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1 第5章 銀河 . 概要 夜空を眺めると多数の星々が見える。そのため、長い間、私たちが眺め ている星々の世界こそが宇宙そのものであると考えられていた。しかし、 実際には、数百万個から数千億個もの星(恒星)が一つの銀河( galaxy を構成しており、宇宙にはそのような銀河が一千億個以上存在しているこ とがわかってきている。太陽系が属している銀河系(天の川銀河)は多数 ある銀河の一つであるが、第6章で詳しく説明する。 この“恒星の宇宙から銀河の宇宙への変革”は1924年に起こった。 この年、エドウイン・ハッブル (E. Hubble) はアンドロメダ星雲の距離を 測定し、私たちの住む銀河とは別の銀河であることを証明した。これがき っかけとなり、宇宙には多数の銀河が存在することがわかったのである。 一般に銀河系から銀河系以外の他の銀河までの距離は、銀河系の大きさ と比べて非常に遠く、そのため肉眼で夜空に確認することのできる銀河は アンドロメダ銀河や大小マゼラン雲(第6章参照)などわずか数個しかな い。しかし、望遠鏡などを使って暗い天体まで観測すると、我々が普段見 ている明るい星々の隙間から、遠くの宇宙に存在する多数の銀河を見るこ とができる(図5-1)。 銀河の大きな特徴は、その見かけの姿(形態)の多様性である。星は点 または球状にしか見えないが、多数の星の集合である銀河はさまざまな形 をしている。円形や楕円形の銀河、横から見ると比較的薄い円盤状の銀河、 その円盤に渦巻模様が見える銀河、また規則性のない非対称な形状の銀河 など多種多様である(私たちは銀河を天球面に投影して見ているので、実 際の観測では二次元の形状を見ていることに注意)。また、明るさや見た 目の色、大きさ、渦巻模様の様子など、さまざまな特徴を持つ銀河が存在 し、まさに千差万別である。 可視光(肉眼で見ることのできる波長帯の電磁波)で銀河を観測すると、 銀河を構成する多数の星から放射される光が支配的なので、銀河内の星の

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Page 1: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

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第5章13 13 銀河13 1 13 概要

夜空を眺めると多数の星々が見えるそのため長い間私たちが眺め

ている星々の世界こそが宇宙そのものであると考えられていたしかし

実際には数百万個から数千億個もの星(恒星)が一つの銀河(galaxy)を構成しており宇宙にはそのような銀河が一千億個以上存在しているこ

とがわかってきている太陽系が属している銀河系(天の川銀河)は多数

ある銀河の一つであるが第6章で詳しく説明する このldquo恒星の宇宙から銀河の宇宙への変革rdquoは1924年に起こった

この年エドウインハッブル(E Hubble)はアンドロメダ星雲の距離を測定し私たちの住む銀河とは別の銀河であることを証明したこれがき

っかけとなり宇宙には多数の銀河が存在することがわかったのである 一般に銀河系から銀河系以外の他の銀河までの距離は銀河系の大きさ

と比べて非常に遠くそのため肉眼で夜空に確認することのできる銀河は

アンドロメダ銀河や大小マゼラン雲(第6章参照)などわずか数個しかな

いしかし望遠鏡などを使って暗い天体まで観測すると我々が普段見

ている明るい星々の隙間から遠くの宇宙に存在する多数の銀河を見るこ

とができる(図5-1) 銀河の大きな特徴はその見かけの姿(形態)の多様性である星は点

または球状にしか見えないが多数の星の集合である銀河はさまざまな形

をしている円形や楕円形の銀河横から見ると比較的薄い円盤状の銀河

その円盤に渦巻模様が見える銀河また規則性のない非対称な形状の銀河

など多種多様である(私たちは銀河を天球面に投影して見ているので実

際の観測では二次元の形状を見ていることに注意)また明るさや見た

目の色大きさ渦巻模様の様子などさまざまな特徴を持つ銀河が存在

しまさに千差万別である 13 可視光(肉眼で見ることのできる波長帯の電磁波)で銀河を観測すると

銀河を構成する多数の星から放射される光が支配的なので銀河内の星の

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分布を見ていることになるしかし銀河の構成要素は星だけではない

星を作る材料となる星間雲や星からの光を吸収散乱する宇宙塵などの星

間物質(第13章参照)も銀河の重要な構成要素であるまた電磁波は

いっさい出さないが星や星間物質よりもはるかに大きい質量を持つダーク

マター(第4章参照)が銀河を重力的に支配している宇宙ではこのよ

うな星星間物質ダークマターからなる銀河が複数(多数)集まり銀

河群銀河団大規模構造(第3章参照)のような階層構造を形成してい

るその意味で銀河は宇宙の最も基本的な構成要素である

図5-113 ハッブル宇宙望遠鏡による銀河の観測中央やや下で十字に輝

いているのが銀河系の中の星の一つでそれ以外の天体は銀河系とは別の

銀河 (NASASTScI)

13 宇宙が誕生してから現在まで137億年経過しているが(第1章参照)

宇宙の歴史の中で銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在

していたわけではない宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重

力不安定性によって増幅されてダークマターハローが形成され(第1

章)その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力

3

に引かれてダークマターハローの中で重力収縮が進み星が形成され

始めるこの星の集団としての銀河の形成は宇宙年齢が数億年の時代に始

まる以後約130億年の間に成長し現在の宇宙で見られるような銀河

に進化したと考えられている 13 この章では現在の宇宙で見られる多種多様な銀河の分類法やその性質

を解説する後半では遠方銀河の観測の現状を紹介した後で宇宙の歴

史の中で銀河がどのように形成され進化してきたかを解説する 2 13 銀河の分類 13 現在の宇宙にはさまざまな特徴を持つ銀河が存在するがこれらの銀河

を分類する方法としてもっとも基本的なものが銀河の形態による分類

(形態分類morphological classification)である銀河はその形態の特徴によって以下に示す種類に分類される 楕円銀河

13 楕円銀河(elliptical galaxy)は天球面に投影されたみかけの形状が円形および楕円形に見える銀河である楕円銀河の3次元構造は一般的

に回転楕円体であると考えられている(ただし厳密にいえば3軸不等

の形状をしていると考えるべきであろう) 13 楕円銀河の可視光の表面輝度分布(次節参照)を調べると中心付近で

明るいがかなり外側まで光芒が広がっている傾向が見られる(図5-

2)

図5-213 すばる望遠鏡による楕円銀河 M8713 (国立天文台)

4

円盤銀河 13 円盤構造を持つ銀河は円盤銀河と( disk galaxy)呼ばれる円盤(disk)成分に加えて渦巻銀河の中心には回転楕円体をしたバルジ(bulge)と呼ばれる成分があるが円盤成分に対するバルジ成分の大きさは銀河ごとにまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在す

る) 円盤銀河は円盤内の構造による違いでさらに 2 種類に大別される

渦巻銀河(spiral galaxy)は円盤の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的な銀河である(図5-3)一方円盤内に銀河中心を通る棒状の構造

(barバーと呼ばれる)を持つ銀河が半数以上を占めているこれらは棒渦巻銀河(barred spiral galaxy)と区別して呼ばれる

図5-3ハッブル宇宙望遠鏡による渦巻銀河 M101(左)と NGC3710(右)13 (NASASTScI)

S0銀河 13 楕円銀河と渦巻銀河の中間の種族としてS0 銀河(S0 galaxy)と分類されるものがあるこれらは円盤構造を持つが渦巻構造を持たない銀河

としてハッブルによって仮説的に導入された種族であるが現在では多数

の S0 銀河が実際に見つかっている円盤を持つので広義には円盤銀河の仲間である

不規則型銀河

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13 現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕円銀河S0 銀河渦巻銀河といった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy)と分類される

13 図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427(左)とNGC3256(右)13 (NASASTScI) 銀河のハッブル分類 13 上に述べた銀河の分類は基本的に 1936 年にハッブルが提唱したハッブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence)と呼ばれることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッブ

ルの音叉図と呼ばれることもある 13 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順に SaSb および Sc 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBaSBbおよび SBc 銀河)と名付けられている 13 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

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より扁平な形をした楕円銀河が配置されている左側から E0E1E2hellipE7 と細かく分類されているここで E のあとの数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [楕円の扁平率は半長軸と半短軸の長さを a と b とすると(a ndash b) a で与えられる]

図 5 - 5 ハ ッ ブ ル の 音 叉 図 ( ハ ッ ブ ル 系 列 ) ( 出 典

httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-galaxies)13 許諾済み =>ハッブルのオリジナルな図に変更するか 13 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側に Sd 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBd 銀河)を加えさらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている =>ハッブルサンデージ分類 =>図を入れるか 13 便宜上楕円銀河と S0 銀河を合わせて早期型銀河( early-type galaxy)渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy)と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type

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spiral)また Sc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral)と呼ぶこともある 13 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている 矮小銀河 13 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy)は異なる形態分布を持つことが知られているここでは B バンド(重心波長=440nm)の絶対等級でminus18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する 13 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical)および矮小楕円体銀河(dwarf spheroidal)であるもう一つは非対称で規則性が乏しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf)また矮小不規則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf)と呼ぶこともある 13 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない 13 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

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観測することが難しい非常に表面輝度が低い銀河( low surface brightness galaxy LSBG)などに分類される銀河も存在する BCDG amp LSBG=>写真を入れる I Zw 18 amp Mal in 1 3 13 銀河の観測的特徴 13 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する

星の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質

やダークマターに関わる物理量も含めて説明する 3-113 光度 =>光度関数に関する記述がない 13 13 第5章で出てくるがシェヒター関数を含め3章で紹介する

方がよい 13 銀河の光度(luminosity)とは銀河の明るさのことである銀河から単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線 13 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河含まれる星の総量を反映している銀河の可視光帯での光度は広

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い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している 13 また紫外線から近赤外線でのスペクトルエネルギー分布(spectral energy distribution SED)は銀河に主として含まれる星の種族で決まる 大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rateSFR)のよい指標を与える 一方近赤外線に主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる SED の進化を示す f rom STARBURST99

中間赤外線と遠赤外線 13 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダスト)

からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温めら

れ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠赤

外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯で

の銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収するダ

ストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた星

生成率の指標としてもよく使われる

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このような図を使って説明してもよい

電波 13 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN第12章参照)や質量

が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの質

量を反映していると考えられている overal l SED を示す たとえば M81は NED で以下のような

SED をしているもう少しわかりやすい銀河を選んでもよいただ

し図は作り直す方がよい

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

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な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

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温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

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(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 2: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

2

分布を見ていることになるしかし銀河の構成要素は星だけではない

星を作る材料となる星間雲や星からの光を吸収散乱する宇宙塵などの星

間物質(第13章参照)も銀河の重要な構成要素であるまた電磁波は

いっさい出さないが星や星間物質よりもはるかに大きい質量を持つダーク

マター(第4章参照)が銀河を重力的に支配している宇宙ではこのよ

うな星星間物質ダークマターからなる銀河が複数(多数)集まり銀

河群銀河団大規模構造(第3章参照)のような階層構造を形成してい

るその意味で銀河は宇宙の最も基本的な構成要素である

図5-113 ハッブル宇宙望遠鏡による銀河の観測中央やや下で十字に輝

いているのが銀河系の中の星の一つでそれ以外の天体は銀河系とは別の

銀河 (NASASTScI)

13 宇宙が誕生してから現在まで137億年経過しているが(第1章参照)

宇宙の歴史の中で銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在

していたわけではない宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重

力不安定性によって増幅されてダークマターハローが形成され(第1

章)その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力

3

に引かれてダークマターハローの中で重力収縮が進み星が形成され

始めるこの星の集団としての銀河の形成は宇宙年齢が数億年の時代に始

まる以後約130億年の間に成長し現在の宇宙で見られるような銀河

に進化したと考えられている 13 この章では現在の宇宙で見られる多種多様な銀河の分類法やその性質

を解説する後半では遠方銀河の観測の現状を紹介した後で宇宙の歴

史の中で銀河がどのように形成され進化してきたかを解説する 2 13 銀河の分類 13 現在の宇宙にはさまざまな特徴を持つ銀河が存在するがこれらの銀河

を分類する方法としてもっとも基本的なものが銀河の形態による分類

(形態分類morphological classification)である銀河はその形態の特徴によって以下に示す種類に分類される 楕円銀河

13 楕円銀河(elliptical galaxy)は天球面に投影されたみかけの形状が円形および楕円形に見える銀河である楕円銀河の3次元構造は一般的

に回転楕円体であると考えられている(ただし厳密にいえば3軸不等

の形状をしていると考えるべきであろう) 13 楕円銀河の可視光の表面輝度分布(次節参照)を調べると中心付近で

明るいがかなり外側まで光芒が広がっている傾向が見られる(図5-

2)

図5-213 すばる望遠鏡による楕円銀河 M8713 (国立天文台)

4

円盤銀河 13 円盤構造を持つ銀河は円盤銀河と( disk galaxy)呼ばれる円盤(disk)成分に加えて渦巻銀河の中心には回転楕円体をしたバルジ(bulge)と呼ばれる成分があるが円盤成分に対するバルジ成分の大きさは銀河ごとにまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在す

る) 円盤銀河は円盤内の構造による違いでさらに 2 種類に大別される

渦巻銀河(spiral galaxy)は円盤の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的な銀河である(図5-3)一方円盤内に銀河中心を通る棒状の構造

(barバーと呼ばれる)を持つ銀河が半数以上を占めているこれらは棒渦巻銀河(barred spiral galaxy)と区別して呼ばれる

図5-3ハッブル宇宙望遠鏡による渦巻銀河 M101(左)と NGC3710(右)13 (NASASTScI)

S0銀河 13 楕円銀河と渦巻銀河の中間の種族としてS0 銀河(S0 galaxy)と分類されるものがあるこれらは円盤構造を持つが渦巻構造を持たない銀河

としてハッブルによって仮説的に導入された種族であるが現在では多数

の S0 銀河が実際に見つかっている円盤を持つので広義には円盤銀河の仲間である

不規則型銀河

5

13 現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕円銀河S0 銀河渦巻銀河といった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy)と分類される

13 図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427(左)とNGC3256(右)13 (NASASTScI) 銀河のハッブル分類 13 上に述べた銀河の分類は基本的に 1936 年にハッブルが提唱したハッブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence)と呼ばれることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッブ

ルの音叉図と呼ばれることもある 13 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順に SaSb および Sc 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBaSBbおよび SBc 銀河)と名付けられている 13 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

6

より扁平な形をした楕円銀河が配置されている左側から E0E1E2hellipE7 と細かく分類されているここで E のあとの数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [楕円の扁平率は半長軸と半短軸の長さを a と b とすると(a ndash b) a で与えられる]

図 5 - 5 ハ ッ ブ ル の 音 叉 図 ( ハ ッ ブ ル 系 列 ) ( 出 典

httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-galaxies)13 許諾済み =>ハッブルのオリジナルな図に変更するか 13 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側に Sd 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBd 銀河)を加えさらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている =>ハッブルサンデージ分類 =>図を入れるか 13 便宜上楕円銀河と S0 銀河を合わせて早期型銀河( early-type galaxy)渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy)と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type

7

spiral)また Sc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral)と呼ぶこともある 13 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている 矮小銀河 13 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy)は異なる形態分布を持つことが知られているここでは B バンド(重心波長=440nm)の絶対等級でminus18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する 13 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical)および矮小楕円体銀河(dwarf spheroidal)であるもう一つは非対称で規則性が乏しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf)また矮小不規則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf)と呼ぶこともある 13 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない 13 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

8

観測することが難しい非常に表面輝度が低い銀河( low surface brightness galaxy LSBG)などに分類される銀河も存在する BCDG amp LSBG=>写真を入れる I Zw 18 amp Mal in 1 3 13 銀河の観測的特徴 13 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する

星の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質

やダークマターに関わる物理量も含めて説明する 3-113 光度 =>光度関数に関する記述がない 13 13 第5章で出てくるがシェヒター関数を含め3章で紹介する

方がよい 13 銀河の光度(luminosity)とは銀河の明るさのことである銀河から単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線 13 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河含まれる星の総量を反映している銀河の可視光帯での光度は広

9

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している 13 また紫外線から近赤外線でのスペクトルエネルギー分布(spectral energy distribution SED)は銀河に主として含まれる星の種族で決まる 大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rateSFR)のよい指標を与える 一方近赤外線に主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる SED の進化を示す f rom STARBURST99

中間赤外線と遠赤外線 13 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダスト)

からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温めら

れ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠赤

外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯で

の銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収するダ

ストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた星

生成率の指標としてもよく使われる

10

このような図を使って説明してもよい

電波 13 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN第12章参照)や質量

が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの質

量を反映していると考えられている overal l SED を示す たとえば M81は NED で以下のような

SED をしているもう少しわかりやすい銀河を選んでもよいただ

し図は作り直す方がよい

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

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3

に引かれてダークマターハローの中で重力収縮が進み星が形成され

始めるこの星の集団としての銀河の形成は宇宙年齢が数億年の時代に始

まる以後約130億年の間に成長し現在の宇宙で見られるような銀河

に進化したと考えられている 13 この章では現在の宇宙で見られる多種多様な銀河の分類法やその性質

を解説する後半では遠方銀河の観測の現状を紹介した後で宇宙の歴

史の中で銀河がどのように形成され進化してきたかを解説する 2 13 銀河の分類 13 現在の宇宙にはさまざまな特徴を持つ銀河が存在するがこれらの銀河

を分類する方法としてもっとも基本的なものが銀河の形態による分類

(形態分類morphological classification)である銀河はその形態の特徴によって以下に示す種類に分類される 楕円銀河

13 楕円銀河(elliptical galaxy)は天球面に投影されたみかけの形状が円形および楕円形に見える銀河である楕円銀河の3次元構造は一般的

に回転楕円体であると考えられている(ただし厳密にいえば3軸不等

の形状をしていると考えるべきであろう) 13 楕円銀河の可視光の表面輝度分布(次節参照)を調べると中心付近で

明るいがかなり外側まで光芒が広がっている傾向が見られる(図5-

2)

図5-213 すばる望遠鏡による楕円銀河 M8713 (国立天文台)

4

円盤銀河 13 円盤構造を持つ銀河は円盤銀河と( disk galaxy)呼ばれる円盤(disk)成分に加えて渦巻銀河の中心には回転楕円体をしたバルジ(bulge)と呼ばれる成分があるが円盤成分に対するバルジ成分の大きさは銀河ごとにまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在す

る) 円盤銀河は円盤内の構造による違いでさらに 2 種類に大別される

渦巻銀河(spiral galaxy)は円盤の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的な銀河である(図5-3)一方円盤内に銀河中心を通る棒状の構造

(barバーと呼ばれる)を持つ銀河が半数以上を占めているこれらは棒渦巻銀河(barred spiral galaxy)と区別して呼ばれる

図5-3ハッブル宇宙望遠鏡による渦巻銀河 M101(左)と NGC3710(右)13 (NASASTScI)

S0銀河 13 楕円銀河と渦巻銀河の中間の種族としてS0 銀河(S0 galaxy)と分類されるものがあるこれらは円盤構造を持つが渦巻構造を持たない銀河

としてハッブルによって仮説的に導入された種族であるが現在では多数

の S0 銀河が実際に見つかっている円盤を持つので広義には円盤銀河の仲間である

不規則型銀河

5

13 現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕円銀河S0 銀河渦巻銀河といった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy)と分類される

13 図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427(左)とNGC3256(右)13 (NASASTScI) 銀河のハッブル分類 13 上に述べた銀河の分類は基本的に 1936 年にハッブルが提唱したハッブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence)と呼ばれることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッブ

ルの音叉図と呼ばれることもある 13 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順に SaSb および Sc 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBaSBbおよび SBc 銀河)と名付けられている 13 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

6

より扁平な形をした楕円銀河が配置されている左側から E0E1E2hellipE7 と細かく分類されているここで E のあとの数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [楕円の扁平率は半長軸と半短軸の長さを a と b とすると(a ndash b) a で与えられる]

図 5 - 5 ハ ッ ブ ル の 音 叉 図 ( ハ ッ ブ ル 系 列 ) ( 出 典

httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-galaxies)13 許諾済み =>ハッブルのオリジナルな図に変更するか 13 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側に Sd 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBd 銀河)を加えさらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている =>ハッブルサンデージ分類 =>図を入れるか 13 便宜上楕円銀河と S0 銀河を合わせて早期型銀河( early-type galaxy)渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy)と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type

7

spiral)また Sc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral)と呼ぶこともある 13 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている 矮小銀河 13 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy)は異なる形態分布を持つことが知られているここでは B バンド(重心波長=440nm)の絶対等級でminus18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する 13 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical)および矮小楕円体銀河(dwarf spheroidal)であるもう一つは非対称で規則性が乏しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf)また矮小不規則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf)と呼ぶこともある 13 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない 13 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

8

観測することが難しい非常に表面輝度が低い銀河( low surface brightness galaxy LSBG)などに分類される銀河も存在する BCDG amp LSBG=>写真を入れる I Zw 18 amp Mal in 1 3 13 銀河の観測的特徴 13 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する

星の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質

やダークマターに関わる物理量も含めて説明する 3-113 光度 =>光度関数に関する記述がない 13 13 第5章で出てくるがシェヒター関数を含め3章で紹介する

方がよい 13 銀河の光度(luminosity)とは銀河の明るさのことである銀河から単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線 13 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河含まれる星の総量を反映している銀河の可視光帯での光度は広

9

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している 13 また紫外線から近赤外線でのスペクトルエネルギー分布(spectral energy distribution SED)は銀河に主として含まれる星の種族で決まる 大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rateSFR)のよい指標を与える 一方近赤外線に主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる SED の進化を示す f rom STARBURST99

中間赤外線と遠赤外線 13 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダスト)

からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温めら

れ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠赤

外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯で

の銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収するダ

ストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた星

生成率の指標としてもよく使われる

10

このような図を使って説明してもよい

電波 13 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN第12章参照)や質量

が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの質

量を反映していると考えられている overal l SED を示す たとえば M81は NED で以下のような

SED をしているもう少しわかりやすい銀河を選んでもよいただ

し図は作り直す方がよい

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 4: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

4

円盤銀河 13 円盤構造を持つ銀河は円盤銀河と( disk galaxy)呼ばれる円盤(disk)成分に加えて渦巻銀河の中心には回転楕円体をしたバルジ(bulge)と呼ばれる成分があるが円盤成分に対するバルジ成分の大きさは銀河ごとにまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在す

る) 円盤銀河は円盤内の構造による違いでさらに 2 種類に大別される

渦巻銀河(spiral galaxy)は円盤の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的な銀河である(図5-3)一方円盤内に銀河中心を通る棒状の構造

(barバーと呼ばれる)を持つ銀河が半数以上を占めているこれらは棒渦巻銀河(barred spiral galaxy)と区別して呼ばれる

図5-3ハッブル宇宙望遠鏡による渦巻銀河 M101(左)と NGC3710(右)13 (NASASTScI)

S0銀河 13 楕円銀河と渦巻銀河の中間の種族としてS0 銀河(S0 galaxy)と分類されるものがあるこれらは円盤構造を持つが渦巻構造を持たない銀河

としてハッブルによって仮説的に導入された種族であるが現在では多数

の S0 銀河が実際に見つかっている円盤を持つので広義には円盤銀河の仲間である

不規則型銀河

5

13 現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕円銀河S0 銀河渦巻銀河といった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy)と分類される

13 図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427(左)とNGC3256(右)13 (NASASTScI) 銀河のハッブル分類 13 上に述べた銀河の分類は基本的に 1936 年にハッブルが提唱したハッブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence)と呼ばれることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッブ

ルの音叉図と呼ばれることもある 13 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順に SaSb および Sc 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBaSBbおよび SBc 銀河)と名付けられている 13 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

6

より扁平な形をした楕円銀河が配置されている左側から E0E1E2hellipE7 と細かく分類されているここで E のあとの数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [楕円の扁平率は半長軸と半短軸の長さを a と b とすると(a ndash b) a で与えられる]

図 5 - 5 ハ ッ ブ ル の 音 叉 図 ( ハ ッ ブ ル 系 列 ) ( 出 典

httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-galaxies)13 許諾済み =>ハッブルのオリジナルな図に変更するか 13 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側に Sd 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBd 銀河)を加えさらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている =>ハッブルサンデージ分類 =>図を入れるか 13 便宜上楕円銀河と S0 銀河を合わせて早期型銀河( early-type galaxy)渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy)と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type

7

spiral)また Sc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral)と呼ぶこともある 13 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている 矮小銀河 13 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy)は異なる形態分布を持つことが知られているここでは B バンド(重心波長=440nm)の絶対等級でminus18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する 13 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical)および矮小楕円体銀河(dwarf spheroidal)であるもう一つは非対称で規則性が乏しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf)また矮小不規則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf)と呼ぶこともある 13 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない 13 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

8

観測することが難しい非常に表面輝度が低い銀河( low surface brightness galaxy LSBG)などに分類される銀河も存在する BCDG amp LSBG=>写真を入れる I Zw 18 amp Mal in 1 3 13 銀河の観測的特徴 13 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する

星の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質

やダークマターに関わる物理量も含めて説明する 3-113 光度 =>光度関数に関する記述がない 13 13 第5章で出てくるがシェヒター関数を含め3章で紹介する

方がよい 13 銀河の光度(luminosity)とは銀河の明るさのことである銀河から単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線 13 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河含まれる星の総量を反映している銀河の可視光帯での光度は広

9

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している 13 また紫外線から近赤外線でのスペクトルエネルギー分布(spectral energy distribution SED)は銀河に主として含まれる星の種族で決まる 大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rateSFR)のよい指標を与える 一方近赤外線に主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる SED の進化を示す f rom STARBURST99

中間赤外線と遠赤外線 13 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダスト)

からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温めら

れ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠赤

外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯で

の銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収するダ

ストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた星

生成率の指標としてもよく使われる

10

このような図を使って説明してもよい

電波 13 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN第12章参照)や質量

が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの質

量を反映していると考えられている overal l SED を示す たとえば M81は NED で以下のような

SED をしているもう少しわかりやすい銀河を選んでもよいただ

し図は作り直す方がよい

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

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宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

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ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

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での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

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図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

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13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

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13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

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13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

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測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 5: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

5

13 現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕円銀河S0 銀河渦巻銀河といった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy)と分類される

13 図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427(左)とNGC3256(右)13 (NASASTScI) 銀河のハッブル分類 13 上に述べた銀河の分類は基本的に 1936 年にハッブルが提唱したハッブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence)と呼ばれることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッブ

ルの音叉図と呼ばれることもある 13 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順に SaSb および Sc 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBaSBbおよび SBc 銀河)と名付けられている 13 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

6

より扁平な形をした楕円銀河が配置されている左側から E0E1E2hellipE7 と細かく分類されているここで E のあとの数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [楕円の扁平率は半長軸と半短軸の長さを a と b とすると(a ndash b) a で与えられる]

図 5 - 5 ハ ッ ブ ル の 音 叉 図 ( ハ ッ ブ ル 系 列 ) ( 出 典

httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-galaxies)13 許諾済み =>ハッブルのオリジナルな図に変更するか 13 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側に Sd 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBd 銀河)を加えさらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている =>ハッブルサンデージ分類 =>図を入れるか 13 便宜上楕円銀河と S0 銀河を合わせて早期型銀河( early-type galaxy)渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy)と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type

7

spiral)また Sc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral)と呼ぶこともある 13 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている 矮小銀河 13 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy)は異なる形態分布を持つことが知られているここでは B バンド(重心波長=440nm)の絶対等級でminus18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する 13 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical)および矮小楕円体銀河(dwarf spheroidal)であるもう一つは非対称で規則性が乏しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf)また矮小不規則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf)と呼ぶこともある 13 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない 13 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

8

観測することが難しい非常に表面輝度が低い銀河( low surface brightness galaxy LSBG)などに分類される銀河も存在する BCDG amp LSBG=>写真を入れる I Zw 18 amp Mal in 1 3 13 銀河の観測的特徴 13 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する

星の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質

やダークマターに関わる物理量も含めて説明する 3-113 光度 =>光度関数に関する記述がない 13 13 第5章で出てくるがシェヒター関数を含め3章で紹介する

方がよい 13 銀河の光度(luminosity)とは銀河の明るさのことである銀河から単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線 13 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河含まれる星の総量を反映している銀河の可視光帯での光度は広

9

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している 13 また紫外線から近赤外線でのスペクトルエネルギー分布(spectral energy distribution SED)は銀河に主として含まれる星の種族で決まる 大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rateSFR)のよい指標を与える 一方近赤外線に主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる SED の進化を示す f rom STARBURST99

中間赤外線と遠赤外線 13 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダスト)

からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温めら

れ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠赤

外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯で

の銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収するダ

ストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた星

生成率の指標としてもよく使われる

10

このような図を使って説明してもよい

電波 13 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN第12章参照)や質量

が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの質

量を反映していると考えられている overal l SED を示す たとえば M81は NED で以下のような

SED をしているもう少しわかりやすい銀河を選んでもよいただ

し図は作り直す方がよい

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 6: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

6

より扁平な形をした楕円銀河が配置されている左側から E0E1E2hellipE7 と細かく分類されているここで E のあとの数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [楕円の扁平率は半長軸と半短軸の長さを a と b とすると(a ndash b) a で与えられる]

図 5 - 5 ハ ッ ブ ル の 音 叉 図 ( ハ ッ ブ ル 系 列 ) ( 出 典

httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-galaxies)13 許諾済み =>ハッブルのオリジナルな図に変更するか 13 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側に Sd 銀河(棒渦巻銀河の場合は SBd 銀河)を加えさらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている =>ハッブルサンデージ分類 =>図を入れるか 13 便宜上楕円銀河と S0 銀河を合わせて早期型銀河( early-type galaxy)渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy)と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type

7

spiral)また Sc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral)と呼ぶこともある 13 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている 矮小銀河 13 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy)は異なる形態分布を持つことが知られているここでは B バンド(重心波長=440nm)の絶対等級でminus18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する 13 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical)および矮小楕円体銀河(dwarf spheroidal)であるもう一つは非対称で規則性が乏しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf)また矮小不規則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf)と呼ぶこともある 13 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない 13 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

8

観測することが難しい非常に表面輝度が低い銀河( low surface brightness galaxy LSBG)などに分類される銀河も存在する BCDG amp LSBG=>写真を入れる I Zw 18 amp Mal in 1 3 13 銀河の観測的特徴 13 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する

星の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質

やダークマターに関わる物理量も含めて説明する 3-113 光度 =>光度関数に関する記述がない 13 13 第5章で出てくるがシェヒター関数を含め3章で紹介する

方がよい 13 銀河の光度(luminosity)とは銀河の明るさのことである銀河から単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線 13 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河含まれる星の総量を反映している銀河の可視光帯での光度は広

9

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している 13 また紫外線から近赤外線でのスペクトルエネルギー分布(spectral energy distribution SED)は銀河に主として含まれる星の種族で決まる 大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rateSFR)のよい指標を与える 一方近赤外線に主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる SED の進化を示す f rom STARBURST99

中間赤外線と遠赤外線 13 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダスト)

からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温めら

れ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠赤

外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯で

の銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収するダ

ストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた星

生成率の指標としてもよく使われる

10

このような図を使って説明してもよい

電波 13 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN第12章参照)や質量

が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの質

量を反映していると考えられている overal l SED を示す たとえば M81は NED で以下のような

SED をしているもう少しわかりやすい銀河を選んでもよいただ

し図は作り直す方がよい

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 7: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

7

spiral)また Sc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral)と呼ぶこともある 13 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている 矮小銀河 13 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy)は異なる形態分布を持つことが知られているここでは B バンド(重心波長=440nm)の絶対等級でminus18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する 13 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical)および矮小楕円体銀河(dwarf spheroidal)であるもう一つは非対称で規則性が乏しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf)また矮小不規則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf)と呼ぶこともある 13 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない 13 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

8

観測することが難しい非常に表面輝度が低い銀河( low surface brightness galaxy LSBG)などに分類される銀河も存在する BCDG amp LSBG=>写真を入れる I Zw 18 amp Mal in 1 3 13 銀河の観測的特徴 13 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する

星の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質

やダークマターに関わる物理量も含めて説明する 3-113 光度 =>光度関数に関する記述がない 13 13 第5章で出てくるがシェヒター関数を含め3章で紹介する

方がよい 13 銀河の光度(luminosity)とは銀河の明るさのことである銀河から単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線 13 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河含まれる星の総量を反映している銀河の可視光帯での光度は広

9

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している 13 また紫外線から近赤外線でのスペクトルエネルギー分布(spectral energy distribution SED)は銀河に主として含まれる星の種族で決まる 大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rateSFR)のよい指標を与える 一方近赤外線に主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる SED の進化を示す f rom STARBURST99

中間赤外線と遠赤外線 13 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダスト)

からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温めら

れ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠赤

外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯で

の銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収するダ

ストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた星

生成率の指標としてもよく使われる

10

このような図を使って説明してもよい

電波 13 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN第12章参照)や質量

が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの質

量を反映していると考えられている overal l SED を示す たとえば M81は NED で以下のような

SED をしているもう少しわかりやすい銀河を選んでもよいただ

し図は作り直す方がよい

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 8: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

8

観測することが難しい非常に表面輝度が低い銀河( low surface brightness galaxy LSBG)などに分類される銀河も存在する BCDG amp LSBG=>写真を入れる I Zw 18 amp Mal in 1 3 13 銀河の観測的特徴 13 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する

星の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質

やダークマターに関わる物理量も含めて説明する 3-113 光度 =>光度関数に関する記述がない 13 13 第5章で出てくるがシェヒター関数を含め3章で紹介する

方がよい 13 銀河の光度(luminosity)とは銀河の明るさのことである銀河から単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線 13 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河含まれる星の総量を反映している銀河の可視光帯での光度は広

9

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している 13 また紫外線から近赤外線でのスペクトルエネルギー分布(spectral energy distribution SED)は銀河に主として含まれる星の種族で決まる 大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rateSFR)のよい指標を与える 一方近赤外線に主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる SED の進化を示す f rom STARBURST99

中間赤外線と遠赤外線 13 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダスト)

からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温めら

れ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠赤

外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯で

の銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収するダ

ストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた星

生成率の指標としてもよく使われる

10

このような図を使って説明してもよい

電波 13 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN第12章参照)や質量

が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの質

量を反映していると考えられている overal l SED を示す たとえば M81は NED で以下のような

SED をしているもう少しわかりやすい銀河を選んでもよいただ

し図は作り直す方がよい

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 9: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

9

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している 13 また紫外線から近赤外線でのスペクトルエネルギー分布(spectral energy distribution SED)は銀河に主として含まれる星の種族で決まる 大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rateSFR)のよい指標を与える 一方近赤外線に主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる SED の進化を示す f rom STARBURST99

中間赤外線と遠赤外線 13 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダスト)

からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温めら

れ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠赤

外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯で

の銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収するダ

ストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた星

生成率の指標としてもよく使われる

10

このような図を使って説明してもよい

電波 13 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN第12章参照)や質量

が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの質

量を反映していると考えられている overal l SED を示す たとえば M81は NED で以下のような

SED をしているもう少しわかりやすい銀河を選んでもよいただ

し図は作り直す方がよい

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

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10

このような図を使って説明してもよい

電波 13 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN第12章参照)や質量

が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの質

量を反映していると考えられている overal l SED を示す たとえば M81は NED で以下のような

SED をしているもう少しわかりやすい銀河を選んでもよいただ

し図は作り直す方がよい

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 11: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

11

3-213 質量 =>質量mdash光度比による推定を入れる

13 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである 13 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる 13 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 013 を用いて質量を推定することができる 楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

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12

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にも X 線で観測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束

縛しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)

このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の1

0倍以上にも及ぶことが多い 13 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量程度以下の小質量

星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネルギーを放

射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映する銀

河の色やスペクトルから推定できる星の年齢や金属量についての情報(本

章3-5節および3-6節を参照)も加えると近赤外線の光度から星質

量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は太陽質量を単位と

して表されることが多いが小さい銀河で太陽質量の数百万倍から巨大な

銀河で数千億太陽質量のものまである 13 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照) 13 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 13: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

13

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

る 3-313 表面輝度分布

13 表面輝度(surface brightness)は天球面上に投影された単位面積あたりの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど) 13 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile)と呼ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

119868 119903 = 119868exp minus767119903119903

minus 1

で表されるここで119903は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I(r)をrが無限大まで積分した値]の半分になるように定義されているこの119903は有効半径(effective radius)と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる(本章3-4節参照)119868は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータで半径が119903での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロファイルは発見

者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law)あるいは指数関数の中の119903 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる 13 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

119868 119903 = 119868exp (minus119903ℎ)

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

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図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 14: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

14

で表されるここでℎは銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length)と呼ばれる119868は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law)と呼ばれるただし渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

図5-6Sb 銀河 NGC488 の表面輝度分布横軸が銀河中心から

の半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中心はドボークルール則外側は指数関

数とよく合っている (出典左図は Kent S M 1985 ApJS 59 115右図は米国国立光学天文台) 13 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆる

やかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある 13 楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを持ち

また渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファイルを

持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの形態の

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 15: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

15

銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう 13 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で 1+ 119911 (ここで119911は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

3-413 サイズ 13 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている 13 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない 13 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius)であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径119903は半光度半径そのものである)銀河の明確

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 16: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

16

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる 多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc(約10万光年)程度の大きさで半径にすると 15kpc になるが半光度半径は 6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の半光度半径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河で 10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

である cD 銀河(cD galaxy)の中には 100kpc を超える半光度半径を持つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある 半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius)銀河の各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius)ある半径での表面輝度とそこから内側での平均表面輝度の比を基準にして定義される半径 3-513 色 13 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo色が青いrdquoまた長い波長の方が明るいほどldquo色が赤

いrdquoと表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 17: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

17

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている 銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history)を反映している 個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量が多い星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある金

属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないがど

の銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同士

で色の比較を行う場合にはその効果は重要である またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い 13 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある 13 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十 K 程度である

(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

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測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 18: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

18

(黒体放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長

帯の SED から温度の情報を得ることができる 13 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が 1+ 119911 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

ら出たときにはそれぞれ1 1+ 119911 倍の波長の光を使って色を測定している

ことになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方

偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測して

いることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見か

けの色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて 1+ 119911 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照) 3-613 金属量

13 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず

(第1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の

原子核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成に

よって作られる(第7章参照) ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 19: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

19

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である 前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

い SN でスペクトルを得る必要がある また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

され HII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる

金属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である

遠方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められ

ている 3-713 環境 13 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河や S0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いことが知られておりこれを形態‐密度関係(morphology-density relation)と呼ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新たに生ま

れずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は星が活発

に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と銀河の物

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 20: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

20

理的性質の間には密接な関係がある 13 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

に起こることが期待される

図5-7銀河の形態‐密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が S0 銀河timesが渦巻銀河+不規則銀河(Dressler A 1980 ApJ 236 351)

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure動圧ともいう)によってはぎ取られることがある 銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

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測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 21: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

21

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない 13 銀河の環境の測定方法には 2 種類ある一つは天球面上をある大きさのマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の

個数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内に

どれだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに

各銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離

を使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照) 4 13 銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する 4-113 楕円銀河と S0 銀河 13 楕円銀河と S0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 22: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

22

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い 13 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る13 13 明るい楕円銀河の形態は表面輝度分布の等高線(等輝度線isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されて

いるこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示

唆している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が

維持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っている

ことが3軸不等構造の原因だと考えられている 13 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy)楕円銀河と円盤型(disky)楕円銀河に細分される(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運動

を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに対し

て箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわかる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385)

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 23: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

23

この図を入れるか

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119) 13 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色minus等

級関係(color-magnitude relation)と呼ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大き

い早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかってお

りこれが色minus等級関係のおもな原因と考えられている 13 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation)と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ‐ジャクソン関係(Faber-Jackson relation)と呼ばれている 13 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはr prop σ 119868 という関係があるそのためこれら

の観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこ

の関係に従ったある平面上に分布するこれを楕円銀河の基本平面

(fundamental plane)と呼ぶ(図5-9右)楕円銀河では力学的平衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の

質量‐光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるこ

とがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 24: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

24

図5-9(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717)13 (右)楕円銀河の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータから

なる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平

面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応する

ように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線が

基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59)

4-213 渦巻銀河 13 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い 13 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 25: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

25

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

13 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすので縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115) 記号の説明を追加 ARAA はクレジット料が高い=>トレースし直す 銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 26: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

26

質量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5

-11左)

13 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各半

径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定の

値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質量

密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している渦

巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3~4乗に比

例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー ‐フィッシャー関係

(Tully-Fisher relation)と呼ばれる(図5-11右)

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶

対等級縦軸はガスの金属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より)13 (右)渦巻銀河のタリー‐フィッシャー関係横

軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(B バンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212 より)

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 27: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

27

縦軸はガスの金属量を示す=>図中の補助線も含めてもう少し説明が必

要13 13 12+log(OH)の説明も必要 13 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光の B バンド(波長 450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量‐光度比

の影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている 13 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

とと質量‐光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因して

いると考えられている 4-313 不規則銀河 13 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている 13 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている 13 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

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測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 28: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

28

13 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-413 矮小銀河 13 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている 一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い 13 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 29: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

29

5 13 銀河形成論 13 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する 13 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する 13 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling) 13 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 30: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

30

のでさらに収縮して密度が高くなる100万 K 程度の温度では電離

したガスからの制動放射1万 K 程度ではおもに水素やヘリウム他の

重元素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率

よく起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えら

れているガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで

効率的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満た

されるダークマターハローの質量は100億から10兆太陽質量と見積

もることができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおお

よそ合致している

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる 13 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 31: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

31

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられる 一方で銀河の中は新たな星の形成を阻害する過程も存在する星

が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起こす(第

7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められる

と(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新

星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外ま

で吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核(AGN第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同様にガスにエ

ネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの超新星爆発や

AGN による星形成を抑制する効果をフィードバック(feedback)と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)から強い紫外線放射さらさ

れている場合にも水素ガスが温められることで(水素ガスは電離され

る)やはり星形成が抑制される可能性がある 13 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である 6 13 銀河の進化 13 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについて

おもに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-113 遠方銀河観測と銀河進化 13 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

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ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

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図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

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13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

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13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

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測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 32: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

32

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる 13 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上のスケール)に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなることが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance)と呼ばれる 結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の 2 点が重要になる 6-213 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究 =>以下では表を活用してテキストを手短にまとめる 13 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 33: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

33

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる(図5-13) 13 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる 13 赤方偏移が z~01 程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河のサーベイとしては2000年代に入って 2dF と SDSS がそれぞれおよそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在

の宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度

で明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準とし

て銀河進化の研究の基礎となっている 13 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダ‐フランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS)であるCFRS は口径36m の CFHT(Canada France Hawaii Telescope)望遠鏡を使って赤方偏移が 0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope HST)の観測が行われ80億年前の活発に星が生まれている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 34: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

34

図5-13VVDS 赤方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同じ輝線や吸収線で

も銀河の赤方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわか

る(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845) この図では輝線がなんであるか読み取れません読み取れない情報

が入っている図は適切ではないように思います他の図を探して

みてください見つからない場合は削除することにしましょう

13 2000年代に入るとKeck 望遠鏡や VLT(Very Large Telescope)などの口径 8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった 13 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey)サーベイは10数万個におよぶ02ltzlt12 の銀河の赤方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形成活動が約80億年前から現在まで

どのように低下してきたのかを明らかにした 13 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器 DEIMOS を使用した銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイは DEEP)はz=07-

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 35: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

35

13(約60mdash90億年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤方偏移を測定した(図5-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を

調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活発に星を

生成していることがわかった(現在の宇宙では質量の大きな銀河ではほと

んど新たに星が生まれていないことに注意) 13 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing)というつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

図5-14DEEP2 赤方偏移サーベイで測定された赤方偏移の分布DEEP2 は4つ領域で行われField-1 を除く3領域では赤方偏移07以上の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われ

ている(Newman J A et al 2012 arXiv12033192) この図は必要か13 =>削除の方向で

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 36: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

36

13 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS(宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこのサーベイの一環として行われている zCOSMOS ではおもに 02ltzlt12 の約4万個の銀河の赤方偏移を測定し銀河進化と環境の関係に着目した研究が行われ

ている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形成が止まりやすい傾

向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が密集した環境ほど星

形成を行っていない銀河が多い傾向があるzCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調べたその結果銀河の質

量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境に関係する星形成を止める

機構は互いに独立している可能性が示唆されている

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである (NASASTScI) 特に情報はないのでこの図が本当に必要か検討しましょう カラーの口絵を作成する場合はよい候補になると思います

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 37: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

37

13 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェクトと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さ

く見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見え

る効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が 03 を超えるような銀河の形態の詳細を調べることは困難である一方 HST は大気圏外から観測しているために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第1

6章参照)最近では補償光学(adoptive optics)という大気のゆらぎの影響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方が HSTより高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状で

は補償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点で

HST は遠方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態についての統計的研究は大部分が HST を用いて行われてきている 遠方銀河の研究における HST 撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDF は約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひたすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天

体まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代における銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測が HDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHST に搭載された新型カメラ(Advanced Camera for Surveys)を用いてハッブルウルトラディープフィールド(Hubble Ultra Deep FieldHUDF)が行われHDF よりもさらに暗い銀河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され

南北2つの160平方分の領域を持つ GOODS サーベイや観測対象をzlt1 の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つ GEMS サーベイが行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記の COSMOS はさらに広さに特化した HST 撮像サーベイといえるこれらの HST の観

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 38: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

38

測と赤方偏移サーベイの組み合わせによってz~1 の宇宙では現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と

近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在し

ていたことが分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態‐密

度関係もこの z~1 の時代にすでに成立していたことが示唆されている 6-313 遠方銀河探査 13 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が 13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が 14 を超えるような遠方の銀河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

像観測から得られる銀河の SED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選出する手法が使われている

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤方偏移3

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 39: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

39

の銀河の予想されるスペクトル下の実線は観測された赤方偏移が 3295のクェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる

3つのフィルターを表わすこの場合は GR の2つのバンドでは比較的明るくUn バンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤方偏移が3を超え

る銀河を探査できる(Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 13 その代表的な方法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method)であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀河

(Lyman break galaxy LBG)と呼ばれる 13 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測で遠方銀河の選出を行うこともよく行われて

いるこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE)と呼ばれる 13 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする ライマンブレーク銀河 13 波長が 912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができるこの特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ 13 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって 1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移 z=3 の銀河では912 times 1+ 119911 = 3648nm 以下

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 40: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

40

の波長ではほとんど光が届かず1216times 1+ 119911 = 4864nm より短い波長でも暗くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさ

が変わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法

である実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために

図5-16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い

方の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短

い波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中

と長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せば

その多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河

をライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG)というライマンブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線

でそれなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外

線を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い 13 1996年に最初の赤方偏移 z~3(約115億年前)のライマンブレーク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が 2 を超える遠方の銀河はクェーサーや電波銀河などの AGN(第12章参照)に限られていたそのような遠方のldquo普通rdquoの銀河をたくさん見つられるようになったという点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HST を用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレーク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗

いので現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 41: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

41

ライマンα輝線銀河 13 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体(emission-line object)あるいは輝線銀河(emission-line galaxy)と呼ばれる 13 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる 13 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

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42

図5-17ライマン α 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルターで実線が狭帯域フィルター点線が広帯域フィルターを示すこの場

合波長およそ7100Å(710nm)の狭帯域フィルターで赤方偏移 486のライマン α 輝線をとらえる下はいろいろな赤方偏移 486 のライマンα 輝線天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60) フィルターレスポンスのカーブが薄くてみにくい =>13 トレースが必要 特に中性水素原子から 1216nm の波長で放射されるライマン α 輝線は

赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測で

きるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河を

ライマン α 輝線銀河(Lymanα emitter LAE)と呼ぶこの手法による探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるようになった 13 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大

きく貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野

を撮像できる能力によってライマン α 輝線探査の手段として非常に強力であり多数の赤方偏移が6を超えるライマン α 輝線銀河を発見したこれらのライマン α 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている ライマン α 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマン α 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっていない

43

その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 43: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

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その他の手法で選出された遠方銀河 (1)13 バルマーブレーク法による遠方銀河探査 13 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼ばれる 360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線の Jバンド(12microμm 帯)と K バンド(22microμm 帯)の色(J-K)が特に赤い銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG)と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times 1+ 119911 ~040times 1+ 119911 = 12~20microμm の波長で観測されるこれらの銀

河はブレークより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる 遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと 4000Å ブレークを示す比較

的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる吸

収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマン α 輝線銀河とは対照的であるライマンブレーク法やライマン α 輝線天体探査では見逃されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある (2)13 BzK 法で検出された遠方銀河

13 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK 法(B z K の3バンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が 14~25の銀河をzバンドと K バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが

入ることを利用する方法である選ばれた銀河は BzK 銀河と呼ばれる

この方法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらず

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 44: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

44

にその赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこ

れらのバルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる

波長帯をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査

することができる

(3)13 サブミリ波銀河 サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえば z~1-4 程

度)のものが多いこれは数十 K の温度のダストからの熱放射のピー

クが遠赤外線(波長約 100microμm)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河を

サブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量

星からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダス

トの熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある (4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

13 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べた HDF を契機としてあるひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行わ

れるようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使う

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 45: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

45

ことによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決

定することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレー

クやバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と

比較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift)と呼ぶこれは赤方偏移を決めて遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある 13 以上見てきたようように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍

的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進

化の様子については次節で紹介する13 6-413 宇宙における星形成史 13 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる 13 宇宙における星形成史を調べる際いかに紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

調べる方法であるもう一つは宇宙における星生成率密度( star formation rate density)を赤方偏移の関数として調べる方法であるこれら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

く 銀河の紫外線光度関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする

46

13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 46: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

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13 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function)と呼ぶ銀河の光度関数は一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左側に向かう)に

つれて徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形

をしている 各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤方偏移が2まで時間

をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる赤方

偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤方偏移

7までは再び明るい銀河の数密度が減っている本章3-1節で述べたよ

うに銀河の紫外線の光度はその銀河における星生成率を反映している

したがって図5-18は星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏

移7から4まで時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっ

とも多くなり赤方偏移2から現在にかけて減少したことを示している

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 47: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

47

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成) この図はモノクロにしたとき見にくいかもしれない =gtデータをもとに作り直す 星生成率密度の進化

13 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD)を使うことが多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす 13 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離された HII 領域からの輝線の光度を使う方法大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる 13 図5-19はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot)と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億年)

まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙年齢

およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在まで

の約80億年の間に約 110 程度にまで星生成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきたかの

歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history)と呼ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことはこ

こ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果とい

える

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 48: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

48

図5-19宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす(Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136)

銀河の星質量関数の進化 以下は書き直し 図の説明をするのではなく概念方法などを説明しその補助

として図を示すようにする 13 図5-20(左)は各星質量を持つ銀河が単位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤方偏

移が1から現在までに比べると赤方偏移3から1程度までの間に銀河の

数が急速に増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目す

るとこの赤方偏移が3から1までの時代には1011(1000億)太陽

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 49: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

49

質量程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図

5-20(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各時代に

宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星生

成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計して

それを体積で割ることにより求められている本章3-2節で述べたよう

に銀河の中の星の総質量は寿命が非常に長い星の寄与が大きく時間

に対してほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-20(右)はま

さに宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表してい

る時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在までの約8

0億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3から1まで

の約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に宇宙の中

で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成率密度

(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

図5-20(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦

軸は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平

均星質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を

示す(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393) この図はモノクロにした時見にくいかもしれない =>データをもとに書き直す

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 50: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

50

13 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金属量の分布を示している

赤方偏移が2や3といった遠方の銀河においても本章4-2節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金属量が高い傾向がある各時代のガ

スの金属量の進化の度合いを見ると赤方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反映しているので金属量の強い進化はこ

の時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によって大き

く成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河における

星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆して

おり本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致している

図5-21銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 51: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

51

縦軸はガスの金属量を示すとは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915) 縦軸の説明が不十分

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-22は

星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河の HST による観測である観測波長は H バンド(16microμm 帯)で銀河から可視光の波長帯で放射され

た光を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直接比

較することができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は

少なく非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の楕

円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇宙では

(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が頻繁に

起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質

量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられ

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 52: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

52

図5-22ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の活発に星が形成され

ている銀河の形態各パネルの一辺は3秒角近赤外線(H バンド)で

の観測で宇宙膨張による赤方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見てい

ることに相当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85) 一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが

小さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその

星質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測され

るどのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについてはいくつかアイデアが提案されているもののよく

わかってはいない 本章5-2節で述べたようにz~1 の時代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2 の銀河の形態は現

53

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

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在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平

均をとった結果(van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5) 6-513 最遠方銀河

13 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)および銀河の3種類に対して

示したものである1960年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェー

サーが発見され一気に初期宇宙の時代の天体が観測されるようになった

それ以降30年以上に渡ってクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこ

れらは電波源として発見された天体であったまたクェーサーを除いた

銀河の中でもっとも遠い天体も同じく電波観測によって発見された

AGN である電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる最

遠方記録の更新は1990年代初めの赤方偏移4897のクェーサーの

発見まで続いた

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 54: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

54

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦軸が最遠方天体の赤方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖線がガンマ線バースト実線が各種銀河(RG電波銀河LAEライマン α 輝線天体LBGライマンブレーク銀河othersその他重力レンズ天体など)を表している分光観測によって赤方偏移が高い精度で

決定された天体のみをプロットしている点に注意

13 転機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた

天体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が

492であることが確認された1990年代後半はライマンブレー

ク法の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視

光観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した 1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 55: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

55

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用することで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)一

方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこの

ライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献し

たすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カ

メラSuprime-Cam)を持っており口径8mの集光力と30分角スケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方銀河の多くはすばる望遠

鏡によって発見されたライマン α 輝線天体が占めることになった 13 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続く X 線から電波までの幅広い波長にわたる残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2 や Swiftといった衛星ミッションとそれに連動した世界中の地上望遠鏡による観

測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏移が同定されており2

005年には赤方偏移が6を超えるものが発見され2009年には最遠

方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガンマ線バーストが発見される

に至ったガンマ線バーストは発生後すばやく望遠鏡を向けることがで

きれば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後最遠

方記録をさらに更新していく上で有力な手段になるだろう(第7章参照) 13 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマン α 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらは

あまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移

の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)

Page 56: galaxy (E. Hubble)はアンドロメダ星雲の距離をcosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp › ~tani › BBALL › VER2 › Chap-5... · 2012-06-21 · この年、エドウイン・ハッブル(E.

56

領域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかよ

り大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマン α 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡による画像(左)と Keck 望遠鏡によるスペクトル(右)約 10microμm

付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマン α 輝線13 (国立天文台)