 査 成 績:末 梢血,血 液 像 と も正常.肝,腎 機 能正

常.AcPllIu/1,PAPl.ong/mL尿 検 査 混 濁

(+),蛋 白(±),沈 渣 でRBCo～1/hpf,wBCo/

hpf,細 菌 陰 性.

レ線 検 査:気 体膀 胱 造影 では 膀胱 底 部 の 挙上 を 認 め

た(Fig.1.A).逆 行 性 尿道 造影 で は 前 立腺 部 尿 道 の

延 長,前 傾,扁 平 化を 認 め る も,悪 性 を 思 わせ る所 見

は み られ な か っ た(Fig.1.B).

前 立 腺 癌 を疑 い,10月7日,経 会陰 前 立腺 針生 検 を

施 行 し,chlormadinoneacetate(cMA)75mg/

1816

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泌尿紀要sayslO号1988年

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Fig.1. A;気 体膀胱造影

B;逆 行性尿道造影

Fig.2.前 立腺 生 検 の病 理 組織 所 見

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Fig.3.CMA投 与1ヵ 月 後 の前 立腺 エ コ ー

dayの 内服を始めた.

病理組織所見0前 立腺には好酸球を主体 とする炎症

性細胞浸潤を伴 う肉芽形成がみられた(Fig.2)が,

悪性像お よび結核を思わせる所見はみ られなか った.

以上 より,単 純性の非特異性前立腺炎 と診断 された.

CMAを1ヵ 月投与 した ところ,自 覚的には排尿困

難お よび会陰部の不快感は消失 した。他覚的に も,前

立腺は触診上著 明に縮小 し,左 右ほぼ対称の小鶏卵大

とな り,小 結節は消失 し表面平滑,弾 性硬に触れた,

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Fig.4.CMA投 与終 了 後2ヵ 月 の前立 腺 エ コー

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経直腸前立腺 エコーでは内部 エコーの乱れ は認められ

るが,左 右はほぼ対称で,被 膜エ コーの断裂 はみられ

なか った(Fig,3).そ の後cMAを50mg/dayに

減量 し2ヵ 月投与 して再発 が認め られ ないので休薬 し

た.投 与終了後2ヵ 月の1986年2月28日 の経直腸前立

腺 エコーで は,一 部 に内部エ コー の 軽度不整像を認

めたが,著 しい改善がみ られ前立腺径 も縮小 していた

(Fig.4).そ の後も外来にて経過の み 観察 している

が,投 与終 了後2年5ヵ 月の現在 も再 燃は認め られな

い.

考 察

肉芽腫性前立腺炎は,結 核,梅 毒,真 菌などの病因

の明白な特異性前立腺炎 と,病 因の不明な非特異性前

立腺炎に分類 され て いる2).ま たMelicow3)は 喘息

患者 で前立腺に非特異性肉芽腫を有 し,血 中好酸球を

認め,血 管炎 を併発 した例を報告 し,ア レルギー性肉

芽腫性前立腺炎 と名付けた.そ の後Tow丘ghiら4)が

非特異性前立腺炎をその病理組織像か ら,フ ィブリ1

イ ド壊死を伴わない単純性 とフィブ リノイ ド壊死や血

米 田,ほ か:非 特 異 性 肉芽 腫 性 前立 腺 炎 ・Chlormadinoneacetate

管炎を伴 うものに分類 した.さ らに,前 者の症例 では

アレルギー歴がないのに対 して,後 者では高率にア レ

ルギー歴がみられ,こ の うち全身性病変 を伴 っってい

る場合は予後不良 と述べている.本 邦 では,池 本 ら5)

が14例を集計し,さ らに田代ら6)が3例 を塁示 してい

る.本 例は臨床的には ア レルギー素因はな く,病 変 も

前立腺局所のみで,組 織学的に もフィブ リノイ ド壊死

はみ られず,Towfighiら のい う単純性の非特異性肉

芽腫性前立腺炎 と考えられた.

一般に肉芽腫性前立腺炎 は触診上前立腺が石様硬 に

触れることが多 く,前 立腺癌 との鑑 別が重要 とな り,

確定診断は組織学的診断に委ねなければな らない.

非特異性前立腺炎の成 因は前立腺肥大症などに より

前立腺導管に通過障害が起 こ り,こ こに非特異的感染

が起こ り発症するとされ ている7)が.田 代 らは マラコ

プラキアと同様,そ の発症に関 して大腸菌の関与を示

竣 している,本 例 も初発症状 として発熱 と尿混濁を認

めてお り,前 立腺への細菌感染がその発症 に関与 した

と推察 された,

治療はア レルギーの関与が疑われ る例ではステロイ

ド剤の投与8)や 抗 ヒスタ ミン剤の投与9)が 有効 とされ

ている.わ れわれは本例に対 してCMAの 投与 を行の

い,著 効を認めた.CMAは 抗ア ンドロゲ ン作用を有

する黄体 ホルモ ン剤であ り,直 接的お よび間接的抗前

立腺作用を持っている10).文 献的には本症にはホルモ

ン剤投与の報告はみ られないが,本 例の ようにア レル

ギー素因を認めない単純性の場合は抗前立腺作用 を有

するホルモン剤の有用性についても検討 されるべきと

考える.

結 語

的考察 を加えて報告 した.

文 献

1817

1)TaylorEW,WheelisRI',CorreaRJJr,

GibbonsRP,MasonJTandCummings

KB:Granulomatousprostatitis:confusion

clinicallywithcarcinomaoftheprostate.J

Urol117:316-318,1977

2)SymmerWStC:Non-specificgranuloma-

tousprostatitis.BrJUrol22:6-20,1950

3)MclicowMM:Allcrgicgranulomaofpros-

tate.JUrol65:288-296,1951

4)TowfighiJ.SadegheeS,WheelerJEand

EnterlineHT:Granulomatousprostatitis

withemphasisontheeosinophilicvariety.

AmJCIinPath58:630-641,1972

5)池 本 庸 大 石 幸 彦,小 野 寺 昭 一,柳 沢 宗 利,田

代 和 也,鈴 木 博 夫,岸 本 幸 一,町 田 豊 平:ア レル

ギ ー 性 肉 芽 腫 性 前 立 腺 炎 の1例.泌 尿 紀 要30=

1851-1859,1984

6)田 代 和 也,近 藤 直 弥,和 田 鉄 郎,町 田豊 平,古 里

征 国,城 謙 輔,藍 沢 茂 雄:非 特 異 性 肉 芽 腫 性 前

立 腺 炎 の 免 疫 組 織 学 的 検 討.日 泌 尿 会 誌77:642-

645,1986

7)TannerFHandMcDonaldJR:Granulo-

matousprostatitis.ArchPath36:358,1943

8)KelalisPP,HarrisonEG ,Jr,GreeneLF

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prostateinasthmatics.JAMA188;963-967,

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9)Redman ,JFandDownsRA:Simpleeosin-

op6ilicgrarrulomatousprostatitis.JUrol

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10)田 島 惇,阿 曽 佳 郎=ア ン ド ロ ゲ ン受 容 体 拮 抗 薬

の 臨 床 応 用,治 療 学91227-232,1982

(1987年10月19日 受 付)

非特異性前立腺炎 の1例 を経験 したので若干の文献