企業ブランドの 保護と強化 - EY Japan · 2014-06-27 · 2 Insights on IT risk...

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企業ブランドの 保護と強化 ソーシャルメディアガバナンスと戦略 Insights on IT risk Business briefing

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企業ブランドの 保護と強化ソーシャルメディアガバナンスと戦略

Insights on IT riskBusiness briefing

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ii Insights on IT risk

はじめに ............................................................. 1

ソーシャルメディアにおける新しい消費者パワーの台頭 ... 2

ソーシャルメディアが内包するリスク ........................ 4

総合的なソーシャルメディアガバナンスの確立 ........... 8

貴社のブランド保護と強化のために ....................... 14

目 次

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1Insights on IT risk

はじめにインターネット上で展開され 、ユーザー自らが情報を発信しながら形成されてゆくメディア̶̶ソーシャルメディアが、いま企業と顧客の関係、またその従業員、取引先、および規制当局とのかかわり方を大きく変えています。かつて数日から数週間を要したプロセスも、ソーシャルメディアの利用によって、わずか数時間から数分ほどにまで短縮されています。例えば、ある企業はサプライチェーンの効率化のためにソーシャルメディアを利用しています。またある企業は、新ビジネスモデルの樹立や、顧客、従業員、投資家、およびその他の利害関係者との新たな関係の構築にそれを活用しようとしています。一方で、従業員の士気向上や社内コミュニケーションの改善のために取り入れる企業もあれば、有能な人材の発掘や獲得、ひいては企業ブランドの強化および顧客ロイヤルティーの向上に役立てようとする企業もあります。ソーシャルメディアは、いまやマーケットシェア拡大への貢献さえ期待されているのです。

しかし、数多くのビジネスチャンスがソーシャルメディアによって創出される一方、企業には多くの新しい課題に対処する必要も生じています。例えばソーシャルメディア利用者、すなわちインターネットにアクセスできる人物なら、誰でもあっという間に企業ブランドを構築してしまう可能性がありますが、逆にいえば、それと同じ速さで企業ブランドを破壊してしまう脅威を持っているともいえます。さらに、データセキュリティ、プライバシーの問題、規制やコンプライアンス要件の遵守、果ては会社から貸与された機器の使用や、業務時間中のアクセスに対する管理上の問題まで、ソーシャルメディアが内包している課題は山積しています。

こうした課題の短期解決を図るために、ソーシャルメディア関連の問題が発生するたびに、個別的な解決策を講じる企業もあります。しかしこの方法では、経営陣は新たに発生しつづける問題にその都度一から対処しなければならず、結果として時間、エネルギー、そして費用の大きな損失につながってしまいます。

こうした対応とは逆に、先進的な企業はすでに総合的かつ全社的なソーシャルメディア戦略を展開しています。それは、すべての方策が企業ブランドの保護と強化に向けられた、急速なテクノロジーの変化に対応できる強靭さと柔軟性を併せ持つ戦略です。このようなアプローチには、企業の人事、IT、法務、マーケティング、販売部門、顧客、取引業者に影響を与える、組織の全部門が関与することになります。

ただひとつ、総合的かつ幅広いソーシャルメディアへのアプローチのみが、効果的な企業ブランドの保護と強化に必要なガバナンス、すなわち「透明性」をも最終的には実現できるのです。

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2 Insights on IT risk

ソーシャルメディアの普及は、それを正しく認識する者にとって思いがけないビジネスチャンスを生み出します。事実、ボストン・コンサルティング・グループは「G20加盟国におけるウェブ産業の経済価値の伸びは2016年までに倍増の見込み」との見解を2012年1月の報告書で述べています1。 インターネット検索大手のグーグル社が依頼したこの調査によると、4年後には30億人がインターネットの利用者になると予測されており、それは驚くべきことに世界人口の半数近くにのぼります。

いかに多くの人々がソーシャルメディアに魅了されているか、具体的な数字を見ることでそのパワーがうかがえます。例えば、毎日平均 1億 7,200万人がフェイスブック(Facebook)を訪れ、およそ 4,000万人がツイッター(Twitter)を利用しています。またビジネスに特化したサービスで知られる SNS(ソーシャル ・ ネットワーキング・サービス)、リンクトイン(LinkdIn)の利用者も1日2,200万人にのぼるといわれます。さらにネット上では86万時間以上の動画のアップロード、3,500万回以上のアプリケーションのダウンロードがくる日もくる日も行われているのです。

ソーシャルメディアの利用者は、通常若者が主体であるとされていますが、最近では十分な可処分所得があり、強い購買力を持つ人々が、利用者平均年齢を押し上げています。また、アーンスト・アンド・ヤングが2011年に行った調査2によると、67%の回答者が「ソーシャルメディアは、自身の購買活動に影響を及ぼしている」と述べています。今後も、シームレスな通信やデータ転送を可能にするプラットフォームを装備したスマートフォンなど、多様なモバイル端末から迅速かつ安全にソーシャルメディアへのアクセスが可能となり、こうした技術革新による利便性の向上によって、ソーシャルメディアが消費者に与える影響はいっそう強まると予想されています。

幼少期からソーシャルメディアやモバイルコンピューティング、そしてインターネット常時接続が当り前の環境で育った消費者やソーシャルメディア利用者は、成長し経済力を増すにつれ、新たに見出した消費者パワーを武器とし、商品やサービスの価格決定、自身や他者の商品選択、流通、およびマーケティングに直接、間接のさまざまな影響力を持つようになるでしょう。事実、消費者は遠隔地や国外に散在する販売者の、同一製品に対する提案価格を簡単に比較することができます。また、バーコードを携帯端末かスマートフォンでスキャンし、RedLaserなどのアプリを使って製品情報を読み取る事によって、消費者はその店で購入するか他での購入を検討するかを、その場で瞬時に判断することもできるのです。

アーンスト・アンド・ヤングが 2011年に英国で実施した調査では、ソーシャルメディア利用者の80%近くが、その利用目的を「友人や家族とのつながりの構築維持、製品やサービスのレビューおよび評価の閲覧、そして自身のコメントや感想を投稿するため」と回答しています。またその調査の3分の 2以上の回答者が、ソーシャルメディアは商品購入決定時に「非常に」または「ある程度」影響すると述べており、今後も消費者の購買行動の形成において、ソーシャルメディアはより強い役割を果たすと予測されています。つまり、ソーシャルメディアは口コミによる販売活動の規模、頻度、および影響力を飛躍的に増幅させる力を持っていると考えられるのです。

ソーシャルメディアに おける新しい消費者 パワーの台頭

1 The Internet Economy in the G-20: The $4.2 Trillion Growth Opportunity Boston Consulting Group, 2011.

2 YouGov Social Media Survey, Ernst & Young, 2011.

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スマートな企業になるために: 進化するソーシャルメディアとその活用法成には事前の注意深い準備が必要です。クラウドベースのプラットフォームを販売する民間ベンダーは、従業員が楽しみつつその能力を十分発揮できるような多様かつ効果的なツールを用いて、従業員の積極的な参加を促進する魅力的な方法を開発しています。また、社内ソーシャルメディアの利用者数が、クリティカルマス(サービスの利用者数が一気に跳ね上がる分岐点)に到達すると、経営側が新たな社内ソーシャルメディアプラットフォームを導入することは難しくなるでしょう。

ソーシャルメディアの新たな形態として、特定者のみが参加できるプラットフォームがあります。このタイプのソーシャルメディアを社内で導入することにより、複数方向のコミュニケーション、部署をまたいでの協働、そして全社的な知識共有など、企業はイントラネットの機能とその効果を大幅に向上することができると期待されています。さらに、この社内ソーシャルメディアは、業務ノウハウの周知徹底や、社内ネットワークとコミュニティの構築および活動促進のための非常に貴重な機会を提供します。しかしその一方で、社内ソーシャルメディアのプラットフォーム形

50−64歳

30−49歳

65歳以上

18−29歳

7% 4% 13% 22% 26%

11% 16% 25% 36% 46%

25% 36% 48% 58% 61%

67% 73% 76% 83% 86%

2008年5月 2008年11月 2009年4月 2009年12月 2010年5月

ソーシャルメディア利用者はすべての年齢層において着実に増加中

出典 : Pew Research Centerによる“Internet & American Life Project surveys, September 2008 ̶ May 2010”のデータをもとに作成。 いずれも 18歳以上を対象に調査

浸透するソーシャルメディア

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ソーシャルメディアが 内包するリスク

ソーシャルメディアには、企業に大きなビジネスチャンスをもたらす要素があり、ブランド力拡大に貢献しています。しかし、その同じ要素が、企業に IT関連リスクをもたらしています。ソーシャルメディアの特徴である「ボーダレス性」と同じで、ソーシャルメディアを取り巻くリスクは同時に複数の部門に生まれる可能性があります。これに対し、企業は、いつ、どこで、どのような方法で IT部門を関与させるのか、ITリスクの対応策はどうするのかといった課題に取り組まなければなりません。法務、コンプライアンス、規制、運用、および広報活動に関連する諸問題は、ソーシャルメディアがもたらす IT関連リスクの中で上位を占めており、最終的にこれらの問題は、顧客の減少、マーケットシェアの縮小、そして、減収をも招くおそれがあります。

例えば、ツイッター、フェィスブック、リンクトインなどは広く利用されていますが、そのユーザーは、企業のプロフィールを作成し、ネットワークを通じて企業のメッセージを人々に伝達することができます。そうなると、複数の人々による統一性のないメッセージが生まれ、別々の視聴者や企業ポリシー、事例が存在して、市場に混乱が起きる可能性があります。

機会

リスク

社外的観点 社内的観点企業内ソーシャルメディア

ブランディングおよびマーケティング用ソーシャルメディア

ソーシャルエンジニアリング

ソーシャルメディア戦略のリスク

セキュリティ

広報活動目的のソーシャルメディア

イノベーションとクラウドソーシング用ソーシャルメディア

顧客フィードバック用ソーシャルメディア

ソーシャルメディアCRM 社内コミュニケーション用

ソーシャルメディア

採用活動用ソーシャルメディア

社内知識共有用ソーシャルメディア

社内研修用ソーシャルメディア

ソーシャルメディア発の企業評判に対するリスク 規制

ソーシャルメディア発のコンプライアンスに関するリスク

プライバシー

ソーシャルメディア運用のリスク

企業ソーシャルメディアの枠組み

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5Insights on IT risk

まだまだあるソーシャルメディア関連リスク

• ソーシャルメディア上での従業員の不注意による企業機密情報漏えい

• 従業員によるソーシャルメディアへの投稿情報をもとにした、悪意あるハッカーのログイン IDやパスワードのような機密情報の割出し

• 勤務時間中の従業員によるソーシャルアプリケーションの乱用

• ツイッターまたはフェイスブック上の、企業もしくは企業幹部のファンページや個人アカウントに対するハッキング、なりすまし、およびセキュリティ侵害

• プラットフォーム増加に起因する、ウィルス、マルウェア、クロスサイトスクリプティング攻撃、およびフィッシング詐欺の増加

• 従業員や顧客による否定的・名誉棄損的・告発的な投稿(善意投稿の曲解も含む)による、企業ブランドや評判の低下

• 関連規定および法律に完全に準拠した、アーカイブ機能や記録保存プロセス確立の失敗(医療や金融産業、そして銀行業界において特に多数見受けられる)

ソーシャルメディアがもたらす IT関連リスクを、単に無視、制限、規制、および禁止することだけによって回避しようとする企業は、結局わずかなリスク低減しかできないでしょう。事実、こうした取り組み方は、潜在的な問題や課題をより増大させる原因となり、企業が市場で地位を維持向上させるための機能を脅かし、結果として他社に後れを取ることになるのです。

つまるところ、開示性、透明性、および関与性の高さが、今日の企業にとって一番必要です。単なる製品やサービスの提供者と消費者という関係の枠を超えた、新しいつながりを構築することが不可欠なのです。顧客とのコラボレーションや消費者の市場への関与を促進することが、新時代に通用する新しい通貨となり、総合的、積極的、かつ十分な配慮を備えたビジネスアプローチにつながります。「アンチ・ソーシャルメディア」という企業態度は、もはや考えられないのです。

顧客は個人情報や財産を失うこと、 プライバシーが侵害されることを恐れる

顧客は適切な情報を求め、 嬉しい驚きを歓迎し、

生活がより便利になることを望む

ソーシャルメディアシーソー: 顧客による不利益と利便性の比較

ソーシャルメディア

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6 Insights on IT risk

ソーシャルメディアが企業に与える3つの影響

1. 企業による、ソーシャルメディア サイト上でのマーケティングなど

企 業

マーケティング、コミュニケーション、

顧客関係管理、採用、ブランディング、

イノベーション、クラウドソーシング

経営政策、製品、サービス

社内コミュニケーション

従業員

2. 従業員による、ソーシャルメディアサイト上での 外部者との公的交流

3. 外部者による、ソーシャルメディアサイト上での 企業・製品などに関する意見交換や情報の発信

ターゲット層有名人・芸能人、ファン

報道・マスコミ従業員の友人外部者

圧力団体元従業員顧客、取引先

ソーシャルメディア

1. 企業による活動: 企業自身が、ソーシャルメディア上で顧客やその他の利害関係者と交流することによって、製品、サービス、および企業ブランドについて発言の機会形成を促す。

2. 従業員による活動: 従業員が、ソーシャルメディア上で社内外の人々と交流する。

3. 外部利害関係者による活動: 外部利害関係者が、ソーシャルメディア上で企業、製品、およびサービスについて公的発言をし、それが企業の市場見通しや予想を形成する情報として伝達される。

これら3つの活動は、企業にリスクをもたらします。次のセクションでは関連する様々なリスクの具体例を取り上げます。

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ソーシャルメディア: その悪夢のような現実

• ある世界的消費者製品メーカーは、自社製品について環境グループからネット上で批判を受けた。このメーカーは対話をコントロールし 事態を鎮静化しようとしたが、これが裏目に出て火に油を注ぐ結果となった。メーカーに対する批判はさらにユーチューブ、ツイッター、フェイスブック上でも展開され、事態はますます悪化した。

• またある世界的メーカーは、プロモーション目的でツイート数を増やそうと、ツイッターのトレンドトピックの上位にあったハッシュタグ(ニュースで話題の人やイベントの名前)を使用してツイートを発信した。しかし、ツイートの内容がハッシュタグと無関連であったため、このメーカーは新手のスパム行為を行ったとユーザーから誤解され、ツイート中止を求められた。

• ある医療サービス会社の従業員が、患者の医療記録に不正アクセスし、詳細をフェイスブック上で公開したため、この企業は社会の批判を受けるとともに取締当局による追求を受けた。

不十分なソーシャルメディアへの対応に起因する最近の深刻な事例をご紹介します。

• ある世界的メーカーのツイッターアカウントに何者かが不正アクセスし、汚い言葉を含んだツイートを発信した。そのメーカーは、自社アカウントのアクセスセキュリティの見直しを余儀なくされた。

• ある大手テクノロジー企業は、1人の業界ブロガーから手厳しい批判を受けた。それに対し、異論を唱えることなく放置する方針を取ったため、このブロガーは企業の沈黙を無礼な否定と解釈し、攻撃の手を強めた。ほどなくほかのブロガーたちもその攻撃に加わり、ブログは「炎上」した。最終的に、とうとう企業は沈黙を破らざるを得なくなり、対応に追われた。

• 地元で有名な小売業者は、顧客からツイッター上で批判された。従業員の1人が、ネット上でそれを激しく批判し始め、小売業者が制止するまで堂々巡りの議論が続いた。

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総合的な ソーシャルメディア ガバナンスの確立

ソーシャルメディアの普及がすさまじい勢いだっただけに、その戦略策定のためにソーシャルメディアをいかに考えどう定義するかについて、多くの企業が大急ぎで答えを出そうとしてきました。 しかし、残念ながらその多くは、業務のほんの一部にしか適用できないものでした。これは、ソーシャルメディアが企業全体や主要な利害関係者全員に与える影響について、当の企業自身が一貫した考えや理解を持っていないことを示しています。例えば、マーケティングや広報担当者は、ブランディングなどの観点から定義を決定し戦略を練るでしょう。また、ITや情報セキュリティ担当者は、リスク面から、技術やデータ処理に関する課題を重要視するかもしれません。そのほか、法務やコンプライアンス、広報、人事、生産、輸送、および調達の担当者もまた、それぞれ独自の異なる見解をソーシャルメディアに対して持っているに違いありません。

しかし実際は、ソーシャルメディアは企業のすべての機能に影響を与えます。先進的な取り組みを 実施している企業は「効果的なソーシャルメディアガバナンスは、全社的かつ総合的であるべき」と正しく認識しています。理想とされる効果的なソーシャルメディアガバナンスは、以下の3つの必須条件を含みます。

• 機能横断的かつ業界横断的であること

• すべての利害関係者にとって透明性が高いこと

• 総合的な研修および教育啓蒙活動が盛り込まれていること(データ分析、データ損失防止ツール、パスワード保護およびプラグイン禁止を含むエンドユーザーの安全措置に関する事項は必須)

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理想的なソーシャルメディアガバナンスの枠組みは、企業の全部署にまたがるように設計されなければなりません。マーケティング、ナレッジマネジメント、販売、採用、広告、社内外コミュニケーション、流通、顧客対応・維持、社員研修、生産、法務などなど、役割の異なる様々な業務機能を網羅すべきなのです。

この枠組みを導入するにあたり、責任の所在に不安を持つ部門があるかもしれませんが、それはガバナンス戦略の真の目的を理解することによって払拭されます。効果的なガバナンスモデルは、データやプライバシー保護問題の対処責任をIT部門のみに押し付けたりはせず、むしろ全社的な問題と捉えます。例えば、データ喪失や機密情報漏えい防止のために、正しい枠組みを導入した企業は社員教育や研修の場で、ソーシャルメディアの安全で効果的な利用方法について従業員に指導します。こうした教育は、従業員の責任意識の向上にもつながります。彼らは研修を通じて、自身の行動が企業ブランド保護の助けとなり、ブランドの評判向上にも貢献していることを自覚するとともに、個人の責任を強く意識するようになるのです。

効果的なソーシャルメディア戦略とガバナンスの枠組みは、各ソーシャルメディアサイトの総合的な評価、明確な戦略、一貫性のあるポリシー、社員意識向上プログラム、および、高度な監視体制といった要素から構成されます。各要素が周到に整備され、情報管理施策(データ喪失防止、データ分析、およびエンドユーザーの安全措置など)と上手くかみ合えば、ガバナンス効果は最大限に発揮されます。企業はリスクの低減に成功し、企業ブランドを保護しつつ、ソーシャルメディアをマーケティングなどに有効に活用できるでしょう。効果的なガバナンスモデルは、企業のソーシャルメディアに対する姿勢を明確にし、纏まりに欠けたこれまでの戦略に一貫性を与えます。その結果、ソーシャルメディアを通じて、自社の製品、サービス、およびブランドについて顧客がどのような認識を抱いているかを正確に認識する貴重な機会を、企業と従業員へ提供するのです。そしてさらに、従業員はこの認識を武器とし、社内外の人々との交流を通じて顧客をも巻き込んだ、企業ブランドの向上を実現する のです。

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決断前の自問自答: どの部門にソーシャルメディアガバナンスの イニシアチブを託すべきか?

• 従業員の士気向上、採用活動の効率化、および従業員勤怠管理を担う、人事部門に託すか?

• 顧客関係の維持向上を担う、販売部門に託すか?

• 規制当局の動向確認や周知、訴訟関連懸案事項対処策の準備、およびネット上における従業員発言のモニタリングを担う、コンプライアンス部門に託すか?

• 内部統制およびリスクマネジメントシステムに、ソーシャルメディアを組み入れることを目指す、リスク管理チームに託すか?

• ブランド構築およびセールスサポートを担う、マーケティング、広告、 あるいは広報グループに託すか?

• ソーシャルメディア運用プランの実行、およびサーバーやファイアーウォールの管理を担う、ITセキュリティ・運用グループに託すか?

• ソーシャルメディア上での従業員とのコミュニケーションおよび 企業内対話促進を担う、経営管理上層部に託すか?

• 顧客フィードバック収集、ビジネスパートナー発掘、および知識獲得 支援にクラウドソーシングを利用する、研究開発チームに託すか?

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11Insights on IT risk

経営管理

マーケティング・コミュニケーション

ITセキュリティ・運用 研究開発 製品・

サービス

貧弱なソーシャルメディアガバナンス

人 事 法務・コンプライアンス

ビジネスネットワーキング用ウェブサイト

動画共有ウェブサイト

音楽共有ウェブサイト

写真共有サイト

メール管理アプリケーション・従業員情報更新用ウェブサイト

ニュース・最新情報共有ウェブサイト

ソーシャルネットワーキングウェブサイト

経営管理

効果的なソーシャルメディアガバナンス

マーケティング・コミュニケーション

ITセキュリティ・運用 研究開発 製品・

サービス人 事 法務・コンプライアンス

ビジネスネットワーキング用ウェブサイト

動画共有ウェブサイト

音楽共有ウェブサイト

メール管理アプリケーション・従業員情報更新用ウェブサイト

ニュース・最新情報共有ウェブサイト

写真共有サイト

ソーシャルネットワーキングウェブサイト

貧弱な戦略とガバナンスの下、ソーシャルメディアを運用している企業

効果的な戦略とガバナンスの下、ソーシャルメディアを運用している企業

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業界によって異なるソーシャルメディア関連規制

す。多くの国で電気供給などの公益事業は、政府規制もしくはそれに準ずる規制の下で運営されているので、料金や環境問題、顧客教育、災害対応計画、法的証拠開示、データ保管、緊急時連絡体制などについての規制および情報開示法律をソーシャルメディア規制も絡めて順守しなければなりません。

医療産業ネット上の人々と容易につながりが持てる現代において、ソーシャルメディア利用に関する規制は、医療産業界に多大な影響を与えています。例えば、医療記録保管、患者プライバシー、スタッフトレーニング、情報開示、そして医療品警告表示規定など、その影響は広範囲にわたっており、米国では食品医薬品局(FDA)の関連法律規制と「医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律」(HIPAA)双方で、ソーシャルメディアの適切な利用法および禁止事項を厳密に規定しています。例えば、ある人物が医療情報関連サイト上で医師と「友人」になり、ネット上の会話でその人物の病気治療を話題にした場合、患者に対する治療責任や患者情報保護に関する規定に抵触する恐れがあります。また、世界的大手医薬品メーカーがフェイスブック上で医薬品のプロモーションを展開しましたが、他の宣伝媒体や流通販売時において表示が義務付けられている医薬品に関する警告がそのプロモーションサイトに掲載されていないとの理由で規制当局から中止を求められたこともありました。その他、差別、ハラスメント、医療行為正当性保証、ステレオタイピング、記録保管に関する規定など、医療産業に適用されている既存の様々な法律や規制が、医療業界でのソーシャルメディア利用に影響する可能性があるのです。

企業は、規制当局が業界別に策定したコンプライアンスや報告手続をもとに、ソーシャルメディア戦略とガバナンスをカスタマイズする必要があります。企業が属する業界にかかわりなく適用できる「オールラウンドな」策定アプローチは存在しないのです。ここでは、そうしたカスタマイズがいかに重要かを示すため、主要3業界におけるソーシャルメディア関連規制を取り上げます。

金融サービス業米国の証券取引委員会(SEC)、金融取引業規制機構(FINRA)、カナダ投資業規制機構(IIROC)などの金融サービス業の規制当局は、金融機関によるソーシャルメディア利用に対する規制を開始しました。当局は、「ソーシャルメディアは電子コミュニケーションの一形態にすぎない」との見解を示しているものの、ソーシャルメディア上でやり取りされた情報すべてを文書化し保管するよう義務付けるなど、既存の規定や手続に詳細なガイドラインを追加しています。したがって当局は、明確なソーシャルメディアポリシーの策定や社員意識向上研修の実施を通じた新ガイドラインの周知徹底を、金融サービス業界に属する企業に対して強く推奨しています。

電気、電力およびその他公益事業家電リモートセンシングやスマートグリッド技術の利用者増加は、IT関連リスクをもたらす可能性があります。データセキュリティに関連する問題のみならず、例えば公益サービス供給業者が利用量の情報を上手く利用して自分たちから搾取していると思いこんだ消費者がソーシャルメディア上で激しい批判を展開し、大問題に発展する懸念もありま

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ケーススタディ: 後味の悪い結果に

教訓: ソーシャルメディアを使ったキャンペーンは、必ずしも主催者側が意図した結果をもたらすとは限りません。一部の人々はキャンペーンを真面目に受け取らなかったり、面白半分に乗っ取りを企てたりする可能性もあるのです。したがって、不測の事態の想定、定義、および制限要件不在の下、成り行き任せに参加者頼みのキャンペーンを展開するのは危険です。例えば、このメーカーのケースでは、審査員を置くことで優勝商品の審査や承認が可能となり、その結果望ましくない事態の回避ができたはずなのです。よって、企業は大々的にソーシャルメディア上でキャンペーンを実施する前に、あらゆるシナリオを想定し対応策を準備するために、企画ごとのリスク評価を必ず行う必要があります。

あるメーカーが、ソーシャルメディアを利用した新商品開発プロジェクトを実施しました。メーカーは自社のフェイスブックサイト上で消費者から新商品のアイディアとその商品名を募り、人気投票で1位を獲得したものが実際に商品として店頭販売される仕組みでした。キャンペーン開始当初、参加者は良識的で商品化可能なアイディアを投稿していましたが、その後ある参加者が、不適切な原材料を使用した非常識な製品アイディアを投稿しました。やがてこのアイディアを優勝させようと、面白半分に投票する者が現れ、多くの参加者がこれに追従しました。メーカー側はこの勢いのすさまじさを危惧し、とうとう投票を中止せざるを得なくなりました。このメーカーの姿勢は複数のソーシャルメディアサイト上で多くの反発を招き、さらにニュースメディアもこの騒動を取り上げメーカー側の不手際を批判しました。

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貴社のブランド保護と強化のために

ソーシャルメディアは進化し、日々新たなチャンスとリスクを企業にもたらすことによって、そのビジネスのあり方を変化させ続けています。

迅速、周到かつ断固としたソーシャルメディア対策を講じなかった多くの企業は、マーケットシェア、顧客信頼度、株価、市場全体的評価に対し大きな痛手を被り、長い後遺症に苦しみました。一方、 何百万人にものぼるネット消費者は今や一大勢力となり、企業ブランドに危機をもたらしますが、そうした重要局面で、ブランド保護のための機敏な対策を講じている企業も世界各国で見受けられます。

企業機能と統合された総合的な戦略、そして強固なガバナンスを整備している企業は、急激な変化の中での生存競争に打ち勝ち、ひいては繁栄を手にするための備えが万全であると見なしてよいでしょう。効果的な戦略とそれに則ったガバナンスは、企業ブランドを保護し強化します。また、企業目標達成のための、最適最善なソーシャルメディアの活用法を熟知し、それを武器としている企業は、無防備な企業に比べより確実な業績向上を期待できます。加えて、ソーシャルメディア戦略、およびガバナンスの枠組みを効果的に構築し管理している企業は、準備不足の競合他社より先んじて 競争優位性を獲得するでしょう。

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貴社はどこまで進んでいますか?

分析および モニタリング

• 事業全般の重要な側面に関係するあらゆるソーシャルメディアサイトに対し、モニタリングを実施していますか?

• ソーシャルメディアチャネル上のインシデント(業務運営の障害となるあらゆる事象)に関するリスク分析を行っていますか? 顧客からのフィードバックや顧客との相互通信だけでなく、ITセキュリティやプライバシー関連の問題にもフォーカスした、インシデント対応プロセスを整備していますか?

評 価

• ソーシャルメディア戦略にはマーケティング、法務、人事、IT、オペレーション、および物流など、ソーシャルメディアから影響を受けるすべての部門と機能が包括的に組み込まれていますか?

• ソーシャルメディアプラットフォームの利用に関連したリスクを、明確に特定していますか? 業界特有の観点を考慮しつつ展望と見通しを立てていますか?

戦略および コンプライアンス

• ソーシャルメディア戦略が存在しますか?

• ソーシャルメディアポリシーは、関連する国内法、国際法、および業界固有の規制や規則に準拠していますか?

ガバナンス

• 測定可能な基準(KPI「重要業績評価指標」など)を取り入れつつ、どのようなガバナンス制度を構築していますか?

• ポリシーやガイドラインを策定していますか?

• ソーシャルメディアのモニタリング過程で収集された、顧客からの意見や教訓を活用する仕組みを整備していますか?

社員意識 • 従業員はポリシーやガイドラインを認識していますか? 研修を受けていますか?

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アーンスト・アンド・ヤングについてアーンスト・アンド・ヤングは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーサービスの分野における世界的なリーダーです。全世界の 16万 7千人の構成員は、共通のバリュー(価値観)に基づいて、品質において徹底した責任を果します。私どもは、クライアント、構成員、そして社会の可能性の実現に向けて、プラスの変化をもたらすよう支援します。

「アーンスト・アンド・ヤング」とは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル・ネットワークを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、www.ey.com にて紹介しています。

新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は、アーンスト・アンド・ヤングのメンバーファームです。全国に拠点を持ち、日本最大級の人員を擁する監査法人業界のリーダーです。品質を最優先に、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。アーンスト・アンド・ヤングのグローバル・ネットワークを通じて、日本を取り巻く世界経済、社会における資本市場への信任を確保し、その機能を向上するため、可能性の実現を追求します。詳しくは、www.shinnihon.or.jp にて紹介しています。

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本書又は本書に含まれる資料は、一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです。したがって、本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし、特定の目的を前提とした利用、詳細な調査への代用、専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください。本書又は本書に含まれる資料について、新日本有限責任監査法人を含むアーンスト・アンド・ヤングの他のいかなるグローバル・ネットワークのメンバーも、その内容の正確性、完全性、目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく、本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません。

本書は SCORE no. AU1168の翻訳版です。

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