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Title 公開買付をめぐる法規制の現状と課題 〔二〕 -アメリカの動向 (その1)-

Author(s) 古山, 正明

Citation 経営と経済, 68(2), pp.55-91; 1988

Issue Date 1988-09

URL http://hdl.handle.net/10069/28358

Right

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE

http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題〔二〕

-アメリカの動向(その1)-

古山正明

Ⅰ.わが国の法規制における現状と問題点

一.公開買付の規制の概要

(一)規制創設の経緯と趣旨

(二)証券取引法の基本構造

1.公開買付者・対象会社間

2.公開買付者・対象会社株主間および対象会社株主相互間

3.競合公開買付老相互間

4.有価証券市場の秩序維持その他

(三)公開買付の対応をめぐる規制

二.わが国の規制に内在する問題点

三.小括(以上,68巻1号)

Ⅱ.アメリカの動向

一.法規制における展開

(一)ウィリアムズ法制定の経緯と趣旨

(二)ウィリアムズ法を中心とする規制の展開

1.公開買付に関するSEC諮問委員会の最終報告

2.事前届出制をめぐる動向

3.実体的規制をめぐる展開

(1)規制の弾力性確保

(2)按分比例原則と空提供規制          (以上,本号)

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ll. アメリカの動向

II. は 1.で、提起された公開買付をめぐる様々な問題を解決する手掛りと

して,アメリカの法規制とそれをとりまく近時の動向を検討しようとするも

のである。本稿は,このうち,アメリカの法規制における展開を取り上げる

ものとし,根本的な規制理念を探る手掛りとして不可欠な学説の動向につい

ては,次稿で詳細に取り上げる予定である。本稿の論述構成は,以下の通り

である。

まず,一. (一)では,連邦法として公開買付を規制するウィリアムズ法制定

の経緯と趣旨を,連邦議会議事録を基に概観する。ここでは,その後の解釈

の指針となった「中立性」の原則がどのような経緯で誕生したのか,および,

証券取引委員会(以下, SEC という)が立法過程にどのように関わってき

たのか,を中心に考察する。このうち,前者については,既に詳細な紹介が

行われているため必要最小限に止どめるが,後者については,その後 SEC

が規則制定権を通じて実体的規制を拡充していった萌芽が既に垣間見られる

以上,改めて検討する価値があるものと思われる。

(寸では,ウィリアムズ法を中心とする規制が,近時どのように展開されて

きたのかを考察する。このうち,1.では, 1983年 7月に提出された公開買

付に関する SEC諮問委員会の最終報告を概観する。そして,この報告を受

けて展開された規制改正の動向を2.以下で考察する。ここでは,わが国の

規制が抱えている①事前届出制,②実体的規制の弾力性,①按分比例原則と

空提供規制,という 3つの問題点が,アメリカでどのように対処されている

のかを中心に検討する。

(1) 神崎克郎「テンダ・オッファの法規制J(証券取引の法理 第 l編第 5章)91-93頁,

小林成光「支配株の売買(ニ)一会社支配に重大な影響を与える株式取得に関する法的諸問

題ー」法学雑誌32巻 3号45頁, 53-57頁等参照。

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一.法規制における展開

(一) ウィリアムズ法制定の経緯と趣旨

現金公開買付に関する連邦法上の規制が最初に提案されたのは, 1965年10

月でのことであった。 NewJersey州選出の Williams上院議員が, 1934年証

券取引所法(以下,証券取引所法という)の下で持分証券による会社支配を

より完全に開示させることを目的として,上院法案2731 (以下, S. 2731と

いう)を銀行通貨委員会に提出したのである。

S. 2731を提案した動機として Williams上院議員は,近年,会社の略奪

者 (corporateraider)が出所の不明瞭な資金で誇りある老舗の会社支配を掌

握する傾向にあることを憂えた上で,この種の産業破壊を閉止する最終的な

責任はかく脅かされている会社の経営者や株主にあるが,資金源も不明瞭な

仮説人名義による株式買い集めを許容する当時の法制の寛容な態度は,対象

会社の経営者および株主を著しく不利な立場に置いていることを挙げる。そ

して,証券交換による公開買付によって会社支配が求められる場合, 1933年

証券法(以下,証券法という)の規制の下で登録され,かつ, SEC の審査

の下で完全な開示が行われるのと同様に,また,委任状闘争を通じて支配が

求められる場合に,スケジュール14Bに基づいて株主に情報が提供されるの

と同様に,現金公開買付についても主だった'情報が開示されることが,対象

会社にとっても,株主にとっても,そして市場にとっても重要である,と述

べている。

このS.2731は,詐欺的行為の禁止に関する一般条項である証券取引所法

10条および取締役-役員・主要株主の株式保有状況に関する報告義務を定め

た同16条(a)項を修正する形式で,第89団連邦議会に提出された。その規制内

容は,公開買付を行おうとする者の株式保有状況や資金関係,公開買付終了

後の事業活動の予定等に関する開示規制を中心とするものであったが,現行

法と比べ,①公開買付を行う日より少なくとも20日以上前に,一定事項を記

載した届出書を SECに提出し,かつ,対象会社に通知することを要求する,

いわゆる事前届出制を採用している点 および①公開買付によらない公開市

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場における株式買い集めをも,公開買付と同様の規制に服させようとしてい

る点,に特徴があった。

このS.2731の提出を受けて, SECは詳細に内容を検討した後,幾つかの

改善すべき点を指摘した。

まず,条文の位置づけについては,公開買付と区別された形で、の株式買い

集めに関しては,証券取引所法10条を改正するよりも,発行会社に対して一

定事項を SECに報告することを義務づけた同13条に対する修正の観点から

述べられるのが望まし1.、,と述べた。そして,事前届出制については, 20日

の事前届出を要請するのが困難な事態も予想される(相続や事前通告のない

贈与より生じた株式取得については,事前届出を要請するのは不可能である)

一方, 5%を超えて株式を取得してから 5日以内に報告書を提出させるので

あれば,当該規制に服する実質的所有者にとっても負担が軽減されることに

なろう,と述べ,その採用に消極的な姿勢を示した。

一方,公開買付に関する規制については,証券取引所法16条(a)項を改正す

るよりも,委任状に関する規制を定めた同14条に付け加える方が適当である

とした上で,証券交換による公開買付を法規制の範囲に含めない合理的理由

はないとして, I現金公開買付」から「現金」の文字を削除すべきことを指

摘した。そして具体的内容としては, 20日の事前届出制は公開買付の対象と

なる証券の所有者を保護する観点からは不要であり,公開買付を行う日より

5目前に公開買付届出書の中で SECへ内密に通知が行われれば足りるとす

る一方,公開買付に応募する者を保護するため,応募者の撤回権,部分的公

開買付における按分比例原則,買付価格の引上げの場合における一律引上げ

の要請等,実体的規制をも設けるべきこと,および,公開買付に関する意見

等を表明する場合には SECの定める規則に則って行われるべきこと(殊に

公開買付に反対する者と賛成する者との間での「実質的対等」を確保するこ

とに主眼が置かれている),さらには,公開買付に関連する詐欺的行為を禁

止する条項を設けること,等を提案した。

SECの意見を取り入れる形で Williams上院議員が Kuchel上院議員

( California 州選出)とともに1967年 1月に再び提出した法案が,上院法案

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510(以下, S.510という)である。 S.510を提出した意図として, Williams

上院議員は次のように述べている。「本法は,ある者が現金公開買付によっ

て,または公開市場を通じて,もしくは私的交渉による証券の買付を通じて,

会社の支配を獲得しようとする場合に,株主に対して直接関連する情報を開

示するよう要請することによって 連邦証券諸法の下での投資者保護におけ

る重大なギャップを埋めるであろうー。」したがって, I本法案の目的は,株

主のために完全かつ公正な開示を要請するとともに,公開買付者と(対象会

社)経営者に公正に事にあたるための等しい機会を提供すること」であり,

「合法的な公開買付に障害を設けることを目的としたものではない。」

こうして, S. 510は, I会社略奪者からの保護」を全面に打ち出したS.2731

に比べ,株主保護の見地から情報開示を中心とした規制を設けるという,よ

り一般的な目的を持つものとなり,極めて中立的性格の強いものとなった。

Wi11iams 上院議員自身,立案に際して最も留意した点として,対象会社経

営者と公開買付者のいずれの側にも有利に傾くことのないようにすることで

あったと述べている。

結局, S. 510は上下両院で検討された後ほぼ原案通りに通過し, 1968年

発効された。それは,証券取引所法13条(d)項, (e)項, 14条(d)項, (e)項, (f)項

から成り, SEC はこれらの条項に基づいて詳細な規則を定め,現在に至っ

ている(法自体も,その後若干修正されている)。

(2) 111 CONG. REC. 28256 (Oct. 22. 1965).

(3) 111 CONG. REC. 28257-28258 (Oct. 22. 1965).

(4 ) この場合,公開買付そのものが規制の対象とされるわけではなく,対価として支払わ

れる証券が,募集・売出に関する規制に服することになる。

(5) 111 CONG. REC. 28258 (Oct. 22,1965) (remarks of Senator Williams on S. 2731).

(6) Id. at 28258-28259.特に事前届出制を採用している点では,現行法と比べて現経営

者側に有利な規制であることは否定できず.Aranowおよび Einhomは次のように解説

している。 i(S. 2731)は投資者というよりもむしろ主に発行者のために立案された証券

規制を法制化しようとするお・そらく最初の試みを体現している点で唯一無二のものであ

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60 経営と経済

り, 1960年代初頭から中頃にかけて吹き荒れたコングロマリット吸収合併の嵐によって

鼓吹されたものである。JE. ARANOW & H. EINHORN, TENDER OFFERS FOR CORPORATE

CONTROL 64 (1973).

もっとも, Wi11iams上院議員は,次のように述べ, S. 2731が公共の利益に沿う規制で

あることを強調している。「本修正案は,本質的に公共の利益になる重要な法律を体現す

るものであって,正直かつ公正に行われている取引について何等障害を設けることには

ならないであろう」し, r会社支配の獲得を求める者が自己の方法や意図についで完全に

開示することを恐れる必要がないのであれば,本修正を恐れる必要は何等存しない。よ

り厳重な統制は略奪者に制裁を課することにはなろうが,合法的な方法と合法的な目的

とを持った合法的なビジネスマンに制裁を課すことはないであろう。J111 CONG. REC.

28260 (Oct. 22, 1965) (remarks of Senator Williams on S. 2731).

(7) 112CONG. REC. 19003-19007 (Aug. 11, 1966) (MemorandumoftheSecuritiesand

Exchange Commission to the Committee on Banking and Currency, U. S. Senate, on S.

2731, 89th Congress).殊に,同文書の末尾に掲載されている“ComparativePrint, S.

2731, 89th Congress, 1 st Sessison勺ま, Williams上院議員と SECとの見解を比較参照す

るのに便利である。

(8) Id. at 19004.

(9) Id. at 19005-19006.

(1ゆ 113CONG. REC. 854 (Jan. 18, 1967).

(11) Id. at854-855 (remarksofSenatorWilliamsonS. 510).なお,同様の趣旨を述べた113ωNG.

REC. 24664 (Aug. 30, 1967) (remarks of Senator Williams on S. 510)では,情報開示の

受益者が, r株主」から「投資者」に変更されてL、る。

(1の 113CONG. REC. 854 (Jan. 18, 1967).

(1功 もっとも,共同提案者である Kuchel上院議員は,依然として,このような規制が会社

略奪者に対するものであることを強調する。これは,当時,同議員の選挙区である

California 州で事業活動を行っていた ColumbiaMotion Pictures社が, Banque de Paris

et des Pays Bas社のスイス支社によって公開買付攻勢をかけられていたというお家の事

情によるもので,向上院議員が連邦通信委員会および SECに宛てた書簡を読むと,近年

わが国で起こったミネベア事件を訪梯させ,思わず苦笑させられる。 Id. at 857-859

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 61

(remarks of Senator Kuchel on S. 510).

(14) Id. at854. 113CONG. REc. 24664CAug. 30. 1967) CremarksofSenatorWilliamsonS. 510).

(ニ).ウィリアムスε法を中心とする規制の展開

1.公開買付に関する SEC諮問委員会の最終報告

1968年にウィリアムズ法が採用されて以来,金融上,産業技術上,社会お

よび法律上の環境変化とともに,企業買収活動は根本的な変化を体験してき

た。殊に,公開買付の発生件数が再び増大し,その規模においてもいわゆる

「ビリオン・ダラー買収時代」を迎えた1970年代後半以降は,公開買付をめ

ぐる攻防も激しいものとなり,公開買付の規制をどのようにすべきかが世論

の関心を呼ぶようになった。

そこで, 1983年 2月25日,公開買付のプロセスやその他公開会社の支配を

取得するテクニックを検討し,必要ないし適当と考えられる法制上の変更を

SECに勧告するため, SECは,連邦議会の指示の下に,公開買付に関する

SEC諮問委員会(以下,諮問委員会という)を設置することを決定した。

諮問委員会が検討すべき問題の中には,次のものが含まれていた, (1)公開買

付その他の買収活動が経済一般,特に公開買付者,対象会社,投資者ならび

に証券市場において有する経済的意味合い (2 )そのような買収活動を規制す

る必要性,およびその性質ならびにその目的, (3)これらの目的を達成するた

めの規制手段,この場合には,そのような規制上の対応より生じる利益とコ

ストを比較衡量する, (4)そのような規制上の対応を為し遂げるため,現行法

に対する規制上の修正に関して SECに提示できる勧告。

約半年間の検討の後,諮問委員会は報告書をまとめ, 50の勧告を提示した。

これらの勧告を受けて, SECによる規制の改正や改正案の提示が展開されて

いくことになるわけであるが,その具体的内容については3.の中で適宜触

れていくこととし,ここでは総論部分を中心に概要を述べるに止どめる。

まず,公開買付の経済的意義とその規制の在り方については,公開買付に

もいろいろな形態が存在する以上,一概に有益であるともそうでないともい

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えないが,公開買付による経済資源の配分は,法に従って行われる限り,株

主の利益および資本市場の完全性や効率性を保護するために必要なものと思

われ, したがって,規制計画案は公開買付を推進させるべきでも抑止させる

べきでもない,と結論を下した。

また,防衛戦術については,一般論として,公開買付の可能性自体を変え

るものをも含め,対象会社経営者による判断の妥当性に対する主要な判定基

準は経営判断の法則とすべきであるとし,州、|の会社法や経営判断の法則に関

するシステムを支持した。ただし,対象会社株主の承認があって初めて公開

買付が終了できたり,あるいは,連邦法上の公開買付規制に則って会社支配

を移転できる可能性を損なうような広範な政策規定を設けるなど,公開買付

を行える可能性を抑制するような州法上の諸規制は,州際通商に不当な負担

を課すもので,許容されるべきではない,と述べた。

以上のような諮問委員会の報告に対して, SECは一般に好意的に受け止め

ているが,経営判断の法則に関する報告部分については,支配変動状況にお

ける対象会社経営者と株主との利益相反を考慮に入れ,より厳格に適用すべ

きである,と主張している。

(15) Release No. 34 -19528 (Feb. 25, 1983), 27 SEC Docket 292 (1983).

(16) 昂id.

(1カ SECAdvisory Committee on Tender Offers, Report of Recommendations (July 8, 1983),

reρrinted in Fed. Sec. L. Rep. No. 1028 (CCH extra ed., July 15, 1983) [hereinajter

cited as SEC Tender Offer ReportJ. なお,同報告書をコンパクトに紹介したものとして

は,森本滋「公開買付J(龍田節=神崎克郎編・証券取引法大系)290-292頁がある。

(1め報告書は,次のように述べている。「学識者の見解を相当研究し,議論し,検討した結

果,委員会は,公開買付それ自体が経済もしくは証券市場一般にとり,または発行会社

もしくはその株主にとり,特に有益であるとか有害であるとか結論づけるためには根拠

が不十分である, と判断する。ある事例では,公開買付が非効率的な経営者への一つの

制裁として奉仕してきたこともある一方,別の事例では,対象会社の経営者のクオリテ

ィーが争点となっていることを示すものはほとんどないのである。同様に,公開買付の脅

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 63

威がある経営者をして長期的収益以上に短期的収益を強調させることにもなる場合もあ

る一方,このことが一般的に真であることを示す証拠もほとんどない。また,委員会は,買

収が成功するものと判明するのかどうかを決定する際に買収の方法が主要な要因である

と結論づけるための根拠をも見い出していなし、。他の資本取引におけるように,ある公

開買付は有益なことが判明する一方,他のものは失望させるものであることが判明する

とL寸事実は,それが意味するものほどには買収の方法に帰することができるわけでは

ない。それゆえ,委員会は,規制計画案は公開買付を推進させるべきものでも抑止させ

るべきものでもない,と結論を下した。そのような配分は,法に従って行われる限り,

株主の利益および資本市場の完全性や効率性を保護するために必要なように思われた。

公開買付の経済的効果に関する研究の一部として,委員会は,公開買付のプロセスが

債券の利用可能性や市場での配分に与える効果の問題に取り組んだ。連邦準備委員会の

Paul Volcker議長や彼のスタッフのメンパーとの議論をも含め,その審議に基づいて,

委員会は,支配の取得取引から生じる債券市場での重大な歪みは何等存在しないし,そ

のような取引での債券の利用可能性を制限しもしくは配分するいかなる規制上のイニシ

アチブも取り掛かられるべきではない,と考える。JSEC Tender Offer Report, supra

note 17, Executive Summary xv ii -xv iii .なお,同報告書第 1章,および勧告 lならび

に2も参照されたし、。

もっとも,諮問委員会の勧告は,ウィリアムズ法におけるような中立性という目標や

州法の下で会社の内部的問題を引き続き規制することを支持してはいるけれども,実施

されればその両者に著しい変化をもたらすこととなり,対象会社が自己防衛できる可能

性を減少させるとともに,一般的には公開買付者に有利に作用することになろう,との

指摘もある。 AnnualReview 01 Federal Securities Regulation, 40 Bus. LAW. 997,

1013 (985).

(19) SEC Tender Offer Report, supra note 17, at 18, 34, Recommendations 9 & 33.

(20) Id. at 34-36, Recommendation 34.

(21) 16 SEC. REG. & L. REP. (BNA)496 (984).

2.事前届出制をめぐる動向

事前届出制をめぐる扱いについては, 1982年に MITE事件連邦最高裁判

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64 経営と経済

所判決が下されるまで,連邦法と什|法とではかなり様相を異にしていた。

まず連邦法について述べると, ウィリアムズ法は事前届出制を採用しなか

った。事前届出制は公開買付者に過度な負担をかける一方で,対象会社株主

を保護する観点からは不要と考えられたからである (Wi11iams 上院議員の

提出した S.2731に代わって, SECが提案した 5日前に秘密裡に SECに届

け出ることさえ,採用されなかった)。

これに対して,州法のレベルで、は何らかの形で事前届出・通知制度や審問

手続等を定めているところが多く,これらの州法上の規制がウィリアムズ法

との関係で,合衆国憲法に定める最高法規条項 (6条 2項)および州際通商

条項 C1条 8節 3項)に反することにならないのかが問題とされていた。こ

のように公開買付を抑止するような規制を各州が採用している背景には,主

として財政上ならびに雇用政策上の観点から企業を誘致する必要があったか

らだと思われる。

この問題に関して連邦最高裁判所のレベルで初めて判断されたのが,

MITE事件である。同事件では 次のような規制を有するI1linois州の事業

買収法 CBusinessTakeover Act)の合憲性が問題とな勺た。すなわち,同法

の規定する対象会社の株式に対して公開買付を行おうとする者は,州務長官

(Secretary )に公開買付届出書を提出し,かつ,届出がその効力を生じてか

ら20日を経過しなければ公開買付を行うことができず 届出の審査に際して

は州務長官は広範な裁量権を有しており,届出の効力を否定することもでき

た。しかも,対象会社株主を保護するために必要と思料する場合,および,

対象会社社外取締役の過半数または公開買付の対象とされたクラスの持分証

券の10%以上を保有するI1linois州の株主から要請を受けた場合,州務長官

は公開買付の実質的公正を審問するために聴閉会を召集することができた。

ちなみに,同法の規定による対象会社とは,①公開買付の申出を受けたクラ

スの持分証券の10%以上が, I1linois 州に在住する株主によって保有されてい

る会社,または,①次の 3つの要件のうち 2つを充足する会社一イ)経営本

部をI1linois州に有する,ロ)Illinois 州法の下で設立されている,ハ)表示

資本および払込剰余金の少なくとも10%に相当する資産をI1linois州内に有

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 65

する, とされていた。

このような規制を有するI11inois州事業買収法について,連邦最高裁判所

の多数意見(9名中 5名,なお 3名は本件は mootであるとして本案の判

断を下さなかった)は 「予想される地方の便益を上回る著しい負担を州際

通商に課す」ものであり,什|際通商条項の下で無効である,と判示した。し

かし同法が州際通商を「直接」規制するものであるがゆえに違憲無効であ

るとの意見や,同法は投資者の自主決定権を犠牲にして投資者を保護する

もので,連邦議会によって採用されたウィリアムズ法のアプローチとは真向

から抵触するものであり,最高法規条項に違反すると L、う意見は,多数意

見となるには至らなかった。このため「先占問題は未だ未決定の状態であり,

通商条項に関する判旨でさえ,比較的狭い領域の法規制に関しては,依然と

して区別を必要とした」のである。

もっとも, MITE事件判決は州法規制を根幹から揺るがすには十分なほ

どの影響があったようで,以後の公開買付をめぐる州法の規制は,証券規制

として公開買付を直接規制するのではなく,公開買付後の吸収合併等に対す

る株主の保護を会社法の次元で規制するなどいわゆる会社の内部事項の問題

として処理する方向へ向かったといわれている。

同 Edgarv. MITE Corp., 457 U. S. 624 (982).

附 (ー)参照。

仰) i事前審査は不必要であるばかりか,時には,時聞を本質的要素とする公開買付を遅

らせることになりかねなLづからである。 S.REP. No. 550, 90th Cong., 1 st Sess. 4

(1967) .

例 外|レベルで公開買付規制の展開を詳細に述べたものとしては,吉原和志「株式公開買

付の規制方法(ー)ーアメリカにおける連邦および州の動向を中心としてー」法学50巻

3号 9頁以下がある。

(26) この効果はなかなかのものだったようで.反公開買付規制を有する州に会社を移転す

ることが,有力な防衛戦術のーっとして取り上げられていたほどである。E.ARANOW, H.

EINHORN & G. BERLSTEIN, DEVELOPMENTS IN TENDER OFFERS FOR CORPORATE

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66 経営と経済

CONTROL 196 (1977).

制 同事件は, Delaware 州法に基づいて設立され Connecticut州に主たる事務所を有する

MITE Corp. (以下, MITE社という)が, I1linois 州の会社である ChicagoRivet &

Machine Co. の社外株全部に対する現金公開買付を行うため,ウィリアムズ法に基づい

て SECに届出はしたものの, I1linos州の規制には従わず,代わって,同地区の連邦地方

裁判所に対して,同州の法制はウィリアムズ法によって先占されており州際通商条項に

違反する旨の宣言的判決を求めるとともに,同州の州務長官が州の法制を実施すること

を禁止する差止命令を求めたことに端を発する。連邦地方裁判所が MITE社の主張を採

用して同州の法制が州際通商条項に反することを宣言するとともに, MITE社に同法を

適用することを恒久的に禁止し,控訴審も同州の法制の幾つかは州際通商条項に違反し

て州際通商に不当な負担をかけるものであることを認めたため,同州、|の州務長官である

James Edgarが上告したものである。なお,第一審の終了後,両社の聞には和解が成立

していた。同事件の意義およひ、その後の州法規制に与えた影響については,吉原・前掲

註制32頁以下参照。

同 457U. S. 624, 627-628 (1982).

(29) Id. at 646.

例判決文を執筆した White判事の他, Burger長官, Stevens判事, O'connor判事は,州

際通商条項は州際通商に関して州が副次的に規制することだけを許容するものであるに

もかかわらず(この点については, Shafes v. Farmers Grains Co., 268 U. S. 189, 199

(1925)を参照),同法は,州内の証券取引を規制するいわゆるブルー・スカイ・ローと

は異なり,州、|際施設を利用し州外の株主を相手とする公開買付にも域外適用される以上,

州際取引を生ずるであろうような州際公開買付を直接規制し,かつ,阻害するものであ

る,との意見を述べた。 Id.at 640-643。

。1) White判事の他, Burger長官, Blackmun判事は,①ウィリアムズ法の制定に際して,

連邦議会は幾度も事前届出制の採用を拒否したことに鑑みれば, Illinois州事業買収法の

事前届出制は公開買付に反対する対象会社経営者に強力な武器を与え,ウィリアムズ法

の目的を抑圧するものである,①最終期限が定められていない聴開会の開催による遅延

は,対象会社株主の犠牲の上に現経営者を有利に扱うものであり,連邦議会によって打

ち出された公開買付者と対象会社経営者との均衡を覆すものである,①同法は投資者

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 67

の自主決定権を犠牲にして投資者を保護するもので,連邦議会によって採用されたウィ

リアムズ法のアプローチとは真向から抵触するものである,との意見を述べた。 Id. at

634-640。

同 L. Loss, FUNDAMENTALS OF SECURITIES REGULATION, 535 (2 nd ed., 1988).実際,

CTS Corp. v. Dynamics Corp. of America, 107 S. Ct. 1637 (1987)では, Indiana 州法

に基づいて設立された会社の支配株を取得する者は,対象会社株主のうち以前から株式

を保有しかっ利害関係のない者の過半数が特別株主総会で当該取得を承認しない限り,

取得した株式に基づいて議決権を行使することができないと定めている Indiana州法の

合憲性について,同法はIllinois州法と異なり, 20日の待機期間や聴閉会の開催,州務長

官による公開買付の実質的公正に関する審査等に関する条項を設けておらず,かつ,同

州の居住者(公開買付者および対象会社株主の双方を含む)であるか否かを問わず等し

く適用されるものである以上,ウィリアムズ法によって先占されているのでも,州際通商条

項に反するものでもない,と判示された。判例速報としては次のものを参考とした。 19

SEC. REG. & L. REP. CBNA)610-619 (987).なお,同事件の判例評釈を島袋教授が

書いておられる。島袋鉄男「米国証券関係法判例研究」琉大法学42号57頁以下参照。

(33) See Block, Barton & Roth, State Takeover Statutes:・The“Second Generation", 13 SEC.

REG. L. J. 332 (986). Also see Empirical Research Project, Defensive Tactics ωHostile

Tendder Offers-An Examination of Their Legitimaり andEffectiveness, 11 J. CORP. L.

651, 680-684 (1986).なお,吉原・前掲註同41-46頁,および同「株式公開買付の規制

方法(二)ーアメリカにおける連邦および州の動向を中心として-J法学51巻 2号83-102

頁参照。

3.実体的規制をめぐる展開

ここでは, (1)公開買付者の機動的な対応と対象会社株主の保護とをどのよ

うに調和させるか,および, (2)按分比例において株主の平等的取扱をどの程

度まで徹底させるべきかという観点から, SEC による規制の変遷を概観す

る。

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68 経営と経済

( 1 )規制の弾力性確保

1968年のウィリアムズ法制定当時,主な実体的規制は,応募した株主の撤

回権(14条(d)項 5号),按分比例原則の一部適用(14条(d)項 6号),買付価格

の一律引上げ(14条(d)項 7号),が存在するにすぎなかった。これらはL、ず

れも, Wi11iams上院議員によって提出されたs.2731には見られなかったも

のであり, SECの提案を受けて採用されたものであった。

このうち,按分比例規制については後述することとして,まず,応募した

株主の撤回権について述べると 14条(d)項 5号は 「公開買付における買付

の申込または売付の申込の要請もしくは招請に応じて預託された証券は,当

該買付の申込または売付の申込の要請もしくは招請の確定的文書が最初に公

表されまたは証券保有者に送付もしくは交付された日より 7日を経過するま

で,および,当初の買付の申込または売付の申込の要請もしくは招請の日か

ら60日経過後はし、つでも,預託者によりまたは預託者のために徹回すること

ができる。」と定めている。これは,公開買付の申出が行われた直後に持株

を預託した株主に,おそらくは経営者もしくは競合公開買付者からの反論に

照らして,再検討するための短期熟慮期間を提供するとともに,公開買付者

が預託株券を買い付けるかどうかの決定を待機して,預託株券が不確定的に

拘束されるのを阻止する趣旨である,とされている。

一方, 14条(d)項 7号は, r公開買付における買付の申込または売付の申込

の要請もしくは招請の期間満了前にその条件を変更し当該証券の保有者に

申し出た対価を引き上げる場合には,公開買付における買付の申込または売

付の申込の要請もしくは招請の条件変更前に当該証券を買い付けたかどうか

に関わりなく,当該公開買付における買付の申込または売付の申込の要請も

しくは招請に従って買い付ける全ての証券保有者に対し,引き上げた対価を

支払わなければならない。」と定めている。これは,応募した時期を問わすe

に持株に対して同ーの価格を確約することによって,株主が持株に対して受

け取る総額の計算から純粋に偶発的な要因を取り除くとともに,公開買付に

従って持株を預託する株主は,通常,預託した全株主が同ーの価格を受け取

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 69

るであろうことを想定する以上,ある株主に他の株主より多く支払うような

差別的な結果を回避しようとする趣旨である,とされている。

その後, SECは,公開買付者と対象会社経営者との均衡を維持しながら

より効果的な規制を設けることを目的として, 1976年 8月と 1979年 2月にそ

れぞれ包括的な新規則制定案を公表し, 1979年11月,これらのうちの幾つか

を採択した。この中で,本稿と関係するものは,規則14dー 7,14d -8,14 e

-1である。

便宜上,規則14eー lから説明すると,同規則は,それまで撤回期間・按

分比例期間に関する規則に事実上拘束されているにすぎなかった最短買付期

間を,投資者保護の見地から明文化したものである。すなわち,規Jtlj14e -

1 (a)は,公開買付が最初に公表されまたは株主に伝達された日より少なくと

も20取引日の聞は買付を行うことはできない,と定める。本規則を採用した

理由としては,以下の点が挙げられている,①合理的な最短買付期間のない

公開買付は不適当ないし不完全な情報に基づいた,性急な,誤った判断によ

る意思決定を株主が行う可能性を増大させる,⑦最短買付期間その他の規制

を定める試みが各什|により行われているが これらはウィリアムズ法によっ

て構想された公開買付者と対象会社との均衡を対象会社側に有利に傾けるお

それがあり,統一的に適用される連邦法上の規制を設ける方が,投資者保護

をも含め,ウィリアムズ法の目的によりよく仕えることになる,①郵便等を

通じて公開買付の勧誘が行われる場合 株主が公開買付の詳細について検討

するために利用できる時間は減少するので, 20取引日の最短買付期間は必要

である。ただし,自己宛公開買付については,従前どおり規則13e -4を適

用し,最短買付期間は15取引日で足りるとされた。

さらに,規JtIJ14e -1 (b)は,買付価格の引上げが行われる場合には,同様

な理由から,引上げの通知の日より少なくとも 10取ヲ旧以上,最短買付期間

が延長されるべきことを定める。この延長期間の計算に際しては,規則14e

-1 (a)と同(b)とが連続して適用されるのではなく,重畳的に適用される点に

注意を要する。

そして,預託された株券が不当に長い期間拘束されないようにするととも

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70 経営と経済

に,公開買付者と申込株主のいずれにも公開買付終了後の活動に不当な負担

を課さないようにするため,規則14e -1 (c)において,買付期間の終了後ま

たは公開買付に関する撤回後,遅滞なく,買付代金を支払いまたは預託株券

を返還すべきことを定めている。また,買付期間の延長の通知については,

買付期間終了予定日の翌日の①午前 9時(東部時間),あるいは①公開買付

の対象となるクラスの証券が上場されている証券取引所の前場の立会開始の

L 、ずれかまでに,新聞または公告によって行うべきことを定めている。

次に,証券取引所法14条(d)項 5号の定める撤回期間を延長した規則14d-

7について述べる。規則14d -7 (a)(l)は,証券取引所法上の 7日間の撤回期

間を,公開買付を開始する日より 15取引日まで延長することとした。その趣

旨は,株主に対しては,持株を預託する決定を再検討するための時間をより

長期間与える一方,公開買付者に対しては,買付期間の終了に先立って,預

託された株券の数量を確かめ,支払いと引き換えに当該株券を受け入れるか,

それとも終了日を延期するなど買付条件を変更するかを決定するための合理

的期間を与えるためだとされている。

さらに,規則14d -7 (a)(2)は,競合公開買付の状況の下で条件付撤回権を

確立するため,他の公開買付者による競合公開買付の開始の日より 10取引日

の間,撤回期間がさらに延長されることを定める。この場合,競合公開買付

の「開始」とは,規則14d -2 (a)に基づいて決定されるのであって,正式の

手続を踏まない新聞広告による公表等,規則14d -2 (b)の下で公開買付を開

始するものと考えられる公表は,規則14d -2 (a)(2)の下で追加的撤回権の引

金を引くことにはならなL、点に注意を要する。また, I他の公開買付者によ

る競合公開買付」には,対象会社による自己宛公開買付は含まれない。そして

撤回期間を計算する際,規則14d -7 (a)(l)と同(a)(2)は重畳的に適用される

(規則14d -2 (b))。

なお,規則14d一7(d)は,株主が預託株券の撤回を適切に行うことができ

るようにする一方,撤回された株券を物理的に解放する際に詐欺的行為から

公開買付者が自衛できる能力を不当に阻害することのないように,撤回の適

時通知を要請するとともに,撤回された株券の物理的解放に先立つ条件とし

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 71

て合理的な要請を課すことを公開買付者に認めた。

このような実体的規制の在り方は,対象会社株主の保護を一歩進める一方

で,①最短買付期間と撤回期間とが別個に規定されており,規制構造が複雑

である,①対象会社による自己宛公開買付が別個に規制されており,ウィリ

アムズ法によって構想された公開買付者と対象会社との均衡を対象会社側に

有利に傾けるおそれがある,①競合公開買付をめぐる規制については,撤回

期間の延長等,第二の公開買付者が既存の公開買付者の買付条件に影響を与

える可能性があり,両者間の均衡を第二の公開買付者の側へ有利に傾けるお

それがある等,多くの問題を抱えていた。これらの点を鋭く突いたのが,諮

問委員会の報告書である。

諮問委員会は,まず,提案の基本的前提として,対象会社株主が公開買付

に参加する平等な機会を有することを挙げ,そのためには,通常の注意能力

を有する株主が公開買付説明書を受け取って熟慮、した上での投資判断を行え

るような最短買付期間を定めることが必要であり,しかも,最短の撤回期間

ならびに按分比例期間は,最短買付期間によって提供される保護を足切りし

ないように,最短買付期間と一致すべきである,と述べる。その具体的な日

数としては,原則として30暦日とすべきである,ただし,その後に競合公開

買付が行われる場合の競合公開買付の最短買付期間については,最初の公開

買付によって市場ならびに対象会社株主に通知が与えられることとの関係

上,最初の公開買付に関する30暦日の期間終了前にその後の競合公開買付が

終了しないことを条件として, 20暦日で十分である,と勧告する(勧告17)。

なお,部分的公開買付の場合には完全公開買付に比べて株主に対する圧力が

高いことに鑑み,完全公開買付の場合よりもさらに 2週間長く最短買付期間

を定めることを勧告する(勧告16)。さらに,買付価格の引上げまたは買付

数量の増大が行われる場合には,その通知が行われた日よりさらに 5日間,最

短買付期間ならびに按分比例期間が延長されるべきことを勧告する(勧告18)。

また,競合公開買付下の状況をめぐる規制については,提案の基本的前提

として各公開買付者が各自の公開買付をコントロールすべきことを挙げ,競

合公開買付の開始により撤回期間を延長する当時の規制に代えて,最短買付

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72 経営と経済

期間の全期間に撤回期間が及ぶべきことを勧告する。

一方,自己宛公開買付をめぐる規制については,株主にとっても一定の利

点がみられる以上 たとえ第三者による公開買付が行われている期間中であ

っても一般的に禁止されるべきではないが,自己宛公開買付の按分比例期間

は10取引日で足りるとする当時の規制の下では 自己宛部分的公開買付にお

ける対象会社株主は,第三者による部分的公開買付において要請される最短

買付期間によって与えられる保護を失うことになるため 「一度第三者によ

る公開買付が開始された場合,対象会社は,自己宛公開買付に先立って開始

されたし、かなる公開買付の按分比例期間よりも早い按分比例期間を以て自己

宛公開買付を始めることは許容されるべきではない。J(勧告39b) と勧告し

た。これらの勧告を受けて,第三世代の実体的規制が展開されることになる。

第三世代の実体的規制を概観すると,①株主の平等的取扱を徹底させるこ

と,⑦発行会社による自己宛公開買付と第三者による公開買付(以下,第三

者公開買付という)とを平等に取り扱うこと,①規制に弾力性を持たせ公開

買付者の機動的な対応を可能とすること,に主眼が置かれているのが判る。

このような規制の骨組を SECが具体的に提示したのは 1985年 7月のこと

であった。すなわち, SECは,証券取引所法14条(d)項に基づいて,①公開買

付の対象となるクラスの証券を保有する全ての証券保有者に公開買付を拡大

すること (W全保有者要請~),①各預託証券保有者に,公開買付の期間中に

他の証券保有者に対して申し出された最高額の対価を支払うこと (W最善価

格条項~),を内容とする新規則を採用するとともに,これに対応して規則13

e-4を改正し,全保有者要請および最善価格条項を自己宛公開買付にも適

用できるようにすること,を提案した。 SEC はまた,第三者公開買付も自

己宛公開買付もともに,買付総数の増加の発表の日より少なくとも 10取引日

の期間,最短買付期間を延長することを提案した。

これらの提案に寄せられた意見を基に, 1986年 1月,若干の修正を加えて

再度提案を行い,同年 7月,最終的に採択した。改正規則は,第三者公開買

付と発行会社による自己宛公開買付とを同列に扱うことを前提に, (1)全保有

者要請, (2)最善価格条項 (3)最短買付期間の延長, (4)撤回権の拡大,の 4つ

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 73

の事項から成る。

(1)全保有者要請・…・・規則14d -lO(a)(1)および規則13e -4 (f)(S)(i)は,公開

買付の対象となるクラスの証券の全保有者に対して公開買付が行われるべき

ことを定める。これは,公開買付の対象となるクラスの全構成員が公開買付

のメウットを熟慮するのに必要な情報を受け取ることを確保することによっ

て,ウィリアムズ法の開示目的を実現する趣旨とされている。

ただ,このような要請が州法との関係で公開買付者に過大な負担をかける

のを回避するため,公開買付者が州法を遵守しようと努めたものの,当該州

法に則った行政上もしくは司法上の措置によって公開買付を行うのを禁じら

れるような場合には,公開買付者が当該州の全証券保有者を排除する公開買

付を行うことを禁止するものではない,と定めた(規則14d -10(b)(2)および

規則13e -4 (f)( 9 )( ii))。

(2)最善価格条項……規則14d -10(a)(2)および規則13e -4 (f)(S)(ii)は,公開

買付に従って証券保有者に支払われる対価は,買付期間中に他の証券保有者

に支払われた最高額の対価で、なければならないことを定めている。 1985年提

案の段階では「申し出された」対価とされていたのに,採用段階で「支払わ

れた」対価に変更されたのは,当初の公開買付を終えて新たな公開買付を開

始する必要のないまま,公開買付者が申し出た対価を減額することを許容す

るためである。

ところで,公開買付において「現金または証券」のように選択的に対価が

申し出され,かつ,支払L、のために供される現金の総額に制限が課せられて

いるような場合,最善価格条項に違反することになるのだろうか。この問題

に対処したのが,規則14d -10(c)および規則13e -4 (f)(lO)である。これらの

規則は,①証券保有者が,申し出された各形態の対価の間で平等な選択権を

与えられ,かつ,⑦証券保有者に支払われる各対価形態の最高額が,当該形

態の対価を受け取る他の証券保有者にも支払われる場合には,公開買付にお

いて 2形態以上の対価の申込を行うことも最善価格条項に反するものではな

い旨を定めている。このように,支払いに供される各対価形態の総量ないし

総額に課せられる制限が開示され,かつ,申込超過の場合に按分比例原則が

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74 経営と経済

適用される限り,各対価形態の100%を持ち合わせる手筈を整えることによ

って割当超過の可能性についても計画すべきことを公開買付者に要請するこ

とは,投資者保護の観点からは不要と考えられるからである。なお,申し出

された対価形態の相互間で,その価値において実質的に均等である必要はな(61)

L 、。

一方,州法との関係では,いわゆる交換型公開買付において対価とされる

有価証券の募集または売出が,その届出等に関する公開買付者の善意の努力

の後にも,なお,ある州の関係当局によって禁止される場合,公開買付者は,

①当該州の証券保有者に選択的対価形態を申し出てもよく,かつ,⑦他の州

の証券保有者にも選択的対価形態を申し出または支払うよう要請されること

はない,と規定する(規則14d -10(d)および規則13e -4 (t)(1l))。

なお,全保有者要請と最善価格条項との両者に関わる問題であるが,自己

宛公開買付に固有の問題として,単位未満株の公開買付と撤回公開買付とを,

一定の条件の下で規則13e -4の規制の対象から除外することを認めた点は

特筆されるべきである。すなわち, 100株未満の一定数を超えない数量を保

有する証券保有者に対して発行会社が買付の申込を行う場合,規則13e -4

(g)(5)は,①規則10b -6 (c)(4)において定義されている「計画」としての発行

会社の「計画」に関与する者を排除することができる場合には全保有者要請

からの適用除外を,また,②公開買付に基づいて支払われる対価が,対象証

券の市場価格に基づいて統一的に適用される算式を基礎に決定される場合に

は最善価格条項からの適用除外を,それぞれ認めた。このような単位未満株

の自己宛公開買付を認める趣旨は,発行会社が少額の証券保有者勘定を大量

に処理するために支払う膨大なコストを削減する一方で,単位未満株取引に

通常支払われる仲介手数料を支払わずに,証券保有者が持株を処分できるよ

うにするためである,とされている了)また,撤回公開買付については,①証

券法の届出規制に反して発行された証券を保有する者だけから当該証券を買

L 、戻す場合で,かつ,⑦対価が,各証券保有者によって支払われた価格(発

行会社が法定利息を支払うことを選択しもしくは支払うよう要請される場合

には,それに法定利息を加えたもの)に等しいことを条件として,認めるこ

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 75

とにした(規則13e -4 (g)(6))。

(3)最短買付期間の延長……規則1"4e -1 (b)および規則13e -4 (f)(l)(ii)は,

公開買付の対象とされたクラスの証券の割合または申し出された対価の増減

が行われる場合,当該増減が最初に公表されまたは証券保有者に通知された

日ょげ少なくとも 10取引日の期間,最短買付期間が延長されるべきことを定

める。その趣旨は,証券保有者が買付条件の変更に関する情報を受け取って

分析し既に証券を預託している場合には撤回するために必要なさらなる時

聞を確保しようとするものとされている。

これらの規則,殊に増加だけではなく減少も対象とされたのは,全保有者

要請および最善価格条項を採用することとの関係で,直接には規制の整合性

を確保するために立案されたものであったが,併せて,買付条件の変更をめ

ぐる規制を,数量的規制から割合的規制に転換している点に注意を要する。

すなわち, 1985年 7月の提案段階では「対象証券の総数」の増加と記述され

ていた文言が, 1986年 1月の提案段階では「対象証券の割合」の増減に変

更されたので、ある。これは,求められる証券の増加が,最終的に求められる

証券の割合を増加させないような状況を配慮したためである。具体的には,

公開買付者が部分的公開買付を行ったところ,対象会社が防衛戦術として新

株を発行するなど対象となる証券の社外証券の総数を増加させるような場

合,公開買付者は,買付総数を増加させて割合を維持しようとする際,最短

買付期間の延長を要請されずに済むことになる。

また,最短買付期間の延長は,公開買付者によって行われた買付条件の変

更の結果として生じるものであり,前述の例で公開買付者が防衛戦術に対応

して買付総数を増加する意図のない場合,社外株の増加により公開買付者に

よって求められる証券の割合が減少したと L、う事実にもかかわらず, 10取引

日期間の引金が引かれることはない点に留意する必要がある。

一方,買付予定数を僅かに超過する申込があった場合,申込超過分を公開

買付者が買い増しする際にも最短買付期間が延長されることを避けるため,

公開買付の対象とされるクラスの証券の 2%を超えない数量の証券につい

て,公開買付者がさらに支払いを受諾することは,増加と見倣されないもの

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76 経営と経済

とした(規則14e -1 (b)但書および規則13e -4 (f)(l)(U)但書)。

なお,いずれの場合にも, r証券の割合」は,証券取引所法14条(d)項 3号

に従って計算される。

( 4)撤回権の拡大・・・・・・規則14d -7 (a)および規則13e -4 (f)( 2 )( i )は, 公開買

付に応じた者の撤回権が,買付期間を通じて確保されるべきことを定める。

これは,買付の全期間を通して撤回権および按分比例を提供するシステムを

通じて,証券保有者を保護するとともに,公開買付の手続そのものを簡潔に

することを狙ったものである。

ちなみに, 1986年 1月の提案段階では,本規則のような規制の方法の他,

申し出された対価の引下げまたは求められる証券の割合の減少に関する通知

が証券保有者に最初に伝えられた日より 10取引日の期間,撤回期間を延長す

る方法も,並列的に提案されていた。本規則の方を選択することによって,

証券保有者は公開買付の終了日だけに関心を払えばよいばかりではなく,競

合公開買付の発生によって当初の公開買付者が買付条件を変更させられるよ

うな事態は生じなくなる。これに伴い 撤回期間の計算につき重畳適用方式

を採用していた規則13e -4 (f)(7)は不要となり,削除されることとなった。

例 (一)参照。

制 113 CONG. REC. 856 (Jan. 18. 1967) (remarks of Senator Williams on S. 510). もっ

とも. SECは. 7日の撤回期間の規制について,株主に持株を預託するのを思い止どまら

せるばかりではなく,既に預託されている場合には預託株主に撤回することを納得させ

るための時聞をも,公開買付に反対する者に与える趣旨である,と述べ,株主の熟慮期

聞を確保するというクーリングオフの側面よりも,対象会社経営者や競合公開買付者の

機動的な対応を可能にするという側面を重視していたようである。 112 CONG. REC.

19003. 19005 (Aug. 11, 1966) (Memorandum of the Securities and Exchange Commis-

sion to the Committee on Banking and Currency. U. S. Senate. on S. 2731, 89 th Con-

gress) .

(36) Id. at 19005.

(3乃 Re1easeNo. 34 -16384 (Nov. 29. 1979). 18 SEC Docket 1053 (979).

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 77

加) Id. at 1071.もっとも,最短買付期間を定めること自体については,識者の間で一致し

ていたが,具体的にどの程度の日数を定めるべきかについては,意見が別れたようである。

同 自己宛公開買付と L、う特殊な状況の下では,規則13e -4によって規定された最短買

付期間を適用するのが適当であると考えられたためで-あるが,発行会社が,第三者によ

る公開買付を予想しもしくはこれに対応して自己宛公開買付を行うような場合には,ウ

ィリアムズ法の中立性を維持するためにも, 20取引日の最短買付期間を要請すべきもの

とされた。 Id.at 1070-1071.

同 Id.at 1072. したがって,例えば,公開買付者が公開買付の開始から 3日後に買付価格

の引上げを発表した場合,規則14e-1(b)の10取引日の要請は同14e-1(a)の20取引日

の期間中に終了し,最短買付期間が延長される結果には至らないことになる。

(41) 昂id.

(4今 Id.at 1067.

(叫昂id.

同提案段階では,対象会社による競合公開買付によっても追加的撤回権の引金が引かれ

る旨の規定が設けられていたが,対象会社がこれを濫用し,撤回期間の延長を通じて公

開買付者を牽制できる点を配慮し,削除されることになった。なお,提案段階の規制に

ついては,Re1ease Nos. 33-6022; 34-15548(Feb. 5, 1979), 16 SEC Docket 973(979)

を参照。

帥例えば,公開買付者Xが l取引日に公開買付を開始し,公開買付者Yが同じクラスの

株式を対象として 7取引日に公開買付を開始した場合, Xの公開買付について撤回期間

を計算すると,規則14d -7 (a)(I)の下での 8取引日から15取引日までの撤回期間は,同

14 d -7 (a)(2)の下ての撤回期間に算入され,結局,撤回期間は 1取引日に始まり 17取引

日末に終了することになる。

(46) Release No. 34-16384, supra note 37, at 1067.

(47) SEC Tender Offer Report, supra note 17, at 27.

(48) Id. at 27 -28.

いゆ Id. at 24ー26.

わゆ Id. at 38.

。1) Id. at28-29.

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78 経営と経済

(52) Id. at 41-42.

側提案内容の詳細については,次のリリースを参照されたい。 Re1easeNos. 33-6595; 34

-22198 (Ju1y 1, 1985), 3S SEC Docket 762 (1985).

(54) Re1ease Nos. 33-6619; 34-22791 (Jan. 14, 1986), 34 SEC Docket 1248 (1986).

(55) Re1ease Nos. 33-6653; 34-23421 (Ju1y 11, 1986), 36 SEC Docket 96 (1986).証券保

有者の平等的取扱を徹底させるために全保有者要請および最善価格条項を新たに設ける

ことについて, SECは次のように述べている。「委員会は,証券保有者の平等的取扱に関

して,公開買付に適用され得る規制の中で明確性ならびに確実性を提供する必要性を認

めてきた。全保有者および最善価格の各条項は,証券取引所法の投資者保護という目的

を達成するために必要である。これらの条項がなかったならば,ある証券保有者には公

開買付を拡大しながら他の者には拡大しないことによって,あるいは様々な価格で証券

保有者に公開買付を行うことによって,差別的な公開買付がなされ得たであろう。全保

有者要請および最善価格条項の目的は,発行会社および公開買付者は等しく公開買付で

求められるクラスの証券の全保有者に対して公開買付を拡大しなければならず,かつ,

各預託証券保有者にその他の証券保有者に支払われる最高額の対価を支払わなければな

らない,と L、ぅ要請を明示することである。JId. at 107-108.

同 その規制内容について自己宛公開買付を第三者公開買付と同列に扱う理由を, SEC は

次のように述べている。「公開買付は,それを行う者が第三者であろうと発行会社であろ

うと,対象会社の証券保有者に同様な圧力をかけるのである。証券保有者は,自己宛公

開買付においても,開示規制による保護や,按分比例や撤回権と L、う実体的規制による

保護について,同程度の必要性を有する。同様に,同じグラスの証券の保有者に関して

平等的取扱を確保すると L、う連邦議会の意図は,等しく適用できるものなのである。そ

の政策と合致するように,全保有者要請および最善価格条項は,いずれかの当事者に加

担してパランスを傾けるのを回避するため,自己宛公開買付と第三者公開買付に等しく

適用されなければならない。JId. at 100-101.

制 Id.at 99.全保有者要請がなければ,最短買付期間や撤回期間の延長等がある証券保有

者には行われでも他の者には行われないような事態も予想され,公開買付から排除され

た証券保有者は,公開買付プレミアムに与かるために,ウィリアムズ法によって要請さ

れる情報も撤回権・按分比例権も与えられないまま,排除されなかった証券保有者に売

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 79

却するよう圧力をかけられるかもしれないからである。 Id.at 98.

(58) Release Nos. 33-6595; 34-22198, supra note 53, at 768.

(59) Release Nos. 33-6653; 34-23421, supra note 55, at 97. したがって,例えば,公開買

付に対する防衛戦術として,対象会社が自社の有力な事業部門や子会社等を第三者に譲

渡するような場合,公開買付者は,譲渡後の対象会社の資産価値を反映した価格まで買

付価格を引き下げて,預託された全証券を買い付けることも可能である。ただし,後述

するように,最短買付期間がさらに10取ヲ旧延長されることになる。 ReleaseNos. 33-

6619; 34-22791, supra note 54, at 1250.

和ゆ Release Nos, 33-6653; 34-23421, supra note 55, at 103.

加) 1985年 7月の提案段階では,各対価形態が実質的に均等であることを要求していたが,

証券保有者が申し出された対価形態の間で同ーの選択権を持つことを要求すれば足りる

との指摘を受けて,本文のような規定に改められた。 Id.at 103 n. 48.

制) 同規則に基づく「計画」には,発行会社もしくはその子会社の従業員または株主に対

する,特別賞与,利益分配,年金,退職金等とともに,株式買付やストック・オプショ

ン等も含まれている。

。ゅ ReleaseNos. 33-6653; 34-23421, supra note 55, at 104-105.

加) 規則の文言からは明らかではないが, SEC は,州法の届出規制に違反して発行された

有価証券に対する撤回公開買付も,同規則の下で認められる,としている。 Id.at 105.

(65) Id. at 106.

。6) Release Nos. 33-6595; 34-22198, supra note 53, at 768.

(67) Release Nos. 33-6619; 34-22791, supra note 54, at 1255, 1257.

(68) Id. at 1252.

ゃの Release Nos. 33-6653; 34-23421, supra note 55, at 106.

(7の 2%という適用除外基準は,証券法13条(d)項 6号および証券取引所法14条(d)項 8号に

よって規定されている適用除外との整合性を考慮したものである。 Id.at 106 n. 71.

(71) Id. at 107.

(72) Release Nos. 33-6619; 34ー22791, supra note 54, at 1255-1256.

Pゆ ReleaseNos. 33-6653; 34-23421, supra note 55, at 107.

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80 経営と経済

( 2 )按分比例原則および空提供規制

証券取引所法14条(d)項唱号は,次のように規定する。「あるクラスの社外

持分証券の全部ではなくその一部について公開買付における買付の申込また

は売付の申込の要請もしくは招請を行う場合で,かつ,当該申込または売付

の申込の要請もしくは招請に関するコピーが最初に公表されまたは証券保有

者に送付ないし交付された日より 10日以内に,買付予定数を超える数量の証

券が預託された場合には,各預託者によって預託された証券の数量に従って,

端数は無視するものの できるだけ按分比例になるように買い付けられなけ

ればならない。本項の規定は 7号で規定されているような,証券保有者に

申し出された対価の引上げに関する通知が最初に公表されまたは証券保有者

に送付ないし交付された日より 10日以内に預託された証券についても,同様

に適用される。」これは 先着順に基づいた公開買付を違法とすることによ

って,早急に預託を行うよう株主に圧力をかけることを排除する趣旨とされ

ている。

ただ, Wil1iams上院議員によって提案された S.2731を受けて SECが行

った提案で、は,現在の規制のように買付期間を通じて撤回権が確保されてい

た点に注意を要する。連邦議会が SEC案を採用しなかったのは,ニューヨー

ク証券取引所が,独自の経験に基づいて,買付価格の引上げの場合における

10日間の追加的期間とともに,最初の10日間に預託された証券に按分比例の

要請を限定すべきことを議会で証言したためである。

そこで,規則制定権を通じて按分比例原則を拡大しようとする一連の試み

が, SECによって展開されることになる。

SEC は,まず, 1979年11月,規則14d-8を制定し,公開買付の開始日

に交付される公開買付説明書に通常と異なる按分比例期間である旨を開示す

ることを条件として,公開買付の開始日,買付価格引上げの通知の日の双方

より, 10日間を超えて按分比例期間を定めることができるものとした。この

ような按分比例期間を設けることが,証券取引所法14条(d)項 6号に反するの

かどうかと L、う実務界の疑問に答えたもので,同規則を制定することによっ

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 81

て,投資者が性急に投資判断をさせられる可能性を減少させるとともに,部

分的公開買付において全証券保有者が平等に参加できる機会を増大させるこ

とができる,と説明されている。

次いで1982年12月,規則14d-8を改正し,公開買付者は,買付期間の全

期間を通じて,各預託証券者によって預託された証券の数量に従って,按分

比例に基づいて証券を受け入れなければならないものと定めた。これは,二

段階公開買付が盛んに行われるようになるとともに, 10日間の按分比例期間

では,証券保有者は,第一段階の部分的公開買付において熟慮した上での投

資判断を行うのに適当な機会を与えられることのないまま,第二段階の吸収

合併でより少額の対価を受け取らざるを得ないような状況が生じることを配

慮したものである。すなわち,買付期間を通して按分比例権を拡大すること

は, I公開買付のメリットを検討し,その投資判断の基礎となる情報を十分

に得るために必要な時間を確保するとともに,按分比例期間を変更したり複

数の按分比例プールによって証券保有者を混乱させまたは誤解を生じさせる

可能性を極小化するためには,不可欠である。」と説明されている。

もっとも,本規則は,公開買付に関する詐欺的行為を禁止する証券取引所

法14条(e)項に基づいて制定されており(同14条(d)項 6号には規則制定権を認

める条項が存在しなし、),ウィリアムズ法制定の経緯を鑑みれば,本規則を

定める権限を SECが有することに疑問が提起されている他,実際問題とし

ても,按分比例期間より前に徹回期間が終了することとなり,撤回期間が終

了した時点で、も,公開買付者は預託された証券を買い付けることができない

一方で,証券を預託した者は支払いも得られなければ撤回権も有しないこと

になる等,幾つかの間題を抱えていた。このうち,実際問題に関しては,前

述したように1986年の改正において撤回権が公開買付の全期間中に渡って確

保されたこともあって,ある程度是正されたが, SECの規則制定権をめぐ

る問題は,依然として残されたままである。

一方,空提供をめぐる規制については,ウィリアムズ法そのものにおいて

は規定されなかったが,上院委員会で言及されたこともあって, SECは,

ウィリアムズ法が通過する直前である1968年 4月,証券取引における詐欺的

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82 経営と経済

行為を一般的に禁止した証券取引所法10条(b)項の下で,規則10b-4を制定

した。同規則は,いかなる者も,①自己が所有しない証券を自己の勘定で提

供すること,または①(a)証券が,提供を行う者もしくは保証を行う者の占有

下にある場合,もしくは(b)提供を行う者もしくは保証を行う者が,本人から

の通知に基づいて,本人が提供される証券を所有し,かつ,できるだけ速や

かに,不当な手間ないし費用を要することなく,当該証券を引き渡してくれ

るものと通常考えるような場合,のいずれかの場合を除いて,他人のために

証券を提供しもしくは提供を保証することは,証券取引所法10条(b)項の下で

「相場操縦的もしくは欺踊的策略ないし計略」を構成する,と規定していた。

これらの証券には,公開買付の対象とされている証券の他,転換権,交換権,

オプション, ワラント,買付権の行使によって対象証券となるものも含まれ

ていた(10b -4 (a)(l)(B), (a)(2)(C))o I所有」の概念については,同10b -4

(b)の下で判断されることになった。

このような空提供規制は,部分的公開買付における按分比例原則を実効あ

らしめるために規定されたものと思われるが,広く公開買付一般に適用され

ていた点に留意する必要がある。

以上のような規制の在り方に対し,諮問委員会は, 1983年の報告書の中で,

現行の規制は継続されるべきであるが,規制の実効性を確保するため,ヘッ

ジ提供も禁止すべきことを勧告した(勧告44)。すなわち,空提供およびへ

ッジ提供は,市場の効率性を増大させ,公開買付に応じるよりもむしろ市場

へ売り付ける者に利益を与えるが,これを行う機会を利用できるのはほとん

ど市場の専門家だけであり,これを認めると市場の専門家に著し¥,、,かつ不

公正な優位を与えるように思われるからであり,その結果,市場の完全性

(integrity)への公的信頼を根幹から揺がす危険を生じさせると判断されるか

らである。

さらに,空提供およびへッジ提供をより魅力の乏しいものとするため,按

分比例の結果として公開買付者によって現実に買い付けられる数量の証券だ

庁に止どまらず,保証によって提供される証券の全数量を物理的に引渡すこ

とを要請するよう勧告した(勧告45)。

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 83

一方,競合公開買付状況下において,複数の公開買付者に提供することに

ついては,①複数提供も空提供の一変形と考えられ,同様に市場への公的信

頼を損なうおそれがあること,および,①双方の公開買付が成功したかのよ

うに見え,市場に甚だしい混乱を生じさせることになることから,同様に禁

止されるべきことを勧告した(勧告46)。

また,オプション市場では,コール・オプション契約の数量制限が理論的

には何等存在しないために,申込超過の蓋然性がより高いことを考慮し,あ

る者が公開買付の対象となる証券において「ネット・ロング・ポジション

(net long position) J (規則10b -4 (b)(5)但書)を持つのかどうかを決定する

趣旨からすれば,ある者が売り付けたコール・オプション,またはある者が

公開買付の終了する前に行使される蓋然性が極めて高いことを知るべきであ

ったコール・オプションは,当該オプションの対象となる証券の売付を構成

し,当該証券におけるその者のポジションから差し引かれるべきである, と

勧告した(勧告47)。

以上に述べた諮問委会の勧告を受けて, SEC は空提供規制に関する一連

の改正を行うことになる。

まず, 1984年 3月,主としてへッジ提供も禁止の対象とすることを目的と

して,規則10b -4を全面的に改正した。以下,改正規則の内容に従って,

順次解説する。

まず,規則10b -4 (a)(l)は,同(a)(2)で定義されている「等価証券 (equiva-

lent security) Jの利用を反映させるための改正を除いて,旧規則10b -4 (b)

(2 )と本質的に変わるものではない。ただし,他の方法で証券を提供するよう

な者は証券を所有するものとは見倣されないことを規定するため, したがっ

て,第三者が同規則の下で当該証券を提供できるような(株式ローンもしく

は取引所取引によるコール・オプション以外の)協定をそのような者が取り

結ぶ場合に,当該証券を提供することを禁じるように規定するため,所有権

の定義が練り直されている。

次に,規則10b -4 (a)(2)は, I等価証券」を定義づけるが,重要な部分は

全て旧規則10b -4 (a)( 1 )を踏襲している。国法証券取引所で取引されるオプ

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84 経営と経済

ションが定義から除外されているのは,当該オプションの作成者または署名

者がオプションの対象とされる証券に対する「正当な権原を有しかっ所有し

ている」かどうかを,当該オプションの保有者が知ることはできないためで,

旧規則以来の SECの解釈を明文化したものといえる。数量限定のないオプ

ションは,対象とされる証券をカヴァーしきれなくても署名され得るので,

上場されているオプションの保有者は,当該オプションを行使していなけれ

ば提供することを許されない。

「提供」という用語は,公開買付における買付の申込または売付の申込の

要請もしくは招請に積極的に応じることができるあらゆる方法を包含するよ

う,規則10b -4 (a)( 4)で定義されている。旧規則の下では,ある人自身の計

算による引渡の保証を意味する「自己保証 (self-guarantee) Jを禁止する

ようにも解することができたが,本定義は特に「保証」をも含んでおり,自

己保証も「提供」として認められることになる。

規則10b -4 (b)は 空提供等に関する実体的規制を部分的公開買付に限定

している点に注意する必要がある。

このうち,同(b)(1)は,旧規則10b -4 (a)(l)の所有権条項を組み込んだもの

であり,定義された用語を利用することによって相当簡潔にした上で,対象

証券の提供時および按分比例による受諾時の両時に当該証券を所有していな

L 、限り,当該証券を提供することを違法としている。これは,按分比例の決

定が,その時点で提供証券の実際の所有権をより公正かつ正確に反映するこ

とを確保し,へッジ提供等をも禁止の対象とするためで、ある。したがって,

対象証券を提供し その後自己のネット・ロング・ポジションを構成する対

象証券の一部または全部を按分比例期間中に売り付ける証券保有者は,必要

量の証券を買い戻すか,提供を撤回することを要請される。なお,按分比例

期間後に生ずる対象証券の売付は 按分比例の計算に影響を及ぼすものでは

ないので,禁止されない。

規則10b -4 (b)(2)はl日規則10b -4 (a)(2)に相応するものであるが,定義さ

れた用語を利用することによって相当簡潔になっている。

規則10b -4 (b)( 3 )は,諮問委員会の意見を受け入れる形で,証券保有者が,

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 85

同時に二つ以上の部分的公開買付に同一の証券を提供する,いわゆる複数提

供を行うことを禁止する。

以上のような規則の大改正にもかかわらず,諮問委員会によって指摘され

た問題のうちなお 2つが,未だ解決されていなかった。すなわち,①保証に

よって証券を提供する者に,その保証された全証券を公開買付者に引き渡す

よう要請すべきかどうか,および,①コール・オプションの取扱をどのよう

に規制するか,である。これらの問題に対処したのが, 1985年 2月の規則改

正である。

まず,①の問題について, SEC は,そのような規則の採用を見送った。

イ)実務慣行や契約法によって満足のし、く規制が行われていた領域に証券取

引所法の反詐欺概念を課すことは不要である,ロ)公開買付のプロセスに参

加する様々な当事者の義務に関して数多くの不確実性を生み出すことにな

る,ハ)保証者の過失によらないで引渡を行うことができない場合の保証者

の責任をめぐる取扱等,多くの反対意見が寄せられたためで,結局, SEC

としては,反詐欺条項の下で引渡要請を行う際に固有の複雑さや不確実性は,

殊に既存の保証プロセスが提供を促進させる際にうまく機能している点を衡

量すれば,正当化され得ないものである,と判断した。

①の点については,提供を行う者に対して,公開買付の発表後に署名した

標準コール・オプション Cstandardizedcall option)の対象とされる証券を,

自己のネット・ロング・ポジションから控除するよう要請することによっ

て,コール・オプションの利用を通じてへッジ提供を行うことを禁止するこ

とにした。このため 規則10b -4 (a)(S)および同(a)(6)を新たに設けるとと

もに,同(a)(l)の括弧内の文言を「証券の貸与もしくは国法証券取引所で取引

されるコール・オプションの署名に関するものを除く」から「証券の貸与も

しくは標準コール・オプションの署名に関するものを除く」に,同(a)(1 )(iii)の

「本人が,国法証券取引所で取引されている,当該証券を買い付けるオプシ

ョンを有し,かつ当該オプションを行使した場合」を「本人が,標準コール

・オプションを有し かっ当該オプションを行使した場合」に,また同(a)(2)

(ii)の括弧内の文言を「国法証券取引所で取引されるオプションを除く」から

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86 経営と経済

「標準コール・オプションを除く」に,それぞれ書き改めることとなった。

以下,規則の内容に即して順次検討する。まず,規則10b -4 (a)(5)から述

べると,標準コール・オプションをも規制の対象としたのは,標準オプショ

ンが取引されているような普通株を含む公開買付においては,標準コール・

オプションに署名することを通じて,へッジ提供と同一の結果を達成するこ

とができるからである。

一方,ネット・ロング・ポジションからの控除については,諮問委員会に

よって勧告されたような, I公開買付の終了する前に行使される蓋然性が極

めて高いことを知るべきであった」かどうかと L、う主観的基準によるのでは

なく,行使価格に焦点を合わせた客観的基準を採用しているo これは,主観的

基準では実施・運用する際に困難を生じるものと考えられたためであ

る。

他方,公開買付が発表される前に署名されたコール・オプションにはへッ

ジ提供の意図は見られないので,ネット・ロング・ポジションからの控除の

対象外とされた。

さらに,進行中の競合公開買付が,予想される第二の公開買付が発表され

る前にこれに対する提供をへッジするためにコール・オプションに署名する

機会を提供するのを阻止するため,発表日の基準を最初の公開買付が発表さ

れた日とした。

規則10b -4 (a)(6)は, I標準コール・オプション」を定義づける。 1984年

5月の提案段階では「取引所取引によるコール・オプション」とされていた

のが,現在のような文言に改められた経緯については,既に註(95)で、述べた。

例 113CONG. REC. 854, 856 (Jan. 18, 1967) (remarks of Senator Wi11iams on S. 510).

(75) 112 CONG. REC. 19003, 19005 (Aug. 11, 1966) (Memorandum of the Securities and

Exchange Commission to the Committee on Banking and Currency, U. S. Senate, on S.

2731, 89 th Congress).

。6) S. REP. No. 550, 90 th Cong.. 1 st Sess. 4 -5 (967).

0乃 ReleaseNo. 34-16384. supra note 37. at 1067-1068.

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 87

仰) Release No. 34-19336 (Dec. 15, 1982), 26 SEC Docket 1445,1446 (982)

同 本規則は, 3対 2の微差で採用が決定されており, リリースの末尾には, Shad 委員長

および Treadway委員の詳細な反対意見が述べられている。Id.at 1447-1449.なお, 1982

年改正規則の意義と問題点を詳細に述べたものとして,吉原・前掲註同104-108項がある。

(80) Release No. 34-8321 (May 28, 1968), 33 FR 8269 (June 3, 1968).

。1) 空提供が自己の所有しない証券を提供することであるのに対して,ヘッジ提供は,自

己の所有する証券を提供するものではあるが,市場でその一部を売り付けることを伴う

ものをし、う。わが国と異なり,アメリカでは株式の先物取引も高度に発展しているため,

いわゆるリスク回避的投資者の発想からすれば,ヘッジ提供を行うことによって按分比

例に伴うリスクをヘッジしておくことになろう。

(82) SEC Tender Offer Report, supra note 17, at 47 -48.

(83) Id. at 48.

(84) Id. at 48-49.

例 例えば,公開買付の終了間際にオプションが行使される場合,オプションの署名者は

行使指図通知を公開買付を終了するまでに受け取らないようなこともあろうが,通知を

受け取る前に,オプションの対象とされた証券を自己の計算で預託してしまう事態も考

えられる。

(86) SEC Tender Offer Report, supra note 17, at 49-50.

制 Release No. 34-20799 (Mar. 29, 1984), 30 SEC Docket142 (984). 改正規則の文言

は以下の通りである。

S 240. 10 b -4証券の空提供

(a)定義・本条の目的について,

(1)ある者およびその代理人のいずれもが,他の者が対象証券もしくは等価証券

(equivalent security)を提供するようなもしくは所有するものと見倣されるような,かつ,

次のいす'hかに該当するような協定ないし協約(証券の貸与もしくは国法証券取引所で

取引されるコール・オプションの署名に関するものを除く)を結ばなかった場合,その

者は当該証券を所有するものと見倣される, (i)本人またはその代理人が当該証券に対す

る正当な権原 (title)を有する場合, (ii)本人が当該証券を既に買い付けている場合,また

は,当事者双方を拘束する当該証券の無条件買付契約を既に締結しているが,まだ当該

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88 経営と経済

証券を受け取っていない場合. (副)本人が,国法証券取引所で取引されている,当該証券

を買い付けるオプションを有し,かつ当該オプションを行使した場合. (iv)対象証券の場

合において,本人が. (上述の(i)ないし(ii)の意味において)所有する等価証券を転換し

交換しもしくは行使した場合。按分比例期間の終了時点の所有権を決定するという趣

旨から,提供されたが撤回されていない証券は按分比例期間の終了時点で所有するもの

と見倣される。ただし,ある者が,証券においてネット・ロングポジションを有する限

度においてのみ,本規則の趣旨で当該証券を所有するものと見倣されることを要する。

(2) I等価証券」と L、う用語は,次のいずれかを意味する. (i)公開買付の対象とされる

証券の所有者によって発行される証券(対象証券を買い付けるオプション, ワラントそ

の他の権利を含む)で,対象証券に直ちに転換または交換もしくは行使できるもの. (ii)

保有者に対象証券を取得する資格を与えるその他の権利もしくはオプション(国法証券

取引所で取引されるオプションを除く).ただし,権利もしくはオプションの作成者また

は署名者が対象証券に対する正当な権原を有しかっ占有しており,行使の際には速やか

に対象証券を引き渡すであろう,と保有者が通常考えるような場合に限られる。

(3) I対象証券」と L、う用語は,公開買付における買付の申込または売付の申込の要請

もしくは招請の対象となる証券を意味する。

(4 )本規則の目的から,ある者が(i)公開買付に従って対象証券を引き渡す場合. (ii)当該

引渡がなされる原因となる場合. (iii)公開買付に従った対象証券の引渡を保証する場合,

(iv)当該引渡の保証が他の者によって与えられる原因となる場合,もしくは(v)公開買付の

受諾が行われるその他いかなる方法を利用する場合,その者は証券を「提供する」もの

と見倣される。

(b)¥,、かなる者も,単独でもしくは他人と提携して,直接的もしくは間接的に,部分的公

開買付において対象証券を提供することは,それぞれ以下の場合に,法第10条(b)項およ

び第14条(e)項で用いられている用語としての「相場操縦的もしくは欺踊的策略ないし計

略」および「詐欺的,欺蹄的,もしくは相場操縦的行為ないし慣行」を構成する。

(1)自己の計算による場合。ただし,提供時および按分比例期間もしくは証券が抽選に

よって受諾される期間(それによる拡張を含む)の終了時に,その者が. (i)対象証券を

所有し,かつ,公開買付で明記された期間内に公開買付者に提供する目的で,当該証券

を引き渡しもしくは引き渡させる場合,または(ii)等価証券を所有し,かつ,提供が受諾

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 89

されると,受諾された限度で当該等価証券を転換,交換もしくは行使することによって

当該証券を取得し,かつ,公開買付者に提供する目的でこうして取得した対象証券を引

き渡しもしくは引き渡させるであろう場合は,この限りではない。

(2)他ふの計算による場合。ただし,提供をする者が. (i)対象証券もしくは等価証券を

所有する場合,または(ii)提供依頼者からの通知によって,その者が対象証券もしくは等

価証券を所有し,かつ,提供をする者に提供する目的で対象証券もしくは当該等価証券

を速やかに引き渡すであろう,と通常考えるような場合は,この限りではなL、。

(3)同ーの証券が,他の部分的公開買付に応じて提供された場合。ただし,他方の提供

が撤回された場合はこの限りではない。

(c)本規則は,明記された期間中に抽選もしくは按分比例のいずれの方法によっても提供

が受諾されないような部分的公開買付には適用されない。

(d)委員会が,文書による要請もしくは自身の意向に基づいて,無条件にせよ一定の条件

を付けるにせよ,本規則の趣旨において理解される相場操縦的もしくは欺繭的策略ない

し計略または詐欺的,欺楠的,もしくは相場操縦的行為ないし慣行を構成しないものと

して取引を適用除外とする場合,本規則は当該取引を禁止するものではなL、。

なお,本規則改正は. 1981年 8月に提案されたものと実質的に同一である。ただ,提

案段階では,空提供とヘソジ提供の取扱に関して,改正規則のようにヘッジ提供をも規

制の対象とすることによって一律に禁止する方法の他,空提供の規制を緩和することに

よって一律に扱おうとする方法も提案されていた。その提案内容については,次のリリー

スを参照されたし、。 ReleaseNo. 34-18050 (Aug. 21. 1981). 46 FR 43459 (1981).

(88) Release No. 34-20799. supra note 87. at 142.

(89) Id. at 144-145.

同 ブローカー・ディーラーが自己保証を利用できないとすれば,他のブローカー・ディー

ラーの保証を確保しないことには,部分的公開買付の最終 5日に「通常の方法」で買い

付けた証券を提供することができなくなってしまうからである。 Id.at 145 n. 14.

。1) ヘッジ提供を認める弊害と禁止の必要性について. SECは次のように述べる。「アービ

トラジャーは,按分比例による選択を含む公開買付に応じた後,公開買付者によって受

諾されずに返還されるであろうと見積もった分の証券を,公開買付を反映する市場に売

り付けることができる。売り付けられた証券は,今度は,証券の一部を売り付けること

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90 経営と経済

によって按分比例リスクをヘッジする他のアービトラジャーによって買い付けられ,か

つ提供されることもあろう。その結果,同ーの証券が,二人(もしくはそれ以上)の証

券保有者によって有効に提供される一方,提供をするものの伺等ヘッジを行わない証券

保有者は,按分比例による受諾に関する稀釈化を経験し続けるのである。……ヘッジ提

供によって,アービトラジャーは按分比例リスクを極小化し,それゆえ公開買付期間中

に当該証券に対して相当高く申し出ることができる。これは,一般に認められる価格で

市場において証券の全部を売り付けることによって按分比例リスクを回避したL、と望む

証券保有者には有益である。

しかしながら,そのような証券保有者の利益は,ヘッジをしないで提供するために按

分比例プールの拡大によって被害を被る証券保有者を犠牲にして生ずる。 SEC は,実際

上の問題として,ヘッジ提供は多くの証券保有者にとって利用できないものであるため,

ヘッジ提供のインパクトは不公正である,と考える。JId. at 143-144.

(92) Id. at 145.

(93) Release No. 34-21782 (Feb. 22, 1985), 32 SEC Docket 713 (985).

(94) Id. at 714.

例 1984年6月の提案段階では, I取引所取引によるコール・オプション」として言及され

ていたのが,採用段階では「標準コール・オプション」に変更されたのは,オプション

の取引は全米証券業協会 (NASD)が管理する NASDAQ (National Association of

Securities Dealers Automated Quotations,全米証券業協会気配値自動通報システムを指

す)を通じて行われるべきである,という同協会の主張を受け入れたものである。これ

に伴い,標準コール・オプションの定義は,新規則10b -4 (a)(6)で定められることとな

った。なお, 1984年 6月の提案内容については,次のリリースを参照。 ReleaseNo. 34-

21049 (June 15, 1984), 30 SEC Docket 881 (1984).

(96) Release No. 34-21782, supra note 93, at 715-716.

刷新規則10b -4 (a)(5)および(a)(6)の文言は次の通りである。

~ 240. 10 b -4証券の空提供

(a)***

***** (5 )本規則(a)(I)において用いられる用語としてのある者のネット・ロング・ポジション

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公開買付をめぐる法規制の現状と課題[二] 91

は,公開買付が最初に発表されもしくは他の方法で対象証券の保有者に公開買付者より

知らしめられた日もしくはそれ以後に署名したコール・オプションの行使価格が公開買

付の最高買付価格または対象証券に対して申し出された対価の申出額よりも低い場合に

は,当該オプションの行使に基づいて引き渡すことのできる対象証券の数量によって減

少されなければならなL、。同ーの証券に対して一つもしくはそれ以上の他の公開買付が

当該日に進行している場合には,本項の目的からして,発表日は最初に発表された公開

買付の日でなければならなし、。

(6) I標準コール・オプション」という用語は,取引所で取引されるコール・オプショ

ン,または登録された全米証券協会のディラ一間電子気配値通報システムにおいてその

気配値が通報されるコール・オプションを意味する。

例例えば, 200株の対象証券を所有し, 50%の按分比例要因を見積もる者が,イン・ザ・

マネー・コール・オプション (in-the -money call option,オプションの対象とされる

証券の市場価格より低い行使価格を有するコール・オプションを指す)に署名すること

によって,ヘッジ提供できるとする。コール・オプションに署名する際に受け取るプレ

ミアムとオプションが行使されたときに受け取る行使価格の合計は,通常,提供された

株券のうちの100株が市場で売り付けられるとしたら実現され得るであろうような額に近

づくこととなろう。オプションが行使されるときに引き渡すための株券を借りることの

できる者は,株式を売り付けることによってできるのと同程度に効果的に,コール・オ

プションに署名することによって,提供に伴うリスクをへッジすることができるわけで

ある。

一方,オプションはしばしば公開買付の終了直前に行使されるので,公開買付が終了

した後まで,行使の通知が署名者に行き渡らないこともあろう。したがって,同ーの証

券が,オプションの対象とされる証券の所有者とオプションを行使する者の双方によっ

て,提供されることも十分考えられる。

このように,部分的公開買付において按分比例原則が適用されるような場面では,対

象証券に対するオプション取引は様々な弊害を生じさせるおそれがある。

(99) Re1ease No.34-21782, supra note 93, at 715.

(100)昂id.

(101) Id. at 716.