Jpn. J. Personality 23(1): 1-12 (2014)

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う぀病アナログ矀の特城に぀いお ―抑う぀の連続性怜蚎の芳点から 1 川 本 静 銙 枡 邉 卓 也 小 杉 考 叞 立呜通倧孊倧孊院文孊研究科 立呜通倧孊研究郚 山口倧孊教育孊郚 束 尟 幞 治 枡 邉 矩 文 サトりタツダ 山口倧孊倧孊院医孊系研究科 山口倧孊倧孊院医孊系研究科 立呜通倧孊文孊郚 本研究ではう぀病患者ず類䌌した抑う぀症状を持぀非臚床矀を抜出しその特城を怜蚎した。う぀病 患者および非臚床矀の BDI-II 項目埗点に察しk-means クラスタヌ分析を行った結果抑う぀状態が軜症 の非臚床矀の党員ず䞭等症の非臚床矀の䞀郚の者が非抑う぀クラスタヌぞ分類された。䞀方残りの䞭等 症の非臚床矀ず重症の非臚床矀の党員が抑う぀クラスタヌぞ分類された。このこずから軜症の非臚床矀 の抑う぀症状は重症床の高いう぀病矀ずは類䌌性がないこずが明らかになった。たた重症の抑う぀状 態にある非臚床矀ず重症床の高いう぀病矀には類䌌性が芋られた。ただし䞭等症の非臚床矀に぀いおは その䞀郚の者に重症床の高いう぀病矀ずの類䌌性が認められる䞀方で芋られない者も確認された。 キヌワヌド抑う぀連続性議論アナログ研究 問題ず目的 う぀病 2 患者の増加ず倚様化 う぀病患者は増加傟向にあるずいわれお久し い。厚生劎働省による “患者調査 厚生統蚈協䌚 2010 ” によれば2008 幎にはわが囜のう぀病 患者数は玄 70 䞇人を超え調査開始時の 1996 幎 ず比范するずおよそ 2.4 倍に増加しおいる。たた う぀病を原因ずする自殺者数も増加傟向にあり 2009 幎には 6,949 件自殺者党䜓の 44%がう぀ 病による自殺ずされおいる譊察庁2010; 厚生 劎働省2010。 その䞀方で重症床の高くない患者が増加傟向にあ りう぀病の軜症化が指摘されおいる笠原1992。 特に近幎では暜味・神庭2005が “ディスチミ ア芪和型” ず称するような兞型的なう぀病の特城が 芋られないう぀病患者の症䟋が倚数報告されおいる。 こうした軜症のう぀病患者は慢性化する䟋も倚く 治療や支揎の文脈においお問題ずなっおいる 3 。 1 本研究は The 2013 Pacific Rim International Conference on Disabilities and Diversity にお発衚し たものを加筆修正したものです。本研究実斜にあた りご協力くださいたしたすべおの調査協力者の皆 さたに心からの感謝を申し䞊げたす。 2“う぀病” ずいう語には気分障害における倧う぀ 病性障害単䞀゚ピ゜ヌド・反埩性だけでなく 特定䞍胜のう぀病性障害双極性障害の倧う぀病゚ ピ゜ヌドが含たれるこずがあるが本研究では DSM-IV-TR が定める倧う぀病性障害 単䞀゚ピ゜ヌ ド・反埩性のこずを “う぀病” ず呌称するこずず した。 パヌ゜ナリティ研究 2014 第 23 巻 第 1 号 1–12 原  著 © 日本パヌ゜ナリティ心理孊䌚 2014 3暜味・神庭2005が指摘する “ディスチミア芪和型” などのいわゆる “新型う぀病” に぀いおはその病 態に぀いお未だ議論の段階にあり今埌埓来型のう ぀病内因性う぀病ずの異同や適応障害などずの 関係に぀いおの実蚌的な研究が期埅されおいる。

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う぀病アナログ矀の特城に぀いお―抑う぀の連続性怜蚎の芳点から 1

川 本 静 銙 枡 邉 卓 也 小 杉 考 叞立呜通倧孊倧孊院文孊研究科 立呜通倧孊研究郚 山口倧孊教育孊郚

束 尟 幞 治 枡 邉 矩 文 サトりタツダ山口倧孊倧孊院医孊系研究科 山口倧孊倧孊院医孊系研究科 立呜通倧孊文孊郚

本研究ではう぀病患者ず類䌌した抑う぀症状を持぀非臚床矀を抜出しその特城を怜蚎した。う぀病患者および非臚床矀のBDI-II項目埗点に察しk-meansクラスタヌ分析を行った結果抑う぀状態が軜症の非臚床矀の党員ず䞭等症の非臚床矀の䞀郚の者が非抑う぀クラスタヌぞ分類された。䞀方残りの䞭等症の非臚床矀ず重症の非臚床矀の党員が抑う぀クラスタヌぞ分類された。このこずから軜症の非臚床矀の抑う぀症状は重症床の高いう぀病矀ずは類䌌性がないこずが明らかになった。たた重症の抑う぀状態にある非臚床矀ず重症床の高いう぀病矀には類䌌性が芋られた。ただし䞭等症の非臚床矀に぀いおはその䞀郚の者に重症床の高いう぀病矀ずの類䌌性が認められる䞀方で芋られない者も確認された。

キヌワヌド抑う぀連続性議論アナログ研究

問題ず目的

う぀病 2患者の増加ず倚様化

う぀病患者は増加傟向にあるずいわれお久しい。厚生劎働省による “患者調査厚生統蚈協䌚2010” によれば2008幎にはわが囜のう぀病患者数は玄70䞇人を超え調査開始時の1996幎

ず比范するずおよそ2.4倍に増加しおいる。たたう぀病を原因ずする自殺者数も増加傟向にあり2009幎には6,949件自殺者党䜓の44%がう぀病による自殺ずされおいる譊察庁2010; 厚生劎働省2010。その䞀方で重症床の高くない患者が増加傟向にあ

りう぀病の軜症化が指摘されおいる笠原1992。特に近幎では暜味・神庭2005が “ディスチミア芪和型” ず称するような兞型的なう぀病の特城が芋られないう぀病患者の症䟋が倚数報告されおいる。こうした軜症のう぀病患者は慢性化する䟋も倚く治療や支揎の文脈においお問題ずなっおいる 3。

1本研究は The 2013 Pacific Rim International Conference on Disabilities and Diversityにお発衚したものを加筆修正したものです。本研究実斜にあたりご協力くださいたしたすべおの調査協力者の皆さたに心からの感謝を申し䞊げたす。

2“う぀病” ずいう語には気分障害における倧う぀病性障害単䞀゚ピ゜ヌド・反埩性だけでなく特定䞍胜のう぀病性障害双極性障害の倧う぀病゚ピ゜ヌドが含たれるこずがあるが本研究ではDSM-IV-TRが定める倧う぀病性障害単䞀゚ピ゜ヌド・反埩性のこずを “う぀病” ず呌称するこずずした。

パヌ゜ナリティ研究2014 第 23巻 第 1号 1–12 原  著

© 日本パヌ゜ナリティ心理孊䌚 2014

3暜味・神庭2005が指摘する “ディスチミア芪和型”などのいわゆる “新型う぀病” に぀いおはその病態に぀いお未だ議論の段階にあり今埌埓来型のう぀病内因性う぀病ずの異同や適応障害などずの関係に぀いおの実蚌的な研究が期埅されおいる。

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2 パヌ゜ナリティ研究 第 23巻 第 1号

぀たり今日の日本においおは自殺の原因になるような重症のう぀病ず非兞型的で軜症のう぀病が倧きな問題ずなっおいるずいえる。このような背景を受けこれたでず同様のう぀病抑う぀に察する理解では珟状の把握が䞍十分だずいう認識が醞成され぀぀ある。粟神医孊の領域ではう぀病は“抑う぀” ずしおよりも疟病単䜍ずしお扱われるこずが䞻であり気分の萜ちこみや興味・喜びの喪倱などを䞻症状ずする粟神疟患ずしお扱われおいる。蚺断にはアメリカ粟神医孊䌚American Psychiatric AssociationAPAによる “粟神疟患の蚺断・統蚈マニュアルDiagnostic and Statistical Manual of Mental DisordersDSM” や䞖界保健機関World Health Organization WHOによる “囜際疟病分類International Statistical Classification of Diseases and Related Health ProblemsICD”が甚いられ操䜜的に定矩された蚺断基準を満たすこずで“倧う぀病性障害”や“う぀病゚ピ゜ヌド” ず蚺断される。そうしお蚺断されたう぀病は健垞な状態ずは区別されるものずしお理解されおいる。ただし健垞な状態ずの境界が明瞭ではないずする芋方もある。北村2003はDSMや ICDなどの操䜜的蚺断基準を甚いたずしおも実質的には抑う぀症状のたずたりずしおの “抑う぀症候矀” ず “う぀病” の区別が明確にあるわけではないず指摘しおいる。これにはう぀病は健垞な状態ずは違う異垞なもの぀たり疟病ずしお区別されるものであるず定矩される䞀方で健垞者の抑う぀状態ず疟病ずしおの抑う぀状態の関係に関する異垞心理孊においおの基瀎研究が埌回しにされがちであったこずが圱響しおいる。さお心理孊においおは疟病ずしおの “う぀

病”症状ずしおの “抑う぀” ずは異なるもう䞀぀の抑う぀぀たり気分ずしおの抑う぀を扱うこずが倚い。奥村・坂本2009によれば孊術的に “抑う぀” ずいう語はa気分ずしおの “抑

う぀気分”b抑う぀症状のたずたりずしおの“抑う぀症候矀”c疟病単䜍ずしおの “う぀病”ずいう䞉぀の意味で䜿甚されおいるずされる。もずより気分ずしおの “抑う぀”症状ずしおの “抑う぀”疟病ずしおの “抑う぀う぀病” は重なりあうものでありそれぞれの境界は曖昧である。このように心理孊における “抑う぀” の定矩が曖昧ずなっおいるのは心理孊における抑う぀研究が粟神医孊を远随する圢で行われおきたずいう背景が圱響しおいるず考えられる。坂本2005は粟神医孊における抑う぀研究は1990幎にはすでに盛んに行われおいたが心理孊においお抑う぀研究が䞀定の氎準で行われるようになったのは1990幎代の半ばであるず指摘しおいる。加えお心理孊における抑う぀研究はう぀病を想定した “抑う぀” のメカニズム解明や効果的な心理的介入手法の開発などを目的ずするものが倚く粟神疟患ずしおのう぀病を仮定した䞊で研究目的が蚭定されおいるず考えられる。たたそうした心理孊における抑う぀の枬定には粟神医孊における研究で䜜成された抑う぀尺床を甚いる傟向が匷い。以䞊を螏たえるず心理孊における “抑う぀” は暗黙のうちに粟神疟患ずしおのう぀病抂念を含みながらも䞊述した3点の “抑う぀” に぀いお敎理するこずなく研究が行われおきたず考えられる。䞊述したような蚺断に関わるう぀病の定矩や

心理孊における “抑う぀” ずいう語の䜿われ方などを鑑みればこれたで暗黙の前提ずされおきたう぀病の理解に぀いお再怜蚎を行う必芁があるこずがわかる。特に今日のう぀病をめぐる混乱ずさえ呌べる動向に぀いおもこれら䞉぀の “抑う぀”に぀いお敎理するこずで新しい展望が開けるかもしれない。抑う぀の連続性議論

う぀病ず疟病ずたではいかない抑う぀の境界蚭定の問題はこれたで “抑う぀の連続性議論”ずしお研究が行われおきた。Depue & Monroe

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う぀病アナログ矀の特城に぀いお 3

1978に端を発したこの議論には抑う぀には正垞ず異垞を分ける明確な境界がある぀たり疟病ずしおの抑う぀状態ずいうものが存圚し正垞な状態ずは明確に区別されるずいう立堎非連続説掟Depue & Monroe, 1978; Golin & Hartz, 1979; Coyne & Gotlib, 1983; Coyne, 1994などず疟病ずしおの抑う぀状態ず正垞な状態ずいうものには明確な境界線がないずいう立堎連続説掟Vredenburg, Flett, & Krames, 1993; Flett, Vredenburg, & Krames, 1997などの二぀がある。䟋えば非連続説掟のGolin & Hartz1979は

抑う぀尺床を因子分析した際にう぀病患者で芋られる身䜓症状に関する因子が倧孊生でう぀病患者に類䌌した特城を持぀䞀矀すなわちアナログ矀では芋られないため双方で抑う぀の構造が異なるず䞻匵した。連続説掟の立堎からは Vredenburg et al.1993がこのGolin & Hartz1979の知芋を批刀した。Vredenburg et al.1993はう぀病患者ずアナログ矀で抑う぀尺床の因子構造が異なるこずに぀いおは因子抜出に関わる統蚈手法の違いに垰因するもので䞀抂にアナログ矀ずう぀病患者で抑う぀の構造が異なるずはいえないずしたのである。たた䞀般的にアナログ矀の抑う぀症状は䞀過性のものであり長期にわたっお安定しおいないずいうこずが指摘されおきたがこれも分析䞊の問題ず考え構造方皋匏モデリングを䜿甚し枬定誀差を補正するこずによっおアナログ矀の抑う぀症状であっおも1ヵ月以䞊持続するこずを芋出しおいる。こうした議論の結果今日ではう぀病ずいう疟病単䜍で芋れば連続説掟がやや優勢に立っおいる。ただし連続説掟が優勢ずなりそれに䌎っおう぀病に類䌌した特城を持぀人々の矀が “非臚床” 矀ではなく “アナログ” 矀ずしお認識されるようになったもののどのような点がう぀病患者ず類䌌しおいるのかたたは類䌌しおいないのかなどの特城に぀いおは未だ怜蚎段階にある。特

にう぀病の各症状の芳点からみればう぀病のある症状はアナログ矀ずう぀病患者に共通し別のある症状は共通しないずいうこずもありうる。う぀病の症状に関しおはKraepelin1913 西䞞・西䞞蚳 1986がメランコリヌ性の特城ずしおたずめた「悲しいたたは䞍安な気分倉調ず思考・行為の抑制」が今日のう぀病症状の元ずなっおいるずいえる。Kraepelin1913 西䞞・西䞞蚳 1986は䞊述の症状をあくたでも躁う぀病のものずしおずらえおいたがLeonhardt1957 犏田・岩波・林・新井監蚳 2002がクレペリンの唱えるメランコリヌ性のみしか衚さない単極性のう぀病の存圚を指摘したこずにより䞊述の症状矀はその埌いわゆる内因性う぀病の特城ずしお広く知られるようになった。これらの症状はDSM-IIIAmerican Psychiatric

Association, 1980では「興味・喜びの消倱異質な気分早朝芚醒朝方の症状悪化著しい制止・焊燥明らかな食欲䞍振䜓重枛少過床・䞍適切な眪責感」ずしお新たにたずめられ倧う぀病性障害ずしお今日に匕き継がれおいる。今日甚いられおいるDSM-IV-TRAmerican Psychiatric Association, 2000 高橋・倧 野・染 矢蚳 20024ではDSM-IIIの症状矀に「快刺激ぞの反応消倱」ずいう症状が新たに加えられ今なおう぀病症状に぀いおは議論が継続されおいる。こうした各う぀病症状に着目するこずはう぀病患者ずアナログ矀の異同を明らかにする䞊で非垞に有益であるず考えられる。さらにう぀病患者ずアナログ矀の異同に぀い

お怜蚎する䞊でアナログ矀の抜出方法に留意する必芁がある。埓来のアナログ矀を察象ずした研究ではその倚くが倧孊生を察象に抑う぀尺床を

42013幎に最新版であるDSM-5が発衚された。蚺断における枠組み自䜓に倧きな倉曎はないが死別反応における抑う぀に぀いおは臚床刀断に委ねられるこずずなった。なお本研究では研究実斜時に最新版であったDSM-IV-TRを甚いおいる。

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4 パヌ゜ナリティ研究 第 23巻 第 1号

実斜し尺床で定められたカットオフ倀を甚いるこずによっお䞀定以䞊の点数のものをアナログ矀ずしお抜出しおきたそれ未満のものは健垞矀ずなる。しかしながら抑う぀尺床のカットオフ倀は臚床矀に察しお蚭定された倀であるためカットオフ倀以䞊の非臚床矀が実際には臚床矀ず類䌌しおいない抑う぀状態にある可胜性も指摘されおいるCoyne, 1994。Arnau, Meagher, Norris, & Bramson2001はBDI-IIのカットオフ倀に぀いお重症のう぀病患者ではなくプラむマリヌケアを受けた患者を察象ずしお信頌性および劥圓性を怜蚎した結果BDI-IIが定めおいるカットオフ倀14点よりもカットオフ倀を18点に蚭定する方が倧う぀病性障害の患者をスクリヌニングするのに適圓であるず述べおいる。ただしこの点に぀いおは未だ怜蚎段階であり䜕点以䞊であれば適切にスクリヌニングできるのかに぀いおは刀然ずしない。したがっお本研究ではアナログ矀の抜出においおBDI-IIのカットオフ倀である14点を甚いるこずに加えお他の手法でう぀病患者ず類䌌した抑う぀状態にある非臚床矀を抜出しどのような点がう぀病患者ず類䌌しおいるのかその特城を詳现に怜蚎する方が劥圓であるず考える。以䞊を螏たえ本研究ではう぀病アナログ矀

を“抑う぀重症床が健垞範囲にある者には類䌌せずか぀う぀病患者ず類䌌した抑う぀状態にある非臚床矀” ず定矩する。この定矩に沿う非臚床矀をう぀病アナログ矀ずしお抜出し抑う぀尺床を甚いおその特城を明らかにするこずを第䞀の目的ずする。第二に健垞者ずう぀病患者の連続性の䞭でう぀病アナログ矀の䜍眮づけに぀いお考察する。これらの怜蚎は連続説掟の立堎からう぀病の発症に関する心理的なメカニズムを明らかにする䞀助ずなる。その結果う぀病の早期発芋や予防適切な治療・支揎に寄䞎するこずが可胜になるず考えられる。

方  法

察象者

う぀病患者31名男性12名・女性19名平均幎霢48.4歳SD12.42374歳。倧孊生108名男性 77名・女性 31名平均幎霢 19.0歳SD1.81825歳。う぀病患者に぀いおはアメリカ粟神医孊䌚の “粟神疟患の蚺断・統蚈マニュアル第4版テキスト改蚂版Text Revision of the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth EditionDSM-IV-TR”American Psychiatric Association, 2000 高橋他蚳 2002の倧う぀病性障害の蚺断基準を満たした者で粟神科医による臚床蚺断面接および粟神疟患簡易構造化面接法Mini-International Neuropsychiatric InterviewMINISheehan et al., 1998 倧坪・宮岡・䞊島蚳 2003によっお倧う぀病性障害であるず蚺断された者である。なお察象ずしたう぀病患者は他の粟神疟患には眹患しおおらず倧う぀病性障害によっお入院しおいる者である。䜿甚尺床

小嶋・叀川2003が䜜成したBeck Depression Inventory Second editionBDI-II; Beck, Steer, & Brown, 1996日本語版を䜿甚した。BDI-IIは“眪責感”“喜びの消倱”“自殺念慮”“睡眠習慣の倉化” などのう぀病の諞症状に぀いお問う自蚘匏の質問玙尺床である。党21項目4件法03点で構成され合蚈埗点を算出するこずで回答者の抑う぀重症床を刀断するこずができる。手続き

う぀病患者 A倧孊医孊郚附属病院の協力の䞋A倧孊医孊郚附属病院粟神科に入院䞭であり粟神科医によっお倧う぀病性障害ず蚺断された患者にBDI-IIを実斜した。なお本研究実斜にあたり医孊郚附属病院の倫理委員䌚にお承認を埗た。倧孊生 A倧孊の講矩の担圓教員の蚱可を埗お講矩の最埌に質問玙を実斜した。なおフェ

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う぀病アナログ矀の特城に぀いお 5

むスシヌトならびに口頭にお回答に協力するか吊かは自由であるこず回収したデヌタは統蚈凊理の埌適正に管理するこず調査時点で粟神疟患に眹患しおいる者や気分がすぐれない者は調査に協力する必芁はないこずを䌝え了承が埗られた察象者に察しおのみ調査を実斜した。統蚈凊理

統蚈凊理にはIBM SPSS Statistics 19ならびにRver 2.15を䜿甚した。

結  果

察象者の抑う぀重症床

BDI-IIの合蚈埗点に぀いお小嶋・叀川2003を参考に察象者を健垞013点軜症1419点䞭等症2028点重症29点以䞊の4段階に分類した。その結果倧孊生108名のうち健垞ず刀断される者は56名軜症が25名䞭等症が23名重症が4名ずなった。たたう぀病患者31名に぀いおは健垞ず刀断される者は0名軜症が 7名䞭等症が 9名重症が 15名であった。以䞋倧孊生を非臚床矀ず呌称する。う぀病アナログ矀の抜出

本研究では抑う぀重症床が健垞の範囲にある者には類䌌せずう぀病患者に類䌌した抑う぀状態を持぀非臚床矀以䞋う぀病アナログ矀ずするを抜出するために同様の研究を行っおいるCox, Enns, & Larsen2001の手法を参考にしお 察 象 者 139名 の BDI-II項 目 埗 点 に 察 しk-meansクラスタヌ分析を行った。k-meansクラスタヌ分析は非階局的クラスタリングずも呌ばれデヌタ間の類䌌性距離を尺床ずしおあらかじめ定めたクラスタヌ数に分類するものである平井2012。本研究においおもCox et al.2001が察象者を “非抑う぀クラスタヌ” ず“抑う぀クラスタヌ” に分類したこずにならいクラスタヌ数を2に蚭定しお分析を行った。その結果をTable 1に瀺す。クラスタヌ1に分類されたのは蚈102名であり非臚床矀のうち

抑う぀状態が健垞であった者56名100%軜症であった者25名100%䞭等症であった者12名52%であった。たたう぀病患者の䞭で軜症の範囲にあった者7名100%䞭等症の範囲にあった者2名22%もクラスタヌ1に分類された。クラスタヌ1の構成員の倚くが健垞ず軜症の範囲にあり抑う぀重症床が䜎いず考えられるこずからクラスタヌ1を “非抑う぀クラスタヌ” ずした。䞀方クラスタヌ2に分類されたのは蚈37名であった。構成ずしおは非臚床矀の䞭で抑う぀状態が䞭等症であった者11名48%重症であった者4名100%であった。たたう぀病患者の䞭で䞭等症であった者7名78%重症であった者15名100%もクラスタヌ2に分類された。クラスタヌ2の構成員のすべおが䞭等症ず重症の範囲にあり抑う぀重症床が高いず考えられるこず加えお本研究で察象ずしたう぀病患者の71%がこちらに分類されおいたこずからクラスタヌ2を “抑う぀クラスタヌ” ずした。非臚床矀で抑う぀状態が軜症から重症にあった察象者52名のうち37名71%が非抑う぀クラスタヌぞ分類され残り15名29%が抑う぀クラスタヌぞず分類される結果ずなった。なお非抑う぀クラスタヌに分類された 37名のBDI-IIの合蚈埗点の平均は17.84点抑う぀クラスタヌに分類された15名のBDI-IIの合蚈埗点の

Table 1 各クラスタヌに分類された察象者の内蚳

察象者属性 重症床 非抑う぀クラスタヌ 抑う぀クラスタヌ

非臚床矀

健垞 56 100% 0 0%軜症 25 100% 0 0%䞭等症 12 52% 11 48%重症 0 0% 4 100%

う぀病患者軜症 7 100% 0 0%䞭等症 2 22% 7 78%重症 0 0% 15 100%

泚 単䜍は人カッコ内は圓該の重症床における人数の割合。

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6 パヌ゜ナリティ研究 第 23巻 第 1号

平均は27.87点であった。たたTable 1より䞭等症の範囲にある非臚床矀は抑う぀クラスタヌに分類される者ず非抑う぀クラスタヌに分類される者が混圚しおいたためBDI-IIの合蚈埗点ごずに察象者の分類状況をTable 2に瀺した。その結果単玔に合蚈埗点が高い者が抑う぀クラスタヌぞ分類されおいるわけではなく䟋えば合蚈埗点が23点の者は抑う぀クラスタヌぞ分類される䞀方で24点の者は非抑う぀クラスタヌぞ分類されるずいう結果を埗た。以䞊の結果から本研究ではアナログ矀の抜

出においお抑う぀重症床が健垞の範囲にある者ずは類䌌せずう぀病患者に類䌌した抑う぀状態を持぀非臚床矀ずいう条件を満たした抑う぀クラスタヌぞ分類された非臚床矀15名を “う぀病アナログ矀”非抑う぀クラスタヌぞ分類された非臚床矀93名のうちBDI-IIにおいお健垞の範

囲にあった56名を陀いた37名を “非う぀病アナログ矀” ずした。なお本研究の察象者におけるう぀病アナログ矀ず非う぀病アナログ矀の䜍眮づけをFigure 1に瀺す。う぀病アナログ矀の特城

䞊述したう぀病アナログ矀の特城を怜蚎するためにう぀病アナログ矀ず非う぀病アナログ矀ずの違いに぀いお怜蚎した。具䜓的にはBDI-IIの党21項目に぀いお t怜定を行うずずもに効果量rを算出したTable 3。効果量の指暙にはいく぀かあり䞭でもCohen’s dは代衚的なものであるがdの倀は理論的に䞊限ず䞋限が無制限であるため解釈が容易でないずいう問題がある。䞀方rの倀は01の範囲で収たり盎感的に理解しやすいため本研究では rに぀いお求めるこずずした。なおt怜定においお倚重怜定によるタむプ1゚ラヌを回避するためにFalse Discovery RateFDRによる調敎を行いp倀に盞圓するq倀を求めそれに察しお有意差の怜蚎を行った。結果ずしお䞡矀に有意な差が芋られたものは

“9自殺念慮” t16.853.08 “12興味喪倱” t503.74 “13決断力䜎䞋” t503.13“15掻力喪倱” t502 .83 “16易刺激性” t503.07“17集䞭困難” t503.59“20睡眠習慣の倉化” t502.62“21食欲の倉化”t502.87の 8項目であった。なお“1悲しさ”“2悲芳”“3過去の倱敗”“4喜びの消倱”“5眪責感”“6被眰感”“7自己嫌悪”“8自己批刀”“10萜涙”“11激越”“14無䟡倀感 5”“18疲劎感”“19性欲枛退” に぀いおは有意な差は芋られなかった。算出した各項目の効果量はTable 3の通りであ

Table 2  䞭等症の範囲においお非抑う぀クラスタヌおよび抑う぀クラスタヌに分類された倧孊生

BDI-II合蚈埗点 非抑う぀クラスタヌ 抑う぀クラスタヌ

侭等症

20点 2 021点 6 022点 3 023点 0 224点 1 025点 0 126点 0 327点 0 328点 0 2

泚単䜍は人。

Figure 1  本研究におけるアナログ矀の䜍眮づけ杉浊2009を参考に䜜成

5抑う぀症状のひず぀である “無䟡倀感” はBDI-IIでは “無䟡倀芳” ずなっおいるがDSM-IV-TRの翻蚳版American Psychiatric Association, 2000 高橋他蚳 2002では “無䟡倀感” ずなっおいる。本研究では蚺断基準であるDSM-IV-TRに埓い“無䟡倀感”の方が適圓であるず刀断し以降 “無䟡倀感”ずした。

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う぀病アナログ矀の特城に぀いお 7

る。Cohen1988は効果量 rの目安ずしお.10以䞊 .30未満のものは “効果量小”.30以䞊 .50未満のものは “効果量䞭”.50以䞊のものは “効果量倧” ずしおいる。本研究ではこれに埓い効果量の倧きさに぀いおの刀断を行った。効果量が倧きな項目は “9自殺念慮” のみであり䞭皋床の効果量のものは “4喜びの消倱”“12興味喪倱”“13決断力䜎䞋”“14無䟡倀感”“15掻力喪倱”“16易刺激性”“17集䞭困難”“20睡眠習慣の倉化”“21食欲の倉化” の 9項目であった。たた効果量が小さな項目は “1悲しさ”“3過去の倱敗”“5眪責感”“6被眰感”“7自己嫌悪”“8自己批刀”“10萜涙”“11激越”“18疲劎感”“19性欲枛退” の10項目であった。

考  察

本研究の目的はう぀病アナログ矀を抜出し

その特城を怜蚎するこずであった。具䜓的には非う぀病アナログ矀ずう぀病アナログ矀の違いに぀いお t怜定を甚いお抑う぀症状別に特城を粟査した。う぀病アナログ矀ず非う぀病アナログ矀の抜出

k-meansクラスタヌ分析の結果非臚床矀で抑う぀状態が軜症から重症であった察象者は健垞矀ずの類䌌性が高い䞀矀非抑う぀クラスタヌず重症床の高いう぀病患者ずの類䌌性が高い䞀矀抑う぀クラスタヌに分類された。その内蚳をBDI-IIが蚭定する抑う぀重症床から芋たずころ非臚床矀の䞭で軜症の範囲にあったすべおの者が非抑う぀クラスタヌに分類されたた非臚床矀の䞭で重症の範囲にあったすべおの者が抑う぀クラスタヌに分類された。しかし非臚床矀の䞭で䞭等症の範囲にあった者に぀いおは半数の12名が非抑う぀クラスタヌぞ分類さ

Table 3 う぀病アナログ矀ず非う぀病アナログ矀におけるBDI-II項目埗点

No 項目内容非う぀病アナログ矀 う぀病アナログ矀

t倀 q倀 効果量rM n37 M n15

1 悲しさ 1.05 1.40 ns 0.12 .22 2 悲芳 1.24 1.20 ns 0.84 .03 3 過去の倱敗 1.32 1.60 ns 0.36 .16 4 喜びの消倱 0.68 1.27 ns 0.12 .32 5 眪責感 0.84 1.00 ns 0.55 .10 6 被眰感 0.49 0.87 ns 0.27 .21 7 自己嫌悪 1.19 1.60 ns 0.26 .21 8 自己批刀 1.08 1.27 ns 0.46 .11 9 自殺念慮 0.41 1.33 3.08 0.04* .6010 萜涙 0.62 1.07 ns 0.12 .2911 激越 0.54 1.00 ns 0.12 .2812 興味喪倱 0.67 1.47 3.74 0.04* .4713 決断力䜎䞋 0.41 1.07 3.13 0.04* .4114 無䟡倀感 1.03 1.60 ns 0.05 .3015 掻力喪倱 0.89 1.40 2.83 0.04* .3716 易刺激性 0.62 1.40 3.07 0.04* .4017 集䞭困難 1.16 2.00 3.59 0.04* .4518 疲劎感 1.00 1.27 ns 0.36 .1719 性欲枛退 0.78 1.07 ns 0.36 .1620 睡眠習慣の倉化 1.11 1.73 2.62 0.04* .3521 食欲の倉化 0.70 1.27 2.87 0.04* .38

* q.05

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8 パヌ゜ナリティ研究 第 23巻 第 1号

れ残り11名が抑う぀クラスタヌぞず分類される結果ずなった。したがっおう぀病アナログ矀は抑う぀状態が䞭等症および重症の非臚床矀であるこずが明らかになった。Cox et al.2001ではBDIの合蚈埗点が21点以䞊の非臚床矀がう぀病患者のプロフィヌルず非垞に近いずいう結果を瀺しおいる。BDIにおける抑う぀重症床の指暙から考えるずこれは䞭等症の範囲から䞀定以䞊の埗点を瀺す者に぀いお健垞矀ずは類䌌せずか぀う぀病患者ずの類䌌性が認められるずいうこずでありBDI-IIを甚いた本研究における結果もこれに類䌌したものずなった。ただし本研究においお䞭等症の非臚床矀に぀いおは重症床の高いう぀病矀ず類䌌性を持぀者ずそうでない者ずが混圚しおいる状態にあった。加えおTable 2で瀺したように䞭等症の範囲においおBDI-IIの合蚈埗点が高い者が重症床の高いう぀病患者ず類䌌するわけではないこずが明らかになった。この点に぀いおは本研究では少数䟋のみを抜出したにすぎないため今埌さらに怜蚎を行う必芁があるずいえる。たた本研究の結果から既存のBDI-IIのカットオフ倀14点のみを甚いたアナログ矀の抜出には問題があるこずが再床確認された。アナログ矀の抜出に既存のカットオフ倀のみを䜿甚するず軜症の抑う぀状態にある非臚床矀をアナログ矀ずしお抜出するこずになる。本研究の結果から軜症の抑う぀状態にある非臚床矀は健垞矀ずの類䌌性が高いこずが明らかになっおいるため既存のカットオフ倀を甚いたアナログ矀の抜出ではう぀病患者の抑う぀状態に類䌌しない察象者をアナログ矀ずしお抜出する危険性があるこずが瀺唆された。倧孊生などの非臚床矀を察象ずしたアナログ研究は倚数の協力者を埗やすいずいう利点もあるが尺床に蚭けられおいるカットオフ倀や平均倀による抜出法だけは䞍十分である。抑う぀の連続性を仮定する䞭でアナログ矀を抜出するためには尺床に蚭けられおいるカッ

トオフ倀に加えクラスタヌ分析などの統蚈手法やDSM-IV-TRに蚭けられおいる機胜の党䜓的評定尺床The Global Assessment of Functioning ScaleGAF-Scale6の医垫などの専門家による評定など耇数の指暙を甚いるこずで抜出するアナログ矀の粟床を䞊げる必芁があるだろう。なおk-meansクラスタヌ分析によっおう぀病患者の䞭で軜症の範囲にあったすべおの者が非抑う぀クラスタヌに分類されるずいう結果ずなった。この点に぀いおは本研究においお察象ずしたう぀病患者は調査時点で粟神科にお入院治療を受けおおり治療における時間の経過によっお症状がある皋床寛解しおいる者もいるず考えられる。加えおBDI-IIの感床および特異床を考慮したずき医垫は疟患ありず刀断したが尺床では疟患なしず刀断されるケヌス停陰性もありうる。本研究の結果はそうした尺床䞊の限界点が圱響しおいる可胜性も考えられる。したがっお軜症の範囲にあったう぀病患者が非抑う぀クラスタヌぞ分類されたずはいえその結果だけで単玔に健垞者ず類䌌しおいるず刀断するこずはできない。症状別から芋たう぀病アナログ矀ず非う぀病アナ

ログ矀の特城

䞊述のように非臚床矀の䞭には重症床の高いう぀病患者の抑う぀症状ず類䌌性を持぀者う぀病アナログ矀ずそうでない者非う぀病アナログ矀ずがいるこずが確認された。そこでそれらの間にある違いに぀いお粟査するために各抑う぀症状の珟れ方にどのような差異が芋られるかを怜蚎した。以䞋症状別に埗られた結果に぀いお考察しおいく。

t怜定および効果量を算出した結果から䞡矀においお症状の皋床に明確な差が芋られたものは“自殺念慮” であった。“自殺念慮” はう぀

6GAF-ScaleはDSM-IV-TRたでの倚軞蚺断においお第5軞ずしお採甚されおいたがDSM-5では採甚されおいない。

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う぀病アナログ矀の特城に぀いお 9

病の䞭でもより重症床の高い者に芋られる特城であり自身に察する無䟡倀感や日垞生掻を送る䞊で障害ずなるレベルの抑う぀症状が長期にわたっお継続するために出珟しやすくなるものであるず考えられる。非臚床矀ずいえども自殺念慮に぀いおの反応が芋られる者には重症床の高いう぀病矀ずの類䌌性が芋られたこずから異垞なレベルの抑う぀症状を抱えおいる可胜性が瀺唆されたずいえる。次に有意差があった症状の䞭で効果量が䞭皋床であったものは“興味喪倱”“決断力䜎䞋”“掻力喪倱”“易刺激性”“集䞭困難”“睡眠習慣の倉化”“食欲の倉化” であった。

“興味喪倱” に぀いおは日々の生掻においお趣味掻動などを以前ず同様に継続できおいるかに぀いお問うものでありDSMなどの操䜜的蚺断基準ではう぀病蚺断の䞭栞的な症状ずしお扱われ お い る。Cox, Enns, Borger, & Parker1999では健垞矀ずう぀病患者においお最も差が芋られた項目が快感情を埗られないずいうアンヘドニア傟向に関するものであった。本研究の結果もCox et al.1999の結果ず䞀臎するものである。これたで非臚床矀のアンヘドニア傟向に぀いおはあたり泚目されおこなかったが重症床の高いう぀病患者ずの共通性が高い矀にはそうした特城が芋られたこずから今埌泚目しおいくこずが必芁ずなるであろう。

“決断力䜎䞋” や “掻力喪倱”“易刺激性”“集䞭困難” は日垞生掻特に勉孊や仕事などの䜜業を行う際に問題ずなる症状矀である。これらの症状が出珟するこずによっお仕事や孊校家庭などでミスが増加し過床に無䟡倀感が増加する可胜性が瀺唆される。日垞生掻に支障が出る可胜性があるこれらの症状が出珟しおいれば非臚床矀においおも疟病ずしおの抑う぀状態にある可胜性に぀いお考慮すべきであろう。たた同時に “睡眠習慣の倉化” や “食欲の倉化” は䜓調悪化に盎接的に結び぀くためこれらの倉化が珟れた時には

粟神疟患の兆しず捉えるこずも可胜であろう。なおこの二぀の症状は自身の䞍調に぀いお気づく䟋ずしお最もわかりやすいためこのような症状を理由ずしお内科ぞ受蚺しそれによっお初めおう぀病であるず蚺断されるケヌスも少なくない䞉朚2002。以䞊う぀病アナログ矀ず非う぀病アナログ矀においお差が芋られた症状に぀いお述べおきたがこれら八぀の症状に぀いおはその倚くが症状の出珟によっお日垞生掻を営むうえで支障が出るものであったこずに特城がある。䞋山1998は正垞ず異垞を分ける基準の䞀぀ずしお “適応的基準” を挙げおいる。それによれば適応的基準ずはある人が所属する瀟䌚や集団に適応し参加できおいる状態を正垞瀟䌚的掻動ができおいない䞍適応な状態を異垞ずするものであり医療機関や臚床心理の専門家のずころぞ行く堎合の刀断のほずんどがこの基準によるものであるずされる。DSM-IV-TRにおいおも抑う぀症候矀によっお日垞生掻がどの皋床阻害されおいるかを刀断する機胜の党䜓的評定尺床GAF-Scaleが蚭けられおおり「倧う぀病゚ピ゜ヌド」の基準を満たすだけでなく抑う぀症状によっお瀟䌚的もしくは職業的に機胜の障害が生じおいるこずが蚺断においお重芁ずなる。本研究で芋出された八぀の症状矀はそうした適応的基準やGAF-Scaleの芳点から芋れば自身にずっおたた呚囲の人にずっお異垞状態の端緒ず捉えられるものであり非臚床矀ずいえども珟れおいる症状を軜く芋るべきではないずいえるだろう。以䞊を螏たえ本研究で差の芋られた症状矀に぀いおは疟病ずしおの抑う぀状態の䞭栞をしめる重芁な指暙になり埗る可胜性があるため今埌さらに粟査しおいく必芁があるず考えられる。䞀方で䞡矀に差の出なかった症状矀は“悲しさ”“自己嫌悪” など䞀般的には抑う぀気分ず称されるものであった。抑う぀気分はう぀病蚺断の䞭でも䞭栞的な症状の䞀぀であるがあくた

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でも認知的な偎面にずどたるためネガティブな認知の匷床だけでは疟病ず刀断するこずが困難であるず掚察される。たた“疲劎感” や “性欲枛退” に぀いおはう぀病に特城的な症状ずいうわけではないため有意な差が埗られなかったものず考えられる。以䞊のようにう぀病アナログ矀ず非う぀病アナログ矀の異同ずしおは“自殺念慮” や “興味喪倱”“決断力䜎䞋”“睡眠習慣の倉化”“食欲の倉化” などの八぀の症状矀に぀いおその衚れ方が異なるこずが明らかになった。たた “悲しさ”や “自己嫌悪” などのいわゆる抑う぀気分や“疲劎感” や “性欲枛退” に぀いおは䞡矀においお症状の珟れ方に倧きな違いはないこずが明らかになった。う぀病アナログ矀の䜍眮づけ

最埌に本研究の限界点ず共にう぀病アナログ矀の䜍眮づけに぀いお述べる。我が囜では粟神科ぞのスティグマなどによりう぀病患者の受蚺率が他囜ず比范しおも䜎いこずが指摘されおいる川䞊2007。しかしながら本研究で察象ずしたう぀病患者は患者本人もしくは家族が粟神科や心療内科ぞのスティグマをこえお受蚺行動を起こし粟神科病棟ぞ入院ずなった患者である。これらのこずを螏たえれば本研究で察象ずしたう぀病患者が倚様な背景を持぀う぀病患者党䜓を代衚するような察象者であるずはいいがたい。したがっお本研究で埗られた結果に぀いお知芋適応の拡倧に぀いおは留意すべきである。たた察象ずした倧孊生に぀いおも留意すべき点がある。倧孊生察象者には粟神疟患に眹患しおいる者や気分のすぐれない者に぀いおは調査協力の必芁がないこずを䌝えその䞊で調査を行った。しかしながら察象者の䞭には実際には蚺断が぀いおいないだけでう぀病に眹患しおいる者がいる可胜性も吊定できない。本研究では察象者が倧孊の講矩ぞ出垭できおいるずいう点からう぀病蚺断の必須事項である機胜障害は起こ

しおいないず考え非臚床矀ずしお扱ったが今埌は倧孊生の抑う぀重症床に぀いお非臚床矀ずしお扱う際には抑う぀尺床以倖の項目などを甚いおよりセンシティブに扱う必芁があるだろう。本研究ではう぀病アナログ矀の特城を怜蚎するうえでこれたでのように抑う぀尺床を甚いおカットオフ倀により二矀に分けお比范するずいうような手法をずらなかった。尺床を甚いお「量でずっお質で分ける」ずいう手法を取る限り論理矛盟を避けられず曖昧な結果にしかならないためである。たた本研究では臚床矀ず非臚床矀を仮説的に

二分可胜な矀ず眮き䞡矀に抑う぀尺床を斜行する手法を甚いた。その結果この二矀は刀別するこずができなかった。その理由は非臚床矀に抑う぀的な人たちがいたのみならず臚床矀においおもより軜症な人たちが存圚したためである。特に本研究で察象ずした倧孊生の䞭にはう぀病ず蚺断されおいないだけでう぀病の域にある可胜性がある者の存圚が掚察される。たた䞀方でう぀病患者の䞭にも治療効果やBDI-IIの限界点から抑う぀重症床がより軜症にあるずいう結果ずなった者が存圚する。これらを四぀の矀ずしお考えるこずも可胜だがむしろ連続的に考えるこずが必芁であろう。この点に぀いお情報論的に考えた時臚床珟堎ではう぀病ずいう疟患に眹患しおいる人に治療を斜さない゚ラヌず眹患しおいない人に治療を斜す゚ラヌがある。これは非連続説的に考える時に必然的におきる゚ラヌである。しかし連続説的に考えればこうした゚ラヌの問題ではなくその個人に適切な支揎をするこずが重芁だずいう芋解に行き着くだろう。なお本研究での怜蚎は抑う぀尺床を甚いた䞀時点での調査であるため時間の経過が捚象されおしたっおいる。時間の経過ずずもにう぀病の病態が倉化しやすいずいうう぀病の特城を考えればう぀病アナログ矀の抜出においおも抑う぀

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う぀病アナログ矀の特城に぀いお 11

尺床を2回以䞊枬定するなどの枬定䞊の工倫が必芁になっおくるものず考えられる。したがっお今埌はう぀病アナログ矀抜出の手法をさらに粟緻に行い非う぀病アナログ矀からう぀病アナログ矀ぞの倉遷やう぀病アナログ矀からう぀病患者ぞの倉遷に぀いお怜蚎を行うこずが求められるだろう。

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―2013.4.23受皿2014.1.14受理―

Analogues of Depression: From the Perspective of the Continuity of Depression

Shizuka Kawamoto1, Takuya Watanabe2, Koji Kosugi3, Koji Matsuo4, Yoshifumi Watanabe4 and Tatsuya Sato5

1 Graduate School of Letters, Ritsumeikan University2 Division of Research, Ritsumeikan University

3 Faculty of Education, Yamaguchi University4 Graduate School of Medicine, Yamaguchi University

5 Faculty of Letters, Ritsumeikan University

The Japanese Journal of Personality 2014, Vol. 23 No. 1, 1–12

This study investigated aspects of analogues of depression. Cluster analysis and a symptoms approach were used to identify characteristics of analogues of depression. Patients with major depressive disorder provided the seed points for the depressed cluster, and non-distressed university students provided the seed points for the non-depressed cluster. The results showed that the non-depressed cluster included all the mild-depression subjects and part of the moderate-depression subjects of the distressed university students. On the other hand, the depressed cluster included other moderate-depression subjects and all the severe-depression subjects. These results indicate that the symptoms of mild depression among distressed university students have little in common with severe clinical depression. However there was a sequence of continuity between the symptoms of severe-depression subjects of the distressed university students and patients with severe clinical depression.

Key words: depression, continuity debate, analogue study