The Association of Intraocular Neovascular Disease and ...

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九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository The Association of Intraocular Neovascular Disease and Innate Immune Response 園田, 康平 九州大学大学院医学研究院眼科学分野 石橋, 達朗 九州大学大学院医学研究院眼科学分野 https://doi.org/10.15017/12485 出版情報:福岡醫學雜誌. 99 (7), pp.137-143, 2008-07-25. Fukuoka Medical Association バージョン: 権利関係:

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九州大学学術情報リポジトリKyushu University Institutional Repository

The Association of Intraocular NeovascularDisease and Innate Immune Response

園田, 康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野

石橋, 達朗九州大学大学院医学研究院眼科学分野

https://doi.org/10.15017/12485

出版情報:福岡醫學雜誌. 99 (7), pp.137-143, 2008-07-25. Fukuoka Medical Associationバージョン:権利関係:

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総 説

眼内血管新生病と自然免疫

九州大学大学院医学研究院 眼科学分野

園 田 康 平,石 橋 達 朗

はじめに

免疫反応は大きく Tリンパ球を中心とした「獲得免疫」と,より早期に反応する「自然免疫」に分類さ

れる(表1).前者は高等生物でのみ見られるが,後者はあらゆる生物に共通する根幹的免疫系である.こ

れまで自然免疫細胞群と眼炎症との関連は充分に解析されて来なかった.

眼は免疫学的に特別な機能的閉鎖臓器で,「免疫特権部位(immune privileged site)」といわれる1).免

疫特権は,そもそも生体が備えた自己防御機構である.通常の免疫炎症反応が起こってはかえって組織障

害・機能障害が強くなるような臓器で,その機能を守るために存在する恒常性維持機構と解釈できる.例

えば透明角膜にコンタクトレンズ不適正使用等で細菌感染症が生じた場合,通常通りの免疫反応では(細

菌駆除は早いかも知れないが)後に角膜混濁を生じ視力が低下する.ややマイルドな免疫反応が角膜で起

こるからこそ,適切な治療を行えば角膜の透明治癒が可能となる.

近年,いわゆる「自然免疫」を担うマクロファージ・NKT細胞・γδ型T細胞などが眼の恒常性維持に

不可欠な存在であることが認知されつつある2)3).一方,一旦限度を超えた炎症が起こると,免疫特権機構

は失われ,まるでボールが坂道を転がり落ちるように眼炎症は増悪する.皮肉なことに,この機序にも自

然免疫細胞が関与する.

糖尿病網膜症,未熟児網膜症,加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)などの眼内血

管新生病は,重篤な視力低下を来たし,しばしば眼科臨床で問題となる病態である.血管新生には特にそ

の初期で局所炎症の関与が必要であり,「自然免疫」細胞の関与が考えられる.本稿では広義の眼炎症疾患

という観点から,加齢黄斑変性などの脈絡膜血管新生(choroidal neovascularization:CNV)を原因とする

「脈絡膜血管新生病」を取り上げ,その病態形成における自然免疫細胞の関与について述べる.

137福岡医誌 99(7):137―143,2008

Koh-Hei SONODA and Tatsuro ISHIBASHIDepartment of Ophthalmology, Graduate School of Medical Science, Kyushu UniversityThe Association of Intraocular Neovascular Disease and Innate Immune Response

免疫反応は「獲得免疫」と,より早期に反応する「自然免疫」に分類される.自然免疫はあらゆる生物に共通する根

幹的免疫系であり,感染微生物特有のパターンを認識することで,反応時間が非常に早いという特徴がある.

B細胞T細胞

好中球マクロファージ樹状細胞

NK・NKT細胞

獲得免疫

担当細胞

表1 自然免疫と獲得免疫

認識

存在する種

自然免疫

特異的抗原

脊椎動物のみ

感染微生物特有のパターン

無脊椎動物〜脊椎動物まで

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1.脈絡膜血管新生形成と自然免疫

1)眼炎症疾患としての脈絡膜血管新生病

脈絡膜血管新生は黄斑部に生じやすい.黄斑部中心窩は外界からの光が焦点を結ぶ位置に相当し,錐体

細胞の密度が高く,その緻密な細胞構造によって中心視力を形成している.黄斑部に形成される脈絡膜血

管新生は容易に網膜下出血・網膜出血を引き起こし,重篤な視力低下を来す.脈絡膜血管新生を引き起こ

す代表的疾患に,AMD,高度近視,中心性滲出性脈絡網膜症などがある.特にAMDは欧米での中途失明

原因の第一位であり,近年日本でも増加している.今後高齢化社会進行に伴い,患者数増加への対応とそ

の quality of life & vision向上が課題である.

近年,脈絡膜血管新生病は老化を基盤とした慢性炎症によって発症すると考えられるようになってきた.

事実これまで AMD と慢性炎症の関連を示した様々な報告がなされている.特に自然免疫細胞のひとつ

であるマクロファージとの関連は 1990 年代初頭から報告されている4).また実験的CNV形成における免

疫・炎症反応の関与について,近年マクロファージとの関連や5),補体系の関連を示す報告6)〜9)や,アミ

ロイドβが原因となる炎症10)や,老化に伴う局所炎症11)などの発表がなされている.これらはいずれも

CNV形成と炎症の関与を示したものである.我々は特に自然免疫細胞群と CNV形成過程に興味を持ち,

以下の実験を行った.

2)CNV形成に CD1拘束性 NKT細胞が重要である

CD1 拘束性 natural killer T(NKT)細胞は自然免疫系を構成する多機能細胞で,CD1 分子上に提示され

た生体内糖脂質に反応して,数時間以内に炎症を様々な形で修飾する12).T細胞レセプターと NKマー

カーを同時に発現するものの,従来のNK細胞,T細胞とは全く異なる細胞で,免疫系の上流で引き続く

反応を様々な形で制御する.NKT細胞の最もユニークな点は生体反応の局面において炎症促進にも抑制

にも働きうるということである12).例えば感染症,腫瘍などではその拡大抑制のため局所炎症を促進させ

る一方で,移植後や自己免疫疾患では過剰な炎症を抑制して免疫寛容を導く役割がある.我々は実験的

レーザー誘導 CNV形成におけるNKT細胞の役割について検討した.

網膜外層から脈絡膜にかけて強い傷害を加えると,CNV が起こることが知られている13).我々は

C57BL/6マウスの網膜外層から脈絡膜部分をレーザー照射で破壊し,実験的CNVモデルを作成した.14

日後に CNV の形成を免疫組織化学的,および蛍光色素注入後の脈絡膜フラットマウントにより確認し

た5).

NKT細胞に表出されているT細胞レセプターはマウスではVα14Jα281(ヒトではVα24)という特異的

な構造を持ち,これはNKT細胞マーカーとして用いられる12).レーザー照射後眼内Vα14mRNAの発現

を real-time polymerase chain reaction(PCR)法で測定した結果,照射後 24時間で増加が見られた.これ

は眼球内にNKT細胞が浸潤していることを示す.次に2つの異なるNKT細胞ノックアウトマウスを用

いてCNV形成を解析した.CD1ノックアウトマウスはNKT細胞への抗原提示が無いため,NKT細胞の

分化・増殖ができず,Jα281ノックアウトマウスはそもそも NKT細胞を持たない.いずれの NKT細胞

ノックアウトマウスでも CNV 形成が抑制され(図1),眼球内での血管新生に重要な成長因子である

vascular endothelial growth factor(VEGF)産生はタンパクレベルでも核酸レベルでも低下していた.

3)NKT細胞は網膜色素上皮細胞を介した刺激で VEGFを産生する

さらに in vitroでの解析のため,我々は眼球内で潤沢に CD1 分子を表出している網膜色素上皮細胞

(retinal pigment epithelial cell:RPE)とNKT細胞の共培養システムを構築した.RPEは,マウス眼球か

ら分離後,培養皿付着細胞として培養・継代できる.そこに浮遊細胞である脾臓由来 NKT細胞を加えて

共培養すると,上清中にVEGF が測定された.しかし抗 CD1抗体を上清中に加え,RPEと NKT細胞の

結合阻害を行うと VEGF産生は抑制された.この実験で培養皿付着細胞と浮遊細胞に分けて,それぞれ

園 田 康 平 ほか1名138

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real-time PCRで VEGF遺伝子発現を検討すると,浮遊細胞で上昇していた.以上の結果から眼球内に浸

潤したNKT細胞はCNVを形成するためのVEGFの供給源となる可能性が示された.

4)α-ガラクトシルセラミド投与で CNVはむしろ抑制される

次に我々は NKT細胞をリガンドで生体内強制的刺激することを試みた.α-ガラクトシルセラミド

(alpha-galactosylceramide, αGalCer)は,海綿の成分から見つかった糖脂質で NKT細胞を生体内で活性

化し各種サイトカイン産生を誘導することが知られていた12).そこでレーザー照射直後にα-ガラクトシ

ルセラミド硝子体腔内投与を行った.当初α-ガラクトシルセラミド硝子体腔内投与により,生体内での

VEGF産生が増加し CNVが増悪するであろう,と考えていたが,結果は反対にα-ガラクトシルセラミド

投与により CNV形成・VEGF産生が抑制されるというものであった.上述 In vitro の実験系でも VEGF

はα-ガラクトシルセラミド添加で抑制された.

一連の実験を通して,① NKT細胞はCNV形成過程に関与し得る,② NKT細胞の機能は,人工リガン

ドにより変化する,ということが判った.NKT細胞の最もユニークな点は生体反応の局面において炎症

促進にも抑制にも働きうるということであるが,CNVでもおそらく眼球内に存在するリガンドの種類に

よって異なる局面で異なる作用を示しうるのであろう(図2).このことから,今後α-ガラクトシルセラ

ミドはCNV抑制目的で,局所投与薬として臨床応用出来る可能性もあると考えられる.

5)CNVと感染症の関わり

自然免疫系が最もその真価を発揮するのが感染症である.自然免疫細胞はToll-like receptor(TLR)を

介して,微生物共通のパターンで感染微生物をすばやく認識する14).感染症と CNV関連疾患の検索を

血管新生と自然免疫 139

図1 CD1ノックアウト(KO)マウスで

は,NKT細胞が分化増殖できない.

このマウスでは実験的レーザー誘

導 CNV形成が抑制される.WT:

野生型マウス(wild type)

図2 実験的CNVモデルでのNKT細胞の役割

図3 肺炎クラミジア成分硝子体内注入による実験的 CNV

増強効果

図4 肺炎クラミジア感染による CNV形成仮説.前提とし

て加齢によるブルッフ膜の脆弱化(脈絡膜―網膜境界

の加齢変化)がある個体では,脈絡膜血管に潜伏感染

している肺炎クラミジアが,TLRを介してRPEに認

識され,RPEからの液性因子産生が起こり CNV形成

を促進する.

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行った結果,興味ある事実を発見した.肺炎クラミジア(C. pneumoniae)は呼吸器感染症の代表的・一般

的起炎菌で,成人の半数以上は抗体を保有しているごく一般的な微生物である.偏性細胞内寄生生物で,

生きた細胞内でのみ増殖する.AMD患者では肺炎クラミジア抗体レベルの上昇が認められ15),また滲出

型AMD9例のうち4例において組織学的に肺炎クラミジアが認められたという16).

6)クラミジア感染網膜色素上皮細胞が CNVを誘導しうる

CNV形成に重要と考えられるのがRPEである.RPEは一旦活性化されると様々なケモカイン・サイト

カインを産生し,集蔟した好中球やマクロファージを活性化し,必要以上の組織破壊をもたらす原因とな

る10)11).RPEは貪食能を有し,ほとんど全てのTLRを表出し感染微生物を認識しうる点では,自然免疫

細胞と通じる点がある.

我々は肺炎クラミジア死菌が直接 RPEを活性化する可能性を念頭に,感染を契機としたCNV形成のメ

カニズムの解析を行った.まずレーザー誘導 CNVモデルで,レーザー照射直後に硝子体腔内に肺炎クラ

ミジア抗原を注入したところ,CNVが悪化することを見出した(図3).次に試験管内で肺炎クラミジア

抗原によるRPE刺激を行った.C57BL/6Jマウス摘出眼球より RPEを分離 12 日間培養後,培養液中に肺

炎クラミジア抗原を加えて刺激した.一定時間後,細胞溶解液をReal-time PCRで各種サイトカイン産生

能を検討した.肺炎クラミジア抗原濃度依存性に IL-6,VEGF産生が上昇したが,対照の LPS刺激で上

昇するTNF-αは肺炎クラミジア抗原刺激では上昇しなかった.またMyeloid differentiation primary re-

sponse protein(Myd)88 ノックアウトマウス由来の RPE を使用すると,肺炎クラミジア刺激で IL-6,

VEGF産生が見られないことから,肺炎クラミジアのRPEに対する反応はTLRの重要なシグナル分子で

あるMyd88を介して行われていることが判明した.

前提として加齢によるブルッフ膜の脆弱化(脈絡膜―網膜境界の加齢変化)がある個体では,脈絡膜血

管に潜伏感染している肺炎クラミジアが,TLRを介してRPEに認識され,RPEからの液性因子産生が起

こり CNV形成を促進すると考えた(図4).

2.脈絡膜血管新生病に伴う網脈絡膜瘢痕形成と自然免疫

1)脈絡膜血管新生病と網脈絡膜瘢痕化

従来の CNVに関する研究はその形成機序に関するものが多いが,実際の臨床病態では CNVからの出

血後に生じる黄斑部の瘢痕治癒過程に関わる炎症反応も重要である.近年 CNV形成過程を抑制するもの

として硝子体腔へのベバシズマブ等の抗 VEGF抗体硝子体腔内投与,またすでに形成されたCNVに対し

てはベルテポルフィンを用いた光線力学的療法等の新しい治療が始まり,一定の治療効果が認められてい

る.しかし新治療の著効時期は発症前期・発症期にほぼ限定される.多くの患者は黄斑部出血後視力が低

下し初めて病気に気がつくのであるが,すでに視力回復という観点からは回復が難しい時期にさしかかっ

ている.組織瘢痕化が始まると,最新治療をもってしても「CNVは治癒しても視力は回復しない」という

ことになる.

脈絡膜血管新生病の治療ターゲットとして,CNVからの出血・滲出後に生じる黄斑部の機能障害(瘢痕

治癒)過程も重要と考えられる.仮に網膜下出血を起こしても,それに対して起こる必要以上の免疫炎症

反応を制御できれば,黄斑部組織破壊を最小限に止めることができよう.我々は CNVの形成病態に加え

て,CNVからの血液成分の出血・滲出により二次的に形成される網脈絡膜瘢痕病態に興味を持ち,自然免

疫細胞との関連を中心に解析することにした.

2)網脈絡膜瘢痕モデルの作成

上記の観点から,我々は最初にマウス網脈絡膜瘢痕モデルの作成を試みた.AMD患者由来の黄斑下増

殖組織には多数のマクロファージが浸潤している17).ゆえに瘢痕形成に重要とされる活性化型マクロ

ファージ(具体的にはチオグリコレート誘導マウス腹腔滲出細胞,peritoneal exudative cells,PEC)をマ

園 田 康 平 ほか1名140

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ウス網膜下に注入することで,検眼鏡的にも,また組織学的にもヒトに類似した局所瘢痕を再現できるの

ではないかと考えた.

網脈絡膜瘢痕モデルの作成・評価は下記の手順で行った.

1)マウス眼底後極部に,1カ所レーザー強凝固を行う.

2) 毛様体扁平部から 33ゲージ針を刺入し,網膜下にチオグリコレート誘導腹腔マクロファージを注入

する.

3)7日後に脈絡膜フラットマウントを作成する.網脈絡膜瘢痕組織は通常脈絡膜側に付着する.

5)グリオーシスマーカーである抗Glial Fibriary Acidic Protein(GFAP)抗体で免疫染色する.脈絡膜に

付着した瘢痕組織が可視化されるので,その部分の面積測定を ImageJ®で行う(図5).

3)網脈絡膜瘢痕形成には自然免疫細胞を介した炎症が関与する

本モデルではマクロファージ注入後7日目に,検眼鏡的にヒトに類似した局所瘢痕を再現できた.また

組織学的にも瘢痕部に一致して構成細胞が紡錘形になり,この部分は筋線維芽細胞のマーカーであるα-

平滑筋アクチン(α-smooth muscle actin,α-SMA)で

染色された.我々は活性化型マクロファージを中心に局

所に誘導される免疫・炎症機序が網脈絡膜瘢痕化に関与

するか確認するために,ステロイド薬全身投与の影響を

検討した.網膜下マクロファージ注入後,1日おきにデ

キサメサゾンの腹腔内投与を行ったところ,網脈絡膜瘢

痕組織は著明に減少した.網脈絡膜瘢痕が基本的に炎症

反応を介して形成されていることが再確認された.

マクロファージに加えて病態形成に重要と考えられる

のが RPE である.AMD 患者網膜下増殖組織は①増

殖・遊走した RPE,②マクロファージが混在していた.

RPEは,生理的条件下では視細胞の外節の食機能をはじ

め神経網膜の環境を保持するのに重要である.一方で,

いったん炎症状態にシフトすると,機能変化を生じ各種

ケモカイン・サイトカインを産生し炎症反応を増強する.

事実マクロファージと共培養した RPE は細胞内α

-SMA が上昇し,マクロファージ由来の炎症性因子に

よって,RPEにトランスフォーメーションが起こってい

ることを示すと考えられた.網膜下注入によって,網膜

下瘢痕形成に至ることが推測された(図6).本モデル

では,注入したマクロファージとRPEが作用し合い,瘢

痕形成を誘導していると考えられた.

4)網脈絡膜瘢痕形成に IL-6が重要である

上述のように AMD患者由来の黄斑下増殖組織には

多数のマクロファージが浸潤している17).マクロ

ファージはMHC関連分子や各種共刺激分子を介して,

抗原提示細胞としても機能する.免疫染色を行うとマク

ロファージの局在に一致して,多くの炎症性サイトカイ

ンが症例毎に様々なレベルで同定された.中でも IL-6

はどの症例にも共通して強発現していた.またマウス網

血管新生と自然免疫 141

図5 網膜下瘢痕モデルの作成と評価.グリオーシ

スマーカーである抗Glial Fibriary Acidic Pro-

tein(GFAP)抗体で免疫染色する.脈絡膜に付

着した瘢痕組織が可視化されるので,その部

分の面積測定を ImageJ®で行う.瘢痕組織と

それに混在するグリオーシスは,本来は網膜

構成細胞の変化である.しかし網膜と脈絡膜

を分離する際に脈絡膜側に付着し,GFAP染

色により容易に可視化できる.PEC:腹腔滲

出細胞(peritoneal exudative cell)

図6 RPE におけるαSMA 発現.マクロファージ

と共培養した RPE は細胞内αSMA が上昇し,

同時に細胞形態も変化する.PEC:腹腔滲出

細胞(peritoneal exudative cell)

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脈絡膜瘢痕モデルで,ルミネクスⓇを用いて眼内炎症性サイトカインのスクリーニング測定を行った結果,

やはり IL-6が上昇していた.そこで網脈絡膜瘢痕形成における IL-6の役割を検証するために,マウス網

脈絡膜瘢痕モデルで以下の3つの実験を行った.① IL-6 ノックアウトマウス由来腹腔滲出細胞を用いて

瘢痕化を誘導する,②マクロファージ網膜下注入後に,抗 IL-6抗体全身投与する,③マクロファージ網膜

下注入後に,IL-6 short interfering(si)RNAを硝子体腔注入する,という実験である.いずれもマクロ

ファージ由来の IL-6または二次的に局所で誘導される IL-6を抑制する実験系である.結果は IL-6 ノッ

クアウトマウス由来マクロファージでは瘢痕化が起こりにくく,抗 IL-6抗体全身投与マウスおよび IL-6

siRNA硝子体腔投与マウスは,濃度依存性に網脈絡膜瘢痕化が抑制された.IL-6は網脈絡膜瘢痕形成に

重要なサイトカインであり,その機能抑制マウスでは瘢痕化が起こりにくいことが判明した.

おわりに

広義の眼炎症疾患という観点から脈絡膜血管新生病を取り上げ,特に自然免疫細胞の役割に焦点を当て

研究を行った.脈絡膜血管新生病について,マウス網膜下瘢痕モデルを作成し,脈絡膜血管新生病の最終

的な予後不良原因である黄斑部機能障害・瘢痕化抑制機序の解析を行った.本研究で試みた病態抑制法を,

従来治療と組み合わせることで,幅広いステージでの脈絡膜血管新生病の治療が行えるようになるかも知

れない.

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(参考文献のうち,数字がゴシック体で表示されているものについては,著者により重要なものと指定された分です.)

血管新生と自然免疫 143

園田 康平(そのだ こうへい)

九州大学講師(九州大学大学院医学研究院 眼科学分野).医博.

◆略歴:1965 年鹿児島市に生る.1991 年九州大学医学部卒業.1997 年同大学院医学研究院卒業(生

体防御研究所,免疫部門).1997 年ハーバード大学スケペンス眼研究所研究員.2000 年九州大学大

学院医学研究院助手.2007 年より現職.

◆研究テーマと抱負:眼炎症疾患,眼免疫学.臨床に即した研究を目指します.

◆趣味:旅行,スキューバダイビング

プロフィール