High Heat Radiation and High Reflection Rate …...patterns and improved surface reflection rate...

7
16 パナソニック電工技報Vol. 58 No. 4特集「制御機器・デバイス技術」 1. ま え が き 近年,白熱灯や蛍光灯に代って LED 照明が脚光を浴び ている。長寿命や省エネルギーだけでなく,調光や色調 変更も可能でデザイン性が増すことから,2008 年に 133 億円規模であった LED 照明の市場は 2012 年には 4 倍の 578 億円に成長するといわれている 1。しかし照明が全 面的に LED に置き換わるには,高出力化,高発光効率化, 低コスト化などの課題がある。そのため,LED パッケー ジには高放熱性,高反射率,小型などの特性が求められる。 このような背景から,立体的なセラミックス成形品の表 面に直接電気回路を形成する,MID を用いたパッケージ が注目されている。MID は機構部品としての機械的機能, および配線回路としての電気的機能を有しており,小型化 に加えて組立合理化と高精度化を図ることが可能である。 筆者らは,熱伝導率の高い窒化アルミニウムを用いた MID 基板を開発し,その表面を改質することで高放熱性, 高反射率,小型化,および組立性の向上を実現した。本稿 ではその技術と応用事例について述べる。 2. 窒化アルミニウムMIDの開発目標と課題 2.1 開発目標 当社の MID 製造プロセスは,1 に示すように成形 技術,メタライジング(薄膜形成)技術,レーザ加工技 術,めっき技術,切断技術などの要素技術を複合した加 工技術であり,これらを総称して MIPTECMicroscopic Integrated Processing Technology)と呼んでいる 1),2MIPTEC はレーザを用いて基材に直接回路形成を行う工 法であり,高精度で微細な 3 次元回路パターンと高いベア チップ実装信頼性を特徴としている。 このような工法を窒化アルミニウム基板に適用し,用途 として LED モジュールなどを想定すると,開発目標は1 のようになる。以下に,1 の各目標値について課題を 概説する。 高放熱・高反射のアルミナ表層窒化アルミニウムMID High Heat Radiation and High Reflection Rate Aluminium Nitride MID with Alumina Surface 木下 直輝* ・ 佐藤 正博* ・ 小林 充** ・ 立田 淳** ・ 武藤 正英*** Naoki Kinoshita Masahiro Sato Mitsuru Kobayashi Jun Tatsuta Masahide Muto 放熱性に優れた 3 次元形状の基板を得るため,射出成形した窒化アルミニウムの表面にアルミナ層を 形成することで,レーザ加工による回路パターン形成時に,その熱による窒素脱離に伴うアルミニウム の析出を防止できる MID を開発した。また,このアルミナ層の構造をアンカ状にして厚膜化すること によって,高い回路密着力の維持と反射率の向上を実現している。 これらにより,高輝度 LED 用パッケージなどに適した高放熱 MID が可能となった。 In order to obtain a three - dimensional substrate with high heat radiation, an MID package has been developed by forming an alumina layer on the surface of injection - molded aluminum nitride. The alumina layer prevents precipitation of aluminum caused by laser processing heat during circuit pattern forming. In addition, by modifying the surface alumina layer to an anchor structure, the high adhesion strength of circuit patterns and improved surface reflection rate have been achieved. The developed high heat radiation MID is suited for high power LED packages. * 生産技術研究所 Production Technologies Research Laboratory ** 制御機器本部 コネクタ事業部 Connector Division, Automation Controls Business Unit *** 制御機器本部 ものづくり革新センター Manufacturing Inovation Center, Automation Controls Business Unit

Transcript of High Heat Radiation and High Reflection Rate …...patterns and improved surface reflection rate...

Page 1: High Heat Radiation and High Reflection Rate …...patterns and improved surface reflection rate have been achieved. The developed high heat radiation MID is suited for high power

16 パナソニック電工技報 Vol. 58 No. 4

特集「制御機器・デバイス技術」

1. ま え が き近年,白熱灯や蛍光灯に代って LED照明が脚光を浴びている。長寿命や省エネルギーだけでなく,調光や色調変更も可能でデザイン性が増すことから,2008年に 133

億円規模であった LED照明の市場は 2012年には 4倍の578億円に成長するといわれている 1)。しかし照明が全面的に LEDに置き換わるには,高出力化,高発光効率化,低コスト化などの課題がある。そのため,LEDパッケージには高放熱性,高反射率,小型などの特性が求められる。このような背景から,立体的なセラミックス成形品の表面に直接電気回路を形成する,MIDを用いたパッケージが注目されている。MIDは機構部品としての機械的機能,および配線回路としての電気的機能を有しており,小型化に加えて組立合理化と高精度化を図ることが可能である。筆者らは,熱伝導率の高い窒化アルミニウムを用いた

MID基板を開発し,その表面を改質することで高放熱性,高反射率,小型化,および組立性の向上を実現した。本稿ではその技術と応用事例について述べる。

2. 窒化アルミニウムMIDの開発目標と課題2.1 開発目標当社のMID製造プロセスは, 1に示すように成形技術,メタライジング(薄膜形成)技術,レーザ加工技術,めっき技術,切断技術などの要素技術を複合した加工技術であり,これらを総称してMIPTEC(Microscopic

Integrated Processing Technology)と呼んでいる* 1),2)。MIPTECはレーザを用いて基材に直接回路形成を行う工法であり,高精度で微細な 3次元回路パターンと高いベアチップ実装信頼性を特徴としている。このような工法を窒化アルミニウム基板に適用し,用途として LEDモジュールなどを想定すると,開発目標は1のようになる。以下に, 1の各目標値について課題を概説する。

高放熱・高反射のアルミナ表層窒化アルミニウムMIDHigh Heat Radiation and High Reflection Rate Aluminium Nitride MID with Alumina Surface

木下 直輝* ・ 佐藤 正博* ・ 小林 充** ・ 立田 淳** ・ 武藤 正英***

Naoki Kinoshita Masahiro Sato Mitsuru Kobayashi Jun Tatsuta Masahide Muto

放熱性に優れた 3次元形状の基板を得るため,射出成形した窒化アルミニウムの表面にアルミナ層を形成することで,レーザ加工による回路パターン形成時に,その熱による窒素脱離に伴うアルミニウムの析出を防止できるMIDを開発した。また,このアルミナ層の構造をアンカ状にして厚膜化することによって,高い回路密着力の維持と反射率の向上を実現している。これらにより,高輝度 LED用パッケージなどに適した高放熱MIDが可能となった。

In order to obtain a three-dimensional substrate with high heat radiation, an MID package has been

developed by forming an alumina layer on the surface of injection-molded aluminum nitride. The alumina

layer prevents precipitation of aluminum caused by laser processing heat during circuit pattern forming. In

addition, by modifying the surface alumina layer to an anchor structure, the high adhesion strength of circuit

patterns and improved surface reflection rate have been achieved.

The developed high heat radiation MID is suited for high power LED packages.

* 生産技術研究所 Production Technologies Research Laboratory

** 制御機器本部 コネクタ事業部 Connector Division, Automation Controls Business Unit

*** 制御機器本部 ものづくり革新センター Manufacturing Inovation Center, Automation Controls Business Unit

Page 2: High Heat Radiation and High Reflection Rate …...patterns and improved surface reflection rate have been achieved. The developed high heat radiation MID is suited for high power

17パナソニック電工技報 Vol. 58 No. 4

2.2 高精度薄肉成形の課題一般的に LEDパッケージは,すり鉢状の形をしている( 2)。これは斜面を反射板(リフレクタ)として活用し,LEDモジュールとしての発光効率を高めるためである。また LEDチップを実装する部分は放熱性を考慮して薄くすることが必要とされ,部位により厚みが大きく異なる。薄肉部の厚みは 0.3 mm程度であることが望ましく,実装面平面度は 0.01 mm以下と高い寸法精度が要求される。またMIPTECでは,生産性を高めるために複数の個片を一体化したシートで加工を進め,最後に各個片に切断する。そのため窒化アルミニウム基板もシート状に成形する必要があり,最終工程の切断を考慮するとシートの反りを0.1 mm以下に抑える必要がある。

一般的に,セラミックス部品において高い寸法精度が要求される場合には,研削などの後加工を行うことがある。しかし窒化アルミニウムは強度が低く,研削加工を行うと

3のようにクラックが生じるおそれがある。そこで後加工をせずに,高い寸法精度を達成する必要がある。

2.3 高機能表面処理の課題窒化アルミニウム基板の表面にレーザを照射すると,熱エネルギーを受けて窒素が脱離し,金属であるアルミニウムが析出する。そのため,MIPTECで用いられているレーザ輪郭除去法においては,回路と非回路部が導通して回路形成が不可能になる問題があることから,基板表面には耐レーザ性を高めるための保護膜が必要となる。また LEDは動作時に高温になるため,MIDには温度変化に耐える高い回路密着力が要求される。前述の保護膜を形成する場合,この膜と下地の窒化アルミニウム基板との間にも高い密着力(1 N/mm以上)が必要である。さらに,LEDパッケージのリフレクタ部分には高い反

①成形・絶縁材料を3次元形状に成形・個片をシート状に多数配置

②メタライジング・成形品の表面に導電膜を形成

③レーザーパターンニング・回路パターンの輪郭部の導電膜除去・回路部と非回路部を絶縁

④銅めっき・ソフトエッチング・回路部のみ電気銅めっき・ソフトエッチングにより非回路部の導電膜を除去

⑤ニッケル・金(銀)めっき・ニッケル・金(銀)めっきの順に電気めっき

⑥シートを各個片に分割切断・シートを切断して各個片に分割

1 MIPTEC MIDA-A 断面図

LED パッケージ平面図

リフレクタ用斜面

チップ実装部

平面度 0.01 mm以下

実装部肉厚0.3 mm

0.8~ 1.5 mm

2 LED

500 µm

クラック

個片裏面

3

目標値

40×40 mmシートサイズ(X×Y)

0.1 mm以下シート反り

0.01 mm以下実装面平面度

±1 %以下重要寸法精度

0.3 mm薄肉部の厚み

170 W/m・k以上熱伝導率

回路密着力(90 °ピール強度) 1 N/mm以上

70 %以上反射率

MIPTEC で回路形成可能レーザ照射時にアルミニウムの析出がないこと

項目

基板形状

基板特性

1 MID

Page 3: High Heat Radiation and High Reflection Rate …...patterns and improved surface reflection rate have been achieved. The developed high heat radiation MID is suited for high power

18 パナソニック電工技報 Vol. 58 No. 4

射率が望まれる。 4に,窒化アルミニウムと一般的なセラミックス材料であるアルミナの熱伝導率および反射率の比較を示す。窒化アルミニウムは放熱性が高いことから LEDモジュールなどの材料に好適であるが,反射率がきわめて低いために発光効率が低下する。したがって,窒化アルミニウムを用いる場合は反射率の向上(70 %以上)が必要となる。

3. 窒化アルミニウム基板3.1 成形法

2章で述べた課題を解決するため,以下の技術開発が必要となる。(1)高精度 3次元形状を成形するための窒化アルミニウム射出成形技術

(2)耐レーザ性と回路密着力を高め,かつ高い反射率を得るための酸化膜形成技術

3次元形状の窒化アルミニウム基板を成形する方法としては,射出成形法のほかにプレス成形法や積層セラミックス法がある。しかし,プレス成形法は複数の個片から成るシートを作製する場合は金型が複雑になること,積層セラミックス法は平板を貼り合わせて構成するために他の成形法に比較して熱伝導率が低下することが欠点となる。これに対し,射出成形法は形状自由度に優れるという利点があることから,筆者らはこれを採用する。また窒化アルミニウムを酸化することで,表面に酸化膜であるアルミナ層を形成することができる。アルミナは非常に安定な酸化物であり,耐レーザ性が期待できる。さらに 4に示すとおり,アルミナは高い反射率を有するため,基板の反射率の向上が期待できる。本プロセスを以下に示す。また,その模式図を 5に示す。 ①射出成形をするため,窒化アルミニウム粉末に樹脂バ

インダを配合した材料を用意する。樹脂バインダの配合は,成形性のみならず,成形後の脱脂工程を考慮し

て設定する。 ②射出成形により,3次元回路基板の成形体を得る。 ③脱脂工程で,成形体に含まれる樹脂バインダを熱分解

して除去する。 ④温度 1800~ 1850 ℃の窒素雰囲気で焼結する。なお,

焼結の際には基板は 15 %以上収縮する。 ⑤温度 1000~ 1200 ℃の大気雰囲気で加熱して窒化ア

ルミニウム基板の表面を酸化し,耐レーザ性と高反射率の機能を兼ね備えたアルミナ層を形成する。

各工程のポイントを,2章に提示した開発課題に対して説明する。

3.2 高精度薄肉成形

セラミックスの射出成形では,一般的に樹脂バインダ量を多くすると流動性は向上するが,焼結時の収縮が大きくなり寸法ばらつきが大きくなる。したがって,薄肉成形が可能な流動性を確保しつつバインダ量を低減させる必要がある。そこで筆者らはバインダ配合を見直し,高温度領域での流動性を保ったまま,開発当初は 41 vol%であったバインダ量を 39 vol%まで低減することを実現した。開発した成形材料の流動性をフローテスタ CFT-500D(島津製作所製,ダイス:径 1 mm,長さ 1 mm)で測定した結果を 6に示す。

0

20

40

60

80

100

アルミナ窒化アルミニウム

反射率(%)

(波長 405 nm)

(b)反射率

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

熱伝導率(W/m・K)

(a)熱伝導率

アルミナ窒化アルミニウム

4

0.5 mm

① 成形材料(窒化アルミニウム粉末+樹脂バインダ)

② 射出成形

③ 脱脂(樹脂バインダを熱分解)

④ 焼結

⑤ アルミナ層形成(熱酸化)

5

Page 4: High Heat Radiation and High Reflection Rate …...patterns and improved surface reflection rate have been achieved. The developed high heat radiation MID is suited for high power

19パナソニック電工技報 Vol. 58 No. 4

焼結の際に全体を均一に収縮させて高い寸法精度を実現するためには,射出成形の際に材料をキャビティー内へ均一に流す必要がある 3)。 7に,40 mm角の平板における実験結果を示す。ゲート形状により焼結後の変形が大きく異なり,成形材料を均一に流すためにはファンゲートを使用するのが有効である。

8に焼結温度とシートの反りの関係を示す。正の反りはシートが上に凸,負の反りはシートが下に凸となる方向を示す。このように,シートの反りは焼結温度に大きく影響を受ける。そこで後述する表面の酸化条件との関係も考慮し,シートの反りが小さくなる焼結温度を設定する。

このようにして得られた窒化アルミニウム基板の寸法精度として,実装面平面度と,基準から一番遠い個片位置のばらつきを 9に示す。実装面平面度は 1に示した要求精度 10 μmを十分に下回っており,高いベアチップ実装性を有していると判断できる。また,個片位置の精度も± 0.1

%程度と要求精度± 1 %を十分に満たしており,切断後も高い個片寸法精度を維持できるといえる。

3.3 高機能表面処理

窒化アルミニウム基板表面の耐レーザ性を高めるため,基板を大気中で 1000~ 1200 ℃に加熱して表面に安定なアルミナ層を形成する。 10に窒化アルミニウム基板にレーザを照射したものと,その表面にアルミナ層を形成した基板にレーザ照射したものを示す。

開発当初の材料

開発材料

0.001

0.01

0.1

1

160150140130120110100

材料温度(℃)

流動性(mL/s)

6

ゲート側

(a)ストレートゲート (b)ファンゲート

ゲート側

線に沿って外形が変形

7

個々の測定値平均値

-0.3

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

シート反り(mm)

上に凸

に反る

下に凸

に反る

焼結温度高低

8

26.3 mm

11.5 mm

寸法精度 ±0.1 %の範囲

評価数;270個片

10 µm 以下

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

50

50403020100-10-20-30-40-50

(b)個片位置の図面に対するずれ量x(µm)

y(µm)

(a)実装面平面度

60

50

40

30

20

10

0

割合(%)

151050平面度(µm)

9

Page 5: High Heat Radiation and High Reflection Rate …...patterns and improved surface reflection rate have been achieved. The developed high heat radiation MID is suited for high power

20 パナソニック電工技報 Vol. 58 No. 4

アルミナ層を形成していない基板では表面に金属が析出し,光沢が見られる。一方,アルミナ層を形成している基板の表面ではレーザによる加工溝は見られるが,表面の変色は見られず,金属析出を防止できている。

通常,窒化アルミニウム基板の表面を熱酸化すると,窒化アルミニウムとアルミナの線膨張係数の差により界面強度が低下する。そのため,アルミナ層の上に金属回路を形成して回路剥離試験を実施すると,基板と金属回路の界面ではなく基板内のアルミナ層と窒化アルミニウムの界面で剥離が起こり,十分なピール強度が得られない。そこで筆者らは,窒化アルミニウム材料の焼結助剤量と焼結温度をある一定以上に設定することで,粒界層の複合酸化物の結晶構造を変化させ( 11),その部位から酸化を進行させる方法を見いだした。これにより, 12に示すようにアルミナ層である酸化膜を従来の板状構造から傾斜膜構造にすることが可能となる。

このように,酸化膜中に窒化アルミニウムとアルミナの傾斜膜が形成されてアンカ構造となることで,線膨張係数差を緩和するとともに回路密着力を大幅に向上できる(13)。なお,回路密着力の測定には(株)島津製作所製のEZ-testを用い,回路幅 2 mm,ピール角度 90 °で実施している。

表面にアルミナ層を形成することで反射率は向上するが,一般的に厚み 5 μm以上の酸化膜を形成すると基材との線膨張係数差により酸化膜に割れや剥離が発生する。したがって,通常の方法では厚膜化は困難であり,十分な反射率を得ることはできない。しかし前述のアンカ構造の傾斜酸化膜を形成することで,酸化膜の割れや剥離を抑制して厚膜化できる。 14に従来構造とアンカ構造の酸化時間と膜厚の関係を示す。アンカ構造の酸化膜では粒界から酸化が促進され,その後粒内が酸化されていくため,通常の表面から均質に酸化される膜と比較して短時間での厚膜化が可能である。 15にアンカ構造の酸化膜厚と反射率の関係を示す。5 μm以上の厚膜化の達成により,目標である 70 %の反射率を十分に満足していることがわかる。ただし,アンカ構造の傾斜酸化膜を形成しても膜厚が 20

μmを越えると微細クラックが発生する( 16)。そこで筆者らはクラックが発生しない領域で酸化膜を厚くしている。なお反射率の測定には,U-3010形分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製,測定波長 405 nm)を使用している。

5 µm 5 µm

(b)開発品(a)従来品

11

30 µm

(b)開発した窒化アルミニウム基板(a)従来の窒化アルミニウム基板

表面酸化層窒化アルミニウム

表面

酸化層(アンカ状)

窒化アルミニウム30 µm

12

開発目標

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

膜厚 24 µm膜厚 4 µm膜厚 2 µm

ピール強度(N/mm)

品発開品来従

13

(b)アルミナ層あり(a)アルミナ層なし

100 µm

レーザ照射

100 µm

レーザ未照射

10

Page 6: High Heat Radiation and High Reflection Rate …...patterns and improved surface reflection rate have been achieved. The developed high heat radiation MID is suited for high power

21パナソニック電工技報 Vol. 58 No. 4

4. 窒化アルミニウムMIDの適用事例以下に,本稿で開発した窒化アルミニウムMIDの使用事例を示す。

4.1 MIDパッケージの事例1LED照明の高出力化は,LEDチップを大型化することで可能である。しかし大型化した場合,チップ歩留の低下によるコストアップや,チップ中央での自己発熱,半導体の光起電力作用による発光効率の低下といった問題がある。したがって最近の電球型 LEDランプでは,小型で安価な LEDチップを複数個実装したものが主流となっている。しかしこの場合,パッケージが大型化するデメリットもある。また高出力化を達成するには,LEDチップから発生する熱を効率良く逃がすために熱伝導性の良いパッケージが要求される。そのため,高輝度 LEDのパッケージは銅やアルミニウムの金属板に白色の樹脂で反射板を形成したもの

や,アルミナなどのセラミックスが用いられているが,それぞれに問題がある。前者は,樹脂が光によって劣化,変色し,発光効率が低下する。また LEDチップとの線膨張係数の違いから,使用環境によっては LEDチップと金属板との界面が剥離する。後者は,焼結前にペースト等を用いて電極を形成する場合は微細なパターン形成が難しく,焼結後に回路を形成する場合は反射板をもった凹形状でなく,平板にしなければならないなどの制約がある。

17に,LEDチップを複数個実装可能なパッケージの従来構造とMID構造を示す。従来の樹脂パッケージやセラミックパッケージでは困難であった凹形状パッケージの底面への微細回路形成を,MIPTECのレーザパターニング技術を用いることで実現している。これにより,複数の LEDチップを高密度にフリップチップ実装することが可能となり,ワイアボンディング実装の場合と比べてパッケージの小型化ができる。

また,発光面とパッケージの距離が近いことと,金属である電極を介して放熱経路が確保されていることから,放熱性が良くなって発光効率も向上する。さらに,ベースとなる材料の窒化アルミニウムはアルミナよりも放熱性が良く,前述したようにその表面を酸化させてアルミナ層を形成することで,高反射率を確保している。

4.2 MIDパッケージの事例2高輝度 LEDは可視光の照明用途だけでなくUV光を用いた工業用途にも活用されている。

18に示すように,UVインクの硬化に用いる水銀ランプは,幅広い波長域と複数のピークエネルギーを有している。そのため発光効率が低く,熱による製品の変色や変形といった問題があり,UVインクの用途は製品のロット番号捺印などに限定されていた。しかし最近では,インクの進化と,それらの硬化に用いる UV照射機の光源の LED化により,カラー印刷機やインクジェットプリンタにも UVインクが用いられてきてい

従来品

開発品

酸化保持温度:1100 ℃

0

5

10

15

20

25

30

2520151050

酸化保持時間(h)

平均酸化膜厚(µm)

14

50 µm 5 µm

16

窒化アルミニウム MID

(a)従来構造

基板(窒化アルミ)

リフレクタ

ワイアボンディング実装

LED チップ

接着剤 配線パターン

影になるLED金ワイア

発光層

・ワイアボンディング

金バンプ

LED

配線パターン

発光層

表層のみアルミナ(高反射)

フリップチップ実装(小型化)

(b)MID 構造

・フリップチップ(高発光効率)

放熱

放熱

17 MID

波長=405 nm

70

72

74

76

78

80

20151050

平均酸化膜厚(µm)

反射率(%)

15

Page 7: High Heat Radiation and High Reflection Rate …...patterns and improved surface reflection rate have been achieved. The developed high heat radiation MID is suited for high power

22 パナソニック電工技報 Vol. 58 No. 4

る。また光源の LED化により,光ピックアップ用のレンズ接着など,従来熱に弱かったアクリルへの使用も可能となり,部品接着用途への拡大が期待されている。

19にMIDである UV-LED用パッケージを示す。中央部には UV光を発する LEDチップが実装され,その右側の凹部には UV-LEDを静電気などから守る保護素子が実装される。また,LEDチップ実装部の左右には凸部が設けられ,ワイアボンディングのワイアを最短にするだけでなく,光の拡散を防止する効果も兼ねている。さらにMIPTECでは側面にもパターン形成ができるため,はんだ時に十分なフィレット形成が可能になり,信頼性の高い実装ができる。

5. あ と が き放熱性に優れた 3次元形状の基板を得るため,射出成形した窒化アルミニウムの表面にアルミナ層を形成することで,レーザ加工による回路パターン形成時に,その熱による窒素脱離に伴うアルミニウムの析出を防止できるMID

を開発した。また,このアルミナ層の構造をアンカ状にして厚膜化することによって,高い回路密着力の維持と反射率の向上を実現した。これらにより,高輝度 LED用パッケージなどに適した高放熱MIDが可能となった。今後は,放熱性や反射率などの特性をさらに向上したパッケージの開発を進めるとともに,回路パターンの微細化と高精度化,および低コスト化を促進し,高放熱基板の用途展開を加速していきたい。

●注* 1)MIPTEC:当社登録商標

*参 考 文 献1)日経 BP社:日経エレクトロニクス,2009年 9月 21日号,p. 38-47

2)小林 充,立田 淳,武藤 正英,中原 陽一郎,井上 浩:セラミックMIDの高反射銀めっきと電磁両立性の向上,松下電工技報,Vol. 56, No. 3, p. 43-49(2008)

3)加藤 和典,安達 正純,中村 一成,安原 鋭幸:セラミックスの射出成形における脱脂時のゆがみとその生成特性,日本機械学会論文集(C編),Vol. 67, No. 657, p. 415-421(2001)

◆執 筆 者 紹 介

木下 直輝 佐藤 正博 小林 充 立田 淳 武藤 正英 生産技術研究所 生産技術研究所 コネクタ事業部 コネクタ事業部 制御ものづくり革新センター 博士(工学)

UV 相対強度(%)

LED 光源紫外線(水銀)

ランプ光源

5004003002000

50

100

波長(nm)

18 UV

5.1mm

5.4mm

1.1 mm

2.9mm

外部接続端子LED チップ実装部

保護素子実装部凸部(ワイアボンディング部)

19 UV-LED