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17 ●● 4 4 4 症 例:70歳代,女性 主 訴:特になし. 現病歴:2 カ月前に尿閉となり,その原因精査にて骨盤内腫瘤を指摘される. 尿閉はその後,自然緩解している. 既往歴:高血圧症,糖尿病. 家族歴:特になし. 初診時現症: 主要検査成績:CEA 8.9CA19-9 86.0CA125 88.4.その他,血液生化 学データ上,特に異常なし 1 MRI T1強調矢状断像 2 MRI T2強調矢状断像 3 MRI脂肪抑制造影T1強調矢状断像 4 MRI T2強調水平断像 5 MRI脂肪抑制造影T1強調水平断像 6 MRI拡散強調水平断像(b-1000出題:玉井  賢(京都大学),小山  貴(大阪赤十字病院) ディスカッサー:北井 里美(東京慈恵会医科大学) 1 2

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444症 例: 70歳代,女性主 訴: 特になし.現病歴: 約 2 カ月前に尿閉となり,その原因精査にて骨盤内腫瘤を指摘される.

尿閉はその後,自然緩解している.既往歴: 高血圧症,糖尿病.家族歴: 特になし.初診時現症:   主要検査成績:CEA 8.9,CA19-9 86.0,CA125 88.4.その他,血液生化

学データ上,特に異常なし図 1 MRI T1強調矢状断像図 2 MRI T2強調矢状断像図 3 MRI脂肪抑制造影T1強調矢状断像図 4 MRI T2強調水平断像図 5 MRI脂肪抑制造影T1強調水平断像図 6 MRI拡散強調水平断像(b-1000)

出題:玉井  賢(京都大学),小山  貴(大阪赤十字病院)ディスカッサー:北井 里美(東京慈恵会医科大学)

図 1 図 2

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解 答解 答

■画像所見 骨盤部MRIのT2強調矢状断像において,子宮内に境界明瞭な高信号を呈する囊胞性病変を認め,内部には低信号の不整な壁在結節が散見される.病変は子宮頸管を背側から圧排しており,筋層内に存在することが窺われる.病変の背側および腹側にみられる著明な低信号を呈する腫瘤は筋腫と考えられる.T1強調像では囊胞内部の液体は軽度の高信号を呈しており,血性または蛋白濃度の高い液体成

分が示唆される.造影T1強調像では壁在結節にわずかに造影される部分が認められ,血流を有する充実性組織の存在が疑われる.水平断像のT2強調像と造影T1強調像でもほぼ同様の所見であるが,拡散強調像では,内部の結節部分は壁に沿って高信号を呈し,細胞密度の高い組織であることが示唆される.壁在結節のうち造影T1強調像で造影されず拡散強調像でも信号上昇を示さない部分に関しては結節表面の凝血塊を見ている可能性がある.背側の筋腫には拡散強調像で高信号は認められない.

■臨床経過 子宮および両側付属器摘出術が施行された.手術所見において腫瘤は内腔との交通は認められず,筋層内に限局し,多数の壁在結節を有する囊胞性病変として認められ,内腔には淡血性の液体を含み.病理組織においては筋層内の囊胞内腔に乳頭状に増生する内膜組織に類似した癌組織が認められ,類内膜癌の組織診断であった(追加図 1).病変と内膜の連続は認められず,また内膜には癌が認められなかった.病変周囲の筋層内に腺筋症が認められたことより(追加図 2),腺筋症内部に発生した類内膜癌と考えられた.

■診  断 腺筋症内に発生した類内膜癌(endometrioid adenocarcinoma arising from adenomyosis)

■解説および診断のポイント 本症例においては,症状(不正性器出血)のない患者にみられた病変であることと,頸管の圧排方向から,筋層内病変を疑うことにはあまり問題はないと思われる.筋層内に認められる囊胞成分を有する病変の鑑別として,内部に囊胞変性または壊死を伴う筋腫,平滑筋肉腫,内膜間質肉腫,腺筋症内部の出血の増大による囊胞形成(adenomyotic cyst)などが挙げられる.内部に造影される壁在結節を有

追加図 1 HE染色(中拡大像).囊胞内部の類内膜癌.

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する病変であることからadenomyotic cystの可能性は低いと考えられ,また筋腫の囊胞変性の場合には,変性は病変の内部に生じるので,病変の辺縁には既存の筋腫を示唆するような信号が認められる可能性が高い.一方,平滑筋肉腫,内膜間質肉腫は病変の大部分が赤色変性類似の凝固壊死に陥ることがあり,辺縁にわずかに存在する充実成分が本症例と類似した画像を呈しうると考えられるが,通常,肉腫内部の凝固壊死は,内部のフィブリンやヘモジデリンのためT2強調像では不均一な低信号を呈することが多い. 類内膜癌が既存の腺筋症から発生し,筋層内腫瘤を形成することは古くから知られており,厳密には内膜には癌が存在しないこと,既存の腺筋症と腫瘍が連続することを病理学的に証明する必要があるとされる1,2).しかし,病変が筋層内に存在するために症状が現れにくく,通常の体癌と異なりかなり病変が大きくなってから見つかることが多いため,必ずしも後者の条件を満たすことは難しい.また腫瘍の増大により内腔に浸潤した場合は,腺筋症に沿って浸潤した通常の体癌との鑑別が困難である.画像所見またはマクロ的な肉眼所見は症例によりさまざまであり,境界明瞭な筋層内の充実性の腫瘤として認められることもあれば,既存の腺筋症に沿ってびまん性に浸潤を示し,腺筋症との鑑別が困難な症例もある3).本症例のように内部出血性の囊胞を伴う症例も認められる4).囊胞の形成される機序に関しては,腫瘍内部の出血によるものか,あるいは既存にadenomyotic cystが存在した可能性が考えられるが,これらの病態の組織学的な鑑別は困難である.本症例においては患者が高齢であり,この年齢で大きな良性のadenomyotic cystが生じたとは考えにくく,従来cystが存在していたとしても腫瘍からの出血により増大したものと推測される.

参考文献1) Kumar D, Anderson W: Malignancy in endometriosis interna. J Obstet Gynaecol Br Emp 65: 435 – 437, 19582) Colman HI, Rosenthal AH: Carcinoma developing in areas of adenomyosis. Obstet Gynecol 14: 342–348, 19593) Tamai K, Togashi K, Ito T, et al: MR imaging fi ndings of adenomyosis: correlation with histopathologic features and diagnostic pitfalls.

Radiographics 25: 21–40, 20054) Koshiyama M, Suzuki A, Ozawa M, et al: Adenocarcinomas arising from uterine adenomyosis: a report of four cases. Int J Gynecol

Pathol 21: 239–245, 2002

出題・解説: 玉井  賢(京都大学),小山  貴(大阪赤十字病院)

追加図 2 HE染色(中拡大像).腫瘍周囲の筋層内に認められた腺筋症.