ICAO RPAS会議に参加して2015/05/08  · 平成27年5月 第737号 41 1.はじめに...

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平成27年5月  第737号 41 1.はじめに 従来、無人機は UAVUnmanned Aerial Vehicle)と称されていたが、有人、無人とい う区別でなく、遠隔操縦による航空機として ICAORPASという名称で新たな定義づけを した。今回の当該会議は、ICAOが作成しよ うとしている無人機に対するガイドライン SARPsStandard And Recommended Practicesの作成に当たり、規制当局、製造業者、運航者、 大学、研究機関、空軍、関係団体などを招集 して、意見交換を行うものである。従来は、 ガイドラインのSARPsを受けて、詳細な手順 (マニュアル)が作成され、更に付属書(Annexに法律として記載されるという手順を取る が、今回は、マニュアルがSARPsに先行して 作成されており、これから逆に遡って、 SARPs を作ることになっており、このためにヒアリ ングをする面もあった。実態として、無人機 の規制が部分的ながら出来ている国では、す でに運航を始めており、無人機の製造業者や 国を超えた運航を考えている運航者から見れ ば、早く国際ルールを作ってほしい、という 要望をICAOや各国の規制当局にお願いする 場所となった。約500 名の参加があり、その 1/3は初めてICAOにやってきた方々で、ICAO に馴染みのない方も多かった。日本からは JCABのほか、JAXA、大学、地上管制基地局 メーカなどの参加が見られた。 2.基調講演 FAA, Deputy Administrator, Michael Whitaker 無人機の利用は、映画撮影、パイプライン の常時監視、報道など幅広いが、安全性と効 率の両方が成り立つことが必要である。FAA ICAO RPAS会議に参加して 平成27年3月23日から3日間、カナダ・モントリオールのICAO会議場で、RPAS (Remotely Piloted Aircraft Systems)に関する会議が開催された。規制当局・メーカな ど関係者が参加し、運航の実態なども併せて聴講したので、製造業に関係のあるところ を中心に報告する。 会場全景

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1.はじめに従来、無人機はUAV(Unmanned Aerial

Vehicle)と称されていたが、有人、無人という区別でなく、遠隔操縦による航空機としてICAOがRPASという名称で新たな定義づけをした。今回の当該会議は、ICAOが作成しようとしている無人機に対するガイドラインSARPs(Standard And Recommended Practices)の作成に当たり、規制当局、製造業者、運航者、大学、研究機関、空軍、関係団体などを招集して、意見交換を行うものである。従来は、ガイドラインのSARPsを受けて、詳細な手順(マニュアル)が作成され、更に付属書(Annex)に法律として記載されるという手順を取るが、今回は、マニュアルがSARPsに先行して作成されており、これから逆に遡って、SARPsを作ることになっており、このためにヒアリ

ングをする面もあった。実態として、無人機の規制が部分的ながら出来ている国では、すでに運航を始めており、無人機の製造業者や国を超えた運航を考えている運航者から見れば、早く国際ルールを作ってほしい、という要望をICAOや各国の規制当局にお願いする場所となった。約500名の参加があり、その1/3は初めてICAOにやってきた方々で、ICAOに馴染みのない方も多かった。日本からはJCABのほか、JAXA、大学、地上管制基地局メーカなどの参加が見られた。

2.基調講演①FAA, Deputy Administrator, Michael Whitaker無人機の利用は、映画撮影、パイプライン

の常時監視、報道など幅広いが、安全性と効率の両方が成り立つことが必要である。FAA

ICAO RPAS会議に参加して

平成27年3月23日から3日間、カナダ・モントリオールのICAO会議場で、RPAS(Remotely Piloted Aircraft Systems)に関する会議が開催された。規制当局・メーカなど関係者が参加し、運航の実態なども併せて聴講したので、製造業に関係のあるところを中心に報告する。

会場全景

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の規制の状況として重量が15ポンド以下と、それ以上の2つに分け、前者はパブリックコメントを求める段階にある。小型機では、運航者の認証は2年ごと、Risk Base Approachによる安全性確保などを挙げており、個人のプライバシーなどへの対応が課題としている。農薬散布などは除外項目とし、アマゾン社の宅配は実験的な扱いにするなどと述べた。大型機では、パイロットの教育、他省庁との連携、耐空性、ライセンスなどに課題があり、ICAOが中心となった国際的な協調を求めた。

②欧州委員会 Head of Unit in charge of Aviation Safety, Filip Corneils従来の航空機は列車、車などと限定された接点を持ってきたが、無人機を利用することになれば、道路渋滞情報、精密な農業、建設機械の看視、危険地帯の警戒、エネルギー探索などにその利用範囲が広がる。欧州では150㎏以下の無人機の規制について検討を始めており、プライバシーやセキュリティなどが課題で、規制には時間がかかる。一方、今年3月に欧州はリガ宣言を採択し、5つの原則を確認した。それらは、1)無人機(Drone)は新しい航空機として扱う、2)欧州が無人機サービスの安全な対応のルール作りを行

う、3)技術と標準はその統合が重要、4)公衆の了解が必要、5)運航者がその利用について責任を持つ、である。

③グーグル社 Head of Project Wing, Dave VosGoogle社の中でProject Wingが立ち上がり、

交通渋滞を避ける迂回路情報の提供のため、無人機を使った情報収集を始めようとしている。使用ヘリは、垂直用1枚プロペラと推進用2枚プロペラを持った形態で、衝突防止にADS-Bを用い、管制との連携を取りながら、高速道路情報をデータセンターに地上局を介し送る。責任、安全性、信頼性、コンプライアンスの他、取得したデータのセキュリティが特に重要であるという。

3.来賓挨拶①EASA, Strategy and Safety Management, Luck

Tygat, Director欧州では、重量150㎏以下の無人機の運航は2,495社、製造は114社が関わっている。16ヵ国が独自の規制を持ち、11ヵ国が準備中であるものの、相互の調整はとれていない。欧州委員会の運輸大臣は、1)無人機が欧州の空域に入るには合意が必要、2)実体のある規制とリスクに応じた規制の維持、3)課

来賓の紹介を行うICAO Director Nancy Graham氏(左)

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題は安全、セキュリティ、プライバシー、データ保護、と述べ、EASAの役割として、1)RPAS統合に関する影響調査、2)RPASに関する特殊な規制も将来可能にする基本的な規制案、3)リスクベースの運航概念、を求めている。また、具体的な検討は、1)FAAとEASA、Eurocontrolを中心に当局32ヵ国の航空当局(カナダ、ブラジル、ロシアは加入しているが日本は参加していない)から成るJARUS(Joint Authorities for Rulemaking on Unmanned

Systems)や 2)EU Implementation Coordination Group、3)SESARでの検討・研究開発などを活用するという。

②FAA, Deputy Associates Administrator for Aviation Safety, John Hickey米国の無人機は、1)FAAがリーダシップを取るUAS Integration Officeが無人機の統合戦略を構築し、2)FAA、DoD、ASA、DHS(Department of Homeland Security)がUAS Comprehensive Planを作成し、3)FAAがロードマップを作成し、4)小型UAS基準を作成する、といった分担が出来ている。運航は、1)民間運航、2)官公庁による運航、3)模型航空機(趣味)の3つに分類している。規制は1)セクション333の例外条項、2)FAA小型UAS、3)セクション336の模型航空機に分けて検討を進める。試験空域は6ヵ所あり、それぞれの空域に試験目的を割り付けている。国際的な協力として、RTCA Special Committee 228、ASTM International Committee(F38)、JARUSなどの協力を挙げている。

③フランス航空局 航空局長 Patrick Grandil仏国での状況として、2012年に運航業者は

50社であったが、2015年に1,300社に増え、2,250機を使い、3,000人を雇用し、売り上げとして5,000万ユーロとなっている。製造は主に45社

の中小企業が担っており、大手企業は研究開発のみを行っている。分類として、有視界運航の場合、1)重量25㎏以下で高度150m以下のもの、2)重量4㎏以下で高度150m以下のものがある。視界を外れる場合には、3)通信距離1㎞以内で、重量25㎏以下で高度50m以下のもの、4)重量2㎏以下で高度150m以下のものに分けている。考えられるリスクに対応した処置を取るとしたRisk Based Approachを採用して安全性を確保している。規制の構築は、1)運航、規制、利用、2)技術と安全、3)産業界の支援と促進の3つの面から進める。セキュリティのリスクとして、居住区では不法な無人機は多くの人が見ており、警察など無人機を使った活動に市民の理解が必要で、制御不能の場合に機材を自動廃棄するといったことまで想定しておかねばならない。既に仏国では、企業と当局が一緒になって、2つのプロジェクトが進行し、グライダーを母機とした空中衝突装置の試験や単発機による通信不能モードでの試験などが2014年秋から開始されている。

④ICCAIA議長 Marion Blakey, Chairperson of Council今年1月にオバマ政権が発表した無人機の輸出に関するコメントを後押しし、今後無人機市場が大きくなる可能性があり、製造業者も一体となった検討が必要であると述べた。米国での小型無人機は居住区を夜間飛行できないとしているが、イタリア、日本、ドイツなどすでに進んだ分野がそれぞれにあるので、これを参考にして世界共通のルールとベストプラクティスの構築をICAOに求めた。国際的な協力は不可欠で、使用する周波数帯の割り付けやその拡大などが不可欠で国際的な調整を要する。

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⑤ICAO, Deputy Director Aviation Safety, Air Navigation Bureau, Catalin RaduICAOの無人機に対する取り組みは、1)空域や飛行場を分割せずに無人機を取り込むこと、2)有人機と同じレベルの安全性を確保すること、3)環境への影響を最小にすること、をあげた。航空管制の近代化としてAviation System Block Upgradesプログラムが6年刻みで2030年まで進行中であるが、これと並行して無人機は2022年までの耐空性証明、ライセンス、通信などを含む22個からなるプログラムを紹介した。航空当局、国際電気通信連合、産業界、ICAO環境グループなどと協調して、各国での重複作業や発散を防ぐ役割を、ICAOが受け持つという。

4.無人機の運航例①米国General Atomics Aeronautical Systems社

Director Strategic Development, Scott Dann同社は、1,000馬力クラスのAvenger、3,000馬力クラスのPredatorなど20機種で約720機の無人機をここ25年で出荷し、飛行時間は累計で300万時間を超え、従業員は7,000人以上である。Predator Bの海軍仕様がGuardianで、内蔵カメラにより地上パイロットはコクピットを模擬した操縦装置で外部の景色を見ることが出来る。有人機に装備されているスロットル、操縦桿の他、昇降ペダルも用意されている。また、無人機の課題として、大型、小型といった分類が安全の統合に寄与するか、誰がどうやって経済発展しながら安全の規則を守らせるのか、などを挙げた。

②中国DJI Innovations社 Policy Lead, Jon ResnickDJI社は中国深セン市に本社を置き、空中

撮影をするとともに搭載カメラなど搭載機器を無人機と共に製造する会社である。日本、欧州、米国に支店を置き、従業員は2,800名を

数える。津波や火山爆発など災害時の状況撮影の他、動物保護、旅行のマーケッティング、教育、農業、探索、不動産、その他調査など幅広い適用を示唆した。課題としては、空域の管理、居住地上空での安全性などを挙げた。

③JAXA, Senior Researcher, Masaaki Nakadate日本原子力開発機構に協力して、福島第一原発の隣接地域における放射能レベル調査を4種の無人機を使い高度150m以下から計測した結果を報告した。機体として、有人ヘリ、無人航空機、無人ヘリ、超小型ヘリを使い分けることで有効なデータを取得でき、高度を一定に保ち地形に沿う飛行を行うことが放射能計測制度を向上させる、と述べた。

④International Consortium of Aeronautical Test Sites(ICATS), Executive Director, Marc MoffattICATは米国、英国、フランス、カナダ、スペインの飛行試験機関から構成され、モントリオールに本部を置く国際航空機試験サイトである。5ヵ国は無人機のための試験場をそれぞれ用意し、実用化に向けた取り組みを始めている。

⑤英国EasyJet, Ian DaviesLCCのEasyJet社が英国ブリストル大学と共

同で無人機による機体点検の試みを発表した。落雷、雹、地上機材との衝突などによる機体の損傷についての点検が必要となるが、機材の検査時間を短縮することを目的とし、マルチコプタ―を使った外観検査を始めた。課題として、1㎜以下の損傷の発見を実証すること、機体にできるだけ近づくも、機体や人と衝突しないこと、訓練が簡単なこと、データベースの構築などのほか、格納庫内のみでなく、屋外の点検にも天候に左右されず使用できることなどを挙げた。

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⑥NASA, Human Systems Integration Lead, Jay ShiveleyNASAからは、無人機の運航に際して人間の特性に懸念が有るとの発表があった。有人機は安全性を重視して発展してきたが、事故の7-8割が人為的なものである。無人機と人間のインターフェースはまだまだ不十分で、無人機の運航時間が長くなることを想定すれば、更なる安全性が必要との見解を示した。

⑦国際運航協会 ATM Infrastructure, Rob EaglesIATAからの講演では、無人機の運航についてはやや批判的な意見が出された。有人機も無人機も安全性が第一であり、ルールと規制がきちんとなされることが必要である。新しい航空輸送には安全な航空輸送が不可欠だとの見解を示し、無人機が有人機の領域に入ることの懸念を表明した。

5.Workshop(1)耐空性①ICAO, RPAS Panel 耐空性パネル委員 Stephan

George and Bruno Moitre耐空性については、RPAS Manualの第4章において、「有人機に関する型式証明(TC)、追

加型式証明(STC)、製造認可、耐空証明(AC)の維持、サービスブリテン(SB)等の手順は、ほとんどの項目において、RPASにも有効であり適応できる」と記述されている。ただし、RPASは、航空機のみならず、地上装置やその他の構成機器などから構成され、国際運航されるため、これらについても、TC、ACが必要となる。今後、RPASパネルWG1において、RPASの分類、AC・TCの細部規定等を定めると述べた。

②スイス民間航空局 Markus FarnerAC取得のためには安全運航を最優先する

としている。そのために、申請者には、運航形態を明確にして、安全管理に焦点をあてたレビューを行い、事故を想定したシナリオを策定するよう求めている。また、認可する機関には、基準となる運航形態を示し、安全を阻害する障害を明確にすると同時に排除するための予算を用意するよう求めている。

③イギリス民間航空局 Manager Aircraft Certification, Mike Gadd タレス(イギリス)社 manager ISTAR Air Operations, Andrew Jones英陸軍 ISTAR(Intelligent, Surveillance,

無人機による機体外部点検

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Target Acquisition & Reconnaissance)構想で使用される無人機 Watchkeeperは、軍の仕様を満たしている。しかし、民間機のTC取得にむけて、安全性が民間基準を満たすか、設計保証の手順が民間基準を満たすか、設計・製造の組織が民間基準を満たすか、自動化とパイロット介入の比率の妥当性はどうか、などの課題等があると述べた。

④ Former JARUS Chairman, Ron van de LeijgrraafJARUSは参加の32ヵ国で、無人機の規則作

りを実施している。6つの委員会で構成されており、その中の耐空性委員会では、小型無人固定翼機、小型無人回転翼機に関して検討を行っているが、基本的には従来の設計基準を適用するものの、有人機にはない構成品に関する基準作りについては、時間がかかるとしている。

⑤Schiebel社 Head of Airworthiness Department, Otmar Leitner同社製無人ヘリCAMCOPTER S-100のAC取得状況について紹介した。安全運航が最優先され、地上の要員、第三者に被害を与えないことを前提とし、同機の実証試験は、無人地域に限定された空域での有視界内での試験から始まり、3段階で順次空域を拡大し、最終的には、人口密集地域での有人機との共存運航を目指している。

⑥イスラエル航空局 Head, Unmanned Air System Department, Benny DavidorイスラエルのRPASは軍での運用が主だが、今後民間国際運航を実現するには、管制装置設計に人間工学的要素を取り入れること(機長~操縦者~ペイロード管理者間の連携等)、有人機同等のRNP(航法精度)を確保するこ

と、テロ対策をシステムのソフト・ハード両面でとること、多機種管制機能を持たせること、システムの高度な自動化を行うこと等が求められる。

⑦イスラエルIAI社 IAI- MALAT Airworthiness manager, Michael AlloucheIAI社は、ICAO、NATO/FINAS、FAA、

EASA、RTCA、等の各国の機関に協力して、無人機に関する規則作りに参画し、実証試験を実施してきた。システム設計に関しては、機体構造、推進系統、データリンク、リスク評価、緊急手順、不具合探知システム、電磁干渉等の基準を制定した。さらに、空域での共存に関しては、衝突防止燈火、ATC通信、MPR、EOセンサー、IFF、ATCトランスポンダー、DAA用機器等の基準を制定した。これらの基準は、実証試験の成果が取り込まれるとともに、ICAOのRPASマニュアルにも反映される予定である。

注:ATC(Air Traffic Control)  MPR(Multi-Platform Radar)  IFF(Identification Friend or Foe)  DAA(Detect And Avoid)

(2)運航①ノルウェーNorut社 Senior Scientist, Rune

StorvoldAMAP(Arctic Monitoring and Assessment

Program)は、北極の環境変化を計測、評価し、汚染物質源やその動きを監視し、動植物や住民に与える影響を監視する機関であり、その観測手段としてRPASを運用している。運用にあたっては、北極圏内国家間の相互認証の上実施しているが、その中で一番重視されているのは安全確保であり、地上及び上空の人々に危害を与えないことである。その達成のため、ICAOが制定したSafety Management Manual(Doc9859)に沿って、SMS(Safety

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Management System)およびSRM(Safety Risk Management)を実践し成果を得ている。

②ICAO RPAS 運航パネル委員 Gerry CorbettRPASマニュアルにおいて安全運航という観点で、操縦士ライセンス、C2リンク、機長の責任、疲労管理、安全性マネージメント、環境や目視内外運航、RPASの管制切り替え、セキュリティなど規定されるべき、と述べた。今後これらは、ICAOの委員会で議論し、2018年にANNEX6に反映される予定である。

③フランス航空局 Director, RPAS Program, Muriel Preuxフランスでは、商用目的(空撮、農業、監視等)にあわせて運航形態を設定している。そして、製造業者側には、設計・運航・空域基準を設定し、基本構成部品データ、安全性解析結果、運航基準等の提出を求めている。運航者には、遠隔操縦者への実技を含む教育計画、運航計画、整備基準等を提出し、運航許可を得ることを求めている。そして、年度毎に運航実績の提出、事故・インシデント報告を求めている。ただし、2014年は、20件の報告しかなく安全性確保の認識の徹底が望まれるとした。

④航空機オーナー・操縦士国際協会 Secretary general, Craig SpenceGA(General Aviation)側から見て、同じ空域でRPASが運航されることを容認するには、飛行安全が確認されるとともに、航路の確保・保全、RPAS対応のための追加費用が無いこと、RPASとの相互通話が可能となることなどが前提となる。なぜなら、GAは基本的に低高度運航であり、非管制空域の飛行が多く、草地や水上を含む飛行場などで運航するため、RPAや鳥との衝突等のリスクが多いため

である。したがって、今後、DAAシステム整備、RPASパイロット資格制度と航空機AC制度の確立、データリンク・通信機能喪失時の対応、自律運航への慎重な移行などが必要である。

注:DAA(Detect And Avoid)

⑤FAA, Manager, Unmanned Aircraft Systems Integration Office, Jim Williams米国内で無人機による運航を行う場合、

ICAO RPASマニュアルに準拠し、パイロットはFAAの資格認証を得ること、RPAはAC・TCを受けかつ登録されていること、運航許可を得ること、などが必要と述べた。その上で、運航形態として、民間の運航・

官公庁の運航・趣味目的の模型航空機の飛行に区分される。また、今後様々な形態の無人機の出現が見込まれるため、認証については、特殊機のTCや制限事項を加えた型式承認、R&D、乗員訓練用、市場調査のための実験機用の耐空性証明、量産前の試作機に対する特別飛行許可などのステップごとの検討が必要になるとしていた。このように状況に応じて、複雑な手続きを簡素化する動きはあるが、小型のUASであっても、登録とその表示、パイロット資格を有すること、重量は55ポンド以下で飛行高度は500ft以下であること、昼間かつ目視内のみの運航であること、居住地域は飛行不可であること、などが必要としている。

注:RPA(Remotely Piloted Aircraft)

⑥InSitu社 Vice president, Government Relations and Strategy, Paul McDuffee無人機の民間運航への取り組み状況を紹介

した。産業界は、無人機のACやTC取得にむけた規則及び手続きの見直しと確立に向け2種類の無人機、PumaとScanEagleを使用して、ベーリング海、チュクチ海、ボーフォート海での流氷や海棲動物、オイル監視等の試験運

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航を行っている。運航に関しては、人およびその財産に危害を与えないことが前提であり、FAAおよび関係航空当局と密接な連携をとっている。運航で得られた飛行データ、乗員運航記録、不具合・事故・墜落等記録、修理・整備記録などはFAAに提出し、実績を蓄積し、今後の恒久的運航を目指している。

⑦ロシア無人機協会 President, Amir Valievロシア無人機協会は無人機の用途として、地図作成、捜索・監視(森林火災、航空機等交通事故)、自然監視(農地/森林、植生)、エネルギーインフラ監視(パイプライン、送電線、鉄道、道路)、輸送等(郵便、農薬散布)などを想定している。そして、UAS運航の手順として飛行5日前に申請し、主な航空当局と調整し1日前に飛行計画を提出することになる。そのためには、ATCや航空当局とのデータ/音声通信のネットワーク(e-mail、電話、FAX、衛星通信等)を確立しなければならない。また、既存ATMとの共存 /飛行安全のためには、ADS-B・VDL-4・UAT等の装備が必要だが、その重量・大きさがUAS搭載への障害となっている。

注:ATC(Air Traffic Control)  VDL-4(VHF Digital Link)  UAT(Universal Access. Transceiver)

⑧世界空港協議会 Director, Safety & Technical, David Gamper国際空港団体からは、地域ごとの国際空港の数は、アフリカ:249ヵ所(50ヵ国)、アジア-太平洋地域:580ヵ所(47ヵ国)、欧州:463ヵ所(45ヵ国)、南アメリカ:213ヵ所(29ヵ国)、北アメリカ:350ヵ所(2ヵ国)と存在していて多いように見えるが、無人機の運用については、次のように否定的な見解を示した。「我々は、無人機との共存を危惧している。

ただし、無人機を専用の空域で運航するならば、その限りではない。現在、空港は、過密状態なのである。」

(3)民間・防衛①フランス空軍 顧問 Alban Galabert中高度域において、イタリアとフランス空軍が国境を越えた無人機の運航を救難探査の目的で行ったとういう紹介があり、衛星通信を使った場合の周波数の互換性や外交調整などの課題を挙げた。また、500ft以下の、民間と防衛の無人機が混在する空域では、小型無人機の状況認知、フライトプラン、衝突防止システム、空中での識別システムなどを課題として挙げた。

②米空軍 Director of 5 AF Aviation Affairs Branch, Mike Bishop三沢基地に於けるグローバルホークの運航

実態について米空軍から説明があった。2010年にグアムに同無人機を展開したが、夏場に台風などで運航が出来ないことが判り、夏場の代替基地を探していた。2011年日本政府は三沢基地を候補として挙げたが、日本政府の無人機に対する規則が無い、耐空性証明をどうするか、日本での運航実績が無い、空港が官民共用、空域がどこでどうやって飛行させるかなど数々の問題があった。2013年に日本政府が同機の配備を承認したが米国側の予算の問題もあり、2014年3月に日米間政府で「同機は三沢で他の航空機同様に飛行できる」とした覚書の調印を行った。同機は三沢基地及び米国Beale空軍基地の両方から運航され、空域は太平洋側である。6月~8月の飛行キャンセル率はグアムが93%であったことに比較し、11%にまで減少している。ここまで改善した理由は、夏場の気候が良好であったことに加え、両政府の協力、ミッションの絞り込

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み、日本政府も同機の導入に関心が高かったこと、などを挙げた。今後三沢基地での運航には、冬場の気象条件における運航、長時間運航などに課題がある。

③豪州空軍 Wing Commander , Jonathan McMullanオーストリラリア空軍は、アフガニスタンで無人機Heron(イスラエル製:翼弦長約16.5m、重量1,150㎏)を27,000時間以上運航した実績を紹介した。離陸・着陸はGPSを用いて自動操縦で行い、カンダハル基地から3,000回を超える発進を行った。帰投ルートと待機場所が機体にインプットされており、通信リンクが損失すると帰投し定められた場所で旋回し、設定された残燃料以下になれば、着陸を行うシステムにしてある。空港は単滑走路で官民共用のため混雑しているが、空域では地上レーダーでコントロールされ、通信も良好で、ミッションが達成できた。学んだことは、自動操縦を信頼することや運航シスステムは信頼性が高いこと。しかし、ソフトの一部に技術的統合が欠けており、27,000時間の運航はエンジニアリング的に十分な実証と言えない、などである。

④Eurocontrol, RPAS senior expert, Dominique Colin全欧州の航空管制の管理と計画を行ってい

るEurocontrolから、無人機に対する見解が示された。1つは、短期的対応ではあるが、軍事的飛行は現在の防衛空域に限定して行われるべきで、この期間に民間との調和を図っていく。もう1つは、中長期的な対応で、防衛機、民間機が混合して飛行できることに取り組むが、効率的な衝突回避システムの構築が必要である。民間市場では大型無人機の市場は顕著でない故、軍用機の活動を参考にしていき

たい、と述べた。

⑤英国防衛省 RPAS expert at Military Aviation Authority, Nichola Rennet英国では、アフガンでの無人機運航が終了し、平時の運航に切り替ったことを契機に無人機の規則について、レビューが開始された。重量別に6つの分類(200g以下、2㎏以下、20㎏以下、150㎏以下、600㎏以下、600㎏超)とし、規則を定めるための条件、空域の扱いなどを検討するため、MoDおよび英国航空局は産業界と民間の無人機の条件設定などを共同で行っている。技術開発、規制の制定、運航者の要望の3つは相互に連携しており、相互間の障害を取り除く努力が必要と述べた。

(4)技術①ICAO RPAS 管制パネル委員 Michael Neal無人機とデータを交信し、機体を制御する、位置情報を知らせる、衝突防止データを送受信するといったCommunication & Control Link(通称C2 Link)を通した無人機側の情報は、ICAOでは規則の対象として扱われるが、搭載カメラなどからの情報は管理外としている。C2 Linkは安全上致命的な機能を支えるもので、このリンクが喪失しても無人機の安全性が失われることがないようにする必要がある。データ送信速度は遅いほど高信頼性があり、50Kbpsを超えるものであってはならない。C2 Linkの損失は、機器故障、人的エラー、電磁干渉、天候による無線電波伝搬特性などに依ると考えられる。今後C2 Link基準を策定するに当たり、C2 Link信号の優先順位、無線のパラメータ、リンクの監視、セキュリティ、危機への対応などが検討されるべきと述べた。

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② ICAO コミュニケーション・パネル委員 Vaughn MaiollaSARPsの設定をするため、相互運航の面か

ら、2つのアプローチがあり、1つは性能基準(Performance Based)によるもの、もう1つは規範なもの(Prescriptive)である。前者は革新的で実運航に沿った調整ができる反面、システムが増えすぎる、周波数調整のむつかしさなどに課題があり、後者は複数の機体と複数の遠隔操縦基地との相互運航が可能である一方、複雑な基準設定が必要といった欠点を持っている。しかし、どちらかに決めて、前進させる必要がある。次の課題はトレードオフで、C2リンク性能vs監視と回避、周波数vsC2リンクパラメータ、C2リンクパラメータvs実用性などがあり、技術だけの領域で解決できない。

③オランダClean Flight Solutions社 Co-founder &CEO, Nico Nijenhuis農地に周囲を囲まれたスキポール空港はエ

ンジンの鳥吸い込みが多発しており、その解決に鳥の形をした無人機を使用している状況が紹介された。鷹、鷲といった猛禽類の形をし、翼を動かすことであたかも生体の鳥が飛行するように見え、Robot+Bird=Robirdという名称を付けている。カモメを追い払うに50-95%の確率で有効という。安全策として、滑走路のすぐ外で250m以内の通信範囲で運航すること、これを超えると自動的に帰還する、

GPS制御だが、制御不能になれば降下するといった対策を取っている。今後は、2羽(2機)による連携で空港近くの鳥を効率よく追い払いたいという。

④SESAR, Senior Advisor for Military Affairs, Denis KoehlEuropean Commissionが進めているSESAR

(Single European Sky ATM Research)からの講演で、ConOps(Concept of Operation at a Glance)とういう発行物のなかで触れているように、無人機を重要と認識している。SESARプログラムの中で無人機が現在の航空システムに入るようにすることを目的にしており、無人機の運航に向け、研究開発として500ft以下での運航を考えている。この高度以下では目視外B-VLOS(Beyond Visual Line of Sight)での無人機の飛行は航空分野での新しい試みとなる。市場の成立と産業界のアプローチ、そしてルール化が整備されなければならないし、課題として、無人機関係者の更なる理解や体系的な安全性、経済効率、人間の能力、環境への影響などへの取り組みが必要と述べた。

⑤EUROCAE, Technical Program manager, Alexander Engel50年以上にわたり、欧州で航空安全に関するドキュメントの発行などを手掛けてきた団体で、2007年から無人機の検討を開始している。WG-73の分科会とWG-93の分科会を持ち、

カモメを追い払う無人機(疑似鳥)

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前者は耐空性、指令、制御と通信、探知と回避などを扱い、後者は25㎏以下の機体についての検討を行っている。また、米国の団体RTCA(Radio Technical Commission for Aeronautics)とも連携した検討を行っている。

⑥General Atomics社 Engineer, Brandon Suarez無人機Predator Bの衝突防止装置として、

ADS-B、TCAS II(Traffic alert and Collision Avoidance System)、Transponderなどの複数のシステムを用いて近接飛行機の状況を把握する試験飛行を行い、また、空対空レーダーAESA(Active Electronic Scanned Array)の小型化も研究している。

⑦ドイツ アーヘン大学 Professor RWTH, Dieter Moormann離島へ無人機を使って薬品を届けるプログ

ラムで、DHLとアーヘン工大などが協力してデモフライトを行った。ドイツ北部で約12㎞離れた島に、全備重量6㎏の4枚翼の無人機が薬品1.2㎏を搭載し、陸側と島側のステーションからの指示で薬品を運ぶものである。

⑧イスタンブール工科大学 Professor, Gokhan Inalhan運動競技場を使い、無人機が縦横に交差する場合の機体内蔵の衝突防止システムと地上からの指示による衝突防止の試験を行った紹介があった。

6.まとめ(1)最終日は、Stephan Creamer氏(Appointed

Director, Air Navigation Bureau, ICAO)が、以下のようにシンポジウムを総括した。  今後、無人機は、あらゆる地域に混在することになる。この状況において、無人機は、現状の有人機航空管制システムに対応

しなければならないため、航空規則制定にむけ各国は指針を示さねばならない。そして、航空規則の国家間協調によってはじめて国際運航が可能となる。そのために、

(2)産業界は、共通の目標にむけ、国の機関と情報を共有しなければならないし、従来の航空機開発経験のない無人機製造企業は、開発のプロセス等を先発企業から学び、連携をとらねばならない。

(3)各国は、軍・JARUS・航空工業会などの既存組織・機関と協調するとともに、運航者、製造者、サービスプロバイダー等からの情報を収集・分析し、安全管理を行わなければならない。

(4)地域間国家同士は、軍民双方共通の課題解決に向け、情報を共有し、協調しなければならない。そして、世界規模で、標準化されたRPAS基準の策定にむけ協調せねばならない。

(5)今後の ICAOの計画として、現時点で、ANNEX2, 7, 13は、改訂済であるが、約50の課題がRPASPで議論され、2018年までにA N N E X1, 6, 8, 19と R P A S M A N U A L(Doc10019)が改訂される予定である。そして、その実現にむけて、政府と産業界の協調、RPAS用語の定義づけ、運航手順、周波数配分、安全監督手法、安全管理手順などの必要性が再度強調された。

(6)なお、上述のワークショップ報告以外に、ATM統合、地域規制、ライセンス、安全管理、セキュリティ、法律がありましたが、重複したため聴講できていません。なお、当日の発表資料は全て以下に掲載がありますので、興味のある方は参照されたい。 http://www.icao.int/Meetings/RPAS/Pages/RPAS-Symposium-Presentation.aspx

工業会活動

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7.所感(1)ICAO主催の今回の国際会議の中でいろいろな方から繰り返し語られていたことは、無人機に対する安全性、各国が独自に規制を進めるのでなく国際協調に基づくものであること、住民の理解を得ること、公益性を確保することなどであった。課題は山積しているが、運航者の大きな発言力がある国では、製造者や規制等国がすでに積極的に動き出していたのが印象的であった。

(2)海外では民間向けの無人機は研究の領域を超えて、部分的に実用化が進み、商用化が間近になってきている状況を伺うことが出来た。LCCのEasyJet社が機体の外観検査を小型ヘリ無人機で行いたいとか、鷹の疑

似鳥(無人機というよりロボット)を用いてスキポール空港で鳥を追い払う、Google社は無人機により道路混雑状況を把握し、迂回路をスマートフォンなどに知らせる、といったことが発表された。振り返ると、日本はこういった分野へビジネスを考えている方は少なく、相当遅れている感じがする。欧米が規則やルールなど決めてしまい、気が付いた時には、例えばC2コントロールのソフトを世界標準と称して海外から購入させられる、といった日本の製造業の足かせにならないよう、いろいろな面から検討を進めることが必要と感じた。国際協力といったことになりやすいテーマだが、技術開発と並行して国内市場など運航者の声も取り込んだ日本の戦略が必要と思われる。

〔(一社)日本航空宇宙工業会 技術部長 亀田 明正、国際部長 板原 寛治〕