Appendixめ、トルコ24 ヵ所、シリア4 ヵ所、イラン18 ヵ所、イラク18 ヵ所となっている。これ らの貯水能力総量は、両河川の年間平均河川流量の3.5
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津波・異常洪水に対応した
樋管のゲート形式について
内藤 恵介
関東地方整備局 利根川下流河川事務所 調査課 (〒287-8510千葉県香取市佐原イ4149)
利根川下流部には無堤区間が存在しており、堤防及び樋管を整備する必要があり、堤防・樋管の設計を
鋭意進めているところである。なお、東日本大震災において、水門・陸閘等の操作に従事した方が多数津
波による犠牲となっていることから、樋管の操作員の安全確保を最優先とする効果的な管理運用(ハー
ド・ソフト面含むシステム)が重要となっている。効果的な管理運用として、待避ルールの明確化、操作
の自動化・遠隔操作等の積極的な採用、ゲートの構造上の工夫(新技術の普及を含む)等が考えられるが、
操作の自動化(Jアラートによる閉扉等)や、操作規則の曖昧な運用に起因する内水氾濫が発生している
ところである。このため、本論文においては、津波・異常洪水時に操作員の安全を確保するとともに、内
水氾濫の防止・軽減することを目的としたゲート形式の検討過程について報告する。
キーワード 樋管操作員の安全確保、内水氾濫の防止・軽減、ハイブリッドゲート
1. はじめに
利根川下流部には無堤区間が存在しており、市街地及
び農地の浸水被害が発生している。このため、家屋浸水
対策とあわせて地域経済の要である農地の安全度向上を
図ることが急務となっており、堤防及び樋管の設計を進
めているところである。
樋管については、堤防整備の進捗にあわせて整備(統
廃合を含む)を進めている。
設計を進める中で、東日本大震災において水門・陸閘
等の操作員が津波により被災していること、操作の自動
閉扉や開扉の遅れによる内水氾濫が起きた事例が存在す
る点に着目し、これらを解消するためのゲート形式案を
検討した。
2. 目的と背景
本検討にあたっては、東日本大震災による津波により
操作員が犠牲となっており、これを機に河川・海岸構造
物等の操作規則に操作員の避難に関する項目が明記され
¹⁾²⁾、操作の運用に関するガイドラインの整備が積極的
に進められていることなどを鑑み、この背景に合致する
ゲート形式案について設計を進めることとした。
なお、過去の操作運用の検討委員会資料等を参照する
と、震災において消防活動中の方が多数犠牲となってお
り、これには被災の直前に水門閉扉または水門状況確認
に当たっていた方も多く含まれているとみられている。
また、水門・陸閘等の管理形態を見た場合、約8割が
管理委託³⁾⁴⁾となっており、手動の水門等の開閉操作で
現場作業員が危険となった場合の対応として、操作者判
断が約7割⁵⁾となっており、操作者の判断に任せている
管理者が大半であった。
なお、操作員の被災を防ぐ手段として、操作の自動
化・遠隔操作化等の対策が有効であるが、海岸管理者に
対するアンケート結果によると、多大な費用・予算等が
必要との回答が約7割⁵⁾となっており、対策を講じるに
当たっては費用の問題が大きいという結果になっていた。
3. 樋管ゲート形式の比較
(1) 検討の比較対象としたゲート形式について
ゲート形式の検討にあたっては、フラップゲート形式、
バランスウェイト式フラップゲート形式、ローラゲート
形式、ダブルゲート形式(ローラゲートとフラップゲー
トを直列配置した形式)、ハイブリッドゲート形式(ロ
ーラゲートにフラップを内蔵した形式)の5形式を比較
の対象とした。
以下に、各形式のメリット・デメリットを列挙する。
2
a) フラップゲート形式
図-1 フラップゲート
管内の地方自治体の管理する樋管について、フラップ
ゲート形式を採用している例があるため、検討の対象と
した。
・水位変動に合せて自動開閉するタイプのゲートであり、
内水位(函体側の水位)が高い場合には自動的に排水、
外水位(本川側の水位)が高い場合には自動的に閉扉す
るため、人為的な操作の必要がない。
・一般的なゲートであり、構造が複雑でないためコスト
が最も低い(100%)。(フラップゲートのコストを
「100%」とし、以下に挙げる他構造とのコスト比較の
基準とする。)。
・平常時に土砂が堆積している状況が見受けられ、場合
によっては閉扉が不完全となる恐れがあり、樋管を逆
流した河川水により浸水被害が発生する懸念がある。
・内水位が低い場合に滞留が起こり、悪臭が発生する場
合が多い。
b) バランスウェイト式フラップゲート形式
図-2 バランスウェイト式フラップゲート
・バランスウエイトの作用により、扉体の開閉力が軽減
されており、フロートの浮力により自動開閉するフラ
ップゲートである。フラップゲート形式より作動性に
優れ、水位変動に対応した開閉動作の信頼性が高い
(フラップゲート形式より、水位変動に対する動作の
タイムラグが少ない。)。
・フラップゲート形式と比較すると、土砂・ゴミ等の堆
積の懸念が少ないが、堆積物により閉扉が不完全とな
る懸念が同様にある。
・比較的採用事例が多く、構造が複雑でないため、コス
トはそれほど高くない(117%)。
c) ローラゲート形式
図-3 ローラゲート
・引上式ゲートなので、鉛直方向への強制的な押し付け
操作及びフラッシング操作が可能であり、堆積物に対
する信頼性がフラップゲートより優れる。
・従前から採用されている一般的な構造であり、実績も
多いため、開閉の信頼性や維持管理面について特段の
問題がない。
・一般的なゲートであり、コストがそれほど高くない
(119%)。
・津波時について、全閉後の開扉操作が遅れた場合、内
水氾濫を起こす懸念があり、管理者の瑕疵が問われる
可能性がある。
・操作時は、門柱上の開閉装置室に行き、水位の状況を
確認しながら開閉操作を行なうため、津波や異常洪水
の発生時に操作員が被災する可能性がある。
3
d) ダブルゲート形式
図-4 ダブルゲート
図-3 ダブルゲート
・ローラーゲートの前面にフラップゲートを設置するこ
とにより、津波等の緊急時にフラップゲートが機能す
るため、開閉遅れの可能性が低くなる。
・基本的に全開としておくことによって、開放操作の遅
れに起因する内水氾濫を防止できる。
・ローラーゲートとフラップゲートの両方を設置するた
め、コストが最も高くなる(236%)。
・フラップゲートを配置することにより、ローラゲート
のデメリットを解消することが出来るが、フラップゲ
ートのデメリットは解消できない。
e) ハイブリッドゲート形式
図-5 ハイブリッドゲート
・一般的なローラーゲートにフラップゲートが装備され
ているため、水位変動に応じた自動開閉が可能である。
全閉後の開扉操作の遅れによる、内水氾濫を抑制する
ことができる。
・津波等の緊急時に、閉扉遅れによる浸水被害を防止・
軽減することが可能である。
・水門や樋門での実績がある。
・コスト(132%)はダブルゲートよりも格段に低く、ロ
ーラゲートのコストと比較してもさほど変わらない
(111%)。
以上より、ハイブリッドゲートが有利となるため、以
下により詳細な考察をおこなった。
表-1 a)~e)のゲート形式のコスト比較表
4. ハイブリッドゲートの特徴
ハイブリッドゲートを設置した場合について、関東地
整で最も一般的なゲート形式 (ローラゲート形式)と
の相違点の概要を ①平常時、②洪水時、③津波発生時
(津波到達前・到達時)に分類し整理した。
①平常時
平常時は、両者共にゲートが開扉状態であるため、ロ
ーラゲート及びハイブリッドゲートの両者に相違はない。
拡大図
図-6.(a) 平常時のローラゲート
図-6.(b) 平常時のハイブリッドゲート
4
②洪水時について
洪水時には、両者共にゲートが閉扉状態であるため、
ローラゲート及びハイブリッドゲートの両者に相違はな
い。
図-7.(a) 洪水時のローラゲート
図-7.(b) 洪水時のハイブリッドゲート
なお、利根川河口部の感潮区間では、洪水時の水位が
潮位の影響を受けるため、ローラゲート及びハイブリッ
ドゲートの開閉は、図-8のイメージとなる。内水氾濫を
防止するためには、ローラゲート形式は潮位変動にあわ
せ、操作員による細かい操作が必要となる。ハイブリッ
ドゲートは、ローラゲートを水位低下まで全閉状態とし、
フラップゲートによる内水排除が可能であるため、操作
員の安全確保や操作遅れによる内水氾濫を防止・軽減す
ることが可能である。
図-8 潮汐の影響によるゲートの開閉イメージ
③津波発生時
(1)津波到達前
ローラゲートの場合、津波到達まで間、ゲート閉扉
状態とすると、堤内側の排水が不可となり、内水氾濫が
発生する可能性がある。このため、津波到達するまでの
間、ゲートを半開状態にする必要があり、開閉操作のう
ち全開の頻度が高くなる。
ハイブリッドゲートの場合は、J-ALERT受信直
後のゲート閉扉操作が可能であり、閉めた場合でも、フ
ラップゲートによる堤内側の排水が可能であるため、内
水氾濫は発生しない。
図-9.(a) 津波到達前のローラゲートで内水氾濫が発生
図-9.(b) 津波到達前のハイブリッドゲート
(2)津波到達時
ローラゲートでは、内水氾濫を防ぐために全開―半開
等の操作をすることとなるが、もし津波到達時に閉扉操
作が間に合わなかった場合、堤内側へ河川水が侵入する
可能性がある。
ハイブリッドゲートは、J-ALERT受信直後、ゲ
ート閉扉状態となり、なおかつ操作員が待避出来るため
被災の危険性がない。
堤内排水不良のため内水氾濫が発生
フラップによる排水で内水氾濫は発生しない。
5
図-10.(a) 津波到達時のローラゲート(半開時)
図-10.(b) 津波到達時のハイブリッドゲート
5. ハイブリッドゲート規模の設定
(1)ゲート排水量の設定
フラップゲート部における排水量については、堤内が
内水で浸水せず河川に流出することを想定し、通常想定
される降雨レベルとして、1/0.5年確率規模を対象とした。
流量算定にあたっては、樋管排水量と同様に合理式で
求めた。当該地区となる銚子気象台の降雨強度式(H11
式)を用いて、確率規模別流量の関係より5樋管(図-11)
について評価した。なお、5樋管については、銚子市が
管理しており、直轄工事で函体の継ぎ足し施工する予定
である。
図-11 樋管位置図
(2) フラップゲート規模の検討
1/0.5年確率規模流量をもとに、不等流計算によりフ
ラップゲート規模を検討した。結果は、表-1のとおり。
なお、図-16には、フラップゲートの合計断面積の既
設樋管断面積に対する割合を示した。
【計算条件】
対象流量:1/0.5年確率規模流量
樋管勾配:Level
粗度係数:n=0.020
(河川砂防技術基準(案) 調査編より)
出発水位:限界水深(hc)
表-2 フラップゲートの必要断面積一覧
図-12 フラップゲートの必要断面積と
主ゲート全断面積に対する割合
ハイブリッドゲートのフラップの断面積は、既設樋管
の主ゲート全断面積に対して1~3割の間に収まること
が分かる。
(3)ハイブリッドゲートへの改修費用について
既存の樋管ゲートをハイブリッドゲートに改築する場
合は、扉体の交換のみで済み、長寿命化対策のステンレ
ス製への扉体交換時にあわせて行うことで、施工費が増
加することなく、扉体の材料費の増で交換を行える。
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
0.35
1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6
A排水路
芦崎
高田
西部
野尻
半開ゲートから堤内側へ津波が侵入
閉扉状態となるため、津波は堤内側へ侵入しない
(m2)
面積比
フラップ面積
6
6. まとめ及び今後の課題
(1)まとめ
・ハイブリッドゲートを設置することは、強い降雨の継
続時に津波が同時発生した場合において、内水氾濫の
防止・軽減に非常に効果的であると考える。
また、内水氾濫の防止のためにゲートの開閉操作を
細かく行う必要がないため、操作員の安全確保につな
がる。
・河口部付近に新設する樋管については、津波の影響を
受けやすいため、ハイブリッドゲートの採用を検討す
ることに意義があると考える。
・既存樋管・新設樋管を問わず、比較的小規模な工事と
なることが分かり、汎用性に優れている。
(2)今後の課題
・現状までの検討結果では、フラップゲートが十分な機
能を発揮できるかという点が、不確定要素であるた
め、施工実績のあるゲートの運用状況等を調査し、
設計にフィードバックする必要がある。
・今回、1/0.5年確率規模と設定しているが、ゲート構
造の詳細設計を進めるにあたっては、対象流域の状
況等を考慮して、再度検証する必要がある。
参考文献
1) 国土交通省水管理・国土保全局:河川管理施設の操作規
則の作成基準
2) 国土交通省水管理・国土保全局:樋門等の操作規則・操
作要領作成における操作員退避検討に当たってのガイド
ライン
3) 農林水産省 農村振興局・水産庁、国土交通省水管理・
国土保全局・港 湾 局:津波・高潮対策における水門・
陸閘等管理システムガイドライン(Ver. 3.1)
4) 農林水産省 農村振興局・水産庁、国土交通省水管理・
国土保全局・港 湾 局:津波・高潮対策における水門・
陸閘等管理システムガイドライン(Ver. 3.1)
参考資料1 水門・陸閘等の整備・管理のあり方(提言)
5) 水門・陸閘等の効果的な管理運用検討委員会資料