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Title 溶血性レクチンCEL-IIIのオリゴマー形成機構に関する研究

Author(s) 桑原, 大幹

Citation (2000-03-31)

Issue Date 2000-03-31

URL http://hdl.handle.net/10069/7293

Right

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE

http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

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溶血性レクチンCEL-Ⅲのオリゴマー形成機構        に関する研究

    1999年12月

長崎大学大学院海洋生産科学研究科

     桑原 大幹

             ’叢抵。レ蹄             ヅー     ノ 焦 噸糞粍              婁 憂  一                 鞭魏一3            \灘郵

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目次

緒論 1

 第1章特異的な糖との結合によるCEHIIオリゴマーの形成とその活性

.  第1節緒言  第2節 実験材料  第3節 実験:方法

    第1項 特異的な糖との結合によるCEHIIオリゴマーの形成    第2項 CEHIIオリゴマーの活性  第4節 実験結果

  第5節考察  第6節 小謡

5

5

6

10

21

23

第2章 CEL-IIIの化学修飾

 第1節緒言 第2節 実験:材料

 第3節 実験方法   第1項 CEL-IIIのアミノ基の化学修飾   第2項 CEL-IIIのカルボキシル基の化学修飾

 第4節 実験結果   第1項 スクシニル化によるCEL-IIIの活性への影響   第2項 グリシンメチルエステル化によるCEL-IIIの活性への影響

 第5節考察 第6節 小謡

24

25

29

44

47

第3章 X線小角散乱測定によるCEHIIオリゴマー構造の解析

 第1節緒言 第2節 実験材料 第3節 実験方法   第1項 X線小角散乱測定による構造解析   第2項 CEHIIオリゴマー形成における糖選択性の解析 第4節 実験結果   第1項 CEHIIモノマーおよびオリゴマーの構造解析   第2項 CELIIIオリゴマー形成における糖特異性の評価

 第5節考察 第6節 小謡

48

48

49

50

63

66

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第4章 特異的な糖との結合により形成されるCEL-IIIオリゴマーの形成過程

 第1節 緒言                          67 第2節 実験材料                         67 第3節 実験方法                          67

 第4節 実験結果                         69

   第1項 CEHIIオリゴマーの時間依存的な形成   第2項 CEHIIオリゴマー形成における分子間の疎水性相互作用の       重要性   第3項 糖との結合によるCEHIIの二次構造変化 第5節 考察                          82 第6節 小括                           87

総括                            88

謝辞                             93

参考文献                          94

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略語

ANS:8-anilinonaphthalene-!-sulfonic acid, ammonium salt

CEL-III:Cucuエηarゴa echゴーηa亡a lectin III

CD二circular dichrois:m

CF:carboxyfluorescein

DHB:2,5-dihydroxybenzoic acid

Dmax l Maxim-um dimension

EDC:1-ethy1-3一(3-dimethylaminopropy1)carbodiimide

EDTA:ethylenediaminetetraacetic acid, disodium salt

Ga1NAc l N-acety1-D-galactosamine

HPLC:high-performan.ce liquid chromatography

HRP:horseradish peroxidase

IgG:immunoglobulin G

I(0)/C:forward scattering

Ic(0)/C:forward scattering of cross-section

MALDI-TOF:matrix-assisted laser desorption ionization ti皿e-of-flight

PAGE:po!yacrylamide ge!electrophoresis

PBS:20 mM phosphate buffered saline

Rc:radius of gyration of the cross-sec㌻ion

Rg:radius of gyration

SDS:sodium dodecy!sulfate

TBS:20 mM Tris buffer saline(pH 7.5)

TNM:tetranitromethane

Tris:Tris(hydroxymethy1)aminomethane

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緒論

 レクチンとは糖結合タンパク質の総称であり、2カ所の糖結合部位を介して赤

血球やリンパ球を凝集させる性質を有する。近年、植物界だけではなく動物界、

主に脊椎動物から種々の一レクチンが単離精製され、そのレクチンが有する構造・

生理活性が明らかになるにつれ、それらが生体の恒常性維持、生体防御機構など

生体内の多くのプロセスに関与していることが明らかにされ,てきた。一方、無脊

椎動物レクチンにおいても、受精、分化、発生および生体防御にこれらのレクチ

ンが関与していることが示唆され、近年その関心が高まってきている(1)。

 海産無脊椎動物由来のレクチンとして、これまでにウニ(Aη亡加cfdarゴS

crassfs-pfna)(2)、フジツボ(癩egaわalaηαs rosa)(3)、ホヤ(Po1アaηdrocarpa加sa幻e丑sfs)

(4)、マナマコ(S漉加Pαs/aponfcαs)(5)などからレクチンが精製され、その構造・

機能について検討がなされている。これらの海産無脊椎動物由来のレクチンの中

でも、グミ (CαCHInarゴa eC11ゴna亡a)由来の溶血性レ・クチンCEL-IIIは非常に興味深

い性質を有している(6騨7)。グミは棘皮動物きんこ科、海鼠網に属するナマコの近縁

種である海産無脊椎動物の一種であり、筑前海区の小呂島東方海域の水深20~80

mの砂れき底の海底に集まって生息している(8)。グミには4種のカルシウム依存

性レクチンが存在しており(CEH~CEHV)、これらのレクチンの中でCEHおよ

びCEHVはそのアミノ酸配列よりC型レクチンファミリーに属することが明ら

かとなっている。一方、CEHIIは最近、その全アミノ酸配列が決定され、細胞毒

性を有する植物レクチンであるヒマ由来のリシンB鎖と20%程度の相同性がある

ことが報告された(9)。このレクチンはCa2+依存性、ガラクトース/N一アセチルガラ

              『1クトサミン特異的レクチンであり、ヒト・ウサギ赤血球に対し強い溶血活性を示

し、トリ、ウマ赤血球に対しては溶血活性を示さない。さらに、最近MDCK、 HeLa

およびVero細胞などの培養細胞に対し強い細胞傷害性を示すことが明らかとなつ

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CUCα111arfa eCllflla亡a

た(10)。これらのことより、グミの様な免疫系を持たない無脊椎動物において、

CEHIIは生体防御物質として機能していることが考えられる。

 CEHIIによる溶血は、まずCEHIIが赤血球膜表面上の幽幽’レセプターと結合

し、オリゴマーとして細胞膜に挿入後、低分子透過性の小孔を形成することによ

るコロイド浸透圧ショックによるものであると考えられている(11)(Figure 1)。

CEHIIの活性発現においては1)CEL-IIIの細胞表面糖鎖レセプターとの結合、2)

レセプター結合後のオリゴマー化などの少なくとも2段階のステップがあると思

われる。CEL-IIIの糖鎖認識については詳細な検討がなされており、Sallayらによ

ってCEHIIは糖質に対し同一の親和性を有する2カ所の糖認識部位を有するこ

と(12)、また畠山および長友らによって糖脂質であるラクトシルセラミドやグロボ

シドがCELIIIのレセプター能を有することが明らかにされている(13曹14)。この様に

CEHIIの糖鎖認識についてはかなりの知見が得られてきているが、第2段階の

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Hemoglobin

● Erythrocyte ●

Swelli皿9

一ゆ

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 覧-.,     .

 -

●.

             ●

Colloid。osmotic ru:ptt巳re.

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鴎◎「讐

CE:L磁▼

Ca士bohydねte

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躍農颯晶晶腿撒躍↓

 Membrane∠4 _噸レ

Binding and

confbrmation al change

鵬腿↓脳鵬凹埋

ちり さ

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01igomerization

禰奮瓶 「’・

脳r’

71,イ

Figure l Mecha血ism of hemolysis by CEL-III

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CEL-IIIのオリゴマー化についてはそれ,ほど詳細な検討は行われていない。一方、

CEHIIの様に標的細胞膜中で小孔を形成する小孔形成細菌毒素として

ε伽加10c・cca1α一トキシンが有名である(15曹20)。この毒素タンパク質は標的細胞膜中

で7量体からなる内径1~3n・nの小孔を形成する(21)が、この毒素タンパク質のオ

リゴマー化は脂質膜中のみではなく、水溶液中において、デオキシコール酸など

の界面活性剤と相互作用することによっても促進されることが知られている(22)。

この様な脂質将士以外でのオリゴマー化はCEHIIにおいても誘導することがで

き、CEHIIのオリゴマー形成機構を検討する上で有力なモデルとなりうることが

期待される。

 本研究は水溶液中(pH 10、1M塩化ナトリウム存在下)で特異的な糖と結合

することによって形成するCEL-IIIオリゴマー(23)の形成機構を明らかにする目的

で行ったものである。まず、第1章では、CELIIIオリゴマーの形成とその活性に

ついて検討した。第2章ではCEレIIIの活性発現におけるアミノ基およびカルボ

キシル基の重要性を検討し、CEレIIIのアミノ基はオリゴマー形成に重要であるこ

とを見いだした。第3章では、X線小角散乱測定によってCEHIIモノマーおよ

びオリゴマーの分子パラメーターを決定し、その構造解析を行った。第4章では

CEL-IIIオリゴマーの形成における糖特異性の検討および速度論的な解析を行い

CEL-IIIの水溶液中でのオリゴマー化はCELIIIの糖との結合による迅速な二次構

造変化によるものであることを明らかにした。

 本論文は、以上の研究成果を取りまとめたものである。

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第1章

特…異的な糖との結合によるCELmオリゴマーの形成とその汚性

第1節 緒言

 本章では、CEL-IIIが水溶液中で特異的な糖と結合することによって形成される

オリゴマーの形成過程における温度およびpHの影響を検討するとともに、オリ

ゴマーの会合数の推定を行った。また、このオリゴマーの活性についてレクチン            垂活性を指標に評価し、そめ特徴について論じた。

第2節 実験:材料

 グミは福岡県の玄海沖で採取したものを使用した。セルロファインGCL-2000

は生化学工業株式会社、Sephadex G-75はPhar皿acia社、チトクロームC、カル

ボニックアンヒドラーゼ、オボアルブミン、牛血清アルブミン、架橋ホスホリラ

ーゼb、GalNAcはSig:ma社、ビニルスルホン、テトラニト『ロメタン(TNM)は

Aldrich Chemica1社よりそれ,それ購入した6ラクトースは和光純薬工業株式会社、

ウサギ保存血は日本バイオテスト研究所、デキストラ’ 唐SはServa社、アミノプ

レートは住友ベークライト社よりそれぞれ購入した。その他の試薬はすべて特級

を用いた。

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第3節 実験方法

第1項 特異的な糖との結合によるCEHIIオリゴマーの形成

(1)CE:L-IIIの精製

CEHIIの精製は以前報告された方法(6’7)に従い、グミ体液からLactosy1-Cellulofine、

Ga1NAc-CellulofineおよびSephadex G-75のカラムクロマトグラフィーにより精製

した。すべてのクロマトグラフィーは4℃で行った。精製したタンパク質はTBS

に対し透析し、使用するまで30℃で保存した。

ξ

(2)タンパク質の定量

 タンパク質の定量は牛血清アルブミンを標準タンパク質として用いビシンコニ

ン酸法㈹により定量した。

(3)SDS一ポリアクリルアミドゲル電気泳動

 SDS一ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)はLaem皿1i(25)らの方法に

従った。分子量マーカーとして、チトクロームC(12。4kDa)、カルボニックア

ンヒドラーーゼ(29kDa)、オボアルブミン(45 kDa)、牛血清アルブミン(66 kDa)、

を用い、泳動後のゲルはクーマーシーブルーR・250により染色した。この場合、

試料は非還元下で、試料用緩衝液を加えた後加熱処理を行わず電気泳動に供した。

(4)銀染色

 電気泳動後のゲルを脱色液(メタノール:酢酸:蒸留水=1:1:4(v/v/v))に

30分間浸した後に、2.5%のグルタルアルデヒドに浸し固定化を行った。固定化後、

蒸留水で3回ゲルを洗浄し、硝酸銀アンモニア水溶液を用い15分間染色した。

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蒸留水で2回ゲルを洗浄後、発色液(0.005%クエン酸0.019%ホルムアルデヒ

ド)を用い発色させた。

(5)CEHIIオリゴマーの形成におけるpHおよび温度依存性

 CEHII(70μ9/ml)、1M塩化ナトリウムおよび10 mM塩化カルシウムを含

む各pH緩衝液にラクトースを終濃度で!0皿Mになるように添加後、4℃,25℃,

35℃でそれぞれ30分間インキュベートし、SDS-PAGEを行った後、タンパク質

を銀染色で検出した。。また、同様に調製したサンプルの蛍光スペクトルを励起

波長280nm、蛍光波長250-450 n皿の測定範囲でHitachi F3010蛍光分光光度計

を用いて測定した。なお、緩衝液:はTBSおよび20 mMグリシンーNaOH緩衝液(pH

10)を用いた。

(6)CELIIIオリゴマーの会合数の推定

(6-1)CE:L-IIIオリゴマーの調;製

 CEHIIオリゴマーの調製は10 mMラクトース、1M塩化ナトリウムおよび10

皿M塩化カルシウムを含む20mMグリシンーNaOH緩衝液(pH 10)中でCEL-III

(0。5mg/皿1)を20℃で30分間インキュベートすることにより調製した。

(6-2)テトラニト・ロメタン(TNM)によるCELIIIゐ架橋(TNM一オリゴマー)

 CEL-III(0.4 mg/面)に1%TNM/エタノール溶液をCEHIIの濃度に対し30当

量、50当量、70当量になるようにそれ,それ加え、CEL-IIIの架橋を行った。

(6-3)SDS-PAGE試料用緩衝液と混合することによって形成するCEレIIIオリゴ

  マー(SDS一オリゴマー)

7

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 CEL-III(0。31ng/ml)とSDS-PAGE試料用緩衝液(2%SDS、20%g!ycero1、0.002%

プロモフェノールブルーを含む0.125MTris-HC1緩衝液(pH 6.8))を混合し、

1東結することによってSDS一オリゴマーを調製した。

上記した、TNMオリゴマーおよびSDS一オリゴマーとラクトースで誘起したCEL-III

オリゴマーを4%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEに供し、比較する

ことによってCEL-IIIオリゴマーの会合数を推定した。

(7)電子顕微鏡観察

 (6-1)で記した方法でCEHIIオリゴマーを調製後、サンプルおよび1%酢酸

ウラニルを炭素膜張付メッシュに適量のせ、2分間静置後、ろ紙で余分な溶液を

除去しJEOL JEM-100S電子顕微鏡を用いて加圧電圧100 kVにて観察した。

第2項 CEHIIオリゴマーの活性

(1)CEL-IIIオリゴマーの調製

(6-1)に従いCEHIIオリゴマーを調製した。

(2)CEHIIオリゴマーの精製

 CEL・III・オリゴマーの調製後、残存しているCEL-IIIモノマーを除去するため、

TBSで平;衡化したSephadex G-75カラム(φ1cm x 22 cm)に供した。

(3)ゲル濾:過HPLC

Phamlacia Biotech社製のSuperose 12HR 10/30ゲル濾:過カラム(φlx30 cm)

を用いたHitachi L7100システムで行った。溶出にはTBSを用い、試料100μ!

を注入後、流速0.5皿1/面nで1時間溶出した。

8

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(4)赤血球凝集活性測定

赤血球凝集活性は浸透圧保護剤としてデキストラン4存在下で行った。丸短評

イタープレートにTBSで順次二倍希釈したCEHIIあるいはCEL-IIIオリゴマー50

叫に同量の20皿M塩イζカルシウムおよび30皿Mデキストラン4を含む5%ウサ

ギ赤血球懸濁液を加え、室温で1時間静置後、赤血球凝集が観察された最高の希

釈倍数をタイ鳶口で表し凝集活性とした。

(5)糖結合活性測定㈹

(5ユ)金コロイド試薬の調製

湯浴中で温めた蒸留水50m1に40 mg/m1の塩化金溶液を250μ1添加しよく

溶かした後40mg/エnlクエン酸三ナトリウム溶液2.5皿1を加え弱火で15分間加

熱した。その後、室温に戻し1Mクエン酸溶液1mlを添加することにより調製

した。

(5-2)糖の固定化

 表面にアミノ基を有するマイクロタイタープレートの各ウェルにα5M炭酸

緩衝液(pH 10)で調製した5%ビニルスルホン溶液(v/v)300μ1加え30℃で

1時間活性化した。次に各ウェル中の溶液を除去し同緩衝液で調製した10%ラ

クトース溶:・液(w/v)300μ1を加え25℃で一晩静置した。その後未反応のビニ

ル基をブ「ロックするために1MTrisで各ウェルを満たし室温で1時間静置後、 TBS

で洗浄し実験に用いた。

(5-3)活性測定

各ウェル中でCEL-IIIあるいはCEHIIオリゴマーを4℃で1時間インキュベー

9

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ト後、各ウェルを氷冷したTBSで洗浄した。その後、事前に調製した金コロイド

試薬を200μ1加え30分静置後、620nmにおける吸光度をマイクロブ’レートリ

ーダー(1皿muno Mini NJ-2201, htermed, TQkyo)で測定することにより糖結合活

性とした。

第4節 実験結果

 CEL-IIIはグミ5009か月、25,7皿9の収量で効率良く得ることができた。精製

したCEHIIは均一標品であることをSDS-PAGEにより確認し、以後の実験に用

いた。

 まず、特異的な糖と結合することによって形成されるCEHIIオリゴマーのpH

および温度の影響を検:引した。Figure 1-1にその結果を示した。 CEL-IIIオリゴマ

ーはpH 7.5ではほとんど形成されないのに対しpH lOでは顕著なCEHIIオリゴ

マーの形成が見られた。また、35℃でインキュベートすることにより、最も濃い

CEL-IIIオリゴマーのバンド(270 kDa)が観察された。各温度でインキュベート

した後の蛍光スペクトルをラクトース存在下、非存在下で測定したところ(Figure

1-2)、いずれのサンプルにおいて、CELIIIオリゴマーの形成による蛍光強度の

変化が観察され,た。また、併せて最大蛍光波長のブルーシフトが見られ、糖と結

合することによってCEL-III内のトリプトファン残基の環境が変化していること

が明らかとなった。

 次にCEHIIオリゴマーの会合数の推定を行った(Figure 1-3)。TNMはチロ

シンのニトロ化試薬として用いられるが、Figure 1-4に示す反応機構でタンパク

問を架橋する試薬としても知られている(27幽28)。このTNMをCELIIIに作用させる

ことにより5量体から9量体のCEHIIの架橋産物が得られることが明らかとな

ったCレーン2,3,4)。一方、CEHIIをSDS-PAGE試料用緩衝液と混合し、凍

10

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結することによっても無秩序なCEL-IIIオリゴマーが得られることも知られてい

る。この場合、3量体から11量体までのCEL-IIIオリゴマーの生成が確認された

(’レーン7,8)。これらのオリゴマーとラクトースで誘起させたCEHIIオリゴマ

ーを比較すると、ほぼ、6量体と7量体の間に位置することが明らかとなり(レ

ーン5,6)、TNMおよびSDSで形成したオリゴマーとは構造が若干異なってい

ることが示唆された。次にラクトースで’誘起したCEHIIオリゴマーを電子顕微

鏡にて観察した。1%酢酸ウラニルでネガティブ染色した電子顕微鏡写真をFigure

1-5に示した。cELIIIオリゴマーと思われる約100~300A程度の大きさを有す

る分子を多数確認することができた。

n

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292kDaや

195kDa一参齢

(A)pH 7.5

。(2。(2

牟ξ

(B)pHlO

魂噛一〇11gomer

Flgu.re ll   Effects of pH  and temperature onollgom,erlzatlon of CE:L III

Panel(A), CE:L III(70 μg/ml)was lncubated ln TBS

contammg l M NaCl m the presence of 10 m-M/actose and

10皿MCaC12 for 30 mln at varlous temperatures。 Parlel(B),

CEL III(70μg/lnユ)was mcubated ln 20 mM glyclne NaOH

buffer, pH lO, contalnlng 1 M NaCl ln the presence of 10

mM lactOse and 10皿M CaC12 for 30 m!n at varlous

temperatul es

12

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                     Wavelen竃th lnml

Figure 1-2 Fluorescence spectral changes of CE:L-III upon

the binding of lactose.

CEL-III(70μg/m!)was incubated in 20 mM glycine-NaOH

buffer, pH lO, containing 1 M NaCl in the presence of lO

mM lactose andユO mM CaC12 for 30 m.in at various

temperatures((A)4℃,(B)25℃,(C)35℃), and then the

fluorescence of tryptophan of CE:L-III was measured. Solid

and dotted lines represent the prese:nce and absence of

lactose, respectively.

13

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292kDa一

195kDa一’

1 2 3 4 5 6 7 8

No。 of

Monomer

尋 4

Figure:L-3 Co皿parison of CEL・1工I oligo皿er induced by the

binding of lactose and cross-1illked CEL-III。

:Lane 1二marker Lane 2・4:CEL-III was treated with 30、50              ,

and 70 eq. TNM, respectively. Lane 5-61CEHII oligomer

induced by the binding of lactQse. Lane 7-8:CEL-III was

mixed with SDS-PAGE sample buffer.

14

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R

R

\ノ。 +

    NO2

\ノ○ ←

R\ノ。 +

C(NO盤)4:導=豊闘㊧c聯Tra醜r C。mplex

      R     O・幸NOゲ    ・

  NO2・:紫 R      劇

      RO四一Cross-llnkedPr◎驚》1職

                    l              R灘一NH-CH-CO-

Figure 1-4 Reactic且mechanism Qf TNM.

           4

       ↓

           {ン・・+N・盤

15

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一==奮鴨

灘r司・・y秘・

  ・薫.,:

霧藝欝1

・建竃:薫

   蟻.      .嚢逮・

.・蛛D

一500A…

Figure 1・5  Electron micrograph of

induced by the binding of lactose.

CEレIII oligomer

16

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 次に、CEHIIオリゴマーの活性を評価するために、まずCEL-IIIオリゴマーの

精製を行った。Figure 1-6に(6-1)で調製したCE:L-IIIオリゴマーのSephadex G-

75を用いたゲルろ過クロマトグラフィー・の溶出パターンを示した。このゲルろ過

で280nmに吸収が得られたフラクションNo.5および6の純度検定を目的にゲ

ルろ過HPLCを行ったのがFigure 1-7である。ゲルろ過HPLCの結果、フラクシ

ョン6においては若干CEL-IIIモノマーが混在していることが明らかとなった。

一方、フラクション5においてはCEL-IIIオリゴマーのみが観察された。よって、

以下の実験ではフラクションNo.5のサンプルを用いた。

ウサギ赤血球に対するCEL-IIIオリゴマーおよびCEL-IIIモノマーの赤血球凝集

活性を測定した結果、CEL-IIIモノマーが25倍希釈でその活性を消失するのに対

しオリゴマーにおいては212倍希釈まで赤血球凝集活性を保持していた。さらに、

CEL-IIIオリゴマーの糖結合能を評価するためにラクトースを固定化したマイクロ

タイタープレートを用いて糖結合活性を測定したのがFigure 1-8である。この方

法はレクチンをラクトースを固定化したマイクロプレートの各ウェルにレクチン

活性によって吸着させ、洗浄後、糖と結合し残存しているレクチンを金コロイド

試薬を用いて検出する方法である。この手法によりレクチンと糖との結合能を評

価した結果、CELIIIモノマーにおいては濃度依存的な糖結合活性が観察され,た。

しかしながら、先ほどの赤血球凝集活性測定の結果とは対照的にCELIIIオリゴ

マーの濃度依存的な糖結合活性の上昇は観察されなかった。

17

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3

。◎◎

N細邸

訟ぐ

0.5

0。4

0、3

0.2

0、1

0。0

0           10

Fraction’No、(l mユ)

20

Figu.re 1-6  Gel filtratiQn chromatography of CE:レ111

01igom白r.

CEL-III was incubated in 20 mM glycine-NaO:H buffer, pH

10,containi:ng l M NaCI in the presence of lO mM lactose,

10皿MCaC12 for 30 min at 20℃with gentle stirrin.g, then

applied to a Sephadex e75 column(φ1x22’cm),

!8

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(A)     CEレIII oligo:mer

(B)

5

 藍

10

 藝

15

 護

20

 畳

25

 匡

301    l

35 40

 竃

45

    CEL-III monomer

50

55

5

 甚

!0

 l    l    l    l    l    l

lL 5  20  25  30  35  40

   Retention tirne〈min)

 墾

45

 塞

50

55

Figure 1-7 Ge1-filtration HPLC 6f purified CELIII

oligomer.

  The fractions obtained from ge!filtration(Figure1-6)

were analyzed by ge1-filtratio且 HPLC’(Superose

12HR 10/30,φ1x30c皿), respectively. Pane1(A), Fraction

5;Pane1(B), Fraction.6

19

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oN⑩日当あ

訟ぐ

0.3

0。2

0.1

十Mo礁。鵬r一〇一〇賎霧◎mer

0。0

0。0 0ユ 0.2  0。3

     m塞/:m.1

0.4 0。5 0。6

Figure 1-8 Carbohydrate-binding activity of CELIII

oligom.er an.d皿onomer.

CEL-III oligomer or monomer in TBS containing 10 mM

CaC12 was incubated at 4℃in the lactose-coated microplate

wells and wells were washed with the same buffer, then

bound protein were measured with the咀colloidal go!d

solution.

20

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第5節 考察

本章では、溶血性レクチンCEL-IIIが水溶液中でラクトースなどの糖と結合す

ることによって形成するオリゴマーの特徴に重点をおいて論じた。まず、このオ

リゴマーは中性pHよりもアルカリpHで誘起されることが再確認された(Figure

1-1)。また、10℃付近がCEL-IIIが最大の溶血活性を発現する至適温度である

が、これ,とは対照的に水溶液中で形成されるオリゴマーは高温(35℃)でもっと

もオリゴマーが形成されることが明らかとなった。これは高温での分子の運動性

の高さによるものだと考えられる。また、蛍光スペクトル測定の結果(Figure 1-2)、

オリゴマー化に際しトリプトファン残基の蛍光強度の増加および最大蛍光波長の

ブルーシフトが観察され、CEL-IIIがオリゴマー化することによりトリプトファン

残基の周りの環境が変化するこ、とが明らかとなった。SallayらはCEHIIの糖認識

機構二に糖認識部位のトリプトファン残基が関与していることを明らかにしている

(ユ2)。蛍光スペクトル測定で観察され,た最大蛍光波長のブルーシフトおよび蛍光強

度の増加はこの糖認識部位に存在するトリプトファン残基によるものである可能

性が高い。

 次にSDS-PAGE上でのCEL-IIIオリゴマーの会合数を他の手法によって形成さ

せたオリゴマーと比較することによって推定した。TNMおよびSDSで形成させ

たオリゴマーがシャープなバンドを示すのとは対象的にこのオリゴマーはブロー

ドなバンドを呈し(Figure 1-3)、おおよそ6~7量体の中間に位置することが明

らかとなった。これは、このオリゴマーの形態が他の手法で形成させたオリゴマ

ーとは若干異なっていることを示唆している。さらにこのオリゴマーの電子顕微

鏡観察を行った。以前の超遠心分析およびゲルろ過HPLCの結果より、この水溶

液中で形成されるCEHIIオリゴマーはSDS-PAGE上で観察される分子量(270 kDa

よりも遙かに大きい分子量を有することが示唆されている(23)。今回の観察で、100

21

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~300A程度の大きさの粒子を多数確認することができた(Figure l-5)。これ

までにα一トキシンあるいはストレプトリジンなどはリング状に会合し、オリゴマ

ーを形成していることが報告されているが(29響30)、CELIIIオリゴマーに関してはこ

の様なリング状分子は観察されなかった。このCELIIIオリゴマーの形状につい

ては、第3章でさらに詳しく述べる。

 赤血球凝集活性および糖結合活性を測定することにより、オリゴマーのレクチ

ン活性の評価を行ったところ、このオリゴマーはCEHIIモノマーよりも高い赤

血球凝集活性を有することが明らかとなった。これは会合することによって1分

尋当たりの糖結合部位が増加したためであると考えられる。しかしながら、ラク

トースを固定化したマイクロプレートを用いた糖結合活性測定では、このオリゴ

マーの濃度依存的な糖結合活性の増加は観察されなかった(Figure 1-8)。原因は

分からないが、おそらくタンパクの検出のために用いる金コロイドとオリゴマー

間の結合が何らかの要因により阻害されているためだと考えられた。

 CEL田が特異的な糖と結合することにより、その溶血活性は失われる(論文未

発表)。しかしながら、会合することによって、糖との高い結合価を獲得するこ

とが明らかとなった。この無毒化されたオリゴマーは新規な糖脂質、糖タンパク

の検索など、駅戸工学の分野などで材料として用いることができると思われる。

今後より詳細なCEL-IIIオリゴマーのキャラクタリゼーションが必要である。

22

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第6節小括

1.CELIIIが糖と結合することによってオリゴマーを形成する際、タンパクの構

  造変化を伴うことが示唆された。

2.ラクトースで誘起したCEL-IIIオリゴマーの会合数をSDS-PAGE上で推定し

  たところ、ほぼ6-7量体であることが推察された。しかしながら、このオリ

  ゴマーはTNMあるいはSDSなどで形成されるオリゴマーとは異なった形状

  をとっていることが考えられた。

3.CEHIIオリゴマーの形状を電:子顕微鏡で観察したところ、 CEHIIオリゴマー

 と思われる100~300A程度の大きさの粒子を多数観察した。

4.CEL-IIIオリゴマーはCELIIIモノマーと比較して高い赤血球凝集活性を有し

  ていることを明らかにした。

23

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第2章

CEL-IIIの化学修飾

第1節 緒言

 CELIIIによる溶血活性はアルカリpH領域、特にpH 9以上で急激に上昇する(6)。

一方、糖結合活性は酸性pH領域で上昇する(26)。この様なCELIIIのpH依存的な

挙動にはイオン化する側鎖を有するアミノ酸残基が関与していることが容易に推

察することができる。本章では、CEL-III内のアミノ基およびカルボキシル基に注

目し、それらの化学修飾を行い、CELIIIの溶血反応におけるアミノ基およびカル

ボキシル基の重要性について論じた。

第2節 実験材料

無水コハク酸は和光純薬工業株式会社より購入した。1一エチル3(3一ジメチルア

ミノプロピル)カルボジイミド(EDC)は渡辺化学工業株式会社より購入した。そ

の他の試薬はすべて特級を用いた。

24

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第3節 実験方法

第1項 CELIIIのアミノ基の化学修飾

(1)CEHIIのアミノ基のスクシニル化

 0.5M炭酸緩衝液に対し透析したCEHII(0.4 mg/ml)溶液に終濃度で5~100

皿Mになるように無水コハク酸/DMF溶液を加え(2.5%(v/v))、20℃で30分間

インキュベート後、4℃でTBSに対し透析することによってスクシニル化CEL-III

を調製した。

(2)質量分析

 質量スペクトルはマトリックス支援イオン化一飛行時間璽(皿atrix-assisted laser

desorPtion ionization time-o卦flight:MALDITOF)質量分析計(Voyager, PerSeptive

Biosystems)を用いて測定した。牛血清アルブミンを標準タンパク質として用い、

シナピン酸をマトリックスとして使用した。

(3)アミノ酸分析

 4一ビニルピリジンおよびトリーπブチルポスフィンでS一ピリジルエチル化(31)した

サンプルを6N塩酸で24時間加水分解後(3・)、 JEOL JLC-300アミノ酸分析計で分

析した。また、トリプトファンは分光学的手法により測定した㈹。

(4)溶血活性測定

 CEHIIによる溶血活性測定はウサギ赤血球からのヘモグロビンの遊離を540

nmの吸光度を測定することにより評価した。 CEHIIあるいは修飾したCEL-IIIの

TBS-10 mM塩化カルシウム溶液(100μ1)と同量のウサギ赤血球懸濁溶液(5%

25

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(v/v))とを混合後室温で静置し、遠心分離iで溶血しなかった赤血球を沈殿させた

後、上澄のヘモグロビンの540nmの吸光度を測定して溶血活性とした。

(5)赤血球凝集活性測定

CEL-IIIおよび修飾したCEHIIを用い第1章3節2項(4)に示した方法によ

り行った。

(6)糖結合活性測定

CEHIIおよび修飾したCEHIIを用い第1章3節2項(5)に示した方法によ

り行った。

(7)イムノブロッテイング

 イムノブロティングは以前報告された手法に基づいて行った(7)。11n1のエッペ

ンドルフチューブを用いて、10mM塩化カルシウムおよび0.15 M塩化ナトリウ

ムを含む10皿MTris-HCl(pH 8.5)緩衝液中で、ウサギ赤血球(5%(v/v))とCEL-III

あるいは修飾したCEL-III(12μ9/ml)を20℃で15分間反応させた後、10,000rpm

で1分間遠心分離した。得られた赤血球膜沈殿物を10mM Tris一:HC1緩衝液(pB:

8.0)で2回洗浄してヘモグロビンを洗い流し、0.1Mラクトースを含む同緩衝液、

10皿MEDTAを含む同緩衝液の順で赤血球膜を洗浄した。 SDS-PAGE試料用緩衝

液(2%SDS,20%glycero1,0.002%プロモフェノールブルーを含む0.125 M Tris-

HCl緩衝液(pH 6.8))を加えて膜を可溶化し、3~8%のグラジェントゲルある

いは5%ゲルを用いてSDS-PAGEを行った。泳動後、ゲルを転写用緩衝液(25mM

Tris,192 mMグリシン,0.!%SDS)に30分間浸した後、ポリビニリデンジフル

オライド膜に10Vで1時間転写後、5%スキムミルクおよび0.1%Tween 20を

含むPBSで40分間ブロッキングした。洗浄用緩衝液(0.5%スキムミルク,0.1%

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Tween 20を含むPBS)で2000倍に希釈したウサギ抗CEHII抗血清を加えて45

分間反応させ、洗浄用緩衝1液で膜を3回洗浄した。洗浄用緩衝二液で4000倍に希

釈した二次抗体(HRP-goat-anti-rabbit IgG)を30分間反応させた後に膜をよく洗

浄し、0.08%3-3’一ジアミノベンジジン四塩酸塩(基質)、0。06%イミダゾール、

0.05%過酸化水素を含む20mMリン酸緩衝液(pH 8.0)を加え二次抗体を発色

させた。

(8)円偏光二色性(CD)スペクトルの測定

 CEL-IIIおよび修飾したCEHIIのCDスペクトル測定はJASCO J-720型円二色

性分散計により測定した。タンパク質溶液を光路長しO mmの石英セルに入れ、

温度20℃でスペクトル雨蓋200~250nmにおいて測定した。

第2項 CELIIIのカルボキシル基の化学修飾

(1)グリシンメチルエステルの合成

 100ml丸底フラスコ中のメタノール(100 m1)に一10℃で撹拝しながら塩化チ

オニル(17.3皿1)を一滴ずつ加え、塩化カルシウム管を取り付け10分間放置し

た後グリシン(59)を溶液に加え室温で一晩放置した。翌日反応の進行をTLC

で確認し、溶液を蒸発濃縮し残留分を石油エーテルで結晶化した。生成した結晶

をろ過して集め石油エーテルで2回洗浄し真空デシルーターで30分乾燥させて

結晶を得た。 (収量17.6g,収率:91%)

(2)CEL-IIIのカルボキシル基のグリシンメチルエステル化(34)

 1Mグリシンメチルエステルを含む20 mM PBS(pH 5.8)のCEL-III溶液(0.5

mg/m!)に終濃度で5~40 mMになるようにEDCを加え、25℃で1時間インキュ

27

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ベート後、4℃でTBSに対し透析することによってカルボキシル基の修飾を行っ

た。

(3)質量分析

 質量分析は第3節1項(2)に従い行った。

(4)溶血活性測定

 溶血活性測定は第3節1項(4)に従い行った。

(5)赤血球凝集活性測定

 赤血球凝集活性は第3節1項(5)に従い行った。

(6)糖結合活性測定

 糖結合活性は第3節1項(6)に従い行った。

(7)イムノブロッテイング

 イムノブロッティングは第3節1項(7)に従い行った。

(8)円偏光二色性(CD)スペクトルの測定

 CDスペクトル測定は第3節1項(8)に従い行った。

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第4節 実験結果

第1項 スクシニル化によるCEHIIの活性への影響

 Figure 2-1にCELIIIによる溶血活性とCEHIIに導入されたスクシニル基の修

飾個数の相関を示した。導入されたスクシニル基の個数はMALDI-TOF質量分析

計を用い、スクシニル基が導入されることによる質量増加を測定することにより

決定した。溶血活性は無水コハク酸の濃度増加に伴い減少し、20mMの試薬濃度

で溶血活性は23%程度まで減少した。この際、1タンパク分子当たり平均して7

個のアミノ基にスクシニル基が導入されていることが明らかとなった。さらに試

薬濃度100mMでは約13.8個のアミノ基が修飾を受けていた。この修飾された

アミノ基の個数はアミノ酸分析より算出した(Table 1)、N末端アミノi基を含め

た総アミノ基の65%に相当することが判明した。

CELIIIによる溶血活性はCEHIIが赤血球膜表面上のガラクトースあるいはN一ア

セチルガラクトサミンを含んだ糖鎖レセプターと結合後、膜貫通ボアを赤血球膜

中に形成することによって発現することが明らかとなっている。CEL-IIIのアミノ

基のスクシニル化による溶血活性の低下がCEHIIの糖結合能の低下によるもの

であるかどうか検:目するため、修飾したCEHIIの赤血球凝集活性測定を行った。

その結果、Figure 2-2に示すように試i薬濃度が100皿Mに達してもCEL-IIIの赤

血球凝集活性は高く保持されていた。この結果より、Figure 2-1で示した溶血活

性の劇的な減少はCEHIIの糖結合活性の低下によるものではないことが示唆さ

れた。さらに、ラクトースを固定化したマイク『ロタイタープレートを用い修飾し

たCEL-IIIの糖結合能を評価した。 Figure 2-3に示したように無水コハク酸の濃度

が100mMにおいても糖結合活性は80%程度保持されていた。以上の赤血球凝

集活性測定およびラクトースを固定化したマイクロタイタープレートアッセイの

29

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結果より、CEHIIのアミノ基のスクシニル化による溶血活性の著しい低下は

CEL-IIIの糖結合活性の変化によるものではないことが明らかとなった。

 上記の実験で、CELIIIのアミノ基のスクシニル化による溶血活性の低下は

CELIIIの糖結合活性の低下によるものではないことが明らかとなった。 CEL-III

による溶血活性の低下の原因としてCEHIIの糖鎖レセプター結合後のオリゴマ

ー形成能力の低下が考えられる。そこで、次に修飾したCELIIIの赤血球膜中で

のオリゴマー形成能をイムノブ『ロッティングで評価した(Figure 2-4)。その結果、

未修飾のCEL-IIIで処理したウサギ赤血球膜からはCEHIIオリゴマーに相当する

270kDaの分子量のバンドが検出されたのに対し、無水コハク酸の濃度増加に伴

いCEレIIIオリゴマーのバンドの減少が観察された。この結果は、アミノ基の修

飾によるCEHIIの不活性化はCEHIIが細胞膜中で不可逆的に結合し形成するオ

リゴマーの形成能力の低下によるものであることを示している。

 次にCELIIIのアミノ基の化学修飾がタンパクの二次構造に与える影響を検討

するため、CDスペクトル測定を行った。 Figure 2-5に未修飾および100 mMの無

水コハク酸で修飾したCEL-IIIのCDスペクトルを示している。CDスペクトル測

定の結果、CEHIIのアミノ基の化学修:飾はタンパクの二次構造にほとんど影響を

与えないことが明らかとなった。CEL-IIIのアミノ基の修飾による溶血活性の低下

はタンパク質構造の部分的な崩壊によるものではなく修飾された特定のアミノ酸

残基によるものであることがこの測定により確認された。

30

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100

80

鳶 60:叢

Q 40量

幽20

00 20   40   60   80

Succinic anhydride【mM1

100

15

    の

10費    £

   増

   ,露

    8

5瀦   遷

   髭

0

φ

郊①

o唱。』細。凶

Figure 2-1 The number of succinyl groupS introduced in

the modified CEL-III and thgir he皿olytic activity as a

functio且of the concentration Qf succi尊ic a:nhydride。

1CE:レIII wa§dialyzed against TBS afte飴modification with

indicated concentration of succinic anhydride, and used for

the hemolysis assay and MALDI-TOF mass spectrometry.

The measure皿ellts of mass spectrometry Were done in

duplicate.

31

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Table l Amino acid composition of CEL-III.

Cysteine was measu.red as S-pyridylethylcysteine.

Tryptop:han was 皿さasured spectrophotometrically. The

numbers in the parentheses i:ndicated the nearest iRteger.

Ami豆。 acid Residues/mol of protein.

AspGlu

Ser

Gly

His

ArgThrAla

Pro

TyrVal

MetCysIle

LeuPhe

TrpLys

563(56)

55.8(56)

47。0(47)

68.6(69)

3.5 (4)

21.4(21)

17.3(=L7)

2α6(21)

20。7(21)

11。2(!1)

16。8(17>

6β (7)

13.9(14)

15.8(16)

2L4(21)

16.9(17)

9ユ (9)

20。0(20)

Tota1 442

32

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3

 』①

。:誠

》魅

。:賃

踏り

.冨

飼穏嶋

109

108

107

106

105

104

103

102

10

 00 20   40   60   80   100

Succinic anhydride imM】

:Figure 22  Hemagglutinati:ng ac七ivity of the modified

CE:レIII。

Serial two-fold 「dilutions Of modified CE:L-III (initial

concentration;50μg/ml)in TBS-10『皿M CaC12 were mixed

with an equal volume of 5%(v/v)suspension of rabbit

erythrocyte in the sa皿e buffer containing 60皿M dextran 4,

and agglutin.atiQn was examined visually afteτ1h.

33

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()あ

。溜

。藏

省鰹⇔鴎

りゃ 

唱り く

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①細』下市謡。

轡師

9

100

80

60

40

20

00 20   40   60   80  100

   Succinic anhydride【mM1

120

Figure 2-3 Carbohydrate-bindin.g activity of the modified

CEL{II皿easu.red by the microplate assay.

CEL-III(40μg/ml)in TBS containing 10 mM CaC12 was

incubated at 4℃in the lactose-coated Inicroplate wells and

washed with the sa皿e buffer, then bound protein was

measured with the colloidal gold solution。 The absorbance

value at 620 nm for ullmodified CE:L-III was taken as lOO%。

Bars repr6sent the meaRs±SD of three measurements.

34

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Succinic a曲ydride lmM】

  0  5 1020304050!00蜘 一醐「、㍉

Olig・mer圏齢.難、(270kDa)

Monomerφ萎(47。5kDa)

難羅灘…

Figure 2-4 1m皿ulloblotting Of the modified CE:L-III.

Rabbit erythrocytes were treated with CE:L-III or CE:L-III

modified with the indicated co:ncentration of succinic

anhydride. After washing, the皿embranes were solubilized

with the sample buffer fOr SDS-PAGE and used for SDS-

PAGE(3-8%gradiellt ge1)and i皿皿unQblotting. Detection

was done using rabbit anti-CELIII antibody andperOxidase℃On.jugated goat anti-rabbit IgG. The protein

was皿ade visib!e 3β’一dia皿inobenzidine tetrahydrochloride

as a substrate for peroxidase,

35

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    .2

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穏嶋一2

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 i 叉置

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      200   210   220   230   240   250

                   Wavelen竃th【nml

Figure 2-5 C。mparis。n。f CD sbectra。f CEL-III and the

modified CEL-III。

:FarUV.CD『pectra of CE:L-III(solid line)and CE:L-III

modified with O.I M succinic anhydride(broken line)were

m.easu.red after dialysis against TBS。

36

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第2項 グリシンメチルエステル化によるCEHIIの活性への影響

 Figure 2-6にCEHIIによる溶血活性とカルボキシル基に導入された修飾基の個

数の相関を示した。修飾基の個数はMALDI-TOF質量分析計を用い、グリシンメ

チルエステルの導入による質量増加を測定することにより決定した。その結果、

EDC濃度の増加に伴う溶血活性の著しい低下が観察され、30 mMの試薬濃度では

溶血活性は10%程度まで低下した。この時、約34個日カルボキシル基が修飾を

受けていた。この結果は、CEHIIのカルボキシル基もアミノ基の修飾と同様に

CEHIIによる溶血活性の発現には重要であることを示している。次に修飾した

CEHIIの赤血球森中でのオリゴマー形成能の変化を調べるために・イムノブロえ

イングを行った(Figure 2-7)。その結果、 EDC濃度増加に伴うCEL-III:オリゴマ

ー(270kDa)の減少が観察された。これは、カルボキシル基の修飾が脂質必中

でのCEHIIのオリゴマー化を阻害していることを示している。このCEレIIIオリ

ゴマーの減少がCELIIIの赤血球膜上の糖鎖との結合能の低下によるものである

かを確認するため、修飾したCEL-IIIの赤血球凝集活性を浸透圧保護剤であるデ

キストラン4存在下で行った(Figure 2-8)。その結果、溶血活性の結果と同様

に赤血球凝集活性の低下が見られ、CEL-IIIのカルボキシル基の修飾による不活性

化はCEHIIの糖結合部位あるいは、その近辺のカルボキシル基が修飾をうけた

ことによるものだと考えられた。一方、修飾したCEL-IIIの糖結合活性をラクト

ースを固定化したマイクロタイタープレートを用いて評価した(Figure 2-9)。そ

の結果、先ほどの赤血球凝集活性測定の結果とは異なり、試薬濃度40mMで修飾

した時点でも50%程度の糖結合活性が保持されていた。2カ所ある糖結合部位の

内、1カ所の糖結合部位は修飾後でも糖結合活性を有しているためだと考えられ,

る。また、カルボキシル基の修飾がタンパク質の構造に与える影響を検討するた

めにCDスペクトルを測定した。その結果、カルボキシル基が修飾されることに

37

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よって、わずかにタンパク質の二次構造が変化することが明らかとなった(Figure

2-10)。

38

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100申

    80

x馨60鷺

。鼠 40携眉

墓20

00 10   20   30

EDC[mM】

40

40

30φ     馨

     豊

20轡    §

    竃

     繧

10鯛     『

    彦

0

Figure 2-6  ’The nu:mber of modified carboxyl groups and

their he皿olytic activity as a functio且of the concentration o:f

EDC.

CE:L-III was dialyzed against TBS after modification r 翌奄狽

indicated concentration. of EDC and used for the hemolysis

assay and MALDI-TOF mass spectrometry. Themeasureme員ts of皿ass spectrometry were done in duplicate.

39

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0EDC[mMi5 10 20 30 40

Oligomer

(270kDa)

Monomer一灘夢(47.5kDa)

Figure 2-7 1皿皿unob1Qtting of the皿odified CEレIII.

Rabbit erythrocytes were treated with CE:し一III or CEL-III

modified with the indicated concentration of EDC. After

washing, the membranes were solubilized with the sample

buffer for SDS-PAGE and used for SDS-PAGE(5%gel)and

i皿munob!otting. Detection was done using rabbit anti-CE:L-

III antibody and peroxidase℃onlugated goat anti-rabbit IgG,

The protein was made visible 3,3’・dia皿inobenzidine

tetrahydrochloride as a substrate for peroxidase.

40

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00 10    20

EDC lmM1

30 40

Figure 2-8  He皿agglutinating activity of the modified

CE:L-III。

Serial two-fold dilutions of modified CELIII(initial

concentration;50μg/ml)in TBS-10 mM CaC12 were mi:xed

with an equal volume of 5%(v/v)suspension of rabbit

erythrocyte in the same buffer containing 60 mM dextran 4,

and ag91utination was exa皿ined visually after lh。

41

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100

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00 10 20 30 40

EDC【mM1

Figure 2-9 Carbohydrate-binding activity of the modified

CELIII measu∫ed by the microp!ate assay.

CEHII(40μg/mユ)in TBS cont群ining 10 mM CaCI2 was

incubated at 4℃in the lactose℃oated microplate wells and

washed with the same buffer, the豊bound protein was

皿easured with the coUoidal gold solution. The absorbance

value at 620皿1 for unmodified、 CELIII was taken as 100%,

Bars represent the means±SD of three measurelnents.

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200 210 220 230 240 250

Wavelen墓th【nml

Figure 2-10 Comparison of CD spectra of CEL-III and the

皿odified CEL-III.

Far-UV CD spectra of CELIII(solid line)and CE:L-III

modified with 40 mM EDC(broken line)were measured

after dialysis against TBS.

43

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第5節 考察

 多くの細菌由来の小孔形成細菌毒素(pore-f・rming bacterial toxin)が至適pH

を酸性pH領域に有するのに対し(19・35喝36)、CEHIIによる溶血活性はアルカリp:H

領域、特にpH 9以上で劇的に上昇する。CELIIIのアルカリpH依存的な挙動に

はこのpH領域に解離基を有するアミノ酸残基がCEHIIの活性に影響を与えてい

ることが考えられことから、CEL-IIIのアミノ基を無水コハク酸で化学修飾するこ

とにより、これらの化学修飾がCEHIIの活性に与える影響を検討した。

その結果、Figure 2-1に示したようにアミノ基のスクシニル化は顕著な溶血活性

の低下を引き起こし・CELIIIのアミノ基は溶血活性に重要であることが明らかζ

なった。しかしながら、ラクトースを固定化したマイクロプレートアッセイの結

果、CEL-IIIの総アミノ基の65%以上のアミノ基が修飾された時点でも、糖結合

活性はわずか20%程度しか低下.しておらず(Figure 2-3)、CEHIIの糖結合能

は高く保持されていることが明らかとなった。このアッセイはレクチンの糖結合

部位が一つでも活性である:場合、その糖結合活性は高く評価されるが、赤血球凝

集活性測定においても100mMの無水コハク酸で修飾されたCEHIIの活性は高

く保持されていた(Figure 2-2)。これらの結果より、CEHIIの細胞膜表面上の

急心との結合は、溶血活性発現において重要なステップであるが、標的細胞膜表

面上の糖鎖との結合だけではCEHIIが脂質膜と相互作用するためには十分では

ないことが示唆された。

CEHIIのアミノ基のスクシニル化がCEL-IIIの糖結合能に影響をほとんど与えな

いという事実とは対照的にCEL-IIIの赤血球雪中でのオリゴマー形成能には多大

な影響を与えていることが明らかとなった(Figure 2-4)。これは、 CEHIIによ

る細胞溶解性と細胞膜中でのCEレIIIのオリゴマー形成能が密接な関係であるこ

とを示している。このCEHIIのオリゴマー形成能の低下は、スクシニル基が

44

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CEL-III間で接触する部位あるいはその近傍≡に導;入されたため、 CEL-IIIがオリゴ

マーを形成する際、タンパク間の相互作用が阻害されるためだと考えられる。あ

るいは、幾つかのタンパク質でスクシニル化によってアミノ基に導入された負電

荷間の反発によってタンパク質の溶解性が上昇したという報告があることから(37辱

39)、CEL-IIIのオリゴマー化はスクシニル化による負電荷の導入によって阻害され

ているのかもしれない。これまでの報告で、CEHIIの糖との親和性と溶血活性に

は良い相関関係があることが報告されている(7・26)。例えば、CEHIIと非常に強く

結合するN一アセチルガラクトサミンおよびラクトースはCELIIIによる溶血活性

に対し、もっとも効果的な阻害剤である。これはCEL-IIIによる溶血活性はCELIII

の標的細胞膜表面上の煮魚レセプターとの結合が非常に重要であることを示して

いる。CEL-IIIの糖結合活性は酸性pH領域でもっとも高い活性を示すことより、

糖結合活性に比例してCEL-IIIによる溶血活性も酸性pH領域で上昇してもよさそ

うだが、実際はCELIIIによる溶血活性はアルカリpH領域で劇的に上昇する。お

そらくCELIIIの標的細胞膜表面上の糖鎖レセプターとの結合は非常に重要では

あるが、その後の細胞溶解過程は脂質膜との相互作用を誘導するタンパク質の三

次・四次構造変化に大きく依存しているのであろう。糖結合活性は低下させず、

溶血活性のみを低下させるCELIIIのスクシニル化は上記の考えを強く指示する

ものだと考えられる。

 さらに、アミノ基とは逆の電荷を有するカルボキシル基の化学修飾をEDCおよ

びグリシンメチルエステルを用いて行った。その結果、EDCの試薬濃度増加に伴

う顕著な溶血活性の低下が観察された(Figure 2-6)。赤血球凝集活性(Figure 2-8)

においても同様な傾向が見られ,、CEL-III内のカルボキシル基は赤血球膜上の糖鎖

との相互作用に重要な役割を担っていることが明らかとなった。しかしながら、

修飾したCEHIIの糖結合能を評価するためラクトースをコートしたマイクロブ

ーレートで糖結合活性を測定したところ(Figure 2-9)、溶血活性が10%程度まで

45

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に低下する40皿MEDC濃度で修飾後も50%程度の活性を有していた。この結果

は、CEHIIのオリゴマー化においては2カ所の糖結合部位での糖鎖との結合が重

要なステップであることを示しており、1カ所の糖結合部位での糖鎖との結合で

はオリゴマー化は誘導されないことを示唆している。また、CELIIIのタンパク表

面に導;入されたグリシンメチルエステルがタンパク間の相互作用を妨げ、CELIII

のオリゴマー化の進行を阻害している可能性もあると考えられる。

 今回の化学修飾でくCEHIIのアミノ基およびカルボキシル基のCEL-IIIの溶血

活性における重要性が明らかとなった。

 さらなるアミノ酸レベルでのCELIIIの作用機構の解明のためには、 CELIIIの

全アミノ酸酉己列決定後の遺伝子レベルでの検討が必要である・つまり・ポイント

ミューテーションによる!残基あるいは数残基のアミノ酸を置換した変異体タン

パクの構築によって、より詳細な構造・相関に関する情報が得られることが期待

される。今後、CEHIIの遺伝子レベルでの研究を展開したい。

46

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第6節 小括

1.CEHIIのアミノ基を無水コハク酸で化学修飾することにより、溶血活性は著

  しく低下することを明らかとした。

2.CEL-III内の全アミノ基の65%以上がスクシニル化を受けても、 CEHIIの糖

  結合活性はほとんど低下しないことが確認された。

3.スクシニル化による溶血活性の低下はCEL-IIIの脂質膜中でのオ1」ゴマー形成

  能の低下によるものであることを明らかとした。

4。CELIIIのカルボキシル基を耳DCおよびグリシンメチルエステルで修飾する

  ことによりCEL-IIIの溶血活性は顕著に低下することを明らかとした。

5.このカルボキシル基の修飾による溶血活性の低下はCEレIIIの糖結合能の低下

  によるものであることを確認した。

6.CEHIIのオリゴマー化には2カ所の糖結合部位と恵贈との結合が必要である

  ことを明らかにした。

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第3章

X線小角散乱測定によるCEHIIオリゴマー構造の解析

第1節 緒言

前章では、CEHIIの溶血活性発現におけるアミノ基およびカルボキシル基の重

要性について述べた。CELIIIが溶血活性あるいは細胞傷害性を示すメカニズムを

理解するためには、CELIIIの形・大きさなどの立体構造に関する知見が必要だと

考えられる。本章では、CEHIIモノマーおよびCELIIIオリゴマーの大きさおよ

び分子形状に関するパラメーターを得ることを目的としてX線小角散乱(s皿a11-

angle X-ray scattering)測定を行った。小角散乱とは単色X線、中性子線の散乱

のうち、散乱角の小さいもの(23Q以内)を指し、角度が小さい散乱ほど長周期

の繰り返し構造を反映しており、散乱体内部の長周期構造のほか、散乱体自体の

形や大きさに関する情報も含まれる。特にX線小角散乱を用いることにより溶液

中の球状タンパク質の回転半径について、モデル仮定なしに解析できるほか、モ

デルの理論散乱強度との比較から、その形についてかなり詳しく推定することが

できる。この章では、CELIIIモノマーおよびオリゴマーのそれぞれの分子パラメ

ーターを求め、CEHIIモノマーおよびCELIIIオリゴマーの構造解析を行った。

また、CEHIIがオリゴマーを形成する際の糖特異性に関する検討も併せて行った。

第2節 実験材料

2,5一ジヒドロキシベンゼン酸(DHB)はAldrich Che皿ical社よりそれぞれ購入

48

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した。その他の試薬はすべて特級を用いた。

第3節 実験方法

:第1項X線小角散乱測定による構造解析

(1)CEL-IIIオリゴマーの調製

CEHIIオリゴマーの調製は第1章3節1項(6-1)に示した方法で調整した。

また、残存しているCEHIIモノマーはSephacryl S-300カラム(φ2x40 c皿)で

ゲル濾過することにより除去した。

(2)質量分析

質量スペクトルは第2章3節1項(2)の手法により測定した。牛血清アルブ

ミンを標準タンパク質として用い、2,5一ジヒドロキシベンゼン酸(DHB)をマト

リックスとして使用した。

(3)X線小角散乱測定

X線小角散乱測定は筑波高エネルギー物理学研究所pFBL.10Cで、2種のカメ

ラ長(80,200c皿)を用いて行った(40)。測定波長はL488Aで、粒子間の干渉を

除去するために5サンプル(1.4-14mg/ml)のタンパク溶液を測定した。

(4)各分子パラメーターの決定

 距離分布関数(P(r))は間接変換プログラムパッケージGNOMを用いて計算し

た(41)。P(r)関数が最初に0となる点を分子の最大長Dmax(maxi皿un dimension)

とした。分子の回転半径(R(9))は散乱角の関数であるS2に対して1n(1(S))をプロ

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、\

ットしたギニエプロットにより求めた(42)。ここで、S認2sinθ/λであり2θは散乱

角、1(S)はSにおける散乱強度である。R(9)を求める上でのフィッティング領域は

cEHIIモノマーおよびオリゴマーで、それぞれ20 x 1σ6 A’2〈s2〈200 x 1σ6 A

噛2

A1x1σ6 A-2〈s2〈lox1σ6 A匿2の範囲を用いた。断面方向Rcはs2に対して

In[1(S)・Slをプロットした断面プーロットにより求めた(43)。

第2項 CEL-IIIオリゴマー形成における糖選択性の解析

 1M塩化ナトリウム、10皿M塩化カルシウム、およびCEL-III(1.2 mg/皿1)を

含む20エnMグリシンーNaOH緩衝液(pH 10)中で各種糖溶液を終濃度で10 mM

になるように加え、ただちに小角散乱を測定した。

第4節 実験結果

第1項 CEHIIモノマーおよびオリゴマーの構造解析

(1)C耳LIIIモノマーの分子量の決定

 CEHIIオリゴマーとCE:L-IIIモノマーを比較するためには、 CE:L-IIIモノマーの

正確な分子量の決定が必要である。そこで、MALDI-TOF質量分析計によりCEHII

モノマーの分子量を決定した。Figure 3-1にその結果を示した。 CEL-IIIモノマー

由来の3種の分子イオンピークが得られた(M+,M2+, M3+)。1価分子イオンピー

クよりCEHIIモノマーの分子量は47900 Daと決定することができた。また、2

量体と思われるピーク(m/z:95213.1)も併せて観察された。

50

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(2)CEL-IIIモノマーおよびオリゴマーの最大長の決定

 Figure 3-2に粒子内の2点問距離分布をあらわす動径分布関数(P(r)関数)を

示した。このP(r)関数は散乱曲線のフーリエ変i換で得ることができる。たとえば

半径Rの球のようなものだとRにピークを持ち最大長2Rの釣り鐘型の分布とな

る。P(r)関数が最初に0となる点を分子の最大長Dmax(皿axi皿un dimension)

となり、cELIIIモノマーおよびオリゴマーのDmaxはそれぞれ75A、2gQAと決

定した。

(3)回転半径(Rg)、断面の回転半径(Rc)およびオリゴマーの分子量の決定

Figure 3-3に横軸を散乱角の関数S2、縦軸に散乱強度の対数でとった王入エプ

ロットを示した。直線領域の傾きから分子の回転半径R暮を求めることができる。

フィツティングはcELIIIモノマーおよびオリゴマーでそれぞれ20xlσ6A’2〈s2〈

200x1σ6A’2、1xlo’6A’2〈s2〈10 x 1σ6A”2の範囲で行った。 cEL-IIIモノマー

においては小角領域(20x1σ6A’2〈s2)にアグリゲーションに特有の散乱が観察

されたものの、それぞれの回転半径はCEL-IIIモノマーおよびオリゴマーで24.6

A,101.4Aと決定することができた。また、ギニエプロットのy切片から分子量

に比例する原点散乱強度1(0)/Cを得ることができる。その結果、CEHIIモノマー

およびオリゴマーでそれ,それ1340、28760という値を得ることができた。先ほ

どのMALDI-TOF質量分析よりCELIIIモノマーの分子量が47.5 kDaと決定でき

たので、CEHIIオリゴマーの分子量を計算すると’

28760/1340x47.5 kDa=101g kDaという値をえることができた。

51

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 一方、Figure 3-4は横軸にS2、縦軸に散乱強度とSの積の対数でとった断面プ

ロットであり断面の回転半径Rcを得ることができる。モノマーおよびオリゴマー

のRcはそれぞれ15.1A,66.5Aの値が得られた。また、単位長さの質量に比例す

るパラメーターである断面の原点散乱強度Ic(0)/Cを求めたところ、モノマーおよ

びオリゴマーでそれぞれ,10.5,57。4であり、断面の密度に約6倍程度の差があっ

た。

(4)CEL-IIIモノマーおよびオリゴマーの分子形状の評価

 CEL-IIIモノマーおよびオリゴマーの寸法を推定するために最も単純なモデルを

構築し、比較した。モデルは以下の楕円体および円柱モデルを使用した。

cEHIIモノマー1楕円体モデル(短x長軸 22x38A)

        円柱モデル(半径x高さ 20x75A)

cEL-IIIオリゴマー 楕円体モデル(短x長軸 96 x 145A)

         円柱モデル(半径x高さ 88x281A)

CEL-IIIモノマーおよびオリゴマーをそれぞれのモデルと比較した結果をFigure

3-5に示した。フィツティング領域はモノマーおよびオリゴマーそれぞれ。。016A

-1 qs、o.oo4A’1〈sを用いた。その結果、今回使用したフィッティング領域では

楕円体モデルおよび円柱モデルでは、どちらのモデルが最適かどうか識別しにく

いことが明らかとなった。しかしながら、フィッティング領域を越えた高角領域

では楕円体モデルよりも円柱モデルの方がよりCEレIIIの形状に近いことが示唆

された。よって、cELIIIモノマーは円柱(半径x高さ120 x 75A)として次の

オリゴマーのモデル構築を行った。

52

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(5)CEL-IIIオリゴマーのモデル構築

第4項より得られたcEL-IIIモノマーの寸法(半径x高さ:20 x 75A)をも

とにオリゴマーのモデルを構築したのがFigure 3-6(A)である。各CEHIIモノマ

ーを六角形上の各頂点に配置し、その6量体ユニットが4つ、縦方向に積み重な

ったモデルを構築し、実験値と比較したのがFigure 3-6(B)である。

53

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100

。幸譲

嶺50弩

o

M3+

158242

M2+

237372

  M+

47486。4

    十

 2M95213。1

2000⑪ 30000 40000   50000  60000  70000

Mass(:m/箔)

80000 90◎OO /

:Fi墓搬e 3-1 MALD}TOF鵬窺ss spectro憩etry◎f CEL{H。

Deter磁簸ed盆號r癒x藤墓翫egprotei∬w曲D憂{B禽s a腿説τ重x.

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(A>

 島

      .鵬

    ㊧

    醗

Dmax↓・

0 20  40  むr(A)

60 80

(B)

 ご島

’      翻

      馨

    ♂

   ♂

『噛醗

電も’

  亀

   ㌔

    亀

Dmax   ㍉

0 100  むr(A)

200 300

Figure 3-2 The distance distribution fu.nctioII of the CE:L-

III monomer(A)and oligo皿er(B).

55

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ハ。慧

あ隠

尊麟

㊨01igomer

ゑMonomer

㊧㊧㊧㊧     ㊧噛㊧㊧㊧㊧㊧翻㊧㊧㊧㊧㊧

0 20 40    60

S2(A囑21σ6)

80 100

Figure 3-3  Guinier plot for the CE:レIII monQmer a:nd

oligomer。

The fitted regions used for Rg deter皿ination were l x 10’6

A’2〈s2〈10 x工σ6,20 x 1σ6〈s2〈200 x 1σ6A’2 for the

oligom.er and皿onomer, respectively。

56

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ハ.越

ひ。潔

)ハの

ハ◎り

謡》醐

㊧101igomer

ゑMonomer

翻簡鵬鞠㊧㊧髄㊧㌔㊧

AA幽

  0           100    .     200          300

                            ゆ                       S2(A瓢210の6)

Figure 3-4 Cross-section plot for the CE:L-III monomer and

oligomer.The fitted regiolls used for Rc deterエnination were 8 x 1σ6

A・2〈s2〈20 x 1σ6,180 x lσ6〈s2〈300 x 1σ6A-2 for the

oligomer a皿d:m.onom.er, respectively.

                                          阜

1

57

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(A)

‘φ

炎の諸)魍

  爾 Monomer

      Cylinder斑ode1

一一@Ellipsoid mode1

N\

\ ! 、        \

0 0。01 0.02 0。03 0。04 0。05

    ぴS(A飼ユ)

(B)

ゑの謡》幽

  磯   01igomer

      Cylinder mρde1

一一@Ellipsoid mode1

\碑\

\__、\

\ 陶

0 0.004  0。008  0.012  q.016

               む          S(A-1)

0。02

Figure 3-5 Ellipsoid a且d cylindricaエfitting to SAXS of the

CEレIII皿Qnomer(A)and oligom母r(B).

Closed circles are experimenta玉data, and the solid lines

and broken lines are cylindrical and el!ipsoid, respectively.

Vertical!ines indicate the upper fitted region.

58

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(A)

80 A

ρ

280 A

(B)

 。越

。溜

ρ拙

)飛の隠》麟

堅翻⑳晦④

  亀⑨

   密酌㊧

    ②亀④驚

⑫曳

  ㌦    醜魎㈱鞠        楓幽醐晦              ⑧鴨腕恥⑳

                  ㊨吻                   圃鳴喚翻・鯛・卿鬼属                              醜幽醜

0 0。01     0。0’2         ゆ     S(A’1)

0。03

Figure 3-6 The hexagonal model for the CE:レIII oligomer。

(A),asi皿ple model consisting of six rods positioned at the

                                       ロedges of a hexagon. One rod has a radius of 20A and a            ロ                                                                                       

height of 280A,One side of the hexagon is 80A.

(B),co皿parison of SAXS of the mode1(solid Iine)and the

experim.ental data(closed circles)。

59

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第2項 CEHIIオリゴマー形成における糖特異性の評価

 !M塩化ナトリウム、10mM塩化カルシウム、およびCEHII(0.5 m.9/ml)を

含む20皿MグリシンーNaOH緩衝液.(pH 10)中で各種糖溶液を終濃度で10 mM

になるように加え、ただちに小角散乱を測定したところ、ラクトースおよびガラ

クトースを用いた場合、オリゴマーに特有な散乱曲線が得られた(Figure 3-7-1A,

B)。一方、グルコースおよびメリビオースを用いた場合この様な散乱曲線は得

られなかった(Figure 3-7-2 A, B)。

60

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(A)3

2

    1

炎鯵

巴0躍

一1

一2

一3

      Afterl min, CE:L-III

      was mixed with lactose

脚燗醐愚簡 bE:レII【only

〆《 {へ~、嬬         、蝸駒辱、

執 . r4     、

ψ叩A一へ嘘

(B)

3

0 0。005

s(A一・)

0.01 0.015

2

1

尊0讃

一1

一2

一3

      Afterl min, CEレIII

      was mixed with glalactose

団面嗣駆騨四 bE:L-IH only

/ 》~へ~~         、顧勤隔          ㌔域,。,

             ・φ町鷺.’、 舳

軌動

、働

 、  曝閃“喚

.へ譜へ、

0 0.005 0。O1 0.O15

s(A-1)

Figure 3-7-1  Scattering profiles of CEレIII oligomer

induced by the binding Qf specific carbohydrate ligand.

Panel(A)1actose, Panel(B)galactose

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k

「ナ

(A)3

2

    1

炎辺

ご0踊

一1

一2

3

      Afterl min, CEレIII

      was mixed with glucose

悶皿鵬国御 bELIII only

ρ《幅・・ @句・・、 ら

        “㌔・         、.函噂●           、

辱6P     ゆ塵

冤脚

・祭へ、、

(B)

幽3

0 0。QO5

s(A-1)

0.01 0。015

2

1

と0鎖

一1

一2

一3

      Afterl min, CE:L・III

      was mixed with melibiose

剛馴叫吻掴 bEレIII only

ノ㍉触《ぜ㌔、_.4              婚㎝㌧鴨

         、嫡畔侮熔、

9ρθ @ 舳

、り

0 0。005 0.O1 0。015

s(A一・)

Figure 3-7-2  Scatterin.g prQfiles of CE:L-III oligomer

induced by the bi:nding of specific carbohydrate ligand.

Panel(A)glucose, Pane1(B)皿elibiose

62

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第5節 考察

 本章では、CEHIIが水溶液中で糖と結合することによって形成するオリゴマー

の構造解析について論じた。まず、CELIII’のモノマーの正確な分子量は47.5 kDa

であることが明らかとなった。次にCEL-IIIモノマーおよびオリゴマーの様々な

分子パラメーターをX線小角散乱測定によって決定した。これら分子パラメータ

ーをTable 2にまとめて示した。この得られたCEHIIモノマーの分子パラメータ

ーよりオリゴマーの分子量を計算したところ、1019kDaであることが判明した。

これはSDS-PAGE上で推定した分子量(270 kDa)よりもはるかに大きくCEHII

モノマー一が21分子会合した分子量に相当する。また、この結果はP(r)関難(Figure

3-2)より得られた分子の最大長(Dmax)や回転半径Rgの値からも確認された。

第1章で論じた様に、架橋したCEレIIIとの比較からこの270 kDaのオリゴマー

はCEHIIモノマーが6から7分子会合したものであることが推察されたこと、

およびSDS非存在下での超遠心分析で、このオリゴマーは37 Sの沈降係数を示

すことと併せて考えると(23)、この水溶液中で形成されるオリゴマーはCEHIIモ

ノマーが6あるいは7分子会合した小さなユニット(SDS耐性)がさらに3から

4分子、比較的弱い相互作用で会合して形成されていることが示唆された。さら

に、断面の原点散乱はモノマーとオリゴマーで6倍程度の差があり、この差は6

量体ユニットの存在を示唆している。

 また、cEHIIモノマーは円柱モデル(半径x高さ120 x 75A)で近似される

ことが明らかとなった(Figure 3-5)。これは、断面の回転半径Rcは半径Rの円

柱に対してR=v「2Rcという関係があり、モノマーについて計算するとR瓢2L4A

であったこと、およびモノマーの最大長(Dmax)が75Aであったことからも裏

付けされる。しかしながら、オリゴマーについては円柱モデルのRが88Aである

のに対し、実測値は~「2Rc=94.oAであった。

63

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Table 2Struc加,ral parametefs for CE:L-m monomer and o1i墓。搬er。

Mo:nomer 01igomer

Radius of gyration

Rg:

Forward・scatterin理1(0)/C

Radius of墓yration of the cross-

section Rc

Forward scatterin理of the cross-

section Ic(0)/C

Maximum dimension

Dmax

Two-axis ellipsoid resolutioガ

(short axis x long axis)

Cylind:rical resolution霧

(radius x hei寒ht)

    り                   の

24。6A(0.4A)

1340(40)

15ユA(0ユA)

10。5(ユ。0)

75A

22A’x38A

20A解75A

     ゆ                   さ

101.4A(LOA)

28760(460)

    り               れ

66.5A(0.1A)

57.4(1。6)

290A

96Ax145A

88Ax281A

識盤鑛溜lo16A剛1 ands〈αoo4A麟1fo「m?nome「and

The values in parentheses i:ndicate SD。

64

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k

このモデルと実測値とのずれはオリゴマーの中心軸に沿って空洞が存在している

ことを示唆している。このことはCEHIIが糖との結合により会合する際その

中心軸に沿って小孔を形成することを示しており、類似した構造の小孔が溶血反

応の際、脂質膜中℃形成されるのかもしれない。

 得られ,たモノマーの円柱モデルを用い、オリゴマーのモデル構築を行った(Figure

3-6)。六角形の各頂点にモノマーを配置し、そのユニットを4分子縦に並べたモ

デルを実測値と比較したところ、実測値と完全に合致した散乱曲線は得ることが

できなかった。このことより、水溶液中で形成されるオリゴマーはこの様な単純

な構造ではなく、より複雑な構造を形成していることが推察され,る。今後、より

詳細なモデル構築が待たれる。

 最後に、CEL-IIIがオリゴマーを形成する際の糖特異性をX線小角散乱で評価し

た。その結果、ラクトースおよびガラクトースでオリゴマー脇戸の散乱曲線が得

られた。一方、グルコースおよびメリビオースではオリゴマーの散乱曲線は得ら

.れ,なかった。この結果はCEL-IIIの糖特異性を反映しているものだと考えられる。

しかしながら、これまでの報告で、ガラクトースではオリゴマーは誘起されない

ことが示唆されていることから㈹、今回観察されたオリゴマーに特有の散乱曲線

は少量形成されたオリゴマーによるものだと考えられる。’この結果については次

の第4章でも述べる。また、この散乱測定は糖溶液混合後ただちに行ったにも関

わらず、オリゴマーの形成が確認されたことから、糖との結合後のCEL-IIIの構

造変化は迅速に生じていることが推察された。この議論に対しても次の第4章で

詳しく述べる。

65

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第6節 小括

1.CEL-IIIモノマーおよびオリゴマーの各分子パラメーターを決定した。

2.特異的な糖との結合によって生じるCEHIIオリゴマーの分子量は1019kDa

  であり、CEL-IIIモノマー一が21分子会合した分子量に相当することが明らか

  となった。

3.CEHIIオリゴマーはCEレIIIモノマーが6あるいは7分子会合した小さなユ

  ニット(SDS耐性)がさ5に3から4分子、比較的弱い相互作用で会合して

  形成されていること黍示唆された。

3.CEHIIモノマーは円柱モデル(半径x高さ 20x75 A)で近似され,るこ

  とを見いだした。

4.得られたCEHIIの円柱モデルを用い、オリゴマーのモデルを構築したが実際

  の構造はより複雑であることが推察され,た。

5,CEHIIのオリゴマー化はグルコースおよびメリビオースなどの糖では誘起さ

  れ,ないことが明らかとなった。また、糖との結合後のCEL-IIIの構造変化は

  迅速に生じていることが推察された。

66

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第4章

特異的な糖との結合により形成されるCEL一工IIオリゴマーの形成過程

第1節 緒言

 前章では、CEHIIが水溶液中でラクトースなどの特異的な糖と結合することに

よって形成するオリゴマーの構造についてX線小角散乱測定によって解析した。

本章では、CELIIIオリゴマーが形成される過程を種々の手法によって解析し、オ

リゴマーが形成される上での糖特異性およびオリゴマー化が誘導される要因につ

いて論じた。

第2節 実験材料

 8一アニリノー1一ナフタレンスルホン酸アンモニウム(ANS)、およびTriton X一工00

は和光純薬工業株式会社より購入した。その他の試薬はすべて特級を用いた。

第3節 実験方法

(1)ゲルろ過HPLC

 lM塩化ナトリウム、10 mM塩化カルシウム、およびCEL-III(80μ9/皿1)を

含む20mMグリシンーNaOH緩衝液(pH 10)中で各種糖溶液を終濃度で1Q皿M

になるように加え、各時間インキュベーションを行った後、ゲルろ過B:PLCで解

析した・ゲルろ過HPLCは第1章3節2項(ので述べた方法で行った。

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(2)CEHIIによる溶:血の経時変化

 lmlのエッペンドルフチ、ユーブを用いて、 TBSあるいは10mMグリシンーNaOH

緩衝液中(pH 10)で、30 mMデキストラン『 Sを含むウサギ赤血球(5%(v/v))

溶液とCEL-III(12μ9/二ml)を20℃で各時間反応させた後、10,000 rpmで1分間   遠心分離した。得られた上清の540nmの吸光度を測定ずることにより溶血活性

を評価した。また、得られた赤血球膜沈殿物は第2章3節1項(7)の手法によ

ってイムノブロティングを行った。

(3)疎水性プローブANSを用いた蛍光強度測定

 1M塩化ナトリウム、10 mM塩化カルシウム、およびCEL-III(0.3 mg/m!)を

含む20mMグリシンーNadH緩衝液(pH 10)中でラクツロースあるいはラクトー

スを終濃度で10mMになるように加え、各時間インキュベーションを行った後、

ANSを終濃度で40μMになるように添加し励起波長380 nm、蛍光波長490 nm

でANSの蛍光強度をHitachi F3010蛍光分光光度計で測定した。

(4)変性剤を用いないディスク電気泳動(Native-PAGE)

Native-PAGEはDavis(44)らの方法に従い、5%ポリアクリルアミドゲルを用い

て泳動後、ゲル中のタンパク質をクーマーシーブルーR-250により染色した。

(5)CEHIIオリゴマーの界面活性剤Triton X-100処理

 ラクトースで誘起したCEL-IIIオリゴマーに界面活性剤であるTritin X-100を

終濃度で0.01~1%になるように添加後、Native-PAGEに供した。

(6)CDスペクトル測定

1M塩化ナトリウム、10皿M塩化カルシウム、およびCELIII(1.4 mg/m!)を

68

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含む20mMグリシンーNaOH緩衝二液(pH lO)中で各種糖溶液を終濃度で10 mM

になるように加え・ただちにCDスペクトルを測定した・また、同様に60分間イ

ンキュベーション後CDスペクトルを測定した。 CDスペクトル測定は第2章3節

で述べた方法に従って行った。

第4節 実験結果

第1項CEL-IIIオリゴマーの時間依存的な形成

 Figure 4-1-1およびFigure 4-1-2に各糖を混合し、各時間インキュベート後の

ゲルろ過HPLCの溶出パターンを示した。ゲルろ過HPLCより得られ,たピーク面

積よりオリゴマー形成率を算出したのがFigure 4-2である。その結果、 Figure 4-

1-1(A)および(B)に示した様にラクツ十日スおよびラクトースを用いた場合、顕著

な時間経緯に伴うCEL-IIIオリゴマーの形成が観察された。また、同様にフェニ

ル骨ガラクトシドでもCELm.オリゴマニの形成が観察された。一方・単糖であ

るガラクトースおよびN一アセチルガラクトサミン(Ga1NAc)ではほとんどCEL-IIエ

オリゴマーの形成は観察されなかった。また、グルコース、メリビオースも同様

であり、CEHIIオリゴマーの形成はまったく観察されなかった。 CEL-IIエオリゴ

マーの形成が観察された3種の糖を以下の式を用いフィッティングを行い見かけ

上の反応次数および速度定数を算出し比較したのがFigure 4-3である。

瑞t÷{(誌LデL(1謡

69

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Kn:速度定数

n:反応次数

t:インキュベーション時間

{ml、:ゲルろ過HPLCより計算したCEHIIモノマーの濃度

[m】〇二CEL-IIIモノマーの初濃度

反応次数を算出したところ、これらのプロットは反応次数7で直線.となった。ま

た、速度定数はラクツロース、ラクトース、フェニル廿ガラクトシドでそれぞれ、

2.46xlO’10M6S’1、4.46x1σ11M6Sユ、1.06x10’11M6S1という値を得ることが

できた。

 一方、CELIIIによる溶血反応でも、脂質膜中でのオリゴマー形成に時間依存的

な挙動が観察された。Figure 4-4に各時間CEL-IIIを反応させた後、溶血活性を測

定した結果を示した。pH 10において赤血球を浸透圧保護剤であるデキストラン

4を添加しているのにも関わらず、時間経緯に伴いCEL-IIIオリゴマーによる溶血

活性の上昇が観察された。Figure 4-5で示したイムノブロティングの結果におい

ても時間経緯:に伴うCEL-IIIオリゴマーの増加が観察された。

第2項 CELIIIオリゴマー形成における分子間の疎水性相互作用の重要性

Figure 4-6に疎水性プローブであるANSの蛍光強度測定の結果を示した。測定

の結果、ラクツロースおよびラクトースにおいてCELIIIのインキュベーション

時間に伴う蛍光強度の上昇が観察された。この結果は先に示したゲルろ過HPLC

の結果と対応しているものだと考えられる。

また、ラクトースで誘起したCELIIIオリゴマーにおける界面活性剤であるTriton

X-100の効果を検討したのがFigure 4-7である。.Native-PAGEの結果、 CEL-IIIオ

70

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リゴマーがレ’一ン上で泳動されないのに対し(レーン1)、Triton X-100の濃度

が増加するに伴いより小さなユニットに解離することが明ちかとなった。

第3項 糖との結合によるCEHIIの二次構造変化

 1M塩化ナトリウム、10 mM塩化カルシウム、およびCEL-III(1.4:mg/m1)を

含む20mMグリシンーNaOH緩衝液(pH 10)中で各種糖溶液を終濃度で10 mM

になるように加え、ただちにCDスペクトルを測定したところ、ラクツロースお

よびラクトースでCEHIIの糖との結合による大きな二次構造変化が観察された。

また、60分インキュベーション後CDスペクトルを測定したが同様な界ベクトル

が得られ,た(Figure 4-8-1)。一方、グルコースおよびメリビオースにおいてはこの

様なCDスペクトルは得られず、 CELIIIの二次構造は変化していないことが確認

された(Figure 4-8-2)。

71

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   ♂

   1智聡

lA)

120mi夏60min

50期目in

  40拠in

30凱in20皿圭n

     01i墓。孤er

         Monomer

(B)

ぎ『、2。撮in

3亭

コ  ロ  ロ     ロ  ほ  ロ  ヨ  ほ  ヨ  ロ

 10   20   30   40   50

   Retention ti皿e(lnin)

60min50面R

40皿in30min

20田圭n

10minOmin

1

ほ  ヨ  ロ  ほ  ロ  コ     ロ  ロ  ほ  コ

10   20   30   40   50

  RetenUOH U皿e(mi短〉

(C)

.『

諺4溜・120頭n60m玉皿

 30面琵

20min10minO疏in

■   1   ほ  嗜  噂  層   隅  I  o   量   盈

 10   20   30   40   50

   RetentiolL ti瓦睦e(miR)

Figu∫e 4-1-1 01igomerization of CE:L-III upon binding of

several carbohydrates。                  .

After incubation of CEL-III. solutions(80μg/エn!)with 10

mM carbohydrates((A)1actulose,(B>lactose,(C)pheny1一β一

galactoside)in 20 mM glycine-NaOH ゆuffer, pH 10containing 1 M NaCl,10 mM CaC12 at 2ら。C for each

incubation ti皿e, one hundred microliter aliquots were

analyzed by gel filtration HPLC using Superose 12HR 10/30

gel filtration column(1 x 30 cln). The running bu.ffer was

TBS at a flow rate of O.5 m1/min and elution was皿onitored                           ,

at 28011皿。

72

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(A)

晶留・ご      50mi蕊

ボ31〔謙20mi箆10min0面a

.ざ

(B)

・      禮      塞      B      且      鷺      燭      置      ■      G       l

 10   20   30   40   50

    Retention tim6(mi無)

(C)

ざ『、2。皿i且

   60min 50m三n

40min30皿in

一一

 

辱} 10曲    0皿in

20血短

歴       臨       曜       劉       ■       1       ・       蜜       .       璽       置

 10   20   30  40   50

    Rete磁。且.time(min)

(D)

聰      騒      ”       ■      魯      1      巳      B      9      量      耀

 10   20   30   40   50

   RetentiQ】αtilロe(Inin)

口      o      ■      象      5      罐      唾      ”      団      」      竃

 10   20   30   40   50

    Rete皿廿。丑t慮皿e(min)

Figure 4-1-2 01igomerization of CE:レIII upon binding of

several carbohydrates.                 、

After incubation of CEL-III solutions(80μg/m1)with 10

:mM carbohydrates((A)galactose,(B)Ga1NAc,(C)glucose,

(D)melibiose)in 20 mM glycine-NaOH b.uffer, pH 10

containing 1 M NaC1,10 mM Cad2 at 25。C for each

incubation ti皿e, one hundred microliter aliquots were

analyzed by gel filtration HPLC using Superose 12HR

10/30gel filtration colu皿n(1 x 30 cm). The ru.11ning buffer

was TBS at a flow rate of O,5 m!/min, a:nd elution was

monitored at 280 nm.

73

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60

   50お

&40考

麟 30叩

9 20ぢ

    10

00

        ノ 

   20  40  60  80  100 120          Time(mi:n)

iコLactulose        ㊨Galactose

o:Lactose         《Glucose

△Pheny1一β一galactoside×Mehbiose

國Ga1NAc

Figu.re 4-2  Effect of various carbohydrates on the

oligomerization of CE:レIII.

Percentage of CEL-III oligc皿er was calcu更ated as’follows,

iPol/IPo]+[:P叫x100               ‘

where iPol and IPm}were the integration values obtained

from ge1-filtration HPLC for the oligo皿er and mon.omer,

respectively.

74

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\ρ

o睡

\ρ

o回 ぐ國

1、00

α80

0.60

0。40

0。20

0。00

-020

0.20

0ユ5

0ユ0

0.05

α00

一〇。05

0.04

0 1000  2000  3000  4000     Time(S)

\ρ

o洲 ぐ畑

0 1000  2000  3000  4000     Time(s)

0。03

0。02

0。01

α00

(C)

8

一〇.01

0 1000  2000  3000  4000     Time(s)

Figure 4-3 Determination of rate constants and order of

reacti・n((A)1actu1・sq(B>1a・t・sq(C>phenyトβ一galact・side).

75

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。噂ゆ細

  ね

ω

幽ぐ

1.0

0。8

0.6

0。4

0。2

0.0

一く〉一pH 10

一{トpH 7.5

0     100

Time(mi:n)

200

Figure 4-4 Ti:me course of hemolytic activity on rabbit

erythrocyte.

Reactiolls were performed with CELIII(12μg/m!)and 5%

rabbit erythrocytes suspension in. TBS or 20 mM. glycine-

NaOH, pH l O, containing dextran 4 as an osmotic protectant。                                          メ

After incubation, the suspension was centrifuged, and lysis

was measured by the supernatant’s absorbance at 540 nm.

76

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     .心・.刀

く。ミー

ツボぐ。鉢ぬ

輔灘…轍:1:麟

尋融醐0!igomer       (270kDa)

講継 鍵

謙熱;憲灯油

  pH 7.5 ・   pH lO

←}》{fonomer

(47。5kDa)

Figure 4-5 1m皿unQblotting of the erythrocyte me皿branes

treated CE:L-III.

 The me皿branes prepared  fro.皿  Previous experi皿e:【lt

(Figure 4-4)were solubilized with sa皿p!e buffer containing

l%SDS an.d su.blected to 5%SDS・PAGE under nonreducing

conditions, After  e!ectrophoretic  transfer  to  a

polyvillylidene difluoride membrane, and detected using

rabbit anti-CEL{II antibOdy and peroxidase-conjugated goat

anti-rabbit IσG.          b

77

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財細りがの

國①

G

⇔のω

o翻

28

26

24

22

20

18

16

28

0 50    100Time(min)

150

細。画

ω細

細①

9麟

。の

26

24

22

20

18

16

(B)

0 50    100Time(min)

150

Figure 4-6  Changes in the surface hydrophobicity of

CE:L-III as皿easu.red by ANS fluorescence.

Fluorescence iエ1tensity at 490 nm was recorded with

excitatiGn at 380 n皿. Measurements were carried Qut in 20

mM glycine-NaOH, pH 10, containing 10 mM CaC12 and 1 M

NaC1, with 101nM lactulose(A)or with 10皿M lactose(B).

78

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Triton X-100→q》   くこジ   (こ)’  (こ)’   (こド

ぷ碑09     く。

{:こ)罵  (ミ)’ ㌧

CELIII oligomer

職難鱗 、・.

:難翻

霧騰欝 総難灘

Figure 47 Effet of Triton X-1000n CEL-III oligomer。

After CEL-III oligOmer induced by th.e binding of lactose

was treated with Triton X-100.and sublected to Native-

PAGE.

a

79

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‘“

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も)叩

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5

0

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①一10

(A)

4

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魁、

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    A撫藷『1m孟n

一 一Af憾『6◎min

200

    5

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悉 0蓉

導一5鱒

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 ㊤一10國

210  220  230  240

   Wavelength[nm]

250

(B)

耀幽        、

触、

          ’         ,’

’、     /グし               タ

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 ’、 !ノ   ヤ    げ

    φ ノ

⑩一噌・ 諸?L叫睦1撚◎no鵬馨r

    A瀧ξ罫1m納,

一 一A瀧鰺『60mln

200 210  220  230  240

   Wavelength【nml・

250

Figure 4-8-1 CD spectra of CE:レIII after mixing with

carbohydrate.

Pane1(A), CE:レIII in 20 mM glycine-NaOB:, pH 10,

containing l M NaC1,1Q皿M CaC12 was mixed with 10 mM

lactulose. Pane!(B), CEHII in 20 mM glycine-NaOH, pH 10,

containing 1 M NaC1,10 mM CaC12 was mixed with 10皿M

lactose.

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    5

ρ鷲解

義 0馨

豊一5曽

〇一台

ゆ㊤一10畷

(A)

一一一。 b旺し慨mmα1◎m餅    A賛:鷺ぜ1m垂『筆

200

5

210  220  230  240

    Wavelength【nm1

250

ρ唱蜀

唱 ⑧

ね繧

Q ②

捻嶋

㊤瑠)叩

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糊囲

0

一5

①一10

(B)

3

ヂ  姻  嗣  、

一一一 Z躍し一ill monomer           fA費erlml繭

200 210  220  230  240

   Wavelength lnm1

250

Figure 4-8-2 CD spectra of CEレIII after mixi且g with

carbohydrate.

Panel(A), CEL-III in 20 皿M glycine-NaOH, pH 10,

containing 1 M NaC1,10 mM CaC12 was mixed with 10 mM

glucose. Pane1(B), CELIII in 201nM glycine-NaOH, pH 10,

containing l M NaC1,10 mM CaC12 was皿ixed with 10 mM

melibiose.

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第5節 考察

 本章では、CEL-IIIがオリゴマーを形成する際の糖特異性およびその形成過程に

重点をおいて論じた。

まず、今回用いた糖をFigure 4-9に示した。最初に、 CEL-IIIがオリゴマーを形成

する際の糖選択性について検討した。その結果、CELIIIはラクツロースあるいは

ラクトースなどのβ一結合を有するガラクトシドと結合することによってオリゴマ

ーが誘起されることが明らかとなった。対照的にα一1,6結合を有するメリビオース

ではCEレ田オリゴマーの形成は見られなかった。一方、フェニル廿ガラクトシ

ドでも顕著なオリゴマー形成が見られたことより、β一結合を介した還元末端側の

糖鎖構造はそれほど重要ではないことが考えられた。また、単糖であるグルコー

スではまったくCEL-IIIオリゴマーの形成は観察されなかった。 CEL-IIIによる溶

血はガラクトースあるいはGa!NAcで強く阻害されることよりCEL-IIIはガラクト

ースまたはGalNAcと強く結合するはずであるが、これらの糖を用いた場合、

CEL-IIIオリゴマーの形成はほとんど観察されなかった。 CELIIIとは結合できる

がオリゴマー化が誘導されないのは非常に興味深い。

 CEL-IIIがオリゴマーを形成する際の見かけ上の反応次数は7であり、1分子あ

るいは2分子間で会合するような単純な反応ではないことが明確となった。また、

速度定数はラクツロース、ラクトース、それぞれ2.46x10’10 M6S4、4.46 x 1σ11

M6S1であり、同じβ一1,4結合を有するガラクトシドでもオリゴマーの形成速度に

6倍程度の差が生じていた。この様に特異的な糖と結合することによって形成さ

れるオリゴマーは時間経緯に伴って増加していることが明らかとなった。一方、

実際の溶血反応においても、時間経緯に伴うCEHIIオリゴマーの増加が観察さ

れた(Figure 4-5)。この結果より水溶液中あるいは脂質野中の両環境下で形成さ

れるCEL-IIIオリゴマーは類似したメカニズムで形成されているのかもしれない。

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 次にCELIIIがオリゴマーを形成する際のタンパク質問の疎水性相互作用の重

要性を検討した。以前の報告より、CEHIIが糖と結合することによりタンパク表

面の疎水性が上昇することが知られている(23)。今回、ANSを用いてオリゴマーが

形成される際のANSの蛍光強度の変化を追跡したところ、オリゴマー形成に伴う

ANSの蛍光強度の上昇が観察された。このANSの蛍光強度の時間依存的な上昇

は先に述べたゲルろ過HPLCの結果と対応していると考えられる。しかしながら、

このANSの蛍光強度の上昇はCELIIIがオリゴマー化することによるタンパク質

表面の疎水性の上昇を示唆しているが、単にANSの結合部位が増えたためANS

の蛍光強度が上昇したという可能性は否定できないと思われる。

 前章のX線小角散乱測定によりCEHIIオリゴマーはCEL-IIIが6~7分子会合

したSDS耐性なユニット(270 kDa)がさらに3~4分子会合することによって

形成されていることが示唆された。ラクトースで誘起したCEHIIオリゴマーに

界面活性剤であるTriton X-100を作用させることによりCEL-IIIオリゴマーはよ

り小さなユニットに解離することが明らかとなった(Figure 4-7)。この結果はx

線小角融乱測定の結果を支持するものであり、CEHIIオリゴマーはおそらく270

kDaと思われるユニットが比較的弱い疎水性相互作用によってさらに会合し形成

されていることが改めて示唆された。

 最後に、CEL-IIIが糖と結合する際の二次構造変化を調べるために、 CDスペク

トル測定を行った。その結果、ラクツ回持スおよびラクトースで顕著な二次構造

変化が観察された。しかも、この変化は迅速であり、糖を添加した瞬間にCEL-III

は二次構造変化を生じていることが明らかとなった。前章のx線小角散乱測定で

もこの早い構造変化は確認されており、CELIIIの糖との結合による迅速な構造変

化がオリゴマー化を促進しているものだと考えられる。

 アエロライシン(45)やアンスラックストキシンの保護抗原(46)あるいはα一トキシン

(17>などの小径形成細菌毒素は、オリゴマー化する際、ほとんど二次構造変化を伴

83

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わないことが知られていることから、CEHIIのオリゴマー化はこれらの小孔形成

細菌毒素のオリゴマー化のメカニズムとは異なっているのかも知れない。

Figure 4-10にこれまでの実験より得られた結果を元にCEL-IIIの水溶液中でのオ

リゴマー化9メカニズムを示した・特異的な糖と結合し構造変化したCEL-IIIIは

SDS耐性の270 kDaのユニットを形成すると考えられる。このユニットの形成は

X線小角散乱測定およびCDスペクトル測定の結果より迅速であると推察される。

また、ゲルろ過HPLCおよびANSを用いた蛍光強度測定の結果より、水溶液中で

はこのユニットが時間経緯に伴いさらに数分子会合することによってCEHIIオ

リゴマーを形成しているのであろう。

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        HO             O

          OH    OH HO Q   OO    OH   OH

      QH

         Q    HO             OH          H

HO         QHO    O O

  OH

     OH

HO     o

  OH

OH       O     OH           Q

        OH    OH

      QH           QH’.

 HO o    o   OH    QH

      NH    o瓢      CH3

HO o    o

   OH    OH

      OH

HO

  OH

OH

HQo

Q

OH

OHOH

o o

OH

Figure 4-9

study.

           D(+)一L訟ctQse

           [4-Q一β一D-Gaiaotopyranosy{一D-glucose]

           Lactubse           [4-Q一β一D-GaiactopyranosyレD-fructosel

        D(+)一Meiiblose

        [6-0一α一p-Galactopyranosyl-D-glucosel

          GalNAc          [N-Ace螺一D-galac窒osamine】

          D(+)一Galactose

                         7

          D(+〉一αucose

          Phenyl一β一D窟ala(:滝opyranoside

Strucmre of carbohydrates which used for this

             85

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Carbohydrate-billding

        and

Conformational change

一一

CEL-III monomer

  (47.5kDa)

SDS-resistallt core

  unit(270 kDa)

or

CELm oligomer (1,019kDa)

RAPID S:LOW

Figure 4-10 Proposal model of CEL-II}01igomerization

in aqueous solution.

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第6節 小括

1.CEHIIオリゴマーはラクツ『ロース、ラクトースなどのβ4,4結合を有するガ

  ラクトシドでのみ形成された・また・フエニルーβ一翠ラクトシドでもCEL-III

  オリゴマーが形成されたことからβ一結合を介した還元末端側の糖鎖構造は

  CELIIIのオリゴマー化にはそれほど重要ではないことが示唆された。

2.3種の糖(ラクツロース〉ラクトース〉フェニルーβ一ガラクトシド)で誘起さ

  せたCEL-IIIオリゴマーの速度定数を算出したところ、それぞれ2。46 x 1σ10

  M6S-1、、4.46 x 1σ11 M6S1、1.06 x 1σ11 M6S’1であった・

3.CEL-IIIオリゴマー形成に伴い蛍光プローブであるANSの蛍光強度が上昇し

  た。また、CEL-IIIオリゴマーを界面活性剤であるTriton X-100で処理する

  ことにより、より小さなユニットに解離することが明らかとなった。これら

  のユニットは比較的弱い疎水性相互作用によって会合していることが考えら

  れた。

4.ラクツロース、ラクトーースなどの糖との結合によるCEL-IIIの二次構造変化は

  素早く生じ、この糖との結合による迅速な二次構造変化がCEHIIのオリゴ

  マー化を促進していることが考えられた。

以上の結果よりCEL-IIIの特異的な糖との結合は、 CEL-IIIの二次構造変化を誘導

することが考えられた。水溶液中では構造変化したCEHIIはコア部分となる270

kDaのSDS耐性ユニットを形成後、タンパク:質一タンパク質問の相互作用でさら

に会合し1.019kDaの巨大分子を形成していると思われる。

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総括

 海産無脊椎動物グミ(()乙~CZ~五口arゴ∂ecゐノエユa亡a)由来のCa2+依存性、ガラクトース/N一

アセチルガラクトサミン特異的レクチンCEL-IIIはヒト・ウサギ赤血球に対し強

い溶血活性およびある種の培養細胞に対し強い細胞傷害性を示す。このCEL-III

による溶血活性はまずCEL-IIIが赤血球膜表面上の糖鎖レセプターと結合し、オ

リゴマーとして細胞膜に挿入後、低分子透過性の小孔を形成することによるコロ

イド浸透圧ショックによるものであると考えられている。CEHIIが溶血などの活

性を発現するためには標的細胞膜表面上の糖鎖レセプターとの相互作用が重要で

あると考えられる。最近、蛍光物質であるCFを内包した人工膜リボソームを用

いた実験により、ラクトシルセラミドまたはグロボシドなどの中性スフィンゴ糖

脂:質がCELIIIのレセプター能を有することが報告され(1314)、 CEHIIのレセプタ

ー結合における知見が得られてきた。一方、CEHIIが膜傷害性を示すためには糖

鎖レセプターとの結合も重要であるが、レセプター一結合後のCEHIIのオリゴマ

ー化も重要であることが考えられる。本論文ではCEL-IIIのオリゴマー形成機構

を明らかとするため、水溶液中(pH 10,1M塩化ナトリウム存在下)で特異的な

糖と結合することによって形成されるCEL-IIIオリゴマ広の活性およびその形成

機構について検討したものである。

 まず、第1章では、CEHIIオリゴマーの形成およびその活性について検討した。

CEHIIが特異的な糖と結合し、オリゴマーを形成する際、タンパク質の構造変化

を伴うことが蛍光スペクトル測定によって明らかとなった。このオリゴマー化に

伴うタンパク:質の構造変化については第4章でも検討を行った。ラクトースで誘

起したCEL-IIIオリゴマーを他の手法で架橋させたCELIIIオリゴマーを用いSDS-

PAGE上で比較することによってその会合数を推定したところ、このオリゴマー

はSDS-PAGE上では6~7量体であることが明らかとなった。しかしながら、観

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察されたバンドの形状より通常の架橋法で形成させたCEHIIオリゴマーとは構

造が若干異なっていることが示唆された。次にこのオリゴマーの活性について検

討を行った。その結果、このオリゴマーは溶血活性は失っているものの、CEレIII

モノマーと比較して高い赤血球凝集活性を有していることが明らかとなった。こ

れはモノマーがオリゴマー化することによって結合価が増加したためだと推察さ

れた。

 第2章ではCEL-IIIの活性におけるアミノ基およびカルボキシル基の重要性に

ついて検討した。CEL-IIIの溶血活性はアルカリpH領域、特にpH 9以上で飛躍

的に溶血活性が上昇する。一方、.糖結合活性においては逆に酸性pHでその活性

は上昇することが知られている。このことより、CEHIIが活性を示すためにはこ

れらのpH領域でイオン化する側鎖を有するアミノ酸残基が関与していることが

推察される。これらのアミノ酸残基の役割を明らかにすることは、CEL-IIIの構造・

機能相関(オリゴマー化)を明らかにするために必要であると考えられたことか

ら、CELIIIの化学修飾の検討を行った。その結果、 CEレIIIのアミノ基をスクシ

ニル化することによってCEL-IIIによる溶血活性は著しく低下した。イムノブロ

ッティングの結果より溶血活性の低下は脂質膜中でのCEL-IIIオリゴマーの減少

によるものであることが明らかとなった。このCEL-IIIのオリゴマーの減少はア

ミノ基の修飾によるCEL-IIIの糖鎖結合活能の低下によるものであると考えられ

たので、修飾したCEレIIIの赤血球凝集活性およびラクトースを固定化したマイ

クロプレートを用いた糖結合活性を測定した。しかしながら、修飾したCEL-III

の糖結合能はそれほど低下していないことが明らかとなった。この結果より、

CEHIIのアミノ基は赤血球膜上の一鎖との結合にはそれほど関与せず糖鎖結合後

のオリゴマー形成に重要であることを見いだした。一方、CEHIIのカルボキシル

基をグリシンメチルエステルおよびEDCを用いて修飾したところ、アミノ基の修

飾と同様、著しい溶血活性の低下が観察された。また、赤血球凝集活性も溶血活

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性と同様にEDC濃度の増加に伴い減少していた。しかしながら、糖結合活性測定

の結果、溶血活性が10%程度まで減少するEDC濃度、40 mMで修飾したCELIII

の糖結合活性は50%程度保持されていた。マイクロプレート測定は’レクチンの

糖結合部位が1カ所でも活性であると検出可能な手法であることから、おそらく

CEL-IIIの糖結合部位の1カ所は40 mMのEDCで修飾しても活性を有していこと

が推察された。また、この結果より、CEL-IIIが溶血活性を示すためには2カ所の

糖結合部位と層群との結合が必要であることを明らかにした。

 第3章ではX線小角散乱測定によって、CEHIIモノマーおよびオリゴマーの

構造解析を行った。その結果、CEHIIモノマーおよびオリゴマーの最大長はそれ

ぞれ75A、2goAであることが明らかとなった。まちこのオリゴマーの分子量

を計算したところ、1019kDaでありCEL-IIIモノマーが21分子会合した分子量

に相当することを明らかにした。さらに、CELIIIモノマーはモデルフィッティン

グにより円柱(半径x高さ120x75A)に近い構造をしていることが推察され

た。一方、断面の回転半径の実測値と計算値のずれよりCEL-IIIオリゴマーは中

心軸に沿って空洞を有する構造を形成して労ることが示唆された。また、断面の

原点散乱の結果より、CEL-IIIの6量体ユニットの存在が確認された。これは、

CEHIIオリゴマーがSDS-PAGE上では6~7量体(270 kDa)の分子量を示す結

果と対応していると考えられる(第1章)。以上の結果よりCEL-IIIオリゴマー

はSDS耐性のコアユニットがさらに数分子会合して形成されていることが示唆さ

れた。上記の結果をもとにCEL-IIIオリゴマーのモデルを構築したが、完全に

CELIIIオリゴマーの構造を反映したモデルを得ることはできなかった。今後、よ

り詳細なモデル構築が待たれる。

さらに、x線小角散乱測定によって、 CEL-IIIのオリゴマー形成における糖特異性

を評価した。その結果、グルコースおよびメリビオースなどの糖ではCEL-IIIオ

リゴマーに特徴的な散乱曲線は得られず、この様な糖ではオリゴマーは形成しな

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いことを確認した。一方、ラクトース溶液を混合後ただちに測定した結果、CEL・III

オリゴマーに特有の散乱曲線が得られた。この結果より、糖との結合によるCEし

IIIの構造変化は迅速に生じていることが示唆された。

 第4章では、CELIIIオリゴマーが形成される上での糖特異性および形成過程に

ついて検討した。その結果、α一1,6結合を有するメリビオースまたは単糖であるグ

ルコース、ガラクトースおよびN一アセチルガラクトサミンを用いた場合、CELIII

のオリゴマー化は誘導されなかった。一方、CE:L-IIIのオリゴマー化はうクツロー

スあるいはラクトースなどのβユ,4結合を有するガラクトシドで誘起されることが

分かった。また、フエニルーβ一ガラクトシドでもCEHIIのオリゴマー化が誘導さ

れたことから・CEレm:のオリブマー化にはβ一結合を介した還元末端側の糖構造は

それほど重要ではないことが明らかとなった。

一方、CEHIIオリゴマーは時間経緯に伴い増加する傾向が見られ、実際の溶血反

応においても脂質膜中のオリゴマーは時間経緯に伴い増加する傾向が観察された

ことから、水溶液中および脂質膜中で形成される両CEL-IIIオリゴマーは類似し

たメカニズムで形成されているのかも知れない。

CDスペクトル測定で示した様に、ゲルろ過HPLCでオリゴマー形成が見られたラ

クツロース、ラクトースを用いた場合において、糖溶液を混合した直後に顕著な

タンパク質の二次構造変化が観察された。また、糖溶液混合直後にCEHIIオリ

ゴマーに特有の散乱曲線が得られたこと(第3章)と併せて考えると、この水溶

液中でのCEL-IIIのオリゴマー化は糖との結合による迅速な二次構造変化によっ

て促進され,ていることが考えられた。この迅速な二次構造変化により疎水性領域

を露出したCEレIIIは、まず6~7量体からなるSDS耐性ユニットを形成すると考

えられる。その後、タンパク賢タンパク質問の疎水性相互作用によってそのユニ

ットがさらに会合し最終的には1019kDaの巨大分子を形成するのであろう。

 本論文はCEL-IIIが特異的な糖と結合することによって形成するオリゴマーに

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ついて検討したものを取りまとめたものである。CEL-IIIのオリゴマー化は溶血活

性などの活性発現において重要なステップであり、その作用機構を明らかにする

ことは免疫系を有さない無脊椎動物における生体防御機構の解明あるいは新しい

機能性タンパク質の構築への大きな手助けになることが期待される。著者の所属

している研究室でも、レクチンと溶血活性を持つ生理活性ペプチドのコンジュゲ

ート化(47)など、CELIIIの機能を模倣した研究を展開しており、今後のさらなる飛

躍が期待される。

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謝辞

本研穽に入る端緒を与えられ・本研究の遂行ならびに本論文の作製にあたり・

終始ご懇切なるご指導、ご鞭捷を賜った 青柳 東彦教授に、深甚なる謝意を表

します。

本研究を行い、本論文をまとめるにあたり、終始有益なるご指導、ご助言を賜

りました 畠山 智充助教授に、深甚なる感謝の意を表します。

 本研究を行うにあたり、終始有益なるご指導を賜りました 新留 琢郎助手に、

深甚なる感謝の意を表します。

本研究中、x線小角散乱測定を行っていただくとともに、有益なるご助言を賜

りました理化学研究所・播磨研究所、構造生物物理研究室 藤沢 哲郎博士に、

深い感謝の意を表します。

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