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8 Special Feature 2016 8 August August 2016 特集企画 谷萩ビジネスコンサルティング 代表 谷萩 祐之 URL http://hiroy001.wix.com/-yahagi E-mail [email protected] Internet of Things Things 10 センサーや通信技術などの進歩により、あらゆ るモノをインターネットに接続する「IoT(アイ オーティ : Internet of Things)」が、近年、急速 に発展しています。その実態と、それが台頭して きた背景、及び様々な産業に与える影響について 概説し、今後の IoT の利活用の方向性について、 製造業と流通業の2つの視点から紹介します。 “ IoT ”とは何か? それは、 世の中の隅々へと浸透する 情報を活用した「付加価値」

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l Feature

2016

8August

August 2016 特集企画

谷萩ビジネスコンサルティング代表

谷萩 祐之

URL http://hiroy001.wix.com/-yahagiE-mail [email protected]

IoTによる社会変革

●IoTの定義

 

IoTとは「Internet of

Things

」の略で、すなわち、

あらゆるモノ(T

hings

)を

インターネットに接続し、

そこから送られてくる情報

を活用して新たな付加価値

を創造することです。

 

特定通信・放送開発事業

実施円滑化法では、IoT

社会を「インターネットに

多様かつ多数の物が接続さ

れ、及びそれらの物から送

信され、またはそれらの物

に送信される大量の情報の

円滑な流通が国民生活及び

経済活動の基盤となる社

会」と定義しています。

 

従来、インターネットに

つながるのは、パソコンや

サーバなどのコンピュータ

や通信機器でした。今はそ

れらに加えて、スマートフ

ォンのようなモバイル端

末、自動車、産業ロボット

のような産業機器、医療機

器、家電、自動販売機など、

文字通り、あらゆるモノが

インターネットに接続して

います。そして、その数は、

図1に示すように、10年で

5倍という速いペースで増

加を続けているのです。

●ビックデータとコラボ

 

この背景には、半導体技

術の進歩、データを取得す

る各種のセンサーの小型化

と低価格化で、様々なモノ

との接続が可能になったこ

とが挙げられます。加えて、

通信コストの低下で、セン

サーなどから送信される大

量のデータ、すなわち、ビ

ッグデータを収集すること

が容易になりました。

 

ビッグデータの分析技術

も、従来からのデータマイ

ニングと呼ばれるデータの

中から有意な知見を掘り出

す(マイニングする)手法

に加え、近年では、人工知

能が応用されるようにな

り、ビッグデータからより

高い付加価値を引き出すこ

とが可能になっています。

IoTの利用分野

●自動運転にお掃除

 

図1に示すように、Io

Tデバイスの利用分野は多

岐にわたっています。Io

Tの伝統的な利用分野であ

ったコンピュータは、デバ

イスの数においても成長率

においても、既に主役では

ありません。

 

近年、自動車では、エン

ジンやブレーキなど様々な

部品にセンサーが付けら

れ、車の状態をリアルタイ

ムに収集できるようになっ

てきました。さらに、現在、

研究開発が進められている

自動運転が実用化されれ

ば、さらに多くのIoTデ

バイスが車に搭載されるこ

とになるでしょう。

 センサーや通信技術などの進歩により、あらゆ

るモノをインターネットに接続する「IoT(アイ

オーティ : Internet of Things)」が、近年、急速

に発展しています。その実態と、それが台頭して

きた背景、及び様々な産業に与える影響について

概説し、今後の IoT の利活用の方向性について、

製造業と流通業の2つの視点から紹介します。

“ IoT ”とは何か? それは、世の中の隅々へと浸透する情報を活用した「付加価値」

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特集企画 そろそろ本気で IoT に取り組もう

 

利用されているIoTデ

バイスの数という観点で

は、「コンシューマ」に分

類されている消費者向けの

電気機器が多くなっていま

す。エアコンなどの家電を

インターネット経由で外出

先から操作することは、既

に、一般的になっています

が、今や、掃除ロボットも

インターネットに接続され

る時代になりました。

 

アイロボット社の掃除ロ

ボット「ルンバ980」は、

搭載しているカメラの画像

データを位置情報や稼働記

録とともにインターネット

を介してクラウドシステム

に送り、そこでコンピュー

タによる分析を行って、よ

り効率的な運転方法を導き

出し、それを送り返すこと

で、掃除の効率を継続的に

向上させています。

 

インターネットを活用す

ることにより、多数のルン

バ980の情報を一か所に

 

同様に、サンスターのス

マート歯ブラシ「G・U

・M

PLAY

(ガム

プレイ)」は、

3軸加速度センサーを内蔵

しており、歯ブラシの動き

をスマートフォンのアプリ

に送ります。アプリでは、

歯のどの部分をどの程度の

力と時間で磨いているかな

どの情報を表示したり、理

想の歯磨きの動きとの差を

表示したりすることができ

ます。また、歯磨きのデー

タはインターネット経由で

サンスターに集約され、口

腔の健康と全身の健康との

相関関係などの分析に利用

されています。

 

このようなコンシューマ

分野でのIoTの普及に加

えて、次に述べる製造業や

流通業などの産業分野でも

急速にIoTの利用が拡大

しています。IoTデバイ

ス数の成長率では、コンシ

ューマ分野を凌駕する勢い

で伸びています。

集約して分析することが可

能となり、掃除方法に関す

るコンピュータによる機械

学習のスピードが加速され

ました。一方、機械学習の

結果がインターネットを介

して送り返されることで、

すべてのルンバ980で最

新の運転ノウハウを共有す

ることができます。

●消費者から産業分野へ

 

さらに、消費者(コンシ

ューマ)に、より身近な商

品もインターネットに接続

されています。

 

メガネのJINSは、3

点式眼電位センサーと6軸

加速度センサーを搭載した

メガネ「JIN

S MEM

E

(ジ

ンズ

ミーム)」を2015

年に発売。このメガネは、

使用者の眼球の周りの電位

変化を検出し、スマートフ

ォンにデータを送って落ち

着き具合や疲れ具合をアプ

リで表示してくれます。

2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020

IoTデバイス数

0

100

200

300

400

500

600

10年間で 5.1倍40

30

20

10

020 40 60 80

(億個)(年)

(%)

(億個)

通信(個人・企業向け通信機器、IT機器等)

デバイス数の年平均成長率(2

014

↓2020

年)

自動車(インフォテイメント等)

産業(エネルギー、建物・産業オートメーション)

医療(モニタ・機器、計測器等) コンシューマ

(家電、ホームオートメーション等)

コンピュータ(デスクトップ・モバイルPC、サーバー等)

図1 IoT デバイスの増加

出典:総務省 平成 27 年版 情報通信白書

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August 2016 特集企画

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産業革命が起き、人工知能

がそれを加速しています。

 

世界的な第四次産業革命

の潮流の中で、ドイツが主

導して推進しているインダ

ストリー4.0は、特に製造業

に焦点を当てています。I

oTが生成するビッグデー

タを活用して、少量多品種

で高付加価値の製品を大規

模生産するマスカスタマイ

ゼーションの実現が、その

目標です。

 

一方、米国は、インダル

トリアル・インターネット・

コンソーシアム(IIC)

を設立し、GE、インテル、

シスコ、AT&T、IBM

など、200社超の民間企

業が主導してIoTを推進

しています。

 

図2で示したようにII

Cの対象は製造業にとどま

らず、ヘルスケアや運輸、

エネルギー、公共インフラ、

資源開発など広範な産業に

及び、異業種間の連携を重

第四次産業革命

●異業種間の連携

 

IoTデバイスが様々な

モノに搭載され、そこから

発生するビッグデータがイ

ンターネットを介して収集

されるようになると、その

ビッグデータを人工知能な

どで分析することによっ

て、今までにない価値を創

造することができます。こ

のことは、製造業でも流通

業でも農林水産業でも、そ

してすべての産業において

言えることです。

 

この大きな変革は「第四

次産業革命」と呼ばれてい

ます。第一次産業革命は水

力や蒸気機関のよるもの、

第二次産業革命は電力によ

るもの、第三次産業革命は

コンピュータとエレクトロ

ニクスによるものでした。

 

そして、今、IoTとビ

ッグデータによって第四次

視しているのが特徴です。

 

2016年に入って、イ

ンタストリー4.0とIIC

は、それぞれの標準を連携

させる努力を活発化させて

きました。ドイツの自動車

部品メーカー、ボッシュは、

自社工場で両方の規格を併

用した油圧バルブ生産シス

テムを稼働させ、両規格の

システム統合やデータ交換

を容易にするための仕組み

を実証しています。

 

これらの仕組みが一般化

すれば、両規格の連携は深

まり、近い将来、世界標準

として統合されることも期

待されます。そうなれば、

産業界におけるIoTの普

及は、さらに促進されるこ

とになるでしょう。

製造業におけるIoT

●政府認定の事業所へ

 

インダストリー4.0では、

マスカスタマイゼーション

を実現するため、生産ライ

ンを複数の工程(セル)に

分割し、それぞれの工程内

の作業を動的に変更するこ

と可能にする「ダイナミッ

クセル生産方式」の導入を

提唱しています。工程が短

時間、低コストでダイナミ

ック(動的)に変更できれ

ば、少量多品種でも大量生

産することが可能となるか

らです。

出典:ボッシュ社 資料を参考に作成

インダストリー4.0次世代製造業の

バリューチェーンの詳細モデル

交 通

エネルギー

ヘルスケア

製造業

公 共

IIC

異業種間の相互運用

図2 インダストリー4.0 と IIC

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特集企画 そろそろ本気で IoT に取り組もう

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こうしたノウハウの共有化

にも貢献が期待されている

のです。

 

さらに、生産設備にセン

サーを取り付け、ネットワ

ークを介して常時その状態

を監視し、データを定常的

に分析することができれ

ば、将来の故障を予測する

こともできます。そうなれ

ば、故障が発生する前に対

処する予防保全が可能とな

り、工場の安全性と稼働率

の向上が期待できます。

 

以上のことから政府では

IoT、人工知能、ビッグ

データなどを活用した高度

な保安対策を講じている事

業所を「スーパー認定事業

所」として認定し、保安検

査の軽減などを認めること

を検討しています。

流通業におけるIoT

●POSデータ+α

 

物流や小売などの流通業

 

このダイナミックセル生

産を行うためには、各種の

生産設備をネットワークで

つなぎ、生産ライン全体を

リアルタイムに制御する必

要があります。工場内のす

べてのモノがネットワーク

につながる、まさにIoT

の世界です。

 

また、産業ロボットなど

の生産設備がネットワーク

につながることにより、他

社とのノウハウの共有も可

能になります。例えば、人

工知能を搭載したファナッ

クの知能ロボットは、学習

結果をネットワークで共有

することで学習スピードが

飛躍的に向上しました。

 

自社では1台しかロボッ

トを導入していなくても、

インターネットを介して、

他社の同種のロボットN台

と学習結果を共有すること

ができれば学習速度はN+

1倍に向上します。

 

IoTの普及と標準化は

においてもIoTの利活用

は進んでいます。

 

例えば、物流倉庫内の台

車や商品箱に電子タグなど

のデバイスをつけ、その位

置情報を活用して倉庫内の

作業効率化を図る事例は、

近年、一般的に見られるよ

うになってきました。

 

日立製作所は、台車ルー

トや商品の保管場所の情報

に、発注内容、売上、作業

効率などのデータを加えて

人工知能で分析し、作業効

率を最大化する作業手順を

指示するシステムを提供し

ています。

 

同様に、小売業でも、店

内の様々なモノがインター

ネットにつながり始めてい

ます。例えば、ホームセン

ターのグッデイでは、ショ

ッピングカートにタブレッ

トを搭載し、店内各所のビ

ーコンと通信することで顧

客の動線を記録することを

可能にしました。この記録

から顧客の移動範囲、売場

間の移動方向、売場エリア

ごとの滞在時間を把握し、

売場配置の最適化に役立て

ています。

 

レジの売上記録であるP

OSデータは、何が売れた

かは教えてくれますが、顧

客が何に興味を持ったの

か、どのような順番で購入

商品を選んだのかという情

報は提供してくれません。

ショッピングカートをネッ

トワークにつなぐことで顧

客の動線情報を取得し、そ

れをPOSデータなどの既

存情報と突き合わせること

で、効果的なマーケティン

グが可能になります。

今後のIoT

●価値の創造

 

センサーなど、情報を取

得するデバイスが小型、低

価格化し、それらがインタ

ーネットに接続されていく

ことに伴って、IoTはま

すます世の中の隅々へと浸

透していくことが予想され

ています。

 

収集したビッグデータを

分析する技術も人工知能の

進化で、より高い付加価値

を創造するようになるでし

ょう。既に人工知能は、大

規模なコンピュータシステ

ムでなくても動作させるこ

とができますが、将来は、

一つの半導体素子で実行で

きるようになり、さらに低

コストで利用することが可

能になります。

 

こうした技術革新の果実

をビジネスに活かすには、

どのような情報から、どの

ような価値を創造するかと

いう経営的な創造力が重要

です。これからのIoT時

代を生き抜くための企業競

争力の源泉は「情報から価

値を生む創造力にある!」

と言っても過言ではありま

せん。