Research of training method using repeated rolling ...

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原 著 重度脳性麻痺ボッチャ選手に対する寝返り動作の反復を用いたトレーニング方法の検討 矢作 公佑 1, 2* ,奥田 邦晴 1, 2 ,片岡 正教 1, 2 ,居村 修司 1, 2 ,一場 友実 3 Research of training method using repeated rolling movement for Boccia players with severe cerebral palsy Kosuke Yahagi 1, 2* , Kuniharu Okuda 1, 2 , Masataka Kataoka 1, 2 , Shuji Imura 1, 2 and Tomomi Ichiba 3 Received : October 7, 2020 / Accepted : April 14, 2021 Abstract Boccia is a targeted sport that has been devised in Europe for people with severe cerebral palsy (CP) or similar severe limbs dysfunction. In the target sport, it is important that the parasympathetic nerve becomes dominant during the competition, and it is said that the parasympathetic nerve activity tends to become dominant by training to raise the heart rate. The training protocol incorporates a rolling movement, which is an Activities of Daily Living (ADL) that can be performed even with severe CP. The purpose of this study is to verify whether inter- val rolling movement (IR), which repeats rolling movement at the maximum speed, is effective as training for increasing heart rate associated with effort exercise for people with severe CP. One workout consisted of 1minute rolling movement and 30seconds of rest, and three times of this workout were as 1set of IR. Subjects performed 3sets of IR with a 5minutes rest and per- formed this training for 6months. Six severe CP boccia players were divided into two groups, 1/week group and 1/month group, depending on the frequency of intervention. As a result, the post-exercise heart rate and the number of turns per minute increased significantly in the weekly group, and no significant change was observed in the monthly group. For severe CP boccia players, it was suggested that conducting IR at least once a week is an effective method of training aimed at increasing heart rate associated with effort exercise. Jpn J Phys Fitness Sports Med, 70(3): 229-235 (2021) Keywords : Boccia, cerebral palsy, interval training, rolling movement, heart rate 1 大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科,〒583-8555 大阪府羽曳野市はびきの 3-7-30 (Graduate School of Comprehensive Rehabilitation, Osaka Prefecture University, 3-7-30 Habikino, Habikino City, Osaka 583-8555, Japan) 2 一般社団法人日本ボッチャ協会,〒107-0052 東京都港区赤坂 1-2-2 (Japan Boccia Association, 1-2-2 Akasaka, Minato Ward, Tokyo 107-0052, Japan) 3 杏林大学保健学部理学療法学科,〒181-8612 東京都三鷹市下連雀 5-4-1 (Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Kyorin University, 5-4-1 Shimorenjaku, Mitaka City, Tokyo 181-8612, Japan) 緒  言 ボッチャは,重度の脳性麻痺(Cerebral Palsy; CP)も しくは同程度の四肢重度機能障がい者のためにヨーロッ パで考案されたパラリンピックの正式競技で,ジャック と呼ばれる白の的球に赤と青のカラーボールを投げ合 い,いかに近づけることができるかを競うターゲットス ポーツである.ボッチャには男女の区別はなく,競技ク ラスは BC1〜BC4 の 4 つに分類される 1) (Table 1). 従来の CP ボッチャ選手の競技力向上に対するアプ ローチとしては,主に上肢の筋緊張低下を目的としたス トレッチなどの受動的なトレーニングメニューが中心で あった.奥田ら 2) は,上肢はもとより,体幹・下肢の筋 力トレーニング,フィットネストレーニングを中心とし たボッチャトレーニング(ボチトレ)を実施し,ボッチャ 選手の筋力や体力の向上を目指してきた.CP リハビリ テーションガイドライン 3, 4) では,CP に対する筋力・持 久力のトレーニングは有効とされているが,粗大運動能 力分類システム(Gross Motor Function Classification System ; GMFCS)Ⅰ〜Ⅲレベルの比較的軽度な CP が対 象とされており,ボッチャの対象となるような GMFCS Ⅳ〜Ⅴレベルの重度障がいの CP に対しての効果は不明 とされている.これまでの報告の多くは GMFCSⅠ〜Ⅲ レベルの軽度 CP に対するものであり,トレーニング方 法は歩行 5) ,エルゴメーターや水泳など 6) を用いたもの である.しかし,重度 CP においてはトレーニングに関 体力科学 第70巻 第 3 号 229-235(2021) DOI:10.7600/jspfsm.70.229 *Correspondence: [email protected]

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原 著

重度脳性麻痺ボッチャ選手に対する寝返り動作の反復を用いたトレーニング方法の検討

矢作 公佑1,2*,奥田 邦晴1,2,片岡 正教1,2,居村 修司1,2,一場 友実3

Research of training method using repeated rolling movementfor Boccia players with severe cerebral palsy

Kosuke Yahagi1,2*, Kuniharu Okuda1,2, Masataka Kataoka1,2, Shuji Imura1,2 and Tomomi Ichiba3

Received : October 7, 2020 / Accepted : April 14, 2021

Abstract Boccia is a targeted sport that has been devised in Europe for people with severe cerebral palsy (CP) or similar severe limbs dysfunction. In the target sport, it is important that the parasympathetic nerve becomes dominant during the competition, and it is said that the parasympathetic nerve activity tends to become dominant by training to raise the heart rate. The training protocol incorporates a rolling movement, which is an Activities of Daily Living (ADL) that can be performed even with severe CP. The purpose of this study is to verify whether inter-val rolling movement (IR), which repeats rolling movement at the maximum speed, is effective as training for increasing heart rate associated with effort exercise for people with severe CP. One workout consisted of 1minute rolling movement and 30seconds of rest, and three times of this workout were as 1set of IR. Subjects performed 3sets of IR with a 5minutes rest and per-formed this training for 6months. Six severe CP boccia players were divided into two groups, 1/week group and 1/month group, depending on the frequency of intervention. As a result, the post-exercise heart rate and the number of turns per minute increased significantly in the weekly group, and no significant change was observed in the monthly group. For severe CP boccia players, it was suggested that conducting IR at least once a week is an effective method of training aimed at increasing heart rate associated with effort exercise.

Jpn J Phys Fitness Sports Med, 70(3): 229-235 (2021)Keywords : Boccia, cerebral palsy, interval training, rolling movement, heart rate

1大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科,〒583-8555 大阪府羽曳野市はびきの3-7-30 (Graduate School of Comprehensive Rehabilitation, Osaka Prefecture University, 3-7-30 Habikino, Habikino City, Osaka 583-8555, Japan)

2一般社団法人日本ボッチャ協会,〒107-0052 東京都港区赤坂1-2-2 (Japan Boccia Association, 1-2-2 Akasaka, Minato Ward, Tokyo 107-0052, Japan)

3杏林大学保健学部理学療法学科,〒181-8612 東京都三鷹市下連雀5-4-1 (Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Kyorin University, 5-4-1 Shimorenjaku, Mitaka City, Tokyo 181-8612, Japan)

緒  言

 ボッチャは,重度の脳性麻痺(Cerebral Palsy ; CP)もしくは同程度の四肢重度機能障がい者のためにヨーロッパで考案されたパラリンピックの正式競技で,ジャックと呼ばれる白の的球に赤と青のカラーボールを投げ合い,いかに近づけることができるかを競うターゲットスポーツである.ボッチャには男女の区別はなく,競技クラスはBC1〜BC4の 4 つに分類される1)(Table 1). 従来の CP ボッチャ選手の競技力向上に対するアプローチとしては,主に上肢の筋緊張低下を目的としたストレッチなどの受動的なトレーニングメニューが中心で

あった.奥田ら2)は,上肢はもとより,体幹・下肢の筋力トレーニング,フィットネストレーニングを中心としたボッチャトレーニング(ボチトレ)を実施し,ボッチャ選手の筋力や体力の向上を目指してきた.CPリハビリテーションガイドライン3,4)では,CPに対する筋力・持久力のトレーニングは有効とされているが,粗大運動能力分類システム(Gross Motor Function Classification System; GMFCS)Ⅰ〜Ⅲレベルの比較的軽度なCPが対象とされており,ボッチャの対象となるようなGMFCS Ⅳ〜Ⅴレベルの重度障がいのCPに対しての効果は不明とされている.これまでの報告の多くはGMFCSⅠ〜Ⅲレベルの軽度CPに対するものであり,トレーニング方法は歩行5),エルゴメーターや水泳など6)を用いたものである.しかし,重度CPにおいてはトレーニングに関

体力科学 第70巻 第 3号 229-235(2021)DOI:10.7600/jspfsm.70.229

*Correspondence: [email protected]

230 矢作,奥田,片岡,居村,一場

する報告は見当たらない. また重度CPは不動による二次的な筋力低下や筋持久力低下,心肺機能の低下がみられる7,8) と報告されている.軽度CPに対して行うような介入方法は,重度CPにとっては実施困難な動作が多く,実際の実施に際しては,運動機能レベルに合わせたトレーニング項目の選択が重要となる3).そのため,重度CPにも実施可能な動作をトレーニングプロトコルに取り入れ,そのトレーニング効果に関する検証が必要である. アーチェリー9) や射撃10) などのターゲット種目では,競技力の高い選手ほど交感神経から副交感神経への切り替えが認められ,副交感神経活動が優位であり,試合中の心拍数の変動が安静時と比較して少ないことが報告されている.しかし居村ら11)は,重度CPボッチャ選手を対象とした調査で,競技中では安静時と比較して心拍数増加,交感神経活動亢進,副交感神経活動低下を認めたと報告しており,自律神経活動を改善させるトレーニングの考案が必要である.健常者を対象とした研究12)では,高強度インターバルトレーニングにより安静時の交感神経系の活動を低下させ,副交感神経の活動を増加させて安静時心拍数が低下することから,自律神経活動の改善に効果的と報告されている.また軽度のCP者(GM-FCSⅠ〜Ⅲレベル)を対象とした研究6)では,週 2 〜 4 回,10週間以上の長期間,自転車やランニング,水泳などの全身運動を取り入れたトレーニングプログラムで安静時心拍数の低下や酸素摂取量の増大など,自律神経活動が改善されると報告されている.CP児はGMFCSレベルが重度なほど安静時の交感神経活動が高く,受動的な立位姿勢への姿勢変換による心拍数応答が少なく,自律神経活動の変化が小さい13)と報告されている.一般的に心臓機能は交感神経によって促進され,副交感神経によって抑制される14)が,CPでは正常発達児と比較して脳病変から生じる自律神経調節機能障害の影響により交感神経活動の亢進と副交感神経活動の低下が生じ,障害がより重度であるほど心拍数調整における自律神経調節での副交感神経の寄与が少なく,交感神経優位な状態である

とされている15).努力性運動に伴う心拍数の上昇は,心拍数100拍/分までの範囲では副交感神経の抑制による副交感神経優位の調節であり,心拍数100拍/分以上の範囲では交感神経の亢進による交感神経優位の調節となることが正常な働き5,6,16)であるが,重度CPでは心拍数調整における副交感神経の作用が働きにくく,運動に伴う心拍数上昇が生じにくい17).この自律神経による心拍数調節の能力はCPにおいてもトレーニングにより改善する可能性がある12,18) とされている.重度CP者においても努力性運動に伴う心拍数上昇がみられるような高強度インターバルトレーニングを行って,自律神経による心拍数調節の能力が向上することにより,副交感神経の作用が働きやすくなり,競技中の心拍数の変動が少なくなると考えられる. また,努力性運動に伴う心拍数の測定には特殊な機材も不要であるため簡便で,主観的な疲労度19)や酸素摂取量20,21)などとも関連がみられるだけでなく,自律神経系の評価の指標22)にもなるなど,様々な利用価値の高い指標18)であることから,心拍数の変化を指標としての検証が望ましいと考えた. 以上のことから,重度CPでも実施可能なADL(Activi-ties of Daily Living)動作である寝返り動作をトレーニングプロトコルに取り入れ,努力性運動に伴う心拍数上昇を目的にインターバルトレーニング方式で反復するインターバル寝返り(Interval Rolling ; IR)を実施した.心拍数の変化を指標として,介入期間終了後に努力性運動に伴うIR終了直後の心拍数がより大きく上昇していれば,重度CPに対するトレーニング方法として有効であるという仮説を立てた.

方  法

被験者 被験者は,重度CPボッチャ選手 6 名とした.関西在住選手 4 名,関東在住選手 5 名に対してリクルートを行ったが,関西在住選手 1 名と関東在住選手 2 名については定期的なトレーニング介入に継続して参加することができないため辞退した.被験者のGMFCSレベル

Table 1. Boccia Classification

231ボッチャ選手のトレーニング方法の検討

およびADLの指標として機能的自立度評価(Functional Independence Measure ; FIM)の運動項目の点数をTable 2に示す.被験者の選定にあたっては,一般社団法人日本ボッチャ協会に登録している選手のうち,心疾患や呼吸器疾患などがなく,主治医からトレーニング実施について許可を得ている選手であることを配慮した.介入を開始するにあたり,被験者に及ぼすリスク,負担,利益および個人情報の秘密保持等の倫理的配慮に関する項目を明文化し,大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科研究倫理委員会の承認を得た(承認番号:2019-102).全ての被験者に対し,本研究の目的および方法,リスク等について書面を用いて十分に説明し同意を得た.被験者が未成年の場合には,保護者に対しても同様に説明し,同意を得ることとした.

介入方法 健常者と比較して軽度CPでは習慣的な身体活動レベルは13%〜53%であり,重度CPではさらに少ない身体活動量であるという報告23)があることから,介入実施会場までの移動負担やトレーニングによる疲労も考慮し,被験者達の同意を得た上で,関西在住の被験者A〜Cは週 1 回,関東在住の被験者D〜Fは月 1 回の頻度で 6 ヶ月間IRを実施した.IRのトレーニングプロトコルは,Workout 1 min / Rest 30 secをWorkout 3 回で 1 set(Fig. 1)とし,休憩 5 分17)を挟んで 3 set実施した.Workoutでの寝返りは背臥位を開始肢位とし,側臥位までの寝返りを左右交互に,最大速度で反復するものとした.自力での寝返りが困難な被験者Aおよび被験者Dについては,重心移動の際に最小限の介助のもと実施した.

測定項目及び測定方法 毎介入時にIR開始前に仰臥位で 5 分間安静後の安静時心拍数を頸動脈の触診法にて 1分間測定し,努力性運動に対する心拍数の変化の指標としてIR 3 set終了直後の心拍数を同じく頸動脈の触診法にて 1 分間測定した.さらに,背臥位から側臥位まで 1分間あたりの寝返り実施回数を測定した.

リスク管理 リスク管理として,毎回の介入前後に気分不良の有無や擦過傷の有無等を確認し,IR実施直後およ

びトレーニング実施日から筋緊張の亢進やその他身体の異常等が出ていないかを聞き取りにて確認した.

統計処理 統計処理には,SPSS ver.25(IBM社製)を用いた.各群の介入前と 6 ヶ月間の介入終了時の安静時心拍数,IR終了直後の心拍数ならびに 1 分間あたりの寝返り実施回数の変化を確認するため,Shapiro-wilk検定で正規性を確認した後に対応のある t 検定を行った.また,1 分間あたりの寝返り実施回数とIR終了直後の心拍数との関係について,Pearsonの積率相関係数を用いて算出した.有意水準はそれぞれ 5 %未満とした.

結  果

 全体のトレーニングの実施率は100%であり,両群ともに脱落者はいなかった.被験者の基本属性をTable 3に示す.これらの基本属性についてはいずれも 2 群間に有意差は認められなかった.また,どの被験者についても介入実施後の体調不良や筋緊張亢進,その他身体の異常等もみられなかった. 両群ともに介入前と 6 ヶ月間の介入終了時の安静時心拍数に有意な変化は認められなかった(Fig. 2).介入前と 6 ヶ月間の介入終了時のIR終了直後の心拍数について,週 1 回群では介入前130.67±9.87から介入後164.67±17.01と有意な増加が認められ,月 1 回群では介入前99.67±13.80から介入後101.33±1.15と有意な変化は認められなかった(Fig. 3).介入前と 6 ヶ月間の介入終了時の 1分間あたりの寝返り回数について,週 1 回群では介入前27.33±18.45から介入後43.33±19.01と有意な増加が認められ,月 1 回群では介入前22.67±5.13から介入後25.67±6.03と有意な変化は認められなかった(Fig. 4).また,有意な増加が認められた週 1 回群の 1 分間あたりの寝返り実施回数とIR終了直後の心拍数との関係について,3名ともに有意な正の相関関係が認められた(Fig. 5).

考  察

 本研究は,重度CPでも実施可能なADL動作に着目し,寝返り動作をインターバルトレーニング方式で反復して実施するトレーニング(IR)が重度CPに対するトレー

Table 2. Motor levels of subjects

232 矢作,奥田,片岡,居村,一場

ニング方法として有効か,心拍数の変化を指標として検証することを目的とした.介入期間終了後に努力性運動に伴うIR終了直後の心拍数がより大きく上昇していれば,重度CPに対するトレーニング方法として有効であるという仮説を立てた.結果として,週 1 回群においては介入前と 6 ヶ月間の介入終了時のIR終了直後の心拍数および 1 分間あたりの寝返り回数において有意差が認められた.この結果から,週 1 回のIRが重度CPにおける努力性運動による心拍数上昇を目的としたトレーニングとして有効な方法であることが示唆された. 一般的に重度CPは,覚醒時間の約76〜99%を座位で過ごしている23)とされており,日常的に身体活動が少な

いとされている.実際に今回の全被験者においても覚醒時間の80%以上を座位で過ごしており,日常的に身体活動が少ないことから,推奨されている週 3 〜 5 回という頻度19)に満たないプロトコルであっても有意な向上がみられたと考えられる.しかし,月 1 回群では有意な向上はみられなかったため,少なくとも週 1 回以上の頻度でトレーニングを実施することが効果的である可能性が示唆された. また,運動時の心拍数上昇は,酸素摂取量の増加と直線関係にある20,21) と言われており,今回実施したIRは有酸素運動の方法として有効な手段である可能性が示唆された.一般的な健常者に対する有酸素運動の方法として,トレッドミルやエルゴメーターで目標心拍数を40-60%に設定し,20分以上持続して運動を行う方法が用いられていることが多い.重度CPにおいては,二次的な筋持久力の低下や易疲労性,心肺機能の低下が多くみられる7,24)ため,短時間のトレーニングでなければ運動強度を維持できず,トレーニング効果を得られにくいと考えられる.本研究において,週 1 回群では 3 名全員がIR終了直後の心拍数が介入日数を追うごとに上昇が認められた.被験者B においてはIR終了直後の心拍数が200まで上昇しており,予測最大心拍数の75%25)を大きく超えているため無酸素運動域に入っていた可能性がある.インターバル法によるトレーニングにおいて目標とする運動強度は95〜100%26)とされており,被験者B の

Fig. 1 IR Training Protocol

Table 3. Characteristics of subjects

Value are presented as mean ± standard deviation.

Fig. 2 Comparison of heart rate at rest before and after intervention

233ボッチャ選手のトレーニング方法の検討

Fig. 3 Comparison of heart rate at immediately after IR before and after intervention

Fig. 4 Comparison of number of rolling/ min before and after intervention

Fig. 5 The relationship between number of rolling/ min and heart rate at Immediately after IR

234 矢作,奥田,片岡,居村,一場

予測最大心拍数は200であるため,目標値に達していると考えられる.被験者B は重度CPではあるが,被験者A・Cと比較すると粗大運動能力が高く,他の被験者よりも 1 分間あたりの寝返り回数が多かった(Fig. 5)ため,IRの運動強度が高かったと考えられる.もともとの運動能力の違いによって努力性運動に伴う心拍数の上がり方に差があることが明らかになった.無酸素運動域に入った状態での寝返り運動が良い結果に繋がるのかについては,今後検証していく必要がある.本研究では重度CP者にも実施可能なADLということで寝返り動作をトレーニングプロトコルに取り入れて実施したが,被験者BにおいてはIRの運動強度の再検討を行うとともに,さらにもう 1 段階動作の難易度を上げたADLでの運動も検討し,有酸素運動域でのトレーニング方法を検討していく.また,被験者A・Cにおいては,週 1 回のIRによって有酸素域まで心拍数を上昇させることができるようになったので,頻度を増やすことによって無酸素運動域まで心拍数を上昇させることができるようになるのかについても,今後検証が必要である. さらに,CPは健常者と比較してVO2 peak が 9 〜46%低く27),同じ動作をする場合には障がいの重症度が上がるにつれて必要なエネルギー消費は高くなる28) と言われている.そのため,今回の結果からGMFCS ⅣおよびⅤレベルのCPにおける寝返り動作の反復トレーニングは,GMFCS Ⅰ〜ⅢレベルのCPにおけるトレッドミルやエルゴメーターを使用してのトレーニングと同等もしくはそれ以上の運動強度である可能性が示唆された.また,本研究では週 1 回のIRによって 1 分間あたりの寝返り回数の増加が認められた.今回実施したIRのプロトコルにおいても,Workoutは毎回 1 分間に設定しており,IR中の寝返り回数も同様に増加していると考えられる.IR中の寝返り回数が介入を追うごとに増加したことで,IRの運動強度が上がり,週 1 回群ではIR終了直後の心拍数に有意な向上がみられたと考えられる. 本研究ではADLである寝返り動作をトレーニングに用いて介入を行った.健常者における寝返り動作について村上ら29) は,筋電解析により寝返り動作中,腹直筋や腹斜筋などの体幹筋だけでなく,骨盤回旋に腸腰筋や大臀筋,大内転筋などの下肢筋の活動も大きく出現することを明らかにしている.また石井30) は健常者の寝返り動作の運動要素として,頭部屈曲回旋,肩甲骨の前方突出,上肢リーチ,各体節での体軸内回旋,体重移動を挙げており,上肢筋の活動も認められている.Nitta et al. 31)はCPの寝返り動作の特徴として体幹筋だけでなく,体重移動のための上肢によるリーチまたは肩関節の伸展,骨盤の回旋のための下肢の屈曲または伸展があると述べている.このように寝返り動作は,ボッチャ選手のような重度CPにおいても,寝返りのパターンに違い

はみられるものの,本研究においても心拍数の上昇が確認できたため,全身の筋活動が生じる全身運動であることが伺える.酸素摂取量を得るには,より多くの筋活動の参加が必要である32,33) と言われており,重度CPでも実施可能な全身運動の方法として寝返り運動が適切である可能性が示唆された.また,週 1 回のIRによって 1 分間あたりの寝返り回数が増えたことは,寝返り動作の速度が向上しているということであるので,ADL能力が向上していると言える.また,選手やその家族から付随的に痙性の減弱や筋力・関節可動域についても改善があったとの声も聞かれたため,今後は身体的なトレーニング効果との関連をみていくとともに,被験者数を増やしての検証を行なっていく必要があると考える.

結  論

 本研究は,重度CPボッチャ選手を対象として,寝返り動作をインターバルトレーニング方式で反復して実施するトレーニング(IR)を実施した.その結果,週 1 回以上の頻度でIRを実施することは,重度CPボッチャ選手に対する努力性運動に伴う心拍数上昇を目的としたトレーニングとして有効な方法であることが示唆された.

利益相反自己申告:申告すべきものはなし

著者の役割 著者Y,著者O,著者Kは,研究デザインとプロトコルを概念化し,研究機関を決定した.著者Y,著者 I は,データ収集と組み立てを担当した.草稿は著者Yが担当した.全ての著者は,原稿を批判的にレビューし,修正し,投稿を承認した.

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