児童H7 n9鳥インフルエンザ症例の危険認識の限界

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児童 H7N9 鳥インフルエンザ症例の危険認識の限界 祝益民 (湖南省児童医院 , 湖南 長沙 410007) 中国現代小児科雑誌 2013 年 6 月 15 日:409-411

【摘要】 インフルエンザウイルス H7N9 亜型は 2013 年 3 月から中国上海などの地で最初に感染

例が報告されて以来、既に 2 例の児童感染者と 1 例の健康なキャリアが出現している。本

文では簡潔に 3 例の児童症例の基本的な状況を述べ、鳥インフルエンザウイルス変異につ

いて文献と結びつけて討論した。またヒト-ヒト感染については確定した結論を出せていな

いが、ヒト感染性 H7N9 鳥インフルエンザの治療と予防措置について、さらにタミフル©および重症段階でのペラミビルなどの薬物の応用方法について紹介する。 インフルエンザウイルス H7N9 とインフルエンザ H1N1、H5N1 ウイルスは異なる。3

種とも A 型インフルエンザウイルスであるが、明確な区別がある。H7N9 と H5N1 は動物

インフルエンザで、ヒトにはまれにしか感染しないことが知られている。H1N1 ウイルス

は通常ヒトと動物に感染する 2 種類に分けられる。A 型インフルエンザはその特性が HxNxによって区別され全部で 135 種の亜型がある。H7N9 はそのうちの 1 種で、家禽類の間で

発現することは知られていたがヒトへの感染例は報告が無かった。2013 年 3 月中国上海な

どの地で報告されたヒト感染性 H7N9 鳥インフルエンザウイルスは、世界で初めての新亜

型インフルエンザウイルスで、社会的に広く関心を引くこととなった。 1. 児童はすでに H7N9 インフルエンザウイルスによる攻撃を受けていた 4 歳の上海の幼稚園男児 1 名が、鼻水を伴った 39℃の発熱を起こした。男児の家には 4羽の鶏と 1 羽の鴨を飼っており、翌日受診した。3 日後に隔離治療が行われ、実験室検査の

結果 H7N9 鳥インフルエンザウイルス核酸陽性と分かった。入院期間中、連続 5 日間、毎

日 2 回、抗ウイルス薬であるタミフル©を規定量服用し、患児の体温も正常に回復し、食欲

も良好で各化学的検査項目と胸部 X 線検査も全て正常となった。患児の母親を含む密接接

触者は全部で 18 人であったが、発熱や呼吸器症状などは出現しなかった。 一方、7 歳の北京の小学 1 年生の女児は、その父母が屠殺業を営んでいたが、営業日はた

ったの 4 日で、3 度の食事に 2 羽の鶏を食したのみであった。発病から受診までが 8 時間で

あり、発熱、咽頭痛、咳嗽、頭痛などの症状があった。病院の発熱外来では、胸部 X 線写

真で“肺部感染”が確認でき、すぐに入院処置を取った。病状の進展は速く、7 時間後の体温

は 40.2℃に達しており、また血中酸素飽和度の低下により、ICU の陰圧室で救命治療を受

けていた。発病 15 時間後にタミフル©による抗ウイルス薬治療に、銀翹散(ぎんぎょうさん)と白虎湯などによる中医薬補助治療を合わせて行った結果、患者の体温は 40.2℃から

36.5℃まで低下し、咳嗽と呼吸困難症状は明らかに好転し、肺の断続性ラ音(湿性ラ音)が消

失した。患児の咽頭スワブによる検体に、A 型インフルエンザを確定診断する際に用いられ

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る核酸検査を行った結果陽性であった。 患児の父親から家禽類を購入した関係者 14 人をスクリーニングした結果、全員健康で、

不調を訴える者はいなかった。14 件分の咽頭スワブ検体を採取した結果、1 名の 4 歳男児

が陽性であり、残りの 13 人は陰性であった。この 4 歳の男児の両親は家禽・魚販売の仕事

をしており、その通りの対面には最初に確定診断された家庭から鶏を購入していたことが

分かった。この男児には臨床症状が出現しておらず、全国で最初に報告された無症状 H7N9キャリアであった。 2. 鳥インフルエンザウイルスの変異 鳥インフルエンザウイルスは絶えず変異することにより、高い感染力と病原性を獲得す

る。低病原性のものが高病原性の亜型ウイルスに変異するのはこのためである。変異した

鳥インフルエンザウイルスは病原性を持たないものや、高病原性のものにもなり得る。自

然条件の元でのリアソータントは往々にして高病原性のものの出現が見られる。今回中国

で流行した H7N9 鳥インフルエンザは、H9N2、H11N9 と H7 ファミリーの 3 つのウイル

スのリアソータントにより産み出された。新型 A/H7N9 鳥インフルエンザの 8 つのゲノム

のうち、表面 Hタンパクゲノムは H7 亜型ウイルスより、ノイラミニダーゼゲノムは H11N9から、のこりの 6 つの核内ゲノムは全て H9N2 由来であった。インフルエンザウイルスが

容易に突然変異を起こすという観点から、将来的にこの新型鳥インフルエンザが世界で流

行する可能性も考えられる。 3. 集合性感染のみではヒト-ヒト感染の可能性を確定することができない ヒトの鳥インフルエンザに対する研究と予防の歴史はすでに 100 年余りになる。現在ま

での研究結果により、鳥インフルエンザウイルスにはヒトインフルエンザウイルスのゲノ

ムセグメントが欠乏しており、鳥インフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルス

の間でリアソータントが起こらなければ、ヒトに感染しにくく、ヒト-ヒト感染も起こりに

くいことが分かっている。ヒトと家禽類の間でインフルエンザ感染が起こるのは、インフ

ルエンザに感染した家禽類に接触したためとしか考えられていない。鳥インフルエンザウ

イルスがヒト感染を起こす確率は非常に小さい。ウイルスは感染した家禽類の呼吸道、眼

鼻の分泌物、糞便排出から、家禽の消化道と呼吸道を通して感染し発病する。感染した家

禽類の糞便、分泌物に汚染された物体、例えば飼料、養鶏場、籠具、飼育管理用具、飲水、

空気、運輸車両、ヒト、昆虫があるが、すべてウイルスを伝播する可能性がある。 WHO と国家衛生計生委員会が上海の現場調査後、ヒト-ヒト感染の証拠を得ることはで

きなかったが、ヒト-ヒト感染があった場合、この種の疾病の伝染性は高く非常に危険とな

る。なぜなら、規模の小さい集合性感染病例の出現であっても、人間の行動は複雑である

ため、ヒト-ヒト感染の可能性が排除できないからである。その中には異常な密接接触、例

えば感染者との体液の接触などが含まれる。ヒト-ヒト感染には近距離接触と偶発的な接触

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が考えられ、普通のインフルエンザの状況と同じとなる。上海ではすでに 2 つの集合性感

染が起きている。一つ目は父親と 2 人の息子、もう一つは夫婦間の例である。62%以上の

感染者の年齢が 60 歳以上であるため、児童が高危険群に当てはまるのかどうかが注目され

ている。病例は散発状態であるが、いくつかの症例においては家禽類との接触が確認でき

なかった。実に 40%近くの H7N9 鳥インフルエンザ患者が明確な家禽類との接触史が無か

ったことが分かったため、それらのウイルスの来源を探し出す必要があり、大規模な調査

による伝染の特徴と経路をはっきりさせなければならない。 4. H7N9 ヒト感染性鳥インフルエンザの感染防止と治療

予防と治療の原則は 3 段階に分かれる。第一段階は予防であり、中医薬により免疫力を 高めることなどが挙げられる。第二段階は軽度の感染であり、タミフル©などの口服薬を使

用する。第三段階は重症段階で、ペラミビルなどの静脈注射薬を用いる。 4.1 オセルタミビル(タミフル©) インフルエンザウイルスの NA はシアル酸末端を裂開する。即ち、ノイラミン酸の N-カルボキシル基と結合する糖鎖のグリコシド結合を切断することで、ウイルスの呼吸道での

伝播を促進する。またウイルスの呼吸道上皮細胞への滲入を促進し、ある種の菌株のビル

レンスを増強し、サイトカインを活性化するため気道での炎症を発展させ、アポトーシス

を引き起こす。オセルタミビル(oseltamivir、GS4104)はインフルエンザウイルスの NA に

よるウイルスに感染した細胞表面のシアル酸残基の裂開を阻害し、感染細胞からのウイル

ス顆粒の出芽を阻害する。一種の選択性の高い NA 阻害薬である。早期にオセルタミビル

を応用することで疾病の持続時間を短縮し、病状を寛解するため、インフルエンザの予防

と治療に有効で、臨床試験中も重篤な不良反応は見られず、頭痛や服用量の多さによる軽

中度の悪心ぐらいであった。その他の薬物と併用しても、薬物間での相互作用は見られな

かった。 4.2 ザナミビル ザナミビルの構造中グアニジン基とインフルエンザウイルス NA 活性部位のアミノ酸は

水素結合、静電気力、ファンデルワールス力の作用により強く結びつくため、作用強度及

び選択性が高い。B 型インフルエンザにもある一定程度の結合をする。鼻内感染した A 型

ウイルスに対してはウイルスの出芽と血清への移行を抑制する。早期(ウイルス接種後 26~32 時間)或いは晩期(ウイルス接種後 50 時間)治療において、連続 4 日使用することで、ウ

イルスの出芽において明らかな期間短縮と、感染力価の低下が見られた。早期治療では発

熱の発生率、臨床スコアの平均、鼻分泌物の平均重量及びアセトアミノフェンの用量につ

いて減少がみられた。しかし、体温が正常あるいは重症例でないものに対しての治療効果

は明らかではない。また薬物の安全性と有効性は確定していない。推奨されている剤量は

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鼻からの吸入 10mg、bid、連続 5 日である。早期に使用することが好ましく、遅くても 48時間以内が目安となる。老人及び肝・腎機能不全の患者に対して剤量調節の必要が無い。

12 歳以下の児童と妊婦、哺乳期の女性には禁忌である。 4.3 ペラミビル ペラミビルは中国で最初の静脈から投与するノイラミニダーゼ阻害薬である。抗ウイル

ス機序はオセルタミビルと同じで、A 型インフルエンザの治療に適応があり、その効果と不

良反応もオセルタミビルと明らかな差異は無い。WHO の報告によると、H7N9 は A 型イ

ンフルエンザの亜型に属し、初期の試験結果によればノイラミニダーゼ阻害薬はこのウイ

ルス作用の抑制に効果があると分かった。国外では、ペラミビルの in vivo、in vitro 試験と

臨床試験結果から、この薬物の各種インフルエンザウイルス株の複製と伝播過程への抑制

の有効性がさし示されており、タキフィラキシーや毒性が小さいという利点があることが

分かっている。静脈注射による投与では半減期は 3.65 時間である。H7N9 ウイルスのシー

クエンス解析によれば、H7N9 ウイルスのノイラミニダーゼは構造が安定しており、N9 と

同源性のものが 98%以上であることからノイラミニダーゼ阻害薬はこのウイルスに対して

有効であることが分かる。薬効が早く表れ、持続時間が長いのも特徴である。普通の患者

には 300~600mg、静脈点滴で一回の投与を行う。重症患者には 300~600mg の静脈点滴

を 1~5 日間、毎日連続させる。児童の剤量は通常の状況下では 10mg/kg 体重で計画し、一

回の投与を行う。一回の最大剤量は 600mg である(児童の投薬方法は主にアジア児童研究デ

ータの結果を参考にもちいた)。薬物不良反応の発生率は 26%で、主に下痢、悪心、嘔吐、

網赤血球の低下、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)の上昇、トリグリセリドの上昇、めまい、

頭痛、大量の汗、脱力感、不眠、胸やけ、動悸、咳嗽、胸痛、腰背疼痛などである。これ

らは薬を停止すると回復する。 5. ヒト感染性 H7N9 鳥インフルエンザの感染予防 感染の来源及び伝播方式は確定されていないが、感染防止のために手部衛生、呼吸衛生、

食品安全措置などの 3 つの環境の基本衛生行動を取ることが重要な鍵となってくる。 5.1 手部衛生

WHO によれば、食物を準備する前、中、後、食事をする前、トイレを使用した後、動物

或いは動物の排泄物を処理した後、手が汚れた時及び家庭内の病人の介護をした時などは

手を洗う必要があるとされている。手部が明らかに汚れた時は、固定石鹸や液体石鹸を用

いる。明らかに汚れていることが分からない時は石鹸と水による手洗い、もしくはアルコ

ール消毒による処理を行う。H7N9 の感染が疑われる症例や確定診断した症例の看護を行

う時には必ず行うべき感染防護措置となる。

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5.2 呼吸衛生 咳嗽或いはくしゃみをしたとき、医療用マスク、紙ナプキン、ハンカチ、肘などで口と

鼻を塞ぎ、使用した紙ナプキンなどはゴミ箱に捨てるなどの処理をする。呼吸道分泌物と

接触した後は手部衛生措置を取ること。 5.3 食品衛生 家禽や豚の肉製品を食べるときは安全なもののみとし、病死したものを食さないように

する。正常に処理された肉は安全で、インフルエンザウイルスは十分な加熱のもとでは不

活化する。食物の中のウイルスは 70℃に達した時に死滅する。パンデミック地区では、肉

製品は適当な処理を行った物のみを食すことが安全につながる。食用の生肉及び調理され

ていないままの物や血を原料とした料理を食することは非常に危険な行為である。生肉と

熟成肉或いはインスタント食品は汚染を防ぐために分けて保存する。生肉と熟成肉は同じ

まな板と包丁を使わないようにする。生肉と熟成肉を処理するときは必ず手を洗う。また、

一度調理した肉をもとの包装用のトレイやその表面に置かないようにすることも大事であ

る。食用の生卵や半熟卵も控えるようにした方が良い。生肉の処理が終わった後は石鹸と

水洗いにより徹底的に手を洗い、生肉と接触のあった食器や調理器具などもきちんと消毒

をすることを推奨する。