New 車両位置情報共有化システムのアップグレード · 2016. 7. 4. ·...

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車両位置情報共有化システムのアップグレード 前田 光昭 1 ・藤巻 聡 1 1 北陸技術事務所 施工調査・技術活用課 (〒950-1101 新潟市西区山田2310番地5車両位置情報共有化システムは,災害現場に派遣された災害対策用機械の現在地と現在の状 況を基地(災害対策本部)のパソコンの地図画面上で確認できるシステムである.今回,様々 な要因により運用が困難な状況となったことから,「大規模改修と機能向上」<アップグレー ド>を実施したものである. キーワード 災害,災害対策用機械,位置情報,DiMAPS 1.車両システムの概要 車両位置情報共有化システム(以下「システム」とい う)は,排水ポンプ車,照明車,対策本部車等災害対策 用機械の運用支援を目的とし,災害現場に派遣された機 械(写真-1)の現在地と現在の状態(現地到着済み,稼 働中等)をパソコンの地図画面上でリアルタイムに確認 できるシステムである(図-1 ). 本システムは,2007 年度に北陸技術事務所が開発,現 在,独自システムを運用している北海道開発局を除く, 東北から九州までの各地方整備局の災害対策用機械,約 700 台に搭載され,災害時の迅速かつ効率的な機械運用 に効果を発揮している. 2.システムの仕組み・主な機能 (1)システムの仕組み システムは,各災害対策用機械に搭載された「車載端 末装置」から衛星通信を使用してシステムサーバへデー タを送り,このサーバへパソコンからインターネット経 由でアクセスして情報を取得・閲覧する. システムは事前に特定のソフトウェアのインストール を必要としないWebシステムであり,パソコンに標準 のブラウザソフト(インターネットエクスプローラ)で 閲覧が可能である(図-2 ). この仕組みにより,事務所,本局はもとより,他の地 方整備局,本省からも同時に同じ情報にアクセスが可能 となっており,災害対策用機械の運用に関する情報連絡 業務が軽減され,簡単に情報の共有化が可能となった. (2)車両位置情報の地図表示 災害対策用機械の車載端末装置から,定期的(1 分, 5 分,10 分,20 分,30 分,60 分から選択可能)に自動 写真-1 災害対策機械の活動状況 図-1 システムの画面 図-2 システムのしくみ(改修前)

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車両位置情報共有化システムのアップグレード

前田 光昭1・藤巻 聡1

1北陸技術事務所 施工調査・技術活用課 (〒950-1101 新潟市西区山田2310番地5)

車両位置情報共有化システムは,災害現場に派遣された災害対策用機械の現在地と現在の状

況を基地(災害対策本部)のパソコンの地図画面上で確認できるシステムである.今回,様々

な要因により運用が困難な状況となったことから,「大規模改修と機能向上」<アップグレー

ド>を実施したものである.

キーワード 災害,災害対策用機械,位置情報,DiMAPS

1.車両システムの概要

車両位置情報共有化システム(以下「システム」とい

う)は,排水ポンプ車,照明車,対策本部車等災害対策

用機械の運用支援を目的とし,災害現場に派遣された機

械(写真-1)の現在地と現在の状態(現地到着済み,稼

働中等)をパソコンの地図画面上でリアルタイムに確認

できるシステムである(図-1).

本システムは,2007年度に北陸技術事務所が開発,現

在,独自システムを運用している北海道開発局を除く,

東北から九州までの各地方整備局の災害対策用機械,約

700 台に搭載され,災害時の迅速かつ効率的な機械運用

に効果を発揮している.

2.システムの仕組み・主な機能

(1)システムの仕組み

システムは,各災害対策用機械に搭載された「車載端

末装置」から衛星通信を使用してシステムサーバへデー

タを送り,このサーバへパソコンからインターネット経

由でアクセスして情報を取得・閲覧する.

システムは事前に特定のソフトウェアのインストール

を必要としないWebシステムであり,パソコンに標準

のブラウザソフト(インターネットエクスプローラ)で

閲覧が可能である(図-2).

この仕組みにより,事務所,本局はもとより,他の地

方整備局,本省からも同時に同じ情報にアクセスが可能

となっており,災害対策用機械の運用に関する情報連絡

業務が軽減され,簡単に情報の共有化が可能となった.

(2)車両位置情報の地図表示

災害対策用機械の車載端末装置から,定期的(1分,

5分,10分,20分,30分,60分から選択可能)に自動

写真-1 災害対策機械の活動状況

図-1 システムの画面

図-2 システムのしくみ(改修前)

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で位置情報がサーバへ送られ,パソコンの地図画面上に

機械のアイコンと車両名称が表示される.

また,表示機能を使って,所属地整・事務所及び機械

の種類で,表示する機械を任意に抽出することも可能で

ある.

(3)車両の動態把握

地図画面上の車両アイコンと併せて,現在の車両の動

態(稼働・現着・終了・故障等)を表示し,車両の位置

と状況を瞬時に把握することができる(図-3).

なお,動態は車載端末装置にオペレータが入力した内

容が反映される.

図-3 画面表示の例

(4)メッセージ送受信

車載端末装置と基地の間でメッセージの送受信が可能.

文字のみで画像は送れないが,衛星通信回線を利用して

いるため,地上通信回線が使えない場合でも使用でき,

連絡手段の信頼性を確保している.

(5)過去の位置の再現

指定した任意期間(○月○日~△月△日)の位置の再

現と移動軌跡が表示でき,走行可能ルートの確認等に利

用が可能である(図-4).

図-4 移動軌跡の表示

3.旧システムの課題と問題点

システムのベースとして利用していた民間の衛星通信

による位置情報提供サービスが 2014 年度で終了するこ

とが発表され,その前後に経年経過によりハード・ソフ

トの両面で問題も複数発生していた.今後のシステム開

発にあたって,同じシステムとして運用を継続するので

はなく,今後同じような状況が発生しても柔軟・簡易に

対応が可能となるよう,将来的な運用・更新までを考慮

し,システム全体に及ぶ「大規模改修と機能向上」アッ

プグレードを 2014・2015 年度の 2 ヶ年で国土交通省独

自のシステム構築を実施することとした(図-5).

これにより継続運用を可能にするとともに,機能向上

や導入・運用のコスト縮減も図った.今回実施したアッ

プグレードの内容は以下のとおりである(図-6).

図-5 システムのアップグレード

図-6 アップグレードの内容

4.アップグレード

(1)サーバの更新(再編)とクラウド化

サーバの更新にあたり,データ処理の仕組みを再検討

し,今まで民間サービス提供者,北陸技術事務所,外部

データセンターの3箇所に設置されていたシステム用の

5 台のサーバについて,設置場所をデータセンターの 1

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箇所だけとし,北陸地整向けと他地整向けに分かれてい

たサーバーを集約し2台とした.

あわせて,その 2 台を専用サーバではなく,「仮想

(クラウド)サーバ」とすることにより,将来的なシス

テムの機能変更に柔軟に対応を可能とした(表-1).

表-1 専用サーバとクラウドの比較

(2)ソフトウェアの再構築

民間サービスに依存せず,旧システムと同等の機能を

確保するとともに,冗長性確保のため特定の通信回線に

依存せず通信回線の変更を可能とすることや,情報共有

化・有効活用のための他システムとの連携機能の追加,

及び運用コストの低減が可能となるようソフトウェアの

再構築を実施した.

なお,再構築にあたっては,従来型の車載端末装置と

後述の新型車載端末装置(タブレット型)が混在した環

境でも使用可能なソフトウェアとすることにより,車載

端末装置の段階的な更新に対応可能とした.

①他システムとの連携

2015 年度より全国で運用を開始した「統合災害情報

システム(DiMAPS)」との連携について,開発担当の国

土地理院と調整しシステムから情報をリアルタイムで提

供する機能を追加構築した.

これにより,現在は国土交通省内部向けのみであるが,

DiMAPS で提供されている様々な災害情報とシステムの

情報を重ね合わせて閲覧することが可能となり,より的

確で多面的な状況把握が可能となった(図-8).

図-8 DiMAPSでの表示例

(航空写真+浸水区域+車両位置)

②運用コストの低減

従来システムは,専用地図データをあらかじめシステ

ムを使用するパソコンへインストールし使用しており,

定期的な更新が必要であったことから,今回,表示の都

度,国土地理院が公開している電子国土から最新の地図

データをその都度読み込み,システムの画面に反映させ

る方式に変更を行った.これにより,常時最新の地図を

無料で表示可能となった(図-9).

図-9 地図データの変更

5.新型車載端末装置の開発

災害対策用機械からデータを送信する車載端末装置の

本体(専用装置)について,現行型の生産が終了し,後

継機種が販売されない見込みとなったことから,独自で

新型の車載端末装置の開発を行った.

(1)車載端末装置の機能

新型車載端末装置は,現行型の装置と同様に「現在

地の自動送信」,「動態の入力」,「メッセージ送受

信」,「カーナビ」の機能を備えるものとした.

(2)新型車載端末装置(タブレット型)

新型の車載端末装置は,安価で入手や機種変更が容易

となるように専用装置とはせず,市販の Android タブレ

ットを本体として使用することとした.なお,選定した

タブレットは,災害対策用機械での使用に配慮し,防

水・防塵・耐衝撃機能を備えるものとした(写真-2).

また,通信装置は調達・運用コストの抑制とシステム

の改修規模を少なくするため,現行の衛星通信装置と同

じものを利用することとした(写真-3).

この結果,運用費用(通信費)は従来型と変わらず,

機器価格は従来装置が一式約 60 万円に対し,新型は一

式約 40 万円と 2/3 へコストダウンが図れた.なお,既

設の衛星通信機器をそのまま継続使用することも可能で

専用サーバ仮想サーバ(クラウド)

概要調達したサーバを任意の場所に設置し運用

サービス事業者が用意する仮想環境にシステムを構築し運用

サーバ調達 必要 不要サーバの性能変更 不可 可能サーバの保守 別途保守が必要 サービス事業者で実施障害の監視・対応 別途監視・保守が必要 サービス事業者で実施

費用初期費用:大運用費用:小

初期費用:小運用費用:やや大

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あり,その場合は本体の調達のみとなり費用は 25 万円

程度となる.

写真-2 現行型車載装置と新型車載装置の比較

写真-3 新型車載装置の機器構成

(3)車載端末装置用アプリ

新型車載端末装置の本体として Android タブレットを

選定したことから,現行車載端末装置の機能については

Android のアプリとして開発し,調達した本体へインス

トールして使用することとした.

これにより,仮に将来,本体の入手が困難になっても

類似機種を選定し,アプリをインストールして使用でき

ることから,機種変更へ柔軟に対応可能となった.

カーナビ機能については,市販のカーナビアプリを導

入し,専用アプリと連携させ使用することとした.

これにより,現行の装置では困難であったナビの地図

データや機能の更新が容易に可能となった.

また,視認しやすい画面レイアウトにするとともに,

スマホ・タブレットと同様な操作で操作可能なよう配慮

した(図-9).

6.おわりに

今回のアップグレードにより,システムの安定した継

続運用が可能となるとともに,民間サービス利用や地図

データ更新が不要となったことにより,運用経費を大幅

に低減することができた.

アップグレードを実施したシステムは,2015 年度当

初より運用を開始し,本年度の熊本・大分地震や 2015

年 9月に発生した関東・東北豪雨災害の際にも活用され

ている.

新型車載端末装置は,平成 28 年度より各地整で順次

導入される予定であり,円滑な導入・運用が可能となる

よう,マニュアルや運用手順書を作成し,各地整へ情報

提供を行っている.

また,現在,中部技術事務所で開発中の排水ポンプ車

の排水運転状況を基地からリアルタイムで監視する「状

態監視システム」との連携を調整しており,今後,シス

テム上の画面で相互に閲覧が可能となる予定である.

図-9 新型車載端末の画面