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中台関係への影響 ー懸念される一層の不安定化ー 東京大学社会科学研究所現代中国研究拠点 オンラインセミナーNo.3 「コロナショックと台湾対策の成功と経済・中台関係への懸念2020.5.8 松田康博 東京大学東洋文化研究所

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中台関係への影響ー懸念される一層の不安定化ー

東京大学社会科学研究所現代中国研究拠点

オンラインセミナーNo.3

「コロナショックと台湾―対策の成功と経済・中台関係への懸念―」

2020.5.8

松田康博

東京大学東洋文化研究所

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報告内容

1.はじめに

2.前哨戦―「抗中保台」の総統選―

3.初動における摩擦と中国イメージのさらなる悪化

4.チャーター機問題の混乱

5.中国の「宣伝」への嫌悪

6.中国からの圧力増大

7.米中関係の一層の悪化

8.おわりに

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1.はじめに

• 台湾で新型コロナウイルス問題に関する「中国イメージ」はどのようなものであるか?

• 台湾と中国との間で実際にどのような問題が起きたか?

• 中台関係はどのような状況にあるか?特に中国の対台湾政策は機能しているか?

• 米中関係を含めた中台関係の短期的展望は?

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2.前哨戦―「抗中保台」の総統選―

• 蔡英文史上最高得票(817万票)で当選:「一国二制度」への反発、香港情勢の悪化

• 米中のエスカレーションの中での選挙:軍事(相互に軍艦、軍用機出動)、外交(台湾との断交事例vs.米国が台湾をプレイアップ、経済デカップリング要求)

• 選挙の「抗中保台」の熱気をクールダウンする間もなく新型コロナウイルス問題発生

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3.初動における摩擦と中国イメージのさらなる悪化

• 蘇内閣の鉄腕政策:(例)アフリカ豚コレラ対策で最高100万元の罰金

• SARSの経験および対中不信に基づく初動対策:武漢便検疫・行政院対策会議(12.31)、CDCで対策本部(1.3)、中央感染症指揮センター設立(1.20)、最初の感染者(1.21)→国家安全会議(高層会議)(1.22)→武漢封鎖(1.23)

• マスク輸出禁止(1.25):蘇院長発言「暫停出口」→蔡総統発言「行有余力」→チャーター機実現へ

• 1-2月台湾のマスク対中輸出は「3900万枚」:世界中で医療物資の買い占め、対中輸出→正しい政策であったが、中国から批判

• 中国の失敗:①国内の感染爆発を1ヶ月程度隠蔽。②海外渡航制限措置の遅れ(1.27)

。③中国からの入国制限をさせない外交努力。④発生地に関する国際的調査協力(WHO、米CDC)の拒絶(→武漢ウイルス研究所説、生物兵器説が広く流布)

• 中国大陸との大量の人的往来への恐怖感:台商・台胞とその家族数十万人の移動時期→政府と住民が一体となって対策を講じた原動力(香港、シンガポールとの共通性)

• 武漢から発信される悲惨な動画と書き込み:「封城」の悲惨な現実。中国当局の宣伝とのギャップ。感染者数・死者数のねつ造疑惑。

• 世界で最初に「邦人撤退」を申請し、拒絶(国台弁「台商はよい生活をしている」)

• 「武漢肺炎」へのこだわり:WHOがCOVID-19と命名(2.12)も、通称として継続使用→中国大陸出身者・台商への差別問題

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4.チャーター機問題の混乱

• 台湾の主張:中華航空派遣(支援物資運び→台湾住民を連れて帰る)、乗客名簿作成を主導、検疫を実施し陽性者は搭乗させない

• 台湾の妥協による実施(2.3):「一つの中国」原則(武漢=台北便は国際便に非ず)、東方航空、乗客名簿の迷走(国台辦→地方台辦→地方台商協会=別物の乗客名簿)、陽性者1名(熱冷ましを飲んで潜り込み)→乗客を全員隔離→「台湾当局のねつ造」→台湾が当初の要求に戻り、約1ヶ月膠着状態へ

• 中国による「台湾当局悪者論」:「チャーター機が出せないのは、台湾当局が拒絶しているからだ」宣伝、台胞「家に帰りたい」発言の宣伝

• 香港の後に武漢第2、3便:習近平の武漢訪問以後、台湾の要求が通り、「待たされた」香港もチャーター機による武漢脱出実現(3.10)

• 中国は防護服1万着の支援を拒絶(2.3):当初台湾はこれを公表せず→中国が台湾非難を始めたことで公表

• チャーター機問題で台湾における新型コロナウイルス問題に関する台湾内部の世論はほぼ形成

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5.中国の「宣伝」への嫌悪

• 世界は壊れてしまった→どう対応するか?

• 習近平・テドロス会談(1.28):テドロス「中国の感染状況はコントロール可能」、「中国を賞賛、中国に感謝」、「制度の優越性、他国は中国に学べ」→後の宣伝の主旋律に

• WHOで中国代表「台湾は中国の中央政府が面倒を見る」(2.6)

• 「ウイルス発生地は中国以外」の宣伝開始(2.29)

• 新華社による評論転載「世界は中国に感謝すべき」「米国はコロナの大海に沈むだろう」(3.4)

• 外交部報道官「ウイルスは米軍が持ち込んだ」(3.12)

• 「マスク外交」と現実のギャップ:「消防隊長」「救世主」「習近平が世界を救う」vs. 大部分の医療物資は有償、品質問題でキャンセル続出

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5.中国の「宣伝」への嫌悪

• 「中国優越論」「パンデミック・チャンス論」(3月末):米国の世紀が終わり、よい条件にある中国にはチャンス到来の論調

• 台湾の「マスク外交」への牽制:中国外交部報道官「大陸にはマスクを提供しなかった」

• 対日と対米・台態度の違い:「日中友好」vs.「米国は中国を支援しなかっ

た」(実際には支援した)「台湾はマスクを送らなかった」(実際は中国が防護服支援を拒否)

• 中国の迷い:「国内派」(通常通りの対応=責任転嫁、危機は勝利の物語へ、礼賛される中国と習近平)と、「国際派」(通常の対応では逆効果、低調に貢献すべき=あまりに多すぎる被害国、高まる対中不満に対応できない)の違い→若干の修正(習近平絶賛本『大国戦疫』回収、李文亮英雄化、米国以外の責任論下火、感謝要求は個別化・・・)→「国内派」の宣伝のみが記憶に残る

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6.中国からの圧力増大• WHOの台湾排除:SARSの際に大きな被害→馬英九政権下でWHAにオブザーバー参加→蔡英文政権になって2017からWHAへの招待状届かず

• テドロス差別問題(4.8):テドロス記者会見「肌の色で差別」「台湾の外交部」→テドロスへの謝罪の書き込み増大→両方とも中国のアカウント発→

蔡英文「差別され孤立するのがどのような気持ちか誰よりもわかっている」「(テドロス氏に)ぜひ台湾に訪問してもらいたい」→”Taiwan Can Help”キャンペーンへ

• 軍事的圧力:賴清徳訪米に合わせて軍用機・軍艦の台湾周回(2.9)、中間線越境行動(2.10)、空母出動、「幻想を捨てて、戦争の準備をせよ」(4.15)

• 南シナ海での活動活発化:米軍機にレーダー照射、艦船活動活発化、行政区新設、防空識別圏設置の噂

• 香港での民主派弾圧:波状的な逮捕行動

• 高まる台湾の防疫政策の評価:感染初期段階での抑え込みに成功、政権の支持率上がり、世界的に注目を浴びる→台湾は「以疫謀独」と断定→WHAで台湾排除は至上命題

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7.米中関係の一層の悪化

• ゲームチェンジャーとしての新型コロナウイルス:世界の変わり方→それまで存在した矛盾が急速に拡大(格差、対立、自国中心主義、保護主義、ゼノフォビア・・・)

• 中国:米国との「覇権争い」本格化、南シナ海への進出加速、国際協力強化(WHOへの資金提供積み増し等)

• 米国:「中国責任論」(一部で訴訟)、米中貿易合意仕切り直し(?)、中国からの企業撤退に資金援助→トランプ再選戦略だが、米国国民の対中感情は確実に悪化

• 米中デカップリング加速:台湾系企業で中国離れ加速、医療物資関係の生産拠点自国回帰、既存の5G問題などへの影響

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8.おわりに• あたかも「国民戦争」の様相を呈する台湾:中国に対する徹底的な不信感が定着(中国楽観論、中国チャンス論の衰退)。先進国が軒並み失敗する中、政府・国民の一体感が強まった状態で民進党政権が中国からの脅威(ウイルス)に打ち勝ち、WHOの活動参与を目指す→中国は危機感あるも手詰まり

• 中国は台湾で「代理人」を喪失:国民党は中国寄りの印象でイメージダウン。国民党新主席は中国大陸との関係薄い。出入境制限で中台の接触減少。中国からの経済的抱き込みの機会減少→中国は手詰まり状態だが、様子見

• 自由な台湾の存在そのものが中国にとって脅威:民主主義体制で防疫に成功していて、中国の「制度的優越性」言説を真っ向から否定。中国の失敗した事実と負のイメージを華語と英語で、世界中に発信する拠点であり続けている→中国は不満であるが手詰まり

• 中国の許容限度を超えつつある米国:自らの再選のため中国とWHOの責任を強調し、糾弾するトランプ。台湾の国際的空間拡大に奔走する政府と議会→中国は反発するも強硬策のリスクとコストは極めて高い

• 習近平三選要因:強硬策が三選に必須なら強硬策。強硬策が三選にマイナスなら/不要なら、強硬策はとらない→米台側の「挑発」がレッドラインを超えると中国の行動リスクが上昇

• 結論:蔡英文政権2期目の中台関係は改善する要素が極めて少ない。不安定化する懸念が強い。

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参考資料• 小笠原欣幸「新型コロナウイルスと蔡英文政権」、OGASAWARA HOMEPAGE、2020年4月

30日、<http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/ogasawara/analysis/coronavirusandtsaiadmin.html>。

• 小原凡司「コロナウイルス感染拡大を巡る米中政治戦と国際秩序への影響」、笹川平和財団、2020年4月7日、<https://www.spf.org/spf-china-observer/document-detail025.html?fbclid=IwAR10Z1JQCZQ8w1jBG5rjHCvaIJ9q5B56R4K50eqj1ysQe90htRLASp8UPy0>。

• 佐藤幸人・小笠原欣幸・松田康博・川上桃子著『蔡英文再選―2020年台湾総統選挙と第2期蔡政権の課題―』日本貿易振興機構アジア経済研究所、2020年、<https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Kidou/2020_taiwan.html?fbclid=IwAR26K7tsgHy-1uIF59sM5chK3rR2NIT7DQryWfx8Nv34zL5M7mSFxRGpOiQ>。

• 鈴木一人「新型コロナウイルスに最も強いのはどの国か? 国際政治学者が読み解く」、『The Asahi Shimbun GLOBE+』、2020年3月12日、<https://globe.asahi.com/article/13202496?fbclid=IwAR2E6IyoW6RILw7A3syfuJ2BPRP5haXgA0czCJTeKAKCKpQbz6FihN6pEoM>。

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• 鄭仲嵐「台湾はいかに民主的に新型コロナウイルスとの防疫戦を展開しているのか」、nippon.com、2020年4月12日、<https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g00853/?pnum=1&fbclid=IwAR3VwRZ3gvo9HGh4YP0XfJB3dmTKtpLlWHhf2Sk641oEXG95HzZPAop4e3o>。

• 「発生からパンデミックまで、WHOの新型コロナ対応 時系列で振り返る」、AFP、2020年4月16日、<https://www.afpbb.com/articles/-/3278869?fbclid=IwAR3PtRC68gQ5AfVUDowKs__a8uFHyt8ZlQf_sGbWaO_w_KnVJBn9TUA6j38>。

• 【中国語】

• 「口罩的算計」、Radio Free Asia Chinese、2020年4月26日、<https://www.facebook.com/RFAChinese/videos/233126661270027/>。

• 「台湾防疫做対了什麽?」、Radio Free Asia Chinese、2020年3月6日、<https://www.youtube.com/watch?v=FNn-PJIarx8&fbclid=IwAR35Zky_ykvFOAxDwC4nhGC6FQPDNR0LE3x-b7YXstFLrgzGAEYHQij-MTI>。