INDEX []生体消毒法 最近の消毒法あれこれ...

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INDEX◆ 巻頭言

◆ 特集ー最近の消毒法あれこれ

 病院感染対策に思うこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

 生体消毒法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

◆ トピックス最新のSARSの疫学および消毒に関する情報

◆ 最新の研究から

◆ サイエンスプラザ 洗浄と界面活性剤の話

 消毒薬抵抗菌の問題点とその対策

 器材・環境消毒法

特集 褥瘡ハイジーンケア褥瘡対策のポイントとスキンケア褥瘡と感染症褥瘡対策チームの活動例●東芝病院 ●NTT東日本関東病院●国立療養所中部病院

花王提案のおしり(褥瘡)ハイジーンケアシステム トピックス●レジオネラ対策

No.3 2003年 2月発行

特集 医療用器械・器具の洗浄と感染予防医療現場における器械・器具の洗浄ーより効果的な洗浄方法を構築する ための留意点ー

医療用器械・器具洗浄の科学医療現場における器械・器具の洗浄例●一次処理工程における酵素洗浄剤の使用 ●医療現場における超音波洗浄と ウオッシャーディスインフェクター

花王提案の医療用器械・器具洗浄システム

No.2 2002年 10月発行「花王ハイジーン ソルーション」発刊にあたって「花王ハイジーン ソルーション」発刊によせて

特集 CDCの新しいガイドラインと 花王ハイジーンシステムについて 手指衛生のためのCDCガイドライン 花王が提案する手指衛生管理システム ー手洗い・手指消毒・ハンドケアー ●手指皮膚とハンドケアの科学 ●手指洗浄剤の科学 ●手指殺菌・消毒剤の科学 ●手荒れと手指衛生の科学 ●花王製品の性能・技術紹介 ●花王製品の使用症例報告 ●花王提案の手指衛生管理システム

創刊号 No.1 2002年 6月発行

バックナンバーのご紹介

巻頭言 褥瘡対策チームの一員として1年間院内回診をして感じたこと特集 病院感染対策のさらなる向上をめざして病院感染対策をさらに向上させるための組織作りと今後の課題病院感染対策の活動事例●特定医療法人 富田浜病院●昭和大学附属烏山病院

海外感染対策事情●ヨーロッパの感染対策最新事情

話題 臨床検査室の役割●微生物検査が外部委託という制約された環境下での病院感染防止対策

最新の研究から●ハンドケア剤が手指殺菌洗浄剤や手指消毒剤の殺菌効果に及ぼす影響

サイエンスプラザ●セラミドの話

トピックス●インフルエンザ 対策

No.5 2003年 10月発行

特集 感染対策の院内教育院内教育の現状と将来器械・器具の洗浄・消毒・滅菌の教育環境の清掃・消毒の教育洗浄剤・消毒剤適正使用の教育感染対策の院内教育の活動事例●さいたま市立病院 ●帝京大学医学部附属病院●東芝病院

海外感染対策事情●米国の感染対策最新事情

トピックス●セラチア感染対策

No.4 2003年 6月発行

SARSウィルスと消毒剤をイメージしてCGを作成したものです。

表紙のCG

生体消毒法

最近の消毒法あれこれ最近の消毒法あれこれ

 消毒は滅菌と異なり一定の抗微生物スペクトルを持つ処理方法であるため、スペクトルの範囲から外れた微生物は処理できな

いことになる。消毒は一般にDisinfectantで表現されるが、特に生体に使用する消毒薬をAntisept icと表現している。生体消

毒薬は正常の皮膚・粘膜、損傷部位の皮膚・粘膜、さらに手指の消毒など感染防止には欠くことができない薬剤である。しかし、

使用部位や使用濃度などが消毒薬によって異なっているため適正に使用しないと思わぬ副作用が生じることを忘れてはならない。

 最近、手洗い・手指消毒および刺入部の消毒について米国疾病管理予防センター(CDC)のガイドラインが改訂され、エビデ

ンスに基づいた消毒薬の選択や使用法が推奨されている。

山形大学医学部附属病院副薬剤部長

はじめに

 手指には常在菌と通過菌(一過性菌)があり、常在

菌は皮膚深部に存在するため、手洗いや手指消毒に

よって除くことは困難である。しかし、通過菌は一過

性に皮膚に付着した菌であるため、手洗いや手指

消毒によってある程度除くことが可能である。例えば、

手洗いや手指消毒後にパームスタンプなどに手指を

押し付けて培養すると、時に数個のコロニーが認めら

れる程度で、多くの付着した細菌は除かれることが

わかる。しかし、時間の経過とともに手指表面へは

皮膚の深部から常在菌が出現し、数時間後には多く

のコロニーの出現を認めることとなる。通常これらの

常在菌の多くはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌やバチ

ルス属であるために、院内感染などに関与することは

稀であるが、患者ケアなどによって手指に付着した

病原微生物(通過菌)が感染伝播を誘発する場合が

少なくない。そこで、手洗いや手指消毒の励行は感

染伝播を防止するための最も有効な方策の一つと

言われている。

 手洗いや手指消毒は、消毒薬を使用する場合と

通常の石鹸を使用する場合などリスクによって使い

分けが勧められている。すなわち、日常の手洗いには

プレーン石鹸が使用されるが液体石鹸が固形石鹸

より衛生的に使用できる。消毒薬を使用するのは、

患者ケアの前後、汚染物を扱った後、衛生操作の

前後などで、流水下(スクラブ法)で使用される。また、

手術時の手洗いは言うに及ばず消毒薬を使用した

スクラブ法が適用される。ところで、CDCの手指衛

生のためのガイドライン1)が改訂され、これまで流水

と石鹸による手洗いの奨励から、積極的にアルコー

ルベースの消毒薬を用いた手指消毒に改訂された。

この背景には、手洗いの重要性を十分認識している

医療スタッフが多い反面、実際の手洗いに要する時

間は10秒前後と、短時間であるために手指に付着

した通過菌を除くことが十分でなく、アルコールベ

ースの消毒薬では10秒程度の接触により、手指付

着菌を除くことが可能であるとのエビデンスがある

理由からである。しかし、全く流水による手洗いを否

定しているわけではなく、目に見える汚れや血液や

タンパク質などが付着し、汚染された場合には流

水によるスクラブ法の後にアルコールベース消毒薬

の使用を推奨している。スクラブ用の消毒薬として

わが国で認められている消毒薬は、4%クロルヘ

キシジンおよび7.5%ポビドンヨード製剤の2種類だ

けであるが、アルコールベースの消毒薬(速乾性擦

手洗い・手指消毒

特集

白石 正

2

式消毒薬)は0.2%ベンザルコニウム70%エタノール、

0.2 - 0.5%クロルヘキシジン70%エタノール、0.5%ポ

ビドンヨード70%エタノール製剤が市販されている。

また、最近ではゲル状のエタノール製剤も市販され、

主成分がエタノールだけの製剤やそれに0.2%クロル

ヘキシジンを添加して持続性を持たせた製剤など

工夫がなされてきている。このゲル状製剤に関して

Kramerらは2)アルコールベースの液体製剤とゲル

製剤の殺菌効果を比較しており、ゲル状製剤は欧州

規格3)EN1500に適合していないと報告している(表1)。

わが国に市販されている70%エタノールにクロルヘキ

シジンを添加したゲル製剤については触れていない

ため、今後これらを検討する必要がある。手術時の

手洗いや手指消毒では、アルコールベースの消毒薬

だけを使用することはほとんどないと考える。通常は

スクラブ法による手洗いが行われ、この場合に使用

される消毒薬は、4%クロルヘキシジンおよび7.5%ポ

ビドンヨード製剤である。4%クロルヘキシジン製剤は

製品によって即効性と持続性が異なるとの報告がな

されている4)。4種類の製剤の即効性と消毒3時間後

の持続性をLog減少で見た場合に、hibiscrubが

他の製剤に比較して良好(Log減少が大きいほど即

効性と持続性あり)であることが示されている(表2)。

また、手術時にスクラブ用消毒薬で手洗い後に速乾

性擦式消毒薬を使用する2段階手指消毒法がさら

に有効であるとの報告もなされている5)。当院でも

スクラブ用消毒薬で手洗い後にクロルヘキシジンエ

タノールを使用した2段階法を実施した群では消毒

薬の持続効果のあることを認めているため6)、手術室

で現在2段階法を実施している(図1)。

生体消毒法

表1 手指消毒液剤とゲル剤の減菌効果比較

NS:有意差なしKramer A et al : Lancet 359,1489,2000

表2 クロルヘキシジンスクラブ4製剤の速効性および   持続性の比較

製 品 名速効性 持続性(3時間)

皮膚付着菌平均Log10減少

Babb JR : J Hosp Infect 18,41-48,1991n=27

wicamclor

chlorohex

hibiscrub

uniscrub

0.35

0 .48

1 .01

0 .84

0 .11

0 .37

1 .16

0 .97 図1 クロルヘキシジンスクラブ製剤による手洗いおよびその後に クロルヘキシジンアルコールを併用した2段階法における 消毒持続効果(スタンプ法)

50

40

30

20

10

0

コロニー数

手洗い直後 3時間後 4時間後 手洗い直後 3時間後 4時間後

スクラブ製剤単独(n=5) スクラブ製剤+アルコール製剤併用(n=5)

ゲ ル 剤

アルコール製剤平均reduction factor

60%イソプロパノールreduction factor P

液  剤

A

B

C

D

E

62%エタノール

70%エタノール

60%エタノール

A

B

75%エタノール

45%イソプロパノール +10%モノプロパノール

モノプロパノール +イソプロパノール(計70%)

60%イソプロパノール +消毒薬

C 45%イソプロパノール +30%モノプロパノール

30.7

3 .36

3 .07

4 .78

4 .32

3 .07

3 .07

4 .88

4 .10

4 .26

4 .12

4 .78

4 .45

4 .10

4 .96

4 .23

<0.01

<0.01

<0.01

NS

NS

<0.01

<0.01

NS

3

刺入部位の消毒

皮膚・粘膜の消毒

4

表3 血管カテーテル挿入部位に使用する消毒薬の除菌   および血流感染比較

報 告 者

計 (8.7%) (14 .2%) (0.9%) (2.12%)

カテーテル付着菌培養陽性

カテーテル血流感染

Maki et al

Sheehan et al

Meffre et al

Mimoz et al

Legras et al

LeBlans&Cobrtt

Humaretcl

Knasinski&Maki

Nathon C et al :Ann Intern Med 136 ,792 - 801, 2002 .一部引用

5/214(2.3)

3/169(1.8)

9/568(1.6)

12/107(7.1)

19/208(9.1)

6/83(7.2)

36/116(31.0)

33/349(9.5)

21/227(9.2)

12/177(6.8)

22/549(4.0)

24/145(16.6)

31/249(12.4)

23/161(16.1)

27/116(23.3)

127/500(25.4)

1/214(0.4)

1/169(0.6)

3/568(0.5)

3/170(1.8)

0/208(0)

  -

4/193(2.1)

5/349(1.4)

6/227(2.6)

1/177(0.6)

3/549(0.5)

4/145(2.8)

4/249(1.6)

  -

5/181(2.8)

20/500(4.0)

 刺入部位とは注射部位、採血部位および血管カテ

ーテル挿入部位などがある。注射部位および採血部

位の消毒には主に、消毒用エタノール、70%イソプロ

パノール、変性アルコールなどが使用されており、こ

れは即効性と速乾性にすぐれている理由からである。

また、クロルヘキシジンエタノールやポビドンヨードエタ

ノールなどを使用している医療施設も散見されている。

消毒用エタノール、70%イソプロパノール、変性アル

コールの殺菌効果は、未希釈においてほぼ同等と言

われているが7)、価格的に消毒用エタノールは酒税

対象となるため70%イソプロパノール、変性アルコール

に比較して高価である。この理由もあって70%イソプ

ロパノールを使用している医療施設が多い8)。しかし、

最近では消毒用エタノールに少量のイソプロパノール

やグリセリン、ユーカリ油などを添加した安価な変性

アルコール製剤が登場し話題となっている。アルコール

製剤はその特性からアルコールが揮発して濃度低下

を生じるため、刺入部位の消毒に使用されるアルコール

綿の留意点としては、大容量の作り置き、容器のふた

の長時間開放、また継ぎ足しなどをしないなど十分な

保管管理が必要となる。最近、アルコール綿は市販品

を使用している医療施設が多くなっているが8)、容器

から直接素手でアルコール面を取ることなどによって

汚染することなどを考えれば、単包化製品の使用が

推奨される。

 血管カテーテル挿入部位の消毒は、注射部位や

採血部位と異なって感染が生じやすく、特に中心

静脈カテーテル(CVC)に関連した血流感染(BSI)の

発生率が問題となっている。挿入部位の消毒には、

ポビドンヨード製剤を使用している医療施設が多く見

受けられる一方で、CDC血管内カテーテル由来感染

防止ガイドライン19969)では、2%クロルヘキシジンア

ルコールが推奨されている。しかし、ポビドンヨード

やアルコールの使用を否定してはいない。血管カテー

テル挿入部位の消毒に関して、カテーテル付着菌およ

びカテーテル血流感染者と分けてクロルヘキシジン

群とポビドンヨード群を比較した結果、表3に示し

たように有意にクロルヘキシジン群が付着菌および

血流感染者が少ないと報告している10)。また、Gar-

landらも10%ポビドンヨードに比べて0.5%クロルヘキ

シジン70%イソプロパノールを使用した群で菌陽性率

が有意に低いことを報告している11)。クロルヘキシジン

の持続効果が優れていることがこの理由となっている。

わが国では、0.5%クロルヘキシジン70%イソプロパノ

ールの市販はされていないが、0.5%クロルヘキシジン

70%エタノール製剤が市販されているため、ほぼ同等

の殺菌および持続効果と考えられる。

 正常皮膚の消毒には、消毒用エタノールなどを中

心としたエタノール製剤が使用されているが、損傷皮

膚には禁忌となっており、損傷および創傷皮膚の消

毒に使用する消毒薬は二次感染防止の意味から10

%ポビドンヨード製剤や0.05%クロルヘキシジン製剤

が使用されている。手術部位の皮膚消毒は、10%ポ

ビドンヨード製剤が多くの医療施設で使用されている

が、手術部位に広範囲かつ多量に使用されるため、

背部などにポビドンヨードが溜まり酸化還元反応に

よって接触性皮膚炎を生じることがある。したがって、

これを防止するには多量に塗布するよりも2~3分で

乾燥する程度の使用で数回に分けて塗布することが

勧められる。また、本剤の主成分であるヨウ素は、火

傷部位や新生児の皮膚から吸収率が高いため、妊婦

引用文献1)Boyce JM et al : Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Sett ings 2002. Recommendations of the Heal thcare Infection Control Pract ices Advisory Committee and the HICPAC/SHEA/APIC/IDSA Hand Hygienic Task Force.2)Kramer A et al : Limited efficacy of alcohol-based hand gels. Lancet 359:1489,20023)European Committee for Standardization, Chemical disinfectants and Ant iseptics( phase 2 /step 2 ), European Standard EN1500, Brussels Belgium : Central Secretariat 1997.4)Babb JR et al : A test procedure for evaluating surgical hand disinfection. J Hosp Infect 18 : 41- 49,1991.5) Pereira LJ et al: An evaluation of five protocols for surgical handwashing in relation to skin condition and microbial counts. J Hosp Infect 36 : 49-65,1997.6)白石 正 他 : 手術介助者の手指消毒における除菌とその持続効果の検討. 臨床と微生物 18: 574-551,1991.7)白石 正 他 : エタノール、イソプロパノール、メタノール変性アルコール製剤に  関する殺菌効力の検討.環境感染 13 : 108 -112,1998.

8)大久保 憲 : アルコール類消毒薬使用状況の調査.   第18回リスタークラブ集会記録.14 -17, 2002.9)Guidel ine for the prevent ion of intravascular catheter-related   infect ions.ht tp:www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr / r r5110.pdf.10)Nathorn C et al: Chlorhexdine compared with povidone-iodine solution for vas- cular catheter-site case: A meta-analysis. Ann Intern Med 136: 792-801,2002.11)Garland JS et al: Comparison of 10% povidone-iodine and 0.5% chlorhexdine gluconate for the prevention of peripheral intravenous catheter colonization in neonates: prospective trial. Pediatr Infect Dis J 14:501-516,1995.12)Chabrolle JP et al : Goitre and hypothyroidism in the newborn after   cutaneous absorption of iodine. Ach dis Chlid 53 : 495-498,197913)Etling N et al : The iodine content of aminiotic fluid and placental transfer  of iodinated drugs. Obstet Gynecol 53: 376-380,197914)厚生省: 医薬品副作用報告 No.5,197415)Dukes MN 編,秋田大学医学部訳:メイラー医薬品の副作用大辞典第12版,  西村書店,東京,p603,1998

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生体消毒法

表4 粘膜に適応できる消毒薬

手術部位粘   膜

0.01- 0.025% 塩化ベンザルコニウム0.01- 0.025% 塩化ベンゼトニウム10 %     ポビドンヨード

結 膜 嚢0 .05%以下  クロルヘキシジン(非イオン界面活性剤を添加していない製剤)0.01- 0.05%  塩化ベンザルコニウム

口腔粘膜

       ヨードチンキ0.05 - 0.1%  アクリノール1.5 - 3 .0%  オキシドール0.7%  ポビドンヨードうがい用

耳鼻粘膜 0 .02 - 0 .05% アクリノール1.5 - 3 .0%  オキシドール

膣0 .02 - 0 .05% 塩化ベンザルコニウム0.025%  塩化ベンゼトニウム

 生体に使用する消毒薬について述べてきたが、今後さまざまなエビデンスによってガイドラインの改訂や使用方法などに変化が生

じるものと考えられるため、最新の情報を入手できるアンテナを張っておくことやそれに対する適切な判断を要する知識が望まれる。

おわりに

図2 粘膜の消毒

48.1%

21.2%

CHG 28.8%

BAC

52.5%

22.5%

CHG25.0%

BAC

1.9%

その他1994年 2003年

PVP- :ポビドンヨード、CHG :クロルヘキシジン、BAC :ベンザルコニウム

の膣に使用したことによって羊水中のヨウ素濃度が

上昇したとの報告12)や新生児に使用して甲状腺機能

の低下を呈した報告などがなされている13)。

 粘膜消毒について、粘膜は皮膚と比較して感受性

が高いため適応できる消毒薬が限られており、また

使用消毒薬の濃度についても通常使用される濃度に

比べ低濃度であることから使用濃度については十分

考慮する必要がある。ところで、粘膜とは口腔、咽

頭、鼻腔、耳腔、結膜嚢、膀胱、膣、肛門などで

あり、それら周辺部位として、外陰、外性器、歯科

の根管などがある。表4に粘膜に適用できる消毒薬

および使用濃度を示したが、部位によって適用され

る消毒薬と使用濃度が異なっている。通常使用され

るクロルヘキシジンには、非イオン性界面活性剤が添

加されているもの(赤色)と添加されていないもの(無

色)の2種類があり、適用が異なっている。前者は粘

膜に対して使用禁忌となっているが、後者は結膜嚢

に限って0.05%以下の濃度で使用が認められている

ため、区別して使用することが肝要となる。我々が実

施したアンケート調査では、クロルへキシジンを粘膜に

使用している医療施設が1994年と2003年とで変わり

なく約20%となっているため、適正使用の指導が強く

望まれる(図2)。過去にクロルヘキシジンの用法・用

量を無視して使用した結果、重篤な副作用を呈した

例が報告されており、1%本剤の水溶液で膣内の消

毒を実施後、蕁麻疹が発生し血圧低下を呈した報

告14)や鼓膜形成術を行う際、術前に1%本剤アルコ

ール溶液で消毒したことが原因で、97例中14例が聴

力を失った例15)など多くの報告がなされている。この

ように粘膜への消毒は慎重に行うことが原則である。

また、MRSAや緑膿菌などの一般細菌や、カンジダ

などの酵母様真菌による汚染には、上述のウイルスや

結核菌に有効な消毒薬に加えて、塩化ベンザルコニウ

ム(オスバン 、ザルコニン など)や両性界面活性剤

(テゴー51 、コンクノール など)を用いる。

 表2に消毒薬の適用例を、また表3に器材の消毒

法を示した。

器材・環境消毒法山口大学医学部附属病院薬剤部

助教授

器材の消毒法

尾家 重治

表1 熱による消毒例

消毒法 消 毒 対 象利用する装置(条件)

熱 水

蒸 気

金属製器材ウオッシャーディスインフェクタ(80~93℃・3~10分間)

リ ネ ン熱水洗濯機

(70~80℃・10分間)

食   器食器洗浄機

(80℃・10秒間)

差し込み便器,尿器ポータブルトイレのバケツ

吸引瓶

フラッシャーディスインフェクタ(90℃・1分間)

表2 消毒薬の適用例

消 毒 薬

内 視 鏡

適   用 適用となる理由

リ ネ ン

ほ 乳 瓶経腸栄養剤の投与セット

薬杯・楽呑み

注射剤のアンプル・バイアル体 温 計聴 診 器

洋式トイレの便座処 置 台

オーバーテーブルド アノブ�

MRSA汚染の環境

蛇管・薬液カップ

過酢酸

両性界面活性剤 テゴー51コンクノール

塩化ベンザルコニウムオスバンザルコニン

次亜塩素酸ナトリウム

アルコール 消毒用エタノール70%イソプロパノール

グルタラール

● 抗菌スペクトルが広い● 血液などで不活性化されにくい

● 抗菌スペクトルが広い● 低残留性(塩素ガスとして蒸発)● 安価

● 低残留性(蛋白質と反応して食塩になる)

● 汚染菌となりやすいセパシア菌にも有効である● 低残留性(塩素ガスとして蒸発)

● 殺菌力が強い● 速やかに蒸発する

● 無臭で取り扱いやすい

フタラール

アセサイド

ステリゾールステリスコープ

ディスオーパ

 耐熱性の器材の消毒には、できれば熱(熱水、蒸気)

を用いるのが望ましい。なぜなら、熱は効果が確実で、

かつ残留毒性がないからである。「洗浄+熱消毒」の

工程が自動的に行える装置(ウオッシャーディスインフェ

クタ、食器洗浄機、熱水洗濯機、フラッシャーディスイ

ンフェクタ)を用いて、熱消毒を行う。表1に、熱によ

る消毒例を示した1-6)。

 一方、熱消毒装置の設備がない場合や、耐熱性で

ない器材に対しては、消毒薬による消毒を行う。ウイ

ルスや結核菌汚染にはグルタラール(ステリゾール 、

ステリスコープ など)、フタラール(ディスオーパ )、過

酢酸(アセサイド )、次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン 、

「花王」メディカルハイター 液6W/V%など)およびアルコール(消毒用エタノール、70%イソプロパノール)を用いる。

ミルトン「花王」メディカル ハイター 液6W/V%

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器材・環境消毒法

表3 器材の消毒法

消 毒 対 象

人工 呼吸回路

● 80℃・10分間などの熱水● 0.01%(100ppm)次亜塩素酸 ナトリウムへの1時間浸漬● 高圧蒸気滅菌● エチレンオキサイドガス滅菌

● 熱水や高圧蒸気の使用では、前もって材質劣化が生じないことを 確認しておく。● 次亜塩素酸ナトリウムの頻回適用で、プラスチックの劣化が生じる ことがある。

消 毒 法 備   考

気管内吸引チューブ● 使用のつどの消毒を行えば、24時間にわたるくり返し使用が 可能である。

超音波ネブライザー● 蛇管や薬液カップなどに対し、0.01%(100ppm) 次亜塩素酸ナトリウムへの1時間浸漬

● 24時間ごとの消毒が望ましい。● 共用するのであれば、逆流防止弁を装着するのが望ましい。

ジェットネブライザー

● 熱水浸漬(65℃・5分間や70℃・1分間など )

● 熱水浸漬(65℃・5分間や70℃・1分間など )

酸素バブル加湿器(酸素湿潤器)

● 感染に対するインパクトは小さいので、1~2週間ごとの消毒で 十分である。

吸引びん

● フラッシャーディスインフェクタ(90℃・1分間の蒸気)● 0.1%両性界面活性剤や0.1%塩化ベンザルコニウムへの 30分間浸漬● 0.01%(100ppm)次亜塩素酸 ナトリウムへの1時間浸漬

● 取り扱い者に対する危険防止のために消毒を行う。● 吸入びんに前もって5%クロルヘキシジン20mLなどを入れて おく方法もある。

ガーグル ベ ース

● ウオッシャーディスインフェクタや食器洗浄機 (70℃以上の熱水)● 0.01%(100ppm)次亜塩素酸 ナトリウムへの1時間浸漬● 0.1%両性界面活性剤や0.1%塩化ベンザルコニウムへ の30分間浸漬

● 洗浄が大切である。● 前もってナイロン袋で覆っておく方法もある。

経腸栄養剤の投与セット

● 0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの1時間浸漬

● バッグ型容器と投与チューブに 対しては、チューブ乾燥機での 乾燥も有効である。● 円筒型投与容器には食器洗浄機による消毒(80℃・10秒間など の熱 水)が 適している。

リネン

尿器

血圧計のマンシェット

● 熱水洗濯機(70~80℃・10分間の熱水)● 0.02%(200ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの5分間浸漬 (すすぎ段階での消毒法)● 0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの30分間浸漬 (洗濯前の段階での消毒法)

● アルコール散布● 熱水洗濯機(70℃・10分間などの熱水)

● フラッシャーディスインフェクタ(90℃・1分間の蒸気)● 0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの1時間浸漬● 0.1%両性界面活性剤への30分間浸漬

● 熱水での消毒が望ましい。

● 汚れの付着があれば熱水洗濯が適している。

● 蒸気による消毒では、前もって耐熱性について確認しておく必 要がある。● 次亜塩素酸ナトリウムを7~14日間 などの長期にわたってくり 返し使用するのであれば、高濃度液(0.1%液など)を用いる。

薬 杯・楽 呑 み ● 0.01%(100ppm)次亜塩素酸 ナトリウムへの1時間浸漬

食 器● 食器洗浄機(80℃・10秒間などの熱水)● 0.02%(200ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの5分間浸漬

ほ乳瓶乳首

● 0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの 1時間浸漬● 食器洗浄機(80℃・10秒間など)● 電子レンジ(500W・3分間など)● 高圧蒸気滅菌

体温計

注射剤のアンプル・バイアル

包 交 車 ● アルコール清拭

● アルコール清拭

● アルコール清拭

ネブライザーの嘴管● 0.01%(100 ppm)次亜塩素酸 ナトリウムへの1時間浸漬● 熱水浸漬(65℃・5分間や70℃・1分間など)

使用後に、吸引チューブの外側をアルコールガーゼ などで清拭

吸引チューブ内腔の粘液などの除去のため、滅菌水を吸引

8%エタノール添 加の0.1% 塩 化ベンザルコニウムへ浸漬

使用前に消毒薬の除去のために滅菌水を吸引

1

2

3

4

● 金属部分がないジェットネブライザー(インスピロン など)では、 0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウム・1時間浸漬も適している。● 24時間ごとの消毒が望ましい。

7

8

消 毒 対 象 消 毒 法 備   考

● フラッシャーディスインフェクタ(90℃・1分間の蒸気)● 0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの1時間浸漬● 0.1%両性界面活性剤への30分間浸漬

● フラッシャーディスインフェクタ(90℃・1分間の蒸気)● 0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの1時間浸漬● 0.1%両性界面活性剤への30分間浸漬

便器(差し込み式)

● 前もって便器をビニール袋や使い捨ての排便処理袋で覆って おく方法もある。● 使い捨て便器も販売されている(ただし、専用の処理機が必要)。● 次亜塩素酸 ナトリウムを7~14日間などの長期にわたってくり 返し使用するのであれば、高濃度液(0.1%液など)を用いる。

ポータブルトイレのバケツ

● 次亜塩素酸ナトリウムを7~14日間などの長期にわたってくり返 し使用するのであれば、高濃度液(0.1%液など )を用いる。● 前もってバケツに使い捨てトイレを装着しておく方法もある。

マットレス● アルコール散布● 0.2%両性界面活性剤での清拭(防水マットレスの場合)

● 前もって使い捨ての防水シーツで覆っておく方法や、防水マット レスを使用する方法 などが 勧められる。● エチレンオキサイドガスの使 用は望ましくな い( 残 留 毒 性、 環境 汚 染 )。● ホルマリン(ホルムアルデヒド )ガスの使用は望ましくない (取り扱い者に対する毒性、効果不確実)。● オゾンの使用は望ましくない(材質劣化作用)。

処置台 ● アルコール清拭● 熱傷患者などの処置時には、アルコール清拭とともに使い捨て カバーの使用が勧められる。

浴槽・沐浴槽 ● 0.2%両性界面活性剤での清拭 ● 洗浄を兼ねた消毒を行う。

洗面器・洗足器 ● 0.2%両性界面活性剤での清拭 ● 洗浄を兼ねた消毒を行う。

保育器(クベース)

● 0.2%両性界面活性剤や0.2%塩化ベンザルコニウムで の清 拭(金属箇所にはアルコール清 拭 )や、0.1%両性界 面活性剤や0.1%塩化ベンザルコニウムへの30分間浸漬。● ウイルス汚染の場合には 0.01% ~ 0.02% (100~200ppm)次亜塩素酸ナトリウム清拭 (金属箇所にはアルコール清 拭 )。

● できる限り分解して、洗 浄 や 消 毒を行う。

消化管ファイバースコープ

● 2%グルタラールへの4~20分間浸漬● 3~3.5%グルタラールへの4~10分間浸漬● フタラールへの4~20分間浸漬● 過酢酸への5分間浸漬

● 消毒後はチャンネル内のリンスを十 分に 行う (残留消毒薬による粘膜損傷の可能性のため)。● 過酢酸の使用では、前もって材質劣化が生じないことを メーカーに確認しておく。● B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVおよび結核菌 などへ の感 染 が 判 明している場 合には、グルタラールへの30分間 浸漬が望ましい。

気管支ファイバースコープ

● 2%グルタラールへの20分間浸漬● 3~3.5%グルタラールへの10分間浸漬● フタラールへの20分間浸漬● 過酢酸への5分間浸漬

● 消毒後にはチャンネル内のリンスを十分に行う (残留消毒薬による粘膜損傷の可能性のため)。● その日の 終わりには、チャンネ ル 内のアルコールリンスと 風乾を行う。● 過酢酸の使用では、前もって材質劣化が生じないことを メーカーに確認しておく。● B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVおよび結核菌など への感染が判明している場 合には、グルタラールへの30分 間浸漬が望ましい。

膀胱鏡の光学視管● グルタラールへの10分間浸漬● フタラールへの10分間浸漬● 過酢酸への5分間浸漬

● 過酢酸の使用では、前もって 材質劣化が生じないことをメー カーに 確 認しておく。● いわゆるホルマリンボックスの使用は避ける(取り扱い者に対 する毒性 のため)。● B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVおよび結核菌など への感染が判明している場合には、グルタラールへの30分間 浸漬が望ましい。

喉頭鏡のブレード● ウォッシャーディスインフェクタ(80℃・10分間の熱水 など)● 洗浄して、水分除去後にアルコール清 拭

● 豆球の付いた機種(アコマ社製など)には、ウオッシャーディス インフェクタは 使 用で きない。

ストレッチャー・車イス

● アルコール清拭● 0.2%塩化ベンザルコニウムや0.2%両性界面活性剤で の清拭

ベッド柵・オーバーテーブル

● アルコール清拭● 0.2%塩化ベンザルコニウムや0.2%両性界面活性剤で の清拭

洋式トイレの便座フラッシュバルブ

● アルコール清拭

器材・環境消毒法

9

環 境に存在するウイルスの 消 毒 には、次亜塩素酸

ナトリウムやアルコールを用いる。

 一方、環境に存在する細菌の消毒には、次亜塩素

酸ナトリウムやアルコールに加えて、塩化ベンザルコニ

ウム(オスバン 、ザルコニン など)や両性界面活性剤

(テゴー51 、コンクノール など)も有効である。

 なお、アルコール清拭に際しては、引火性に注意を

払うとともに、広範囲面積への使用を差し控える必要

がある。また、次亜塩素酸ナトリウム清拭に際しては、

脱色などの材質劣化を防止するために、消毒後の水

拭きなどが必要になる場 合がある。

 以下に、各種微生物で 汚 染された環 境の消 毒法

について述べる。

環境の消毒法

過 酢 酸(アセサイド )

ポビドンヨード(イソジン 、ネグミン など)

�アルコール(消毒用エタノール、70%イソプロパノール)

クロルヘキシジン(ヒビテン など)

塩化ベンザルコニウム(オスバン など)

塩化ベンゼトニウム(ハイアミン など)

両性界面活性剤***(テゴー51 、コンクノール など)

図1 微生物の消毒薬抵抗性の強さ、および消毒薬の抗菌スペクトル

* 一部のウイルスの消毒薬抵抗性は、  一般細菌と同程度である。

** フタラールの殺芽胞効果は弱い。

*** 両性界面活性剤は結核菌にも有効である。

グルタラール(ステリゾール 、ステリスコープ など)

フタラール**(ディスオーパ )

細 菌 芽 胞

結 核 菌

ウ イ ル ス*

一般細菌(MRSAなど)

酵母様真菌(カンジダなど)

糸 状 真 菌

 図1に、微生物を消毒薬抵抗性が強い順にならべ

るとともに、消毒薬の抗菌スペクトルを示した。本図

から明らかなように、ウイルスに対してはグルタラール

(ステリゾール 、ステリスコープなど)、次亜塩素酸ナト

リウム(ミルトン 、「花王」メディカルハイター 液6 W/V%

など)、ポビドンヨード(イソジン 、ネグミン など)および

アルコール(消毒用エタノール、70%イソプロパノール)

などが 有効である。しかし、グルタラール、フタラール

(ディスオーパ )および 過酢酸(アセサイド )などの高

水準消毒薬は、蒸気毒性の観点から、環境に用いて

はならない。また、ポビドンヨードは、高価で、かつ着

色を生じるため、環境消毒には適さない。したがって、

次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン 、「花王」メディカルハイター 液6W/V%など)

 患者血液などの体液汚染箇所の消毒が必要である。

0.5~1%(5,000~10,000ppm)次亜塩素酸ナトリ

ウムまたはアルコールをしみ 込ませたガーゼなどで

拭き取る( 図2)7、8 )。2度 拭きが 望ましい。

 患者周辺の環境(ドアノブ、オーバーテーブル、床頭

台および 洋 式トイレの便 座など)の消毒を行う。アル

コール清 拭が 有 効 である。

 環境で長期間生存できる本ウイルスに対しては、

環境消毒が重要になる9 )。患者の手指が触れた箇所

(ドアノブ、水道ノブ)などのアルコール清 拭を行う。

 MR SAディスパーサー(MRSAを環境にばらまくヒト)

の場合、周辺環境や浴槽などの共用箇所の消毒が

重要になる10、11)。本菌に対してはいずれの消毒薬も

有効であり、アルコール、0.2%塩化ベンザルコニウム、

0.2%塩化ベンゼトニウム( ハイアミン 、エンゼトニ

ン など)または 0.2%両性界面 活性剤などでの清

拭を行う。

 患者の糞便で汚染された可能性がある箇所(洋式

トイレの便 座、フラッシュバルブ、ドアノブなど)の消

毒が必要である。本菌に対してはいずれの消毒薬も

有効であり12)、アルコール、0.2%塩化ベンザルコニウム

または 0.2%両性界面活性剤などでの清 拭を行う。

器材・環境消毒法

10

B型肝炎ウイルス

C型肝炎ウイルス

HIV

腸管出血性大腸菌(    O157, O111, O26など)

SARS コロナウイルス

アデノウイルス

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)

図2 ウイルス汚染血液の消毒

1%(10,000 ppm)次亜塩素酸ナトリウムまたは アルコールをしみ込ませたガーゼなどで拭き取る

参考文献

1 )Barrie D: How hospital linen and laundry services are pro-

vided. J Hosp Infect 27: 219 -235, 1994.

2 )Ayliffe GAJ et al : Control of Hospital Infection.

  Champman & Hall Medical London, 1993.

3 )Department of Health and Social Security HN(87)1: Decont-

amination of equipment, linen or other surfaces contamin-

ated with Hepatitis B or Human Immunodeficiency Virus.

London. DHSS.

4 )尾家重治,神谷 晃:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)

  に対する温水の効果.環境感染 8 : 11- 14, 1993.

5 )Barrie D: The provision of food and catering services in hos-

pital. J Hosp Infect 33: 13-33, 1996.

6 )Ebner W, Eitel A, Scherrer M, et al : Can household dishwas-

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7 )Kobayashi H, Tsuzuki M, Koshimizu K et al: Susceptibility

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20 : 214 - 216, 1984.

8 )Bloomfield SF, Smith-Burchnell CA, Dalgleish AG: Evaluation

  of hypochlorite-releasing disinfectants against the human

immunodeficiency virus(HIV). J Hosp Infect 15: 273-278, 1990.

9 )Gordon YJ, Gordon RY, Romanowski E et al: Prolonged reco-

very of desiccated adenoviral serotypes 5, 8, and 19 from

plastic and metal surfaces in vitro. Ophthalmology 100: 1835-

1840, 1993.

10)Oie S, Kamiya A: Contamination of environmental surfaces

by methic il l in-resistant (MRSA).

Biomed Letters 57: 115-119, 1998.

11)Oie S, Hosokawa I, Kamiya A: Contamination of room door

handles by methicillin-sensitive / methicillin- resistant

          . J Hosp Infect 51: 140-143, 2002.

12)Oie S, Kamiya A, Tomita M et al: Efficacy of disinfectants

and heat against         O157: H7. Microbios 98:

7-14, 1999.

E. coli

Sta-

phylococcus aureus

Escherichia coli

Staphylococcus aureus

1

2

3

4

5

11

バイオフィルム形成(緑膿菌)

写真2

ペースメーカー、人 工 弁、義 歯などの 体 内留置器材の表面

にバイオフィルムを 形 成 する。このようにバイオフィルムの形

成から、それを足 が かりにして遊離した細菌によって起こ

る感染症をバイオフィルム感染症と呼んでいる。

 バイオフィルム形 成 は、まず細菌が異物表面に付着し、

増殖 することが必要である。その付着には、

① 線毛などの 付 着 因子(アドヘジン)、

② 物質 表面の疎水 性、親水性、

③ 各種 産生物質などにより影 響される。

とくに臨 床的に問題となるのが緑膿菌や黄色ブドウ球菌に

はじめに

バイオフィルムとは

バイオフィルム形成

消毒薬抵抗菌の問題点とその対策東邦大学医学部看護学科感染制御学

 教授   明良

写真1

 院内感染が起これば、新聞などでは大きく「消毒薬に耐

性の菌が出現」と報道されることが多い。本当に消毒薬耐性

菌が存 在 するのであろうか。われわれは、消毒 薬に対する

臨床分離 株 の感受性を検討しているが、常用使用濃度に

おいては、耐性の菌の存在は認めていない。消毒薬の使用

は抗菌薬と異なり、高濃度の使用と短時間での作用であり、

作用後、水で 洗浄し乾燥させている。すなわち、感性か耐

性かを調べる検査法に問題があると考えられる。消毒薬の

ための適切な感受性試験を使用しているのかが疑問である。

耐性と評価している場合は、抗菌薬の感受性試験である

MIC(最小発育 阻止濃度)測定法を用いていることが多い。

MIC 測定は、菌と薬剤を作用させ24時間後の成績であり、

液 体 希 釈 法 で あ れ ば 発 育 の 有 無 を 濁 り で 判 定 す る ため

>107cfu/mlのとき発育と判定し、106cfu/ml存 在していても

発育陰性と判定される。また、その得られた濃度も常用濃度

とあまりにもかけ離 れた 値である場合が多い。消毒薬に感

性・耐 性であるかは、消 毒 薬 独 自の測 定 法 が必 要である。

 病院などで 消 毒 薬 が 効 かないあるいは 抵 抗 性を示 すと

考えられるのは、血液や体液などが 存 在している場 合 や微

生物 がバイオフィルムを形成している場合である。消 毒 薬が

作用していても、ただ単に 表面だけに作用しているだけでは

不十 分である。

 自然界では多くの細 菌は、有機 物あるいは無機物などの

異物の表面に付着し、集合して 存 在している。とくに、自己

の生育に不 利な 環 境におかれた場合、菌体表面に多糖体

を主 成分とするグリコカリックスやスライムなどの 粘 液 質を

産生し、これを介して互いに 凝集し、さらにそれを被覆する

ようになる。これ がバイオフィルム(biof i lm )である(写真 1、

2 )。日常のわれわれ の周辺 にも観 察される。風呂場のタイ

ル や 洗 面 所 の 流しの 表 面など 水 の介 在 する場 所でみら

れる。とくに 医 療 領 域 では、各種カテーテル、排 膿 チューブ、

よるバイオフィルムである。カテーテル への細菌の付着性は

その材質により大きく異なることが 報 告されている。表1は、

われわれの成績であるが、ポリ塩 化ビニル は 他 の 材 質より

バイオフィルム形成能はグラム陽性菌、グラム陰性菌とも高

く、天然ゴムはグラム陽性 菌では低い。また、Lopez - Lopez

らは、ポル塩化ビニルは 緑 膿 菌、黄 色ブドウ球 菌とも付着

性 が高いことを報 告している。

の作用でも検討した 41菌株は 殺 菌されているが、次亜塩素

酸ナトリウム( 0 . 0 2 % )は30分間の作用でも14 菌 株しか殺菌

されていない(表3)。作用濃度にもよるが長時間の作用が

必要である。

  バイオフィルム形成菌に対する効果

 表2は 緑 膿 菌をカテーテルチューブにバイオフィルムを

形成させ 消毒薬 の除菌効果をみた成績である。グルタラー

ルで は 15 分 間以内の作用で 殺菌 効 果 がみられているが、

グルコン酸クロルヘキシジン、塩 化ベンゼトニウムとも殺 菌

効果を示すのに長時間の作用が必要である。また、金 属に

付着させバイオフィルムを形成させた緑膿菌を含む6菌種

41菌株に対 する殺菌効果でも、グルタラール(2%)は5分間

表1 各種カテーテル材質によるバイオフィルム形成能

付着菌数(cfu/cm2, log)n=4 35℃ 4日間

グラム陽性菌 グラム陰性菌

黄色ブドウ球   菌

表皮ブドウ球   菌

肺炎桿菌 緑膿菌

カテーテル材質

天然ゴム

シリコン

ポリ塩化ビニル

<1.9 

2.3

4.3

<1.0 

2.4

5.7

3.5

7.1

6.6

7.3

7.4

6.8

表3 金属付着臨床分離6菌種41菌株に対する消毒薬の殺菌効果

作用時間(殺菌された菌株数)

5分間 10分間 15分間 30分間

消 毒 薬(作用濃度)

次亜塩素酸 ナトリウム(0.02%)

4 4 6 14

グルタラール(2%) 41 41 41 41

S. aureus  E. faecalis  E. faecium  E. coli           P. aeruginosa

消毒薬抵抗性

 多くの 消 毒 薬 は、対 象 物に 有 機 物があるとその 消 毒 効

果が著明に低下することが知られている。表4は臨 床分離

株を使用し、馬血液を添加したときの消毒薬の殺菌効果の

変化を検 討した 成 績である。グルタラール( 2%)は1分間の

作用でも全株殺菌され、有機物の影響はみられていないが、

次亜塩素酸ナトリウム(0.02%)や 塩化ベンゼトニウム(0.1%)

は著明な殺菌効果の低下の影響がみられている。

有機物の存在とその効果

臨床分離6菌種24菌株:

表2 バイオフィルム形成緑膿菌に対する消毒薬の殺菌効果 (殺菌時間:分)

バイオフィルム形成:カテーテルチューブを使用

グルコン酸クロルヘキシジン 塩化ベンゼトニウム グルタラール

0.1% 0.5 % 0.1% 0.2 % 2 %菌株 濃度

消毒薬

ATCC27853

Fisher Ⅲ

TA25

TA312

TA344

TA339

TA343

TA347

No.10

TA335

60

180

180

180

180

60

180

60

>180

>180

30

180

60

60

30

60

60

60

60

180

180

180

60

180

180

180

180

180

60

>180

180

60

30

180

30

30

180

60

60

180

≦15

≦15

≦15

≦15

≦15

≦15

≦15

≦15

≦15

30

表4 臨床分離株に対する薬剤の短時間殺菌効果

薬  剤

次亜塩素酸ナトリウム(0.02%)

塩化ベンゼトニウム(0.1%)

5%馬血液添加の場合

24

24

グルタラール(2%) 24

24

作用時間(殺菌された菌株数)

1分間

24

24

24

24

3分間

24

24

24

24

5分間

24

24

24

24

10分間

次亜塩素酸ナトリウム(0.02%)

塩化ベンゼトニウム(0.1%)

21

0

グルタラール(2%) 24

4

21

0

24

9

21

0

24

11

21

0

24

16

スーパ-ミル88 (0.2%)R

スーパ-ミル88 (0.2%)R

S. aureus 4株, E. faecalis 4株, E. faecium 5株, E. coli 4株, S. marcescens 4株, P. aeruginosa 3株

12

消毒薬抵抗性への対策

 患者に使 用した 医 療 器 材は、環 境 汚 染 のため病 棟での

一次 洗 浄 や 一 次 消 毒 が 行 わなくなっている。その 医 療 器

材は血液、体 液 などで 汚 染されているため、場合によっ

ては原因微 生 物や環境常在菌などでバイオフィルムの形

成がし易い 状 態になっている。その対策については、バイオ

フィルムや血液を溶かすあるいは分解させる薬剤(酵素製剤

など)でまず 処 理をして、次いで 消 毒 薬を作用させるのもそ

の方法 の1つである。蛋 白分 解作用を有するポリヘキサメチ

レンビグアナイドハイドロチオライド(スーパーミル88 )を用い、

金属付着緑膿 菌に対して検討した結果、スーパーミル 88

で 30 分間の前処理をした後、次亜塩素酸ナトリウムで処 理

すると短時間で殺菌されている( 表5)。病 棟 で 一 次 洗 浄

しないときは、このようなスーパーミル88 や他の酵素製剤

を噴 霧 処 理しておくのも一 つの方 法である。

� 以上、消 毒 薬 が 効かないとは 消 毒 薬 耐 性 菌 が 出 現し

たので はなく、その多くが 消 毒 薬 に 触 れていないためで

あり、消 毒 不 十 分なためである。これまでにもいわれてい

ることであるが、消 毒 薬 の 適 切 な 選 択 と 使 用 が 重 要 であ

り、感 染 制 御として 重 要なことは、感 染 経 路 の 遮 断と感

染 源 の 排 除であり、

① 感 染 源 を 持ち込まないこと、

② 感染源を持ち出さないこと、

③ 感染源を拡げないことである。

表5 金属付着緑膿菌に対するスーパーミル88 と次亜塩素酸ナトリウムとの併用効果

P. aeruginosa 4 -37

*:30分間前処理+:発育ー:発育なし 

注)スーパーミル88 :ポリヘキサメチレンビグアナイドハイドロチオライド

一 次 処 理

スーパ-ミル 88

次亜塩素酸 Na

スーパーミル 88 *

次亜塩素酸Na

二 次 処 理作 用 時 間

5分間 15分間 30分間 60分間

P. aeruginosa 27- 08

スーパ-ミル 88

次亜塩素酸 Na

スーパーミル 88 *

次亜塩素酸Na

R

R

R

R

R

参考文献�1)  明良:消毒薬の抗微生物試験法ー抗細菌・抗真菌試験法についてー、  臨床と微生物、29(4):357- 366,2002�2)  明良:細菌性 バイオフィルムと消 毒薬、感染 症、28(3):107-111, 1998�3)  明良、山崎智子、 李 秀華、 山口聖賀、五島瑳智子:バイオフィルム  形成 Staphylococcus aureus および Pseudomonas aeruginosa に対する  消毒薬の殺菌効果と作用温度による影響、日本環境感染誌、13(1):1- 4、 1998�4)小林宏行:国際会議 Medical Biofilms 2002 報告書ーBiofilm研究の最前線ー、   Bacterial Adherence & Biofilm、16: 1-10, 2002�5)  明良:感染制御の基礎知識、メディカ出版、2001�6)  明良・村井貞子編集:院内感染対策へのサポート、南山堂、2003�7)  明良、五島瑳智子編:在宅感染 ハンドブック、ヴァンメディカル、2001

R

13

 洗浄剤の主成分は、界面活性剤です。

衣類の洗剤でも、人体洗浄用の石鹸やシャ

ンプーでも、界面活性剤が最も重要な成分

です。界面活性剤の持つ性質が洗浄作用

に有効に働くのですが、以下にその解説を

しましょう。

 界面活性剤とは変わった化合物で、水に

も油にも馴染む二重人格的な性質を持っ

ています。図1に、界面活性剤分子(ステ

アリン酸ナトリウム:石鹸の主成分)を示し

ます。界面活性剤分子は、模式的にマッチ

棒の様に描きます。マッチ 棒の頭が 水に

馴染む部分で、親水基と呼ばれます。軸

が油に馴染む部分で、親油基もしくは疎

水基といいます。親水基には色々な種類

がありますが、典型的なものはイオン基で

す。イオンは、塩が水に溶けてできるもので

すから、イオン基が親水基になることは理

解して頂けると思います。図1のステアリン

酸ナトリウムも、親水 基はイオン基です。

疎水基は、殆どの場合炭化水素基です。

炭化水素とは典型的な油ですから、油によ

く馴染み(親油)、水に馴染まない(疎水)

ことは理解して頂けるでしょう。

 上述の二重人格的な性質が、界面活性

剤の機 能を決めます。水に溶けない疎水

基が、親水基の存在によって無理矢理水

に溶かされます。界面活性剤水溶液の特

徴は、すべてこの事 実からの 帰 結 です。

無理矢理水に溶かされた疎水基は、水と

の接触を避けようとします。水溶液表面で

は、疎水基は空気の方に向かって,水と

の接触を避けようとするでしょう。また、水

中に油や煤の様な水に馴染まない固体粒

子が存在すると、界面活性剤は疎水基を

それらの方向に向けて集まり、水を避けよ

うとします。これが界面活性剤に特徴的

な吸着現象の原因です。水中で界面活性

剤が吸着できる部分がすべて覆われた後、

更に界面活性剤濃度が増加したら、何が起

こるでしょうか? 界面活性剤の疎水基は、

自分同士が集まって水との接触を避ける以

外に方法がなくなります。この様にして界

面活性剤の会合現象(ミセルや液晶の形

成)が起こります。界面活性剤の示す各種の

特徴的な性質や機能は、すべてこの二つの

現象(吸着と会合)に帰せられます。界面活

性剤の基本的性質に関する以上の説明を、

図2に模式的に示しました。これら二つの

性質(吸着と会合)のうち、主として吸着現

象が洗浄に働きます。

 洗浄とは、汚れを基質(汚れの付いてい

る衣類や皮膚のこと)から落とすことですが、

それには次の過程を必要とします。

1)汚れの付いた基質が、洗浄液に濡れる

  こと(湿潤過程)、

2)汚れが基質から剥がれること

 (汚れの離脱過程)、

3)剥がれ落ちた汚れが再び基質に付かな

いこと(再汚染防止過程)。

界面活性剤は、これらの全ての過程で働

きます。

湿潤過程油汚れの付いた基質(衣類や手など)は、水

に濡れません。これでは汚れの落としようが

ありません。水に界面活性剤が入ってい

ると、界面活性剤分子は疎水基(マッチの

軸)を基質側に向けて吸着します。そうしま

すと、基質の表面は親水基(マッチの頭)

で覆われ、水に馴染む様になりますから、

濡れるようになるのです。油で汚れたフライ

パンは水をはじきますが、台所用洗剤があ

れば濡れることはよく経験されているでし

ょう。

汚れの離脱過程汚れを基質から剥がす過程でも、界面活性

剤は活躍します。図3に、油が基質から剥が

れる様子を模式的に示しました。図の(a)

の状態で付いていた油は、水側に界面活

性剤が存在すると、(b)から(c)と変化して

基質から剥がれます。これも、界面活性剤

分子が疎水基(親油基)を油側に向けて

吸着し(図2中央付近の油滴の図参照 )、

油が水に馴染む様になるからです。基質の

表面にも吸着して、界面張力を下げること

もこの現象に有効に働いています。

 泥汚れの様な固体汚れを落とす場合に

は、親水基のイオンが 働いています。洗

剤に使われている界面活性剤はマイナス

のイオン基を持つものが多いのですが、そ

の界面活性剤分 子 が汚れと基質に吸着

し、両方にマイナスの電荷を与えるのです。

それでマイナス同士が反発して、汚れが

基質から落ち易くなります。

再汚染防止過程この過程も、先に述べたのと同じ 様に、

基質と汚れに吸着した界面活性剤分子が

両方にマイナス電荷を与える効果により

ます。同じマイナス電荷を持った汚れと基

質は、互いに反発して再び 付 着すること

はないからです。

 以上の説明でお解かり頂けたと思いま

すが、汚れと基質の両方に界面活性剤分

子が吸着することにより、濡れを良くし、

汚れを剥がし、更に剥がれた汚れの再付

着を防いでいるのです。界面活性剤が洗

浄に果たす役割の大きさを、ご理解頂け

たことと思います。

 本稿の本来の説明は以上で終わりです

が、最後に石鹸で手を洗ったときのさっ

ぱり感について述べておきましょう。もし、

シャンプーで身体を洗ったことのある人が

いれば、いくら濯いでもヌルヌルして気持

ちの悪いことを実感されていると思います。

石鹸と合成界面活性剤のこの感触の違い

は、実は石鹸の欠点が逆にプラスに働いた

結果なのです。石鹸は硬水に弱い、つまり

水道水中のカルシウムやマグネシウムイオ

ンと塩を作り水に溶けなくなります。その

結 果、界面活性剤としての性質を失い、

ヌルヌル感はなくなります。しかしながら、

それは同時に洗浄効果を失うということも

意味しています。石鹸は、硬度の高い水を

使うと洗浄効果が落ちますが、この欠点が、

濯ぎ時のサッパリ感につながっているので

す。面白いものですね。

北海道大学電子科学研究所

教授 辻井 薫

洗浄と界面活性剤の話

1 界面活性剤ってどんなもの?

3 界面活性剤の性質と洗浄作用

2 界面活性剤の水溶液中での振舞い

14

サイエンスプラザ

図1 界面活性剤分子(ステアリン酸ナトリウム)の構造

CH3 CH2

CH2

O-

ONa+C

疎 水 基

水から逃げる

気/液界面

液/液界面

固/液界面

ミセル

ベシクル

液晶

仲間同士集合する

図2 界面活性剤の水溶液中での基本的性質(吸着と会合)

図3 界面活性剤が油に吸着して水に馴染む様になると、油は基質から落ち易くなる(ローリングアップ現象)

θ θ θ

油油

水 水

(a) (c)(b)

吸 着

会 合

吸着

会合

油 疎水性固体

空気相

水 相

15

国立感染症研究所感染症情報センター 主任研究官 砂川 富正

 2002年秋頃より中国南部・広東省で発生した原因不明の非定型性肺炎は、2003年3月にハノイ(ベト

ナム)および 香港で、院内感染としてそれぞ れ40名以上の患者発生が顕在化した後に一気に世界的な

問題となった。WHO(世界保健機関)は3月12日にGlobal Alert(世界的な警報)を発し、3月15日、WHOは、

この疫病を重症急性呼吸器症候群、すなわちSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)と名づけ、

地球規模で警戒すべき原因不明の感染症として、Global Alert を発した。7月5日、台湾において地域内

伝播が無くなったことを受けWHOは、SARSは一旦制圧されたと宣言した。その後、シンガポールおよび

台湾において実験室内感染によるSARS患者の発生は散発しているものの、地域的、国際的な流行には

至っていない(2003年12月20現在)。2002年11月1日より2003年9月26日までのSARS累積患者数は

8,098人、死亡者数は774人を数えた1)。

SARSの潜伏期間は殆どの患者についてほぼ10日以内である。 中国本土などでは潜伏期間14日とする考えもあるが(筆 者私信)、中国も含めほぼ全例に近い多くの

患者は潜伏期10日以内で 説 明出 来るとされている。

トピックストピックス

最新のSARSの疫学および消毒に関する情報最新のSARSの疫学および消毒に関する情報

最近発表された重要なSARSの疫学的知見

1

SARSの感染性について、感染のリスクは第10病日ごろが最も大きい。 発症前の者には感染性はない。感染効率は、通常、発 症して1週間を過ぎ た以降 の重症患者や、急速

に臨床経過が悪化していく患者に曝露された場合が最も高くなるようである。症状のある患者が発症か

ら5日以内に隔離された場合には、二次感染はほとんど起こらなかった。気道からのウイルス排出は第10

病日ごろに、便 からのウイルス排出は12 -14日目までに最も多くなり、共にその後漸減していく。

2

致死率(Case -fatality ratios)は全体として15%と推定される。 WHOは5月に致死率に関する推定値を更新したが、中国本土の報告が非常に低いことを除き、若年層

においては著しく低く、高齢者層においては高くなっていた(65歳以上:香港52%)。

3

2003年2月1日以前に発症した3分の1以上の患者は食用動物の取り扱い者であった。

 この情報はSARSウイルスの人間社会 への侵入を考える時に示唆的である。この場合の感染経路と

しては、食品の摂取というよりはむしろ、野生動物を食肉用に加工する際にウイルスに曝露された可能

性がある(筆者コメント)。

4

● SARSの概況

 SARSに関しては日々知見が集積されているが、その中でも2003年10月17日のWHOによる、SARSの

集団発生の疫 学に関する国際的研究を集約した報告 2)の発 表は重要であり、今後のSARS対 策に大きな影

響を及ぼすものであった。主な疫学的知見を以下のように要約し、項目によっては解説を加える。

16

わが国において発表されたSARSの消毒に関する情報 2002年12月18日、国立感染症研究所感染症情報センターホームページにおいて、「SARSに関する消毒(三訂版)」3)

が掲載された。この中での最大のポイントは、国内における最近の知見として、食器・野菜洗浄用の家庭用合成洗剤が

SARSコロナウイルスの処理に効果が高いことが実験的に確認されたことである。効果が確認されているのは成分とし

て直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムを16%以上含むもの

である。消毒および清掃はSARS感染が確定されなくても、疑い患者が発生した段階で実施する必要があり、実際

の消毒にあたっては、最寄りの保健所等と相談して適切な対応を取ることになるが、家庭などでの消毒における選択

肢が増えた。詳細は同ホームページ等を参考にしていただきたい。

参考文献1)WHO.Summary of probable SARS cases with onset of illness from 1 November 2002 to 31 July 2003 〈 http: // www.who. int /csr /sars /country/ table 2003_09_23/en / 〉2)Consensus document on the epidemiology of severe acute respiratory syndrome(SARS).  WHO/CDS/CSR/GAR/2003.11 〈http: //www.who. int /csr/sars /en/ WHOconsensus.pdf 〉3)国立感染症研究所感染症情報センターホームページ「SARSに関する消毒(三訂版)」 〈http: // idsc.nih .go. jp /others/sars /sars03w/ index.html〉

主要な感染経路は感染性呼吸器飛沫の粘膜(目・鼻・口)への直接接触である。空気感染を支持する証拠はない。

 すべてのSARS集団発生の場において、1人の患者が平均 3人を感染させたことは、SARSが空気中

の浮遊微小粒子よりも、むしろウイルスを含んだ飛沫との直接接触により広がったと考える方が自然で

ある。麻疹のような空気感染であれば(1人の患者が平均15 - 20人に感染)、1人の患者はもっと多くの

感染を発生させるであろう。このことは、頻回の手洗いのような基本的な感染制御手技が、この疾患の

拡散速度を落とさせる上で大きな役割を果たす、と言う考えを支持するものである。

5

医療従事者が特に感染リスクにさらされている。 医療従事者がSARS患者全体の21%を占めている。特にエアロゾルを発生する行為(緊急の心肺蘇生、

挿管、吸引等)に関与していた者のリスクが高いとされる。

6

小児はめったにSARSに罹患しない 現時点で、小児から成人に感染した事例は2例が報告されているのみで、小児から小児への感染は報告

されていない。血清学的調査が期待される(筆者コメント)。また妊娠中のSARS感染においては垂直

感染の報告は無い。香港では10例の健康であった妊婦の感染において3例の死亡があり、妊娠第1三

半期に感染した5例において1例の死亡と4例の自然流産 が 発生した。

7

航空機内での感染伝播のリスク 国際線フライト 5便 が、有症状 の可能性例から乗客や乗務員へのSARS感染に関連があるとされた。

その一つ、あるフライトにおいては、72歳男性が香港P病院を訪問し、有症状態で航空機に搭乗したこと

がスーパー・スプレッディング・イベント(Superspreading event:一人の患者から大量の二次感染者

が発生した事例)に関連しているとされた。

未確定な情報としては、全体で29例の二次感染例が、有症の可能性例に関連しているとされる。

3月27日にWHOが航 空機の利用に関連して出国時スクリーニングやその他の対策を含む 旅行勧告を

発表した後は、航空機内での感染伝播が確認された形跡はない。血清学的な検証がこれらのスクリー

ニングの精度を評価するために必要である。

8

17

Kao Hygiene Solution 花王ハイジーン ソルーション

発行日:2004年3月1日

編集・発行:

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